福井しほ
SNSに「美女とデート」の文言と写真を投稿する先輩 女性「キモいな」と思っても断れなかったわけ
今年3月、「痴漢撲滅に向けた政策パッケージ」が初めてとりまとめられた。内閣府の調査では、16歳から24歳の女性の10人に1人が痴漢被害に遭っているという(撮影/写真映像部・高野楓菜)
個人によるSNSの投稿、企業の広告やキャンペーンなど、過度に性的な表現が目につく。性的な搾取の背景には何があるのか。AERA 2023年10月30日号より。
* * *
バイト先の先輩と食事をしたとき、ふいにこう聞かれた。
「写真撮らせて」
これか、と思った。ここ1カ月ほど、その男性のSNSに女性の手もとや胸もとを強調した写真とともに「美女とデート」という文言が並ぶようになった。顔は写っていないが、服装や時計から同じバイト先の同僚だと想像できた。「いいね」をつけた人を確認すると、知り合いのアカウントがいくつも並んだ。
「キモいなと思ったけど、そういうものだとみんな受け入れているし、断って『ノリが悪い』と思われるのも嫌でした。今も時々思い出しては、言うべきだったのかなと悶々(もんもん)としています」
都内に住む20代の会社員女性は、学生時代の体験をそう振り返る。撮られる時間はほんの一瞬だったが、体がこわばったことを、今でもはっきりと覚えている。
触られたわけでも、性的な言葉を投げかけられたわけでもない。ただ写真を一枚撮られただけ。そう思ってやり過ごそうとしたが、自分の大切な何かを傷つけられたような気がした。
罪悪感抱かせない言葉
「ネットに性的なコンテンツが上げられるとき、そこには罪悪感を抱かせないために消費者を喜ばせる言葉を付随させることが多いんです。それを見続けることで、『女の子はこういうふうに扱われることを喜ぶものだ』という認識が繰り返し刷り込まれていく現状があります」
【こちらも話題】
教員や塾講師の10人に1人は小児性愛者の可能性も 「日本版DBS」への期待と、法のすきまへの懸念
https://dot.asahi.com/articles/-/200808
AERA 2023年10月30日号より
そう説明するのは、デジタル性暴力の被害者支援に取り組むNPO法人「ぱっぷす」支援員の内田絵梨さんだ。「スタイルがいい」「魅力的だよ」「かわいいね」といった評価が自分の価値であると錯覚させる。そうして、性的に搾取していることにも、されていることにも気づきにくい構造が作られていくという。
性的な搾取の構造は、「女の子はこうあるべき」という偏見も刷り込む。それは、個人が投稿するコンテンツにとどまらない。公共の空間に掲示されるポスターや、不特定多数の人が目にする広告、企業のコラボキャンペーンなどでも、過度に性的な表現が幾度となく指摘されてきた。
AERA 2023年10月30日号より
ここ数年でも、2019年には、胸を強調するポーズの漫画キャラクターを使用した日本赤十字社の献血啓発ポスターが論争を呼び、20年には環境省の温暖化対策の取り組みのための女子高生キャラクターが炎上。また同年には、玩具メーカーのタカラトミーが自社の看板商品であるリカちゃん人形を宣伝する際に、女児への性犯罪を想起させる文言をSNSに投稿し、謝罪した。
特に問題なのは子どもや未成年者を性の対象として扱うことを容認してきた空気だ。旧ジャニーズ事務所(SMILE-UP.)の創業者、故・ジャニー喜多川氏による性加害の被害者の多くも10代だったが、03年の東京高裁判決で喜多川氏の性加害が認定されても見過ごされ、その後も被害が続いた。(編集部・福井しほ)
※AERA 2023年10月30日号より抜粋
【こちらも話題】
「お父さんが布団に入ってくる」12歳少女は泣きながら訴えた 性虐待、逆転有罪判決がもたらす光
https://dot.asahi.com/articles/-/79633
AERA
2023/10/25 10:30