夜食は「愛の不時着」チキン 明洞は死んだ?「私たちの韓国は健在だった」 最速観光ルポ【繁華街編】
明洞のメインストリート。コロナ前も夜は人通りが少なかったが、空き店舗のせいでより寂しく見える
ソウル一の繁華街として知られていた明洞(ミョンドン)。だがコロナ禍で海外からの観光客が途絶え、SNSなどでは「明洞が死んだ」と話題になっていた。いま、どうなっているのか。韓国観光公社主催のマスコミ関係者向け視察旅行2日目の6月16日夜、明洞を歩いた。
※記事<<ポストコロナの韓国観光「感涙」の最速ルポ コロナ後「初」の「テチャン」を体感【ドラマロケ地&K-POP編】>>より続く
明洞駅6番出口からメインストリートに出ると、巨大な白いビルが目の前に現れる。ここはかつてアジア最大規模の店舗としてにぎわっていた「ユニクロ明洞中央店」。2021年1月に閉店したが、いまも新たなテナントは入っていないようだ。その向かい側には、韓国のコスメブランド「ネイチャーリパブリック」の大型店舗がある。韓国で一番地価が高い場所(1平方メートルあたり1億8900万ウォン、日本円にして2000万円弱と報道されている)でもあるが、こちらは健在。明洞の顔ともいえる店が残っていることにホッとする。
通りを歩くと、やはり空き店舗が目立つ。一方で、食べ物の屋台がいくつか出ていたり、東京・渋谷にも支店がある有名セレクトショップ「A LAND」もメインストリートに移転オープンしていたり。欧米からの観光客もちらほら歩いていて、明洞復活の兆しが見え始めていた。
明洞チキン通りの「生活麦酒」にて。1羽分(2~3人前)で2万2000ウォン(取材時点で2300円)だった
ドラマ「愛の不時着」などの影響で、コロナ禍に日本での知名度が上がった料理といえば韓国式のフライドチキン。このチキンとビール(韓国語でメクチュ)を一緒に味わうことを“チメク”と呼び、韓国ではおなじみの組み合わせだ。
明洞芸術劇場近くの路地にチキン専門店が何軒も連なる通りがあったことを思い出し、夜食を食べに向かった。「ここもなくなっているかも……」と覚悟して路地に入ったが、杞憂(きゆう)だった。各店舗の前にはプラスチックのテーブルとイスがずらりと並び、どこもお客さんでいっぱい。表通りの静けさがうそのような光景が広がっていた。そのうちの1軒である「生活麦酒(センファルメクチュ)」に入り、クリスピーチキンとガーリックしょうゆ味のハーフ&ハーフ、生ビールをオーダー。久しぶりの本場のチキンは、ザクッとした食感がたまらない。店内はにぎやかで、隣のグループ客の声でこちらの会話が聞こえないくらいだ。「この感じ、懐かしいな」と思いながら、チメクを楽しんだ。
21年9月にオープンした明洞の人気カフェ「MOLTO」。テラス席から明洞聖堂とNソウルタワーが見える
視察旅行4日目、今度は昼の明洞を訪れた。人出はコロナ前と比べればかなり少ないが、店によってはにぎわいを取り戻している。ここ明洞などで観光案内の仕事をして7年目だという40代の女性が、こう教えてくれた。
「以前はコスメショップなど外国人観光客向けの店ばかりで、地元の若者はあまり明洞に来ませんでした。でもコロナの影響で店が入れ替わり、MZ世代(ミレニアル世代+Z世代。20~30代の若者たちを韓国ではこう呼ぶ)向けのショップやカフェが増え、地元客が多くなってきています」
アップルストアやナイキの大型コンセプトショップなど、世界的ブランドも新たに明洞に出店している。
自分の肌の色に合ったファンデーションを作れるサービスが人気。まずはスタッフと一緒に専用プログラムで診断
ソウル旅行の定番が明洞なら、最旬エリアは聖水洞(ソンスドン)だ。町工場をリノベーションしたおしゃれなカフェやショップが数年前から増加し、“ハップル”(韓国語でホットプレイスの略で、話題のスポットのこと)としてSNSでもよく紹介されている。2年半ぶりに訪れた聖水洞は、お店がさらに増え、若者たちであふれていた。
車の整備工場をリノベーションした「アモーレ聖水」は、1945年創業の大手化粧品メーカーであるアモーレパシフィックが手掛ける複合空間。同社の40余りのブランドから約1800種類のアイテムを試すことができるショールームや、緑茶メニューが売りのカフェなどを備える。2021年4月からスタートした、100色のベースカラーと2種の質感(マットとグロウ)から自分に合ったファンデーションを作れる有料のサービスが特に好評だ。予約制ということでこの日は試せなかったが、独自のプログラムで診断しロボットが製造するという工程が興味深かった。
華やかな外観がフォトスポットになっている「ディオール聖水」。22年11月まで運営予定の期間限定ストア
聖水洞で今一番のハップルはおそらく、フランスの高級ブランド「ディオール」のポップアップストアだろう。22年5月にオープンしたばかりだが、日によっては1~2時間ほど待たないと入店できないそうだ。中に入らずとも、きらびやかな建物の前で写真を撮る人が多く、訪れたときも20~30代と思われる女性たちがひっきりなしに撮影していた。
アイドルの誕生日を記念したフレームをファンが制作。ファンが指定した期間中はそのフレームで撮影できる
フォトスポットといえば、聖水洞をはじめソウルの街のあちこちに無人セルフ写真館があるのが目についた。日本のプリクラのようなものだが、盛るというよりはナチュラルに撮れ、4~6カットのコマが1枚になっているという違いがある。17年頃から流行しており、日本でも東京・新大久保などに上陸しているが、その数がコロナ前より格段に増えていた。スマホの写真とは違うアナログ感と、思い出を物で残しておける点がウケているという。今後は日本人観光客にとっても、訪れた街でセルフ写真を撮るのが定番になるかもしれない。
4泊5日の結論。私たちの韓国は健在だった。コロナ前以上の活気が戻ってくると確信した。(執筆・写真 土田理奈/omo!)
dot.
2022/06/29 17:00