
「なぜこんなものが…」海外の富裕層が日本で欲しがる「10円以下のお土産」とは?
※写真はイメージです(gettyimages)
コロナ禍が収束し、海外から日本を訪れる観光客が増加している。日本は、富裕層にとっても人気の旅先の一つ。海外の富裕層は、何に魅力を感じて日本を選んでいるのか。グローバル企業トップやハリウッド関係者などVIPのアテンドを行う筆者が見た、富裕層が今日本に来たがる理由とは。(ライター・通訳案内士 矢吹紘子)
海外の富裕層が日本で感動した
意外な光景とは?
コロナ禍を経て、日本への入国制限が撤廃されてから2年。日本政府観光局(JNTO)によると、2025年2月の訪日外国人旅行者数は、前年比16.9%増の325万8100人に上りました。こんな話をすると「そりゃ円安だからね」という声が聞こえてきそうですが、実はコトはそんなにシンプルではありません。
とりわけ私のクライアントは誰もが知るグローバル企業のトップやハリウッド関係者、国を代表する富豪一家のメンバーといった超富裕層揃い。たとえ今真逆の円高だったとしても、とるに足らないのは容易に想像がつくし、その気になれば世界中のどこへでも簡単に飛ぶことができます。
そんな彼らが今、名だたる観光地を差し置いて日本を選ぶこと。そして「やっと来られてうれしい」「友人や親戚も、皆が来たがっている」と口々に話すこと。その理由を考えた時、人の温かさ、懐かしい光景、そして秩序だった安全な社会という3つの要素が絡んでいるように思えるのです。
京都を訪れた富裕層ファミリーは
「家のあるもの」に興味津々
京都でプライベート通訳をしていると、お茶や金継ぎ、陶芸などのアクティビティーに同席する機会が多々あります。
そういった体験モノではたいていお寺や京町家の一室などをお借りするのですが、先日某大手証券会社で働く夫婦と10代の子どもたちをお連れした会場は、代々続く老舗商店の京町家でした。
アクティビティーの終了後、お家も見学させてもらうことに。そこで、一家が最も興味を示したのは、趣のある日本庭園でも、歴史を感じさせる茶室でもなく、居間の片隅に控えめに鎮座していた仏壇でした。中でも、年季の入った過去帳(故人の名前や命日が記載されている蛇腹式の手帖)に釘付けで、明らかに体験したアクティビティー以上の前のめり具合だったという(笑)。
宗教的には、私のゲストのほとんどがキリスト教かユダヤ教です。ユダヤ教徒は民族間のコミュニティーを大切にしますし、何よりも富裕層は家族や親族の絆が深い。
仏教徒でありながら八百万の神を敬うという私たちの宗教観は驚きの対象ではあるのですが、先祖を祀り、仏壇という目に見える形で継承する日本人の感覚に、温かみと親近感を覚えるようです。
加えて家という日常の場に、先祖代々の名前が書かれた、古くていわくありげなノートが、さも当然のように保管されている。そんな“日常の中の非日常”が心に響いたのでしょう。手書きの毛筆や、その墨の掠れ具合がZ世代にとってはビジュアル的にも「クール」だという側面もあります。
現金文化はもはやエンタメ
日本はノスタルジーを感じる場所に
仏壇のエピソードに限らず、富裕層の旅行者は日本の日常生活を、私たちとは全く異なるアングルと解像度で見ていると感じることが多々あります。
買い物のシーンを思い浮かべてみてください。昨今、日本でも現金以外の決済の選択肢が増えてきていますが、「CASH ONLY」を掲げる店もまだまだ多い。一方、欧米の先進国では貨幣の廃止論が上がっている国もあるほど、現金を使う機会はほぼ皆無です。
そのため店の店員がお釣りを丁寧に数え、一円の間違いもないよう几帳面に確認しながら手渡しする様は、崇高な儀式のようにも、エンターテイメント的にも感じられるのだといいます。同時に、少し前まで現金を使っていた世代にとっては、懐かしさを誘うのも事実。
もちろんこれは、彼らが日本の現金主義を喜ばしく思っているということでは決してありません。インバウンド客を呼び込みたいならキャッシュレスが必須条件であることは間違いないですし、何事もクイックさを最重要視するので、選択肢がある場合は迷わずクレジットカードのタッチ決済一択です。
でも、どんな品物も欲しいとなったら迷いなくゲットする富裕層にとって、紙幣や硬貨を自ら手にして買い物をするという行為は、母国での生活においては忘れられがちなお金の有り難みを実感させてくれるという、思いもよらぬ副産物も生み出しているようです。
少し前まで訪日観光客にとって日本は最新のテクノロジーを享受する場でもあったのですが、その立場は逆転。昭和ブームが海外旅行者にまで広がっていることにも共通するのですが、良くも悪くもそのレトロさやアナログさが、今の日本の魅力にもなっているのです。
ちなみに硬貨で最も人気があるのは、真ん中に穴が空いた5円玉と50円玉。海外土産に困ったらぜひ。
百貨店での感動ポイントとは?
ラッピングが神道の学びとなる
百貨店やショップでしばしば見られるラッピングにも、富裕層が感動するポイントが隠されています。まず、あの箱や商品に四隅をピッタリと添わせて、指先を使って手早く折り目をつける技術はもはやアートとの呼び声が高いです。確かに、思い返せば海外では買ったモノを、時に乱雑に袋に入れて終わりというパターンが多いですよね。
しかし心に残るのは、テクニックの素晴らしさだけではありません。
有名ファッションデザイナーの妻で、自身もプロダクトデザインに携わる女性は、「全ての動作にIntention(意図)があって、Pride(プライド)をもって扱ってくれる。だから日本にはBeauty(美)が溢れている」と話していました。改めて考えるとこれは、茶道や生花などの伝統文化にもピッタリと当てはまります。
こういった場合に私は、全てのものに神が宿るという神道の根本的な考え方を説明するようにしています。すると、有難いけれど謎だった日本人の丁寧さについて点と点が繋がるよう。「私の国にも神道が必要」と口にしたゲストは、実は一人や二人ではありません。
保育園児が秩序のバロメーター!?
“治安の良さ”を感じる意外な場面
欧米では小学生以下の子どもの学校への登下校などには家族の同伴が必須です。それゆえ、日本で公共のバスや電車に子どもたちが自分たちだけで乗り降りする姿を目にすると心底驚くとともに、この国がいかに安全か身をもって実感するのです。
保育園児や幼稚園児がおとなしくカートに乗せられて散歩するという、私たちにはお馴染みであろうあの光景も大人気。「日本の子どもは世界一可愛い」とは私のゲストがよく口にする言葉ですが、彼らが魅力を感じる背景には、子どもたちが幼い頃から秩序正しく、ルールを守って行動しているモラルの高さがあるといえるでしょう。
ドラッグストアなどの商店が表に商品を陳列する様子も、驚嘆の的となっています。なぜならアメリカなどの都市部では万引きや窃盗が日常化していて、屋外に商品を出すことは、まずあり得ないからです。
軒先に観葉植物や盆栽などを並べる民家も同様で、「パリだったら一晩のうちに全部なくなる」と、フランス人政治ジャーナリストは言っていました。物騒な事件が増えている昨今ですが、こういった光景が日常的に見られる日本は、彼らにとってまさに理想郷なのです。
(矢吹紘子:ライター・通訳案内士)