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「S&P500で配当も欲しい」人のETFベスト10/米国株の東証ETFまとめ!【新NISA応援】
「S&P500で配当も欲しい」人のETFベスト10/米国株の東証ETFまとめ!【新NISA応援】 東京証券取引所 金融リテラシーサポート部 調査役の富田貴之〈とみた・たかゆき〉さん(撮影・戸嶋日菜乃)  長期投資で威力を発揮する「複利効果」。得られた利益を再投資することで元本を増やせば効率的に運用できる。だが、効率はさておき「配当が欲しい」というニーズも根強くある。S&P500への投資で配当をもらうには?【本記事はアエラ増刊「AERA Money 2025夏号」から抜粋しています】 「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」をはじめ、新NISAのつみたて投資枠で選べるインデックス型投資信託はほとんどが分配金を抑制する(出さない)タイプだ。  投資信託の購入者に分配金を払い出さず、ファンドの中で自動的に再投資をしてくれている。  新NISAの非課税投資枠をきっちり使いながら効率運用ができるので、基本は分配金抑制タイプの投資信託を選ぼう。 ETFは分配金が出る  S&P500の組み入れ500銘柄からは、すべてではないが配当が出ている。  米国企業の間では四半期ごとの配当が主流だ。  個別株を保有している場合、配当は直接受け取ることになる。  投資信託の場合は、得られた配当を分配金として購入者(投資家)に支払うケースもあれば、ファンド内で再投資に回すケースもある。その判断は運用側に任されている。  S&P500をはじめとする米国株の投資でも配当が欲しい––––、そんなときは東証に上場しているETF(上場投資信託)を。  「東証」というと日本株のETFしかなさそうだが(実際、日本株ETFのほうが数は多いが)、S&P500に連動するタイプや、米国株の高配当株を組み入れたタイプもある。  主な10本を表にまとめた(次ページ上の表参照)。安いものは数千円から、高くても数万円で買える。信託報酬と呼ばれるコストも高くない。  S&P500のETFで一番人気は純資産総額1168.9億円(2025年2月28日現在)の「iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF」。信託報酬0.066%(年率、税込み、上限。2025年3月26日現在/以下同)と最安で、6000円台から買える。  最低投資金額が一番低いのは「iFree ETF S&P 500(為替ヘッジなし)」信託報酬0.077%。1500円前後から投資OKだ。  ETFの普及に邁進(まいしん)する、東京証券取引所金融リテラシーサポート部調査役の富田貴之さんに取材した。 本記事が丸ごと読める「AERA Money 2025夏号」はこちら! 商品価格¥1,320 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 「制度上、東証ETFは組み入れ銘柄から得られた配当は分配金としてすべて吐き出す(当該ETFの購入者に支払う)のが原則となっています。 分配金利回りはS&P500に連動するETFで現状1%前後です。新NISAでは成長投資枠で買い付けられます。 特定口座などの課税口座で分配金を受け取ると20.315%の税金が差し引かれますが、新NISAは分配金も非課税です」  とはいえ分配金の分だけ元本は目減りするため(分配落ち)、複利効果という意味では分配金抑制タイプの投資信託に比べて不利だ。  ETFではなく、投資信託の中で分配金が再投資される際、20.315%の税金は引かれない。  ただ、S&P500のように米国株から配当が出た場合、米国分の10%の税金は引かれたうえで再投資に回ることになっている。 「特定口座で買ったETFの場合、自動的に二重課税にならないように調整(米国分の課税は実質的に免除)されます。 新NISAではもともと分配金への課税がないため二重課税の調整はありません」  資産を増やすときに効率性は重視したいが、「他のポイント」に目を向ける投資家もいる。  投資で億超えの財を築き、2020年の秋に47歳で約25年間勤務した会社を早期退職した桶井道(おけいどん)さんは、自称「配当金大好きマン」だ。  2024年の1年間で受け取った分配金と配当金の総額は税込み323万円、手取りは249万円だった。 含み益237万円超  新NISAのつみたて投資枠では「eMAXIS Slim 米国株式(S&P500)」に毎月10万円ずつ投資している。  ETFでは「iシェアーズ S&P 500 米国株 ETF」がお気に入り。  2025年3月19日現在のiシェアーズETFの評価額は436万8960円、含み益は237万4560円だという。 「iシェアーズのS&P 500 ETFを選んだのは、投資した当時から信託報酬が他より安く、純資産総額も大きめだったからです。 他のETFもたいていそうですが、二重課税調整制度の対象銘柄で、特定口座を通じて購入すれば確定申告で外国税額控除を行う必要がないのもラクでした。 世界最大の運用会社であるブラックロックが運用しているという信用力、ブランド力、安心感もあります。 本当はつみたて投資枠でもETFを買いたいぐらい(笑)」 この記事の完全版が読めるAERA増刊「AERA Money 2025夏号」が好評発売中です! Amazonや楽天ブックスなどのネット書店では「アエラマネー」で検索して、この表紙を探してみてください!(編集部より)  桶井道さんはなぜETFが好きなのだろう。 「分配金が欲しいからです。老後は個別株の配当金やETFの分配金を生活費にする予定です。 今は分配金を使ってショッピングのようにETFや個別株に再投資をしています。 早期退職していることもあり、分配金の入金の日は給料日のような気持ちになります」  桶井道さんは、勝手に振り込まれるところが好きなのだという。 「分配金や配当金は定期的に、自動的に振り込まれるのでラクです。価格が下がっても、分配金があると心の支えになります。 これまで増やしたお金を老後に使うとき、ちょうど暴落中だと取り崩しにくいと思うんです。 その点、分配金や配当金は自動入金なので」  運用効率だけにフォーカスすれば、ETFよりも投資信託のほうが優れていることは、桶井道さんも承知している。それを前提としたうえで、次のように述べる。 「私は投資を『効率=数字』だけでは捉えていません。つらくない投資、楽しい投資をすることこそ、長く継続していくうえで大切だと思っています。 通常の投資信託を、必要なときに必要なだけ取り崩せる方もいらっしゃると思いますので、そういう方はETFでなくても全然問題ないかと」  分配金をもらうのがうれしい、新しい銘柄を買うのが好き。生粋の「投資好き」であった。 地球儀投資  ちなみに、2025年2月下旬から3月初旬にかけて米国株が大きく下げた局面でも、桶井道さんは資産を増やした。  2月末時点の総資産額1億8451万円、3月19日(取材日)の総資産額1億8788万円。S&P500だけでなく、多国籍の個別株やETFに「地球儀投資」をしているらしい。  新NISAではS&P500とならんで全世界株式も人気だが、彼の言う地球儀投資は「桶井道式オルカン」のようなものだろう。 取材・文/中島晶子(AERA編集部)、大西洋平 富田貴之(とみた・たかゆき)東京証券取引所 金融リテラシーサポート部 調査役。大阪大学経済学部を卒業後、東証へ入社。セミナー講師や「東証マネ部!」運営チームとして情報提供。数字に強い 桶井 道(おけいどん)個人投資家、物書き。投資歴26年。100銘柄以上の個別株、ETFを保有。最新刊は『時をかける貯金ゼロおじさん』(KADOKAWA) 編集/綾小路麗香、伊藤忍 『AERA Money 2025夏号』から抜粋
“深刻な人手不足”は霞ヶ関の官僚にも? 民間コンサルへの外注が増える理由とその弊害 田内学
“深刻な人手不足”は霞ヶ関の官僚にも? 民間コンサルへの外注が増える理由とその弊害 田内学 AERA 2025年6月9日号より    物価高や為替、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2025年6月9日号より。 *  *  * 「うちも人手不足が深刻でして……」。先月、まったく異なる業界の2人から同じセリフを聞いた。  1人目は、ホテル業界の人。「人手不足が日本経済の深刻なボトルネックになる」という話を講演でしたところ、終了後に会場となっていたホテルの総支配人に声をかけられた。丁寧な接客で知られる老舗のそのホテルでも、裏方のスタッフのほとんどは外国人労働者でまかなわれているという。地方のホテルでは、そもそも人材が集まらず、需要があっても稼働率を上げられないところもあるそうだ。  飲食業界や宿泊業界に限らず、どの業界でも人手不足は深刻化し、日本社会は完全に「仕事が不足する社会」から「人が不足する社会」へとシフトしてしまった。  そして人を集めるためには、当然ながら待遇の改善が不可欠となる。リクルートグループが発表した4月のアルバイト・パート募集時の平均時給は、三大都市圏(首都圏、関西、東海)で前年同月より3.0%上昇している。アルバイトに限らず、社員の給与も上がっている。厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、2024年度の名目賃金は全国平均で3.0%上昇した。  だが、単純に喜べる話でもない。物価の高騰である。消費者物価指数は前年度比3.5%も上昇し、結果として物価高を加味した実質賃金は0.5%下がった。 たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など    給料が増えても、それを上回る勢いで物価が上昇すれば、実感としての生活の豊かさは改善しない。生産性の向上や、海外に流出する貿易赤字やデジタル赤字を抑えるなど、根本的な経済改革が進まなければ実質的な賃上げは実現しない。  さらにもう一つ、大きな課題がある。民間の賃金が市場原理で上昇する一方で、公務員、特に霞が関で働く官僚の給与が相対的に見劣りしてしまっているのだ。もちろん、民間の平均を鑑みて、定期的に彼らの給料も見直されている。しかし、外資系の企業の待遇には勝てない。 「人手不足に頭を抱えている」と話してくれた2人目は、ある省庁の幹部だった。霞が関で働く官僚のなり手が年々減り、転職して出ていく人も多いという。  現場の仕事を回すために、最近では民間のコンサルタントへの外注が増加しているそうだ。結果的に、官僚よりも高い人件費を支払わないといけないわけだが、公務員の給与を上げることは社会的な理解が得られにくく、実行するにはかなりのハードルがあるのだという。 「人手が不足する社会」へとシフトし、社会の前提が変わりつつあるなか、これまでの制度を見直すことがあちこちで起きつつある。いま、直面しているコメの高騰の問題もその一例だ。農林水産省の官僚が対応を迫られているが、これから官僚の仕事は増えていくだろう。  外注が増えれば、コストもかかるしノウハウもたまっていかない。官僚の給料を増やすことも考えてもいいのではないだろうか。彼らは敵ではない。社会を支える味方であるはずだ。もちろん、国民のために仕事をしているか、厳しく監視を続ける必要があることは言うまでもない。 ※AERA 2025年6月9日号  
中森明菜、中山美穂、工藤静香…80年代アイドル「かわいい」と「ツッパリ」の融合が今でも“最強”なワケ
中森明菜、中山美穂、工藤静香…80年代アイドル「かわいい」と「ツッパリ」の融合が今でも“最強”なワケ (左から)工藤静香、中森明菜、中山美穂さん  6月7日に東京の映画館・丸の内TOEIで「スケバン刑事フェスティバル」が開催される。1980年代後半にフジテレビ系でドラマ化され、映画でもヒットした『スケバン刑事』シリーズの作品が上映されるほか、斉藤由貴、南野陽子、浅香唯という3人の主演女優が舞台あいさつをする予定だ。  この3人にとって『スケバン刑事』に主演した意味は大きく、特に売れるまで時間のかかった浅香にとっては起死回生の転機となった。  当時、筆者はアイドル雑誌の情報ページを担当していて、彼女の所属レコード会社の担当者に電話をしたところ、 「三代目麻宮サキに決まりました!」  と、弾む声で教えてもらったことが今も印象に残っている。アイドルの「かわいい」と当時の言葉でいう「ツッパリ」を融合させたこのシリーズはまさにキラーコンテンツだった。この3人はそこに、見事にハマったわけだ。 「スケバン刑事」の南野陽子、斉藤由貴、浅香唯/「東映」公式ホームページより https://www.toei.co.jp/  とはいえ、三人ともツッパリ系のキャラではなく、アクションが得意でもなかった。南野にいたっては極度の運動音痴で、お嬢さま育ち。そのぎこちないツッパリぶりが、ファンにはかわいかったのだろう。つまり、ミスマッチの魅力というやつだ。   薬師丸ひろ子、三原順子、そして中森明菜  同様の成功例として、薬師丸ひろ子の映画『セーラー服と機関銃』や伊藤麻衣子(現・いとうまい子)のドラマ『不良少女と呼ばれて』(TBS系)が挙げられる。  80年代には、こうした「かわいい」と「ツッパリ」という組み合わせが流行った。前出のケースとは逆に、ツッパリ系のキャラをかわいく見せることで売れた人たちもいる。三原順子(現・三原じゅん子)や小泉今日子、杉浦幸、工藤静香などだ。  その背景には、ヤンキーのカジュアル化という現象がある。70年代の「不良」はもっぱら暗くて殺伐として、ともすればネガティブなイメージだったが、80年代にはもっと親しみやすく、ときには間抜けで、なんだかポジティブなイメージに変わった。  その象徴が横浜銀蝿となめ猫だ。80年代前半、このふたつのブームはツッパリの美学やファッションをコミカルかつファンシーに表現して、エンタメに昇華させた。そこにアイドルブームが重なったことで、ツッパリとかわいいを組み合わせた芸能が大盛況をきたすわけだ。  そんな組み合わせの二大ヒット商品が、中森明菜の出世作『少女A』と中山美穂のデビュー作『毎度おさわがせします』(TBS系)である。歌とドラマの違いこそあれ、どちらもツッパリ少女の屈折を巧みに描いて、幅広い共感を得た。 デビューシングル「スローモーション」の雰囲気から一転ツッパリ路線と称された中森明菜「少女A」(ファン私物 撮影/中村隆太郎)  もっとも、明菜はツッパリのイメージで見られるのがイヤだと公言。美穂もエッセーのなかでデビュー前の自分が「長めのスカート」「真っ茶の髪の毛」「つぶしのカバン」という「不良」だったと明かしつつ、芸能界入りが決まったことで「反抗期」をやめたと告白。「笑ってください。笑える話です」(『P.S. I LOVE YOU』91年)と、自虐している。  おそらく、それくらいのバランスがよいわけで、ツッパリを極める必要はない。高部知子のように「積木くずし」さながらのニャンニャン事件を起こして本物の「少女A」になってしまっても、木村一八のように暴行事件で「おさわがせ」しすぎても、アイドルとしては失格となる。当時のアイドルに必要なのは、ツッパリの「気質」であって「ホンモノ」である必要はなかったのだ。   「見た目」にこだわるツッパリ気質  ではなぜ、ツッパリ気質がアイドルに向いていたのか。  ツッパリ、ひいてはヤンキーというものは、美にこだわり、見た目を飾るのが好きだ。なりたい職業のひとつが、美容師だったりもする。ちなみに『3年B組金八先生』(TBS系)で三原が演じたツッパリも、卒業後は美容師になった。  また、早熟で、特に性的興味が高い。上昇志向も強くて、負けず嫌いで、体力もある。タテ関係にも従順で、捨て猫みたいな魅力を持っていたりもする。  そんなわけで、アイドルにはうってつけだが、その気質が表に出すぎると、引かれることにもなりかねない。そのあたりのバランスをどう取るか。  たとえば、明菜の場合、ツッパリソングとバラードで二面性をアピール。これはどちらが本人に近いのだろうという神秘性につながり「本当の明菜を知っているのは自分だけ」的な熱い思い込みをファンにもたらしたりもした。 1985年12月5日リリース中山美穂の三枚目シングル「BE-BOP-HIGHSCHOOL」 撮影/写真映像部・和仁貢介 協力/歌謡曲BAR スポットライト 新橋   美穂の場合だと、シングル第三弾『BE-BOP-HIGHSCHOOL』で、路線を変更。同名映画での役柄がツッパリたちに好かれるお嬢さまキャラだったことから、それを歌でも演じ、さらに第四弾『色・ホワイトブレンド』では化粧品CMとのタイアップでオシャレ系へと一気にシフトした。   絶妙だったのが工藤静香  そんなふたり以上に絶妙だったのが、工藤静香だ。彼女がブレークするきっかけとなったおニャン子クラブはアイドルの見本市みたいなプロジェクトでもあり、ツッパリ系の子も複数輩出。そんななか、彼女が国生さゆりや福永恵規より上に行けたのは中島みゆきとの出会いが大きい。 おニャン子クラブ会員No,38だった工藤静香  みゆきの歌世界にはヤンキー的な要素があるが、それはあだっぽい色気や不条理への異議申し立てなども含んだ奥の深いもの。静香は『MUGO・ん…色っぽい』や『慟哭』でその世界観を歌いこなし、ツッパリ好きのファンをとりこにした。  なお、おニャン子はのちのモーニング娘。やAKB48、乃木坂46といった大所帯グループの先駆けでもあるものの、平成以降の大所帯グループから静香のようなタイプは出現しにくくなっている。せいぜい、後藤真希くらいだろうか。  ツッパリを集団でやると暴走族、あるいはチーマーみたいになってしまうし、そもそも、真面目で平和で草食タイプの芸能人が好まれるようになったということも影響していそうだ。  そうなると、ヤンキー性はよけいなものでしかない。最近の女の子アイドルグループが「かわいい」をひたすら強調する甘々な味で勝負しているのはそのせいだろう。 【こちらも話題】 中山美穂さんを12歳でスカウトした「恩師」が明かす“6畳生活”と“月給5万円”から国民的スターになるまで https://dot.asahi.com/articles/-/243736  これに対し、80年代の、ここまで触れてきたようなアイドルたちは、甘さだけでなく、文字通り「塩梅」も効かせた味で勝負していたともいえる。どちらが良いということでもないが、今のアイドルはデザート向きで、昔のアイドルは主食としても通用した、ということかもしれない。だからこそ、芸能の中心にいられたわけだ。   90年代は「かわいい」に「セクシー」  それはさておき、ツッパリがダサいものになり、チーマーに取って代わられる頃になると、アイドルも変わらざるを得なくなる。90年代のアイドルが「かわいい」に組み合わせたのは「セクシー」だった。宮沢りえに細川ふみえ、そして飯島直子や飯島愛だ。 ベストドレッサー賞を受賞した飯島直子。ロングブーツにショーパン姿がまさに「かわいい」×「セクシー」=1997年12月2日  なかでも飯島直子は、ヤンキー系芸能人の新たな道を切り開いた。母親が美容院をやっていて、美容師になるつもりだった彼女は、こんなおませな武勇伝を持っている。 「小学校四年生のとき、コンサートに行っておまわりさんに見つかったんです。それが、初めての補導でした」  そのコンサートをやっていたのは、70年代末に女の子を熱狂させたレイジー。ロックとアイドルを融合させたバンドで、ある意味、かわいい&ツッパリの時代を先取りしていた存在だ。  ただ、そんな飯島直子はアイドルではなく、癒やし系タレントとして成功する。そもそも、かわいい&ツッパリに比べると、かわいい&セクシーのギャップ感はいまひとつだ。そのせいか、C.C.ガールズやギリギリガールズなど、ピーク時には100組を超えたというセクシーアイドルグループのブームも短期間で終わった。  その点、80年代のアイドルは今も最強と呼ばれたり、伝説的に語り継がれたりしている。それは、ツッパリという異文化をうまく取り込めたからでもあるのだ。
バイデン氏の認知機能低下、側近が隠蔽か 全米で話題の内幕本 共著者のCNNキャスターが語った出版の真のねらい
バイデン氏の認知機能低下、側近が隠蔽か 全米で話題の内幕本 共著者のCNNキャスターが語った出版の真のねらい アメリカで話題になっているバイデン前大統領の内幕本『ORIGINAL SIN(原罪)』(写真:AFP/アフロ)    アメリカのバイデン前大統領は就任時に認知機能が低下していた——。そんな内幕本がアメリカで話題となっている。共著者の一人でCNNキャスターのジェイク・タッパー氏が取材に応じ、側近たちの「罪」と、出版の真のねらいについて語った。 *  *  * 「彼らはメディアだけではなく、国民にも他の民主党員にも、献金者にも閣僚にも民主党議員にも嘘をついていたのです」  こう語るのは、今アメリカでthe talk of the town(もちきりの話題)になっている『Original Sin: President Biden’s decline, Its Cover-Up’ and His Disastrous Choice to Run Again(原罪:バイデン大統領の認知機能低下とその隠蔽、そして再び出馬するという悲惨な選択)』の著者の一人ジェイク・タッパー氏だ。「彼ら」というのは、ホワイトハウス側近のことである。5月20日にアメリカで発売された本書は、CNNキャスターのタッパーとオンラインニュースで最も定評があるアクシオスのホワイトハウス担当記者アレックス・トンプソンによる共著で、今全米に旋風を巻き起こしている。  筆者だけではなく、世界中の誰もが昨年6月27日に行われた大統領選討論会で、討論が始まってすぐに、バイデン前大統領が、思考が途切れて言葉が出てこなくなり、挙句の果て、まったく意味をなさない“medicare”と発したシーンを覚えているだろう。その討論会のモデレーターを務めた男性がタッパーである。 「私の前にはコントロールルームとコミュニケーションを取るために、iPadが置いてあったのですが、バイデンが“medicare”と発した瞬間“Holy smokes!”(まじかよ!)と書き込んでしまいました。隣に立っていたもう一人のモデレーター、ダナ・バッシュは、“He just lost the election.” (この瞬間バイデンは選挙に負けた)と書いたメモを私に渡しました」  バイデンがその瞬間選挙に敗北したことは誰の目にも明らかだったが、タッパーはさらにこう続ける。「正直に言えば、討論会の舞台で目の当たりにした認知機能が衰えたバイデンは、舞台裏でホワイトハウス側近がよく見ていた人物とそれほど変わらなかったということです」  筆者はインサイダーの一人からバイデンの著しい認知機能の低下のことを聞いていたので、いずれ化けの皮がはがれると思っていたが、それがまさにこの討論会であった。本来なら翌日大統領選から撤退するべきだったが、それから当時副大統領だったカマラ・ハリスにバトンタッチするまでの3週間、民主党内は大混乱に陥った。ハリスは自分から手を挙げることはなかった。「もしハリスが自分から手を挙げていれば、自分がバイデンを追い出したという印象を国民に与えてしまうからです」(タッパー) 息子の命日に教会のミサに出席するバイデン前大統領。前を歩くのは妻のジル・バイデン氏(写真 ロイター/アフロ)    タッパーらは、約200人の民主党内部関係者、閣僚、献金者ら、ハリウッド関係者にインタビューし、バイデンの認知機能低下や記憶障害を示す具体的なエピソードを多く紹介しているが、中でも世界的俳優であるジョージ・クルーニーが頻繁に登場する。昨年6月15日に行われた選挙資金調達イベントで、クルーニーにとって決定的なことが起きた。  クルーニーがバイデンに挨拶をしても、バイデンはクルーニーが誰であるか認識できなかったのだ。そのときクルーニーは心底震え上がった、と本書に書かれているが、クルーニーはそれが嚆矢となって、昨年7月10日付のニューヨーク・タイムズ紙で発表した“I Love Joe Biden. But We Need a New Nominee.” (ジョー・バイデンは大好きだ。でも、新しい候補者が必要である)というゲストエッセイの中で “He wasn't even the Joe Biden of 2020. He was the same man we all witnessed at the debate.''(彼は2020年のジョー・バイデンですらなかった。彼は、私たちが討論会で目撃したのと同じ男だった。)と書いている。  本書に書かれている通りバイデンの認知機能が低下していたとするならば、なぜホワイトハウス側近は公表しなかったのか。 「バイデン側近には敬虔な信奉者がいて、彼らはバイデンに批判的なことを言わない。そういう人はバイデンに忠誠を誓うことで、生活が成り立っていることもある。世界で最も過酷な仕事であると言われる大統領職をこなす能力がないとわかっていても何も言わないのです。彼らは忠誠の暗い面を象徴しています」とタッパーは説明する。さらに、「バイデン家には“Don’t call fat people fat.”(デブをデブと呼ぶな)という家訓がありますが、これは“醜い真実を認めるな”という意味です」と付け加える。  その中でも重要な人物がバイデンの妻であるジル・バイデンである。ジルは教育リーダーシップの分野で博士号を有しているが、自分のことを“Dr. Jill Biden”か“Dr. B”と呼ぶようにホワイトハウスの側近に命令している。 「ジルはこれまでのファーストレディの中で最もパワフルなファーストレディであると側近に思われています。ジルこそが、バイデンの認知機能低下を知っていたにもかかわらず、大統領選に夫を推した張本人です。ファーストレディの職を辞めたくなかったからです」(タッパー)  タッパーらによると、バイデンの認知機能の衰えは長男のボーの死から始まったという。ボーはデラウェア州の元司法長官であり、イラク戦争に従軍した退役軍人でもあったが、2015年5月30日に46歳で脳腫瘍が原因で亡くなった。 「オバマが2016年の大統領選でバイデンを支持せず、ヒラリーを支持したのは、バイデンがボーの死後著しく認知機能が衰えていくのを目の当たりにしたからです」(タッパー)。ホワイトハウスの上級補佐官も「ボーの死がバイデンを破滅させた」と本書で語っている。  日本でも報道されたが、バイデンが機密文書を持ち帰ったことが犯罪に当たるかどうかを調査するために任命されたロバート・ハー特別検察官はバイデンに5時間インタビューした。ハーは、「陪審員は、思いやりがあり、善意があり、記憶力の乏しい高齢者を有罪にすることはできないので、刑事告発はすべきではない」と結論付けたが、これについて本書ではこう記されている。 〈バイデンの側近たちはハーの判断を“pejorative judgement”(侮蔑的判断)であると非難した。ホワイトハウスの戦略は、ハー氏を「専門家ではない右翼のハッカー」として中傷することであった〉  バイデンが認知テストを受けていなかったことはよく知られているが、それについてタッパーはこう語る。「表向きの理由は、バイデンは日々こなしている仕事で認知テストをパスしているのと同じである、ということだが、本当は、彼らは認知テストの結果を知りたくなかったからです」  今年の1月にバイデンがインタビューを受けたとき、今でも大統領選に自分なら勝てただろうと話していた。タッパーは「2028年の大統領選が来る前に、民主党はバイデンとその側近が国民に最も重要な真実について、ついてはいけない嘘をついていたという事実を再認識しなければならないが、まだやっていない。我々の心の中で、選挙全体で最も重要な瞬間は、ジョー・バイデンが再選を目指すことを決めたことだった。だからこの本を執筆したのです」と執筆理由を語る。  バイデン陣営は、「トランプは大統領に適していない」と声を大にして主張しつづけることで、バイデンの認知機能や身体的な衰えを隠蔽し続けたことになる。この本が出版されたあと、バイデン陣営や孫のナオミ・バイデンは「営利目的の誇張である」と強く反発しているが、昨年6月27日の討論会でバイデンの認知機能低下が国民の前に晒された時点で、ドナルド・トランプの勝利が決まっていたと言っても過言ではないだろう。カマラ・ハリスでは勝ち目がないことは民主党内を始めとして、誰の目にも明らかだったからだ。  もしホワイトハウス側近が、早期にバイデンを大統領選から撤退させていれば、予備選によって強力な対抗馬が現れ、ドナルド・トランプに勝利していた可能性があっただろう。その視点からみるとバイデンの認知機能低下を隠蔽し続けた、ジル・バイデンを筆頭とするホワイトハウス側近の罪はすこぶる重い。(文中敬称略) (ジャーナリスト 大野和基)
解約したくてもクーリングオフの対象外、違約金の可能性も リースバック契約は「リスクが高い」と専門家 被害にあわないためには
解約したくてもクーリングオフの対象外、違約金の可能性も リースバック契約は「リスクが高い」と専門家 被害にあわないためには   不動産をめぐる契約は、解約が難しいケースもある(写真はイメージ=GettyImages)    高齢者の持ち家やマンションを安い価格で「押し買い」し、賃貸借の「リースバック」契約を結ばせてトラブルになる事例は、なぜ増えているのか。背景には、業者にとって大きな「うまみ」があるとともに、不動産売買がクーリング・オフの対象外になるなど、消費者を守る仕組みが十分にないことがある。 *   *   *  被害が拡大している「押し買い」と「リースバック」契約。しかし、リースバックの仕組みそのものに、特に問題があるわけではないという。  この問題に取り組んできた「ウェール法律事務所」(東京都)の藤田裕弁護士によると、高齢になって自宅などの維持管理が難しくなったり、本人が死亡した後に管理する家族がいなかったりする場合、適正な価格で売却して、手に入った資金から毎月の賃料を払いながら住み続けることができるリースバックを有効に使っている人もいる。まとまった資金が手に入るからだ。  「しかし、何の規制もない今の状況では、リースバックはリスクが大きすぎる」   契約解除には高いハードル  いったん結んだ契約を、無条件に解除する方法としては、クーリング・オフの制度がある。  しかし、消費者側が不動産業者に自宅を売却する場合は、宅建業法上でのクーリング・オフの対象外になるため、いったん契約が成立してしまうと一方的な解除ができなくなる。  そして、売主である消費者側から契約を解除する場合、手付金の倍額を買主に支払う「倍返し」が必要になり、さらに手付解除ができる期間を過ぎてしまえば、契約条項に基づいて高額な違約金が必要になることが多いという。   【こちらも話題】 強引な不動産業者に売った自宅の価格は、相場の「半値」だった… 増加する「押し買い」「リースバック」のトラブル “終の棲家”失うリスクも https://dot.asahi.com/articles/-/257990        藤田弁護士は、こう話す。 「宅建業法は、不動産を『買う』一般消費者を保護するための法律で、不動産業者が個人から買い取る場合は、クーリング・オフや説明義務の規制などが原則として適用されません。また、特定商取引法も売買の対象が不動産ではなく物品に限られていますから、消費者庁も動けません。まさに法の隙間をついた手法なのです」    不動産を周辺価格より安く買い叩くことで問題となっている「押し買い」は、不動産業者にとって「うまみ」が大きいのだという。  被害者救済に取り組んでいる「ひかり総合法律事務所」(東京都)の葛山弘輝弁護士によると、宅建業法では、顧客の不動産売買を仲介して得られる手数料の上限は、取引価格の3%と定められている。3000万円の物件を取引すれば、手数料は90万円となる。  しかし、3000万円の物件を1000万円で買うことができれば、ざっと差額の2000万円が利益になる。そのため、判断能力が落ちていたり、すぐに相談する家族がいなかったりするひとり暮らしの高齢者をターゲットに、不当な利益をねらう業者がいると見られている。   居座れば「不退去罪」に  では、被害にあわないようにするには、どうすればいいのか。  高齢者の消費者問題に詳しい「ひかり総合法律事務所」の髙木篤夫弁護士は、「不動産業者を自宅の中に入れないこと」「その場で契約書に署名押印しないこと」が重要だと指摘する。 「玄関先でも『帰ってください』と言っても帰らなかったら、警察を呼んでください。拒絶の意思を示しても帰らなかったら、それは刑法上の不退去罪に該当することもあります。  それでも自宅に上げてしまって契約の説明を受け、強引に勧誘されて契約書へのサインを求められても、絶対にその場で署名押印しないこと。『子どもたちに相談してから』などと言って、一度帰ってくださいと言って退去を求めてください。帰らなければ警察を呼んでもかまいません」        そして、必ずしも認知機能が落ちている高齢者が被害にあっているわけではないと、「ウェール法律事務所」の藤田弁護士は言う。  長年住んでいた自宅をその日のうちに売却させてしまうぐらい、不動産業者の営業トークは巧妙だ。その場で丸め込まれてしまった被害者が、振り返って「浅はかだった」「昔だったらこんなことしないのに」と後悔するという。  高齢者が被害にあわないようにするには、地域社会で高齢者を見守る仕組みが必要だと、藤田弁護士は指摘する。  高齢者や障害者、認知症などで判断能力が不十分な人を守ろうと、2014年に市区町村や地域の関係者が連携して見守り活動をする「消費者安全確保地域協議会(見守りネットワーク)」が置かれることになった。しかし、東京都内でも設置している自治体はまだまだ少ないのが現状だ。 「生活面だけでなく、消費者被害においての見守りも地域で強化できたら、高齢者も安心して暮らせる社会に繋がると思います」    押し買いとリースバック契約をめぐる問題は、国会でも議題に上がった。4月の参議院国土交通委員会で質問に立った共産党の大門実紀史・衆院議員は、こう訴えた。 「これは消費者庁、国交省、各省問わず、対応をできるだけ早く検討していただきたい」 (AERA編集部・大崎百紀)   【こちらも話題】 強引な不動産業者に売った自宅の価格は、相場の「半値」だった… 増加する「押し買い」「リースバック」のトラブル “終の棲家”失うリスクも https://dot.asahi.com/articles/-/257990      
102歳現役美容部員が「やってもらって当たり前と思ってはいけない」というポリシーを大切にする理由
102歳現役美容部員が「やってもらって当たり前と思ってはいけない」というポリシーを大切にする理由 撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部) 「“当たり前”と思わない。それが、人との関係を温かく保つ秘訣です」。年を重ねれば重ねるほど、周囲の人に助けてもらう機会は増えていきます。そんな中で堀野さんが大切にしているのが、「感謝を忘れないこと」。小さな「ありがとう」やちょっとした「お返し」――それが人との関係を長く穏やかに続ける力になるといいます。  白いごはんをおすそ分けする心、80年以上続く妹との絆。その生き方には、今の時代にこそ学びたい「思いやり”のかたち」がありました。堀野さんの最新刊『102歳、今より元気に美しく』(朝日新聞出版)から一部を抜粋・加筆再編集して公開します。 *   *   * ――堀野さんが102年生きてきた中で気づいた、人間関係をうまく保つ秘訣は何かありますか。  私は人様との関係で、一つ注意していることがあります。  それは、人は「やってもらって当たり前」と思ってしまいやすい生き物だということです。  誰かに親切にしてもらったら、最初は感激して「なんていい人だろう!」と思いますが、2回3回と繰り返すうちに、「この人はこういう人なんだ」と思い込み、最初に抱いた感謝の気持ちを忘れてしまいます。  相手の人は厚意でしてくれているのに失礼だし、その行為に感謝できないのは人としてちょっと寂しい気がします。  だから私は、なるべく「当たり前」と思わないようにしています。  私の年齢になると、周りの人が気遣ってくれて、できるだけ甘やかそうとしてくれるんですね。  気持ちはありがたくいただきますし、頼れるところは頼らせてもらっています。  私の家は町の中心までバスで30分くらいのところにあります。果物屋さん以外のお店が近くにありません。  車の運転ができないし、自転車にも乗れないので、買い物はどうしても誰かを頼ることになってしまいます。  現在の私の生活は、周りの人に支えられて成り立っているんです。         撮影:馬場岳人(朝日新聞出版写真映像部)    千葉の九十九里に住む妹や神奈川の娘がしょっちゅういろんな食べ物を送ってくれますし、月に一度は隣県に住む娘が夫とともに車で来てくれます。  事前に「欲しいものある?」と尋ねてくれるので、買い物をお願いしています。  また、友人やご近所さんが「買い物に行くけど、何かいる?」と声をかけてくれたタイミングで頼んでいます。  本当にありがたいことです。自分を気にかけてくれる人がいること自体、うれしく思います。  だから「ありがとう。すごく助かる」など、お礼の言葉は欠かしません。  その気持ちを表すために、できる範囲でお返しすることも心がけています。  といっても、いただきもののお菓子やお漬物などの「消えもの」を、「よかったら持って行って」と差し上げるくらいですけれどね。  先日、友人が自家製の梅干しを届けてくれたときは、その直前に会ったときイワシのゴマ漬けを差し上げたばかりで、あいにく目新しいものが何もありませんでした。  そこでふと思いついたのが、その日の朝に炊いたばかりのごはんです。 「あげられるものがないので、よかったら白いごはんでも持って行かない?」と尋ねたら、「今朝、残りごはんを食べきっちゃったからすごく助かる!」と言い、喜んで持って帰りました。 「これで今日のお昼と夜のごはんになるわ」なんて言ってね。   九十九里に住んでいる妹は、私より13歳年下です。  母が亡くなったのは私が18歳、妹が5歳のときでした。5歳と言えばまだ親の手が必要な年ごろです。愛情を求める気持ちも強いでしょう。   そんな幼さで母親を亡くした妹が不憫でたまらず、できる限りのことをしてあげたいと思いました。何はなくても妹の世話は欠かしませんでした。  そのことを妹は80年以上たった今でも、昨日のことのように覚えていて、何くれとなくよくしてくれるんです。 【こちらも話題】 #1 102歳現役美容部員「白ごはんは150グラム」 健康に長生きできる“納得の理由” https://dot.asahi.com/articles/-/257188 #2 102歳現役美容部員「嫌なことがあっても働き続けられた」のはなぜ? 「生きている時間を楽しみたい」 https://dot.asahi.com/articles/-/257192 #3 102歳現役美容部員「朝から餃子はへっちゃら」 元気に長生きするための食事方法を聞いてみた https://dot.asahi.com/articles/-/257193 #4 102歳現役美容部員が「大切なのは今」と語る理由 「目の前のことに熱中していたから生きてこられた」 https://dot.asahi.com/articles/-/257195 #5 102歳現役美容部員「日常にスペシャル感を」 3万7000日以上生きている女性はどうしてウナギを食べるのか? https://dot.asahi.com/articles/-/257197 #6 102歳現役美容部員「何より自分のご機嫌をとる」 長生きと健康のためにいちばん大切なことは「今を楽しく」 https://dot.asahi.com/articles/-/257178 #7 102歳現役美容部員「お庭の植物で料理をしています」 自生する笹で作った郷土料理が絶品だった https://dot.asahi.com/articles/-/257183 #8 102歳現役美容部員「テレビは気が済むまでOK」 ボケないためには、知らないことを知って楽しむべし https://dot.asahi.com/articles/-/257184 #9 102歳現役美容部員が「やってもらって当たり前と思ってはいけない」というポリシーを大切にする理由 https://dot.asahi.com/articles/-/257185   堀野 智子(ほりの・ともこ) 1923年4月9日、福島県生まれ。5人きょうだいの長女。女学校を卒業後、1941年逓信省(電話局)に入局する。1946年に23歳で結婚後、子ども3人、孫5人に恵まれる。1962年に39歳のときからポーラの化粧品販売員として働き始め、キャリアは60年を超える。2023年8月には「最高齢の女性ビューティーアドバイザー」としてギネス世界記録に認定。   102歳、今より元気に美しく 商品価格¥1,540 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
暴力的な両親と似てきて自己嫌悪に陥る女性に、鴻上尚史が伝えた「誰かのコピー」をやめる方法
暴力的な両親と似てきて自己嫌悪に陥る女性に、鴻上尚史が伝えた「誰かのコピー」をやめる方法 鴻上尚史さん(撮影/写真部・小山幸佑)    年を重ねるにつれ、「両親のコピー」になってしまっていると話す26歳女性。喧嘩が絶えなかった両親を嫌悪していたつもりが、夫への態度を振り返ると両親とそっくりだと気付いた女性は自己嫌悪に陥っているという。鴻上尚史が、女性に伝えた「誰かのコピー」をやめる方法とは。 *   *   * 【相談258】 暴力的な両親に似てきている自分が嫌で仕方ありません(女性 26歳 きこり)  年を重ねるにつれ、両親に似てきているのを実感して辛いです。  わたしの両親は非常に仲が悪く、喧嘩が絶えません。些細なことでお互いを大声で罵り合い、父親は物を壊して理不尽に暴れ、母親はヒステリックに泣き叫びます。わたしは幼い頃から幾度となく、その喧嘩を震えながら止めに入り、「次はいつ暴れ出すか」と顔色をうかがいながら生活していました。「自分はこんな大人にだけは、こんな夫婦にはなるまいぞ」と反面教師にしながら生きてきたつもりでした。  ですが、昨年結婚し、わたしの夫への態度がまるで両親そっくりなことに我ながら絶句しています。嫌味な口調、選ぶ言葉、挙げ句家を飛び出すところまで本当によく似ています。よくここまでコピーできたものだと自分を残念に思います。親戚の、「(顔が)お母さんにそっくりだね!」と言われるのも最近はしんどくなりました。容姿のことだとしても、やっぱりわたしは似ているのか、、、と落ち込んでしまいます。容姿は仕方がないにしても、中身は別人になりたいです。優しい夫といつまでも仲良く、穏やかに過ごしたいのです。一体何から始めれば、両親のコピーをやめられるのでしょうか。 本連載の書籍化第6弾!『鴻上尚史の具体的で実行可能なほがらか人生相談』(朝日新聞出版)   【鴻上さんの答え】  きこりさん。苦しんでいますね。きこりさんの問題は、「親しい相手とのコミュニケーションの仕方の大部分を両親から学んだ」ということですね。  例えば、中学や高校の部活でひどい先輩がいて、後輩をいじめ抜いたとします。先輩が卒業して、自分が指導する立場になった時、先輩みたいになりたくないと思っていても、先輩の指導方法しか知らないから、同じことを繰り返してしまう、というパターンですね。  そういう時は、他の指導方法を知る必要がありますよね。他の学校に行って部活を見せてもらうとか、指導方法の本を読むとか、YouTubeでプロの指導方法を学ぶとか、ですね。  きこりさんも、同じ方法がいいと思います。  まずは、夫に対して、「自分は『物を壊して理不尽に暴れる』父親と『ヒステリックに泣き叫』ぶ母親に育てられた」ということは伝えましたか?  そして、「そんな風には絶対になりたくないのに、気持ちに余裕がなくなると、自分が唯一知っているコミュニケーションのやり方をしてしまう」と伝えるのです。  いじめられた後輩が先輩になった時に、新入生に対して「僕は君たちをいじめたくはない。だが、焦ったり、余裕がなくなると、きつい言い方になるかもしれない。その時は、指摘してほしい」と伝えるのと同じです。  夫は優しい人なんですよね。きっと、「今の言い方は、母親と同じじゃない?」と、穏やかに指摘してくれるんじゃないですか? 【こちらも話題】 誰かの「大切な人」になりたいとの思いを諦められない62歳女性に鴻上尚史が伝えた、「大切にされたい」気持ちに振り回されないための第一歩とは https://dot.asahi.com/articles/-/256360 ※写真はイメージです。本文とは関係ありません(gettyimages)    そう言われて、ムッとするなら、きこりさんは、母親と同じでいいと思っているということになります。絶対に母親のようになりたくない、変わりたいと思っていたら、感謝するはずでしょう?  次に、「ヒステリックにならず、穏やかに伝える」というコミュニケーション方法を学びましょう。  夫のコミュニケーションはどうですか?優しいコミュニケーションですか? ならば、夫の言葉遣いい、言い方、感情の処理の仕方を真似しましょう。  義理の両親は、どうですか? やはり優しい人達ですか? もし優しい人達なら、そのコミュニケーションの仕方を学びましょう。  義理の母親が素敵な人なら、なるべく、一緒にいて、その人の言葉使いや感情の処理の仕方を吸収するのです。  きこりさんの友人には、コミュニケーションが素敵な人はいませんか? 自分の感情とうまくおりあいをつけられて、めったに感情を荒らげず、穏やかに対話を続けられる人です。  僕が繰り返し言っているように、「コミュニケーションが得意な人とは、誰とでもすぐに仲良くなれる人ではなく、やっかいな問題が起こった時になんとかできる能力の人」です。  そういう人は、きこりさんの母親のような「嫌味な口調」を言ったり、「挙げ句家を飛び出す」なんてことはしませんね。  コミュニケーションがうまい人の口調、言葉の使い方、感情や問題の処理の仕方をコピーするのです。  コミュニケーションは技術です。つまり、学ばないと定着しません。でも、逆に言えば、技術ですから、やればやるほど上達します。  こんなたとえもできます。 【こちらも話題】 職場で、学歴や職歴のコンプレックスを抱いているという49歳女性に、鴻上尚史が伝えた「本当に賢い人が持つ力」とは https://dot.asahi.com/articles/-/255386  ずっと間違った指導方法で練習を続けてきた。間違ったシュートの仕方、ラケットの振り方、ドリブルの仕方なんてことをずっと教えられてきた。  やっと、正しい練習方法を身につける時期がきた。  簡単には、直せないと分かるでしょう?身体に染み込んだ癖を変えるには、時間がかかります。でも、毎日、意識的に続けていれば、間違いなく変わります。  コミュニケーションに関する本を読むのも重要でしょう。こんな時、どう言えばいいか。怒りに振り回されそうになった時にはどうしたらいいか。いろんなことを教えてくれるはずです。  小説も有効です。毒親に育てられた子供が、どうやってコミュニケーションをとれるようになったか。どんな言葉遣いが有効なのか。きこりさんに、多くの発見を与えてくれる本がきっとあります。  きこりさん。そうやって、一歩ずつ、身体に染み込んだ「両親のやり方」を追い出していくのです。  毎日、粘り強く続ければ、きっと、きこりさんは変わります。  間違いないです。 【鴻上さんへの相談、募集中!】あらゆる人間関係、組織のなかで、相談者の身に起きている困ったこと、身動きのとれない境遇、逃げ出したい状況など、すべての悩める事態に鴻上尚史さんが答えます。ぜひ、あなたの悩みをこちらからご投稿ください。(※投稿に当たっては、注意事項を必ずお読みください)
【ゲッターズ飯田】今日の運勢は?「大切な出会いや経験がある日」金のインディアン座
【ゲッターズ飯田】今日の運勢は?「大切な出会いや経験がある日」金のインディアン座 ゲッターズ飯田さん    占いは人生の地図のようなもの。芸能界最強の占い師、ゲッターズ飯田さんの「五星三心占い」が、あなたが自分らしく日々を送るためのお手伝いをします。12タイプ別に、毎週月曜日にその日の運勢、毎月5のつく日(毎月5、15、25日)に開運のつぶやきをお届けします。 【タイプチェッカー】あなたはどのタイプ?自分のタイプを調べる 【金の羅針盤座】 現状の幸せに慣れないようにしましょう。何もない平凡な1日を過ごせるだけでも、十分幸せだということを忘れないように。夜は疲れやすくなるため、無理はしないこと。 【銀の羅針盤座】 いつもと少し違うリズムで生活してみるといい日。早めに職場に行ったり、ふだん選ばないようなメニューを注文してみると、おもしろい発見がありそうです。 【金のインディアン座】 大切な出会いや経験がある日。少しでも気になった人には自ら挨拶をして、話す時間をつくってみて。仕事では、ほかの人に協力すると、後に助けてもらえるようになるでしょう。 【銀のインディアン座】 寝不足や寝坊のせいで、朝から慌ただしくなってしまいそうな日。疲れがたまって肩こりに悩まされることもあるため、肩を動かす運動やストレッチをこまめに行うようにしましょう。 【金の鳳凰座】 付き合いの長い人と言い合いやケンカになることがありそうですが、厳しい言葉をハッキリ言ってくれる相手に感謝しましょう。親しい仲だからこそケンカができることを忘れないように。 【銀の鳳凰座】 寝坊や遅刻、報告漏れなど、びっくりするようなミスが増えてしまいそうな日。緊張感がなくなりやすいので、気を引き締めて1日を過ごしましょう。 【金の時計座】 日中はパワフルに活動できますが、夕方あたりから急に疲れてしまいそう。ペース配分を間違えないようにしましょう。大事な用事は早めに済ませておいて。 【銀の時計座】 大事な物を壊したり、修理が必要になったりして出費が増えてしまいそうな日。 予想外にお金を使うことになるかもしれませんが、後輩や部下にご馳走すると不運を避けられることがありそうです。 【こちらも話題】 【ゲッターズ飯田&佐々木優太】神社で神様が味方してくれる「言葉遣い2選」 https://dot.asahi.com/articles/-/244904 【金のカメレオン座】 意外な人と仲よくなれる日ですが、逆にこれまでいい関係だった人と気まずい空気になってしまうことがあるかも。「裏運気の日」だからこそ起こる展開を楽しんだり、そこから学んでみるといいでしょう。 【銀のカメレオン座】 否定的な人と一緒にいる時間が増えてしまいそうな日。あなたも否定的な考えになりやすいので、憧れない人に無駄な影響を受けないよう気をつけましょう。 【金のイルカ座】 新たなことに目を向けられる日。これまで気にならなかったことに興味がわいたり、いい情報を入手できそう。はじめて会う人と前向きな話ができることもあるで しょう。 【銀のイルカ座】 人間関係のトラブルが起きたときは、相手の本性やあなたとの関係性が見えてくるもの。合わないと思ったら、ゆっくりと距離をおくようにしましょう。   【こちらも話題】 【ゲッターズ飯田】「完璧な人」が幸せになれる訳じゃない?恋愛成就のコツ2選 https://dot.asahi.com/articles/-/13510
吉沢亮がAERAの表紙に登場 「いまこの瞬間にすべてを懸けて」/AERA 6月2日発売
吉沢亮がAERAの表紙に登場 「いまこの瞬間にすべてを懸けて」/AERA 6月2日発売 6月2日発売のAERA 6月9日号の表紙には、俳優の吉沢亮さんが登場します。本誌表紙フォトグラファーの蜷川実花と真正面で向き合った一枚です。映画「国宝」の公開を前に、原作者の吉田修一さんとの初めての対談も掲載しています。ぜひご覧ください! 巻頭特集は「東大vs.ハーバード」。首都圏を中心に、海外の名門大学に進学する子どもたちが増えています。その最前線を追いました。ももクロの百田夏菜子さんの対談連載では、サカナクションの山口一郎さんを新たにゲストに迎えます。そのほか、連載「女性×働く」では新テーマ「50歳からの転職」がスタートし、昭和以降最速で横綱に昇進した大の里が解き放った「呪縛」や、小泉進次郎・新農林水産相の「バズーカ」の破壊力、連載「向井康二が学ぶ 白熱カメラレッスン」など、いま知っておきたいニュースやほかでは読めない記事を盛り込んだ、見どころ満載の1冊です。   表紙:吉沢亮/「吉沢亮×吉田修一」初対談が実現! ある歌舞伎役者の半生を描いた吉田修一さんの長編小説『国宝』が映画化され、6月6日に公開されます。その主演を務める俳優の吉沢亮さんがAERAの表紙に登場します。まっすぐに正面を見つめる吉沢さんの目に引き込まれそうになる一枚です。 また、今回、吉沢亮さんと吉田修一さんの初対談も実現し、4ページにわたって掲載しています。吉沢さんは稽古も含めて1年半もの時間、稀代の女形・立花喜久雄と向き合いました。ときにはモチベーションを保つ難しさを感じたこともあったそうですが、隣には本気で歌舞伎役者になろうとする共演者の横浜流星さんの姿が。「『歌舞伎役者として成立させる』という目標に加え、『流星には絶対に負けない』という、もう一つの大きなモチベーションが生まれた」と語ります。一方、吉田さんは『国宝』を執筆するにあたり、3年ほど黒衣をまとい、舞台の裏や袖から歌舞伎役者たちを見続けてきたそうです。そんな吉田さんは、吉沢さん演じる喜久雄について、「(一瞬にかける)気迫みたいなものは、本物の歌舞伎を前にしても、感じたことがないものでした」と語りました。AERAでしか読めない貴重な対談をぜひお見逃しなく! 巻頭特集:東大vs.ハーバード 世界を舞台に活躍できる人材育成が注目されるなか、首都圏を中心に海外トップ大学の進学を考える生徒たちが増えてきています。海外大学を目指すことについて、専門家は「かなりのリスクをとる覚悟が必要」と言います。どんな学生が海外大学に向いているのか。最前線を取材しました。一方、トランプ政権がハーバード大に対して、留学生を受け入れるための認可を停止したことで、今後どうなっていくのか、専門家にも聞きました。離島の県立中高一貫校「広島叡智学園」から今春、延べ94人が海外大学に合格。驚きの快進撃の現場も取材した記事もあります。米スタンフォード大学に3人の息子を送り出したアグネス・チャンさんと、東大理Ⅲに4兄妹を合格させた「佐藤ママ」こと佐藤亮子さんの対談では、子どもの才能の引き出し方や受験への挑み方を語りました。 向井康二が学ぶ 白熱カメラレッスン Snow Manの向井康二さんが第一線の写真家に撮影の神髄を学ぶ大好評連載「向井康二が学ぶ 白熱カメラレッスン」は、大御所・上田義彦さんに教わる最後の回。「写真って、もう頑張ったら頑張るほど、ダメな写真になるんですよ」と語る上田さんに、「深い! でも、すごいわかります!」と深く共感する向井さん。二人が「ほんとうの写真」の撮り方について語り合います。上田さんのご自宅と庭で撮影した、くつろいだ様子の向井さんの姿や、向井さんが撮影した上田さんと愛犬など、葉山の光と空気を感じる写真の数々、ぜひ誌面でご覧ください。 百田夏菜子×山口一郎(サカナクション) ももクロの百田夏菜子さんによる対談連載「この道をゆけば」は、新たなゲスト、5人組ロックバンド「サカナクション」の山口一郎さんを新たにお迎えします。「間違いなく、ももクロはパイオニアだと思う」と話す山口さん。3年ほど前にうつ病になって始めたYouTube配信や自分をすべてさらけ出して感じた効果など、自身の内面についても百田さんにたっぷり語りました。 ほかにも、 ・半世紀ぶり大卒横綱 大の里が解き放った呪縛 ・備蓄米を随意契約で 「進次郎バズーカ」は効くか ・親が勝手に奨学金申請 学費が生活費に ・ランドセル高すぎ 「リユース」が10年で25倍 ・若手に広がる新たな就活トレンド「ゆる転職活動」 ・女性×働く ミドルシニア女性 転職で給与増 ・ラミレス 俳優に転身?今季の成績で展開が変わるドラマ ・自分で作って自分で売る「文学フリマ」「ZINEフェス」が人気 ・佐藤 優 実践ニュース塾 ・田内 学 経済のミカタ ・武田砂鉄 今週のわだかまり ・ジェーン・スーの「先日、お目に掛かりまして」 ・現代の肖像 神田香織・講談師 などの記事を掲載しています。 AERA(アエラ)2025年6月9日号  定価:600円(本体545円+税10%) 発売日:2025年6月2日(月曜日)
「生理」から社会課題に向き合う――品川女子学院の有志団体「CLAIR.(クレア)」って?
「生理」から社会課題に向き合う――品川女子学院の有志団体「CLAIR.(クレア)」って? 取材に応じてくれたクレア高等部2年(3月末時点)のメンバー。向かって右から飯田さん、小泉さん、守谷さん、大河内さん、永井さん、大場さん  「生理」という身近なテーマから社会課題に向き合い、世代や性別を超えた対話を生み出す女子高生たちがいます。品川女子学院の中高生による有志団体CLAIR.(クレア)の活動は、学校外へも着実に広がっています。今回は、東海大学付属高輪台高等学校での講座後、6人のメンバーによる座談会を実施。クレアの活動への思いや、品川女子学院の魅力について語ってくれました。※別記事<「生理をもっとオープンに」品川女子学院生徒による“出張講座”とは? ナプキンに初めて触れる男子生徒たちに“気づき”も>から続く 自分自身の課題意識が参加のきっかけに ――クレアは現在、何人ぐらいのメンバーで活動しているんですか? 守谷 47人です。学習班と広報班に分かれて、週に1回ミーティングをして勉強会をしています。またインスタグラムの投稿などをしたり、対面やオンラインで小学生親子や小中高校、企業での講座をしたりしています。 小泉 メンバーは中学生は1~3年生まで、高校生は2年生までですね。 ――どうしてこの活動に参加しようと思ったのでしょうか。 守谷:クレアはもともと2つ上の先輩が立ち上げた団体で、私たちが中学3年生の10月頃にメンバーの募集がありました。  私はもともと生理痛が重くて、婦人科に行って薬をもらい始めて数カ月経ったところだったので、自分自身とても課題意識を持っていました。他の学校に行って講座ができるところが革新的だなと思い、参加を決めました。 飯田 中学2年生のときの文化祭で、私たちのクラスは生理についての展示発表を行いました。「生理用品を紹介する」くらいのシンプルな内容でしたが、展示の準備を進めるなかで、男性の理解が少ないという問題が見えてきて。「いかに男性に教室に入ってもらい、展示をみてもらえるか」にこだわっていたんです。  その1年後にちょうどクレアの募集が来て、「文化祭で取り組んだ内容だ!」とテンションが上がって(笑)。よりたくさんの実践的な知識をつけられると思ったので応募しました。 男子校は「生理って血が出るんだ」というところから ――今回(東海大学付属高輪台高等学校)の講座は共学校でしたね。講座を開くことで、どんな気づきがありましたか?  守谷 学校ごとに全然違いますね。今回のような共学校では、男性も女性もいるので、どちらに講座内容を合わせるのか、学校生活を続けていく上で私たちの講座がマイナスにならないように配慮する点も多いです。例えば、女性に対して「無理に個人的な体験談は話さなくてもいいですよ」とアナウンスをする、などです。  講座をするたびに反省と修正を繰り返して、初期の頃よりも伝わる講座になっているかなと思います。 永井 男子校だと難しい話よりも、まず「血が出るんだ、生理って」というところから始まる生徒もいるから、女子校とは内容を変えていますね。女子校だと、「女だから知ってるでしょ」みたいになりがちなので、同じ女性でも「人によって症状は全然違うんだよ」って知ることも大事だなと考えています。 守谷 私たちは生理に伴う不調で、普段通り学校や仕事に行けない、活動できないことを「損失」ととらえています。それには「知識不足による損失」と「現段階の医療ではどうしようもできない損失」という2つの視点があると考えています。私たちはそのうち「知識不足による損失」を少しでも減らすための伝え方を意識しています。  例えば、タンポンという生理用品を知らなかったら、「プールに入りたい」と思ってもできないけど、知識があれば解決できる。まず私たちにできるのは、知識を伝えることだと思い、より理解が広がり、助け合えるようになっていくといいなと思います。 企業の講座は新しい知識を得られるよい機会に ――ユニ・チャームさんなど企業とのコラボレーションについても教えてください。 永井 企業とコラボするというのはクレア特有というより、私たちの学校の特徴なんです。品川女子学院は中学生のころから「起業体験プログラム」があり、さまざまな企業とコラボするなかで、働いている方と話したりやり取りしたりする機会が豊富です。  クレアでは自分たちの力でできないところを企業の方に助けてもらい、私たちの活動が広まるよう工夫しています。頑張ってインスタで発信はしているけど、取材してもらえたら活動がもっと広まるし、いいことですよね。 ――企業でも生理を学ぶ講座を開催されていらっしゃいますよね。学校での講座との違いはありますか? 守谷 全然違います! こちらの盛り上げ方も違いますし、アイスブレイクのクイズも変えています。大人の方はロールプレイの後のワークショップで「ここはこうした方がいい」というさまざまな意見が出て、すごく盛り上がります。  また女性社員の方からは、普段言えなかった生理についての思いが語られる場になって、「講座を受けてよかった」という声がすごく多いです。 大河内 ある企業で講座をしたときは、海外出身の参加者の方もいて、他の国での生理に対する考え方も一緒に話すことができました。学校ではなかなか他の国の人と話す機会はないので、クレアのメンバーも新しい知識を吸収できたよい機会でした。   クレアの活動を将来にどう生かすか ――これまでクレアの活動で得たものや、今後生かしていきたいことを教えてください 飯田 この活動では、物事の背景を考えることが多いなと思います。女子校だから基礎的な知識よりも産婦人科の話やディスカッションを多めにしよう、企業の場合は生理休暇などのシステムの話をメインにしよう、といった具合に。  男子校で伝える時にどういう伝え方をしたら、私たちの目標である「男性も女性も関係なく生きやすい社会」を伝えられるのか。ターゲット層や伝えたい内容を発表する相手に合わせて調整していく力は、クレアにいたからこそ身につけられたと思います。 永井 私は「ジェンダーに関わらず、なりたい自分、ありたい自分でいる社会を実現する」ということが、今のところ人生をかけてやりたいことです。大学でもジェンダー研究をする方向に進みたいです。  生理もなりたい自分、ありたい自分であれない一つの原因だと思うんです。生理休暇が取りづらいとか、生理用品が高くて買えなくて生活に支障が出てしまうとか。必需品であるはずの生理用品が軽減税率の対象ではないのもおかしいと思っています。  でも、男性と女性が「お互いが敵ではないんだ」と思えたのはクレアの活動のおかげです。私たちのことを知ってほしいけど、絶対に配慮しろと言っているわけでもない。もっと新しいジェンダーのあり方を考えていかないといけないと思います。女性のことに取り組んだことで、かえって広い世界が見えるようになりました。 品川女子学院のユニークな魅力「もめ事はプレゼント」 ――最後に、品川女子学院の魅力とこれからクレアに入りたい方へのメッセージをお願いします。 大場 私たちの学校は、理事長が「失敗」と「もめ事」を推進していて、学校説明会でも「この学校はチャレンジも多く、もめる学校です。失敗やもめ事が嫌いな人は避けた方がいい」と言うぐらいです。 全員 「もめ事はプレゼント」っていう考えがあるよね。 大場 そう。失敗やもめ事を重ねていくうちに、活動への愛着や責任感が芽生えますし、自分の意見もすごく言えるようになります。社会に出て必要とされる力がすごく養われていると感じます。 守谷 クレアのような有志団体もたくさんあって、全員が中学1年生からデザイン思考を学んだり、起業体験もあったり、文化祭もただの屋台では終わらない。いろんな活動が充実している学校だからこそ、クレアもここまで大きくなれたんだと思います。 小泉 これから入学したい人には、興味があることにどんどん挑戦してほしいです。 守谷 いろんなことに挑戦できるからこそ、自分の得意分野も見つけやすいと思いますね。スライド作りがうまい人、人前で発表するのがうまい人、事務作業が得意な人――。個人個人の特性が生かされています。 永井 一言でまとめると、品女は楽しい! この学校でよかったと心から思います。 全員 深くうなずく (取材・文/かたおか由衣)
「“AI友達”で孤独解決? 認知的エンパシー不足が生む逆効果の懸念も」ブレイディみかこ
「“AI友達”で孤独解決? 認知的エンパシー不足が生む逆効果の懸念も」ブレイディみかこ 作家、コラムニスト/ブレイディみかこ    英国在住の作家・コラムニスト、ブレイディみかこさんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、生活者の視点から切り込みます。 *  *  *  英国は、世界で初めて孤独問題担当大臣を置いた国だ。続いて2番目に同様の大臣を設置したのは日本だった(現在は廃止)。今や孤独は世界的な政治課題だが、Metaのザッカーバーグは、AIが人々の友達になることで解決できると言う。「孤独の蔓延」は、「自分をよく知っていて、フィードアルゴリズムのように自分をある程度理解しているシステム」と友情を築くことで緩和されるというのだ。  数カ月前に日本の20代の女性たちとのオンライン座談会に参加した時、ChatGPTに悩みを相談しているという人が多数派だった。英国の国民的ドラマ「EastEnders」にも、チャットボットに名前をつけて友人にしている少年が出てきたし、AIとの関係が自分にとってリアルならそれでいいという見解も見聞きするようになった。  その一方で、AIには他者と接する時に必要な、ある能力に問題があるという。それは、エンパシーだ。人間とは大きなギャップがあるという。GPT-4oは、相手のネガティブな感情(悲しみなど)には、過剰にエモーショナルに反応するそうだ(相手が女性だとわかると顕著にそうなるという)。AIは、感情的になる真似はできても認知的エンパシーの深みに欠けると、カリフォルニア大学サンタクルーズ校のサイトが伝えている。調査を行った研究者たちは、メンタルヘルスなどの医療ケアで、人間をAIで置き換えるべきではないと主張する。  エンパシーは「他者への想像力」だが、AIは人間としての経験をそのベースに使えない。代わりに与えられた膨大なデータを使う。そのAIに認知的エンパシーが欠けるというのは、この能力の発揮にはある種の主観性や自己認識が必要ということではないだろうか。  AI(アーティフィシャル・インテリジェンス)ならぬAE(アーティフィシャル・エンパシー)という言葉も耳にするが、人工エンパシーはその嘘くささゆえに孤独感を増大させることにならないか。それに、今後改良が進んで本物っぽさを増したとして、AIがあれば人間は要らないという孤立した層を増やす結果になるのなら、孤独問題はさらに深刻化しそうだ。 ※AERA 2025年6月2日号  
平均年収460万円は「実感」とはほど遠い? 実は6割が平均以下の「真実」 1千万円プレーヤーは増加で広がる貧富の差
平均年収460万円は「実感」とはほど遠い? 実は6割が平均以下の「真実」 1千万円プレーヤーは増加で広がる貧富の差    日本の平均年収は460万円。だが実態は平均に届かない人が全体の6割ほどに及ぶ。一方、1千万円を超す高給取りも増えている。参院選が迫り、消費税減税などの議論が活発になる中、根幹となる「日本の給料」を多角的に調べた。  *   *   *    国税庁の民間給与実態統計調査によると、2023年の日本の平均給与は460万円。1年を通じて働いた給与取得者5076万人の平均値だ。前年比1万9千円増で、ここ数年をみると微増傾向となっている。ただ、25年前の1998年は465万円。長い期間でみると、ほぼ増えていないことがわかる。   日本の給料はほぼ横ばい   「手取りが一向に増えない。10年ほど手取りは変わっていない」(沖縄県・公務員・42歳・女性) 「一生懸命働いても少ないボーナス。気力もやる気も出ないよね」(東京都・パート・アルバイト・60歳・女性)  AERAのアンケートからも給料がなかなか増えない声が届いている。しかも、最近はあらゆるモノやサービスが高くなっており、給料が増えないままだと、日々の暮らしはより苦しくなる。  取材に答えた40代シングルマザーは切実だ。 「小学6年の息子の修学旅行費が今年から4千円上がって、4万円になりました。電車の運賃の値上げが原因だそうです。私たちの頃は2万円もかからなかった記憶です。中学の制服代は8万円だと聞いています。大学進学や仕送りなんて、想像をはるかに超えるお金がかかりますよね。生活費はなんとか賄えていますが、給料が上がらないと、これから先ヤバいです」  平均給与460万円について、女性は言う。 「私からすると、年収300万円以上は『いい方』だと感じますね」  この460万円を給与の額別にみてみると、「平均」と「実態」の差が浮かび上がる。国税庁のデータによると400万円以下は2571万人で全体の5割超。400万円超500万円以下は781万人で、仮にこの半分の390万人が平均の460万円未満だとすると、全体の6割弱が460万円に達していないことになる。 給与別の構成比   「日本総研」調査部・客員研究員の山田久さんは次のように話す。 「いまは食料品価格が上がっており、所得の低い層にしわ寄せがきています。格差が拡大していきかねません」  実際、1千万円超は5.5%にあたる279万人。2019年は253万人でこの4年間で1千万円プレーヤーは26万人増えている。高所得者が平均値を引き上げているのだ。平均値と別に注目したいのが「中央値」だ。今回の場合、全労働者を年収順に並べた際の真ん中に位置する金額のことで、中央値の方が実感に近いとされている。国税庁は中央値を明らかにしていないが、構成比をみると300万円台後半になりそうだ。  性別でみると、男性は平均年収569万円、女性は316万円で男女の差は大きい。男性は年齢が高くなるにつれ、年収が増え55~59歳で712万円とピークになるのに対し、女性は年齢別であまり差がみられない。 「男性が仕事に専念して、女性は基本的に家事育児を担う昭和型の家族モデルを前提にしています。男性が長時間労働や転勤を受け入れてきた裏で、女性の職業能力の開発を犠牲にしていた面がありました。見直しが進んできたとはいえ、日本では依然として年功賃金が色濃く残っています。勤続年数や年齢に応じて評価する仕組みを本格的に改める必要があります」(山田さん) 年齢別の平均給与    アンケートからも「同じ部署に男性がいると、そちらが優先されるということが、普通にありました」(東京都・会社員・52歳・女性)との声もあった。  平均給与以上をもらっている仕事を見てみよう。転職サービス「doda」による職種分類別の「平均年収ランキング(2024年版)」では、1位が「専門職(コンサルティングファーム/専門事務所/監査法人)」で611万円。2位は「企画/管理系」の566万円。3位は「金融系専門職」の474万円だった。  doda編集長の桜井貴史さんは「知識集約型で高収益な高付加価値産業が上位にきています。また、経営企画、DX推進といった戦略系の仕事は需要が大きく、報酬が高い傾向にあります」と話す。  一方、「技術系(メディカル/化学/食品)」は407万円、「クリエイティブ系」392万円、「事務/アシスタント系」350万円、「販売/サービス系」339万円となっている。中には生活を支えるエッセンシャルワーカーも含まれるが、評価されにくいのが実態だ。  では共働き世帯ではどうだろう。  マイナビの調査(2024年)では、共働き正社員世帯の平均世帯年収は806万円だった。だが理想の世帯年収を聞くと1126万円で、300万円以上不足しているという。  さらに、共働き正社員のうち、実に46%が「家計が苦しい」と答えている。家計が苦しいと感じる世帯の平均年収は716.7万円。つまり、700万円あっても、家計が苦しい家庭は多いのだ。  この数字はあくまでも額面で、所得税や住民税のほか社会保険料などを差し引かれた「手取り」ではもっと少なくなる。光熱費に加えて、コメに代表されるような生活に欠かせないモノやサービスは値上がりしており、家計の余裕はなくなっている。  山田さんは話す。 「給料の底上げが必要です。今のアメリカが物語っていますが、とても豊かな人がいるけれども取り残されて不公平感を抱く人もいます。社会の安定のためにも、格差が開きすぎることは問題です」 (AERA編集部 井上有紀子)   【特集:解剖 日本の給料】 #1:【ひと目でわかる】日本の給料「一人負け」の実態 右肩上がりのアメリカは日本の1.7倍 #2: 韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは #3:平均年収460万円は「実感」とはほど遠い? 実は6割が平均以下の「真実」 1千万円プレーヤーは増加で広がる貧富の差 #4:【平均年収都道府県ランキング】東京は471万円で1位 10位の大阪とは64万円差 生涯賃金では関東と九州・沖縄で4千万円以上の開き #5:初任給59万円でGMO1位 ベスト15にトヨタやソニーなど超大手は入らず【注目ランキング】 #6:これぞ“世代ガチャ”? 氷河期世代49歳男性「実情は『派遣』です」 給与は上がらず老後に不安 AERA DIGITALでは、5月26日から「特集:解剖 日本の給料」を随時配信していきます。海外との賃金格差、日本の給料の「実態」、都道府県別や初任給の最新ランキング、就職氷河期世代の苦悩など、多角的にお届けします。   【こちらも話題】 人気企業93社「年収」徹底調査! 建設や商社が右肩上がりで「1千万円超え」する理由 https://dot.asahi.com/articles/-/35994
韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは
韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは 日本とアメリカの平均賃金は大きく差がついた(撮影:写真映像部 佐藤創紀)    参院選が迫る中、与野党とも有権者の「手取り」を増やす公約が飛び交っている。背景にあるのが、なかなか増えない日本の給料だ。先進国で「一人負け」が続くその実態とは。 *  *  *  日本の給料は30年以上、ほとんど上がっていない。日本で暮らしていると実感がないかもしれないが、世界的にみるとその停滞ぶりは「異常」だ。経済協力開発機構(OECD)によると、2023年の日本の平均賃金は加盟34カ国中25位。33年前と比べると、アメリカが2万6339ドル(1ドル=145円で382万円)増えたのに対し、日本は98ドル(1万4千円)しか増えなかった。    日本の順位は1997年には38カ国中15位と平均以上だったが、以降は下落が続いた。99年にはOECD平均を下回り、フランスやイギリスにも優に抜かされ、今では主要7カ国(G7)で最低。OECD平均に150万円以上も引き離されるまでになった。隣国の韓国には2018年に抜かされ、すでに6年がたつ。 「先進国で賃金が上がっていないのは日本だけです。日本では、賃金が上がらないことが当たり前になりました」  こう話すのは日本総研の客員研究員の山田久さんだ。なぜ右肩上がりの国が多い中、日本は「一人負け」なのか。山田さんの答えはシンプルだ。 「結果的に変化を恐れて立ち止まってきたからです。ある意味必然的な帰結だと思います。今後も立ち止まったままであれば、平均賃金はもっと落ちていくでしょう」  日本の賃金停滞の発端について、山田さんはバブル経済の崩壊だとみる。  戦後の日本は急速に工業化が進み、高度経済成長とともに賃金も右肩上がりだった。だが90年代のバブル崩壊で局面は大きく変わった。   「バブル崩壊後、企業はどんどん潰れて、名だたる大企業が希望退職を募った。いままでになかったショッキングな状態になったことがトラウマになり、企業は給料を上げることをやめました」 企業側だけでなく労働者側も動かなかったという。 「欧米なら転職するか、労働組合が交渉して給料を上げるように働きかけますが、日本ではその現象は起きなかった。日本に賃金を上げる仕組みがなくなったのです」  賃金を含めたコストカットに躍起になり、不採算事業を整理せず、事業転換が遅れた。労働組合も賃上げより、正社員の雇用を守ることを優先したため弱体化した。  物価が上がらないデフレが続き、企業の稼ぐ力も伸び悩んだ。日本生産性本部が出す「労働生産性の国際比較2024」をみると、日本の下落は鮮明だ。1人当たりGDPは5位(96年)から26位(23年)、1人当たりの労働生産性は13位(90年)から32位(23年)に沈んでいる。    30年以上も横ばいだった日本の給料にようやく変化の兆しが見え始めている。  今年の春闘の賃上げ率は5%を上回り、バブル崩壊前以来の高さとなった昨年に続く高水準となった。新卒社員の初任給を引き上げる企業は7割に達した。3月の平均名目賃金は、前年同月比2.1%増の30万8572円。プラスは39カ月連続だ。  背景にあるのは人手不足だ。これまでは女性やシニアの働き手が増えたが、これ以上の労働力は増えない。物価高だから、ある程度の賃上げをしないと生活が苦しいのは経営者の目にも見えている。 「給料がちょっとでも増えると、買い物しようと思う。結果的にいいものは売れて、そうでないものは売れない。否応なしに賃金を上げる局面に入りました」  利益が上がらない企業は不採算事業を整理せざるをえなくなる。自ずと、生産性が上がっていく方に動いていくことになるという。    ただ今の日本の最大の問題は、賃上げが物価高の勢いに負けていることだ。名目賃金から物価の影響を除いた「実質賃金」は、3月が2.1%のマイナス。この2、3年を見ても実質賃金がプラスになった月は数えるほどしかない。  物価の上昇に負けないようにするには、今後どれくらいの賃上げが必要なのか。山田さんは次のように分析する。 「物価は中長期的に平均で年2%程度で上昇するのが望ましいと考えられています。生産性は年に1%強は上がるでしょう。加えて、定期昇給相当分(賃金カーブ維持分)を2%弱とすると、合計5%の賃上げが必要です。大手だけでなく中小企業も5%は安定的に上げていくべきです。5%上がれば、実質賃金も上がっていくはずです」  安定的に実質賃金を上げていくポイントの一つは、生産性の向上だ。企業はもうけが出ない不採算事業を整理し、成長分野への投資を加速させる必要があるという。 「そもそも日本の商品やサービスの質は高いといわれるが、こうした日本の良さは現行のGDP統計には十分反映されません。いいモノを作っても安く売る結果、いまのGDP統計には十分反映できないのです。価格を上げて輸出しなければなりません。日本のビジネスのやり方、考え方を変えなければなりません」  大手企業が中小企業からモノやサービスを高く買って、中小企業に利益を移転していくことも重要という。日本企業の99.7%は中小企業だ。中小企業が賃金を上げられるようになると、日本経済全体の底上げにつながる。  その時々で景気が悪くなると人件費を抑えないといけないときもあるかもしれないが、変動分は本来、残業代やボーナスでカバーすべきだという。 「日本の労働者は優秀だといわれています。仕組みを立て直せれば、生産性が上がり、『普通の先進国』として物価も賃金も上がっていくと考えます」(山田さん)  コメの高騰に代表されるように、与党も野党も目の前の物価高に対応するための消費税減税や給付金などの議論が活発になっている。賃金がなかなか上がらず物価高に苦しむ人たちを支えることは大切だが、それと同時に、海外に負けない日本の成長力を押し上げる取り組みにも力を入れないと、長年続いた「一人負け」からはなかなか抜け出せない。 (AERA編集部 井上有紀子) 【特集:解剖 日本の給料】 #1:【ひと目でわかる】日本の給料「一人負け」の実態 右肩上がりのアメリカは日本の1.7倍 #2: 韓国に抜かれて早6年…日本の賃金34カ国中25位の衝撃 先進国で「一人負け」の実態とは #3:平均年収460万円は「実感」とはほど遠い? 実は6割が平均以下の「真実」 1千万円プレーヤーは増加で広がる貧富の差 #4:【平均年収都道府県ランキング】東京は471万円で1位 10位の大阪とは64万円差 生涯賃金では関東と九州・沖縄で4千万円以上の開き #5:初任給59万円でGMO1位 ベスト15にトヨタやソニーなど超大手は入らず【注目ランキング】 #6:これぞ“世代ガチャ”? 氷河期世代49歳男性「実情は『派遣』です」 給与は上がらず老後に不安 #7:平均年収が3年連続2千万円超え 高収益でボーナスが年4回のキーエンスが「接待禁止」を掲げる理由 AERA DIGITALでは、5月26日から「特集:解剖 日本の給料」を随時配信していきます。海外との賃金格差、日本の給料の「実態」、都道府県別や初任給の最新ランキング、就職氷河期世代の苦悩など、多角的にお届けします。
散らかった家の中で「もう限界!」と号泣 人生で初めて“片づけ”を習って見えた明るい未来
散らかった家の中で「もう限界!」と号泣 人生で初めて“片づけ”を習って見えた明るい未来 食事もできず、山積みのモノの中にパソコンを置いていたダイニング/ビフォー    5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。 case.95 家の1カ所でもきれいになると気分が変わる 夫・子ども2人・義母/会社員  学校で勉強したことは大人になっても覚えていて、生きていくために役立つことが多いです。私は“片づけ”も生きていくためにとても役立つことだと思っているのですが、学校では教えてくれません。  親や家族を見て自然と身につくことだと思われているかもしれませんが、その人たちが片づけられない場合、どうやって片づけ方を知ればいいのでしょうか。  今回ご紹介する女性も、親が片づけられず、自分も片づけられなくなったと話してくれました。 「実家はいつも散らかっていて、私もずっと片づけが苦手。結婚して子どもが2人生まれた頃から、家事・育児に加えて義母の介護や夫の体調不良などで負担が大きくなって、家の中がぐちゃぐちゃになってしまったんです」  5人で暮らす家の中は、テーブルや棚の上、床にまでモノが広がっていました。毎日探し物ばかりで、そもそもこの家中にあふれているモノは必要なモノなのか、ゴミなのかもわからない。週2回ほどの在宅勤務のときには、テーブルの上のモノを押しのけてパソコンを置くスペースを作る。そんな状態でした。 「使いたいモノが見つからないことが原因で、家族とケンカすることも多かったですね。お互いに、相手のせいにしている感じ。ゆっくり家族で過ごす空間もないので、落ち着いて話もできませんでした」  片づけたいけれど、どうしていいのかわからず、目の前のやるべきことをこなすだけの毎日。ある日、ゴミの中に埋もれている自分を客観的に見たとき、「もうこんな生活はいやだ!」と号泣してしまいました。  そのとき、ふと彼女の脳裏に、いつかSNSで見て気になっていた“家庭力アッププロジェクト®”のことが浮かんできました。 今では家族みんなでごはんを食べられるようになりました/アフター   「片づけの本を読んでちょっと実践しては挫折する、ということをくり返していたので、『もう自分一人でどうにかするのは無理だ』とあきらめていました。片づけのプロに習って、同じような悩みを持つ仲間と一緒に片づけるという内容を聞いて、『これだ!』と思って参加したんです」  それまで、彼女は家族と「うち、散らかっているよね」「片づけないとね」という話はしていたものの、誰も手を動かしませんでした。夫や義母は余裕がなく、子どもたちは小学校低学年と幼稚園。「私がやるしかない!」と、彼女は自分を奮い立たせました。  片づけ方を知らなかった彼女にとって、“モノを紙袋や段ボール箱に入れて置いておく”ということが片づけでした。これではモノはどんどん増えるばかり。 「まずは不要なモノを徹底的に手放すことから始めたんですが、家にあるモノが大量だったので“いる・いらない”を判別するのが大変でした。5年以上前に賞味期限が切れている調味料やドレッシングが出てきてビックリ。2ページくらいしか続かなかった勉強や日記のノートもたくさんありましたね」  家の中がきれいになってくると、夫は「すごく片づいたね」と喜んでくれました。これまでの悩みだった片づけが進むにつれて彼女の気持ちにもゆとりが生まれ、夫や子どもに対して優しく接することができるようになったと言います。 「子どもがわがままを言ってワーッと泣いたとき、今までは怒りで返してしまっていました。でも今は、『どういう気持ちで泣いちゃったんだろう』『本当はどうしてほしいのかな』と考える余裕ができたんです」  さらに片づけは、時間の余裕にもつながりました。   食事の準備をする前にモノをどかすことから始めていたキッチン/ビフォー    彼女の家は2世帯住宅で、1階は義母のスペース、2階が彼女の家族のスペース。ダイニングテーブルの上にモノが山積みだったときは、2階のキッチンでごはんを作って1階のダイニングに運び、食べ終わったら片づけた食器を2階まで持って上がっていました。そんな生活を2年ほど続けていましたが、今回の片づけでそれも解消。ムダな時間を費やすことがなくなったのです。 「食事の準備が時短できるようになったのも大きいですね。料理をするときは作業スペースにあるモノをどかしてから、まな板を置いていました。食器も使いたいお皿を探したり……。それが今ではスッキリしたキッチンで、必要な道具をサッと取り出せるようになりました。ものすごく快適!」  彼女の中で、キッチンがきれいになったことはとても重要なことでした。 「私が家の中で長い時間を過ごすのが、キッチンなんです。キッチンが使いやすくなると、こんなに気持ちが楽になるとは思わなかった! ほかの部屋は子どもたちが散らかすこともありますが、ここだけはきれいな状態をキープすると決めています」  そして、彼女の変化は家族にも伝わっていきます。夫は朝、子どもを幼稚園に送ってくれるようになり、子どもたちは積極的に家事を手伝ってくれるようになりました。一緒に片づけていると、「これはこの場所に置いた方がいいんじゃない?」と提案してくれることも。家族がチームになっていっていることを実感しています。 「以前は夫との会話は不満や業務連絡ばかり。でも、最近は趣味や旅行の話をできるようになったんです」 モノが定位置に収まり、使った後はすぐリセットできていつも快適/アフター    かつては限界まで追い詰められていた彼女が未来の話を家族とできるようになったのも、片づけを通してポジティブな考え方が身についたからでした。 「私はやる気がなくてずっと動けなかったんですが、やる気がなくてもやらなければいけないことはたくさんあるんですよね。それならただやる気を待つだけじゃなくて、いかにやる気がなくても楽に動けるか、を考えた方がいいとわかりました」  これからはさらに快適な家を目指してブラッシュアップしていきたいと語ってくれた彼女。きっとその目には、家族と一緒にきれいな家の中で、笑顔で過ごしている未来が見えているのでしょう。  
子ども部屋おじさん・おばさんは婚活で「不利」の大誤解 当事者もハマる「根拠のない不安」の正体
子ども部屋おじさん・おばさんは婚活で「不利」の大誤解 当事者もハマる「根拠のない不安」の正体 偏見を持たれることの多い「親と同居」。あなたは先入観を持ってはいませんか?(写真はイメージ/gettyimages)  いい年になっても実家を出ず親と暮らす男女を「子ども部屋おじさん・子ども部屋おばさん」、略して「こどおじ」「こどおば」などと否定的にとらえる風潮がある。特に男性は婚活市場ではシビアに見られるという。だが、結婚相談所の運営者に話を聞くと、違った現実が見えてきた。 *   *   * 食事も洗濯も母親がやってくれる  東京23区の東部で実家暮らしをする大手企業勤めの長浜健太さん(41)は、今まで実家を出たことがない。家事はずっと親任せで、食事も洗濯も母親がやってくれる。 「僕は典型的な『子ども部屋おじさん』なんでしょうね。結婚をしたいとは思っていて、何年か前までは親や友達から『結婚を考えるなら一度家を出て自活しろ』なんて言われましたが、今は誰もなにもいわなくなりました」  そう自嘲気味に笑いつつ、こうも繰り返した。 「恋人ができたら出たいと思うのかもしれませんが…。結局、生活が成り立っているので、実家を出る理由がなにもないんですよ」 家賃や光熱費が無駄、結婚資金も溜まる  中小企業で経理を担当する市原舞子さん(37歳=仮名)は都内の下町で一人暮らしをしていたが、昨年4月、埼玉県東部の、両親が暮らす実家に出戻った。  30歳くらいで結婚したいと考えていたが縁がなく、最近は独身の女性の友達との外食や旅行にお金をかけている。  婚活は続けるが、遊びもしたい。 「家賃や光熱費にかかるお金が無駄だと感じ始めて。実家なら旅行もしつつ、結婚資金も貯まりますよね。この年になると親ももう『早く結婚しろ』なんて言いませんし、その親だって年をとりますし、選択としてありだと思いました」  家に毎月、お金を入れて、仕事が忙しくないときは家事や買い物なども分担する。「こどおじ・こどおば」という言葉や世間の視線は理解している。 「でも…住まいが実家というだけでダメ出しされるなら、そこまでの関係なんじゃないのかな」  あくまで自然体だ。 婚活では「不利」?  2人のように、個人の選択として親との同居を選ぶ人もいる。  事情はどうあれ、いわゆる「こどおじ」「こどおば」は、婚活の世界では不利とされるが、実際はどうなのか。   「実家暮らしを否定的に見る人が多いのは事実です。プロフィールに『親と同居』と書かれているだけで、NGを出す会員様も少なくありません」と話すのは大阪の結婚相談所「町のブライダルミューナ」を運営する町優香さんだ。 自分が実家暮らしでも  不思議なことに、自分が実家暮らしで家事などを親任せにしている当事者なのに、「親と同居」の異性をNG扱いする人もいるのだという。  だが、町さんは、「子ども部屋~」とレッテル張りする風潮には懐疑的だ。仲人として見る現実とは、「乖離がある」と話す。 「親と暮らしているから、その方がダメな人ということはまったくありません。実際、弊社の会員様でも、親と同居の会員様は成婚まで時間がかかる印象はありますが、一人暮らしの方と比べて成婚率に特に差はありません。なかなか相手が見つからなかった40代の男性で、思い切って一人暮らしを始めたら、すぐに成婚に至ったというプラスに働いた事例もありますが、テレビ番組などで『残念な人』扱いをされたり、面白おかしく取り上げられたりして、『何か問題がある』というイメージが膨らみ過ぎているように感じます」  会員には男女問わず、安定した収入があり、家にお金を入れて、家事もこなすなど親を支えつつ自立した形で共同生活を送っている人もいれば、親に甘えっぱなしの人もいる。  一人暮らしでも家事がほとんどできず、掃除もしないから部屋が荒れ放題という人もいた。形態は人それぞれだ。 根拠のない不安に苛まれている  町さんによると、会員の中で「親と同居」に偏見を持ったり一方的にNGを出したりする人には、ある共通項があるという。それは心の内にある「根拠のない不安」、しかも、とても強固な不安だ。 例えば、親と同居の人イコール、 ▽自立していない ▽家事ができない ▽結婚したら相手の親と住まないといけない ▽収入が低いから家を出られない人。収入を頼られる  などといった事実かどうかもわからない不安を、その人がどうなのか確認もしない前に一方的に抱えてしまう。 漠然とした将来への不安  また、実家暮らしの人も、  経済面などで漠然とした将来への不安を抱え、家を出ようとしないケースが目立つという。  こんな事例もあった。 「周囲からそう言われた」  1年近くかけて成婚した、親と同居の30代後半の男女のケース。2人とも安定した仕事で年収もしっかりしており、貯蓄額も同年代の中ではかなり多かった。性格も合っている。  それなのに双方とも、「自分の収入では夫婦はやっていけない」と不安を感じてしまい、相手を気に入っているのに一歩を踏み出そうとしなかった。  その根拠を聞くと、「周囲からそう言われた」程度のものだった。ずっと実家暮らしだったため、家を出ると生活費がどの程度必要なのかなどの具体的なイメージができず、不安から抜け出せずにいた。  町さんら仲人は、世間の夫婦と比較しても、お金の問題は何もないことを繰り返していねいに話した。最後は貯蓄額を細かい数時まで伝えて、やっと安心して結婚を決めてくれたのだという。今は幸せに夫婦生活を送っている。 親と同居の「メリット」 「いかに不安を取り除いて、ただの思い込みだったんだと気付いてもらえるか。自分の思い込みを『絶対に正しい』と信じ切っている方もいますから、お見合いを重ねたり、外に出て人とのコミュニケーションを増やしたりして、いい方向に変えてほしいと強く思います」  町さんが「子ども部屋~」に先入観がないのは、町さん自身、結婚した28歳まで親と同居していた当人だからでもある。お金が貯まり、仕事の勉強などへの自己投資もできて、同居がプラスになったと今でも思う。夫も親と同居していて、家にお金を入れるなど負担を分担していたので、結婚時の貯蓄額は「とても少なかった」が、夫婦には笑い話だ。  そんな経験と思いがあるから、町さんは会員に、親と同居している人の良い点や同居のメリットもちゃんと伝えているという。 「結局は、一人暮らしか親と同居かは関係なく、その人次第だと感じています。パートナーと協調できるか。自分と違う部分を受け入れようとするか。自分に足りない部分があるなら、それを埋めるための努力ができるか。相手に求めるばかりでは、なかなか成婚にはいたらないと思います」  子ども部屋おじさん・おばさんのレッテルは、その人の本質や実際を覆い隠してしまう、負の側面もあるということだ。 (ライター・國府田英之)
【大阪・関西万博のトイレ】「熱中症の条件」が揃っている…医師が「水だけを飲むのはむしろ危ない」と警告する理由
【大阪・関西万博のトイレ】「熱中症の条件」が揃っている…医師が「水だけを飲むのはむしろ危ない」と警告する理由 ※写真はイメージです(gettyimages)    4月13日に大阪・関西万博が開幕した。万博協会は半年間の会期で2820万人の来場を見込むが、設備状況はどうなっているのか。東京科学大学医学部臨床教授の木村知医師は「私がいちばん憂慮するのは、会場のトイレ事情だ。このままでは夏に向けて、多くの人が熱中症に見舞われる恐れがある」という――。 「並ばない万博」で大行列とは…  大阪・関西万博が開幕した。会場建設費の高騰、パビリオンの工期遅れや出展辞退、メタンガスの噴き出しや避難経路の問題など、さまざまな課題をかかえながらの開催となったが、4月13日の開幕初日には、「並ばないはずの万博で大行列」「スマホの通信障害」など、さらに具体的な問題がつぎつぎと噴出してきた。  今年は桜の開花後も冷え込む日々があり、つい先日まで気温が乱高下していたが、ここにきてようやく暖かい日が増えてきた。いや、温暖ですごしやすいというより早くも初夏、ここからは30度に届かんばかりの日さえありそうだ。  気温の乱高下だけでも体調を崩しやすいのに、まだ暑さに慣れきらない状態のまま猛暑が突然やってくると熱中症のリスクは格段に高まる。そんなただでさえ危険な季節を目の前にして万博は開催されたのである。  そして真夏に向けて気温はさらにぐんぐん上がる。来場者に熱中症患者が発生しないことのほうがあり得ない。猛暑日には同時多発的に急患が発生する事態が頻発すると考えるほうが自然だろう。 大屋根リングの「日よけ」は本当に足りるのか  今から10カ月ほど前、2024年6月26日の東京新聞「こちら特報部」は、〈毎年「記録的な暑さ」が続く? 地球沸騰化の時代に開かれる大阪・関西万博の「熱中症対策」を案じる〉との記事を掲載、私も医師の視点から、コメントを提供した。  自見英子万博相は2023年11月の国会で、大屋根リングについて「日よけとして大きな役割を果たす」と胸を張ったが、来場者数を考えればとても足りない。多くの人がリングの下に逃げ込むことを想像してみれば気づくことだが、そこでは人々が密集し、風も通らず、むせかえるような温度と湿度となることだろう。私は「広大な屋根のあるスペースを至るところに準備する必要性は自明」とコメントした。  移動式のスポットクーラーやウォーターサーバーも設置されるとのことだが、文字どおり“焼け石に水”だろう。これらにも行列や新たな人々の密集が形成されることは想像にかたくない。  そして、さらに熱中症のリスクを高めかねない、ある重大な万博会場の「欠陥」を、私は開幕初日の報道で知ったのである。  それは万博会場のトイレ事情だ。 トイレ行列が飲水をためらわせる  4月13日の日刊スポーツのweb記事〈【大阪・関西万博】夢洲駅トイレも長蛇の列「お父ちゃんに怒られるかも」最大で20分待ちも〉によれば、会場への主要アクセスルートとなる大阪メトロ中央線夢洲駅改札のトイレは1カ所で、女性用のトイレには長蛇の列ができたという。  2億円もかけたデザイナーズトイレも混乱を誘発、入口がわからない客が発生するだけでなく、隣のパビリオンまで延びる「大行列」にもなったようだ。  これらの事態が、なぜ熱中症のリスクを高めるのか。これも少し思考実験をしてみればすぐにわかる。トイレの大行列に並びたくない、つまりトイレになるべく行かないようにしたいと思えば、人は飲水を控えてしまう。多少のどが渇いても、せっかく並んだ列から離脱してトイレに走らなくてすむよう、なるべく飲み物を控えようとの気持ちは、誰でも抱き得るものだろう。  炎天下、猛暑、高気温、高湿度、人ごみ、行列……。ただでさえ熱中症が生じやすい条件がそろいすぎている状況で、飲水まで控えてしまえば、症状が出たときには、すでに重度の熱中症を引き起こしている可能性がある。このような人たちが同時多発的に多数発生した場合に、すべての人に万全の対応がとれる対策はとられているのか。 「のど渇いたな」と思ったときには手遅れ  すでに多くの人が知っていることと思うが、そもそも熱中症対策において、「のどが渇いてから飲む」のでは遅すぎるという事実は今や常識だ。  人は体の水分量のうち2%程度が失われると、のどの渇きを訴えるといわれている。水分量は体重の約60%とされているから、65kgの成人の場合なら約40kg(=40000ml)が水分だ。この2%、つまり「のどが渇いた」と思ったときにはすでに800mlの水分が失われている可能性があるのである。  さて、せっかく並んだ長蛇の列。少しずつ人が流れていってはいるが、自分の番になるまでにはまだ数十分から1時間以上かかりそうというときに、のどの渇きを自覚した場合、並びながら800mlを躊躇なくガブガブ飲み干す人はいるだろうか。  それでのどの渇きが癒えたとしても、尿意をもよおし脂汗をながす事態におちいって、せっかくの列を離脱し、またトイレの列に並ぶことを考えたら……かりに水分喪失量の計算を知っている人であってもそれに見合った十分な水分量を補給しようとする人は、少数派ではなかろうか。  炎天下、猛暑の万博会場のあちこちで、そのような人が多数発生すれば、先述の私の懸念は、あっという間に現実の悲劇となってしまうだろう。このような悲劇を起こさぬためには、一刻も早く、万博会場のトイレ事情を改善する抜本的対策を講じなければならない。 「真水だけ」はむしろ熱中症を高めるリスクも  もう一点、これもすでに多くの人が知る常識だが、熱中症対策で摂取が奨励される飲料は、真水ではない。  暑さで発汗すると体内から水分だけでなく電解質(ナトリウム)も失われる。そこで、のどが渇いたからと真水だけを飲んで脱水を補おうとすると、体内のナトリウム濃度が希釈されてしまい、飲水によるさらなる希釈を防ぐべく、一時的に口渇がおさまり水を飲まなくなってしまうのだ。さらに体としては薄まってしまったナトリウムの濃度をもとにもどそうと、余分の水分を排泄するため尿が出る。  つまり真水ばかり飲んでも、脱水が補正されるばかりか、むしろ助長してしまいかねないのである。万博会場ではウォーターサーバーが設置されるということだが、熱中症対策のために設置するのであれば、サーバーから出てくるのは真水であるべきではない。じっさいのところはどうなのだろうか。もし万博会場のいたるところで、スポーツ飲料が無料でふるまわれるなら、それこそ「いのち輝く未来社会」として画期的なことだと思うが。  万博とは直接関係ないが、熱中症対策としてのスポーツ飲料摂取についての注意点もひとつ挙げておこう。 「ペットボトル症候群」という落とし穴  読者の皆さんのなかにも、酷暑の環境下で仕事をされる方もいるだろう。昔と違い最近では、職場においても上司から「スポーツ飲料を十分に摂って熱中症対策するように」と気遣われることも増えてきているのではなかろうか。  ただ多くのスポーツ飲料には、電解質だけでなく糖分がふくまれている。もちろん脱水を予防したり補ったりするためには、摂取した水分がしっかり吸収されることが必要であり、これらの飲料にふくまれる糖分は、たんに味覚やエネルギー源としての意味合いだけでなく、消化管での吸収率を高める効果をもつことから非常に重要である。  しかし、日ごろからよくのどの渇き、いつも甘い飲み物を多く摂取しがちという人は、熱中症予防とはいえスポーツ飲料の多飲には注意が必要だ。とくに定期的な健康診断をおこなっていない人などが、糖尿病の発症に気づかないまま糖質の多い飲料を飲みすぎてしまうと、一気に高血糖になってしまうことがある。  糖尿病というと、お菓子やケーキの過剰摂取、ご飯類や麺類の食べ過ぎ、多量の飲酒などの食生活習慣を思い浮かべやすいが、毎年夏場に急に糖尿病が悪化した人のなかに「熱中症対策のために飲んでいたスポーツ飲料」が原因であった人が散見される。 未来を語る万博は酷暑を乗り越えられるのか  このような人に話を聞くと、「飲んでも飲んでものどが渇くし、尿もたくさん出てしまうから、脱水になっちゃいかんとまた飲んで……ということを繰り返していました」とおっしゃることが多い。これは急性の糖尿病の一種、ペットボトル症候群という非常に危険な悪循環に陥っている可能性があるので、早急に医療機関を受診する必要がある。  このように、熱中症、脱水におちいりやすい環境では、日よけやクーリング、水分摂取はもちろん重要だが、それのみならず、電解質バランス、血糖コントロールについても十分に留意しなければならないし、個人個人の基礎疾患や、その日の体調によってもリスクは大きく変動しうる。  酷暑の真夏を目前に、このような準備態勢で万博を成功できると推進してきた人たちに、こうしたリスクははたして見えていたのだろうか。見えていたのに、気づかぬふりを決め込んでいたのだろうか。  「リスクがあるのは当然。それを自分で調べて、自分で準備して、すべては自己責任で」というのが「いのち輝く未来社会のデザイン」の基本的なコンセプト、具体的なメッセージだというのであれば、推進の旗を振ってきた人たちの顔を思い浮かべて、妙に納得してしまう自分もいるのだけれども。 (医師/東京科学大学医学部臨床教授:木村 知)  
【中国漁船が押し寄せる】日本近海に眠る“とてつもない資源”とは?
【中国漁船が押し寄せる】日本近海に眠る“とてつもない資源”とは? ※写真はイメージです(gettyimages)   【中国漁船が押し寄せる】日本近海に眠る“とてつもない資源”とは? 「経済とは、土地と資源の奪い合いである」 ロシアによるウクライナ侵攻、台湾有事、そしてトランプ大統領再選。激動する世界情勢を生き抜くヒントは「地理」にあります。地理とは、地形や気候といった自然環境を学ぶだけの学問ではありません。農業や工業、貿易、流通、人口、宗教、言語にいたるまで、現代世界の「ありとあらゆる分野」を学ぶ学問なのです。 本連載は、「地理」というレンズを通して、世界の「今」と「未来」を解説するものです。経済ニュースや国際情勢の理解が深まり、現代社会を読み解く基礎教養も身につきます。著者は代々木ゼミナールの地理講師の宮路秀作氏。「東大地理」「共通テスト地理探究」など、代ゼミで開講されるすべての地理講座を担当する「代ゼミの地理の顔」。近刊『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』の著者でもある。 日本は資源大国!? 資源をめぐる攻防とは?  日本近海の海底にはメタンハイドレートやマンガン団塊、レアアース泥などの埋蔵が確認されています。メタンハイドレートは「可燃性氷」と呼ばれ、海底下に凍結しているメタンガスを含む物質です。もし、これらの資源を商業ベースで採取・利用できる技術が確立すれば、エネルギー自給率を高める可能性があります。  一方で、海底の深度や地質構造の複雑さ、海流や潮汐の影響など、開発には高度な技術と膨大なコストが必要です。仮に実用化が進んだとしても、海底の掘削が海洋生態系に与えるリスクは無視できません。海底での作業が事故を引き起こした場合、環境破壊や漁業への影響が懸念されるため、環境調査と安全対策を徹底する必要があります。  また、その是非はともかく、二酸化炭素削減という地球規模の課題があるなかで、メタンなどの化石資源を新たに利用することへの批判もあるでしょう。技術面でも、探査ロボットや掘削装置の開発がカギになると考えられ、政府と民間企業が共同研究を進めています。 日本企業の取り組みは?  日本国内では海底資源の探査技術を発展させる取り組みが進みつつあります。  例えば、政府系機関や民間企業が共同開発を行い、無人潜水機(ROV)や海洋ロボットを用いた深海の資源調査を定期的に実施しています。これらの探査装置は、水深数千メートル級の海域でも海底の地形や埋蔵物を高精度で把握できるといわれています。  近年は人工知能(AI)を組み合わせた自律運航技術の研究も加速しており、作業員の安全確保やコスト削減が期待されているようです。実際にメタンハイドレートの小規模試掘において、海底土壌の採取やサンプル分析で一定の成果を上げた事例があります。 日本が海洋国家として生き残るために  さらに、海底採掘が現実味を帯びるにつれて、海洋インフラの整備にも注目が集まっています。例えば、掘削拠点に電力を供給するための洋上風力発電や海底ケーブルの整備をあわせて検討する動きがあります。ここで重要なのは、こうした技術やインフラが単に新しい資源開発に役立つだけでなく、将来的には災害対策や国土強靱化の観点からも大きな意義を持つかもしれないという点です。  日本が海洋国家として生き残るためには、日本の領域が持つ地理的特性を活かしながら資源開発の総合戦略を策定し、周辺国との摩擦を最小限に抑えつつ持続的な経済発展を目指す必要があります。 多様な資源を巡る隠れた攻防  こうした状況は、日本が海底資源開発に本腰を入れることで、地理的な制約を克服しようとする挑戦です。そして、我々の日常生活をさらに豊かにするためにも重要なことです。  成功すれば新しいエネルギー源を確保すると同時に、海底資源開発の技術立国としての立場を強化できます。  日本のEEZには、水産物を含む多様な資源が豊富に存在します。遠洋漁業の分野では、マグロやカツオなど国際的にも需要が高い魚種が獲れるため、漁獲量と資源管理を巡って国際競争が激化しています。近年、中国漁船による違法操業が問題視されており、尖閣諸島(沖縄県)周辺などで日本との摩擦が生じています。これは水産資源を含む経済的利益の確保を狙った動きと考えられます。 (本原稿は『経済は地理から学べ!【全面改訂版】』を一部抜粋・編集したものです)  
オーストリアにも「ランドセル」はあるの? 日本のものより“コスパがいい”理由とは
オーストリアにも「ランドセル」はあるの? 日本のものより“コスパがいい”理由とは ランドセル商戦真っただ中のウィーンのランドセル売り場。小学校低学年の子供たちの好きそうなデザインが並んでいます  ランドセルは日本特有のものと思っていませんか? 実はヨーロッパの一部の国、特にドイツやオーストリアでもランドセルが使われています。同じ「ランドセル」と呼ばれるものでも共通点もあれば違いもあるのがおもしろいところ。オーストリアの首都・ウィーン在住のライター、御影実さんが現地の学用品事情をレポートします。 個性豊かなオーストリアのランドセル  日本とは教育や育児に関する考え方やスタイルが異なるヨーロッパ。中欧の古都ウィーンで、中学生、小学生と幼稚園児の3人の子供たちを育てていく中で、少しずつこの国の教育の仕組みや背景への理解が広がり、海外で育児する楽しさや面白さを実感しています。  ウィーンの学校や子供たちの生活は、日本との違いも大きいですが、意外なところに共通点もあります。今回は、学校生活の中でも身近な、学用品や文房具についてご紹介していきます。  9月に新学期が始まるウィーンでは、ランドセル商戦は春のイースターシーズンに到来します。私には今年9月に小学生になる娘がいますが、イースター前にランドセルを用意することができ、ホッと一息つきました。これから半年かけて、新学期に必要な文房具を揃えていきます。 ウィーンの文房具店の学校用品売り場。上にカラフルなランドセル、その下は文房具、ノート類、お道具箱等様々なデザインがずらっと並んでいます 「オーストリアにも日本のようなランドセルはあるの?」と思う方もいらっしゃるかもしれませんね。実は、オーストリアやドイツでは、外見こそカラフルで個性的なデザインが多いですが、機能や形状は日本のものと同じランドセルがあります。  オランダ語の「ランセル」(革製の四角い背負いカバン)が日本語のランドセルの語源となったのですが、ドイツ語圏の小学生が背負っている通学リュックは、「学校用ランセル」「学校用カバン」を意味する「シュールランツェン」や「シュールタッシェ」と呼ばれています。  オーストリアのランドセルも、以前は日本のように革製だったのですが、現在はビニール素材で、色や絵柄もバリエーション豊富です。男の子用にはサッカーボールや恐竜、人気のアニメキャラやスーパーヒーローが、女の子用にはユニコーンやディズニーキャラ、かわいい動物柄などが人気です。  親としては、低学年で飽きてしまうキャラクターものより、長く使い続けられるデザインを選んでほしいと思うものですが、最近はその間を取った画期的なグッズ「クレッティーズ」が流行っています。好きな絵柄を選んでカスタマイズできるグッズで、ランドセルにマジックテープで貼り付けられるようになっています。  子供の年齢や好みに合わせて付け替えたり、友達と交換したりできますし、同じ外見のランドセルが並んでいても絵柄で見分けやすくなっています。私の娘のランドセルにも、別売のクレッティーズで好きな絵柄を買い足そうと思っています。 フラップやポケットについている丸い飾りが「クレッティーズ」。マジックテープで取り外しができます ランドセルのコスパはよい?  次に、ランドセルの機能面を見てみましょう。まず日本のランドセルと同じく形が箱型で、大きなフラップがついています。このフラップを開けると、教科書やノートを入れる部分と、お弁当や水筒、筆箱などを入れる広いスペースに分けられていて、日本のランドセルと同じ構造をしていますね。外側はポケットが多いほか、背中にあたる部分はクッション入りメッシュ素材で蒸れにくく、胸や腰のベルトで重さを分散できるようになっているので、体への負担は極力軽くなっています。 ランドセルの中身は日本と似ています。同じ絵柄の筆箱や体操服袋もセット売りされています  気になる価格は150~240ユーロ(約2万5千円~3万9千円)。オーストリアの小学校は4年制で、耐久性がそこまで必要ではなく、ビニール製なので、日本の平均価格より少しお手頃です。一つのランドセルを使い続けるのではなく、壊れたら気軽に買い替える人も多いです。 *  *  *  世界各地で暮らす日本人ライター集団「海外書き人クラブ」のメンバーが現地の教育事情のリアルをお届けする連載「現地発!教育レポート最前線 世界のまなびば見聞録」。国や地域が違えば、学びのカタチもさまざまです。世界の教育事情から、子育てのヒントが見つかるかもしれません。記念すべき初回は、オーストリア・ウィーン在住のライター、御影実さんが現地の学用品事情をレポートしてくれました。今後、順次更新していきます。
東進はなぜ給付6000万円「新築マンション価格並み」の海外トップ大留学支援を続けるのか
東進はなぜ給付6000万円「新築マンション価格並み」の海外トップ大留学支援を続けるのか 2025世界大学ランキング3位のハーバード大学。世界トップクラスの大学として君臨している(photo アフロ)  従来は「留学するなら大学院から」という考え方が主流だったが、今は有名進学校の「正統派のできる生徒」が海外トップ大学を選ぶという。東大か海外トップ大か。進路を分ける決め手とは――。 *   *   * 「大谷翔平選手ら日本人メジャーリーガーの活躍も、最初にその道を切り拓いた人たちがいたからこそ。そんな先駆者を一人でも多く生み出していくのが務めだと考えています」  こう話すのは、大手進学塾「東進ハイスクール」(以下、東進)などを運営する「ナガセ」(東京都武蔵野市)の渋川哲矢専務取締役だ。7年連続で800人超の東大現役合格者の輩出を誇る東進が、破格ともいえる海外大学留学支援制度を創設しているのを知る人はそう多くないだろう。  ハーバード大、イェール大、スタンフォード大、ケンブリッジ大学、オックスフォード大など米英のトップレベルの大学に進学する学生を対象に、4年間で一人あたり総額40万ドル(米国の場合)を給付する制度。じつに日本円で約6000万円、国内の新築マンションの平均価格に相当する支給額だ。学費だけで年900万円前後とされる海外大学で生活費込みのサポートを受けられる、まさに「丸抱え」の制度といえる。 毎年最大10人に返済不要で6000万円!  もちろん返済は不要。東進の全国統一高校生テスト決勝大会選出者の中から人物評価面接を行い、各学年毎年最大10人の支援対象者を選抜している。  とはいえ、支援対象に選ばれても多くは東大に進学するため、創設当初は海外大学に進学する学生がゼロの年が続いた。転機は2019年、最初の支援生を輩出した。その後はコロナ禍で低迷したものの、ここ数年は志望者も増加傾向にあるという。  海外志向の潮流は有名進学校でも起きている。開成高校(東京都荒川区)OBでもある渋川さんはこう説明する。 「例えば、開成高校のトップ10に入る生徒も『東大オンリー』ではなく、海外のトップ大学を併願するケースが増えています。従来は『留学するなら大学院から』という考え方が主流で、高校を卒業してすぐに海外大学に進むのは少し変わり者のように捉えられていましたが、今は『正統派のできる生徒』が海外大学を選ぶイメージです」 2025世界大学ランキング1位のオックスフォード大学(photo アフロ) 開成高校から海外トップ大へ  東大合格者数のトップ校として知られる開成高校は18年に6人、19年に5人、20年には11人と、近年は海外トップ大学に進学する生徒が多い高校としての評価も定着している。  渋川さんはこの背景について「ハーバード大教授を務めた柳沢幸雄さんが校長に就任した11~20年ごろを境に、グローバルで活躍できる人材を育てる機運の盛り上がりとともに、海外大学進学を後押しする流れが定着した」と指摘する。   柳沢さんは18年の東大新聞のインタビューに、「優秀な学生が海外に進学するようになったのは、日本の未来に対する不安感や、企業の採用方法・採用基準の変化が理由なのではないか」と指摘。その上で「生徒は海外に行った先輩を見て『あ、あの先輩が海外に行っちゃった。あの人でも行けるなら俺も行ける』と思うんです。そうなると海外への進学という選択が雲の上の夢物語ではなく、現実になっていく」と話している。 エッセイと小論文は違う  米国の大学に入学するには、英語力はもちろん、共通試験であるSAT(大学進学適性試験、日本の大学入学共通テストに相当)にパスする必要があるが、「東大や京大に合格する学力レベルがあれば、学科試験に向けた特別な勉強をする必要はない」(渋川さん)。むしろ留意すべきは、個人の行動特性にかかわる素地だという。なぜなら、合否を決するポイントはエッセイの評価だからだ。 日本の大学入試とは違う能力が求められる海外大学の受験。どう対応すればいいのか(photo gettyimages) 「日本の大学入試の小論文とは根本的に違います。起承転結を踏まえて理路整然と書けばよいわけではなく、強いて言えば、ラブレターに近いイメージです」(渋川さん)  エッセイの素材は学びの意欲のベースとなる夢や志にとどまらない、行動実績が必須だという。興味の対象に向かってどれだけがむしゃらに頑張り、リーダーシップを発揮し、困難や苦難を乗り越え、粘り強く努力して成功を勝ち取ったか。問われるのは18年間の人生で培った経験の中身だ。実際、エッセイで高い評価を得るのは「尖ったタイプ」の受験生で、合格率も高いという。  重視されるのは、大学卒業後に社会で活躍しそうな潜在力や、それにつながる再現性のある能力と熱意を備えているかどうかだ。 「そういう行動実績を重ねてきた人であれば、若干のテクニカルなアドバイスを踏まえ、エッセイでしっかりアピールすれば海外大学に合格できます」(同) 進学後も多くのことを乗り越えなければならないのが海外大学。目指すには覚悟が必要だ(photo gettyimages) 日本の大学よりはるかに過酷  大学進学後も、海外大学が向いているタイプとそうでないタイプで明暗が分かれるという。人間関係を含む精神的プレッシャーは日本の大学よりはるかに過酷だからだ。周囲の誰もが日本のことをよく知らない海外の大学では、自己紹介で国内の出身校を挙げてもほとんど意味がない。そこで求められるのは「あなたは何者ですか」と問われた時に、自分で自分をプレゼンする言語力もさることながら、重要なのはその中身だと渋川さんは強調する。 「私という人間が何に属しているかではなく、何に興味があって、これまで何を成し遂げ、この先、周囲にどんなユニークな影響を与えられる存在であるかをアピールし、周囲に『この人と一緒にいれば、互いに学び合えるところがありそう』と感じてもらうことが大事です。それができないと学生生活を楽しめないし、活躍もできません」  母語が使えない環境では、物怖じしない行動力とコミュニケーション能力が一層求められる。こうした点も踏まえ、東進の海外大学留学支援制度の対象者を選考する面接で渋川さんはまず、「本気度とパッション」を確認するという。  安全な場所から飛び出せる?  自分が海外大学向きかどうかを自己分析することも可能だ。具体的にこんなシーンを思い浮かべるのがよいという。  例えば、翌日に試験があり、十分な準備ができていなかったとする。その状況で突然、関心のある分野で活躍している卒業生を招いた講演会がその夜に開かれるのを知った時に、講演会場に出向く行動を選択できるか。さらに帰宅後、明け方まで勉強し、試験で立派な成績を残す努力を完遂できるか。渋川さんは言う。 「自分はコンフォートゾーン(快適な領域)を飛び越える選択ができるタイプかどうかを見極めるのが大切です。安全で快適な場所や人の輪の外に飛び出していかないと、本当の学びは得られません。不安だけど飛び込んでみる。そういう選択ができる行動力のある人は海外の大学に向いており、また海外はそういうチャンスにあふれています」  東大法学部を卒業後、外資系コンサル勤務を経て、04~06年に米国デューク大大学院のビジネススクールを修了した渋川さんは自身の留学体験を踏まえ、こう唱える。 首都圏のトップ進学校である開成中学・高校。東大だけではなく海外進学する生徒が増えている 圧倒的に人気があるのはスタンフォード大 「私の場合は大学院でしたが、そもそもなぜ留学したのかと問われれば、世界の様々な国や地域の人たちとの出会いのチャンスを生かしたいと思ったからです。思いきってそういう場に身を投じたからこそ、その後の人生の糧になるような人たちと深く知り合うことができました。筆記試験の成績だけを磨きたい人には向いていないと思います」  では今どきの若者には、どんな海外大学が選ばれているのか。学生に圧倒的な人気を誇るのが、コンピューターサイエンスやデータサイエンスに強いスタンフォード大だという。 「今はどの専門領域も、AIやビッグデータと掛け合わせることで技術革新につながる可能性が高いことに加え、シリコンバレーのスタートアップと結びつきの強い教授陣が多いのが人気の要因です」(同)  米国のトップ大学の学生の男女比はほぼ半々。東進の海外大学志望者も男女比の偏りは感じられない、と渋川さんは言う。これは、合格者の女子比率が「2割の壁」を越えられない東大と対照的だ。とはいえ、渋川さんは近年の東大の取り組みに注目しているという。 東大がグローバルの扉を開ける  その代表例が、27年に開設予定の新課程「カレッジ・オブ・デザイン」だ。授業はすべて英語。学部と大学院修士課程にまたがり、海外から約半数の学生を受け入れ、1年次は全員が都内の学生寮に入る。学部長は東大として初の外国人が就く。欧米で主流の秋入学を採用し、入試は従来の筆記試験と異なり、書類と面接で選抜する。渋川さんはこう評価する。 「これは海外のトップ大学に行かなくても、東大がグローバルな教育水準を提供できる場になるということ。東大を頂点とする国内大学のヒエラルキーに閉じることなく、東大がグローバルの扉を開ける意義は大きい」  東進でも従来とは異なり、受験科目にはないワークショップやディスカッションなどを通じ、多様性を重視した教育の導入を進めているという。渋川さんはこう強調した。 「東大合格が人生のピークになってしまうのは、本人にとっても社会にとっても不幸です。東大に合格する優秀な人たちには『ノブレス・オブリージュ』(高い地位にある者の社会的責任)があり、個人としての幸せの追求だけでなく、社会の中で課題解決に取り組む責務があることを、とりわけ強く身に刻んでほしいと考えています」 (AERA編集部・渡辺 豪)   【特集:どうなの?海外進学 東大VSハーバード】 #1【海外進学・最新事情】東大VSハーバード 入試、授業料、就職先…比較してみたら https://dot.asahi.com/articles/-/256755 #2東大VS.ハーバード、どちらが上? 灘高、東大、ハーバード卒の芦屋市長が明かす18歳で海外大学を選んだ理由 https://dot.asahi.com/articles/-/256718 #3国内エリートから社会のリーダーは育つか 灘高、東大、ハーバード卒の芦屋市長28歳が「マイノリティーの経験」から得た気づき https://dot.asahi.com/articles/-/256721 #4東大合格者数で「名門」ブランドを競い合っていたが… 首都圏の有名進学校が海外トップ大進学に注目するワケ https://dot.asahi.com/articles/-/256873 #5東進はなぜ給付6000万円「新築マンション価格並み」の海外トップ大留学支援を続けるのか https://dot.asahi.com/articles/-/256742 #6「東大よりハーバード」は本当? 日本の高校生の”海外志向”もコスパの良さでは理系の国立大https://dot.asahi.com/articles/-/256879 #7東大生の「同質性」もガラリと変わる? 東大に70年ぶりに新学部誕生のインパクト https://dot.asahi.com/articles/-/256881
「米中関税戦争」での“中国勝利”に日本が学ぶべきこと 安易な妥協はせず「苦難も受け入れて戦う覚悟」を持つ 古賀茂明
「米中関税戦争」での“中国勝利”に日本が学ぶべきこと 安易な妥協はせず「苦難も受け入れて戦う覚悟」を持つ 古賀茂明 古賀茂明氏    ――「粟と歩兵銃」を知らずに負け戦を始めたトランプ大統領。 彼が豹変する日が来ることを願ってやまない。――  この文章は、5月6日配信の本コラム「145%の関税で中国が屈すると考えたのは甘かった…トランプ大統領が知らない『粟と歩兵銃』の精神」に書いた最後の言葉だ。  そのわずか6日後の5月12日、米中両政府は、互いに課している追加関税を115%引き下げると発表し、世界を驚かせた。しかし、本コラムの読者はそれほどびっくりはしなかっただろう。時期が少し早かったのは驚きだったかもしれないが、結果はほとんど予想したとおりだ。  メディアは、どうしてこうなったのかを後付け的に解説しているが、それも前述のコラムであらかじめ分析したのと同じような内容だ。  米中関税戦争第1ラウンドの軍配はどちらに上がったのかと言えば、「中国勝利」という見方が圧倒的に多い。少なくとも米側の勝利だという論調は見られなかった。  ただし、中国側にも合意せざるを得ない苦しい事情があったということもまた共通して指摘されることだ。  6日のコラムに書いたことと重なる部分も多いが、まず、145%関税をかければ中国が短期間で音を上げるだろうと考えた「トランプ大統領の誤算」についてあらためて整理しておこう。  誤算その1は、中国は他のどの国よりも「メンツにこだわる国」ということを米国が過小評価していたことだ。145%関税は、確かに、中国にとって破壊的な打撃を与えるものだった。日本が同じことをされたら、すぐに白旗をあげて、大々的な譲歩を申し出ていたであろう。損得を考えれば徹底抗戦は「損」だという計算が働くからだ。  しかし、中国ではそれは許されない。メンツが丸潰れになるからだ。どんなに苦しくても、自分から折れたという形は取れない。損得勘定を超えた判断が優先される。  それは、米側が譲歩せずに中国側が先に譲歩するシナリオはないことを意味する。  誤算その2は、中国はかなり前から米国との経済戦争に対する準備を進めてきたことを、米国が正しく理解していなかったことだ。前述のコラムで書いたとおり、中国は第1次トランプ政権の時から、必死に対米依存度を下げようとしてきた。 米国のトランプ大統領と中国の習近平国家主席(写真:ロイター/アフロ)   「米国人には耐えられないことも中国人には耐えられる」  米国が繰り出した145%という数字はさすがに予想外だっただろうが、米国との貿易戦争が起きることは想定の範囲内だ。それに備えて対米輸出依存度を下げて他の地域への輸出を拡大し、大豆、豚肉など庶民の生活に欠かせない物資の対米依存度も下げていた。  そして、貿易戦争は来るべきものと予想していたことで、心理的に劣勢に陥ることもなかった。  誤算その3は、中国は1〜2年ではなく10〜50年単位で考える国だということだ。短期では大きな被害を受けても、それに耐えることで長期ではより大きな成果を得られるのであれば、短期の被害を甘受しようと考える。今回の試練を乗り越えれば、米国への依存を断ち切り、対等に戦える真の強国となれる。そう考えれば、短期的な痛みは産みの苦しみとして甘受できる。  誤算その4は、市場の力が米中両国にどう働くかを読み誤ったということだ。米国では、株、債券、通貨の三つが同時に下がるトリプル安という形で、市場の反乱が起きた。中国が米国債を大量売却するのではないかという恐怖感も背景にあった。  これをなんとか沈静化するには、米中関税戦争を小休止するしかないというところにトランプ大統領はあっという間に追い込まれたのだ。  一方の中国は、政府系ファンドが株を買い支えるなどして、市場を事実上直接的にコントロールできた。また、中国の財政は米国よりもはるかに健全で、赤字国債を発行して企業の支援に充てることができるということもアピールし、市場を下支えした。  基本的に市場の動きを政府が直接抑えられない自由主義経済の米国と管理経済の中国との差が出たのだ。  そして、最後の誤算が、「米国人には耐えられないことでも中国人には耐えられる」ということだ。  米国の企業や国民は、ロサンゼルスの港で中国からの貨物が激減する様子を見て、中国製品なしの経済・生活を想像してしまった。中国依存度の高い企業が倒産の危機を思い浮かべ、スーパーの棚から商品が消え始めたというニュースを見て、とても生きていけないと庶民は悲鳴をあげた。トランプ政権の支持率も下がった。  米国人は所得以上に消費する。彼らから消費を奪ったら、それは人生の破壊を意味する。これは、保守とかリベラルとかの政治的スタンスとは無関係だ。来年に中間選挙を控えるトランプ政権は、庶民の生活不安の声を無視することができなくなった。 経済、生活の悪化を中国国民の全てが「覚悟」  一方で、中国では、経済も生活も悪くなるだろうと国民全てが覚悟していた。すでに失業や倒産なども出始めていた。  それでも米国に安易な妥協はするなという市民の声の方が強かった。世論誘導の側面もあるだろうが、少なくとも、米国に比べれば、人々に「苦難を甘んじて受け入れて戦う覚悟」が備わっていたと見て良い。  その声に押されて、中国政府は、米国が譲歩しない限り中国から譲歩することはないという毅然とした態度を貫くことができたのだ。  パニックに陥った庶民の批判の矢が後ろから飛んでくるトランプ政権と国民の声援を背中に受ける習近平政権では、交渉に臨む環境が違いすぎる。  以上のような誤算の積み重ねの結果が今回の合意だと私は見ている。  前述のコラムで紹介した、「粟と歩兵銃」の精神(毛沢東が抗日戦争や中国内戦で掲げた「小米加歩槍(粟と歩兵銃)」というスローガン。今日的には、限られた資源(粟と小銃)で強大な敵に立ち向かうという精神を象徴するもの)は本当に健在だった。これを教えてくれた中国政府関係者の言葉に嘘はなかったのだ。  ただし、今回の合意はあくまでも第1ステップに過ぎない。今回中国が勝ったからと言って今後も楽勝できるということではない。  中国経済は依然として低迷している。中国政府は、中国経済が大きな困難に立ち向かいながらも順調に回復軌道に乗っていると発表しているが、そのまま信じる者はいない。 「景気は気から」という言葉に表わされるとおり、企業や消費者の経済に関する予想は実体経済に大きな影響を与える。中国政府は、この点を重視して、経済に関するポジティブな情報だけを公表しているようだ。  ウォール・ストリート・ジャーナルのウェブ版の5月4日配信の記事では、「How Bad Is China’s Economy?  The Data Needed to Answer Is Vanishing(中国経済はどれほど悪化しているのか?答えに必要なデータは消えつつある)」と題して、中国政府が何百ものデータの公開を中止したと報じている。データの提供を終了または保留する理由も明らかではない。元々中国の経済データについての信頼度は低かった。実際の成長率は発表よりもかなり低いのではないかという指摘は繰り返しなされてきた。 中国の「データ公開中止」の影響  中国政府が、「景気は気から」と考えて、企業や消費者にネガティブな情報を与えないようにしようと考える気持ちはわかるが、トランプ関税などの大きな困難にぶつかる中で、その影響がどう出るのか、世界中が関連するデータを欲しがっている時に、それが隠されるとなれば、逆に中国経済へのネガティブな見方に拍車をかける可能性がある。  もちろん、統計を出さないことは、統計がないことを意味しているわけではない。政府の関係部署は、最新のデータを入手できるはずだ。そこで正確な数字を把握すれば、的確な経済政策の立案に役立てることができる。  しかし、中国は社会主義だと言っても、実際の経済活動に占める民間企業のウェイトは高まっている。金融資本市場の参加者も庶民や海外投資家など幅広い。こうした民間のプレイヤーが正しい情報を得られなければ、正しい投資や消費行動を行うことができないから、いくら優秀な官僚たちが最善と考える政策を立案・実施しても、片方のエンジンが動いていないようなものだ。国の「正しい行動」と民間の不完全なあるいは間違った行動の合成の結果得られる成果は、決して最善のものにはならず、全ての情報を公開していた場合に比べてはるかに悪い結果になる可能性もある。  今回の合意によっても米国が課す30%関税は残る。145%関税よりははるかにマシだとはいえ、大きな壁が立ちはだかっていることに変わりはない。  90日の猶予期間内に新たな合意が成立して、関税のさらなる大幅引き下げや小口貨物への免税措置の復活が実現できれば、中国経済の回復も可能になるだろう。  しかし、第1ラウンドで中国を勝利に導いた「メンツの国」と「粟と歩兵銃」の精神という要素は、中国側からの安易な譲歩はできないということを意味する。145%関税で事実上の禁輸措置となった当初の局面は、米側が痛みに耐えられないという結果につながったが、30%関税であれば、米側の痛みはかなり減殺される。  小口貨物への免税措置廃止の継続により、SHEINやTemuなどの越境EC企業を通じて米国に製品を販売する企業の倒産やそれに伴う失業が広がる可能性も大きい。中国政府がいくら明るい経済ニュースを流し続けても、実体経済との乖離が大きくなれば、国民は誰もこれを信じなくなり、逆に真実を隠す政府への不満と経済に関する不安が高まることになるだろう。 EU、カナダも報復措置を掲げながら「対峙」  それでも中国の国民が政府とともに「粟と歩兵銃」の精神を堅持したまま米国と戦い続けることができるのか。国共内戦の時とは時代が異なる。豊かな暮らしに慣れた国民も多い。  中国が目指す米国に依存しない経済構造への転換という目標は共有できても、そう簡単には実現できない。10~50年計画で物事を考える政府に国民がついていけるのか。その点にも不確実性がある。  そう考えると、悲観的な要素が多いようにも思えてくるが、最近の中国産業が私たちの想像をはるかに超えるスピードで発展したこと、さらには、その背景には政府による極めて長期的視点に立った戦略があったことを考えると、今回の危機においても、私たちが知り得ない統計データを的確に見極めながら、中国経済を驚くほどのスピードで変えてしまうことができるのではないかという気もしてくる。  もし、中国政府がこれに失敗すれば、世界経済の最大の牽引車が一つ欠け、世界経済にとっての損失は甚大なものになる。中でも、中国への依存度が高い日本経済には大打撃だ。  本来は、日中が他のアジア諸国などと協力して、トランプ関税という前代未聞の横暴に立ち向かうべきである。  しかし、米国の暴挙に対して、中国のみならず、EU、カナダなどが報復措置を掲げながら対峙しているのに対して、日本政府は、報復は完全に封印し、トランプ大統領にただただひれ伏してご機嫌をとり、慈悲を乞うという態度に終始している。嘆かわしい限りだ。  中国がトランプ関税という許されない暴力に対して敢然と立ち向かい、これを克服することを、世界、そして、とりわけ日本経済のためにも期待するのは、決して私だけではないと思う。

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