今川秀悟
「ゾッとしましたね」電動キックボード運転中思わぬ段差で転倒した男性 免許制導入を求める声も
街中を走る電動キックボード
電動キックボードの事故が都内を中心に相次いでいる。
都内を走るタクシーの運転手は、こう漏らす。
「最近急に増えたよね。交差点で突然飛び出してきて危うく衝突しそうになったことがあった。予想以上にスピードが出ているし、公道を走るならヘルメットの装着を義務化にして免許制にしてほしい。死角から飛び出して事故を防ぎようがない状況でも、悪者になるのは車の運転者。危険な運転が多くて怖いよ」
電動キックボードは電気で動く仕組みになっており、利用者は車輪と電動モーターが付いた板の上に立ち、ハンドルで操作する。モーターの出力や最高速度に応じて、「原動機付自転車」(法定速度30キロ)、「小型特殊自動車」(最高速度15キロ以下)に分かれ、共に車両区分に応じた免許が必要だったが、今年7月1日以降は改正道路交通法が施行されて大きく変化した。法定速度30キロの「一般原動機付自転車」は従来の交通ルールが適用されて免許が必要だが、新たな車両区分「特定小型原動機付自転車」(長さ1.9m、幅0.6m以下かつ最高速度20キロ以下で定格出力が0.60キロワット以下)は、免許なしで運転が可能になった。原則として車道を走行し、ヘルメット着用は努力義務になっている。
免許が必要なくなり16歳以上なら運転が可能なため、「特定小型原動機付自転車」の利用者が急増。サラリーマンの通勤や、大学生、専門学校生を中心に通学で利用するケースが多く、車の渋滞緩和の観点から全国の観光地でも普及が進んでいる。環境面でもメリットが大きく、電気を動力としているため排ガスを出することがない。また、エンジンと違ってモーターの音は非常に小さい。都内の企業に勤務する30代の女性は移動の際に電動キックボードを重宝しているという。
「通勤ラッシュの時間帯に満員電車に乗ることが大きなストレスだったけど、解放されました。移動時間も都内なら電車を利用する時とあまり変わらない。最初は最寄り駅近くに設置されたレンタルサービスを利用していたけど、店頭で気に入ったデザインの電動キックボードを見つけたので購入しました。折りたためてコンパクトなので電車でも持ち運びが可能なため遠出もできる。行動範囲が広がりましたね」
快適な乗り物だが、交通ルールを守らなければ大きな事故につながる恐れがあることも忘れてはいけない。警察庁のまとめによると、<電動キックボードに関連する交通違反・事故の発生状況>の事故件数は2020年が4件、21年が29件、昨年が41件と年々増加している。20年~今年1月の事故件数は計76件で、発生場所は東京都が51件と圧倒的に多く、大阪府が6件、神奈川県が5件で続く。事故の相手は自動車が31件、自転車が14件で、合わせて全体の6割近くを占めた。昨年9月には男性が都内のマンション駐車場内で電動キックボードを運転中、方向転換して走り出そうとした際に車止めに衝突。前から倒れて頭を強く打ち、搬送先の病院で亡くなった。電動キックボードが絡む事故で死亡者が出るのは初めてだった。警視庁は男性を道路交通法違反(酒気帯び運転)の疑いで容疑者死亡のまま書類送検した。
20代の男性は電動キックボードで深夜に都内の公道を走行した際、転倒したという。
「雨が降った路面で思ったより滑るなと怖さを感じていたのですが、道路の段差に前の車輪が引っかかってそのまま前のめりになって転びました。自転車を運転している時だったらこれぐらいの段差でバランスを崩さないだろうという感覚だったので、びっくりしました。車が走っていなかったのでかすり傷ですみましたが、交通量の多い時間帯だったら転倒した状態でひかれていたかもしれない。ゾッとしましたね。今は慎重に運転していますし、雨が降っている時は安全面を考えて利用していません」
21年9月~今年1月の検挙件数は計2014件。通行区分の違反が最も多く1116件で、信号無視が437件だった。乱暴な運転で電動キックボードが凶器となる恐れがある。21年5月に大阪府内の歩道を電動キックボードで走行していた男が女性にぶつかって転倒させた。首の骨を折る重傷を負わせたのにそのまま逃げたとして、自動車運転死傷処罰法違反(過失運転致傷)、道路交通法違反(ひき逃げ)の疑いで逮捕された。その後、大阪区検は、同法違反と道交法違反(ひき逃げ)で大阪簡裁に略式起訴したと発表。
電動キックボードの新ルールが書かれたチラシを配るピーポくん
一部の利用者の安全意識が低いことも気がかりだ。電動キックボードを利用する際はナンバープレート、ウィンカー、最高速度で点灯する緑色のランプが必要で、運転者は自賠責保険への加入が義務づけられているが、新宿や渋谷の車道を駆け抜ける電動キックボードを確認すると、ナンバープレートをつけていない車両が少なくない。
民放テレビ局の記者は、「店頭より破格の安さでネット販売している電動キックボードはナンバープレートがついていないケースが目立ちます。安全面でも不安がある作りで、事故に遭うリスクが高い。自賠責保険への加入が義務であることを認識していない利用者も目立ちます。購入方法のルール作りは再考の余地があると思います」と警鐘を鳴らす。
電動キックボードは欧米で普及が進んでいるのを受け、日本でも規制緩和の動きとなったが、実情は国によって異なる。英国は電動キックボードの事故件数が急増している状況を政府が重く受け止め、一部の実証実験地域をのぞき、公道での走行は禁止されている。
仕事で赴任した米国で電動キックボードを利用していたという50代の男性は、日本に帰国後は利用していないという。
「米国は公道が広いし、自転車、電動キックボードの専用レーンを設置した公道が多かったので利用していましたが、日本は公道が狭いし、専用レーンも少ない。ヘルメットなしで車の間をすり抜けるように走行するなんて怖くてできません。政府は電動キックボードの普及拡大を目指しているかもしれませんが、交通の安全面が大前提です。免許制の導入、ヘルメットの装着を義務化するなどやらなければいけないことがあると思います」
今後も電動キックボードの利用者は増加の一途をたどるだろう。対策が遅れれば、事故件数も増える懸念について考える必要があるだろう。
(今川秀悟)
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2023/08/02 11:00