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「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」――なぜ坂本和隆はNetflixで世界でヒットする作品を作れるのか
「サンクチュアリ -聖域-」「幽☆遊☆白書」――なぜ坂本和隆はNetflixで世界でヒットする作品を作れるのか 社内では敬愛を込めて「Kaata」と呼ばれる。名だたる俳優や映像監督たちが彼を慕う(撮影/横関一浩)    Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデント、坂本和隆。「全裸監督」「今際の国のアリス」「First Love 初恋」「サンクチュアリ -聖域-」と、すべてがNetflixで大ヒット。坂本和隆はこれらの作品のエグゼクティブ・プロデューサーでもある。いくつもの壁を乗り越えて作り上げた作品ばかりだ。日本のエンターテインメント業界に強い危機感がある。世界で勝負できる作品を作る。そして日本にその力はあると信じている。 *  *  *  まるで人を惹きつける磁力のようなものを持っているように見えた。  2023年12月13日。この日、東京・有明アリーナではNetflixが企画・製作するNetflixシリーズ「幽☆遊☆白書」の最速上映会イベントが行われていた。集まった観客は5千人。出番を控え、楽屋には主人公の浦飯幽助(うらめしゆうすけ)を演じる北村匠海ら俳優たちが次々と集まる。坂本和隆(さかもとかずたか・41)は、その一人ひとりに握手し、ハグをしていた。関係者たちが坂本に代わる代わる声をかけ、談笑する。  物腰は柔和で、声は穏やかだが、思わず目を引く存在感がある。そのスラリとした体躯(たいく)が、いつの間にか場を掌握していた。 「5年かかりました。5年もかけてしまいました」  全体挨拶ではそう声をかけた。坂本は本作のエグゼクティブ・プロデューサーとして製作を牽引(けんいん)してきた。 「幽☆遊☆白書」だけではない。Netflixコンテンツ部門バイス・プレジデントをつとめる坂本は、日本市場のトップとして実写・アニメ・バラエティ・映画など、Netflixの日本発のコンテンツ全てを統括する。  15年にNetflixが日本でのサービスを開始して以来、坂本は数々のオリジナル作品の製作に携わってきた。山田孝之の熱演でNetflixの名を日本に知らしめた19年の「全裸監督」にはじまり、海外でも大きな注目を集めた「今際(いまわ)の国のアリス」(20年)、宇多田ヒカルの楽曲をもとにしたラブストーリーの「First Love 初恋」(22年)、相撲ブームを巻き起こした「サンクチュアリ -聖域-」(23年)など、話題作の数々でエグゼクティブ・プロデューサーをつとめてきた。 突き抜けた企画は反対意見が多くあるべき  坂本は、作品の着想から企画開発、脚本、撮影、編集を経て完成に至るまで、製作の全ての工程に携わる。それぞれの作品の製作期間は平均で3、4年かかり、中には「First Love 初恋」のように監督と共に自ら原案を練ったものもある。 「幽☆遊☆白書」最速上映会イベントではアジア最大級の特注巨大スクリーンを設置。撮影に使用された衣装の展示や霊丸(レイガン)を撃てる体験型ゲームなども展開された(撮影/横関一浩)    なぜ彼はここまで人々が夢中になる作品を作り続けることができたのだろうか。「まだ語られたことのないストーリー、見たことのない映像表現を常に探求している」と彼は言う。 「良い企画、突き抜けた企画というのはやっぱり反対意見が多くあるべき。なぜならば見たことのないものなので、わからないし、怖いんですよ。逆に全員が素晴らしいと思う企画は、ほとんどヒットしない。悪くない、というくらいのそれなりの結果で終わるんです」 「サンクチュアリ -聖域-」の企画を立ち上げたときも周囲は疑問だらけだったという。題材もニッチであるし、主演の一ノ瀬ワタルも当時は無名で、登場人物にイケメンもいない。けれど、それが一周回った新しさになると思った。ストーリーとクオリティーがあれば勝負できると信じてきた。 「僕は『打席』という言葉をよく使うんですけど、Netflixというのは、一打席一打席で結果を出さないといけない会社なんです」  Netflixは「企画を通す」という概念のない会社なのだと坂本は言う。制作を進めるにあたって上司の許可をもらう必要はない。そのかわり責任が問われる。シビアな環境でヒットを生んできた。  坂本を敬愛する俳優やクリエイターも多い。  その一人が、「幽☆遊☆白書」で戸愚呂(とぐろ)弟役を演じた綾野剛(41)だ。綾野は数年前に出会った坂本のことを「心の友であり、クリエーションのパートナーである」と言う。製作期間を振り返って「大人に青春があるんだったら、今俺たちは青春をしているんじゃないかと感じた」と語る。 「同い年というのもあって、打ち解けるまでには時間はかからなかったです。彼は想像することをあきらめない。そして、それを可視化し、具現化する胆力がある。そこに僕は魅せられています」 「幽☆遊☆白書」で怪物じみた姿が異彩を放つ戸愚呂兄弟の映像表現にあたっては、国内外の企業と手を組み日進月歩の最先端VFX技術を惜しみなく注ぎ込んだ。監督の月川翔(41)は「自分のベストを出させてくれる人。誇りを持って一緒にお仕事したいと思う人です」と称賛する。 「幽☆遊☆白書」や「今際の国のアリス」のプロデューサーとして仕事を共にした森井輝(50)は、坂本を「人生のランニングパートナー」だと言う。 「僕らの電話は大体5分以内なんですよ。すぐに意図が伝わって『じゃあこうしましょう』と決まる。彼は常に何手か先が見えている。想像力があって、頭の回転が速い。それが魅力だと思います」 テレビ局や映像制作会社でドラマ作りに携わってきた精鋭たちが坂本のチームに集う(撮影/横関一浩)   明確なアイデアがあり情熱の吸引力を持つ人  Netflix社内でも坂本を慕うスタッフは少なくない。福井雄太(37)もその一人だ。  福井は09年に日本テレビに入社。若くしてドラマプロデューサーとして頭角を現し、「3年A組-今から皆さんは、人質です-」などの人気作を手掛けてきた。23年に同局を退社しNetflixに移籍した福井は、その理由を問うと「作り手としての坂本和隆に惚れてしまったんです」と告げた。 「坂本さんは明確なアイデアと明確な方針を持っている。一人のクリエイターとして、その構築の仕方や思考を学びたいと思った。僕自身、テレビのドラマの世界でいろんな仲間たちに恵まれてやってきたんですけれど、こんなに情熱の吸引力を持っている人に出会ったのは人生で初めてでした」  映像業界や芸能プロダクションに幅広い人脈を持つ福井は「びっくりするくらい、坂本さんのことを悪く言う人が一切いないんです」と言う。 「パッションがあって、新しいことをしようとしている。面白いものを作ることにひたむきである。皆さんそうおっしゃっていた。ゆえにすごく興味を持ったんです」  なぜ坂本はここまで人を惹きつけるのか。どのようにしてエンタメの世界に革新をもたらすキーパーソンになったのか。  坂本は1982年、静岡生まれ。東京・下北沢で育った。母親の実家が映画館を経営していたこともあり、子どもの頃から映画に親しんでいた。設計デザイナーをつとめていた父親は「ぶっ飛んだ人だった」という。  幼い頃はとても裕福な家庭だった。坂本の父親は名家の生まれだ。曽祖父が山口で鉄鋼業の企業を立ち上げて財を成し、会社を継いだ祖父は政界関係にも携わったという。  父が家業を引き継ぐことはなかったが、その縁もあり、政治家と芸能関係のつながりが深かった。交友関係も派手だった。音楽をこよなく愛し、名だたる映画監督や俳優、芸能プロダクションとも親しかったという。 「たとえば、ある日家に帰ったら『今日は舘ひろしさんとゴルフに行ってきたよ』と言ったりする。周囲に芸能人の方が多かった。エンタメを身近に感じる環境で育ってきたのは親父の影響ですね」  しかし、豊かな時期は長くは続かなかった。少年時代になると、父親の会社が傾き、経済環境は悪化。みるみるうちに生活に困窮するようになる。 「幽☆遊☆白書」最速上映会イベントの楽屋で。監督の月川や海外チームのメンバーと談笑する(撮影/横関一浩)   「中学の時、親父に『ごめん、和隆、金がなくなったから、お前は中学を卒業したら働け』と言われたんですよ。しかし、母親は『高校だけは卒業してほしい』と言い、病弱の父の代わりに母が働き、なんとか高校を卒業することができました」 自衛隊で過ごした2年でエンタメを学ぶと決める  しかし高校を卒業してもやりたいことは見つからなかった。大学に進学する余裕もない。家に仕送りをしなければいけない。悩んだ末、自衛隊に入隊することを決意した。 「迷っていたんです。何をしようか決まってなかった。性格として明確なものを持たないと嫌なタイプで、だからこそ苦しかった。中途半端に『とりあえずここに行こう』と言えなかった。そうなると自分で研ぎ澄ませるしかない。自分の精神を鍛えながらやりたいことを探そうと思いました」  陸上自衛隊の練馬駐屯地で自衛官として過ごした2年間は、坂本にとって人生の転機になった。特に記憶に残っているのは米軍との合同演習だ。 「ハワイの海兵隊との訓練で、富士の演習場を走り回るんです。僕はカタコトの英語を臆せずに話してたんで、日米の間に入って調整する仕事を任された。そこから必死で英語を勉強した。異文化交流をそこで学びました」  自衛官のうちにやりたいことを見つけようと探した結果、自分の中に強くあったのは「エンタメが好きだ」という思いだった。  その頃に祖父の政界での業績を新聞で調べて知ったことも大きな気付きになった。 「祖父は政治家の裏方として、人を育てて押し出していくことに力を入れていた。それを知って腑(ふ)に落ちたんです。サッカーの授業でも率先してゴールキーパーをやりたかったし、野球もキャッチャーだった。バンドでも憧れるのはドラマーだった。ずっと縁の下の力持ちになりたかった。自分の興味関心は裏方にあった。そのことがつながって、スイッチが入った瞬間でもありました」  せっかくならエンタメの本場のアメリカで学びたい。自衛官の任期を終えたらアメリカに行こうと決めた。手元に残った数十万円の退職金を握りしめ、アメリカ人の友人の伝手(つて)を頼って、ブロードウェイミュージカル「アニー」の全米ツアーの現場に裏方として潜り込んだ。 (文中敬称略)(文・柴那典) ※記事の続きはAERA 2024年1月29日号でご覧いただけます
小島よしおが「発表で緊張し、笑われたことが忘れられない」と悩む小6女子に明かす、恥ずかしい思い出
小島よしおが「発表で緊張し、笑われたことが忘れられない」と悩む小6女子に明かす、恥ずかしい思い出 小島よしおさん「ボクといっしょに考えよう」(撮影/松永卓也=写真部)   「授業の発表で緊張して同じ言葉を繰り返してしまい、笑われた。それがなかなか忘れられない」と悩んでいるのは、小学6年生の女の子。数多くの子ども向けライブを開催し、昨年9月に子どものお悩み相談本『小島よしおのボクといっしょに考えよう』(朝日新聞出版)も出版した小島よしおさんが、さまざまな悩みや疑問に答えるAERA dot.の本連載。小島さんも緊張しやすい性格だと話し、対策を提案してくれました。さらに、ここだけの小島さんの恥ずかしい話とは? * * * 【相談54】  クラスの授業で発表したときに、緊張して同じ言葉を何回も言っちゃって笑われたことが心に残っていてなかなか忘れられません。いい方法はないですか?(すみれ・小学6年生・女子) 【よしおの答え】  すみれピーヤ、これは芸人でもあるあるな話だよ! 緊張してネタ中に同じ言葉を何回も繰り返したり、ネタを飛ばしてしまったり……。大人でもよくやってしまうことなんだ。よしお、この前居酒屋のカウンターで20代後半の男性と仲良くなったんだけど、彼は仕事で初めてプレゼンテーション(みんなの前で、仕事の企画について説明したりすることだよ)をしたときに、10分のプレゼン時間を40分にしてしまったって話してくれた。  こんなふうに、大人になってから初めて「自分は人前で話すのが得意じゃないんだ」って気づく人もいるくらい。だから、今自分の弱点がわかったすみれちゃんは超ラッキー! よしおと一緒に、どうやったら緊張しないでみんなの前で話せるのか考えていこう。  ところですみれちゃんはスティーブ・ジョブズって知っているかな? iPhoneをつくったことで有名なAppleの創業者の一人なんだけど、この人はプレゼンがすごく魅力的なことでも有名なんだ。でも実はスティーブ・ジョブズでさえも、プレゼンに慣れていないころは緊張していたらしいよ。それで、瞑想を生活に取り入れて心を落ち着かせていたんだって。  スティーブ・ジョブズの話からもわかるように、緊張って気持ちの焦りとか不安から生まれるものなのかな、って思うんだ。だから緊張したときは心を落ち着かせるために、まずは深呼吸を意識してみたらどうだろう。緊張すると、呼吸が浅くなって早口になってしまうことってない?  深呼吸で大事なのは、吸うことよりも吐くこと。呼吸が苦しくなってしまう過呼吸は、空気を吸いすぎちゃって起こるんだ。たくさん息を吐いたら自然と必要な分だけ空気が入ってくる。そうすれば、焦る気持ちも少しは落ち着かないかな。  話している途中にだんだん息が上がっちゃうこともあると思うから、あらかじめ「ここでブレスを入れる」っていうのを決めておいてもいいかも。音楽にも、「ここで息を吸う」って場所があるよね。発表前に話す内容を見直して印をつけてみてね。  すみれちゃんの相談文から推測するに、もしかしたらいきなり本番を迎えていないかな? 芸人もそうだけど、やっぱり人前に立つにはリハーサルが大事。家族に聞いてもらうでもいいし、今ならスマホで自撮りをして見返すでもいい。本番の前に練習しておけば、どこでつまずいてしまうかなどもチェックできるよね。今トラウマになりかけているクラスメートに笑われてしまった発表内容も、もう一度落ち着いて自撮りしてみない? うまくいったらそれを何回も見ることで、失敗体験が成功体験として上書きされないかな。  よしおは大学受験のとき、過去の試験問題が載っている赤本を何回も繰り返し解いていた。何回もやったら答えがどんどんインプットされるのは当たり前なんだけど、解く度に正解率が上がるのが自信になったんだ。受験本番はその自信満々のまま、緊張とかのストレスなく挑めたんだよね。だから、何回も繰り返して自信をつけるのはおススメだよ! ■実はよしおも緊張しい  すみれちゃんに緊張しない方法をいろいろと提案しているよしおだけど、実はよしおもすごく緊張しい。「そんなの関係ねぇ!」ってネタは、緊張しやすくて忘れっぽい性格にマッチしたネタでもあるんだ。緊張してネタが飛んだとしても、かんでしまったとしても「そんなの関係ねぇ!」って言えば成立するからね(笑)。  舞台に飛び出すときは、はじめに必ず大きな声を出すことも意識している。「うぇ~い」とか「ピーヤ」とか、とにかく最初に持ちギャグを一気に出してしまうんだ。そうすることで、縮こまっていた筋肉が解放されて緊張もほぐれるんだよね。 小島さん作のカメレオンブレスレット    すみれちゃんも、いきなり発表内容を話し始めるんじゃなくて「これからすみれの発表を始めます!」って大きな声で言って勢いをつけるのもいいと思う。「ピーヤ」って言ってもいいしね(笑)。  よしおと仲良しのさかなクンも、もともとは引っ込み思案だって話していた。だけど『TVチャンピオン』 という番組でお魚のかぶり物をしたら一気に心を解放できたみたい。さかなクンのように、何か自分を変えてくれるアイテムなんかを身につけるのもいいかもね。例えば、「カメレオンブレスレット」 みたいなのどうかな。「これを身につければ何者にでもなれる!」っておまじない付きのね。ブレスレットだと周りから見える可能性もあるから足首につけるアンクレットでもいいね。 ■恥ずかしい過去は笑いにもなる  相談文の最後に、「笑われたことが心に残っていてなかなか忘れられません」ってあるね。周りが冷やかしで笑ったのか、そうじゃないかはわからないけれど、ひとつ言えることは、笑われたことを一番覚えているのは自分ってこと。周りの人は、そのときは笑っていても忘れていることがほとんどなんだ。  よしおは高校の卒業式で、みんなが退場するなか「ちょっと待ったー!」と言って壇上に駆け上がって「俺たちは教育に縛られてる!うおー!」みたいなことを叫んだんだ。なんでそんなことをしたのかは一旦置いておいて(笑)。自分のなかではすごくセンセーショナルな出来事だった。でも、高校を卒業したあとに同じ野球部だった友だちに「あのこと覚えてる?」って聞いたら「え、そんなことあったっけ」って言われて……(苦笑)。こんなに周りは俺のこと覚えてないのか、って悲しくなったよ。  でもそれってつまり、周りはそれほど自分のことを気にしてないってことでもある。これが励ましになるのかはわからないけど、発表したときに何回も同じ言葉を繰り返しちゃったすみれちゃんのことをずーっと覚えていて笑ってくる人は相当すみれちゃんのことを気にかけている人だよ。笑われたことがなかなか忘れられなくても、「ま、でも周りはそんなこと覚えてないか」って開き直っていいと思うよ。 「こんなに恥ずかしい話を持っている男もいるから、元気出して!」(撮影/松永卓也=写真部)  あとこれは余談なんだけど、もう一つよしおの恥ずかしい話を聞いてくれる? 高校1年生のときの話なんだけど、よしおは自分の名前があまり好きじゃなかった。「うちのおじいちゃんと同じ名前だよ」って言われたり、当時あった漫画の「丸出だめ夫」に響きが似ていたりするのが嫌で。だから、野球部だけでは「龍」って名前で通そうとしたんだよね。同じクラスにも野球部はいたんだけど、口裏合わせてもらって。  だけど部活終わりに「よしお」って書いてある自転車に乗ろうとしているところを見られてしまったんだ……。「龍、この自転車誰のだよ」って言われて、部活終わりだから気が抜けていたこともあって「ああ、俺のだよ」って普通に答えちゃって。よしおの龍としての人生は1週間くらいで幕を閉じたんだ(苦笑)。このくらい恥ずかしいことをしていた男もいるから、すみれちゃんには元気出してほしいな(笑)。  ……って、僕は思うんだけど、君はどう思うかな? (構成/濱田ももこ)   ●小島よしお(こじま・よしお)/1980年、沖縄生まれ千葉育ちのお笑い芸人。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。「そんなの関係ねぇ!」でブレーク。2020年4月からYouTubeチャンネル「小島よしおのおっぱっぴー小学校」で子どもの学習を支援する動画を公開。キッズコーディネーショントレーナーの資格を持ち、子ども向けのイベントを多数開催している。この連載をまとめた『小島よしおのボクといっしょに考えよう』(朝日新聞出版)が発売中!   【質問募集中!】 小島よしおさんに答えてほしい悩みや疑問を募集しています。こちらからお気軽にお寄せください! https://dot.asahi.com/articles/-/37692
大学受験で6浪した原千晶アナが初告白 「浪人時代、連絡手段は文通と公衆電話でした」
大学受験で6浪した原千晶アナが初告白 「浪人時代、連絡手段は文通と公衆電話でした」   フリーアナウンサーとして活躍する原千晶(はら・ちあき)さん。AERAの取材に応じ、浪人時代について語ってくれた(撮影/小山幸佑)  TBS朝の情報番組「THE TIME,」でリポーターをやっている女性アナウンサーが大学に入るまでに6浪したことを明かし、ネットで話題を呼んだ。その人物とは元テレビ山口のアナウンサーで、現在はフリーアナウンサーの原千晶さん(35)。「なぜ6浪?」「なぜアナウンサーに?」。ネットではさまざまな憶測を呼んだ。AERAの取材にその経緯を語ってもらった。 *  *  *  事の発端はこうだ。番組では今ヒットしているモノ、コト、ヒトを深掘りする「TIME マーケティング部」というコーナーがあり、その日は原アナが「最新の自習室」をリポートしていた。最後に受験生にアドバイスをする場面で「私、6浪しているんです」とサラッと告白。生放送のスタジオでは総合司会の安住紳一郎アナから「原さん、6浪って本当?」と突っ込みを受ける。視聴者も同様の感想を持ったようで瞬く間にSNSに広がった。 「私はあまりSNSに詳しくなくて、番組のスタッフに話題になっていると言われたり、昔の友達から連絡があったりしてSNSで拡散されていることを知りました。番組では詳しい話ができなかったので、後で自分のSNSに医学部を目指していたこと、結局合格できずに別の大学に行ったことなどを書いてアップしました」  福岡出身の原さん。なぜそこまで医学部にこだわったのか気になるところだが、高校時代の生活については意外な言葉が返ってきた。 「高校受験をして私立の女子校に通っていたのですが、部活も入っていなかったし、何か特別に打ち込んでいるものがあったわけではありません。ただ友達とおしゃべりしたり、時にはカラオケに行ったり、そんなごく普通の生活がすごく楽しくて。正直、その頃は将来の夢も、なりたいものもありませんでした」 医師の父を尊敬していた  父親は開業医、母親も歯科医という医療一家の長女として育つ。 「父や母から家業を継いで欲しいとか、医学系の道に進みなさい、と言われたことは一切ありません。2歳下に弟がいるのですが、弟も同様です」  とはいえ医師として患者と向き合う父親の姿は小さい頃から見てきた。 「例えば家族で出掛けている時、患者さんから電話があったら1人帰って患者さんを診たり、開業してからも、朝でも夜中でも患者さんの元に駆けつけたりしている姿は見ていました。とにかくお金もうけより患者さんのためにっていう人で、そんな父を尊敬していました。医師っていう職業はなるのも大変だけれど、なってからも常に勉強が必要だ、ともよく言っていましたね」  原さんが医学部受験を決意したのは高校3年の秋頃になってからだという。 「もともと国語より数学の方が得意だったので、理系かな、というぐらいの意識でした。ただ本当になりたいものなくてどうしようか悩んでいた時に、仲の良かった友達のお兄さんが4浪で医学部に合格した、という話を聞き、『医師になる』という考えが急に降りてきたんです。もちろん現役では無理だとわかっていたのですが、記念受験的に医学部を一校だけ受け、その年は終わりました」  そこから原さんの長い浪人生活がスタートする。 「実は私、6年の浪人生活のうち半分は寮生活をしているんです。まず1浪目はそのお兄さんが通っていた医学系の予備校に通うことにしたのですが、そこは北九州にあり、寮があったので寮に入って勉強することになりました。そこには医師になりたい子たちが集まってくるので、医師になりたいという思いがより強まりました」 社会から隔離された寮生活  予備校の寮とはどんな生活なのだろうか。 「一人一部屋が与えられるのですが、1年目は携帯電話禁止、テレビもない。寮で朝食を食べたら予備校に行き、授業。お昼はお弁当を食べて午後も授業。空き時間は自室だと寝てしまうので予備校の自習室に行っていました」  まるで社会から隔離されているような生活を送っていたことになる。 「友達とは文通をしていました。家族と連絡を取るために、皆公衆電話に並んで電話していましたね。日曜日は授業がお休みなので友達とランチをしに行くのが唯一の楽しみでした。何より同じ環境で一緒に頑張っている仲間がいることが心強くて、きついと思ったことはなかったです」  そんな仲間も、合格すると抜けていく。 「受かる人は勉強ができるから、自分は学力が足りないから落ちるのは当たり前、と受け止めていました。受験は自分との戦いだと思っていてあまり人と比べることはなかったです」  1、2浪目はその寮で過ごし、3回目の受験に失敗後は実家に戻る。 「環境を変えた方がいいんじゃないか、という話になり、予備校も変えて、実家から通うことにしました。新しい予備校に入るので知り合いもいない。また一からのスタートでしたが、同じ教室で年下のお友達ができました」  母親の反応は? 「母は歯科医を辞めて、その頃は祖母の介護をしていました。予備校にいる時間も長かったので、細かくいろいろ言われた記憶はないです。模試の結果などは見せていましたが、特にネガティブなことを言われたことはないです。私が忘れているだけかもしれませんが」  父親は? 「『お父さんの時代と違って今は医学部難しいから数年はかかるよ。私立は倍率も高いし。千晶は高校時代勉強していなかったんだから仕方ない』とよく言っていました」  結局、3浪、4浪、5浪の3年間は実家で浪人生活を続けることになる。 「3浪以上になるともう普通の企業の就職は厳しいんじゃないか、と思いもあり、もはや医学部しかない、と自分を追い込んでいました。多浪の娘が家にいるわけですから両親も周りからいろいろ聞かれることもあったと思いますが、母は『ふわっと説明しておいたわ』と言っていたのを覚えています」  他の人には何か言われた? 「高校の担任の先生には毎年調査書をもらいにいくので、『もう他のところも受けようよ』と毎年すごい言われていましたね」 6浪のうち半分は寮生活だった原千晶アナ。それでも、「同じ環境で一緒に頑張っている仲間がいることが心強くて、きついと思ったことはなかったです」と語る(撮影/小山幸佑)       浪人中に同級生が大学卒業  一番つらかったことは? 「5浪目です。高校の友達が大学を卒業し、社会人になり、結婚する人も出てきたんです。今まで人と比べることはほとんどなかったのですが、周りはどんどん進んでいるのに、自分だけ何も変わっていなくて時間だけが過ぎている感覚に襲われました。この年は精神的に一番きつかったです」  それでも「5浪生」として予備校に通い、勉強を続けることになる。 「もうその頃は『多浪ズ』じゃないですけど、多浪同士の仲間が何人かできていましたね。女性でも一つ下に4浪の子がいたんですよ。あとはいったん大学に行ったけれど医学部に受験をし直す再受験組もいました」  5浪後の受験も残念な結果となり、改めて家族会議を開いたという。 「わりとコミュニケーションは密に取る家庭だったのですが、ここで次は医学部でないところも受けよう、となりました。それは自分でも納得の選択でした。そして今年が最後だから悔いのないようにやり切ろう、と決めて有名な講師がいる京都の予備校に行くことになるのです。そこで最後の6浪目もまた寮生活をすることになったのです」  また新しい予備校で、新しい環境に飛び込むことに? 「そうなんです。6浪と聞いて、さすがに周りの子に驚かれました。私は昭和最後の年の生まれなのですが、『え!昭和生まれなの!?』って。でも次第に5歳年下の子たちとも仲良くなることができました。人見知りせずに比較的すぐに友達をつくれるほうかな、とはと思います」 父親の言葉で吹っ切れる  最終的には医学部と福岡大理学部を受け、福岡大理学部のみ合格を得る。 「正直、詳しく調べたわけではなくて、実家から通えるところで数学系の大学、という選択でした。実際に入学したら、プログラミングの授業などもあり大変でした。しかしさすがにもう留年するわけにはいかないので、真面目に通っていました」  大学選びに後悔はなかった? 「6年間も浪人して結局医学部に行けなかったことに対して大学1年目はモヤモヤしていたこともありました。なぜこんないらない苦労をしてしまったのか、と。そんな時に父に、それは苦労じゃない、浪人したくても環境的に難しい人もいっぱいいる中で、やりたいことを6回も挑戦できたっていうのはすごく恵まれていることだ。苦労とは言えないよ、と言われて。本当にそうだって思って吹っ切れました」  6年間の浪人生活で得たものは? 「なんと言っても感謝の気持ちです。まずは両親や家族に感謝の気持ちでいっぱいです。学費はもちろん、日々のサポートなど、やりたいことに挑戦する環境を与えてくれて、ずっと応援してくれました。浪人時代の仲間はもちろん、高校のときの友達もすごく支えてくれて、その存在は本当に大きかったですね。たまに連絡をくれたり、受験前はお守り持ってきてくれたり。今振り返ってみると6年も浪人できたのは紛れもなく周りの人たちのおかげだったと思っています」 ※【後編】<原千晶アナのリアル七転び八起き人生 6浪した私がアナウンサーになったわけ>では、なぜアナウンサーを目指すことになったのかを中心に話してくれました。 原千晶(はら・ちあき)/福岡県出身。福岡大学理学部応用数学科を卒業後、2017年4月にテレビ山口に入社。 2023年9月まで同局のアナウンサーとして活躍。 2023年10月からはセント・フォースに所属するとともに、TBSテレビの朝の情報番組「THE TIME,」内の「TIMEマーケティング部」に出演中。 【後編へ続く】 原千晶アナのリアル七転び八起き人生 6浪した私がアナウンサーになったわけ https://dot.asahi.com/articles/-/212289 (構成/編集ライター・江口祐子) ※AERAオンライン限定記事
【脳腫瘍】うつ症状、記憶力の低下を引き起こすことも 医師「頭痛の症状が起床時に強く出やすい特徴」
【脳腫瘍】うつ症状、記憶力の低下を引き起こすことも 医師「頭痛の症状が起床時に強く出やすい特徴」  国内で年間2万人程度が発症している脳腫瘍。大きく分けると悪性と良性がありますが、さらに細かく分類すると150以上もの種類があります。腫瘍が発生した部位によって、さまざまな症状が表れるため、別の病気と間違われることもあり、診断までに時間がかかることも少なくありません。脳腫瘍の種類別の症状や治療について解説します。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  脳腫瘍は脳細胞や脳を覆う膜、脳神経などから発生します。悪性と良性があり、3割程度が悪性です。悪性の場合、増殖のスピードが速く、周囲の組織に広がっていくため、なるべく早く治療する必要があります。一方良性の場合は、増殖のスピードがゆるやかなので、症状がなければすぐには治療をせず、経過を観察するだけでよいこともあります。 症状が進むと、朝起きたときに頭痛や吐き気が出る  脳は部位によってそれぞれ異なる機能があります。このため、腫瘍ができた部位によって、表れる症状も異なります。しかし、共通して出やすい症状もあります。熊本大学病院脳神経外科教授の武笠晃丈医師はこう説明します。 「腫瘍が大きくなってくると、頭蓋骨内部の圧力が高まり、頭痛や吐き気が起こります。脳腫瘍による頭痛の特徴としては、朝起きたときに症状が強く出やすいということです。一般的に寝ている間は、頭蓋骨内部の圧力が高くなりやすいためです」  頭蓋骨内部の圧力が高まることによって症状が出るのは、一般的には腫瘍がかなり増大したケースです。腫瘍ができた部位によって表れる症状(局所症状)も腫瘍が大きくなるほど出やすくなりますが、小さくても症状が出ることがあります。  局所症状には、視野障害(片側の視野が欠ける、ものが二重に見えるなど)、言語障害(うまく話せない、言葉を理解できないなど)、聴力の低下、めまい、てんかん発作、手足や顔のまひ、記憶力や認知機能の低下、集中力の低下、性格の変化(怒りっぽくなるなど)、左右を判断できなくなるといった症状があり、実にさまざまです。  こうした症状は、ほかの病気で起きることもあります。例えば聴力が低下した場合は通常耳鼻科を受診します。そこで、突発性難聴と診断されたにもかかわらず、実は良性脳腫瘍の一つである「聴神経鞘腫(しょうしゅ)」であったということもあります。腫瘍が大きくなって聴力がさらに低下すると、腫瘍に気づいたときに治療をしても元通りにはならないのです。武笠医師は次のようなケースを経験したことがあると言います。 「30代くらいの女性で意欲の低下や言葉が出てこない、思ったことが言えないといった症状があり、メンタルクリニックを受診し、抗うつ薬などさまざまな薬を服用したようなのですが、よくならない。1年くらい経ったある日、意識を失い、救急搬送されてきて、MRI検査をしたところ『悪性神経膠腫(こうしゅ)』が見つかり、緊急手術をしました。脳腫瘍が精神面に影響を及ぼしたり、認知機能の低下、性格の変化などを引き起こしたりすることもあるので、要注意です」  脳腫瘍自体は頻度が高い病気ではないので、必ずしも定期的に検査をする必要はありません。 「脳に関連するような症状がある場合、あるいは40~50代で一度も脳のMRI検査を受けたことがないという人は、一度受けるといいと思います」 代表的な脳腫瘍四つの特徴とは? 神経膠腫:うつ病に似た症状が出ることもある、悪性腫瘍  脳腫瘍にはさまざまな種類がありますが、悪性脳腫瘍の代表が神経膠腫です。腫瘍ができた場所によって症状はさまざまですが、まひや、うつ病に似た症状が出ることもあります。脳内の神経細胞の間を埋めている神経膠細胞からできる腫瘍で、脳内に広がって増殖していきます。このため正常な細胞と腫瘍のある細胞の見分けがつきにくく、手術で腫瘍だけを摘出するのは困難で再発が多いのが特徴です。再発を予防するために、放射線治療や抗がん剤治療も組み合わせます。 髄膜腫:運動まひや感覚障害の症状が出ることも  良性脳腫瘍の代表が、「髄膜腫」「下垂体腺腫」「神経鞘腫」です。最も多い髄膜腫は、脳を包んでいる髄膜にできる腫瘍で、ほとんどは良性ですがまれに悪性のこともあります。小さいうちは症状がありませんが、大きくなると運動まひや感覚障害が表れることがあります。治療をする場合は手術が基本となります。 下垂体腺腫:顔や腹部が太ったような症状が表れる  下垂体腺腫はホルモンの分泌をコントロールしている下垂体に腫瘍ができます。ホルモンを過剰に分泌するタイプとしないタイプがあり、成長ホルモンを過剰に分泌するタイプは、手足の先端や額、あご、唇、舌などが肥大します。プロラクチンを分泌するタイプは、月経不順や性機能障害などの症状が出やすく、副腎皮質刺激ホルモンを分泌するタイプは、顔が丸くなり胸や腹部が太るといった症状が出ることがあります。  また、下垂体は視神経の下にあるため、視力や視野障害が出ることもあります。治療の基本は手術ですが、プロラクチンを産生するタイプは、薬物療法が有効です。手術は近年、鼻から内視鏡を挿入して腫瘍を切除する経鼻内視鏡手術が主流になっています。 神経鞘腫:進行すると耳鳴りや顔のしびれの症状が出る  神経鞘腫は、8割程度が聴神経から生じる聴神経鞘腫で、大きくなると耳鳴りやめまい、聴力の低下といった症状が出たり、顔面の神経に影響を及ぼしたりします。治療には手術と多方向から腫瘍に集中的に照射する定位放射線治療(ガンマナイフ、サイバーナイフなど)があります。  治療の選択について武笠医師はこう話します。 「聴力、腫瘍のサイズ、年齢、患者さんの希望といったことが、選択の決め手となります。高齢の人は手術の負担を考えて、放射線治療を選択する傾向があります。放射線治療は治療後に腫瘍が増大することもあり、長期的な成績がわかっていないため、若い世代の人にはすすめにくい治療です」  脳腫瘍は生活習慣病とは異なり、現状では予防できません。MRI検査を受けた際に偶然見つかることもありますが、気になる症状があれば、一度は検査を受けることをおすすめします。 (文/中寺暁子) 【取材した医師】 熊本大学病院 脳神経外科教授 武笠晃丈医師 熊本大学病院 脳神経外科教授 武笠晃丈医師  
丸佳浩、梶谷隆幸、涌井秀章 晩年迎えたFA移籍組、キャリア最後に「古巣復帰」はあるのか
丸佳浩、梶谷隆幸、涌井秀章 晩年迎えたFA移籍組、キャリア最後に「古巣復帰」はあるのか 巨人・丸佳浩  丸佳浩、梶谷隆幸(ともに巨人)、涌井秀章(中日)は現在の所属チームで現役を終えるのか。いずれの選手もフリーエージェント(FA)で最初に所属したチームからは移籍。ベテランという年齢となっているが、キャリアの晩年での古巣復帰はあるのだろうか。  丸は2018年オフに5年総額25億5000万円(推定)の大型契約で巨人入りした。2017~18年に2年連続でリーグMVPとなった「広島の顔」獲得はセ・リーグの勢力図を変える補強と言われた。 「巨人の歴史に残るような出来事だった。しかし加入後のチームは2年連続リーグ制覇したが日本一に届かず、その後は勝てない。外野の一角として頑張ってはいるが物足りなさは正直感じる」(巨人OB)  巨人移籍後は期待ほどの活躍は見せられていない丸だが、移籍1年目は打率.292(535打数156安打)、27本塁打、89打点、12盗塁をマークするなど最初の2シーズンはチームのリーグ制覇に貢献。2022年シーズンも打率.272(525打数143安打)、27本塁打、65打点と安定した成績を残していた。  しかし、昨季は打率.244、18本塁打、47打点と成績が低下。オフに巨人に入団した時に結んだ5年契約が切れることから、古巣への復帰も噂されたが……。 「広島ファンは巨人との契約が切れて状況が許せば戻って欲しいと思っている。しかしジャイアンツ球場近くに自宅を買うなど、本人は引退後も含め巨人に身を埋めるのを決めたようもみえる」(広島担当記者)  広島は2007年オフに同リーグのライバル・阪神へFA移籍した新井貴浩(現監督)を、2014年オフに再び温かく迎え入れた過去もある。丸も将来的にそのような形での復帰もあるのではと思われたが、現状可能性は低いようだ。  梶谷は2020年オフにDeNAからFAとなり、原辰徳監督(当時)が直々に電話交渉、4年総額8億円(推定)で契約した。しかし丸がある程度の成績を残している一方で、梶谷は苦戦の方が目立つ状況だ。2022年オフには年俸2億円の育成選手となって話題となった。 【こちらも話題】 給料が“半減”も FA移籍で「年俸が下がった」男たち 新天地での挑戦には様々な思い https://dot.asahi.com/articles/-/14046 「怪我とはいえ年俸2億円の育成契約は考えられない。DeNA時代から調子の波が大きく怪我や故障も多い選手で、獲得に関しては慎重論もあった。結果論になるが編成部の責任問題を問われても仕方ない」(巨人OB)  DeNAでは2014年に盗塁王を獲得、2013年から5年連続2ケタ本塁打をマークするなど、強打の外野手として期待された。だが、故障続きで2022年シーズンは全休するなど給料に見合った活躍はここまでなし。開幕前に支配下に再登録された昨季は102試合の出場で打率.275、2本塁打、19打点と若干持ち直したが、今季で入団時に結んだ契約が終了する。 「契約最終年の今季はよほどの成績を残さないと戦力外もある。そうなると古巣復帰の可能性もゼロではない。DeNAの外野陣のメンバーは揃っているが、経験を買われ楽天から出戻った藤田一也(現育成野手コーチ)の例もある」(DeNA担当記者)  梶谷は今年で36歳。近年の成績的には来シーズン以降に戦力となれるかは微妙なところだが、野球への真面目な姿勢と経験は久々のリーグ優勝を狙う古巣に必要だという声もある。  涌井は2004年のドラフト1位で指名された西武でエースとして活躍し、2013年のオフにロッテにFA移籍すると、2019年オフには楽天にトレードされ3シーズンプレー。2022年オフに再びトレードされ、現在は4チーム目となる中日に所属している。通算159勝の右腕には衰えはあるが、まだまだ戦力として計算できる投球を見せているが、キャリアの最後に“最初の古巣”に戻ることはあるのだろうか。 「(昨季は)中日のチーム状態もあり成績に恵まれていないが安定した投球を続けていた。数球団が調査をしていると言われるが、熱心なのがプロ入りから9年在籍した西武。先発の1人として是非とも欲しい投手」(西武担当記者) 「今季で38歳になり、今後は自身も納得する形で投げたいはず。(西武時代の)FA権行使は先発、抑えのどっちつかずの状況に納得できなかったことを誰もが知っている。先発一本で戻ってきて、成績はもちろん経験を若手投手に伝えて欲しい」(西武OB)  親友で同級生のダルビッシュ有(パドレス)は、昨年3月に行われたWBCで侍ジャパンの精神的支柱となりメジャーでも活躍を続ける。立場は異なるが涌井自身も現役の最後に何かを残したいという思いは強いだろう。  ベテランの存在が大きいのは今に始まったことではない。その選手がプロ野球生活をスタートさせ、愛着を持っているチームなら尚更、影響力を発揮するはずだ。 「炭谷銀仁朗が古巣・西武へ復帰した。巨人、楽天と他球団の色がついても西武が欲しがったのは、野球技術や経験はもちろん人間性も大きい。丸、梶谷、涌井の名前を見かけるのは3選手が慕われているから」(在京球団編成担当者)  ビジネスライクに年齢の高い選手を安易に首切りする球団を見かけるようになった。しかし成績だけでは測れないものが必ずあるはず。今回挙げた3選手は現在のチームを離れることになった場合、古巣に戻るという道もあるのだろうか。
「餓死寸前」まで摂食障害を患った女医が危惧 減量製品に手を出す10代の最新分析
「餓死寸前」まで摂食障害を患った女医が危惧 減量製品に手を出す10代の最新分析 山本佳奈(やまもと・かな)/1989年生まれ。滋賀県出身。医師    日々の生活のなかでちょっと気になる出来事やニュースを、女性医師が医療や健康の面から解説するコラム「ちょっとだけ医見手帖」。今回は「10代の減量製品に対する最新分析」について、鉄医会ナビタスクリニック内科医・NPO法人医療ガバナンス研究所の内科医・山本佳奈医師が「医見」します。   *  *  *    「やせたい。そしてキレイになりたい」「やせて、かっこよくなりたい」そう思ったことはありませんか?    私は、過去に何度もそう思ったことがあります。もともとぽっちゃり体型だった私は、高校生の時に過度な食事制限によるダイエットを行い、摂食障害を患いました。    病識の全くなかった私は、「餓死寸前」まで自分自身を追い込んでしまったのです。    摂食障害だった自分の状況を理解し、太りやすい体質である自分自身を受け入れられるようになるまで、10年はかかったと思います。   体型を比較し自己嫌悪    しかしながら、「他の人より、私の方が太い……」と、なぜか体型を比較してしまい、自己嫌悪に陥ってしまうことだけは、克服することができませんでした。    ドラッグストアで売っている、「やせられる」ことをうたっている商品を試したことも、正直何度かあります。    結局、効果を感じられず、長期間続けることへの恐怖心から、短期間で使用を中断してしまうことばかりでした。巷で流行するダイエット法も色々試すも、効果はありませんでした。    幸いにも、日本を離れたことで、どういうわけか、他人と体型を比較することは自然となくなったように感じています。医療費が高いアメリカでは、病気になってはいられません。    そのため、容姿のためではなく、心も身体も健康でいられるための食生活や運動習慣を強く意識するようにもなりました。今までの自分には、運動習慣が圧倒的に足りなかったことを、痛感しています。 【前回の連載コラムはこちら】 自分の祖母の認知症のリアル 女医が家族と経過を見てきて思うこととは? https://dot.asahi.com/articles/-/210876 写真はイメージ(Gettyimages)    さて、私の例は、ちょっと極端だったかもしれません。けれども、美しさやかっこよさといった容姿に対する意識は、多くの人が持っているものなのではないでしょうか?    今年の初め、とてもびっくりするようなニュース(※1)が飛び込んできました。医学誌「JAMA Network Open」に2024年1月10日に掲載された最新の分析によると、「世界中の十代の若者の10人に1人近くが、効果がなく有害な可能性がある減量製品を使用したことがある」というものでした。    この最新の報告は、オーストラリアのディーキン大学のNatasha(※2)氏らが行った、過去40年間における、計60万4,552 人が参加した合計 90 件の研究のメタアナリシスの結果であり、なんと、約 9% の青少年が生涯にわたって市販の減量製品を使用していることがわかったといいます。    減量製品の使用率は、男子よりも女子の方が多かったほか、最も一般的な減量製品はダイエット薬であり、生涯を通じて青少年の 6% がダイエット薬を使用していること、続いて4%が下剤を使用し、2%が利尿剤を使用していたというのです。   使用を減らすのに介入も必要    思春期の若者、特に少女において減量製品の使用が高レベルで行われていることを報告したNatash氏らは、これらの製品が減量に効果がないことや、長期的な健康への有害な影響(処方されていない市販の減量製品は、子どもの身体的および精神的健康の両方にとって危険であり、使用開始から数年以内に摂食障害と診断されるリスクを高めるため、健康的な体重維持のために医学的に推奨されていないこと。    これまでの研究から、処方されていない減量製品の使用が、十代の若者の摂食障害、自尊心の低さ、うつ、薬物乱用、青年期の栄養不足や成人期の不健康な体重増加などと関連していることが報告されている。)から、彼らに対して減量製品の使用を減らすための介入が必要であることを指摘しています。 【こちらも話題】 運動経験ゼロの女医がハマったエクササイズ「ズンバ」 3カ月で得た変化とは? https://dot.asahi.com/articles/-/199378    日本の外来の現場でも、体重を減らすための下剤や利尿剤、漢方などの処方を求める人がいたことは事実です。     私も、甘い誘い文句に誘われて、市販のサプリメントなどに、手を出してしまったことが正直あります。    幸い、私は効果を感じず、また費用も無駄に感じてしまい、やめることができましたが、先ほど紹介した最新の分析によると、十代の若年者の10人に1人が、効果がなく有害な可能性がある減量製品を使い続けているというのですから、恐ろしさを感じざるを得ません。    そんな私が、社会の「美」や「女性」に対するイメージに惑わされないようにするために、「やせないといけない」と思ってしまわないように意識して実践していることは、なるべくSNSや従来のメディア、広告から自分の目をそらすことです。そして、太りやすい体質であることを認め、運動習慣や食生活により一層気をつけることで、健康的な体型を維持していこうと、日々、自分自身に言い聞かせています。   【参照URL】 (※1)https://www.cnn.com/2024/01/10/health/teen-diet-pills-weight-loss-supplements/index.html (※2)https://jamanetwork.com/journals/jamanetworkopen/fullarticle/2813804?utm_campaign=articlePDF&utm_medium=articlePDFlink&utm_source=articlePDF&utm_content=jamanetworkopen.2023.50940  
「1人2個ずつね」とナプキンを配る男性に絶句 「被災地で生理用品はぜいたく」の意識はなぜ変わらないのか
「1人2個ずつね」とナプキンを配る男性に絶句 「被災地で生理用品はぜいたく」の意識はなぜ変わらないのか 災害時の生理用品の必要性の理解はなかなか進まない。画像はイメージ(GettyImages)    被災地で生理用品はぜいたく品――。近年、災害が起きるたびに一部の男性から上がる、生理用ナプキンの支援を軽視する声。今回の能登半島地震でも、すでにSNS上などで散見される。だが実際、避難所で生理になった女性たちは想像以上の困難に見舞われ、人知れず対処してきた。東日本大震災で被災した女性たちにインタビュー調査をした、国際医療福祉大学・保健医療学部の及川裕子教授に「災害と生理」の実情を語ってもらった。 *  *  *  女性にとって生理のケアがいかに切実な問題か。「メッセージを発しなければならない」と取材に応じてくれた及川教授は、まずは看護学の視点から、健康面のリスクを挙げた。 「男性の尿道が約20センチあるのに対し、女性は4センチほど。男性に比べてぼうこうに細菌が侵入しやすいため、下着を替えられなかったり、同じナプキンを当てっぱなしにしたりすれば、ぼうこう炎になる可能性があります」  だが、このような医学的な知見がなかったとしても、生理についての基本的な知識があれば、「生理用品はぜいたく品」などとは言えないはずだ。  月に一度のペースで訪れる生理は、3~7日間にわたって出血が続き、期間中に使うナプキンの枚数は平均で20~25枚ほど。一般的に月経開始から3日目までは経血の量が多く、2~3時間程度でナプキンが血でぐっしょりとぬれ、吸水量の限界を迎えることもある。授業中や会議中などで、どうしてもこまめにナプキンを替えられず、経血が漏れて下着や服を汚していないか冷や汗をかく経験は、女性にとっては“あるある”だ。 能登半島地震の被災地、石川県穴水町の避難所入口にあったホワイトボード。女性用品の用意は「少々」だった(撮影:大谷百合絵)   「落ちていたら拾ってきてほしい」 「思春期の男の子だと、夢精をして下着を汚すことがありますが、精液の量と経血の量はケタ違い。ナプキンが手に入らないがゆえに、血でドロドロに汚れた下着を履き続けるなんて、あまりに残酷です」(及川教授)  及川教授は2014年、「避難所におけるウィメンズヘルスの課題」の調査のため、東日本大震災で被災した女性10人にインタビューを行った。  その結果、「誰でもいいからナプキンをわけてもらおうと、浸水をまぬがれた民家に行って助けを求めた」「街を見回りに行く男性陣に『ナプキンが落ちていたら拾ってきてほしい』とお願いした」など、なんとしてもナプキンを確保しようとする切実な姿が浮き彫りになったという。  一方、「助けを求めに行った民家は、おばあさんしか住んでいなかった」といった理由から、ナプキンを手に入れられなかった女性たちは、ティッシュペーパーやトイレットペーパーでなんとか対処していた。  だが、ナプキンのような防水性のビニールシートはついていないため、経血が漏れるリスクは格段に高まる。実際、避難所には血で汚れた服を着ている若い女性もおり、その姿にいたたまれなくなった周りの女性たちが、近隣の民家を訪ねて着替えをもらいに行ってあげたそうだ。 能登半島地震で避難所となった旧小中学校の施設内で休む被災者たち(1月5日)。画像の一部を加工しています   女性避難者は「冗談じゃない!」  さらには、ナプキンの用意があったにもかかわらず、女性たちが困り果てていた避難所もあった。  物資を配るメンバーが男性で、ナプキンをもらいに行くこと自体が大きなハードルになっていたのだ。しかも、勇気を振り絞ってもらいに行ったところ、「1人2個ずつね」と言われたという。 「その男性は『全員に配れなくなったら不公平だ』と思ったのでしょうが、2個なんてもらったところで、どうしようもない。ナプキンは、生理中もしくは生理が近い女性に配ればいいことも、生理になると何枚くらいのナプキンが必要なのかも知らなかったのでしょうね。避難所を運営する中心メンバーに女性が一人でもいれば、こんなやり方にはならないはずだし、そもそも男性が女性の体のことを何も知らないというのは問題だと思います」(及川教授)  その避難所では、女性避難者たちが「冗談じゃない!」と声を上げた結果、トイレにナプキンを置いて、必要な人が適宜使えるスタイルになったという。  避難所での女性たちの苦痛を少しでも減らすためには、日頃からトイレットペーパーと同様にナプキンもストックしておくことが欠かせない。だが及川教授によると、生理の問題以外にも、「更衣室がなくて着替えに苦労する」「トイレが男女共用なので、男性の目が気になって行きづらい」など、軽視できない「女性ならではの悩み」があるという。 輪島市の避難所に増設された仮設トイレ(1月5日)   女性としての尊厳を守りたい 「ある避難所で、中学生の女の子たちが走るなどの激しい動きをなるべくしないように生活していたという報告を聞いたことがあります。その理由は『ブラジャーがないので胸の動きが目立ってしまうから』でした。体のフォルムが隠れるダボっとした服を着てやり過ごしていた彼女たちは、支援物資でユニクロのブラトップが届くと喜んで身につけて、今までどおり活発に動き回るようになったそうです」  ほかにも、長い間髪を洗えず脂でベタベタになっているのが嫌で、みんなで冷たい川に入って洗ったといった体験談もあり、及川教授は「女性としての尊厳を守りたいという欲求はそれだけ切実だ」と話す。  発災直後は、水や医療など命に直結する支援が最優先されるべきだろう。だが事態が徐々に落ち着くとともに、避難生活が長期化してくると、命の次は尊厳を考えるフェーズがやって来る。ナプキンすら用意のない避難所では、女性たちの“人間らしい生活”を守ることなど到底できない。 (AERA dot.編集部・大谷百合絵)
松本人志の「とうとう出たね」が煽った性被害者への個人攻撃 同じケースで伊藤詩織氏は訴えて勝訴も
松本人志の「とうとう出たね」が煽った性被害者への個人攻撃 同じケースで伊藤詩織氏は訴えて勝訴も 松本人志(写真:INSTARimages/アフロ)    22日、「週刊文春」で性加害疑惑を報じられたダウンタウンの松本人志は、発行元の文藝春秋に対して名誉棄損による損害賠償などを求めて提訴したと発表された。ここに至るまで、文春報道に関する松本の対応には批判も多く上がったが、最も悪手だったのは1月5日のXへの投稿だろう。  同日、週刊女性PRIMEは「【画像流出】松本人志の性加害疑惑を告発した女性『本当に素敵で…』スピードワゴン小沢に送っていた“お礼”」という記事を配信した。同記事では告発者のA子さんが「飲み会後」に送ったとされるLINEの“お礼メッセージ”が掲載された。 「性被害が起こった“飲み会”をセッティングした人物として、週刊文春は『スピードワゴン』の小沢一敬を実名で報じていました。週刊女性PRIMEはA子さんが小沢にお礼メッセージを送った経緯を伝え、『スクショの現物を入手』したと画像付きで報じました。メッセージは『今日は幻みたいに稀少な会をありがとうございました。会えて嬉しかったです。松本さんも本当に本当に素敵で』といった内容が書かれており、記事は大きな話題になりました」(週刊誌記者)  この記事に松本はすぐに反応してXを更新。投稿には“流出したLINE画像”が添付され、さらに「とうとう出たね。。。」と意味深な一文が書き込まれていた。  週刊女性PRIMEの記事と松本の投稿は大きな反響を呼び、SNSではA子さんの証言に疑問を抱く投稿も多く飛び交った。 「『文春の記事が本当なら、こんなLINEは打たない』とか『文春の報道とは全然違いますね』、『同意しているのであれば、性加害では無いように思う』といった、A子さんを批判する投稿が相当な数に達しました」(同) 松本人志のXへの投稿の一部   A子さんへの個人攻撃を過熱させた「投稿」  だが、文春側もこれに応戦。1月9日に文春オンラインで、A子さんの「穏便に見逃してもらうため、お礼のメッセージを送った」「友人には“飲み会”の異常性を報告した」という反論を掲載した。同記事のなかで、NPO法人レイプクライシスセンターTSUBOMI代表で、弁護士の望月晶子氏はこうコメントしている。 《被害者が平静を保とうと、普段と変わらない行動をすることは決して珍しいことではありません。むしろ弱者である被害者が、加害者におもねるような言動をとることはしばしばあります》  報じられているような“お礼メッセージ”を送ったとしても、「性被害はなかった」と断言する根拠にはならないという。  一方、松本や吉本興業は文春の報道を全面否定している。どの部分が「事実無根」なのかは、これから裁判で明らかにされていくだろうが、週刊女性PRIMEの記事やそれに賛意を示した松本の投稿が、A子さんへの個人攻撃を過熱させたのは事実だろう。  性被害を訴えるケースでは、同じような事象は後を絶たない。改めて望月氏に話を聞くと、「あくまで一般論」として、性被害者への誹謗(ひぼう)中傷の実情をこう語った。 「被害者への二次被害はネットの投稿に限りません。友人や家族、警察、法曹家や医師が“悪気なく”口にした言葉でも生じます。例えば『あまり被害を他人に言わないほうがいいよ』という助言や、『何で男性に付いていったの?』という質問が被害者を傷つけ、苦しめます。一方、今回のようにマスコミを通じた告発の場合、やはり『売名』と『カネ目当て』が典型的な誹謗中傷のパターンです」 伊藤詩織さん(撮影/写真映像部・戸嶋日菜乃)   伊藤詩織氏は誹謗中傷の投稿者に勝訴  この話を聞いて、ジャーナリストからの性被害を実名で告発した伊藤詩織さんのケースを思い出した人もいるだろう。ネット上で「売名行為」などの中傷が殺到したため、伊藤さんは2020年に提訴に踏み切った。投稿者に対して訴状で「性被害が虚偽で、金目当てで被害者を装っているとの印象を与える」と指摘。23年9月に勝訴判決が確定した。 「冷静に考えれば誰でも理解できるはずですが、売名や金銭目的で性加害を告発するというのは、あまりにリスクが大きすぎます。それこそ誹謗中傷が殺到するのは予測できますから、とてもではありませんが割が合いません。多くの被害者は必要がないにもかかわらず、自分を責めます。『軽率な行動で自分はけがれてしまった』と孤独や絶望感に苛まれます。そうした被害者の姿を私は間近で見てきました。『売名』や『金目当て』という批判は、あまりに的外れだと言わざるを得ません」(望月氏)  また、告発までの「期間」と「警察に行かないこと」をあげつらう誹謗中傷も典型だという。今回のケースで言えば、A子さんは被害にあったのは2015年と証言している。ネット上では「8年近く沈黙し、さらに警察ではなく文春に話すというのはおかしい」という投稿は数多くあった。 「事件直後の被害者は混乱の極みです。ショックに向き合えず、何とかして平静を保とうと、翌日も普通に出勤する人も少なくありません。普通の日常生活を送ろうと努力する被害者のほうが多いかもしれません。混乱しながらも被害に向き合うと、次は絶望感に突き落とされます。他人に被害を話せるようになるのに何十年もかかる人だっているのです。そのため、被害を打ち明けられるようになったというのは、それだけで大変な前進です。でも話して大丈夫な相手は誰なのか分からず不安です。警察よりマスコミのほうが受け入れてくれるイメージを持つ被害者がいても、全く不思議はないと思います」(望月氏) A子さんへのゆがんだ“嫉妬”も  一連の報道が出てすぐに、松本はXに「事実無根なので闘いまーす」と投稿し、吉本興業も「今後、法的措置を検討していく予定です」と当初から訴訟をにおわせていた。時間がたてば法廷で白黒がはっきりする可能性が高いにもかかわらず、なぜ見ず知らずの人が、この時点でA子さんを誹謗中傷するような投稿を続けるのか。 「人間には誰にでも邪悪な部分はあります。ただ、こうした下劣な思考は口にするのもはばかられますから、普通なら頭に浮かんでもそれで終わりです。ところがSNSは匿名性があり、相手に面と向かって言うわけではありませんから、投稿のハードルは格段に下がります。また、A子さんへのゆがんだ“嫉妬”も挙げられるでしょう。A子さんの『松本人志さんのような有名人とお酒を飲める女性』という側面をとらえ、それを自分の境遇と比べて嫉妬する人がいても不思議はないのです」(望月氏)  何度も繰り返される性被害者への個人攻撃は、いつになったら終わるのだろうか。 (井荻稔)
【不整脈】脳梗塞リスクが5倍になる「心房細動」 推定患者数100万人以上 医師が指摘する「恐ろしさ」とは
【不整脈】脳梗塞リスクが5倍になる「心房細動」 推定患者数100万人以上 医師が指摘する「恐ろしさ」とは  健康な成人の脈拍数は、1分間に60~100回。運動時や緊張しているとき、お酒を飲んだときなどに脈が速くなるのは生理的な現象ですが、なんらかの原因があって、脈が遅くなったり(徐脈)、速くなったり(頻脈)するのが「不整脈」です。治療をせずに経過観察をおこなうだけで心配のない不整脈もありますが、なかには心臓の機能がいちじるしく低下する「心不全」や、「突然死」につながる不整脈もあります。不整脈をどのように見つけて改善すればいいでしょうか。この記事では、頻脈を中心に説明します。  本記事は、2024年2月26日に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *   *   * 脈拍は遅すぎても速すぎても問題  不整脈には、脈拍が遅くなる「徐脈」と、速くなる「頻脈」があります。  脈拍が1分間に50回未満のものが徐脈で、息切れ、倦怠感、足のむくみなどがあらわれ、意識を失う「失神」が起きることもあります。  一方、脈拍が1分間に100回を超えるものが頻脈で、動悸、息切れなどがみられ、徐脈と同様に失神を起こすこともあります。  そのほか、脈が不規則に飛ぶ「期外収縮」と呼ばれる不整脈もあります。加齢や体質的な原因から起こるものが多く、無症状のこともありますが、のどがつまった感じや胸の不快感、動悸などがあらわれることもあります。  日ごろから自分の安静時の脈拍数を把握しておくことが、不整脈の早期発見には必要です。症状が続くようなら医師の診断を受けて、治療が必要か確認しておきましょう。  頻脈では、心臓にどのようなことが起きているのでしょうか。  心臓は四つの部屋に分かれています。右上に右心房、その下が右心室、左上が左心房、その下が左心室です。頻脈性不整脈が起きている場所によって、「心室頻拍」「心室細動」「心房細動」「心房頻拍」などの名前が付けられています。「細動」は細かくけいれんする様子を表しています。「頻拍」は細動よりもけいれんの程度は低いです。 「心房細動」では心房が1分間に300~400回の割合で細かく震え、けいれんしたような状態となり、心房から血液をうまく送り出せなくなります。そのため、心房内には血液がとどこおり、血栓(けっせん、血のかたまり)を形成することもあります。また、脳への血流も低下して、失神をきたすこともあります。  一方、「心室細動」では心室が1分間に300~400回の割合で細かく震えるため、心室のポンプ機能は急速に失われて脳や全身に血液が送られない状態となり、失神・突然死をきたします。 「致死性不整脈」とも呼ばれる心室細動・心室頻拍  冒頭で、不整脈のなかには突然死につながるものがあると記しました。その危険性が高い頻脈が心室細動と一部の心室頻拍で、「致死性不整脈」と呼ばれることもあります。年間の患者数は心室細動約5000人、心室頻拍約1万2000人(厚生労働省令和2年度患者調査)。数はそれほど多くありませんが、とくに心室細動は、突然死のリスクが高いとされています。  致死性不整脈が起こると、血液が送られなくなって血圧が低下し、多くは失神して倒れてしまいます。患者は「助けを呼ぶひまもない」といわれるほど、失神は急に起こります。周囲の人はすぐに救急車を呼び、救急車を待つ間に「AED(自動体外式除細動器)」で心臓に電気ショックを与える緊急処置をおこなう必要があります。  この発作はどんな人に起こるのでしょうか。最も多いのが心筋梗塞や重症心不全などの心臓の病気が原因のもので、70~80%を占めるとされています。また、30~50代の比較的若い世代の男性に多い遺伝性不整脈の「ブルガダ症候群」が心室細動の原因となることもまれにあります。  致死性不整脈の治療は、①発作が起こらないようにする、②発作が起きても心停止に至らないようにする、の2つが目標になります。原因になっている疾患の治療・改善と抗不整脈薬などの薬物療法のほかに、②を目的に植込み型除細動器(ICD)という医療機器を植え込む治療をおこないます。 脳梗塞のリスクが5倍になる「心房細動」  頻脈のなかで最も患者数が多いのが心房細動で、推定患者数は100万人以上といわれています。心房細動は突然死のリスクはそれほど高くありませんが、別な恐ろしさをもつ不整脈として知られています。福井大学病院循環器内科学教授の夛田浩医師は次のように話します。 「心房細動が怖いのは、放置すると、脳梗塞(脳塞栓症)のリスクが健康な人の約5倍高くなるということです。さらに、心房細動が原因の脳梗塞(心原性脳塞栓症)は脳のダメージを受ける範囲が広いために、ほかの脳梗塞に比べて死亡率が1.2倍になり、重い後遺症になるリスクが1.4倍になるとされています」  頻脈と脳梗塞は、どのように関係しているのでしょうか。  心房細動の発作自体は心室細動などに比べてそれほど強烈ではありません。自覚症状として、動悸や息苦しさ、めまいなどを覚えることもありますが、無症状の人も40~50%いるとされています。発作が起こると、左心房内の血液がスムーズに流れなくなり、よどんだ部分に血栓ができやすくなります。この血栓が何かの拍子に血流に乗って脳に到達し、脳の血管を詰まらせて脳梗塞を発症させてしまうのです。  心房細動の発症の大きな誘因は加齢ですが、そのほかに高血圧や心血管障害(心筋梗塞や狭心症)、心臓弁膜症などの循環器系の持病や病歴があること、糖尿病、過度な飲酒、睡眠時無呼吸症候群、甲状腺機能亢進(こうしん)症、肥満などが挙げられています。こうしてみると、生活習慣病と関係していることがわかります。  なお、心房細動のある人の脳梗塞リスクを知る方法として、「CHADS2(チャズツー)スコア」があります。5つの項目(①心不全がある、②高血圧がある/治療中である、③75歳以上、④糖尿病がある/治療中である、⑤これまでに脳梗塞あるいは一過性脳虚血発作を起こしたことがある)のうち1つでも当てはまれば、脳梗塞を防ぐ治療(抗凝固薬の服用)が推奨されます。 心房細動は、発作が2回起きたら治療の検討を  心房細動は発作が続いている期間によって、「発作性」「持続性」「長期持続性」に分けられます。発作性は発作が7日以内におさまるもの、持続性は7日を超えて持続するもの、長期持続性は1年以上続くものを指します。  治療は、①血栓をつくらせない(=脳梗塞の予防)、②脈のリズムを改善する、③高血圧や糖尿病、肥満などの持病の改善、の3つを柱にして進められます。  現在治療の中心になっているのが「心筋焼灼術(カテーテルアブレーション)」です。心房細動発作の原因となる箇所(左心房にある肺静脈との接合部など)を焼く(焼灼する)ことで発作を防ぎます。「発作性」の場合にはこの治療で根治することもまれではありません。  このほか、血栓ができるのを予防する抗凝固薬や、脈のリズムを整える抗不整脈薬などを併用します。 「心房細動は自覚症状があらわれにくいので、『心筋を焼灼しましょう』と言われても、納得できないかもしれません。心房細動は脳梗塞だけでなく、心不全を合併しやすく、認知症の発症リスクも約1.5倍高くなるといわれています。発作が2回起きたら、放置するリスクを重く受け止めて、治療を開始してほしいと思います」(夛田医師) (取材・文/別所 文) 【取材した医師】 福井大学病院 循環器内科学教授 夛田 浩医師 福井大学病院循環器内科学教授 夛田 浩医師  
田中圭、新婚生活は波乱万丈? 「おっさんずラブ」第2弾は「純愛」から「家族愛」へ
田中圭、新婚生活は波乱万丈? 「おっさんずラブ」第2弾は「純愛」から「家族愛」へ ドラマ「おっさんずラブ-リターンズ-」はテレビ朝日系で毎週金曜よる11時15分~放送中※一部地域を除く(写真 蜷川実花、hair & make up 小林雄美、styling 荒木大輔、costume ダンヒル)    2018年に放送され、日本のみならず世界中で社会現象を巻き起こした連続ドラマ「おっさんずラブ」。その続編となる「おっさんずラブ-リターンズ-」について主演の田中圭さんが語った。AERA 2024年1月22日号より。 *  *  * ――今作では、共演者との関係性も変わる。後輩の牧(林遣都)とは結婚して恋人から家族に、牧の恋敵である上司の武蔵(吉田鋼太郎)は会社を早期退職して、家政夫として二人の前に現れる。 田中圭(以下、田中):すごい絡ませ方ですよね(笑)。前作の終わりに、武蔵がものすごくかっこいい決着の仕方をしたので、「武蔵ともう1回どうやって絡むの!?」と内心思っていました。「記憶喪失になるしかないんじゃないの?」って(笑)。でも続編の台本を読んで、「こうきたか!」と素直に感動しました。これまでの上司・部下の関係から一歩進んで、武蔵の母性というのか、無償の愛を感じます。その一方で、牧とは恋のライバルではなく、嫁姑の立場からバトルを繰り広げるという……(笑)。 テーマは「家族愛」  前作が「純愛」だとすると、今作は「家族愛」がテーマですね。そうなると、掛け合いの仕方とかも自然と変わってくるところはあると思います。ただ僕らの強みは、前作から5年経った今まで、リアルでもずっと良い関係が続けられていること。友達でもない、先輩後輩というだけでもない、「家族ぐるみ」と言うと照れくさいですが、本物の家族のような強くて温かい関係性を築いてこられたことは、すごくありがたいです。そういう安心感が役を通じて画面に表れてくれれば、奥行きのあるすごく面白い作品になると思います。 ――第1話には、牧と些細なことで喧嘩を繰り返す春田に対し、武蔵が「新婚生活は家族になるための入り口。許し、認め合い、だんだん家族になっていく」と諭すシーンが登場する。田中自身は、人と長く付き合うためのコツは「求め過ぎないこと」だと話す。 田中:期待はしますが、期待し過ぎない。実際にはすごく難しいことですが(笑)。家事も分担してやっていると、「俺が皿洗っているんだから、あなたは風呂洗ってよね」とか、思いがちだと思います。でも、「自分がこれだけやったから相手もこれをやるべきだ」みたいな考え方は、僕はちょっと違う気がしていて。お互いに快適に過ごすためにルールがあるのに、いつの間にかルールを守ること自体が目的化しているというか……。ルールを破られたらムカついたり悲しくなるのはわかりますけど、相手のためにというより、自分がやりたいからやる。一緒にいたいからいる。自分の物差しで相手をはからないことが、イライラせずに長く一緒にいるためには必要なのかなと思います。 AERA 2024年1月22日号   正直な人は魅力的 ――田中が演じる春田は、優柔不断ないわゆる「ダメ男」。しかし、思わず手を差し伸べたくなるひたむきさがある。 田中:ダメダメでも周りから愛される人っていますよね。人間の「ダメさ」って、たくさん種類があるからひと言では言えないですが、やっぱり悪意があるかないかじゃないかな。自分の利益のために他人を利用しようとする人からはやっぱり自然と人が離れていくし、逆にすごくムカつくことを言ってくる人でも、打算がなければ嫌いになれなかったりする。何も考えてないだけかもしれないですが(笑)。相手の立場や関係性にかかわらず正直な人は、やっぱり魅力的だと思います。  能力や経験が足りなくて仕事ができないとか、そういうダメさで落ち込む人もいるかもしれませんが、僕は全然気にしなくていいと思います。自分ができないことを自分が理解しているのであれば、隠す必要もないし、自虐的になる必要もない。むしろ内にこもると成長が止まってしまうから、周りの人に「助けて」と素直に言えることが大切なのかなと思います。本当に頑張っている人を助けない人って、あんまりいないと思うんです。なので頑張っただけ報われる瞬間は絶対あるし、春田みたいに嫌なことはすぐに忘れてしまうくらいがちょうどいいと思います。 (ライター・澤田憲) ※AERA 2024年1月22日号より抜粋
強い月経痛を伴うことが多い「子宮内膜症」は卵巣がんにも注意 「子宮筋腫」は40代女性の3~4人に1人が持つ
強い月経痛を伴うことが多い「子宮内膜症」は卵巣がんにも注意 「子宮筋腫」は40代女性の3~4人に1人が持つ  40代女性の3~4人に1人が持っているといわれる「子宮筋腫」。そして月経がある人の10人に1人がかかるといわれる「子宮内膜症」。どちらも女性ホルモンの影響で進行する病気ですが、子宮筋腫はすべての人に治療が必要なわけではありません。一方、子宮内膜症は痛みなどの月経困難症を伴うことが多く、つらい症状があれば少しでも早く婦人科を受診し治療することがすすめられます。妊娠・出産とも関わりが深い病気のため、年齢や症状、妊娠・出産の希望などにより、十分に医師と相談して治療法を選ぶことが大切です。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *   *  *  子宮筋腫は、子宮にできる良性の腫瘍(こぶ)です。30~40代に多くみられ、40代では3~4人に1人が持っているといわれます。  筋腫は女性ホルモンのひとつであるエストロゲンの影響を受けて大きくなります。エストロゲンは月経周期とともに放出され、女性らしさを保つなど大切な役割を果たしますが、その働きが過剰になると、子宮筋腫や子宮内膜症など女性特有の病気を起こします。  そのため、一度できた筋腫は閉経するまで自然に治ることはありませんが、進行の速さは人それぞれで、閉経後は少しずつ小さくなっていきます。東京女子医科大学病院産婦人科主任教授の田畑務医師は、子宮筋腫になりやすい人について、こう話します。 「家族歴があるとやや起こりやすく、お母さんに筋腫があると娘さんが筋腫を持つ確率が、そうでない人より2倍に高まるといわれます。初潮が早い人はなりやすいという報告もありますが、反対の意見もあるため定かではありません」 筋腫があっても症状がないことも多い  子宮の壁は内側から子宮内膜、子宮筋層、漿膜(しょうまく)という3層構造になっています。子宮筋腫には、子宮の外側(漿膜)にできる「漿膜下筋腫」、子宮筋層にできる「筋層内筋腫」、子宮の内側(子宮内膜)にできる「粘膜下筋腫」という三つのタイプがあり、それぞれ異なる特徴があります。  筋腫があっても症状がないことも多いため、検診や不妊治療の際に偶然に発見されるケースがほとんどです。ただし、粘膜下筋腫は過多月経などの症状が起こりやすいため注意が必要です。 「漿膜下筋腫では、5cmを超える大きなものでも全く症状がないことも珍しくありませんが、粘膜下筋腫は1、2cmの小さなものでも月経のときの出血量が非常に多くなるなど女性にとってつらい症状が出やすく、いちばんやっかいなタイプといえるでしょう」(田畑医師、以下同)  粘膜下筋腫では、出血量が多くなる過多月経や、月経が長引く過長月経、月経痛などの症状がみられます。また漿膜下筋腫は、大きくなると膀胱を圧迫して頻尿になることもあります。筋腫による症状だとは気づかずに受診し、検査をして筋腫が発見されることも珍しくありません。  症状があって受診した患者に対して、まずは問診で月経の状態や症状、子宮がんの家族歴などを確認し、超音波検査や内診などの検査で子宮の大きさや筋腫の有無を確認します。悪性の病気が疑われる場合には、MRIや血液検査をおこなうこともあります。  子宮筋腫は良性の腫瘍のため、大きくなることはあっても「それが悪性に変わることはほとんどない」と田畑医師は話します。 「ただ、筋腫だと思っていたら悪性の肉腫だったということもあるので、診断時にしっかり確認することが必要です。また、筋腫を小さくするための薬物療法をしても、あるいは閉経してからも、大きくなるものは肉腫を疑います」 症状や筋腫の大きさ、場所、妊娠や出産への希望などにより治療を考える  筋腫があっても、「すべての人にすぐ治療が必要なわけではない」と田畑医師は話します。 「症状がなければ経過観察を続け、治療をしないまま閉経を迎える人もいます。過多月経などの重い症状があって日常生活に支障をきたす場合や、筋腫が大きくなる場合などは治療を考えます」  子宮筋腫の治療法には、薬物療法と手術があります。薬物療法では、鎮痛剤や低用量ピル、筋腫を成長させるエストロゲンがつくられるのを抑えるGnRH(ゴナドトロピン放出ホルモン)アナログ製剤などが使用されます。ほかに、黄体ホルモンを放出する器具を子宮内に挿入することで過多月経を改善する「子宮内黄体ホルモン放出システム」という治療もあります。  薬物療法で症状が改善しない人、大きい筋腫がある人、筋腫により妊娠しにくいことが考えられる人などは手術を検討します。  子宮筋腫の手術には、筋腫だけを切除する「子宮筋腫核出術」と、子宮をすべて切除する「子宮全摘術」があり、近年では腹腔鏡による手術が増えています。 「核出術はほとんどが腹腔鏡でおこなわれるようになっています。ただし、筋腫が大きい場合や、悪性の肉腫の疑いがある場合は開腹手術になります」 子宮内膜症では月経困難症の症状が起こりやすい  子宮内膜症とは、本来は子宮の内側にある子宮内膜が子宮以外の場所にでき、増殖する病気です。多くできるのは、卵巣や卵管、子宮と腸の間のくぼみ(ダグラス窩)などで、まれに肺や腸にできることもあります。卵巣にできることが最も多く、月経のたびに内膜組織から出血するため、血液がたまって卵巣に嚢胞(のうほう)という袋状の病巣(子宮内膜症性卵巣嚢胞)ができます。中にたまった古い血液がチョコレートのように見えることから「チョコレート嚢胞」ともいわれます。  20~30代に多く、月経がある人の10人に1人がかかる病気といわれています。子宮筋腫と同じくこの病気もエストロゲンの影響を受けて進行しますが、近年、子宮内膜症は増えています。1人の人が出産する回数が減っていること、出産する時期が遅くなっていることなどからエストロゲンにさらされる期間が長くなっていることが理由と考えられます。  子宮内膜症は、強い月経痛など月経困難症を伴うことが多く「かなりつらい症状に悩まされて受診する人も多い」と田畑医師は話します。進行すると、月経痛のほかに性交痛、排尿痛、排便痛、慢性的な下腹部痛などがみられることもあります。子宮内膜症の症状とは気づかずに消化器科などを受診し、婦人科を紹介されるケースもあるといいます。  診断は、問診や超音波検査、内診などによりおこないます。 「超音波検査で卵巣に腫れやチョコレート嚢胞があるか、ダグラス窩に癒着があるか、内診で子宮の後ろ側に圧痛があるかなどをみて診断します。比較的診断しやすい病気といえるでしょう」 不妊や卵巣がんのリスクを高めることも  子宮内膜症は、不妊の原因のひとつになります。卵巣や卵管で増殖した子宮内膜組織がまわりの臓器とくっついてしまう「癒着」が起こると、排卵しにくくなる、卵管が詰まって卵子や精子、受精卵が通れなくなる、着床しにくくなる、ということが起こり、不妊になると考えられます。不妊症の人の約3割は子宮内膜症というデータもあります。  また、子宮内膜症は将来、卵巣がんになるリスクを高めることがわかっています。頻度は0.74%とそれほど高くはありませんが、40歳以上で6㎝以上のチョコレート嚢胞がある人は注意が必要です。 「子宮内膜症は再発しやすいため、薬などの治療で一度は治っても、その後再発してがん化する人もいます。『閉経したから安心』ではなく、閉経以降も経過観察が必要です」 治療薬は進歩し、種類も増えている  子宮内膜症の治療も薬物療法と手術があり、月経痛に対してはまず鎮痛剤を使用します。それで改善しないときは、低用量ピルや黄体ホルモン製剤、GnRHアナログ製剤、子宮内黄体ホルモン放出システムなどの使用を検討します。  大きなチョコレート嚢胞で破裂のリスクがある人や、悪性の可能性がある人、薬物療法をしても症状が改善せず生活や妊娠に支障をきたしている人などは手術を検討します。  手術には、病巣部分だけを切除する方法と、子宮や卵巣、卵管も含めて切除する方法があります。腹腔鏡手術が増えていますが、悪性の可能性がある場合はおなかの中でがんが飛び散るのを防ぐため、開腹手術でおこないます。  子宮内膜症や、一部の子宮筋腫では、月経痛や過多月経などの症状でつらい思いをする女性がたくさんいます。でも「みんなそうだから」「仕方ないことだから」と我慢して婦人科を受診していない人もまた多いのが現状です。例えば、月経痛がつらくて市販の鎮痛剤を何度も飲まなければ耐えられない。出血量が多くて何度もナプキンを交換しなければならず、いつもトイレに行くタイミングを考えている。そのような症状があったら、それは仕方ないことでも耐えるべきことでもなく、すぐに婦人科に行くべき事態と考えましょう。  10代の若い女性でも、学校を休まなければならないほど重い月経困難症の人は多くいます。そういう人は子宮内膜症になるリスクが高く、「早めに低用量ピルなどによる治療をすることが、子宮内膜症の予防や進行を遅らせる有効な手段になる」と田畑医師は話します。  高校生やその保護者には、婦人科への受診やピルの服用に抵抗感をもつ人もいるようですが、治療に使用されるピルは低用量のため、吐き気などの副作用はほとんどなくなっているといいます。また、薬の種類も増えているため、最初の薬が合わないときには別の薬に替えることも可能です。 「婦人科への受診をためらう理由として内診への不安があるときは、はっきり『内診はしたくない』と医師に伝えましょう。娘さんが言えなければお母さんが言ってあげてほしいですし、問診票に記入してもいいです。性交渉の経験がない若い女性や、内診に抵抗がある女性には内診をしない診察の方法もあります。重い月経痛などの症状がある人には問診で詳しく話を聞いた上で薬を処方することもできます。安心して、まずは最寄りの婦人科クリニックを受診してみてください」 (文・出村真理子) 【取材した医師】 東京女子医科大学病院産婦人科主任教授 田畑 務 医師 東京女子医科大学病院産婦人科主任教授 田畑 務 医師  
「痛々しい画像いっぱい流してごめんなさい」 21歳美大生が能登町の写真をSNS載せ続けた理由、届いたエール
「痛々しい画像いっぱい流してごめんなさい」 21歳美大生が能登町の写真をSNS載せ続けた理由、届いたエール 津波が引いたあとの能登町。がれきの山が積み上がるが、空気感や能登にさす光の美しさは変わらなかった(坂口歩さん撮影)  1月1日に発生した能登半島地震で、見慣れた光景はすべて奪われた。  それでも、そこに「能登」があると感じた。  「町はめっちゃ悲惨なんですけど、能登の青空や町の空気感、光のきれいな感じは全然変わってなかった」  石川県能登町出身の坂口歩さん(21)は、変わり果てた地元を見て、言葉を選びながらそう話した。 「ひどいんだけど、きれいだなって。そのきれいさが悲しくもあり、救いでもあり……。きれいだと思っていいのかなとか、複雑な気持ちもありました。でも、やっぱり能登って美しい町だなって思ったんです」  何かに突き動かされるように、カメラのシャッターを夢中で切った。そうすることで、自分自身の心が救われていたのだと振り返る。 がれきが積み上がる能登町(坂口歩さん撮影) 津波で全身ずぶ濡れになった子どもたち  正月は能登町の実家に家族や親戚が集まって食事をするのが恒例だった。金沢美術工芸大学(金沢市)に在学中の坂口さんも昨年12月29日に実家に帰省。今年もいつもと変わらない時間を過ごしていた。  いとこが帰るのを見送って少しすると、大きな揺れが起きた。  能登地方では近年よく地震が起きていたため、今回も「いつもの地震だ」と重く考えていなかった。だが、すぐにまた地震が起きた。  さっきより大きい、これまで感じたことのない揺れ。家はギシギシと音を鳴らし、今にもつぶれそうだった。着の身着のまま、慌てて外に飛び出した。 地震で倒壊した家屋(坂口歩さん撮影) 「ご近所さんを確認して、みんなで避難することになりました。父と兄はパジャマみたいな格好。車も置いて、家の裏にある高台に向かいました」  少しして、近くの林の奥のほうから、「ドーン」という波の音が聞こえてきた。木がなぎ倒されているのか「バキバキ」という轟音、車のクラクションのような「プープー」という音。すでに携帯電話の電波は途切れ、今何が起きているのか知るすべもない。 「津波きたんかな」 「怖いね」 「大丈夫だよ」  集まった地域の人たちと、そう口々に励ましあった。 電線が切れ、ぐちゃぐちゃになった地元。車も全て流された(坂口歩さん撮影)  日が落ち、急激に気温が低くなった。近くのビニールハウスに移動し、置いてあったダンボールを敷いて腰を落ち着けた。  1時間ほどして、近所の公民館は電気がついた。Wi-Fiもつながる、といううわさが坂口さんの耳に入った。 「でも、公民館のほうがビニールハウスより標高が低いんです。津波も怖いし、移動するか迷いました。ただ、寒さで凍え死ぬよりはいいよねって夜8時半くらいに家族全員で避難しました」  公民館にはすでに70人ほどが避難していた。けがをしていたり、津波にのまれて全身がずぶ濡れになった子どももいた。 「町は悲惨だけど、空のきれいさは変わらなかった」という(坂口歩さん撮影) 「能登町」のことを忘れないでほしい  地震発生から2日後、意を決して自宅を見に行った。水は引いていたが、壁に残る跡から、津波が2メートル近くあったことが想像できた。言葉にならない感情が込み上げ、無我夢中で写真を撮った。 「まるで別世界に来たんじゃないかと思うくらい、ひどかった。津波で家のなかもぐちゃぐちゃでしたが、テーブルの上に置いていたこのカメラはぎりぎり水に浸かっていなかったんです。撮るのに夢中になることで、自分の心を救っていたような気がします」 津波の被害をギリギリで免れたカメラ(坂口歩さん撮影)    美大の作品づくりで、昨年末には地元の親子を被写体に公園で撮影をしたばかりだった。カメラには地震が起きる前の能登の写真も残っている。 「それが、災害の写真になってしまって。あぁ、って感じです」  避難していた公民館の前を給水車が通り過ぎていったこともあった。他の避難所の様子がわからないため、「気づいてもらえていない」「もっとひどいところがあって、うちらは後回しなのかな?」と落ち込む日々。テレビでは、輪島市や珠洲市、七尾市の情報が多く、能登町のことは知られていないのではないかと不安になった。  そこで、X(旧Twitter)とインスタグラムに能登町の写真を投稿し、こうつづった。 <痛々しい画像いっぱい流してごめんなさい、、でもこの方法しかなくて、、能登にはニュースに出てる七尾、珠洲、輪島だけじゃなくて、能登町もあります、能登町の中にもいろいろあって、、津波も来てる、物資も足りない、忘れないでほしい、、> 「投稿を見た人から、『忘れてないですよ』『大丈夫、がんばって』『謝らなくていいですよ』という声が届いて、うれしかった。同じ能登町で被災した人なのか、『ほんと、そう!』って共感してくれる人もいました」  地震発生から日が経つにつれ、公民館に避難する人も増えていった。ただ、パーテーションはなく、プライバシーもゼロ。足を伸ばして寝ることができず、お風呂にも入れない。教室2つぶんほどのスペースに100人以上の人が集まり、ピリピリした空気が漂った。 津波の跡が残る家屋。2メートル近くまできていたという(坂口歩さん撮影)  家族全員の車が流され、金沢にいつ戻れるかもわからなかった。だが、7日の朝。避難所にいた女性に声をかけられ、一緒に金沢に向かうことになった。 「2時間後出発ね!って感じでした。そんなに戻りたいとは思っていなかったんです。でも、私のメンタルも終わってたし、避難所から一人でも多く出てほしいという状況だったから。(能登を離れることも)怖いし、一人だけ金沢に行くのも申し訳ないし、でもここから出たほうがいろんな意味でいいんだろうな、って」  地震の揺れで、金沢の自宅もぐちゃぐちゃになっていた。だが、蛇口をひねれば水が出て、スイッチを押すだけで電気がつく。その一つひとつに感動した。 「能登はいいところ」だから忘れないで  金沢に戻ってから、友達や大学の先生の支えで、少しずつ前を向けるようになっている。それでも、不安は尽きない。 「とにかくお金がなくて、他にも困っている学生がたくさんいると思います。大学も就活、生活するのにもお金が必要で……。なかなかしんどい状況です。奨学金の情報とか、なんでもいいので教えてもらえるとうれしいです」  と小さな声でつぶやいて、こうも続けた。 「ツイッターで津波の動画が上がっていたりして、そういうのを見たら『能登怖い』『行きたくないな』って思う人がいっぱいいるんじゃないかなってのがすごい不安で。でも、能登ってすごいきれいなところで、本当に穏やかで、めちゃくちゃいいところだからそれを忘れないでほしいんです」 地震が起きる前に撮影した能登。やわらかい光と穏やかな海が美しい(坂口歩さん撮影) (編集部・福井しほ) ※AERAオンライン限定記事 地震発生から金沢への避難まで、 坂口さんが描いた絵 地震発生前から翌日までを描いた(絵:坂口歩さん) 絵:坂口歩さん 絵:坂口歩さん (絵:坂口歩さん) https://twitter.com/sinpiiin/status/1743504497270522305
夫婦の関係を一言で表すなら“同志” 仕事に明け暮れた30代から向き合い方が変化した40代
夫婦の関係を一言で表すなら“同志” 仕事に明け暮れた30代から向き合い方が変化した40代 山内真理さん(手前)と山内康裕さん(撮影/篠塚ようこ)    AERAの連載「はたらく夫婦カンケイ」では、ある共働き夫婦の出会いから結婚までの道のり、結婚後の家計や家事分担など、それぞれの視点から見た夫婦の関係を紹介します。AERA 2024年1月22日号では、税理士として会計事務所とコンサル会社の経営をする山内真理さん、税理士を経てマンガを広く普及するための企画業に携わる山内康裕さん夫婦について取り上げました。 *  *  * 2010年、夫30歳、妻30歳で結婚。現在、1歳2カ月の長男と3人暮らし。 【出会いは?】国家資格試験の受験予備校で出会う。 【結婚までの道のりは?】一緒の受験仲間グループで気が合って親しくなり、出会って半年ほどで交際を開始。約10年後に結婚した。 【家事や家計の分担は?】夫が洗濯、掃除などを、妻が炊事、子どもまわりなどを担当。基本的に生活費は別々だが、子ども関係は、適宜協議して項目ごとに決めている。 妻 山内真理[43]公認会計士山内真理事務所/THNKアドバイザリー代表公認会計士・税理士 やまうち・まり◆1980年生まれ、千葉県出身。2003年、一橋大学経済学部を卒業。アート・カルチャー・エンターテインメント領域やものづくり・まちづくり分野などを中心に、会計税務サービスや経営支援を行う会計事務所とコンサル会社を経営  初めて会った時、ユニークな個性と面白いセンスを兼ね備えた人だと感じました。いつも物事を柔軟に考えられるので、一緒にいて刺激を受けました。  結婚前も結婚後も、互いのキャリア形成や仕事の進捗を適度な距離感を保ちながら応援してきました。特に30代は2人とも独立したところからスタートし、仕事に明け暮れた毎日でした。  40代になって家族のメンバーに子どもが加わり、仕事への向き合い方も少しずつ変化しています。出かける場所も子ども中心になりました。  新潟県の海沿いにもう一つの拠点があって、月に1回は出かけています。元々美術館だった場所なのですが、2人とも気に入ってリフォームして使っています。子どもは大自然の中で動き回り、地方ならではの体験に大喜びしています。  今はプライベートで使っていますが、行く行くは家族でプロジェクトを立ち上げて地域に開かれた場所にしたいと考えています。 山内真理さん(手前)と山内康裕さん(撮影/篠塚ようこ)   夫 山内康裕[44]一般社団法人マンガナイト代表理事/一般財団法人さいとう・たかを劇画文化財団理事長 やまうち・やすひろ◆1979年、東京都生まれ。法政大学大学院イノベーションマネジメント研究科修了後、税理士を経て、マンガナイトを結成し2020年に法人化。マンガを領域にした企画業や社会事業を展開している。共著に『人生と勉強に効く学べるマンガ100冊』など 2人の関係を一言で表すと同志です。それぞれ独立して仕事をしていますが、自分の得意分野を最大限に生かし、人がやっていないことをやるために切磋琢磨しています。  大学生の時、公認会計士の資格を取るための学校で出会い、意気投合しました。2人とも資格を取ることが最終目標ではなく、資格を生かしてどうキャリアを積むかに焦点を当てていたので、価値観がよく合いました。  大学卒業後、一緒に暮らし始めました。妻は無事に資格を取り、大手監査法人に就職。一方で私はなかなか合格できず、結婚にも踏み切れませんでした。  今は、税理士は辞めて子どもの頃から大好きだったマンガを広く普及するための企画業をしています。結婚してから自分に向いている天職が見つかった感じです。  お互い多忙なので家事と子育ては半分ずつやっています。子どもにはたくさんの刺激が必要だと思うので、休みの日は美術館などに連れていって一緒に楽しんでいます。 (構成・浴野朝香) ※AERA 2024年1月22日号
失明につながる「網膜の病気」 気をつけたい4つ「加齢黄斑変性」「網膜剥離」「糖尿病網膜症」…【医師解説】
失明につながる「網膜の病気」 気をつけたい4つ「加齢黄斑変性」「網膜剥離」「糖尿病網膜症」…【医師解説】  眼の病気は発見が遅れると、失明してしまうケースがあるため、知識をもつことが大切です。今回は、網膜にまつわる複数の病気について解説します。  本記事は、2024年2月下旬発売の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、お届けします。 *   *  * 網膜は、眼球の最も内側に貼り付いている透明な膜  普段、当たり前のようにものが見えていると、私たちは眼をあまり意識することがありません。でも、眼にまつわる病気はたくさんあります。  今回紹介したいのは、眼のなかでも網膜の病気。網膜は、眼球の最も内側に貼り付いている透明な膜です。カメラでいうフィルムの役割をもち、視覚情報を脳へ伝達しています。網膜の病気には難治性のものが多く、横浜市立大学市民総合医療センターの眼科部長・教授の門之園一明医師は「近年では、網膜の病気に対する一般の人の関心が高まっています」と話します。  特に気をつけたい網膜の病気は、加齢黄斑変性(かれいおうはんへんせい)、網膜剥離(はくり)、黄斑上膜、糖尿病網膜症の四つだといいます。それぞれ解説していきましょう。 初期では視界の中央部が見づらい「加齢黄斑変性」  一つ目が、網膜の中心に出血やむくみをきたし、視力が低下する加齢黄斑変性です。黄斑とは、網膜の中心にある0.3ミリ程度のとても小さな領域。放置すると進行し、視力は回復しなくなります。60代以降の高齢者に増えていて、6千〜7千人に1人がかかっています。  主な症状は、中心暗転といって視界の中央部が見えなくなります。初期はものがゆがんで見える、視界の中央部が見づらい・灰色になってかすむなどの症状が多く、進行すると、中央部が真っ暗になって見えなくなり、飛蚊症(ひぶんしょう)が絶え間なく見えます。ゆっくり見えなくなるのと、急に見えなくなる2タイプがあり、前者が多く、後者は全体の1〜2割です。  予防として、禁煙が大切です。以前は、「紫外線は網膜にダメージを与えるのでサングラスで保護を」と言われていましたが、エビデンスはないといいます。 「予防では栄養療法が研究され、活性酸素の悪影響を軽減する抗酸化ビタミンや抗酸化酵素を構成するミネラルなどが注目されています。適切な補助薬(サプリメント)は有効ですが、眼科で適切なアドバイスを受けることができます」(門之園医師) 蚊のようなものや光などが見える「網膜剥離」  網膜剥離は、眼球の内側にある網膜が、網膜色素上皮から剥(は)がれてしまう病気。剥がれると視力が低下し、最悪の場合失明につながります。 「以前は約1万人に1人の罹患率だったのが、最近のデータでは約7千人に1人に増えてきています。理由は、網膜剥離の発症リスクとなる近視の人が非常に増えて、若い人もかかるようになったからです。これまで多い年齢層は20代と、50代以降でしたが、今ではそういうピークがなくなり、幅広い年代がかかるようになっています」(門之園医師)  症状は、「白い壁を見たとき、蚊のように黒く動くものがチラチラと見える」「視野全体が暗く、カーテンがかかったような感じ」「眼の中でピカピカと何かが光って見える」など。残念ながら、予防法はまったくありません。症状があれば、眼科へ行きましょう。 進行すると物がゆがんで見える「黄斑上膜」  黄斑上膜は、網膜の中心にある黄斑の表面にセロファン状の薄い膜が張る病気。硝子体(しょうしたい)の残った薄膜がセロファン状の膜になることにより起こります。50代以降に多い病気で、約4千人に1人がかかっています。  早期には自覚症状はなく、人間ドックなどで偶然発見されることが少なくありません。進行すると、網膜にしわができるため、ものがゆがんで見えたり、左右に違いが生じたり、ものが大きく見えたり、視力低下が起きたりします。必ず進行して、自然に治ることはなく、放っておくと最終段階では中心暗転といって視界の中央部が暗くなってしまいます。 「あまり知られていない病気で、患者さんが加齢黄斑変性と間違うこともあります。似たような名前ですが、まったく違う病気。受診して発覚するケースが多く、デジタル時代の生活の質が妨げられるのが特徴です」(門之園医師)  この病気も、予防法はまったくありません。「電信柱や看板が見づらい」「眼鏡をかけてもスマホが読みづらい」などの症状を感じたら、眼科へ行きましょう。 「糖尿病網膜症」は初期には無症状。糖尿病患者は要注意  糖尿病網膜症は、糖尿病によって網膜が障害を受け、視力が低下する病気です。糖尿病患者は約2千万人いて、その人たちはこの病気になるリスクがあります。ただし近年では、糖尿病患者の内科の治療が行き届き、糖尿病網膜症の重症患者は減っているといいます。  糖尿病網膜症は、初期には無症状なのですが、自覚症状が出てからでは治療の範囲が限られてしまいます。自覚症状があれば、単純型、前増殖型、増殖型という3段階のどこかに属しています。  単純型は初期の網膜症で、小さな出血や毛細血管瘤(りゅう)などが出現するのみで自覚症状はほとんどありません。内科の治療だけで治ります。より進んだ前増殖型は、網膜の毛細血管が閉塞し始め、網膜のところどころに酸欠の部分が出て、レーザー治療が必要になります。さらに進行した増殖型は、新生血管が出現して硝子体に出血を起こし、必ず失明にいたりますので、手術が必要になります。  治療をしなければ失明にいたるので、早期発見や治療が大切です。糖尿病患者は、定期的な眼底検査を受けましょう。 「眼科に行かなくても早期に発見できるよう、AI画像解析を用いた診断支援の技術が開発されました。今、実用化に向けて取り組んでいるそうです」(門之園医師) 40代以降の人は、年に一度は眼底検査を受けること  これらの病気は、どのような検査を経て診断されるのでしょうか。 「網膜の病気の検査は大きく三つあります。一つ目が、一般的な視力検査です。二つ目が、眼底検査。瞳孔(どうこう)を通して網膜や視神経のすみずみまで調べる検査です。瞳孔は光を当てると小さくなるので、点眼薬で一時的に散瞳(さんどう。瞳孔が広がること)させることが必要です。散瞳すると多くの光が眼に入るのでまぶしく、それが6時間ほど続きます。三つ目が、網膜の断層画像を撮影する光干渉断層計(OCT)検査。黄斑部の病気の診断で必須の検査です」(門之園医師)  特に症状や病気がなくても、門之園医師がすすめているのは、強度近視の人、スマホやパソコンを1日に4時間以上使う人、ゲームを1日に1時間以上する人、40代以降の人は、年に一度は眼底検査を受けることです。 「神経系の病気ですから、受診したときに手遅れになっている場合があります。目の疲れやかすみという訴えでも、眼科医は眼底検査を必ずしてくれるものです。『眼底検査を受けたい』と伝えるのでも構いません」(門之園医師) (取材・文/小久保よしの) 【取材した医師】 横浜市立大学 市民総合医療センター 眼科部長、横浜市立大学 医学部視覚再生外科 主任教授 門之園一明医師 横浜市立大学 市民総合医療センター 眼科部長、横浜市立大学 医学部視覚再生外科 主任教授 門之園一明医師  
「間違った断熱」を選ぶと結露で家が腐っていく…職人社長が「外断熱を安易に選んではいけない」と断言する理由
「間違った断熱」を選ぶと結露で家が腐っていく…職人社長が「外断熱を安易に選んではいけない」と断言する理由 写真はイメージです(gettyimages)    家の断熱対策はどうするべきなのか。「職人社長」を名乗る平松明展さんは「冬は暖かく、夏は涼しい家にするためには断熱対策がとても大切になる。ただし、断熱性を高めたいからといって、透湿抵抗値の高い断熱材を二重にする『外断熱』はやめたほうがいい」という――。 ※本稿は、平松明展『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。 「新築住宅の悲劇」を招く5つの事態  現在の住宅建築では断熱の施工をすることは常識です。ただ、すべての住宅で断熱性が担保されているかというと、そうでもない事実もあるのです。  断熱性を追求するひとつに、断熱材を増やすことがあります。  断熱材を厚くすると冬は暖かく、夏は涼しくできる理論は間違っていませんが、湿気や結露対策がされていなければ建材が劣化して建物の耐久性もどんどん低くなってしまいます。  その結果、断熱材も劣化して断熱性まで失われることになります。追求した断熱性が実現されず、さらに家の耐久性などに支障が出てしまうことは悲劇としかいいようがありません。悲劇を招く事態は次の5つです。 ①湿気を室内にとどめてしまう  昔ながらの日本家屋は木材中心で、壁には土を使っているため通気性に優れていました。現在の住宅は新建材やビニールクロスを使用しており、なにもしなければ湿気がとどまりやすく結露が発生しやすいと思ってください。 断熱材を二重にする「外断熱」はやってはいけない  例えば断熱材の内側に気密シートを貼っているとします。冬場は室内の湿度が外よりも高いのですが、湿気は気密シートで止まるため断熱材には影響しません。  ところが夏場は外の湿度が高いため、室内に入ってこようとします。すると同じく気密シートのところで湿気がとどまります。室内はエアコンで温度と湿度を下げていますから、温度差によって断熱材の隙間に結露が生じてしまうのです。  湿気は水蒸気でとても細かな物質のため、完全に入らないようにすることはできません。その特性を考えてできる対策としては、断熱材の外側にある耐力面材(※)やプラスターボードを透湿抵抗値の低いものにする方法です。“湿気が入っても抜ける”という原理を働かせるわけです。また、透湿抵抗値の高い(湿気が移動しにくい)断熱材を一層だけ使用することも有効な手段のひとつです。 出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』    ちなみに外断熱など、透湿抵抗値の高い断熱材を二重にして施工すると、外壁からの漏水があった場合に建物のダメージが大きくなるリスクがあります。断熱材に湿気がたまるとシロアリや腐朽菌を発生させることになり、断熱性が落ちるばかりでなく、建物の損傷につながってしまいます。鉄骨造やRC構造は外断熱になるためリスクが高いのです。 ※耐力面材:地震などで加わった力を壁全体に分散させる効果のある部材。 気密性を確認したかったら「宿泊体験」してみる ②気密性のあまさにつながる  かなり高い施工技術がないと断熱構造の隙間を解消できません。また断熱材が増えると外と中との温度差が大きくなるので結露リスクも高まり、隙間があればそこに結露が発生してしまうわけです。  丁寧な施工をしている会社は「気密測定」も念入りに行います。ただ、一般の人が測定値を確認するのは難しいですよね。気密性を確認するには、冬場や夏場にその住宅に宿泊して体感すること。宿泊体験できる住宅会社を選んでおくと安心ですね。  気密性を高めるには断熱の施工精度を高めることと、壁材の構成を完璧(かんぺき)にすること。どちらか一方でよいのではなく、二重の保険をかける意味合いで両方を徹底するべきでしょう。 ③漏水のリスクがある  まず一般的な断熱材を入れた壁の構造を解説すると、室内側からプラスターボードという壁下地の建材があり、断熱材、耐力面材、防水シート、通気層、外壁という順になります。どんなに精度が高い外壁を施工したとしても雨で水が入ってくることを想定しておかなければなりせん。防水シートも同様で絶対に防げるという保証はないので、水が入ってきても大丈夫だという観点でお話しします。 外断熱は「冬カラカラ、夏はジメジメ」になりやすい  水が入ってくると断熱材や耐力面材が損傷します。これを避けるには、防水シートと耐力面材の透湿抵抗値をあまり高くないものにすること。すると水が入っても抜ける仕組みになるので、劣化しにくくなります。  外断熱のケースではさらに悲惨です。プラスターボード、断熱材、耐力面材、断熱材、防水シート、通気層、外壁という構成になり、断熱材が耐力面材を挟んだ状態になります。  断熱材が透湿抵抗値が高いものだと水は抜けなくなります。断熱材の透湿抵抗値の低いものを設置すると、冬場に加湿しても抜けてしまい、夏場に除湿しても湿気がどんどん入ってくる事態に。つまり、透湿抵抗値の高い断熱材をひとつだけ設置するほうが理に適(かな)っているのです。 出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』   通気層の流れを確認しておく ④通気層がない  通気層が連続した状態で設置されていれば、万が一水が入っても抜けます。ところが設計によっては通気層の出口が塞ふさがれているケースがあるのです。この通気層は熱気や湿気を抜く役割もあります。  この抜け道をつくる材料を通気胴縁(つうきどうぶち)といいますが、その先に窓が設置されていると道が塞がれてしまいます。この場合は通気胴縁を短く切って横に抜ける道をつくるのが適切な施工です。  適正な通気層は、地面の近くにある給気部分から屋根にある棟換気という排気口までが連続していること。日射によって発生する熱気も通気層を流れて屋根から出ていくわけです。暖かい空気は上昇する性質がありますから。 出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』    内部構造を確認するのは難しいかと思いますが、質問をしてみて腑(ふ)に落ちる回答があるかどうかで判断できるでしょう。いずれにしてもある程度の知識が必要というわけです。 内部結露は補償してもらえない場合が多い ⑤空気が悪くなる  成人は一日に20㎏も空気を吸っているそうです。空気は気分を左右するだけでなく、建材や家電製品、家具などから発せられている化学物質を吸うことで健康面にも影響します。そこで建築基準法で「機械換気」の設置が義務づけられています。機械設備によって強制的に換気をするシステムですね。  一方で自然換気というものもあります。ただし、断熱性を高めるために気密性を高めてしまうと、空気の出入りがしにくくなってしまいます。そこで有効なのが通気層です。内壁がすべて通気層になっていれば、空気は自然に循環します。  高断熱高気密が一概にダメというわけではありません。かなり高い精度であれば5つの要因を避けられますが、家づくりに絶対はありません。どんなに腕のいい職人でも完璧ではないのです。そのリスクを避けるのに最も適しているのがWB工法です。『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』(KADOKAWA)で何度も紹介している工法ですが、結露の発生リスクがとても低い構造です。  補足ですが漏水に関しては保険に入れば補償があります。万が一損傷した場合も保険で修復できるのです。ただし、一般的に内部結露は補償の対象外です。断熱性を高めるために初期費用をかけたのに、湿気や漏水によって断熱性が低くなり光熱費が増し、損傷した部分を修復するためにメンテナンスコストがかかり、場合によっては建て替えることに。そんな悲劇を招かないためにも正しい知識を持っておきましょう。 西側には窓をつけない  間違った断熱性の追求による悲劇をお伝えしましたが、みなさんを恐怖にさらそうとしているわけではありません。住まいはさまざまな要因によって変化し、私たちはそこで生活していることを認識してほしいだけです。  日射もそのひとつ。家には日射を防ぐためにひさしがありますよね。サンシェードやすだれで日射を防ぐ方法もあります。  あとは窓が重要です。窓が大きければ室内にダイレクトに日射が入ってきます。明るい部屋にできたとしても、夏場は日射で暑くなってしまうのです。その場合、小さな窓にして光だけを取り入れる設計にするのが有効。  また西側に窓をつけないことも対策です。建物が熱せられた状態で、さらに西日が入ってくると室温を下げるのにエアコンのエネルギー量が増します。 出典=『住まい大全 ずっと快適な家の選び方、つくり方、暮らし方』   断熱材は、厚く高性能なものを1枚だけでいい  気温も室温と関係してきますが、日射、気温の影響を防ぐには断熱材を厚く、性能のよいものにすることです。断熱材の性能と壁構造が湿気対策にも関係することは先に述べたとおり。冬場は室内の湿気が外に出てしまいますが、室内から外に出したいのは湿気ではありません。臭いや化学物質などです。  夏場は内部発熱を考慮しなければなりません。冷蔵庫、テレビ、パソコンなどの家電から熱が出ています。さらに人間からも熱が発せられています。成人だと100Wくらいの熱量を発しています。狭い空間に大勢が集まって暑く感じた経験があるでしょう。  室内は断熱材の内部です。なにも対処しなければ内部発熱は室内にこもったまま。熱を外に逃す換気が必要です。  温度の高い空気は上昇するので、窓を高い位置につけて熱気を排出する方法もあります。  最も有効なのが、やはりWB工法。湿気を外に出す構図と同じです。二重構造の通気層があるわけですから、自然に室内の熱量を外に排出できるわけです。  これは臭いにおいても同様。先述の「⑤空気が悪くなる」のところで解説したとおりです。WB工法はこうした空気の流れもよくでき、「形状記憶式自動開閉装置」で温度を感知し、換気口を自動的に開閉できるわけですから、室内の空気も常にきれいなんですよね。
能登半島地震が突きつけた「耐震化率」の低さ 高齢者が多い地域ほど「改修必要なし」と考えてしまう理由
能登半島地震が突きつけた「耐震化率」の低さ 高齢者が多い地域ほど「改修必要なし」と考えてしまう理由 1月1日の能登半島地震で、「輪島塗」の老舗企業ビルが横倒しになった=2日、石川県輪島市    震度7。真冬の能登半島を巨大地震が襲った。いつかは「起きる」と考えていても、事前の対策は極めて難しい。日常を見つめ直して、備えを。AERA 2024年1月22日号より。 *  *  *  倒壊したのは、7階建てのビルだった。  元日の夕方、石川県能登半島を襲った最大震度7の巨大地震。揺れは広範囲に及び、輪島市中心部にあった伝統工芸「輪島塗」の老舗の会社のビルが倒壊した。ビルは根元から横倒しになり、隣の居酒屋兼住宅を押しつぶし、周囲の信号機もなぎ倒した。  なぜ、7階建てのビルが倒壊したのか。耐震基準をクリアしていたのか。揺れで杭が破断した可能性も指摘されるが、輪島市の担当者は、繰り返した。 「現時点ではわかりかねます」 「耐震基準」という概念は、1950年に制定された建築基準法に盛り込まれた。その後、大地震のたびに改正を重ねた。78年、ブロック塀などが倒れ28人が犠牲となった宮城県沖地震(最大震度5)を受け81年、建築基準法が改正され耐震基準が引き上げられた。それ以前を「旧耐震基準」、それ以降を「新耐震基準」と呼び、「震度6強~7程度の地震でも倒壊しない水準」が求められる。その後、95年の阪神・淡路大震災で多くの木造住宅が倒壊したことから2000年にも法改正され、木造住宅について地盤調査や基礎強化などを盛り込んだ「2000年基準」が設けられた。 「耐震化率」が低い地域  国土交通省が公表している「大規模建築物の都道府県別耐震化率」(22年)によると、旧耐震基準で建てられた病院や店舗、学校、宿泊施設など不特定多数の人が利用する大規模建築物が調査の対象だが、石川県は75%と、全国平均90.1%を大きく下回る。    防災コンサルタント事業を行う「防災クリエイティブマネージメント」(大阪府大阪狭山市)の防災アドバイザー・岡本裕紀子さんは、輪島市で倒壊したビルは詳しい調査が必要だとした上で「企業が所有する大規模建物の耐震化は、その企業がしっかり防災意識を持ち日頃から建物を維持管理しているかにかかっている」と指摘し、こう話す。 被害が大きかった珠洲市や輪島市、かほく市などは、いまだ住宅被害の全容が把握できていない=4日、石川県珠洲市   「企業には、いざという時に自社の早期復旧に取り組むのみならず、自社の強みを生かした社会貢献活動を求められる時代が到来しています。『地域の一員としての企業』という視点を持って、建物の維持管理をはじめ、防災活動に取り組んでほしい」  今回の地震は、石川県内の犠牲者は232人、安否不明者は21人となる未曽有の災害となった(18日14時時点)。ここまで被害が拡大した要因の一つが、住宅の耐震化の遅れだ。    多数の木造住宅が倒れ「壊滅的な状態」とまで言われる珠洲市は、住宅約6千戸のうち耐震基準を満たしていたのは51%(18年)、80人以上が亡くなった輪島市は46.1%(22年)と、いずれも全国平均の約87%(18年)と比べ極めて低い。  さらに被害を大きくしたと考えられているのが、高い高齢化率だ。特に地方は高齢化が進み、65歳以上の高齢化率は珠洲市が52.8%(22年)、輪島市で45.7%(21年)と全国平均の29.1%(22年)を大きく上回る。災害時には、高齢者ら「災害弱者」が逃げ遅れ自宅で亡くなるケースは少なくない。今回も、逃げ遅れた高齢者は多かったと見られている。 命救うための耐震改修  耐震化が進まないのはなぜか。  耐震関係に詳しい東海大学・静岡県立大学の長尾年恭(としやす)客員教授は、「経済的理由が一番大きい」と指摘する。 「耐震化の必要性はわかっていても、耐震化による効果は目に見えません。例えば、耐震化に100万円を使うなら、車を買ったほうがいいと思ってしまう。車は買ったその日から、役に立ちます。高齢者が多い過疎地ほど、もう必要ないと思い、耐震改修は進みません」  だが、「命を救うためには耐震化が最重要」と長尾客員教授。 「家が壊れないことで、火事が起きず、命が助かり、被災後の暮らしにも困りません。また、耐震化して高断熱住宅にすると、ヒートショックなどによる冬の死亡増加率が低くなることも分かっています」  耐震化に詳しい東京都立大学の中林一樹(いつき)名誉教授(都市防災学)も、木造住宅の耐震化の必要性を強調する。 「新耐震基準もすでに43年が経過し建物の老朽化は進んでいます。2000年基準に合わせた新しい耐震改修をすれば、木造住宅のほとんどが一部損壊か準半壊以下で収まります。津波や火災が起きても家から逃げ出せるので、助かる可能性は高くなります」  どうすれば、耐震化を進めることができるのか。  防災アドバイザーの岡本さんは、「被災後に新築するより、事前に耐震改修する方が格段に出費を抑えられることを社会の認識にする必要がある」と説く。工務店などでつくる「日本木造住宅耐震補強事業者協同組合」(木耐協)によると、耐震化にかかる費用は平均167万円。だが、11年の東日本大震災で自宅が全壊した人が新築した際にかかった費用の平均は約2500万円だったという。 「被災後に手を打つ場合は、ケタ違いに莫大な出費となります。事前に耐震改修して備えておく方が、被災した時、スムーズな生活再建につなげることができます」(岡本さん)  耐震化をためらう人に岡本さんは、「まず自宅の耐震診断を受けてほしい」と話す。 「耐震診断を受ければ、『このような揺れが来た時にこの方向に倒壊しやすい』『家の中でこの部屋が比較的安全』など、自宅の特徴を教えてもらえます。診断に必要な費用の一部を補助する自治体もあり、耐震診断を受けるだけでも地震の揺れが来た時にどう行動すれば安全を確保できるか少しでも分かります」 寝室だけでも補強する  先の長尾客員教授は、「住宅の一部だけ補強するのも効果がある」と語る。 「寝室だけでも補強したり、寝床の上をフレームで覆う防災ベッドを置いたりして、家屋が倒壊しても寝室だけでも守れるようにすれば、命を守る上でも意味があります」  前出の中林名誉教授は木造住宅の耐震化について、「従来の耐震化ではいけない」と指摘し、「高齢者が古い住宅に住み続ける中、福祉と耐震改修の支援を一本化する福祉防災支援を進めていく必要がある」と説く。 「例えば、お風呂の改修や車いすで玄関まで移動できる住まいのバリアフリーに併せて、耐震化もする。そうした高齢者に優しく地震にも強い家づくりなら、別々の工事より改修費も大幅に節約できます」  その際、行政の支援が不可欠だが国は縦割り意識が強く、一本化は難しい。そこで知事会や市長会など各自治体の長が先頭に立ち、国に働き掛けるとともに独自にも取り組むことが必要だという。その上で、今回の地震を教訓に、「親子で実家の耐震化を考えてほしい」と語る。 「いま高齢の親は地方にいて、子どもたちは都会で暮らすケースが多くあります。しかし親は高齢になり実家の耐震補強が経済的に苦しいので、子どもが耐震費用の一部を出して改修したり、建て替えたりする場合は新しい住宅の何割かは子ども持ち分にするなどです」  そうすれば親を守れる上に、首都直下地震や南海トラフ地震で被災した時、親元に家族を安心して避難させることもできる、と中林名誉教授。 「そうした家族ぐるみの耐震化をぜひ考えてほしい。それへの新しい行政支援も重要です」 (編集部・野村昌二) ※AERA 2024年1月22日号
寿命を縮めてしまう睡眠は? 8時間以上布団のなかにいると60歳以上は死亡率増加 医師が対処法を解説
寿命を縮めてしまう睡眠は? 8時間以上布団のなかにいると60歳以上は死亡率増加 医師が対処法を解説 ※写真はイメージです(写真/Getty Images)   「なかなか寝つけない」「早朝に目が覚めてしまう」。年齢を重ねると、不眠に悩む人は増えていきます。では年齢を重ねた人にとっての「よい睡眠」とはどんな状態を指すのでしょうか。そこで60歳以上を対象に、おもな睡眠障害やその対処法について、専門の医師に聞きました。この記事は、週刊朝日ムック「手術数でわかるいい病院」編集チームが取材する連載企画「名医に聞く 病気の予防と治し方」からお届けします。「睡眠障害」全3回の3回目です。 *  *  *    60歳以上の不眠の特徴について、日本ではまだ数少ない睡眠専門施設である昭和大学病院東病院睡眠医療センター長の安達太郎医師はこう説明します。 【第1回の記事はこちら】 【子どもの睡眠不足】不登校や発達障害に似た症状も 医師「9割はスマホやタブレットの長時間利用の影響」 https://dot.asahi.com/articles/-/209427 【第2回の記事はこちら】 「睡眠の質」を下げる8つの悪習慣は? 専門医が提案する睡眠の質を高める4つのポイント https://dot.asahi.com/articles/-/210534 「加齢とともに睡眠やからだのリズムが変化し、活動量も減るため、からだが必要とする睡眠時間は減少していきます。昔と同じように長時間眠る必要がなくなるので、睡眠時間が短くなるのは自然なことです。多少の寝つきの悪さや早朝に目が覚めたりするのも年齢とともにある程度、避けられないこと。必ずしも不眠とはいえないのであまり悩みすぎる必要はありません」  必要な睡眠時間を年齢別でみると、15歳では約8時間ですが、25歳で約7時間、45歳で約6.5時間、65歳以降は約6時間と、高齢になるほど短くなります。  安達医師によると、60歳以上の眠り方のこつは、「眠くないときはベッドに入らず、眠くなったらベッドに入ること」。  眠気を感じていないまま寝床に入ると、からだは眠る準備ができていないため、寝つきが悪くなります。途中で目が覚めたり(中途覚醒)、眠りが浅く感じたりするケースも、起きているのに寝床で横になっている時間(床上時間)が長いときほど生じやすいとされています。 「ベッドに入る時間に自然と眠くなるよう、夜には明るい光を避け、軽いストレッチやヨガ、歌詞のない音楽を小音量で流すなど、リラックスできる寝室環境を整え、睡眠に影響する生活習慣を見直す『睡眠衛生』の改善が大切です」(安達医師) 「睡眠衛生」とは、睡眠と覚醒のリズムを安定させる生活習慣のことです。そのポイントとして、①起床と就寝時間を整える、②規則正しい食生活、③日中に日光を浴びる、④適度な運動習慣、⑤日中に外出する、⑥就寝前にカフェインやアルコール、たばこの摂取を避ける、⑦室温・照明などで寝室環境を整える、などがあります。「健康づくりのための睡眠指針2014」(厚生労働省)  も参考にしながら、こうした生活習慣を見直すことで、夜になると自然と眠くなりやすくなります。   よい睡眠には、薬よりも生活習慣を整える  この年代の不眠の悩みの特徴として、「病院を受診した際に睡眠薬を希望する人が多い」と安達医師。 「睡眠衛生の改善を実践しても不眠が改善しない場合は睡眠薬を考慮しますが、こうした薬は入眠をサポートするだけで、中途覚醒を解消する効果はほぼありません。常用すると依存性があることも問題になっています。とくに、ベンゾジアゼピン系の薬は昔から日本では多く処方されていましたが、長期間の使用で依存性や認知症リスク、転倒リスクなどが問題となる薬のため、現在は処方を控える動きがあります」(安達医師)  2020年から新しい睡眠薬として、「オレキシン受容体拮抗(きっこう)薬」などベンゾジアゼピン系以外の薬が登場しています。これらの薬は依存性が低く、転倒リスクも少ないとされ、より自然に近い眠りが可能なため、不眠治療薬として主流になりつつあります。 「いずれにしても、睡眠薬を使用する場合は漫然と内服するのではなく、薬の減量、中止を視野に入れながら、6カ月など期間を限定しての使用が望ましいです」(同) 適切な昼寝と睡眠で認知症予防も  60歳以上によく見られる、睡眠の質を妨げる悪習慣とはなんでしょうか。 「よくない習慣として、1時間以上の長時間の昼寝や夕食後のうとうと、昼間の活動量の低下などがあります。睡眠の質を高めるためにはまず、ついつい長くなってしまいがちな昼寝時間を短くして、日中の活動量を増やすことが大切です」(同)  日本睡眠学会と、2023年に新設の日本睡眠協会、両方の理事長を務める久留米大学学長の内村直尚医師も「昼寝は仕方次第で、認知症の予防にもリスクにもなる」と指摘します。 「60歳以上では、1時間以上昼寝をする人は認知症のリスクが2~3倍に高まってしまいます。一方で、午後3時までの30分以内の昼寝は認知症リスクを低下させるという研究報告があります」(内村医師)  夜の睡眠についても、最適な時間の目安はあるのでしょうか。 「個人差はありますが、昼寝時間を含めて毎日5時間以上7時間未満の睡眠が、認知症予防や健康維持、長寿にもつながります。一方で、5時間未満または7時間以上の睡眠は認知症のリスクを高めてしまいます。認知症の原因物質とされるアミロイドβは睡眠中に排出されるため、適切な睡眠をとらないと、この物質が脳内に蓄積し、認知症のリスクが高まるためです。睡眠不足によって、糖尿病や高血圧などの生活習慣病リスクも高まります」(同)  前述のように安達医師からは、眠くないのに布団に入り「床上時間」を長く過ごすことによる「睡眠の質」の低下について指摘がありました。内村医師はさらに、床上時間と寿命の関係について言及します。 「床上時間が8時間以上の場合に死亡率が増加するという報告もあります。眠れないのにだらだらと布団の中にいると、むしろ寿命を縮めてしまいかねません。よく眠れなかったという日でもいつもと同じ時間に起きて、布団の中には8時間以上いないことが大切です」(同)  昼寝時間を含めて毎日5時間以上7時間未満の適正な睡眠時間をとっていても、「昼間に眠くなる」「寝た気がしない」などの症状が続くような場合は、なんらかの要因で睡眠の質が大きく低下している可能性があります。とくに高齢になると増えるのが、「睡眠時無呼吸症候群(SAS)」です。睡眠中にいびきや無呼吸、呼吸の乱れが生じるSASは睡眠の質を大きく低下させます。 「加齢による筋力の低下で、寝ている間に舌根がのどに落ち込みやすくなります。舌が空気の通り道を狭くしたりふさいだりするので、SASを発症しやすい。SASによって夜間の酸素不足が生じると、日中の疲れや活動性の低下を引き起こしやすくなります。活動量の低下は睡眠の質を下げるため、悪循環に。重症化すると、精神状態にも悪影響を及ぼします」(安達医師)    SASの治療には、睡眠中に舌がのどに落ち込まないようにする専用のマウスピースを装着し、気道を確保する方法があります。重症の場合は、夜間に装置からエアチューブを伝い、鼻や口に装着したマスクから気道へと空気を送り込む「CPAP(シーパップ)療法」もあります。こうした治療によってSASの症状が緩和すれば、日中の精神状態や活動性も向上し、睡眠の質も向上します。 「SASのある認知症患者をCPAPで治療すると、認知症によって不安定な精神状態にあっても、それまでより穏やかになることが報告されています」(同) 昼間の活動性低下も睡眠の質を下げる要因に  高齢者世代の睡眠の質を妨げる要因には、「むずむず脚症候群(レストレスレッグス症候群)」もあります。じっと座ったり横になったりすると、脚のむずむず感、痛み、かゆみなど、脚に不快な症状が表れるのが特徴です。 「高齢女性に多くみられる症状で、発症には鉄欠乏性貧血やドーパミンの機能低下なども関連していると考えられています。睡眠が妨げられ、生活に支障が出ている場合は薬で治療することもあります」(内村医師)  ほかの要因としては、昼間の活動性の低下もあります。睡眠の質を高めるためにも、昼間の外出や人との接触、日光を浴びることなど、積極的に外に出ることを心がけましょう。フレイル(加齢により心身が老い衰えた状態)などによって、外出がしにくい場合には、デイサービスやデイケアをうまく利用することで、これらの活動を確保できるケースもあります。  加齢によってからだや生活が変化することに伴い、睡眠のサイクルも変わるのは仕方のないことです。そのことを理解して、年代にあった適切な睡眠をとることが、認知症予防や健康維持にもつながります。 「まずは睡眠衛生の改善です。それでも不眠が改善せず、生活になんらかの支障が出ている場合は、病的な不眠や睡眠障害かもしれません。すべてが年齢によるものだと自己判断せずに、医療機関に相談しましょう」(安達医師)   【認知症を防ぎ、健康を維持する睡眠五つのこつ】 ・午後3時までに30分以内の昼寝をする(1時間以上昼寝をしない) ・昼寝時間を含め、1日の睡眠時間を5時間以上7時間未満にする ・布団の中に8時間以上いない ・睡眠時無呼吸症候群があれば治療する ・昼間の活動性を高める (内村医師監修のもと、編集部作成)   (文/石川美香子)   久留米大学 学長 内村直尚(うちむら・なおひさ)医師 1982年、久留米大学医学部卒業。86年に久留米大学大学院医学研究科修了(医学博士)後、87年に米国Oregon Health Science Universityへ留学。帰国後、久留米大学医学部神経精神医学講座に入職し、2007年同教授に就任。同大学病院副病院長、同大学高次脳疾患研究所長、同大学医学部長を務め、20年1月から現職。21年から日本睡眠学会理事長。23年から日本睡眠協会理事長。 久留米大学 福岡県久留米市旭町67 久留米大学 学長 内村直尚医師 昭和大学病院東病院睡眠医療センター センター長 安達太郎(あだち・たろう)医師   1995年、昭和大学医学部卒。2008年から3年間、メイヨークリニック(米国)に留学。睡眠時無呼吸症候群や睡眠不足と循環器疾患の関連性について研究。11年に昭和大学医学部内科学講座循環器内科学部門に復職し、22年に准教授。18年から現職。認定資格は医学博士、日本内科学会認定総合内科専門医・指導医、日本循環器学会認定循環器専門医、日本睡眠学会総合専門医・指導医、日本老年医学会認定老年病専門医など。 昭和大学病院東病院 東京都品川区西中延2-14-19 昭和大学病院東病院睡眠医療センター センター長 安達太郎医師      
脱・着る服がない!低コストに「本当に使える服」を選ぶ3カ条【生活費月7万円YouTuberに聞く】
脱・着る服がない!低コストに「本当に使える服」を選ぶ3カ条【生活費月7万円YouTuberに聞く】 ※写真はイメージです。本文とは関係ありません(ronstik / iStock / Getty Images Plus)  合わない職場で心身の調子を崩してから徹底的に生活を見直し、月の生活費7万円の低コストライフを実現した人気YouTuberのかぜのたみさん。著書『低コスト生活』から、人生100年時代にお金の不安に縛られずに暮らすための「低コストな服選び3カ条」を、一部抜粋・再編集して紹介します。 *  *  * 「洋服迷子」を抜け出そう  世の中には、いつ見ても、どこを見ても、大量の洋服が売られています。  その上、オフィス用、普段用、レジャー用……と用途も分けてワードローブを揃えていくと、何が本当に必要なのかわかりにくくなり、メンテナンスはもちろん、購入するためのリサーチも大変です。  数があれば困らないかと思いきや、「服はたくさんあるのに着る服がない」という謎の現象が起こりまた別の服を買う……以前の私は、こんな「洋服迷子」になっていました。  こちらでは、私が「脱・洋服迷子」のために試行錯誤してきた、低コストながらも不便なく過ごせる服選びについて、まとめてみたいと思います。 その1「服に求める3カ条を決める」  まず大切なのは、服に対して「どうしても外せない点」をはっきりさせることです。  これまで私が服に浪費や散財したのも、自分が服に求めることが明確でなかったからでした。判断基準ができてからは、大きな不満や困りごとが起きづらくなったと体感しています。  私の「どうしても外せない点」はこの3点です。 (1)メンテナンスがラクにできること (2)寒暖調整がしやすく、動きやすくて着心地が良いこと (3)自分に似合っていること  私にとってとくに大切なのが、3の「自分に似合っていること」です。  過去、いくらお金を服に使っても満足できない、という事態になっていたのは、パターンや作りに凝った服や、おしゃれでハイセンスな服など、一瞬で素敵な自分に変身できそうな「自分を変えてくれる服」を探していたからでした。  お金をかけたらかけた分だけ変われる! と思って洋服を選ぶのではなく、「自分の良さを引き立ててくれる服」「自分に似合っている服」に焦点を当てるようになってから、服への過剰な期待が消えていき、洋服に使う金額も減りました。  思い描く理想が本来の自分の持ち味からかけ離れているほど、デザインや組み合わせで調整する必要が出てきて、それなりにお金やアイテム数、センスが必要になってしまうのです。 『低コスト生活』では、お金の不安に縛られず、自分らしく軽やかに暮らすメソッドをたくさん紹介しています。ぜひチェックしてみてください。>>かぜのたみ著『低コスト生活』(朝日新聞出版)※本の詳細はこちら その2「テイストを揃える」  問題は「自分に似合っていること」をどう判断するか、です。色々な方法を試した結果、自分に似合っている服を見つけるには、手持ちの服とテイストを合わせるのがコツだとわかってきました。  私が新しい服や小物を選ぶときに活用しているのが、この図です。 買おうとするものを一旦この枠内に収めて考えてみると、必然的に色味やデザインの選択肢も明確になり、「身につけるとなんだかバラバラ」という事態が減ります。  新しい服や小物の購入を検討する際は、この図をもとに同じエリアに入る手持ちの服があるか確認し、普段のワードローブとの相性を冷静に検討すると、テイストをまとめやすくなります。  他の服を合わせてみたらなんだか違う……という場合は大体、基本的なテイストがあっていない場合が多いものです。  そして低コストに収めるには、「なりたいイメージ」よりも、体型や顔立ち、全体的な雰囲気など「自分の持ち味」を活かしたエリアを選ぶのも大切です。 その3「リユースショップで新品GET」  Tシャツなど劣化しやすいアイテムは新品で購入した方がいい場合もありますが、シャツやワンピースなど色あせたり型崩れしづらいものであれば、私はリユースで十分だと思います。  とくに冬用のアウターは素材も作りも丈夫なものが多く、中古とはいえ、まだまだきれいに着られるものが多いです。  過去によく着ていた服を探して再度購入するのも、私の鉄板パターンです。先日は、数年前に着ていて気に入っていたシャツの新しいモデルが、フリマアプリで700円で出品されていたのでリピート買いしました。  とくにユニクロやGUなどの量販店では、素材や形などがマイナーチェンジしても、商品名はあまり変わらない場合が増えてきています。お気に入りの服の商品名をフリマアプリで検索してみると、まだきれいな状態で手に入れられるかもしれません。  また、リユースをよく活用していて思うのは、タグ付きの新品が多いことです。  リユース=お古、というイメージの方も多いかもしれませんが、「購入したものの着用しなかった」というものがかなり出品されています。しかも、定価の半額以下で売られていることも多いです。  ちなみに今持っているワンピースは、タグ付きの新品で500円でした。新品で買うとそれなりのお金は必要ですが、リユースなら、それほど懐も痛みません。探すのが少々手間ですが、時々「お宝」が見つかる面白さもありますよ! かぜのたみ YouTuber。「暮らしと自分をととのえる」をテーマに、YouTubeでの音声配信「かぜたみラジオ」のパーソナリティをつとめる。仕事での無理がたたって心身の調子を崩して以来、持ち物やお金の使い方、働き方など生活にまつわるあらゆる側面を見直し、月の生活費7万円以下の暮らしにたどり着いた。ラジオでの柔らかな語り口と、物事の本質をつく鋭い内容が話題を呼び、SNSフォロワー数は8万人を突破している。
能登半島地震、避難生活の「トイレ問題」が健康に直結 災害関連死を防ぐための3要素
能登半島地震、避難生活の「トイレ問題」が健康に直結 災害関連死を防ぐための3要素 2018年の西日本豪雨の際の建築家・坂 茂さんが考案した間仕切りが並ぶ避難所=2018年7月、岡山県倉敷市真備町    巨大地震が襲った能登半島。避難生活が長引くことで懸念されるのが災害関連死だ。どうすれば防ぐことができるのか。AERA 2024年1月22日号より。 *  *  *  軒先でたき火を囲む人。農業用ハウスの中で過ごす家族。避難所では毛布をかぶってじっと支援物資を待つ人も。多くの家屋が倒壊した能登半島地震。避難生活が長引くにつれ懸念されるのが、災害関連死の増加だ。 「関連死を出さないためには、死亡原因に至るプロセスをいかに早い段階で止めるかにかかっています。医療の助けが必要になる手前の段階であらゆる手立てを講じ、被災者の生活環境を改善する必要があります」  こう強調するのは総合防災・減災が専門の関西大学社会安全学部の奥村与志弘教授だ。  奥村教授は1995年の阪神・淡路大震災以降の主な災害における最大避難者数と関連死の発生率(避難者1万人あたりの災害関連死者数)の関係に着目。関連死の発生率は最大避難者数の増加に伴い、右肩上がりの曲線を描いて増えることを明らかにした。このデータ分析によって阪神・淡路大震災以降、関連死の発生率を下げる有効な対策が実施できていない現実も浮き彫りになった。奥村教授は言う。 「能登半島地震は周辺地域も含めて最大5万人規模の避難者が発生したと推定されます。その場合、従来通りの措置や対策にとどまれば、20~30人が関連死で亡くなることが予想されます。ただし、東日本大震災時の被災地のような深刻さが続くと、100人以上の犠牲が出てしまう可能性もあります。そうした事態は何としても回避しなければなりません」 在宅避難者の問題も  関連死はどこで多発するのか。これも過去の災害が参考になる。関連死が震災犠牲者全体の8割を超えた2016年の熊本地震。避難所での関連死は5%だったのに対し、病院・介護施設が46%、自宅が40%だった。東日本大震災でも避難所での関連死は12%に対し、病院・介護施設が41%、自宅が24%。多くの被災者が身を寄せ合う避難所に目が向きがちだが、関連死対策を考える場合は病院や介護施設、自宅にいる高齢者の存在にも留意する必要がある、と奥村教授は言う。 写真=坂茂建築設計提供   「東日本大震災でも熊本地震でも、避難所で生活している人よりも体の弱い人が自宅や高齢者施設に多くいらっしゃいました。災害時にライフラインが停止して普段通りの生活が送れない時に最も健康の影響を受けやすい人たちです」  見過ごしがちなのが自宅にとどまっている被災者だ。在宅避難者は家族以外の目が届かないため、心身の不調を早期に発見して適切な処置を行うことが難しくなる。奥村教授は言う。 「まさに今、声を上げられずにひっそりと自宅避難を続けている高齢者のケアが急がれます」  医師らでつくる避難所・避難生活学会が関連死を防ぐため特に大事と唱えているのが、トイレ、キッチン、ベッドの3要素だ。同学会代表理事で石巻赤十字病院の植田信策副院長は能登半島地震の被災地に入り、トイレ不足や雑魚寝状態の避難所を目の当たりにした。  災害や紛争での人道支援のため国際赤十字などが策定した「スフィア基準」という指標がある。居住空間は1人最低3.5平方メートル▽トイレは20人に1基──などだ。しかし、珠洲市では当初、300人規模の避難所に仮設トイレが1基だけ。グラウンドに穴を掘り、テントで囲んで臨時トイレにする避難所もあったという。植田さんは「仮設トイレには照明がないので夜は真っ暗。しかも屋外に設置されるので非常に寒い。照明付きで水洗のコンテナ型トイレの供給がもっと必要」と訴える。  トイレ問題は健康に直結する。トイレが不衛生だと使用を控えたいと考え、水分の補給や食事の量を減らす人もいる。そうなると、脱水症状で足に血栓ができやすくなり、エコノミークラス症候群で命を落とす危険性が高まる。全身の筋肉が衰えると飲み込む力も弱り、誤えん性肺炎のリスクも高まる。  一方、キッチンについては「とても良かった」(植田さん)という。住民どうしのつながりが強い能登地方の土地柄を反映し、食材を持ち寄って自炊し、温かい料理を分け合う姿があちこちで見られたという。 プライバシーは人権  とはいえ、床の上での雑魚寝や仕切りのない大部屋での集団生活はストレスが大きく、健康悪化につながる。石川県は段ボール製品の調達のため民間業者と災害応援協定を結んでいるが、被災地までの運送手段を確保できないなどの理由で避難所に十分搬入できていないという。 写真=坂茂建築設計提供   「日本ではいまだに、避難所の環境対策が不十分だということを痛感させられました」  こう嘆くのは建築家の坂 茂さんだ。災害多発国なのに他国より劣る日本の避難所の環境改善を図ろうと、坂さんは被災者家族ごとのプライバシーを守る間仕切りや簡易に組み立てられる段ボールベッドを考案。2004年の新潟県中越地震以降、避難所に届けてきた。国は東日本大震災後、ガイドラインを作って市町村に避難所生活の質の向上を促したものの間仕切りなどが行き届いていないことは今回の震災でも浮き彫りになった。 「プライバシーは最低限守られるべき人権です。間仕切りがないため東日本大震災までは、特に女性が車中泊を続け、エコノミークラス症候群で亡くなられています。新型コロナ蔓延後、間仕切りは飛沫感染防止にも役立っています」(坂さん)  坂さんは、より質の高い施設がトレーニングされたスタッフによって設営・運営されなければならず、そのためには国のさらに踏み込んだ対応が不可欠だと指摘する。 「公的避難所の設営・運営の知識が十分でなく、いつも場当たり的に作られているせいで、今回のように十分な避難所を確保できず、農業用ハウスに自主避難する状況まで生んでしまいました」  能登半島地震の避難所にも間仕切りや段ボールベッドを配送、設営した坂さん。被災者は避難所で数カ月過ごした後、復興アパートに移されるというイタリアとの違いに言及しこう訴えた。 「今回の震災でも避難所での生活を最短にしてホテルや旅館に移っていただき、その後は仮設住宅ではなく、恒久的な復興住宅を建設し、そこで安心して暮らしてもらうシステムを構築することが急務です」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年1月22日号
【子宮がん・卵巣がん】年々増加の子宮体がん 出産経験がないことや肥満、高血圧、糖尿病がリスク因子
【子宮がん・卵巣がん】年々増加の子宮体がん 出産経験がないことや肥満、高血圧、糖尿病がリスク因子  子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がんは、いずれも女性特有のがんですが、それぞれで病気の特徴や治療方針は大きく異なります。子宮頸がんは20~40代の若い女性に多く、ワクチン接種や検診などを受ければ予防や早期発見が可能です。子宮体がんは40代後半から増え始め、50代が最も多く、早期に見つかることが多く比較的治療後の経過が良好ながんといわれます。卵巣がんも50代に多く、進行がんとして見つかることが多い一方、薬物療法の効果が得られやすい特徴もあります。いずれのがんも年々増加しているため、病気の特徴を知り、早期発見・早期治療を心がけることが大切です。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。  *  *  子宮がんには、子宮の入り口にできる子宮頸がんと、子宮の内側(体部)にできる子宮体がんがあります。  子宮頸がんは20~40代の比較的若い女性に多くみられます。このがんの多くは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルスに感染することが原因で起こります。HPVは性交渉により感染し、性交渉の経験がある女性の80%以上が感染するといわれます。感染しても多くは自然にウイルスが消失しますが、200種類以上あるといわれるHPVの中でハイリスクタイプに持続感染すると、将来、子宮頸がんになるリスクが高まります。HPVはコンドームでは予防できず、感染予防にはワクチン接種が有効です。  また、子宮頸がんは、進行すると不正出血などの症状がみられますが、初期には症状がないことが多いため、早期発見のためには検診を受けることが重要です。  HPVに感染してから子宮頸がんになるまでには一般的に数年から十数年かかり、がんになる前の段階(前がん病変)を経て、子宮頸がんを発症します。検診の重要性について、順天堂大学順天堂医院産科・婦人科教授の寺尾泰久医師はこう話します。 「検診を受ければ、がんになる前の段階で細胞の異常を見つけることが可能です。感染した人がすべて子宮頸がんになるわけではありませんが、慎重に経過をみていくことは必要です」  現在、日本では20歳以上の女性では2年に1度、子宮頸がん検診を受けることがすすめられています。 ワクチンや検診が普及すれば子宮頸がんは減少する  世界保健機関(WHO)は、子宮頸がんの排除に向けた世界的戦略としてワクチン接種と検診を推奨しています。 「イギリスやオーストラリアではワクチン接種がかなり進んでいるため、子宮頸がんも減少しており、オーストラリアでは2028年までに撲滅の基準である年間罹患数が10万人当たり4例未満になると推測されます。イギリスでは2040年には子宮頸がんを撲滅できるとも言われています。一方、日本はだいぶ遅れていて、ワクチンの接種率も検診の受検率もまだ低いのが現状です」(寺尾医師、以下同)  検診の普及により先進国では子宮頸がんによる死亡率は低下しており、ワクチンや検診により世界全体でも子宮頸がんは減少すると予測されています。しかし日本では、子宮頸がんになる人も、亡くなる人も増加しています。  子宮頸がんは、早期発見できれば比較的治療しやすいがんといわれており、まずはワクチンによる予防と、検診による早期発見を心がけることが重要なのです。 子宮頸がんの腹腔鏡手術ができる病院は限られる  子宮頸がんの診断は、子宮頸部をこすって採取した細胞を調べる「細胞診検査」や、拡大鏡を使って子宮頸部を観察する「コルポスコピー組織検査」のほか、MRIやCT、PET-CTなどによる画像検査、血液検査などでおこないます。  治療は、がんの進行度(病期)やがん細胞の性質、患者の年齢やからだの状態などにより選択されます。手術ができるのはⅠ期とⅡ期で、がんの広がり具合によって切除する範囲が変わります。  ほかのがんと同様、婦人科のがんでも患者のからだへの負担の少ない手術の普及が進み、腹腔鏡手術も増加しています。ただし、子宮頸がんは、開腹手術と比較して腹腔鏡手術では再発率、生存率が不良というデータがあります。そのため日本では、腹腔鏡手術は4㌢以下のがんに限定され、実施する病院も多くありません。  また、妊娠・出産を希望する人に対して、子宮を残す手術(妊孕性温存手術)もあります。ただし、早期がんに限られ、一部の病院のみで実施されています。希望する場合には、再発のリスクや治療後の妊娠・出産のリスクなどについても十分に説明を受け、理解しておくことが必要です。  Ⅰ期・Ⅱ期では手術に代わる根治的な治療として放射線治療が選択されることもあります。子宮頸がんのⅠ期・Ⅱ期では手術と放射線の治療成績は同等とされています。進行がんでは薬物療法と放射線治療の併用療法(同時化学放射線治療)や薬物療法をおこないます。 「子宮頸がんでは、再発した際の薬物療法は抗がん剤だけでしたが、最近では免疫チェックポイント阻害薬など新しい薬も保険適用になっています」 閉経後に多い子宮体がんは早期発見しやすい  子宮体がんは40代後半から増え始め、50代の閉経後に最も多くみられます。女性ホルモンとの関わりが深く、出産経験がないことや、肥満、高血圧、糖尿病などがリスク因子とされています。また、リンチ症候群という遺伝性の病気によって起こるものもあります。子宮体がんは年々増加しており、食事や生活の欧米化、出産回数の減少などが原因と考えられています。  症状として、不正出血や下腹部の痛み、おなかの張りなどがあげられます。月経のない閉経後は不正出血などの異常に気付きやすいため、早期発見につながりやすい傾向があります。また、がん細胞の性質などにより、「類内膜がん」「漿液(しょうえき)性がん」「明細胞がん」などに分類され、漿液性がんや明細胞がんは悪性度が高いとされています。一方、子宮体がんで最も多い類内膜がんは、比較的治療後の経過が良いがんといわれます。 「子宮体がんの約8割は類内膜がんです。そのなかでも悪性度の低いグレード(G1、G2)では5年生存率が約90%。わりと進行がゆっくりで、手術をすれば治ることが多いがんといえます。ただ、体がんのなかには悪性度の高いタイプもあり、治療に難渋することもあります」  診断には、子宮内膜の細胞を採取してがん細胞の有無を調べる「細胞診検査」や、がん細胞の性質や悪性度を調べ、子宮体がんの確定診断をおこなうための「組織診検査」のほか、超音波検査やMRIやCT、PET-CTなどによる画像検査、血液検査などをおこないます。 手術が基本で、再発リスクを予測しその後の治療法を検討  治療では、子宮と卵巣・卵管を切除する手術が基本で、必要に応じて周囲のリンパ節も切除することがあります。また、子宮体がんでは手術の後に、がんの広がり具合やがん細胞の性質などから病期の決定と再発リスクの予測をおこない、その後の治療方針を検討します。再発リスクが低い場合は経過観察となり、「中リスク」と「高リスク」では薬物療法や放射線治療などをおこないますが、「追加治療が必要なケースは全体の3分の1ほど」と寺尾医師は話します。  子宮体がんの手術でも、ロボット手術を含む腹腔鏡手術が増えています。 「進行しているケースや大きな筋腫を合併している場合などは、開腹手術が必要です。当院では開腹手術とロボット・腹腔鏡手術の割合が半々ぐらいです。地域や病院により差はあると思いますが、この10年で腹腔鏡手術やロボット手術の普及はだいぶ進み、ほぼ全国的にどこでもおこなえるようになっていると思います」  子宮体がんでも、妊娠を希望する場合、がんが子宮内膜にとどまっているごく早期で悪性度が低いタイプでは、子宮や卵巣を温存する治療を選択できることがあります。ただし、条件や再発リスクなどを十分に理解した上で決めることが必要です。 卵巣がんは自覚症状が少なく進行して発見されることが多い  卵巣がんも50代に多くみられます。初期にはほとんど症状がなく、進行するとおなかの張り、下腹部にこぶのような腫(は)れなどがみられ、「約60%が進行がんで発見される」と寺尾医師はいいます。  超音波検査やMRI、CT、PET-CTなどの画像検査、血液検査などで卵巣がんの疑いがある場合は、まず手術をおこない、できるかぎりがんを取り除きます。卵巣は骨盤の奥にあり、外から組織を採取することができないため、手術で摘出した卵巣の組織を調べて確定診断と病期診断をおこないます。  卵巣がんの手術は開腹手術となりますが、最近では、手術でがんをすべて摘出できるかを判断するため、また、組織診断や遺伝子検査をおこなうために腹腔鏡手術をおこない、その結果によって、手術前にがんを小さくするための薬物療法をおこなうこともあります。また、多くは手術後に薬物療法をおこないます。  卵巣がんは進行して発見されることが多く、進行がんでは5年生存率が低く、再発も多いがんといえます。一方で、薬物療法の効果を得られやすい特徴もあり、近年では一般的な抗がん剤に加え、分子標的薬など新しいタイプの薬が多く登場しています。 「以前は再発との闘いでしたが、新たな薬の登場によって再発が減り、根治できる人も出てきています。特定の遺伝子変異がある人に効果が出やすい分子標的薬なども登場しており、これからは遺伝子検査をして一人ひとりの患者さんに適した治療を考える個別化医療がさらに進むことが期待されます」 遺伝性の病気により起こる卵巣がんも  卵巣がんには、「遺伝性乳がん卵巣がん症候群(HBOC)」という遺伝的な病気が原因で起こるものもあります。アンジェリーナ・ジョリーが公表したことで広く知られるようになった病気ですが、この病気の人は生まれつきBRCA遺伝子という特定の遺伝子に異常があり、それにより乳がんや卵巣がんを発症しやすくなります。  そのため、45歳以下で乳がんを発症した人や、卵巣がんや卵管がんを発症した人など、対象とされる人は医師の説明と遺伝カウンセリングを受けた上で、BRCA遺伝子変異があるかを調べる遺伝子検査を受けるという選択肢があります。乳がん患者で、BRCA遺伝子変異がありHBOCと診断された人は、卵巣がんを予防するための「リスク低減卵巣卵管切除術」を保険診療で受けることができます。この手術を受けることで、卵巣がんの発症リスクが約80%減少、卵巣がんによる死亡リスクが約70%減少したというデータがあります。 「BRCA遺伝子変異のある人全員が卵巣がんになるわけではありませんが、リスクを減らすことはできるため、対象となる人はまず医師に相談し、しっかりと遺伝カウンセリングなどを受けた上で考えることが大切です」 (文・出村真理子) 【取材した医師】 順天堂大学順天堂医院 産科・婦人科教授 寺尾泰久 医師 順天堂大学順天堂医院 産科・婦人科教授 寺尾泰久 医師  

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