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健康、お金、孤独の「3大不安」を軽減するには 「老後」という考え方をやめるメリット
健康、お金、孤独の「3大不安」を軽減するには 「老後」という考え方をやめるメリット 老後に対する不安はつきものだが……(※写真はイメージです Getty Images)    老後のこと考えると、どうしてもお金や健康の問題、孤独感などがつきまとうもの。そんな老後不安をいかにコントロールするかが、人生の後半戦の幸福度を左右する。医師の小林弘幸氏は、定年後の隠居生活を意味する老後を「やめる」マインドが大切だという。朝日新書『老後をやめる 自律神経を整えて生涯現役』から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 老後をやめると「3大不安」は怖くない  朝日新聞のアンケートでは、回答者の97パーセントが「老後の生活に不安を感じる」と答えていました。では、具体的にどんなことに不安を感じているのでしょうか。内訳を見ていきましょう。  圧倒的に多いのは、「自分が病気になる」(76パーセント)、「介護が必要になる」(73パーセント)といった健康面についての不安です。  次に多いのは、「収入が減ってしまう」(33パーセント)、「資産が予定より早く枯渇してしまう」(32パーセント)といったお金に関する不安。  そして「社会とのつながりが希薄になる」(33パーセント)といった孤独についての不安です。  つまり、老後の3大不安は、「健康」「お金」「孤独」であることが、このアンケート結果から浮かび上がってきます。 【こちらも話題】 失敗学の提唱者も陥っていた「大失敗のパターン」 免許返納を勧めた家族が駆使した「知見」 https://dot.asahi.com/articles/-/212872  いずれも一筋縄ではいかない、難しい問題です。しかし、老後をやめることで、これらの不安は解消、少なくとも軽減することが可能だと私は考えています。 (1)健康の不安  みなさんは「健康寿命」という言葉を耳にしたことがあるでしょうか。「健康上の問題によって日常生活が制限されずに、自立して暮らせる期間」のことです。  わかりやすくいえば、「介護なしで元気に暮らせる年齢」といえるでしょう。  厚生労働省が発表した2019年の最新データでは、男性の健康寿命は72.68歳、女性の健康寿命は75.38歳。平均寿命と健康寿命の差は9~12年、平均余命と比べると13~15年もの差があることがわかります。  この差が、「健康上の問題で日常生活に制限があり、自立困難な期間」です。思ったより長いと感じませんか? この数字を突きつけられると、多くの人が不安に思うのも理解できます。  この差を縮めるにはどうすればよいでしょうか。もっとも重要なのが、「老後をやめる」というマインドです。  私はこれまで、自律神経をキーワードに、健康寿命を延ばすためのさまざまなアドバイスをしてきました。食事から、運動、睡眠、リラクゼーションまで、分野は多岐にわたります。 【こちらも話題】 歩く速度が遅くなって出会えた「気づき」 失敗学の提唱者が気づいた「よい老い方」と「悪い老い方」 https://dot.asahi.com/articles/-/212366  しかしあるとき、マインドを変えなければ、私のアドバイスはすべて無意味であることに気づきました。  たとえば、「スクワットを毎日やりましょう」とおすすめしても、老後マインドにおちいっている人は、「いまさら何をやっても意味がない」とか、「どうせもうすぐ死ぬのだから」とか、「もう年だからそんなことをするのは無理」とか、言いわけをつくって取り組もうとしません。  逆に、いつまでも若い人は一生チャレンジだと思っていますから、「面白そうだからやってみよう」「今日は5回できた、明日は6回にチャレンジだ」と、みずからすすんで取り組みます。  そういう人は日中、アクティブに動いているので夜はよく眠れますし、食事もしっかりとることができる。毎日、若者のようにワクワクして生きているので、自律神経も整っています。  そういう生活をしていても、病気になったり、介護が必要になったりすることはあるでしょう。しかし少なくとも、「病気になったらどうしよう」とか、「このままでは介護が必要になる」といった不安におびえることはなくなるのです。 (2)お金の不安  2019年、金融庁が発表した「老後の30年間で約2000万円が必要」という試算が、世間で論議を巻き起こしました。いわゆる「老後2000万円問題」と呼ばれるものです。  2000万円という数字は、なかなかインパクトがあります。「そんなお金なんて持っていない」と不安をおぼえた人は多いでしょう。 【こちらも話題】 穏やかな在宅看取りを阻む人は誰? 救急車を呼んでしまう理由は「親族が納得しない」 95歳父を息子が介護 https://dot.asahi.com/articles/-/208723  お金を持っている人でも、「資産が予定より早く枯渇してしまうかもしれない」とか、「想定以上に長生きするかもしれない」といった不安を感じている人がいるようです。  こうしたお金の不安も、「老後をやめる」ことで一気に解消します。  わかりやすいのが、私の父の例です。父は家庭教師の仕事で、今も収入を得ています。年金もあるので、「老後2000万円問題」とはまったく無縁です。  金融庁の試算によれば、不足するのは「月5.5万円」とのこと。ちょっとしたアルバイトや副業くらいはできるのではないでしょうか。  実際、今は多くの人が定年後も働いています。内閣府の「高齢社会白書」によると就業率は年々上昇しており、2022年は60~64歳が73.0パーセント、65~69歳が50.8パーセント、70~74歳が33.5パーセント、75歳以上でも11.0パーセントの人が仕事をしています。  最近は少子化もあって、どこの企業も人手不足が問題になっています。そのため、以前よりも求人が豊富ですし、年齢も問わなくなってきています。また、最低賃金が引き上げられるなど、待遇もよくなっています。  また、働いていれば年金に頼らなくてすむので、年金受給を繰り下げることも視野に入ります。たとえば、70歳まで繰り下げると最大で42パーセント増額、75歳まで繰り下げれば最大で84パーセントもの増額になります。 【こちらも話題】 「もう65歳だから」と絶対口にしてはいけない…和田秀樹「実年齢より老け込んで見える人に共通する態度」 https://dot.asahi.com/articles/-/208768  貯金が少なくても、年金が少なくても、これだけ働く環境が整っているのです。老後をやめさえすれば、お金の不安を必要以上に感じることは減ります。 (3)孤独の不安  定年を迎えて、人間関係のストレスから解放されたと思ったのもつかのま、今度は孤独というストレスに襲われる。よく耳にする話です。  もともと人間は、群れで生きる動物です。自然界で群れからはぐれることは、猛獣に襲われたり、食べものを得ることができずに飢えたりなど、死に直結する非常事態でした。だからこそ、孤独は大きなストレスになるのです。  フロイトやユングとも並び称される心理学の巨人、アルフレッド・アドラーも、人間には「共同体感覚」が必要だと述べています。  共同体感覚とは、家庭、地域、職場などにおいて、人とつながっていると感じることを指します。人はこの感覚を感じられるとき、幸福を感じるとアドラーはいっています。  孤独にさいなまれる人は、会社一筋で生きてきた男性に多い傾向があります。定年を迎えたとたん人とのつながりが一気に失われてしまうため、うつ状態になったり、酒びたりになったり、引きこもりがちになったり、深刻な事態におちいることもあるようです。  たびたび例に出して恐縮ですが、私の父は孤独とは無縁の毎日を送っています。  妻には先立たれてしまいましたが、家庭教師で教えている子どもたち、その親御さん、ご近所の方々をはじめ、多くの人とつながりを持っています。ですから寂しいという感覚はないそうです。  人とのつながりがあれば、万が一のときも安心です。近年、孤独死が社会問題になっていますが、老後をやめる人が増えていけば、この問題も解決に向かうのではないでしょうか。 【こちらも話題】 「この家は悪夢そのもの」 妻は認知症、夫が心臓病の老夫婦の最期を2分割画面で描く一作 https://dot.asahi.com/articles/-/207508
【月7万円ライフ】自分へのご褒美・ポイ活……暮らしの不具合を生む“こだわり”との付き合い方
【月7万円ライフ】自分へのご褒美・ポイ活……暮らしの不具合を生む“こだわり”との付き合い方 いまできる「好きなこと」をすることが大切(※写真はイメージです Getty Images)    学校や会社などの小さな集団で長く過ごしていると、自分が身を置く環境が世界のスタンダードであるかのような錯覚に陥り、無理して合わせようとしてしまう。しかし無理をすると、その苦痛の埋め合わせるためお金が必要になり、暮らしに“不具合”が出てくる。月7万円の低コスト生活を実現したYouTuberのかぜのたみ氏は「低コストな暮らしは「合わない環境に合わせない」スキルでもある」と言う。同氏の新著『低コスト生活 がんばって働いている訳じゃないのに、なぜか余裕ある人がやっていること。』(朝日新聞出版)から一部を抜粋、再編集し、この“不具合”の解消法を紹介する。 *  *  * 【かぜのたみさんの記事を読む】 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」 #8 【月7万円生活】Youtuberが伝授するものを“増やさない”習慣とは #9 【月7万円】で暮らす私が「電器ケトルと炊飯器」でたどり着いた節約レシピ #10 【月7万円ライフ】「パン祭りのお皿」か「北欧製のお皿」どちらを選ぶ? 「こだわり」は取り扱い注意  低コストライフを送っていて、取り扱いに注意を払っているのが「こだわり」です。 「こだわり」の取り扱いはかなり難しく、上手く使えば低コストで自分も満足できるという、かなりハイクオリティな仕上がりに持っていけるのですが、使い方を間違えると浪費や散財を増幅させてしまう“危険物”です。  人によっては「こだわり」が強すぎるばかりに、健やかで充実した低コストライフを送れていないケースも、きっとあることでしょう。  では「こだわり」が悪い動きをしている例を見てみましょう。  ・ポイントを集めるために、こまめに買い物している  ・歯ブラシにはお金をかけるのに、歯科検診はケチって行かない  ・嗜好品のお茶やお菓子は奮発するのに、普段の食事は適当に済ます 「こだわり」は人それぞれで、私にも無数にあります。  外野がとやかく言うものではない、ということはまず前提に置いておきたいと思います。自分のお金をどう使おうと、どんな生活を送ろうとみな自由ですからね。  ここでお伝えしたいのは、「こだわり」の取り扱い方です。  先ほどの例だと、「ポイント」「歯ブラシ」「嗜好品」が“こだわりポイント”で、こだわりのみを実行しようとするばかりに、全体で見るとデメリットの方が多くなってしまっています。  これでは事態が良くなるばかりか、やればやるほど支出が増えたり、体調が悪化する可能性もあります。 「こだわり」を手放すには、それが悪さをしていることに気づいて、客観的な事実に基づく判断が必要です。  しかし「嗜好品を控えて、肉や魚、果物や野菜を摂る方が健康的」という、真正面からの正論は、みんなわかっているのです。  でも……という、ここから先のところは、次でお伝えしたいと思います。 今すぐできる「好きなこと」をする  私がこの「こだわり」を手放すときに心がけているのは、とりあえず「自分が今したい好きなことをする」です。  私の場合は、読みたい本を読んだり、音楽を聴いたり、散歩したりすることが多いです。これらをした後は、自分の充電をし終わったように元気になります。  そういうふうに自分が満たされていると、心なしか執着心も小さくなり、こだわりも手放しやすい気がします。 「こだわり」にこだわっているときほど、自分が「本来好きなこと」や「あると満足するポイント」をすっかり忘れてしまっていることが多いです。 「こだわり」にこだわるばかりに、どんどん状況が苦しくなる選択肢を選ぶようになり、それが不具合に繋がっていく気がするのです。  先ほどの「嗜好品」のこだわりを手放したいなら、まずすぐにできる「自分が今したい好きなこと」をしてみると、わりと満足して気持ちも落ち着きます。  とりあえず手近にある好きなことをしてみると、「なんであんなにこだわってたのか……」と冷静になれて、自然と「こだわり」が剥がれていくことが多いです。  もしかすると、好きなこと、したいことができていないから、妙に「自分のこだわり」を大事にしようとしてしまうのかもしれません。 「自分が今したい好きなこと」は、不具合のある流れから、本来の自分へ立ち戻るガイドラインのようなものです。  がむしゃらに頑張り続けるよりも、少し休んだり、散歩したりして、気を緩めて過ごしていると「自分のこだわり」も薄らいでいきます。  そうなると思いもよらない不具合の原因に気づいて、あっさり解決するかもしれません。 【かぜのたみさんの記事を読む】 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」 #8 【月7万円生活】Youtuberが伝授するものを“増やさない”習慣とは #9 【月7万円】で暮らす私が「電器ケトルと炊飯器」でたどり着いた節約レシピ #10 【月7万円ライフ】「パン祭りのお皿」か「北欧製のお皿」どちらを選ぶ?
心理カウンセラーが実践!インテリアを変えて自己肯定感を高める方法とは?
心理カウンセラーが実践!インテリアを変えて自己肯定感を高める方法とは? 心地いいと感じる部屋は、もちろん人によって違う。中島さんは、心理学に基づいて、4つのタイプに分けて部屋作りのアドバイスをしている。これは、情熱的でエネルギッシュなリーダータイプの人が心地よいと感じる部屋の例  中島輝(なかしま・てる)さんは、自己肯定感を高め、心を楽にして生きるためのさまざまな方法や心の持ち方、習慣のコツなどを、講演や本、ラジオを通して多くの人に伝えている心理カウンセラー。1万5000人を超えるクライアントのカウンセリングをしてきたという中島さんが2024年1月に出版したのが、『自己肯定感を高めるインテリアブック』という本だ。  中島さんはこの本で、「住居空間やインテリアが自己肯定感に影響する」としているのだが、一体どんなふうに……?本から引用する形で、インテリアと自己肯定感の関係を解き明かしたい。 ***  自分がほっとする心地よい部屋にいると、心は安定し、思考も前向きになります。居住環境がよい→心地よさを実感→心の状態は良好→心の免疫力が高くなる→自己肯定感を高いままキープできる、となり、たとえ外で落ち込むことがあっても、家で過ごすことで、心地よさを実感→心の状態は良好……というポジティブな循環が生まれます。  逆に居心地の悪い部屋はストレスになり、イライラしたり心が不安定になったりしてネガティブな考えにとらわれ、自己肯定感も低下します。外で嫌なことがあって家に帰っても、整理整頓されていない部屋、汚れた部屋ではさらに心が落ち込むだけ。ネガティブな循環に陥ってしまうのです。  では、インテリアを整えるとなぜ自己肯定感が高まるのでしょうか。  たとえば、みなさんの部屋にあるソファーを見てください。何色ですか?デザインはどのようなものですか?手触りや座り心地はどのような感じですか?  家の中にあるインテリアに目を向けてください。ソファーや棚などの大きな家具、カーテンやカーペット、テーブルやいす、小物類もたくさんありますよね。置物や絵画などのアート系インテリア、タオルやスリッパ、食器など、日常使いするものもたくさんあるでしょう。  インテリアを構成するのは、色や色彩、デザイン、素材、手触り感や使用感、香りなどです。実は、これらの要素はすべて五感に訴えかけるものです。脳、つまり心に働きかけてきます。なかでも、目から得られる情報は心に大きな影響を与えます。なぜなら、人間が得る情報の約8割は目から得ているからです。家の中で目に映るものはすべて自己肯定感に関係すると言えます。 こちらは、穏やかで愛情深いニュートラルタイプの人が心地よいと感じる部屋の例。「どちらかというと受け身の姿勢でなんでも包み込む性格の人は、自分の『好き』を主張しすぎない部屋に安心感を覚えるはずです」(中島さん)  少し話はそれますが、実は大人になると自己肯定感が下がりやすくなります。誰でもそうですが、失敗した経験は強く心に残りますよね。同じ失敗は繰り返したくないという意識が強くなり、これが自己肯定感を低くするきっかけになります。  こうした状況を乗り切る方法の一つが、自分が安心できる部屋を持つこと。自分らしくいられる部屋を持ち、そこでリラックスすることが失敗への恐怖を打ち消してくれます。そして、居住空間を自分にとっていいものにするための方法が、「インテリアを変えること」なのです。  インテリアを変えることは「気分転換」の意味があり、この「気分転換」が自己肯定感と関係しています。自己肯定感を高めるには、これまで否定的に見ていたものを肯定的にとらえることが必要です。これを「心の視点移動」と言います。コップに半分まで水が入っているとき、「もう半分しかない」とネガティブに思うのではなく、「まだ半分も入っている」とポジティブに考えるようにするわけです。  人間は1日6万回も思考していると言われますが、悲しいことにこのうちの約80%はネガティブ思考になっています。人はもともとネガティブ思考に傾きがちなので、毎日少しずつ心の視点を移動してあげることが必要なんですね。  心の視点移動は、旅行に行ったり、趣味に没頭したりすることでも可能ですが、家に居ながらできるのがインテリアを変えたり模様替えをしたりすることです。居心地のよい部屋で過ごすことで、少しずつ、心の視点移動が素早くできるようになります。  脳には、繰り返し同じものを見たり同じ体験をしたりするとマンネリ化し、どんどんネガティブ思考になっていくというやっかいな性質があります。インテリアを変えるのは、脳をリフレッシュさせてマンネリ化を防ぐことにつながります。階段の踊り場に好きなオブジェを置くだけでもいいんです。それが脳への刺激となり心の視点移動が起こることで、自己肯定感はアップします。  洋服を変えて気持ちを奮い立たせることってありますよね。今日は会社で大事なプレゼンがあるから赤い洋服を着て自分を勢いづかせたい、今日はデートだから普段は着ないワンピースを着て気分を上げたい……。洋服と同じように、インテリアを活用するのもあり!なんです。  好きなインテリアに囲まれて暮らすと、それが自分の視界に入るたびに心地よさのスイッチがオンになり、無意識にポジティブなメッセージを受け取ることができます。気持ちが前向きになることで、自己肯定感が高くなっていくのです。 (構成 生活・文化編集部 森 香織)
90年代トレンディー女優「財前直見」が大分移住を決めたワケ 「女優扱いされる姿を息子に見せたくなかった」
90年代トレンディー女優「財前直見」が大分移住を決めたワケ 「女優扱いされる姿を息子に見せたくなかった」 2007年に大分県に移住した財前直見さん(事務所提供)    1990年代を代表する女優としてドラマ、映画に引っ張りだこだった財前直見さん(58)。2007年に実家のある大分県に移住し、大自然の中で農作業に精を出して子育てするかたわら、東京でも女優として活動する「2拠点生活」を続けてきた。移住から17年を迎えた今、大分移住を決断した理由や、モノ作りで精神的な幸福度が上がった田舎生活について語ってくれた。 *  *  * ――大分に移住して17年を迎えました。  今は白菜が収穫の時期です。採れたてが一番おいしいんですよ。みずみずしくてシャキシャキしている。東京に住んでいたらコンビニ、スーパーで何でも手に入ります。ただ買っているだけだと、動物を飼っている方、魚をさばいている方、野菜を育てて収穫している方、食品を現地から運送している方の労力をなかなか想像できないですよね。自分で野菜や果物を育てることで、その価値や重みが理解できる部分があります。モノを作ることで心が豊かになるし、あまりお金もかからない。災害を機に近年は食作りの重要性が取り上げられるようになりましたが、梅干しやみそなど保存食が手元にあると安心感が違います。何でも便利にモノが手に入る環境だと、「あれがない、これがない」とモノが不足しているだけで不満を感じたりしますが、自分で食作りに携われば「生かされていること」のありがたみを感じるようになります。 40歳で長男・凛太郎くんを出産した(事務所提供)   40歳での長男出産が転機に ――改めてですが、大分移住を決断した理由を教えてください。  40歳で長男(凛太郎くん)を授かったことが大きな転機でした。お芝居の仕事は楽しかったですし、やりがいもあります。ただ、子どもと向き合ったときに自分の命より大切な存在を守らないといけないという意識が芽生えて。この子は親しか頼れない。食べるものもそうだし、精神的な愛情にしても。東京に住んでいると女優として扱われるから、マネージャーが車で送迎してくれたり、皆さん良くしてくれるじゃないですか。そういう姿を子どもには見せたくなかったんです。周りから女優・財前直見の息子で見られる。私自身も東京にいると仕事のオンとオフの境界線があいまいになってしまう。子どもが構ってほしいのに、台本を読むのに忙しいから向き合えないというのは違うなと。大分ならじいじ(父・紘二さん)、ばあば(母・カツ子さん)がいるし、自然に囲まれて命の大切さ、尊さを知る生活もできる。近所の人も女優の息子という目で見ないので、普通に接してくれますしね。私自身も大分に住むことで、オンとオフのスイッチの切り替えがうまくできるようになりました。ドラマや映画の台本は、東京への移動中や、ホテルで過ごしているときに頭に入れています。でも私が大分に移住することを決断したとき、両親はびっくりしていました。老人ホームを探していたようなので(笑)。本当に、まさか帰ってくるとは思っていなかったみたいです。 ――高校を卒業後、東京で芸能活動をしますが、子どものときは大分が好きでしたか?  うーん(笑)。幼いときは大分県内の田舎に行くと、川をせき止めてプールをつくったりして楽しかったけど、思春期になると大分市内で買い物や遊びに行くほうに興味がいきましたね。だから、田舎に行くとなると「ああ、行きたくないなあ」って思ったときもありました(笑)。故郷の本当の良さを知ったのは、子育てを考えて戻ってきてからかもしれませんね。 長男(右)と農作業をする財前さん(事務所提供)   田舎暮らしは「忙しい」 ――ご両親と凛太郎くんの4人で暮らす生活はいかがですか。  息子は今年4月で高校3年生になります。将来の夢とかはまだ決まっていないみたいですが、大学に入学したら親元を離れる可能性が高いのでちょっと寂しいかな。ただ、いつでも戻ってこられる場所として、この家を考えてくれればとは思っています。実家と疎遠になる子どもも多いじゃないですか。そうじゃなくて、奥さんや子ども、孫を気軽に連れてこられるような温かい場所であり続けたいなと思います。 ――子育てで大変だったことはありましたか。  じいじ、ばあばに助けてもらいましたし、あっという間でしたね。これからは(座学の)勉強、勉強という時代じゃないと思うんです。勉強も大事だけど、自分がこだわること、好きなことの延長が仕事につながる時代になっていくだろうと。子どものときから自然に囲まれて生活して、モノ作りに関わった経験は今後の人生で必ず役に立つと思います。ネットが普及して知識を得るための選択肢が増えていますし、(教育面で)田舎暮らしがハンディになるとは思わないですね。 ――コロナ期間を経て、田舎で暮らす2拠点生活に憧れる人が増えています。  昔はお金を使って幸福感を得ることが当たり前でしたけど、今はモノ作りで精神的な幸福度が上がったり、その価値が見直されてきている。昔の人は当たり前にしていた生活ですけどね。サステナブル(持続可能な)という言葉が浸透してきていますが、多くの人たちが地球に優しい生き方を考えるのは、自然な流れなのかもしれません。自分と向き合うことでどういう生き方をしたいか。私は自分を磨いて夢を実現させる場所が東京だったけれど、子どもが生まれて人生の幸せを見つめ直したときに生活する場所は大分だった。考え方はそれぞれだと思いますし、自分の軸を大事にしてほしいですね。田舎暮らしはのんびりしているイメージがあるかもしれないですが、忙しいですよ(笑)。作物を植えたり、季節の野菜を収穫したり、料理したり、保存食の仕込みをしたり。じいじやばあばに教わりながらやっています。 大分でずっと暮らしたいと語る財前さん(事務所提供)   「終活」の本を出版した理由 ――終活ライフケアプランナー、メンタル心理カウンセラーなど6つの資格を取得し、19年に家族や自分の終活に活用できる『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)を出版しました。  終活で死を意識して書き残すことを考えると、気が重くなってしまう人もいると思います。エンディングノートよりもっと気楽に書けたり、生活に必要な情報をすぐに取り出せるファイルを作ろうと思ったんです。家族なのに何も知らない状況で、喪主になる可能性はあります。何から手を付けていいのかわからず、苦労する人は多いと思うんです。私も両親に聞かなければわからないことがたくさんありました。「ありがとうファイル」に医療保険や生命保険などの保険証券をまとめて、カード類とかも写真で表裏を撮っておけばスムーズに整理できる。かかりつけ医を記入しておけば、体調が急変したときに救急隊の方にすぐ伝えることができる。近所でこの本を配ったんですけど、旦那さんを亡くされた奥さんに「この本を読んだ旦那さんが(自分の情報を)全部まとめてくれていた」って言ってくれて。手書きだと文字のぬくもりや温かさも伝わってくる。日本人には言葉にしなくてもわかってくれるという文化があるけど、伝えなければわからないこともある。お互いを知るために、家族間でコミュニケーションを取ることが大事だと思います。 ――今後の将来設計を教えてください。  大分で田舎暮らしをずっとしたいですね。農作物を作っているときが一番楽しいんです。じいじ、ばあばをこきつかってね(笑)。頼りにしているという意味ですよ。まだまだ学ぶことがたくさんありますから。お芝居の仕事も大好きです。女優として必要とされるのは幸せなことですし、これからも全力で取り組みます。 ※【後編】<「孫が裸に……」と祖母が大反対 元トレンディー女優「財前直見」が芸能界入りした意外なきっかけ>に続く。 (平尾類) ●財前直見(ざいぜん・なおみ)/1966年1月10日、大分県生まれ。高校卒業後に芸能界デビュー。女優として映画「天と地と」、NHK大河ドラマ「おんな城主 直虎」「義経」、NHK連続テレビ小説「ごちそうさん」、ドラマ「お金がない!」「お水の花道」など多くの作品で活躍。2007年に大分に移住し、仕事で東京などに通う生活を送っている。近著に『財前直見の暮らし彩彩』(NHK出版)。そのほか、『直見工房』(宝島社)、『自分で作る ありがとうファイル』(光文社)など。現在放送中のNHK大河ドラマ「光る君へ」に藤原寧子役で出演。また、5月17日公開の「湖の女たち」にも出演している。
“被災時のお金”7つのリスク対策、「ゆうちょ口座」「送金用アプリ」そして意外と役立つのが……
“被災時のお金”7つのリスク対策、「ゆうちょ口座」「送金用アプリ」そして意外と役立つのが…… 写真はイメージです(gettyimages)   予期せぬ災害に備え、お金に関する準備は万全にしておきたい。現金はもちろん、必要なお金がすぐに引き出せる口座や、スマホが使えるなら役立つアプリ、地震保険のことなど、有事を想定して今できるお金のリスク対策を考えていこう。(消費経済ジャーナリスト 松崎のり子) ゆうちょ銀行は20万円まで通帳やキャッシュカードなしで払い戻しOK  2024年1月1日に能登半島を襲った最大震度7の地震は大きな被害をもたらし、「激甚災害」の指定を受けた。多くの方が被災し、先の見えない避難生活を送らざるを得ないことに、心が痛む。多方面からの支援が急がれるが、被災地に向かえないわれわれは寄付などで、今できることを続けていきたい。  災害は他人事ではないのは言うまでもない。もし、わが身が被災したら、必要なお金はどうなるのか。  避難の際にお金を持ち出せなかった人は多いだろう。日本銀行は1月4日に被災地の金融機関に対し「災害時における金融上の特別措置」を出し、被災者の預金や有価証券の払い戻し・売却に関する要請を出した。預金者本人であるとの確認が取れれば、通帳やキャッシュカードなどがなくても払戻し等に応ずるというものだ。  ゆうちょ銀行は20万円まで可能、その他の金融機関は、東日本大震災時には10万円までとしていた。もし、有事の際に少しでも多くの現金を引き出そうと思うのなら、ゆうちょ銀行に口座を持ち、その他の銀行も複数保有しておくといい。  正月ということもあり、帰省先で被災した方も多かっただろう。金融機関やコンビニATMも都市部ほど多くないと考えられ、そうなるとやはりゆうちょ銀行の存在感は大きい。あくまでリスク管理として考えるなら、ゆうちょ銀行に「いざという時用貯金」を保有しておくことも有効といえるだろう。 PayPay、楽天ペイ、d払い…払い出しや送金に慣れておこう  PayPayや楽天ペイ、d払いなどのコード決済アプリのユーザーなら、残高を銀行口座に払い出すことも可能だ。100~200円程度の手数料がかかる場合もあるが、有事にそんなことは言っていられない。  また、家族や友人にアプリで送金してもらい、それを払い出す方法もあるだろう。送金は多くのアプリで一回10万円まで。ただし、アプリごとに銀行口座に払い戻しできる条件があり、例えばPayPayならPayPayマネーのみなど種類が決まっている。  本人確認が済んでいないと口座払い出しが不可というアプリが多く、平時にその手続きを済ませておく方が安心だ。有事を想定するなら、スマホ送金や銀行口座への払い出しに慣れておくことも対策の一つだろう。  他にも「ことら」に加入する銀行の少額送金アプリを使えば、被災地にいる人にスマホを通じて送金することができる。ただし、スマホが利用できる通信環境と、十分な充電があることが前提になることは言うまでもない。  冒頭に戻って、「預金者本人であるとの確認が取れれば、通帳やキャッシュカードなどがなくても払い戻し等に応ずる」という部分だが、これまで筆者は非常持ち出し袋に免許証や健康保険証・マイナカードなどのコピーを入れておくべきと考えてきた。  それに加え、スマホの電源が入り、通信電波が届く状態であれば、銀行のアプリを入れておけばスムーズだ。アプリ画面には本人情報、支店や口座番号などすべてが登録されているからだ。銀行側も、アプリを入れれば災害時も本人確認が容易であるとの点をアピールしてはどうだろうか。   とはいえ、むろん現金の用意も忘れてはいけない。非常持ち出し袋には当座のために一定額のお金を入れておくべきだろう。お店が再開してもお釣りが用意できないこともあるので、紙幣だけでなく小銭も入れておきたい。  災害時は携帯電話が使えない状況もある。公衆電話をかけるためにも10円玉、100円玉の用意は必須だ。家に出番のないテレホンカードが眠ってはいないだろうか。平時ではほとんど使う機会はないが、有事にはまだ現役で公衆電話で活躍する。数枚ほど非常持ち出し袋に入れておくのもいいだろう。ただし、停電時ではテレカが使えないので注意。  さらに非常持ち出し袋に必ず入れておくべきは、スマホを充電するためのコードやアダプター類だろう。先に書いたように、スマホがあれば身分証明もお金のやりとりも、アプリを通じてかなりのことが楽にできる。能登半島地震では、NTTドコモ、KDDI、ソフトバンク、楽天モバイル4社が避難所への無料充電サービス、モバイルバッテリー配布、Wi-Fiルーターの無償提供等を行った。スマホの重要度は増している。 地震保険は、建物だけでなく家財も忘れずに  平時からの備えとなるのは、やはり地震保険への加入だ。地震保険は、地震や津波、噴火で住まいが損害を受けた時に支払われる。地震が原因で火災が起きた場合も同様で、能登半島地震では輪島市で大規模な火災が発生したが、この場合でも火災保険だけの加入では原則として保険金の支払い対象にならない。  地震保険は火災保険とセットで加入するものだが、2022年度時点(速報値)で全国付帯率は69.4%。輪島市は68%、津波被害が甚大だった珠洲市は75.8%だ(損害保険料率算出機構データより)。  ただし、地震保険の補償額は火災保険の30~50%までのため、再建費用をこれだけで賄うことは難しい。公的な「被災者生活再建支援制度」では全壊した建物を再建したとしても、支援金は最高で300万円までだ。また、建物の修復以外にもお金がかかる。  損害保険料率算出機構の資料によると、家具・家電等の購入など生活再建のための費用が100万円以上かかったというケースが約7割を占める。自然災害の被害というと、住まいそのものを考えがちだが、建物だけでなく家財にも保険を掛けることを忘れてはいけない。(掛けられる地震保険の上限は、住宅が5000万円、家財が1000万円)。  家財に保険を掛けるのは、手元に使えるお金を少しでも多く確保するためとの意味もある。先ほど書いたように、地震保険の補償額は最大50%まで。そこに家財の保険金を加えることで、受け取れる金額を増やすことができるからだ。  保険金は使い道が限られているわけではないので、被災後の生活再建のために充ててもいい。「うちには高級な家具もないから…」などと考えるのは平時の発想であり、有事は1円でも多くのお金が必要になる。適正な金額の保険をかけることがいざという時にわが身を守ってくれる。 耐震改修に多くの自治体が補助金 使える公的補助は活用すべし  多くの自治体では、災害時の住まいの被害を軽減させるための支援制度を行っている。東京都では地震火災の被害を抑える目的で、木造住宅密集地域(木密地域)を不燃化するための助成を各区で行っている。老朽化した建築物の撤去費用や建て替え費用に補助金を出すというものだ。  さらに建物の耐震改修費用の補助も、多くの自治体が行っている。その効果は建物の安全を高めるためだけではない。地震保険の保険料には割引制度があり、建物の免震・耐震性能によって割引率が異なる。  しかし、1981(昭和56)年6月1日より前に建てられた旧耐震基準の建物では割引を受けることはできない。これは、高血圧や喫煙歴がある人だと疾病リスクが高いと判断され、生命保険料が高くなるのと同じ理屈だ。耐震改修によって、地震保険の保険料を抑えることができるのだ。  また、地震で倒壊することが多いブロック塀の撤去や補強工事に助成金を出す自治体もある。今後家のリフォームをするなら、公的な助成制度を調べた上で、使える助成金・補助金は確実に利用して防御したい。  被災された方々、そしてわれわれも、地震が起きる直前まで、昨日と同じ日が今日も明日も続くと信じて疑わなかったはずだ。しかし、それがいかにもろいものかを現在目の当たりにしている。リスクに備えることは、待ったなしなのだ。
〈きょう放送ドラマ「大奥」で好演〉1級建築士試験合格の女優・田中道子が語る”ド根性”勉強法 「出前館メニュー食べつくした」
〈きょう放送ドラマ「大奥」で好演〉1級建築士試験合格の女優・田中道子が語る”ド根性”勉強法 「出前館メニュー食べつくした」 撮影/戸嶋日菜乃(写真映像部)  俳優・小芝風花主演ドラマ「大奥」(フジテレビ・毎週木曜午後10時)は、フジテレビの連ドラとしては約20年ぶりの復活となる人気シリーズ。俳優・田中道子が演じる御年寄の高岳(たかおか)は大奥総取締役である松島の局(栗山千明)のライバルであり、次の実力者。劇中では、眉なしかつ鋭い目線で小芝風花演じる主人公ににらみを利かせており、「眉なしでも美人」と話題になった。そんな田中道子は一級建築士の資格を持っているという。(「AERA dot.」2023年2月18日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)   *  *  *  テレビや映画出演のほか、舞台「赤羽焼肉劇場」で初の主演も務め、最近はバラエティー番組でも活躍する女優、田中道子さん(33)。昨年末に見事、1級建築士試験に合格したことが大きな話題となりました。合格率10%弱といわれる難関試験。仕事で忙しい日々、どのように時間をやりくりして勉強を続けたのでしょう。田中さんに聞きました。  大好きなマンガ、ゲームを断ち、人づきあいも減らしました  1級建築士になることは、大学時代からの夢でした。でも、試験を受けるには2年以上の実務経験が必要なので、あきらめていたのです。しかし、2020年に制度が緩和され、実務経験がなくても受験はできるようになりました。そんなとき、コロナ禍で家にこもっている間に「なにか自分も社会に貢献できることはないか」と考えたのです。そして「建築がある!」と思い立ちました。やるなら今かもしれない。学生時代の夢を、あらためてまた追いかけてみよう!と一念発起したのが2021年の7月、そして10月から専門学校に通い始めたのです。  そこからは、隙あらば勉強の日々。私の確固たるポリシーとして、「本業をおろそかにしない」があります。おそらく、社会人でなにかの資格にトライする方は、皆さんこう考えるのではないでしょうか。勉強のために睡眠不足になって、体調を崩して本業に影響を与えたのでは本末転倒。「いや、今以上に本業を頑張らなくては」というくらいに思っていました。そうでないと、もし合格しても、誰も喜んでくれませんよね。  そこで、睡眠時間を確保するために、愛してやまないマンガとゲームを真っ先に断ちました。これはつらかったですね。あと、人づきあいも犠牲にしました。おかげで友達が減りました(笑)。私は実務経験がないぶん、ほかの受験者より低い位置からのスタートだと自覚していましたから、こうすることで覚悟を決めたのです。 ごはんを作る時間があるなら、勉強にあてる  学校の宿題や提出物の量が、とにかく容赦ありませんでした。仕事も忙しくなり、とてもありがたかったのですが、これでは勉強の時間がとれなくなってしまう。そこで、食事は日高屋さん、コンビニ、デリバリーの出前館に本当にお世話になりました。出前館では、もうすべて食べつくしたのではないかと思うくらい。ごはんを作って片づける時間があるなら、勉強したかったのです。 すき間時間も見逃さず勉強を続けた。びっしりと文字が書かれた当時のノート。学校の課題で提出した製図は、「練習不足」と赤字が入って戻ってきたことも。受験票とともに。 撮影/戸嶋日菜乃(写真映像部)  洗濯は1週間に1度か2度のまとめ洗い。仕事に行く際のコーディネートを考える時間も惜しいので、カジュアルなパーカとジャージーパンツを「これ、私の仕事着です」とまわりに公言して、制服のように毎日そのコーディネートで出かけていました。スティーブ・ジョブズ方式です(笑)。 アプリを大活用。1分あれば1問解ける!  今どき、だいたいの資格試験には、勉強用のアプリがありますよね。私も大いに活用しました。もう、それこそトイレでも問題を解いていました。1分あれば1問解けるのですから。楽屋で、待ち時間のスタジオのすみで、移動中の車の中で。どんなに少しの時間でも、隙間時間はすべて勉強にあてました。実は私、車に弱いのですが、ロケで地方に出かけたとき、ロケバスの中で車酔いと闘いながら勉強したこともありました。あめやガムでごまかしながら勉強して……。  そんなふうに勉強しながら「なにやってるんだろう、私」と思ったことは、100回どころではないと思います。「なんで始めちゃったんだろう」と。でも、もうあとには引けないところまできていたのです。 この生活を3、4年も続けるのはムリ。じゃあ、1年半で決めよう!  日々、まさに「自分との闘い」でした。昨年の9月がいちばんきつかったかもしれません。舞台もあり、仕事もかなり忙しくさせていただいていました。そんな時期に、学校に提出した製図が戻ってきて、先生の赤字で「練習不足」と書かれていたのを見たときは泣きました。  でも、もう「意地」なのです。では、見方を変えて「この生活を3、4年続けられる?」と自分で自分に聞いてみると、もちろん答えは「絶対ムリ」なわけです。「じゃあ、1年半で決めようか」と。こんなふうに期限を設けることで、自分を追い立てました。  とはいえ、何度もあきらめかけました。それでも続けられたのは、母の存在も大きかったです。あきらめそうなときは母に電話をしていたのですが、毎回名言を残すんです。 「賽(さい)は投げられた」とか「鉄は熱いうちに打て」とか(笑)。すると、「うーん、やるしかないよね」と気持ちが戻ってくる。そうなのです。自分でも本当はやめるつもりはないのです。こんなふうに、背中を押してもらいたいときは母に電話をしていました。  つらい勉強の日々でモチベーションを保つためにしたのは、「合格後の自分を想像する」ことでした。みんなに笑って報告をする。今まで頑張った過程は必ず糧になるはずだし、どんなに悪い方向に考えても「試験に合格して損をすることはない!」のです。……と頭ではわかっていても、実は「意地」の部分も大いにありました(笑)。 尊敬するMEGUMIさんに、試験を受けることを打ち明けた  試験を受けることは、落ちたときのことを考えて仕事関係の人には言わないでいたのです。「田中道子、落ちたらしいよ」なんて言われちゃうのもイヤですし(笑)。  はじめて話したのは、ドラマ「極主夫道」でご一緒していたMEGUMIさんです。同じ女性として尊敬するMEGUMIさん。いろいろ話を聞いてくれて、アロマやお香をくださり「これでリラックスしてね!」と応援してくれました。こうなると、「MEGUMIさんにかっこ悪いところは見せられないな」と気合が入るんですね。これも、モチベーションになりました。まわりの人に公言することで、自分を引き返せなくするのです。 日常のストレスと勉強のストレスの対処法  大好きなゲームやマンガを断った生活が約1年半続きましたが、「日常のストレス」を発散させるすべは、結局試験に受かることでしか発散されません。つまり、きついけど勉強をすることだったのだろうな、と今思います。  勉強そのものに対するストレスというものもあります。意味がわからない計算問題や、初見の用語など、泣きたくなるような場面に何度も遭遇します。そのたびに辞書を引いて「もう、何度見ればいいんだ!」と投げ出したくなったことは数えきれませんでした。  でも、これは勉強して「理解」することで解決するしかないのです。私は実務の経験がないぶん、ほかの受験者より知らないことも、わからないことも多かったのです。ですから、人より長い時間勉強するしか追いつくすべはない。これを自覚していたので、投げ出す寸前で踏みとどまれたのだと思います。 頭の中でキャリーケースをイメージする  それでも、ドラマや舞台、バラエティー番組といった仕事がかなり重なった時期に、勉強を一度中断したことがあります。私は、頭の中でよくキャリーケースをイメージするんです。その中に、たとえば仕事という大きな箱を二つ入れると、あとは小さなものしか入りません。ですから、仕事の大きな箱が二つ、ドンドン!ときたら、勉強の箱を取り出すしかないのです。その隙間に必要最低限の「食事」や「睡眠」を入れる。すべて入れるとキャパオーバーになってしまいます。  勉強をしたいのはやまやまですが、本業をおろそかにして勉強をすることはできません。そこは割り切って、できることに集中しました。こういう選択も、ときには大切だと思います。 *  *  *  合格後、インスタなどのDMにもたくさんメッセージをいただきました。「子育ても落ち着いたので、昔あきらめた目標をもう一度目指してみようと思います」といった声も多く、そんなふうに思っていただけて本当に嬉しいです。  今なにかの勉強を頑張っているみなさんに、私の体験談が少しでもお役に立てると幸いです。 (取材・文/三宅智佳) ◎田中道子/女優。1989年生まれ、静岡県出身、静岡文化芸術大学卒業。大学卒業後、2013年2級建築士に合格。2013年ミス・ワールド日本代表、インドネシアでの世界大会でベスト30に。ドラマや舞台、バラエティー番組などで幅広く活躍中。趣味は楽器演奏(ピアノ、ハープ)、油絵、水彩画、ゲーム、マンガ。取得資格は中型二輪免許、ウォーターオープンライセンス取得。昨年末、1級建築士試験に合格。
「祖父母と孫が話せない」先住民族同化政策による悲劇 極北の地で3世代の家族を撮り続ける写真家・八木清
「祖父母と孫が話せない」先住民族同化政策による悲劇 極北の地で3世代の家族を撮り続ける写真家・八木清 撮影:八木清   八木清さんが、アラスカやグリーンランドなど極北の地に暮らす、イヌイットなどの先住民族や自然風景を撮り始めてから今年で30年になる。なかでも祖父母と親、子の3世代を写した家族写真は1994年から続く八木さんのライフワークだ。 伝統的な毛皮の防寒服を身に着けて雪山をバックに並ぶ家族がいれば、北海道の海辺の村で撮影したような親近感を覚えるものもある。しかし、一見すると和やかな家族写真の背景には「文化的虐殺」ともいわれる民族同化政策の深い傷跡があるという。 「日本人からすれば、ちょっと信じられないことかもしれませんが、言葉の壁で、祖父母と孫が会話できないことが珍しくないんです」 撮影:八木清   祖父母と話がしたい アラスカ州立大学フェアバンクス校でジャーナリズムを専攻した八木さんは、言語学の授業で目にした光景が忘れられない。それは、先住民イヌイット族の言葉、イヌピアック語を学ぶ授業だった。 「授業初日、学生たちが自己紹介をして、なぜこの授業をとったのか、話したんです。先住民のクラスメートが結構多かったのですが、彼らが『自分のおじいさんやおばあさんと話したいから』と口にしたのをよく覚えています」 米国では64年に公民権法が成立するまで黒人や先住民は公然と差別されてきた。アラスカでは先住民に対する同化政策が半世紀にわたって行われた。若者は故郷から遠く離れた寄宿学校で学ぶことが強制され、公用語以外の言葉を使うことが禁止された。それはカナダ北部でも同様だった。 「その結果、先住民はある世代からスポンと抜け落ちるように自分たちの言葉をしゃべれないし、理解できない。彼ら独自の言語が消えてしまうのは時間の問題です」 そんな民族の悲劇の記憶を3世代の家族に重ねるように、大型のフィルムカメラで写してきた根底には言語についての造詣があるという。 「アラスカ州立大学には『ネイティブランゲージセンター』という先住民の言語研究所があるのですが、長年、所長を務めたマイケル・クラウス博士から学んだことが、大きな糧になっています。先住民の歴史的背景や、彼らの文化の核となっている言葉の大切を認識させてくれました」 撮影:八木清   星野道夫さんとの出会い 八木さんが通った大学はアラスカ州の内陸部にある。留学したころのフェアバンクスの人口は約2万5000人。インターネットもない80年代にどうやってこの小さな街にある大学の存在を知ったのか? 「高校時代、たまたま本屋で写真家・星野道夫さんの著書『アラスカ 光と風』(86年、六興出版)を手にしたら、この大学で学んだことが書かれていたんです。でも、星野さんがどんな人であるか全然知らなかったし、興味もなかった。本も買わなかったんですよ(笑)」 フェアバンクスを拠点にアラスカの自然やこの土地に生きる人々を撮影する星野さんの名が広く知られるようになったのは89年、「週刊朝日」で1年間にわたって連載された「Alaska 風のような物語」がきっかけだった。翌年、星野さんはこの作品で木村伊兵衛写真賞を受賞する。 一方、68年に長野市に生まれた八木さんは、地元では有名な老舗日本料理店の跡取り息子として育った。 「親からは、日本の大学に行け、って言われましたけれど、絶対に嫌で、断固としてあらがった。当時、留学して何を学ぶのか、明確な考えはありませんでしたが、ひと言でいうと、『北方志向』だったんです。そんなときに星野さんの本を見て、ピンときた」 89年、アラスカ州立大学に入学し、フェアバンクスで暮らし始めると、すぐに星野さんと出会った。 「この街の日本人のコミュニティーはものすごく小さいんです。共通の知り合いに、『星野さんの家でバーベキューをやるんだけど、来ない?』と誘われた。それが最初の出会いです。その後、友人らとよく星野さんの家に遊びに行くようになりました」 撮影:八木清   星野さんとは距離を置いた 入学後しばらくすると、図書館で「LIFE」の報道写真集を目にした。事件や事故の写真だけではなくスポーツやスナップなど、あらゆる分野の写真が収められていた。 「それを見ているうちに、写真の伝える力みたいなものをすごく感じた。もともとぼくは自然に興味があったので、自然保護を訴える手段として写真が使えるのではないか、と思った」 やがて、その思いは大学の授業を通して変化していく。 「最初は自然だけに目を向けて、写真を撮りたいと思っていたのですが、授業で先住民の暮らしや文化を学んでいくうちに、狩猟を主体とした彼らの生活がストレートに自然と結びついていることを実感した。やっぱり人間は自然のなかで生きているんだな、と思った」 撮影:八木清   卒業が近づいてくると、星野さんは八木さんに、「どうするの、家業は継ぐの?」と、親身になって相談に乗ってくれたという。 「星野さんの家でいろいろな写真集を見せていただいたのですが、なかでも水越武先生が写した自然風景はとても印象的で、水越先生から学びたいと思った。それで、星野さんに紹介していただいたんです」 星野さんと水越さんは86年、平凡社のネイチャー雑誌「Anima(アニマ)」の編集部で初めて出会って以来、深い交流があり、お互いに写真家として尊敬していた。 しかし、なぜ八木さんは星野さんに師事しようと思わなかったのか? 「星野さんとはちょっと距離をとったほうがいいかな、という気持ちがありました。それはもちろん、人間的に、という意味ではありません。当時はまだ『先住民の家族を撮ろう』とか、具体的なことは決めていませんでしたが、思い描いていた作品のテーマやフィールドがあまりにも似通っていましたから」 93年、大学を卒業すると水越さんに師事し、自然と向き合う姿勢を学んだ。それと並行して、翌年から先住民族の集落を訪れ、家族の写真を撮り始めた。その後、撮影エリアはアラスカからカナダ北部、グリーンランドに広がった。 撮影:八木清   撮影は「天気が親分」 先住民の家族を写すには最低でも10日から2週間は必要という。 「まず、現地で撮影テーマに沿った3世代の家族を捜し出すのが大変です」 小さな村であれば入国後、現地の役場のような機関に電話して、協力を依頼する。 「こういうテーマで撮影している写真家なんですが、と電話口で説明すると、日本では想像しづらいですが、意外と協力してくれる人がいるんです。電話に出た人が『うちの家族はこうなんだけど』と、すごく親身に対応してくれて、その人の家に泊めてもらい、写真を撮らせてもらったこともあります」 テーマに沿った家族が見つかっても、なかなか全員が集まることは難しく、撮影できる日は限られるという。 「特に男性は、狩猟に出かけてしばらく帰ってこないことがありますから」 さらにフラストレーションがたまるのが天候待ちだという。家族が暮す環境を写し込みたいので、撮影は必ず屋外で行う。その際、大型カメラは風にあおられやすいので、晴れていても風が強い日は撮影できない。10月から2月にかけては日照時間が極端に短いうえ、天気が荒れることが多いので、基本的にそれ以外の季節に写すのだが、それでも天気が急変することはしょっちゅうだという。 「以前、『Silat Naalagaq(シラ ナーラガ)』という題名の写真展を開いたことがあります。グリーンランド北西部のイヌイットが日常的に使うフレーズで、直訳すると『天気が親分』っていう意味です。先住民の狩猟と同様に、写真を撮るのも天気次第というわけです」 (アサヒカメラ・米倉昭仁) 【MEMO】八木清写真展「ツンドラの記憶」 PGI(東京・赤羽橋) 1月17日~2月22日
男性の更年期障害、女性よりも高い治療ハードル 人間ドック検査項目に追加を望む声も
男性の更年期障害、女性よりも高い治療ハードル 人間ドック検査項目に追加を望む声も 男性の更年期障害に対する社会の理解や認知はあまり進んでいない(撮影/写真映像部・上田泰世)    更年期障害は男性にもあるが、理解や認知は進んでいない。40代を過ぎれば誰にも起こり得る男性更年期。その症状と対策を専門家に聞いた。AERA 2024年2月5日号より。 *  *  *  更年期障害といえば、女性特有の症状と思っている人もまだまだ少なくないだろう。しかし、実際は男性にも同じような症状が出る。アエラが昨年12月に募集した男性更年期の当事者アンケートでも、50代を中心に「不眠」や「不安」「意欲の低下」といった自覚症状が続々寄せられた。  埼玉県の自営業の男性(63)は50代前半から続く「ホットフラッシュ」(のぼせやほてり)に悩まされている。症状が出るのはなぜか外食時の「ランチ限定」。食事中に首から上の汗が止まらなくなるという。 「辛いものを食べているならともかく、焼き魚定食や寿司といった本来なら汗をかくような食事でもないのに汗がタラタラ出てくるので、どうしても周囲の目が気になります」  会社員だった数年前までがピークで、多い時は週5日の出勤日のうち2日発症した。予兆は朝に訪れる。「上半身がほてるような感覚」で察知するという。男性はポケットのハンカチ以外に、かばんにフェイスタオルを常備している。今も思い出すのは、うっかりハンカチを忘れた日に陥った窮地のシーンだ。その日は朝に「予兆」がなく、出勤後に体調の異変を感じた。ランチでざるそばを食べていると、案の定、汗が止まらなくなった。仕方なく、テーブルに置かれていた紙ナプキンで汗をぬぐう。その数はみるみる10枚、20枚と積み重なっていく。冷たいそばをすすりながら汗みどろの男性は店内でも異様に映ったに違いない。見かねた店員から「お水、お持ちしましょうか」と声がかかった。 ホットフラッシュ  難儀なのは、どうしても外せないビジネスの会食。「予兆」がある時もランチに臨まざるを得ない。ハンカチがびしょびしょになるほど大量の汗をかいているのに気づいた会食の相手から、「体調悪いんですか」と困惑気味に問われることも。昼どきに仕事が一段落し、本来なら「このあと食事でも」と誘うべき場面でも、初対面の相手とは次第に会食を避けるようになったという。 「ホットフラッシュは女性だけでなく、男性の更年期にも多くみられます。この男性は活発に動く日中の時間帯に自律神経が乱れやすく、食事の雰囲気や食べる行為が刺激になって更年期の症状が出やすくなっている可能性があります」  こう指摘するのは男性更年期に詳しい「東京はなクリニック」(東京都渋谷区)の興梠真紀院長だ。 AERA 2024年2月5日号より   おおむね40代以降  男女の更年期は症状に共通点もある一方、メカニズムや期間は異なる。女性は卵巣から分泌されるホルモン「エストロゲン」の不安定なアップダウンが更年期障害の要因。一方、男性更年期の症状はほとんどが精巣でつくられる「テストステロン」というホルモンの急激な減少によって起きる。女性更年期は「閉経前後の10年間」と定義されているのに対し、男性更年期の期間は「おおむね40代以降」とファジーな面も否めない。興梠院長は言う。 「40代以降はその先の人生が見えてくる年代でもあります。それがリアルに感じられるほど憂鬱(ゆううつ)になる人が増えるのと同時に、社会的役割が大きくなるにしたがって弱みを見せたくないという意識も男性には強く働く傾向があります。こうしたストレスが加齢に伴うテストステロンの減少と相まって様々な症状を引き起こしていると考えられます」  男性更年期に特徴的な症状は筋力低下や筋肉痛、頻尿。他にも、不安やイライラ、不眠、性欲の減退などがある。興梠院長のクリニックでは、パートナーに更年期障害の疑いを指摘されて来院する男性が半数近くに上るという。中には「抗うつ薬で治療していたけど良くならないので来た」と告げる人も。実際、うつと更年期の症状は混同されがちで、抗うつ剤の処方を続けながらテストステロンを補充して症状が改善した人もいるという。 「男性更年期のセルフチェック(AMSスコア)はメンタルと身体の不調の両方を確認しています。チェック項目に広く該当する人はうつではなく、更年期の可能性も考えたほうがいいでしょう」(興梠院長) 高い治療のハードル  男性更年期はテストステロンの減少が激しくなる局面で症状が顕在化しやすくなる。このため、血液検査で減少が確認できれば補充するのが最もシンプルな治療法だという。 「テストステロンはもともと自分の体内にあるものですから、過度に怖がらずにホルモン補充を治療の選択肢の一つに加えることをおすすめしています」(同)  とはいえ、近年は男性更年期の診療をHPなどに掲げるクリニックも増えているが、女性に比べて男性の治療のハードルは高いのが実情という。 「女性の更年期障害に対しては検査も治療も保険適用されますが、男性の場合、治療の入り口にあたるテストステロンの血液検査は保険適用外のため1万~1万5千円かかります。男性更年期の治療薬の種類の少なさや入手ルートが限定されることもネックといえます」(同)  ホルモン補充療法以外にも、有酸素運動でテストステロンの低下を防ぐことが可能だ。30~40分のジョギングやウォーキングといった有酸素運動を週3回程度行うことでテストステロンの分泌量が上がる、との研究結果もあるという。タンパク質の摂取や筋力アップがテストステロンの増加につながることも分かっている。興梠院長は食事と運動、睡眠のバランスが大事と唱え、「まずは日常生活の中でできることから始めてほしい」と呼びかける。 「動脈硬化の原因とされるコレステロールは悪者扱いされがちですが、女性ホルモンも男性ホルモンも、そして人体の活力に不可欠な細胞膜もコレステロールで構成されているため過度な不足は禁物です。食生活に肉や魚、卵といった食材を取り込むのと同時に、それらが体内にたまり過ぎないよう適度な運動をするのが最もいい循環だと思います。疲れが蓄積すると、テストステロン低下の原因になるため、しっかり休んで回復することも大事です」  アエラのアンケートでは、「夫は穏やかな性格ですが、最近イライラしやすくなっていると感じます」と更年期症状の疑いのある夫に代わって回答を寄せた東京都の50代の女性もいた。この女性は、人間ドックの検査項目に男性更年期も加える必要性を記事に盛り込んでほしいと要望し、こんな意見を添えていた。 「会社でも(男性更年期の)症状に合わせて働き方なども考えていくことが必要ではないかと思っています」 症状の認知、理解を  勤務先の人間ドックでも、女性に比べると男性の更年期障害はほぼノーチェックというケースが多いという。前出のホットフラッシュに悩む男性も「人間ドックの際に更年期について相談した、と妻から聞いたことがありましたが、自分の身に置き換えることはありませんでした」とこれまで受診してこなかった経緯を振り返った。その上で、人間ドックの問診票に「男性更年期の自覚症状」に関するチェック項目があれば受診や治療につながったと思う、と話した。  男性更年期の症状に対する認知や理解がもっと広がれば、国や民間の対策を後押しする流れにもつながるはずだ。興梠院長は言う。 「男性更年期は『年のせい』と放置されることも多いですが、今後は治療可能な領域として認知されるようになってほしいと思います」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2024年2月5日号
「電器ケトルと炊飯器」で健やかな低コスト生活【月7万円】で暮らす私がたどり着いた節約レシピ
「電器ケトルと炊飯器」で健やかな低コスト生活【月7万円】で暮らす私がたどり着いた節約レシピ ※写真はイメージです(Getty Images)   「お金を貯めて、暮らしと心にゆとりをつくりたい」と思いつつも、何から着手すればいいか分からない人は多いのではないだろうか。会社員生活で体調を崩したことをきっかけに自身に合った暮らしを模索し、月7万円の低コストな生活にたどり着いたYouTuberかぜのたみ氏が「暮らしのお金」についての不安を解消していく。同氏の新著『低コスト生活 がんばって働いている訳じゃないのに、なぜか余裕ある人がやっていること。』(朝日新聞出版)から一部を抜粋、再編集し、「低コストな食」のコツを紹介する。 *  *  * 【かぜのたみさんの記事を読む】 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」 #8 【月7万円生活】Youtuberが伝授する“増やさない”習慣とは 電気ケトルと炊飯器  いまうちにある調理器具は、1.5合炊きの小さな炊飯器と電気ケトルの二つになりました。冷蔵庫や電子レンジ、ラップや保存容器は使っていません。  以前の私は、自分の趣味は料理だと自負し、二口コンロは部屋選びの必須条件でした。  調理器具も、圧力鍋や土鍋、ミルクパンなど、本当に色々使ったものです。  休日に2000円分ほど食材を買ってきて、1週間分のおかずをストックし、ご飯も多めに炊いて冷凍……のようなこともよくしていましたが、疲れが溜まる週の後半に、つくってから日が経ったおかずを食べるのは少々つらいものがありました。  ですが暮らしの低コスト化を進めていくうちに、備え付けのIHヒーターでOK、電子レンジや冷凍庫付きの冷蔵庫を設置できない部屋でも可、と条件が緩んでいきました。  果たして家賃を5000円上げてまで、ガスコンロにこだわる必要があるだろうか? 冷蔵庫が必要なのだろうか? と一つひとつ問い直してみた結果、あまり設備はいらないな、となったのです。  いまは調理器具のメンテナンスや、調理中に台所に張り付かねばならない大変さからも解放されてかなり満足しています。  引っ越しも一番かさばっていた調理器具一式がなくなり、ずいぶん身軽になりました。  驚くのは、頑張って作り置きしていたときよりも、いまの食生活の方が健康面もととのい、食費も無理なく小さくなったことです。私の生活には、この装備で十分なようです。  いまの食費は少ないときだと、月4000円を切ることもあります。  つくりたての方が美味しく、食べたい分だけ調理する方が気持ち的にもラクで、健やかさも快適さもアップしました。 食べる分だけ買って、つくる  冷蔵庫に放置していた野菜やおかずを「そろそろ消費しないと……」と無理して食べるのは本当にしんどいです。  いまの食生活では、生鮮品の消費に追われることもなく、食べたい量を少量からつくれるので、気持ち的にもラクです。  家にストックしているのは、煮干しや乾燥大豆、切り干し大根やひじきなどの乾物です。  季節にもよりますが、週に1~2回ほど、野菜や卵、豆腐や納豆を買い足して、献立を回しています。  調味料は、味噌、醤油、オリーブオイル、酢、塩といったところです。  マヨネーズやケチャップ、めんつゆなどは食べたければ買いますが、必要になる機会はあまりありません。  ソースやドレッシングは、オリーブオイルと塩、酢、醤油で大体代用できます。  調理という調理はほぼしておらず、朝か昼に炊飯だけします。  炊飯器の釜に、米(しかも研ぎもしない)、一晩水につけておいた大豆、ひじきを入れ、水が馴染んだら、あとは炊いて終了です。  それに味噌をお湯でといて海藻を入れただけの味噌汁と、お腹の空き具合によって豆腐や季節の野菜、納豆、酢につけて柔らかくした煮干しを添えたら、食事準備は完了です。  残りのご飯はおにぎりにしておくと、時間が経っても食べやすいです。  味噌汁や煮物用に、昆布やしいたけで出汁をとっていた時もありましたが、それほど好きでもなかったのでやめました。  嫌だったり、面倒に感じることをやめていった結果が、いまの食生活です。  もし「丁寧に料理したい」みたいな気持ちになったら、そうした「乾物を一晩戻して出汁作り」のようなこともするかもしれませんし、そろそろ乾物や野菜作りをはじめてもいいなと思っていますが、それは人生後半の楽しみにもう少し取っておこうと思っています。 体の声を聞く  食生活を小さくするのに考慮した点は、経済性ではなく「不便や不満を解消する」ということです。  食事は、何を大事にするかによって内容が全く変わってきます。  肉が食べたい、野菜を食べたい、美味しいものがいい、コスパを重視したい……などなど、人それぞれ食事に望むテーマは本当に幅広く、「自分が押さえておきたい」ことをきちんと定めておくのが、自分が必要とする食生活にととのえるコツです。  このことを実感したのは、一時期、節約に重きを置くためにパンとパスタばかり食べて日々を過ごしていたら、トラブル知らずだった肌に吹き出物が大量にできたことがあったからです。  これをきっかけに米と味噌汁を中心にした食生活に切り替えて以来、自然と野菜を食べる量が増えていき、乾物が便利で美味しいので食べたくなり、時々はタンパク質も必要そうだから魚や卵を少し足し……という感じで、自然に自分が食べたい食材や食事内容が決まっていきました。  いまは謎の吹き出物もほぼ出現しなくなり、便秘知らずにもなり、贅肉もむくみもずいぶん気にならなくなったと体感しています。  体は本当に正直だと感じます。食事が合っていれば、自分も体もご機嫌です。  合っていないと、明らかな不具合が出てくるものです。  あれやこれやと頭で考えず、体の声によく耳を傾けて食事を決めるようにしています。 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」 #8 【月7万円生活】Youtuberが伝授する“増やさない”習慣とは
「1週間誰にも会わずに研究」 “世界トップレベルの研究”を牽引する女性数学者(64)の幸せ
「1週間誰にも会わずに研究」 “世界トップレベルの研究”を牽引する女性数学者(64)の幸せ 数学者の小谷元子さん(64)  数学者の小谷元子さんは、東北大学の理事・副学長(研究担当)である。「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」で設立された東北大の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR 、2017年から材料科学高等研究所に改称)の代表を2012年から2019年まで務めた。学術行政関係の要職に就いた時期もあり、2022年からは外務大臣の次席科学技術顧問となっている。  専門は幾何学。より専門的に言うと「離散幾何解析学」である。「研究が好きで、人と口をきかないで研究だけするほうがたぶん自分の性格とか能力には合っている」。大学の研究運営に関わりを持ち始めたのは40代半ばから。「自分には向いていない」と思いながら経験を積み、大学からも政府からも頼りにされる存在になった。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) 自分がやりたい分野の中心地 ――東京大学の理学部数学科を卒業されて、大学院は東京都立大学に進まれたんですね。  私は幾何学のなかでも微分幾何と呼ばれる分野を専門にしていたんですけれど、その分野の先生が東大にはあまりいなかったんですよ。助教授が1人だけでした。で、その先生から微分幾何なら都立大か筑波大学、大阪大学がいいと聞き、自宅から通える都立大を選びました。 ――そういうことだったんですか。  東北大学も幾何学が強い大学で、私は東北大に助教授として採ってもらえたとき、とっても嬉しかった。自分がやりたい研究の中心地に来られたって。当時、砂田利一先生が東北大にいらして、新しい分野をつくり出していたんです。幾何、つまり図形の問題は座標が入れば方程式が書けて、解析学の問題になる。それが「微分幾何」で、最近では「幾何解析学」とも呼ばれます。これを座標が入らなくてもできるようにしたいという機運が高まってきて、その中心にいたのが砂田先生です。私も興味を持ち、「離散」、つまり連続していないバラバラな構造での幾何解析学をやり始めました。確率論を取り入れて、バラバラな構造のなかでの幾何学を考えるんです。 研究する時間がなくなるってどういうこと? ――その成果で、優れた女性研究者に贈られる「猿橋賞」を2005年に受賞されたんですね。受賞理由は「離散幾何解析学による結晶格子の研究」となっています。  はい。受賞すると、中高生向けや一般向けの講演などアウトリーチ活動をいっぱいやりなさいと勧められました。それが務めかなと思って引き受けていたら、毎週末、どこかで講演するような生活になった。当時は、いい研究ができて賞をもらったら、研究する時間がなくなるってどういうこと?ってすごく思っていました。  でも、大学全体の委員会のような場に呼ばれるようになったのは、この賞をもらったから。そういう意味では、猿橋賞がなければ今のような仕事はしていないと思います。私は研究以外の仕事は「自分には向いていない」と感じつつやってきたので、それが幸せだったかどうかはちょっとわからないですけど。  最初は、若い人を集めて研究企画のアイデアを練る学内委員会に、理学研究科から推薦されて入った。委員会をつくったのは、東北大の研究担当理事です。私が推薦された一番大きな理由は猿橋賞かなと思うんです。そのときは大したことはしませんでしたが、総長が代わって総長室のなかに若手の教授たちを集めて、研究とか教育とかを企画する5つのグループをつくったんですね。その研究グループのリーダーになった。47歳ぐらいのときでした。 黒板の前で。「おそらく、猿橋賞をいただいたころ」の写真=小谷元子さん提供  グループリーダーを務め、いろんなことを勉強させてもらった。研究に関わるいろんな情報を把握し、国の科学技術政策とかも大学から情報を与えてもらって勉強した。企画運営の勉強もしました。この経験がなければ、たぶん内閣府の総合科学技術会議(現・総合科学技術・イノベーション会議)の議員にもならなかったと思うし、その後のいろんな仕事もしていなかったと思う。 ――総合科学技術・イノベーション会議は、総理大臣が議長を務めて科学技術政策を決定する、日本の司令塔ですね。その議員も重要なお仕事ですが、文部科学省が2007年から始めた「世界トップレベル研究拠点プログラム(WPI)」で最初に採択された5拠点の一つ、東北大の原子分子材料科学高等研究機構(AIMR)の代表を務められていたことを、かねがねすごいなあと思っていました。  私が代表をしたのは、拠点ができた5年後からです。それ以前に、私ぐらいの年代の数学者はみんな知っている「忘れられた科学-数学」っていう報告書が文科省科学技術政策研究所(ナイステップ、現・科学技術・学術政策研究所)から出たんです。 ――あ~、出ましたね。ナイステップが日本の数学研究のあり方にある種の危機感をもって2005年にワークショップを開き、翌年、それまで進めてきた調査研究を取りまとめて報告書を公表した。そこで語られていたのは「行政が数学を忘れていた」という反省です。  そう、それで科学技術振興機構(JST)が数学も支援するということになったので、「これは応募しないとね」と思った。募集されていたのは「数学と諸分野の協働によるブレークスルーの探索」という領域で、「諸分野」という要素が必要なんだけど、東北大は材料科学が強いから。 ――そうですね。本多光太郎先生以来の伝統がある。  これは学内委員会の委員をやっていたことのメリットの一つだと思うんですけど、会議でいろんな人に会うと、「どんな研究をしているんですか」とかいう雑談もする。すると、「数学をこんなふうに使えないか」と相談されて、結構ほかの分野から数学への期待があるんだなって肌で感じていたんです。  歴史的に初めてJSTが数学を支援してくれることになったので、応募しよう、応募するなら材料科学との協働だよねということで、東北大の材料系の先生たちと一緒にCREST(クレスト)というチーム型の研究プログラムに「離散幾何学から提案する新物質創成と物性発現の解明」というタイトルで応募しました。採択されたのが2008年で、数学領域での最初の採択です。2013年度までの5年間、すごく楽しく生産的に研究ができた。私は理論グループの代表であると同時に、実験グループも含めた全体の代表を務めました。 世界科学フォーラムで一緒にパネル討論に参加した国際学術会議会長のピーター・グラックマン博士(右)、南アフリカのナレディ・パンドール国際関係・協力大臣(中央)との記念写真=2022年12月、南アフリカ・ケープタウン、外務省提供 科学の共通言語としての数学  一方、東北大のWPI-AIMRは2007年に採択され、そのとき私は全然関わっていなかったんです。あくまで材料科学の拠点でした。ところが、東北大の先生が質の高い研究をするのは当たり前で、今までにない新しい材料科学とは何か、どのようにして生み出すのか、大学本部でもいろいろ知恵を絞って、数学を入れるといいんじゃないかという話になってきた。  材料科学って実はいろんな分野の人が集まっているんですね。金属系や物理系の人もいれば化学系もバイオ系もいて、そういう人たちが分野を超えて相互理解することは予想以上に大変だった。これは異分野融合研究に共通する課題です。そこに数学が入ると、科学の共通言語だから意思疎通が進むのではないかということで、私が招かれた。おそらく、クレストに採択されていなければ声はかかっていないと思います。 ――なるほど。小谷さんが入ってから、狙い通りに研究が進んだんですか?  そうですね。割と高く評価されたとは思っています。時代もちょうどデータの時代で、データに基づいた材料探索というようなものがはやり出した。我々が方向性を示したのははやる前だったので、先見の明があったということになりました。 研究者みたいな生き方をしたい ――そもそも、小さいころから数学が好きだったのですか?  好きになったのは、中学生からですね。図書館で数学の本を読んでわからないことにぶつかると、数学の先生のところによく質問に行っていました。数学に限らず、本を読むのがすごく好きで。あのころは研究者ってどういう職業か知らなかったけど、研究者みたいな生き方をしたいと思っていましたね。一生本を読んで、調べものをして、考えていけたら幸せだなと。そういうのが職業になるっていうことをいつ知ったかというと、よくわからないですね。でも、研究者ってハードルが高い気もしていたから、なれるかどうかはわからなかった。 ――お生まれは? (兵庫県)宝塚市で生まれたんですけど、すぐに大阪府の枚方市に移りました。そこに10歳までいて、(神奈川県)鎌倉市に引っ越した。父は会社員で母は専業主婦でした。学年が2つ下の弟が1人います。  母はけっこう理系が得意で、お医者さんになりたかったらしいんです。けれど、祖父から女子が勉強するものじゃないと言われ、やらせてもらえなかった。なので、私には好きなことをやらせてあげたいと言ってくれた。私は数学とか理系が得意でしたけれど、だから医者になれとかは言われなかったし、女性が理系に進んじゃいけないなんてことももちろん言われなかった。  父も応援してくれました。2人とも、子どもを信頼してくれた。2人がケンカしているのを見たことがありません。穏やかにしているところしか見たことがない。 スイス・ジュネーブで開かれたGESDA(Geneva Science and Diplomacy Anticipator)サミットに参加したとき。左からアリソン・シュヴィア・米国務長官次席科学技術顧問、松本洋一郎・外務大臣科学技術顧問、パトリシア・グルーバー・米国務長官科学技術顧問、小谷元子・外務大臣次席科学技術顧問=2023年10月、外務省提供 ――それは素晴らしい。鎌倉で中学に入ったわけですね。  はい、横浜国立大学付属鎌倉中学校に入り、高校から東京学芸大学付属に行きました。 ――中高時代のクラブ活動は?  やらなかったですね。運動会とかは嫌いでした。みんなで何か一緒にやりましょうっていうのが苦手で。 ――大学では?  入っていないんじゃないかな。東大には進振り(進学振り分け)があるじゃないですか。 ――はい、3年生で進む学科を、1、2年生のときの成績順で決めていく制度ですね。  私は数学科に進むために東大に入ったので、進振りで落とされたら悔やんでも悔やみきれないと思って、結構勉強しました。それまでは英語とか全然やらなかったけれど、大学に入ったら語学も一生懸命やった。 基本的には仕事しかしていない ――それで希望通りに数学科に進学できたわけですね。取材をお願いしたとき、「私は良いロールモデルではない」っておっしゃいましたよね?  はい。家族もいなくて、趣味もそんなになく、基本的には仕事しかしていないんで。家族がいる人が幸せとかいう意味でもないんですが。  私の年代で、教授とかになっている人の多くが結婚していない、もしくはお子さんはいない方なので、やはり当時は両立するのは難しかったのだと思います。私自身は、子どもを育てながら業績を上げていく自信がなかったので、そこは二者択一しました。 ――結婚はされた。  はい、26歳のときに東大の駒場時代の同級生と。振り返ると、私のほうが勝手に「こうあるべき」像みたいなものをつくって、それがちゃんとできないことにストレスを感じていたんですね。すごく悩みましたし、相手の人には申し訳なかったという気持ちでいっぱいですが、育児は女性だけが負担するものではないし、時代も変わり、ワークライフバランス環境も変わってきました。今はいろんな選択肢がありますね。 ――このシリーズをやってつくづく思うのは、日本社会もここ50年ほどでずいぶん変わってきたということです。昔は女性が大学で職を得るのは本当に大変でした。小谷さんは博士号を取って、すぐ東邦大学の講師になったんですね?  そうです。 ――助教授になったのはいつですか?  1997年4月からです。 ――その前にドイツのマックスプランク研究所に行った。  はい、当時の所長は微分幾何の有名な学者で、ちょっと日本びいきでした。それで、日本人が結構行っていた。私が行ったのは1993年だから、ソビエト連邦が崩壊したあとで、旧ソ連から優秀な数学者がいっぱい世界に出ていって、学位を取ったばかりの人のポスト獲得競争が厳しくなって大変、という時期でした。それで欧州だけではなく米国など世界中からたくさん優秀な若い人が一時的にマックスプランクに来ていて、そういう人たちと仲良くなって楽しかった。日本人とアメリカ人はドイツ語ができないという共通点があり、自然とアメリカ人と仲良くなりました。  1年後に帰国して、その後離婚して、私の感覚では、離婚してすぐに東北大への就職が決まりました。 数学者の小谷元子さん(64) 「国際化」で貢献したい ――そこから着々と研究業績を上げ、一方で大学全体の研究運営や日本の科学技術政策づくりにも深くコミットするようになった。2022年には外務大臣の次席科学技術顧問に就任されたんですね。  ええ、科学技術外交は今まで以上にすごく重要になると思います。この職についてから、今まであまり行く機会がなかったアセアン諸国とかアフリカとかにも行くようになりました。  日本はこれまで「国際」っていうことが後回しだった気がするんです。まず日本で何かやります、そのあとに海外展開しますみたいなツーステップでなく、最初からグローバル市場で考えないとこれからは立ち行かないと思う。そのときに大事なのは、オーストラリアやニュージーランドも含めたアジアパシフィックでコミュニティーをつくっていくこと。いつまでも欧米が決めた研究のフロンティアに乗っかるか乗っからないかという勝負じゃなくて、日本がリードするアジアパシフィック圏からの研究発信が必要かなと思います。  顧問の仕事には明確なミッションがなく、これは海外の科学顧問に聞いても同じような状況で、皆さん、自分の専門性を生かしながら国にとって必要と思うアドバイスをしている。私は国際化というところで、何か貢献したいと思っています。  もちろん、数学の研究もやりたい。数学って、設定を考えるところが一番難しいんですよ。設定ができれば、あとはスルスルいく。設定を考えるには、何にも邪魔されずにそれに集中する時間が必要です。今でも、1カ月は難しくても1週間ぐらいなら誰にも会わずに研究することができている。それをやっている分には私は幸せです。 小谷元子(こたに・もとこ)/1960年兵庫県宝塚市生まれ、すぐ大阪府枚方市へ。10歳で神奈川県鎌倉市に転居。1983年東京大学理学部数学科卒、東京都立大学大学院に進み1990年に理学博士号取得、東邦大学理学部講師。1993~1994年ドイツ・マックスプランク研究所客員研究員、1999年東邦大助教授から東北大学大学院理学研究科数学専攻助教授に。2004年同教授。2005年猿橋賞受賞。2014年3月~内閣府総合科学技術会議(同年5月に総合科学技術・イノベーション会議に改称)議員(2022年まで)、2017~2020年理化学研究所理事、2020年~東北大理事・副学長、2022年~外務大臣次席科学技術顧問。
IT企業の年商100億円を捨てた「出家CEO」にあえて聞いた 「ネットメディアのPV競争をどう思いますか?」
IT企業の年商100億円を捨てた「出家CEO」にあえて聞いた 「ネットメディアのPV競争をどう思いますか?」 得度のためにインドで髪を剃る小野さん    IT起業家・投資家として活躍していた小野裕史さんは、2022年秋、48歳の時、手にした地位と財産とモノを捨て去った。そしてインドで得度して仏門をくぐり、小野龍光と名乗る「何も持たない」身になった。SNSのフォロワーが何人だとか動画の再生回数がいくらだとか、目先の数字を追い求めがちなご時世。われわれネットメディアもまったく例外ではない。数字や成功を追い求めていた過去を「前世」と表現する小野さんの目には、われわれメディアや、数字に“取りつかれた”人々はどんな風に映っているのか。 *  *  *  東大大学院を修了後にIT業界に飛び込んだ小野さん。地域の情報サイト「ジモティー」や「グルーポン」の立ち上げに関わるなど起業家、投資家として活躍し、出家前は年商100億円の企業のCEOだった。  はた目には成功者だった小野さんだが、2008年に投資会社を立ち上げて以降、徐々に「自分の内なるものと、外にあるものへの違和感」が膨らんでいったという。  ビジネスパーソンとして成功したい、称賛されたいという欲にかられていた小野さん。それゆえ、企業に投資し、株式の時価総額が上がった時は、脳が快楽物質のドーパミンで満たされるような高揚感に包まれた。  一方で、時価総額という数字を追い求める作業には、永遠にゴールがない。どうなれば成功したと言えるのか、その答えもない。そのことが分かっている自分、こんなゲームに意味はないと分かっている自分がいながら、ドーパミンの快楽を求めるかのように数字を追ってしまっていた。 【こちらも話題】 中卒でソニー会長に「働きたい」と言ったら…意外な返事 https://dot.asahi.com/articles/-/120092 ビジネスの世界で活躍していたころの小野さん   「モラルなき膨張」への疑問  世の中全体への欺瞞にも、目が向くようになった。経済成長は「是」とされるが、実態は売り上げや時価総額の数字を、ただ膨らませようとしているだけになってはいないか。企業によっては、成長一辺倒で数字を追うあまりに、環境破壊をもたらしたり、売れ残りにより大量のゴミを生み出していたりする。そんな「モラルなき膨張」への疑問もわいた。  とはいえ、自分は投資家としてその流れに潤滑油を注入し、ひとりの消費者としても「あれが欲しい、これが欲しい」と、それを後押ししている現実――。こうした違和感は苦しみへと変わり、仏門をくぐることを決意するまで、どんどん大きくなっていったという。   2022年の秋に、インドで得度。「前世」では数字を追いかけたが、今は「何も持たない身」になった小野さんに、質問を投げかけてみた。 ――われわれネットメディアは、価値のあるニュースや話題を提供したいと考える一方で、日々、記事の閲覧数である「PV(ページビュー)」の数字に追われています。 小野 資本主義社会で、数字を完全に排除するのは難しいと思いますし、目先の数字を追うことが「悪しきこと」だとは言い切れません。  数字を伸ばす、会社を成長させる、家族のためにいい給料を得る。決してよこしまな感情ではなく、ある種、純粋なことだと思います。  ですが、数字以外の価値観があまりに置き去りにされているがゆえに、数字偏重主義に陥ってしまっている側面はあると思います。 得度する前の小野さん   数字こそが正義という価値観 ――ひとりの読者としても、タイトルにつられてクリックしたものの中身が伴っていない記事や、広告のような、ステルスマーケティングではないかと疑ってしまう記事を目にしてがっかりすることがあります。 小野 いわゆる「釣り記事(タイトルを派手に盛るなどしてクリック数を稼ごうとする記事)」のことですよね。ビジネスマン時代に広告業界とも縁がありましたが、例えば健康への効果をうたう商品などで、法的にぎりぎりのものも少なくありません。   モラルなき数字への欲。数字こそが正義だという価値観は、いろいろなところに課題をもたらしていると感じています。民間企業の不祥事も、昨年発覚したものもそうでしたが、数字のプレッシャーの中で起きているのでしょうから。 ――数字を捨てた小野さんの目に、われわれメディアの現状はどう映りますか。 小野 良し悪しではなく、それもひとつの役割なのだと思います。それこそメディアやニュースで数字を取るものって、生きていくうえでそんなに必要がないものばかりですよね。政治家や有名人のスキャンダルがまさにそうですが。  他人の失敗や良からぬうわさ話で安心感を得たがるのは、自分はまっとうでいたいという人間の性(さが)なのだと思います。みんなが日常のそうした快楽を求めている中で、それに応える話題を提供していくことは「悪」だとは思いません。  ただ、世の中全体の話としてですが、モラルを考えずに「数字、数字」という感覚に陥っていくと、決していい未来にはつながらないのではないかと危惧しています。 小野龍光さん   数字を追いかけ続ける「苦しみ」 ――小野さんご自身も、数字を追いかけ続けることが「苦しみ」になっていった過去があります。 小野 数字を追いかけている人は、「数字に駆動されている」状態なのですが、その実態すら見えていないのだと思います。  数字以外の部分で、何に喜びを持ち、何に価値を見いだし、信じることができるか。その点を自分自身で磨く必要があるのだと考えています。そうでないと、数字に翻弄(ほんろう)されやすくなり、結果、苦しみにつながってしまうのではないでしょうか。 ――動画の再生回数やSNSのフォロワー数、「いいね」の数など、なぜ人は必ずしも必要ではない数字を追い求めてしまうのでしょうか。 小野 数字は「分かりやすい」からでしょうね。  例えば、自分の使命を果たしたいだとか、人の役に立ちたいと考えたとします。でも、使命って雲のようにふわっとした形なきものですし、いったい何がどうなったら「役に立った」と言えるのかも答えがありません。  何か足りないなという、もやもやした思いが自分の中にある人は、わかりやすい数字を求めてしまうのでしょう。 ――それは、数字で自分を飾るということですか。 小野 自分への内なる信念や自信が築き上げられていないと、自分の外にある何かで自分を飾りたくなるのかもしれません。  どんな肩書を得たかや、フォロワー数が何十万人に増えましたなどと、気づけば、おでこに「付箋」をたくさん貼っている状態になってしまいます。 「内面や中身はどう変わったんですか」という点を言葉で表現したり、その問いに答えたりすることはとても難しいから、おでこの付箋によって安心感を得たがるのではないでしょうか。 【こちらも話題】 転職8回の末に無職 43歳男性を“どん底”から救ったのは「草むしり」だった https://dot.asahi.com/articles/-/95339 インドで髪を剃る小野さん   「今あるもの」に目を向ける ――付箋ですか。例えば大きな財産や名声など、一般人がうらやむ付箋を貼れる立場の人も、内面にもやもやを抱えていることがあるのですか。 小野 私が直接お話をさせていただいた方で、数千億円の資産を持っていても「死にたい」と言っていた人がいます。  人気芸能人などの自殺も同じ仕組みなのかもしれませんが、一般的な生活をしている人から見て、あこがれの対象になるほどの財産や人気を獲得した方ほど、逆にそれを「失う」ことの恐怖心や、「もっと膨らませないといけない」という強迫観念にとらわれるのだと思います。 「これ以上、どう稼げというのか」「これ以上の人気なんてあるのか、あとは落ちていくだけじゃないのか」と。持っているが故の苦しみが、あるのだと思っています。 ――小野さんは、その持っていたものを捨て去って出家されましたが、「前世」にはなかった何かを得たのですか。 小野 とても穏やかな心を手に入れることができました。よかったなあって思っていますよ。あえて強い言葉で言いますと、「こんなもの」に翻弄されながら「自分で自分の人生を作っている」という錯覚に浸ってしまっていたんだなあって。  でも、数字を追い求めた時代が、むだだったとは思いません。苦しんだからこそ、気づくことができたのですから。 ――その「気づき」とは? 小野 すべてをなくしてみると、「今あるもの」に目を向けることができるようになるんです。がらりと世界観が変わりましたよね。  例えば自分は明日、寒い東京へ袈裟と素足という姿で行きます(※取材当時は修業で海外に滞在)。  まずは空港のベンチで寝て夜を明かして、その他の日は野宿をするかもしれません。一日の食事も、ナッツバーを食べる程度です。 完全に頭を丸めた小野さん   「足りていない状態」が当たり前に  この状態を「足りない」という視点で考えると「寒い」「腹減った」「不自由だなあ」という風に感じてしまうのでしょう。  でも、自分は「足りていない状態」が当たり前ですので、野宿だって、今日はどこで寝ようかな、なんて楽しく思えますし、要は人間って、なくてもなんとでもできるんですよ。  講演などの機会をいただき、うかがった先でお茶や食事をいただくことがありますが、すごくおいしく感じるんです。宿泊先をご用意していただいた時も同じです。  もちろん、私からそれを期待したり、求めているということでは決してありません。 「ありがたい」は「有ることが難しい」と書きます。自分は足りていないのが当たり前ですから、食事をいただくことが「有ることが難しい」という意味でのありがたさに変わるのです。  ただ、日常で同じような経験をしている人はいるはずで、例えば山登りをして、山頂で食べるカップラーメンはとてもおいしく感じると言いますよね。キャンプも同じかもしれません。 「足りないのが当たり前」の環境だからこそ、得ることのできる喜びなのだと思います。 ――それが「今あるものに目を向ける」ということですね。 小野 成長というものが価値の根源として世の中にあるとするなら、そこで生きる人々は常に「足りない」という状況に置かれます。常にプラスアルファ、いや、それ以上のものを求めなければいけないのですから。 「自分はイケてない」「あの人に比べて~」など、足りていないという感覚はきりがなく、苦しみに変わります。  今あるものに目を向けると、感謝の思いがわき、満たされた気持ちが自分の中に生まれるのです。 得度して袈裟を着る小野さん   数字に翻弄されないためには? ――今の小野さん自身は、「成長」をどうとらえているのですか。 小野 人として成長を求めることをやめたのかというと、実はまったくそうではないと思っています。  財産とか立場を膨らませるという外向きの成長は求めていませんが、人間としてどういう生き方をしていくかという、「内なる成長」は常に求めています。 ――数字を追い続ける人たちに伝えたいことはありますか。  小野 自分ごときが、えらそうに物を申すことはできません。  ただ、数字偏重の世の中で、なにか違和感や苦しみを感じている人がおられたら、一つのヒントとして、数字以外に、何か自分が大切にできる価値観を持てるようになると良いのではないかと思います。  数字だけを頼っているときは、自分の人生をコントロールできているようで、実は数字に自分の人生をコントロールされてしまっている状態です。だからこそ、自分の内なる価値観や信念を磨いていくことで、数字に翻弄されにくくなるかもしれません。  前世で数字を追い求めていた自分自身が、その後に得た「気づき」として、お話しさせていただきました。 (AERA dot.編集部・國府田英之)
【月7万円生活】YouTuberが伝授する持ち物整理 断捨離より先に着手すべき“増やさない”習慣とは
【月7万円生活】YouTuberが伝授する持ち物整理 断捨離より先に着手すべき“増やさない”習慣とは 大きく変化させる前にじっくり考えよう(※写真はイメージです Getty Images)   「衣食住と持ち物をととのえる」と聞くと、持ち物を減らしたくなる人が多いようだ。しかし、月の生活費7万円以下の小さな暮らしを実践するYouTuberかぜのたみ氏がすすめるのは、「減らす」よりも「増やさない」こと。そのためには、手元にあるもので過ごす習慣づけが大切だという。著書『低コスト生活 がんばって働いている訳じゃないのに、なぜか余裕ある人がやっていること。』から、衣食住にまつわる持ち物との付き合い方について、一部抜粋・再編集して紹介する。 *  *  * 【かぜのたみさんの記事を読む】 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」    私が思うにですが、無駄な持ち物がないようにするには順番があります。  上手くいく「持ち物のととのえ方」は、ざっくりとこんな順番だと思います。  STEP1 新しく取り入れることをやめる  STEP2 明らかに使っていないものを手放す  STEP3 使っているものを少しずつ整理する  まず「新しいものをすぐ取り入れない」と決めることが一番重要で、「捨てるぞ!」と腕まくりするのは、その次のステップです。  すぐに取り入れてしまうから、お金が減り、ものが増え、片付けに追われ、そして、懐が寂しくなるのです。  必要だと思って買ったものも、なぜか一瞬で不用品になることがありませんか?  おそらく大体の方は「必要なものが買えない」よりも、「そこまで必要ないのに買ってしまうトラップ」に陥っているのではないでしょうか。 「すぐに買わない」トレーニング  ますます買い物がより簡単に、さらに便利になっていく世の中。  手元にお金がなくても、クレジットカードや後払いを利用すれば、支払いを先に延ばすことができます。  注文したらほぼ即日で自宅まで届き、不在でも宅配ボックスに配達してもらえるなど、受け取りに困ることもありません。  寝ぼけていても買えそうなこの購入ハードルの低さ。なんと恐ろしいことでしょう。  ネット上だけでなくリアル店舗でも、自宅配送やポイントがつくサービス、クーポン配布や試供品のプレゼントなど、購買意欲をかき立てるサービスが目白押しです。  便利なサービスと楽しく上手に付き合えればいいですが、「すぐに買う」習慣があると、不要なものが生活に入ってくる可能性もそれだけ高くなります。  瀬戸際でブロックするために必要なのが「あるもので過ごす」習慣です。  車に例えると、「踏切の前は一旦停止」のルールです。踏切を「レジ」や「支払い」と捉えてみると、わかりやすいかもしれません。  いきなり「買わない!」と0か100かで決めるのではなく、まずは週に1回でも「すぐに買わない」が実行できたら上出来だと思って、少しずつトライするのがコツです。 「すぐに買う」習慣から、「あるもので過ごす」習慣に徐々にシフトしていくと、支出額が減るだけでなく、余計な行動で時間を浪費することもなくなります。  時間と心のゆとりも生まれて、勉強や趣味など、自分がしたいことに集中して取り組むことができるようにもなるのです。 「大きな変化」はコスパが悪い  いわゆる「散財」や「浪費」でものが増えるとき、一体何が起こっているのか疑問に思い、支出記録を元に行動を振り返ったことがあります。  元をたどればほとんどは、超つまらない「現状の不満」を解消するためでした。  ものすごく必要というよりも、「なんとなく雰囲気を変えたくて、新しい服を買う」というような、何だか不満で何とかしたいのよね〜という、かなり漠然とした理由でお金を使っていたのです。  そして、より大きな変化を求めてさらにお金を使いたくなるようです。  お金をかけた分だけ、大きなリターンを得られる気がするからでしょう。  本当は、ほんの少し置き場所を変えてみたり、使い方をひと工夫して、あるもので過ごせば十分なはずです。  でもすぐに買うことが習慣づいていると、「現状を変えるにはお金が必要」と思い込んで、ものを増やしてしまうのです。  例えば、いまの部屋がなんとなく気に入らなくて、「模様替えしたい!」と思い立ったとき。  私ならまず、入念に掃除してみたり、ものの配置を少し変えてみます。この場合、かかるお金は0円です。  ですが、すぐにお金を使って変化を起こそうとすると、いまあるものの処分費用、新しく必要になるものの購入費用などが必要になってきて、どこから手をつけたらいいのかさえわからなくなってしまうことでしょう。  お金をかければかけるほど不満や不安を解消できると思いきや、実はそうでもないのです。  パッと見てわかりやすい変化ほど、その瞬間は気分が変わっても、なかなか長続きせず、また何か欲しくなり……負のループに突入します。 「大きな変化ほど、お金がかかる」と日頃から意識してみるといいかもしれません。 変身願望は考え方を見直すきっかけ 「変えたい!」と強く願ったときほど、最も冷静になるべきとき――私はそう思います。  では普段の生活で「変えたい!」と思うときは、一体どんなときでしょうか。  私の経験を振り返れば、「今の生活が嫌になったとき」「仕事や人間関係が上手くいかないとき」だった気がします。  山と谷であれば、確実に谷で、谷底に落ちた感覚が強いときほど、自分から湧き起こってくる「変えたい!」という思いも切実さも増していきます。  ですが、この「変えたい!」という気持ちは、取り扱いが結構厄介です。  一見、変化が大きいほど喜びも大きいように思えますが、実際には「どれだけ変わったか」ということよりも、「本当の望み」がきちんと実現されていなければ、満足できないと思うのです。  手持ちの服を全部処分して、ゼロから買い揃えたところで、表面的な変化は起こせても、本当の望みは見えてきません。  ここで「あるもので過ごそう」と冷静になる時間を設けることができれば、「そうだった……自分は本当は服が欲しいのではなくて、ちょっと凹んだ気持ちを立て直したいだけなんだった」などの、本心に気づくことができます。  そうしたら、手持ちの服を丁寧に洗濯してみたり、服の組み合わせを少し変えるだけで、気持ちが収まるかもしれません。  いまあるもので過ごすためには、実は「現状に満足する」ことが必須です。 「変えたい!」が湧き起こったときは、自分の考え方や固定観念を見直すいいきっかけだと思って、まずはあるもので過ごしながら、じわじわと現状と向き合うこと。  私も日々気をつけながら過ごすようにしています。 【かぜのたみさんの記事を読む】 #1 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの「お金の存在感が“薄い”住まい選び」 #2 【月7万円】で暮らす人気YouTuberの浪費を止める「0円アイデア」3選 #3 【生活費月7万円】のYouTuberの本当に「先取り」すべき費用 #4 【生活費月7万円YouTuberに聞く】「本当に使える服」を選ぶ3カ条 #5 【月7万円生活】YouTuberかぜのたみさんのリアル生活費を大公開 #6 【月7万円生活】達成者が伝授する「1か月のお金の使い方」徹底解説 #7 【月7万円で暮らす】投資は究極の節約! かぜのたみ流「投資先選び」
〈きょう放送クイズ!丸をつけるだけ〉平安貴族は3時起床で7時出勤 日記で愚痴るほど過酷だった働き方
〈きょう放送クイズ!丸をつけるだけ〉平安貴族は3時起床で7時出勤 日記で愚痴るほど過酷だった働き方  29日に放送される、丸をつけるだけで “誰でも解答できる” 新感覚クイズ番組「クイズ!丸をつけるだけ」(NHK総合・午後7時57分)は、平安時代の魅惑の食文化から出題される。「枕草子」に登場する平安の高級スイーツは、さてなんでしょう!? 番組の今回のテーマ「平安時代」の生活様式は興味深い(「AERA dot.」2024年1月8日配信の記事を再編集したものです。本文中の年齢等は配信当時)。 *  *  *  2024年の大河ドラマは、吉高由里子演じる紫式部が主人公の「光る君へ」。紫式部と藤原道長の関係を軸に、1000年の時を超えて読み継がれるベストセラーとなった『源氏物語』はいかにして生み出されたのかを描く。1月7日の初回放送を前に、紫式部が身を置いた平安貴族の世界の実際を、『出来事と文化が同時にわかる 平安時代』(監修 伊藤賀一/編集 かみゆ歴史編集部)で予習しておきたい。今回は、働き方について。    平安時代の文学に描かれる貴族の生活は、非常に優雅でのんびりとしているように見える。だが、実際は優雅なだけではなかったようだ。  朝は、日の出前に打ち鳴らされる太鼓の音で目覚めた。起きてすぐお祈りや占いなど行い、日記を書いた。この日記は宮中や家の儀式のやり方などを細かく記載した備忘録のようなものだ。軽く朝食をとることもあったようだ。  そして出仕(出勤)の合図を告げる太鼓が鳴らされると、貴族たちは続々と天皇がいる内裏に向かった。夏至の時期では午前3時、冬でも午前5時には活動を開始する、という朝型の生活だった。  午前7時ごろからは仕事の時間。内裏では、名前、官職の書かれた「日給簡(にっきゅうのふだ)」に日付を書いた紙を貼り付けると仕事が始まり、主に書類の確認や儀式などの業務をこなした。紙は天皇の秘書にあたる蔵人がまとめて天皇に奏上し、評価の基準となった。  上級貴族は午前中のうちに仕事が終わることも多かったが、大変なのは中級や下級の貴族である。会議、書類の決裁、掃除、天皇の食事の給仕といったことに加え、天皇が音楽や歌などを求めればすぐさま参上して楽器を演奏する、という接待奉仕を行うこともあった。  何より一番大切な仕事は、年中行事を滞りなく済ませることだ。過去の事例を確認しながら準備や支度に相当の時間を費やしたという。  仕事が終わると邸宅に戻り、午前10時ごろ、ようやくきちんとした朝食をとった。その後は自由時間。友人同士で碁やすごろくをたしなんだり、女性への和歌の返事を考えたりと、文化的な遊びで時間をつぶした。 【こちらも話題】 好みは草食系より肉食系 「男女の仲」を知っている必要があった平安時代の「女房」たち https://dot.asahi.com/articles/-/212407  ただ、朝の仕事が終わった後も深夜まで居残って内裏を警護したり、事務仕事をこなす宿直も貴族の職務の一つ。蔵人や四位、五位の中・下級貴族たちは、この宿直の仕事が多く、なかには月に20日以上宿直をこなす貴族もいて、「宿直役は大変だ」と書かれた愚痴のような日記も残っている。  夕方に食事をとると、宿直役は再び内裏に出仕するが、何もなければ自由時間。とはいえ、仕事関係の宴会や歌会に呼ばれることもあり、家でゆっくり、というわけにはいかなかったようだ。  当時は男性が女性の家に向かう通い婚だったため、夜は、妻やアプローチしている最中の女性のもとに通う大切な時間でもあった。『源氏物語』で光源氏が女性たちのもとに足繁く通うのもこの時間である。  平安時代の人々は、夜は早く休むため、一日の活動時間は今より短く、貴族たちも忙しかった、休日は6日に1日だったという。 (構成 生活・文化編集部 上原千穂 永井優希/イラスト 夏江まみ/図版 ウエイド)
〈受験シーズン〉東大生の親の年収「1千万円以上」が40%超 世帯収入が高い家庭出身の学生が多い理由
〈受験シーズン〉東大生の親の年収「1千万円以上」が40%超 世帯収入が高い家庭出身の学生が多い理由 AERA 2023年3月6日号より  大学受験が本格的なシーズンに突入した。過去に話題となった記事を再配信する。(この記事は、2023年2月28日に配信した内容の再配信です。肩書、情報等は当時)  *  *  *  最難関とされる東京大学には、世帯年収が高い家庭出身の学生が多いと言われる。なぜそうなるのか。AERA 2023年3月6日号の記事を紹介する。  東京大学卒業生の李炯植(りひょんしぎ)さん(32)は、大学の入学式の光景をよく覚えている。  通っていた兵庫県の高校から東大に現役合格したのは、自分が初めて。知り合いは一人もいなかった。一方で、「よう!」と親しげにあいさつし合う人たちがいた。東大に何十人も入る難関校卒業の学生たちだった。  彼らは雰囲気も違った。いい服を着ていたり、親のクレジットカードで買い物をしたり。 「東大には家庭環境が厳しい人もいましたが、圧倒的大多数は親御さんが大企業で働いて世帯年収が高い家庭の人でした」  李さんはそう振り返る。小学生の頃から習い事をして、私立中高に通いながら複数の塾に行っていた学生が多かったという。 「彼らはスタートラインの時点で、かなり優遇されていたと思います」  問題意識を持った李さんはNPO法人「Learning for All」(ラーニング・フォー・オール)の代表理事として、無償の学習支援など子どもの貧困問題に取り組んでいる。同法人は東京都や埼玉、茨城、兵庫県で学習拠点や居場所、子ども食堂を運営する。 上位20校中15校が私立  裕福な家庭で育てば、東大進学に有利なのだろうか。  東大合格者数の高校ランキング(2022年)上位20校を見ると、15校が私立で全て中高一貫校だ。東大学生委員会が21年3月に実施した学生生活実態調査によると、「東大生を支える世帯年収」が1050万円以上と答えた学生は42.5%に上る(学部生全員が対象の調査。回答者は東大生の12.6%にあたる約1700人。そのうち「わからない」と回答した学生を除く)。データからも、東大には経済的に恵まれた家庭出身の学生が多いことがわかる。 『教育格差』(ちくま新書)を著した教育社会学者の龍谷大学・松岡亮二准教授は言う。 「教育格差とは、どのような家庭や地域に生まれたかという初期条件によって教育の結果である学力や最終学歴に差がある傾向を指します」  例えば、親の年収や学歴が低いなど社会経済的に恵まれない家庭の子どもは、大学進学率が低い高校に進む傾向があることがわかっている。 AERA 2023年3月6日号より  ただ、大学進学者に限定したうえで東大に進む人の家庭の層を明確につかむのは難しいという。 「東大に行く人と行かない人の違いは、高校より手前の小中学校で既にあると考えられます。そこには家庭の社会経済的地位による格差、それと大きく重なる出身地域の格差、それに性別による格差があります」(松岡さん)  付属の小中学校から内部進学できる有名私大に比べ、東大は受験しなければ入れない。しかも、国立なので私立に比べれば授業料の負担は軽い。そういった意味で、東大の門戸は広いと言える。 年収800万円は必要  だが、東大受験の準備ができるかどうかという問題は残る。同級生が東大に進学しない高校では、そもそも東大を目指そうと思わないかもしれない。公立校でも東大合格に力を入れる学校であれば、東大を目指したいと思うようになるかもしれない。  さらに多くの東大合格者を出す私立中高一貫校ならどうだろうか。中学受験カウンセラーの石田達人さんは言う。 「先取り学習をして高校の内容を高2で終え、高3の1年間を受験勉強にあてます。東大受験に中高一貫校は有利でしょう」  ただ、学費の負担が大きい。 「中学受験して進学させられるのは、特定の家庭の子どもだけだと思います」(石田さん)  石田さんの推計では、首都圏の大手学習塾にかかる小学6年生の年間費用は、90万~120万円。塾に通う児童が増える小学4年から3年間の費用は、夏季講習代などを含めて計250万円とみられる。  ちなみに、小学校から大学まで公立なら教育費は約1千万円。一方、中学校から大学まで私立なら約1700万円、小学校から大学まで私立なら約2520万円かかるという。石田さんはこう指摘する。 「年収が800万円ないと、子ども1人を中高一貫校に送り出すのも難しいでしょう」  実際、文部科学省の調査によると、私立中学に通う生徒の世帯年収は800万円以上が74%を占める。 第3次中学受験ブーム  しかも、石田さんによると、塾通いは低年齢化しているという。つまり、教育にかかる費用がさらに増えるということだ。 「ある塾では、小学1年から入る児童数が前年同期比の1.8倍です。今、第3次中学受験ブームが起きています」  今春の首都圏の中学入試の受験者数は6万6500人で、過去最多となった。(編集部・井上有紀子) ※AERA 2023年3月6日号より抜粋
「限界ニュータウン」がある地域の共通点とは 地価が安く、規制もゆるい自治体で進められた住宅開発
「限界ニュータウン」がある地域の共通点とは 地価が安く、規制もゆるい自治体で進められた住宅開発 限界分譲地 撮影・著者    近年、メディアで「限界ニュータウン」という表現を見かける機会が多くなってきた。その言葉に明確な定義はないが、今後ますます人口が減少していく中、全国各地の「ニュータウン」が大きな曲がり角に差し掛かっている。さらに市街地から遠く離れた超郊外の分譲地を主に「限界分譲地」と呼称し、千葉県北東部に散在する旧分譲地の探索ブログやYouTubeチャンネルを運営している吉川祐介氏は、昭和の時代に投機目的で開発されたそれらの土地にまつわる諸問題を解説する。同氏の新著『限界分譲地 繰り返される野放図な商法と開発秘話』(朝日新聞出版)から一部を抜粋、再編集して紹介する。 *  *  * 限界ニュータウンはどういうもので、どこにあるか  僕が定義している「限界ニュータウン」「限界分譲地」とは、僅かにしか家屋が建てられておらず、今なお多数の区画が更地のまま残されているような住宅分譲地のことである。  しかし、「限界ニュータウン」と一言で言っても、これは都市問題の用語として正式に採用されているものではないため、その定義にはどうしても個人の主観が混じってしまうのだが、僕が定義している「限界ニュータウン」「限界分譲地」の多くは、いわゆる「郊外エリア」のさらに外縁部、都市近郊型の農業地帯の中に虫食い状に点在している。  限界ニュータウンの語源となった「限界集落」は、基本的には都市部から遠く離れた山村の小集落であることが多いため、限界ニュータウンも同様の立地のものと思われてしまうことがある(実際、山間部に開発された住宅地を指していることも多い)。「限界」という語句と、物理的な距離やアクセスの難易度がイメージとして結びつきやすいのだと思う。  しかし、僕が取材のフィールドにしている千葉県北東部においては、「限界ニュータウン」といえど、立地はあくまで都市近郊型の農村地帯である。基幹産業である農業や、その産業を担う既存の農村集落までもが、将来的な課題はあるとはいえ、現時点で直ちに持続不能になるほど著しく衰退しているという印象はない。  また、市街地でも、旧市街地の空洞化という課題を内包しながらも、今も通常の経済活動が展開されている。そうした小都市のすぐ外側に「限界ニュータウン」「限界分譲地」は存在する。  この、都市部から極端に遠いわけでもなければ、かといって利便性を享受できるほど近くもないという絶妙に中途半端な立地こそが、限界ニュータウンをめぐる諸問題を引き起こす要因の一つであると考えている。  従前、「限界集落」の代表格であった過疎地・へき地集落の中には、産業構造や住民の就業形態、災害、あるいはダム建設などの公共事業など、諸々の環境の変化によって住民が離れ、消滅したところが少なくない。  一方で、限界ニュータウンの場合は、自力移動が困難なほど体力の衰えた高齢者でもない限り、日常生活に著しく支障が出るほど悪条件の立地でもないために、利便性が悪い代わりに地価が安い住宅地として、地域社会に今も組み込まれているという実態がある。  別荘地として開発された分譲地は、山村集落と変わらない立地条件のところも数多くあるが、少なくとも僕が踏査しているような千葉県の「限界ニュータウン」「限界分譲地」は、都市部から遠く離れたへき地というよりは、都市の郊外の、そのまたさらに外縁部、郊外と農村部の境界付近に散在している。  千葉県は農村部も含め県内全域において都市部と同様の不動産市場が形成されており、物件の供給も続いている。よほど朽ち果てた物件でもない限り、中古住宅の処分に困るようなエリアはまず存在しないと言っていい。その市場において、数多くの分譲地の更地の荒廃や所有権の散逸が続いている。  つまり、見方を変えれば、かつての炭鉱町や開拓集落のようなへき地ではなく、今や都市の外縁部でも居住環境の衰退・荒廃が顕著になりつつあるともいえる。 問題は立地より開発経緯 「限界ニュータウン」「限界分譲地」と化してしまったかつての分譲地は、山村にあるか農村にあるか、それとも都市の近郊かというような立地の問題というよりは、むしろその開発用地として選定された自治体、あるいは地域が、その当時にどのような開発規制が掛けられていたかに左右される面が大きい。  宅地開発を行う上での主要な規制法である都市計画法の制定は1968年で、これはちょうど本格的な開発ブームが巻き起こるタイミングと同時期になるが、この「都市計画法」に定められた規制が適用されるのは、原則として「都市計画区域」として指定されている自治体・地域を想定している。  ところが現在の「限界ニュータウン」「限界分譲地」は、その当時、都市計画区域に指定されていないエリアが大半であった(都市計画区域外)。都市計画区域に含まれていたとしても、非線引き自治体(「市街化区域」と「市街化調整区域」の区分けが行われていない自治体のこと)で、都市部と比較して開発にかかわる規制が緩い。  都市計画区域に含まれていないということは、元々あまり大規模な開発の予定もないのだから当然地価は安い。開発行為にかかわる規制も緩いので、許可が不要な範囲で開発できる面積も広くなる。僕は「限界ニュータウン」を抱えるいくつかの自治体の担当部署で、当時の開発許可の記録が残されているか尋ねてみたが、都市計画区域外における開発分譲地で、開発許可申請が出されていたところは全体のごく一部であった。開発許可申請を行う必要がないのだから、わざわざ余計な手間をかける業者はいない。  地価の安い都市計画区域外で、開発許可が不要な範囲の小規模開発によって宅地分譲を繰り返すという、およそ町の将来を丁寧に見据えているとは言い難い安易なビジネスモデルが、千葉県で言えば、主に成田国際空港周辺や、JR総武本線やJR外房線沿線の自治体で横行していた。具体的には八街町(現・八街市)、山武町(現・山武市)、下総町や大栄町(いずれも現・成田市)といった自治体だが、いずれの自治体も人口は多くなく、農業を基幹産業としていた小規模自治体ばかりだ。  他県でも同様の開発は行われていたが、選定される立地の条件は同じで、都市部から近くもなければ、かといって観光地として名を馳せるほど風光明媚な景観が広がる大自然というわけでもなく、言っては悪いが、前述した通り、あまりに「中途半端」な立地がターゲットにされている。  現代の感覚であれば、さしたる開発の計画もなく、十分な公共交通網も整備されていないような地域において、なぜそれほど盛んに宅地分譲が行われたのか、事情が分かりにくくなっている面もあるかもしれない。今なお数多く残る更地を見て、その立地や利便性の悪さから、需要の読みが甘いデベロッパーが宅地開発を行ったものの思うように売れ行きが伸びず売れ残っている、と思い込んでしまうのも無理はない。  
【ゲッターズ飯田】今日の運勢は?「仕事で大きな結果を出せる日」銀の鳳凰座
【ゲッターズ飯田】今日の運勢は?「仕事で大きな結果を出せる日」銀の鳳凰座 ゲッターズ飯田さん    占いは人生の地図のようなもの。芸能界最強の占い師、ゲッターズ飯田さんの「五星三心占い」が、あなたが自分らしく日々を送るためのお手伝いをします。12タイプ別に、毎週月曜日にその日の運勢、毎月5のつく日(毎月5、15、25日)に開運のつぶやきをお届けします。 【タイプチェッカー】あなたはどのタイプ?自分のタイプを調べる いま日本で一番売れてる占い師・ゲッターズ飯田さんの最新刊『五星三心占い2024年版』は、全国の書店・ネット書店・セブンイレブンにて発売中!   【金の羅針盤座】 注目を集めることができる日。気になる人に連絡してみると、いい関係になれそうです。逆に、相手から連絡がきてデートの約束ができる場合も。仕事でも能力をうまく発揮できそうです。 【銀の羅針盤座】 疲れが顔に出たり、パワーダウンを感じそうな日。無理をしないで、自分のペースを保つよう意識してみて。仕事も、ややゆっくり進めるようにしましょう。夜は、急な誘いがありそうです。 【金のインディアン座】 しばらく連絡していなかった人からメールがきたり、偶然再会することがあるかも。そこからいい人を紹介してもらえたり、いいつながりができる可能性があるので、後日会う約束をしておくといいでしょう。 【銀のインディアン座】 時間を間違えたり、忘れ物やうっかりミスが増えてしまう日。細かいところまでチェックして大丈夫だと思っても、大きな見落としが見つかることも。しっかり確認することを心がけましょう。 【金の鳳凰座】 考えや意見を話すなら、午前中がいいでしょう。真面目に話すと気持ちが伝わりそうです。夕方以降は、相手の出方をうかがうことが大事。夜はうっかりミスが多くなるので、お酒の飲みすぎには気をつけましょう。 【銀の鳳凰座】 仕事で大きな結果を出せる日。今日の頑張りはのちの出世や収入アップにつながるため、一生懸命やってみるといいでしょう。素敵な出会いも期待できる運気なので、誘われたら即OKして。 【金の時計座】 よかれと思った行動が裏目に出てしまいそうな日。少し先のことを想像してから、行動に移すようにしましょう。自分が正しいと思いすぎないことも大切です。 【銀の時計座】 よかれと思ってした発言が裏目に出たり、自分を苦しめたり、恥ずかしい思いをするハメになりそう。今日はでしゃばらず、控えめに過ごすといいでしょう。   【こちらも話題】 【ゲッターズ飯田が教える】「運がいい時期」で輝くために、「もっとも重要なこと」とは? https://dot.asahi.com/articles/-/13518 ゲッターズ飯田の五星三心占い   【金のカメレオン座】 若い人からの情報が必要になる日。最近の流行や考え方を教えてもらうといいでしょう。年齢はわずかな差でも、違いがあることを楽しんでみて。 【銀のカメレオン座】 朝から軽めの運動やストレッチをしてから出かけると、気分がスッキリしそうです。今日はダラダラしないよう心がけて。何事も短時間で終わらせる気持ちで、テキパキと動きましょう。 【金のイルカ座】 自分の好き嫌いと得意不得意は違っている場合が多いもの。好き嫌いだけで判断しないで、得意なことが何か、一度確認してみましょう。自分の得意なことで周囲をよろこばせられるよう、力を注いでみて。 【銀のイルカ座】 ふだんなら絶対にしない選択をしてみるといいでしょう。いつもと違う思考で動くと、いままで見ていた景色とは違うものが見えてくるかも。今後の生活にも活かせそうです。   【こちらも話題】 【ゲッターズ飯田】「完璧な人」が幸せになれる訳じゃない?恋愛成就のコツ2選 https://dot.asahi.com/articles/-/13510
好みは草食系より肉食系 「男女の仲」を知っている必要があった平安時代の「女房」たち
好みは草食系より肉食系 「男女の仲」を知っている必要があった平安時代の「女房」たち 藤原隆能 著 ほか『源氏物語絵巻』徳川美術館、 国立国会図書館デジタルコレクション   『源氏物語』が織り成す王朝の雅を象徴する人物、紫式部。彼女については『源氏物語』と表裏一体の関係で論ぜられてきたが、歴史学者・関幸彦氏は、ロマン的要素とは別に、宮廷世界のドライな現実についても目を向け、一方で王朝の女房たちの“女子力”にも注目している。「言わずもがなではあるが、摂関政治を根底で規定したのは、その“女子力”だった。」と関氏は言う。一条天皇の後宮に出仕した彼女たちの存在は、后妃たちにとって知的装置となっており、とりわけ“男女の仲”について伝授する役割を担っていた。同氏の新著『藤原道長と紫式部 「貴族道」と「女房」の平安王朝』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集し、女房たちの役割について詳しく紹介する。 *  *  *  平安後期の王朝期は「女房」を輩出し、“才女の季節”ともいうべき時代を現出させた。紫式部が、清少納言が、そして和泉式部もいた。著名な藤原定家による『百人一首』にも、彼女たちの歌が見えている。そこでは女房たちの群像とも呼び得る世界が見える。「56番」から「62番」の歌だ。  ちなみに紫式部の「めぐり逢ひて~」で始まる歌は、57番に位置する。意図的ではない配列、単に時間的な流れでの『百人一首』の配列に、偶然が織り成す時代の本質が滲み出ている。彼女たちも、王朝の語感を共有した女房たちであり、一条天皇の後宮に出仕した彼女らの存在と役割は小さくなかった。  ここでの主役、紫式部の『源氏物語』の起筆の時期は、彰子への出仕以前だとしても、その後の十年近い彼女の宮廷生活でのキャリアも、肥しとなっていたはずだ。  それでは、そうした“女房”たちを登場させた背景は何であったのか。一つは彼女たちが受領層の娘たちだったことが大きい。要は、教養と知識を授けられる知力の持ち主たることが期待された。狭い世界しか知らない天子のために、話題の豊かさは后妃たることの条件だろう。容姿のみではない心馳せと教養である。それを伝授する役割が女房たちに期待された。“世間”を知らしめるための知的装置こそが、女房の存在だった。  王朝国家の一つの特色は、都鄙の交流が人的に拡大したことだ。律令を原理とした古代の国家は、しばしばトンネル国家に形容される。王朝国家は、その外被が変化する段階にあたる、いわば外被に肉付けがなされる過程のなかで、制度と実態が一体化する段階にあたる。トンネルという骨格に、肉付けがなされる段階、それが王朝の時代だった。  外被への肉付けの役割として、中央と地方の架橋をなしたのが、国司・受領層たちだった。その子女たちは都にとどまる場合もあれば、式部のように、父とともに現地へ赴くこともある。かりに現地に赴かずとも、都にいながら知識として、地方という“世間”を知り得る材料が与えられた。彼女たちのそうした直接・間接の経験知は、宮廷内にあって、後宮世界への“触媒”となったはずだ。 「権門」(権勢のある家柄)と「寒門」(貧しい家柄)の連結装置の役割を担った存在だった。都鄙交流の立て役者としての受領の存在、その受領の娘たちが女房として宮中に出仕する。そうした流れが后妃たちへの知的好奇心の伝達者を育む。 “世間”を繋ぐ“調教師”役  興味深いのは紫式部を含めて、清少納言、さらに和泉式部たちの恋や結婚の相手には、「兵」や「武者」たちが少なくないことだ。紫式部の場合、正式の結婚相手は藤原宣孝で受領経験を有した文人貴族だが、藤原保昌のような「兵受領」との交渉もあったらしい。彼は和泉式部の夫となる人物としても知られる。  そして清少納言もまた橘則光を夫に持った。彼は歌の才を有したロマンチストではなく、ドライな武的領有者だった。いわば“マッチョ”型を好む傾向が無いとはいえまい。彼女たちは、貴族的な“草食系”よりは、“肉食系”に興味をそそられた向きもあるようだ。  彼ら王朝武者は、“裏”や“闇”の世間にも通じていた。多くの女房たちにとって、異質な世界の見聞は、その知的好奇心を高めたはずだ。  後宮世界についていえば、女房たちの少なからずは、“初開経験”者だとされる。后妃候補以外、男女の仲に“未知”なる女性は必要ない。むしろ“既知”(男女の仲を知る)たる女房たちを必要とした。国母候補の后妃たちに“未知”なる世界を伝授する役割も、彼女たちは担っていた。 “知”をどのレベルで解釈するかにもよるが、彼ら女房たちが、総じて受領層に出自を有したことは大きかった。いわば封印されていた宮廷世界への“知”の拡散者だった。『源氏物語』での男女の性的営為には、想像を超えたリアリティーがともなった。見聞に裏打ちされた男女の愛憎を自己のセンサーで濾過し、それを紡ぐ作業は式部自身の才能に依るとしても、それなりの体験も前提となる。後宮世界にあっては、公卿の御曹司たちも含め、ハイソな男性たちも好色を隠さない。そうした上流貴族たちによるラブロマンスは、人間観察の絶好の場ともなったはずだ。
【胃がん】年間12万人以上が診断 胃内視鏡検査(胃カメラ)がバリウム検査より早期発見に推奨される理由は?
【胃がん】年間12万人以上が診断 胃内視鏡検査(胃カメラ)がバリウム検査より早期発見に推奨される理由は?  胃内視鏡(胃カメラ)による内視鏡検診や、胃がんの原因となるピロリ菌の除菌治療の普及のおかげで、胃がんの患者数は減少傾向にあります。とはいえ、2019年に胃がんと診断された人は、男性約8万5000人、女性約3万9000人。がんの部位別の患者数の順位は、男性では第3位、女性では第4位で、いまだ注意が必要ながんといえます。胃がんは早期であれば完治の確率の高いがんです。早期発見のための検診頻度や予防についても解説します。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  * 男女比は2対1。50代以上で患者が増加  胃がんの患者数は50代から増え始め、80代でピークを迎えます。高齢者のがんという見方ができるかもしれません。男女比は2対1で男性に多くみられます。  初期には自覚症状がないため、内視鏡やバリウム検査による胃がん検診で見つかるケースが多くなっています。胃炎や胃潰瘍を伴っていると、胃の痛み、胸やけ、食欲不振、げっぷなどの症状がみられることもあります。  胃がんの原因として、ピロリ菌(ヘリコバクター・ピロリ菌)に感染していること(ピロリ菌陽性)、喫煙、塩分の高い食事などが挙げられます。  ピロリ菌は飲み水や食べ物を介して経口感染する細菌で、体内に取り込まれると胃粘膜をおおう粘液の中に生息します。多くは子どものころに感染し、40代50代になってから胃潰瘍や胃がんの発症リスクが顕在化してきます。  ピロリ菌陽性の人は陰性の人に比べて、胃がんリスクが約5倍になるとされ、現在ではピロリ菌が陽性の場合、除菌治療をおこなって胃がんのリスクを下げることが、胃がん予防の重要な柱になっています。 早期は治癒率が高く、からだの負担が小さい治療を選べる  胃がんの5年相対生存率は66.6%。リンパ節転移や遠隔転移(ほかの臓器に転移すること)のない、早期に発見されたものは96.7%と極めて高い一方、遠隔転移がある進行例では6.6%と非常に低くなっています(国立がん研究センターがん統計から)。この数字をみても、「早期胃がん」のあいだに治療を開始することが、なにより重要であることがわかるでしょう。  では、「早期胃がん」とはどんな状態を指すのでしょうか。  胃がんは胃の上皮(粘膜)から発生する腫瘍で、「腺がん」という種類が90%以上を占めます。胃がんの進行度合いのおおよその目安として、①がんがどこまで深く到達しているか(深達度)、②がんの性質(分化度=悪性度)が用いられます。 ▼がんの深達度  胃壁は内側から、粘膜、粘膜下層、筋層、漿膜下層、漿膜と複数の層からなっています。粘膜と粘膜下層にとどまっているものが「早期胃がん」、筋層以上に達しているものが「進行胃がん」となります。 ▼がんの分化度 「分化型」と呼ばれるものは、進行がゆっくりで転移しにくく、比較的“おとなしいがん”です。一方、「未分化型」と呼ばれるものは、がん細胞がまとまらず、ばらけるように発育するため、リンパ節に転移しやすく、治療が難しくなる“たちの悪いがん”です。若い世代に好発し、進行の速さで注目を集めた「スキルス胃がん」の多くは未分化型で、診断されたときにはすでに進行した状態で発見されることがほとんどです。 早期発見には胃内視鏡検査がベスト  早期のうちにがんをとらえるためには、胃がん検診を受けるのがいちばんです。  胃がん検診には、バリウムを飲んでX線撮影をおこなう「バリウム検査」と、「胃内視鏡検査(上部消化管内視鏡検査)」があります。  バリウム検査はまだしも、内視鏡検査を受けることに抵抗感や恐怖感を感じる人は多いようです。実際、厚生労働省の「2019年国民生活基礎調査」によると、過去1年間に胃がん検診を受けた人の割合は、40~69歳で男性48.0%、女性37.1%と低いものでした。 「医師の立場からは、やはり胃内視鏡検査をすすめたい」と言うのは、山梨大学病院消化器外科診療科長・教授の市川大輔医師です。 「内視鏡の画像は非常に鮮明で、がんの有無だけでなく、おおよその深達度や悪性度なども、直接目で見て診断することができます。早期発見を目的とした検診という観点からは、バリウム検査よりも胃内視鏡検査がすすめられます」  内視鏡をのみ込むときに「おえっ」とえずいてしまう「咽頭反射」を抑えるためのスプレーや、うとうとした状態で検査が受けられる鎮静薬の使用など、心理的・身体的な負担を軽減する方法もあります。まだ受けたことがない、あるいは一度受けたけれどつらくて、二度と受けたくないと思っている人は、検診時に医師に相談してみてください。 からだの負担の少ない治療は早期胃がんに適応  胃がんの治療の基本は、がんを切除することです。  かつては開腹手術が中心で、患者の心身の負担は大きいものでした。しかし現在では内視鏡による「内視鏡的切除」や、腹腔鏡(ふくくうきょう)を用いた「腹腔鏡下胃切除術(以下、腹腔鏡手術)」が中心になり、より負担が少なく、心身への影響が小さい「低侵襲」な治療が可能になっています。早期胃がんで見つかれば、これらの治療法を選択できる可能性が高いのです。進行がんになると、基本的には開腹手術となりますが、最近では、進行がんの一部に対しても腹腔鏡手術が標準治療の一つとなり得ると考えられています。 胃がん予防の第一は、ピロリ菌の除菌治療  冒頭に説明したように、胃がんの発症にはピロリ菌感染が大きく関与し、ピロリ菌に感染したことがない場合の胃がんの発症率は1%未満と考えられています。そのため、まずは自分がピロリ菌に感染しているかどうかを調べましょう。内科で申し出れば、簡単な検査でピロリ菌に感染しているか調べることができます。  現時点で感染が陰性であれば、将来的に感染する可能性はほとんどないといえます。飲料水などの衛生状態がよくなったことで、若年層では感染率が低くなっており、50代の感染率が約40%であるのに比べて、20代では10%未満となっています。  いま20代の人が胃がんの好発年齢になる30年後には、ピロリ菌が原因の胃がんはまれなものになっているかもしれません。 胃がん検診、ピロリ菌陰性でも定期的に受けよう  検査の結果、ピロリ菌感染が陽性という結果が出たら、必ず除菌治療を受けましょう。薬を飲むだけなので、さほど苦しい治療ではありません。  では、除菌治療を受けてピロリ菌感染がなくなったら、もう胃がん検診は受けなくていいでしょうか。もともとピロリ菌陰性の人には、胃がん検診は必要ないのでしょうか。 「そういうわけにはいかない」と、慶應義塾大学病院腫瘍センター教授の矢作直久医師は言います。 「ピロリ菌の除菌治療を受けた人は、胃の粘膜の萎縮が残っています。ですから胃がんのリスクがゼロになったわけではありません。年に1回の胃内視鏡検査がすすめられます。もともとピロリ菌陰性の人でも、3~5年に1回は胃がん検診を受けたほうがいいでしょう。というのも、ピロリ菌陰性の胃にラズベリーが生えたように発生する『ラズベリー型胃がん(腺窩上皮型がん)』という新しいタイプのがんが発見されているからです。今後、さらに新種の胃がんが登場してくる可能性もあります。胃がん検診は定期的に続けていってください」 【取材した医師】 山梨大学病院消化器外科診療科長・教授 市川大輔医師 山梨大学病院消化器外科診療科長・教授 市川大輔医師   慶應義塾大学病院腫瘍センター教授 矢作直久医師 慶應義塾大学病院腫瘍センター教授 矢作直久医師
かぜでも仕事や家事は休みづらい…「一刻も早く治す」ためのタイプ別漢方養生法 かぜを引きにくい体質へ
かぜでも仕事や家事は休みづらい…「一刻も早く治す」ためのタイプ別漢方養生法 かぜを引きにくい体質へ どんなに気をつけていてもかぜをひくことはあります。対策を知って早く治しましょう (c)GettyImages 「かぜを早く治したい」「できることならかぜをひきたくない・・・」と誰もが思うもの。かぜをひいたからといって仕事や家事・育児を休めずつらい、という経験もあるかもしれません。「かぜは万病のもと」とも言われ、さまざまな病気の原因ともなるので「ただのかぜ」と油断するのは禁物です。そのためにこの記事では、日本の漢方のルーツである中国の伝統医学「中医学」をもとに、【かぜの症状別の対策】を分かりやすく説明します。また、かぜをひかないためにできることもお伝えします。今かぜをひいている方は早く良くなり、今後もかぜをひかないでいられますように。 *  *  * 油断大敵!「風邪(ふうじゃ)」は万病のもと  中医学では、かぜは自然界の邪気「風邪(ふうじゃ)」が身体に侵入することで起こる症状と考えます。目に見えないので「邪気ってなに?」と思ってしまうかもしれませんが、悪いものが身体に入ってくるイメージを持ってもらえれば大丈夫です。  風邪は「寒」「熱」などのほかの邪気と結びつきやすく、風寒(ふうかん)・風熱(ふうねつ)・風湿(ふうしつ)・風燥(ふうそう)などの邪気となって身体に侵入。そのため、かぜをひくと、悪寒、鼻水、咳、発熱といったさまざまな症状が現れるのです。  このように、一口にかぜといってもその症状は単純ではありません。かぜを早く治すためには、まず自分の症状を見極めることが大切。適切な対処を心がけ、症状の悪化を防ぎましょう。 【チェック】かぜかな?と感じたら、早めの対策で撃退!  かぜの症状は、悪寒や頭痛などが特徴の寒(かん)、熱やのどの痛みなどが特徴の熱(ねつ)、吐き気や下痢などが特徴の湿(しつ)、咳などが特徴の燥(そう)の4つのタイプがあります。  それぞれの症状には特徴があるので、そのタイプに合った対処法を知ることが大切。今かぜをひいている方は、自分自身がどんな症状なのかを念頭におきながら読んでみてください。  それでは、中医学の知恵を活かした食と暮らしの養生法を症状別にご紹介します。 【タイプ1】ぞくぞくする初期症状「寒」のかぜ <気になる症状> 「寒」のかぜは、ぞくぞくっとする悪寒や頭痛、関節の痛み、肩コリ、透明な鼻水などが特徴です。かぜの初期にあたる症状で、熱の自覚症状は軽く、汗もあまりかきません。 <改善ポイント>  この時期のかぜは、身体を温めて邪気「寒(かん)」を取り除くことが大切。白菜、大根、ネギを煮込んだスープ「三白湯(さんはくとう)」は、身体をポカポカに温めてくれます。  このスープに、発汗を促すショウガや、三つ葉などの香草を加えるのもおすすめです。辛みのあるニンニクにも発汗作用があるので、すり下ろしてお湯を注ぎ“ニンニク湯”にして飲んでみてください。 <摂り入れたい食材> 三白湯(白菜、大根、ネギ)、ショウガ、香草(三つ葉など)、ニンニクなど 身体をポカポカに温めてくれる食材、ネギ PhotoAC 【タイプ2】のどの痛みと高い熱「熱」のかぜ <気になる症状> 「熱」のかぜは、発病したときから熱が高く、のどの腫れや痛み、黄色く粘りのある鼻水や痰、のどの渇きといった症状が現れます。 <改善ポイント>  塩水やお茶でこまめにうがいをし、外出から戻ったら手洗いも忘れずに。部屋の空気をよく換気することも大切です。  解毒作用のある酢を水で1:2に割って鍋で煮立てて蒸発させ、部屋の空気を消毒するという習慣も中国では一般的なので、ぜひ試してみてください。ゴボウをみそ汁の具に加えたり、菊花茶やミントティー、板藍根(ばんらんこん)などのお茶を飲んだりすると良いでしょう。 <摂り入れたい食材> ゴボウのみそ汁、菊花茶、ミントティー、板藍根のお茶など 体内の余分な熱を取り除く食材、ゴボウ PhotoAC 【タイプ3】胃腸にくる「湿」のカゼ <気になる症状> 「湿」のかぜは、胃のムカつきや吐き気、痛み、下痢、食欲不振など、消化器系の症状が現れる胃腸型のかぜです。 <改善ポイント>  胃に不安のあるときは、生ものや油っこい料理はなるべく避けるようにしましょう。米は、消化しやすいようおかゆにして食べるのがおすすめです。  おなかを温めて胃の痛みを和らげる八角や山椒の実、解毒作用のあるニンニクやシソ、ショウガなどをうまく料理に活用してください。 <摂り入れたい食材> シソ、ショウガ、ニンニク、八角、山椒の実など 解毒作用のある食材、シソ PhotoAC 【タイプ4】咳がつらい「燥」のかぜ <気になる症状> 「燥」のかぜは咳が強く、痰がからんで胸に重苦しさを感じることも。呼吸器系の弱い人に多く見られる、治りかけの時期の症状です。 <改善ポイント>  マスクや加湿器などで湿気を補い、肺を潤すように心がけましょう。  梨を皮ごと蒸したものや、銀杏入りの茶碗蒸し、百合根のみそ汁、杏仁豆腐、大根の煮物など、肺を潤す食べ物を食事のメニューに加えてみてください。 <摂り入れたい食材> 梨(皮ごと蒸して)、銀杏入りの茶碗蒸し、百合根のみそ汁、杏仁豆腐など 肺を潤してくれる杏仁豆腐 PhotoAC 【ポイント】体力を養ってかぜを寄せつけない身体に  かぜをひいてしまったら早めに治療することが大切ですが、何より肝心なのは、かぜに負けない身体をつくること。かぜは風邪(ふうじゃ)の侵入によってかかるものなので、外から侵入しようとする風邪をはね除けてしまえば、かぜをひくことはないと、中医学では考えます。体力を養い、防衛機能を高めることで、かぜを予防することができるのです。逆に、体力が落ち、抵抗力が不足するとかぜをひきやすくなるので、十分な体力を養うように心がけましょう。また、身体の疲れはもちろん、ストレスや女性の生理時、出産後などにも注意が必要です。  生活の中でまず気を付けたいことは、不摂生をしないこと。飲み過ぎや寝不足、疲労などはかぜをひく原因となるので気を付けましょう。また、ストレスを溜めずにいきいきとした毎日を過ごし、気力を充実させることも大切です。空気の乾燥する冬は、のどや肺など呼吸器を潤し乾燥から守ることもかぜの予防につながります。加湿器やマスクを利用したり、梨や銀杏など肺を潤す食べ物をとったりするなどの工夫をしましょう。うがいや手洗いなど基本も忘れずに。  また、冬のかぜを予防するには、寒さから身体を守ることも大切です。外出する際は手袋やマフラーなどを用意し、なるべく暖かな服装を心がけてください。寝る前にお風呂に入り、よく身体を温めるのも良いですね。お風呂は、ぬるめのお湯に長くつかることがポイントです。あつあつの鍋料理や、ネギ、ニンニク、ショウガなどは、身体を温めて発汗を促す効果があるので、上手にとり入れてみてください。 監修:菅沼 栄先生(中医学講師) 監修:菅沼 栄先生(中医学講師) 1975年、中国北京中医薬大学卒業。同大学附属病院に勤務。1979年、来日。1980年、神奈川県衛生部勤務。中医学に関する翻訳・通訳を担当。 1982年から、中医学講師として活動。各地の中医薬研究会などで薬局・薬店を対象とした講義を担当し、中医学の普及に務めている。主な著書に『いかに弁証論治するか』『いかに弁証論治するか・続篇』『漢方方剤ハンドブック』(東洋学術出版)、『東洋医学がやさしく教える食養生』(PHP出版)、『入門・実践 温病学』(源草社)など。 本記事は、イスクラ産業株式会社監修の中医学情報サイト「COCOKARA中医学」より、一部改変して転載しました
成人8人に1人が「腎臓病」 むくみで靴下のあと、指輪がきついの初期サインに要注意 透析患者は世界第2位
成人8人に1人が「腎臓病」 むくみで靴下のあと、指輪がきついの初期サインに要注意 透析患者は世界第2位  人工透析導入の原因となる慢性腎臓病(CKD)は、その多くが生活習慣病やメタボリックシンドロームを背景にして起こります。近年は高血圧から起こる腎硬化症によるものが増えています。CKDになりやすい人や早期発見の方法、治療法などについて、解説します。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  透析患者数は右肩上がりに増えており、近年、増え方はなだらかになっているものの、2021年末の患者数は34万9700人で、前年から2029人増えています(日本透析医学会調査)。国民の358.9人に1人が透析患者となっており、この有病率は台湾に続いて世界第2位(2021年米国腎臓データシステム)、男性は女性の2倍と多く、患者の平均年齢は69.67歳で、ピークは男女とも70~74歳です。なお、10年以上の透析歴の人は27.5%に達しており、患者数の多さは透析を受けている患者の高齢化が最も大きな要因です。 腎臓病の初期症状「むくみ」に注意  人工透析が必要になるのは腎機能が著しく低下したためです。腎臓は毛細血管が毛糸玉のようにからまった、糸球体の集まりです。糸球体は全身の血液を濾過(ろか)して尿を作り、からだの老廃物を排泄するとともに、必要な成分の再吸収をしています。  腎臓はまた、血圧を維持するホルモン(レニン)や血液を作る造血ホルモン(エリスロポエチン)を産生しています。血圧を正常に維持したり、貧血を防いだり、カルシウムを吸収して骨を作るビタミンDを活性化する働きも担っています。  このため、腎機能が低下すると水の排泄がうまくいかなくなり、むくみや高血圧、肺水腫が起こったり、老廃物の排泄ができなくなって尿毒症の症状(倦怠<けんたい>感、食欲低下、嘔吐<おうと>、意識障害)が起こったりします。また、造血ホルモンの産生ができなくなることによる貧血の症状(たちくらみ、息切れ)、ビタミンDが活性化しなくなることによる低カルシウム血症(筋肉のけいれんなど)なども出てきます。  新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長の篠﨑倫哉医師によれば、こうした症状が出るのは腎機能の低下がかなり進んでからです。 「ただし、むくみは腎機能の低下がそれほど進んでいなくても、あらわれます。靴下のあとがついたり、指輪がきつくなったりしたら要注意です」(篠﨑医師)  腎機能の低下を起こす病気には、急性のものと慢性のものがあります。急性の病気の代表は外傷や心不全による細菌感染がきっかけで起こる腎炎や、非ステロイド抗炎症薬(NSAIDs)や降圧剤など薬剤によって起こる腎炎などです。発症から数日~数週間で急激に腎臓の機能が落ちるという特徴があります。 「慢性の病気はCKD(慢性腎臓病)として知られています。数カ月から数十年の長い年月をかけて腎臓の働きがゆっくりと悪くなる腎臓病で、日本では軽度のものも含めると、1330万人(20歳以上の成人の8人に1人)がいると推計され、新たな国民病ともいわれています」(篠﨑医師)  日本透析医学会によれば、2021年度の透析導入者の原因疾患は1位「糖尿病性腎症」(39.6%)、2位「慢性糸球体腎炎」(24.6%)、3位「腎硬化症」(12.8%)、つまり、多くは生活習慣病が引き金なのです。  糖尿病性腎症は糖尿病の合併症の一つです。血糖値が高い状態が続くことで糸球体の血管が傷つき、発症します。  慢性糸球体腎炎は、糸球体に炎症が起こる腎臓病の総称で、約半数はIgA腎症です。血液中のたんぱく質の一種である免疫グロブリンの一種、IgAが糸球体に沈着することで、腎機能が低下します。原因は不明で小児から成人まであらゆる年代で起こります。  腎硬化症は高血圧によって動脈硬化が進行し、糸球体が傷つくことで発症します。 「糖尿病性腎症による透析導入者の数は近年、横ばいで推移しています。慢性糸球体腎炎は年々、減少。一方で右肩上がりに増えているのが腎硬化症です」(篠﨑医師) 腎臓病の早期発見には必ず健康診断の受診を  透析に至らないようにするためには、CKDを早期に見つけることが大事です。「そのためには、健康診断を受けるのが一番です」と篠﨑医師は言います。 「CKDはかなり進行するまで自覚症状に乏しく、早期の患者さんはそのほとんどが健康診断で見つかっています。自営業の人や高齢者は地域の特定健診を必ず受けてください」(篠﨑医師)  CKDかどうかは尿検査と血液検査で診断します。 「糸球体が傷つき、濾過機能が低下すると、本来、排出されることのないたんぱく質や血液が尿に漏れ出てきます。このため、CKDになると尿検査でたんぱくが検出されたり、血尿が出たりすることがあります。たんぱく尿の明らかなサインとしては尿が泡立ち、なかなか消えない場合です。また、コーラのような褐色の尿は血尿の疑いが大きいです。このような場合は、躊躇(ちゅうちょ)せず、かかりつけ医などを受診しましょう」(篠﨑医師)  また、CKDになるとからだの中に老廃物がたまり、これが血液中にも出てきます。血液検査では老廃物がどのくらいあるかの指標となる「クレアチニン値」をもとに腎臓の機能を算出し、「eGFR(推算糸球体濾過量)」(腎臓が1分間、1.73㎡あたり糸球体で濾過される血液量)として、下記のようにCKDの重症度別に6段階にあらわします。 90㍉リットル以上(G1・正常または高値) 89~60(G2・正常または軽度低下) 59~45(G3a・軽度~中等度低下) 44~30(G3b・中等度~高度低下) 29~15(G4・高度低下) 15未満(末期腎不全) 「G4になると人工透析を含む『腎代替療法』について考えてもらう段階です。ステージ6の末期腎不全になったら、導入を検討することになります」(篠﨑医師)  ただし、健診はあくまでスクリーニングであり、病気の確定ではありません。健診で異常を指摘されたら、医療機関でさらに詳しく診てもらい、病気の有無と重症度を確定してもらいましょう。  腎機能障害を早期に診断し、できるだけ早く治療を開始することが、将来の腎機能の低下を防いだり、進行を遅らせたりすることにつながります。 「クリニックでCKD・G3b以上と診断がついたら、腎臓内科の専門医に紹介されると思います。糖尿病ですでに通院している場合でも、急激な腎機能がある場合、別の病気が原因ということもあります。まずは専門医のもとで、原因を明らかにしてもらってください」(篠﨑医師)  CKDの治療は、たんぱく制限や塩分制限など、食事療法を含む個々の患者に合わせた生活療法、薬物治療による血圧管理や血糖値の管理、貧血改善や脂質の管理などを総合的におこないます。 「血糖値や血圧のコントロールがいい人はCKDが進みにくいですが、中にはきちんと治療をしていても、腎機能低下のスピードが速い人もいます。これは原因となる病気の違いによります。こうしたこともあり、糖尿病や高血圧の人は通院している医療機関で定期的に腎機能をチェックしてもらうことが、安心につながります」(篠﨑医師) いまの生活スタイルを維持しやすい「腹膜透析」という手段も  CKDがさらに進み、人工透析を含む腎代替療法が必要といわれたら、どうすべきでしょうか。人工透析には透析クリニックに通院しておこなう血液透析(HD)、患者自身の腹膜を使い、在宅でおこなう腹膜透析(PD)があります。さらに腎移植という方法もあります。 「大事なのはどれか一つだけでなく、すべての療法に精通している病院で納得のいくまで話をよく聞き、より自分に合った方法を選ぶことです。また、いずれかを選んでも、生活環境の変化などに合わせて他の治療法に移行できることも知っておいてください」(篠﨑医師) (取材・文/狩生聖子) 【取材した医師】 新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長 篠﨑倫哉医師 新百合ケ丘総合病院腎臓・透析内科総括部長 篠﨑倫哉医師  

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