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進化する動物、しない動物がいるのはなぜ? 動物学者・今泉忠明先生が子どもたちに伝える「生き物のふしぎ」
進化する動物、しない動物がいるのはなぜ? 動物学者・今泉忠明先生が子どもたちに伝える「生き物のふしぎ」 (写真はイメージ/GettyImages)  進化する動物、しない動物の違いは? AERA with Kids編集部に子どもたちや保護者から集まった動物・生き物の疑問について、『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)監修でおなじみの動物学者・今泉忠明先生に聞きました。 北極のシロクマに元気でいてもらうには? Q.北極のシロクマが痩せている写真をお母さんに見せてもらいました。​ どうしたら元気でいてもらえますか? A.北極のホッキョクグマが痩せている理由は、主に地球温暖化による海氷の減少が影響しています。ホッキョクグマは海氷の上を歩き、アザラシを狩って食べる生活を送っていますが、海氷が減るとアザラシにそっと忍び寄ることが難しくなり、十分な食べ物を得られなくなっています。この状況を改善するためには、温暖化を防ぐための行動が必要です。ホッキョクグマや環境を守るための具体的な行動を紹介しましょう。  ホッキョクグマを守るための行動は、一つには家庭などでエネルギーを節約し、温暖化を防ぐための取り組みを行うことです。LED照明の使用やエアコンの効率的な利用などが叫ばれているのもそのためです。  それと太陽光や風力などの再生可能エネルギーを積極的に利用することです。  また環境保護活動やイベントに参加したり、ホッキョクグマやその生息地を守るための意識を高めたりすることも大切です。食料や品物を買うときは本当に必要かどうかをよく見極め廃棄物を減らすなど、日常生活で持続可能な選択を行うことが必要です。これらの行動を通じて、ホッキョクグマや地球全体の環境を守ることができます。 猛毒をもったアリ、クモが増えてきていない? Q.ここ数年、日本にはいないはずの猛毒をもったアリ、クモなどが増えてきていると思います。 以前なら子どもたちにどんどん捕まえたり、触ったりして観察させたいと思っていましたが、知識がない為、何かあってはと心配になります。敏感になりすぎでしょうか? A.たしかに日本では、以前は見られなかった猛毒を持つアリやクモが増えてきていることが懸念されています。ヒアリとセアカゴケグモが有名ですね。  ヒアリは中南米原産の外来アリで、日本では物流のグローバル化に伴い持ち込まれています。2017年から2019年までに15都道府県で48件の確認事例があり、特に港湾地域で多く発見されています。ヒアリは非常に攻撃的で、刺されると皮膚の炎症を引き起こします。  特に注意しなければいけないのはアレルギーをもつ子どもたちです。その場合はアナフィラキシーショックを引き起こすこともあります。  セアカゴケグモは1995年に大阪府で初めて発見され、現在は全国的に分布しています。このクモは毒を持ち、かまれると軽い痛みから始まり、腹痛や胸痛を引き起こすことがあります。セアカゴケグモは攻撃的ではなく、触ると咬まれることがあるので、素手で触らないように注意が必要です。軍手などを着用して作業することが推奨されます。  子どもたちが触れる可能性がある場合、安全を最優先することが重要で、次いで知識を深めることが大切です。安全に観察や学習ができれば恐れることも少なくなるでしょう。クモやアリなど小さなものを拡大しないとよく見えない場合が多いですが、透明なガラス瓶あるいはプラスチック容器で蓋をするようにして捕まえると手で触れないですみます。そして虫眼鏡などでじっくり観察すると良いです。 なぜ動物の心臓の速さはそれぞれ違う? Q.なぜ、動物たちの心臓の速さは、それぞれ違うのですか?象はネズミよりも遅い?(小3、タク) A.動物たちの心臓の速さは体の大きさによって異なります。それは主にその体のサイズや代謝速度に由来するからで、一般的に、体が小さい動物ほど心拍数が高く、代謝が速い傾向があります。例えば、ハツカネズミの心拍数は1分間に600〜700回と非常に速いです。これは、エネルギーを効率的に消費するために必要な代謝速度が高いためです。一方、体の大きな動物は代謝が低く、心拍数も遅いです。例えば、ゾウの心拍数は1分間に約20〜30回と非常に遅いです。この低代謝率により、体への負荷が少なく、細胞のダメージも少なくなるため、長寿の傾向があります。 進化する動物、しない動物の違いは Q.進化する動物としない動物は、なんでいるのですか? A.進化する動物としない動物がいるのは、進化の条件と環境への適応が異なるためです。進化は、生物集団の遺伝的な特徴が世代を経て変化する現象であり、一般に、集団内に特徴の異なる個体が存在し、この特徴の違いが遺伝子の違いに起因し、特徴の違いに応じて生存率や繁殖率が異なると進化が起こりやすいと考えらます。  気候変動のような急速な環境変化に対して、生物は順応、分布域の変化、進化のいずれかで対応する必要があり、これらの対応がうまくいかない場合、絶滅に至る可能性があります。  一方で、シーラカンスやカブトガニのように、何億年も姿を変えずに生き残っている「生きた化石」と呼ばれる動物もいます。これらの動物は、環境が大きく変化しなかった深海などの特定の環境に適応していたから、進化の必要性がなかったと考えられています. また、大量絶滅期を生き残った種は、その時代の環境に適応していたため、進化の速度が遅かったり、止まったりする場合があります。  生物が進化するかどうかは、遺伝的な多様性、環境の変化、自然選択の圧力が複雑に絡み合って決まります。 なぜオスは派手? Q.どうしてオスのほうがだいたい派手なんですか? A.オスの生物が派手な理由は、主に性淘汰(せいとうた)と呼ばれる進化が原因です。性淘汰は、異性を引き付けたり、同性を打ち負かしたりするために進化した特徴を指します。  繁殖期に少しでもほかのオスよりも派手な色彩や形状を持つオスがメスに選ばれると、これにより、オスがより派手になっていく競争が始まります。メスは自分に最適な遺伝子を持つオスを選びやすくなるから、派手さは目印としてメスには好都合です。オス同士の競争においても、目立つ特徴は重要です。シカの角やクワガタの大顎は、他のオスを打ち負かすための武器として機能するからです。  オスの派手さは主に異性を引き付けるための性淘汰によるものなのですが、例外もいろいろ存在しますから、まだ私たちにはわからない力がオスを派手にしているのでしょうね。   ※1月に実施した「AERA with Kidsフェスタ2025」でお答えできなかった方の質問・回答をご紹介しました。 〇今泉忠明(いまいずみ・ただあき)/動物学者。東京水産大学(現在の東京海洋大学)卒業後、国立科学博物館で哺乳類の分類学・生態学を学ぶ。生態調査の経験が豊富。監修の『ざんねんないきもの事典』(高橋書店)はミリオンセラー。
サレ妻&シタ妻役を極めた「松本まりか」 “ノースキャンダル”なのに40代突入で不倫ドラマの女王に!
サレ妻&シタ妻役を極めた「松本まりか」 “ノースキャンダル”なのに40代突入で不倫ドラマの女王に! 松本まりか(写真:Pasya/アフロ)    7月スタートの新ドラマ「奪い合い、真夏」(テレビ朝日系)に主演する女優の松本まりか(40)。昨年も“サレ妻”役で主演したドラマ「夫の家庭を壊すまで」(テレビ東京系)や、刑事とのアブノーマルな性癖に溺れていく容疑者役を好演した映画「湖の女たち」など、近年は、特殊なシチュエーションの性愛を巧みに演じている。それゆえ、サレ妻・シタ妻などが登場するドロドロ系不倫ドラマでは、必要不可欠な存在になりつつある。40代に入ったことで、禁断の恋に溺れるリアルな中年女性役がますますハマりそうで、今後はより需要が高まりそうだ。 「奪い愛」シリーズは、放送作家で脚本家の鈴木おさむ氏による、オリジナル恋愛ドラマ。2017年放送の第1作を皮切りに、登場人物が愛を奪い合う激しく切ない恋愛模様、ドロドロなのに胸がキュンとする展開が話題を呼び、これまでに4作品が制作された人気シリーズだ。 「松本はこれまで19年配信の『奪い合い、夏』と21年の『奪い合い、高校教師』に出演し、シリーズの盛り上げを支えてきた功労者の一人。今回の主演はまさに“満を持して”という印象です。引退宣言をしていた鈴木おさむ氏も今作限定で脚本家に復帰することからも、かなり期待できます。同シリーズは、夫の浮気現場をおさえるために隠れていたクロゼットから『ここにいるよ~!』と瞳孔バッキバキで飛び出してきた水野美紀や、教師である婚約者と生徒のキスを物陰からのぞき見しながら鼻血を出した松本など、笑ってしまうくらい衝撃的なシーンがいくつもありました。今回も放送前から松本の怪演ぶりに期待がかかります」(テレビ情報誌の編集者)  怪演といえば、昨年主演した「夫の家庭~」がSNSでたびたび話題になったことも記憶に新しい。不倫した夫と共謀していた義母に対し、目を見開いて詰め寄るシーンは芸人のキンタロー。など、有名人たちがこぞってマネをして“松本まりかチャレンジ”とタグ付けして多くの人に投稿された。テレ東ドラマ初の見逃し配信再生数3000万回突破という記録達成にも寄与した。キャッチーなセリフとインパクト過剰な怪演がお家芸の「奪い愛」でも、“松本まりかチャレンジ”がSNS上に再びあふれるかもしれない。 ワコールの「ハグするブラ」テレビCM発表会に登壇した松本まりか(写真:Keizo Mori/アフロ)   番宣での「におわせ発言」で話題作り  ドロドロ系ドラマに欠かせない存在となった松本だが、ブレークまで18年もの長い下積み時代を経験したことは有名な話だ。その18年間を自ら「暗黒時代」と呼び、同世代の女優・宮崎あおいや蒼井優が先にブレークするなか、「実力的にも人間的にも『私はまだ売れてはいけない、表に立てるような人間では無い』と思っていた」(「読売新聞」18年10月25日)と語っていたこともある。そんな松本が表舞台に浮上できた背景には、仕事への意識改革があったようだ。 「“暗黒時代”に一念発起して1年間、単身でロンドンに留学したのが2010年のこと。そこでハングリー精神が鍛えられたと以前、インタビューで語っていました。帰国後、小劇場で舞台を中心に地道な活動を続けます。また、女優の仕事がなかった時期に声優としても活動し、人気ゲーム『ファイナルファンタジーX』にも出演しました。仕事がない環境でも腐らず自己研鑽に励み、ドラマに舞台にアニメやゲームにと、さまざまなジャンルに挑戦した結果、どんな役柄にも即応できる豊富な引き出しを手に入れたのだと思います」(同)  実際の松本は、ドラマの中のように激情に突き動かされるような性格ではなく、仕事の進め方も丁寧だという。民放ドラマ制作スタッフは言う。 「憑依型女優と言われることもある松本さんですが、現場では人の意見も聞きながら、きちんと話し合って役の解像度を上げていくタイプだと聞きます。一方、下積みが長かったせいか、出演作の視聴率など、数字にはとてもこだわるタイプでもあるようです。番宣で出たバラエティーでは、千鳥と共演した際に何の関係もない大悟との“怪しい関係”をにおわせ、スポーツ紙や週刊誌の誌面をにぎわせて話題作りをする知能犯的な一面を見せたこともあります」  芸能評論家の三杉武氏は、彼女が不倫ドラマで重宝される要因についてこう述べる。 「松本さんといえば、18年に放送されたドラマ『ホリデイラブ』で、不倫に走るあざとさを持つ一方で猟奇的な一面も持つ女性役を熱演して注目を集めました。その後も同年放送のドラマ『健康で文化的な最低限の生活』や『ブラックスキャンダル』でも感情表現豊かなヒステリックな役を好演しました。不倫ドラマでたびたび起用される理由は、優れた演技力やプロ意識の高さはもちろんですが、美形であざとかわいいイメージながらもどこか薄幸そうな雰囲気を醸し出せるところが大きいのではないかと思います。また、これまで決定的な恋愛スキャンダルもなかったせいか、私生活がベールに包まれている印象が強く、こうした点も人知れぬ恋を描く作品で重宝されている要因なのかもしれません」  近年のドロドロ系恋愛ドラマをけん引してきた松本。今年は名実ともに熱い夏になりそうだ。 (雛里美和)
【2025年上半期ランキング エンタメ編9位】「山口もえ」夫・田中裕二と初めての出会いは大学4年生 今でも思い出す “忘れられない一言”とは?
【2025年上半期ランキング エンタメ編9位】「山口もえ」夫・田中裕二と初めての出会いは大学4年生 今でも思い出す “忘れられない一言”とは? 山口もえさん(撮影/写真映像部・東川哲也)    2025年も折り返しです。1月~6月にAERA dot.またはAERA DIGITALに掲載され、特に多く読まれた記事を、ジャンル別にランキング形式で紹介します。エンタメ関係の記事の9位は「『山口もえ』夫・田中裕二と初めての出会いは大学4年生 今でも思い出す “忘れられない一言”とは?」でした(この記事は3月8日に配信されたものです。年齢や肩書などは当時のまま)。 *   *   *    2015年に爆笑問題の田中裕二さんと結婚し、3人の子どもの母でもある山口もえさん(47)。そのおっとりとした口調と“ゆるふわ”な雰囲気はママになっても健在ですが、実は20代のときは“仕事ざんまい”で精神的な余裕がなく、芸能活動では悩みも多かったといいます。インタビュー【前編】では、「間違えて入った」という芸能界入りの経緯やCMでブレークした20代の生活、後の夫となる田中さんとの出会いなどを聞きました。    山口さんには、田中さんに言われた今でも忘れられない一言がある。  大学4年生のとき、「号外!!爆笑大問題」(日本テレビ系)という番組で爆笑問題と共演したときのこと。田中さんは、高校生時代の山口さんが出演していたCMや番組を見ていたようで、雑談しているなかでこう言われたという。 「〇〇っていう番組に出ていたよね。それを見たときに、この子は売れるって思ったんだよ」  すでに有名なお笑い芸人だった田中さんが、高校生のときの自分のことを知ってくれているとは思いもよらず、「いい人だな」と感じたが、山口さんはまだ大学生。後に田中さんと結婚するとは夢にも思っていなかった。  そんな山口さんが芸能界の門をたたいたのは、高校1年生のとき。子どもの頃からクラシックバレエを習い、プロを目指していたが、思春期も重なり、男性と密着して踊ることに抵抗を感じるようになっていた。1人で踊れる新しいダンス教室を探していたところに、雑誌で「ダンスレッスン無料」という文字が目に飛び込んできた。 クラシックバレエを習っていた頃の山口もえさん(事務所提供)   「雑誌を見て『無料なんだ!』と申し込んで行ったら、ダンス教室ではなくて今の事務所だったんです。『あれ、違った』と思って帰ろうとしたら、たまたまその日は普段いない社長がいて、『芸能界に興味がないんだったら、ダンスレッスンだけ受けてみませんか』と声をかけてくれたんです」  最初は本当にレッスンに通っていただけだったが、一緒にダンスを習う友達が「次はこんなドラマに出るんだ」とか「CMが決まったんだ」と話す内容に興味をひかれ、「私もオーディションを受けたいです」と言って、山口さんの芸能活動が始まった。 山口もえさん(撮影/写真映像部・東川哲也)   夫・田中裕二の第一印象  小さい頃から引っ込み思案で、「幼稚園の頃は母親の後ろに隠れているような子だった」と振り返る山口さん。芸能活動をすると決めたときは周囲に驚かれたという。両親も反対はしなかったが、事務所との契約のときに「大学は卒業まで通うこと」という条件をつけた。 「両親はきっと、やってみても続かないんじゃないかと思っていたと思います。でも最初にやった仕事が、お味噌のCMで。撮影のあとに白だし、赤だし……と抱えきれないぐらいお味噌をいただいたんです。それで両親も、祖父も喜んでくれて、『こんなにみんなが喜ぶ仕事なんだ!』とうれしくなりました。ダンスレッスンも、お味噌も無料でいただいて……私は本当に無料に弱いんですよね(笑)。無料にひかれて行った先が、芸能界だったという感じです」  16歳で仕事を始め、10代のうちはCMがトントンと決まり、順調に活動をスタートしたかに見えた。しかし大学に入り、20歳前後になると、学生としては年長、大人としては若すぎる、という理由でなかなか仕事が決まらない時期が続いた。  だが逆に時間ができたことで大学の勉強に集中でき、3年までに卒業に必要な単位をほとんど取り終えていた。そして大学4年生のときに「マツモトキヨシ」の「なんでも欲しがるマミちゃん」のCMが決まり、山口さんは大ブレーク。そこから一気に忙しくなっていった。  前述のように、現在の夫である田中さんと初めて出会ったのもこの頃だった。「号外!!爆笑大問題」で共演した田中さんの印象は「とにかく優しい人」。相方の太田光さんがちょっかいを出して楽しませ、田中さんが優しくフォローする。切れ味鋭いトークにプロフェッショナルを感じ、学ぶことは多かった。ただ、恋愛感情は一切なく、あくまで「すてきな先輩」の枠にとどまっていた。田中さんは当時、前妻との結婚を予定しており、番組で「結婚式場を下見する」企画に山口さんが出演することになった。 「一緒に結婚式場にロケに行って、私はウェディングドレスを着させられて、タキシードを着た田中さんと歩くという映像が残っているんですけど、当時は『なんでこんなところでウェディングドレスを着なきゃいけないの? 自分が結婚するまで取っておきたいのに』ぐらいに思っていました。それぐらい夫に対しては何も思っていなかったですね」 山口もえさん(撮影/写真映像部・東川哲也)   「芸能界をいつやめるか」ばかり考えていた  ただ、一方の田中さんには冒頭のような発言に加え、こんなエピソードもある。番組の収録が終わるタイミングがバレンタインデーだったため、山口さんは共演者やスタッフにお菓子を作り、メッセージカードを添えて渡したのだが、それを田中さんは結婚するまで大事に取っていたのだ。 「結婚してから『ほら』って見せられてびっくりしました。心のなかで気になっていたのか、単に物持ちがよかったのか……それは聞いたことはないです。でも、物持ちがよかっただけなんだと思いますよ(笑)」  順調に仕事が舞い込んできていた山口さんだったが、20代前半の頃は「芸能界をいつやめるか」ということばかり考えていたのだという。急に仕事が忙しくなったことで自分のペースがついていかず、自分が芸能界に向いているのかもわからなくなっていた。 「事務所の人に『やめたい』と言うと、少しお休みをもらってリフレッシュして、また働いて、ということの繰り返しでした。でもあるとき、『やめて何をやりたいんだ』と言われたんです。私はオードリー・ヘップバーンにあこがれていたので、『私も世のため人のために役立つことがしたいです』と答えました。そうしたら『いま20代のもえが、何かしたい、と手を挙げても誰も賛同してくれないけど、この仕事で頑張って一生懸命働いたら、何かしたいと言ったときに協力してくれるかもしれないよ』と言われて、『なるほど』と。そこからもうちょっと頑張ってみよう、と思えました」  山口さんは30歳で第1子となる長女を出産した。出産前には産休を取得したが、それは社会に出てから仕事しかしていなかった山口さんが立ち止まる、初めてのタイミングだった。時間ができたことで自分を見つめ直すと、ふと「本当に仕事に復帰できるのか」「自分だけ置いていかれてしまうのでは」という不安がこみ上げてきた。 「根本的に自分に自信がなくて、誇れるものや自信をつけられるものがほしい、という思いもあったと思います。それで『私は何が好きかな』と考えたときに野菜が好きだなと気づいて、野菜ソムリエの資格の勉強をしました。立ち止まるきっかけをくれたのも子どもだし、スキルアップしなきゃいけないと気づかせてくれたのも子どもでした。自分より大切な存在ができて……本当に自分が変わったなと思っています」 山口もえさん(撮影/写真映像部・東川哲也)   「欲張っちゃってもいいのかな」  33歳のときには第2子となる長男を出産した。だが、30代のあいだは、ずっと仕事と家庭の両立に悩み続けたと振り返る。子どもを預けて働くことへの罪悪感を覚えることもあったが、親と離れても元気で過ごしている子どもの姿を見て安心することもあった。 「365日、24時間親がそばにいることが、子どもにとっていいわけではないんですよね。何より私が仕事でリフレッシュして帰って、それを見た子どもが『ママ、すごく楽しそうだね』『幸せそうだね』って言ってくれたことがあって。きっとそれは子どもにいい影響を与えますし、母である私が元気で楽しくしているのって子どもにも伝わるんだなと。仕事をしながら子育てをするのはもちろん大変ですけど、欲張っちゃってもいいのかな、と思いました」 (藤井みさ) ●山口もえ(やまぐち・もえ)/1977年、東京都出身。成城大学法学部法律学科卒業。幼少期からクラシックバレエを習う。16歳のときに現在の事務所でダンスレッスンを受け始め、大学在学中に出演したドラッグストア「マツモトキヨシ」のCMで一躍人気者に。以後、バラエティー番組や情報番組、ドラマなどに多数出演。野菜ソムリエプロ、愛玩動物飼養管理士2級、ホリスティックビューティアドバイザーなどの資格も持つ。2015年にお笑いコンビ・爆笑問題の田中裕二さんと結婚。3児の母。
日本女子大の「理系強化」 看板学部の再編は「筆舌に尽くしがたく大変だった」
日本女子大の「理系強化」 看板学部の再編は「筆舌に尽くしがたく大変だった」 日本女子大学が2025年に新設した食科学部。家政学部から独立した。21年に全学部が都心の目白キャンパスに集まり、人気上昇中。23年には国際文化学部も新設(撮影/岡田晃奈)    募集停止や共学化が続く“女子大受難の時代”に、日本女子大はなぜ志願者数を伸ばしたのか。飛躍の秘密は、学内のさまざまな思いを乗り越えて実現した、看板学部の再編だった。 *  *  *  女子大学の志願者数は軒並み減少しており、京都ノートルダム女子大学が募集停止を決め、武庫川女子大学も共学化に踏み切る。そのなかで、日本女子大学の総志願者数は、前年度から10%も増えて1万643人になった。志願者数(一般選抜)は、全国の女子大で1位を誇る(朝日新聞出版『大学ランキング2026』)。  女子大の淘汰が進む最大の要因は、18歳人口の減少だ。文部科学省によると、1992年に205万人だった18歳人口は、2035年頃には100万人を切る見通しだ。大学間の競争は激しさを増している。 「日本女子大学は歴史とブランドだけで学生が集まる時代がありました」  日本女子大学の篠原聡子学長は過去を振り返る。  高度経済成長による人口ボーナス期だった約30年前までは、「名門女子大」のブランドが学生を引き寄せており、学部再編の動きは低調だった。だが、いまは「選ばれる理由」が問われている。 株分け戦略で改革が加速  そんななか、日本女子大学は大胆な一手に出た。看板学部であった家政学部の再編だ。 「筆舌に尽くしがたい大変さがありました。家政学部は伝統学部でしたから、再編には学内でもさまざまな思いがあったのです。しかし、家政学といえば『家庭の中の学問』という誤解を解かなければなりませんでした」(篠原学長)  家政学は本来、生活を科学的に捉える「実学」だ。多分野と結びついており、派生形として新学部を作りやすい。 「自分たちの強みは何か、社会から求められているものは何かを整理して、『強み』を押し出すことにしました。既存の学部から『株分け』して、カリキュラムや人事を補強して専門性を高めています」(同)  株分け戦略により、改革がここ5年で加速。1992年に「家政学部家政理学科」が独立して「理学部」が生まれ、情報科学やバイオテクノロジーが専門の教員を増やすなど、時代に合わせて強化。実態に合わせて2022年に名称変更をした。24年に「家政学部住居学科」が「建築デザイン学部」に独立。27年には「家政経済学科」が「経済学部(仮称)」になる構想だ。 日本女子大学の食科学部(撮影/岡田晃奈)   「理系シフト」に見えるかもしれないが、新分野を増やしたわけではない。全て既存の学部を磨いて誕生した。  今春、「家政学部食物学科」が独立して「食科学部」が開設。農学部という名称にすれば、幅広い受験者層を呼び込むことができると思いきや、アピールするのはそこではない。  6月、食科学部食科学科の実験の授業を訪ねた。白衣姿の学生たちが、試験管の中で起こる化学変化に目を凝らしていた。この日のテーマは、体内で食品はどう分解されるのか。胃の消化酵素ペプシンが卵白をどう分解するのかなどを確かめるため、液体の色が変わるかどうかを観察していた。  食科学科1年生の鈴木汐織さんは「私にドンピシャの学科でした」と話す。  夜遅くに帰宅して疲れていても、簡単に食べられて栄養価のある食物って何だろう。そう考えて、食品開発の道を志し、学部を探していた。「実験、調理実習の機会がダントツで多い」と考えて入学を決めた。 「周りの学生も、やりたいことが明確な人が多いです。だからこそ、授業や実習にも積極的で、大学生活が楽しくなるんだと思います。私も『自分は自分』という気持ちで、のびのび学べています」(鈴木さん) 学生のモチベーションが高い  ここで学びたい、という意志を持って入学してきた学生は、モチベーションが高い。そのために、特色を明確化していると篠原学長は言う。 「一般に食関係の学部といっても、農学系統からマーケティングまで幅広いですが、私たちの食科学部は『生活者』の視点から、『食』を科学的に深く読み解く学びが特徴ですが、家政学部の傘の中にあることで、文系の学びと誤解され、本来の学びの特徴が正確に伝わっていない側面がありました。今後ますます高度化した『科学的な観点』が求められていく中、生活者視点での『食』を科学的に広く深く読み解く学びにより一層の重点を置き、グローバルな『食』の課題に立ち向かい、未来の社会に貢献していく力を育てていきます」 「責任をもって学生を育てるためにも、どんな学びなのか、見える化することが重要。学部ごとの専門性を高めることで、幅広い教養と高度な専門性を身につけた人材を養成していきたいと思っています」(篠原学長)  教育ジャーナリストの石原賢一さんは言う。 「いまの女子大の姿は、10年後の共学大の姿です。共学大でも募集停止のニュースが出てくるようになるでしょう」  文科省によると、10年後の2035年から、18歳人口は急激に減少して、今年生まれた子どもが入学する頃には、現在から3割も少なくなる見通しだ。 「知名度があり安泰とされる大学も一部ありますが、これからは女子大も共学大も、工夫をしなければ淘汰される時代になります。その淘汰は、偏差値の順に起こるわけではないと思います」(石原さん)  有名大学でも、学びが時代遅れなら選ばれなくなる。 「就職市場がますます売り手市場になるなかで、就職率、満足度以外の特色を打ち出す必要があります。社会で通用する『実利』のある学び、学生の興味を引く『面白さ』がより重要になっていきます。ゲームやアニメ関連といった専門学校の発想を参考に、いままでの大学にない学問を作る発想も必要でしょう」(同)  何を学べるかを示せなければ選ばれない時代は、既に始まっている。 (AERA編集部 井上有紀子)
岸田文雄前首相に質問「新NISAに回すお金なんか無いが?」「iDeCoの不利なルール変更」「プラチナNISAと子ども支援NISA」すべて答えた【後編】
岸田文雄前首相に質問「新NISAに回すお金なんか無いが?」「iDeCoの不利なルール変更」「プラチナNISAと子ども支援NISA」すべて答えた【後編】 衆議院議員、第101代内閣総理大臣の岸田文雄さん(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部)  岸田文雄前首相の独占インタビュー後編。「新NISAに回すお金なんかないんだけど?」「iDeCoの不利なルール変更、どう思っている?」…etc. 本記事の取材後に判明した「プラチナNISA」「子どもNISA」についても追加でコメントいただいた。 ※アエラ増刊「AERA Money 2025夏号」から抜粋しています】 【本記事は後編です。前編はこちら】 *  *  *  一方、物価高騰が生活を圧迫し、税金や社会保障費の負担も重い。「NISAに回すお金なんてない」という声にはどう答えるか。 「新NISA利用者の年収分布は300万円未満が約4割で一番多いんですよ。 次に300万〜500万円未満が3割近く。 そして国はNISAを強制していません。使いたい方に使っていただきたい。精いっぱい使い勝手のいい制度を用意しますから」 ※新NISA利用者の年収分布…日本証券業協会「新NISA開始1年後の利用動向に関する調査結果(速報版)」  こう述べたあと、資金や時間の制約から投資が難しい人を念頭に、「人々に寄り添うための仕組みはNISAだけではありません。政府・与党として国民のみなさんがより豊かな人生を送れるよう尽力する」とも付け加えた。  そういえば「新しい資本主義」の目標に「誰一人取り残さない」があった。 iDeCo加入者361万人  新NISAの2560万口座に比べるとiDeCo加入者数は361万人と少ない。岸田さん率いる資産運用立国議員連盟はiDeCoの普及にも力を入れているが。 ※iDeCo加入者数…国民年金基金連合会「iDeCo公式サイト」2025年2月末時点  2024年末の税制改正大綱ではiDeCoの拠出限度額引き上げが盛り込まれた。  たとえば企業年金のない厚生年金等の被保険者の拠出限度額は2万3000円から6万2000円に引き上げられる。  iDeCoの普及を妨げる要因の一つは60歳まで引き出せないこと。  米国はペナルティー付きで引き出せる場合があると聞くが、岸田さん、なんとかしてくれませんか。 「日米の年金制度は大きく異なるため単純比較はできません。iDeCoは年金制度なので、一定の年齢まで引き出せないのは仕方ないことです。 中途引き出しを認めるかについては慎重な検討が必要でしょう」  国会答弁で「慎重に検討する」は、ほぼ「やらない」の意味である。途中引き出しは当面不可と考えておいたほうがよさそう。  ではもう一つ、ぜいたくを。iDeCoもNISAのように「受取時すべて非課税」にしてもらえないか。 本記事が丸ごと読める「AERA Money 2025夏号」はこちら! 商品価格¥1,320 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 「iDeCoのルール変更はもう少し丁寧な説明が必要だった」(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部) 「iDeCoは掛け金の全額所得控除が認められ、運用中のスイッチング(運用商品変更)は非課税、受取時には公的年金控除や退職所得控除が適用されます。 運用中の税負担が軽減されているわけです。 そのうえで受取時も全額非課税というのは、やはり慎重な検討が必要になります」  そう、退職所得控除。iDeCoの改正では、いわゆる「5年ルール」が「10年ルール」に変更となった。  これまではiDeCoの一時金を受け取り、5年後に退職金を受け取れば、両方で退職所得控除が受けられたが、その経過期間が10年になってしまうのだ。  要は退職所得控除を本来の退職金にもiDeCoにも(2回フルで)使う手が封じられたわけで、「老後設計が狂う」と大批判を浴びた。 「退職所得控除を利用するすべての方の公平性の点から変更されたと理解しています。 2回使えなくなった方が不満に思う気持ちはわかります。 ルールを変更するなら、もう少し早めに周知しつつ、意見を問う工程があってもよかった。そのうえで、もっと丁寧な説明が必要だったと思います」 「丁寧な説明」があっても、SNSなどでの批判はやまなかったとは思うが。 SNS上の声には  SNSといえば、Xなどでの政治家への批判も年々ひどくなっている。岸田さんの首相時代もキツい投稿を何度も目にした。 「ネットにおいても現実社会においても、自由闊達な議論や発言ができることは日本のいいところだと思います。一方で、行きすぎた批判、心ない意見は許されません」 「本当は傷ついていた」などの人間らしい(?)言葉が聞きたかったが、岸田さんは本音を言わなかった。  ただ「受け取った人がどのように感じるか、という人の気持ちに思いを馳せる社会にしていくことが大事」と付け加えた声は低く穏やかだった。  ここで岸田さん自身について少し振り返る。東京・渋谷区に生まれ、選挙区は広島市中心部の衆議院広島1区だ。祖父の代から3代にわたる支持基盤を持ち、当選11回。 「政治家志望ではなく、子どもの頃は小説家や画家、スポーツ選手になりたかった」 「バブル崩壊前、長銀に入り海運業界を担当。経済の厳しさを肌で感じた」(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部)  岸田さんは最難関進学校として知られる開成高校から東京大学を目指して「2浪しています(笑)」。  結局、早稲田大学法学部を出た。  政治家になる前の5年間、重厚長大産業への資金供給を担う日本長期信用銀行(1998年破綻〈はたん〉)に勤めた。 「バブル崩壊直前、高松市に赴任して海運業界を担当しました。倒産を何度も目の当たりにするなど、厳しい現場でした」  多忙な岸田さんの休日は。 「地味です。本を読むぐらいですかね。 学生時代は夏目漱石のような文豪に憧れ、芥川賞作家の庄司薫の作品を愛読しました。 今年は三島由紀夫生誕100年ということで『金閣寺』を読み返しました」  参議員選挙を控え、自民党は守りの選挙が予想される。  つかの間の読書タイムか。 (ここから先は本記事取材後に追加執筆したものです) ★「プラチナNISA」「こども支援NISA」に関する追加記事  本記事の取材後、2025年4月23日に岸田さんは石破総理大臣に高齢者限定のNISAなどに関する提言を行った。  岸田さんが会長を務める資産運用立国議員連盟(以下、議連)のメンバーが岸田さんとともに総理大臣官邸で石破総理大臣と面会、提言を手渡している。  その提言内容について本誌から質問をし、岸田さんから回答を得た。  提言内容に関して改めて抜粋しつつ、岸田さんの回答をそのまま公開する。  明快な答えとなっていないものもあるが、あえて加工はしていない。 【プラチナNISAに関する議連の提言(抜粋)】  高齢者が物価上昇の下でも、投資のメリットを受けつつ、生涯にわたって計画的に運用資産を活用して生活に充てることができるよう、高齢者に限定して対象商品の拡大・スイッチング解禁を図る「プラチナNISA」の導入など、政府は退職世代向けの資産運用サービスの充実に取り組むべきである。 (編集部からの質問)高齢者限定の「プラチナNISA」について、「対象商品の拡大」に関して「毎月分配型ファンドも可とする案」と報じられていた。本当か。 本記事が丸ごと読める「AERA Money 2025夏号」はこちら! 商品価格¥1,320 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 1993年7月、旧広島1区から自由民主党公認で出馬し、衆議院選挙に初当選した頃の写真。この年の7月29日(誕生日)時点で36歳(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部) (岸田さんの回答1)議連においては、次の議論を行っている。 ●若者から高齢者まで全世代の国民が一人一人のライフプランに沿った形で資産形成を行い、豊かな人生を作り上げていく ●人生100年時代を迎える中、高齢世代が生涯にわたって計画的に運用資産を活用して生活にあてる、「運用しながら取り崩す」ことがやりやすくなる環境を整備していく  こうした骨太の議論に関し「プラチナNISA」と名付けて提言に盛り込んだ次第である。  ご質問のような「毎月分配型の投資信託を可能とするか否か」といった個別の商品の適否の議論をしているわけではない。 (編集部からの質問)とはいえ金融機関側は「運用しながら取り崩す」という表現に乗り、高コストの毎月分配型投資信託が大量に「プラチナNISA対象」となる未来は容易に想像できるのだが、どうお考えか。 (岸田さんの回答2)資産運用立国議連の提言を踏まえ、政府においても、提言の趣旨を踏まえて(プラチナNISAの)制度設計の議論をスタートしてもらいたいと考えている。  その際には、金融機関において、手数料を含む顧客本位の金融商品・サービスの提供が確保されることが議論の大前提である。 【こども支援NISAに関する議連の提言(抜粋)】  子育て支援・少子化対策の一環として、若年層の資産形成の推進のため、政府はつみたて投資枠に限り投資可能年齢の下限を撤廃し、早期からの投資を可能とする「こども支援NISA」を導入すべきである。 (編集部からの質問)こども支援NISAでの「早期からの投資」とは具体的にいつからを想定しているか。旧「ジュニアNISA」と同じく、生まれたときからか。 (岸田さんの回答3)「こども支援NISA」の導入を提言した背景は次の通りである。 ●若者から高齢者まで全世代の国民が一人一人のライフプランに沿った形で資産形成を行い、豊かな人生を作り上げていくことが重要であると考えた ●夢と希望を抱いて人生を切り開いていく、チャレンジをしていく若者たちのために、一定の資産(蓄え)を持って進学や社会人生活をスタートできるように 岸田さんの事務所に並んでいた記念の品や写真(撮影・東川哲也/朝日新聞出版写真映像部) 【iDeCoに関する議連の提言(抜粋)】  確定拠出年金については、NISAと比較して多数の主体が関与する複雑かつ高コストな制度となっていることを踏まえ、厚労省は、内閣官房や金融庁など関係省庁の協力の下、iDeCoにおけるプラットフォームとしての国民年金基金連合会の役割を含め、制度の在り方及び大胆な改革について、本年度中に検討に着手し、可及的速やかに結論を得た上で、抜本的な手続の簡素化や手数料改善を速やかに実施すべきである。 (編集部からの質問)iDeCoの「手数料改善」について提言で触れられていた。具体的にはどのような手数料体系を想定しているか。「この手数料は撤廃を」などの考えはあるか。 (岸田さんの回答4)議連では、確定拠出年金の仕組みが複雑かつ高コストな制度となっているため、制度の在り方について、本年度中に検討に着手し、可及的速やかに検討を得るべき、と提言した。  これを踏まえ、厚労省においては、速やかに内閣官房や金融庁などの協力を得て検討を進めていただきたいと考えており、その結果、手数料の改善につながることを期待している。 取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大場宏明 岸田文雄/衆議院議員(広島1区)。第100代、第101代内閣総理大臣。1957年7月29日、広島出身の通商産業省(現経済産業省)の官僚だった父・岸田文武氏の長男として東京都渋谷区に生まれる。1982年に早稲田大学法学部卒業後、日本長期信用銀行(当時)に入行。1993年7月、衆議院議員に初当選。内閣府特命担当大臣、外務大臣、防衛大臣などを歴任。第1次岸田内閣時の2022年に「資産所得倍増プラン」を打ち出す。時限措置だったNISA(少額投資非課税制度)の恒久化、非課税投資限度額の引き上げなど制度の抜本的な拡充を行う。2024年11月、「資産運用立国議員連盟」が設立され、会長に就任 この記事の完全版が読めるAERA増刊「AERA Money 2025夏号」が好評発売中です! Amazonや楽天ブックスなどのネット書店では「アエラマネー」で検索して、この表紙を探してみてください!(編集部より) 編集/綾小路麗香、伊藤忍 『AERA Money 2025夏号』から抜粋
スイカゲーム(R)がハローキティに変身!?マクドナルド ハッピーセット(R)とのコラボでアイテムがかわいく“シンカ”するオリジナルゲームが新登場
スイカゲーム(R)がハローキティに変身!?マクドナルド ハッピーセット(R)とのコラボでアイテムがかわいく“シンカ”するオリジナルゲームが新登場 ~7月11日(金)より期間限定で配信開始~ - Aladdin X株式会社 『ハローキティのハッピースイカゲーム』メインビジュアル Aladdin X株式会社は、日本マクドナルド株式会社が全国のマクドナルド店舗(一部店舗を除く)にて、2025年7月11日(金)より期間限定で販売するハッピーセット「ハローキティ」の連動施策として配信されるオンラインゲーム『ハローキティのハッピースイカゲーム』を開発・提供いたしました。 本ゲームは、株式会社サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」をテーマに、ハッピーセット購入者限定でお楽しみいただけるオンラインコンテンツです。 人気タイトル「スイカゲーム」のシンプルで直感的な遊び方やルールはそのままに、ハッピーセット「ハローキティ」の世界観を取り入れた、完全オリジナルのゲームとしてお届けいたします。 ゲームに登場するキャラクターやデザイン、演出は今回のコラボレーション仕様に一新。 夏らしい日焼け姿の「ハローキティ」がアイテムを落とす演出や、アイテム同士をぶつけ合うことで“特別デザインのスイカ”が登場するなど、ここでしか見られないデザインや演出が満載です。 ゲーム内のデザインテーマは配信期間ごとに異なり、第1弾は「ビーチ」、第2弾は「花火」と、夏を彩る風物詩をモチーフにした華やかで季節感あふれるビジュアルをお楽しみいただけます。 さらに、特定の状況で発生する特別な演出や、獲得スコアに応じて付与される称号など、 通常の「スイカゲーム」にはないスペシャルな要素も盛り込まれており、何度でも遊びたくなるような”ワクワク”感をお届けします。 この夏だけの期間限定で楽しめる『ハローキティのハッピースイカゲーム』をぜひご体験ください。 ビーチデザイン花火デザイン 【『ハローキティのハッピースイカゲーム』概要】 ■配信期間 2025年7月11日(金)~2025年8月10日(日)終了予定 ■配信内容 / 提供期間 第1弾:ビーチ / 7月11日(金)~7月17日(木) 第2弾:花火 / 7月18日(金)~7月24日(木) 第3弾:ビーチ・花火 / 7月25日(金)~8月10日(日) ※第1弾をご購入いただいた方は、第2弾の提供期間中も引き続き第1弾のデザインテーマにてゲームをプレイしていただくことができます。 ※本ゲームはハッピーセット「ハローキティ」のおもちゃの箱に印刷された二次元バーコードを読み取って、お手持ちのスマートフォンでお楽しみいただくことができます。 ※本ゲームをプレイしていただくために、ハッピーセットご購入以外の追加購入の必要はございませんが、データ通信費はお客様のご負担となりますので、あらかじめご了承ください。 ゲームイメージ 【SNSキャンペーン概要】 本コラボレーションを記念し、スイカゲーム公式Xアカウント上では、オリジナルデザインのマックカードやスイカゲーム特大ぬいぐるみなどの限定グッズが抽選で当たるキャンペーンを2回に分けて実施します。 ■ SNSキャンペーン Part 1:フォロー&リポストキャンペーン ・キャンペーン期間:7月18日(金)9:00~7月24日(木)23:59(予定) ・キャンペーン応募方法: 1)@SuikaGame_jp と@McDonaldsJapanのX公式アカウントをフォロー 2)対象となるスイカゲーム公式アカウントからの投稿をリポスト ・賞品:   - オリジナルデザインマックカード(500円分)× 100名様 SNSキャンペーン Part 1:フォロー&リポストキャンペーン ■SNSキャンペーン Part 2:投稿キャンペーン ・キャンペーン期間:7月25日(金)9:00~8月7日(木)23:59(予定) ・キャンペーン応募方法: 1)ゲームプレイ中の画面をスクリーンショット 2)#ハッピーセットでスイカゲーム のハッシュタグと1)のスクリーンショットを 付けてXに投稿 ・賞品:   - スイカゲーム特大ぬいぐるみ(直径約45cm)× 3名様   - オリジナルデザインマックカード(500円分)× 100名様 SNSキャンペーン Part 2:投稿キャンペーン ■オリジナルマックカード(賞品) オリジナルマックカードデザイン 【ハッピーセット ハローキティ 商品概要】 ハッピーセット「ハローキティ」は、株式会社サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」のおもちゃで、日焼け・水着・浴衣など、夏をテーマにした全6種類のラインアップで2025年7月11日(金)より、全国のマクドナルド(一部店舗を除く)にて期間限定で登場します。ミニトレーやスプーン&フォークでお食事を楽しんだり、アイスメーカーなどでお料理をしたりする遊びは、生活習慣と手指を器用に動かす身体動作の能力を高めます。また、家族や友達に、おにぎりメーカーで作ったおにぎりをごちそうする遊びは、社会性・感情を豊かに育みます。ハローキティのおもちゃを日々の生活に取り入れて、キラキラと楽しい夏を想像しながら遊ぶことができます。 ■販売エリア : 全国のマクドナルド店舗(一部店舗を除く) ■販売期間  :  第一弾:7月11日(金)~7月17日(木)  第二弾:7月18日(金)~7月24日(木)  第三弾:7月25日(金)~8月7日(木) ※各おもちゃは、数量に限りがございますので、なくなり次第終了いたします。 ※在庫の状況に応じて、過去販売したおもちゃ等をお渡しする場合がございます。 ■販売時間  : 全営業時間中 ■店頭価格  : 510円~(一部店舗及びデリバリーサービスでは価格が異なります) ※販売内容などの詳細は https://www.mcdonalds.co.jp/menu/happyset/ にてご確認ください。 ※価格はすべて税込となります。 【お客様のお問い合わせ先】 マクドナルド公式ホームページ https://www.mcdonalds.co.jp/ ■スイカゲーム(R)について スイカゲームは、同じフルーツをぶつけて”シンカ”させ、スイカを作りながらハイスコアを目指す、シンプルでカジュアルなパズルゲームです。手軽にどこでもプレイできる容易さ、シンプルなルール、可愛いキャラクターなどで幅広い年齢層のユーザーから人気を博し、累計ダウンロード数は1,100万を突破しています。(2025年7月現在)また、2024年下半期には「日本ゲーム大賞 ムーブメント賞」、「日経トレンディ 2024年ヒット商品ベスト30 第7位」、「Google Play ベスト オブ 2024 インディー部門 大賞」を連続して受賞するなど、継続的に話題を獲得しています。 ・「スイカゲーム」公式サイト:https://suikagame.jp ・「スイカゲーム」公式X(Twitter):https://x.com/SuikaGame_jp ・「スイカゲーム」公式YouTube:https://www.youtube.com/@suikagame_jp ■Aladdin Xについて 「おうちを、魔法の暮らし空間に。」をコンセプトに、世界初の照明一体型3in1プロジェクター「Aladdin X」(旧popIn Aladdin)、超短焦点プロジェクター「Aladdin Marca(アラジン マルカ)」などをラインナップした「Aladdin X」シリーズを展開。 ・Aladdin X公式サイト:https://www.aladdinx.jp/                 (C)︎ 2021 Aladdin X Inc. ※スイカゲームはAladdin X株式会社の登録商標です。 ※Nintendo Switchは任天堂の商標です。 (C)︎ 2025 SANRIO CO., LTD. APPROVAL NO. L655449
住宅ローン返済中の3人に1人が“後悔” その内容は3位「借入期間」、2位「頭金の割合」、1位は…? 大手金融機関1万人調査
住宅ローン返済中の3人に1人が“後悔” その内容は3位「借入期間」、2位「頭金の割合」、1位は…? 大手金融機関1万人調査 写真はイメージです(gettyimages)   人生でもっとも高額な買い物といえば、「住宅」だろう。しかし、住宅の購入費用を一括で支払うことは難しい。そこで、多くの人が利用するのが住宅ローンである。  住宅ローンは、銀行や信用金庫などの金融機関が提供する「民間ローン」が代表的だ。金利タイプは市場金利の変化によって適用金利が変わる「変動金利型」、一定期間は固定金利が適用され、その後に変動する「固定金利特約型」、完済まで金利が一定の「全期間固定金利型」に分かれる。  さらにローンの組み方もいくつかあり、一人が主債務者となる「単独ローン」、夫婦それぞれが別々に借り入れる「ペアローン」、2人でひとつのローンを借りる「連帯債務」や「連帯保証」がある。  一口に住宅ローンといっても、選択肢はさまざまだ。これらを見比べて自分に最適な住宅ローンを組んで、購入することになるが、後になって後悔する人も多いという。 「借入金額を少なくすればよかった」  今年1月、三井住友信託銀行株式会社が設置している「三井住友トラスト・資産のミライ研究所(以下、ミライ研)」は、約1万人(18~69歳)を対象とした独自アンケート調査結果を公表した。住宅ローンを返済中の人(1227人)に、住宅ローンに対する後悔の有無を質問したところ、35.4%が「後悔あり」と回答。実に住宅ローン返済中の3人に1人が何らかの後悔をしていることがわかったのだ。  後悔の内容でもっとも多かったのは「借入金額を少なくすればよかった」(30.1%)、次いで「頭金の割合を多くすればよかった」(24.9%)、「借入期間を短くすればよかった」(16.7%)となった(複数回答)。  この調査を担当したミライ研の矢野礼菜さんは、次のように語る。 「現在、日本は“金利のある世界”へと移行しつつあり、住宅ローンを取り巻く外部環境も大きく変化しています。こうした中で、住宅ローンを借りた当初に想定していた状況と、実際に返済が始まってしばらく経った今の状況は、ギャップが生じています。そのため、『思っていたのと違った』と感じる人が増えているのではないでしょうか」  2024年3月に日本銀行がマイナス金利政策を解除し、金利を引き上げ、日本は約17年ぶりに「金利のある世界」となった。それに伴い、住宅ローンの金利は上昇傾向にある。  最近では、共働き「2馬力」によるペアローンの借り入れや、返済期間を長く設定した50年ローンでの借り入れなど、希望する物件を購入するために、あらゆる手段を駆使して住宅ローンを組んでいる人も少なくない。 「不動産価格が上昇している現状を踏まえると、そうした行動はある程度やむを得ない面もあると思います。ただ、マイホームを購入した瞬間は大きな満足感が得られるかもしれませんが、返済が始まってからは、(返済金額による家計の圧迫などで)理想の生活と現実の生活のギャップに直面し、後悔につながるケースもあるでしょう」(前出の矢野さん) 違和感のない数字  もし、そうした「後悔」があるのであれば、それを可視化し、これから住宅ローンを検討する方にとって参考となる情報を発信していきたい……。それが今回の調査を行うに至った動機のひとつだという。 「調査の結果を見て思っていた以上に、後悔している人が多いという印象を受けました。一方で、このリポートを発表した際に業界関係者へ共有したところ、あるファイナンシャルプランナーからは、『確かに後悔の声は多く、現場の肌感覚としては違和感のない数字ですね』というコメントもいただきました」(同)  住宅を購入する際、多くの方は将来を見越して判断しているはずだ。しかし、その後、生活環境が変化したり、金利が変動したりと、世の中は常に変わり続けている。 「購入当時の判断が適切だったとしても、その後もその判断がずっとベストであり続けるとは限りません。そういった将来の不確実性が、後悔の一因になっているのではないかと思います」(同)  また、同調査では住宅ローンに関する後悔を、「借り入れ形態(単独ローンかペアローンか)」に分けて分析したところ、借り入れ経験者で「後悔あり」と回答した割合は、ペアローンが41.6%と、単独ローンの36.2%より高い割合であることもわかった。 「リポートでは公開していませんが、アンケートではさらに詳しい設問を用意しており、『家族構成の変化に備え』『働き方の変化に備え』『住み替えに備え』といった3つの観点から、借り入れ形態の後悔の背景を細分化しています。その中でもっとも多かったのが、子どもが生まれたり離婚したりするなど、『家族構成の変化に備えて、ペアローンではなく単独ローンにしておけばよかった』という回答でした。つまり、ライフスタイルの変化が、後悔の要因になりやすいのだと考えています」(同) 絶対に安心はない  現在、不動産価格の上昇により、都内で住宅を購入するには、共働きでないと現実的に難しい。それに、終身雇用が前提でなくなりつつあり、「年を取れば給料が上がり、最後に退職金で繰り上げ返済すればよい」といった従来のような考え方が、今の時代には合わなくなってきている。  だからこそ、矢野さんは「余裕のないローン設計」には、それなりのリスクがあると考える。 「家計の状況は人それぞれ異なるため、『これをしておけば絶対に安心』というような方法は、住宅ローンに関しては存在しないと思っています。住宅ローンを借りる際には、『金融機関の審査に通るかどうか』や『どれだけ有利な条件で借りられるか』といった点に意識が向きがちです。ただ、『これ以上は借りられない』というギリギリの水準まで借りるのではなく、返済に余裕を持たせた借り方を意識することも非常に重要です」(同)  住宅ローンは30年以上にわたるなど長期の借り入れであるにもかかわらず、どうしても「今」の情報だけで決める必要があるという難しさがある。「貧すれば鈍する」とはよく言ったもので、身の丈に合った住宅購入をしたほうが、将来後悔せずに、幸せに暮らしていけるはずだ。 (AERA編集部・古寺雄大)
AI時代に生き残るために大切な3つの力とは? 東大卒ママが高濱正伸先生に聞く
AI時代に生き残るために大切な3つの力とは? 東大卒ママが高濱正伸先生に聞く 高濱正伸さん 撮影/上田泰世(写真映像部)  日常生活のあらゆるところにAIが浸透し、ここ数年で私たちのライフスタイルは大きく変化しています。親世代が生きてきた価値観とは異なるなか、これからのAI時代を生きる子どもたちにはどんな力が必要になるのでしょうか。子どもをサポートするときに親が持っておきたいマインドは? 「メシが食える大人に育てる」を理念とする花まる学習会代表・高濱正伸さんに、AERA with Kidsアンバサダーで東大卒ワーママのyuuさんがインタビューしました。新連載「AERA with Kidsアンバサダーが全力取材! 子育てのギモンをぶつけてみた」第1回前編をお届けします。※後編<「忙しい親が“文章題”を見てあげることから不幸が始まる」教育のプロが語る理由とは? 東大卒ママと対談>に続く 人間にしかできない“ストリートファイトする力” yuu:今日は以前から大ファンで、同じ東大農学部の大先輩である高濱先生にお話をうかがえて光栄です! 私は企業人事のコンサルとして社会人の育成にたくさん携わっているのですが、社会人として自由な発想が求められる中で、それができずに苦労する方が多いなと感じます。実際に今でも小3の息子の教育環境を見てみると、まだまだ先生が決めたことに沿って考えるのが前提で、外れたことは求められていないのが現状です。教育と社会で求められる力にすごく乖離があると感じています。 高濱:それはすごくあると思います。社会はイノベーションを求めているけれど、それが起こせるような教育を受けていないんです。 yuu:イノベーションの最たる生成AIがさらに進化する中で、子どもたちはどんな力を磨いていけばいいのでしょう? 高濱:合理的な判断はすべてAIができるような時代に、何が残るか? 以前お会いした宮澤弦さん(LINEヤフー株式会社 生成AI統括本部長)は、“ストリートファイトする力”だと表現していました。 yuu:「サバイブする力」ということでしょうか? 高濱:その通り。人間同士はAIと違って合理で動くわけではないですよね。だから、「人を巻き込む」とか「真剣に向き合う」とか、「押しの強さ」とか「魅了する」とか。そういった人間同士にしか生まれない力が必要になっていくのではないではないかと。 yuuさん 撮影/上田泰世(写真映像部) 高濱:例えば、医師は治療や診断だけでなく、親身になって話を聞いたり安心させたりすることも大切ですよね。コミュニケーション力というときれいですが、AIのような合理的なものではなく、人間特有の“不合理なこと”を「どう楽しむか」が重要になると思います。   だから、夫婦関係なんてまさに「サバイブ力」が問われるじゃないですか(笑)。子どもが生まれた途端に「母親」になる妻に夫はどう対応していくのか。「うまくいかない状況を楽しむ力」、これは夫婦だけでなく親子や同僚、さまざまな関係性で役立つ、21世紀を強く生きるために必要な力だと思います。 yuu:困難な状況を楽しむには、どんなマインドが必要ですか? 高濱:「人が好き」「人に興味がある」みたいな気持ちが大切なんじゃないでしょうか。  私はクレーマーの話を聞くのが好きなんです。「この人も赤ちゃんのころはきっとかわいかったはずなのに、なぜこういう人になったんだろう?」という視点で話を聞いていくと、必ずその原因があります。「こうなったのはなぜだろう」と相手の立場になって見つめてみると、困難を乗り越えられるヒントが見つかるかもしれません。テストの点数や偏差値にとらわれていると、AI時代には大きな壁にぶつかってしまうかもしれませんね。 これからの時代を強く生きるために大事な3つの力 yuu:学歴社会ではないということは明らかですよね。「サバイブ」していくためにどんな力が大切ですか? 高濱:これからの時代をサバイブしていくには、計算や漢字などの基礎力の土台があった上で、「思考力」「べき力」「博士力」の3つの力が大切だろうと考えています。一つ目の「思考力」は、物事を主体的に考え抜く力。二つ目の「べき力」はやるべきことをやる力です。社会の大半の仕事はフォロワーですから、業務を淡々とこなす力も意外と重要なんです。  もう一つ重要なのが「博士力」。自分の関心に忠実にひたすら突き進む力です。さかなクンみたいな。何かに夢中になってとことん突き詰める力も、AI時代に生き残る一つのエンジンになるんじゃないでしょうか。  左 yuuさん 右 高濱正伸さん 撮影/上田泰世(写真映像部) 高濱:先日、研究者の落合陽一さんのお母様・落合ひろみさんと対談したんですが、彼は子どものときにゴキブリをずっと飼っていたと話していました。なかなか受け入れにくいと思いますが、「ゴキブリが好きなら、まあしょうがないかな」って見守っていたそうです(笑)。 yuu:受け入れてくれるお母様、すごいですね(笑)。 高濱:子どもたちが興味を持つものって、大人から見ると何になるんだろうと思うものだったりもします。でも子どもにはそんなこと関係ないんです。だから、子どもに寄り添って「それ面白いね」って伴走してあげてほしい。大人の価値観で「そんなの意味ない、お金にならないよ」って言い始めてしまうと、その子の可能性を摘み取ってしまいかねない。 yuu:私は小学生のころ、リカちゃん人形が大好きで洋服を作ったりしていました。今、親子リンク服のブランドを立ち上げて、子どものときしていたことがつながってくるのかなと。そう考えると、私の息子にも対象がなんであれ、何かを突き詰めていく経験をやらせてあげたいなと思います。  高濱:親御さんの気持ちもわかりますけどね。「電車ばっかりじゃなくて、少しは算数もやろうよ」みたいな(苦笑)。 親は「博士力」をどうサポートする? yuu:わかります。親が寛容な心を持つことも大事でしょうか? 高濱:というか、「わが子の目が輝いていることを楽しむ」ことです。赤ちゃんのころはそうしていたはずなのに、いつのまにか自分の価値観を持ち込んでしまう。わが子が夢中でなにかをしている姿を慈しむ気持ちを忘れないでほしいですね。 yuu:私は大学時代、東大に入ることがゴールで燃え尽きてしまっている人が多いことが衝撃的でした。小学校高学年くらいからずっと勉強を頑張ってきて、大学に入れたから好きなことしていいよと言われても、難しいのかなと思います。 高濱:社会で求められている力と受験に必要な力が乖離しすぎているのは本当にそうですよね。  親御さんを見ていて一つ感じるのは、特に母親が男の子の関心に寄り添えない例が多いのではないかということ。どろんことか戦いとか、虫の足をちぎってみちゃうとか。男の子が目を輝かせて「いいこと思いついちゃった!」って言うことって、母親にとっては大体止めたいことですよね(笑)。でも、ちょっとがんばって見守ってほしい。 yuu:うちの息子は3歳半くらいからプラレールを分解しはじめて、もちろん分解しても直せないんですが、好きにやらせていたら4歳くらいで元に戻せるようになって。今もそういうことが得意です。分解しているときの目を見ると、グーっと集中してるんですよね。やってることは無茶苦茶だけど、顔がすごく真剣。それを見たら、止めなくてもいいかなと。  イライラすることもあるのですが、親が怒りすぎちゃうと、思いついたことを自由にやってみる力が鍛えられないのではと思います。本当にいいところが減ってしまう気がして。 そういえば、高濱先生はフリースクール(花まるエレメンタリースクール)も運営されていますよね。 高濱:学校教育からはみ出てしまう子どもたちの才能を伸ばせないかと考えて作ったスクールです。とがった子が多いので、教員もそれに対応できる能力のある人を集めているので個性豊かです。 でも、そのとがった力が、これからの世界を変えていけるかもしれませんよね。  (構成/布施奈央子) ※後編<「忙しい親が“文章題”を見てあげることから不幸が始まる」教育のプロが語る理由とは? 東大卒ママと対談>に続く 高濱 正伸さん 撮影/上田泰世(写真映像部) 〇高濱 正伸 (たかはま まさのぶ)/花まる学習会代表。 1959年熊本県生まれ。東京大学大学院農学系研究科修士課程修了。武蔵野美術大学客員教授。環太平洋大学特任教授。算数オリンピック作問委員。93年に「メシが食える大人に育てる」の理念のもと「作文」「読書」「思考力」「野外体験」を軸にした「花まる学習会」を設立。会員数は2023年で2万人を超えている。 yuuさん ○yuu/AERA with Kidsアンバサダー(4期)。東京大学卒業。小学3年生の男の子を育てるシングルマザー。コンサルとしてフルタイムで働く傍ら、親子リンク服”SUGAR”のディレクターを務める。インスタでは知育や美容、旅行など幅広く発信中。共著に『東大脳を育てる3歳までの習慣』(小学館)。
【2025年上半期ランキング スポーツ編10位】大谷翔平のお世話は「過酷」「低賃金」で「追い詰められた」 水原一平被告の申立書に通訳仲間らが怒りの反論
【2025年上半期ランキング スポーツ編10位】大谷翔平のお世話は「過酷」「低賃金」で「追い詰められた」 水原一平被告の申立書に通訳仲間らが怒りの反論 水原一平被告    2025年も折り返しです。1月~6月にAERA dot.またはAERA DIGITALに掲載され、特に多く読まれた記事を、ジャンル別にランキング形式で紹介します。スポーツ関係の記事の10位は「大谷翔平のお世話は『過酷』『低賃金』で『追い詰められた』 水原一平被告の申立書に通訳仲間らが怒りの反論」でした(この記事は2月2日に配信されたものです。年齢や肩書などは当時のまま)。 *   *   *  ドジャースの大谷翔平の口座から巨額の不正送金をして銀行詐欺罪などに問われている元専属通訳の水原一平被告の裁判が動きだした。連邦検察は1月23日、水原被告に対し、4年9カ月の禁固と大谷への約1700万ドル(約26億3000万円)の賠償を求刑。水原被告は連邦地裁に申立書を提出したが、その内容が物議を呼んでいる。    水原被告は申立書で、大谷の通訳として「過酷な労働環境」と、それに見合っていない「低賃金」を訴えた。  報道によると、過酷な労働環境について水原被告は、大谷の通訳だけでなく「ほとんどをサポートする必要があった」とし、送り迎えや食料品の買い出し、郵便物の確認、犬を獣医やトリミングに連れて行くことなど、「毎日24時間待機」する状況だったと記した。とくにシーズンオフは多忙で、大谷が毎日のように練習するため、施設の予約や練習の記録、練習パートナーの役割まで対応しつつ、日々の雑事をこなし、「肉体的にも精神的にも追い詰められた」と主張した。  これに対する報酬について水原被告は、大谷がエンゼルスに在籍していたときはエンゼルスから年俸を受け取っていたが、2018年は8万5000ドル(約1300万円)、19年から21年までは8万7000ドル(約1350万円)、2022年は9万9611.16ドル(約1500万円)、2023年は25万ドル(約3800万円)で、ほかに大谷からシーズン中は月額2万円、オフシーズンは月額約40万円が支払われていたと記した。それでも、大谷の家の近くの高級住宅地に家を借りるため高い家賃を払わなければいけなかったことや、日本と米国を往復する航空運賃の負担などがあり、「仕事の対価としては低賃金だ」と感じていて、お金に困ってギャンブルに手を出したと主張している。  この主張について、かつて日本人メジャーリーガーの通訳を務め、水原被告と交流があった球界関係者は「彼は勘違いしていますよ」と語気を強める。 大谷の専属通訳として常に付き添っていた水原被告 「通訳としては破格の待遇です」 「米国で通訳が選手の身の回りの世話をサポートするのは、大谷だけに限った話ではありません。僕も選手のトレーニングをサポートしてデータを作り、グラウンド外でもスーパーで食料品を買って料理を作り、選手が行きたい場所に送り迎えし、家族が来た時のエスコートなど通訳以外の仕事をしていました。日本で通訳をしていた時に比べて忙しかったけれど、やりがいを感じました。  水原さんがオフシーズンの業務にストレスを感じていたなら、大谷と話し合えばいい。記事で見ましたが、大谷からポルシェをプレゼントされ、歯の治療という名目で6万ドル(約900万円)を受け取っている。十分に厚遇されていたと思いますよ。物価が高い米国での生活を考えると、エンゼルス時代に年俸8万5000ドルで大谷の自宅近くの高級住宅街に住んでいる時は金銭面の余裕がなかったかもしれません。でも、その後は年俸が増え、ドジャースでの年俸は8000万円近かったといいます。通訳としては破格の待遇です。生活が苦しいからギャンブルに手を染めたという理屈は無理があります。何十年も大谷の通訳をするわけではないし、嫌なら辞めればよかっただけの話です。あまりにも自分勝手な考えに落胆しました」  過酷な労働で低賃金だったという主張には、米国駐在の通信員も首をかしげる。 「食事の送り迎えといっても、大谷はシーズン中にほとんど外食に行きません。犬を獣医やトリミングに連れていくことも頻繁ではないでしょう。大谷はしっかり睡眠をとることでも有名です。水谷被告は日本にいる関係者とやり取りする際に、時差の関係で深夜に対応して睡眠不足になったことはあるのかもしれませんが、『毎日24時間体制の過酷な労働環境』だったという主張はちょっと無理があるように感じます」  かつて日本ハムで通訳を務めていた水原被告は、大谷が日本ハムからポスティングシステムを利用してメジャーに挑戦する際、専属通訳として一緒に海を渡った。当時の球団関係者はこう振り返る。 「ちょっと意外に感じたんですよね。彼は通訳としては優秀ですが、気の利くタイプではない。大谷の身の回りのサポートができるかなと。だから大谷のサポートをきっちりこなしている様子に凄いなと感じていました。ただ、こんな形で信頼を裏切る形になってしまって……」 ロサンゼルスの連邦裁判所 「隠れるようにずっと電話をしていた」  大谷が投打の二刀流で圧巻のパフォーマンスを見せていくにつれ、水原被告は大谷の「相棒」として、米国でも人気者となっていった。唯一無二の道を突き進む大谷を水原被告は献身的に支えていたように見えたが、スポーツ紙の記者は22年ごろから「ある異変」を感じていたことを明かす。 「水原被告が球場にいる時、ずっと電話をしていたんですよね。ロッカー裏に隠れるような感じでした。大谷の関係者との橋渡し役で忙しいのかなと思ったら、日本ハムの球団幹部やスポーツメーカーの人が『一平に電話が全然つながらないし、折り返しもない』と漏らしていたんです。大谷の通訳として米国のメディアに対応する時も目がずっと泳いでいたことがありました。体調不良かなと思いましたが、この時はすでにギャンブルで多額の借金を背負っていた可能性があります」  連邦検察は1月30日、水原被告の申立書の内容は「裏付けがない主張だ」と反論する意見書を裁判所に提出したと報じられた。水原被告への量刑は2月6日に言い渡される。 (今川秀悟)
大学No. 1ストライカーの海外挑戦は成功するのか!? 過去の「大学から“Jリーグ経由せず”に欧州直行」の選手たち
大学No. 1ストライカーの海外挑戦は成功するのか!? 過去の「大学から“Jリーグ経由せず”に欧州直行」の選手たち 大きな期待を背負ってオランダへ渡った平山だったが…(写真提供・日刊スポーツ)  今夏も日本人選手たちの海外移籍が続々と発表されている。その中に一人、大学生が混じっている。筑波大3年のFW内野航太郎だ。パリ五輪の本大会メンバーからは落選したが、U-23代表にも名を連ねた身長186センチの万能ストライカー。昨季まで鈴木唯人が所属したデンマーク・ブレンビーと4年契約を交わし、この7月からチームに合流する。大学No. 1ストライカーとしての呼び声も高い内野の欧州での活躍と成長が期待されるが、この“Jリーグを経由せず”に「大学→欧州直行」の移籍は果たして成功するのか。過去の例を振り返ってみたい。  大きな話題を集め、かつ期待を背負ったのが、平山相太(筑波大→ヘラクレス)だった。190センチの長身と左右両足でのシュート力を武器に国見高校時代に全国高校サッカー選手権で2年連続得点王となり、2003年、05年のワールドユース(現U-20W杯)に2大会連続で出場し、2004年のアテネ五輪にも19歳ながら飛び級で出場した怪物FWだ。高校卒業後に筑波大学に進学したことが当時大きな物議を醸したが、2年生となった夏に大学を休学(のちに退学)し、オランダ1部のヘラクレスに移籍した。  そのデビュー戦で2得点を挙げるなど1年目の2005-06シーズンはリーグ戦31試合出場でチーム最多の8得点を奪ったが、監督が交代した2年目はリーグ戦出場1試合と出番を失い、2006年9月にFC東京に入団した。ここからキャリア再構築となるはずだったが、Jリーグでの通算12シーズンでリーグ戦最多得点は2010年の7得点。10代の頃に背負っていた期待感は歳を重ねるごとに薄れ、海外生活2年間の経験も活かすことができずにユニフォームを脱ぐことになった。  平山の2学年下で、平山よりも5センチ身長が高かったのが、林彰洋(流通経済大→プリマス・アーガイル)だ。流通経済大柏高校時代から評判の大型GKで、大学1年時の2007年にイビチャ・オシム監督からA代表の候補合宿に呼ばれて注目され、同年のU-20W杯では“調子乗り世代”の正GKとして活躍した。  その実力、実績から数々のオファーを受けた中、林は2009年9月にチャンピオンシップ(イングランド2部)のプリマス・アーガイルへの移籍を決断する。しかし、GKというポジション柄、出番に恵まれず。2010年6月にベルギー3部オリンピック・シャルルロワへ移籍して海外デビューを飾ったが、故障でレギュラーの座を明け渡し、2012年1月に清水エスパルスに加入した。その後、サガン鳥栖、FC東京で活躍して日本代表にも選ばれ、38歳となった現在もベガルタ仙台の正GKとしてプレーしている。海外での2年半は林にとって間違いなく大きな経験となっているが、言葉も含めて苦労した日々ではあった。  現地で高い評価を得ながら怪我によって帰国したのが、長澤和輝(専修大→1.FCケルン)だ。八千代高校時代に主将として選手権に出場して大会優秀選手に選出され、専修大学では1年生の時からレギュラーとして出場し、4年時には主将として関東1部リーグ3連覇を成し遂げた。同時に横浜F・マリノスの特別指定選手としてナビスコ杯(現ルヴァン杯)に出場したが、2013年12月に当時ブンデスリーガ2部の1.FCケルンと契約を交わした。そして加入直後から出番を得ると、半年間でリーグ戦10試合に出場してチームの2部優勝&1部昇格に貢献した。  しかし、その後に左膝靭帯断裂の重傷を負って出番を減らし、2015年12月に浦和レッズと契約して帰国した。その後、浦和以外にもジェフ千葉、名古屋グランパス、ベガルタ仙台でプレーして実績を残し、2017年11月にはハリルホジッチ監督のもとでA代表デビューも飾った。しかし、日本代表での出場は1試合のみ。2024年8月にはAリーグのウェリントン・フェニックスFCに移籍して33歳となった今も現役でプレーしているが、「もし、怪我なくドイツでプレーを続けていれば……」との思いもよぎる。  今季、浦和レッズで不動の地位を築いている渡邊凌磨(早稲田大→インゴルシュタット)も大学から直接、海外に渡った一人だ。高校時代は前橋育英で鍛錬を積み、2年時に出場した2013年のU-17W杯で3得点の活躍を見せ、3年時にはエースとして選手権準優勝に貢献した。そして早稲田大学に進学したが、入学半年足らずの2015年9月にドイツ・インゴルシュタットに移籍した。  以降3年間、U-23チームでプレーして試合経験を積んだが、トップチームでは公式戦に出場することなく、2018年7月に当時J2のアルビレックス新潟と契約を交わして帰国。その後、J2モンテディオ山形を経て、2021年にJ1のFC東京、そして2024年から浦和レッズでプレーしている。優れたテクニックと豊富な運動量と高い万能性を持つMFとして活躍し、クラブW杯の舞台でもゴールを決めたが、年齢的には今年の10月で29歳になる。ドイツでの3年間で学んだことは多かったが、キャリア形成の面では渡独が成功だったかどうかは微妙なところだ。  現在、ヴィッセル神戸に所属する小池裕太(流通経済大→シントトロイデン)は、大学4年の夏にベルギーに渡った。アルビレックス新潟ユースから流通経済大学へ進学し、大学2年時の2016年には特別指定選手として鹿島アントラーズでルヴァン杯に出場した経験も持つ。優れた得点力を搭載する左利きの左サイドバックとしてユニバーシアード代表でも活躍して評価を高めた小池は、大学を休学してシントトロイデン行きを決断した。  しかし、試合に絡めない日々が続き、海外生活への順応にも苦しんで半年で帰国。その後、鹿島への期限付き移籍終了後、セレッソ大阪、横浜F・マリノスを経て、今季から神戸に所属しているが、いずれも不完全燃焼のシーズン。帰国1年目の鹿島時代に決めた“ロベカル級”のプロ初ゴールが大きな話題を集めたが、昨季までの6年間でレギュラーに定着できないまま28歳となっている。  昨夏のパリ五輪に出場した佐藤恵允(明治大→ブレーメン)は今季、FC東京で存在感を発揮している。コロンビア人の父を持ち、男性アイドルグループSixTONES(ストーンズ)のジェシーの従兄弟でも知れるアタッカー。実践学園高校から明治大学へ進んで力を伸ばし、3年時から背番号10を付けて活躍し、大学2年時に世代別代表に初選出されて知名度も高めた。そして大学4年の2023年8月、国内複数クラブからのオファーがあった中、ドイツ・ブレーメンへの移籍を決めた。そしてブレーメンU-23チームでプレーを続け、大岩ジャパンから継続的に招集されてパリ五輪のピッチにも立った。  しかし、ドイツのトップチームでは3試合にベンチ入りしたのみで出場なし。2025年1月にFC東京と契約を交わして帰国した。現在23歳。1年半でドイツに見切りを付けた形となったが、迎えたJリーグ初挑戦となった今季は、ここまでリーグ戦全22試合(スタメン13試合)に出場して4得点3アシストをマーク。下位低迷と苦しむ中でも攻守にアグレッシブなプレーを見せてサポーターの心を掴んでいる。  直近では、塩貝健人(慶應義塾大→NECナイメヘン)がいる。國學院久我山高校でチームを選手権出場に導き、慶應義塾大学では1年時から出番を掴んで得点を量産した本格派ストライカー。2024年1月には横浜F・マリノスへの特別指定選手認定と加入内定が発表されると、大学2年になった直後の2024年4月にJリーグデビューを飾り、リーグ戦7試合に出場して1得点をマークした。  だが、そこで将来プランを再設計。同年8月に横浜FMとの特別指定及び加入内定を解除してNECナイメヘンと契約してオランダへ渡った。迎えた海外1年目の2024-25シーズンは途中出場が主ながらリーグ戦25試合に出場して5得点1アシストをマーク。今夏のザルツブルク移籍はメディカルチェックで故障が判明して破談となったが、欧州内での評価は確実に高まっている。現在20歳。今後の日本代表入りも期待されている。  こうして振り返ると、まだ現役選手が多い中ではあるが、「大学→欧州直行」の成功例は少ないと言わざるを得ない。また、大学ではなく、高校から直接、欧州へと渡った選手には、伊藤翔(中京大中京高→グルノーブル)、宮市亮(中京大中京高→アーセナル)、木下康介(横浜FCユース→フライブルク)、チェイス・アンリ(尚志高→シュツットガルト)、福田師王(神村学園高→ボルシアMG)、吉永夢希(神村学園高→KRCヘンク)、小杉啓太(湘南ベルマーレユース→ユールゴーデン)、高岡伶颯(日章学園→サウサンプトン)などがいるが、こちらも“まだこれから”の選手が多く、小杉が成功例と言えるが、現状では苦しんでいる選手の方が多い。  この評価を、内野が覆すことができるか。吉田麻也と内田篤人が、サッカー番組での対談内で「海外挑戦に最も必要なことは?」の問いに「根性」と口を揃えたが、果たしてどうなるか。日本サッカー界全体においても、この「欧州直行」の成否が、今後の強化の鍵を握ることになる。 (文・三和直樹)
ポーラの102歳現役美容部員が教える「ワークライフバランス」 働くことがつらくなくなる考え方のコツ
ポーラの102歳現役美容部員が教える「ワークライフバランス」 働くことがつらくなくなる考え方のコツ 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部) 「仕事って、つらいものじゃなくて、暮らしを動かす工夫なのよ」。102歳・堀野智子さんが語る、働くこととの前向きな向き合い方。注射器の箱を作る内職、梨やリンゴ農家での力仕事など、育児と両立しながらいくつもの仕事をこなしてきた堀野さん。辛い状況下でも「働けばいい」「何か他にできることはないかしら?」と前を向くその姿勢には、しなやかな強さと生活力がにじんでいます。「働くことも生きること」と実感してきた彼女が語る、仕事をつらいものにしない考え方を、堀野さんの最新刊『102歳、今より元気に美しく』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・加筆再編集して公開します。 *  *  * ――堀野さんは今までたくさんのお仕事をしてきたと伺いました。そこから得た「働くこと」への向き合い方のヒントがあれば教えてください。  私は「働くこと=つらいこと」と思ったことが全然ありませんでした。  夫がお金を入れてくれないなら自分が働けばいいか、と思えたのも仕事に対するよくないイメージがなかったからだと思います。  とはいえ、小さな子どもが3人いる私にはどうしたって制約があります。  そこでまずは家の中でできる内職を始めました。  最初にやったのは、注射剤の保管に使われる密閉容器を入れるための箱作りです。密閉容器はガラスでできているので、箱の中で動くことのないようにきっちりとサイズを守って作らなければなりません。  もともとは隣の家の奥さんがやっていた内職で、「私もやりたい」と内職の発注元である薬屋さんを紹介してもらって始めました。  驚かれるかもしれませんが、まだ市販の糊があまり出回っていない時代だったので、ご飯粒を煮て糊作りから自分でしなければなりませんでした。  密閉容器が動かないよう、中に仕切りが必要なので、なかなかに複雑な造りです。紙をずらりと並べ、順番に糊付けをし、紙が糊の湿り気で少しやわらかくなったタイミングを見計らい、山折り谷折りを意識しながら、本体に仕切り紙を貼り付けて組み立てていきます。  内職なので、収入は「単価×個数-仕事を持ってきてくれた人への手間賃(運び賃)」となります。  たくさんこなせばこなすほど手取り金額が増えるので、夢中になってやりました。 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)  最初のうちは1日50個作るのがやっとでしたが、手が慣れてくるに従って100個、150個、200個と作れる数が増えていきます。  最終的に300個作れるようになり、手間賃を引いた手取り額が1か月4500円になったんです。  昭和20年代の終わりごろのことですが、当時の大卒初任給が5600円くらいだったので、バカにならない収入でした。  夫婦と子ども3人の計5人が食べていくには十分な金額だったと思います。  とはいえ、この内職、たまに途切れることがあったんですね。私の内職頼りの生活をしていたので、そうなるとたちまち困窮してしまいます。  そこで私が思いついたのが、「他の収入源を持つこと」でした。  近所に梨畑があって、平日はそこの家の奥さんが一人で農作業をしていたので、「私にも手伝わせてもらえない?」と尋ねてみたんです。  すると「そうしてもらえるとすごく助かる!」ということで、早速、働かせてもらえることになりました。何でも言ってみるものですね。  最初にしたのはあまり育ちがよくなさそうな梨を間引く作業でした。1本の枝にたくさんの梨の実がなるのですが、それを全部育ててしまってはダメなんです。  1本の枝につき、よく実りそうなのを2~3個残して間引くことで、立派な梨に育っていくんですね。  そうやって生き残った梨が大きくなると、今度は鳥に狙われる危険が出てきます。そこで梨に袋をかけて守ってやらなければなりません。  高いところで梨に袋をかけ紐で口を縛る作業になるので、それなりに体力が必要でした。若かったからできたことだと今になって思います。  そうこうするうち、梨農家の近くのリンゴ農家から「うちでも手伝ってくれない?」とお声がかかりました。  こうして「密閉容器の箱作り」「梨農家の手伝い」「リンゴ農家の手伝い」と3か所で仕事をもらえるようになり、わが家の家計はグッと安定しました。  特に果樹農家の仕事は一年を通してあったので、とても助かったんです。  3人の子どものうちまだ下の子は小さかったので、農家の手伝いに行くときは連れて行き、先方の家のお子さんと一緒に遊ばせておけるのもありがたかったです。 【こちらも話題】 #17 102歳現役美容部員が、今でも美しくありたい理由 夫から言われた「今の時代では考えられない一言」 https://dot.asahi.com/articles/-/257563 #18 102歳現役美容部員「新しいものには目がないの」 今でも好奇心を大切にする心の健康法 https://dot.asahi.com/articles/-/257564 #19 102歳現役美容部員がふるまう“まろやかカレー”の秘密 取材陣も唸るそのコツとは? https://dot.asahi.com/articles/-/257567 #20 102歳現役美容部員「物事は悪く受け取らない」 副業を通して気づいたポジティブ思考のコツ https://dot.asahi.com/articles/-/257529 #21 102歳現役美容部員が「これからも現役でいたい」と語る理由 「働く意味」はお金じゃない https://dot.asahi.com/articles/-/259378     堀野 智子(ほりの・ともこ) 1923年4月9日、福島県生まれ。5人きょうだいの長女。女学校を卒業後、1941年逓信省(電話局)に入局する。1946年に23歳で結婚後、子ども3人、孫5人に恵まれる。1962年に39歳のときからポーラの化粧品販売員として働き始め、キャリアは60年を超える。2023年8月には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定。   102歳、今より元気に美しく 商品価格¥1,540 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
【参院選「全選挙区当落予測」つき】参政党は全国で「3」取る可能性も? 鹿児島は「自民」に禍根…「尾辻氏の三女」は競り勝つか
【参院選「全選挙区当落予測」つき】参政党は全国で「3」取る可能性も? 鹿児島は「自民」に禍根…「尾辻氏の三女」は競り勝つか 参政党の神谷宗幣代表    夏の参院選は事実上の「政権選択選挙」となる。政権与党は過半数を維持できるのか。政治ジャーナリストの角谷浩一氏と青山和弘氏が全選挙区の情勢を分析した。第3回は、九州地方の「当落予測」と政党別の現状分析を掲載する。 *  *  * 角谷 鹿児島は森山裕幹事長のお膝元ですから、自民としては落とすわけにはいかないという空気があります。ただ、無所属の尾辻朋実氏は、すでに引退表明した自民の尾辻秀久前参院議長の三女です。朋実氏は当然自民から出馬するつもりだったのですが、公募で拒否され、県内に禍根が残っている。最後は朋実氏が競り勝つかもしれません。 青山 選挙区票の見どころは、1人区において自民がどこまで票を伸ばせるかです。山梨や新潟など、接戦の区を次々ひっくり返していくようだと、自民が快勝する可能性もある。立憲と共産は1人区での候補者一本化に向けて動いており、調整が進めば自民にとっては脅威です。ただ、あまり大々的にやると、立憲は“立憲共産党”と揶揄され、支持者離れにつながりかねません。 角谷 立憲は複数区では粘りを見せるでしょうが、党としての勢いはないですね。自民は西日本の1人区に関しては盤石で、テコ入れが必要だとすれば立憲が強い東北です。 青山 はい。自民の公約には、コメの安定供給を目的とした農家への支援策が盛り込まれますが、これは選挙戦での東北対策の意味合いも込められています。 角谷 自民にとっての救世主は、なんといっても小泉農水大臣です。国民の意識を「政治とカネ」から「コメ」へと見事にずらしてしまった。都議選は裏金議員が俎上にのぼりましたが、都議選までの逆風で終わるという見方もあります。 青山 政党支持率が回復してきたことで、自民内部は余裕ムードが漂っていましたが、都議選の結果で冷や水を浴びせられた形です。現状では、自民の比例議席は13か14くらいにとどまるのではないかと思います。 角谷 自民は選挙区と比例を合わせて50議席手前を取れれば善戦と評価され、よほどの大失敗をしない限り、党内で石破おろしが加速することはないでしょう。参院選では「政治とカネ」より、物価高対策など生活への不安が大きなテーマになる。有権者が各党の給付、減税政策をどう捉えるかがポイントです。   「維新」より「参政」のほうが全国に浸透 青山 反対に、失速に歯止めがかからないのが国民ですね。山尾志桜里氏の公認をめぐる一連の騒動がなければ、比例議席は8か9は取れたと思います。今後の状況次第では、7も取れないかもしれない。 角谷 本当に、一時の人気からすると迷走している感が否めません。山尾氏に声をかけたこと自体が軽率だったと思います。玉木雄一郎代表の言葉は、「手取りを増やす」とか「年収103万円の壁を引き上げる」とか、キャッチーで歯切れがいい。前回の衆院選は現役世代向けの政策をアピールして若者に揺さぶりをかけたことで、浮動票が動いて躍進しました。でも今回は進次郎劇場のインパクトには勝てない。逆に、政治的手腕の“雑さ”が露呈してきた印象です。 青山 維新も厳しそうですね。社会保険料の引き下げという目玉政策を訴え続けることで巻き返したいのでしょうが、それで急に人気が回復することはないでしょう。何より、今の維新にはゆるゆるとした雰囲気が漂っています。国会で与党を追及する姿勢はまるでなく、むしろ自公と連立を組みたがっているようにも見える。結党当初の、改革政党としての姿は完全に薄れてしまいました。 角谷 今まで維新を応援していた保守層の票を吸い込みつつあるのが、参政です。そして共産を応援していたリベラル層を取り込んでいるのが、れいわ。右派の参政と左派のれいわが、それぞれ既成政党の票を食いに来ている。 青山 国民を見限った人たちの票が参政に流れるパターンもありますからね。参院選は全国区の選挙なので、ネット上で支持者を広げている政党は強みになる。私も角谷さんも参政の獲得議席数は2にしていますが、もう1議席増えてもおかしくないでしょう。 角谷 都議選では初議席となる3議席を獲得しました。6月に行われた地方議会選挙の結果を見ると、兵庫の尼崎市議選、福井のあわら市議選、愛知の西尾市議選、どれも参政の新人候補がトップ当選しています。特に地方では、自民党以外の政党に関心のない時代が長く続いてきましたが、小さな新興政党が明らかに存在感を持ちはじめている。関西以外に地方議員がほとんどいない維新に比べれば、参政のほうがずっと全国的に浸透しています。さすがに既成政党に取って代わるほどの実力はありませんが、各選挙区の土台を揺らす存在にはなりつつある。議席はともかく、得票数を注視したいですね。 (聞き手・構成/AERA編集部・大谷百合絵・秦 正理) 【特集:どうなる?参院選】 ■全選挙区当落予測 【参院選「全選挙区当落予測」つき】東北地方は立憲の圧勝! 東京は「国民」元NHK女性アナウンサーの動向がカギ 【参院選「全選挙区当落予測」つき】京都は舌禍事件あっても「自民・西田氏」が濃厚 和歌山「二階氏の三男」は評価分かれる ■注目候補インタビュー 「主戦場は衆院」発言の音喜多駿氏が参院選出馬 "出戻り”批判も負けたら「切腹」、49歳で総理の夢は「55歳までに下方修正」 蓮舫氏「嘘つきという批判にはごめんなさいと言うしかない」 参院選出馬“世間からの猛批判”に何を思うのか 【参院選・新人候補】元関西テレビアナ・新実彰平氏(維新)が目指す政治家は「橋下徹」と「小川淳也」のハイブリッド 【参院選・新人候補】「一人で戦っていない」 タイガーマスク運動の先駆け・河村正剛さんが保守王国・群馬に殴り込み 【参院選・新人候補】オリラジ中田の弟「中田フィッシュ」が「自民党」から出馬するワケ 「僕を選ばなくていいんですか?」と自信 ■各党の選挙戦略 都議選で大敗の自民党・木原誠二選対委員長 「参院は過半数維持が最低ライン」「消費減税は難しい」 創価学会員の高齢化&都議選も候補者落選…「公明党」は参院選をどう乗り切るのか 三浦信祐選対委員長「与党として生まれ変わる」 進次郎流コメ改革は「表層的」と立憲民主党・小川淳也幹事長 参院選は「古い政治にとどめを刺す」 都議選で全員落選「日本維新の会」の厳しい現実…参院選の目標議席は本当に「6」でいいのか? 岩谷良平幹事長に聞いた
31歳女性「風俗は二度とやりたくない」  ギリギリの精神状態で「なぜかナンバーワン」になった理由
31歳女性「風俗は二度とやりたくない」 ギリギリの精神状態で「なぜかナンバーワン」になった理由 撮影/インベカヲリ☆  現代日本に生きる女性たちは、いま、何を考え、感じ、何と向き合っているのか――。16歳のころから過食嘔吐と向き合ってきた桃奈さんの半生と、現在地を聞きました(全2回の2回目)。 *   *   *   家を出るために風俗へ  そんな桃奈さんは、20代前半のころに地方の店舗型風俗店で働いていた時期がある。実家に暮らしていると、過食嘔吐が家族にバレる危険性があるため、早く家を出るために稼ぐ必要があったという。当時は、母親が持たせてくれた昼のお弁当を夜までとっておき、夜になると、夕食とお弁当とコンビニで買ったお菓子をまとめて食べ、お風呂の排水溝に吐くという行為を繰り返していた。その嘔吐物が家の外まで流れてしまい、バレるのも時間の問題だったのだ。 「なぜだか、その風俗店でナンバーワンになってしまったんですよ。小さいころから、かけっこがビリで、数学も0点とかで、できることがほぼなかったのに、こんなところでナンバーワンになってる場合じゃないんじゃないかって落ち込みましたね」 女性をモノのように扱う男性客  客層は悪く、体を乱暴に触られて出血したり、苦しくてもやめてもらえなかったり、「遊んでお金もらえるなんていいね」と言われたりするなど、女性を一人の人間ではなく、物のように扱う男性客が多かった。それでも、桃奈さんは限界が来るまで頑張ってしまった。桃奈さん自身が死の淵にいるようなギリギリの精神状態で生きていたため、風俗に来る中年男性たちに対しても、「自分が全部受け止めよう」という気持ちが芽生えてしまっていたという。 「当時はボロボロでした。一度、心の中に鉄の壁みたいなものができて、何をされても言われても大丈夫なロボットみたいになった時期があったんです。それでも苦しかった。嫌な客全員の目の前で、一番グロテスクな死に方をして復讐したいと思ったくらい」 悪質な客から性被害  結局、風俗は2年ほどでやめた。その間、悪質な客から性被害にも遭った。 「『付き合ってくれ攻撃』のすごい人がいて、店に来ては『無理だったら僕は死にます』みたいな圧力をかけられていたんです。最終的には、『友達になろう』って言われたんですが、出会いがそういう店だし、友達になるのも無理があるじゃないですか。だけど、何度も言われるうち、私の頭が固すぎるのかなあと思ってしまったんですよね」 「で、外で会ってみたら、『友達になろう』から『恋人になろう』に変わって、『恋人が無理ならセフレになって』に変わっていったんですよ。最後は、肩わしづかみで力説されて、断ったら殺されると感じたんですよね。で、『センシティブな話だから2人きりになりたい』と言われて、何もしないという言葉を信じて、ホテルについていってしまったんです。信じたらダメだろうって今なら思うんですけど……」 警察は「あなたにも落ち度があったんじゃない?」  結局、ホテルに入ると相手は豹変した。桃奈さんは必死で逃げ道を探したが、殺される恐怖で、言いなりになることしかできなかったという。 「その後は、どうやって帰ったのか記憶がない。ホテルの窓から雪が降ってるのは見えたけど、それ以外のことは覚えていない。警察にも行ったけど、『それはあなたにも落ち度があったんじゃないですか? 大人なんだし』と言われて、落ち度ってなんだろうと思った。そのときはショックでしたね」 完全に悪人とは「言い切れない」  桃奈さんは、少し間を開けると、目をぼんやりさせながら言った。 「お客さんはみんなそうだけど、どこか寂しさを抱えていたように見えました。大人の男性は、社会的地位もありながら弱音を吐ける場所なんてないだろうから、私はそれを受け入れられる存在でありたいと思ってしまったんですよね。だから、その人のことも、完全に悪人かと言われたら、私はそう言い切れないかもしれない。されたことはショックだし、他の人にもしてほしくないけど、その人が全部悪いのかといったらわからない。だから、できるだけ早く終わったことにして生きていきたいです」   風俗をやめてから、約7年が経つ。それでも毎年、被害に遭った日が近づくと、気持ちが沈むという。 「過去のことだから、『そろそろ大丈夫になってくれよ自分』って思うんですけど……」 幸せになることが怖い  しかし、こうも言う。 「もう二度と風俗はやりたくない。でも、時間が経つと不思議なもので、またやろうかなって考えたりするんです。自分を傷つけることに慣れすぎてしまったから、幸せになることが逆に怖い。傷ついている自分のほうが正しいんじゃないかって、たまに思ってしまうんです」  桃奈さんにとって風俗で働くことは、自傷行為の意味合いもあったのかもしれない。 毎朝、彼と一緒にご飯を食べる  今は、シェアハウスに住んでいたころに知り合い、付き合って9年ほどになる男性と平穏な暮らしをしている。 「毎朝、彼と一緒にご飯を食べるんです。その時間が尊いなと思うし、この人のことを傷つけたくないと思う。当たり前のことは当たり前じゃないということを、忘れないようにしようとは思います」  食事を終えると彼は仕事へ行き、桃奈さんは部屋で内職の仕事をしながら家事などをこなす。外の空気を吸いに、毎日1時間は散歩へ出かけるという。 あとは私が変わるだけ 「傍から見たら、めちゃめちゃ穏やかなおばあちゃんみたいな生活ですよね。過食嘔吐さえなければ、ハッピーな環境なんです。私のことを悪く言う人もいないし、攻撃してくるような人とも出会わない。こんなに守られているのだから、あとは私が変わるだけ」  だが、それが難しいのだ。 「本当は心地いいはずなのに、自分で自分の首を絞めている感じがある。せっかく今こうして手に入れてるものが素晴らしいのに、その良さに気づいていながら、受け止めきれない自分がいるんですよね」  もしも、摂食障害を克服したら、桃奈さんは何をしたいだろう。  「自分がつらかったことを、他の人には味わってほしくないから、自分の経験を使って誰かに『大丈夫』ということを言ってあげたいんです。そのためにも、まずは早く自分が大丈夫にならなきゃいけない。大丈夫じゃない人が、何を言っても説得力がないから。だから、自分のために治すっていうのもあるけど、その先の誰かのために良くなりたい」  桃奈さんの心は揺らいでいたが、それでも、ゆっくりと前に進んでいるように感じた。 (ライター インベカヲリ☆)
【参院選・新人候補】「一人で戦っていない」 タイガーマスク運動の先駆け・河村正剛さんが保守王国・群馬に殴り込み
【参院選・新人候補】「一人で戦っていない」 タイガーマスク運動の先駆け・河村正剛さんが保守王国・群馬に殴り込み 参院選・群馬選挙区から立候補予定の立憲民主党の河村正剛さん   参院選の群馬選挙区(改選数1)から、立憲民主党の公認で立候補予定の河村正剛さん(51)。人気漫画の主人公と称し、匿名で児童養護施設などにランドセルを贈る「タイガーマスク運動」の先駆けとなった社会活動家として知られる。  *   *   *  2010年のクリスマス、漫画「タイガーマスク」の主人公「伊達直人」を名乗り、河村さんは群馬県内の児童相談所にランドセル10個を贈った。この出来事は大きく報じられたが、実は24歳のころから寄付を続けていたという。費用はすべて自身の給料から捻出してきた。 「22歳のときに転職で上京し、社会人として自信もついてきたころでした。電話ボックスの分厚い電話帳をめくって児童養護施設を探して、寄付を始めました。毎月1万円の寄付をもう30年近く、一度も途切れることなく続けています。政治活動となると、寄付は基本的にはだめなのですが、有権者が対象でなければ大丈夫とのことで、今は東京の施設への寄付を続けています。状況が許す限り、今後も続けていくつもりです」 「お前は俺の子じゃない」  河村さん自身が、孤児だった。母親は3歳のときに病死し、大分県の親戚の家に預けられた。数年後、「あなたには実は父親がいる。そちらで暮らしなさい」と言われ、戸惑いとともに福岡へ越す。だが実父と思っていた人物からは「お前は俺の子じゃない」と言われた。 「そこでは虐待を受ける日々でした。8歳のときです。幼心に何が何だかわからなかった。その後ルーツを探ったところ、本当に父ではなかったみたい。親というものを知らずに育った経験を経て、同じ境遇の子どもたちを支援したいという思いをずっと持ち続けていました」  義務教育を終えると同時に家から追い出され、アパートで独り暮らしとなった。役所にも相談したというが、対応は冷たかった。 「『義務教育が終わったら大人です』『自己責任なので自分で』と言われました。今ではあり得ない対応ですが、この突き放された経験がその後の活動の原動力でもあります」  日雇い労働をしながら高校を卒業。上京して車の整備士を経て、業務用カラオケを扱う企業に勤めた。転勤で2006年に群馬県前橋市に移住した後も、支援活動は精力的に続けてきた。 「タイガーマスク運動が広がって以降、よりいっそう児童養護施設を回るようにしていました。そこで痛感したのは、施設内の生活支援ではなく自立支援のほうが必要だということ。『自立のケアをお願いしたい』と、実際に何度も現場の声を聞きました」  車社会の群馬では、車は一人1台が当たり前。児童養護施設や里親家庭を巣立った若者が独り立ちするには、車はもちろん運転免許の取得も必要になる。教習所に通おうとしても、「お金がない」とつまずいてしまう。 「一個人に言われても難しい。『行政を動かして仕組みを作らないといけない』と考え始めました。そこで都道府県問わず、子どもの自立支援をしている自治体を探して、首長に会いに行きました。どこもスムーズに会うことができたのは、やはり『タイガーマスク運動の人』という実績があったからです」 来る選挙活動に向けガッツポーズを見せてくれた河村さん   子どもたちの笑顔が返礼品  2016年には山本龍・前橋市長(当時)に面会。それまで県内で運転免許取得のために出ていた補助金に加えて、不足分の支援、さらに新生活を迎えるにあたっての準備金の支給を交渉した。新生活に必要な試算額は約42万円、国や県からの援助は27万円。免許取得の際の自己負担額は、市と教習所との連携が図られてゼロになり、新生活を迎えるための不足分15万円は新生活準備支度金として支給されるようになった。 「タイガーマスク運動支援プロジェクトという形で、交渉の3カ月後には支援をスタートすることができました。税金を使うことへの反発も予想して、新生活準備支度金についてはふるさと納税の仕組みを利用し、全国から募りました。物質的な見返りはないが、子どもたちの笑顔が返礼品です、と。この取り組みは賭けでしたが、毎年1000万円以上が積み立てられるようになり、昨年度、寄付額が1億円を突破したんです。コロナ禍を経て、今は20万円を支給しています。社会が賛同してくれれば状況は大きく変えられるという手ごたえがありました」  貧困家庭への支援のため、食料の寄付を集めることもした。それでも支援に限界を感じ、国政に転じようと考えた。 「これまで各地方自治体にピンポイントで働きかけて変化を促すことはできました。でも、施設の管轄が市だったり県だったりと自治体によってさまざまで、支援を全国的に一気に広げていくのは難しい。もっと上から、トップダウンでやれればという期待が今あります」 あのときの少年が「お礼です」  ひとり親家庭の就労自立支援や就職氷河期世代への支援などを掲げ、ひたすらに弱者に寄り添う。立憲民主党群馬県総支部の事務所内には「タイガーマスク運動」と書かれた虎柄の旗が大きく飾られていた。 「立憲民主党から出るというのはたまたま社会活動の際に知り合ったからだけなんです。政党を超えて弱者を支援したい。政治家は一般市民の生活を知らないと見られがちですが、私にはわかります。何曜日にこのスーパーに行けば、この食品が3割引きになるといった感じで、毎日を過ごしてきたので」 贈られた黒のかばんを大事そうに抱える河村さん    大きく報じられた15年前のタイガーマスク運動のときにランドセルを贈られたある少年は、2年前に高校を卒業。「会いたい」と言われ会いに行くと、「あのときのお礼です」と黒のかばんをプレゼントされた。 「初めての選挙で戸惑うばかりですが、街を歩いていて声をかけられる機会も増えてきましたし、一人で戦っているのではないと実感しています」  黒のかばんは選挙活動でも毎日、持ち歩く予定だ。 (AERA編集部・秦 正理) 【特集:どうなる?参院選】 ■全選挙区当落予測 【参院選「全選挙区当落予測」つき】東北地方は立憲の圧勝! 東京は「国民」元NHK女性アナウンサーの動向がカギ 【参院選「全選挙区当落予測」つき】京都は舌禍事件あっても「自民・西田氏」が濃厚 和歌山「二階氏の三男」は評価分かれる ■注目候補インタビュー 「主戦場は衆院」発言の音喜多駿氏が参院選出馬 "出戻り”批判も負けたら「切腹」、49歳で総理の夢は「55歳までに下方修正」 蓮舫氏「嘘つきという批判にはごめんなさいと言うしかない」 参院選出馬“世間からの猛批判”に何を思うのか 【参院選・新人候補】元関西テレビアナ・新実彰平氏(維新)が目指す政治家は「橋下徹」と「小川淳也」のハイブリッド 【参院選・新人候補】「一人で戦っていない」 タイガーマスク運動の先駆け・河村正剛さんが保守王国・群馬に殴り込み 【参院選・新人候補】オリラジ中田の弟「中田フィッシュ」が「自民党」から出馬するワケ 「僕を選ばなくていいんですか?」と自信 ■各党の選挙戦略 都議選で大敗の自民党・木原誠二選対委員長 「参院は過半数維持が最低ライン」「消費減税は難しい」 創価学会員の高齢化&都議選も候補者落選…「公明党」は参院選をどう乗り切るのか 三浦信祐選対委員長「与党として生まれ変わる」 進次郎流コメ改革は「表層的」と立憲民主党・小川淳也幹事長 参院選は「古い政治にとどめを刺す」 都議選で全員落選「日本維新の会」の厳しい現実…参院選の目標議席は本当に「6」でいいのか? 岩谷良平幹事長に聞いた
ポーラの102歳現役美容部員が「これからも現役でいたい」と語る理由 「働く意味」はお金じゃない
ポーラの102歳現役美容部員が「これからも現役でいたい」と語る理由 「働く意味」はお金じゃない 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部) 「仕事があったから、人とつながれた。仕事があったから、家族を支えられた」。102歳現役美容部員・堀野智子さんが語る、幸せな“仕事人生”。  ポーラ化粧品のセールスを始めて60年以上。新人賞から所長職まで経験し、得たのは“お金”だけではなく、“人との縁”と“生きがい”でした。入院先やバスの中でもお客様と出会い、仕事を通じて広がる豊かな人間関係。「お客様が一人でもいる限り、私は現役でいたい」という堀野さんの言葉には、人生を自分らしく歩み続ける力強さと温かさがあふれています。堀野さんの最新刊『102歳、今より元気に美しく』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・加筆再編集して公開します。 *   *   * ――堀野さんが102歳まで働いてきたことで得た気付きなどがあれば、教えてください。  ポーラ化粧品のセールスの仕事を始めたときは、こんなに長く続く一生の仕事になるとは思っていませんでした。  ただただお客様に喜んでもらえるのがうれしくて、その積み重ねでここまで来たという感じです。  最初の年から思いがけず多くの人に商品を買ってもらうことができ、新人賞をいただいたのが弾みになったように思います。ほめられると伸びるタイプなのかもしれませんね。  ポーラには、長く勤めた人の表彰制度があります。  私は勤続40年、50年、60年と表彰されました。家庭の主婦でも続けやすい仕事なので、勤続40年、50年の人は大勢います。  90代でもバリバリ活躍している人が多いんです。心強いですよね。  ポーラの仕事をすることで、たくさんの人とつながることができたのは、私の一番の財産だと思っています。 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)  私の場合、ご紹介でお客様が増えていくことが多かったですが、中には骨折で入院したときに同室だったり、退院後、通院するためのバスの中で知り合ったりして、私生活でも長いお付き合いが続いている人もいます。  どちらもポーラの化粧品が仲介役になってくれました。  入院したときに友達になった人は、私が朝晩お肌のお手入れをしているのを見て、「ずいぶん熱心にやってるけど、その化粧品、そんなにいいものなの?」と尋ねてきたんです。「すごくいいよ。私、何十年も使ってるんだよ」と言って、使わせてあげたところ、とても気に入ってくれてね。家に行ったり来たりする仲になりました。  バスの中で知り合った人とは、何回か顔を合わせて挨拶をするようになり、そのうち隣りあわせに座るようになったのがきっかけでした。 「きれいな手をしてるね」と言われたので、「私、こんなハンドクリームを使ってるんだ」とポーラのクリームをバッグから取り出し、相手の人の手につけて軽くマッサージをしてあげたんです。  そしたらとても喜んでくれて、「このハンドクリーム、私も使ってみたい」と言い、やがていろんな商品を買ってくれるようになりました。  まさにポーラ化粧品のセールスをすることで、私の人生が豊かに広がったのだと思います。  生涯の仕事になったのはポーラのセールスですが、今にして思うと、どんな仕事も私自身の肥やしになってくれたなあと感じます。  新卒で就いた電話局の仕事では、若いうちから監督する立場を経験することができました。ポーラでも一時期私は自分の営業所を持ち、営業所長という立場に就いていたのですが、このとき若いころの経験が役に立ちました。  女性の多い職場で一番大切なのは、「全員に対して平等に接すること」です。女性は自分がどう扱われているかということにとても敏感なので、「丁寧かつ平等に」が私のモットーだったんです。  初めからたくさんの売上を上げることができたのは、それほど思い入れのなかった保険のセールスの経験があったからだと思っています。生命保険会社の研修で、初対面の人に話しかけるコツを徹底的に仕込まれたからこそ、化粧品のセールスがうまくいったのでしょう。  ポーラのお客様との世間話として、内職の話や果樹農家の手伝いの話などもずいぶんしましたが、みなさん関心を持って聞いてくれましたよ。 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)  全然お金に困っていないお金持ちの奥様もいましたが、多くの人にとってお金は切実な問題ですよね。  でもすごくシンプルなことでもあると思います。というのも私の根底には「お金がなければ働けばいい」というのがあるのでね。  営業所長をやっているときは、下世話な言い方をすると、一番の「稼ぎ時」でもありました。自分の売上のほかに、「所長手当」が出て、さらに所属しているセールスレディの売上の一部ももらえたんです。  私には上から女の子・男の子・女の子と3人の子どもがいます。その子どもたちの教育費のかかる時期が、ちょうど営業所長時代だったので、金銭面でとても助かりました。  真ん中の男の子は夫の母校でもある早稲田大学に進学したので、学費のほかに仕送りも必要だったんです。  一番お金のかかる時期にたくさんの収入を得ることができたのは、本当にありがたいことでした。  かけがえのない人との縁を作ってくれたのも仕事、私と家族の生活を成り立たせてくれたのも仕事です。  つくづく幸せな仕事人生だと思います。  お客様も高齢になり、亡くなった人もいて少なくはなりました。でも、お客様が最後の一人になってもお客様が求めてくれているうちは、現役のセールスレディでいたいと思っています。   【こちらも話題】 #16 102歳現役美容部員「おいしいは原動力」  人生において「初めての味」こそが元気の源 https://dot.asahi.com/articles/-/257562 #17 102歳現役美容部員が、今でも美しくありたい理由 夫から言われた「今の時代では考えられない一言」 https://dot.asahi.com/articles/-/257563 #18 102歳現役美容部員「新しいものには目がないの」 今でも好奇心を大切にする心の健康法 https://dot.asahi.com/articles/-/257564 #19 102歳現役美容部員がふるまう“まろやかカレー”の秘密 取材陣も唸るそのコツとは? https://dot.asahi.com/articles/-/257567 #20 102歳現役美容部員「物事は悪く受け取らない」 副業を通して気づいたポジティブ思考のコツ https://dot.asahi.com/articles/-/257529   堀野 智子(ほりの・ともこ) 1923年4月9日、福島県生まれ。5人きょうだいの長女。女学校を卒業後、1941年逓信省(電話局)に入局する。1946年に23歳で結婚後、子ども3人、孫5人に恵まれる。1962年に39歳のときからポーラの化粧品販売員として働き始め、キャリアは60年を超える。2023年8月には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定。   102歳、今より元気に美しく 商品価格¥1,540 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
林真理子・日大理事長「ヒヤヒヤの連続です」 それでも小説のネタ作りのためではないと断言する理由
林真理子・日大理事長「ヒヤヒヤの連続です」 それでも小説のネタ作りのためではないと断言する理由 日本大学理事長の林真理子さん(撮影/写真映像部・上田泰世) はやし・まりこ/1954年、山梨県生まれ。学校法人日本大学理事長、日本文藝家協会理事長。日本大学芸術学部文芸学科卒業。86年、『最終便に間に合えば』『京都まで』で直木賞受賞。『不機嫌な果実』『小説8050』など著書多数。    数々のベストセラーを持つ人気作家で、日本文藝家協会理事長もつとめる林真理子さん。不祥事で混迷を極めていた母校からの声に応えて、日本大学初の女性理事長に就任しました。巨大組織のトップは「ヒヤヒヤする日々の連続」、一方で「非常にやりがいがある」と語ります。林さんに話を聞きました。 *   *   * ――林理事長は1976年に日大の芸術学部文芸学科を卒業していますが、当時の日大はどのような雰囲気でしたか?  規模が大きいのはよいことだとされる風潮の中、知名度も高く日本で一番大きい大学として、世間の印象はよかったと思います。私は山梨県出身で、田舎の親戚たちも喜んでくれていたようです。  芸術学部がある大学は当時かなり珍しく、先進的でしたね。キャンパスには、いかにも“日芸”という雰囲気のとがった服を着た学生や、ロケの打ち合わせなど仕事の電話をしているセミプロ学生がたくさんいました。  当時の日大の女子学生比率は、短大や大学院も合わせると約1割。女子大生は今では考えられないほど希少な存在でしたが、みんな男子に萎縮することなく元気でした。 大学経営って面白そう ――その後作家として活躍する中、2022年に日大初の女性理事長に就任しました。元理事長が脱税で有罪となり、混迷を極める日大からのオファーに応じた理由はなんですか。  女性の私がトップに立つことで、低落した母校のイメージが少しでも良くなればという思いでした。一方で、大学経営ってやったことがないから面白そう、という純粋な好奇心もありました。  就任当初は本当に大変で、この話をしたら3時間はかかりますよ(笑)。大学職員の方たちは、突然わけの分からないおばさんが来て、これからどうなるのかビクビクしているわけで、仲良くやりましょうなんて呼びかけたってうまくいかないですよね。まずは自分が書いた本を450冊買って、サインをして、「私のことご存じないでしょうから」と手紙を添えて配りました。『小説8050』という、ひきこもりがテーマのベストセラーになった本です。  トップは孤独なので、つらかったですね。組織体制を整えた結果、学長、副学長のほか、今は総務、財務、人事、ダイバーシティーなどの各分野を担当する4人の業務執行理事が支えてくれるので、非常に助かっています。 日本大学理事長の林真理子さん(撮影/写真映像部・上田泰世)   ――7月で理事長就任から3年が経ちます。当初と比べると物事がスムーズに進むようになったのでは。  よく勘違いされるのですが、理事長の鶴の一声でこれだけ大きな組織を動かすなんてありえません。何か企画を提案すると、「予算はどこから持ってくるのか?」「どこの部署が担当するのか?」と必ず指摘が入ります。大きなことはまず委員会を立ち上げ討議します。  私は理事長就任時、文化事業として室内楽の殿堂「日本大学カザルスホール」を再開させることを宣言しました。しかし、日大の一連の不祥事を受けて、私学助成金の全額不交付が続く中、「ホール再開に多額の費用を投資してよいのか」「もっと別の活用の仕方があるのではないか」という見方もあり、改修工事は休止しています。  先日、1万4千人を超える学生たちが、学部の垣根を越えてグループワークを行う「日本大学ワールド・カフェ」を行った際、参加者に喜んでもらおうとミレービスケットを配ったのですが、この出費に対しても賛否が分かれました。ビスケットひとつでも、理事長の思い通りになんてならない。大学経営はまずは協議から始まります。 学内でドーナツを配る ――林理事長が就任してから、日大はどう変わりましたか。  内部監査の強化など30回以上の会議を重ね、ガバナンス再構築のための「改善改革」を徹底的に進めてきました。改革の進捗は大学ホームページでも都度公開していますが、一般の人にはなかなか届きませんね。  不祥事の事後処理がひと段落ついて、ようやく学生向けの企画に注力できるようになってきました。昨年度からは、学内でドーナツを配る「スマイルキャンパスプロジェクト」を行っています。私もエプロンをつけて出向いて、学生に「私のこと知ってる?」と話しかけてみたら、「名前も聞いたことない」と……。周りの学生から、「この子は留学生だから」と慰められました(笑)。あとは2040年の日大を考える大きなプロジェクトが進んでいます。 ――理事長就任時、「(日大の)マッチョな体質を変えたい」と意気込んでいましたが、女性がトップに立ったからこその変化はありますか。  今、理事会の3割以上が女性で、業務執行理事の一人や副学長の一人も女性です。女性はコンプライアンスに関して潔癖な傾向があるので、何か問題を起こした人がいれば、責任を取るべきだという声がきちんとあがる。組織として健全な方向に変わってきたと思います。  また、トイレの洋式便器化やパウダールームの整備、生理用品の設置など、「トイレ革命」も進めています。現在の日大の女子学生比率は約3割。女子学生を増やすための対応は急務なので、経営にも女性ならではの発想が必要です。  近年、学長など学術・教育分野のトップを務める女性は増えていますが、経営のトップである理事長となると非常に少ない。教育というのはお金も時間もかかることで、経営にはダイナミックな視点が求められますが、非常にやりがいがありますよ。もっと女性の理事長が増えればいいのにと思います。 ――日大の存在意義とはなんでしょうか。  いつもすごいなと思うのですが、誰かと会って日大の話をすると、「父が卒業生です」「兄が日大でした」などと何かしら接点がある人が多いんです。卒業生の数は累計128万人で、全国における社長の出身大学ランキングでは14年連続1位。“数”という点では、日大こそが日本の発展を支えてきたという自負があります。  一方で、ネットの世界を中心に、アンチの人々も一定数います。何か不祥事が起きるとすぐに大きく報道されます。それが他校とは違いますね。先日の重量挙部前監督の逮捕も私どもが調査し、一年前に発表したものですが、逮捕によって「またか」とさんざん叩かれました。実際の日大は、学生の満足度も高いし、職員も一生懸命頑張っている。そういう姿を世に広く伝えることが私の役割だと思っています。 日大の学生はみんな可愛い ――ちなみに、作家業を再開する予定はないのでしょうか。 「小説のネタ作りのために理事長を引き受けたんだろう」なんて言われるのは嫌なので、当分本は書かないと思います(笑)。でも、作家としての経験は大学経営にも生きているんですよ。作家は受注産業なので、編集者と関係を築いたり協力を求めたり連係プレーも必要で、組織を動かす上で通じるものがあります。  理事長になってから、ヒヤヒヤする日々の連続です。建築資材が高騰する中、医学部附属病院の建て替えのことを考えると夜も眠れないし、何か事故のニュースがあれば、うちの子たちが巻き込まれていないかと心配でたまらない。まあ、年齢的に子どもというより孫ですけどね(笑)。やっぱり日大の学生だとみんな可愛くて、楽しい学生生活を送って、思うような仕事に就いてほしいと、そればっかり考えています。 (聞き手・構成/AERA編集部 大谷百合絵)
【熱中症予防に効果的!】スポドリでも経口補水液でもない…和田秀樹が語る"冷蔵庫にある定番の飲み物"
【熱中症予防に効果的!】スポドリでも経口補水液でもない…和田秀樹が語る"冷蔵庫にある定番の飲み物" ※写真はイメージです(gettyimages)    毎日を健康に過ごし、ヨボヨボにならないためにはどうすればいいのか。医師の和田秀樹さんは「ぜひ牛乳を飲むことを習慣にしてほしい。朝・昼・晩に飲むとそれぞれ異なる効果が得られ、ヨボヨボな老後を防げるだろう」という――。 ※本稿は、和田秀樹『医師が教える長生きする牛乳の飲み方』(アスコム)の一部を再編集したものです。 “睡眠の質”は食事でも解決できる  年齢を重ねるとさまざまな変化と出くわし、悩むことが増えます。なかでも多いのが睡眠の悩み。布団に入っても眠れない、深夜に目が覚めてしまう、朝の目覚めがよくない、そもそもよく眠れた気がしない……。その原因はストレスや薬の影響、慢性疾患による痛みなどとさまざまです。  睡眠には、体はリラックスしているけれど脳は活動していて情報などの整理をしている「レム睡眠」と、体も脳もリラックスしている「ノンレム睡眠」があります。この二つがセットで90~110分サイクルをひと晩に4~6回繰り返します。このサイクルがスムーズでないと眠りは浅くなります。  また、ノンレム睡眠は浅い眠りから段階的に深くなるのが特徴ですが、その際、深い眠りに到達できない場合があります。これもまた、睡眠の質が下がっていることになります。  睡眠の質を低下させる根本的な原因を解決させることは大切ですが、食事でも解決する方法があります。それは、深い睡眠へと誘うホルモンであるメラトニンの分泌を活発にすることです。 「日常」は睡眠を阻害するものだらけ  メラトニンは別名・睡眠ホルモンといわれ、睡眠のリズムを調整してくれるため、よい睡眠には欠かせません。  ところが睡眠の味方であるメラトニンは、日常生活の中で分泌が抑制されてしまうことが多々あります。その一つはストレス。長時間、ストレスにさらされることでメラトニンは抑制されます。気にかかることや不安なことなど、ストレスがかかると眠れないという経験をしたことがある方も多いと思います。  次に、不規則な生活リズム。起床時間が早朝だったり、昼近くだったりとバラバラだとメラトニンの分泌が乱れます。  そしてここ何年かで問題になっているのが、スマートフォンなどによるブルーライト。眠りを妨げるとわかっていても、見ずにはいられないとつい寝室に持ち込んでしまう。子どもや孫に使い方を教えてもらい、つい何時間もスマートフォンとにらめっこ。ブルーライトもまたメラトニンの分泌を大きく抑制するのを実感している人も多いと思います。  また、カフェインやアルコールの摂取もメラトニンの分泌を阻害します。さらに、加齢によってもメラトニンの分泌は減少するのです。 「朝牛乳」で夜の眠りが深くなる  こうして日々、抑制されるメラトニンの分泌をスムーズにするにはどうしたらいいのでしょうか? それはメラトニンの材料となる食材をとることです。メラトニンは、たんぱく質の一種であるトリプトファンが材料となりますが、これは体内で合成することができない必須アミノ酸のひとつです。だから、食べ物から摂取するしかありません。そこで助けの手を差し伸べてくれるのが「朝牛乳」なのです。  牛乳を飲むとトリプトファンが体内に取り込まれ、セロトニンというホルモンを分泌します。このホルモンは、イキイキと暮らすために大切なもの。セロトニンは分泌されると、幸福感が増し、前向きで明るい気持ちになるなど、メンタル面に大きな影響を与えるため「幸せホルモン」と呼ばれています。  牛乳のトリプトファンはセロトニンに変換され、さらにメラトニンに変換されます。牛乳を飲んだらすぐにメラトニンを分泌するわけではなく、その点が一足飛びにはいかないところです。  「トリプトファン → セロトニン → メラトニン」というゴールにたどり着くには14~16時間かかるといわれ、朝8時に牛乳を飲むと、夜の10時~12時頃に分泌されることになります。ちょうど就寝時間にあたりますね。  つまり、朝牛乳を飲むことで、夜に向けて睡眠体制を整えることになります。自分の就寝時間から逆算して朝牛乳を飲むと、深い眠りにつけるようになります。 「昼牛乳」でヨボヨボを防ぐ  「スーパーへ買い物に行くのが面倒だな」とか、「あのカフェに行きたいけれど、入り口の階段がちょっと不安……」というとき、ありませんか?  小さな面倒くさいを積み重ねていくうちに、どんどん活動量が減ってしまい、高齢になればなるほど筋肉や骨などの運動器官が弱くなってしまいます。足腰が弱ってくると、さらに外出が億劫になる。これではヨボヨボへと一直線です!  こういうときこそ牛乳を飲んでほしいものです。これが活動の多い時間帯に飲む「昼牛乳」です。  たんぱく質はアミノ酸が連なったもので、その構造や種類によってさまざまな役割があります。例えば、サプリメントや基礎化粧品などに含まれる「コラーゲン」もたんぱく質のひとつで、皮膚や骨などをつくるもの。コラーゲン入りのサプリや化粧品は肌を再生する効果が期待できるため、それが美肌に欠かせない成分といわれる所以です。ただし、コラーゲンは皮膚から吸収されることはありません。 “筋肉の衰え”を感じたら試してほしい  牛乳に含まれるたんぱく質は、筋肉にスイッチを入れる種類のものが多く含まれているのが特徴です。少し難しい話になりますが、筋肉をつくるスイッチを入れるのが「分岐鎖アミノ酸」というたんぱく質を構成するアミノ酸です。  スポーツをされたことがある方なら聞いたことがあるかもしれませんが、「分岐鎖アミノ酸」は「BCAA」といわれ、スポーツドリンクの成分になっています。バリン、ロイシン、イソロイシンという3種のアミノ酸で、これらが理想的な比率(バリン:ロイシン:イソロイシン=1:2:1)で含まれています。  「BCAA」は、筋肉を成長や修復し、筋肉のエネルギー源となります。そのため、スポーツ選手にとってはなくてはならない成分です。  筋肉の成長や修復を担っていますが、ハードな運動中や運動後だけに必要なのではありません。中高年にとっては筋力低下の予防や疲労回復にも有効です。  「外出すると疲れる」「駅の階段がしんどくなってきたな」というのは、筋肉の衰えはじめか、筋肉が疲労しているサインです。そんなときは、「もう年だからダメだ……」と言わずに、「昼牛乳」を毎日コツコツ試してみてください。 「夜牛乳」は骨を強くする  中高年になると途端に骨折する人が増えてきます。特に女性は更年期を迎え、女性ホルモンの減少によって骨がスカスカになる「骨粗しょう症」に不安を感じる人も少なくありません。そこで欠かせないのがカルシウムです。カルシウムは骨の成分だと思われがちですが、実はカルシウムは骨より血液中に多く存在します。  カルシウムには、骨や歯を強く健康な状態で維持する役目があります。また筋肉の収縮を助けるため、日常の動作にも欠かせません。ほかにも血液の凝固プロセスとも関係していて、出血を止めるのに欠かせないミネラルの一種。神経細胞の間で信号を伝達する重要な役割もあります。  このように、多くの役割を担っていて血中で働くカルシウムは、必要量を維持するために、足りなくなると骨から溶け出して血中に補充します。こうして骨は脆くなっていくのです。  だからこそ補うのがとても大切です。カルシウムは食事から取り入れやすく、特に牛乳は最適です。カルシウムを多く含む上に、体内の吸収率が小魚などよりも高いのは、あまり知られていない事実です。  そして、吸収に適している時間帯が夜、さらに睡眠中です。「夜牛乳」を飲むことが、骨の強化につながるというわけです。ただし、寝る前に冷えた牛乳を飲むのは胃腸に負担がかかります。ぜひ温めて飲みましょう。ちなみに、牛乳は加熱しても栄養そのものは変化しませんのでご安心ください。 脱水症状は“電解質が失われている”状態  ここ何年か、日本の夏は殺人的な暑さですよね。ニュースでは「不要不急の外出は控えるように」とか、「熱中症に十分気をつけてください」とか。それでもこんなに暑いと、熱中症で搬送される人が多いこと。部活中の中高生や、エアコンを使わずに過ごしている高齢者が熱中症で搬送されたなどと耳にします。  特に高齢者の熱中症の場合、加齢とともに体温調整機能が低下し、暑さへの感度が鈍くなり、気づいたら熱中症になっていたというケースがよくあります。  以前、タレントの所ジョージさんが夏に畑仕事をしている最中に熱中症で倒れたというニュースがあり、その後、彼は経口補水液のCMに起用されました。熱中症の際、なぜ水ではなく経口補水液を飲むのかわかりますか?  それは脱水症状を伴う熱中症だったからです。脱水症状は熱中症の代表的な症状のひとつで、頭痛、めまい、口渇、尿量の減少、けいれん、重度の疲労感などさまざまな症状が出ます。  脱水症状は、単に体内の水分が暑さによって不足するだけではありません。重要なのは電解質が失われることです。これを補うためには「経口補水液」でなければならないのです。 熱中症にも牛乳がいい  では「電解質」とはなんのことでしょうか? 聞いたことはあるけれど、きちんと理解している人は少ないと思います。ですからあえて、少し説明しますね。  「電解質」はナトリウム、カリウム、マグネシウムのことです。これらが失われると、①けいれん、②疲労感、③心拍数の異常、④血圧への影響といった症状が起こります。  さらに重症化すると、混乱、意識喪失など命の危険にさらされかねません。実際に、熱中症などで高齢者が亡くなる事故は毎年のようにあります。たかが熱中症、されど熱中症です。  そこで対策としては水分をとることなのですが、同時に電解質を補う必要があります。だからといって電解質を含む経口補水液を常備するのも大変。そんなときに便利なのが牛乳なのです。  牛乳にはナトリウム、カリウム、カルシウム、マグネシウムといったミネラルの一部である電解質が含まれています。そのため、体内の水分バランスを整えて脱水の予防や症状を抑える役割もあります。 高熱が出たときにもいい  また、牛乳の成分の9割弱は水です。その上、胃にとどまる時間が長く、持続的な水分補給に有効ともいわれています。つまり牛乳は脱水を伴う熱中症対策に有効なため、「夏牛乳」はとてもおすすめなのです。ぜひ暑くなる前の時間帯から飲みはじめてください。  「夏牛乳」は脱水症状の予防と改善に効果的な上に、高熱が出たときにもいいでしょう。「熱が出たらスポーツドリンクを飲むように」と、医者に言われたことがあるかと思います。ただし、スポーツドリンクには独特の甘さがあるので、飲み慣れていない人には苦痛に感じるかもしれません。そこで牛乳の登場です。  おすすめの飲み方は、炭酸水やサイダーと牛乳を1:1で割るドリンク「牛乳サイダー」(写真1右)。炭酸のシュワシュワッとした感じと牛乳の組み合わせは意外と新鮮で、口の中に清涼感が広がります。炭酸水で割れば甘みはなくよりすっきりとした味わいで、とても飲みやすいのも特徴です。「夏に牛乳は重たい」と感じる人にも好評です。ぜひお試しください。 (和田秀樹:精神科医)        
来年4月から導入の“独身税”が日本崩壊を加速させるワケ 「余計に少子化進むだろ」「こども家庭庁をなくせば財源確保できる」の声も…。
来年4月から導入の“独身税”が日本崩壊を加速させるワケ 「余計に少子化進むだろ」「こども家庭庁をなくせば財源確保できる」の声も…。 ※写真はイメージです(gettyimages)    いわゆる“独身税”が強い反発を呼んでいる。  三原じゅん子内閣府特命担当大臣は最近、SNSなどでたびたび批判の声が上がっていることについて、「『子ども・子育て支援金制度』のことで捉えて発言されていると考えますけれども、これを『独身税』と言い換えることも間違っている」と反論した。  「『子ども・子育て支援金制度』によってメリットを享受するのは、子どもを持ち、子育てをしている方だけではなくて、独身の方もそうですし、すでに子育てを終わられた方も含めたすべての世代であるということが言える」と弁明し、かえって火に油を注ぐ結果となった。 子ども・子育て支援金制度が“独身税”として炎上  “独身税”とは、2026年4月から導入される「子ども・子育て支援金制度」のことで、SNSなどでは昨年末頃から「なぜ子どもがいない独身者も負担しないといけないのか」「まるで独身税ではないか」という反発が上がっており、批判的な投稿には数百万のインプレッションが付くものがあるほどだ。  炎上する理由は簡単だ。そもそもこれまで行われてきた施策の大半が子育て支援であり、少子化の根本の問題である経済状況にほとんど手が付けられていないからだ。  急激な少子化の進行には、「失われた30年」における実質賃金の低迷が関係しており、それが結婚の減少 → 出産の減少 → 子どもの減少という負のスパイラルにつながっている。  経済学者の藤波匠は、国内外のさまざまなデータを示したうえで、「日本では、バブル崩壊以降の長期にわたる低成長が若い世代の暮らしぶりを悪化させ、少子化に拍車をかけたと考えるべき」と指摘し、現金給付や社会保障ですべてを解決することは難しく、適度な経済成長と安定的な賃金の上昇が何よりも重要とした(『なぜ少子化は止められないのか』日本経済新聞出版社)。  そのうえで「30年にわたって低成長に有効な手を打てなかった歴代政権や、抑制的な賃金水準で良しとしてきた国内事業者の責任は免れない」「人手不足であれば賃金が上昇するという当たり前のことを、官民が否定し続けてきたことに主因がある」と厳しい見方をしている。  つまり、子育て環境とか若者の意識とかが直接的な要因ではない。収入がないから結婚ができず、子どもも生めないという単純な話なのだ。 「収奪的な社会」に向かいつつある  『成長の臨界』(慶應義塾大学出版会)で、長期停滞の元凶が、収益を上げてもため込み、実質賃金の引き上げも人的資本投資にも消極的な大企業であることを明らかにした経済学者の河野龍太郎は、日本の場合、実質賃金が上がらないのは生産性の問題ではないと主張した(以下、『日本経済の死角 収奪的システムを解き明かす』ちくま新書)。  河野は、四半世紀にわたって実質賃金がまったく上がっていない国は、近代以降、先進国では前例がないと述べ、「過去四半世紀、生産性が3割も改善しているにもかかわらず、実質賃金がまったく増加していない」「その結果、個人消費が低迷を続け、国内での売り上げが増えないために、企業は採算が取れず、国内の設備投資を抑えている」とそのカラクリを説明した。  この間、増大したのは非正規雇用と利益剰余金であり、河野は、日本が「収奪的な社会」に向かいつつあるとの懸念を示している。  にもかかわらず、政府は2014年と2019年に消費増税を行い、ただでさえ低い所得から「収奪」を進めた。要するに、わたしたちは、企業と国家というエージェントから「二重に収奪」されてきたといえる。  現在はなおのことこの状況が悪化の一途をたどっており、物価高騰や円安に伴って収入の上昇が物価の上昇にまるで追い付かず、実質所得の減少による購買力の低下が進んでいる。  もはや結婚どころではなく、今の生活をどのように維持していくのかが目下最大の関心事になっている。 こども家庭庁のちぐはぐな政策  けれども、特にこども家庭庁の取り組みに典型的なように、「マッチングアプリ」の安全性確保や、婚活支援策を効果検証する枠組み構築などを立案したり、性や妊娠に関する正しい知識を身につけて健康管理に生かす「プレコンセプションケア」を普及するため、5万人のサポーターを養成する計画を立ち上げるなど、ちぐはぐな政策を進めている印象がある。  要するに、そもそもの根本原因である経済状況の困難には目もくれず、男女の出会いの機会を効率的に増やすことや、性や妊娠についてポジティブな考え方を広めることなどの意識改革によって、どうやら成婚数の底上げを図ることができ、少子化に歯止めがかかると思っているようなのだ。  こども家庭庁によれば、児童手当の拡充をはじめとする給付の財源の一部にあてられる「子ども・子育て支援金」の2028年度負担額の目安は、年収400万円の会社員・公務員で月額650円、自営業で550円、年収600万円の会社員・公務員で月額1000円、自営業で800円などとなっている。  すでに子育てを終えた人や子どもをつくる予定のない人にとっては、単に取られる一方で負担が増す制度となっているのだ。  このような仕組みについて「子育て支援税」という名称がふさわしいという意見も出ているほどで、将来的にはさらなる値上げの可能性も否定できないだろう。 「所帯を持つのが当たり前」という価値観  そもそも税制において独身者が損をしていることは事実といえる面がある。  独身者と既婚者で適用される所得控除が異なり、既婚者のほうが適用される所得控除が多いからだ。これが実質的に独身税の役割を果たしていると指摘する専門家もいる。そして、この税制の正当性を支えているのは、「所帯を持つのが当たり前」という価値観なのだ。  もともと日本では近代社会が始まった時点から、「国民皆婚」による家族形成が当然とされ、諸制度はそれを支えるつくりになっていた。例えば、今から40年以上前の1980年の生涯未婚率は、男性が2.60%、女性が4.45%という今では考えられない驚くべき数字であった(国立社会保障・人口問題研究所の国勢調査)。現代のようにライフスタイルが多様化している時代には馴染まないのだ。  前出の藤波は、「増税や社会保険料の引き上げによって子育て支援のための財源を確保しようとすれば、同じ若年層でも、子どもを持たない、あるいは子どもができない人たちにとって、負担増となる可能性がある」とし、あくまで賃金の引き上げなど経済環境の改善を図りながら、時間をかけて増税に対する理解を得る必要性を強調している。  月額で見れば大した金額ではないという人もいるかもしれない。だがちょっと待ってほしい。深刻な経済状況が続く中で、通信費やサブスクの見直しなど、家計負担を少しでも軽くしようと皆が皆躍起になっており、複数の小売店をはしごして20円でも30円でも安いものを探す人も多い。  2000円代で市場に放出された備蓄米の大行列は、「食べ物も満足に買えないほど貧しくなった日本」を象徴して余りある風景であった。  前回の記事でも述べたが、自民党の参院選公約である2万円の給付が、子ども・住民税非課税世帯に2万円を加算することによって、日々の労働に疲れ果て困窮している現役世代の反感を買うのと同様に、「負担」と「取り分」をめぐる不公平感を増すだけなのだ(石破政権「2万円バラまき」が現役世代舐めてるワケ)。 「負担」に見合う「取り分」がない  そして、もっと深刻なのは意識上の影響だろう。  とりわけ未婚者は、不本意なまま現在の社会経済状況に適応してサバイバルしているようなところがある。しかし、企業と国家による「二重の収奪」が続き、来年からは「子ども・子育て支援金」という「負担」が課される。  しかも、未来永劫においてそれに見合う「取り分」が得られる可能性がほぼない(もう家族を持つことは諦めている!)。これが“独身税”と名指しされることの本質なのである。  さきごろ2024年に生まれた子どもの数が初めて70万人を割り、出生率も1.15と過去最低を更新したことを厚生労働省が公表したが、明るい展望が描けない「収奪的な社会」が温存され、多様性に配慮しない「負担」ばかりが増せば、今後若い世代がますます結婚をしなくなることが予想される。  そもそも独身時代に負担が増えれば、結婚への意欲が減退することは容易に想像できるはずだ。また、こども家庭庁が莫大な予算を持つことも、国民の反感を買うだけであり、「こども家庭庁をなくせば財源確保できる」といった意見を生むことにつながっている。  “独身税”というパワーワードが21世紀の日本で浮上したことの意味はあまりにも重い。いたずらに国民間の分断をあおり、むしろ社会の崩壊の速度を速めることになった政策の一つであったと後年、語り継がれることになるのではないのだろうか。 (真鍋 厚:評論家、著述家)
尿もれパッドが命綱! 「ママ、二重あごになってる」と言われた時の悲哀… アラフィフ女性が吐露する「老いるショック」とは
尿もれパッドが命綱! 「ママ、二重あごになってる」と言われた時の悲哀… アラフィフ女性が吐露する「老いるショック」とは イメージ(写真映像部・上田泰世)    自分が50代になるなんて思いもよらなかった。だが、「老い」は受け入れることでしか対処できない。いくつもの「老いるショック」を超えて人は成長していくのだろうか。 *   *   *    世の中は「老いるショック」で満ちている。  政治ニュースをウォッチしていてもそれは訪れる。例えば、国民民主党の玉木雄一郎代表が長時間労働を容認すると受け取られるような発言をしたことに、連合の芳野友子会長が苦言を呈したことを伝える、以下の毎日新聞記事だ(5月15日配信)。 <玉木氏は4月29日に配信されたネット番組で……(中略)……「働きがい改革」が必要だと主張。残業規制についても「自分自身そうだったけど20代のころ、徹夜しろとは言わないけど、徹夜してもいいと思っているんですよね」とした上で「20代の人と50代の人の残業規制は、健康度合いも違うから違ってもいいかなと思っている」などと話した> 「50代の健康度合い」にさらっと言及しているあたり、玉木氏自身も「老いるショック」を感じる年頃なのだろうか。そう思って、玉木氏の年齢を調べると56歳。なんと筆者と同い年だった。政治信条の違いを超えて他者の「老いるショック」に親近感が湧くのはなぜだろう。  そういえば筆者もつい先日、20代との健康度合いの違いを実感させられた。急ぎの仕事があって、徹夜とまではいかないけれど未明までかかって原稿執筆をした時のことだ。翌日昼間に数時間仮眠すれば復活するだろうと安易に考えていたら、思いもかけず身体のダメージが大きく、数日間、頭痛とだるさが続いた。20代は週2回の泊まり勤務もこなしていたのに。ここまで体力が衰えているのかと自分でも驚いた。  じつは40代でも、それまでずっと2.0だった視力が急に衰え、近くも遠くも見えづらくなり遠近両用眼鏡がないと生活にも支障が出るようになった時に「老いるショック」を感じた。ということは、今回は「第2次老いるショック」ということになる。  今さらながら、「老いるショック」のネーミングの妙を実感した。ちなみに、「老いるショック」は「ゆるキャラ」「マイブーム」などの言葉を生んだ“イラストレーターなど”のみうらじゅんさんの造語だ。「通販生活」が設立している「老いるショック認定委員会」でみうらさんは、「老いるショック」についてこんな説明をしている。 <「形あるものはすべて壊れる」とお釈迦さまも2000年以上も前に言っておられます。「永遠」は、人間がつくったただの言葉にすぎません。だったら、老いていることを自ら宣言して笑っていこうではありませんか。膝痛とか腰痛とか、老いを感じたところを自らゆび指して「老いるショック!」と、声に出します。クイズ番組『タイムショック』みたく“ショォ~ック”の部分を強調すると、なお陽気でいいでしょう。年寄り自慢を聞かされるのはウザいですが、「老いるショック!」なら周りも嫌な気はしないはずです。老いるショックは“退化”を“進化”に変える呪文なのです>  AERAでも「通販生活」さんにあやかって「老いるショック」の体験談を募ったところ、半日ぐらいで8人が回答を寄せた。関心の高さを示すのかどうかは分からないが、驚いたのは回答者が全員、アラフィフ女性だったことだ。 「40歳を過ぎてから、風邪を引いて一晩寝ても治らなくなりました」  こんな「老いるショック」を寄せたのは千葉県の会社員女性(53)。「第2次老いるショック」の経験は、「病と老化の区別がつかなくなり、病を老いと思った50歳」だという。 「病気」がきっかけの人はほかにも相次いだ。  大阪府の郵便局パート女性(55)は「50代になってから病気の治癒力が緩慢になり、病院で処方された薬の量では足りず、完全な体調に戻るのに時間がかかるのを実感した時に老いるショックを感じました」と打ち明ける。とはいえ、最近の50代はアクティブだ。この女性は「推し活」への影響が一番の気がかりだと明かした。 「東京や地方で行われる地下アイドルのライブに自分自身の健康や家庭環境を考えると、いつまで行けるのか気になっています」  千葉県のレジアルバイトの女性(50)は昨年経験した「老いるショック」を吐露した。 「突然、あちこちが酷い神経痛になり、何カ月も痛いまま、また、すごい速さで白髪やシワが増えました」  老いるショックを感じているのは「現在」と回答した和歌山県のパートタイム女性(49) からは、笑って受け流す、という手もあることに気づかされる。 「奥歯の治療中に前歯の被せが取れ、並行して治療することに。こんなこと初めて。なんなら別の奥歯が痛みだしてて震えています。出費のほうが痛い(笑)。こんなことあるんだね!と笑っていますアハハ……」  一方、「50歳になってから毎年。55歳になってからは毎日。56歳になってからは常に」と老いるショックの段階的変化を報告してくれたのは宮城県の無職女性(56)。「年齢的に今が2次なのでしょうか。 日々老いを感じてるので分かりません」  そして、胸のつかえを取り除くように一気にこう続けた。 「50歳からは階段を上るたび息を切らし、太ももの外側が痛くなり、歩けば若い方々に先を越され、顔もたるみ始め昔と顔が変わった感じがして、息子からは『白髪あるからそろそろ染めたら?』と言われるも、気の毒なのか、中学生の時のように『ババァ』とは言われなくなり、50代半ばごろに閉経を迎え更年期症状もあり、物忘れもたまにあり、老眼鏡なしではスマホも読めず、でもその老眼鏡も老眼が進むので合わなくなり、平地で足を上げてるのに引っかかって転び、股関節とお尻が痛くて受診した整形外科では『年齢的に』と言われ、閉経になってからは卵巣嚢腫になり頻尿もあるので毎日尿もれパッドが命綱。若い人がキラキラしています」  若いころは博覧会やラン展などのキャンペーンモデルの仕事をしていたというこの女性。「変な若づくりはしない」という宣言からは清々しさも漂う。 「ほかにもたくさん老いを感じることは毎日毎日ありますが、仕方がないです。でも60歳になるのが怖いです。『そのハードルを越えるとますますいろいろあるよ』と年上の女性から言われたことがありました。対処法なんてありません。年取ってるんだから仕方がないと自分に言い聞かせて、変な若づくりはしないこと。悪あがきはしません」  ほかにも、「甘んじて受け入れる」(前出の千葉県の会社員女性)など、「老い」との向き合い方については「達観派」が目立った。  例えば、「40代後半にかかり始めたころ、額にシワを発見した時は衝撃だった」と振り返る東京都の専業主婦(51)。 「子どもに『ママ、二重あごになってる』と言われた時も悲しかったです。実際、鏡の前で手持ち鏡を使って横から見ると、今までなかった肉のシワができていてこれも衝撃でした。痩せているのに……」  その後、五十肩も経験したという女性はこう続けた。 「ショックのあまりなんとか老いに抗おうとあれやこれやと手を出してみましたが、結局何かしても、何もしなくても大差がないと最近分かってきました。抗うのをやめた時、ストレスも減ったのかもしれません。老いはショックではあるけれど、いつかはこの世を去る。これが道なんだと思うようにしました」 もはや求道者の域。人は生きている限り「老いるショック」を繰り返すのだろうか。 <【後編】はみうらじゅんさんのインタビューに続きます>
なぜ夫婦の家事分担はこんなにも不満が募るのか “こだわり”で診断「家事シェア」の最適解
なぜ夫婦の家事分担はこんなにも不満が募るのか “こだわり”で診断「家事シェア」の最適解 家事分担の成功のカギは「家事の課題を一緒に解決していける関係性」を築くことだという。写真はイメージ(GettyImages)    家族が協力して家事をうまく回すには、生活スタイルに合わせた「チーム」作りが大切だ。「自分ばかり負担が大きすぎる」「相手が思い通りに動いてくれない」など、家事運用が機能不全に陥ってしまう原因は何か。タイプ別の解決法を識者に聞いた。  *   *   *  悩みは尽きぬ家事の分担問題。ただ分担するだけではなく、「家事の課題を一緒に解決していける関係性」こそが「家事をシェアすること」と話すのは、家事シェア研究家の三木智有さんだ。三木さんは元々はインテリアコーディネーター。居心地のいい家を探る過程でお客さんにヒアリングしているときに気づきがあったという。 「家の中を快適だと思える秘訣は、部屋がきれいなことでも、家具が素敵なことでもなかった。家庭がうまくいっている人も、そうでない人も、『家事や育児について話し合えていることのほうがよっぽど大事』と話されていたんです」  夫婦間や家族間の考え方のズレを解消するための「家事シェア」を発信し続け、その活動は15年にわたる。 「『家にいづらさを覚える』という男性がとても多いんです。その理由は、『自分が家計を担っているから、家事は妻がやって当然』という潜在的な意識にあると思います。もちろん近年は若い世代を中心に、家事シェアに積極的な男性も増えています。ただ、男性の意識というのはそう簡単に変えられるものではなく、女性側からの家事シェアの働きかけに応じてくれないというケースもあるかと思います」  そうしたときに役立てたいのが「4つのチーム家事スタイル」に分類されるチャート診断だ。どのスタイルが一番いいなどの優劣はなく、家族構成や仕事環境の変化によってタイプは変わることもあり、状況によってベストなスタイルが異なることに留意したい。 あなたの家事分担は何タイプ?(NPO法人tadaima!提供)   「シュフ型」はメインで家事を受け持つ人が家庭内をコントロールして、主導権を握る。細かいところまで目配りしながら、パートナーや子、家事代行などへ家事を振り分ける軍師タイプか。 「シュフ型で注意したいのは家族への指示の伝え方です。揉めるケースで最も代表的なのは、自分が家事をしているときに暇そうにしているパートナーを見た瞬間なんです。ムッとしてしまうでしょうし、そんなときに感情のままに『〇〇しておいて!』と言っても、言われた側もムッとしてしまう。『私が買い物に行っている間に〇〇をお願いね』などと、『いつやるか』を伝えると受け手も聞き入れやすいと思います」 期待を少し下げてみる 「担当型」は事前に割り振られた家事をそれぞれが責任を持って果たす、いわゆるスペシャリスト集団タイプとも言えるだろうか。料理好きなら「料理担当」を、地域や学校のパパ友、ママ友などとの情報交換が得意なら「ネットワーキング担当」を任せるといった、適材適所の配置が肝要だ。 「この分類では相手に口出しは無用です。任せた以上は家事への取り掛かりが遅くとも信じてみる。でき上がりに不満があっても責めずに、まずは感謝を伝える。自分の中だけにある“家事のやり方の正解”を相手が当てるのは無理なので、どうしても改善してほしい点がある場合は、『いつまでにやる』『こうしてほしい』など、最低限のルールを設けておくのもいいかもしれません」 「ハイブリッド型」は「シュフ型」と「担当型」のミックス。家事をメインで受け持つ人(シュフ)に基本的な主導権があるものの、やり方は各担当者に任せる柔軟性を持った司令塔タイプといえる。 「担当が決まっている家事は責任を持ってこなしてもらい、担当が決まっていない、あるいは突発的に発生した家事は指示をするなどして柔軟に対応する。効率化が期待できる一方で、担当する家事以外はやらなくてもいいという思考に陥りがちで、『なぜやってくれていないのか』と、揉める要因になりえます。ここでも『いつやるか』を前もって決めておくのがいいと思います」 「自律型」は気がついたほうがやるという、皆がオールラウンドプレーヤータイプ。明確なルールに縛られることなく、各々が自主的に動くという意味で理想的にも見えるが、そこにも落とし穴があることに注意が必要だ。 「家事に対して“自分だけの正解”は誰しもが持っていると思います。だから、やってくれてはいるけど拭き残しが目についてしまうとか、衣服の収納の順序が気になるとか、少しずつ不満が出てきてしまう。気づけば『私のほうが負担量が多い』と感じることもあるでしょう。『こうしてくれるはず』という期待を少し下げてみることも家事シェアをうまく回すコツの一つです」 4つのチーム家事スタイル (NPO法人tadaima!提供) 「パラレル家事」で時短  家事運用の型がわかれば、家事シェアの第一歩が踏み出せる。ここで気をつけたいのは、すべての家事を書き出して分担を考え出すことだ。分担を決めて、うまく走り出すことができればいいが、実際にこなせるかどうかを考慮できておらず、「私はこれだけやっているのに、あなたはこれしかできていない」などと、分担のバランスに不満が出てしまうこともありえる。三木さんは「必ず先に『生活の時間軸』を共有してほしい」と話す。 「平日の朝なら、朝起きてから家を出るまでにどのくらいの時間があるか。たとえば2時間だとして、その2時間の内にやるべき家事を全部洗い出す。朝食づくり、身支度、子どもを送り出すなど、家事が20個出てきたとしたら、どうすれば2時間以内に家族と協力し合って終わらせられるかをゲーム感覚で組み合わせてみるんです」 家事シェア研究家の三木智有さん(写真/編集部・秦正理)    もちろん、「どう組み替えても終わらない!」という場合もある。そのときは「パラレル家事」が実践できているかを確認したい。 「同じ時間に家族が別の家事をすることを『パラレル家事』と呼んでいます。妻が料理中であれば夫が洗濯を済ませてしまうというように、家族の状況を見てパラレル家事が自然とできるようになると、時短にもなりますし、家事への責任感や主体性も生まれます。家事シェアは負担や不公平感を覚えたときにトラブルになるので、『やらされている』『やらせている』という思いを抱かず、『うまくできないかもしれないけど任せてほしい』『あなたの助けがないと困る』と素直に伝え合ってみてください」  チャート診断やパズルのような時間軸での組み合わせ。ゲームのように楽しく一緒に家事シェアができれば、日々の不満も少しは和らぐかも。 (AERA編集部・秦 正理) 【特集:家事シェアの新ルール】 #1 「夕食を作っておしまい」の夫に妻はついにキレた! 約4割の妻が「夫の家事は40点以下」の現実 #2 妻に逐一ダメ出しされる40代男性は「萎縮してしまって…」 夫婦間の「家事分担」、意識のズレの原因は? #3 なぜ夫婦の家事分担はこんなにも不満が募るのか “こだわり”で診断「家事シェア」の最適解

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