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TCB中園医師が”久留米市民初のエベレスト登頂成功”を橋本副市長へご報告。久留米市の子ども達にチャレンジの精神を伝えてまいります。
TCB中園医師が”久留米市民初のエベレスト登頂成功”を橋本副市長へご報告。久留米市の子ども達にチャレンジの精神を伝えてまいります。 【進化を文化に】TCBと中園医師は世界一を目指して挑戦を続けます - TCB東京中央美容外科 日本全国に105院(2025年7月現在)を展開する美容クリニック TCB東京中央美容外科(理事長:寺西 宏王、以下「TCB」)の中園秀樹医師は7月10日(木)、久留米市の橋本政孝副市長へ表敬訪問し、久留米市民として初めて(※TCB調べ)エベレスト登頂に成功したことをご報告しました。 左:TCB 中園医師  右:久留米市 橋本副市長 2025年5月14日(水)6時55分エベレスト山頂(標高8848m)にて(左が中園医師) 表敬訪問では冒頭、中園医師より久留米市で生まれてからの生い立ちについて語られ、「1978年に久留米市で生まれ、父親の仕事の都合で札幌に移った後、2000年に久留米大学医学部に入学を機に久留米に戻ってきました。今は札幌よりも久留米の方が長くなりました。久留米大学ではワンダーフォーゲル部に入部し、北アルプスなどでトレーニングをしていました。そのまま久留米大学の耳鼻科で働いていたのですが、エベレストを本格的に挑戦しようと退職しようとしたところ、大学から休職を提案され「山休(さんきゅう)」と位置づけキリマンジャロに登ったりしていました。世界で8番目に高いマナスルに登った時には久留米大の旗を持って行って頂上で掲げました。」と写真パネルを用いて説明がなされました。 続いて今回のエベレスト挑戦について話が及び、「今はTCBという美容クリニックで勤務していますが、エベレスト挑戦のために退職を申し出たところ、休職を会社から提案いただきサポートも受けながらの挑戦でした。3月にネパールに向けて出発し、2週間くらい徐々に高度を上げながらベースキャンプを目指しトレッキングをして高度順応をしました。4月20日が誕生日だったので、ベースキャンプでお祝いをしてもらいました。ベースキャンプからキャンプ1~4まで徐々に登っていくのですが、ベースキャンプからキャンプ1が雪崩やクレバスがあって危険で、日中にいくと危ないので夜中にヘッドライトを付けていきました。キャンプ3からは酸素ボンベが必要で、寝る時も24時間酸素ボンベを付けて生活していました。山頂付近はもう雲の上で、空も見たことないくらいの濃い青でした。神々しい世界である一方、生き物のいないデスゾーンで少し怖い思いもしました。別の隊で同じ日に2人亡くなっていて、死が隣にある世界でした。そうしたところを経て5月14日の朝6時55分に登頂することができました。山頂から降りてくるときに指が凍傷になってしまって、ヘリで緊急搬送されました。今は母校の久留米大学病院の形成外科で治療してもらっています。指のことがあるので無事と言い切って良いのかは分かりませんが、久留米に戻ってくることができました。」と、今回の挑戦の一部始終が語られました。 橋本副市長からは、「世界最高峰のエベレスト登頂成功おめでとうございます。登る過程に大変な困難を伴いながらも、初志貫徹で達成されたことにただただ感動しております。日々すごい精進されてきたのだと思います。今回の経験を是非機会があれば久留米の子ども達に伝えて欲しいです。挑戦することの大切さと、そのための努力の大切さとか、またどこかの場面で叶えば子ども達にとって有意義なことになると思います。エベレストともなると一人では登れないでしょうから、大学や会社のバックアップがあって支えてもらいながら登ったという、チームで成し遂げたこともまたひとしおと感じます。」など労いのお言葉を頂戴しました。 ・メディアでの紹介今回の表敬訪問の模様を各メディアにも取り上げていただきました。 ■KBC九州朝日放送 『久留米市出身の医師がエベレスト登頂に成功 地元市役所を表敬訪問』 https://kbc.co.jp/news/article.php?id=15588357&ymd=2025-07-10 『久留米市出身のお医者さん エベレスト登頂を市に報告 「次は家族と一緒に…」』 https://kbc.co.jp/news/article.php?id=15591211&ymd=2025-07-10 ■TNCテレビ西日本 『久留米市の46歳医師がエベレスト登頂に成功 市民として初 久留米市役所に報告 福岡』 https://news.tnc.co.jp/news/articles/NID2025071026292 ・表敬訪問概要■日時:2025年7月10日(木) 10:00~10:20(※本イベントは終了しています) ■場所:久留米市役所 8F 市長対応室     〒830-8520 福岡県久留米市城南町15番地3 ■参加者:  ・久留米市 橋本政孝 副市長  ・TCB 中園秀樹 医師 ■内容:  ・中園医師よりエベレスト登頂のご報告  ・橋本副市長よりご挨拶  ・ご歓談  ・記念撮影 ・中園医師と久留米市1978年 久留米市生まれ 2006年 久留米大学医学部 卒業 2008年 久留米大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 2011年 聖マリア病院 耳鼻いんこう科 2017年 久留米大学病院 耳鼻咽喉科・頭頸部外科 現在はエベレスト登頂で負った凍傷の治療のため、久留米市内の自宅で療養中 詳しい経歴 母校の久留米大学 内村直尚学長へ登頂成功報告 ・エベレスト挑戦概要<登頂日時> 2025年5月14日(水)6時55分(現地時間) <スケジュール> 3月26日(水):ネパールへ向け日本を出発 3月27日(木)~3月30日(日):カトマンズで顔合わせや準備を行いルクラに移動 3月31日(月):ルクラからエベレスト街道のトレッキング開始 4月1日(火)~4月7日(月):ナムチェバザール、ペンボチェ、ディンボチェ、ゴラクシェップなどを巡りトレッキング 4月8日(火):エベレストベースキャンプ(標高5364m)に到着 4月10日(木)~4月11日(金):ロブチェピーク(標高6118m)で高度順応 4月26日(土)~4月30日(水):キャンプ2(標高6400m)で高度順応 5月9日(金):ベースキャンプを出発 5月13日(火):22時頃にキャンプ4(標高7900m)を出発、山頂アタックへ 5月14日(水):6時55分エベレスト登頂(標高8848m) 5月15日(木):キャンプ4からキャンプ2まで下山、ベースキャンプまでヘリ移動 <登頂サポート> ・渡邊直子さん(日本人女性初8000m峰14座制覇・「クレイジージャーニー」「情熱大陸」出演) https://naoko-watanabe.jp/       左:TCB 中園医師  右:渡邊直子さん ・中園医師インタビュー帰国して間もない中園医師に話を聞きました。 Q.エベレスト登頂した時の気持ちは? 頂上では感動して泣くかなと期待していたが、実際は目の前のことに必死で、自分の体調管理や酸素ボンベの残量のことに集中していたため感動して泣くということは無かった。しかし、ここが世界で一番高いところで、ここより高いところは世界に存在しないんだ、という高揚感があった。 登っている最中から感じたが、エベレストは神々しい世界。周りに生命が全くいないデスゾーンで、人が立ち入ってはいけない場所なんじゃないかと、生き物がいてはいけないところであると思ったときに恐怖を感じ無事に帰れるか心配だった。神々しい世界に自分が入り込んでしまったな、と。 Q.困難だったこと、トラブルは? 日本人の山仲間数人と一緒に今回は登る予定だったが、ベースキャンプにたどり着く前に低酸素血症などで一人また一人とリタイアしてしまい、結局自分一人だけでの挑戦になってしまった。 アタック中は3回くらい死ぬかもしれないと思った。 一番最初は山頂で。いつも山登りの時は体力を60%残して登頂し、もう一度登れるくらいの余力をもっていくようにしているが、今回は40%くらいしか残っておらず、無事に降りられないかもしれないという不安があった。リタイアしてもバスで回収されるトレイルランニングの大会と違って、エベレストは自分でキャンプ地まで降りられないことは即ち死を意味するので、山頂で死ぬかもしれないと感じた。 下山中も2回ほど急に眠気が来て、寝てしまえば楽になれるが、それも寝る=死を意味するので、キャンプ4までたどり着いたときは心底ホッとして生きている実感が湧いた。 また、渡邊直子さんとロブチェピークでの高度順応スケジュールについて喧嘩になったが、それを乗り越えてより一層の信頼関係が出来たことでマネジメントを全面的にお任せでき、成功につながった。 Q.帰国して体調やコンディションは? 右手の指が黒く変色するくらいの凍傷をしてしまった。 何で右手だけかと考えたが、山頂などで写真を撮るために指を露出していたのが原因かなと。ほんの数分だったと思うが、マイナス40℃で風が強いところなので、数分であろうと素手を晒していたのが原因だと思う。 下山している途中でなにか感覚がおかしいなと思って見てみたら指がちょっと白くなっていて、これはまずい、凍傷だと思ったが、時々チェックするために手袋を外していた。すると運悪くその時に突風で手袋が飛んでいってしまい、そのまま素手で行ったら右手は完全にダメになっていたが、予備の薄い手袋を二重にするなどして対応しなんとか今の状態で済んだ。 ただ、指を無くすと分かっている状態で時が戻ったとしても、またエベレストに登ると思うし、命をかける価値があると思っている、それくらいエベレストは人生の中で重要なチャレンジだった。 Q.出発前にアルピニストの野口健さんから応援メッセージとアドバイスが送られたが、現地でどのように役立ったか? (参考:https://prtimes.jp/main/html/rd/p/000000244.000034186.html) 野口健さんからは、キャンプ4でいかに仮眠を取るかが大事というアドバイスを頂いて、そこを意識して必ず寝ようと思っていた。キャンプ4を出発して帰ってくるまで20時間くらい歩いていたが、仮眠せずに歩いていたら途中で力尽きていたと思う。 風が強く、予定より出発が遅れたこともあり、キャンプ4でしっかり仮眠をとれたのが今回無事に帰ってこられたポイントと思う。 Q.壮行会では「チャレンジする人が一人でも多く増えてくれれば良いなと思っている」という発言があったが、チャレンジを終えて改めてどう思うか? 世界一のエベレストに行くためにはすごい準備が必要なんでしょうとか、特殊な才能が必要なんでしょうとか、そういう風に思われるかもしれないが、僕も毎日毎日10時間トレーニングするとかそんなことはなく、普段していることと言ったらなるべくエレベーターを使わずに階段で登るだとか、暇な時間があったら朝のジョギングとか、それくらいのことをしている程度。特別なトレーニングは実はそこまであまりしていない。そういう意味では普通で才能があるわけでもない、体調も体格も大谷翔平選手みたいなあんなムキムキというわけでもない、僕でもチャレンジする気持ちとかやってみようという気持ちがまず大事。それをコツコツ続けることで世界一高いエベレストも、世界一過酷なサハラマラソンもクリアできた。 何事も自分は特殊な能力があるわけじゃないからとか、恵まれているわけじゃないからと言うわけでもなくて、まずはやってみてそれでダメだったらダメなところとか足りないところを、トレーニングしたりとか人に助けてもらったりとか補っていけば、どんなところでも道は開けるんじゃないか。チャレンジのハードルをまずは下げてみる。 サハラ砂漠マラソンでよく言われるのが、泳げるようになってからプールに行く人はいない。泳げない状態からプールに行って、だんだん泳げるようになる。最初から無理って思わずに、できないところからみんなできるようになったりすることも多いので、まずはチャレンジしてみる、ということをやってもらいたい。 Q.TCBへのメッセージ TCBを一旦辞めてからエベレストチャレンジをして、無事に帰って来れたら仕事に戻ろうと思っていた。自分勝手なことで会社にも迷惑かけてしまうので退職しなければと思っていたが、会社としても応援したいと言っていただき、スポンサーについてもらって手厚いサポートの中でチャレンジできたのは本当に良かった。 今回は形に残る結果を出せたのも良かった。こういうチャンスをもらえる人というのは本当に少ないと思うので、TCBには非常に感謝している。ありがとうございました。 TCBより中園医師へ、エベレスト登頂チャレンジ成功の特別報酬1000万円を支給 Q.今後について 人生でやりたいことをまとめた3大バケットリストがある。 1つ目は「世界一過酷なサハラ砂漠マラソン完走」、2つ目は「世界一高いエベレスト登頂」、3つ目は「家族と一緒に世界一周」。 そのうち2つは達成したので、残りは3つ目の家族と世界一周だが、ファーストクラスでまわるのか、ヒッチハイクでまわるのか、いろんなスタイルが考えられるが、とにかく人と感情を共有しながら旅を楽しみたい。 でも実は、その共有するパートナーを探すのがエベレストに登るより一番難しいのかも…(笑) 中園 秀樹 Hideki Nakazono 生年月日:1978年4月20日生まれ 出身地:久留米市生まれ、札幌市育ち 趣味:サウナ・Netflix 得意施術:糸リフト、目の下のクマ・たるみ取り 活動歴: 2016年 キリマンジャロ(標高5895m)登頂 2019年 マナスル(標高8163m)登頂 2021年 エベレスト(標高8848m)にチャレンジするもコロナウイルスの影響によりC3(標高約7300m)で断念 2023年 サハラマラソン(約250km)完走 2025年 エベレスト(標高8848m)登頂 本人より:僕は医者で冒険家でチャレンジャーです。より多くの方とこのチャレンジを共有できたらと思います。僕がチャレンジすることで何かを感じてもらえたら嬉しいです。 中園医師と登山との出会いは17歳の時、学校行事で北海道東川町の道内最高峰・旭岳(標高2291メートル)に登ったときでした。登頂した時の達成感に魅了されたことで登山にのめりこみ、世界中の名峰を攻略してきました。 2021年に初めてエベレストに挑戦したものの、山頂へのアタック待機中にベースキャンプでコロナウイルスが蔓延し、病院の酸素ボンベが不足したために涙を飲みながら撤退した過去を持ちます。 コロナの影響も落ち着いた今、中園医師はTCBのサポートを受け、高校生の時に抱いた約30年がかりの夢「エベレスト登頂」を見事実現させました。 ・TCBクリニック概要 TCB東京中央美容外科は日本全国に105院を展開する美容クリニックグループです。身体への負担の少ないプチ整形をはじめとしたさまざまなメニューを取り揃え、患者様の「キレイを幸せに」を実現します。「理想のあなたを着飾る」美容医療を。TCBは徹底したカウンセリングとシミュレーションにより、患者様の「理想」をどこまでも追い求めます。 クリニック名:TCB東京中央美容外科 理事長:寺西 宏王 クリニック数:105院(2025年7月時点) 診療時間:9:00~19:00     (9:00~10:00はカウンセリングのみ・一部の院では診療時間が異なります) 休診日:院により異なります 【WEB・LINE予約は24時間365日受付中】 オフィシャルサイト:https://aoki-tsuyoshi.com/ ■本件に関するお問い合わせ 広報担当 石川 将之(一般社団法人メディカルアライアンス) mail:ishikawa.masayuki@medical-alliance.or.jp
世界的歴史学者『サピエンス全史』著者 ユヴァル・ノア・ハラリ教授と国際非政府組織 ingo PEACE.が契約 ~地球共生社会に向けた戦略的協調の第一歩~
世界的歴史学者『サピエンス全史』著者 ユヴァル・ノア・ハラリ教授と国際非政府組織 ingo PEACE.が契約 ~地球共生社会に向けた戦略的協調の第一歩~ - 一般財団法人International Non-governmental Organization PEACE.  International Non-governmental Organization PEACE.(ingo PEACE.)は、人類史において、目に見えない抽象概念を共有する知覚能力こそが、社会的協調を可能にした人類進化の特性であることを紐解いた書籍「サピエンス全史」の著者であり、世界的歴史家・思想家として第一人者であるユヴァル・ノア・ハラリ教授と、地球共生社会*の構築に向けた価値の共有に基づき、協調的な契約を締結いたしました。今後、未来社会のための戦略的協力を進めてまいります。 Professor Yuval Noah Harari  このたび、International Non-governmental Organization PEACE.(国際非政府組織ピース、略称:ingo PEACE. 、本部:東京都千代田区)は、世界的に著名な歴史学者・未来思想家であるユヴァル・ノア・ハラリ教授との契約を締結いたしました。  今回の協調的な契約締結は、「地球共生社会」を実現するため、未来に向けた協力関係を構築するという両者の共通価値観に基づくものです。 “想像上の秩序”を現実の秩序へ。共創による地球社会へ向け、動き出す。 奪い合う競争世界から、分かち合う共創世界へ *「地球共生社会」とは、人類の多様性を尊重しながら、限られた資源やエネルギーを奪い合うのではなく、分かち合い、共に生きる仕組みを築く社会のことです。国境や宗教、文化を超えて“共生益=すべての生命が安心して暮らせる未来”を共有し、地球全体を持続可能な共同体として捉える考え方に基づいています。 ● 協調の背景  世界は今、気候変動、社会格差、既存社会システムの疲弊など、国家の概念を越えかつてない地球規模の課題に直面しています。こうした時代において、ingo PEACE.は「国際協調戦略」と「社会直接民主主義」を中核理念とするプロジェクトの開発を推進し、持続可能で安心できる共生社会モデルを創造することを目指しています。  ユヴァル・ノア・ハラリ教授は、著書『サピエンス全史』『ホモ・デウス』、新著『NEXUS 情報の人類史』などで知られ、人類史の未来に対する深い洞察と、国境を超えた新たな共通価値基盤の必要性を世界に訴えてきました。このようなビジョンがingo PEACE.の活動理念と深く共鳴し、今回の協調関係構築に至りました。 (C) Steve Castillo, Stanford University 【ユヴァル・ノア・ハラリ教授】  歴史学者、哲学者。1976年生まれ。オックスフォード大学で中世史、軍事史を専攻して2002年に博士号を取得。現在、エルサレムのヘブライ大学で歴史学を教えるかたわら、ケンブリッジ大学生存リスク研究センターの特別研究員もつとめる。 ・ 主な著書に『サピエンス全史』『NEXUS 情報の人類史』『ホモ・デウス』『21 Lessons』他 ・ 著作は、世界65か国の言語で翻訳出版、累計5,000万部超の世界的ベストセラー作家 ・ 世界経済フォーラム(ダボス会議2018年~2020年登壇)、国連主催イベントや関連会議で、AI、ビックデータ、民主主義の未来、世界秩序といったテーマについて、倫理的観点や人類の選択に関する鋭い提言を行う。  テクノロジーと人間性の関係、社会構造モデルの進化、地球規模での連帯の必要性に強い問題意識を持ち、持続可能な未来社会のビジョン形成に大きな影響を与え続けています。 — 最新刊情報「NEXUS 情報の人類史(上・下巻)」河出書房新社 (原題 NEXUS : A Brief History of Information Networks from the Stone Age to AI) https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309229430/ https://www.kawade.co.jp/np/isbn/9784309229447/  ingo PEACE.は、国際協調戦略の中で、世界の識者の示す叡智を、多様性ある世界を照らす灯として採り入れながら、分断を超え分かち合う社会への新たな境界線を切り拓いていきます。 ● ingo PEACE. について   ingo PEACE.は、「すべての生命が安心して暮らせる社会」の実現を目指し、共生型社会モデルの構築に取り組む国際非政府組織(INGO)です。奪い合う競争社会を超え、分かち合う共創社会を築くことを目標に掲げ、経済制裁が課されるミャンマーへ国際医療支援物資を世界に先駆けミャンマー赤十字社を窓口として正式輸送。2025年3月の大震災発生時には、発災後72時間以内に1万世帯規模の食糧支援を実施、そして平和実現に向けた中心組織との戦略的連携等。今後、共生価値を共有するパートナー組織と共に、さらなる共創プロジェクトを通じて、エネルギー、インフラ開発整備、技術共同研究、健康衛生・生活環境増進、復興協調開発へ向けた国際協調戦略を推進していきます。民間セクターとして新たな社会モデルづくりに挑戦します。 ▶最新関連プレスリリース 平和と生活安全保障を目指し ingo PEACE.とミャンマーCPR(平和・紛争解決センター)が包括的アライアンス契約を締結 ~ミャンマーにおいて、新たな国際モデル構築を推進~ 組織情報■組織名:International Non-governmental Organization PEACE. (略称:ingo PEACE.) ■所在地:東京都千代田区丸の内1-8-3 丸の内トラストタワー本館20階 ■代表者:中澤 弘幸(会長)クー・リャン・カム(代表理事) ■設立年:2024年6月 ■公式サイト:https://ingo-peace.org 本件に関するお問い合わせ先International Non-governmental Organization PEACE. E-mail:pr@ingo-peace.org
【注目ランキング】ニュージーランドのビザに申請殺到 「いま長期居住権を取りたい」おすすめの国ベスト5
【注目ランキング】ニュージーランドのビザに申請殺到 「いま長期居住権を取りたい」おすすめの国ベスト5 ニュージーランドのクライストチャーチの街並み(写真・gettyimages)    いつか海外に移住したい——。その希望を実現すべきタイミングは、“今”かもしれない。世界で移住制度の改正が相次ぎ、申請条件が厳しくなっている。資産を守り、世界で自由に生きたい資産家が選ぶべき国はどこか。海外移住コンサルタントの大森健史さんが厳選した「いま長期滞在権を取得したい国」ランキングを紹介する。 *  *  * 1位 ニュージーランド 「なんといっても相続税も贈与税もありません。永住権を取得後の居住義務もありません」  4月に条件が緩和されたニュージーランドの「アクティブ・インベスター・プラス・ビザ」。最低必要資金は従来の3分の2に引き下げられ、英語力も不問になった。年齢制限はない。500万NZドル(約4.4億円)を3年間、もしくは1千万NZドル(約8.8億円)を5年間、株式などに投資する。  この永住ビザを求めて、世界中から申請が殺到している。 「世界からの申請件数は2年7カ月で115件でしたが、今年4月の改正から2カ月で146件と、ひと月当たり約20倍もの申請がありました。いままで中国人の申請が多かったのですが、トランプ大統領に愛想をつかしたのでしょうか、今はアメリカ人が最多です。弊社を通じて申請する日本の方も出てきています。これだけ人気ですから、今後は条件が厳しくなると噂されています」  メリットは何か。 「居住用不動産への投資は対象外で、NZ企業に投資するファンドへの投資が必要ですが、投資先はスタートアップ企業に限らないので、成長力は低いですが安定した企業に投資するようなファンドを選択すれば比較的低リスクかなと思います。1千万NZドルの投資であればホテル、不動産管理ビジネスへの投資などでも構いません」  もう一つの魅力は、永住権取得後に滞在義務がないことだ。 「オーストラリアは5年のうち2年は居住しないと永住権の維持が難しいように、多くの国が永住権の維持要件に滞在義務を課していますが、ニュージーランドは全く滞在しなくても構いません」  滞在義務ナシにメリットがあるのは、上場企業の役員や病院経営者といった日本での仕事の比重が大きい人だ。日本と往復する人は、滞在義務が満たせない可能性がある。その点、ニュージーランドなら、とりあえず永住権を取って、キープすることができる。「いざとなったらニュージーランドに住める」と思えるのも安心材料の一つだろう。時差3、4時間なので、日本との仕事もしやすいのも特徴だ。  ニュージーランドがおすすめなのは、どんな人か。 「家族で落ち着きつつ、相続も見据えた資産家ファミリーにおすすめです。また、譲渡益税が無税なので株式で資産形成して、5億~15億円を手にして、50歳でリタイアした後、ニュージーランドに移住して、温暖な気候、治安の良さに惹かれる人もいます。刺激がほしい人はシンガポールやドバイが向いているでしょう」  英語圏で、地政学リスクも少ない。 「法治国家なので、自分の資産も守られます。突然、銀行口座がロックされたり、不動産を取り上げられたりするリスクもありません」  さらに、家族全員が5年間で1350日以上滞在すれば市民権の申請もできる。ニュージーランドの市民権を得て一定条件を満たせば、いまや永住権が取得しづらいオーストラリアでも居住できるという。 2位 ギリシャ 「最安25万ユーロ(約4250万円)の不動産を購入するだけでいいのです。ギリシャも居住義務がありません」  ポルトガル、スペインなどの近隣国では、不動産投資で長期滞在権を得られる「ゴールデンビザ」が廃止になった。このため、不動産の購入で申請できるギリシャの「ゴールデンビザ」の存在感が増しているという。 「期限は5年ですが、更新できます。不動産物件を持っていれば、権利を保持できるため、ほとんど永住権に近い状態と言えます」  物件は賃貸に出してもOK。必要最低滞在日数もない。就労はできないが、起業はできる。  不動産購入の最低金額は、アテネや周辺地域では80万ユーロ以上、その他地域では40万ユーロ。商業用や工業用の建物を住居用に改築する場合は、25万ユーロ。 「25万ユーロの物件は、商業用からの転換といっても、リノベーションしてしっかりした造りです。ある物件は、アテネ中心部から車で15分くらいで、ビーチに近く50平米でした」  大森さんによると、家賃は日本より安く、マレーシアのクアラルンプールより少し高い程度。シンガポールと比べても、先進国でありながら生活コストが安い。ドバイに移住した人が「次に目指す場所」としても人気だという。   3位 タイ 「タイといえば、激安マッサージなど『安い』イメージがあるかもしれませんが、新しいビザが世界的に大人気です。いま一番、富裕層が集まる国と言えるでしょう」  大森さんがおすすめするのは、10年滞在できる投資家ビザ「LTRビザ」だ。 「注目すべきは、タイの他のビザでは得られない海外所得の非課税制度です。申請条件も投資家ビザの中では比較的簡単で、100万米ドル(約1.5億円)以上の資産がある証明と、50万米ドル(約7500万円)以上の投資(株等でも可能だが不動産が人気)が条件です」  LTRビザには、50歳以上が対象のタイプもある。年収8万米ドル(約1200万円)の「不労所得」があれば申請できる。 「家賃収入や株の配当といった不労所得が対象で、基本的に給与所得は認められません」  不労所得が年に8万米ドルない場合、不労所得が年に4万米ドル(約600万円)あれば、25万米ドル(約3750万円)の不動産投資でも申請できる。25万米ドルで購入した不動産の家賃収入を不労所得にして、次回の更新を乗り切る人もいるという。  なぜいまLTRビザが登場したのか。 「一連の制度変更から、タイ政府が海外の富裕層を積極的に誘致し、低迷する国内不動産市場の活性化を狙っているのでしょう」 4位 アメリカ  アメリカは、移住するには実は「お値打ち」な国だ。  1992年にできた投資家ビザである「EB-5」は、80万米ドル(約1.2億円)を米国移民局(USCIS)が指定した企業体等が運営する雇用創出型の投資プロジェクトに投資すれば、永住権を申請できる。 「先進国にしては、激安の部類です」  家族での永住権申請が可能。その後、子どもが成年になっても、永住権は有効なのもポイントだ。 「投資用の80万ドルをどのように調達したか、細かく確認されることには注意してください」  いま話題になっているのは、この「EB-5」ビザの廃止の可能性だ。トランプ大統領が「EB-5」ビザを廃止して、500万ドル(約7.5億円)の支払いが必要な「トランプ・ゴールドカード」を開始すると表明している。 いまなら1.2億円の投資でアメリカ永住権が申請できる。   5位 マレーシア 「資産5千万円以上で一定の収入があれば行けます。必要金額は、ニュージーランドの約10分の1で済みます」  一定の収入要件はあるが、やや高額な申請料を払い、定期預金さえすれば、20年間滞在できる「プレミアムビザ」がおすすめだ。 申請料は20万リンギ(約680万円)で、家族1人につき10万リンギ(約340万円)追加。夫婦2人なら、約1千万円だから、単身や夫婦だけなど家族が少ない方にはおすすめだ。 収入要件は、国外の月収4万リンギ(約136万円)以上。マレーシアの銀行に100万リンギ(約3400万円)の定期預金も必要だ。 海外所得税は非課税で、居住義務はなし。さらに就労も可能という。 「これまでマレーシアといえばMM2Hビザが人気でしたが、ころころと条件が変わった上に、今は不動産の購入と90日滞在が必要となっています。プレミアムビザはそれに代わるビザとして人気を集めています」 生活コストの安さも魅力だ。 「アジアの生活コストは、シンガポール、日本、タイ、マレーシア、フィリピンの順です。マレーシアの家賃は東京の半分程度です」   移住手続きの注意点 「どの国も共通するのは、資産と収入の確認です。銀行の取引明細、確定申告書や源泉徴収票それぞれ1~10年分を翻訳して提出することも珍しくありません。資産はどれくらいあるか、これまでどのように稼いだかが確認されます。現時点の申請から承認までの期間は国によって異なり、タイやマレーシアは審査期間が3~6カ月程度と短め。ニュージーランドは半年ほど。アメリカが申請に最も手間を要し、審査には3~5年ほどかかります」 (AERA編集部 井上有紀子)
1億~2億円の資産をあっという間に食い潰して日本に帰国するケースも シンガポール在住10年のFPが語る移住の魅力と注意点
1億~2億円の資産をあっという間に食い潰して日本に帰国するケースも シンガポール在住10年のFPが語る移住の魅力と注意点   シンガポールの観光名所の一つ、マーライオン(花輪さん提供)    芸能人を含め、多くの日本人が移住しているシンガポール。節税が魅力というが、具体的にはどの程度なのか、現地に住んで10年になるファイナンシャルプランナー(FP)の花輪陽子さんに、物価や子どもの教育、移住するうえでの注意点など、詳しく聞いてみた。 *   *   *    数々の著書の他、世界に名高い投資家であるジム・ロジャーズさんの書籍をいくつも翻訳したことでも知られるFPの花輪陽子さんは、夫のシンガポール赴任を機に2015年6月から、当時1歳の長女も含めた家族全員で同国へ移住した。当時はまだリモートワークが普及しておらず、FPの仕事にも制約が生じることや幼子を連れての海外暮らしなどに不安を感じたが、家族でいっしょに暮らしたいとの思いが強く、悩み抜いたうえで決断したという。  外務省によれば、シンガポールの人口は2022年の時点で約564万人。その内訳はシンガポール人・永住者が407万人で、残る157万人が外国人だ。なお、2024年10月1日時点で同国で暮らす日本人の数は3万2565人に達している(在シンガポール日本国大使館の在留邦人数調査統計)。  157万人の外国人には、母国企業から派遣された駐在員や現地の企業に勤める人たちだけでなく、シンガポールで暮らすメリットに着目して移り住んでいる富裕層も少なからず含まれている。さらに、彼らの中には永住権を獲得した人もいる。  ジム・ロジャーズさんもその一人で、2007年に家族とともに米国から移住した。日本人も例外ではなく、村上ファンドを率いて一世を風靡した村上世彰さんが筆頭に挙げられる。事情は人それぞれではあるものの、シンガポールに移住してきた富裕層の多くは、節税を目的としているとの印象が強いと花輪さんは指摘する。   高級リゾートホテル「カペラホテルズ&リゾーツ」(花輪さん提供)   「シンガポールでは相続税や贈与税が課されず、株式などの売買で得られたキャピタルゲイン(売却益)も非課税になります。また、所得税は日本と同じく、所得が多いほど高くなる累進課税になっていますが、その最高税率は24%ですし、法人税も17%で日本よりも税負担が軽くなっています」  日本における所得税の最高税率は45%で、普通法人に適用される法人税率は23.2%だから、確かにその差は大きい。しかも、シンガポールの居住者になっても、日本で給付された公的年金のように、国外で発生した所得に対して、同国の所得税が課されることはない。  もちろん、前述した公的年金に対しては、日本の所得税がかかることになる。だが、日本国籍を持っていても「非居住者(日本に住んでいない人)」と認められれば、海外で得られた所得に対し、原則として日本の税金は課されない(所得が発生した国の税金はかかる)。 「相続税や贈与税に関しても、与える人と与えられる人の両者が日本国外に10年以上居住していれば、海外で所有している財産に対して日本で課税されないのが原則です。シンガポールのように相続税・贈与税がかからない国に住んでいると、日本でもシンガポールでも課税されないというケースも出てきます。ただし、非居住者と判定されるには、海外に一定期間以上在住し、海外に生活の拠点を置いていることを証明できなければなりません」  シンガポールではキャピタルゲインのみならず、インカムゲイン(株式の配当などで得られた利益)も原則として課税されないという。資産運用においても、日本と比べてはるかに有利なのだ。 「日本と比べて金利水準もはるかに高く、銀行の給与振込先口座にお金をプールしたままにしておくだけでも5%程度の利息がつきます。株式の配当利回りについても、5%程度に達しているケースが珍しくありません」   チャイナタウン周辺(花輪さん提供)    一方、語学力に自信のない人はその点が移住のネックとなってきそうだが、シンガポールの場合はそこまで気にする必要がないと花輪さんは語る。 「語学力に関しては、米国に移住するケースと比べればハードルが低いと言えるでしょう。単語を並べるだけの片言英語でも通じることが少なくありませんし、日本語⇔英語を通訳できる人材も多く、そういった方々を雇っている富裕層もいます」  海外への移住において大きな関心事となるのは衣食住だが、年間を通じてシンガポールの最高気温は30度前後、最低気温は25度前後で、季節による変動はほとんどないため、衣替えの必要がない。食については、高級食材から庶民的なものまで、非常に価格帯が幅広いという。 「日本米は5キロ4千円前後の値がついて物価高騰中の日本と変わらない水準ですが、こだわらなければジャスミンライス(インディカ米)などを非常に安値で購入できます。現地の人々向けのウェットマーケット(生鮮食料品を取り扱う市場)を利用すると経済的です。日本で言えば上野の『アメ横』のような雰囲気で、卵が10個で250円前後といったように庶民的な価格です」  外食については、10%のサービスチャージと9%の消費税が加算されることもあり、レストランの利用は日本と同等以上になってしまうとか。もっとも、フードコートや屋台などの庶民的な店では1千円前後で存分に食べられるという。 「シンガポールの場合、お酒はアルコール度数に応じて税額が高くなります。ビールはさほど変わりませんが、ワインや焼酎、ウイスキーなどのアルコール度数が高い酒類は、日本と比べて割高になることがほとんどです」 最も有名なホテル「マリーナベイ・サンズ」(花輪さん提供)    では、最も負担の大きい住まいはどうなのか? 外国人が好んで住んでいるのはセキュリティーも整ったコンドミニアムタイプの住宅で、プールやジム、バーベキューピットなどの豪華な施設が完備されている物件も多いとのこと。ただ、「コンドミニアムの場合は安くても月々30万円以上の家賃がかかるのが一般的で、日本人が多く住むエリアでは40万円前後の物件も多い」という。  家賃は高いものの、光熱費や通信費、さらには公共交通機関の料金は日本と比べてかなり割安だと花輪さん。 「暑い国なので、我が家では5台のエアコンが年中フル稼働ですが、それでも光熱費の合計は月々2万円程度にとどまっています。通信費は更に割安で、3社の割引競争が熾烈化していることから、かけ放題なのに月々1千円台からあります」  単なる旅行ではなく移住となれば、病気やケガのこともきちんと考えておく必要があり、出費面では医療費にも注意を払いたい。シンガポールの医療は自由診療制で、全額自己負担であるうえ、医療機関によって同じ治療内容でも費用が大きく異なってくるのだ。 「多くの医師は患者が外国人だと海外旅行保険に入っていることを前提にビジネスをするので、風邪で薬を処方してもらっただけでも数万円の医療費を請求されるケースもあります。その点、ローカルの政府系病院の医療費は比較的リーズナブルで、私の娘が幼児期に高熱を出して緊急外来を利用した際にも1万円程度ですみました。ただし、ドクターとのやりとりは英語で医療用語も出てくるので、相応の語学力が求められてきます」 シンガポール在住10年の花輪陽子さん(花輪さん提供)    花輪さんのように子どもとともに移住する場合には、教育のことも考えなければならない。現地の公立校への進学は、シンガポール国民と永住権保有者が学費や学校の選択の面で優遇されている。こうした事情から、シンガポール在住の日本人や欧米人の保護者の多くはインターナショナルスクールを選択しているという。 「数年で帰国する日系企業の駐在員の場合はお子さんを日本人学校に通わせているケースが多いのですが、私の娘はインターナショナルスクールに通わせています。学費は日本にあるインターナショナルスクールと同程度で、年間300万円前後から(ホリデープログラムは別途)というのが一般的です」  シンガポール特有の事情として、日常生活の様々なシーンで厳しいルールや罰則が定められていることにも注意したい。たとえば、午後10時半~翌朝7時の時間帯はコンビニなどでアルコール飲料を購入できず、このルールを破ると最高1千シンガポールドル(7月9日時点で1シンガポールドル=115円弱)の罰金が科される。他にも、禁止エリアでの喫煙やゴミのポイ捨て、公共交通機関内での飲食も罰金の対象となってくる。 「処罰も非常に厳しく、一定量以上の違法薬物をシンガポールに持ち込んだ場合は死刑が科される場合もありますし、公共物に落書きをして鞭打ち刑になった外国人もいました」  最後に花輪さんは、シンガポールへの移住を考えている人に対して次のようなメッセージを寄せる。 「指導者が強いリーダーシップを発揮しており、シンガポールは日本や米国以上に政治面も安定していると言えます。文化や宗教などが異なる様々な国々の人々が共存し、ダイバーシティー(多様性)に関しても日本以上に先進的である点も魅力で、いろいろな考え方があることを学べます。ただ、現地で何らかの収入を得ることなく、完全にリタイアした生活を送るつもりであれば、それなりの資産を築いていないと行き詰まってしまう恐れもあります。実際、裕福な暮らしを続けて散財し、1億〜2億円程度の資産をあっという間に食い潰して日本に帰国するケースも見受けられるのです」 (金融ジャーナリスト 大西洋平)   花輪 陽子(はなわ・ようこ)シンガポール在住ファイナンシャル・アドバイザー。1級ファイナンシャル・プランニング技能士(国家資格)、CFP認定者。外資系投資銀行を経てFPとして独立。「ホンマでっか!?TV」等のテレビ出演、講演も多数。2015年から生活の拠点をシンガポールに移し、シンガポールのファミリーオフィス等でウェルスマネジメントに従事。主な著訳書に『世界標準の資産の増やし方』、近刊に『世界大激変』(ともに東洋経済新報社)がある。YouTube「FP花輪陽子のお金の教室」で動画配信も行っている。
「親と縁を切りたい」「死んでほしい」介護の負担に追い詰められた子が「家族じまい」 親子関係は切れなくても「対応を」と専門家
「親と縁を切りたい」「死んでほしい」介護の負担に追い詰められた子が「家族じまい」 親子関係は切れなくても「対応を」と専門家   高齢化が進み、家族が介護の担い手となるケースは増える中、親の世話を機に精神的に追い詰められていく人が少なくない(写真=記事中の女性提供)   「親との縁を切りたい」……年老いた両親などの介護の負担に耐えかね、「家族の代わり」を生活支援サービスに任せて「家族じまい」を考える家族が増えているという。認知症が進んだ親のケアを一人で抱え込み、自身も心身を壊して追い詰められていく子ら。専門家は「深刻化する前に相談を」と呼びかけている。 *   *   *  父親が、亡くなった。 「死ぬまで連絡は不要」としていた父。都内に住む50代の男性会社員に連絡があったのは、今年2月のことだ。  3年ほど前に母親が亡くなったあと、70代の父親に認知症の傾向が表れ始めた。普段の態度が変わり、マイナンバーカードをつくることを勧めると「カードで俺の金を下ろそうとしてるんだろう」と罵られた。何か言うたびに、包丁を手に「刺すぞ」と脅された。  一人で問題を抱え精神的に追い詰められて不眠症になり、仕事も手につかなくなった。  昨年4月、一般社団法人「LMN」(東京)に相談をした。    同法人の設立は2016年。当初は身寄りのない高齢者の生活支援が目的だったが、「毒親」という言葉が浸透してきた3年ほど前から、「親の看取り」に関する相談が増加。今年3月には、親の介護や看取りまでを代行するLMNの専門相談窓口「家族じまいドットコム」を立ち上げた。  高齢になった両親などの介護をめぐって精神的に追い詰められ、「相談先もなく、悩みを抱える人が増えています」と、LMNの代表理事を務める遠藤英樹さん(57)は話す。  LINEでの相談は月200件以上に上るが、相談者は親の介護や親からの過干渉に悩む40~50代の団塊ジュニアが中心。特に最近は、男性からの依頼が急増しているという。    LMNが提供するサービスは、介護や買い物、洗濯、通院の付き添い。さらには、亡くなった後の葬儀や納骨まで多岐にわたる。介護は資格を持ったスタッフが対応し、依頼者である子どもには、希望すれば状況を伝えたりもする。  代行サービスの料金は初期費用が55万円。以後、呼び出しに応じるなど1回(4時間程度まで)のサービス利用につき1万3500円(交通費込み)。決して安くはないが、依頼者の多くは、親から解放される「精神的な自由」と「時間」を買っているという。現在、関東、関西、東海地方を中心に約350人がサービスを利用しているという。  父親の介護に苦しんでいた先の男性も、後ろめたさがなかったわけではないが、悩んだ末にすべてを任せることにしたのだった。  LMNは父親の施設への入退院の手続き、亡くなった後の葬儀や納骨の手配。さらには、実家の片付けから遺産整理まですべてやってくれた。  男性は言う。 「父親に関するすべての電話がかかってこなくなったので、精神的にものすごく楽でした」    しかし、LMNの遠藤さんは、「このサービスは、決して親子関係を断絶させるものではない」と強調する。  サービスを「家族代わり」に利用してもらうことで、親子間に新しい距離感や関係が構築され、双方が納得できる形での「家族じまい」を目指しているという。 「本来、私たちのような仕事はあってはいけないものです。しかし、核家族化や一人っ子の増加といった現代社会の変化の中で、家族の関係性を円滑に進めるためには必要不可欠な存在でもあると思っています」   ダブルケアに苦しんで 「死ねばいいのに」  都内に住む自営業の女性(45)は、両親に対して何度そう思ったかしれない。  父親は10年ほど前に受けた手術が失敗し、要介護の認定。母親は認知症との診断を受けている。2人は当時、70代。6年前にシングルマザーで子どもを出産した女性は、子育てと介護を一人で担うことになった。  実家近くに住んで両親の介護を続けてきたが、やがて父親は要介護5にもなり、認知症が進んだ母親は徘徊が始まった。  育児と介護のダブルケア。女性は次第に精神的に追い詰められていった。     両親の介護と育児の両立に追われた女性(45)は精神的に追い詰められ、「死ねばいい」「死んでほしい」と何度も両親に対して思ったという(写真=本人提供)    親との縁を切り、捨てることができればどんなに楽か――。何度も思ったが「子どもが親の介護をするのは当然」という周囲の考えも相まって、誰にも相談できないまま責任に押しつぶされそうになった。やがて不眠に、そしてうつの症状を発症した。気がつけば「親が死ねばいい」とまで考えるようになったという。 「私が実際に殺せるわけでもありません。ただただ早く死んでほしいと願いました」  そんななかでLMNの遠藤さんと知り合った女性は22年、藁にもすがる思いでサービスを依頼。LMNのスタッフは、特別養護老人ホームへの入所をためらう父親を説得し、23年に母親が亡くなった際には、葬儀の手配とゴミ屋敷になっていた家の整理の手伝いまでしてくれた。 「頼れる第三者がいたおかげで、精神的にも楽になりました」  女性はそう振り返る。   法律上は切れない親子の縁  高齢になった親の介護に限らず、親からの過剰な干渉や支配、いわゆる「毒親」からの精神的な苦痛に苦しみ、親から逃れたい、関係を終わらせたいと考える人は少なくない。  では、親を捨て、親との縁を切ることはできるのか。 「成人してから親子の縁を切ることは、法律上は不可能」  そう指摘するのは『毒親絶縁の手引き』を監修した「テミス法律事務所」(岡山市)代表の柴田収(しゅう)弁護士だ。    親子関係は戸籍によって証明される法的な繋がりであり、たとえ「関係を断ちたい」と思っても、法律的に完全に無関係になる手段は存在しないという。      インターネット上には、住民票の閲覧制限や、親の戸籍から抜ける「分籍」といった方法などが紹介されている。ただ、柴田弁護士によれば、こうした措置をとっても共通の知人などを通して住所が特定されるなどして根本的な解決策にはならない。最も有効な手段は「弁護士への依頼」だという。  これは、反社会的勢力(反社)への対応策を毒親に応用したもので、不当な要求を続ける反社に「弁護士に任せている」と言い続けることで、反社は最終的にフェードアウトしていく。毒親も同様に、「連絡はすべて弁護士を通して」と通告し、実際に弁護士に対応してもらう。最初のうちこそ親は接触を試みてくるが、やがて手詰まりとなり諦めていくという。 「弁護士が間に入ることで、最終的に親はほぼ100%接触をやめます」(柴田弁護士)  毒親への対応方法は反社ほど確立されていないが、親による過干渉や支配はDVによる離婚に通じるところが多い。そのため、離婚事件を多く扱う弁護士であれば対応できる可能性が高いという。その際には、「親からの執拗な過干渉に苦しんでいる」「精神的に限界で距離を置きたい」と、具体的な事情や希望を伝えることが重要だと柴田弁護士はアドバイスする。   追い詰められる前に 「親との縁を切りたい」。そう考えるのは、冷たい人だと思われるかもしれない。だが、自分を苦しめる相手が、切ろうとしても切れない家族だったとき、距離を置く勇気が必要になる。家族という関係を手放すことが、自分自身を守る最善の選択になることもある。  柴田弁護士は、こう語る。 「親子である以上、毒親の問題は誰にでも起こり得るものです。深刻化すると、子どもが親を殺害するまで追い詰められることがあります。時間や健康といった人生のリソースが奪われる前に、何らかの対応を取ることを推奨します」 (AERA編集部・野村昌二)          
ポーラの102歳現役美容部員が語る「美しくありたい」と思う原点 今でも毎日お化粧を欠かさない理由とは?
ポーラの102歳現役美容部員が語る「美しくありたい」と思う原点 今でも毎日お化粧を欠かさない理由とは? 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部) 「夫の一言が、私の美意識をつくってくれた」。102歳現役美容部員の堀野智子さんのお化粧と生き方の原点に迫る。「お化粧は、日常をシャキッとさせてくれる大切なスイッチ」「入院中も欠かしたことがありません」。そう語る堀野さんが、美しさを意識し始めたきっかけは、若き日の夫のひとことでした。  戦後の混乱期に親戚として同居を始め、思いがけず夫婦となった二人の物語。恋愛感情から始まったわけではなくても、信頼と尊敬にもとづいた背筋を伸ばして生きるための大切な価値観を、堀野さんの最新刊『102歳、今より元気に美しく』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・加筆再編集して公開します。 *  *  *  お化粧はどんなときでも欠かしません。  この生涯で入院したのはポーラの仕事を始める前に盲腸になったときと、90代半ばで足を骨折したときだけです。  骨折で入院したときは、内科的に悪いところがあるわけではないので、先生にありのままの顔色を見てもらう必要はないだろうといつも通りにお化粧をしていました。  私にとっては日常生活の一部になってしまっているので、お化粧しないでいることは考えられません。  それにしても今になってつくづくと思うのが、夫に言われた「身だしなみをきちんとしなさい」の一言の重さです。 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)  自分のことを客観的に見ていなかったことへの驚きもさることながら、夫の一言があんなに響くとは、思っていたよりも夫のことが好きだったのかなあと思ってしまいます。  ここで少し、夫とのなれそめについてお話しさせてください。  夫とはお互いの祖母が一緒の「いとこ」の関係にあたります。  夫の母は若いときに結核にかかったため、病気が移っては大変だからということで、母親と離れて育てられました。育てたのが、夫と私の共通の祖母でした。  夫の父親は満鉄(南満州鉄道)で偉くなった人だったので、お金に不自由したことはありませんでした。夫はあの時代には珍しく大学にまで進学させてもらい、そのときの仕送りの額はなんと大卒初任給の5倍くらいだったのだとか。何のお金の苦労もなく好きな本を買いあさったり、毎朝コーヒーを飲みに下宿近くの喫茶店に出入りしたりしていたそうです。  ところが戦局の悪化とともにそんな生活もしていられなくなります。  私より1歳年下の夫は、大学卒業が繰り上げられ、召集令状が来てさあこれから戦地に向かう、というところで終戦を迎えました。  日本が大混乱の時代です。法科出身でゆくゆくは弁護士になりたいと考えていたそうですが、学業は半端になるわ、司法試験は実施されないわで、当初の計画は頓挫。  それどころか郷里では働き口がなく、見かねた私の父が福島に呼び寄せてわが家に住まわせながら、就職先を探すことになりました。  今ではちょっと考えられないですが、昔は親戚同士の結びつきが強く、親戚の誰かの家の世話になるということがよくあったんです。  だから私もあまりなじみのない「いとこ」と暮らすことに何の疑問も抵抗もありませんでした。お互い「お年頃」ではありましたが、異性として意識したこともありません。  もっとも夫のほうはもしかしたら気があったのかもしれません。私が日勤のとき、電話局まで迎えに来ることがよくありました。同僚から「ほら、また来てるよ」なんてからかわれたものです。 そのころの私は母がすでに他界していたので主婦の役割を果たし、家族から「姉ちゃん」と呼ばれて何くれとなく頼りにされ、なおかつ電話局で働いてお給料まで持ってきていました。甘やかされて育てられた夫にしてみたら、頼りがいのある存在に映ったのではないでしょうか。  ちなみに夫も私のことを「姉ちゃん」と呼んでいました。  せっかく父が呼び寄せたのに、福島でも夫の就職先は決まりませんでした。高学歴がかえって仇になったこともあったようです。  父の知り合いが銀行を紹介してくれたのですが、「頭取だって大学を出ていないのに、大卒の新人行員なんてどう扱っていいかわからない」と言われたそうです。 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)  そんなとき、夫の郷里の岩手に住む大学時代の同級生が「税務署の臨時職員なら空きがあるから紹介しようか」と言ってくれました。  そこで岩手に帰るという話になったとき、夫がいきなり父に「姉ちゃんを僕にください!」と言い出したんです。  私にしてみたら「えーーー!!! 何それ!?」ですよ! ただの同世代の遠縁の人だと思っていたのに、相手が私をそういう目で見ていたなんてね。  でも驚きはしましたが、正直なところ悪い気はしませんでした。  実は夫は背が高くて顔もよかったんです。私はこれでけっこう面食いでね。  それに当時私は23歳。当時としては結婚適齢期ギリギリでした。  父はたくさんいる親戚の男の子たちの中でもとりわけ夫をかわいがっていたので、もとより反対するはずもありません。  そんなわけでパタパタと結婚が決まったんです。家族だけで結婚式代わりのささやかな食事会をして、仕事も辞めて生まれ育った福島を離れ、夫について岩手に行くことになりました。  そこから食べ物もなければお金もない、ないない尽くしの新婚生活が始まったわけです。  私の側には特段の恋愛感情のない状態から始まった結婚生活で、しかも夫は満足に生活費を入れてくれない時期もあり、人様から見たら「苦労させられた」ということになるのかもしれません。  でも私はそれを苦にしたことはありませんし、夫が嫌いになることもありませんでした。  苦労知らずのボンボンで欠点もたくさんあったと思いますが、夫には根本的に精神的高潔さがあったと思っています。曲がったことが嫌いで義理堅い人でした。  そして背が高くシュッとしていて、おしゃれな人でもあり、私にとっては自慢の夫でもあったんです。  その夫からの「身だしなみをきちんとしなさい」という言葉は、今でも私をシャキッとさせてくれているような気がします。   【こちらも話題】 ポーラの102歳現役美容部員が教える「ワークライフバランス」 働くことがつらくなくなる考え方のコツ https://dot.asahi.com/articles/-/259380 ポーラの102歳現役美容部員が考える「化粧品セールス」という仕事 「最近きれいになった」と言われた“原点” https://dot.asahi.com/articles/-/259381 102歳現役美容部員「物事は悪く受け取らない」 副業を通して気づいたポジティブ思考のコツ https://dot.asahi.com/articles/-/257529 102歳現役美容部員「何より自分のご機嫌をとる」 長生きと健康のためにいちばん大切なことは「今を楽しく」 https://dot.asahi.com/articles/-/257178 102歳現役美容部員が、今でも美しくありたい理由 夫から言われた「今の時代では考えられない一言」 https://dot.asahi.com/articles/-/257563   堀野 智子(ほりの・ともこ) 1923年4月9日、福島県生まれ。5人きょうだいの長女。女学校を卒業後、1941年逓信省(電話局)に入局する。1946年に23歳で結婚後、子ども3人、孫5人に恵まれる。1962年に39歳のときからポーラの化粧品販売員として働き始め、キャリアは60年を超える。2023年8月には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定。   102歳、今より元気に美しく 商品価格¥1,540 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。      
一流になるための法則「口が避けても反論しない」 相手の意見を変えたい人がやってはいけないこと
一流になるための法則「口が避けても反論しない」 相手の意見を変えたい人がやってはいけないこと   (写真はイメージ=GettyImages)    コミュニケーション、交渉、問題解決、議論――。こうした場で自分の話を聞かせ、相手の考えを変えるためにはどうすればいいか。Uber、アップル、Amazon、Nike、TikTok、コカ・コーラなど世界を創り変える覇者達からマーケティングを任されるイギリスの起業家、スティーブン・バートレット氏が達人の技を伝授。バートレット氏が直接体得した仕事と人生に効く33の重要原則をまとめた『執行長日記  THE DIARY OF A CEO』(サンマーク出版)から、「口が避けても反論しない」を紹介する。 *   *   * ああ、「怒り」が止まらない  物心ついたころから、母はテレビを見ている父に向かって大声で怒鳴っていた。父はいつも、母のことなどすっかり忘れてテレビに夢中だった。その、耳をつんざくような怒声マラソンは、後にも先にも経験したことがなかった。  母は同じことを5~6時間も叫びつづけた。同じ言葉を何度も使って、声の大きさも勢いも一向に衰えることなく。折に触れて父は反撃を試みたが、あえなく玉砕し、そのまま無視してテレビを見つづけるか、退散して寝室に閉じこもるか、車に乗って姿をくらました。  あれから20年、自分がまさにこの戦術を父から受け継いでいたことに気づいて驚いた。時刻は夜中の2時。隣に寝ている恋人が何かに腹を立てて、しきりに愚痴をこぼしていた。私は「それは違う」と言って反論しようとした。結果は、言うまでもなく失敗。むしろ火に油を注いでしまい、彼女はますます声を張り上げ、ひたすら同じことを同じ言葉で叫びつづけた。  私はとうとう起き上がって逃れようとしたが、彼女は後をついてくる。仕方なくウォークイン・クローゼットに閉じこもり、朝の5時までそこで過ごした。扉越しに、大きさも勢いも一向に衰えることなく、壊れたレコードプレーヤーのように、同じことを同じ言葉で繰り返す怒鳴り声を聞きながら。  その後、彼女とは別れた。そんな関係は長続きするはずがない。   執行長日記 THE DIARY OF CEO 商品価格¥1,870 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。        ビジネスでも恋愛でも、人生のあらゆる対人関係の衝突において、コミュニケーションは問題の原因であると同時に解決手段でもある。  衝突するたびに関係が深まるのか、あるいは疎遠になるのかによって、その関係が長続きするかどうかを判断することができる。   健全な衝突と不健全な衝突  健全な衝突は、当事者が問題の解決を目指すため関係が深まる。不健全な衝突は、当事者が互いに足を引っ張り合うため関係が疎遠になる。  ユニバーシティ・カレッジ・ロンドンおよびマサチューセッツ工科大学で認知神経科学を研究するターリ・シャーロット教授に、効果的なコミュニケーションの法則について、脳科学の観点から話を聞いた。すると、私生活、恋愛関係、ビジネスの交渉に対する考え方が180度変わった。  シャーロットの研究チームは、意見が食い違う際の人間の脳の活動を記録し、その頭の中で何が起きているのかを明らかにして、『ネイチャー・ニューロサイエンス』に発表した。  実験は42名の参加者を2人ずつの組に分けて行った。各ペアはガラス板で仕切られた脳スキャン装置に横たわり、個別に不動産の写真を見て価格を推測し、その額に対する自信の程度に基づいて金を賭けてもらった。ペアの相手の評価額は画面で見ることができる。  その結果、評価額が一致するペアのほうが、互いに高い金額を賭けていることがわかった。彼らの脳はライトアップして、何でも受け入れるオープンな状態になっていた。逆に評価額が一致しない場合、脳はフリーズして電源が切れたようになり、相手の意見を軽視する傾向が見られた。  シャーロットの発見は、政治的な議論を引き起こしている昨今の問題に光明をもたらした。たとえば気候変動問題。この10年間で、気候変動の要因が人為的であると示す動かしがたい証拠が増えているにもかかわらず、アメリカのピュー研究所が行った調査によれば、同じ10年間に科学的根拠を信じる共和党員の数は減少している。証拠の有無に関係なく、激しい議論は明らかに効果がない。      では、意見の異なる相手に自分の話を聞いてもらうにはどうすればいいのか。シャーロットによると、相手の脳をライトアップして自分の意見を受け入れさせるには、開口一番、否定の言葉を口にしないこと。  たとえ相手と意見が食い違っても、「私はそう思わない」「あなたは間違っている」といった言葉は口が裂けても言ってはいけない。その代わり、互いの共通点、相手に賛同する点、相手の主張で自分が理解できる部分などを伝える。  相手に賛成する点、意見が同じ部分などから話を始めれば、自分の強い主張、正しい論理、重要な証拠を受け入れてもらえる可能性が高まる。  この法則3(口が裂けても反論しない)は、交渉や演説できわめて効果的で、営業、ビジネスリーダー、そしてパートナーとして成功するための重要なスキルだ。  TED動画の再生回数1億回を誇る、スピーキングとコミュニケーションのコーチ、ジュリアン・トレジャーや、マッチングと恋愛のエキスパート、「愛のドクター」ことポール・ブランソンにインタビューをした際、2人とも同じことを言っていた。コミュニケーションや会話を円滑に行い、すばらしいパートナーとなるには、まずは相手が「聞いてもらっている」と感じるように聞き役に回り、それから相手が「理解されている」と感じる口調で答えることが肝心だという。  ターリ・シャーロットによる神経科学の研究は、こうした「聞いてもらって理解されている」と感じさせるアプローチが、相手の考えを改めさせるのに必要不可欠であることを裏づけている。  私たちの考えが最も変わりやすいのは、相手と話題の98%が一致する場合だという。きちんと理解されていると感じて、もっと話を聞こうとするからである。   法則 口が裂けても反論しない  交渉、討論、白熱した議論の場では、相手と共通する意見や動機を探すこと。それが見つかれば、相手はあなたの意見を受け入れ、考えを変える可能性が高くなる。 [言葉は関係性の壁ではなく、理解の架け橋となるべきだ。なるべく異を唱えず、相手をもっと理解するよう努めよう。]     スティーブン・バートレット(Steven Bartlett) イギリスの起業家。40以上の会社に投資し、講演、執筆、コンテンツクリエーターとして活躍。ヨーロッパでランキング第1位のポッドキャスト『The Diary Of A CEO』のホストを務める。弱冠22歳で世界的なデジタルマーケティング会社〈Social Chain〉を設立し、5年後に株式上場。サンフランシスコのソフトウェア会社〈Thirdweb〉、革新的なマーケティング会社〈Flight Story〉を共同設立し、その業績が『フォーブス』『ビジネスインサイダー』『フィナンシャル・タイムズ』『ガーディアン』などに取り上げられる。スマートフォン向けアプリ「FT Edit」のゲスト編集者を務め、『フォーブス』の「30歳未満の特筆すべき30人」に選出。BBCの『Dragon’s Den』(イギリス版『¥マネーの虎』)に最年少で出演。国連、SXSW(世界最大級のビジネスカンファレンス)、TEDxLondon、VTEXデー(電商取引に関する国際イベント)でバラク・オバマとともに登壇。初めての著書『Happy Sexy Millionaire』に続いて、本書『THE DIARY OF A CEO』も発売直後にサンデー・タイムズ紙のベストセラーリスト第1位に輝き、世界累計でミリオンセラーとなる。 【翻訳者】 清水由貴子(しみず・ゆきこ) 英語翻訳者。上智大学外国語学部卒。おもな訳書にアレッサンドロ・マルツォ・マーニョ『初めて書籍を作った男 アルド・マヌーツィオの生涯』(柏書房)、ライアン・ジェイコブズ『トリュフの真相 世界で最も高価なキノコ物語』(パンローリング)、ニール・ヤング『ニール・ヤング 回想』(河出書房新社)、マイケル・シュア『How to Be Perfect 完璧な人間になる方法?』(かんき出版)などがある。      
「老後は海外に移住してのんびり」は夢物語? 今や「上級国民」しか申請できない退職者用移住ビザ ねらい目はタイ
「老後は海外に移住してのんびり」は夢物語? 今や「上級国民」しか申請できない退職者用移住ビザ ねらい目はタイ 海外移住のハードルは高くなりつつある(写真はイメージ、gettyimages)    定年退職後は海外に移住して年金暮らし。南国のリゾート地でゴルフ三昧。そんな悠々自適な老後に憧れる人も少なくないだろう。だが、その夢の実現は、どんどんハードルが高くなっているのが現実だ。 *   *   *    海外に移住するなら、その国が発行するビザ(査証)を取得しなければならない。長期滞在や永住するためのビザは国によってさまざまで、一定以上の資産を投資して長期滞在が可能となる「投資家ビザ」、現地で起業する人のための「起業ビザ」、リモートワーカー向けの「デジタルノマドビザ」、親子留学のための「保護者ビザ」、留学のための「学生ビザ」、そして一定の収入と資産が要件の「退職者ビザ」などがある。 「世界的にビザの申請条件が厳しくなっています。加えて、円安が進み、円で10億円あった資産価値でも、米ドルなどの外貨ベースで評価すると6億円程度の価値に目減りするダブルパンチ状態です。海外移住は以前より難しい状況です」  そう語るのは、ビザ申請や海外での生活設計をアドバイスする海外移住コンサルタントの大森健史さんだ。  移民への風当たりが強まり、各国は移民制度を引き締めている。 「オーストラリアでは投資永住権が2023年に、スペインでは不動産購入が条件のゴールデンビザが今年4月に、それぞれ廃止になりました」(大森さん)  また、最近ではアメリカ・トランプ大統領が、80万米ドル(約1億2千万円)以上の投資で永住権が取得できる投資家ビザ「EB‐5」を廃止して、500万ドル(約7億5千万円)の支払いが必要な「トランプ・ゴールドカード」を開始すると表明。今年6月に申請の事前登録が始まったと報じられている。いま、移住事情は激変しており、そのハードルはますます高まっている。 「定年後の海外移住も例外ではありません」と大森さんは言う。  定年退職後の高齢者を対象とした「退職者ビザ」は、国によって要件は異なるが、多くは「50歳以上」「一定の収入や資産」「良好な健康状態」などの基準がある。だが、要件の厳格化や制度変更が相次いでいる。 「オーストラリアでは以前、退職者向けビザがありました。04年当時、約3千万円(35万豪ドル)以上の資産と年間400万円(5万2千豪ドル)以上の収入などの条件を満たせば、4年滞在のビザが下りました。その後、条件がアップしながらも申請できましたが、移住者が増えすぎたため、18年に新規申請が停止されました」 タイには退職者層が申請できる「LTRビザ」がある(写真はイメージ、gettyimages)    会社員にも手が届きそうな制度が、次々に改定されている。マレーシアの「マレーシア・マイ・セカンドホーム」(MM2Hビザ)は、かつては庶民でも要件を満たせる制度だった。20年時点では50歳以上で、約900万円の預金、約400万円の投資(定期預金でもOK)、月収約24万円で、最長10年の滞在が可能だったのだ。  だが、21年秋から数回にわたって条件が引き上げられた結果、現時点で一番低い申請条件でも約2200万円の定期預金、約2千万円以上の不動産購入が必要となり、滞在期間は5年に短縮された。 「いわゆる上級国民しか申請できなくなりました」(大森さん)  同じビザで滞在期間が長い条件だと、定期預金100万米ドル(約1億5千万円)と200万MYR(約7千万円)の不動産購入で20年滞在が可能になったが、庶民にはハードルが高すぎる条件だ。  そんななかでも、まだ手が届きそうなビザも残っているという。  たとえばタイの「タイランドプレビレッジカード・ビザ」(通称VIPカード)は居住許可を購入できる。一番安いものだと約300万円を支払うだけで最長5年間滞在可能となるカードが取得できる。 「2カ月ほどで取得できますし、比較的安全で、物価が高くないところがポイントです」と大森さん。  タイには退職者層が申請できる「LTRビザ」もある。申請者が50歳以上で、年収4万米ドル以上の収入があり、25万米ドル以上の不動産購入や健康保険などの医療保険に加入している人が条件で、最長10年の滞在が可能だ。しかも海外所得が非課税という点も人気で、世界中から富裕層が移住してきている。  ただ、上記のようなビザのポイントは「申請条件」がころころと変更されること。前述のタイランドプレビレッジカード・ビザの場合は、期間経過後に条件が変わっている可能性があるのだ。そこにリスクがあると大森さんは言う。 「近年は制度の変更が目まぐるしく、予告なしに変わることもあります。次の更新時に、ビザがなくなっている可能性もあります。更新できなくなったら、日本に帰る可能性も考えておかなければなりません」  しかも、日本の物価が停滞していた間に、ほかの国はほとんど右肩上がり。海外での生活コストは、昔ほど安くない。 「いっそ、日本の地方に移住するのも一つの選択です。東南アジアでも都市部では家賃が月に10万円を超えることがありますが、日本の地方なら同じ予算で、広くて快適な物件に住めます。海外に行きたいなら、数カ月の観光ビザを使って滞在してはどうでしょう」(大森さん) (AERA編集部 井上有紀子)  
フジ「テラスハウス」出演の木村花さん自死から5年 母・響子さんが語る「フジの人権侵害」
フジ「テラスハウス」出演の木村花さん自死から5年 母・響子さんが語る「フジの人権侵害」 木村花さん(右)と母・響子さんのツーショット(写真:響子さん提供)  5年前、まさに大輪の花のような笑顔で愛された女性が、自ら命を絶った。木村花さん、享年22。プロレスラーとしてスター街道をひた走っていた彼女は、フジテレビの番組「TERRACE HOUSE TOKYO 2019-2020」(テラスハウス)への出演を機に、SNS上での苛烈な誹謗中傷に遭っていた。花さんの母で元プロレスラーの響子さんは、「出演者の心身の健康への注意や配慮を怠った」として、フジや番組の共同制作会社を提訴し、裁判は今も続いている。「フジがしたことは人権侵害」と訴える響子さんは、番組出演を通じて花さんが追い詰められていった様子を証言する。 *  *  * ――テラスハウスは、シェアハウスでの男女6人の共同生活を観察するリアリティー番組です。花さんはどのような思いで出演を決めたのでしょうか。  オーディションに合格した時は、ずっと好きだった番組に出演できると喜んでいました。プロレスを多くの人に知ってもらうきっかけになればという期待もあったでしょうね。花はよく、「自分のプロレスで困っている人やマイノリティーの人を元気にしたい」と言っていました。父親がインドネシア人というミックスルーツによって、時に差別を受けてきたからこその願いだと思います。  ただ、花のテラスハウス出演について、私は複雑な気持ちでした。テラスハウスは当初は爽やかな青春物語でしたが、次第に過激な炎上番組へと姿を変えた印象があったので。でも本人が張り切っている手前、水を差すようなことは言えず、とりあえず見守るスタンスでいようと決めました。 取材中、カメラを向けられた響子さんは不安そうな顔を見せた。「少しでも笑うと『娘の死が悲しくないのか』とバッシングを受けるので、どんな顔をしていいのか分からなくて」(撮影/工藤隆太郎) 「悪意のある編集をされる」とこぼした花さん ――2020年3月31日、共演者の男性が花さんのプロレスのコスチュームを誤って洗濯乾燥機にかけ、縮んで着用不可能にしてしまう「コスチューム事件」のシーンがNetflixで放送されました。男性の帽子を投げ捨てるなどして非難した花さんに対し、SNS上では「死ね」などと誹謗中傷が相次ぎましたが、その時の花さんはどのような様子でしたか。  放送日にリストカットをしました。私は「自分にとって大事な人たちと、大事な人たちが大事に想う自分を絶対に見失うな」とメッセージを送り、花はそのスマホ画面をスクリーンショットで保存してくれていました。ずっと花のそばにいた友達の話では、花は「心は死んでいたけど、みんなが優しく守ってくれたから頑張れた」と言っていたそうです。  テラスハウス出演にあたっては、放送内容に関する守秘義務や、違反した場合に多額の損害賠償義務を負う同意書にサインをさせられていたので、花自身から番組への不満を聞くことはほとんどありませんでした。  でも一度だけ、「すごく悪意のある編集をされることがある」「あの人たち(番組制作陣)は、出演者のことを人間だと思ってない」と、涙ながらにこぼしたことがありました。花は番組スタッフの人たちと仲が良かったようで、自分の攻撃的な姿ばかりが切り取られた放送を見て、余計に裏切られた気持ちになったんだと思います。  私が「そんなに大変な思いをするなら出演を辞めてもいいんじゃない?」と提案すると、「辞めたいのになかなか辞めさせてもらえない」と返ってきました。亡くなる1週間前の出来事でした。 2017年、成人式の前撮りのために振袖に身を包んだ花さん(右)と響子さん(写真:響子さん提供) 棺の隣で、呪いの言葉を延々と保存し続けた ――花さんは番組内で、SNS上のバッシングに傷つく共演者の女性に対し、「何も知らない人たちがこう思う、ああ思うって言ってることってあんまり意味なくない?」と諭していました。それにもかかわらず、なぜ花さんの心は誹謗中傷にむしばまれてしまったのでしょうか。  あの言葉は、実は私が花に伝えていたことなんです。プロレスラーとしてデビューした花が、ネット上に悪口を書かれて落ち込んでいた時、「人前に立つ人間は、誰に何を言われてもぶれちゃいけない」って。花は共演者の子を励ますと同時に、自分にも言い聞かせていたのかもしれません。  プロレス界にいるだけだったら、その言葉で身を守れたと思うんです。でもテラスハウスを機に、以前とはけた違いの誹謗中傷が寄せられて、押し流されてしまった。  番組スタッフは花の自傷行為を把握していたにもかかわらず、5月19日に「コスチューム事件」の回を地上波で放送し、SNSでの炎上が再燃しました。そして23日午前3時過ぎ、花は「ママごめんね。もう頑張れない。ずっと辛かった。ママ、幸せに生きてね」というメッセージを残し、旅立ちました。 ――響子さんは、テラスハウスの番組作りは「誹謗中傷を使った炎上商法」であり、花さんはその犠牲となったと訴えています。花さんの死後すぐに、フジや制作会社との闘いが始まったのですか。  フジからは花の死の数日後に「話がしたい」と連絡がありましたが、まだお葬式も終わっておらず、家から出られず何も考えられない精神状態だったので断りました。謝罪の意向が示されなかったことにも強烈な違和感があり、都合のいい主張を並べられて言いくるめられるのではないかと恐怖を感じました。  ただ、花が亡くなった翌日から、警察の指示通り、誹謗中傷をした人の情報開示請求をするための証拠集めに取りかかりました。花の棺の隣で、食事も睡眠もとらず、ひどい呪いの言葉を延々と保存し続ける。地獄のようでした。しまいには頭も心も文字を読むことを拒否するようになりました。家族や友人からの心配のメッセージでさえも、何を言っているのか理解できない。全員に「ありがとうございます」とだけ返しました。 初めて飛行機に乗った、2歳の花さん(写真:響子さん提供) アフロの自分でなければ闘い続けられない  四十九日を過ぎたころ、さすがにこのままではいけないと思いました。メディアから取材依頼も来ていたので、這ってでも家から出て、花の名誉回復や再発防止のための活動をしなければと。一番強い自分になるために、髪形をストレートからプロレスラー時代のアフロに戻しました。「そんなおかしな髪形の母親だから娘もおかしくなるんだ」などとよくバッシングを受けますが、アフロの自分でないと、こんなにもつらい闘いは続けられません。 ――響子さんはその後7月、放送倫理・番組向上機構(BPO)の放送人権委員会に対し、テラスハウスの制作過程において花さんへの人権侵害があったと申し立てをしました。フジや制作会社を提訴する前に、BPOに働きかけたのはなぜですか。  フジには真相究明のために第三者委員会を立ち上げてほしいと思っていましたが、会見などを見る限り、フジは内部調査で十分だという姿勢を崩しませんでした。番組作りの問題点を洗い出し、二度と犠牲者を生み出さないよう対策を取ってもらうためには、BPOの仲裁が必要だと考えたんです。  しかし、翌年3月に公表されたBPOの見解にはがっかりしました。花の精神的な健康状態への配慮が欠けていたのは放送倫理上の問題はあるが、人権侵害とまでは言えないという及び腰な内容でした。中立な立場のはずのBPOも結局は身内に甘い組織なのかとショックを受けると同時に、このままでは花の死の真相がうやむやにされてしまうという焦りを抱き、フジと制作会社に対して裁判を起こすことに決めました。 【後編】<「フジ中居問題は防げたはず」 テラスハウス問題で自死した木村花さんの母・響子さんが悲痛な訴え>に続く (聞き手・構成/AERA編集部 大谷百合絵)
“現役大学生”スザンヌが語る旅館経営を始めたワケ「他人に出資してもらわず、自分のお金でやると決めていました」
“現役大学生”スザンヌが語る旅館経営を始めたワケ「他人に出資してもらわず、自分のお金でやると決めていました」 スザンヌさん インスタグラム@suzanneeee1028より  いつも笑顔が素敵なスザンヌさん。シングルマザーとして仕事と子育てに奮闘しながら、34歳で高校再入学、その後大学進学、起業、旅館経営と次々と新しいことに挑戦しています。そのきっかけ、仕事、勉強、家事育児を両立させるための時間の使いかた、芸能界以外の仕事を始めて大変だったことなどを聞きました。※前編<スザンヌに聞く一人息子のシングル子育て 「疲れた時は“堂々と”家事を頑張らない、申し訳ないと思わないと決めています」>から続く かつて中退した高校に再入学 ――2021年、34歳のときに高校に再入学されました。  10代のころ、タレント活動のために高校を中退したのですが、その高校の先生に何度か「本学の通信制で学び直してみては」と声をかけてもらっていたんです。  ちょうどその時コロナ禍で、子どもの小学校もオンライン授業がメインになり、家で親子一緒に勉強できると思ったことが大きいですね。 ――そのときはまだお子さんも小学校低学年でした。  オンラインといっても高校に通学する日もありますし、その場合、母や妹に子どもを見てもらうことになります。ただでさえ仕事のときに子どもを預けているのに、今以上に負担をかけていいものかと迷いました。  でも思い切って母に相談したら、「どんどんやりなさい」と即答してくれて。こんなチャンスはないと思って再入学を決意しました。 ――高校って理系も文系もまんべんなく学びますし、勉強も大変だったのでは?  今までの人生、本当に勉強してこなかったので、勉強の仕方も分からないし、授業でも先生が何を言っているのか全然分からなくて最初は戸惑いました。  でも、学べば学ぶほど「こういうことだったのか!」とすごく楽しくて。特に歴史の授業は面白くて、高校時代もちゃんと学んでおけばよかったと反省しました。  ただ定期試験の勉強は本当に大変でした。覚えたと思っても寝たら忘れちゃうみたいな。同時にレポート提出の課題も出たりするので、試験の前後は睡眠時間を削って勉強することもありました。 ――勉強時間はどうやって捻出されていましたか?  私は子どもが生まれてからいろんな用事を朝に済ませる習慣がついて、朝型生活になったんです。なので、勉強も朝にしていました。  夜だとメールやLINEが気になってスマホを見てしまいますが、朝はみんな忙しいし迷惑だと思うから、スマホも触らないで集中できます。夜の2時間よりも朝の1時間のほうが集中力は絶対高いと思います。 ――だいたい何時に起床されるんですか?  高校に再入学した直後や定期試験前は朝4時ぐらいに起きていました。振り返ればよく頑張ったな、と。高校を卒業できたときには達成感でいっぱいでした。 高校の卒業式でのスザンヌさん インスタグラム@suzanneeee1028より 35歳で大学生に。起業のゼミに入ったら新たな扉が開かれた ――高校を卒業したと思ったら、今度は大学に進学されました。  せっかく勉強する習慣がついたので、経営学とか経済学を勉強したいという思いが出てきたんです。  なかでもファッションビジネスについて学びたかったので、日本経済大学経営学部芸創プロデュース学科に入学することにしました。 大学の入学式でのスザンヌさん インスタグラム@suzanneeee1028より ――どんな授業を受けているのですか?  アパレル企業のあり方、アパレルとSDGs……起業について学ぶゼミにも入りました。私はもともと古着のリメイクが好きだったのですが、授業で勉強しているうちに、私でも起業できるかもしれない、古着のリメイク洋服屋さんを開きたい、って強く思うようになって。2023年には古着のアパレルブランドを立ち上げました。  こんなに早く行動できたのは、全部ゼミの先生のおかげなんです。社会に出てから起業しようと思ったら、セミナーに通ったり、コンサルタントに相談したりとお金も手間もかかります。私の場合は、ゼミの先生が起業の方法をゼロから教えてくれて、分からないことが出てくるたびに根気強く相談に乗ってもらえたので、本当に心強かったです。 トントン拍子で!? 旅館経営始めました ――今年で大学4年生。昨年12月には地元の熊本で温泉旅館をオープンされました。  熊本市内で自分の好きな洋服屋さんやネイルサロンやカフェが入る商業ビルを探していて、なかなか予算に合う物件が無く不動産屋さんが紹介してくれたのが河内町にある龍栄荘でした。  そしたらご近所さんの間で「スザンヌが龍栄荘を買うらしい」という噂が瞬く間に広まっちゃって。田舎あるあるなんですけど(笑)。その後オーナーさんの親戚の方が現れて、「オーナーは息子さんに継いで欲しかったのに、息子さんがご病気で亡くなられた」というお話をしてくださったり、地元の方が「結婚式をここで挙げたのに閉館して寂しい」と思い出を語ってくださったりして……。 オープン前の龍栄荘 インスタグラム@suzanneeee1028より 改装後の入口 KAWACHI BASE-龍栄荘-インスタグラム@kawachibase_ryueisouより  これはもう河内の人々のためにも絶対存続せねば、って思ったんです。そこで、「龍栄荘」という名前を残して、温泉旅館として再建する決意をしました。 ――そこから1年ほどで開業準備をして、「KAWACHI BASE 龍栄荘」をグランドオープンされました。準備中、オープン後などにご苦労はありましたか?  屋根とかボイラーとか、色々なところに修理が必要で。正直かなり初期投資の費用がかかりました。  他人に出資してもらうとか、クラウドファンディングなども周りから勧められたんですけど、自分のお金でやると決めていました。やっぱりお金を出したら誰だって口出ししたくなるじゃないですか。となると、自分の性格的にも全部の意見を「そうですね」「分かりました」って聞いちゃうと思うんです。  でもそれでは全然前に進まない。だったら最初から自分が100%決められる立場で、やりたいようにやりたいと思ったんです。いろんな人に来ていただいて、売り上げを伸ばしていくしかないですね。 龍栄荘、改装後のお部屋 インスタグラム@suzanneeee1028より ――旅館経営のビジネスはいかがですか?  芸能界の仕事でもいろんな人とお会いして、刺激的ではありましたが、またさらに年代問わず多くの方と出会い、お話できることがうれしいです。新しいことを教えていただく機会もとても多いです。 ――反対に、大変なことはありますか?  たくさんの方と出会うからこそ、トラブルが一切ない訳ではありません。どんなケースにもうまく対処できるようになったら一人前なのかな、と思いながら日々奮闘しています。とにかくお客様は「KAWACHI BASE 龍栄荘」に期待感マックスで来てくださるので、こちらもお応えできなければいけませんし。  あと、「KAWACHI BASE 龍栄荘」にはエレベーターがないんです。旅館のスタッフは階段の上り下りをめちゃくちゃして、全員体重が落ちました(笑)。大変だけど、健康にはいいのかもしれません。 ――今後の目標は? 「KAWACHI BASE 龍栄荘」を軌道に乗せるのはもちろん、河内の街全体を盛り上げて、多くの人に河内に遊びに来てもらいたいです。 スザンヌさんと河内を盛り上げる仲間たち 改装前の龍栄荘の前にて インスタグラム@suzanneeee1028より  あとは今、「地方創生と旅館再建」をテーマに卒論も書いています。まだまだ進んでいないんですが、引き続き大学生生活も頑張らないと! ――読者のなかには、新しいことを始めたいけど勇気が出ないという方もいると思います。そんな方にスザンヌさんからアドバイスをお願いします。  実は私も昔は全然挑戦しないタイプでした。20代のころは通信教育の資料請求をするだけで満足していたんです。着付け教室、インテリアコーディネーター、心理カウンセラーなどの資料がどんどん積み重なって行ったのを覚えています。  そう考えると、20代の自分が今の自分を見たらびっくりすると思います。  何かを始めるときは、「よーし、やっちゃえ‼」って一歩踏み出すと、物事が追ってくるんです。そして前に進んでいくしかない、っていう状態になれば、結構頑張れちゃいます。  意外とどうにかなるものです! (構成/阿部桃子) ○スザンヌ/1986年、熊本県生まれ。2008年、同県宣伝部長に就任。テレビ番組「クイズ!ヘキサゴンII」(フジテレビ系)でブレイク。14年、第1子を出産。翌年、故郷である熊本県に息子とともに移住。21年、中退していた母校・第一薬科大学付属高校(元・第一経済大学付属高校)の通信課程に入学、翌22年に卒業。同年、日本経済大学に進学。23年には株式会社yamaを設立しファッションブランド「Style Reborn」を立ち上げ。24年に温泉旅館「KAWACHI BASE -龍栄荘-」をオープン。
小学校の「家庭科」が変化、親世代のころとどう違う? 「料理や裁縫の“技能”の習得のみが目的ではない」
小学校の「家庭科」が変化、親世代のころとどう違う? 「料理や裁縫の“技能”の習得のみが目的ではない」 (写真はイメージ/GettyImages)  小学5年生から学ぶ「家庭科」。いったいどんなことを勉強しているのか、子どもの教科書をのぞいたり、話を聞いたりすることはありますか? 「調理や裁縫を学ぶ教科」と思われがちですが、決してそれだけではありません。その内容は、ジェンダーの問題性への意識やマネー教育まで、時代に合わせてアップデートしています。子どもたちが学ぶ今どきの「家庭科」について、家庭科教育学を専門とする横浜国立大学教育学部教授の堀内かおるさんに聞きました。 さまざまなかたちの家庭、家族があることを前提に学びを進める ――家庭科の学びは、時代とともにどのような点が変わったのでしょうか。  教科書のもとになっている学習指導要領自体のサイクルが、だいたい10年間です。教科書はその中間で一度改訂が入るのですが、出版社の方針によって内容が変わる場合や、ほとんど変わらない場合があります。現在の小学校家庭科の教科書は改訂が入って2年目になりますが、私が関わっている教科書は、かなり変わりました。その目線でお話ししたいと思います。  家庭科の大きなテーマは「家庭生活」です。ですから、そこに暮らす人たちの情景が「家族」として出てくるのですが、今回の改訂ではその「家庭」への意識が大きくアップデートされました。  たとえば、人々が抱いているイメージとして、「家族」といえば両親やきょうだい、祖父母もいてみんな仲よく……といったステレオタイプな家庭、ひとつの家族像があるのではないでしょうか。家事を担うお母さんは、朝、会社に出かけるお父さんと、ランドセルを背負った子どもを見送って……。こうした性別役割分業が日本社会に色濃かった時代は、「生活を映し出す家庭科」という教育においては、当時のマジョリティーの姿が教科書の挿絵になることもあったのです。  もちろん、このような情景を意図的に「理想の家庭」としてメッセージを発信していたわけではないのですが、結果として、「あるべき家族像」というメッセージを伝えることになっていたのではないでしょうか。  現在の家族のかたちはもっと多様で、いろいろな家庭があります。どの子どもの手にも渡る「教科書」というものを考えたときに、これでは「理想の家族とは」「家庭とはこういうもの」と読み取れてしまう、浸透してしまうのではないか。そんな家庭科の自己批判、反省がありました。  現在の教科書では、たとえばお父さんが料理をしていたり男の子がミシンをかけていたり、外国につながりのある子どもがクラスにいたりといった絵や写真が登場します。これは、ジェンダーバイアスの問題性に気づくきっかけになったり、多様性を身近に感じたり、外国につながる子どもにとっては自分のことが表現されていると思えるようにもなります。このように意識して教科書が作られることによって、どの子にとっても子どもが教科書の学びを「自分の場合」に置き換えて考えやすくなり、学びが広がることを意識しています。 買い物の本質を学び、根拠をもって「選べる」大人になる ――「家庭生活」という意味では、マネー感覚についても触れられているのでしょうか。  家庭科では子どもたちにとって身近な「買い物」をテーマに「消費」について考えます。  日常生活は、取捨選択の繰り返しです。それには、「こういう理由でこれを選ぶ」という“根拠”を持って選べる目が大切ですよね。  そこで「NEEDS」と「WANTS」のちがいについて考えます。今の生活に「これがないと困る」ものがNEEDS、「なくても困らないけれど、ほしい」ものがWANTS。今買いたいと思っているものはどちらかな? という視点で考えてみるのです。こうして身近なところから練習を重ねて、自分でモノを選んだり、なにかを判断できたりすることにつなげていくのです。 それは、今本当に必要なもの? ほしいと思ったらすぐに買うのではなく、その根拠に目を向けてみよう  たとえば、今注目を集めているお米の問題も同様です。どのお米を、どんな基準で選ぶかによって、その家庭の生活の価値観が表れます。暮らしを営んでいくということは、社会の状況とつねに密接に関わっています。  その中で、さまざまな場面でつねに意思決定をしていく。そのためには、「根拠を持って選べる」目が大切なのです。それを学ぶのに、買い物は子どもにとってもとても身近で、考えやすい場面なんですね。  また、学習指導要領では「消費生活・環境」といった内容が重視されています。消費は、環境問題と切っても切り離せません。「なにを買ってどう使うか」が、どんなふうに環境とつながるかをSDGsにからめて考えます。 ――どこか社会科に通じる学びでもありますね。  社会科と家庭科は、ある意味きょうだい的な関係にあるのかもしれないと私は思っているんです。  ただ、社会科はものごとをマクロな部分から内側を見ていきます。逆に家庭科は、自分の身近なところから外側に目を向けるベクトルです。視点の向け方に違いがあるイメージですね。さらに、家庭科は「暮らし」に足場を置いて、家庭や身のまわりのことなど「自分」や家族をはじめとする身近な人々との関係を中心に考えるところも、社会科との違いといえるでしょう。 自分らしく生活を営んでいけるための「基礎」がつまっています ――家庭科の授業で、何げなく送っている日々の「生活」についてあらためて考えることができるのですね。  ごはんや小物を作る授業ももちろんあります。ものづくりは生活の中に潤いをもたらしますし、料理や裁縫が「できる」のと「できない」のでは、その後の生活の質が格段にちがってきます。金銭的な面だけでなく、気持ち的にも大きな差が生まれるでしょう。ですから、実技ももちろん大切です。ただ、技能の習得のみが家庭科を学習する目的ではないのです。  家庭科には、このような実技を含めた、「生活の営み方」を考えて実践する基礎がつまっています。学びをきっかけに、自分の生活をより豊かなものにつなげていく、QOLのための教養科目ですね。  家庭科の授業は、週に一度しかありません。授業があった日は、ぜひお子さんに「今日はどんなことを勉強したの?」と声をかけてあげてください。それについて親子でいっしょに考えたり、実践したりすることで、子どもは自分の「生活」について興味をもつようになります。これこそ、将来自分の生活を楽しみ、大切にできるようになるための第一歩なのです。 (取材・文/三宅智佳) 堀内かおるさん 〇堀内かおる/横浜国立大学教育学部教授。専門は家庭科教育学、ジェンダーと教育。NHK EテレNHK高校講座「家庭総合」監修講師を務めるなど、家庭科から生活と社会の関わりについて解説。『人生の答えは家庭科に聞け!』(共著/岩波ジュニア新書)、『10代のうちに考えておきたいジェンダーの話』(岩波ジュニア新書)など著書多数。
子どもが夏にかかりやすい病気って? “3大感染症”と予防法を小児科医が解説
子どもが夏にかかりやすい病気って? “3大感染症”と予防法を小児科医が解説 (写真はイメージ/GettyImages)  冬の印象が強い感染症ですが、夏にかかりやすいものもあります。特に注意したい「子どもの3大夏風邪」の予防や対策について、小児科専門医の横井健太郎さんに伺いました。コロナ禍を経た今だからこそ気をつけたい「感染時期の変化」についてのお話も。子育て情報誌「AERA with Kids 2025年夏号」(朝日新聞出版)から紹介します。 たまった疲れで体調を崩しやすい初夏  夏、子どもは体調を崩しやすくなります。その理由について、横井健太郎さんはこう話します。 「4月は入学式や進級があり、お子さんにとっても環境の変化が激しい時期です。続く5月は生活が少し落ち着いて、ゴールデンウィークもあるのでリフレッシュできます。ところが、6月は祝日がないためお子さんの心身が落ち着くタイミングが減ってしまいます。さらに、気温と湿度が一気に上がり、体が暑さについていけず、新学期以降の疲れもあいまって体調を崩しやすくなります」 子どもは体温が上がりやすく、体温調整が苦手  体が次第に暑さに慣れて体温調節がスムーズになっていくことを「暑熱順化(しょねつじゅんか)」といいますが、子どもは汗をかく機能が未発達で体温が上がりやすく、順化が苦手なのだそうです。  それでは、子どもの体調管理と向き合う際、親が気をつけたいことは何でしょうか? 「子どもは遊びや運動に夢中になりやすく、また自分の体調不良をうまく言葉にできないことも多いです。『頭は痛い?』『気持ち悪さは?』など、親御さんが具体的にヒアリングすることが大切です」 夏風邪は発疹を伴うこともあるのが特徴  子どもが夏にかかりやすいと言われている感染症は、手足口病、ヘルパンギーナ、咽頭結膜熱(プール熱)などの夏風邪で、いずれも高熱のほか、発疹を伴うこともあるのが特徴です。いずれも、適切な水分補給や解熱鎮痛剤などで経過観察が可能ですが、症状が似通っていることも多く、すぐに診断がつかない場合もあります。発熱に加えて発疹や、のどや口の強い痛み、目の赤みなどがある場合は、かならず受診しましょう。 コロナ以降、感染症流行の時期が変化  さらに、「夏風邪以外にも注意が必要」と横井さんは言います。 「コロナ禍を経て、ここ2~3年、感染症の流行時期が変化しています。冬に流行することが多かったインフルエンザやRSウイルスが夏にもピークを迎えることがありました。同じ感染症に複数回かかる人も出ています」  これらの感染症に対し、どんな予防ができるのでしょうか。 「基本的な手洗い、うがいは重要です。また、3種混合ワクチンの接種も検討してみてください。現在感染が拡大している百日咳も予防してくれますよ」 【子どもの3大夏風邪とは?】 1.手足口病  代表的な夏風邪のひとつで、発熱のほか、手のひらや足の裏、口の中、ひじやひざ、お尻に水疱性の発疹ができる。発疹には軽いかゆみと痛みがあり、口の中にできると強い痛みが出て飲食が困難になる場合がある。発熱がなく、本人が元気で普段通りの食事がとれれば、発疹が残っていても登校は可能。 2.ヘルパンギーナ  39℃前後の高熱が1~3日間続き、のどの奥に1~2mmの水疱ができて痛みを感じる。水疱は2~3日で改善するが、痛みが続くと固形物が取りづらくなる。原因となるウイルスが似ているため、手足口病と見分けるのが難しい場合もある。登校の目安は、手足口病と同様。 3.咽頭結膜熱  39℃前後の高熱が長いと1週間ほど続く。主な症状は、のどの痛み、頭痛、吐き気、腹痛など。症状が見られなくなってから2日経ち、医師の許可があれば登校できるが、目の充血や目やにが強い「はやり目(流行性角結膜炎)」の場合は、症状がなくなるまで自宅待機となる。 (取材・文/スリーシーズン) 横井健太郎さん 〇横井健太郎/横井こどもクリニック(東京都世田谷区)院長。東京慈恵会医科大学卒。小児科専門医としてアレルギー全般、予防接種や健診など、小児総合診療に携わる。
【2025年上半期ランキング 社会・政治編1位】美瑛・シラカバ並木はなぜ伐採されたのか 「もう限界だった」止まらぬマナー違反に現地は悲鳴
【2025年上半期ランキング 社会・政治編1位】美瑛・シラカバ並木はなぜ伐採されたのか 「もう限界だった」止まらぬマナー違反に現地は悲鳴 北海道美瑛町の観光スポット「クリスマスツリーの木」に押し寄せる観光客=2023年    2025年も折り返しです。1月~6月にAERA dot.またはAERA DIGITALに掲載され、特に多く読まれた記事を、ジャンル別にランキング形式で紹介します。社会・政治関係の記事の1位は「美瑛・シラカバ並木はなぜ伐採されたのか 『もう限界だった』止まらぬマナー違反に現地は悲鳴」でした(この記事は2月4日に配信されたものです。年齢や肩書などは当時のまま)。 *   *   *  なだらかな丘陵に広がる田園風景が魅力の北海道美瑛町には大勢の観光客が訪れる。ところが1月中旬、人気の「映えスポット」だったシラカバ並木が伐採された。何があったのか。 美瑛のシラカバ並木が消えた  雄大な雪原に立ち並ぶシラカバ並木は、北海道を代表する観光地、美瑛町を象徴する景色のひとつだった。1月14日、この景色は突然消えた。土地の所有者である農家が、シラカバ並木を伐採したのだ。  SNSでは嘆きのコメントが相次いだ。 <貴重な観光資源がもったいない> <伐採の決断の前に何か他に方法はなかったのか> <観光で潤う道を探す努力を自治体主導ですべきだった> 「ここ数年、シラカバ並木周辺の農家のストレスは限界まできていました」  そう語るのは、美瑛町観光協会理事の写真家・中西敏貴さんだ。  畑の道に沿った約150メートルのシラカバ並木を所有する農家は数年前から、「もう切るしかない」と話していたという。  美瑛町の人口は約9300人。景観の美しさは海外の観光客にも人気があり、年間約240万人(2023年度)の観光客が国内外から押し寄せる。 1日中やってくるツアーバス 「一日中、ツアーバスがやってくる。畑の周辺が観光客で埋め尽くされるので、落ち着いて農作業ができない」(中西さん)  観光客やバスがトラクターの通行の邪魔になるだけでなく、接触事故の懸念もあった。畑の中に入り込んで写真を撮る観光客もいた。畑が荒らされるうえ、作物に有害な病原菌が持ち込まれるリスクもあった。  観光協会が実施する「観光パトロール」の職員はもちろん、中西さんも迷惑行為を見つけると注意してきた。人数が多いため、インバウンド客の迷惑行為が目立つが、悪質なケースは日本人も多いという。 「俺は昔からここで写真を撮ってきた」「土地の所有者じゃないお前らに注意される筋合いはない」と、逆ギレするのだ。 「それが一日に何十回と繰り返される。毎日、嫌な気持ちになりますよ」(同) 月光に照らされた美瑛町のシラカバ並木。この風景はもうない=中西敏貴さん提供 10年ほど前から観光客が爆発的に増加  美瑛町を訪れる観光客が増え始めたのは30年ほど前、テレビドラマ「北の国から」の影響も大きかったと思われる。「観光客が喜んでくれるなら」と、シラカバ並木の景観をつくるために、農家(以前の土地所有者)が道路に沿って約40本の苗木を植えたのもそのころだった。  10年ほど前から観光客が爆発的に増加し、「オーバーツーリズム」が表面化した。  2016年には、それを象徴する「事件」が起きた。人気スポットのポプラの大木「哲学の木」が、やはり所有者の農家によって伐採されたのだ。観光客の迷惑行為に悩んだ末の決断だった。 「哲学の木を切った農家の若者は、『アクションを起こさなければ、観光客はこの問題に気づかない。何も変わらない』と言っていました。それ以降、町全体で観光客のマナー問題への取り組みが加速しました」(同) 「伐採やむなし」と結論  コロナ禍でマナー問題は一時沈静化したが、明けた直後からシラカバ並木を訪れるインバウンド客が一気に増えた。「外国人アーティストの撮影がここで行われた」という話を観光客から聞いたことがあるが、はっきりした増加の理由はわからない。 「とにかく、彼らはシラカバ並木を背景に写真を撮りたがる。観光協会は、農地への立ち入りを禁止する看板を設置し、警備員も配置するなど様々な対策を行ってきましたが、対策を上回る速度で外国人観光客が増えた」(同)  迷惑行為について地域で話し合いが行われたが、「伐採やむなし」の結論にいたった。町の了解も得たうえで、伐採が実施された。  農家は観光客を拒否しているわけではなく、「マナーを守って楽しんでもらえたらいい」という人が多いという。 「伐採について、『哲学の木と同じことを繰り返している』『行政の怠慢じゃないか』といったコメントもありました。行政はやれることを精いっぱいやってきたと思います。この木を楽しみにやってくる観光客が大勢いることを承知のうえでの決断です。農家や周辺住民、行政はいかに苦悩してきたか……」(同) ローソン河口湖駅前店を背景にポーズをとる外国人観光客=富士河口湖町、米倉昭仁撮影 毅然とした姿勢を取るべき  立教大学観光学部の東徹教授はこう指摘する。 「国や多くの自治体は『観光』に対する認識が甘すぎる。『市民生活を侵すような観光は認められない』という毅然とした姿勢を取るべきです」  東教授によると、美瑛町と同様に観光による不利益に悩まされるケースは、京都市をはじめ、神奈川県鎌倉市、山梨県富士河口湖町など、他の地域でも起きているという。 「私有地への侵入、車道での撮影や無謀な横断による通行の妨げや接触事故のリスクなど、市民が不利益を被っている。国や自治体は、こうした不利益を観光による経済的利益と相殺できると考えるべきではありません」(東教授、以下同) 「迷惑行為」「マナー違反」を伝える  観光客には非日常ゆえの開放感があり、「今しかできない」という「機会の限定性」が加わると、欲望を抑えきれなくなり、自己中心的で享楽的な行動をとる傾向がある。SNS上での「承認欲求」もそれに拍車をかける。 「そうした観光客特有の心理が働く、ということを念頭に置いて対策を講じる必要があります」  東教授が注目するのは昨年5月、富士河口湖町が人気の撮影スポットから富士山を撮れないように、目隠しの「黒い幕」を歩道に設置したことだ。 「『黒い幕』の写真はネットに出回り、海外メディアも伝えた。町民が怒っている。観光客がここで行っていることは『迷惑行為だ』というメッセージが明確に伝わったのではないか」  美瑛町の「シラカバ並木伐採」も同様にインパクトのあるメッセージになったはずだという。雪原に横たわる白い幹の映像は国内外で報道された。 「マナーの啓発や注意喚起に加えて、場合によっては『あなたたちがやっていることは迷惑行為だ、マナーの悪い人は来ないでくれ』という強いメッセージを発信することも対策のひとつです」 美しい景観を生み出す農家の思いを観光客に伝える看板と設置メンバー(前列右端は中西敏貴さん)。背後に伐採されたシラカバ並木が写る=中西さん提供   観光立国の理念に立ち返れ  町として観光客対策も打ち出してきた。  美瑛町によると、23年に一番人気の観光スポット「白金青い池」などに設置した「侵入検知カメラ」が効果をあげているという。立ち入り禁止エリアへの侵入が検知されると、画像が町と観光協会に送信されるほか、日本語と外国語で警告音声が流れる。観光客の「捨てぜりふ」に嫌な思いをすることもない。  同町は昨年10月、この池に駐車場利用税を導入する方針を決めた。駐車場利用者から一定額を徴収し、それを観光客対策などに充てる。道内初の試みで、26年度の導入を目指す。 「対策の財源がない、という自治体は少なくない。宿泊税や入域料を取るなどの受益者負担を進めるべきです。温泉旅館は入湯税を毎日徴収して、処理している。他の宿泊施設が宿泊税の徴収・処理をできないはずがない」 東教授は、国がインバウンドを増やすことばかりに注力して、受け入れ限度を超えてしまった地域への対策支援が不十分であると指摘する。 「国は、『住んでよし、訪れてよしの国づくり』という観光立国の理念に立ち返って対策を進めるべきです」 国がアピールしてきた「おもてなし」のひずみが、全国各地で表面化しつつある。その現実に目をむけるべきだ。 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
【2025年上半期ランキング ライフ・経済編1位】大きなテーブルのたった15㎠のスペースで食事をしていた生活 片づけたら部屋も自分も余裕ができた
【2025年上半期ランキング ライフ・経済編1位】大きなテーブルのたった15㎠のスペースで食事をしていた生活 片づけたら部屋も自分も余裕ができた テーブルの上にモノを山積みに置いていたリビング・ダイニング/ビフォー    2025年も折り返しです。1月~6月にAERA dot.またはAERA DIGITALに掲載され、特に多く読まれた記事を、ジャンル別にランキング形式で紹介します。ライフ・経済関係の記事の1位は「大きなテーブルのたった15㎠のスペースで食事をしていた生活 片づけたら部屋も自分も余裕ができた」でした(この記事は1月27日に配信されたものです。年齢や肩書などは当時のまま)。 *   *   *  5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。 case.88 お手本は先に片づけた友人 夫(2拠点でそれぞれ生活)/大学教員 兼 演奏家  仕事が充実して忙しくなると片づけまで手が回らず、家が散らかってしまう。よくあるお悩みだと思います。私が主宰する“家庭力アッププロジェクト®”の参加者にも、このように悩んできた方は多いです。 今回ご紹介する女性もその一人。仕事のモノが増えて、費やす時間も増えた結果、気づけば家の中は身動きが取りにくいほど散らかってしまったのです。  演奏活動をしながら大学で教員も務めるという仕事のスタイルで、もともと多忙な生活。4年前に役職が上がると、業務量が一気に増加しました。コロナ禍に突入したときには、全国を飛び回っていた演奏活動ができなくなってしまったので動画配信を始めます。 「動画配信が軌道に乗ってきたので、コロナが明けて演奏活動を再開しても続けました。そうすると、本当に忙しい。家に帰ってきて寝るだけの生活でしたが、横になるスペースもなくなるくらい、どんどん家の中が荒れていきました」  小さな頃は片づけが得意で、幼稚園でほめられることもありました。大人になるにつれて片づけが苦手になり、最近は自宅に生徒たちを招く機会に年1回片づけるだけ。しかし、コロナ禍がきっかけでその機会もなくなり、家はゴミ屋敷状態に。 「ダイニングにある大きなテーブルの上もモノでいっぱい。食事は約15㎠くらいの場所でしか食べられませんでした。片づけてくれるサービスを頼もうかと思ったんですが、自分でさえどこに何があるかわからないのでいろいろ捨てられると困るな、と。でもどうすればいいのかわからないし、『助けて!』って感じでした」 大型の家具を撤去したらフラメンコの練習ができるほど広くなりました/アフター   大型の家具を撤去したらフラメンコの練習ができるほど広くなりました/アフター    同じく演奏家の夫とは離れて暮らし、お互いの時間が合うときにどちらかの家で一緒に過ごします。夫の家はとてもきれいで、行く度に自分の家との違いに愕然としていました。優しい夫は彼女の忙しさや性格を理解し、家が散らかっていることに何も言わなかったそう。 「なんとかしたい」と思った彼女の脳裏に、ある友人の言葉が浮かびました。同僚でもあるその人の職場の部屋を訪ね、整然としているのに気づいたときのこと。「部屋がきれいになったね」と話すと、友人は「ちょっと講習を受けてね」と言いました。 「その友人は部屋がきれいになっただけでなく、以前より仕事をテキパキとこなすようになっていました。もともと素敵な人でしたがオーラが変わったというか……。そんなに変われるならと思って調べ、“家庭力アッププロジェクト®”にたどり着きました」  友人に相談してみると、やはりそのプロジェクトを受けたことがわかり、後押しもあって参加を決意。床やテーブルにモノが散らかり、洗濯物は山積み、洗い物はシンクに重なるという状況の中、彼女は賞味期限切れのパンを1つ手放すところから始めました。 「10分でもいいから毎日片づけるということを学んだので、ひたすら実行しました。慣れてくるとモノを手放す判断が早くなり、家の中は『なんでこんなモノを残しておいたんだろう』と思うようなモノばかりでしたね」  片づけを進めるうちに、ダイニングにあるテーブルは本当に必要か疑問に思い始めました。生活の質が上がるような気がして買った、大きくてちょっといいテーブルです。 「大きい面があるといろいろとモノを置いてしまうので、それが散らかる原因にもなっていました。それに、サイズを測らずに買ったので部屋の大きさに合わず、圧迫感もすごい。思い切って手放すことにしました」  ダイニングテーブル、もう一つあったテーブル、ソファ、ワインセラーなど大きな家具を一気に部屋から出すと部屋が広くなったように感じました。  それから食事のときに小さなサイドテーブルを使うようになると、これが意外と快適。 「スペースが小さいことが私にはよかったですね。食べ終わったらすぐに食器を片づけるようになり、ほかの用途にあまり使わない。スッキリした空間をキープできているので、ここで習っているフラメンコの練習もしています」 楽器の演奏や動画の作業をする部屋も床置きが散乱/ビフォー    ダイニングには大きなテーブルを置くべき、という考えをやめると、彼女らしい生活スタイルができました。  片づけを手伝ってくれた夫が、「一緒に片づけることが夢だった」と言ってくれたことも。 「最終的に家の中がきれいになったら、夫はビックリしていましたね。私は今まであまり自炊をしなかったんですが、キッチンが使いやすくなったので料理を作るとすごく喜んでくれました」  彼女は45日間のプロジェクトが終わっても、朝10分間タイマーをかけて片づけることを続けています。洗濯物や洗い物の山ができることは、もうありません。 「どんなに忙しい日々の中でも、10分くらいは時間を作れるんですよね。朝10分片づけたという事実が、一日中“私はできた”という達成感を与えてくれます」 夫や友達も一緒に楽器を演奏できるほどきれいになりました/アフター    ほかにも、仕事の優先順位を決めて計画的に進められたり、生徒たちの「できない」という気持ちに寄り添えたり、彼女は片づけを通して内面の変化も感じています。 「こんな部屋で悩んでいるのは私だけだと思っていましたが、プロジェクトでは同じように悩む仲間がいました。一人では片づけられなかったと思いますが、できたのは仲間や先に片づけていた友人のおかげです。もし片づけられないと一人で悩んでいる人がいたら、『あなただけじゃないよ』と伝えたいですね」  悩みを解決するために動き始めると、仲間や助けてくれる人が一緒に道を切り開いてくれることがあります。忙しさを言い訳にせずに、「片づけたい」「もう悩みたくない」という気持ちを誰かに相談するだけでも、彼女のように生活が一変するようなことにつながるかもしれません。大切なのは、現状を変えようとする気持ちと、一歩を踏み出す勇気です。 人生が変わる片づけの習慣 片づけられなかった36人のビフォーアフター 商品価格¥1,650 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
作家の平野啓一郎さんが提唱する「分人主義」に共感 対立と分断は“多層的な自己”で乗り越えられる 田内学
作家の平野啓一郎さんが提唱する「分人主義」に共感 対立と分断は“多層的な自己”で乗り越えられる 田内学 AERA 2025年7月14日号より    物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年7月14日号より。 *  *  *  撮影スタジオのテーブルには、小説家・平野啓一郎さんの本が山積みになっていた。『本心』『マチネの終わりに』『ドーン』『富士山』『私とは何か』──ざっと50冊ほどあっただろう。  そこに積まれていた本は、撮影用の小道具ではない。僕が連載をしている女性誌で平野さんと対談をすることになり、僕を含め、編集者やライターなど取材スタッフが、まるで示し合わせたかのように、それぞれ自宅から平野さんの本を持ち寄ったのだ。  だが、なぜ女性誌の編集部がそれほどまで平野さんを推すのだろうか。  おそらく、その雑誌の読者である女性たちが日々、「子育てと仕事の両立」という複雑な現実に向き合っているからだ。  ジェンダー平等が叫ばれる時代ではあるが、あえて言えば、日本の多くの男性は比較的「単線的」に生きている。「仕事こそが人生の使命」という一つの信念に従い、「一貫した自分」として生きることが可能なのだ。  過去のコラムでも何度か紹介したが、日本人男性の育児などへの参加時間は先進国の中でも突出している。OECD(経済協力開発機構)が2020年にまとめた生活時間の国際比較によると、日本の男性は家事育児などの無償労働に1日あたり41分しか使わず、OECD平均の男性136分と比べて極端に短い。  一方、女性は違う。仕事を進めたい自分、早く子どもを迎えに行きたい自分、母として、妻として、働く女性として──それぞれ別の自分を抱えている。「一貫した自分」ではいられない。自分の中には異なる価値観や欲望を持つ“複数の自分”が共存している。むしろ「私」は一人ではないのだ。 たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など    この「多層的な自己」こそ、平野啓一郎作品で一貫して描かれているテーマである。平野さんが繰り返し提唱する「分人主義(ぶんじんしゅぎ)」という思想は、「人間は状況によって複数の人格=“分人”を使い分けながら生きている」という考え方だ。従来の「たった一つの本当の自分を探す」という自己認識に対し、新たな視点を与える。  僕は、この分人主義が今の日本社会に必要だと感じている。日本に漂う閉塞感がさまざまな「分断」を生んでいる。若者対高齢者、男性対女性、国民対官僚などだ。僕自身も経済コラムで官僚機構を批判することはあるが、官僚として働く高校時代の同級生の人格まで否定しているわけではない。批判と個人は「それはそれ、これはこれ」と分けて考えられる。  分人を一つしか持たないと、「官僚=悪」「老人=敵」といった単純な対立に陥りやすい。21世紀に入って、西洋とイスラムという文明間の対立が激化している背景にも、「唯一のアイデンティティーに縛られている」という問題があると、ノーベル経済学賞受賞者のアマルティア・センは指摘している。  分人主義を理解すれば、私たちは二項対立を乗り越え、他者への共感や理解を深めることができる。3日に参議院選挙が公示されたが、「敵か味方か」ではなく、「それぞれの立場の多様性を理解し合えるか」を基準に社会を考えていきたい。 ※AERA 2025年7月14日号  
【セレクトラ独自調査】iPhone17は待つべき?約75%が「待つ」と回答!価格高騰でユーザーのiPhone購入はさらに慎重に
【セレクトラ独自調査】iPhone17は待つべき?約75%が「待つ」と回答!価格高騰でユーザーのiPhone購入はさらに慎重に - セレクトラ・ジャパン株式会社 セレクトラ・ジャパン株式会社(本社:東京都渋谷区、代表取締役:グザビエ・ピノン)は、これから半年以内にiPhoneの購入を検討している男女200名を対象に、2025年9月に発売が噂されるiPhone 17の発売を待ってから購入するかどうか、アンケート調査を実施しました。 例年通りであれば、新型「iPhone 17(仮)」の発売が2025年9月に見込まれており、多くの噂やリーク情報が飛び交っています。 これからiPhoneを購入しようと考えている方は、新型となるiPhone 17を待つべきか、型落ちとなるモデルを今買うべきか、悩んでいる方も多いのではないでしょうか。セレクトラでは、これから半年以内にiPhoneの購入を検討している男女200名にアンケートを実施し、どれくらいの人が新型iPhone 17を待つのか、そして待つ理由は何なのかを調査しました。新型を待つ理由、そして待たない理由を深掘りし、ユーザーがどのようにiPhoneを選ぶのか、その購入判断を探りました。 アンケート結果の詳細は、セレクトラの「7割超が「iPhone17を待つべき」と回答した理由とは?iPhone16とどっちを買うべきかを解説」記事にて詳しく紹介しています。(https://selectra.jp/telecom/mobile/iphone17-should-wait-for-release) 調査結果まとめ 「iPhone 17を待つ」と答えたのは全体の74.5% 待つ理由は、iPhone 17の購入希望だけでなく、型落ちiPhoneの値下げへの期待も 購入予定のiPhoneの1位はiPhone 17シリーズ、2位は未定で慎重派も多数 約75%がiPhone 17を待つと回答!慎重派・型落ち値下げを待つ派が多数 「iPhone 17の発売を待ってから購入しますか?」という質問に対し、全体の74.5%が「待つ」と回答し、多くの人が新型の登場を待ってからiPhoneを購入しようとしていることが分かりました。 とはいえ、「待つ」と回答した人の中でも、純粋に「iPhone 17に期待しているから」という理由を挙げた人は少数派で、「iPhone 17のスペックと価格を型落ちモデルと比較し、その上で購入モデルを決めたい」という慎重派が多数を占めました。iPhoneが高価であるだけに、価格に見合った性能かどうかを慎重に見極めたいという声が目立ちました。 また、「待つ」と回答した人の約23%は、「新型には興味がないが、型落ちモデルの値下げに期待している」とコメントしています。スペックよりも価格を重視してiPhoneを選びたいと考える人が少なくないことがうかがえます。 一方、「待たない」と回答した人の多くは、「最新機種に興味がない」または「使いこなせない」といった理由を挙げていました。 iPhone 17を待つ理由「せっかく新しいものが出るので秋まで待つつもり。薄型モデルがどのようなものか気になる。」 (30代、iPhone 17を購入予定) 「あと数ヶ月で発売だし、どうせ買うなら最新のiPhoneを買いたい。スペックやカラー価格が気になる。」 (40代、iPhone 17を購入予定) 「スペックを見極めてから購入したいし、iPhone 17が発売された影響で旧型のモデルがセールなどで安く買えるようになるかもしれないので、慎重に待ちます。」 (40代、iPhone 17を購入予定) 「高価な買い物なので失敗したくありません。数カ月程度なら待ってもよいと思っています。iPhone 16を購入してから“やっぱり17の方が良かった”ということにならないよう、スペックの違いを確認してから判断したいです。」 (40代、購入機種は未定) 「せっかくなのでiPhone 17の性能を見て他のモデルと比較しつつ最もコスパの良い機種を購入したいと思っているから。」 (30代、購入機種は未定) 「スマホの値段が高すぎると感じてるので、型落ちの値下げ期待です。それでもスペックは私にとって充分と感じてます。」 (50代、iPhone 16を購入予定) iPhone 17を待たない理由「値段が高いことが予想されることと、今使っているiPhoneのバッテリーが心配なので。」 (30代、iPhone 16eを購入予定) 「現在までに発売されているスペックで充分実用的だから。」 (30代、iPhone SE3を購入予定) 「たぶん価格が高いと思うので、どうせ手が出せないと思うから。」 (20代、iPhone 16を購入予定) 「関税と為替レートを鑑みて古いモデルも値上げがありそうで怖いから。」 (50代、iPhone 16eを購入予定) 購入予定機種の第1位はiPhone 17シリーズで約40%、2位はまだ決めていない慎重派で約22% 購入予定の機種トップ3は、1位がiPhone 17シリーズ(36%)、2位が「まだ決めていない」(21%)、3位がiPhone 16シリーズ(12.5%)でした。 新型iPhoneへの期待が高いことがうかがえる一方で、購入モデルを決めかねている慎重派が多数いることも分かりました。 バッテリー性能を重視してiPhoneを選ぶユーザーが最多数 「次に購入するiPhoneでは何を最も重視しますか?」という質問に対しては、最多の33.5%が「バッテリー持ち」と回答しました。次いで、「価格」が20%、そして「カメラ性能」が16.5%という結果でした。 型落ちでも高性能なカメラ性能や操作性を持つiPhoneは、日常使いにおいてはすでに十分な性能を備えていることから、1日中安心して使える“バッテリー持ち”を重視するユーザーが多いようです。 iPhone 17を待つメリットとデメリットとは?新型iPhoneは例年9月に発表されるため、新型発売まであと2ヶ月です。 あと2ヶ月、iPhoneの購入を待つとどのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。 メリット1.iPhoneの選択肢が増える新型モデルが投入されることで、単純にiPhoneの選択肢が増えます。最新モデルのスペックと型落ちモデルのスペックを比較できるため、より自分の使い方に合ったiPhoneを選ぶことができます。 メリット2.型落ちiPhoneの値下げが期待できる例年、新型iPhoneが発表されるタイミングで、アップルストアでは型落ちモデルが値下げされます。例えば2024年9月10日にiPhone 16が発表された後、アップルストアではiPhone 15を12,000円値下げしました。 携帯会社でも、iPhone 16の発売以降、iPhone 15やiPhone 14といった型落ちモデルの値下げがありました。 最新モデルほどのスペックが不必要と思うなら、1世代か2世代前のモデルの値下げを待つのも賢い選択です。 注意したいデメリット1.一部の型落ちモデルは在庫がなくなる可能性があるメリット1.でiPhoneの選択肢が増えることを挙げましたが、一方で、全ての型落ちモデルが引き続き販売されるわけでもありません。 例えば1世代型落ちのProモデルは、新型モデルが発表されると、アップルストアでは販売終了となる傾向です。iPhone 16 Pro発表後、iPhone 15 Proはアップルストアでの販売が終了しました。 また、在庫が限られることで、希望のカラーやストレージを選べないリスクもあります。 注意したいデメリット2.新型iPhoneが値上げする可能性がある新型iPhone 17は値上げされるという噂があり、これはトランプ関税だけでなく、機能やデザインの変更も要因とされています。米国ではiPhone 12からiPhone 16まで据え置き価格が続いていたiPhoneですが、ついに値上げの可能性が高くなってきました。 iPhone 17を待っている方は、「思ったよりも高くて買えない」という事態もあり得ます。また、新型モデルが値上げされることで、型落ちモデルの値下げにも影響が出るリスクもあります。新型モデル発売時点ですでに型落ちモデルとの価格差が生まれるので、型落ちモデルの値下げ幅が例年よりも小さくなることや、最悪の場合は値下げが行われない、といったことも考えられます。 iPhone 17は待つべき?スペック重視なら待つ価値あり、価格重視なら関税の動きに注意これからiPhone購入を考えているなら、基本的には「iPhone 17を待つべき」と言えます。 特にApple Intelligenceを活用したい方なら、よりスペックが最適化されることが予想されるiPhone 17シリーズは魅力的です。また、初の薄型モデルとなる「iPhone 17 Air」(仮)も、新たな選択肢として注目を集めています。 ただし、すでに既存のモデルで十分と感じている方は、トランプ関税による値上げに注意しましょう。 関税の変更がすぐに既存モデルの価格に反映される可能性は低そうですが、新型iPhone 17発表のタイミングで、既存モデルの価格も調整されることは十分にあり得ます。 トランプ関税の動きも見ながら、柔軟に「iPhone 17を待たずに買う」判断も必要になりそうです。 調査期間 2025年6月23日~2025年6月27日 調査対象 これから半年以内にiPhoneの購入を検討している男女200名 調査方法 インターネット調査 調査機関 株式会社クラウドワークス 設問内容 1. あなたの年齢を選択してください 2. 現在お使いのiPhoneまたはスマートフォンの機種を教えてください。 3.現在お使いのiPhoneまたはスマートフォンは購入からどれくらい使用していますか? 4.2025年秋に新型iPhone 17の発売が噂されています。iPhone 17の発売を待ってから購入しますか? 5.4で「待つ」あるいは「待たない」とお答えの理由を教えてください。 6.購入予定のiPhone機種を教えてください。 7.次に購入するiPhoneを選ぶ上で最も重視することはなんですか? 本調査レポートのご利用について新型iPhoneに関心が集まる中、iPhone選びの一助として、本調査レポートをご活用いただければ幸いです。 ※本調査の内容を引用される際は、以下のご対応をお願いいたします。 引用元が「セレクトラ・ジャパン株式会社 格安SIM・スマホ部門による調査」である旨の記載 アンケート調査結果掲載ページのリンク設置 https://selectra.jp/telecom/mobile/iphone17-should-wait-for-release#survey 過去のアンケート格安SIM・スマホ部門では、過去にも格安SIMやiPhoneのアンケートを実施しています。 【セレクトラ独自調査】約4割が「iPhoneやめるかも」|迫り来るiPhoneの値上げでAndroidも視野に 「1円スマホ」認知度アンケート | 9割の回答者が「1円スマホ」にネガティブな印象を抱いていた 新型iPhone 16満足度アンケート iPhone 16発売前アンケート 新型iPhone 15満足度アンケート 2024年版大手キャリアから格安SIMへのMNP乗り換えに関するアンケート iPhoneおすすめ記事一覧【発売日はいつ?】iPhone17を最も速く予約する方法 | アップルストア、au、ソフトバンク、ドコモ、楽天モバイル (https://selectra.jp/telecom/mobile/iphone17-reserve) 新型iPhone17の噂・リークまとめ|超薄型のiPhone 17 Air登場、値段は上がる? 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参院選前に知られると「不都合な真実」 柏崎刈羽原発の避難計画は「原子力規制委員会が審査していない」ことを知っていますか? 古賀茂明
参院選前に知られると「不都合な真実」 柏崎刈羽原発の避難計画は「原子力規制委員会が審査していない」ことを知っていますか? 古賀茂明 古賀茂明氏  国際原子力機関(IAEA)が各国に求める「深層防護(Defense-in-depth)」をご存じだろうか。これは、原発の安全性を確保するために、必須とされる5段階の安全対策のことだ。 第1層:異常の発生を防止する 第2層:異常が発生してもその拡大を防止する 第3層:異常が拡大してもその影響を緩和し、過酷事故に至らせない 第4層:異常が緩和できず過酷事故に至っても、対応できるようにする 第5層:異常に対応できなくても、人を守る  というものだ。  東京電力福島第一原子力発電所の事故が起きるまで、日本ではこの5層の防護という考え方が無視されてきた。しかし、事故後はさすがに無視できなくなり、これに基づいた規制基準を作ることになった……はずだった。  しかし、結論から言うと、ほとんどの人が気付かぬまま、大変な欠陥基準ができてしまった。「異常に対応できなくても、人を守る」という第5層の防御が完全に抜け落ちた規制基準になったのだ。  そこにはいろいろな言い訳があるのだが、真相を言えば、第5層まで基準に入れて原子力規制委員会が審査すると、日本の原発は全て動かせなくなるというのがその理由だ。  第5層の防御の肝となるのが、過酷事故が起きた時の避難計画である。  その重要性を示す良い例がある。それは、米国ニューヨーク州のロングアイランドに建設されたショアハム原発の事例だ。1984年まで10年以上かけて建設された原発が、避難計画が不十分だという理由で稼働できず廃炉が決まった。  その際問題となったのは、陸路の渋滞とそれを回避するための船での避難計画だった。電力会社は、多少の悪天候でも運航できる専用の大型船の傭船契約を結んで確実に避難できるとしたが、その時にハリケーンが来ていたらどうするかという反論に対応できず、避難計画が不十分だという結論になった。  6月27日、東京電力柏崎刈羽原発の事故発生時などの広域避難計画「緊急時対応」が了承された。  これを聞いた人は、避難計画について、専門家が厳格な審査をしてその安全性にお墨付きを与えたと思うだろう。  しかし、これは全くの間違いだ。そもそも、原発の安全性について規制基準に基づいて専門家により厳格な審査を行うはずの原子力規制委員会が、避難計画の審査を行うことはない。  他の独立した専門家による審査も行われない。  原子力防災会議という、単に大臣などが集まった素人集団が「了承」するだけ。そのトップは首相だ。東京電力など原子力ムラとベッタリの自民党の首相が避難計画に問題なしと言ったということでしかないのだ。 2012年に撮影された柏崎刈羽原発(写真:ロイター/アフロ) ツッコミどころ満載の避難計画  これは法律的には何の意味もない。だから、新聞は、避難計画の了承を再稼働の「事実上」の条件と呼んでいる。法律的要件ではないのだ。  石破茂首相は「国は万が一の事態が発生した場合にも、国民の生命や財産を守る重大な責務を負う」と述べた。実は、首相のこの言葉がポイントだ。  避難計画がザルだということは誰の目にも明らかだが、カネのために動かさざるを得ない自治体の長が住民を納得させるために、「首相が責任を取ると言った」と言えることが必要なのだ。  事故の責任を首相が取ると言ったところで、何の意味もない。命が奪われ、ふるさとが失われた時に石破首相に何ができるのか。それでもなお、首相に大見得を切らせ、住民に黙ってもらうという歌舞伎の芝居が必要とされる。お手軽な「免罪符」と言っても良い。  ちなみに、柏崎刈羽の避難計画はツッコミどころ満載だ。例えば、避難の手段は基本的に自家用車を使うことになっている。学校で被災した子どもたち、高齢者施設や障害者施設で移動が困難な人たちはバスで逃げることになっている。だが、そんなことはほぼ無理だ。自治体職員もわかっている。  日本で実際に原発事故が起きるのは、大地震の時だろう。東日本大震災でも大渋滞で身動きできないという状況が生じた。  日本人は協調的で行政に協力する。役所が必要最小限の荷物だけ積んで車1台で避難せよと言えばそれに従う。そういう馬鹿げた想定をしているのだろう。  避難が必要だとなった時、その時点では、どれくらいの期間避難が必要なのか見当もつかない。福島のように年単位で戻れないかもしれない。そう考える人々は、家にある自動車全てを使ってできる限りの家財道具を運ぼうとする。自分たちの命と生活に関わる問題である。住民には、自分たちで自分たちの身を守る権利がある。これを批判することなど誰にもできない。  柏崎刈羽地域なら、2台、3台自家用車を保有している家も多い。その全てが一斉に道路に出ればどうなるのか。誰でも想像できる。しかも、多くの車がガソリンスタンドに集中してその周辺は全く交通が麻痺することは確実だが、そういう事態にどう対処するか、何らかの規制をするのかなどについては避難計画には書かれていない。  さらに、問題なのは、地震で多数の死傷者が出た場合や道路が寸断された場合について何も書かれていないことだ。大地震による原発事故の際にほぼ確実に生じる事態だが、150ページを超える資料の中で想定さえされていないのだ。 原発の再稼働につれて報道も減っている  こんなひどい計画が了承されるのは、再稼働ありきで、地元住民を「騙す」ために作られた避難計画だからである。柏崎刈羽原発で作られた電力は東京電力により首都圏に送られる。住民のための発電所ではないのに住民の安全を無視してなぜ動かすのか。  こんな避難計画のまま再稼働を承認する自治体の長がいるとすれば、まさにカネのために住民を売る大罪人だと言って良い。  私がさらに問題だと考えるのは、マスコミが、この欠陥についてほとんど報じないことだ。福島の事故後数年の間は、各地の原発の避難計画について、かなり詳細な報道がなされた。しかし、原発の再稼働が進むにつれ、避難計画についての報道は激減した。  今回も、避難計画が了承されたことで再稼働の手続きが一歩進んだという経済産業省の発表をそのまま垂れ流している記事がほとんどだ。大スポンサーの原子力ムラの手前、強い批判はできないからなのだが、もはや報道機関としての役割を放棄したと言っても良い。  本来なら、新聞の1面で大きな見出しをつけて、避難計画の欠陥を大々的に報じるべきだったがそれをしない。原子力規制委員会が避難計画を審査していないという事実さえ伝えないから、ほとんどの国民は知らないままだ。  原発については、柏崎刈羽に限らず、避難計画以外にも大きな問題が山積している。  使用済み核燃料の最終処分はほぼ不可能だ。最終処分場を受け入れる地域がない。各原発敷地内で永久保管するしかないが、住民の手前そんなことは口にもできず、そのうちできますと言い続けている。それを非難する記事もほとんど見かけなくなった。なぜ、最終処分場ができるという前提に立ったままの記事を書き続けるのだろう。経産省の担当官僚でさえ、そんなことはできないことは百も承知で、自分の在任期間中は演技を続けているだけなのに。  また、事故が起きた時の避難計画を作っているのに、事故が起きた時の損害賠償については、昔の制度のまま放置していることも知られていない。政府が一種の保険を運営しているが、それで支払われるのは、原発1基あたり最大1200億円だ。  福島第一原発の事故対応費用は、廃炉、賠償、除染・中間貯蔵などを含めて約23.8兆円という試算(2024年、資源エネルギー庁の発電コスト検証WG)がある。1200億円は1%にも満たない。しかも、事故対応費用は今後も時間とともに膨らんでいくのは必至だ。  この事実もほとんど報道されてないので、多くの人は知らないままだ。  さらに、そもそも日本の原発の耐震性が、民間の耐震住宅よりもはるかに低いこともほとんど報じられていない。三井ホームの耐震住宅が5115ガル(ガルは加速度。揺れの強さを示す)、住友林業では3406ガルに耐えられるのに、日本の原発の基準地震動(耐震性と考えて良い)は、高くても1000ガル程度でしかない。これについて、電力会社は、原発の敷地内に限ってはそれほど大きな揺れは生じないと言い続けている。南海トラフ地震の震源域に入っている四国電力伊方原発については、何と、原発直下で南海トラフ地震が起きた時でさえ、大して揺れないと言うのだから驚きだ。 争点にならない原発再稼働  原発復活による問題は、国民の安全が脅かされるということにとどまらない。  詳しくはまた別の機会に紹介するが、原発が再稼働し、さらには新増設もあるとなれば、再生可能エネルギーへの投資を減少させる効果が生じる。  その結果、日本では、再エネ電源の増加が抑制され、そのために、日本の太陽光パネル産業は、世界トップの座を滑り落ち、今やほとんど壊滅状態だ。日本の太陽光パネルを買う国はない。  また、風力発電も大手メーカーが全て撤退した。海外メーカーに頼るしかない。  「経済安全保障」という掛け声をよく聞くが、やっていることは全く正反対である。  さらに、原発を日本海に並べて稼働させているのは、国防上も大問題だ。原発は、戦時においては絶好の標的になり、破壊されれば深刻な放射能被害を受ける。攻撃すると脅されただけでも、全ての原発停止で大停電必至だ。今後は、膨大なコストをかけて、原発防衛のための体制を整えなければならない。原発推進は、安全保障の観点では、最悪の政策だ。  これほどまでに原発をやめるべき理由がはっきりしているのに、これまで述べたとおり、マスコミの原発に関する報道は大きく減っている。あるテレビ局のディレクターは、能登半島地震の時でさえ、視聴率が取れないという表向きの理由で北陸電力志賀原発の状況を報道することが後回しにされたと嘆いていた。  マスコミにおける原発事故問題への関心の低下あるいは報道自粛が、国民の間の「原発無関心」を生み、知らず知らずのうちに「原発安全・クリーン神話」復活に手を貸している。  国民の関心が下がれば、政党もこれを取り上げなくなる。  自民党は原子力ムラの利権を守りたい。国民民主党は電力や重工メーカーの労組の支持を得るために露骨に原発推進策を掲げる。立憲民主党もやはり労組忖度で、原発新増設を認めないとは言うが、逆に再稼働は黙認だ。  今回の参議院選挙では、柏崎刈羽などの原発が争点になることはなさそうだ。  そして、選挙が終われば、政府が、柏崎刈羽原発再稼働を強引に推し進めるのは確実だ。  花角英世新潟県知事は原発立地自治体への「電源三法交付金」という補助金の対象地域の拡大を石破首相に要請し、首相は前向きな姿勢を示しているという。カネをもらえない地域の住民の反対が強いから、カネを出せばいいんだろうといういつもの自民党の姿勢だ。「政治家から住民への逆賄賂」と私は呼んでいる。これが決定打になってしまうのか。  だが、まだ望みはある。新潟県民の良識だ。柏崎刈羽原発の再稼働については、新潟県民の粘り強い反対運動があり、県知事も安易な同意はできない。  だが、万一住民の力が及ばなかった時は、もう一度原発事故が起きたり、北朝鮮が原発を狙う恐れが出てきたりしない限り、「亡国の原発推進」は止まらないのかもしれない。
【SES Plus緊急アンケート結果】物価高対策、最も支持されたのは「食料品消費税ゼロ」
【SES Plus緊急アンケート結果】物価高対策、最も支持されたのは「食料品消費税ゼロ」 55.1%が「食料品の消費税ゼロ」を支持、次点は「2万円の現金給付」32% - 株式会社ファーストイノベーション 株式会社ファーストイノベーション(本社:東京都中央区、代表取締役社長:木ノ根雄志、以下ファーストイノベーション)は、運営メディア「SES Plus」にて、物価高対策に関する緊急アンケートを実施し、その結果を公開しました。 昨今の物価上昇に対する国民の意識やニーズを把握するため、2025年7月3日から7月6日の期間において、「物価高対策として最も効果的だと思うのは?」というテーマで緊急アンケート調査を実施しました。全国から計405名の回答を得て、以下のような結果が得られました。 調査対象者:SNSユーザー(Twitter経由で参加) 調査期間:2025年7月3日~7月5日 調査方法:Twitterで募集し、Googleフォームにて回答を収集 有効回答数:405件 男女比:女性 54.6%(221名)/ 男性 43.5%(176名)/ 回答しない 2.0%(8名) 回答者年齢:20~40代中心、30代が最多 アンケート結果405名が回答 1位:食料品消費税ゼロ (回答数223件/約55.1%)生活の中で最も基本となる“食”に対して直接的な支援を求める声が圧倒的に多く見られました。物価上昇の中でも日々必要となる食料品の税負担を軽減することで、特に子育て世帯や単身世帯の家計を安定させる期待が高まっています。 2位:2万円現金給付(回答数130件/約32%)現金給付は、即効性を重視する層からの支持を集めました。、経済的に厳しい現状に対して、今すぐ使える支援への需要が浮き彫りになりました。 3位:一律5%減税 (回答数52件/約12.9%)減税策は全体への波及効果を期待する政策として一定の評価を受けたものの、他の選択肢と比較して具体的な生活への影響が見えづらいという声もありました。 今後も「SES Plus」を通じて国民のリアルな声を収集し、情報を提供してまいります。 ■「SES Plus」について SES Plus(Social Examine Service Plus)では、SNS上で様々なアンケートを取り、ランキング調査を通じて課題解決をお手伝いいたします。 クライアントが求めるマーケティングに関するニーズを正確に理解し、先進的なSNSリサーチを通して的確な情報を届けることをミッションとしています。 詳細を見る
穏やかな生活をしたい…地方移住に「関心あり」は7割 アドバイスは「郷に行ったら郷に従え」「2拠点生活から」【AERAアンケート結果発表】
穏やかな生活をしたい…地方移住に「関心あり」は7割 アドバイスは「郷に行ったら郷に従え」「2拠点生活から」【AERAアンケート結果発表】   都会を離れてゆっくりとした暮らしを…そんな憧れを持つ人は少なくない(写真はイメージ=GettyImages)    都会から離れて、田舎でのんびりした暮らしを……。最近は若い子育て世帯にも関心が広がっているという地方への「移住」。AERA編集部のアンケートでは、「関心がある」という方は約7割に上りました。移住先として比較的人気があった地域は「関東」と「中部」でした。そして、これから移住を考えている人へのアドバイスとして、まずは「お試し」で住んでみることを勧める声が多くありました。 *   *   *  今回の読者アンケートのテーマは「地方移住」。6月25日から7月2日にかけてインターネット上で実施し、回答者は314人でした。現在、都市圏(首都圏、名古屋都市圏、大阪都市圏、福岡都市圏)に住んでいるという方が、回答者の7割でした。都市部と地方に住まいがある方も6%でした。    地方移住に「関心がある」「やや関心がある」というは71.6%。その理由として、48.3%が「山、海、川などの自然が多い環境に住みたい」を挙げました。ほかに「都市から離れて、のんびり暮らしたい」が31.0%、「生活コストを削減できる」もほぼ同数の30.3%でした。      移住先を選ぶ際に優先したい条件については、「病院、医療機関が近くにある」が最も多い73.6%。そして「買い物ができる場所が近くにある」(65.2%)が続き、「インターネット環境がある」が46.6%、「車以外の交通機関がある」も44.9%でした。       「年々歳を取るに連れて、寒さが身に応えるため、年中温暖な気候なところに住みたい」(60代、男性) 「仕事をリタイアして、充実したシニアライフの実現。ゴルフと山歩き、読書、映画、美術館巡り、城巡りを楽しみたい」(60代、男性) 「鳥のさえずり、季節ごとの山々の色合いの移り変わり、農作業のあれこれなどを身近に感じたい」(60代、女性)    すでに地方に移り住んだ方からもコメントがありました。 「都市部に住んでいた頃は何でもありすぎて無駄遣いが多かったけど、田舎に引っ越してからお店の数が少ないから、無駄遣いが減った」(40代、女性)   移住したい…人気のエリアは  移住先として、みなさんはどんなところを考えているのでしょうか。  回答には特定の地域への大きな偏りはなく、最も多かったのが「関東地方」「中部地方」が同数で18.7%。「近畿地方」が12.0%で、「東北地方」が10.2%。「沖縄」が7%で、「北海道」は6.3%でした。  都道府県や自治体名を自由記述で回答してもらったところ、特に多かったのが「長野」。さらに「静岡」「兵庫」があり、「千葉」「岐阜」「沖縄」と続きました。          一方で、関心がありながらも移住をためらう理由、ふみきれない理由についても聞きました。  最も多かったのが、「医療・福祉サービスが受けられるか不安」の36.9%。また、34.2%が「移住先で働く場所がない」、27.2%が「移住の資金がない」、26.8%が「地元の人と人間関係をつくれるか不安」を挙げました。   移住のリスクをどう避ける?  そして、移住を考えている人へのアドバイスを求めたところ、多くのコメントがあったのが、移住先の文化・風習になじみ、うまく人間関係をつくっていけるかどうかという点。  それを見極めるために、現在の住まいとの2拠点生活にして「お試し」で住んでみることを勧める声が多数ありました。 「年をとってからの移住にはリスクが大きいかと思います。やはり自分の行動範囲内に、何かの時には必ず必要な対応可能な医療機関があるかです。また高台は気持ちいいのですが、あまり勾配がきついと段々大変になりますから、そういった環境も大切な重要事項です」(60代、女性) 「実際に一定期間居住(生活)してみて想像通りの部分とそうではない部分を確認し、その上で移住できるかどうかを最終決断する」(50代、男性) 「子供がいるなら小児科などの病院が、かかりつけ医+検査もできる様な大きい病院があるかどうかはチェックした方がいい」(40代、女性) 「雷や大雨など、冬場の凍結など、都市部とは違った不安材料があるので、地元の人の知恵を借りられるように、地元の人と良い関係を保てるようにできるといいと思います」(60代、女性) 「郷に行ったら郷に従え」(60代、男性) (AERA編集部)       【こちらも話題】 クレジットカードの不正利用、約半数が「経験」 カード停止で「電気を止められそうに」 身近な危険性に自衛策も【AERAアンケート結果発表】 https://dot.asahi.com/articles/-/259475  
「何かの間違いでは?」火災・地震保険料2倍に値上げの衝撃 家計圧迫し途中解約するケースも
「何かの間違いでは?」火災・地震保険料2倍に値上げの衝撃 家計圧迫し途中解約するケースも 写真はイメージです(写真:Getty Images)    物価高で手取りも増えないなか、火災・地震保険の保険料が驚くほど上がっている。家計への圧迫が響き、契約更新を断念するケースも出ているという。鹿児島県のトカラ列島近海での群発地震の行方が懸念されるなか、あらためて地震保険加入の意義も考える必要がありそうだ。 *  *  *  先日、銀行口座の出金明細をオンライン上で確認した際、思わず首をひねった。「ホケンリョウ」とあるが、これほど高額の保険料を支払った記憶がない。フィッシング詐欺に遭ったのかもしれない、と慌てて銀行に問い合わせたところ、引き落とされていたのは都内の分譲マンションの火災・地震保険の保険料の合計の額だと分かった。  たしかに数カ月前、5年間の契約手続きを更新した記憶はある。その際、うかつにも保険料をしっかりチェックしていなかった。あらためて前回と比較すると、なんと1.5倍近くにはね上がっていた。  物価高で手取りも増えないなか、保険料まで増額されていたとは――。背景を探ると、厳しい現実に直面する羽目になった。  「2025年、火災保険の契約を更新する方々の中には、保険料の高さに驚く方も多いのではないでしょうか」「『なぜこんなに上がるのか?』『前より高いのに補償は減っていないか?』と疑問に思われるのも当然です」  自社ホームページでこんな注意喚起をしているのは、全国で保険代理店事業を展開する「オアシス」(茨城県つくば市)。保険料が1.5倍に膨らんだ筆者のケースを伝えると、同社のライフプランコンシェルジュの川井英治さんは苦笑交じりにこう言い放った。  「実態はそんなに甘いものじゃありません」  どういうことなのか。  「前回10年契約だった人も今回から5年契約に切り替える必要がありますが、その場合、5年分の保険料が前回の10年分とほぼ変わらなかったり、地域によっては前回の10年分よりもさらに保険料が膨らんでいるケースもあったりします」  つまり、保険料が2倍、あるいはそれ以上に膨らんでいる人も珍しくないというのだ。一体、何が起きているのか。 地震保険基本料・都道府県ランキング    保険料アップの要因として、まず挙げられるのが火災保険料の改定だ。損保各社でつくる「損害保険料率算出機構」が23年6月、個人向け火災保険料の目安となる「参考純率」を過去最大幅となる13%(全国平均)引き上げた。これにより、損害保険大手4社などは24年10月以降、火災保険料を全国平均で1割ほどアップ。火災保険の値上げは19年以降4回目で、この5年で4割ほども上昇しているという。  火災保険料が上がる背景には3つの要因がある。1つが、自然災害の増加と保険金支払いの急増だ。ここ数年、日本では台風や豪雨による浸水被害が頻発しており、保険会社の支払額は過去最大規模になった。  「18年の台風21号では火災保険だけで9202億円超の保険金が支払われ、保険会社の収支は大きく悪化しました。このような『予想を超える自然災害の連続』が保険料見直しの主因です」(川井さん)  また、近年の物価上昇や人件費の高騰により、住宅再建や修理のコストが大きく上がっていることも背景に挙げられる。23年以降に見直されたのが、洪水や土砂崩れなどの水災リスクの評価だ。水災補償は火災保険に付帯して契約を選択できる。  「これまでは全国一律だった水災保険料が、地域ごとのリスクに応じて5段階で設定されるようになりました。これにより、河川や海に近い地域では保険料が増加するケースが増えています」(同)  もう1つ、火災保険とのセット加入で、全体の保険料を押し上げているのが地震保険だ。ただし、これはエリアによって明暗が大きく分かれる【公表資料をもとにオアシス社が作成した都道府県ごとの「地震保険料ランキング」参照】。川井さんは言う。 「地震保険料は22年10月の改定で、エリアや建物の構造によっては最大3割も値上げされています」  値上げが目立つのは、関東では茨城県や埼玉県のほか、四国の高知県や徳島県など。  地震保険料は地震の揺れによる損壊などの危険度合いを考慮して、建物の所在地、建物の構造、建物の免震・耐震性能に応じた割引――の3要素で決まる。ちなみに、地震保険は政府と民間の保険会社が共同で運営し、法律で補償内容や保険料が決められているため、どの保険会社で加入しても内容は同じだ。  とはいえ、先述のように火災保険料や地震保険料のアップは今に始まったわけではない。にもかかわらず、よりによって物価高に苦しむ人が多いこの時期に、保険料の大幅アップを実感する人が多いのはなぜなのか。それは、今年が契約更新のピークのタイミングと重なっているからだという。  火災保険の契約期間は、かつては最長36年まで認められていたが、15年10月以降は「最長10年」に、22年10月には「最長5年」に短縮された。このため、15年10月の制度変更の際、保険料が割安になる最長の「10年契約」に切り替えた加入者が一斉に満期を迎えるのが今年10月なのだ。川井さんは保険契約の現場の実態についてこう話す。  「このご時世、『物価上昇慣れ』している人は多いはずですが、新たな保険料を提示すると、皆さん一様に驚かれます。『何かの間違いでは?』と問い返す人や、なかには『私、どうしたらいいの……』と動揺を隠せない人もいます」  主に関東一円を担当する川井さんが実感するのは、地震保険料アップの影響だ。実際、同じ関東圏でも内陸部の栃木県や群馬県と、太平洋に面した千葉県では、地震保険料は4倍近くの開きがある。  「地震保険料の値上げ幅が大きい茨城県や埼玉県、以前から高かった千葉県では、生活への影響が大きいため地震保険を解約する人も今年に入って目立ちます」  つまり、地震や津波のリスクが高いと判断されている地域の人ほど地震保険を解約してしまっている可能性がある、というわけだ。これは矛盾としかいいようがない。  とはいえ、「必然」ともいえる実情もあるようだ。川井さんは火災保険については万が一に備えて加入や更新を勧める一方、地震保険については「当事者の納得感が大切」と考え、必ずしも加入を勧める営業はしていないという。理由はこうだ。  「火災保険は通常、被害相当額はほぼ全て保険で賄えます。一方、地震保険の保険金額は火災保険の30~50%の範囲内に制限されており、保険金だけで建物を元どおりに建て直すことはできません。被害査定も厳しく、建物の基礎や構造躯体(くたい)に大きな損害が出ないと、そもそも保険がおりないケースも珍しくありません」  例えば、3000万円の価値のある建物の場合、「全損」と査定されても保険金の上限は1500万円。「一部損」だと全損の5%の75万円にとどまる。  「代理店や営業担当者によって説明の仕方は違うと思いますが、少なくとも私たちは『地震保険は保険料の負担の割に費用対効果はあまりよくない』ということは丁寧にお伝えするようにしています」(川井さん)  川井さんの肌感覚では、高齢世帯よりも出費の機会の多い子育て世帯のほうが地震保険を途中解約するケースが多いという。  「火災保険の保険料全体に占める地震保険料は都道府県によっては半分超になります。ということは、地震保険を解約すれば火災保険の負担は2分の1以下になる場合があります。住宅ローンを抱えながら場合によっては年数十万円を保険料で出費するのは痛い。それならこの分を貯金か投資に回そうと考える傾向は子育て世代によく見られます」  最終的な判断は個人に委ねられるが、日本で暮らす以上、震災リスクとは無縁でいられない。そのことだけは肝に銘じておきたい。 (AERA編集部 渡辺豪)

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