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【現地ルポ】「彼が予算をストップしないことを望む」 支援金の申請手続き急ぐ米LA山火事の被災者ら
【現地ルポ】「彼が予算をストップしないことを望む」 支援金の申請手続き急ぐ米LA山火事の被災者ら パティ・ファイナーさんと愛犬のベイリー。ペットと一緒に眠れる避難所で。3食提供され、シャワーやWi-Fiも完備。家を失った人も多数いた(撮影 長野美穂)    煙と火があっという間に迫り来る中、自宅を後に避難したロサンゼルス近郊住民の数は、18万人を突破した。「政権が代わっても支援金がもらえるのか」。まもなくトランプ氏の大統領就任式を迎える。現地在住ジャーナリストが被災者らの胸の内を聞いた。AERA 2025年1月27日号から。 * * * 「避難前に、自宅アパートのシャワーの蛇口をひねって水を出したら、浴槽が灰だらけで水が真っ黒に染まった。あ、もう逃げなきゃ危ないと直感した」  そう語るのは、ロサンゼルス(LA)の高級住宅街として知られたパシフィック・パリセーズに隣接する地区に住む60代後半のパティ・ファイナーさんだ。  火災発生から2日後の1月9日、避難命令アラートが鳴ると、愛犬を抱えて車で脱出した。 「自宅アパートが今どうなっているのか全くわからない。燃えてないといいけど……。弟はパサディナ北部のイートン火災の現場近くの家にいるんだけど、なんとか踏ん張ってるみたい」  ファイナーさんの賃貸アパートの家賃は月3千ドル。幸運にも彼女は火災前に「賃貸者用の保険」をすでに購入済みだった。  仮に部屋が焼失していなくても、煙や灰で住めない状態になった場合に清掃費用を請求できるのかと保険会社に問い合わせると、即座に却下されたという。 「こうなったら、頼みの綱はFEMA(フィーマ)しかない」と彼女は言う。 FEMAとは、米連邦政府の「緊急事態管理庁」の略語で、洪水や火災などの大災害を専門とする支援活動組織のことだ。 「火災の直後にサンタモニカに来たバイデンは『LA火災の被害については100%保証する』って断言したよね? 私、あの言葉を信じてる」とファイナーさん。ちなみに、バイデン大統領が100%カバーすると確約したのは消火活動に関する費用のことで、住民の持ち家が全焼した場合にFEMAから支払われる支援金の上限は1世帯あたり4万3600ドルと決められている。   住民の命綱は「FEMA」  その他にも、衣類や食料などの避難時の必需品を賄う費用として770ドルが支払われる。  この未曾有(みぞう)の災害時に、あと数日でバイデンからトランプに政権が代わることをどう思うか、ファイナーさんに聞いてみた。 「有罪判決が確定しても、何とか刑期を免れようとする人が、焼け出されて行き場がない住民のことを本気で考えるとはちょっと思えない」  数日以内にFEMAから銀行口座に770ドルの支援金が振り込まれることを彼女は切望するが、「さすがに数日では無理だろうな。それでもトランプがゴルフコースにいる今のうちに、FEMAへの申請を完了しておきたいし、政権が代わっても彼が予算に手を付ける前に、支援金の流通を極力済ませてほしい」と話す。 米ロサンゼルス近郊で拡大した山火事では、セレブたちの手択が立ち並ぶパリセーズ地区にも火の手が及んだ=2025年1月15日(写真 AP/アフロ)    一方、家が全焼し全てを失った避難民たちはショック状態で、FEMAのサイトにアクセスする余裕がないどころか、免許証や出生証明書など何一つ持ち出せなかった人たちがほとんどだ。車が焼けて移動手段がない人も。  そんな人たちのために、FEMA職員は各避難所を訪れて、タブレットを使って支援金の申請を助けていた。「大統領が大規模災害宣言を出した日から60日以内に申請するのが期限だから注意して」と避難民に伝えていたのは、FEMA職員のジョエル・ブライトさんだ。つい最近までフロリダでハリケーン被災者の担当をしていたという。  トランプ政権になって支援金の支払額や受給条件が変わることはあるかと聞くと、「僕たちは公務員で、政治とは関係ない。ただ不安なら、ここ数日以内に、政権が代わる前に申請しておくことを勧める。写真や追加書類は後からアップすればOK」と話す。 「政治の話は避けたい」  300人近い人々が寝泊まりする避難所で温かい食事を提供しているボランティアのロニー・コスタさんは、ボストンから飛行機で援助に駆けつけた。 「自分が20年間暮らしたLAは故郷も同然。助けになるなら何でもやりたい」と言う。家を失った人たちを励まし、昼食を手渡す彼にも、政権が代わることをどう思うか聞いた。 「政治の話は今は極力避けたいんだけど」と言いながらも「トランプは、避難民に惨めな思いをさせないと思うから大丈夫だ。心配いらないよ」と言う。  また、赤十字ボランティアのジョン・スティンソンさんは、火災発生から24時間以内にカンザスから派遣されてLA入りし、避難所の運営をしていた。 「米国の赤十字は1881年に看護師のクララ・バートンが設立して以来、ずっと一般人の寄付が財源だ。大統領が誰になろうと、財源はびくともしない。歴代の大統領がホワイトハウスを去った後も我々は被災地にいつでも最初に駆けつけるしね」  今回、彼はベッド数20床の小さな避難所に派遣され、シャワー設備のある施設に避難民を輸送するバスをチャーターし、臨床心理士の手配もしていた。  このLA火災で赤十字は縦横無尽の活躍を見せた。前述のファイナーさんが連れていた愛犬に「ペット専門ボランティア」が話しかけ、ファイナーさんは「まるでホテルかと思った」と言った。LA住民たちは衣類や食料を避難所に寄付していた。  スティンソンさんと筆者が話している最中にも「自分も資金を寄付したいんだけど」と避難所に入ってきた男性がいた。白シャツと黒ズボンで正装したユダヤ系のツズビ・シャピロさんだ。3人の幼い男の子と一緒だ。 「赤十字、本当に素晴らしい活躍で感動したよ。寄付はクレジットカードでも払えるかな?」  シャピロさんは「大統領が代わるから何? 自分は政治に興味ないよ。ヒューマニティーに興味があるだけだ」と言う。  彼が来る少し前に、家が全焼して4人の幼い子どもを連れて避難所に入ってきた両親がいた。シャピロさんと同じような年頃の子どもを持つ家族が、簡易ベッドで寝る生活になるのだ。スティンソンさんは言う。 「われわれ赤十字の任務は、彼らが一日でも早く賃貸物件を見つけられるように援助すること。避難所はあくまで仮住まい。我々の究極のゴールはこの避難所から人がいなくなることだ」   彼が予算を止める前に  LAで最大規模の避難所では、ちょうど視察に来ていたロサンゼルス市議会のケイティー・ヤロスラブスキー議員がいた。 「あと数日でトランプ政権に代わりますが、FEMAの支援金は政権が代わっても規定通りに支払われるのでしょうか?」と、筆者が彼女に質問すると、 「政権が代わる前に、できる限り多くの人が申請手続きを完了できるよう急いでいるところ。彼が予算をストップしないことを望む。住民はFEMAの支援金が本当に必要。いま政治ゲームをしている余裕はない」 「トランプ陣営で重用されるイーロン・マスク氏は連邦政府の経費削減を担当するようですが、FEMAは予算削減されることなく存続しますか?」と聞くと、 「FEMAの存在意義はこういう大規模災害のため。バイデン政権が確約してくれたFEMAの財源に心から感謝している」と答えた。 「じゃあ、何もかも失ったLA住民はFEMAのキャッシュに頼れるんですね? 大丈夫ですね?」と聞くと、「I hope so... 」(そうであってほしい)という答えが返ってきた。 確約できないLA議員  この言葉のチョイスにはっとした。筆者の取材歴では、これまで米政治家が「I hope so」と言うのを聞いたことは一度もない。もっと強い言葉で断言するのが政治家の常だ。特に、自分を議員に選出してくれた住民たちが人生最大の危機に直面している今ならばなおさらだろう。  だが、連邦政府を牛耳る国のトップの大統領が交代するという時に、LA市のいち市議会議員の立場、しかも民主党の議員としては、なす術はほとんどない。こういう言い方しかできない、というのもわかるのだが。  この原稿を書いている時点でも、筆者を含め、多くの住民の住まいが明日燃えないという保証は何もない。避難地域では武装した火事場泥棒がうようよし、避難命令が出ている地区などでは午後6時から翌朝6時まで外出禁止命令が出され、マシンガンを持つ軍人が戦車を従えて警備している。その横を消防車がサイレンを鳴らしてひっきりなしに駆け抜けていく。  これから一体どうなるのか、多くの住民がまだまだ眠れぬ夜を過ごしている。 (在米ジャーナリスト 長野美穂) ※AERA 2025年1月27日号
だから90歳の今も週4日働ける…元東大教授が70歳から始めていた「心疾患や高血圧のリスクを低減する」習慣
だから90歳の今も週4日働ける…元東大教授が70歳から始めていた「心疾患や高血圧のリスクを低減する」習慣 ※写真はイメージです(gettyimages)    高齢者になったら、いろんなことができなくなるのではと心配する人は多い。90歳にして医師として高齢者施設で週4日勤務する折茂肇さんは「白髪が生える、シミやシワが増えるなどの生理的老化は避けられない。しかし病的な老化は、ある程度、予防する方法がある」という――。 ※本稿は、折茂肇『ほったらかし快老術』(朝日新書)の一部を再編集したものです。 「生理的な老化」と「病的な老化」は入り混じる  老化現象には、大きく分けて2種類ある。一つは、早いか遅いかの違いはあっても、誰にでもみられる変化で、これを「生理的老化現象」という。もう一つが、長年にわたる生活習慣や環境的な要因、あるいは病気などによって起こる変化、「病的老化現象」と呼ばれるものだ。ただし、両方が複雑に入り混じって起こることもあり、どちらか区別がつきにくいことも多いだろう。  一般的に、年をとると、体のさまざまな臓器を形成し、その働きを担っている細胞の数が減っていく。そのため、臓器も小さく縮こまっていき、働きも少しずつ低下していく。ただし、臓器による違いや個人差はあるが、細胞が減っていくスピードはゆっくりであるため、日常生活に支障をきたすほどの急激な機能の低下がみられることは少ないといえるだろう。  病気がなく健康な人でも、年をとればさまざまな老化現象は現れる。若者と異なる最も特徴的な現象は、外見の変化だろう。例えば、白髪や脱毛症(はげ)、皮膚のしわ、しみなどだ。 次いで、「予備力の低下」という変化もある。過度な運動や過剰なストレスなどによって、障害が起こりやすくなる。例えば、若いときは仕事で多少の無理をしても一晩寝れば次の日には元気になっていたのが、寝ても疲れがとれなくなる、激しい運動をすればひざや腰が痛くなるなど、いわゆる「無理がきかなくなる」という状態だ。 生理的な老化現象は、健康でも、どんな人にも現われる  また、運動の機能や姿勢を保つ働き、環境に適応して体内の状態を一定に保つ働き(生体恒常性=ホメオスタシス)も低下する。生体恒常性とは、体温や血糖値、電解質など体内の状態が何らかの原因で変化したときに、正常に戻す働きのこと。例えば、外が暑かったり、寒かったりしても、体温をほぼ一定に保っていられるような働きのことだ。しかし、老化によってその機能がうまく働かなくなるため、変化が生じたときに元に戻らなくなることが起こる。  さらに、免疫力も低下する。体内に病原体などが入り込んだとき、防御するシステムがうまく動かなくなるため、高齢になるとさまざまな感染症にかかりやすくなる。  これらが高齢者に起こる生理的な老化現象だ。健康な人でも、年をとればこのような変化は起こるのが自然なのだ。  一方で、病的な老化現象は、食生活や生活習慣、生活環境といった、若いころから長年にわたり蓄積されてきたものが原因で、あるいは動脈硬化症など高齢になると増える病気に起因してみられるもので、一般的には生理的な老化現象が早く進む。加えて、アルツハイマー型や認知症や白内障、骨粗鬆症などの病気もその一種と考えられる。これらは病気として治療が必要なものである。 40歳ごろから、忘れっぽくなる「良性健忘」は生理的老化だが…  実際には生理的な老化現象なのか、病的な老化現象なのか、見極めが難しいこともあるだろう。脳の老化を例に解説しよう。脳の老化にも、生理的なものと病的なものがある。  生理的な老化現象は「良性健忘」と呼ばれる、いわゆる「忘れっぽくなること」だ。一般的に40歳を過ぎるころから、記憶力や記銘力が低下する。テレビで見た、あの人の名前が思い出せない」「今日会ったあの人、名前何だっけ」ということや、「眼鏡をどこに置いたか思い出せない」「買ってきてと言われたものを忘れた」といった物の置き忘れ、買い忘れなどが日常的に起こるようになる。  これは、人によって程度の差はあるが、誰にでもみられるもので、時間が経過するほどに進行・重症化することはない。ちょっと困ることはあっても、生活に重大な支障をきたすようなことはほとんどないことといえる。 アルツハイマー型認知症、白内障や骨粗鬆症は治療が必要に  一方、病的な老化現象と考えられるのが、アルツハイマー型などに代表される認知症だ。アルツハイマー型認知症でも、最初に現れるのは、物忘れや記銘力の低下など、良性健忘と似た症状だ。そのため、最初は「年のせいかな」と思う人がほとんどだろう。  しかし、生理的な老化現象と異なるのは、症状が進行し、いずれは社会生活が送れなくなることだ。  改めて述べると、生理的な老化現象は、個人差はあるが誰にでも起こるもので、病気ではない。だから、あまり気にせず、「そういうものだ」と受け入れる気持ちを抱くことも大事だと思う。一方で、病的な老化現象は病気であり、治療が必要である。アルツハイマー型認知症も、白内障や骨粗鬆症も、治療をすることが必要な病気だ。そして、老化によって起こるこれらの病気は、早期発見し、早期に治療することで進行を遅らせることや、改善ができるものもある。 若さと健康を保つためには、適度な運動を継続する  適度な運動が体にいいことは疑う余地のない事実であり、多くの人が知るところであろう。「寝たきり」になることがなぜ問題視されるかといえば、体を動かさないと脳の機能も低下するからだ。やはり人間、「地に足がつく」ということが大事なのではないだろうか。足の裏には脳を刺激する回路があるといわれているが、足の裏をしっかり地面につけて体を動かすことが、脳を若く保つためにも有効なのである。  東京都老人総合研究所(現・東京都健康長寿医療センター研究所)が、東京都小金井市の住宅の高齢者に対して、ライフスタイルや寿考命が生活の自立性に与える影響について、10年間に及ぶ追跡調査を行ったところ、運動習慣のある人は、ない人と比べて男女とも高い生存率を示しているが、その差は統計学的には誤差の範囲であった。  一方で、運動習慣のある人はない人と比べて基本的な日常生活動作能力(ADL)の低下が現れにくいことが認められた。それは、高齢者の運動習慣は余命を延ばすことだけでなく、生活機能と自立性の維持に貢献しているということである。  同調査では、運動の種類はゴルフ、水泳、テニス、ゲートボールなど多岐にわたり、それらのほか軽い体操や散歩も含めると、約80%の高齢者が運動をしていた。 「厚生省長寿科学研究」の一環として、全国7カ所の「健康増進センター」の利用者約7000人を対象とし、運動や食生活などと健康維持の関係について調査した結果では、60歳以上の人の約60%が運動をしており、多くの人が週2回以上運動していた。 運動は虚血性心疾患や高血圧のリスク、死亡率をも減らす  継続的に運動をしている人と、していない人に、5項目の体力検査を行った研究では、運動をしている人たちはしていない人たちに比べ、男女とも各年齢層において3~5倍も体力が高く、体力レベルの高い人は低い人より健康状態が良いという報告も得られている。  継続的に運動することは、体力を増進させ若さを保つのに有用なことのほかに、心筋梗塞をはじめとする虚血性心疾患や高血圧のリスク、死亡率などを低減させ、長寿につながることも示されている。日本だけでなく、海外でも同様の結果を示す多くの研究報告がある。 90歳で現役、70歳から運動を続けてきたことがよかった  私自身、小脳梗塞を起こす前は習慣的に運動を行っていた。始めたのは20年ぐらい前の70歳ごろになるが、自宅近くにあるホテルのスポーツジムに週2~3回通い、毎回30~60分ほどウォーキングマシンを使って早足歩行をしていた。運動とは不思議なもので、始める前はなかなか面倒で、なんとか行かなくて済む理由を探し出そうと試みるが、いざ、腹を決めて体を動かした後には爽快な気分と達成感が味わえ、ストレス解消にも効果があると感じた。  始めた当時は、将来の健康長寿のためなどと考えていたわけではなかったが、今になって思うと、忙しいながらもこのように定期的に運動を継続してきたことで体力がつき、それが90歳になった今でも現役で仕事を続けられている生活につながっているのだろう。いくら元気とはいえ、90歳になっても毎日仕事に通っている人はそれほど多くないと思うからね。 (折茂肇 医師) 医師の折茂肇さん(90歳)[撮影=朝日新聞出版写真映像部・松永卓也]  
ゴミ屋敷は男性、モノ屋敷は女性が多いのはなぜか 決して「だらしない」や「怠けている」からではない
ゴミ屋敷は男性、モノ屋敷は女性が多いのはなぜか 決して「だらしない」や「怠けている」からではない ※写真はイメージです(gettyimages)   1万件以上の片づけに向き合ってきたプロが見つけたのは、「ゴミ屋敷」と「モノ屋敷」の2つの散らかり傾向である。「ゴミ屋敷」「モノ屋敷」それぞれ、そうなってしまった「理由」があり、決して「だらしない」や「怠けている」からではないとプロは話す。 そこで登録者数16万人の人気YouTube「イーブイ片付けチャンネル」の運営者であり、書籍『1万軒以上片づけたプロが伝えたい 捨てるコツ』の著者・二見文直氏に、「ゴミ屋敷」と「モノ屋敷」それぞれの特徴と、そうなってしまった理由について解説。片づけに悩むあなたにも、新しい発見があるかもしれない。(構成/ダイヤモンド社・和田史子) 片づけられないのには「理由」がある これまで1万件以上の「片づけられない」悩みに向き合ってきました。僕たちは依頼者さんや相談者に対し、できるだけじっくりお話をお伺いするようにしています。その中で、「片づけられない」のは、だらしがないからとか怠け者だからでは決してないということに気づきました。そういう状況に陥ってしまった「理由」があったのです。 理由はさまざま、一人ひとり違うものではありますが、大きく分類すると見えてくるものがあります。片づけられなくなってしまった理由と実際の片づけの現場の様子を分析すると、2つの傾向があることに気づいたのです。 それは、男性はゴミ屋敷になりやすく、女性はモノ屋敷になりやすいということです。 それぞれ説明しましょう。 ゴミ屋敷は「激務」「コロナ」で急増 いわゆるゴミ屋敷は、その名のとおりゴミだらけのお家です。 ペットボトルや缶が山積み、食べかけのお弁当やコンビニの袋があちこちに置いてあり、食事に関してはデリバリーを利用されている方が多く、ピザや宅配弁当の箱なども散乱していたりします。最悪だと腐敗臭やゴキブリ、虫などがわいてきてしまい、衛生的にも良くありません。住んでいる方の健康のためにも、急ぎ片づける必要があります。 このようなゴミ屋敷は、1日でなるわけではありません。きっかけとなる出来事があります。 依頼者さんや相談者さんからよく聞くのは、 「急に仕事が忙しくなった」 「コロナで外出できなくなった」 の2つです。 仕事が忙しくなったというのは、例えば転職先が夜勤で、生活サイクルとゴミ収集のタイミングが合わなくなったとか、部署異動で残業続きになってしまったとか。家に帰ったら倒れ込んでしまい何もできなくなってしまったといった具合に、大きな環境の変化がきっかけだったりします。 また、人間関係のトラブルもきっかけとして多いです。 ストレスがたまってしまい、帰宅後動けなくなってしまい、食事はかろうじて宅配を利用してとったものの、そのほかの家のことができなくなってしまったという話もよく聞きます。いずれにしても激務にある方からのご依頼が多い印象です。ひとり暮らしの男性によく見られます。 ほかにも、うつ状態になってしまったことなどから、動けなくなってゴミ屋敷になってしまったという方もいらっしゃいます。 会社を辞めて外出しなくなり、家ではスマホゲームや動画を見るだけ。だんだん外出もおっくうになり、昼夜逆転の生活が続き、やがてゴミ捨ても面倒になり…。過食や拒食を繰り返し、不眠も続いてしまい、病院に行ったらうつと診断されたという方もいらっしゃいます。 そういったお話を伺うたびに、「大変ななか、食事だけでもとってくれて本当によかった」と心から思います。片づけは僕たちプロに任せていただければいいですが、命はご自身で守るしかありませんから。うつ状態の方は女性もいらっしゃいます。 モノ屋敷は「趣味」や「お付き合い」も影響 一方、やたらとモノが多いのは、女性の方のほうが多い印象です(冒頭の写真のイメージ)。散らかっているというよりも、モノがあちこに置いてあったり、収納がはみ出したり、床やベッド、ソファやテーブルなど、ありとあらゆる場所にモノが積み上がっているのが特徴です。 いわゆるモノ屋敷で多いのは、推し活などの趣味、それもひとつではなく複数の趣味や推しを持つ方です。今推している方のグッズであれば、数が多くてもきれいに並べていたり、大事に保管したりしているので、ほとんどの場合は問題ありません。ただ、過去の推し活グッズや今はやっていない趣味の道具、ホコリをかぶっている資格試験や勉強の本・テキストなどは、一気に処分することも検討したほうがよさそうです。 いずれにしても、こういうタイプのモノが多い方は、好奇心が旺盛で勉強熱心なのが特徴です。 また、テレビ通販やネットショッピングをよく利用する方。買い物好きの方はモノが多くなりがちです。こういう人は、洋服が趣味でクローゼットに服がズラリ並んでいる方とは違います。 思いつきや勢いでモノを買ってしまいがちなので、置いてあるモノの統一感がなく、なかにはダンボールを開けないまま廊下に放置という方も。モノが多い割にそこまでモノに執着がないため、こういうお宅の片づけは比較的スムーズに進みます。 テレビ通販やネットショッピングが好きな方は、先ほどのゴミ屋敷のケースと同じく、夜勤の方や激務の方が「ショッピングでストレス解消」という意味合いで利用していることが多い。なので買い物をした時点でお役目終了という考え方もできます。 次回以降は、ネットショッピングはカートにいったん入れてほったらかしましょう。精算せずに翌朝チェック。本当に欲しかったモノかどうか冷静に判断することで、ムダな買い物を未然に防げます。 やたらモノが多いお宅にあるもの あと意外に多いのは、何というわけではなく全体的にモノが多いお宅です。 ・同じモノがいくつもある→ボールペンやハサミ、じゅうたんやフローリングのゴミを取るためのコロコロなど、明らかに「そんなにいらないでしょ」というくらいの数がある ・いわゆる雑貨が多い→100円ショップの「ついで買い」や無料でもらえるグッズなどがあちこちに置いてある ・お土産品やいただきもの→もらいものもそうだが、物産展などで自分で買ったモノも多数ある ・おまとめ品、セット品、おまけ付き、限定品→「お得」「特別」に弱いため、使わないモノも買ってしまう ・おつき合い品→お土産のほかに、友達にすすめられたものや、友達にいつかあげようと思って買ったモノなど(あげる機会を失ってそのままになっているケースも多い) みなさんも心当たりはありますでしょうか? 100円ショップに行くと、男性は滞在時間も短く必要なものを1つ2つ持ってレジに向かいがちですが、女性は「ついでに」と本来の目的意外のグッズも買ってしまう傾向があるようです(個人差はありますが、依頼者さんや相談者から伺った話を書いています)。 買い物で見えてくる「違い」 例えば、お父さんが家族から「牛乳と卵を買ってきて」と頼まれたとします。買ってきたものを見て… (母)「え、これだけ? 缶ビールは1本だけ? お父さんは気が利かない!」 (父)「ビールは俺しか飲まないし、ちゃんと言われた通り買ってきたのに…」 こんなすれ違い、経験ありませんか? お父さんは頼まれたものと自分が欲しいもの、それも自分1人分しか買いませんが、お母さんは安いものや家族が喜びそうなものがあれば、気を利かせて人数分買ってきます。この話で言えば、缶ビールのほかにお茶やジュースも買ってくるのがお母さんです。 モノ屋敷になりがちな方は、周りの人への配慮ができる人、心優しい人が多いですね。「感じのいい店員さんにすすめられると何でも買ってしまう」という人もいました。優しさが行き過ぎてしまうと、モノ屋敷になってしまうこともあるのです。 心優しい人は「まだ使えるのにもったいない」と思ってしまい、捨てるのが苦手なタイプかもしれません。そうなるとますます家にモノが増えて、モノ屋敷になりがちです。 以前の記事で紹介したとおり、心優しいモノ屋敷タイプの方は、人を招待すると片づけに一気に火がつくことがあります。自分のために片づけるのは面倒だけれど、人を喜ばせるために気持ちのいい空間を作ろうと思うとやる気も出ます。 こんなふうに家にあるものを眺めてみると、意外な発見があるかもしれません。
いますぐやるべき大災害への備え、「最低限これだけは」の5つとは? 東日本大震災を経験した被災ママに聞く
いますぐやるべき大災害への備え、「最低限これだけは」の5つとは? 東日本大震災を経験した被災ママに聞く  阪神・淡路大震災から30年が経ちました。改めて、防災について考えてみませんか。宮城県在住のイラストレーター・アベナオミさんは、2011年3月11日に東日本大震災に遭遇しました。その後、防災士の資格をとり、自身の被災体験を描いたコミックエッセイも出版しています。現在、中3・小3・年長の3人の子どもを育てながら、防災士として「無理のない防災」「生活の中になじむ防災」を提案し続けています。各地で頻発する大災害。「いざというときのための準備が必要なのはわかっていても、なかなかできない」という人のために、アベさんが考える「最低限これだけは!」の準備を聞きました。 結果がいつ出るかわからない備えは、とても難しい ――全国各地で頻発する自然災害。「準備しなくちゃ!」とは思うのですが、一般的な「防災品リスト」は数が多すぎて、お金もかかるし収納場所もない。つい先延ばしにしてしまいます……。  その気持ち、よくわかります。いつ起きるかわからない災害のための準備をするのは、ダイエットより難しいと思います。ダイエットは「やせた」「太った」が一目瞭然ですが、災害の備えは結果がいつ出るかわからない。成果が見えないもののために努力するのって、とても難しいんです。  だから、生活になじむ、無理のない最低限の備えから始めてほしいと思っています。 【マンガ】震災体験を描いた「被災ママの体験から考える防災」を読む(全8枚) ――ぜひその「最低限のライン」を教えてください。できれば……5つに絞って!  5つはとても少ないのですが、私が考える「最低5つの対策」はこれです! アベナオミさんが考える「いますぐやる防災」5つの対策 ①家の中に「安全ゾーン」を作ろう ②「自宅避難」か「避難所か」を事前に確認 ③非常用トイレは最低でも1人1日5回×3日分用意 ④水は1人1日3リットル×最低3日分用意 ⑤カセットコンロなどの火力はマスト 対策1:家の中に「安全ゾーン」を作ろう  災害時にまずやるべきなのは、自分の身を守ることです。  そのために、室内に安全な場所を一カ所つくりましょう。家族が普段一番長い時間をすごす場所がいいと思います。  わが家の場合、テレビの向かいにあるソファ周辺が安全ゾーンです。近くに背の高い家具は置かず、落ちてくる照明もなく、窓ガラスからも多少離れています。  子どもたちには「大きな地震がきたら、まず自分の身を守ることが大事。『安全ゾーン』で頭にクッションをのせて揺れがおさまるまで待つんだよ」と伝えています。  その効果が確認できたのが4年前、震度6弱の地震がきたときです。当時家には長男と次男2人だけだったんですが、2人はちゃんと安全ゾーンのソファの上でクッションを頭にのせて、NHKニュースを見ながら待っていたんです。ちゃんと覚えているんだ!と感激しました。 対策2:「自宅避難」か「避難所か」を事前に確認  私たちは「災害が起きたら避難所に避難するものだ」と思いがちですが、東日本大震災のときは、仙台市内など人の多い地域の避難所は人があふれてしまい、入れない人も多くいました。東京や大阪などの都市圏で災害がおきたら、なおさらでしょう。  免震マンションなど耐震性が高い家に住んでいるのであれば、最初から「自宅避難」するつもりで水や食料、トイレの準備などをしておくことをおすすめします。  水害や津波などは、ハザードマップで自宅周辺の被害予測を確認できます。  ハザードマップとは、その土地の自然災害リスクがわかる地図です。自治体が配布する地図にも載っていますが、国土交通省のウェブサイト「重ねるハザードマップ」なら、住所を入力すれば、その場所の洪水・土砂災害・高潮・津波などのリスクがわかります。近年頻発する水害は、ハザードマップの予測と合致していますので、信頼性も高いですよ。 「うちは土砂災害の可能性があるから、警報が出たらすぐ避難できるように、避難リュックを万全にしなくちゃ」「うちは大丈夫そうだから、自宅避難に備えよう」など、心と物の準備ができると思います。  自宅避難か避難所に行くかで、家族の集合場所も変わります。自宅避難の場合には集合場所は自宅でOK。避難所に行く可能性が高い場合には、どの避難所かを事前に打ち合わせしておきましょう。 対策3:非常用トイレは最低でも1人1日5回×3日分用意  防災グッズはさまざまありますが、絶対に用意してほしいものは「非常用トイレ」です。  非常用トイレとは、排泄物を入れる防臭袋と、吸水シートや凝固剤がセットになったもので、自宅のトイレにセットして使います。水を使わず、そのつど自分でゴミとして処分することができます。 「断水しても、風呂水などで流せばいいのでは?」と思う人もいるかもしれませんが、現在では「大きな災害のあと、トイレの水は流さない」ことが原則になっています。地震の揺れで排水管が曲がったり割れたりしていると、汚水が逆流したり漏れ出したりする危険があるからです。  東日本大震災のときには、内陸の人たちが流した汚水が、津波の被害にあった沿岸部であふれたそうです。マンションの上層階の汚水が、下層階でもれるトラブルもあったと聞きました。  水洗トイレに慣れ切った私たちにとって、家族であっても他人の排泄物を見るのはつらいものですし、生理の経血を見られるのも嫌なものです。自分の排泄したものを自分で処理できる非常用トイレがあると安心です。  一人1日5回トイレにいくと考えて、最低でも3日分、できれば1週間分用意しておきましょう。 対策4:1人1日3リットル×最低3日分の水を用意  飲み水は、1人1日3リットルは必要です。東日本大震災の時、給水車はかなり早い段階で来てくれましたが、準備しておくにこしたことはありません。それに、水は重いのでそんなに多くは運べませんから、食器や手を洗う生活用水は不足しがちです。ペットボトルに水道水を入れておいておくなど、飲み水以外にも使える水をキープしておきましょう。  わが家では、おしりふき(厚手のウェットティッシュ)の買い置きがあったので、手も顔も食器の汚れもこれで拭いていました。生活用水がたりないときなどに、とても便利です。 対策5:カセットコンロなどの火力はマスト  災害時の食事といえば、乾パンやアルファ化米などの防災食をイメージしますが、それよりもカセットコンロなどの火力の方が役立つのではないかと私は思っています。  多くの家庭では、冷蔵庫などに数日分の食料が入っているはず。防災食の備蓄がなくても、水と火力さえあればあたたかい食事が食べられるのです。  災害が起きたら、早い段階で冷凍庫や冷蔵庫の生ものを加熱してしまいましょう。私はよく「災害の初日に寄せ鍋を食べて、しっかり栄養をつけましょう」と話しています。  家で食事をすると、どうしても生ゴミが出ますよね。災害時にはゴミ収集が止まってしまうので、生ゴミやおむつなどの腐敗臭が家の中に充満してします。  そんなときに役立つのが防臭袋です。私は東日本大震災のときにたまたま防臭袋をもっていたので、本当に助かりました。少し高いけれど、今でも日常的に使っています。夏場でも生ごみの臭いがせず、とても快適です。 【マンガ】「ミニマル防災」を読む(全5枚) ――この5つくらいなら、いますぐできそうです。でも「懐中電灯」「ろうそく」などの灯りが入っていないのは意外でした。  もちろんあったほうがいいに決まっていますが、電気は最悪なんとかなります。震災当時、わが家では太陽とともに起き、日没とともに眠っていました。  ただ、現在は2011年と比べてスマホの普及率が大幅に増えています。ガラケーに比べてスマホの充電は長持ちしませんから、充電用のバッテリーは多めに用意しておきましょう。できれば充電式と乾電池式、ソーラー式の3種類を用意してほしい。ソーラー式は豪雨災害のときには役立たない場合もあるので、1種類に絞らないほうが安心です。 ――子どもたちの防災意識を高めるにはどうすればいいのでしょう。  地震などが起きたときや、災害に関する本やドラマをみたとき、あるいは1月1日、3月11日や9月1日などに「わが家の防災を一緒に考えよう」と声をかけるのはいかがでしょう。 「水は一人1日3リットル必要なんだって!」「じゃあペットボトル何本?」と相談し、「じゃあ、いっしょに買いに行こう」と買い物に行くのがおすすめです。自分で運ぶことで、「水は重い」とか「水は大事だ」と実感できるようになると思います。 (構成/神 素子) イラストレーター・アベナオミさん 〇アベナオミ/1985年生まれ。宮城県出身、仙台市在住。地元情報誌のデザイナーを経てフリーのイラストレーターに。長男・豆キチくん(中3)、次男・アンチョビくん(小3)、長女・モナカちゃん(年長)、経理マンの夫と5人暮らし。著書に『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』(Gakken) 『マンガでわかる防災のトリセツ』(マイナビ出版)『賃貸か持ち家か? こだわりマイホームを手放して賃貸生活でお金も貯まりました』(KADOKAWA)。 『被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40』アベナオミ著/Gakken
斎藤県政で迎える阪神・淡路大震災30年への懸念 「県土の一木一草まで」知事の責任背負えるか
斎藤県政で迎える阪神・淡路大震災30年への懸念 「県土の一木一草まで」知事の責任背負えるか あちこちから火の手が上がり、猛煙が立ちのぼる神戸市長田区の市街地。斎藤知事は、祖父がこの街でケミカルシューズの工場を営み、被災したことを震災経験として語る=1995年1月17日、朝日新聞社ヘリコプターから    1995年1月17日5時46分。神戸・阪神地域と淡路島北部をマグニチュード7.3の大地震が襲った。復興に尽力した当時の貝原俊民兵庫県知事と現在の斎藤元彦知事──。災害と知事のありかたについて、当時地元紙記者として現場を取材したノンフィクションライターが書く。AERA 2025年1月20日号より。 *  *  *  阪神・淡路大震災の発生から12日後の1995年1月29日。死者数が増え続ける中、開かれた臨時県議会で当時の貝原俊民・兵庫県知事は犠牲者への責任を問われ、こう答弁した。 「知事は県民の命について無過失無限大の責任を持たなければならないと考えている。私の命を投げ出すことによって5千余名の亡くなられた方々の命がよみがえるならば、その決意も辞さないほどの責任を感じている。それもかなわないのなら、次世代の県民のため、すばらしい防災都市の建設に死力を尽くすことが私のとるべき道であろうと決意を新たにしている」 貝原俊民の決意と斎藤元彦の再選  貝原はその心構えを沖縄県最後の官選知事、島田叡から学んだという。神戸出身の内務官僚だった島田は太平洋戦争の末期、米軍の沖縄上陸が迫る中で赴任し、最後まで県民と行動を共にした。自分もそうありたい、と。  そして震災から6年余りを経た2001年5月22日、貝原は4期目途中で辞意を表明する。 「知事の責任は県民の命に対してはもちろん、県土の一木一草にまで及ぶ。6400人の犠牲を出した震災時の知事として、身の処し方を自問自答してきた。復興の道筋を付ければ辞任するのが、震災当初からの決意だった」  当時、地元紙の県政担当記者だった私は、県庁4階にある記者会見室で、貝原の決断を感慨深く聞いたことを覚えている。そして、今も同じ部屋で開かれる斎藤元彦知事の記者会見に通いながら、その言葉を時折思い起こす。  知事の責任は県土の一木一草にまで及ぶ──。  島田知事を単純に英雄視することに、沖縄では疑問や批判があることは知っている。貝原の唐突な辞任は、副知事だった井戸敏三へ後任を引き継ぐ政治戦略でもあり、辞任理由を額面通り受け取れないこともわかっている。  だが、それでも知事職を担う公人としての使命感、県政トップの政治的責任を最大限に果たそうとする強烈な責任感が、この言葉には込められていると思う。 震災1カ月後、避難所を訪れて被災者に話を聞く貝原知事。自身は県庁に3カ月余り泊まり込んだという=1995年2月17日    貝原が不慮の事故で亡くなって10年となった昨年、兵庫県は斎藤知事のパワハラや物品受領(いわゆる「おねだり」)などの疑惑──全体として、知事と側近による県政私物化と言えるだろう──を告発する文書問題に揺れた。県議会の全会派から不信任を突き付けられ、「知事の資質」を問われた斎藤は、出直し選挙で劇的な再選を果たしたものの、デマと誹謗中傷が飛び交った異様な選挙戦は、今も県政に深い傷を残している。  そんな中、6434人の犠牲者を出したあの震災から30年を迎える。 震災の経験が兵庫を「防災先進県」に  災害において知事の役割はきわめて大きい。緊急時対応や復旧・復興の成否は知事の姿勢にかかっていると、室崎益輝・神戸大学名誉教授は語る。防災・復興研究を半世紀以上続け、兵庫県をはじめ、多くの被災自治体に対して支援や提言を行ってきた実感だ。 「もちろん国の予算や法律の制約は受けますが、知事が積極的に行動すれば、独自の仕組みや制度を打ち出せる。阪神・淡路が良い例です。私は貝原知事とはよくケンカもしましたけど、あの人がいなければ、兵庫県は今のように復興できていません」  たとえば、被災者の自立支援から被災地再生までさまざまな用途に活用できる「復興基金」。各分野の有識者が被災者と行政の間に立つ「被災者復興支援会議」。市民運動とも連携し、公的な個人給付を初めて実現させた「被災者生活再建支援法」。それでも対象外となる住宅再建については県独自の共済制度を模索し、後に「フェニックス共済」として実を結んだ。 「仕組みがないからできないではなく、なければ作ろうと自ら動く。これは政治リーダーにしかできない。貝原知事だけでなく、後を継いだ井戸知事もそうでした」と言うのは、兵庫県職員から防災研究者となった青田良介・兵庫県立大学大学院教授だ。  井戸は2011年の東日本大震災の直後、関西広域連合にカウンターパート方式の支援を提案した。府県ごとに担当する被災県を決め、長期的に支援する仕組みで、兵庫県は宮城県を担当。今では国がこの方式を制度化している。 「16年の熊本地震では、いち早く益城町に県職員を派遣しています。要請を待たず、プッシュ型で支援する。貝原知事も多忙の合間に避難所を訪ね、直接声を聞いていた。自分の目で現場を見て必要な支援を考える姿勢は、両知事に共通していたと思います」 告発文書問題に揺れ、再選を果たした2024年最後の定例会見に臨んだ斎藤知事=2024年12月26日(写真:松本 創)    防災研究や教訓の継承を担う人材育成も貝原-井戸体制の下で進んだ。青田教授が勤務する県立大学の減災復興政策研究科や、貝原が理事長を務めた「ひょうご震災記念21世紀研究機構」もそうだし、それらが入居している「人と防災未来センター」は、災害ミュージアムとして一般公開されている。  あらゆる災害に関する知見と人材を蓄積し、国内外に伝える。南海トラフ地震をはじめ次に来る巨大災害に備え、防災体制を構築する。この30年間、兵庫県は「防災先進県」を最大のアイデンティティーとしてきた。震災直後の県議会で、「防災都市の建設に死力を尽くす」と貝原が述べた通りに。  ところが斎藤県政になってから、それが揺らぎ始めたように見える。「知事は防災や震災の伝承に関心が薄いのではないか」。そう懸念する声が県庁の内外から聞こえてくる。 斎藤県政で迎える「震災30年」への懸念  現在に至るまで兵庫県政を揺るがす元西播磨県民局長の告発文書。その冒頭は震災に関する項目だった。  貝原の後を受けて、ひょうご震災記念21世紀研究機構の理事長を務めていた五百旗頭真・神戸大学名誉教授が2024年3月、機構の理事長室で倒れ、急死した。その原因は、斎藤の命を受けた片山安孝副知事から副理事長の研究者2人を解任する方針を通告されたことだった、とする内容である。  告発文書に書かれた解任通告の日付が不正確だった──実際は死去の前日ではなく、6日前だった──ことや、死因と解任人事の直接的関係が証明不能なため、斎藤も片山も「事実ではない」と百条委員会で否定している。だが、複数の関係者によれば、突然の一方的な解任通告に五百旗頭が憤り、夜も眠れない状態だったことは事実である可能性が高い。  元県民局長が問うていたのは、震災30年を控えた時期の人事として適切だったのかということだ。外郭団体のスリム化を名目に、貝原・井戸という前任の知事に連なる人材を排除し、震災研究や伝承の取り組みを縮小してよいのか、と。  震災関連の人事への疑問は同じ頃、記者からも出ていた。斎藤が元県民局長の告発文書を「嘘八百」と断じた24年3月27日の会見でのことだ。 記者:来年、震災30年を迎えるにあたって創造的復興フォーラムなども考えていると思いますが、人事異動を見ると、危機管理部系の幹部が軒並み変わっているように見えます。何か意図があれば教えてください。 知事:現在の防災監は退職となるので、副防災監をスライドする形としました。継続性はあると思っています。池田副防災監は、防災・危機管理のエキスパートでもあり、その対応をしっかりとやってもらいます。新たに唐津教育次長を危機管理部長とします。(…)震災30年や能登半島地震を含めて、来年度検討会もやっていくので、(…)継続性と重厚な布陣、両方やったつもりです。  体制は維持しており問題ないと斎藤は言うのだが、職員からはこんな声が漏れる。 「池田頼昭防災監は2年前に陸上自衛隊から来られた方で、確かにエキスパートですが、県内市町の事情をどこまで把握し、連携できるか。逆に、経験がないのに、いきなり危機管理や防災部門の管理職になった人も多い。全体の人数は変わらなくても素人ばかりだと、実際の災害時に機能するのか」  防災や被災者支援に長く関わる研究者やNPO関係者も口々に言う。 「知事が防災や復興関係の会議やシンポジウムに出てこないので、直接議論したり、考えを聞く場がなくなった」 「震災30年事業は一過性のイベント的なものばかり。フェニックス共済の加入促進やコミュニティ防災など地道に取り組むべき課題は多いのに」 「震災の教訓をネット動画で発信するのはいいが、若者受けばかり意識し、専門的知見や助言が取り入れられない」  表面上は整っていても、本質には届かない。震災の犠牲者に思いを馳せ、防災や復興を進めるという公人としての使命感や気概が感じられない。  それはまるで、斎藤が語る言葉のように、私には思える。 熱量のない言葉で被災地は背負えない  実は、かつての貝原の言葉を斎藤も県議会で引用したことがある。知事就任から半年、2022年2月のことだ。 「百余年前、賀川豊彦は、一人は万人のために、万人は一人のためにと、日本初の生活協同組合を兵庫で立ち上げました。また、太平洋戦争末期の沖縄戦で県民と苦難をともにした本県出身の島田叡沖縄県知事を引き合いに、貝原知事は、知事の責任は県土の一木一草にまで及ぶと使命感を示されました。  兵庫に連綿と受け継がれるこうした心構えや責任感を私もしっかりと継承し、全ての県民が、安心して、育ち、学び、働き、遊び、幸せに生きられる環境をつくってまいります」  今もその思いは変わらないか。昨年末の知事会見で私は尋ねた。 「貝原元知事の言葉である『県土の一木一草まで及ぶ』という言葉は大変重い言葉だと思っています。3年経って今回また改めて知事に就任しましたが、その思いに変わりなく頑張っていきたいと思っています」  やはり印象は同じ。貝原の言葉の熱量とは比べ物にならないほど希薄だ。  自らの責任を「一木一草まで」と本当に思うのなら、告発文書問題の中で亡くなった職員への思いをなぜ語らないのか。選挙中から今に至るまで続くデマや誹謗中傷、個人情報の流出をなぜ止めようとしないのか。自身に問題はなかったと、ひたすら正当化を繰り返すばかりではないか──。  重ねてそう問うたが、答えはやはり虚しかった。言葉が交わらない。  阪神・淡路大震災からの30年間、防災学者として復興のプロセスに立ち会ってきた室崎がこう語っていた。 「われわれ研究者同士も、住民と行政の関係においても、お互いの意見を遠慮せずぶつけ合い、論争する。そこから納得できる答えを見つけていく。そんな社会を目指した30年だったと思う。ただし、それはお互いを信頼し合い、自分の考えを正しく述べることが前提になる。デマや誹謗中傷が飛び交う社会を、われわれは目指してきたわけじゃない……」  熱のない表層的な言葉しか持たない知事が、被災地に積み重ねられた人びとの思いを背負えるだろうか。(ノンフィクションライター・松本創) ※AERA 2025年1月20日号  
「英国の執筆業者は部屋の暖房をつけられないほどの低年収に」ブレイディみかこ
「英国の執筆業者は部屋の暖房をつけられないほどの低年収に」ブレイディみかこ 作家、コラムニスト/ブレイディみかこ    英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 *  *  *  英国の執筆業者や翻訳業者にとり、クリスマス商戦の本の売り上げは、部屋の暖房をつけることができるか、1月の寒さに凍えながら過ごすかを決めるぐらい決定的に重要だったという。  それは大袈裟だろうと思われるかもしれないが、英国のプロの執筆業者の年収の中央値は下がり続けている。2007年は1万2330ポンド(約240万円)だったが、22年には7000ポンド(約137万円)に減少していた。  英国国家統計局によれば、24年5月のイングランドの民間賃貸住宅の平均家賃は1301ポンド(約25万円)だから、執筆業者の平均年収は、半年分の家賃にも満たない。  今年はさらに厳しい状況になると言われている。本の売り上げに貢献する複数の文学祭が開催困難になるからだ。エディンバラ、チェルトナムなど九つの文学祭のスポンサーだった投資管理会社ベイリー・ギフォードが、出資を停止する。出版業界で働く人々による運動団体「Fossil Free Books」が、化石燃料業界やイスラエルに関連する企業への投資の撤退を同社に要求し、抗議活動を繰り広げたことに起因する。  問題ある組織からの支援は拒否する出版界でありたいという気持ちはわかるが、「シェイクスピアとディケンズとJ・K・ローリングの国」の作家たちの生活は、ますます苦しくなる。  英国のように音楽や演劇、文学などの文化的な魅力で観光客を呼び込んでいる国は、クリエイティブな職業の人々を政府が経済的にサポートすべきという論調もある。しかし、国家に援助される物書きはお上に物申すことができなくなるという考えもあり、これまた一筋縄ではいかない。そもそも、イスラエルへの武器輸出を許可していた英政府だって、汚点のないパトロンしか受け入れないのであれば、とてもクリーンとは言えない。  こうして執筆業は、すでに安定した職を持っている人や、経済的に余裕がある人しかできない仕事になりつつある。文化界には、人種やジェンダーなどのアイデンティティー政治的な多様性だけでなく、社会経済的背景の多様性も必要なはずだが、ここでも事態は逆の方向に進んでしまっている。 ※AERA 2025年1月20日号  
「もったいない」で残したモノに圧迫された家 片づけたら家族がリラックスできる家になった
「もったいない」で残したモノに圧迫された家 片づけたら家族がリラックスできる家になった テーブルの上もまわりもモノでいっぱいのダイニング/ビフォー    5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。 case.87  家族との対話も片づけのポイント 夫・子ども2人/音楽講師 「片づけ始めて気づいたんですが、家の中は私のモノばっかり。よくこれで家族は一度も文句を言わなかったなと思って。家族に感謝しないといけないですね」  こう話すのは、夫と大学生の息子二人と暮らす女性。もともと片づけは得意でしたが、仕事が忙しくなるにつれて片づけられなくなってきてしまいました。 ピアノとリトミックの教室をしながら、アロマの教室も定期的に開催。ピアノは自宅のリビングで毎日教えています。リトミックの楽器やアロマで使う道具が増えるにつれて、家のモノと仕事のモノがごちゃごちゃになって手がつけられない状態に。 さらに、家族のモノも散乱していました。 「上の子が美術を専攻していて、自分の部屋に作品を置くと荷物や洋服が収まりきらないんです。それがダイニングの彼のイスのまわりにたまっていって、夫や私もなんとなく荷物を置くようになったりして、もうどうにもできませんでした」  下の子だけは自分の荷物をリビングやダイニングに置きっぱなしにはしなかったものの、家の中は散らかり放題。 「ピアノ教室は毎日午後から始めて、終わるのは19時半頃。月4回のリトミックは、プログラムを組み立てたり、教材を作ったり、教室以外でも作業の時間がとられます。出欠席や振り替えの連絡も取り合ったりして……。そこに加えて2年ほど前からアロマ教室も始めたので、片づける時間を作るのが難しかったですね」 スッキリして家族がそれぞれの席にスムーズに座れるようになりました/アフター    リトミックはレンタルスペースを借りて、2台のキーボードや、タンバリン、鈴、木琴、鉄琴などの楽器のほか、リズムを取るための道具なども生徒や保護者の分を持って行きます。それだけの荷物を自宅で保管するのも大変なこと。 「なんとかして片づけないと」と思っているとき、SNSで“家庭力アッププロジェクト®”を知りました。 「単なる片づけじゃなくて、心理学に基づいたメソッドというところに関心を持ちました。学んだことを自分の教室にも生かせるかもしれないな、と。片づけだけならちょっと頑張れば自分でできると思っていましたが、参加することにしました」  彼女の仕事は午後がメインなので、午前中は片づけに集中しました。片づけ始めると、増えてしまった仕事の道具を収納スペースに入れたために、家族のモノが家中にあふれてしまっていることに気づきます。 「使わないのに、もったいないと思って残していたモノが多かったですね。リビングにずっとあった電子ピアノもそうでした」  仕事上、キーボードがあれば電子ピアノは必要ありません。でも機能が充実している機種で手放す決心がつかず、ずっとリビングに置いてあるだけでした。 「電子ピアノがあることと、この分のスペースが空くことの、どちらが豊かなことだろうと考えたんです。結果、手放した方が豊かだなという結論に達しました。生徒さんにお譲りすると、空間が広がってすごく動きやすくなりました!」  不要なモノが減って家の中がどんどんスッキリすると、家族も驚いた様子。夫は「家に帰ってくると、仕事のストレスが癒やされる」と喜んでくれました。  さらに大きな変化は、ダイニングにある子どもの荷物や洋服です。子どもと話し合うと、「今は制作に忙しい時期だから、それが終わったら片づける」と約束してくれました。 「それまで放っておくわけにもいかないので、思い切ってダイニングテーブルの近くに衣類ケースを置いてそこに収納することにしました。以前なら、『ダイニングに洋服を置く場所をつくるなんて、無理に決まっているでしょ!』と言っていたと思います」  思い込みにとらわれず、家族の意見を受け入れて柔軟に対応した結果、ダイニングもスッキリときれいになりました。 床置きが多く、よく使う勝手口も通りにくいキッチン/ビフォー    夫にも話を聞くと、「カバンを置く場所がほしい」とのこと。玄関に棚を設置して定位置にすると、リビングに出しっぱなしだったカバンをきちんと置いてくれるように。 「ずっと置きっぱなしをイヤだと思っていましたが、話を聞くと解決策が見つかるものなんですね」 ちゃんと考えて定位置を決めると、夫も子どもたちもきれいな状態をキープしてくれます。決めるときに重視したのは、動線です。モノを出したり戻したりする際に、家の中の動線上に定位置があるとスムーズで散らかりにくいからです。 「リトミックに使う楽器や道具は2階に保管していましたが、教室のたびに階段を3往復くらいして外に運び出していました。でも、動線で考えれば1階にあった方がいいので、1階のクローゼットの不要物を手放してスペースを確保しました」  こうして片づけが完了すると、家族みんなが快適に生活できる家になりました。  片づけには、「いつ、どこを片づけるか」というスケジューリングや家族とのコミュニケーションが大切です。彼女は片づけを通して学んだことを、仕事にも生かし始めています。 定位置を決めて床置きゼロ。使いやすさも格段にアップ/アフター   「今では、教室の準備も余裕を持って終わらせられます。生徒たちへの指導も、一人ひとりの気持ちや事情に配慮しながら声かけができるようになりました」  また、片づけによって意外なメリットも生まれました。長年放置していたハープが出てきたのでリビングに置いたら、生徒たちに大好評。ピアノに疲れたときのいい気分転換になっているそう。 「片づけって、家がきれいになるだけじゃないんですね。予期しないおもしろいことも起こるなぁって」  確かに、片づけにはいろいろな副産物があると思います。片づけの悩みがなくなった彼女の明るい笑顔もその一つ。ただ、それは何もしなくて得られるものではありません。彼女が未来を変えようと願い、実際に努力して動いた結果なのです。 人生が変わる片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター 商品価格¥1,650 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
「子どもに宿題をたくさんやらせれば、学力が伸びる」は勘違い? 「頭のいい子」の親が大切にしている“学び”とは
「子どもに宿題をたくさんやらせれば、学力が伸びる」は勘違い? 「頭のいい子」の親が大切にしている“学び”とは (写真はイメージ/GettyImages) 「頭のいい子」というと、たくさん勉強しているイメージがあります。しかし「机に座って行う勉強だけが子どもの学力を向上させるわけではない」と語るのは、全国トップレベルの子どもの学習データを所有・分析する「RISU」の今木智隆さんです。学校や塾から出されるたくさんの宿題より、大切なこととは何でしょうか? 今木さんの著書『小学生30億件の学習データからわかった 算数日本一のこども30人を生み出した究極の勉強法』(文響社)からお届けします。 トップレベルの親が最も尊重しているのは子どもの自主性  全国トップレベルの子どものご家庭を対象に、「教育において最も大事にしていることは何ですか?」というアンケートを行ったところ、ほとんどの親御さんが「子どもの自主性」と回答されました。 「自主性」とは、他人からの指示がなくても、やるべきことを自ら率先して行う姿勢のこと。人が独立した個人として社会で成功するために、必要不可欠な資質です。先のアンケート結果は、子どもの自主性を尊重している親御さんの養育下では、「頭のいい子」が育つということを示唆していると言えます。 子どもの興味関心を肯定する 「頭のいい子」というと、たくさんの参考書やドリルで勉強しているイメージをもたれるかもしれません。しかし、机に座って行う勉強だけが子どもの学力を向上させるわけではありません。  友だちとの遊び、スポーツ、読書、趣味......日常生活の何気ないシーンで、子どもはさまざまな物事に興味を抱きます。全国トップレベルの子どもの親御さんたちが心がけているのは、子どもが何かに興味をもっていることに気づいたら、その興味を肯定してあげること。そして、その興味が自然に「学び」につながるようにサポートしてあげるということです。  たとえば、子どもが「やってみたいな」と口にした習い事があれば、できるだけ経験させてあげる。子どもが「読みたい」と言った本はすぐに買い与える。博物館・科学館・美術館・水族館・動物園などの教育施設に積極的に連れて行ってあげる。 「取り組んでみたけれど、結局すぐに飽きてしまった」ということもあるかもしれません。そのときは、すぱっと切り替えて、別の興味をもっていることに挑戦してみる。途中でやめたとしても、そこまでの経験は子どもの成長の糧になっていますから、決してムダにはなりません。  最初のうちは手探りかもしれませんが、さまざまな経験をさせているうちに、子どもが本気で熱中できる物事が見つかります。 「自主的な学び」を邪魔しない  私は子どものころ、宇宙が大好きでした。今にして思えば、わが子が宇宙に興味をもったことに気づいた親が、宇宙の図鑑を買ってきて家の本棚にさり気なく置いてくれていたのです。 「今日、本で読んだことを教えてよ」と聞かれるのがうれしくて、私は図鑑で得た知識を毎日のように両親に披露し、宇宙にどんどん詳しくなっていきました。宇宙の本や図鑑のページを夢中でめくっていくと、そこには「月までの距離は38万キロメートル」「太陽までの距離1億4960万キロメートル」「銀河系にある恒星の数は2000億個」と、大きな数が当たり前に載っています。大好きな宇宙に関することですから、私はそういった数字をどんどん吸収していきました。  すると、宇宙への興味を通して、「大きな数字」も対する感覚が自然と身についたのです。そして、最初は宇宙への興味でしたが、大きな数を身近に感じられるようになり、その延長で算数(数学)が得意になり、今ではその算数を教えることを仕事にしています。  みなさんも、同じように何かに夢中になった経験をおもちでしょう。そのとき、普段とは比較にならない早さで知識を吸収していきませんでしたか?覚えたことを、忘れることもなかったはずです。それこそが、「自主的に学ぶ」ことの効能です。  自主的な学びは、学校の授業や宿題で他人から強制される勉強とは、知識の吸収率も定着率も段違いなのです。全国トップレベルの子どもの親御さんが大事にしているのは、この最高の学びの状態をできるだけ邪魔しないということです。  自主的な学びとは反対に、他人に強制されて嫌々取り組むことは、よき学びになりません。その最たるものが、学校や塾から押しつけられる宿題でしょう。 「子どもに宿題をたくさんやらせれば、学力が伸びる」と勘違いしている人はいまだに多くいます。巷では宿題の量の多さを売りにしている「詰め込み塾」も人気ですよね。しかし、科学研究機関やRISUのもつ学習ビッグデータなどは、「宿題は子どもの学習向上に貢献しない」と結論を出しています。すでに科学の世界では宿題に意味がないことが明らかなのです。  大量の宿題を押しつけられてキャパシティーオーバーになり、成績が低迷してRISUにやってくる子どもがしばしばいます。  詰め込みを強いられる勉強に自主性も何もありませんから、そんな子どもに学びのモチベーションはありません。その状態で何を学ばせても、知識の吸収率・定着率は芳しくありません。学校や塾の先生たちはよかれと思ってやっているのでしょうが、そんな学びで子どもの成績は決して上がりません。  子ども自身がやりたいことを肯定し、自主性を伸び伸びと育ててあげるのは親の役目です。無理やりでも量をこなさせれば成績が上がるだろうと考えている親御さんは、今すぐ認識を改めてくださいね。 〇今木智隆(いまき・ともたか) RISU Japan株式会社代表取締役。京都大学大学院エネルギー科学研究科修了後、ユーザ行動調査・デジタルマーケティング領域専門特化型コンサルティングファームのビビット入社。2014年、タブレットを利用した小学生の算数の学習教材で、のべ30億件のデータを収集し、より学習効果の高いカリキュラムや指導法を考案。
「スーパードラえもんはいくら?」 何でもできるAIロボットができたら価格は0円か1兆円か 田内学
「スーパードラえもんはいくら?」 何でもできるAIロボットができたら価格は0円か1兆円か 田内学   AERA 2025年1月13日号より    物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年1月13日号より。 *  *  * 「スーパードラえもんの価格はいくらだと思いますか?」  あるトークイベントで、会場からこんな質問が飛んできた。質問者は10歳の小学4年生、ではない。46歳のおじさん、他ならぬ筆者自身である。  ジャーナリストの田原総一朗さんが開催する「田原カフェ」というイベントで、ゲストに来られた安野貴博さんへ質問したのだ。安野さんは、33歳という若さで昨年の東京都知事選挙に立候補されていて、AIの技術を駆使して誰も取り残されない社会を目指されていた。  僕は長い間、日本の金融市場で働いてきたが、大学時代の研究分野は、安野さんと同じ自然言語処理だった。今でいうAIの研究に近い。そこで冒頭のような質問をぶつけてみたのだ。  もしも、ロボットが進化して、どんな問題も解決してくれるロボット、つまりスーパードラえもんが完成したとする。食事の用意や住居の建設、病気の治療まで何でもできるロボットだ。エネルギーも材料も自分で調達する。このロボットの価格は果たしていくらになるのだろうか?  普通に考えれば、とんでもない金額だ。1億円、いや1兆円かもしれない。しかし、1台あれば、新たにもう1台を生産することもできる。では、新しく作った1台をいくらで売るのかと考えてみる。  スーパードラえもんがどんな願いも叶えてくれるなら、お金は必要なくなる。そうなると、無料で譲ることも可能ではないだろうか。 たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など    こういう反論もあるかもしれない。ロボットには、クリエーティブな仕事ができないから、小説や絵画などの購入には引き続きお金が必要になるのではないか。しかし、クリエーターが作品の対価にお金を求めるのは、お金がないと生活できないからだ。ロボットがなんでも叶えてくれる世界においては、彼らがお金を要求する理由はなくなる。  そう考えると、ロボットの活躍が増えるにしたがって、僕らはお金を必要としなくなっていくのかもしれない。  一方で、これまでの資本主義の歴史を見ていると、豊かになっても分け合うことのできないのが人間の性だ。一部の人がその技術を独占して、多くの人はスーパードラえもんの恩恵を受けられない可能性もある。  果たしてドラえもんの価格は0円なのか1兆円なのか。  安野さんは「面白いけど難しい質問ですね」としばらく考え、別の視点から答えてくれた。「ソフトウェアの価格は無料になっても、ハードウェアを作る(鉄鉱石などの)資源については価格が存在するのではないか」と。  言われてみればそのとおりだ。ドラえもんが材料まで調達するとしても、この場になければどうしようもない。かなり高い確率で、僕らが生きているうちにドラえもんは誕生しないが、その方向に進んでいくのは間違いなさそうだ。  AIによる自動化が進むほど、人間の能力や技術は必要なくなり資源国の優位性は高くなっていく。このままでは、エネルギーや資源の自給率が低い日本はますます厳しくなるだろう。そうなる前に何か手を打たないといけない。  安野さんは東京都のDX推進のアドバイザーに就任されたそうだ。東京の未来、日本の未来のために、その能力を発揮してもらえることを願っている。 ※AERA 2025年1月13日号  
算数・数学が得意な子は、遺伝なのか? 親が与えた環境はどの程度影響するのか、行動遺伝学者が解説
算数・数学が得意な子は、遺伝なのか? 親が与えた環境はどの程度影響するのか、行動遺伝学者が解説 安藤寿康先生  親子で顔が似ていると遺伝の影響を感じる人も多いでしょう。では、勉強の好き嫌いや学力にも、遺伝の影響はあるのでしょうか? 『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)の著者で、日本における行動遺伝学の第一人者である安藤寿康先生に、教育と遺伝の関係についてお聞きしました。 身長や体形に遺伝的要素があるように、学力にも遺伝の影響が必ずある ――容姿や体質などには遺伝の影響を感じる人も多いと思うのですが、勉強の好き嫌いや、得意・不得意も遺伝するのでしょうか?  あらゆる動物は遺伝子からできています。つまり私たち人間のあらゆる側面に遺伝の影響があり、容姿や身体、病気へのかかりやすさだけでなく、学校の成績や運動能力、勉強の好き嫌いや、得意・不得意にも、遺伝の影響がもちろん出てきます。  行動遺伝学では、双生児法といって、遺伝と生育環境が同じ一卵性双生児と、遺伝の影響は一卵性双生児の半分、生育環境は同じといえる二卵性双生児の行動指標の類似性を比べることで、遺伝の影響と環境の影響の因果関係を調べています。その研究によると、学業成績における遺伝要因はおおむね50%程度と考えられています。  ただそう言うと、お子さんの成績がなかなか上がらないことに対して、「私も勉強嫌いだったからな……」と諦め半分に話す親御さんもいらっしゃるのですが、それは「遺伝」に対するイメージがちょっと単純化しすぎた誤解に基づくのかなと思います。  どんな遺伝子がどのように学力に影響しているのか。それを考えるならば、例えばその教科の内容に対しての好き嫌いや向き不向き、学習に際して発揮される集中力や勤勉性のようなパーソナリティーの違い、学校や教室の雰囲気へのなじみやすさなど、さまざまな側面における遺伝的要因も考えるべきでしょう。単純に「成績」などの目に見える部分だけを見て、「親が苦手だから子どもも成績が上がらないんだ」などと判断するのは違うかなと。そもそもテスト問題だって、それを作った人の考え方が反映されていますし、それに対して、どんな遺伝子が、いつ、どのように影響しているかまで明らかにすることは不可能です。 ――学力に対する遺伝の影響は年齢によって変化しますか?  家庭環境の影響を受けやすい幼少期や小学校低学年の時は、遺伝的要因だけでなく、家庭の環境要因もかなり大きく学業成績に影響を与えることがわかっています。しかし年齢が高くなるにつれ、家庭よりも、学校や塾、友人関係など外からの影響が強くなり、それぞれが持つ遺伝的要因の影響が強くあらわれてくるといえるでしょう。 算数・数学の成績は、他の教科に比べると遺伝的要因は少ないと言われる ――編集部には算数のつまずきについて悩みが寄せられることが多いのですが、算数・数学の得意・不得意にはどのくらい遺伝が影響しているのでしょうか。  学力と遺伝の影響について聞かれることは多々あるのですが、ピンポイントに「算数・数学」について質問されるのは初めてですね(笑)。ただ、算数、数学の遺伝率は低いというデータはあります。 ――低いのですね。それはなぜですか?  これは国や文化によって違っていて、アメリカやイギリスなどに比べて、日本は少ないというデータがある、ということです。ここからは類推が入っているのですが、算数・数学の領域、例えば割り算や微分積分などは、日常的にはあまり使わない能力を必要とするものが多いですよね。  一方、国語や理科、社会などで使う能力は、日常生活の中で、自然と結びつくことが意外とあるんです。  例えば好きな本やマンガを読んだり、野原で美しい花を見つけて言葉で表現することは国語で使う能力と同じだったり、昆虫を見つけて生態を調べることは理科で使う能力だったりする。いろんな土地に旅行に行って見聞きしたことや、テレビで歴史の登場人物の物語を見たり、そういった環境がその人が持っていた遺伝的要素と反応し合うことで、一般的な知識として国語や理科、社会などの成績に影響することも多い。  そう考えたとき、算数や数学は、日常生活の中ではなく、日本では例えばそろばん塾や公文などでテクニックを覚えていくという環境的要因によって、成績が上がることが比較的多い。よって、そういう環境要因の家庭による違いもほかの科目より影響して、相対的に遺伝的要因は少なくなると考えられます。 ――ということは、算数については早い段階から、学習環境を作ったほうが良いのでしょうか?  それが、そうとは言えません。幼少期や小学校低学年の早い段階から、算数・数学に必要なテクニックを訓練することで、いい成績をとることができることもあるでしょう。ただ、そういったテクニックだけでは算数や数学の世界を全て理解することはできませんよね。  例えば微分積分、素数など、それらの世界をどのくらいイメージできるか。これはテクニックでカバーできるというより、本人の中にもともとある論理的推論とか抽象的思考とか仮説を生み出す能力に関わる遺伝的要素が大きく影響していると思われます。中学生くらいまでは、公式や解き方の定型パターンを覚えれば解ける問題も多いので成績が良かったのに、高校生くらいから授業についていけなくなってきたという場合は、行動遺伝学からいえば、より数学的な論理構築力に関しては得意かといったらそうとは言えないかもしれません。 ――反対に、苦手だと思っていたら、実は得意だったという場合もあるのでしょうか。  もちろんあります。私の友人で中学生のときは数学についてそれほど得意でなかったけれども、高校になって急にコツをつかんで得意になり、現在はコンピュータの分野で世界的にも大活躍している人がいます。  彼にどんな変化があったのか取材したところ、彼いわく、自分は、ある事柄に対して、順番に系列的にものを追って理解していくのは苦手だったけれど、その全容を頭の中で一気にイメージして理解するというのは得意だったというんです。  ここからは憶測ですが、中学生のころと高校生のころで、数学を理解するときの方法が自ずと変わっていったのかもしれませんし、日常生活の中でさまざまなことを経験し新たな脳のネットワークが作られ、得意なほうの力が発揮されてきたのかもしれません。どんな環境を用意すれば成績が伸びるかどうかは、やってみないとわからないのですが、少なくとも、そのときの成績が悪かったからといって、「苦手」と決めつけるのは早合点といえるでしょう。 遺伝子は、非常に複雑かつランダムに受け継がれるもの ――父親も母親も苦手だった教科なのに、子どもは得意というのはどういう現象が起きているのでしょうか?  そもそも「遺伝」とは、どんな遺伝子の組み合わせを持っているかに影響されるわけですが、遺伝子はA(アデニン)、T(チミン)、G(グアニン)、C(シトシン)という4種の塩基の配列からなっていて、私たち人間には30億もの膨大なATCGから作られる配列が存在しています。その配列の一部が「AUU」(イソロイシンというアミノ酸になる)なのか、それとも「ACU」(トレオニンというアミノ酸になる)なのかなど、配列の違いによって個人差が生まれるのですが、自分がどんな遺伝子配列を持つかは、父親と母親からどんな遺伝子を受け継いだかで決まります。  ただしそれはマージャンのパイのように、父親が持っている遺伝子の半分と母親が持っている遺伝子の半分が受精の段階でランダムに分かれて新たに組み合わさり、そこから子どもの独自な遺伝子の配列が決まります。さらに、両親もそれぞれの親、さらに親の親も同じくランダムに遺伝子を受け継いできていますから、家系の中には代々似ているところもあれば、似ていないところもあるのは当たり前のことなのです。 「遺伝」と言うと、「親と似る」とか「一生変わらないもの」ととらえられがちなのが非常に歯がゆいところで難しいところです。遺伝子の配列は一生変わることはありませんが、その遺伝子のどの部分がいつ、どのように発現し、個々のさまざまな側面であらわれてくるかは、まだよくわかりません。「遺伝」とは、親子の間でも異なったその人独自のもので、環境に対して一生反応し続け、ダイナミックに変化し続けるというイメージを持って「遺伝」の世界について知っていただけたらと思います。 (取材・文/神武春菜) 〇安藤寿康(あんどう・じゅこう)/慶應義塾大学名誉教授。教育学博士。専門は行動遺伝学、教育心理学。1958年東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業後、同大学大学院社会学研究科博士課程単位取得退学。日本における双生児法による研究の第一人者。 『教育は遺伝に勝てるか?』(朝日新書)、『遺伝子の不都合な真実』(ちくま新書)、『教育の起源を探る――進化と文化の視点から』(ちとせプレス)など著書多数。
【リュウジ独占】動画で食べまくり大酒を飲む料理研究家が太らない理由「太らず旨い酒のつまみ5レシピ付き」前編
【リュウジ独占】動画で食べまくり大酒を飲む料理研究家が太らない理由「太らず旨い酒のつまみ5レシピ付き」前編 チャンネル登録者数500万超のYouTubeでは見せない「静かなリュウジさん」。規則正しい生活ではないようだが美肌で、イケメンではないか(撮影/写真映像部・松永卓也)    料理研究家は食べることも仕事。体重コントロールはどうしているのか。リュウジ式・太らないおつまみベスト5も公開。AERA 2025年1月13日号より。 *  *  * ※AERAで初公開された「脂肪燃焼スープ 情熱(脂肪燃焼にんにくスープ)」の作り方動画がリュウジさんのYouTubeで公開中です。要チェック! URLはこちら  リュウジさんが投稿した動画はYouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」だけで、2018年のチャンネル開設以来2500本(24年12月24日現在、以下同)。508万フォロワーとなった今も実用的で楽しいコンテンツを出し続ける。  新作レシピを作る動画もあれば、コンビニやファミレス、居酒屋メニューの実食辛口コメント動画も人気だ。ここで不思議に思うことがある。動画で食べまくり酒を飲み、オフでも大酒飲みと聞くのに、リュウジさんはなぜ太らない? 見えないところで節制か。 「節制? 多忙で最近痩せちゃったぐらいなんですよ。仕事で動き回ってたら自然に減ってて」  とはいえ、動画で大量に食べた日は当然コントロールする。 「体重計に乗るのが一番効果的です。食べすぎても1日で5キロ太るなんてことないでしょ」  食事の量ではなく体重計? 「毎日食べすぎていたとして、毎日体重計に乗れば、少しずつ太っている自分を数字で見ることになりますよね。いやでも節制するようになりますよ。精神面から自分を痛めつけるっていうか。僕は自分を追い込むのが好きなんで。体重調整に苦労したこと、ありません」 何かしら食べてる 「めちゃめちゃストイック」を自認するリュウジさん。自分を追い込む傾向は仕事にも。 「SNSでエゴサ(ーチ)してわざわざアンチコメントを探します。キツい書き込みもいっぱいあるけど、『二度と言われない』って思いながら次の動画では突っ込まれそうなところを全部直す。『クソッ』ていう反骨精神的なものでがんばれる」  体重計に乗り、日頃あまり食べていないのに痩せない人は? 「何かしら食べてると思うんですよね。たとえば『お酒しか飲んでいない』と言いつつ高カロリーのナッツなんかをおつまみでえんえん食べているとか」  心当たりがありすぎる。ここでお酒が好きな人のために、リュウジさんの「バズレシピ」から太りにくいおつまみベスト5を紹介。表に写真入りでまとめた。どれも、安くて手に入りやすい食材を使い時間もかからず、おいしい。表内の「レシピ名+リュウジ+YouTube」で検索すればヒットする。 (撮影:松永卓也/写真映像部)    本誌イチオシは「ペッパーチーズ枝豆」。ガーリックを利かせたむき枝豆に粉チーズが絶妙な取り合わせだ。超人気の「無限キャベツ」はシラス、ごま油、黒こしょうがポイント。きゅうりにオリジナルのみそダレを揉み込んだ「悪魔の蛇きゅうり」は「僕らしい味付けだよね」とリュウジさん。「鶏むね肉の玉ねぎ漬け」は作り置きもおすすめ。物価高の今、「給料日前もやし和え」がありがたい。  オフにお酒を飲む時のリュウジさんは、つまみをほぼ食べない。動画で飲むお酒はハイボールと焼酎が多い。今回の取材中(動画撮影と同時進行)も「アルコールに夢中」と書かれたマイジョッキ(通称アル中ジョッキ)にブラックニッカの水割りと氷を入れ、ごくごくプハーッ。サントリーの「角」も好き。 糖質の低い酒  リュウジさんは自身の味の好みだけでお酒を選んではいない。ウイスキーも焼酎も「糖質が低いから」だという。  そもそもリュウジさんが体形維持を心がけるのはなぜ? 「全部、仕事のためですよ。だって『痩せメシ』の本を出しているのに僕が太っていたら説得力ないでしょ。つまり太っていたら仕事にならないからコントロールしてるだけです」  理由が明確だ。 「痩せたら明らかに仕事がうまくいくとかのメリットがあるなら、誰でもがんばるでしょ。でも、そこまで必要ないなら痩せなくてもいいと思う」  目的をはっきりさせること。 「一番大事なのは『なぜ痩せたいのか?』じゃないかな。健康のためなのか、モテたいのか、キレイと言われたいのか。目的はだいたいこのどれかですよね。『太っていて健康診断の結果が良くないから痩せたい』は、よくわかります。でもモテ目的や美容目的なら、ぶっちゃけそんなにがんばらなくてもいいんじゃ? 僕は仕事の一環で体重調整してるだけなんで」  痩せたいと言いながら痩せられない人は「痩せる必要性・目的が乏しい」のかも。(ジャーナリスト・大場宏明、編集部・中島晶子) 「アルコールに夢中」と書かれたマイジョッキ(通称アル中ジョッキ)でハイボールを飲み、いいお顔!(撮影:松永卓也/写真映像部)   ※太らずおいしくて簡単に作れる「酒のつまみ」ベスト5がこちらの画像(AERA2025年1月13日号に掲載)。  YouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」(URLはこちら)でも作り方動画が公開されています! AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より ※AERA 2025年1月13日号より抜粋  
リュウジの脂肪燃焼スープBEST5レシピ×管理栄養士の痩せアドバイス【栄養コスパ◎の野菜ランキング付き】
リュウジの脂肪燃焼スープBEST5レシピ×管理栄養士の痩せアドバイス【栄養コスパ◎の野菜ランキング付き】 リュウジさんの脂肪燃焼スープ5つのレシピ+管理栄養士の栄養コスパ◎野菜ランキングは画像で掲載しています(撮影:松永卓也/写真映像部)    AERA2025年1月13日号に掲載された料理研究家リュウジさんの脂肪燃焼スープ・レシピをまとめて掲載しつつ、管理栄養士がリュウジさんレシピを忖度なしにジャッジ。  新作の「脂肪燃焼にんにくスープ」、海鮮の旨味あふれる「トマト味」、コクありの「塩味」、パンチのきいた「しょうゆ味」、傑作級の「カレー味」(レシピ画像は本記事の最後に掲載)。 *  *  * ※本記事で紹介している「脂肪燃焼スープ 情熱(脂肪燃焼にんにくスープ)」の作り方動画がリュウジさんのYouTubeで公開中です。要チェック! URLはこちら  編集部でも作ったが、いずれも驚くほどおいしい。共通するポイントは、シーフードや、きのこ、トマトなど、旨味成分が豊富で「だし」がよく出る素材が必ず入っていること。  旨味成分にはいくつかの種類があり、組み合わせることでさらにおいしくなる。魚介や肉に含まれるイノシン酸、トマトのグルタミン酸、きのこのグアニル酸など。リュウジさんのような達人は相乗効果が発揮される材料を意識しているはずだ。  リュウジさんの脂肪燃焼スープは「味の組み合わせ」という意味でも上級だった。では栄養バランスという視点では? 管理栄養士の加藤彩子さんにチェックをお願いした。「忖度なしでお願いします」と念押ししてある。まずはにんにくスープ。 「抗酸化作用のあるビタミンA、C、Eを摂取できるのが大きなポイントですね。ビタミンEには血行促進効果も。食物繊維も多いため腸にもよく、優秀なレシピだと思います」  抗酸化とは「有害な活性酸素を除去する作用」。老化防止や生活習慣病の予防に役立つ。  続いて、塩スープ。 「他よりカロリーは高めですが、ビタミンA、C、カリウム、鉄分、たんぱく質をたっぷり摂取できます。特にたんぱく質は5種類の中で一番多く、筋肉量を落とさない点で最高。ビタミンAも最高値。余計な水分を排出するカリウムはむくみ解消につながりますし、糖の代謝を促すビタミンB1をとれる点も優秀」  しょうゆスープは他と比べて栄養素の量が少なめだという。 「とはいえスープでこれだけとれれば合格です。栄養素のバランスはいいですし、たんぱく質が1食で24グラムもとれます(塩スープの次に多い)」  最後にカレースープ。 「他のレシピと比べて、塩分控えめな点が高評価。ビタミンA、Cやカリウムもしっかり。たんぱく質が少なめです」  卵を落とすなどして補強するとさらにいい、とのこと。 かとう・あやこ(48)/管理栄養士。公的施設で栄養バランスが整うメニューを開発。雑誌や書籍の栄養監修、企業へのレシピ提案も(撮影/写真映像部・上田泰世)   リュウジさんの脂肪燃焼スープはどのレシピも「これでもか」というほど野菜が入っており、味付けも神(撮影:松永卓也/写真映像部)   基礎代謝の上げ方  ここで加藤さんは「太りにくい体」のポイントとなる基礎代謝について触れた。まず自分の基礎代謝をざっくり知っておくこと。身長、体重、性別などを入れると計算してくれるサイトがある。日常の活動量も選べる計算サイトがおすすめ。 「加齢とともに基礎代謝量は減ります。食事を通じて基礎代謝を保ちたいなら、血行を促進して代謝を高めるビタミン、ミネラルや筋肉に不可欠なたんぱく質をしっかりとってください」  体温を上げることも大事。 「体温の上昇で血行がよくなり、代謝が促されます。1度の体温上昇で代謝量は13%も上昇するといわれます。血行を促進する栄養素を多くとり、食事で体温を高めましょう。脂肪燃焼スープはうってつけですね」  血行をよくする栄養素としては先述したビタミンE、最近脚光を浴びている「第7栄養素(ファイトケミカル)」も有効。 「ファイトケミカルは野菜や果物、豆類などに含まれます。血行促進、抗酸化作用、免疫機能向上などの効果も。たとえば、しょうがのジンゲロールは血行を促進します」  トマトのリコピン(強い抗酸化作用)や、大豆などのマメ科に含まれるイソフラボン(コラーゲンを増やす→美肌)も第7栄養素の仲間だ。  リュウジさんの脂肪燃焼スープも野菜たっぷりだが、ふだんから冷蔵庫に常備しておきたい野菜を表にしてもらった。「体温&代謝アップ」「筋肉量アップ」「美肌」の3種類、各ベスト10。それぞれのキーワードに関する栄養素が多い野菜をランキングしてある。 「体温&代謝アップ」はスープに入れやすく、体をあたためる効果が高い野菜をセレクト。筋肉量アップはたんぱく質重視(あえて大豆は除いた)。えだまめが1位だが、2位のめキャベツや3位のブロッコリーもたんぱく質の量が野菜にしては優秀。美肌効果の高い野菜では、ビタミンA、β-カロテンが豊富なにんじんがダントツだ。ビタミンAは水溶性ではなく、体内に蓄積されるので1日当たりの摂取上限値が定められているが、「ドカ食いしなければ大丈夫」。 脂肪燃焼にんにくスープに使うブロッコリーは「つぼみ」部分を最後に。茎はスライスして先に煮込んでいるが、つぼみも茎もにんにくの香りとベストマッチでおいしかった(撮影:松永卓也/写真映像部)   ごはん1/3減で12キロ減  糖質さえ減らせばバターをかたまりで食べてもやせる、などの極論もネットにはびこるが、「結局、やせる・太るを決定づけるのは摂取カロリー」と加藤さん。消費カロリーより摂取カロリーが少なければやせる。 「体重調整は食事9割・運動1割といわれます。ごはんを朝・昼・夜で茶わん3分の1(50グラム)ずつ減らせば1日230キロカロリーを減らせます。30日で7千キロカロリー。脂肪細胞1キロを消費するには7千キロカロリーが必要なので、理論上は1カ月で1キロの体重減となります。1カ月1キロ減を1年続ければ12キロ減です。ごはんを減らすとさみしいですが、野菜大量の脂肪燃焼スープが満腹感を補ってくれます」  運動1割はどうする?  「日々の活動量アップを心がけましょう。通勤時などにできるだけ階段を使う、電車で座らない、歯みがき中にスクワットをする、時間のある日は1駅前で降りて歩くなど、意識してエネルギーを消費する(ことを続ける)と意外に効いてきます」 AERA 2025年1月13日号より   (ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)  リュウジさんのおいしい脂肪燃焼スープは毎日食べても飽きない、しかも簡単! AERA2025年1月13日号に掲載されたレシピ5種類がこちら。YouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」でも作り方動画が公開されています! ●(これが新作)「リュウジの脂肪燃焼【にんにく】スープ→リュウジさんの作り方動画はこちら ●海鮮の旨味「リュウジの脂肪燃焼【トマト】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●コクがすごい「リュウジの脂肪燃焼【塩】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●パンチあり「リュウジの脂肪燃焼【しょうゆ】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●最高傑作「リュウジの脂肪燃焼【カレー】スープ」動画なし AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より   ※AERA 2025年1月13日号より抜粋  
リュウジ式脂肪燃焼スープでさらに痩せる10カ条・レシピ画像付き「そもそも脂肪燃焼って何?」【医師監修】
リュウジ式脂肪燃焼スープでさらに痩せる10カ条・レシピ画像付き「そもそも脂肪燃焼って何?」【医師監修】 リュウジさんの新作含め「脂肪燃焼スープ」5つのレシピを本記事の最後に掲載(撮影:松永卓也/写真映像部)    AERA2025年1月13日号では超人気料理研究家・リュウジさんの新作「脂肪燃焼にんにくスープ」をはじめ、リュウジさんのおいしい脂肪燃焼スープ全5種類のレシピを公開している。  本記事ではリュウジさんの脂肪燃焼スープで最も効果的に体重調整するための「医師のアドバイス(10カ条)」を紹介。後半にレシピ画像も掲載! *  *  * ※本記事で紹介している「脂肪燃焼スープ 情熱(脂肪燃焼にんにくスープ)」の作り方動画がリュウジさんのYouTubeで公開中です。要チェック! URLはこちら  さすが味は抜群。ではリュウジさんの脂肪燃焼スープの「効果」について、専門家はどう評価するか。長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長の尾形哲(さとし)さんに聞いた。最初に聞いたのが、「脂肪燃焼スープの『脂肪燃焼』って何?」である。そんな現象は本当にあるのか。 「脂肪を燃焼するとは、体に蓄えられた脂肪をエネルギーに換えて消費することです」  エネルギーへの変換時に使われた分だけ脂肪が減る、と。 「摂取カロリーが減り、体内でエネルギーが不足すると、体は肝臓や筋肉に蓄えられた糖質である『グリコーゲン』を使います。それでも足りないと、脂肪を使います(膵臓の消化酵素により脂肪が『脂肪酸』と『グリセロール』に分解される)。脂肪酸とグリセロールは細胞内の小器官である『ミトコンドリア』で酸素と反応し、細胞が活動するためのエネルギー(ATP)を生み出します。その際、副産物として生じた二酸化炭素と水は呼吸や汗の形で体外に排出されます。このプロセスを『脂肪燃焼』と表現できます」  脂肪燃焼スープをうまく取り入れてトータルの摂取カロリーを抑えると、体内の脂肪がいい感じに消費されて減っていくのだな、と理解した。  尾形さんは肥満・脂肪肝の改善を目的とした、浅間総合病院「スマート外来」の担当医でもある。ベストセラーの著書『専門医が教える 肝臓から脂肪を落とす7日間実践レシピ』(KADOKAWA)などを通じて、肝臓の脂肪を減らし健康になるために朝の野菜スープを推してきた。なぜ朝? 「朝食抜きで昼に糖質中心の丼飯やパスタを食べると、血糖値が急上昇します。朝に野菜を十分にとっておけば、昼食時の血糖値上昇を抑えられます」 おがた・さとし(54)/医学博士。長野県佐久市立国保浅間総合病院外科部長、同院「スマート外来」(肥満・脂肪肝専門外来)担当医(写真:本人提供)   取材はリュウジさんのYouTube撮影と同時に行われた。新作の「脂肪燃焼にんにくスープ」、出来立てで相当熱いはずなのだが余裕で口に(撮影:松永卓也/写真映像部)    血糖値の急上昇と脂肪蓄積の関係については後述する。リュウジさんの脂肪燃焼スープは、朝はもちろん昼に(ランチジャーなどに入れて)会社で食べてもいい。夜を脂肪燃焼スープにして炭水化物を控える(米を食べない、ではない)のもアリ。  リュウジさんのレシピを尾形さんは、非常に高く評価した。脂肪燃焼スープ+茶わん半分のごはん(70グラム)か6枚切り食パン1枚。朝や昼はこれに卵、納豆や豆腐。夜は低脂質の肉料理などをプラスすれば、ほぼ完璧な健康食が完成するという。  リュウジさんが「糖質を全然とらないのもよくない」と言っていたが、尾形さんも医師として同意した。健康的に体重を減らしたいなら糖質をセーブするのは有効。ただし糖質ゼロの食事を続けるのは健康によくない。  尾形さんは本誌のために「脂肪燃焼スープ・10の条件」を書いてくれた。順番に解説する。 (1)活動エネルギーよりも少ないエネルギー量で食べること  いくら脂肪燃焼スープが低カロリーといっても、とんでもない量を食べないこと。たっぷり食べてもいいが、常識の範疇で。 「食事による摂取カロリーを活動エネルギー量よりも少なくすることで、体内の脂肪がエネルギー源として使われ始めます」 脂肪が落ちる順番  ここで興味深い話を聞いた。脂肪には「皮下脂肪」、胃腸などの消化器につく「内臓脂肪」、肝臓・膵臓や筋肉にもつく「異所性脂肪」(本来たまるはずのない場所に蓄積)などがある。体内のどこに蓄積しているのかによって、脂肪の消費(燃焼)に優先順位が決まっている。エネルギー不足で最初に分解されるのは肝臓の異所性脂肪。続いて内臓脂肪、最後に皮下脂肪。  肝細胞の5%以上が脂肪化した「脂肪肝」は肝硬変や糖尿病とも関連性が深い。内臓脂肪も生活習慣病を誘発しやすい。先ほどの「優先順位」は人体に不都合な場所にたまった脂肪から消費されるということか。体ってよくできている。正月明けに気になるのは皮下脂肪だが、健康面を考えると肝臓の脂肪から落としたほうがいい。 「脂肪燃焼にんにくスープ」を一口食べた直後のリュウジさん。動画用に大げさな顔をしてるんじゃなく、本気で旨そう。試食の割にたっぷり食べていた。本誌も試食したが激ウマだった(撮影:松永卓也/写真映像部)   (2)脂肪燃焼スープに追加してたんぱく質をとる  尾形さんは筋肉を落とさないことの大切さについて語った。 「脂肪ではなく筋肉が削られた結果の体重減はリバウンドしやすいのです」  筋肉が減ると基礎代謝(覚醒状態で全く動かなくても消費するエネルギー量)が下がる。リュウジさんの脂肪燃焼スープのレシピにもたんぱく質は入っているが尾形さんは「さらに」と。 たんぱく質の必要量は 「たんぱく質が足りないと、筋肉が分解されてしまいます。1日の摂取量の目安は『現在の体重の1千分の1』が筋肉を落とさない必要量。体重が70キロなら70グラム以上はとりたい」  鶏むね肉、豆腐、卵、豆など良質なたんぱく質を脂肪燃焼スープと共に食べる。 (3)食物繊維を豊富に含むこと  これはリュウジさんの脂肪燃焼スープも余裕でクリア。食物繊維たっぷりだと満足感を得やすい。消化吸収が遅いので腹持ちもいい。腸内環境も整い、便秘の防止にもつながる。 (4)ビタミン・ミネラルも忘れず (5)脂肪燃焼をサポートするスパイスも入れる  ビタミン、ミネラル、スパイスで代謝を促進する狙い。 「ビタミンB群やビタミンC、カリウム、マグネシウムを含む野菜やハーブを活用しましょう。スパイスは唐辛子(カプサイシン)、黒こしょう、にんにく、しょうがなどが手軽です」 (6)水分たっぷり、あたたかく 「水分を多めにとって満腹感をうながす。あたたかいスープなら満腹感とともに体温も上がり代謝促進につながります」 (7)低糖質の材料を使う  糖質をとりすぎて血糖値が急激に上昇すると、膵臓からインスリンが過剰に分泌される。インスリンは血糖値を低下させる一方で、血中の糖分を脂肪に換えて体内に蓄える作用をもたらす。脂肪を減らしたいのに新たに蓄えられたら困る! リュウジさんの脂肪燃焼スープには糖質が特に高い芋類は使われていない。玉ねぎ、にんじんなど比較的糖質の高い野菜は、ありえない量でなければビタミン・ミネラル面も考え入れていい。 脂肪燃焼「スープ」なのにフライパンで作る。炒めて水を入れて……と、一連の工程を見ていると確かに「フライパンのほうが作りやすい」。ぜひリュウジさんのYouTubeも見てほしい(撮影:松永卓也/写真映像部)   (8)良質な脂質を少し入れる 「脂質はカロリーが高いですが『一切とらない』のもよくない。少しの脂質は健康な代謝を支えます。オリーブオイルやアボカドオイルがおすすめ」 (9)塩分は控えめにする  意外と知られていないのが塩分と体重の関係。塩分をとりすぎると太りやすくなる。 「水分補給なしで砂漠をさまようと脱水症状になり、血液中のナトリウム濃度が上昇します。すると人体は『飢餓状態に陥った』と判定し、脂肪を蓄えるスイッチが入ります(エネルギー不足のための備蓄)。過剰に塩分をとった場合もナトリウム濃度が上昇するため、体が飢餓状態になったと勘違いし、脂肪を増やそうとするのです」  むくみを防ぐという意味でも塩分を控えることは大切。ただ、薄味で食べたくなくなるほど控えなくていい。脂肪燃焼スープもおいしくなければ続かない。 (10)簡単に作れて継続しやすい  健康体重という目標を達成するうえで、ある意味一番大事。「材料が手に入りやすく、調理が単純なほど続けやすい」 (ジャーナリスト・大西洋平、編集部・中島晶子)  リュウジさんのおいしい脂肪燃焼スープは毎日食べても飽きない、しかも簡単! AERA2025年1月13日号に掲載されたレシピ5種類がこちら。YouTube「料理研究家リュウジのバズレシピ」(URLはこちら)でも作り方動画が公開されています! ●(これが新作)「リュウジの脂肪燃焼【にんにく】スープ→リュウジさんの作り方動画はこちら ●海鮮の旨味「リュウジの脂肪燃焼【トマト】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●コクがすごい「リュウジの脂肪燃焼【塩】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●パンチあり「リュウジの脂肪燃焼【しょうゆ】スープ」→リュウジさんの作り方動画はこちら ●最高傑作「リュウジの脂肪燃焼【カレー】スープ」動画なし AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より AERA 2025年1月13日号より   ※AERA 2025年1月13日号より抜粋  
還暦を過ぎた事件記者が保育士を目指す ポケットにセブンスターいざ短大入学式へ
還暦を過ぎた事件記者が保育士を目指す ポケットにセブンスターいざ短大入学式へ 事件記者を「卒業」し、保育士資格を取得した緒方健二氏。手に付けているのは短大の課題で作った「犬のおまわりさん」の軍手人形(撮影・写真映像部/佐藤創紀)    朝日新聞社を退社した63歳の事件記者が第二の人生に保育士を目指す道を選んだ。経験はゼロ、素養は未知ながら、まずは資格を取りに短期大学の扉をたたく。記者時代と同じダークスーツに身を包み、入学式に臨む。未知の世界に挑む自らの経験を書き留めた緒方健二氏の著書「事件記者 保育士になる」(CCCメディアハウス)から一部を抜粋して紹介する。 *** 入学式も「戦闘服」の黒スーツ、黒ネクタイで  2022年4月5日の朝は快晴でした。  春にしては強い日差しが目に染みます。新聞記者時代からの「戦闘服」たる黒スーツに漆黒のネクタイを締め、出立の支度にとりかかります。ネクタイは、送別会を催してくれた新聞社の後輩たちから頂戴しました。ひそかに敬慕するプロアイススケーター、羽生結弦さんもショーで時折着用しています。節目の大勝負に欠かせません。  白ワイシャツのボタンは最上段まで留めました。気合いの表明であるだけでなく、たるんだ首のしわを隠す効能もあります。ハンカチよし、携帯灰皿よし、財布よし。腰痛緩和ベルトよし。持ち物確認もおさおさ怠りなし。  きょうは東筑紫短期大学の入学式です。  久々の学生生活の初日に遅刻は許されません。タクシーを奮発し、意気揚々と会場に向かいます。道中、サイレンを鳴らして緊急走行するパトカーとすれ違いました。常ならば事件記者の哀しい性で、Uターンしてパトカーを追いかけるところ、本日はじっとこらえました。  式開始の1時間前に着きました。  タクシーの勘定を済ませると、運転手さんが「いってらっしゃい、せんせい」と声を掛けてくださいました。いえ、いや、やはりそう見えますよね。  桜が咲き誇り、風光るキャンパスをぶらつくと、そこかしこに着慣れぬスーツ姿の若者たちがいました。みなさんマスクをしていて、表情が読み取れません。目の動きから気持ちを察する訓練を積んできました。緊張が伝わってきます。  おめかしをした保護者がにこやかにわが子を見守り、晴れ姿を撮影しています。慈しんで育てたお子さんのため、決して安くはない入学金や授業料を工面なさったに相違ありません。これからの2年間を楽しく、事故なく謳歌して。そう心底から願っていることでしょう。  ご安心めされよ、万が一お子さんが危難に遭遇した折には、及ばずながら当方が救いの手を差し延べて進ぜますとも。 セブンスター2本ふかして  穏やかな心持ちになったところで一服したくなりました。喫煙所を探すも学内は無情にも全面禁煙です。当方が学生時代は、講義中の教室でも吸えたのになあ。隔世の感があります。やむなく近くのコンビニエンスストアへ。40年以上苦楽を共にしているセブンスター、きょうも変わらずにうまい。  でも子どもや妊婦さんをはじめ人さまがいるところでは絶対に吸いません。20歳未満の同級生にも喫煙は「ダメ、絶対」と言わなければ。立て続けに2本ふかしながら、大人の務めを果たすことを誓いました。  午前9時半すぎ、会場の講堂へ。  それまで当方を保護者か教職員とみなし、安らかに見守ってくださっていた人たちの視線が一転、にわかに訝しむそれに変わりました。無理もありません。フレッシュマンにほど遠い風体のおっさんが、野獣のごとき険しい目付きで周囲を睥睨しつつ、肩で風切りながら新入生の席に向かってずんずんと歩を進めるのですから。警備員さんに制止されなかったのが不思議です。 「ご疑問あらばどうぞ遠慮なくご誰何あれ、おう?」  胸の内で呟きつつ固いパイプ椅子に行儀よく、ちんまり座っていました。式は粛々と延々と続きます。  寄る年波には勝てませぬ。かねて悪くしている腰に痛みが生じました。抜かった。格好つけずに腰痛緩和ベルトを装着しておけばよかった。拳でとんとんと叩いても効果なし。尾籠な話で恐縮ながら、コーヒーを朝から5杯も飲んだせいで尿意を催してまいりました。入学するのがいくら保育学科とはいえ、幼児のように挙手して「せんせい、おしっこ」とは言えませぬ。 「勉学精進」を誓い、ずっと歯を食いしばっていたためか部分入れ歯がずれました。いったん外し、装着し直したい。 入学式、黒スーツでキメる イラスト/紙谷俊平   目薬はいずこ  眼前で起きるすべてを一瞬たりとも見逃すまい。瞬きを極力控えていたため目の乾きも尋常ではありません。愛用の目薬の出番です。スーツの右ポッケにいつも忍ばせています。手を突っ込んで探るも見つからない。指先に触れるのはライターにセブンスター、靴べら、絆創膏、おクスリの入ったパケ(小さなポリ袋)……。  忘れたか。いや、きっとあるはずだ。  壇上の学長さんらのありがたいお話を拝聴しながら、ポッケの内容物をひとつずつ出しては入れを繰り返しました。  セブンスターの箱を取り出すと、その下に目薬が隠れていました。この野郎、手間を取らせやがって。数滴差し終えて周囲を見渡すと、みなさん膝の上に両の拳を乗せ、微動だにしていません。落ち着きのないのは当方ばかり、不明を深く恥じるのでした。  入学式を終え、当方を含む保育学科の新入生約90人はオリエンテーション会場の教室に移動します。その教室は、当方より8歳だけ若い1966年にできた建物の5階にあります。エレベーターは1基しかありません。しかもコロナ禍のさなかで、感染拡大防止のため乗る人数が3人までに制限されている。順番を待っていてはオリエンテーションの開始時刻に間に合わない。  よし、階段で行こう。  頑健なる63歳の心身を若い衆に見せつける好機だ。2段飛ばしで駆け上がり始めましたが、3階に達したところで息が上がり、ふくらはぎと腰に痛みが生じて進めなくなりました。階段の手すりにもたれかかって小休止する当方を、若者が憐憫の笑みを浮かべながら次々と抜かしていきます。  ふう。  階段を上りつめ、なんとかオリエンテーション会場にたどり着きました。木の床を踏みしめるとぎしぎしと音がします。使い込まれた木製の机と椅子にも味がある。さて、どこに座るのやら。入学式でもらった名刺大のカードで確認します。「ご入学おめでとうございます」のメッセージ付きのそれには「クラス 1組」とあります。 緒方健二氏(撮影・写真映像部/佐藤創紀)    男性はいねえか。立ち上がって探します。ひい、ふう、みい……。1組には当方を含めて4人、隣の2組に3人の計7人いました。前年度は学年で1人、なんと7倍です。4年制大学を卒業して入ったという20歳代半ばの野郎も1人いますが、おしなべて大人しそうな印象です。迷える子羊のごとし。けんかしても勝てそうだ。しませんよ、気合いの問題です。  保育学科1年の全容がつかめました。 一、クラス制で1組から4組まである 一、各組に担任教員がつく 一、各組に委員4人を置く 一、出欠・遅刻は必ず担任に連絡 むむむ。ここは小学校か? スマホ操作がままならない  オリエンテーションは伝達事項の嵐です。  保育学科4クラスの担任教員の紹介に始まり、卒業に必要な取得単位の数、教科書販売の日時や場所、図書館の利用方法、「針供養」や「大学祭」といった行事案内などなど。  さらに授業はひとコマ90分間で年に30回あり、欠席は8回までならOK、定期試験は年に2回で受験時には必ずスーツと校章着用……。まだまだ続きます。  新聞記者時代からずっと愛用している「ヂーエヌ紙製品株式会社」(東京都荒川区)製のノートにこれらを書き留めていたら、あっという間に5ページが埋まりました。甚だしく強い筆圧の大きな文字を黙って受け止め、インクを吐き出してくれるLAMYのボールペンが頼もしいぜ。 「それでは授業の履修登録をします」  教員の呼び掛けで、配布資料の中から登録用紙を探しますが見当たりません。半世紀前の大学入学時には、喫茶店に集まった仲間と「この授業は出欠確認なし」、「試験は資料持ち込み無制限」などと情報交換しながら紙に履修科目を書き込んだものです。  「スマホで入力します」と教員が告げました。まずは履修登録をはじめ休講情報やシラバス検索、成績照会など短大生活に必須のポータルサイト「ユニパ」をインストールしてくれ、と。  しばし待たれよ。 緒方健二氏(撮影・写真映像部/佐藤創紀)    こちとら最近まで「ガラパゴス携帯」と呼ばれる二つ折りの携帯電話を使っていたのです。スマホは入学に合わせて泣く泣く新調しましたが、通話とメールの送受信ができればそれでよし。ポータルだのユニパだのと言われても戸惑うばかりです。  ユニパ?  大学の国際スポーツ大会のことですかのう。  いまや多くの大学、短大が導入している「ユニバーサル・パスポート」の略とは知る由もありません。ユニバーシアードではないんだ。笑えもしない繰り言を吐いてみても事態は好転しません。 天使の一声  同級生のみなさんは白魚のごとき指でスマホをさくさくと操作し、登録画面を開いています。上半分が近視、下半分が老眼対応の眼鏡をずり上げ、画面にガンを飛ばしていたら左隣の女子学生がおずおずと声を掛けてくれました。 「あのう、お手伝いしましょうか?」  悪戦苦闘する当方を見ていられなかったのでしょう。ありがたいお申し出に甘えることにしました。 「ここを押さえりゃよろしいのですか」 「いえ、違います。こっちです」  こんなやり取りを繰り返した末、なんとか登録画面に到達しました。  「ありがとうございます。おかげで助かりました」と申し上げたら、「よかったです」と天使のような笑顔と涼やかな声でこの学生がおっしゃいます。  菅原文太さん風の短髪に、こらえにこらえた末に敵地へ乗り込むときの高倉健さん風目付きの当方へのお声掛け、さぞや勇気を要したと拝察します。この女子学生はバドミントンの達人で、家でペットのウサギ「ぶぶちゃん」を飼っていることを後に知りました。なるほど肝が据わっていて優しさも備えているわけです。   【続きを読む】 「子どもたちを守らねば」新聞記者稼業39年で積み上げた取材ノートが保育士を目指す決断に https://dot.asahi.com/articles/-/244507
男らしさ、女らしさ…名作絵本に描かれた古いジェンダー観に「モヤッ」としたら、子どもにどう伝えればいい?
男らしさ、女らしさ…名作絵本に描かれた古いジェンダー観に「モヤッ」としたら、子どもにどう伝えればいい? 写真はイメージ(GettyImages)  子どもたちが最初に触れる物語の一つである「絵本」。昔、自分が大人に読んでもらった絵本を、子どもに読み聞かせすると懐かしさでいっぱいになります。同時に、改めてその内容に触れてみると、「あれ?」と少し違和感を覚える表現に出合うことも……。たとえば、絵本の主人公は「元気な男の子」であることが多く、女の子は主人公を支え​​るキャラクターとして描かれているなど、性別によって役割が固定化されているように感じることはないでしょうか? そんな絵本の中のジェンダー観に疑問を感じたとき、どのようにフォローをすればいいのでしょう? 絵本コーディネーターの東條知美さんに聞きました。後編<新しい「ジェンダー観」が描かれたおすすめの絵本6冊とは? 「すべてを絵本で伝えようと力まなくていい」>に続く 絵本を読んでいて「モヤッ」とする表現に出合ったときは? ――昔ながらの名作やロングセラーの絵本は、男の子が主人公であることが多いですよね。子どものときは何も疑問を持たなかったのですが、大人になってみると、絵本の中に見るジェンダー観について、「モヤッ」とする気持ちになることがあります。  従来の絵本の主人公は圧倒的に男の子が多く、強く成長するまでを描く物語が主流です。一方、女の子には「優しさ」や「家庭を守ること」「やがて素敵な男性と結婚すること」といった役割を求められているストーリーが少なくありません。  絵本の中で「お父さんがテレビを見ながらくつろぐ横で、お母さんが大急ぎで料理をしている」といった描写が見られることもあって、現代を生きる親としては、違和感を覚える人もいらっしゃるかもしれませんね。 ――絵本で描かれる家族の中のジェンダー役割が、当たり前だと思ってほしくない時は、どう子どもに説明すればいいですか?  ご家庭で絵本を読み聞かせをしているときに、気になる表現に出合ったら、それについてお子さんと一緒に話をしてみるといいのではないでしょうか。  たとえば、現代にそぐわないようなジェンダーバイアスが描かれていたとしても、頭ごなしに否定はせず、「なぜ、このお父さんはお手伝いしないのかなぁ?」「みんなで一緒にご飯を作れたら楽しいね」など、お子さんと一緒に話をしながら対話のきっかけにしてみるのも一つです。 ――絵本を否定するのではなく、子どもと一緒に考えて学びあうということですね。  ええ。それができるのが、ご家庭での絵本の読み聞かせのいいところ。それに「モヤモヤ」するのは、絵本だけの問題ではないですよね。子どもの目にもうつるこの社会が、まだまだジェンダーバイアスがかかったものであり、男性優位のものであるかということを含め、私たち大人は社会全体に気を配っていくべきだと思っています。 絵本には古いジェンダー観がたくさん描かれている   ――昔ながらの名作絵本には、わりあい、固定化されたジェンダー像が描かれてることが多いように思われますが、それはなぜですか?  絵本の世界は、その当時の社会を表していますから、1970年代頃にたくさん出版された名作絵本の中には、ジェンダーバイアスが顕著に現れているお話も確かに多く存在します。  今、読んでみると「男らしさ」「女らしさ」に縛られた考え方や行動が描かれていると、批判的に思ってしまうかもしれません。でも、そうした絵本の中の家族観が、すべて悪いということではないと思うのです。  たとえば、国会のあり方ひとつ見ても、日本のリーダーに選ばれる人は、まだまだほとんどが男性です。オリンピックの報道一つとっても、男性につく枕詞は「豪快」、女性選手には「美しい」が定番のようについていたりもします。絵本だけでなく、あらゆるところにあるジェンダーバイアスがかかった表現について、疑問を持つことが大切なのかもしれませんね。 ――東條さんが講演などで扱っておられる「絵本におけるジェンダー」とはどのようなものですか?  私はもともと、大学で、発達心理学や読書の発達など、子どもの読み物について学んでいました。また、出版社勤務の経験や、学校図書館司書として長く働いていたこともあり、読書が子どもたちにどのような影響を与えるかということに関心を持っていました。  そんな中、この長い歴史の中で、絵本におけるジェンダーがどのように描かれてきたかを調べ、さまざまな国比較も行いながら、保護者や幼稚園の先生方に、絵本を読み聞かせるときに子どもたちの成長過程を含めて、ジェンダーについて考えてもらうための講座などを開催するようになったのです。 ――もし、子どもたちに、より早い段階からジェンダーの平等性について意識的になってほしいと思ったときは、どんな絵本を読めばいいのですか? ジェンダーに関わる本を急いで与える必要はない  心理発達的に、3歳くらいになると自我が芽生え、集団生活も徐々に始まって自分と他人との区別がつくようになり、世界が広がると言われています。社会性が身についてくるとともに、想像力を働かせてより絵本の内容も理解できるようになっていきます。  近年は、海外絵本を中心に、ジェンダー平等を意識した作品が登場しています。ただ、ジェンダーに関わるような物語は、少し難しいですから、想像し、理解して読めるようになるには未就学児だとまだ少し早いかもしれませんね。  こうした絵本を未就学児の子どもたちに急いで与える必要はなく、子どもたちが日々成長していく中で、改めて男の子、女の子といった問題が、社会の課題であるとなんとなくわかってきた頃に、ジェンダーについて描かれた絵本を与えてみるのがいいのではないかな、と思っています。 ――ジェンダーの平等性について描かれた絵本というのは、数多く出版されていますか?  やはり、絵本のメインは昔から人気のベストセラーで、ジェンダーをテーマにしている本というのは、数としてはそれほど多くはありません。しかし、「#MeToo」の運動などに始まり、女性差別を無くそうという動きが、色々な分野で起こっていますよね。そうした中で、ここ数年、絵本の世界も少し変わってきて、新しいジェンダー観を表現した作品も発表されています。 実は子どものほうがジェンダーバイアスから自由 ――新しいジェンダー観がある絵本にはどんなものがありますか?  例えば、「女の子、男の子どちらが主人公であってもいい」「それぞれが自分らしく活躍していい」といったようなメッセージが込められた絵本も人気を集めてます。そうした絵本を少し読んでみるというのも、よいのではないでしょうか?  昔ながらの絵本はやはり、子どもたちの心を捉える素晴らしいものですが、もし「男性優位のジェンダー観が描かれている絵本ばかり読み聞かせることに抵抗がある」「早いうちからジェンダー教育をしたい」、という親御さんであれば、10冊のうち3冊くらいジェンダーに関わるような物語を意識して読んでみてもいいかもしれません。    ただ、幼稚園・保育園に通う3歳〜5歳くらいの子どもたちにとってまず大切なことは、絵本のテーマより先に、絵本を読んでくれる人――親や先生など信頼できる大人との関係性や対話を育むことなんです。それに、実は子どもたちのほうが、大人の私たちより、ジェンダーバイアスの支配から自由なんですよ。  絵本を通して大人と対話をする中で、子どもたちはたくさんのことを学んでいます。同時に、子どもも自分が感じる思いを自由に話せるような関係を普段から築いておけるといいですよね。 後編<新しい「ジェンダー観」が描かれたおすすめの絵本6冊とは? 「すべてを絵本で伝えようと力まなくていい」>に続く (取材・文/玉居子泰子)   東條 知美 (とうじょう・ともみ) 新潟県上越市生まれ。白百合女子大学児童文化学科卒業。銀行、メディアファクトリー(現KADOKAWA)、国立国会図書館、幼児教育専門学校、ビジネス書出版プロデュース社、公立校図書館に勤務を経て、現在「絵本コーディネーター」の肩書で活動中。バンタンデザイン研究所 イラストレーター&絵本作家コース講師。絵本を「ジェンダー」「共生」「支援」といった社会的視点から読み解くスタイルで、講演、講座、執筆、イベントに携わる。  
死ぬまでにお金を上手に使い切る 元メガバンク支店長が教える「お金」「健康」「時間」の組み合わせ方
死ぬまでにお金を上手に使い切る 元メガバンク支店長が教える「お金」「健康」「時間」の組み合わせ方 お金の専門家・菅井敏之さん(アスコム提供)    2025年になりました。お金のプランについて考える良いタイミング。今年も物価は上昇し、手取り収入も増えず、苦しい生活は続きそう。先行き不透明な時代を生き抜くために、元メガバンク支店長でお金の専門家・菅井敏之さんは、「お金に対するリテラシーを高めよ」と言います。大好評の短期集中連載「教えて! 菅井さん」第2弾の3回目のテーマは、ちょっと意外、「お金を使い切りましょう」。 ――お金を使い切る、ですか……。  いま、日本の個人の金融資産は2000兆円を超えています。将来、自分の生活がどうなるかわからない不安からお金を貯めるのは合理的な考えです。しかし節約志向が先行するあまり、毎日をどう過ごすか、どう楽しむかに意識が向かなくなり、3000万円とか、4000万円とか、人によっては1億円近いお金を残したまま亡くなってしまう。その結果、その資産はどうなるか。基礎控除などを引いた額が相続税の対象となります。必死に貯めたお金の多くが税金の対象となり、子どもたちがその税金の支払いに追われることになるのです。 「なんてもったいないお金の使い方だろう」 ――親が貯めれば貯めるほど、子どもが払う税金が増える。  そう考えてもおかしくないです。金融資産は相続税の評価額として100%そのままの金額が計算されます。もったいないですよね。我慢せずにやりたいことをやって「お金を使い切る」という意識であれば、もっと充実した幸せの日々が送れるのに、と思います。現に銀行員時代も「何かあるかもしれないから」という理由で50歳を過ぎても60歳を過ぎても70歳を過ぎても貯金し続けている方たちを多く見てきました。それらを見るにつけ、「なんてもったいないお金の使い方だろう」と思っていました。幸せな人生とは、金持ちになることではなく、より豊かに充実した日々を過ごせることです。上手にお金を使い切るということも、お金の専門家として伝えたいことなんです。 ――富裕層に限らず、この考え方は共通しますか。  将来の医療費や介護費用がどのくらいになるか、と不安に感じるのは、みんな一緒です。考えていたらきりがありません。今は医療も高度になっていて、命を長らえることができるようになりました。自費診療や個室費用などに必要以上のお金を何百万円も何年も払ってまで一日でも長く生きたいと思いますか。自分自身は50代、60代の旅行適齢期に旅行を我慢してお金を貯めるなんてナンセンスだと思っています。 ――でも将来何があるかわかりません。  その発想で人生を組み立てちゃいけないんです。人生を楽しく豊かに充実して過ごす。お金の使い方にせよ、時間の使い方にせよ、ここを主軸にして考えるべきだと考えています。人生の目的をしっかり考えて、捨てるべきものは捨てる。たとえば、延命治療はしない。そう断言する。それだけでも長寿リスクの不安が和らぐはずです。 日々の生活に潤いを与える ――それでも不安に感じる人がいるかもしれません。  おそらく、それほどまでに将来が不安なのは自分の資産を把握していないからです。毎月入ってくる金額しか見ていないから不安になる。この連載で何度も話していますが、自分の資産の棚卸しをして、見える化しましょう。「意外と私、大丈夫かも」って思う人が多いと思います。それでもまだ長生きリスクが不安であれば、保険金を終身で受け取れる個人年金保険に入ることなどを検討すればいい。そのうえで、やりたいことをやって日々の生活に潤いを与えるお金の使い方をするんです。 ――確かに「先送り」しているうちに病気になったら、何のためにお金を貯めていたのかわかりませんね。  「お金」と「健康」と「時間」、この3つをどううまく組み合わせるか。たとえば、サッカーをしたいとか、スキューバダイビングをしたいとか、世界一周旅行をしたいとか。こうしたことは70歳を過ぎたらかなりきつい。感性豊かな若い頃に行ったほうが良い。そのためにも、自分がやりたいことを10でも30でもリストアップして「今しかできないこと」から先送りせずに実行する。この生き方、このお金の使い方が、人生を豊かにしてくれます。  子どものためにお金を使うのも、生きているうちにすることです。お金が必要になるのは教育費用や住宅の購入などを考える30代、40代前後です。その時期にお金を渡してあげましょう。死んでから渡したってその頃の子どもはきっとそれなりに貯蓄があって、喜び半分、相続税の支払いの疲弊半分ですよ(笑)。 人生を楽しみましょう ――よく「何歳に死ぬとわかっていたら、お金をもっとたくさん使えるのに」と言う人がいますね。  本当にもったいない。60歳を過ぎてもまだ旅行を我慢している方は航空会社のシニア割などを上手に使って、旅行を積極的にしてほしい。もう一度言いますね。もっと、人生を楽しみましょう。せっかくあなたが貯めてきたお金なんですから。 次回のテーマは、「日本への投資のススメ」です。 菅井敏之(すがい・としゆき)/1960年、山形県生まれ。学習院大学卒業後に、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。東京と横浜で支店長を務め、25年間銀行マンとして働く。48歳で早期退職。現在は10棟のアパート経営で年間7000万円の不動産収入を得ている。また、人気講師として全国で講演やセミナーを行っている。現在は帝国ホテル内でお金に関する相談も受けている。著書に『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)など。お金の専門家・菅井敏之公式サイト「お金が貯まるのは、どっち!?」(https://www.toshiyukisugai.jp/)
正月に水下痢が止まらない! 女性医師を襲った「ノロウイルス」 食べたものへの後悔と反省
正月に水下痢が止まらない! 女性医師を襲った「ノロウイルス」 食べたものへの後悔と反省 山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師  日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「ノロウイルス」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。 *  *  *  明けましておめでとうございます。最大9連休となった年末年始は、ゆっくり過ごせましたでしょうか。  アメリカはいわゆる日本のような正月休みや三が日はなく、クリスマスの12月25日と元日の1月1日が祝日となるだけ。1月2日からは通常営業です。その上、クリスマスはスーパーマーケットを含め、ほとんどの店が閉まってしまいますが、1月1日の正月は短縮営業のところが多く、一日中閉まってしまう店は少ないです。そのため、買いだめする必要もなければ、日持ちするおせち料理のようなものを作る必要もないというわけです。  日本のように除夜の鐘が聞こえてくることもなければ、正月の飾り付けがされるわけでもありません。ニューヨークのタイムズスクエアのカウントダウンに行けば、年越し感を味わえるのかもしれませんが、大きな都市のダウンタウンに行かない限り、なんだかあっさりとした年越しです。    そのため、アメリカで3回目の年末年始を迎えた今年は、「おせち料理やお雑煮が食べたいな…」「初詣に行きたいな」とふと日本の正月が恋しくなりました。そこで、サンディエゴのローカルニュース番組で取り上げられていた、寿司のレストランに行くことにしました。そこで、目に留まったオイスター(生牡蠣)を注文したのが、どうやらよくなかったようなのです。  注文した生牡蠣はプリップリの大ぶりで、酸味の効いたソースがこれまた美味しく、私も夫も3ピースずつペロリとたいらげてしまいました。その後、私はお任せの握りをいただき、夫はカツ丼(とはいえ、カツののった天津飯のようなもの)をいただきました。  残念ながら、店によっては魚の鮮度が良くないことが何度かあったことから、最近はアメリカの寿司屋には足を運んでいなかった私ですが、魚の鮮度がいいことに加えて、初めて経験する創作寿司に大満足して帰宅することができたのでした。 美味しかった生牡蠣と寿司…その翌朝!(写真はイメージ/Gettyimages)   朝からお腹が  さて、その翌日のことです。朝からお腹の調子がなんだか張っているようで、「変だな…」と思っていたら、昼頃から急にお腹が痛くなり、水っぽい下痢に襲われたのです。  もともと、食後30分もしないうちの下痢に襲われることはあったのですが、その時は下痢を数回すればスッキリします。しかし、今回は食後すぐではなく、翌日に生じたのです。その上、お腹が張ってゴロゴロし、胃がムカムカ・キリキリするようなのが続き、水下痢が止まりません。合計で20回はトイレに駆け込んだと思います。最後は、お尻が痛くなり、排便するのも辛いほどでした。  念の為、夫にも確認すると、夫も同じようなタイミングで同じように下痢に見舞われていたことがわかりました。「こんなに下痢をしたのは、初めてだよ」と嘆くほどひどかったようで、下痢と腹痛に眠れなかったそうです。幸い、ふたりとも下痢は1日ほどで治りましたが、私は下痢がおさまった後も、2日ほど胃のキリキリ感と食欲の低下が続きました。  「きっと、昨日食べた生牡蠣だ」  ふたりとも同じタイミングで下痢を発症していること、昨日食べたもので共通しているものが生牡蠣であることから、生牡蠣に含まれていたノロウイルスよる胃腸炎である可能性があると考えました。  実は、市販されている生食用の牡蠣には、ノロウイルスが含まれていることが過去の報告からわかっています。例えば、病原微生物検出情報(IASR) によると、2002年の12月から03年の3月に市販生食用の牡蠣の13%[※1] からノロウイルスが検出されたといい、大阪市立環境科学研究所の10年の報告によると、国産市販生食用の牡蠣の19.1%[※2] からノロウイルスが検出されたといいます。   症例をたくさん診てきたのに  外来診療でも寒い冬の時期になると増える疾患の一つに、ノロウイルスよる胃腸炎があります。そして多くの方が、昨日もしくは数日前に自宅やレストランで「生牡蠣を食べた」とおっしゃるのです。  そんな症例をたくさん診てきたのにもかかわらず、父からは「牡蠣はしっかり火を通さないといけない」と昔散々聞かされていたのに、先日はどうしてか無性に「オイスターが食べたい!」と夫も私も思ってしまったのでした。 【前回コラムはこちら】 食後に突然襲われる便意はナゼ? 女性医師でも相談しにくかった「過敏性腸症候群」 https://dot.asahi.com/articles/-/245018  どうやら胃腸炎に悩まされているのは、私たちだけではなさそうです。アメリカでは一般的な胃腸炎が急増していると、警鐘が鳴らされています。  アメリカ疾病予防管理予防センター(CDC)によると、24年12月5日から11日の週にかけてノロウイルスの発生が91件[※3] 報告されました。これは、前週(11月28日から12月4日まで)の69件から増加しており、また昨年の同時期の発生件数(41件)よりも多い報告数なのです。  ノロウイルスは、アメリカにおける食中毒の主な原因です。CDC[※4] によると、米国で発生する食中毒の 58% は、ノロウイルスが原因であるといいます。毎年、1,900万から2,100万件の胃腸炎を引き起こし、外来診療は 227 万件(ほとんどが幼児)、入院は 10.9万件に上っています。  ノロウイルスとは、嘔吐や下痢といった胃腸炎の症状を引き起こす非常に感染力の強いウイルスです。ノロウイルスにはさまざまな種類があるため、生涯のうちに何度もノロウイルス感染症にかかる可能性があるというわけなのです。   感染したらどうする?  通常、ノロウイルスに感染すると、12 時間から48 時間後に症状が発症します。下痢や嘔吐、吐き気や胃痛が一般的な症状ですが、発熱や頭痛、体の痛みを生じることもあります。一日のうちに、何度も嘔吐や下痢を繰り返すため、脱水症状もきたします。通常であれば、これらの症状が1~2日続いた後、治癒します。  現在、ノロウイルスに効果的な抗ウイルス剤はなく、基本的には対症療法が行われます。脱水を予防するため、水分の摂取が大切になります。  ノロウイルスに感染する原因としては、次のようなものが挙げられます。 ノロウイルスに感染した人との直接的な接触。例えば、その人の世話をしたり、食べ物や食器を共有したりすることで感染が広がります。 ノロウイルスに汚染された食べ物を食べたり飲んだりすること。 汚染された物体や表面に触れた後、洗っていない指を口に入れること。   【こちらも話題】 トイレが血液で真っ赤に!20代から「痔」の女医が再発させてしまった生活習慣の変化 山本佳奈医師 https://dot.asahi.com/articles/-/238531  特に、牡蠣を含む生の貝類を食べることは、誰でもノロウイルスに感染するリスクがあります。二枚貝[※5] は大量の海水を取り込み、プランクトンなどのエサを体内に残し、出水管から排水しますが、海水中のウイルスも同様のメカニズムで取り込まれてしまうため、貝の体内でウイルスが濃縮されてしまうと考えられているのです。  CDCも、「ノロウイルスに感染しないために、生の貝類や加熱が不十分な貝類は食べないでください。」と警鐘を鳴らしています。  感染力が非常に強いノロウイルスですが、感染を予防するために大切なのは、手を水と石鹸でよく洗うことです。一般的な手指消毒剤では効果がないため、しっかりと頻繁に手を洗うことが大切になります。また、貝類は十分に加熱し、野菜や果物は丁寧に洗うことも大切です。  あまりにひどかった下痢に、夫は「もう生のオイスターは食べないことを誓うよ」といっています。私も、感動するほど美味しかった生牡蠣をもう一度食べたいと思っていたのですが、辛い胃腸炎には二度とかかりたくないので、生の牡蠣はもう食べないようにしようと誓った正月となりました。 【参照URL】  [※1]https://vidsc.niid.go.jp/iasr/24/286/dj2867.html  [※2]https://www.city.osaka.lg.jp/kenko/cmsfiles/contents/0000104/104566/r2009_07-12.pdf  [※3]https://www.cdc.gov/norovirus/php/reporting/norostat-data-table.html  [※4]https://www.cdc.gov/norovirus/data-research/index.html#cdc_facts_stats_impact-norovirus-worldwide  [※5]https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/shokuhin/syokuchu/kanren/yobou/040204-1.html#03
日産とホンダの経営統合で暗躍する「経済産業省」 “負け組”同士を統合させて時間稼ぎをするだけの愚策 古賀茂明
日産とホンダの経営統合で暗躍する「経済産業省」 “負け組”同士を統合させて時間稼ぎをするだけの愚策 古賀茂明 古賀茂明氏    日本では昨年末に日産とホンダが経営統合に向けた協議に入ったことが大きな話題になっている。うまく行けば、今年6月に最終合意、2026年8月に経営統合が実現する。今月下旬には三菱自動車が統合に参画するかどうかを決める予定で、そうなれば、世界3位の800万台グループが誕生することになる。確かに大きなインパクトのあるニュースだ。  この統合構想は、単純化すれば、3社が集まって規模を拡大し、効率的な生産体制とEVやSDV(ソフトウェア・ディファインド・ビークル)や自動運転などの研究開発に必要な巨額の投資資金も確保できるという構想のようだが、最も重要な、この連合にどんな強みがあるのかという点において、なんら魅力的な答えがないのが最大の問題である。  日産は売れる車が皆無の状況で、主力市場の中国でも米国でももはや競争力が全くない。利益もほとんど出せず、このまま行けば、確実に倒産するだろう。それを避けるためには、どこかに買収してもらうしかない。  現に、シャープを買収した台湾のホンハイが日産買収に動いていたと報じられている。  こうした状況を反映して、市場では、経営統合というと聞こえは良いが、実態はホンダによる日産の救済であるという見方が一気に広がった。  では、ホンダはなぜ日産を救済するのだろうか。疑問を持つ人もいるだろう。  確かに、ホンダはまだそこそこの利益を出している。しかし、ホンダにはまだ売れるEVが全くない。日産にはリーフというEVを売ってきた実績がある。ただし、リーフはもはや陳腐化したEVで将来性はない。ホンダ自身もEV開発では最後尾と言っても良い状況だ。世界の自動車市場の流れの中では完全に遅れてしまったという意味では日産と同じ。財務的には日産よりはマシだとしても、数年経てば、一気に日産と同じ状況になってもおかしくない。  ホンダの儲け頭は二輪車だが、こちらも中期的に見ると電動化の流れが加速し、これまでの世界市場での地位を守れるかどうかにはかなり大きな疑問符がつく状況だ。  つまり、ホンダが日産を救済というとホンダが立派な会社のように聞こえるが、中等症患者(ホンダ)が重病患者(日産)を助けようとしているということだと考えればわかりやすいだろう。重病人同士が支え合っても、早晩共倒れになるに決まっている。ホンダから見れば、日産を抱え込むのは荷が重いはずだが、だからと言って、一人でいてもどの道死が待ち受けているというわけだ。 記者会見の冒頭に握手する日産の内田誠社長(左)とホンダの三部敏宏社長(2024年8月1日)   日産とホンダの統合という「一大イベント」を操る  いずれにしても、ホンダには日産統合に賭けるしかない。なぜなら、この統合の背後には、経済産業省がいるからだ。ホンダは、自社も負け組であることを認識しているからこそ、いざという時の経産省の支援を確保しようという狙いで、経産省の喜ぶ「日の丸連合」のシナリオを選んだのだろう。 「日の丸連合」は、経産省のDNAに組み込まれた本能のようなもので、彼らは、日本の大手企業の合従連衡を自らが関わって動かして行くことに無上の喜びを感じる。今も、日産とホンダの統合という「一大イベント」を操るのは自分たちだという夢とロマンに酔いしれていることだろう。  こうした敗者を集めて規模の利益を追求して復活させようというのは、過去に半導体や家電などの分野でも試みられてきた。エルピーダメモリやジャパンディスプレイが典型だ。しかし、負け組はいくつ集まっても所詮負け組でしかない。「日の丸半導体」「日の丸液晶」などという触れ込みで「日本復活」を目指したプロジェクトは全て失敗してきた。  お荷物を抱えることになるホンダには、「NO」と言う選択肢もあったが、経産省に恩を売ることにより、今後は、両者の新しい研究開発プロジェクトへの投資などに対して、経産省が音頭を取って、政府系の機関からの出資や融資、さらには政府からの直接の補助金などを注ぎ込む展開になる可能性は高いと思われる。  そして、一旦そこまで政府が介入すれば、本当の危機が来た時も、政府は救済に乗り出さざるを得なくなるというお決まりのパターンが待っている。  ホンハイなどの外資の傘下に日産が入るなどという「大惨事」は経産省の官僚たちのDNAが許さない。ただし、今回は、派手に経産省が前に出るという展開ではなかった。経産省の中にも、この統合は結局ただの時間稼ぎに過ぎず、最終的には日産もホンダも自力で生き残るのは無理だと冷静に見ている官僚も多いと思われる。 「責任逃れ」という体質は経産省に限らず、全省庁の官僚のDNAに深く刻み込まれた特性である。あくまでも民間主導の動きを経産省が裏から控えめにサポートするという形にして、失敗に終わった時の責任を軽くしようという「本能」が働いていると見れば良い。経産省が前に出てこないことが、いかにこの統合が危ないものかということを象徴しているのではないか。 日本メーカー「単独」ではBYDやテスラと競えない  24年9月17日配信の本コラム「マスコミが報じる『EV懐疑論』の本質 『HV』バカ売れでもトヨタが一人勝ちできない理由」で書いたとおり、世界の自動車市場におけるEV化の流れは止まらない。そして、日本メーカーはこの流れから完全に取り残され、ほぼ挽回は無理だ。  中国の自動車大手、比亜迪(BYD)の24年の世界新車販売台数が前年比41%増の427万2145台だったと発表された。PHV乗車用の販売が7割増加したことが大きいが、EV乗用車も12%増の176万4992台と増えている。EV専業の米テスラ社の世界新車販売台数は前年比1%減の178万9226台で、BYDはこれにほぼ並んだわけだ。今の勢いだと、25年には、EVでテスラを抜き、PHVを入れた世界販売は500万台の大台が視野に入る。  ガソリン車中心のホンダは24年にすでにBYDに抜かれた可能性が高いが(ホンダの23年度の販売台数は410万台)、今年はその敗北が決定的になるだろう。  ちなみに、トヨタのEV販売は、遅々として拡大せず、26年の目標台数150万台を100万台に下げたものの、24年のバッテリーEV(BEV)の販売台数は10万台を超えるのが精一杯で、15万台には届かないと見られる(BYDやテスラなどはほとんどリアルタイムに販売台数を発表するが、トヨタなどはEVの数字がわかるのが嫌なのか発表が遅いので、現時点では24年の数字はわからない)。  日本市場全体を24年11月の数字で見ると、このうち広義のEV(BEV+PHV)のシェアは3.0%で、PHVは前年の1.4%から1.5%に増加した一方、BEVは1.9%から1.5%に減少した。メーカー別では輸入車合計(統計上の制約で合計の数字しかわからない)が3062台で最多となり、国内メーカーでは、日産が2498台で首位。前月3位の三菱は2479台を販売し、2位。3位に下落したトヨタは1743台と精彩を欠いている。  それぞれの台数の桁数の小ささには、ため息が出るばかりだ。  どんなにあがいても、日本メーカーが「単独で」BYDやテスラと競うのは難しい。  では、どうすれば良いかというと、もはや中国企業との連携しか道はないというのが正直なところだ。現に、日本唯一の生き残り自動車メーカーであるトヨタの動きは、それを示している。 トヨタ車は事実上は「中国車」  トヨタは、技術で負けて、EVブランドでも中国では完全に地元メーカーに敗北してしまったが、かろうじて生き残ったEVへのつなぎであるハイブリッド車(HV)で稼いでいる。このHVもBYDなどのPHVに取って代わられるのは時間の問題だが、現時点では巨額の利益を上げているので、資金力では頭抜けた力を持っている。必然的に、金の力で遅れを取り戻す作戦をとることになる。  日本や米国ではEVなしでも競争できるが、中国ではEV抜きではすぐに淘汰されてしまう。しかし、トヨタといえども中国で売れるEVを作る力はない。自社開発のbZX4などは中国では全く売れなかった。  中国で窮地に立ったトヨタは、23年に発売したbZ3で、EVのコア技術と基幹部品の電池双方でBYDに全面依存して生産するところまで追い込まれた。24年に入ると、中国でPHVの販売が急増したが、これを受けて、トヨタがBYDの最新PHVシステム「DM-i」を採用するという報道も流れた。EVだけでなくPHVでもBYDの軍門に下るということになる。  さらに他の日本メーカーはもちろん、トヨタでさえ、EV化と一体で進むSDV化の動きにもまた完全に乗り遅れている。そして、自動運転も同じだ。この三つの車の「スマート化」の流れで出遅れたのは致命的である。また、電池でも、日本は中国と韓国の企業に敗北してしまった。  トヨタは中国企業と、BYDとの「協業」に加え、ネット大手の騰訊控股(テンセント)とAIやクラウドなどで、また、小馬智行(Pony.ai)とロボタクシーサービスなどで提携していたが、24年には、EVの頭脳であるスマートコックピットでなんとアメリカの制裁を受けているファーウェイとの協業を発表した。トヨタブランドでは売れないので、頭脳はファーウェイが動かしているということで中国の消費者にアピールしたかったようだ。  ここまで来ると、トヨタ車とは言っても事実上中国車と言っても過言ではない。  ここまで中国依存を強めながらもようやく発売されるトヨタの新しいEVが売れなければ、トヨタも中国市場で日産と同様の苦境に立たされることになるだろう。  ちなみに、苦境に立たされているのは日本の自動車メーカーだけではない。世界の既存の自動車メーカーは日本同様非常に苦しい立場に追い込まれているところが多い。  最近よく目にする、トヨタに次ぐ世界2位の独フォルクスワーゲンの工場閉鎖をめぐる労使対立に関するニュースなどがその象徴だ。 ホンダよりもホンハイの方がよかった?  この危機から脱するために各社はさまざまな連携を行っているが、そのほとんどは、中国の先進的EVメーカーとの連携か、自動車以外のIT企業との連携だ。日産とホンダというような既存自動車メーカーの負け組連合を模索する大手メーカーはない。  その意味でも日産・ホンダ連合はかなりピントハズレになっている可能性が高い。日産はホンダよりもホンハイに救済してもらった方が、まだ再生の可能性は高かったかもしれない。  世界では、EV「製造」では、BYDとテスラ2強の競争に絞られてきた。  しかし、EVと自動運転とSDVを統合して管理運用するソフトウェアでは、中国市場で、テスラとそれを追うファーウェイ、少し遅れて携帯大手からEVにも参入したシャオミ(小米)の争いが激しくなっており、米国など西側市場では、傘下に最先端の自動運転技術を開発する米ウェイモ社を持つ米アルファベット社(グーグルの親会社)の勢力が急速に伸長しつつある。中国では、多くのメーカーがファーウェイのソフトウェアで新車を作り始めた。トヨタの新車もその一つと見ることもできる。一時代前にパソコン市場でインテルのCPUが席巻し、「インテル・インサイド」という言葉が流行ったが、中国では「ファーウェイ・インサイド」のロゴがどんどん普及しそうだ。  前述の24年9月17日配信の本コラムでも述べたとおり、今後の自動車市場での競争は、「電気」で「自動運転」で走ること以外に、その車に乗っていることで何が可能になるのか、さらには、自動車を含めたあらゆるIT機器(特にスマホや家電)を繋げた生活圏やその外の世界とを結んで何ができるのか、そして究極的には、それらを通じて、どんなライフスタイルが実現できるのかという競争に入った。  日本の自動車メーカーは、1周どころか2周、3周遅れている。  トヨタでさえ、単独での生き残りは困難。  それが現在の自動車市場の構造変化のスケールの大きさを物語っている。  日産とホンダの経営統合など、そうした大きな流れの中では、ほとんど無視できる泡沫に過ぎない。それが成功するか失敗するかという問いを立てていること自体が滑稽でしかないのかもしれない。
不動産収入7000万円の元メガバンク支店長が教える給料以外の“定期収入” 今年こそ誰でもできる「仕組みづくり」
不動産収入7000万円の元メガバンク支店長が教える給料以外の“定期収入” 今年こそ誰でもできる「仕組みづくり」 お金の専門家・菅井敏之さん(アスコム提供)   2025年になりました。お金のプランについて考える良いタイミング。今年も物価は上昇し、手取り収入も増えず、苦しい生活は続きそう。先行き不透明な時代を生き抜くために、元メガバンク支店長でお金の専門家・菅井敏之さんは、「お金に対するリテラシーを高めよ」と言います。大好評の短期集中連載「教えて! 菅井さん」第2弾の1回目は、「定期的にお金が入る仕組み」について聞きました。 ――これからの時代、金融リテラシー(お金力)をつけていく必要があると様々なメディアで話していますね。  手元に2000万円の貯金があるからといって、それで老後を豊かに過ごしていけると言い切れるでしょうか。老後に備えていくら貯金したとしても、生活費として取り崩していけばいつか底をついてしまいます。でも年金に加えて、毎月、安定してお金が入ってくる収入源があれば、気兼ねなく使えます。豊かな老後を過ごすために、お金を貯めることを目的にするのではなく収入源をつくることを目的にすることが大切です。いくつかの収入源の中で、わたしは不動産投資を選びました。 不安だけが募る人 ――不動産投資には拒否感がある人もいます。  というより、向いていない人がいます。不動産投資はよほどの財産がある人を除き、銀行から大きなお金を借りることになります。その借り入れに対する恐怖心が拭えない人は向いていません。銀行からの融資を「お金を運んでくれる借金」と受け取れず、空室リスクや修繕リスクなどの不安だけが募る人、勉強したくない人は、不動産投資はやめたほうがいいでしょう。 ――そういう人はどうすれば。  借り入れをせずにお金が入る仕組みを考えればいいのです。株式の配当金、YouTubeやブログ、Podcastによる広告収入やアフィリエイト報酬、せどり、レンタルスペース投資などいろいろです。どれがいいとは言えませんが、リスクやストレスになると感じるものはやめたほうがいいと思います。お金を得るための手段は、一人ひとりの性格や個性に合わせて、納得いくものを選ぶのが一番です。 ――結局は、定期的にお金が入る仕組みを自分でつくることに尽きるんですね。会社の給料とは別に。確かにそのほうが自己責任で進められるので、ある意味潔いというか、心強いというか。  そうなんです。自分が会社の代表になって、自分で自分に給料をあげていくのです。そうするうちに、お金がまわる楽しさを味わえますよ。「物価が上がっても所得は上がらない」と不安に感じる方には、ぜひ自分にとって楽しく長く続けられる方法を探して挑戦していただきたいです。探す作業も自分と向き合える貴重な経験になります。生涯賃金ではなく、生涯収入を増やしましょう。 お金を生み出す力 ――どうやって探せばいいでしょうか。  あなたの特技は何ですか。あなたが持っている能力がお金を生み出す力になるかもしれません。あなたが持つ「無形資産」を見つけましょう。積極的に人に会い、街に出て、自分の足で歩き、自らの頭で考えることです。「お金に繋がるためのチャンスは何か」ではなく、「社会の困りごとは何か。それを解決するには自分のどういう能力が生かされるか」という考えで、人と向き合うとおのずとお金がついてきますよ。コンサルタントを目指す人が多いのですが、それより代行業のほうが成功しやすいです。 ――菅井さんは銀行員時代から、アパート経営を始めたそうですね。  40代で不動産投資を始めましたが、はじめて不労所得が入ったときの喜びたるや。今でも忘れられません。自分で考えて始めた「お金を運んでくれる仕組み」があることで、お金の不安が解消されました。たとえ預貯金が少なくても確実に入ってくるお金がある安心感はとても大きいものです。 ――お金に対して不安とかネガティブな感情を持っている人にはお金はやってこないと聞いたことがあります。  それはあるかもしれませんね。財布が軽ければ、心は重いです。お金を増やすことに「前向き」な気持ちを持つことです。私は借り入れがあります。でも、それがあることによってお金を増やし続けられています。いい物件やいいパートナーに出会えたことが大きいです。 良い出会い ――アパート経営は、いい物件に出会えなければ失敗してしまうリスクがありますよね。  でもツボをおさえさえすれば、いい物件には出会えます。私が最初に購入した物件は、本当に良い出会いでした。たまたま入った不動産会社が売れ残っていた(希少な)土地を紹介してくれたんです。長細いウナギの寝床のような土地でしたが、立地は申し分なかった。都心から多摩エリアに走る鉄道路線の駅から徒歩3分という、アパートを建てるにはもってこいの好立地。「これだ!」と思い、7000万円で購入することにしたんです。さらに7000万円ほどかけて13室入居可能な4階建てのアパートを建てました。今も1棟丸ごと所有し安定収入を得ています。優秀な管理会社にお願いしているので、空室リスクの心配もありません。 ――売れ残り物件とはいえ、どうしてそんな希少な土地を、いきなり入った不動産会社から紹介してもらえたのですか。  経験のない方にはあまり想像しづらいかもしれませんが、私は最初から担当者に自分の預金残高を開示しました。いきなり「2億円以内の投資物件を購入したいので、いい物件を紹介してくれませんか」と言っても、すぐに「はい、これ」なんて掘り出し物件を紹介してもらえるほど甘くありません。まずは自己開示をすること。誠実さを見せること。自分の人柄や思いを見せること。本気度を見せること。そうすることで、相手も動いてくれます。ともあれあの物件を購入して20年。おそらく今売却したら3億円は下らないと思います。  次回は、子どもに「お金力」を教育する方法を聞きます。 菅井敏之(すがい・としゆき)/1960年、山形県生まれ。学習院大学卒業後に、三井銀行(現・三井住友銀行)に入行。東京と横浜で支店長を務め、25年間銀行マンとして働く。48歳で早期退職。現在は10棟のアパート経営で年間7000万円の不動産収入を得ている。また、人気講師として全国で講演やセミナーを行っている。現在は帝国ホテル内でお金に関する相談も受けている。著書に『お金が貯まるのは、どっち!?』(アスコム)など。お金の専門家・菅井敏之公式サイト「お金が貯まるのは、どっち!?」 (https://www.toshiyukisugai.jp/)
佳子さま30歳に 「どうせ好きな人とは結婚できない」とつぶやいた内親王 悠仁さまを支える道と、皇室を離れる道
佳子さま30歳に 「どうせ好きな人とは結婚できない」とつぶやいた内親王 悠仁さまを支える道と、皇室を離れる道 12月29日に30歳の誕生日を迎えた秋篠宮家の次女の佳子さま。赤坂御用地内を散策する=2024年12月5日、東京・元赤坂の赤坂御用地、宮内庁提供    秋篠宮家の次女、佳子さまは、昨年12月に30歳の誕生日を迎えられた。姉の小室眞子さんも30歳で結婚していることもあり、佳子さまの「お相手」をめぐる報道も相次いでいる。その一方で、皇室は少子高齢化が進んでおり、女性皇族が結婚後も皇室に残ることなどについて政府で議論が続いている。結婚のタイミングで人生が大きく左右影響する制度であるだけに、両陛下の長女の愛子さまや佳子さまなど、未婚の女性皇族に注目が集まっている。 *   *   * 「ここ(皇室)にいる限り、どうせ好きな人とは結婚を出来ないと思っている」 「皇室から出たい。出るためには、結婚しかない」  秋篠宮家の次女、佳子さまが周囲にこう語っていたのは、姉の眞子さんの結婚問題が続いていたころだった。  秋篠宮家の事情に詳しい人物は、こう話す。 「佳子さまは、かなり早い時期から皇室を出て、民間の世界で生きていきたいというお考えを持っておられたようです。皇室を出る手段のひとつが結婚だと考えていらっしゃったのでしょう」  しかし、眞子さんが結婚して渡米した後、佳子さまが担う公務や祭祀は増え、天皇、皇后両陛下を支える若い世代の皇族としての存在感は高まる一方だ。  その一方で、佳子さまの結婚の「お相手」についての報道も増えた。今年の春に長男の悠仁さまの成年の儀式が済んだタイミングで、佳子さまの婚約の話が進むのではないか――そんな噂もささやかれている。  それが皇族おひとりの話にとどまらないのは、佳子さまのご結婚が、皇族が減り続けている皇室の問題に絡んでいるからだ。   「女性皇族が結婚年齢に近づいている」と首相  昨年11月に三笠宮妃の百合子さまが亡くなったことで、皇室は天皇陛下と上皇さま、そして皇族方を合わせて16人となった。40代以下の未婚の皇族6人のうち、男性は秋篠宮家の悠仁さまだけだ。  いまの皇室典範では、女性皇族は民間人と結婚すれば皇室を離れると定められている。仮に女性皇族5人が結婚によって皇室を離れるとなると、悠仁さまを除く「若い」皇族は59歳の秋篠宮さまと58歳の紀子さまとなり、極端な高齢化も進むことになる。   12月29日に30歳の誕生日を迎えた秋篠宮家の次女の佳子さま。赤坂御用地内を散策する=2024年12月5日、東京・元赤坂の赤坂御用地、宮内庁提供    政府の有識者会議は2021年の報告書で、皇族数の確保のために「女性皇族が婚姻後も皇族の身分を保持する」「旧宮家の男系男子が養子として皇族に復帰する」の2案を示した。  これを受けて昨年5月から与野党で協議がスタート。秋には衆参両院の議長が、女性皇族が結婚後も皇室に残る案について各党でおおむね共通認識が得られた、とする中間報告をまとめた。昨年12月には、衆院議長らが今年夏の参院選前までに結論を出す必要があるとの認識を示したと報じられたものの、先は見えない。  そもそも「女性宮家」の創設を視野にいれた議論が本格的にスタートしたのは11年、野田佳彦政権のときだ。当時の宮内庁の羽毛田信吾長官が野田首相に面会し、「皇族の減少が緊急性の高い課題」と進言。首相も「女性皇族が結婚年齢に近づいている」と会見で説明して議論が本格的にスタートしたが、10年以上が経っても具体的な「成果」はない状態だ。 29歳の誕生日に公表された写真。佳子さまは、2024年の秋の園遊会と同じ、「藍白」色の友禅染の着物をお召し=2023年12月、宮内庁提供   「皇室はやせ細ってしまった」  皇室をめぐる議論が始まったときに、高校2年生で16歳だった佳子さまは30歳になり、小学4年生で8歳だった愛子さまは23歳の誕生日を迎えた。  皇室制度史や儀式に詳しい京都産業大の所功・名誉教授は、21年に開かれた「安定的な皇位継承のあり方を議論する政府の有識者会議」のヒアリングの場で、女性皇族の結婚後の身分の確保の重要性について意見を述べている。 「手をこまねいている間に、皇室はどんどんやせ細ってしまった」  と、所さんは現状を心配する。 「宮家の存続」と「結婚」をめぐっては、こんな話も聞こえてきていた。   日本美術の研究者として活躍する三笠宮家の彬子さま。皇族女性のキャリア形成の先駆け的存在=2024年4月23日、東京・元赤坂の赤坂御苑 「宮家に人生をささげる  英国での留学生活をつづった『赤と青のガウン オックスフォード留学記』がベストセラーとなった三笠宮家の故・寛仁親王の長女の彬子さま(43)は、日本美術の研究者として活躍している皇族だ。女性皇族として初めて英オックスフォード大で博士号を取得するなど、女性皇族としてキャリア形成を成し遂げた先駆け的存在でもある。  複数の関係者によれば、そうした彬子さまでさえ、父の寛仁親王から、 「結婚するならば、旧皇族が相手だ」   と条件をつけられたと言われている。そして、彬子さまご本人も以前から周囲にこう話しているという。 「結婚はしない。三笠宮家に人生をささげるつもりだ」    高円宮家では、次女の千家典子さんと三女の守谷絢子さんが結婚して皇室を離れた。長女の承子さま(38)にも、母の久子さまも公認で長年交際しているお相手がいる、といわれている。その人物と一緒にいる写真が何度かメディアに掲載されたこともある。  にもかかわらず、数年前から結婚のタイミングをうかがいながらも踏み切らないのは、承子さまはご自分の代までは高円宮家を支える覚悟なのではないか――そのようにも受け止められている。   24年の春の園遊会に出席した高円宮家の長女、承子さまも母の久子さま公認といわれる「お相手」の存在がささやかれている=2024年10月30日、赤坂御苑、JMPA   愛子さまが皇室に残るとすれば  そして、30歳の佳子さま、23歳の愛子さまのおふたりの人生は、皇室典範の議論の行方によって、大きく影響を受ける可能性がある。  前出の所さんによれば、天皇家の内親王である愛子さまが皇室に残られるとして、皇位を継ぐためではなく、両陛下をお支えする役割を担うためだとすれば、その意義は大きいという。  佳子さまも、皇室を離れれば、皇位継承権を持つ弟の悠仁さまをそばで支える皇族がいなくなってしまう。そのため、女性皇族の婚姻後の身分についての制度が固まるまでは、結婚を待つのではないか、という考えもありうる。 「いずれにせよ、あくまでも天皇ご一家や秋篠宮家と内親王方がどうお考えになるかがいちばん大切です。仮に佳子さまが若い頃に皇室を出ることを希望されていたとしても、公務のご経験を積まれるなかで、お考えに変化が生じているかもしれません」   24年の秋の園遊会。三笠山の丘の上で見つめ合うおふたり。23歳の愛子さまと30歳の佳子さまは、皇室典範の議論の行方によって大きく影響を受ける可能性がある=2024年10月30日、赤坂御苑、JMPA    大切なのは当事者である皇族方がより良い選択のできる環境を整えることだと、所さんは指摘する。  というのも、秋篠宮さまは昨年11月の会見で、「皇族女子は、天皇及び皇族以外の者と婚姻したときは、皇族の身分を離れる」と定める皇室典範第12条の改正に関わる質問をメディアから受けた。  それに対して秋篠宮さまは、「該当する皇族は生身の人間」としたうえで、影響を受ける皇族方について「宮内庁は、その人たちがどういう考えを持っているかということを理解して、知っておく必要がある」と述べられている。  所さんは、この第12条について10年ほど前から、いまの皇室典範に沿って女性皇族は婚姻とともに皇室を離れることを原則として残すとともに、「皇室会議の議論を経て、皇族の身分に留まることができる」という文言を加えるべきだと提案してきた。  女性皇族には、皇室を離れるか留まるか、その選択肢を用意しておくべきだという考えだ。   2024年の秋の園遊会で、招待者とにこやかに懇談する愛子さま。初の和装で臨んだこの日は、最高の技術を持った職人の手による手描きの京友禅をお召し=2024年10月30日、赤坂御苑、JMPA   「離れても留まっても」受ける批判  一方で、宮内庁職員を長く務めた皇室解説者の山下晋司さんは、皇族方に皇室に残るという選択肢があることで、逆に苦しい立場に立たされる可能性もあるのでは、とみる。 「もし、佳子内親王殿下が結婚したら皇室を離れたいとお考えならば、制度が改正される前に結婚されたほうがいいと思っています」    皇室典範が改正されるならば、「皇室から離れる権利」と「皇室に留まる権利」の両方が保証される形になるだろうと、山下さんも考えている。  しかし、いまの皇嗣家に向けられた批判の強さを考えると、佳子さまが皇室を離れる選択をすれば「皇族が減少しているのに逃げるのか」という声があがり、皇室に留まることを選んでも「特権を享受し続けるのか」と批判されるのではないかと言う。 「ご本人の意思を尊重することは当然ですが、重要な決断の責任を負うという過酷な状況に置かれます」    佳子さま、愛子さまは、ひとりの「成人」として、いつでも結婚できる立場だ。  秋篠宮さまは、皇室の将来の議論にあたって、「皇族は生身の人間であり、そのひとたちがどういう考えを持っているかを知るべきだ」と訴えた。  愛子さまと佳子さまの2人の内親王と、彬子さまら3人の女王は、これからどのような道を選ばれるのだろうか。 (AERA dot.編集部・永井貴子)     【こちらも話題】 愛子さま23歳に 会話を深める愛子さま&人当たりのいい佳子さま「ペア公務」への期待 https://dot.asahi.com/articles/-/241994  

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