水野マルコ
「私はこうして猫の母さんになりました」 夫婦が保護猫姉妹にメロメロになるまで
ニコ(左)とレオ。姉妹だけど違った個性があるのです
飼い主さんの目線で猫のストーリーを紡ぐ連載「猫をたずねて三千里」。今回は神奈川県在住、福祉系NPOで活動中の若林智子さん(60代)の愛猫を巡るお話です。智子さんは友人たちの力を借りながら“人生で初めて”近所の野良猫の子を捕獲し、家に迎えいれました。猫への思いや生活の変化について聞きました。
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夫と二人暮らしの我が家に「レオ」がやってきたのが今年2月、「ニコ」がやってきたのが6月です。共にメスで、現在の推定年齢は1歳3カ月。2匹は姉妹で、ハチ割れの白猫でよく似ています。「レオ」は体に模様が一個、「ニコ」は模様が二個あります。
レオです。おねだりしてみようかな?と考え中
姉妹でも体の大きさや性格は違うんです。「レオ」は3.5㎏、「ニコ」は2.7㎏。「レオ」は家に迎えた当初はかなり闘争的で、“ウー、シャー、パンチ”の連続。名前は私が子どもの頃に観ていたアニメの『ジャングル大帝レオ』からもらいました。母ライオンからはぐれて孤独な感じの主人公(レオ)の風貌や雰囲気と重なったので。後から来た「ニコ」のことは、初めレオ2号と呼んでいたのですが、周りをニコッとさせる面があるとわかり、体の2個の模様と“ニコッ”を掛けて、「ニコ」と命名しました。
ニコです。模様がチャームポイントです
この「レオ」と「ニコ」は、すんなり我が家に来たわけではないんです。初めて彼女たちを見かけたのは去年の8月。お盆前までさかのぼります。そして2匹の保護には複数の友人と、友人の猫が協力してくれました……。
普段は仲良し、ときどき追いかけっこも。今でこそこんな2にゃんですが、おうちの子になるまではドラマがありました
「どうしたものか」友人たちに救いを求めた
去年8月、私はある友人宅を訪ねたのですが、その近くの駐車場に白い子猫がいて、あら猫だわ、と足が止まりました。
私の実家には(生まれた時から)猫がいました。結婚するまでの13年は保護犬を飼い、結婚後に飼うなら犬と思ったものの、引っ越しが多くて飼うことが叶いませんでした。そしてこの年齢になるまで、表で野良猫に出くわすことも一度もなかったのです。
子猫は、とても痩せていました。常々、「保護活動をされる方ってすごいなあ」と思ってはいましたが、自分には少し遠い世界のことのように感じていました。ところが、目の前に猫がいる。暑いさなかに大丈夫だろうか、食べ物はあるのだろうか、と心配だし、「どうしたものか」と思って呼んでみたけれど、出てこない。それで(会いに行くのとは別の)動物好きな友人に連絡をしたら、すぐに駆けつけてくれました。
二人で鰹節を手にして呼んだら、もう一匹、白い子猫が出てきて食べてくれました。でもすぐに母猫が現れて2匹どこかに連れていき……。友人と一緒に「子猫をご存じですか?」とご近所を回ったら、「5匹生まれた」と教えてくれた方がいました。「最近は見ない」「崖を駆けあがるのを見た」というほか、「子猫に迷惑しています」という声もありました。そんな声を聞いて、保護しなければという思いが強くなりました。
さらに聞いて回ると、「焼き鳥屋さんの裏に子猫たちが居つき、ごはんをもらっている」という情報が出てきました。そして聞き込みをしたお宅の中に「捕獲機を敷地内に置いていい」という協力的な方がいて、さっそく友人を通じて捕獲機を借り、その家に仕掛けました。
ところが間もなくお盆がきて、私は地方に帰省しなければならなくなりました。友人に猫の保護をお願いすると、母猫が捕獲機に入ったのですが、友人も帰省するため、すぐに家で飼える状況ではなく、とりあえずTNR(避妊手術を施しその印として耳カットしてリリース)をすることにしたのです。
保護時に大活躍した猫のゆずちゃん。詳しくは次のページで
神奈川に戻ってから、何度か現場にいきましたが、猫たちには会えませんでした。秋が過ぎた頃、「母猫らしき猫がいた」という情報が届きました。ちょうどその目撃情報があった場所が、(お盆前に尋ねた)友人宅の庭の側だったので、「お庭に来ることない?」と聞いてみました。そのお宅にはゆずちゃんという猫がいるのですが、その後、ゆずちゃんが大活躍しました
暫くはまた猫の情報が途絶えていたのですが、今年2月、ゆずちゃんが窓の外を見て、尾をパンパンに膨らませて「庭に猫が来た!」とサインを出してくれて。友人から送られた写メには、耳カットがされていない“母猫にそっくりな白い猫”が映っていて、「(駐車場で)見かけた子猫だ」とピンときました。それで庭に捕獲機を置かせてもらうと、5日目に入りました。それが「レオ」です。
捕獲機ごと動物病院に連れていき、避妊手術をして、遂に我が家に迎えたのです。
捕獲機に入ったレオ。このまま動物病院に行きました
「今日はシャーといわなかった」
「レオ」は想像以上に怖がりでした。注文した猫ケージがなかなか届かなかったので、犬を飼う友人に犬用のテントを借りて、猫ちぐらをいれると、そこにずっと隠れていました。
夫に「飼っていいよね」と聞いたら、「いいとも悪いともわからない」という返事。それまで犬や猫を飼ったことがないからかもしれません。でも私がいない時に、夫は「レオ」に挨拶をちゃんとしていて、「シャーといわれたよ」と報告してくれました。その後も毎日挨拶を続けたようで、しばらくすると「今日はシャーといわなかった」と(笑)。
猫ちぐらに隠れるレオ。なかなか姿を見せなかった
「ニコ」は、「レオ」が来た4カ月後に来ましたが、捕獲の経緯は「レオ」とまったく同じ。友人宅の猫ゆずちゃんが「庭に猫が来た!」と尾をまたパンパンに膨らませ、それを合図に捕獲機を仕掛けて。そのまま病院に連れていき、避妊手術をしてから家にきました。
捕獲機で保護された当時のニコ。このまま病院に行きました
「ニコ」が来た時、「レオ」は少し家に慣れて室内を自由に歩いていました。どうするかな、シャーするかなと心配もしたのですが、ケージに「ニコ」をいれると駆け寄ってケージによじ登り、自分の鼻を「ニコ」の鼻につけたのです。「覚えていたんだ、さすが姉妹」と感動しました。
姉妹だもの、レオはニコを覚えてた!ケージ越しに挨拶した時の様子
「ニコ」は人に飼われていたかのようにおとなしかったのですが、痩せて、ピンクの地肌がところどころに見えていました。お腹なんてほとんど剥げていて。なおかつ獣医さんが、「この子は出産経験がある」とおっしゃったので、こんな小さな体で?と驚きました。「子猫はちゃんと育たなかったかも」という先生の言葉に、過酷な中で生きてきたんだな、と胸が詰まったものです。
警戒心が薄い「ニコ」は、すぐに私たちに体を触らせてくれて、まばらだった毛も綺麗に生えてきました。そんな「ニコ」に夫がメロメロになってしまいました。朝、「ニコ」が香箱座りをしていると、夫が四つん這いになって近づき、「ニコ」の鼻を指でツンと触り、「おはよう」とおやつをあげたりする。
夫は184㎝あるのですが、大きな男性がわずか2.7㎏の猫にひざまずいているその光景が微笑ましく、思わず友人にも写メを送ってしまいました。
ニコにおやつをあげるご主人。大男ですが、小柄なニコにあわせて跪きます
猫たちが来てからというもの、夫との会話も増えました。猫たちに向かって、「君たちは話題の中心だね」と夫がにこやかに言う。そして「ニコ」には「君は本当に可愛いね」と。そこは「レオ」も含め、て「君たちは」と言ってほしいですけどね(笑)。
額の模様が少し違うニコ(左)とレオ。「本当にかわいい」姉妹です
伸び伸び過ごしてくれれば、母さんは幸せ
とにかく、友人たちのおかげで無事に保護できた2匹ですが、私自身の気持ちも晴れて、暮らしが豊かになりました。母さんとして、子育てをもう一度している感覚もありますね。
息子と娘が独立し、4年前から夫と二人暮らしになりました。夫の帰りが遅いと私は一人で夕食を食べます。特にそれを寂しいと感じたことはなかったのですが、今は食卓の椅子に座ると、前の席に「レオ」が、横の席に「ニコ」が座って、私をじーっと見るのです。和室にいる時も、小さな机のそばに2匹が来て、私をじーっ。すごく圧が強いけど(笑)、うれしくて。友人に電話をして「うちのニャンズが今日ね」なんて、長々報告することもあります。
良いことを待つレオとニコ。いつも手前にニコがくるそう
「レオ」と「ニコ」が来てくれたからよかったんです。
実は、昨年のお盆前に初めて見かけながら、帰省でタイミングが合わず会えなくなった後、保護できなかったことでもやもやとした後悔のような、自分を責めるような気持ちをひきずってしまいました。車も多く通る界隈だったし、もしかして……と想像して落ちこむこともありました。
あの時すぐに駐車場に駆け付けてくれた友人と共に、保護犬や保護猫の譲渡会に何度か行ってみました。でも、いいご縁がなかったし、私の心にはずっと、「あの子たちどうしているか」という思いが生き続けていたんです。
シンクロでふりかえるレオとニコ。やっぱり姉妹ですね
だからこそ今、再会できた「レオ」と「ニコ」が家にいてくれることがありがたい。野良として大変な経験をしてきたのだろうから、これからは安心して過ごしてほしい。もちろん「レオ」と「ニコ」と本格的にもっと仲良くなって一緒に寝たりもしたいけど、とにかく彼女たちが好きなように、伸び伸びと過ごしてしてくれれば、それで母さんは幸せです。
仲良く一緒に眠るレオとニコ
※「猫をたずねて三千里」はあと2回で最終回を迎えます。ご愛読いただいた皆さま、取材に応募いただいた皆さま、ありがとうございました。残り2回も、猫の物語にぜひご注目ください。
dot.
2023/09/30 14:00