
4歳娘の友達に「おじいちゃん」に間違えられた50歳父親 「若い親に交じるのが嫌」に論語パパが答える
40代後半で第一子が生まれ、父親になった相談者。娘の保育園の送迎時に、「おじいちゃん」に間違えられてしまい落ち込んでいます。「論語パパ」こと中国文献学者の山口謠司先生が、「論語」から格言を選んで現代の親の悩みに答える本連載。今回の父親へのアドバイスはいかに。
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【相談者:4歳の娘を持つ50代の父親】
保育園年少の娘を持つ50歳の父親(妻は42歳)です。先日、保育園の送迎時に娘の友達が私を見て「〇〇(娘の名前)ちゃん、おじいちゃんが(迎えに)きているよ!」とみんなの前で言い、それを聞いた娘が「私のパパよ」と伝えましたが、そばにいた友達の母親は、その子をたしなめることもしませんでした。私は白髪も多いですし、中年のおじさん体形、孫がいる同級生もいる年なので「おじいちゃん」に間違えられても仕方ないのですが、正直不快で落ち込みました。この先娘が小学校にあがって、父親が高齢であることで恥ずかしい思いをしたり、いじめられたりしないかも、今更ですが心配になりました。
※写真はイメージです(写真/Getty Images)
この日から自分より若い年齢の親たちに交じるのが嫌になり、迎えにも行きたくなくなってしまいました。情けないのですが、父親としてどのような心持ちでいるべきかご指南ください。
【論語パパが選んだ言葉は?】
・「子曰(い)わく、君子は人の美を成し、人の悪を成さず。小人は是(こ)れに反す」(顔淵第十二)
・「子曰わく、甚(はなはだ)しいかな、吾(わ)が衰えたるや。久しいかな、吾(わ)れ復(ま)た夢に周公を見ず」(述而第七)
【現代語訳】
・孔子がおっしゃった。「立派な人は、他の人の美点や長所を褒めて伸ばしてやり、悪いところは見ないようにして悪徳が完成しないように努めるが、小人は反対に、美点や長所を妨げ、悪いところだけを指摘し騒ぎ立てる」
・孔子がおっしゃった。「私もずいぶん年をとって肉体が衰えてしまったなぁ。以前は最も理想とする人物である周公をよく夢に見た。しかし今は久しく夢にみなくなってしまった」
【解説】
相談者さん、自信を持ってください!
「子曰(い)わく、君子は人の美を成し、人の悪を成さず。小人は是(こ)れに反す」(顔淵第十二)
と、『論語』にあるように、孔子の生きた春秋時代(紀元前6世紀~同5世紀)から、世の中には、人の欠点ばかりをあげつらう人が多かったのです。他人のいいところだけを見て伸ばしてやり、人の欠点は見ないようにすることこそが「君子(立派な人)」だと、孔子は教えていますが、現実にはそうでない「小人」があふれていたのです。
娘さんの友達から「おじいちゃん」と言われても、そんなこと決して気にすることなどありません。無視してください。そして、若い年齢層の他の親と交わるのが嫌になるなんて思わないで下さい。人はそれぞれ違います。年齢がちょっと上であるくらいの親がいてもおかしいことでは決してありません。昔は、10人ほどの子どもがいる人もたくさんいました。一番上の子どもと一番下の子どもの差が10歳以上ということも珍しくなく、一番下の子どもからすれば「父親」は「おじいちゃん」のように見られるということも少なくなかったのです。気にすることなどありません。年齢が上ということは、別の言い方をすれば経験を積んでいるということです。若い親の人たちに教えてあげられることも少なくないのではないでしょうか。
ところで、もし「白髪」「中年のおじさん体形」を気にしていらっしゃるのなら、今こそそういう外見的なことも、内面と一緒に若返りましょう。「人生100年」という時代。相談者さんが、あと50年生きると考えれば、ちょうどUターン地点です。娘さんの将来を考えれば、まだまだ自分から、「人と比べて年をとっている」なんて考える年齢ではありません。髪の毛やお肌の手入れ、飲食を含めた生活態度、仕事への意欲、家族との将来、後世に残すべきものなど、総合的に自分の生き方、生活の仕方を考える節目に立っているのだと考えてみてはいかがでしょうか。
「子曰わく、甚(はなはだ)しいかな、吾(わ)が衰えたるや。久しいかな、吾(わ)れ復(ま)た夢に周公を見ず」(述而第七)
孔子も、晩年「私も、ずいぶん年をとって衰えてしまったなぁ」と嘆いています。孔子が嘆くのは、「周公旦」という、理想とし、仰ぎ慕っていた聖人の夢を見なくなったからなのですが、相談者にとって理想の人は誰かいらっしゃいますか?もしあれば、「その理想の人だったら、今、どう考えるか、どう行動するか」と考えてみませんか。
「父親としてどのような心持ちでいるべきか」ということは、自分がどのように生きるかということと無関係ではありません。
第三者的に自分を見つめ、また、そうした訓練を積むことで、娘さんを「迎えに行きたくなくなってしまう」などという否定的な気持ちは容易に消してしまうことができるようになるのではないでしょうか。
われわれは今、時代の転換点にいます。「今」だけを考える「インスタント式の思考」から、後世に何を残すか、遺せるかという深い思考が必要な時代に生きているのです。自分を磨くこと、そして深くて広く、常に若々しく柔軟な思考ができるようにすること、そのためには何をすべきか、ということを考えてみられるといいのではないかと思います。内面の「若さ」は、外見にも表れるのです。
【まとめ】
昔から人は他人の欠点ばかりに目がいきがち。指摘は気にせずに、「自分が理想の人ならどう生きるか」、第三者的に自分を見つめよう
山口謠司(やまぐち・ようじ)/中国文献学者。大東文化大学教授。1963年、長崎県生まれ。同大学大学院、英ケンブリッジ大学東洋学部共同研究員などを経て、現職。NHK番組「チコちゃんに叱られる!」やラジオ番組での簡潔かつユーモラスな解説が人気を集める。2017年、著書『日本語を作った男 上田万年とその時代』で第29回和辻哲郎文化賞受賞。著書や監修に『ステップアップ 0歳音読』(さくら舎)『眠れなくなるほど面白い 図解論語』(日本文芸社)など多数。2021年12月に監修を務めた『チコちゃんと学ぶ チコっと論語』(河出書房新社)が発売。母親向けの論語講座も。フランス人の妻と、大学生の息子の3人家族。