未来型の製品を生む“新しさ”のスピリット 江昌憲さん/威剛科技股份有限公司 沈維正さん/威速登科技股份有限公司
強力なモーターを備えた
ハイスペックな電動三輪車
「台湾で唯一の電動三輪車です」
アウェースピード社長(総経理)の沈維正(シェン・ウェイチョン)さんがそう胸を張る「USD-01」は「台湾エクセレンス2022」の銀賞を受賞した。まず、そのスペックからみていこう。車体の長さは2.4メートル、幅は1.23メートル。充電1回当たりの走行距離は約100キロ。最大200キロの荷物を運ぶことができる。車体自体の重さが259キロあるが、さらに200キロの荷物を積むことができるのは出力13キロワットの強力なモーターを備えているためだ。エーデータでは2015年から車載用の電動モーターの研究を進めてきた。同社が開発した永久磁石同期モーターは「台湾エクセレンス2022」を受賞している。USD-01用の13キロワットのモーターはエーデータとアウェースピードが共同開発したものだ。
「台湾は坂が多く平均勾配(こうばい)は12度といわれています。このため、台湾では17度の勾配の坂を上ることができる能力が電動三輪車に求められています。当社にとっても電動三輪車の開発にあたって重い荷物を積んで坂を上っていけるモーターを開発することが不可欠でした。電動三輪車を開発しようとした企業は他にもありましたが、強力なモーターの開発や走行距離の問題を克服することができなかったのです」(沈さん)
USD-01のもう一つの特長は小回りが利いて安定性が高いことだ。最小回転半径は2.5メートル。EU(欧州連合)では電動自動車のコーナリングの安定性を規定しており、回転半径10メートルのカーブを時速23キロで走行しても転倒しない安定性が求められる。USD-01はこのEUの基準をクリアした台湾唯一の電気自動車となった。
人が運転する電動三輪車だけに、最も重要視しなければいけないのが安全性と信頼性だ。アウェースピードでは強風や大雨に耐える試験、3万キロにも達する路上走行試験を含めた150万回以上の乗車試験という厳しいテストを経て安全性と信頼性の高さを実証した。これが、アウェースピードの電動三輪車のブランド価値を高めることにつながっている。
メモリー分野の会社が
どのように開発したか?
電動三輪車の構成は大きく三つに分かれる。モーターやコントローラーからなる動力システム、車体フレーム、バッテリーだ。アウェースピードはそれぞれについて、顧客からの要求基準が高いコアとなる技術は自社グループで開発し、それ以外の部分についてはサプライヤーから供給を受けることにした。電動三輪車を開発するうえで最も重要な技術であり、車両の性能を決定づけるモーターとコントローラーについてはエーデータと共同開発し、車体フレーム、バッテリーについては他社から提供してもらった。
エーデータ副社長(副総経理)でアウェースピード最高経営責任者(CEO)の江昌憲(チアン・チャンシエン)さんがこう話す。
「従来の車メーカーにはモーターがわかる人はコントローラーのことがわからない、逆にコントローラーの専門家はモーターのことがわからないという傾向があります。それぞれ違った知識が必要になるからです。その点、エーデータにはモーターとコントローラー両方の知識のあるスタッフと技術力というリソースがありました。また、電動三輪車の開発にあたっては政府の経済部工業局から約3億台湾元(約14億円)の補助金が出たことも開発の追い風となりました」
2001年設立のエーデータは、ノートパソコン、新しい電子機器、サーバーといった常に新しい技術が求められるメモリー業界で世界の先端を走ってきた。「新しいことに挑戦し、イノベーションをもたらすのはエーデータのDNAになっています」(江さん)。
会社内部においては常にスタッフの能力のレベルアップを進め、業務プロセスを含めたシステムの改善を推進してきた。製造工程においても生産ラインや包装の自動化を推進するなど新しいシステムを導入してきた。ビジネスの面においてもLED照明器具、家庭用ロボット、バイオテクノロジーなどの新規事業に進出し、新たに電動三輪車の研究開発に乗り出した。
「この10年、エーデータは多角的にビジネスを展開してきました」(江さん)
クラウドシステムやAIで広がる
多彩な活用方法
USD-01は普通二輪車の運転免許があれば誰でも運転できる。台湾では多くの人が普通二輪車の運転免許をもっているため、今後、さまざまな分野で活用されそうだ。まず物流といったBtoBでの活用が挙げられる。エーデータグループはもともとソフトウェアに強みをもつが、その特徴を生かし、USD-01はクラウドシステムを使って車両を管理できるようにしている。車両管理者は車両の位置や走行速度などの情報をクラウド上で瞬時に把握できる。運転者が速度超過をしていればすぐに指導することができるほか、車体に異状があれば、すぐに修理に向かうこともできる。運転時の安全性が高まり、自動車保険の保険料の低減にもつなげることができるのも物流企業にとって大きなメリットだろう。
「配車にはAIを活用することもできます。例えば10個の荷物をどういうルートで運べば最も配送効率が上がるか、AIがナビゲートしてくれます」(江さん)
また前述したように小回りが利き、急な坂道も上ることができるため、住宅地の集配にも適している。住宅地にトラックが入っていくと騒音や排ガスの問題が生じる。集配拠点までトラックで荷物を運び、そこから電動のUSD-01で個別配送する仕組みをつくれば、騒音も排ガスの問題も解決できる。すでにカーボン・ゼロエミッション政策を進める桃園市と共同で、トラック会社とUSD-01による共同配送システムを構築しているという。
ほかにもさまざまな活用領域が想定されている。例えば、台湾では早朝に路上の落ち葉やゴミを掃除する人がいる。USD-01のライトを使えば朝、暗いうちからの作業が可能。落ち葉やゴミは防水機能のある広い荷物室に積んで運ぶことができる。また、火事の通報があった場合、現場に消防車が駆けつける前にUSD-01が向かい、本当に火事が発生しているのか確認することができる。消防車が入っていけない狭い路地でも走行可能なため、おのや消火器といった簡単な消火装置を積んでおけば初期消火も可能だ。さらに、台湾では今年11月、統一地方選挙が行われるが、選挙カーとして利用する候補者も出そうだ。
コロナ禍で台湾でも食事のデリバリー事業が拡大しているが、この分野での利用も大いに期待できるという。
「USD-01の荷物室は大型で保温と冷蔵の両方の機能があります。お弁当のような小さいものから、五つ星レストランのコースメニューといった大がかりな食事をデザートとともに皿ごと届けることも可能です」(沈さん)
柔軟な思考で
海外への展開や社会貢献を行う
今後は欧州や日本などにも販路を広げていく考えだ。そのために各国・地域の法規制、気候、路面状態に応じて車体の仕様を変更していくことも視野に入れている。
「欧州向けにはタイヤをもっと大きくする必要があるほか、雨を避けるための屋根やフロントガラスを備える必要があります。また、路面状態のあまりよくない東南アジアの一部の国では路面からの振動を抑えるためにタイヤの設計から見直すことも考えないといけないでしょう」(沈さん)
完成車の直接販売のほか、モーターだけを海外のメーカーに供給するなど各国や地域、あるいは取引先の事情に応じた販売のパッケージを用意することによって国際市場の開拓につなげていく考えだ。
電動三輪車の普及は二酸化炭素の排出量の削減につながるが、エーデータではESG(環境・社会・企業統治)にも取り組んでいる。すでに電子公文書を含めた社内のさまざまな書類をデジタル化し、紙への印刷はほとんどないという。また、毎年2月、台湾の正月明けには経済的に恵まれない母子家庭を支援する団体など6団体に計200万~300万台湾元(約900万~1400万円)を寄付しているほか、高齢者に食事を届けるなど社会貢献活動も行っている。
「ビジネスの分野においては顧客からもゼロカーボンの要求が高まっています。当社の製造工程におけるゼロカーボンをめざすとともに、顧客のペーパーレス化、ゼロカーボン化に向けた業務のデジタル化を支援していきたいと考えています」
江さんはそう力を込める。
威剛科技股份有限公司
ADATA Technology Co., Ltd.
威速登科技股份有限公司
AWAYSPEED Technology Co., Ltd.
文/西島博之 撮影/熊谷俊之 通訳/長谷川あゆ
このページは台湾経済部国際貿易局(BOFT)が提供するAERA dot.のスポンサードコンテンツです。