子どもたちはなぜ「マイクラ」に夢中になるのか? マインクラフトの“プロ”が語る、教育効果と魅力とは
“プロ”のマインクラフターのタツナミシュウイチさん(写真/高野楓菜)
子育て家庭の多くが「子どもがゲームにハマって困っている」という悩みを抱えていますが、教育現場ではゲームが活用されはじめています。その最前線で活躍しているのが、小学生に爆発的人気のゲーム「マインクラフト」のプロマインクラフター・タツナミシュウイチさんです。「マイクラおじさん」の愛称で親しまれるタツナミさんに、マイクラの教育効果とその魅力について話を聞きました。
マイクラの遊び方は「人それぞれ」 それが何よりの魅力
――マインクラフトとはどのようなゲームですか? なぜ子どもたちはこれほどマイクラに夢中になっているのでしょうか?
マインクラフトはスウェーデン生まれのゲームで、全世界の累計販売数は3億を突破し、「世界で一番プレイヤーが多いゲーム」です。でも、なぜマイクラがこれほど人気なのかを説明するのはなかなか難しいなと感じています。
ゲームにはいろんなタイプがありますよね。異世界を冒険して、宝物を探したり誰かを助けたりするゲームは「ロールプレイングゲーム」、街の運営や乗り物の運転など、実世界でも行われることをデジタル空間で仮想体験するゲームは「シミュレーションゲーム」です。このような分類でいうと、マイクラは「サンドボックスゲーム」の一つです。
――サンドボックスゲームとは、なんですか?
サンドボックスとは、砂場のこと。つまり、砂場のように好きに遊んでいいゲームなんです。山をつくってトンネルを掘ってもいいし、泥だんごづくりをしてもいい。もっと大規模で複雑な作品にチャレンジしてもいいし、その実況を動画にしてもいい。まるで砂場で遊ぶかのように自由に動き、創り、壊し、再設計するゲームで、遊び方は人それぞれ異なるんです。またオンラインで友達とつながって、一緒に建築や冒険を楽しめることも大きな魅力です。
ゲームというより「自分を発揮するプラットフォーム」
――マイクラの全国大会として、毎年「Minecraftカップ(マイクラカップ)」がおこなわれていますよね。これはどのようなイベントでしょうか?
「教育版マインクラフト」でつくられた作品で内容を競い合う「マイクラカップ」は、今年で6年目を迎えました。ゲームで才能を発揮する子どもたちにスポットライトが当たる場は、実は日本ではまだ多くはありません。ゲームはスポーツと比べると地味で目立ちにくいミニマムな世界ですから。でも、マイクラは世界一プレイヤー数が多いですし、英語でコミュニケーションすることもあるので、やっていることはとてもグローバルなんです。
マイクラをやっていると世界共通のプログラミング言語も覚えるので、そういう点では、スポーツと変わらないくらい広いフィールドで、子どもたちの才能を発揮できる世界だと思っています。
――マイクラによって才能を発揮する子どもが増えたのか、もともと才能がある子が表に出てきたのか、気になります。
昔からモノづくりが好きな子はたくさんいました。でも、そういう子どもたちが輝ける場所が少なかったんですね。スポーツも芸術も数学の世界も、優秀な子は世間から評価されますが、モノづくりが得意な子はただのオタクだと思われやすいので。私自身も子どもの頃からずっとモノづくりが趣味でしたけど、1人で楽しんでいるだけで、友だちも少ない青春時代でした(笑)
――逆に、マイクラは世界中の人とつながれるので、自分がつくった世界を喜んでくれる人がいれば自信もついて、自己肯定感も高まりそうです。
それこそがマイクラの魅力です。建築でも冒険でも映像でも、自分が得意なことを自できて、つくった作品をすべて丸ごと受け入れてくれる。正解も失敗も順位付けもなく、唯一無二の存在として輝けるのがマイクラの世界なんです。ですから私はよく、マイクラはゲームではなく「自分を発揮するプラットフォーム」だと話しています。
――マイクラでゼロから自分の世界をつくり上げるには、どんな力が必要なのでしょうか。
想像力、創造力、分析力、やり抜く力などさまざま力が必要ですね。自分の頭で考えて新しいモノを生み出す力は、どんな仕事でも求められる時代になっています。マイクラ好きの子どもたちは、将来、それで生計を立てられるような場所がたくさんあるでしょうね。日本はゲームに対して偏見を持っている大人が多いのですが、「マイクラカップ」がスタートした6年ほど前から、「この大会に参加する子どもたちは素晴らしい才能を持っている稀有な存在だよね」と、ようやく認識しはじめた大人が増えてきました。
マイクラで上を目指せる子は、自ら動き出す
――「マイクラカップ」審査委員長のタツナミさんが、特に印象に残っている作品はありますか?
「Minecraftカップ2020全国大会」で、小学5年生にして大賞を受賞した浦添昴くんの「未来への5つの約束~キレイな水と渓谷の洞窟学校~」がまさにそういう作品でした。浦添くんは大きな山をくりぬいて、美しい渓谷にある学校をつくりました。SDGsを意識し、敷地内には畑や牧場、巨大水槽、ウンチ発電所もあります。建物についてもよく調べ、フランクロイドライトの落水荘にも影響を受けたそうです。
「Minecraftカップ2020全国大会(第2回大会)」の大賞を受賞した浦添昴さん(写真:浦添さん提供)
巨大な学校の全景(写真:浦添さん提供)
CO₂削減のため、多くの生徒は船で登校する(写真:浦添さん提供)
地下7階建ての高層教室(写真:浦添さん提供)
給食の食材は自給自足(写真:浦添さん提供)
すべての電力をまかなうバイオマス発電所(写真:浦添さん提供)
美しい巨大樹保護区の夜景(写真:浦添さん提供)
溶岩暖房であたたかい地下の宿泊施設(写真:浦添さん提供)
山頂にはツリーハウス教室も(写真:浦添さん提供)
――マイクラ経験者でなくても、すばらしい作品であることがわかります。
浦添くんは、小さい頃からボーイスカウトに参加していて、仲間とトラック3台分の海岸のゴミを回収したこともあるほどアクティブな子です。その一方で、プログラミングの賞を多数受賞するほど集中力もあり、マイクラをやりはじめてわからないことがあると父や兄に質問していたといいます。周りの大人がそんな彼の才能をいち早く発見して情報提供し、サポートしてあげたことが、あの壮大な大賞作品につながったのだと思います。
審査員一同、「構想や技術がすばらしい。ワールドをつくるだけじゃなく、世の中をよくしていきたいという志がすごい」と高く評価していました。
――マイクラは正解がないので、自分が納得できるものをつくり上げるためには人の協力も必要なんですね。子どもだとわからないことも多いですから。
より上を目指すための方向性って自分の中にしかないので、精度を上げるために必要な情報を自分から調べはじめる子もいます。図書館に行き、ネットで調べて、それでもわからなければ親や先生に聞く。そうやって必要な知識を得て、自分のワールドを完成させるために、水や光や肥料を与えはじめるんです。
周りにいる大人たちも、その子に適した肥料を与えた結果、作品としての実がなるわけです。もしも周りが彼の興味関心に働きかけることもせず、ただ漫然と日々をやり過ごしていたら、浦添くんのあの素晴らしい作品は生まれなかったでしょうね。
向き不向きがあるのはスポーツもマイクラも同じ
――マイクラが好きな子は男の子が多い印象ですが、向き不向きはありますか?
スポーツと同じで、サッカーが嫌いな子にボールを与えても蹴らないですから、マイクラに関心を示さない子もいるでしょう。水が苦手な子に水泳やらせようとしたら、もっと嫌いになりますから、無理に与える必要はありません。
子どもがマイクラに向いているかどうかは、やはり親が観察して、コミュニケーションしながら判断するに尽きると思います。
〇タツナミ シュウイチ
日本で最初のプロマインクラフター。東京大学大学院客員研究員、常葉大学客員教授、マインクラフトカップ全国大会審査員長、マイクロソフト認定教育イノベーター・FELLOW 。マインクラフト歴14年の通称「マイクラおじさん」。各メディアにプロマインクラフターとして出演し、マインクラフトの教育的効果とエデュテインメントの効果について広く発信。現在もSTREAM教育や特別支援教育を推進していくためマインクラフトをプラットフォームとして使用した教育教材の制作や活用を研究中。
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2024/07/17 11:00