古田真梨子
天海祐希「私が宝塚時代のことをあまり語らない理由」 松下洸平とのバディ対談!
松下洸平さん(写真左)と天海祐希さん。hair & make up 宮田靖士(THYMON Inc.) 林智子、styling 丸本達彦(UNFORM) 大沼こずえ、costume m's braque Y's、photo 写真映像部・東川哲也
松下洸平さんがホストを務めるAERAの対談連載「じゅうにんといろ」、9人目のゲストは俳優の天海祐希さんです。元宝塚トップスターであり、俳優としても確かなキャリアを築いておられる天海さんには、お聞きしたいことが盛りだくさん。学び多き時間のスタートです。
松下 よろしくお願いします! この対談は昨夏にスタートして、だいたい1カ月に1度のペースで、新たなゲストの方とお話しさせていただき、それを4週にわたって掲載しています。対談のルールは特になくて、ただ楽しくお話しするだけです。
天海 わかりました、よろしくお願いします!
松下 天海さんとは、4月スタートのカンテレ・フジテレビ系ドラマ「合理的にあり得ない」(月曜10時)で初共演させていただいて、撮影現場では、隙あらばお話しさせてもらっています。今回のドラマのことはもちろん、宝塚時代のお話なども聞かせていただいていますが、テレビや雑誌などで宝塚のことをお話しになる機会はあまりないんですか?
天海 その話は……、あまりしないようにしてます。
松下 ああ、話さないようにされているんですね。
松下洸平さん(写真左)と天海祐希さん。hair & make up 宮田靖士(THYMON Inc.) 林智子、styling 丸本達彦(UNFORM) 大沼こずえ、costume m's braque Y's、photo 写真映像部・東川哲也
天海 うん。「宝塚で苦労したこと、大変だったことは何ですか」と聞かれることはよくあります。当時の裏話を聞きたいと思ってくださる方はたくさんいらっしゃるとは思うんだけど、楽しく観ていてくださった時に、裏で何があって、私がどんな思いでいたかを情報として入れたくないじゃないですか。特にネガティブなことや、こんな苦労してました、なんて話をすることは、良いことだとは思えないんです。これは宝塚の教えということではなく、私自身の考えでね。
宝塚とは、とても多くの人が目指す場所で、そんな素晴らしい場所に立たせてもらっていた私が「大変です、つらいです」というのは、あり得ないな、と。観てくださった思い出を大事にしてほしいと思っています。
松下 もともと宝塚に入られたきっかけはなんですか。
天海 宝塚というよりも、お芝居をする人になりたかったんですよね。私、本名は祐里なんですけど、幼稚園の時、お遊戯会で先生に「祐里ちゃんは声が大きくてお芝居が上手ね」と褒めてもらったことがあって。子どもだから単純に「祐里ちゃんはお芝居上手なんだ! 祐里ちゃんはお芝居する人になる」と思いこんだの。そこからですね。
松下 へー! そんな幼い時から!
天海 お芝居する人にどうすればなれるんだろう、と思っていたら、中学校の担任の先生が宝塚ファンで、「あなたは、背も高いし、踊りもやっているから、宝塚に行ったら?」と言ってくださった。宝塚だったら、歌も踊りも全部教えてもらえることがわかって、本格的に目指すようになったの。
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松下洸平さん直筆の連載タイトルロゴ
松下 そんなきっかけもあったんですね。
天海 中学を卒業後、高校2年で中退して宝塚音楽学校に入るまで、通っていたバレエ団の宝塚受験クラスに在籍して、いろんなことを教えてもらいました。宝塚の公演も演目が変わるごとに観に行くようになってね。当時、東京宝塚劇場は3階席が900円だったの。レッスンが終わったらみんなで観に行って、ああ、すごい世界だな、と。
松下 入団されて、トップも務められました。
天海 1987年に宝塚に入団し、月組トップスターになったのは93年です。「異端児」とよく言われてましたし、自分でもそうだなと思っていました。トップになるまでの段階は一応踏んでいるけれど、「男役10年で一人前」と言われていたので、ちゃんと年輪を重ねた男役さんではないということは自覚していました。
当時は、なぜ自分がこういう立場に置かれているのかをすごく考えてましたね。上級生たちに比べて、私はバババッときてしまっているから経験がない。だけど、トップに置いていただいたということは、上級生たちと自分の持ち味が違うからだろう、と。そう思うしかないよね。上級生が身につけているものが自分にはない。だったら新鮮に、若いままでいくしかない。これを、ひとつの取り柄にすればいいんじゃないかとは思っていました。そう思うことで自分を支えるというか。
松下 そこで「自分は特別なんだ」と思われなかったんですね。
天海 そんなこと全然思わないよ! すごい上級生たちが本当にたくさんいらっしゃる中で、私はたまたま居させてもらっただけだとずっと思っていました。
よく女優への足がかりとして宝塚に入ったんだろう、と言われることがあるけれど、いやいや、その程度の思いだったら、もっと早くやめてます。自分のいた世界に尊敬や愛情がない限り、自分の一番いい青春時代をかけて頑張ることなんてできないですよ。
私があまり宝塚のことを話さないのは、あまりに自分にとって大切なものだからということもありますね。話すことによって、大切な思い出が薄まるような気がして。
松下 それは、なんだか少しだけわかるような気がします。
天海さんの周囲に感謝する精神と礼儀を重んじる姿勢を、僕はすごくリスペクトしていて。本番前、天海さんはいつも「よろしくお願いします」と言われる。そんな方、見たことないです。
天海 ああ、言いますね。現場を支えてくれている、例えば小道具を作ってくださったスタッフとか、その場にいない方へも頑張ってきます、という気持ちでね。自分にももちろん言い聞かせているけど。
松下 本当に素敵なことだと思います。僕は、その言葉を聞くたびに感動しています。
○あまみ・ゆうき/1967年生まれ、東京都出身。宝塚歌劇団では史上最年少で月組トップに。95年に退団後、ドラマで俳優デビュー。映画、舞台でも活躍。2023年6月、主演映画「劇場版 緊急取調室 THE FINAL」公開予定
○まつした・こうへい/1987年生まれ、東京都出身。1stアルバム「POINT TO POINT」、写真集『体温』発売中。2023年エランドール賞新人賞受賞。8~9月、こまつ座40周年(第2弾)第147回公演「闇に咲く花」に出演予定
(構成/編集部・古田真梨子)
※この対談の続き(全4回)は下記に掲載しています。
第2回:AERA 4月3日増大号(3月27日発売)
第3回:AERA 4月10日増大号(4月3日発売)
第4回:AERA 4月17日号(4月10日発売)
AERA
2023/04/27 18:00