AERA with Kids+ Woman MONEY aerauniversity NyAERA Books TRAVEL
検索結果4227件中 721 740 件を表示中

【膀胱がん】血尿が自覚症状で最も多く、残尿感・排尿痛・膀胱炎も 再発する恐れが比較的高いがん
【膀胱がん】血尿が自覚症状で最も多く、残尿感・排尿痛・膀胱炎も 再発する恐れが比較的高いがん  男性のほうが、女性よりも3倍かかりやすい膀胱がん。進行すると、膀胱を摘出しておなかに尿の出口を造る手術が必要になることも。尿検査で潜血反応を指摘されたり、肉眼で見える血尿が出たりしたら要注意。早めの受診がお勧めです。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  膀胱は骨盤の中にある袋の形をした臓器で、尿を一時的にためておき、一定の量になったらからだの外に排出する役割があります。膀胱に尿がたまってくると、その刺激が脳に伝わって尿意を感じます。排尿時には膀胱の筋肉が収縮して尿道の筋肉を緩め、排尿する仕組みです。膀胱がなければ、尿意を感じることも自然に排尿することもできない、重要な役割を持つ臓器です。  膀胱の内側は、尿路上皮という粘膜で覆われています。膀胱がんの90%はその粘膜の細胞から発生するもので、尿路上皮がんとも言います。  膀胱がんの罹患率は男性のほうが女性の約3倍多く、人口10万人あたりの患者数は19人程度(男性では約29人/女性では約9人)とされています。最も多い年代は60~80代以降ですが、40~50代でもかかることがあります。  高齢者に多いがんなので加齢が最も大きなリスクですが、男女ともに喫煙歴のある人がよりかかりやすい傾向にあり、喫煙もリスクの一つです。 最も多い自覚症状は血尿  膀胱がんで最も多い自覚症状は、血尿です。神戸市立西神戸医療センター泌尿器科部長の金丸聰淳医師は、次のように話します。 「尿検査で潜血反応が出て受診される場合もありますが、最も多いのは、ある日突然血尿が出て、びっくりして病院に来る患者さんです。血尿以外の自覚症状としては、尿が残る感じ(残尿感)や排尿する際の痛み(排尿痛)など、膀胱炎のような症状が出ることもあります。男性の場合、単純な膀胱炎はとてもまれなので、これらの症状がある場合や、病院に行って処方された膀胱炎用の抗菌薬を服用してもなかなか治らない場合には、泌尿器科を受診することを強くお勧めします」 検査方法は尿検査、エコー、膀胱鏡検査など  膀胱がんの検査ではまず初めに尿検査をおこない、尿の中に血液やがん細胞があるかどうかを調べます。その後、膀胱のエコー(超音波)検査や、尿道から内視鏡を挿入して膀胱の中を調べる膀胱鏡検査をおこないます。  膀胱の中にがんがあることがわかったら、CTやMRIなどの画像検査でがんの大きさや深さ、他の臓器への転移があるかどうかなどを調べることもあります。   治療と検査を兼ねるTUR-BT  膀胱がんの治療は、がんが表面の尿路上皮にとどまっているか、その下の筋肉などの組織(筋層)にまで広がっているかで大きく異なります。がんの広がりや、その悪性度などを詳しく調べるためにおこなわれるのが、TUR-BT(ティーユーアールビーティー:経尿道的膀胱腫瘍切除術)という方法です。  TUR-BTは、尿道から膀胱の中に内視鏡を入れ、がんの部分を削り取る手術をするとともに、削り取った組織を顕微鏡で詳しく調べる病理検査をおこないます。  検査の結果、がんが表面の尿路上皮のみにとどまっていれば、そのまま経過観察になることもあります。悪性度が高いと判断された場合には、追加のTUR-BTをおこなってさらに削り取ったり、膀胱の中に再発予防のための薬剤を注入する治療をおこなう場合もあります。 進行がんは膀胱全摘と尿路変向(変更)の手術  一方、がんが尿路上皮の下の筋肉の層にまで入り込んでいる場合には、膀胱をすべて摘出する手術(全摘)が必要になります。全摘では膀胱と骨盤内のリンパ節、男性であれば前立腺と精嚢(せいのう)、女性の場合は子宮や膣の一部、尿道を切除します。また、膀胱を取ると尿をためる場所がなくなるので、排尿の新しい仕組みを造る手術(尿路変向〈変更〉)も同時におこないます。  膀胱全摘と尿路変向の手術の前には、再発や転移を予防するため抗がん剤による薬物治療をおこなうのが一般的です。  手術には開腹手術と腹腔鏡手術があり、腹腔鏡手術には医師自身が腹腔鏡を使っておこなう腹腔鏡手術と、医師がロボットを操作しておこなうロボット手術があります。近年では、より細かい作業ができるロボット手術を含めた腹腔鏡手術が主流になっています。  患者が高齢だったり心臓や脳など他の病気があったりして手術ができない場合などには、膀胱を切除せず、TUR-BTと薬物治療、放射線治療などを組み合わせた治療を選択する場合もあります。 全摘後の尿路変向の方法は大きく分けて二つ  尿路変向の手術には、大きく分けて二つの方法があります。  一つは、腸の一部を使っておなかに尿の出口を造る方法(人工膀胱:ストーマ)、もう一つは同様に腸の一部を使い、おなかの中に膀胱の代わりの袋を造る方法(新膀胱)です。  ストーマを造った場合、おなかに開けた出口から尿が出てくるので、パウチという袋を装着し、2~3時間に一度程度、たまった尿を捨てます。  一方で新膀胱は、おなかにストーマができないのでボディーイメージは良いですが、おなかの中に袋はあっても尿意も感じず筋肉も収縮しないので、自然に排尿することができません。そのため定期的にトイレに行き、おなかに力を入れて、腹圧でたまった尿を排出する必要があります。 「ストーマの管理やケアは、患者さん自身や介護をする家族も、しばらくすれば慣れて支障なくできるようになりますが、新膀胱は管理が少し難しい面があります。定期的な排尿作業がルーズになったり、認知症で管理ができなくなったりすると、からだの中に尿が溜まった状態になってしまい、腎臓に負担がかかって腎機能が悪くなったり、慢性の尿路感染症などを起こす恐れもあります。ストーマにするか新膀胱にするかは、患者さんの生活背景や将来的なことも考え、慎重に判断することがとても重要です」(金丸医師) 治療のあとも定期的に検査を  膀胱がんの場合、再発する恐れが比較的高いので治療後も定期的に受診し、尿検査や内視鏡検査を受けることが大切です。 「例えば、がんが一つだけで3㎝以下、悪性度も低い、といった場合にはTUR-BTで削るだけで治る可能性もあるのですが、少し悪性度が高いと2年以内に再発してくることが多く、また1年以内に再発する人の場合、再発を繰り返すこともあります。ですので、治療後も医師の指示に従って受診し、検査を受けていただくことが何よりの再発予防になります」(同)  膀胱がんの7割程度が、初期で見つかるといいます。1年に一度程度は健康診断を受けて尿検査をしておくことが、有効な予防方法の一つと言えるでしょう。 (文/梶 葉子) 【取材した医師】 神戸市立西神戸医療センター 泌尿器科部長 金丸聰淳 医師 神戸市立西神戸医療センター 泌尿器科部長 金丸聰淳 医師  
「肝がん」は再発率70% 「お酒の飲みすぎ」だけが原因ではない! 肥満や生活習慣病でも高リスク
「肝がん」は再発率70% 「お酒の飲みすぎ」だけが原因ではない! 肥満や生活習慣病でも高リスク   肝がんは、「ウイルスやお酒を飲む人の病気」と思っていませんか? それは大きな誤解です。実は近年、お酒を飲まない人に起こる肝炎である、「非アルコール性脂肪性肝炎(NASH)」による肝がんが増えています。肝がんになりやすい人や早期発見の方法、治療の進歩などについて、解説します。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  肝がんには肝臓の主な細胞である肝細胞ががん化した肝細胞がんと、肝臓の中を通る胆管ががん化した「肝内胆管がん(胆管細胞がん)」があります。日本で発生する肝がんの90%以上は肝細胞がんであることから、肝がんといえば「肝細胞がん」をさします。このため、同記事では肝細胞がんについて解説します。  肝がんは男性に多く、女性の2倍です。厚生労働省と国立がん研究センターにより2022年5月に公表された「2019年の全国がん登録」によると、2019年の肝がん罹患者数は3万7296人(男性2万5339人、女性1万1957人)で、男性では全がん中5位、女性では11位(数が少ないため、その他のがんとして集計)でした。年齢は50代から増加し始め、最も多いのは80~90代です。 肝臓は「沈黙の臓器」 進行するまで無症状  岩手医科大学病院消化器内科特任教授の黒田英克医師は、肝がんの特徴について次のように話します。 「肝がんは再発率が約70%と高く、再発を繰り返しやすい。ただし、『肝臓は沈黙の臓器』と言われるように、病気がかなり進んでもほとんど症状があらわれません」(黒田医師)  肝がんの多くは、慢性肝炎や肝硬変など炎症が起こっている肝臓に発症します。東京大学病院肝胆膵外科教授の長谷川潔医師は次のように話します。 「もとの病気である肝硬変などで、むくみや腹水、黄疸(おうだん)が出て、検査をしたら肝がんが見つかるケースがあります。肝がんは急速に増大すると肝臓内で破裂して(肝臓破裂)、大量出血を起こすことがありますが、非常にまれです。また、肝炎や肝硬変も、進行するまでほとんど無症状であることを知っておいてください」(長谷川医師)  肝がんの一番のリスクである慢性肝炎、肝硬変とはどのように起こるのでしょうか。慢性肝炎は肝臓の細胞(肝細胞)に炎症が持続的に起こり、徐々に肝臓が破壊されていく病気です。肝細胞が壊れた後に線維が沈着すると、肝臓が硬くなる「肝線維化」が起こります。これが肝硬変です。放置すると肝臓が働かなくなります。  慢性肝炎や肝硬変の代表的な原因としてC型肝炎ウイルスやB型肝炎ウイルスなどウイルスによるもの、アルコールによるもの、非アルコール性脂肪性肝炎(以下、NASH)、自己免疫性肝炎などがあります。  C型肝炎ウイルスは輸血や血液製剤、入れ墨によって感染します。B型肝炎ウイルスも似たルートで感染しますが、日本では出産時に血液によって母親から感染(母子感染)したケースが多いです。 生活習慣病による脂肪肝から肝がんに  前出の長谷川医師によれば、30年ほど前までは、肝がんの原因の約70%はC型肝炎ウイルスによるものでしたが、その後、感染者が減り、現在、C型肝炎ウイルスに起因する肝がんも減っています。 「その一方でウイルスとは関係のない病気が原因で起こる肝がんが増えています。その代表がNASHという、アルコールを飲まない、あるいは飲んでも1合程度の人に起こる肝炎によるものです」(長谷川医師)  NASHの原因となるのは、肥満や生活習慣病を背景に起こる脂肪肝です。この脂肪肝は、非アルコール性脂肪性肝疾患(以下、NAFLD)と呼ばれています。かつては良性の病気とされていた脂肪肝ですが、NAFLDの約10%がNASHに移行することがわかってきました。  脂肪肝から肝炎になる理由は明らかではありません。脂肪が過剰に蓄積されることで、肝細胞が障害されることが原因ではないかといわれています。また、NASHから肝硬変への進行スピードは、アルコールによるものより早いともいわれています。日本では肥満や生活習慣病の増加から、NAFLDが今後、さらに増えると予測されており、注意する必要があります。 「2型糖尿病はとくにNASHのリスクが高い印象があります。当科に紹介となった肝機能異常をともなう2型糖尿病の患者さんを調べた結果、約6割にNASHが認められたのです。糖尿病があると肝がんのリスクが3倍高くなることも知られています」(黒田医師)  また、急激なダイエットにより、肝細胞が栄養不足になることでNASHが発症することもあります。 「野菜しか食べないような過度なダイエットをおこなった若い女性にNASHが発症したケースも、経験しています」(同)  肝炎の早期発見には採血によって測定する肝機能検査が役立ちます。肝機能検査の項目にはAST(GOTともいう)、ALT(GPTともいう)、γ-GTPなどがありますが、「大事なのはASTとALTで、とくにALTがポイント」と両医師は言います。  AST、ALTはどちらも肝臓の細胞で作られる酵素です。肝炎や肝硬変により肝臓に障害が起こって細胞が壊れると血液に酵素が流れ出て、濃度が上昇します。基準値はいずれも30 IU/L以下です。  ALTは職場健診や地方自治体の特定健診で、チェックできます。日本肝臓学会では生活習慣に起因する肝がんが増えていることから、23年6月に奈良県でおこなわれた日本肝臓学会総会で医療者や国民へのメッセージとして、「Stop CLD(慢性肝臓病)ALT over 30」を発表しました。  肝がん予防のために「ALTが30以上になったら、かかりつけ医を受診すること」を推奨しています。  黒田医師によれば、「数は少ないですが、ALTが30台の人からも肝炎が見つかることが報告されています。基準値を大きく超えていないから大丈夫と軽視しないほうがいいということです」  ALTの異常を指摘された場合は、かかりつけ医で肝炎ウイルスが陽性かどうかや脂肪肝の有無などを調べることをすすめます。 「必ずやっていただきたいのは、超音波エコーで肝臓の状態をチェックすることです。さらにそこで肝炎が見つかったら、すみやかに適切な治療を受けること。これが肝がんから身を守ることにつながります」(長谷川医師)  C型慢性肝炎などウイルス性の肝炎については、抗ウイルス薬などの治療薬があります。ウイルスを駆除できれば、肝がんの発症を抑えることができる可能性が高くなります。 「NASHについては体重を落とすほか、生活習慣病をコントロールして、肝炎を進ませないことが大事です。NASHについては治療薬がないことが課題でしたが、現在、世界的に治療薬の開発がおこなわれており、効果や安全性の調査について実施されているものもあります。日本でも近い将来、開発・調査中の薬が承認される可能性はあると思います」(黒田医師)  肝がんは前述のようにエコーによって早期発見ができます。慢性肝炎の場合、経過観察をする中で、初期の肝がんが見つかることも多いそうです。 「エコーでがんと思われる影やしこりが見つかった場合は、CT検査やMRI検査でがんの状態を詳しく調べます。悪性か良性かの区別が難しい場合には、病変の一部を取って詳しく調べる肝生検がおこなわれることもあります」(長谷川医師)  肝がんの治療はがんの大きさや個数だけでなく、肝臓が炎症によってどのくらい障害されているかで決まります。 「指標として使われているのが『Child-Pugh分類』です。肝機能に関連する検査数値や腹水の程度などを当てはめ、点数化して肝機能の障害度を評価します。障害度が軽く、初期のがんであれば、手術やアブレーション治療など外科的な治療が可能です」(同)  外科的治療が難しい場合には、肝動脈塞栓術や放射線治療があります。 「近年はとくに免疫チェックポイント阻害薬を含む薬物治療が大きく進歩し、進行した肝がんに対しても効果が期待できるようになっています。肝がんは再発をしてもさまざまな治療の手段がありますので、決してあきらめないでください」(黒田医師) (取材・文/狩生聖子) 【取材した医師】 岩手医科大学病院 消化器内科特任教授 黒田英克 医師 岩手医科大学病院 消化器内科特任教授 黒田英克 医師  東京大学病院 肝胆膵外科教授 長谷川潔 医師 東京大学病院 肝胆膵外科教授 長谷川潔 医師    
巻頭特集は「能登半島地震が突きつけた現実」 耐震化率、避難生活での災害関連死、デマ問題、活断層などを総力取材/『AERA』1月15日発売
巻頭特集は「能登半島地震が突きつけた現実」 耐震化率、避難生活での災害関連死、デマ問題、活断層などを総力取材/『AERA』1月15日発売 1月15日発売のAERA1月22日号は「能登半島地震」について総力特集。真冬の能登半島を襲った震度7の巨大地震が突きつけた「現実」とはなんなのか、耐震化率、避難生活での災害関連死、デマ問題、活断層などさまざまなテーマで取材しました。地震列島に生きる私たちが日常から備えるために必要な情報を網羅しています。表紙は注目のドラマ「おっさんずラブ-リターンズ-」がスタートした、田中圭さん。「恋人から家族になった」という今作への深い思いをロングインタビューで語ります。一テーマを深掘りする「時代を読む」では、大阪・関西万博の問題を取り上げました。災害リスクや膨大なコストなど山積する課題を分析します。波紋を呼んでいるタレント松本人志さんの活動休止。社会の性加害に対する意識の高まりが背景にあることや今後の影響などを専門家に取材しました。大好評連載「松下洸平 じゅうにんといろ」は俳優の光石研さんとの対談、全4回のうちの最後の回です。「将来の夢」について語り合います。ほかにも、多彩な記事が詰まった一冊をぜひご覧ください。   巻頭特集:能登半島地震が突きつけた現実 元日に起きた能登半島地震。ビルや住宅が倒壊し、未曽有の被害が拡大しました。その原因の一つにあるのが耐震化の遅れです。この地域の耐震化率は全国平均に比べても低く、高齢化が壁になっています。都道府県別の耐震化率を見ればほかにも進んでいない地域があることがわかります。命を救うための耐震化について、改めて考えてください。避難生活では災害関連死が大きな問題になっています。防ぐためには何に気をつければいいのか、専門家に詳しく取材しました。今回もSNSではデマ情報の拡散がみられました。情報拡散や情報収集の際に何に気をつければいいのか、詳報します。ほかにも、活断層や原発など地震に関わる様々な記事があります。さらには、地震発生翌日に起きた、支援物資を積んだ海保機とJAL機の衝突事故についても何が問題だったのか分析する記事もあります。この巨大地震が突きつけた「現実」について、多角的に考えることができる特集です。 表紙:田中 圭 表紙を飾る田中圭さんは、俳優として大きな転換点となった作品の続編「おっさんずラブ-リターンズ-」が放送中です。思い入れも強いこの作品について「付き合いの長いチームでまた仕事ができることは素直に嬉しいです」と語ります。「ほかのどの現場よりもアドリブの量が半端ない」という作品で、撮影時には「常に集中力が求められて何倍も疲れます」と笑います。今作では、関係性が「恋人から家族」に変わるとのこと。俳優同士の「本物の家族のような強くて温かい関係性」が作品につながると胸を張ります。表紙とグラビアの撮影はもちろん蜷川実花。田中さんの芯の強さや思いの強さを投影した写真の数々をぜひ誌面でご覧ください。 時代を読む:大阪・関西万博の問題山積 大阪湾を埋め立ててつくられた人工島の「夢洲」。この島で開催が予定されている大阪・関西万博には問題が山積しています。地震が起きたときの液状化、避難経路確保の難しさや土壌汚染といったリスク、事業を進めたい人たちの思惑によって底なしに膨れあがるコスト、といった数々の難題が横たわります。専門家への取材を通し課題をわかりやすく整理しています。 松本人志さん活動休止の波紋 7本のレギュラー番組を抱える超人気タレントの松本人志さんが、複数の女性に性的行為を強要した疑惑を報じられ、芸能活動を休止することを発表しました。松本さんは、名誉毀損だとして提訴の可能性を示していますが、このような状況が生まれた背景には何があるのでしょうか。近年、性加害に対しては社会全体の意識の高まりがあります。また、活動休止によって今後どんな影響がでるでしょうか。法律の専門家やお笑いに詳しい識者などとこの問題を考えました。 松下洸平×光石研 松下洸平さんがホストを務める対談連載「松下洸平 じゅうにんといろ」は、俳優の光石研さんがゲストの対談、全4回の最後の回です。役作りの話で盛り上がるうちに、話題は将来のことに及びました。松下さんが打ち明けた「将来の夢」とは何だったのでしょうか。柔らかな空気の中で進む二人のトークをお楽しみに。また、各ゲストとの対談、最後の回で松下さんがゲストをイメージして選ぶ色は何色でしょうか。誌面でご確認ください。 ほかにも、 ・「変動型」住宅ローン 金利上昇に備え ・ドラッグが蔓延 治安悪化のアメリカ西海岸 ・「。」に怒りの感情を読み取る若者 ・安全で奥が深いブラジリアン柔術がブームに ・宇野昌磨 再び宿った競技者としての闘志 ・向井康二が学ぶ 白熱カメラレッスン ・大宮エリーの東大ふたり同窓会 オザケン、倉本聰…の東大時代 ・武田砂鉄 今週のわだかまり ・ジェーン・スーの「先日、お目に掛かりまして」 ・現代の肖像 藤﨑 忍・ドムドムフードサービス社長 などの記事を掲載しています。 ※発売日の1月15日(月)正午からは、公式X(@AERAnetjp)と公式インスタグラム(@aera_net)で、最新号の内容を紹介する「#アエライブ」を行います。ぜひこちらもチェックしてください。 AERA(アエラ)2024年1月22日号 定価:470円(本体427円+税10%) 発売日:2024年1月15日(月曜日)
【前立腺がん】男性の罹患数第1位のがん 尿が出にくい、血尿で見つかることも 増加は肉を食べることが影響
【前立腺がん】男性の罹患数第1位のがん 尿が出にくい、血尿で見つかることも 増加は肉を食べることが影響   前立腺がんは、男性で罹患数第1位のがんです。高齢者に多いですが、40代、50代の働き盛りの人に見つかることも少なくありません。緩やかに進行し、早期発見で治療することで治りやすいのが特徴です。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  2019年に前立腺がんと診断された人は、9万4748人でした(国立がん研究センターがん情報サービス)。罹患数は増える傾向にあり、2030~34年には17万4410人に増えると予想されています(国立がん研究センターがん情報サービス「平成28年度科学研究費補助金基盤研究(B)〈一般〉日本人におけるがんの原因・寄与度:最新推計と将来予測」)。  前立腺がんにかかる人は、40代後半から徐々に増加し、60歳くらいから大きく増えます。10万人あたりの罹患率は、60代前半は187.6、60代後半は348.7、70代前半は538.1、最も多い70代後半は660.8です。高齢者には及びませんが、40代後半で3.7、50代前半で23.3、50代後半で75.3と、現役世代も無縁とは言い切れません。  前立腺は、男性のみにある臓器で膀胱の下にあり、内部には尿道が通っています。精液の一部となる前立腺液を分泌するとともに、収縮や弛緩により排尿や射精を調整する役割も担っています。  前立腺がんは、前立腺内で増殖し、やがて前立腺を覆う膜を越え、精嚢(せいのう)や膀胱、周囲のリンパ節などに広がります。さらに進行すると、骨や肝臓、肺などに転移します。  前立腺液にはPSAという物質が含まれており、前立腺がんになるとPSAが増え血液中に混じるようになります。前立腺がん検診では、この値を調べます。前立腺がんの早期には、ほとんど症状がないため、多くは前立腺がん検診をきっかけに見つかります。  前立腺がんになりやすい年代には、前立腺肥大症も起こりやすく、尿が出にくいといった排尿困難、血尿など前立腺肥大症の症状をきっかけに受診したところ、前立腺がんが見つかることもよくあります。  前立腺がん検診が広くおこなわれるようになり、早い段階で見つかることが多くなっています。しかし、進行して見つかる例もまだあります。東京慈恵会医科大学病院泌尿器科教授・診療部長の木村高弘医師はこう話します。 「前立腺がんには骨に転移しやすいという特徴があります。日本では、前立腺がん全体の15%ぐらいは、骨に転移した状態で見つかっています。昔は30%ぐらいでしたから減ってはいるのですが、例えばアメリカは約5%と、先進国のなかでは日本はまだ多いといえます」  前立腺がんの骨への転移は、脊椎(せきつい)や骨盤に起こりやすく、背中や腰などに痛みが生じます。また、骨をつくる細胞が異常に活性化され骨が増えるという特徴があります。腰痛などで整形外科を受診しX線検査を受けたところ、前立腺がん特有の影が認められるとのことで、すぐに泌尿器科に紹介される例がよくあります。 親や兄弟が前立腺がんの場合は、40歳から検診を受ける  前立腺がんの一部には、家族歴が関係しています。親や兄弟に前立腺がんの人がいる場合、前立腺がんになるリスクが2倍程度高いと言われており、注意が必要です。また、前立腺がんの増加には、食生活の欧米化で魚より肉を食べることが増え、動物性脂肪の摂取量が増えたことが影響していると考えられています。  大豆やトマト(リコピン)の摂取は、前立腺がんの発症リスクを下げる傾向があるというデータもあります。しかし、これらを毎日食べれば前立腺がんにならないとはいえず、明確な予防法はありません。 「前立腺がんの多くは、早く見つけ適切なタイミングで治療を受ければ治りやすいがんですから、検診が大切です。検診は、一般に50歳から受けることが推奨されていますが、家族歴のある人は、40歳ぐらいから受けることをおすすめします。働き盛りで忙しいとは思いますが、PSA値をチェックしましょう。また、排尿関連の症状がある場合は、放置しないで、泌尿器科でPSA検査を受けましょう」(木村医師)  PSA値は、前立腺肥大症などによる炎症が起きている場合にも高くなります。PSA値が高かった場合は、直腸診、超音波検査、針生検、MRI検査でがんかどうかを診断します。直腸診では、医師が直腸に指を挿入し、直腸の壁越しに前立腺に触れ、形や大きさ、硬さを調べます。針生検は、超音波画像やMRI画像をもとに直腸内腔または会陰(肛門と陰嚢の間)から前立腺に10カ所ほど細い針を刺し組織を採取し、それを顕微鏡で調べてがんの有無、悪性度を明らかにします。  なお、PSAに関連する物質「プロステートヘルスインデックス(phi)」の血中濃度を調べる検査が2021年に保険適用されました。PSA値によっては、追加でphiの値を調べ、針生検が必要かどうかを判断することもあります。 手術か放射線治療か。シェアード・ディシジョン・メイキングで選択  前立腺がんの治療法には選択肢が多く、監視療法、手術、放射線治療、ホルモン療法、化学療法などがあります。監視療法は、悪性度の低いものがわずかにあるなど命に関わらない状態のとき、すぐに治療はおこなわず定期的な検査で状態を見守り、経過観察をします。悪化したら根治のための治療をおこないます。  手術には、開腹手術、腹腔鏡手術、ロボット手術があり、主流はロボット手術です。  放射線治療は、放射線を外から当てる外照射と、前立腺の中に放射線を出す物質(線源)を入れる内照射に分かれます。外照射には、IMRT(強度変調放射線治療)、SBRT(体幹部定位放射線治療)、粒子線治療(陽子線・重粒子線)が、内照射には、LDR(永久挿入密封小線源療法)、HDR(高線量率組織内照射)があり、種類が豊富です。  ホルモン療法は、前立腺がんの増殖を促す男性ホルモンの分泌や働きをさまざまな薬で抑える治療法です。化学療法は抗がん剤を用いた治療で、多くの場合、ホルモン療法の薬と併用します。  がんの広がりや転移の有無、悪性度などがんの状態に応じて治療の選択肢が複数あります。例えば手術と放射線治療の成績が同等で患者自身がどちらかを選ばなくてはならない、さらに放射線治療にしようと思った場合には複数の選択肢があるなど、治療法選択に迷う人もいます。そのため、木村医師は「選択肢の多い前立腺がんでは、医療者と患者が話し合ってどれを選択するかを決めるシェアード・ディシジョン・メイキング(SDM)が重要」と言います。  シェアード・ディシジョン・メイキングとは、日本語では「共同意思決定」といい、医師や看護師などの医療者が患者に適切な選択肢を示し、それぞれのメリット・デメリットなどを説明したうえで、患者の選択を医療者がサポートするという考え方です。医療者は、説明だけして「決めてください」と患者に決定させるのではなく、患者の価値観や生活状況、今後の希望や人生への思いなどについても、患者と話し合います。 「1回の話し合いで決まることは少なく、何回か話し合うことがほとんどです。迷って決められない人には、○○までに決めましょうと期限を提示することもありますし、とても決められない、先生だったらどうしますかと言う人には、医学的な見地から選択を後押しすることもあります。前立腺がんの多くは、進行が緩やかなので、このように納得して選択するために時間をかけることができます」(木村医師)  海外の研究によると、患者が意思決定にしっかりと関与したグループでは、そうではないグループより、治療に対する後悔が少なく、患者の積極的な参画が重要であることが示唆されました。治療法の選択の際には、がんの状態のほか、治療の受けやすさ、合併症、現在の年齢や持病、体力などについて話し合い納得して決めるようにしましょう。 (文/山本七枝子) 【取材した医師】 東京慈恵会医科大学病院泌尿器科 教授・診療部長 木村高弘 医師 東京慈恵会医科大学病院泌尿器科 教授・診療部長 木村高弘 医師
大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは
大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは 1日半パックから1パックは食べたい(写真はイメージです Getty Images)    体に良いイメージしかなく、味噌、醤油など和食に欠かせない食材である「大豆」は、実は消化が難しく、摂りすぎは膵臓がんのリスクを高めるとの研究報告も。それでは、大豆のマイナス面を克服する一番、良い摂取法とは何か。アンチエイジングクリニックを開院した医師・満尾正氏の新著『ハーバードが教える 最高の長寿食』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ソイプロテインなどの、長期間の過剰摂取は要注意  大豆は和食には欠かせない食材であり、大豆を使った豆腐、湯葉、油揚げなどの大豆製品や、煮豆などの豆料理も種類が豊富です。大豆は良質なたんぱく源となるうえ、糖質、ビタミン・ミネラル、食物繊維もバランスよく含んでいます。また、大豆イソフラボンという微量成分が含まれています。  大豆イソフラボンは化学構造上、女性ホルモン(エストロゲン)と似ているため、生体内でエストロゲン受容体と結合し、弱いエストロゲン様の作用を発揮します。更年期症状の改善のほか、乳がん、前立腺がん、骨粗しょう症などの予防に役立つと言われています。      健康に寄与する食材であることは確かですが、大豆偏重志向になって摂りすぎるのは考えものです。基本的に大豆は消化吸収が難しい食材でもあります。50年ほど前のマウスを使った動物実験でも大豆を与えたマウスの膵臓に負担がかかるということが実証されているのですが、近年、国立がんセンター研究所からも「大豆製品の過剰摂取は膵臓がんの発症率を増やす」という警告が出されています(注1)。 【こちらも話題】 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 https://dot.asahi.com/articles/-/210557  実際に、私のクリニックでも、枝豆、豆乳、豆腐など、大豆食品ばかり食べていて、膵臓がんのマーカーが上がってしまった人がいました。  こうしたリスクを経験的に知っていたのか、先人たちは体に消化吸収の負担がかからないように大豆を発酵させて食べるという文化を発展させました。それが日本独自の発酵文化によって生み出された味噌であり、納豆です。国立がんセンター研究所のデータでも、味噌、納豆では膵臓がんの発症率が増えるというデータが見られません。  たんぱく質ブームもあって、サプリメントなどから大量にソイプロテイン(大豆たんぱく)を摂取している人も少なくありませんが、こうしたリスクもありますから、長期間、大量に摂取することには注意が必要です。ほどほどの摂取が賢明です。 世界が注目する納豆のすごい実力  大豆を加工した食品の中でも、おすすめの食品が「納豆」です。「スーパーフード」として世界で注目されています。納豆に特有の納豆菌は食品類の中で最も増殖力が強い菌として知られ、病原性大腸菌O-157の繁殖を抑えるほど強力であることがわかっています。腸内細菌叢のバランスを整えることができ、納豆菌があると乳酸菌のはたらきを強めることも知られています。  また、大豆を発酵させて作っている発酵食品ですから、「大豆イソフラボン」という大豆特有のポリフェノール成分も摂取することができます。 【こちらも話題】 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ https://dot.asahi.com/articles/-/210549  さらに、近年の研究で納豆に含まれる「スペルミン」というタンパク質の一種が細胞の代謝を促進し、体内の炎症を抑えることがわかり、健康長寿にも関係するのではないかと注目されています。  納豆には、ビタミンD、マグネシウム、亜鉛など、現代人に不足しがちな栄養素も含まれています。特筆すべきは、ビタミンKが豊富なことです。ビタミンの名称は発見された年代順に決まりますので、Kは発見されたのが最も新しいビタミンなのですが、近年の研究で重要な働きがあることがわかってきて、ビタミンKの話題もよく耳にするようになりました。  ビタミンKは動脈壁からカルシウムを抜き取り、骨へ移動させる作用があり、骨を作るのに欠かせません。動脈壁からカルシウムを抜き取るということは、血管へのカルシウムの沈着を起こりにくくするため、動脈硬化の予防効果もあります。納豆が作り出す酵素の一つ「ナットウキナーゼ」も消化管から血液中に取り込まれ、血液をサラサラにして血栓を予防する効果があります。  和食に特有のスーパーフード、納豆の恩恵を享受しない手はありません。毎日納豆を食べる習慣を持つことで、長期的に体を生活習慣病から守り、健康長寿に寄与することが期待できます。  国立がん研究センターのチームによる研究では、過去に循環器疾患にかかったことのない45〜74歳の男女約9万人に対する追跡調査で死亡リスクを調べると、毎日25g(半パック程度)の納豆を食べるグループは、全く食べないグループより循環器疾患で死亡するリスクが男女とも2割少ないという結果が出ています(注2)。毎日半分~1パックの納豆を食べる習慣を取り入れましょう。  納豆を冷蔵庫に常備して、おかずの定番にしてください。白いご飯の食べ過ぎには注意が必要ですから、「納豆はご飯にかける」というワンパターンな食べ方ばかりではなく、豆腐にかけたり、青菜と和えたり、納豆オムレツにしたりと、色々な美味しい食べ方を工夫してみましょう。 注1 Soy Food Intake and Pancreatic Cancer Risk: The Japan Public Health Center-based Prospective Study. Cancer Epidemiol Biomarkers Prev. 2020 Jun;29(6):1214-1221. doi: 10.1158/1055-9965.EPI-19-1254. 注2 Japan Public Health Center-based Prospective Study Group. Association of soy and fermented soy product intake with total and cause specific mortality: prospective cohort study. BMJ. 2020 Jan 29;368:m34. doi: 10.1136/bmj.m34. 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ●満尾 正(みつお・ただし) 満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。  
血尿が出たら「腎がん」かも! 進行すると腰の痛みも 手術で腎臓一つになり機能低下が進むと人工透析に
血尿が出たら「腎がん」かも! 進行すると腰の痛みも 手術で腎臓一つになり機能低下が進むと人工透析に  自覚症状がほとんどなく、健康診断や人間ドックのエコー検査などで見つかることが多い腎がん。男性のほうが女性より2倍以上かかりやすく、特に男性は尿検査で尿潜血が指摘されたり、肉眼で見える血尿が出たりしたら要注意。早めの受診が肝心です。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。 *  *  *  腎臓は空豆のような形をした臓器で、腰の辺りの左右に一つずつあります。尿を作って血液の中の老廃物や塩分など不要なものを体外に排出したり、体液や血圧の調節したりするなど、重要な役割を担っています。   腎がんは腎臓の細胞ががん化したもので、腎細胞がんとも言います。罹患率は男性のほうが女性の2倍以上多く、人口10万人あたりの患者数は24人(男性では34人/女性では15人)程度とされています。近年増加傾向にあり、最も多い年代は60~70代ですが、若い人でもかかることがあります。 自覚症状なし、多くは健診や人間ドックで見つかる  早期の腎がんでは自覚症状がなく、健診や人間ドックなどで見つかることがほとんどです。大阪国際がんセンター泌尿器科副部長の中井康友医師は、次のように話しています。 「がんがある程度進行している場合には、血尿や腰の辺りの痛み、しこりなどの自覚症状が出ることがあります。ただ、そこまで進行して見つかることは少なく、大多数は健診や人間ドックの腹部エコーなど画像検査で見つかります」 尿検査の潜血反応や血尿が出たら病院の受診を  腎がんは、糖尿病などで人工透析を受けていたり家族に腎がんになった人がいたりする場合になりやすい傾向が見られます。ただ直接の原因はよくわかっておらず、誰でもなる可能性があるといえます。健診や人間ドックを定期的に受けること、尿検査で尿潜血を指摘されたり血尿が出たりしたら、すぐに病院を受診することが何よりの予防策です。 「血尿を軽く考えている人は、とても多いのです。忙しくて疲れたからとか、ストレスがかかったから血尿が出たと言う人がいますが、血尿は腎がんだけでなく何らかの病気のサインであることがほとんどです。特に肉眼でわかるような血尿が出た場合には、すぐに病院を受診することをお勧めします。血尿を甘く見てはいけません」(中井医師)  病院に行くときは、まず近くのクリニックや診療所を受診するか、健診や人間ドックを受けた医療機関などで、がん専門病院泌尿器科宛ての紹介状をもらい、それを持って受診します。 検査方法はCTやMRIなどの画像診断  腎がんかどうかの診断は、CTやMRIなどの画像検査をおこなって判断します。画像検査で診断がつかない場合には、直接腎臓に針を刺して組織を取り、がんであるかどうかや悪性度などを詳しく調べる腎生検をおこなうこともあります。  例外はありますが、腎がんの進行はそれほど速くはなく、比較的ゆっくりと進みます。ただ自覚症状がないため、腎臓の周りの臓器やリンパ節にがんが広がったり肺など他の臓器に転移したりするなど、進んでから見つかることもあります。 治療は手術、部分切除か全摘か  がんなどの病気に対し、有効性と安全性が確認された最も信頼できる治療のことを標準治療といいます。腎がんの標準治療は手術です。早期に見つかった4㎝以下の小さいがんでは、がんの部分をくりぬいて切り取る腎部分切除術(部分切除)がおこなわれます。また、大きくなったがんや、がんが進行して周囲に広がっていたり(浸潤)転移があったりするなど部分切除が適さない場合には、がんのあるほうの腎臓すべてを摘出する腎摘除術(全摘)をおこないます。  部分切除は、現在ではロボット手術が主流となっています。おなかに小さな穴を数カ所開け、そこから腹腔鏡などの器具を差し込んでロボットで操作しながら切除する方法です。  全摘には開腹手術と腹腔鏡手術の2種類があり、腹腔鏡手術には腹腔鏡を医師が使っておこなう腹腔鏡手術と、医師がロボットを操作しておこなうロボット手術があります。  開腹、腹腔鏡、ロボットのどの方法でおこなうかは、がんの進行状態やがんのある場所などによって判断されます。がんが大きな血管の近くにある、浸潤が広がっている、など難しくリスクが高い症例の場合には、開腹手術が選択されることも多くあります。  大きながんや浸潤、他の臓器への転移などがある場合には、手術の前後に免疫チェックポイント阻害剤や分子標的薬などによる薬物治療がおこなわれることもあります。 手術方法は主治医とよく相談して  もし腎がんと診断されて手術を受けることになった場合には、自分自身の仕事や生活、手術後の人生を考え、主治医とよく相談して部分切除か全摘かを決めることが大切です。  部分切除では切り取った部分以外は残るため、片側の腎臓すべてを取ってしまう場合に比べて腎臓の機能を温存できるというメリットがあります。しかし、がんができた場所などによっては、縫い合わせたところからの尿漏れや出血など合併症と呼ばれる症状が起きることがあります。一方、全摘の場合はそれらの合併症の可能性は低いですが、腎臓が一つだけになるので機能の低下は避けられません。  腎臓の機能低下が進むと、血中の老廃物や塩分などを十分に排出できずに腎不全を起こし、最終的には人工透析が必要になる場合があります。  自分のがんでは、どの程度合併症が起きる可能性があるのか、仕事や生活の支障になるか、また腎機能の低下の可能性などを医師に相談し、きちんとした説明を受けた上で納得して手術を受けることが重要です。もし、十分な説明がない場合や相談ができない場合には、他の病院に診断を求めるセカンドオピニオンを考えても良いでしょう。 治療後も定期的に検査を受け、再発を予防する  早期に見つかった4㎝以下の腎がんで部分切除をした場合、術後は定期的に病院でCTなどの検査を受ける経過観察になります。 「他のがんでは、5年以内に再発しなければ大丈夫、と言われることもありますが、腎がんの場合、4㎝以下の小さいがんでも時間が経ってから再発する可能性があります。ですので、5年経過後も経過観察を続けることがとても大切です。CTでなくても、胸部X線検査やエコーでも良いので、定期的なチェックを続けましょう」(中井医師)  手術をした病院が遠くて通うのが大変な場合などには、地元の病院やクリニック宛ての診療情報提供書を書いてもらい、行きやすい医療機関で検査を受けるようにすると、通院の負担や労力を軽くすることができます。 (文/梶 葉子) 【取材した医師】 大阪国際がんセンター 泌尿器科 副部長 中井康友 医師 大阪国際がんセンター 泌尿器科 副部長 中井康友 医師  
大地震の後に津波はいつ来るのか 「揺れが収まったらすぐ避難」と専門家は強調
大地震の後に津波はいつ来るのか 「揺れが収まったらすぐ避難」と専門家は強調 津波で多くの家屋が倒壊した石川県能登町の白丸地区。冷たい雨の中、自宅に残っている荷物を探しに来た人の姿が見られた=1月3日、石川県能登町    元日に発生した能登半島地震は、最大震度7という激しい揺れのほかに、津波による被害も徐々に明らかになりつつある。震源が沿岸から近かったため、津波の「第1波」は地震の発生から数分後、場所によっては気象庁の津波警報・注意報よりも先に到達したと見られている。そんな津波のリスクに対し、我々はどう備えればいいのか。 *   *   *  今回の地震では、震度7の激しい揺れに加え、能登半島の各地を津波が襲った。  国土交通省によると、震源に近かった石川県珠洲市、能登町、志賀町では、津波で浸水した面積が少なくとも計120ヘクタールになった。また、京都大防災研究所などの調査によると、志賀町の赤崎・鹿頭地区では5.1メートルの高さまで津波が押し寄せていたという(1月8日時点)。  しかし、津波で被害を受けた住宅の数や各地での浸水の深さなど、被害の全容はまだわかっていない。    今回の地震発生は、1月1日16時10分ごろ。気象庁は16時12分に津波警報を出したが、すでに石川県能登、富山県、新潟県上中下越、佐渡の各地域には高さ最大3メートルの津波が到達しているという発表だった。  気象庁地震津波監視課の担当者は、 「必ずしも津波が到達する前に警報が出るわけではありません」  と説明する。  では実際の津波の「第1波」はいつ、沿岸部に到達したのか。  気象庁の観測によると、輪島港(石川県能登)に第1波が到達した時刻は16時10分、富山では16時13分だった。  津波警報が出される前、もしくはほぼ同時に津波が来ていたことになる。   これ以上早く出すのは難しい  津波警報は、どのようにして出されるのか。  気象庁によると、地震が起きると観測データから震源の位置や深さを判断し、地震の規模(マグニチュード、M)を決める。それらのデータと津波を予想したシミュレーションのデータベースとを組み合わせて、各地域の津波の高さや到達時間を推定するという。     【こちらも話題】 能登半島地震でPayPay寄付詐欺「引っ越してきたばかりで娘が震えて…」被害男性が信じたSNS https://dot.asahi.com/articles/-/210703     気象庁が1月1日16時22分に出した大津波警報などの発表状況=気象庁提供    津波警報・注意報の第1報は、地震の発生から3分程度を目標に出している。これが自治体や報道機関や、携帯電話会社などを経由し、住民らに伝えられる仕組みになっている。さらにその後も地震の情報が精査され、15分以内を目安に更新された津波警報・注意報の第2報が出されるという。  今回は地震発生から2分後の16時12分に第1報が出された後、16時22分の第2報で石川県能登に最大5メートルの大津波警報を発出した。これは第1報の段階では地震の規模をM7.4と判定していたが、その後にM7.6と大きくなったためだ。  気象庁の担当者は、こう語る。 「警報はすべて自動的に出ているわけではありません。震源の位置や地震の規模などは担当者が判断するため、どうしてもそのための時間が必要です。津波警報を出すまでの時間は、すでに極限まで短くなっている。これ以上早く出すのは、どうしても難しい」    2011年3月の東日本大震災では、地震発生から津波到達まで時間があった。今回はなぜ津波がすぐに到達したのか。  津波や地震のメカニズムに詳しい東北大の今村文彦教授は、 「沿岸に近いところにある断層が動いたのが原因」  と話す。  東日本大震災は、日本列島が載っている陸側の北米プレートと、その下に潜り込むように動いている海側の太平洋プレートの境界付近で発生。震源は陸地からも遠かったため、津波が沿岸部に到着するまでに時間がかかった。想定されている南海トラフ巨大地震も、この「プレート境界型」だ。     日本海における大規模地震に関する調査検討会の「海底断層ワーキンググループ報告書」で示された海底の断層(赤い線)の位置=国土交通省の資料から    しかし、日本海側での地震は、陸地や陸地に近い海底の断層で起こることが多く、震源も比較的浅いため、津波が起きればすぐに沿岸部に到達することになる。  能登半島周辺でも、半島の北から北東の海底に断層があることが知られていた。今回はこの断層も含めて長さ150キロにわたって陸側に動いたと見られている。沿岸に近い海底が隆起したり沈降したりして発生した津波が、すぐに到達したという。 「私たちのシミュレーションでは、一番早いところで、珠洲市で1分以内に津波の第1波が到達、七尾市(石川県)では2分以内に到達したことがわかりました。津波警報を聞いて、住民らが避難する間もなく津波が到達していたと考えられます」(今村教授)     日本海側でも太平洋側でも津波には警戒  日本海側ではこれまで大きな津波の発生が少ないイメージもあるが、実際はそうではない。  1993年の北海道南西沖地震(M7.8)では、震源に近い北海道・奥尻島に地震発生から数分後に津波が到達。高さは最大で29メートルにもなり、200人以上の死者を出した。  83年に起きた日本海中部地震(M7.7)では、青森県と秋田県の沿岸部に地震から8~9分後には津波が襲来。最大で14メートルの津波にもなり、100人以上の死者を出している。  これら二つの大地震は「日本海東縁部」と呼ばれる北海道沖から新潟県沖にある活断層で起きたと見られている。また、北海道から北陸にかけては海側と陸地にまたがる「海陸断層」や沿岸との境界にある断層が30あまりあると言われている。今回の能登半島地震もこの海陸断層で起きたと見られる。  今村教授はこう指摘する。 「太平洋側のプレート境界型の地震は頻度が高く、研究や自治体での対策も進んできました。一方で、日本海側は活断層型の地震で起こる頻度が低く、よくわかっていないことも多かった。近年の研究で断層の位置や、過去に大きな津波があったことなどがわかってきていますが、自治体ではまだ十分に対策が進んでいない現状があります」    もちろん太平洋側で起きた地震であっても、津波がすぐに襲来する可能性はある。      近い将来の発生が懸念されている南海トラフ大地震について、国の中央防災会議ワーキンググループが2012年にまとめた「津波到達時間一覧表」によると、地震発生後、静岡県には1メートルの津波が2分で、和歌山県には3分、三重県では4分で到達する。  もう少し具体的な地域で見ると、焼津市(静岡県)では2分で1メートル、4分後には5メートルの津波が、串本町(和歌山県)では3分で1メートル、5分で5メートルの津波が来ると予想されている。  津波被害が想定されている沿岸自治体では、住民の避難訓練のほか、津波タワーの設置や住宅の高台移転なども進められている。   揺れが収まったら海からすぐ離れる  もし、たまたま海の上や海岸にいるときに大きな地震に遭遇したら、どんな行動をするべきか。気象庁の担当者は、こう語る。 「津波で海中に引きずり込まれる恐れがあるため、すぐに陸に上がる。そして、沿岸から速やかに高台へ避難することが必要です」  今村教授も、 「揺れが収まったら、すぐに沿岸部から離れることが不可欠です」  と強調する。  沿岸で生活する住民のためには、短時間で安全な場所まで避難することが難しい地域であれば、避難タワーや避難ビルを確保しておく必要がある。 「賛否はありますが、防潮堤や防波堤も津波の到達を遅らせる効果があります。どうやって防災するのか、地域での議論が必要です」(今村教授)  いつ発生するかわからない地震、突然襲ってくる津波に、どう備えるか。だれしも「他人事」ではすまされない。 (AERA dot.編集部・吉崎洋夫)   【こちらも話題】 津波警報が出ても避難しない親「前も大丈夫だったから」の間違った心理 後悔させない「声かけ」<能登半島地震> https://dot.asahi.com/articles/-/210562  
“悟る前”のブッダの人生にこそ老いを楽に生きるヒントが 老病死が近づく「林住期」の重要性
“悟る前”のブッダの人生にこそ老いを楽に生きるヒントが 老病死が近づく「林住期」の重要性 ※写真はイメージです。本文とは関係がありません(๋J88DESIGN / iStock / Getty Images Plus)  超高齢社会を迎えた日本。そんな現代だからこそ、ブッダの人生、特に古代インドの四住期で考えた「林住期」の生き方から、老いのヒントを学ぶべきと教えてくれるのは、宗教学者の山折哲雄氏。国際日本文化研究センターの所長なども歴任してきた山折氏の新著『ブッダに学ぶ 老いと死』から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 「悟る以前の釈迦」と「悟った釈迦」の二分法では見えてこないもの  私たちの生き方のヒントは、悟る前の釈迦、俗人釈迦の生き方にこそあるというのが私の主張です。  仏教は今から約2500年前に釈迦によって説かれるようになりました。その頃、インドのいわゆる知識人の間ではバラモン教(ヒンドゥー教)が主流を占めていました。つまりインドでは、仏教以前から出家者によって重要な人生観が説かれていたわけです。  その代表的な人生観は「四住期」です。これは人生を四段階のライフステージに分ける考え方です。 ・第一段階「学生期」 ・第二段階「家住期」 ・第三段階「林住期」 ・第四段階「遊行期」  このように分ける考え方で、釈迦の人生観、つまり生老病死観と表裏の関係にあります。  もっと端的に言うと、釈迦はこの四住期を意識して生きた知識人でした。だから釈迦の人生、あるいは釈迦の教え、釈迦の言葉を本当に理解するには、まず四住期というインド古来の人生観を知ることが不可欠なわけです。  ただ一方で、釈迦の教え、釈迦の言葉は悟りを開いたのちに唱えられたものが中心になっています。つまり釈迦は、悟った結果、つまり賢者になってから自分自身の体験などを語ったということになっています。それが仏教として受け取られてきたわけです。  もちろん悟りを開く以前のことも、神話のようなかたちで悪魔の誘惑や遊女の誘惑、あるいは赤子の釈迦が「天上天下唯我独尊」と言ったという話、14歳の時に老人、病人、死者、出家者を見て人生に迷い、悩むようになったという「四門出遊」の話などが伝えられています。  ただしそれは、さまざまな苦しみから離れて、悟りを得て、釈迦の本当の人生が始まったという二分的なかたちになっています。つまり、悟る以前の釈迦の人生は神話的な物語として、克服されるものとして語られているわけです。  要するに仏教者にとって、悟り以前の釈迦の人生、あるいはその人生観は仏教以前という位置付けでしかありません。  近代的仏教学も、釈迦は仏教以前のバラモン教、つまりインド古来の知識人たちの人生観を否定して、出家をして悟りを開いたという前提に立っています。釈迦は悟ることによって、それ以前にインド社会の一般的な知的な人々が考えていた人生観を抜け出たと。  しかし釈迦の人生は、仏教以前からある当時の知識人たち、あるいは一般のバラモン教徒たちの人生観と対比しながら考えないと、悟ったあとの釈迦、賢者の釈迦の姿しか見えてきません。そこに至るまでに苦しんだ釈迦のライフステージが隠されてしまうからです。  つまり、近代的仏教学のように悟り以前と悟ったあとの釈迦を真っ二つに分けて考えると、釈迦の80年の生涯を全体として捉えることができないんですね。  だから仏教以前からインド社会の中にある知識人から文字の読めない庶民までを含んだ広範な人々の人生観、死生観を明らかにする必要があります。そして、そこに生まれ育った釈迦が徐々に苦しみから抜け出ていくプロセスを捉える必要があるわけです。  インドの歴史やインドの哲学者、賢人たちが説いた教えなどを総合的に見渡すと、そこには共通して流れている人生観があります。それが初めに述べた四住期なんですね。人間というものは四つのライフステージを経て最期を迎える。それが非常に理想的であるという人生観です。  四住期という考え方が釈迦のはるか以前から説かれていたことは、たとえば、バラモン教の教えをまとめた『マヌ法典』を読むとよくわかります。 『マヌ法典』は紀元後に知識人によって文字化されたものですが、その内容は古来、口頭で伝承されてきた事柄であって、仏教以前から広範な人々に受け入れられてきた教えです。つまり四住期は、インドの普通の庶民が自然に受け入れていた人生観なんですね。 山折哲雄『ブッダに学ぶ 老いと死』(朝日新書)>>本の詳細をAmazonで見る 林住期とは「家出」をして自由になる時代  さて、四住期の中身は何か。  第一期の学生期は日々学び、親や教師に従う生活を送る、文字通り「学生の時代」です。  第二期が家住期、家に住むです。仕事に就いて結婚して子どもを作り、「経済人・家庭人として活動する時代」です。  そして第三期の林住期。当時のインドは家父長制の社会です。家庭を持ち、子どもを社会的人間に成長させたあと、父親は息子に家長を譲ります。そして家を一時的に出て旅をしたりしながら本当にしたかったことをする。つまり、「自由を享受する時代」です。  旅に出て音楽の世界に入ったり、森に入って瞑想にふけったり、いろいろな人々と交流したりと、それまでの世俗的な生活を抜け出て自由気ままに生きる。場合によっては女に狂ったり、酒に溺れたりもする。とにかく一時的に家や家族の縛りから逃れ出て、自由な生活を送る時代が林住期です。  これは要するに「家出」なんです。家を出るといろいろな発見があります。世俗的な心の疲れもリフレッシュされる。場合によっては自由に溺れて失敗して、のたうち回るような思いもする。林住期には人それぞれ、さまざまな人生的な経験をするわけです。今でもインドに行くと、そんなふうに生きている人たちがたくさんいます。  林住期は中途半端と言えば中途半端ですが、自然の中での生活と旅暮らしの時代、あるいは瞑想と遊びの時代です。  ただし、ほとんどの人間はやがてお金が尽きます。年も取るし、病気にもなります。家を出ているから、このまま死んだらどうしようと不安になります。つまり林住期は、だんだん老病死が近づき、その苦悩が深まる時代でもあるわけです。  そういうプロセスの中で、さて、どうするかと考える。その意味では、林住期は自分の晩年に思いを巡らす自由な時間でもあるんですね。  こういう時期をライフステージに組み入れたインドの賢人たちの人生観はなかなかのものです。私が知る限り、林住期のようなカテゴリーを人生観の中に取り入れた民族、文化はインド以外にあまりありません。  林住期の中で死が近づいてきた人間はどうするか。ほとんどが世俗に、自分の妻のもと、家族のもとに戻ってきます。  ただ、世俗に戻って元の木阿弥かというとそうじゃない。林住期で別の世界をさまよい歩いた、その結果、さまざまな人に出会って、さまざまなことを学んできた。そのいわばリフレッシュの蓄積が、再び始まる家族、あるいは共同体の暮らしの中で活かされます。つまり林住期は、ある種の成熟の時間でもあるわけです。 遊行期に進んだほんのわずかな人が釈迦でありガンディー  林住期の次が最終のライフステージ、第四期の遊行期です。日本のいわゆる生き方本には「それまで得た経験や知識を、世間に伝える時期」といった説明も見られますが、本来の遊行期は違います。生き方本にある説明は先ほど言った林住期を経て世俗に戻ったあと、つまり林住期のいわば延長の話でしかありません。  実は最終ライフステージの遊行期に進めるのは、ほんのわずかの人間です。遊行期に進んだ人間は、もはや家族、共同体のもとには帰りません。帰らずにどうするか。現世を放棄して、一人の遁世者、聖者として全く別個の人生を歩み始めます。  要するに現世放棄者、遁世者、聖者になった最も代表的な人物が釈迦なんです。現代においてはガンディーが遊行期を生きた一人と言えます。  私は俗と聖を行き来する林住期にこそ、「人生100年時代」を生きる今日の私たちが、老病死に対する不安にどう立ち向かうかという問題を考えるヒントがあると思っています。  ともすると私たちは、老病死から遠い人生の前半を明るい50年、老病死に近づく人生の後半を日陰の50年と二元的な対照に考えがちです。  しかし、人生の後半の50年を林住期と捉え、俗と聖を行き来するような生き方ができれば、決して日陰にはなりません。現に92歳の私は林住期を生きていて、極めて明るく老病死に立ち向かっているつもりです。
正月太り解消には高たんぱく食「体重別・1日の必要たんぱく質が一発で計算できる表」
正月太り解消には高たんぱく食「体重別・1日の必要たんぱく質が一発で計算できる表」 (撮影/写真映像部・上田泰世)    年末年始に増えた体重に焦り、極端なダイエットに走っていないだろうか。間違った食事制限では、かえって痩せにくい体になってしまう。ではどうすればいいのか。鍵を握るのはたんぱく質だ。AERA 2024年1月15日号より。 *  *  *  年末年始の“食っちゃ寝”で体の重さを感じる。思い切って体重計に乗ると、やはり。  帳尻を合わせるため極端なダイエットに走ろうとするのは、これで何度目だろうか。朝はコーヒー、昼はおにぎりかサンドイッチ一つ、夜はノンオイルドレッシングのサラダ──。  そんな食事制限のやり方に警鐘を鳴らすのは立命館大学スポーツ健康科学部教授の藤田聡さんだ。「栄養もロクにとらない食事制限を続けると、かえって痩せなくなる」という。 「米やパンを抜きすぎて糖質が不足すると血糖値が下がります。すると人間の体は血糖値を維持するため筋肉の一部をアミノ酸に変換し、エネルギーとして使います。ここでたんぱく質が入ってこないと新しい筋肉が作られず、分解されっぱなしになるわけです。食事制限で一時的に体重が減っても、筋肉が失われたことで基礎代謝が下がり、リバウンドしやすくなります」 たんぱく質で熱産生  基礎代謝とは、体温の維持や臓器の活動のために消費するエネルギーのこと。人間が消費するエネルギー量の6~7割が、生きているだけで消費される。残り2~3割が運動に伴う代謝(通勤などで単に体を動かす+スポーツなど)。食事による代謝(後述)が1割ほどだ。 「全体の6~7割を占める基礎代謝量の内訳を見ると、約20%が筋肉によるもの。筋肉は使われていない間も熱を生み、体温を維持しています」  筋肉が減るとエネルギーの消費効率は低下する。その結果、太りやすく痩せにくい体になってしまう。 「たんぱく質や各種栄養素が不足すると食事の満足感も得られにくくなります。その結果、食べすぎてしまいがちです」  食べすぎていないのに、若い頃よりふくよかになった人もいるだろう。これは加齢と運動不足、食が細くなり自然とたんぱく質の摂取量も減ることなどにより筋肉が落ち、太りやすくなるためだ。人の筋肉量は25歳から30歳にかけてピークを迎え、70代にピーク時の半分まで減るというデータもある。  加齢による筋肉の減少を「サルコペニア」という。自覚症状を感じにくいが、生活習慣病の一因に。心筋梗塞、脳卒中、糖尿病のリスクが高まる。 藤田聡(ふじた・さとし 53)/立命館大学スポーツ健康科学部教授、運動生理学博士。栄養、運動、筋肉の研究で有名。たんぱく質摂取を重要視(写真:本人提供)    サルコペニアが進行すると筋肉や骨、関節が弱り、「立つ・座る」などの日常動作が難しくなる「ロコモティブシンドローム」につながる。転倒しやすくなり、骨も折れやすくなり……。  厚生労働省は「たんぱく質の摂取不足が最も直接的に強い影響を及ぼし得る疾患」として、前述のサルコペニアに加え「フレイル」を挙げている(「日本人の食事摂取基準〈2020年版〉」、以下同)。フレイルは加齢により身体能力が低下し、健康障害を引き起こした状態。  そこまでつらいことにならずとも、たんぱく質の不足は皮膚のたるみ、肌荒れ、髪のツヤ喪失、薄毛などにつながる。要するに“老けて見える”わけだ。 「老け見え」を防ぐ 「逆にいえば、たんぱく質をとることで筋肉、血管、内臓、肌、髪、爪などあらゆる部位に好影響をもたらすわけです。健康維持のため、減量中でも意識してたんぱく質をとりましょう」  藤田さんは、たんぱく質をとると消費カロリーが増える(痩せやすくなる)データも見せてくれた。ここで重要なのが「DIT(Diet Induced Thermogenesis=食事誘発性熱産生)」だ。  DITとは、食後に体が消化・吸収・代謝する過程で熱が発生すること。モノを食べると体があたたかくなるのはDITの作用によるものだ。 「たんぱく質の場合、摂取エネルギーの約30%がDITで消費されます。糖質のDITは6%、脂質は4%。つまりたんぱく質の熱効率は糖質の5倍、脂質の7.5倍もあるわけです」  だからといってたんぱく質だけを重視し、糖質や脂質をまったくとらないのはダメ。 「筋肉の維持に糖質や脂質も必要です。体重を健康的に減らしたいならたんぱく質は意識して多くとる。糖質や脂質は通常より控えめに。これが一番いい」  ダイエットが必要ない人も、健康と若さ維持のためたんぱく質はたっぷり摂取してほしい。 AERA 2024年1月15日号より   たんぱく質の目標量  さて「たっぷり」とはどのくらい? 厚労省は、1日に必要なたんぱく質に関して「推定平均必要量」「推奨量」「目標量」という基準を公表している。 「推定平均必要量および推奨量は『最低限必要なたんぱく質量』で、目標量は『生活習慣病予防を見据えた理想的な摂取量』ととらえてください。目標量の下限値は、2015年基準で全体の13%がたんぱく質になるように記されていました。これが20年版では50歳以上で14%、65歳以上で15%にアップ。たった1~2%と思うかもしれませんが、実際にたんぱく質をとる量で考えると大きな変化です」 AERA 2024年1月15日号より    国が示す1日のたんぱく質目標量をまとめた。活動量「普通」の40代男性で88~135グラム、同女性67~103グラム。参考までに、皮なし鶏むね肉1枚・約250グラムのたんぱく質は約58グラム、卵1個の可食部が5~6グラムと算出できる(文部科学省「日本食品標準成分表〈八訂〉」増補2023年、以下同)。  体重が軽い人と重い人では必要なたんぱく質にも差が出る。そこで藤田さんが最新データを元に、体重と活動量による必要たんぱく質量の計算式を作ってくれた。名付けて「藤田式・必要たんぱく質速算表」。体重に所定の数字を掛け算すればいい。活動量の低い男性は体重×1.32グラム、女性1.27グラム。活動量が多い人は体重×1.62グラム(男女の区別なし)。65歳以上の男性は体重×1.36グラム、女性1.30グラムだ。 「65歳以上は、64歳以下(の活動量の低い人)より積極的にたんぱく質をとることをおすすめしています」  素朴な疑問を一つ。今80キロだが、70キロに減らしたい。この場合、80キロで計算すればいいのか。それとも「なりたい体重」──この場合70キロで計算すればいいのだろうか。 「ダイエット中でも今の体重を基準にしてください。筋肉の減少で体重を落とさないほうがいい。減らすべきなのは余計な脂肪ですから。たんぱく質、糖質、脂質の中で優先してカットすべきは脂質です」  たんぱく質を過剰摂取すると腎臓に悪いという意見もある。腎機能が低下した人に低たんぱく食が推奨されるためだろう。この健康リスクについて、藤田さんは「エビデンス(根拠・裏付け)は無い」と語った。 コンビニやスーパーで買いやすい高たんぱくな食べ物ベスト5。サラダチキンは味のバリエーションが豊富に(この写真はケイジャン味)。ゆで卵、チーズ、魚肉ソーセージはおなじみ。ギリシャヨーグルト「オイコス」の大きめサイズは1個170gの中にたんぱく質18g入り(撮影/写真映像部・上田泰世)   腎機能低下のリスク 「8年分の学術誌を追跡調査しました。その結果、実はたんぱく質の摂取が少ない人こそ腎機能低下のリスクが高いと結論づけられていることがわかりました。高齢者を対象とした研究でも『たんぱく質の摂取量による腎機能の差はなかった』と報告されています」  たとえば水や醤油でも、とんでもない量をとると死ぬ。常識的な範囲なら、たんぱく質のとりすぎを心配しなくていい。  唯一注意すべき点があるとすれば、腸の健康だ。 「たんぱく質の過剰摂取は、腸内細菌のバランスを乱すリスクがあります。ヨーグルトなどの乳酸菌と、食物繊維を含む食材も組み合わせ、腸の健康も考慮した食生活を心がけましょう」  藤田さんはたんぱく質を「毎食こまめに」摂取することを推奨している。 「朝食には卵料理、チーズ、ヨーグルト。昼食もざるそばやおにぎりだけで済ませるのではなく、肉や魚を含んだメニューを選びましょう。コンビニやスーパーで手軽に買えるたんぱく質優秀食材はゆで卵、サラダチキン。プロセスチーズは不足しがちなカルシウムも一緒にとれます。魚肉ソーセージも意外に高たんぱく質です」  たとえばマルハニチロの「おさかなソーセージ」1本で6.1グラムのたんぱく質入りだ。(ジャーナリスト・古田拓也、編集部・中島晶子) ※AERA 2024年1月15日号より抜粋
「食道がん」は飲酒・喫煙の習慣がある人がなりやすい 酒に強い人も毎日4合でリスク10倍に
「食道がん」は飲酒・喫煙の習慣がある人がなりやすい 酒に強い人も毎日4合でリスク10倍に  食道がんは男性に多いがんで、飲酒・喫煙が危険因子であることがわかっています。日本人の場合、長い食道の中央あたりに発生しやすく、なかには離れたところに複数のがんが見つかることもあります。初期には自覚症状が乏しく、早期発見には内視鏡検査が有効です。  本記事は、2024年2月下旬に発売予定の『手術数でわかる いい病院2024』で取材した医師の協力のもと作成し、先行してお届けします。  *  *  *  食道は、長さ約25㎝、太さ2~3㎝の管状の臓器で、のど(咽頭)と胃をつなぐ食べ物の通り道です。食道がんは、内側を覆う粘膜に発生します。また、食道は、頸部、胸部、腹部に分けられ、多くは胸部食道に起こります。  2019年に食道がんと診断された人は、2万6382人でした(国立がん研究センターがん情報サービス)。男女比はおよそ5:1と男性に多く、60代、70代が全体の約7割を占めます(日本食道学会全国調査 2013年治療2019年解析症例8019例)。  食道がんの発症には、飲酒と喫煙が大きく関わっています。  アルコールが体内で分解されるとアセトアルデヒドが発生します。飲酒して動悸や眠気を感じたり、二日酔いになったりするのは、この物質が原因です。そればかりか、このアセトアルデヒドには発がん性もあります。  アセトアルデヒドはある酵素によって分解されます。しかし、日本人の約45%は、この酵素の活性が弱い体質で、お酒を飲むと顔が赤くなります。  お酒を飲まない人が食道がんになるリスクを1とした場合、お酒に強い人(顔が赤くならない)が毎日4合飲酒した場合のリスクは約10倍になるといわれています。さらに、顔が赤くなる人が毎日4合飲酒した場合のリスクは約100倍で、顔が赤くなる人はより注意が必要です。 飲酒して顔が赤くなるタイプで多量に飲む人は、40歳ごろから毎年検査を受ける  昭和大学病院食道がんセンター教授の大塚耕司医師はこう話します。 「若いころは顔が赤くなったが、今は赤くならないという人も、リスクは顔が赤くなる人と同じですから、お酒は適量にしておきましょう。また、アセトアルデヒドは唾液中に出てきて、のどのあたりもアセドアルデヒドにさらされます。そのため、食道がんに咽頭がん、喉頭がんが合併するリスクも高まります。飲酒だけでなく、喫煙習慣もあれば、リスクはさらに高まります」  喫煙しない人が食道がんになるリスクを1とした場合、喫煙する人のリスクは約3倍、1日20本のたばこを20年間吸った人のリスクは約5倍になるといわれています。大塚医師は、受動喫煙にも気をつける必要があるといいます。  ほかにも、野菜や果物をあまり食べないためにビタミンが欠乏することも危険因子とされ、緑黄色野菜や果物の摂取は予防に効果的といわれています。辛いもの、熱いものをよく食べることも影響すると指摘されています。  食道がんの初期には、症状はほとんどありません。進行すると、胸の違和感、食べ物をのみ込んだとき胸の奥のほうがチクチク痛む、熱いものをのみ込んだときにしみる感じがする、といった症状が表れます。これらの症状は一時的で消えることもありますが、放置せず、消化器内科で内視鏡検査を受け、食道の状態を確認しましょう。  さらに進行してがんが大きくなると、飲食物が食道を通りにくくなり、つかえるようになります。すると食べる量が減り、体重が減ってきます。また、胸には肺や背骨、気管や気管支、大動脈、声帯を調節する神経(反回神経)などがあり、がんが食道の外へ広がったりすると、胸や背中の痛み、せき、声のかすれなどの症状が起こってきます。  自覚症状があって検査を受けた場合は、ある程度進行していることが多いので、早期発見のためには、定期的に内視鏡検査を受けることが必要です。 「お酒好き、たばこ好きの人に、飲酒や喫煙は絶対にダメとは言えません。では、どうすればいいのかというと、40歳ぐらいから毎年内視鏡検査を受けて、食道はもちろん、咽頭、喉頭をチェックしてほしいと思います。危険因子がない人は50歳を過ぎたら、2~3年ごとに検査を受けましょう」(大塚医師)  大塚医師は、「バリウムを使う造影検査でもいいですか」と聞かれることがよくあるそうです。しかし、内視鏡検査のほうが、粘膜のわずかな変化をとらえることができるので、やはり内視鏡検査をすすめています。  がんがあるかどうかは、多くの場合、内視鏡検査で明らかになります。通常の内視鏡検査に加え、色素を散布したり、特殊な光で照らしたりして粘膜を観察すると、がんの範囲の正確な診断に役立ちます。また、組織を採取して顕微鏡で調べ、がんの特徴(組織型)を診断します。  CT検査では、がんの深さ、周囲の臓器への広がり、リンパ節や肺などへの転移を調べます。転移の診断のためにPET検査を追加することもあります。 「食道がんには、胃がんや大腸がんよりリンパ節転移が起こりやすいという特徴があります。がんが粘膜の浅いところにある場合でもリンパ節に転移している可能性があり、リンパ節転移の有無を診断することは大変重要です」(大塚医師)  粘膜の浅いところにとどまっている場合、リンパ節転移がなければ、食道の内側からがんの部分だけ切除する内視鏡治療が可能です。しかし、リンパ節転移があれば手術が必要になるからです。  内視鏡治療をおこなったあとには、切除した組織で病理検査をおこないます。その結果、リンパ節転移やがんを取り切れなかった可能性がある場合は、追加の治療として手術や化学放射線療法が必要とされることもあります。 手術の前から呼吸訓練などのリハビリをおこない、肺炎などを防ぐ  手術では、食道と周囲のリンパ節を切除し、胃などを使って食道の代わりとなる飲食物の通り道をつくります。手術を受ける体力がない場合には化学放射線療法をおこなったり、病期によっては手術前に化学療法をおこなったりします(術前化学療法)。  周囲の臓器に広がったり、転移したりしている場合は、手術は適さず、化学放射線療法や化学療法をおこないます。化学療法では、免疫チェックポイント阻害薬という新しい薬が使われるようになっています。  食道がんの手術では、頸部、胸部、腹部と広い範囲に及ぶため、「大がかりな手術」とよくいわれます。 「以前は大きく切開する開胸手術でしたが、現在は、5~6カ所小さく穴を開ける胸腔鏡手術が主流になり、からだへの負担は以前よりかなり小さくなっています。医師も、胸腔鏡のカメラで組織をかなり細かく見ることができ繊細な手術ができるので出血量も減り、昔ほど大がかりな手術とはいえないのではないかと思います」(大塚医師)  ただし、どちらの手術でも、肺炎、反回神経麻痺、残った食道と胃のつなぎ目のほころび(縫合不全)などの合併症が起こることがあります。日本食道学会は、ホームページで食道外科専門医、食道外科専門医認定施設を公表しており、認定施設で手術を受けることを大塚医師はすすめています。  手術後には、早食いすると誤嚥(ごえん)性肺炎を起こしやすく、食事量が減って体重減少や体力低下が起こりやすくなります。また、手術直後は呼吸がしづらく、痰(たん)も出しづらくなって、肺炎が起こることもあります。そのため大塚医師は、喫煙している人には、まずは1カ月以上の禁煙を徹底するよう指導しているそうです。さらに手術前、手術後のリハビリも重要です。  例えば呼吸訓練について、大塚医師は次のように話します。 「手術の前から、自宅で手軽な器具(呼吸訓練器)を使ってトレーニングしてもらいます。息を吐いてからマウスピースをくわえ、深く息を吸い込むと、インジケーターの印が動き、自分の吸気量がわかります。手術前に吸気量2500mlぐらいだった人も、手術後には500mlぐらいまで下がることが多いです。手術前は2500mlでしたね、それを目標にトレーニングしましょうと、手術の翌日から取り組んでもらいます」  一般に手術後の1回の食事量は、手術前の5~6割に減ります。その分、食事の回数を増やし食事量を確保します。大塚医師によると、もともと高血圧や糖尿病などの生活習慣病があった人では、手術後に食事量が減ることで、それらが改善する例が多いとのこと。 「なかには、体重が減ることなく体形を維持している人もいます。経過観察のため受診する人には食事や運動について必ず聞いていますが、筋トレをして、たんぱく質を多くとるようにしている人は、体重を維持し活発に活動しているという印象を持っています。逆に、家にいることが多く、軽い散歩程度であまり運動していない人は、食べる量が減る傾向があるように思います」  以前に比べ手術で受ける負担が減ったとはいえ、術後に食事の工夫をしても思うように食べられず、心配で何ごとにも消極的になりがちです。活動量が減ると、おなかも減らず、食べる量がますます減ってしまうことも考えられます。できるだけ前向きな気持ちで運動や趣味などの活動をおこない、生活を楽しむことが大切といえそうです。 (文/山本七枝子) 【取材した医師】 昭和大学病院食道がんセンター 教授 大塚耕司 医師 昭和大学病院食道がんセンター 教授 大塚耕司 医師  
寝たきりの17歳長女と足の不自由な16歳長男とどう避難する? 不安だらけの障害児の災害対策
寝たきりの17歳長女と足の不自由な16歳長男とどう避難する? 不安だらけの障害児の災害対策 身体が大きくなっても使用できる抱っこ補助具「ユニキャリ」を購入した友人が送ってくれた写真です。車いすユーザーが車いすを使わずにどうやって避難するかは切実な問題です。抱っこする保護者の両手が使えるように工夫されているのも画期的だと思います(写真/江利川ちひろ提供)   「インクルーシブ」「インクルージョン」という言葉を知っていますか? 障害や多様性を排除するのではなく、「共生していく」という意味です。自身も障害のある子どもを持ち、滞在先のハワイでインクルーシブ教育に出合った江利川ちひろさんが、インクルーシブ教育の大切さや日本での課題を伝えます。 * * *  2024年が始まりました。元旦から各地でさまざまなできごとがあり、この原稿を書いている今日(1月4日)もニュースに見入っています。被災された方に心よりお見舞い申し上げます。 長女は誰がキャッチする?  災害が起きると、「我が家だったらどうなるのだろう」と考えます。寝たきりの長女(17歳)と足の不自由な長男(16歳)とどう避難すればいいのか、と。  東日本大震災の時にもあんなに考えたはずなのに、正直なところ、いつの間にか頭から抜けてしまい、またどこかで災害が起きると思い出す……を繰り返しています。でもこの数日は地震だけでなく、飛行機からの脱出などとっさの判断が必要な事故についても改めて考えさせられました。  過去を振り返ると、飛行機は私と子どもたちだけで搭乗することが多かったのに、首が座らない長女が緊急脱出スライドを滑った後に誰がどのようにキャッチするのか、地上に降りてもバギーが無い状態で長女を抱いて安全な場所まで走れるのかなど、事故を想定したシミュレーションをしたことはなく、どこかひとごとのように捉えていたことに気づきました。今回は障害のある子どもの災害対策について書いてみようと思います。 抱っこ補助具で備えるママ友  2011年に東日本大震災が起きた時、双子の姉妹は4歳、息子は3歳になったばかりでした。当時はマンションの3階に住んでいたため、余震のたびに、寝たきりの長女と、まだ歩けなかった息子と、怖がりですぐに「ママ抱っこ~!」と言いながら泣いてしまう次女を抱え、避難が必要になったらどうすれば良いのかを考えていました。特にマンション内で火災が起きたとしたら、子ども3人を連れて非常階段を下りることができない可能性もあり、最悪はベッドのマットレスを投げて長女と息子を落とすしかないと本気で考えていました。  それから数年経ち、私が運営しているNPO法人かるがもCPキッズ(脳性まひの子どもとパパママの会)のママたちと緊急時の避難について話していた時に、「ユニキャリ」という身体が不自由な子どもの抱っこをサポートするアイテムがあることを知りました。もともとは避難用ではなく日常生活で使用するために開発されたようですが、通常の抱っこひもよりかなり大きく、オプションのパーツがあればおんぶをすることもできます。車いすが使用できない場所で身体が不自由な子どもと移動するには抱えるしかありませんが、保護者の両手が使える状態になるのはとても助かります。その後、実際に購入して非常時に備えたママもいました。 避難所に非常用電源がない  災害時に移動以外でもうひとつ懸念されるのが避難場所です。  2013年6月に災害対策基本法が改正され、市町村は、一般の避難所に避難しづらい障害者や高齢者などのために、福祉避難所を指定するよう義務付けられましたが、福祉避難所の設備は自治体により、かなり差があります。我が家には災害対策として、長女のおむつの予備がたくさんありますが、もしも自宅から取り出すことができなかった場合、赤ちゃんサイズでも大人サイズでもない、特殊な大きさのおむつを避難所で入手するのは困難だと思われます。 また人工呼吸器などの医療機器には電源が必要ですが、市役所に問い合わせたところ、我が家のすぐ裏にある指定避難所の?学校には非常用電源がないとのことで、停電した場合は自宅から徒歩で20分ほどかかる公民館に行くことを勧められました。でもその公民館は海岸に近く、津波の恐れがある時には危険な場所です。そもそも、道がどうなっているのか分からない状況で人工呼吸器や酸素ボンベを持ったまま長女をバギーに乗せて20分先に避難することができるのかと考えると絶望的な気持ちになります。我が家では車からも充電ができるため、現状は、停電しても倒壊しない限りは自宅にいるのが一番安全かもしれないというとても頼りない結論になっています。  災害や事故などの非常事態時には、周囲の人々の善意で成り立つ場面が多くあるのだと思います。特に障害者支援に関しては、赤ちゃんや高齢者とは少しニーズが異なり、緊急時に必要な助けや物資が届きにくい可能性もあります。そんな時には周囲の協力が不可欠です。私たちにできることは「ここにこんな人がいます」と伝えてコミュニケーションをとり、助けてもらった時にはしっかりと感謝の気持ちを伝えることだと思います。  今回の能登半島での地震で被災された障害のある子どもやそのご家族が避難所を利用できなかったり、見過ごされたりしないだろうかと、気が気ではありません。内閣府によると、東日本大震災での障害者の死亡率は、被災住民全体の死亡率の約2倍に上ったそうです。障害者や家族だけではどうにもならないこともあります。地域や自治体も一緒になって犠牲を抑えるために取り組みが進められていったらなと思います。  新しい年が「誰ひとり取り残さない」というSDG‘sの理念の元、持続可能な社会につながっていきますように。 ※AERAオンライン限定記事
脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目
脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 ブレインフードの代表・魚(写真:Getty Images)    脳によい食べ物は「ブレインフード」と呼ばれ注目を集めている。脳の働きをよくするだけでなく、健康を維持するために必要な食品でもある。ハーバード大で栄養学を学んだ医師・満尾正氏に、積極的に摂取したい5つのブレインフードを選んでもらった。朝日新書『ハーバードが教える 最高の長寿食』から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは 脳の健康によいブレインフード  巷では、脳によい食材を「ブレインフード」と呼んで、摂取がすすめられています。脳を活性化する、脳の抗酸化や血流改善など謳い文句はさまざまですが、ここでは私が注目するブレインフードの栄養成分についてまとめておきましょう。  ただし、これらの食品単体を食べるだけでは効果はあまり発揮されません。脳の健康を維持するには、これ以外に亜鉛、マグネシウムなどのミネラルが不可欠ですし、さまざまな栄養素がチームではたらくことが重要であることをお忘れなく。 ブレインフード(1) 魚  魚の脂はオメガ3脂肪酸のEPA・DHAを豊富に含んでいます。  オメガ3脂肪酸は脳の炎症を防ぎ、脳機能を改善させる働きがあります。最低でも週に1回魚を食べる人はアルツハイマー病になるリスクが低いという報告もあります。わずか週1回でも脳細胞の変化を防ぐことができるとすれば、積極的に魚を摂取しない手はないでしょう。 【こちらも話題】 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな https://dot.asahi.com/articles/-/209678 ブレインフード(2) ココナッツオイル  ココナッツオイルの主成分は中鎖脂肪酸(Medium Chain Triglyceride)です。中鎖脂肪酸は、他の脂肪酸と代謝経路が異なり、腸管からすぐに血液中に吸収され、肝臓で代謝されて「ケトン体」に変化するため、脳に運ばれて神経細胞のエネルギーになりやすい脂肪酸です。  このような中鎖脂肪酸の特殊性を2011年に報告し、世界中の注目を浴びたのが、米国のある小児科医です。自身の伴侶が53歳でアルツハイマー病と診断されたため、民間療法の情報からココナッツオイルを食事に加えたところ、症状が改善され日常生活の質も大きく改善したと述べています。ケトン体が認知症の症状を改善するという報告は、栄養医学界にとっては大きな衝撃でした。  近年は認知症以外にパーキンソン病、筋萎縮性側索硬化症(ALS)、多発性硬化症(MS)といった難治性の脳神経疾患に対してココナッツオイルが有効に作用するという報告も増えつつあります。ココナッツオイルは生活習慣病予防のためにも積極的に摂取したい食品の一つです。 【こちらも話題】 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? https://dot.asahi.com/articles/-/209706 ブレインフード(3) 大豆、卵黄、レバー  豆腐、納豆などの大豆製品には、「レシチン」という脂質の一種が多く含まれています。このレシチンの構成成分の一つが「コリン」です。卵黄や動物の肝臓にもコリンが多く含まれます。  コリンという栄養素は、神経伝達物質であるアセチルコリンの原料にもなるため「記憶力の栄養素」とも言われ、脳神経の働きを円滑にしてくれます。あまり聞きなれないかもしれませんが、脂肪代謝や神経細胞の働きなどに欠かすことのできないものです。細胞膜を作る構成成分でもあります。  その働きがビタミンBと似ているため、ビタミンB4と呼ばれることもあります。昔から豆を食べると脳の働きをよくすると言われているのは、豆に含まれるコリンを補充することのメリットを経験的に知っていたからかもしれません。 ブレインフード(4) 緑茶  緑茶には「カテキン」と呼ばれるポリフェノールが豊富に含まれています。緑茶の摂取量と認知症の発症率との関係を調べた研究によると、緑茶を1日に1杯も飲まない群と比較して、3~4杯の緑茶を飲む群では16%、5杯以上飲む群では24%、認知症患者が少ないことがわかりました。紅茶やウーロン茶では同じ効果が見られなかったため、この効果は緑茶に多く含まれるカテキンの一種、エピガロカテキンガレート(EGCG)によるものではないかと考えられています。  また、緑茶に含まれる「テアニン」というアミノ酸の一種には、鎮静作用のある「ギャバ(GABA)」を増やすという重要な働きもあります。  緑茶の効用として、認知症予防以外にも、抗酸化作用、動脈硬化予防、免疫力増強、がん予防などさまざまな作用が注目されています。健康維持のためにも、緑茶をゆっくり味わう日本文化を残していきたいものです。 【こちらも話題】 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 https://dot.asahi.com/articles/-/210143 ブレインフード(5) 高カカオチョコレート  カカオ含有率70%以上の高カカオチョコレートには抗炎症作用があることが確かめられています。原料となるカカオに含まれる「テオブロミン」という成分やカカオポリフェノールが血管に作用するのではないかと考えられています。  カカオポリフェノールを摂取すると脳血流量が上昇することがわかっており、高カカオチョコレート摂取後に血液中の「BDNF(Brain Derived Neurotrophic Factor=脳由来神経栄養因子)」(神経細胞の発生や成長、再生を促進させる成分)が増加する可能性があることも指摘されています。確かなことは今後の研究結果を待たなければなりませんが、加齢によって減少する傾向があるBDNFが増加するということは、認知機能の低下に何らかのよい作用をもたらす可能性があるかもしれません。  ただし、高カカオチョコレートは、製品によってはトランス脂肪酸を含み、糖質の摂り過ぎにもつながりますから、大量に摂ることはかえって健康を害する可能性もあります。食べ過ぎないように注意しましょう。 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ●満尾 正(みつお・ただし) 満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。  
母親としての責任を社会から押し付けられ、内面化 日本の女性たちが抱える母の不自由さ
母親としての責任を社会から押し付けられ、内面化 日本の女性たちが抱える母の不自由さ 母のしんどさは、社会問題と地続きだ。非正規雇用問題、長時間労働、男女の格差、政治への関心の低さ。あきらめずに、声を上げ続けなくてはならない(撮影/写真映像部・高野楓菜)    共働きであっても、女性にばかり育児の責任や負担が押し付けられる現状は変わらない。母としての責任感が強い女性たちは、母でいることにしんどさを抱えている。その根底には何があるのか。AERA 2024年1月1-8日合併号より。 *  *  *  仕事と育児の間で生まれるしんどさに加え、「母であれ」という社会的な圧力と、知らずにそれを自分でも内面化してしまっているしんどさを、取材では多くの女性から聞いた。  都内で働く戸田郁子さん(仮名・42)は、37歳で長女を出産後、急激に自分が母親にシフトさせられたと感じた。仕事が好きで、お酒を飲むのも大好き。ダンスの勉強も20年していた。妊娠すると「こんな自分が母で無事に生まれるのか」と不安にさいなまれた。出産後、一人で歩いていると「子どもは?」と、必ず聞かれる。夫にはかけられない言葉。出産したとたんに、女性に多くの責任や役割が押し付けられていると感じ、不自由さを感じた。 「長女の誕生を家族みんなが喜ぶのを見て、私が人生でこれ以上人を喜ばせることはないなと思ったんです。多分私が、会社の営業成績で1位を取っても、ここまで喜ばない。私の最大の役割は子どもを産むことだったんだなと、軽く失望しました」 「2人目を」という期待も感じるが、あの不安をもう一度味わうのかと思うと、とても産む気にはなれない。早く身体的に産めない年齢になってほしいと、どこかで願う自分がいる。 ネイルやマツエクは子どもを預けてまでは…  不妊治療の末に41歳で念願の娘を授かった山口菜々子さん(仮名・44)は、子どもが生まれる前は、「育てる喜びが一番だから、私が一人で全部やり遂げる」と思っていた。しかし現実は想像以上に大変で、夫の手は必要不可欠だった。夜泣きで寝られない日もあり、離乳食作りも手がかかる。市販の離乳食も考えるのだが、娘のことを思うと手が抜けない。夫も手伝ってはくれるが、海外出張などが入ると大げんか。働いていたときの自分がうらやましく思え、友達に愚痴をこぼすと怒られた。「好きな人と結婚して、望んで子どもを産んで、何もかも手に入れようと思うのはぜいたくすぎる」と。  金沢未来さん(仮名・45)の息子が通う私立の幼稚園は、親が子どもの手を握って送り迎えをすることが基本。持ち物には刺しゅうで名前を、園から配られるプリントには手書きでコメントを入れなくてはならない。すべて専業主婦の母が担う前提で、延長保育はなく、子どもは昼すぎには帰ってくる。 「自分のことにかける時間がなくなりました。歯医者に行くのも、開院と同時に駆け込んだり。独身時代はファッションが好きで、表参道に行ったりしてましたが、今はもう無理です。美容院に行くのが精いっぱいで、ネイルやマツエクは実家に預けてまですることじゃないでしょう、という感じです」  子ども家庭福祉に詳しい目白大学教授の姜恩和(カンウナ)さんは、1995年に韓国から日本に来て、「なぜこんなに母子一体型なのか」と不思議に思ったという。父親の顔が見えず、母親の規範性が強い社会だと感じた。 「母親への社会的支援は、産前から産後まで多岐にわたりますが、たとえば母乳のケアや子育て支援など、母親としての視点の支援が多く、これまでは女性が自立して生きていく、生活そのものの観点が弱かったように思います。母親の中には、経済的な困窮や、孤立している方もいて、医療面だけでなく福祉との連携が欠かせません」  また、母親としての責任感も強く、自己責任として自分を責める女性も多く見てきた。 「望まない妊娠をした女性ですら、妊娠を自分の責任として、男性の話が出てこない。自分一人のことじゃないのに。母親としての責任を社会から押し付けられてもいるし、内面化してしまっているとも思います。日本はもっと『迷惑』という概念から解き放たれるべきではないでしょうか」  今村優莉さん(41)は、2018年に0歳と1歳の子どもを連れ、セブ島へ母子留学した。ある日、ベビーカーに子どもをのせ、ママ友たちと一緒に水着を買いに行くと、「子どもたちは見ているから、ゆっくり試着して」と、店員たちが勢ぞろいで子どもをあやしてくれた。子どもが泣いたとしても母親に戻すことはなかったという。 「すごく楽しくて、久々に独身時代を思い出しました。社会で育てるというのは、こういうことなんだ、と」 「母」という顔は、一人の女性の一部に過ぎない。社会制度を整えるのは重要だが、個人としての生き方が尊重される視点がなければ、母親のしんどさはなくならない。(編集部・大川恵実) ※AERA 2024年1月1-8日合併号より抜粋
【能登半島地震ルポ】20歳の自衛官に彼女から「生きてる?」LINEが届いた 被災者も支える人も必死で前を向く
【能登半島地震ルポ】20歳の自衛官に彼女から「生きてる?」LINEが届いた 被災者も支える人も必死で前を向く 輪島市の「朝市通り」があった火災現場。空襲にでもあったかのような惨状が広がる。鼻の奥を刺すような刺激臭が漂ってくる    2024年元日に起きた能登半島地震の被災地取材のため、記者は2日に羽田空港から石川県に飛び、レンタカーで金沢市内から約100キロ離れた輪島市を目指した。北上するにつれ、道路には亀裂や隆起が目立ち、山間部では崖崩れの土砂が流れ込んでいた。大渋滞のなか、3日午後3時、輪島市中心部に到着した。金沢市を出てから実に8時間半が経っていた。最初の地震発生直後の輪島市で何が起きていたのかリポートする。 【金沢から輪島に向かう道中をリポートした「前編」はこちら】 *  *  *  輪島市の中心部に入ると、消防車や救急車のサイレンや、低空飛行で旋回しているヘリコプターの音が大音量で鳴り響いていた。  輪島市役所の横に車を止めた。そこから、海側に向かって歩くと、かつて街があったと想像するのも困難なくらい、完膚(かんぷ)なきまでに破壊された景色が広がっていた。輪島市に来るまでに通ってきたどの場所より、被害が大きいのは一目瞭然だった。  家という家は、1階部分がぺしゃんこにつぶれ、2階部分が地面にめり込んだように見える。その上に電柱が倒れかかり、頭上には切れた電線が垂れ下がっている。道路の表面はあちこちがひび割れ、せり上がったコンクリートの上には、腹を持ち上げられた格好でタイヤが宙に浮いた車が置き去りにされている。 朝市通りは黒こげに  とりわけ、火災によって約4千平方メートルが焼失した「輪島朝市通り」周辺は、目を覆いたくなるほどの惨状だった。  輪島朝市は、約360メートルの通りに八百屋や魚屋、土産物屋など200以上の店がならぶ「日本三大朝市」の一つだ。千年の歴史をもつ観光名所だが、今や、見渡す限りのすべてが、黒焦げになって朽ちていた。小雨が降っていたが、まだくすぶった状態が続いているのか、あちこちから白い煙があがり、空に昇っていく。  地面には、瓦やガラス、金属片などのがれきが厚く敷き詰められ、歩くたびにパキパキと何かが割れる音がする。木造の建物はほぼ炭と化し、鉄筋コンクリートのビルは骨組みだけになってかろうじて立っている。自動車は、ドアが吹き飛びシートが溶け、中の部品がむき出しになっている。 【あわせて読みたい】 能登半島地震でPayPay寄付詐欺「引っ越してきたばかりで娘が震えて…」被害男性が信じたSNS https://dot.asahi.com/articles/-/210703?page=1 火災現場では、何台もの車が焼け焦げていた。いたるところで白い煙があがり、消防隊員が残火処理にあたっていた    木材、金属、プラスチックと、あらゆるものが燃えたことで、数歩歩くごとに違うにおいが漂ってくる。線香花火のようなツンとする刺激臭や、ポップコーンのような香ばしい臭い、そして何が燃えたのか、甘い香りもあった。  ぽつりぽつりと人影が見えた。  傘を差し、同級生と立ち話をしていた男性(62)は、火災現場から離れた市内に住んでいるが、友人や知り合いの家が心配で様子を見に来たのだという。 「LINEしとるんですけど、返事が返ってこん友達がいっぱいおるんで。家は跡形もなかったです。ほんと、涙出ます。なんでこんなことなるのかな」  そうつぶやいて遠くを見つめた。  父親(89)と一緒に歩いていた男性(59)は、父が約90年暮らしてきた実家の焼け跡を訪れた帰りだという。 「おやじが大事にしていた焼き物が一つだけ残ってたもんで、掘り出してきました。でも、最近生まれたひ孫の写真も、僕が子どものときの写真も全部なくなっちゃって。もう焼け野原で、ひどいもんですね。戦時中のことは知らないけど、こんなんだったのかな」  日が落ちてあたりが暗くなってからは、避難所になっている市役所の取材に切り替えた。 エントランスの地面が大きくゆがんだ、輪島市役所庁舎。「ビスケット」と書かれた段ボールを持ってきた男性たちに、女性が笑顔で駆け寄る   トイレもほしいです  市役所は、本館で避難者を受け入れ、新館で職員が業務にあたっていた。4階建ての本館は、エントランス、会議室、廊下など所狭しと毛布や布団が敷かれ、その上で約400人が身を寄せあっていた。  高齢者の姿が多いが、赤ちゃんのいる家族連れや、犬と一緒に避難している人もいた。避難者たちによると、まだ救援物資は受け取れておらず、水も食料も毛布も持参のものでやりくりしているという。  娘を真ん中に、妻と3人横並びで壁際に座っていた中口英明さん(59)は、「ぜいたくですみません」と前置きしつつ、「あったかいものが食べたい」と話した。 「食パンやドーナツはあるんですけど、具がなくてもいいからみそ汁とか……。あとは、口に入れたものは外に出るのだから、トイレもほしいです」 市役所庁舎で、ご近所さんたちと身を寄せ合う女性たち。「お願いだから持って行って。気持ちだから」と、記者の手にバウムクーヘンやパンを握らせてくれた   【こちらもおすすめ】 能登半島地震・志賀原発 避難ルート「のと里山海道」は一時全面通行止め 避難計画は“絵空事”だった https://dot.asahi.com/articles/-/210705?page=1 1階部分から折れた輪島塗の「五島屋」本社ビル。3日夜、下敷きになっていた女性が救出されたが、死亡が確認された    庁舎のトイレは、断水によって水が流れないため、便器がことごとく排泄(はいせつ)物であふれ、使用済みのトイレットペーパーでパンパンになったゴミ袋がいくつも置いてあった。  衛生的にも精神的にもかなり厳しい環境だが、会社の同僚と避難してきた30代の女性は、家に帰れるめどはまったく立っておらず、当面は避難所で過ごすという。 「今家に入るのは危ないし、余震も怖いし、ここにいるしかない」  そう話しているそばから、突然ガタガタと音をたてて庁舎が大きく揺れ始めた。緊急地震速報のアラームが一斉に鳴り、女性はとっさに記者の腕にしがみついた。震度4だった。 震度4~5クラスが毎晩  この3日間は毎晩、震度4~5クラスの揺れに見舞われているといい、先ほど口にしていた「余震の恐怖」の深刻さを痛感する。女性は「寝られないし全身が痛いです」と疲労をにじませていた。  隣に座っていた同僚の40代女性は、インターネットが思うように使えず、市役所のテレビもBSしか映らない状況を受け、「とにかく正確な情報がほしい」と訴える。 「いつまでこの避難所にいられるのか、なんで物資が届かないのか、道路はどうなっているのか、何も分からなくて困っています」  市の広報担当者に話を聞くと、行政側もあらゆる情報の集約が追いつかず、混乱しているようだ。救援物資も、何がどれだけの量、どの避難所に配られているのか把握できておらず、「まったく足りていないことだけは確か」だという。  年末年始で市外から大勢帰省していたため、市民用に備蓄していた物資ではとうてい足りず、しかも震災の日から2日間は市内へ通じる道路が完全に遮断されていた。3日になってようやく県道が一部開通したものの、「まずは物資の配布よりも、生き埋めになっている方々の救助活動を最優先に動いています」(市担当者)。  市役所での取材を終え、車に戻った。今晩は車中泊だ。道路の側溝を洗面所代わりに、夜空の下で歯を磨いていると、スマホに視線を落とした自衛官が近くに立っていた。休憩時間なのかと思い、話しかけてみると、同僚たちの帰りを待っているところだという。 ぺしゃんこにつぶれた民家。近隣住民によると、この家に一人で住んでいた65歳くらいの女性と連絡がとれないという 【あわせて読みたい】 地震保険はやはり必要か 都道府県別の世帯加入率トップは宮城県、最下位は?【能登半島地震で見直す備え】 https://dot.asahi.com/articles/-/210700?page=1 火災現場近くの墓地。火の手はまぬがれたものの揺れによる損傷が激しく、墓石が倒れて中が見えていたり、地蔵の頭がとれて転がったりしていた    関西地方から派遣されたという彼は20歳。元日に親戚で集まり、すしを食べようとした瞬間に震災が起き、そのまま招集された。初めての災害派遣の現場では、輪島市と外部をつなぐ交通路を確保する業務にあたっているという。  午前4時起床で2時間しか眠れない日々が続き、彼女からは「生きてる?」と不安でたまらない様子のLINEが頻繁に届く。保存食の米は、「古いと消しゴムを食べているよう」だというが、「誰かを助ける仕事がしたくて自衛官になったので、つらくはないです」。  そして午後10時ごろ、同僚と合流すると、再び仕事へと戻っていった。  危険と隣り合わせの被災地で、記者も神経が高ぶっていたせいだろうか。なかなか寝つけず、こま切れの睡眠をかろうじて3時間ほどとった翌朝7時。車の外に出ると、焦げくさいにおいが混じった南風が、頬に吹きつけた。  街の様子を見に、再び朝市通りのほうへと歩く。重苦しい雲が立ち込めていた前日とは打って変わった青空は、その下の壊滅的な光景とあまりにも不釣り合いに感じた。 「もうダメです」  朝市通り周辺の焼失エリアからわずか数百メートル手前で、ヘルメットをかぶって自宅前にたたずむ男性と出会った。 「家の片付けをしとる」と話してくれたのは池高精一さん(75)。前日は、壁がはがれ落ちた1階部分に木の板を打ちつけたので、この日は散らかった室内を少しでも片付けようと、避難所からやって来たという。  池高さんは、仏壇や仏具などを手がける漆塗り職人。1階が住居、2階が工房だった自宅は、周囲の家の大半が倒壊しているのにもかかわらず、しっかり原形をとどめている。 「この家は俺が小学生のころにできたから65年くらい経ってるけど、おやじがいい材料を使ってくれたんだろうね。でも、中にあるもんは全部落ちて、2階は壁も落ちて、もうダメです」  家の中を見せてもらうと、障子やタンスが倒れ、押し入れの中のものが飛び出し、足の踏み場もなかった。2階では崩れ落ちた壁が床の上で粉々になっており、塗られる前の「経机(きょうづくえ)」と呼ばれる仏具も壊れて散乱していた。 池高精一さんの自宅。2階の工房は損傷が激しく、漆器を乾かすための収納庫「塗師風呂(ぬしぶろ)」がある部屋の戸は開かなくなっていた   【こちらも読まれています】 「被災者自身でのブルーシート張りは極力避けて」 被災地域にいる人に災害支援の専門家が伝えたいこと https://dot.asahi.com/articles/-/210667?page=1 「中ではとても暮らせないけど、避難所生活もいつまで続くか。避難所のトイレ、小は少しできるけど大のほうができないから、なるべくものを食べないように飲まないようにしていて。水は1日にコップ1杯。金沢に住んでる娘が『家においでよ』って言ってくれとるけど、厄介になるのもね……」  だからこそ家の修理や片づけを進めているのかと思いきや、池高さんは「どんなもんやろ」と吐き捨てるようにつぶやいた。 「余震もでかいやつが続いとるし、直す価値があるか……。家がまっすぐ建っとるからこそ、直すかつぶすか悩んでしまう。これからじっくり考えようと思う」 伝統工芸である輪島塗の店も、数多く被災した。朝市通りにある「涛華堂 八井浄漆器本店」は、営業再開の目途は立っていないという    池高さんの家の隣にある仕出し料理店「作治」も、同じように倒壊をまぬがれていた。中で片づけをしていた店主の田腰弘治さん(80)は、1階部分の太い梁(はり)を指さし、「これが支えてくれるから、畳の上で柔道してもつぶれんようになっとる」と胸を張る。 「こんな天災、苦にならん」 「今は、奥の部屋をきれいに片付けて、中で寝泊まりしとる。水道はきてないけど、顔を洗ったり飲み水にしたりできるよう、きれいな雪をもってきて溶かしとるし。生活の知恵ね」  田腰さんは元々、フランス料理のシェフとして兵庫県のホテルなどで腕を振るい、40年ほど前にこの店を建てた。しかし、震災を機に店をたたむという。 「予約はいっぱい入っとったし、震災がなかったらまだ続けるつもりやったけど、もうせん。でも、どこも行かんよ。わしが建てた家に住み続ける。今まで宝塚とか姫路とか転々としたけど、やっぱりここが一番やね」  そして田腰さんはおもむろに、「俺は幸せや!」と口にした。 「今のロシアとかウクライナなんて、食べるもんも住むところもない人がいっぱいおりますわ。そう思ったら悲しんではおられん。ほうでしょう? こんな天災なんて苦にならん。全っ然苦にならん!」  にらみつけるようなまなざしと、突然強くなった語気。必死に自分に言い聞かせ、奮い立たせているように見えた。 仕出し料理店「作治」の前に立つ、店主の田腰弘治さん。「天災は何十年かにいっぺん起こるし、作った物はいつか壊れる。当然や。壊れたら、また一から作ればいい!」   【こちらもおすすめ】 「地滑りが発生しやすい」「海岸線ギリギリの家屋」 地震被害が大きくなりやすい能登半島ならではの特徴とは https://dot.asahi.com/articles/-/210678?page=1 アスファルトの道路がまるで海のように波打ち、いたるところで車が乗り捨てられていた 倒れた電柱によって電線が大きくたわんでいる。街を歩いていると、ちぎれた電線の切れ端が頭に触れそうになり、恐怖を感じた    破壊の限りが尽くされた光景を前にすると、はたして輪島が復興する日はやって来るのか、正直不安をおぼえる。前出の火災現場で出会った男性(62)は、「以前から人口がどんどん減り、高齢化も進んでいたのに、もう一度輪島に家を建てようと思う人はどれくらいいるのだろう」と嘆いていた。 日常の姿も  だが、街の様子に目をこらすと、日常を取り戻そうとする人々の“営み”もあった。  大きな段差ができて徐行運転でしか進めなかった道路は、作業員が夜通し工事したのか、翌日には砂利でならされ、スムーズに走れるようになっていた。  朝、川沿いの亀裂だらけの土手には、非常時でもいつもどおり犬の散歩をして、フンを片付けている市民の姿があった。  市役所の庁舎では、近くの避難者に「よかったら食べますか?」とおせんべいを差し出したり、カップ麺にむせた高齢女性の背中をトントンとさすったり、みなで助けあう様子が印象的だった(市役所庁舎の避難所機能は5日までで終了し、避難していた人々は既に別の避難所に移っている)。  震災直後から、自分にできることをやり、少しでも前を向こうとする人々がいた。その「人間の強さ」が、今後被害の全貌が明らかになり、厳しい現実に向き合うことになるかもしれない輪島市の希望になることを、信じたいと思った。 (AERA dot.編集部・大谷百合絵) 【あわせて読みたい】 能登半島地震発生からの2日間 余震続きで270人の避難所は満杯 津波で避難も火災に涙 https://dot.asahi.com/articles/-/210499?page=1
「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ
「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ 血液検査も定期的に受けるべきです(写真:Getty Images)    健康長寿を実現するうえで、健康を過信せず自己チェックすることも大切なポイントだ。かつて大学病院の救急救命センターの救急医で、現在はアンチエイジングクリニックを開院した医師・満尾正氏は、「今の自己管理が10年先の健康状態を決める」と指摘する。自己管理の重要性について、朝日新書『ハーバードが教える 最高の長寿食』から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは がんの検診も忘れずに 「がんの統計2023」(公益財団法人 がん研究振興財団)によれば、年間約100万人ががんに罹患し、おおよそ2人に1人ががんになる時代です(注1)。  罹患率が高いのは1位から順に、男性では前立腺がん、大腸がん、胃がんの順。女性では乳がん、大腸がん、肺がんの順です。近年、男性では前立腺がん、食道がん、膵臓がん、悪性リンパ腫が増えており、女性では大腸がん、肺がん、乳がん、子宮がん、卵巣がん、食道がん、膵臓がん、悪性リンパ腫が増えています。  一概には言えませんが、男女とも胃がんや肝臓がんは減ってきているのに対し、特に中高年の男性で大腸がんや前立腺がん、中高年の女性で大腸がんや乳がんが顕著に増えてきているのを見ると、食生活が肉食中心の欧米型に変化してきたことも決して無縁ではないように思えます。 【こちらも話題】 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな https://dot.asahi.com/articles/-/209678  男女共に増えている大腸がんを早めに発見するためには、便の中に血液が混じってるかどうかを調べる便潜血検査が一番正確ですので、中高年になったら健康診断か人間ドックで1年に一度は調べることをおすすめします。  がんの発症率と食生活との関連を調べる研究は世界中で進められていますが、一つの食品だけでは単純に論じられません。がんの原因は一つではなく、喫煙、飲酒、食事、運動などの生活習慣、あるいは肝炎ウイルスやピロリ菌などの感染、個人の遺伝的背景なども複雑に絡み合って起こるからです。  ただ、日本では、最大約14万人を対象とし30年以上にわたり続けられてきた日本で最大規模の多目的コホート研究(JPHC Study)を基に国立がん研究センターが「日本人のためのがん予防法」(2022年8月3日改訂版)を提言していますので、参考までに食事に関する内容に注目してご紹介しておきましょう(注2)。  これによると、飲酒によってがん全体および肝臓がん、大腸がん、食道がん、男性の胃がん、女性(閉経前)の乳がんのリスクを上げることが確実とされています。また食塩・高塩分食品の摂り過ぎが胃がんのリスクを上げ、野菜・果物を多く摂ることで食道がん、胃がん、肺がんなどのリスクが下がることが期待されるということです。 【こちらも話題】 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 https://dot.asahi.com/articles/-/209682  さらに、飲食物を熱い状態でとることは食道がんのみならず食道の炎症のリスクを上げるため、口腔や食道の粘膜を傷つけないように熱いものはなるべく冷ましてから口にすることをすすめています。  一方、単独のエビデンスでは、魚の脂などのオメガ3脂肪酸、緑茶、コーヒーなどが、がんを減らす可能性を示す報告もあります。また、身体活動や肥満などとがんとの関連も明らかにされてきています(注3)。  総合的に見れば、魚や野菜・果物などの植物性食品を多く摂取し、緑茶を飲むという和食中心の食生活は、肥満や生活習慣病のリスクを減らし、がん予防という意味でも有用と言えるでしょう。  とはいえ、100%確実にがんを予防する方法はありません。その意味では、「自己チェックを怠らないこと」が鍵を握ります。乳がん、前立腺がん、大腸がん、肺がんが増えていることを念頭に、少なくとも自治体や職域で行われているがん検診は積極的に受けるようにしましょう。 10年先の健康を作るのは今の自己管理  私たちの体は、加齢によって徐々に機能が低下していきます。20~30代は不健康な習慣のダメージも少しの工夫で解消できるし、回復も早いのですが、40代を過ぎる頃には回復がなかなか追いつかなくなり、ダメージが積み重なっていき、生活習慣病も、がんも年齢を重ねるほどリスクが高まっていきます。 【こちらも話題】 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? https://dot.asahi.com/articles/-/209706  私はアンチエイジングクリニックを開設する以前、大学病院の救急救命センターで救急医として最前線に立っていました。毎日運ばれてくる心筋梗塞、脳梗塞、重症呼吸不全など、食べられない状況が長く続く重症患者さんに対して、アミノ酸、ビタミンなどの必要量を細かく計算してフォローする栄養管理をしていたのですが、救急で運ばれるような患者さんを多く見ていて感じたのは「今まで大丈夫だったのだから、明日も大丈夫」という、健康を過信するような面がどこかにあったのではないかという思いです。仕事などでバリバリ活躍する代わりに健康管理はそっちのけで、「毎日必死になって働いているのだから、好きなものを好きなだけ食べたい」「美味しく飲んで食べてストレスを発散したい」と美食、大酒を飲む生活を続けていては、栄養状態が偏り、その先には生活習慣病、もっと先には救急で運ばれるような命の危険が待っています。  しかし、突然、心筋梗塞や脳梗塞で倒れるように見えても、その前に人間の体は必ず警告を出すはずです。そうなる前にせめて健康診断や検診をきちんと受けてチェックさえしていれば、最悪の事態は避けられる可能性が高いのです。  健康とは当たり前の状態ではありません。日々の生活習慣を積み重ねた結果得られる貴重なものです。私は、今の自己管理が10年先の健康状態を決めると思っています。住宅のメンテナンスに例えれば、小さな雨漏りや不具合のうちに早めに修復すれば何年も住み続けることができますが、放置すればやがて家の柱が腐って倒壊してしまうような事態になりかねません。人間の体も同様に、定期的な点検を怠らず、不具合があれば早めに対処するということが重要です。 【こちらも話題】 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 https://dot.asahi.com/articles/-/210139  私のクリニックでは、患者さんの血液データなどから栄養状態を詳しく分析し、体の状況を掘り下げていきます。通常の健康診断では「異常なし」とされていても、水面下では何らかの異変が起きていることがわかる場合も多くあります。そうした、いわば黄色信号の状態で食事などを見直し、手を打てば、大きな病気につながることを避けられ、健康長寿に近づいていきます。  日々、体の声を聞き、黄色信号の警告を敏感に感じ取ることができればベストですが、警告を感じ取れていない場合でも、定期的に細かなデータをチェックすることで「危険かもしれない」ということに気づくきっかけとなります。健康を過信せず、賢い自己管理を続けていただきたいと思います。 注1 「がんの統計2023」(公益財団法人 がん研究振興財団)https://ganjoho.jp/public/qa_links/report/statistics/pdf/cancer_statistics_2023.pdf 注2 https://epi.ncc.go.jp/can_prev/93/8969.html 注3 Types and amount of dietary fat and colon cancer risk: Prevention by omega-3 fatty acid-rich diets. Environ Health Prev Med. 2002 Jul;7(3):95-102. doi: 10.1265/ehpm.2002.95. Cancer Prevention with Green Tea and Its Principal Constituent, EGCG: from Early Investigations to Current Focus on Human Cancer Stem Cells. Mol Cells. 2018 Feb 28;41(2):73-82. doi: 10.14348/molcells.2018.2227. Coffee Consumption and All-Cause, Cardiovascular, and Cancer Mortality in an Adult Mediterranean Population. Nutrients. 2021 Apr 9;13(4):1241. doi: 10.3390/nu13041241. 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ●満尾 正(みつお・ただし) 満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。  
紫式部の部屋を訪れたのは藤原道長? 『紫式部日記』に描かれた「やり取り」とは
紫式部の部屋を訪れたのは藤原道長? 『紫式部日記』に描かれた「やり取り」とは 紫式部日記絵巻(模本) 出典:国立博物館所蔵品統合検索システム https://colbase.nich.go.jp/collection_items/tnm/A-8375?locale=ja   『源氏物語』の作者として知られる紫式部は、当時の権力者である藤原道長と恋仲にあったという噂が根強くある。その根拠となるのは、彼女が残した実録『紫式部日記』に記された、ある夜の出来事だ。この日記には、道長への想いがほのめかされる他の箇所もある。ここでは、『紫式部日記』から、彼女と道長の関係を平安文学と紫式部に詳しい京都先端科学大学の山本淳子教授の新著『道長ものがたり 「我が世の望月」とは何だったのか――』から抜粋・再編集して探ってみる。 *  *  * 紫式部「御堂関白道長の妾?」 家系図集『尊卑分脈』の注記  十四世紀に成立した系図集、『尊卑分脈』。これで「紫式部」を調べると、藤原為時の子の一人として「女子」と大書した周りに、注として次の言葉が記されている。 歌人 上東門院女房 紫式部是也 源氏物語作者……御堂関白道長妾云々 (歌人。上東門院彰子の女房〈侍女〉。紫式部がこの人である。『源氏物語』の作者。……御堂関白藤原道長の側室という)(『尊卑分脈〈そんぴぶんみゃく〉』第二篇第三 良門孫) 「妾」は、現代の「愛人」ではない。あくまでも公認された妻の一人、しかし正妻ではない関係を言う。この資料は、紫式部が道長とそうした関係にあったと言うのである。しかしそこには「云々」が付いているから、これは伝聞である。『尊卑分脈』が作られた時、まことしやかにそうした噂をささやく輩がいた。それは現代にまで伝えられて、二人の関係は様々に勘繰られている。  それにしても、火のないところに煙は立つまい。噂の発生源はどこなのかと言えば、それは紫式部自身の記した実録『紫式部日記』である。以下に記す通り、そこにはある夜、道長らしき人物が彼女の局(つぼね。部屋)を訪れたことが記されている。だが、彼女は戸を開けなかったとも記されている。しかしそれが火種となって、「いや、本当は戸を開けて道長と一夜を過ごしたのだろう」「いやいや、この夜拒んだというのは本当だろう。だが後々まで招き入れなかったという証拠はあるまい」などと、かまびすしい諸説を巻き起こしているというわけである。ちなみに、後者は先年亡くなった瀬戸内寂聴尼から、生前、筆者が直接うかがった説である。「紫式部が道長を拒む理由は何一つない」と寂聴尼は言われた。  とはいえ、彼女が道長を拒まなかったと考える根拠はあるのだろうか。たぶん、ある。そう筆者は考えている。それも同じ紫式部自身の遺した言葉の中に、少なくとも彼女の側には、道長を想っていた形跡が窺える。紫式部の彼への気持ちがどのように彼女の中に芽生え膨らんでいったか、そのことは当時の男女関係ではどのような意味を持つものであったかを考えてみたい。 「好きもの」紫式部 『紫式部日記』は、四つの部分から構成されている。最初が彰子(しょうし。道長の娘で、紫式部が仕えた皇后)の出産など道長家の晴れの出来事を記す寛弘五(一〇〇八)年から同六年にかけての記録、次は有名な清少納言批判などを記すエッセイ、それに続いて年次を記さない短い記事群があって、最後には寛弘七(一〇一〇)年の道長家の記録が置かれている。  問題の箇所は三つ目の「年次不明記事群」にあり、道長らしき人による「局訪問事件」はその末尾に記されている。ただ、そこにはこの訪問者が道長であるとは記していない。推理するためには直前の記事から読み始める必要がある。 源氏の物語、御前にあるを、殿の御覧じて、例のすずろごとども出できたるついでに、梅の下に敷かれたる紙に書かせ給へる、   すきものと 名にし立てれば 見る人の 折らで過ぐるは あらじとぞ思ふ 給はせたれば、   「人にまだ 折られぬものを 誰かこの すきものぞとは 口ならしけむ めざましう」 と聞こゆ。 (『源氏の物語』が中宮様の御前に置かれていたのを道長様がご覧になって、いつもの戯れごとを口にされるついでに、おやつの梅の実の下に敷かれていた懐紙に、こう書きつけられた。   梅の実は酸っぱくておいしいと評判だから、枝を折らずに通り過ぎる者はいない。さて『源氏物語』作者のお前は「好きもの」と評判だ。口説かずに通り過ぎる男はいないと思うよ 殿がこの和歌を私に下さったので、私は申し上げた。 「あら、この梅はまだ枝を折られてもいないのに、誰が『酸っぱい』と口を鳴らしているのですか? 私だって同じ。まだ殿方とお付き合いをしたこともございませんのに、どなたが『好きもの』などと言い慣らわしているのでしょうか? 心外ですこと」) (『紫式部日記』年次不明記事群)  きっかけは、彰子が自分の部屋に置いていた『源氏物語』だった。道長はそれに目を留め、折しも御前にいた作者の紫式部をからかったのである。『源氏物語』は、色好みの主人公・光源氏の面白おかしい恋愛遍歴を綴った物語だと、道長は思っていた。彼は『源氏物語』を読んでいたか、少なくともあらすじは知っていたのである。そこで手頃な紙を探し、折よく彰子のために用意されていた完熟の梅の実の下からすっと懐紙を抜き取ると、すらすらと和歌を書いて紫式部に示した。道長は日常生活のなかで、こうした風流を楽しむ人物だったのである。  しかもその和歌は、梅の実と紫式部を表裏に掛けた優れものだった。梅は甘酸っぱく、人に好んで折り取られる。同様にお前は「好きもの」で、男から好んで誘われるのだろうと。『源氏物語』の作者であるからには実際の恋愛経験も豊富なのだろうという、からかいである。現代の世でこうしたことを小説家に言いかけたりしたら、即座にセクハラと指弾されよう。道長の場合は紫式部のスポンサーでもあったので、パワハラでもある。  しかし、紫式部はいわゆる〈#わきまえない女〉だった。大人しく黙っているのではなく、即座に和歌で言い返したのである。ただ、平安時代にはこうした切り返しこそが女房としての〈わきまえ〉の見せどころとされていたから、これは道長の期待に応える態度でもあった。彼女は道長の和歌の隣に、これもさらさらと書きつけたのだろう。彼の和歌の趣向をそのまま受けて、梅の実と自分を掛けた和歌である。梅の実と言っても、まだ枝を折られてもいない場合には、酸いかどうかはわからない。そのように、自分は男に手折られたことがない――男を知らない〈乙女〉。なのに、「好きもの」だなんてどういうことでしょう? 紫式部が過去に結婚し子供ももうけていることは、その場の誰もが知っている。だからこの和歌は、「心外ですわ」とすねてみせる紫式部の演技も含めて、道長の大笑いを誘ったはずだ。  これは、『源氏物語』が生きて楽しまれていたことを示す一場面である。道長は『源氏物語』の内容を彼なりに踏まえ、作者を彼なりに認め、持ち上げた。その空気は、紫式部の作者としてのプライドを満足させただろう。返歌での切り返しも見事にできた。  だからこそ読者は、そこにはただの色事ではない、『源氏物語』風の空気を感じ取る。紫式部の返歌に笑いながら、道長の目には彼女への関心が宿ったのではないか。この作者、面白い女だ――とばかりに。読者の予感は、『紫式部日記』の次の場面への展開によって確信につながる。 真夜中の戸  続く記事は、次の通りである。 渡殿に寝たる夜、戸を叩く人ありと聞けど、おそろしさに音もせで明かしたるつとめて、   夜もすがら 水鶏よりけに なくなくぞ 真木の戸口に 叩きわびつる 返し、   ただならじ とばかり叩く 水鶏ゆゑ あけてはいかに くやしからまし (渡殿〈わたどの〉の局で寝ていた夜、聞けば誰かが戸を叩いている。おそろしさに、私は声も出さず夜を明かした。すると翌朝、次のような歌を受け取った。   一晩中、私は泣きながらあなたの部屋の戸を叩きあぐねていました。あの、戸を叩くような声で鳴く鳥の水鶏〈くいな〉より、もっと激しく泣いていたのですよ 私はその場で返事を書いた。   ただ事ではない、確かにそう思わせる叩き方でしたわ。でも本当はほんの「とばかり」、つかの間の出来心でしょう? そんな水鶏さんですもの、もし戸を開けていたらどんなに後悔することになっていたでしょう) (『紫式部日記』同前)  渡殿は、紫式部が道長の邸宅土御門殿(つちみかどどの)滞在中に局を与えられていた場所である。その戸を、真夜中に叩く音。それも何度も、忍びやかに、しかし性急に。男だと、紫式部はすぐに気づいた。だが怖くて逢瀬を拒んだというのである。そして翌日の和歌のやりとり。昨夜の冷たい仕打ちを詰りつつも、まだ未練たっぷりの男の和歌に、紫式部は切り返す。あなたを部屋に入れないで良かったと。  戸を叩いた人物が誰だったかを、『紫式部日記』は明かしていない。もちろん、彼女自身はわかっていたに違いない。翌朝の和歌はどのようにして届いたのか。そのこと一つだけでも、推測は成り立つ。だから当然、意図して書かなかったのだ。だが、前の「梅の実」のやりとりから続けて考えれば一目瞭然だ――。そう思った読者たちは、これを道長と紫式部のラブ・アフェアと断定した。その約二百年後の鎌倉時代(十三世紀前半)、藤原定家が撰者を務めた勅撰集である『新勅撰和歌集』は、この二つの和歌を「恋」の部に載せ、「夜もすがら」の作者は「法成寺入道前摂政太政大臣」つまり道長、返歌の「ただならじ」は「紫式部」とはっきり示している。現代にまで及ぶ「御堂関白道長妾云々」疑惑は、こうして始まったのだった。 山本淳子(やまもと・じゅんこ) 1960年、金沢市生まれ。平安文学研究者。京都大学文学部卒業。石川県立金沢辰巳丘高校教諭などを経て、99年、京都大学大学院人間・環境学研究科修了、博士号取得(人間・環境学)。現在、京都先端科学大学人文学部教授。2007年、『源氏物語の時代』(朝日選書)で第29回サントリー学芸賞受賞。15年、『平安人の心で「源氏物語」を読む』(朝日選書)で第3回古代歴史文化賞優秀作品賞受賞。選定委員に「登場人物たちの背景にある社会について、歴史学的にみて的確で、(中略)読者に源氏物語を読みたくなるきっかけを与える」と評された。17年、『枕草子のたくらみ』(朝日選書)を出版。各メディアで平安文学を解説。著書多数。
【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと
【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと ※写真はイメージです(Getty Images)  中高年になると健康診断で気になるスコアといえば、コレステロール値もその一つ。高い数値が出てしまい、薬でコレステロール値を下げる人も多いが、不調に悩まされるケースもあるという。ハーバード大で栄養学を学び、アンチエイジングクリニックを開院した医師・満尾正氏は、「薬の使用はもっと慎重になるべき」と警鐘を鳴らす。朝日新書『ハーバードが教える 最高の長寿食』から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは コレステロール・中性脂肪値に問題がある人  コレステロール値は、血圧同様、中高年になると上がってくる人が多いものです。「病気にならないようにコレステロール値を下げなければ」と信じている人も多いですし、健康診断で数値に問題があると指摘されてコレステロール値を下げる薬を処方されている人もいるでしょう。  しかし、そもそもコレステロールは、細胞膜を作る原料となる大切な栄養素です。ホルモンやビタミンDもコレステロールからできていますし、脳神経細胞を作るのにもコレステロールが欠かせません。コレステロールをむやみに減らしてしまうことは、健康長寿のためにはとても危険なことなのです。  コレステロールにはHDLコレステロールとLDLコレステロールの2種類があります。一般にHDLは善玉コレステロール、LDLは悪玉コレステロールと呼ばれていますが、これはLDLが高いと心臓疾患が起きやすいという理論が背景にあったためです。しかし、近年研究が進み、心臓疾患の真の原因は組織の炎症にあるという説が有力になっています。 【こちらも話題】 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな https://dot.asahi.com/articles/-/209678  もともと、LDLは肝臓から末梢の組織へ、HDLは末梢の組織から肝臓へコレステロールを運ぶ運搬トラックのような役割があるのですが、悪玉と名付けられてしまったLDLも本来は悪者ではなく、どちらも組織の炎症から体を守るために大切な役割を担って働いてくれているのです。  このため、全身の細胞が傷んでコレステロールを必要とするときにLDLが増え、必要でなくなったときにはHDLが増えると考えるほうが、理論的に無理がありません。  LDLコレステロール値が高いということは、生活習慣が乱れて細胞が傷ついており、その修復のためにコレステロールを必要としていると考えるべきであり、むやみに医薬品を使ってLDLを下げてしまうことは、かえって修復を遅らせてしまうリスクがあります。  コレステロールの摂取基準に関しては、国内外でもさまざまな議論があります。日本では日本動脈硬化学会の基準に基づいてLDLコレステロール140mg/dLとする病院が多いですが、病院によっては120mg/dLとするところもあります。一方で、アメリカ心臓病学会、および心臓協会の2013年の基準では190mg/dLと差がありますし、日本脂質栄養学会はコレステロールを下げる医療自体をすすめていません。 【こちらも話題】 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 https://dot.asahi.com/articles/-/210143  この問題についてはもっと議論が必要ですが、少なくとも下げれば下げるほどよいわけではありません。特に女性はやや高めでも問題はありません。コレステロールを下げる薬の使用についてはもっと慎重になるべきでしょう。  私のクリニックでも、薬で総コレステロールを130mg/dLまで下げていて、うつ症状のような不調に苦しんでいた人が、その薬をやめて元気になられたケースがありました。生活習慣を改善して全身状態が良くなると、LDLが減少して、HDLが増加する現象は多くの人で見られます。薬でコレステロール値を下げる前に、できるだけ生活習慣で炎症を抑えることを目指しましょう。  食事では、卵やエビ、イクラを食べるとコレステロール値が上がると言われ、根強く信じられていますが、実は、これらの食品がコレステロールを上げるという証拠はどこにもありません。  強いて言えば、動物性脂肪、特に牛乳やヨーグルトなどの乳製品を多く食べているとLDLコレステロールを上げる傾向があるようですが、そもそも、血中のコレステロールの約8割は肝臓で作られていて、食品由来のものは全体の2割にすぎませんので、それほど神経質になる必要はありません。  ただし、体質的にどうしても上がりやすい人もいますし、健康診断などで指摘されて気になる人もいるでしょう。その場合も薬の服用は慎重に、主治医の先生と相談しながらなるべく食事や生活でコントロールすることが大切であることを強調しておきます。  なお、中性脂肪は、体脂肪の大部分を占める血液中の脂質成分です。中性脂肪が増えすぎると肥満やメタボリックシンドロームなど健康上のリスクにつながります。アルコールの飲みすぎ、甘いものや糖質の摂りすぎ、または運動不足などが中性脂肪値を高くする要因ですので、こちらも気になる人は、まず生活習慣を見直しましょう。 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ●満尾 正(みつお・ただし) 満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。  
中学入試直前でも「一日中、家にこもって勉強」はおすすめしない? プロに聞く受験直前期の過ごし方
中学入試直前でも「一日中、家にこもって勉強」はおすすめしない? プロに聞く受験直前期の過ごし方 写真はイメージ(iStock)    いよいよ中学入試シーズンが本格化。今から本番までどのよう過ごしたらいいのでしょう。東京・神奈川の入試が集中する2月1日、2日が平日になる今年、特に気をつけるべきこととは? 入試に向けての勉強や準備のほか、親がやるべきこと、万が一、不合格だった時のNGワードなど、栄光ゼミナール入試情報センター責任者の藤田利通さんに聞きました。 *   *   * ――入試が間近になり、保護者も本人も緊張が高まっている時期です。この時期おすすめの勉強法は。  志望校の過去問にあたり、解いたら自分で採点してみましょう。間違える場所というのは案外いつも同じところなので、その分野をやり直します。この時期は新しい問題集には手を付けず、夏休みのころから使っている問題集で復習し、しっかりと理解を深めたほうがいいでしょう。  計画が予定通り消化できずに焦っている生徒もいると思います。なかには塾を休み、一日中家にこもって自習する生徒もいますが、それはおすすめしません。入試直前の時期だからこそ塾での勉強がとても重要になります。やり残しがあって不安を感じたら、塾の先生にお願いして、最低限やるべきこと、やらなくてもいいものを取捨選択してもらいましょう。スケジュールが整理できて、気持ちもすっきりするものです。実は予定通り進んでいない生徒は、案外多いのです。焦らずに、できることをしっかりとこなしていきましょう。 1月入試は、受けたほうがいい? ――中学入試の解禁日は、埼玉が1月10日、千葉が20日、東京都と神奈川が2月1日です。入学する意思はなくても、他県の1月入試を受けた方がいいのでしょうか。  1月入試は、ぜひ受けることをおすすめします。理由のひとつは、本番に向けた経験になるからです。入試当日は誰しも緊張すると思いますが、実際に体験することで余裕が生まれます。塾などが開催している模試は12月で終了しますから、2月1日までの1ヵ月半以上、試験のない、いわゆる空白期間になってしまいます。また、得点や順位を開示する学校もありますので、2月の入試にむけていい準備ができます。 受験生の持ちものリスト(栄光ゼミナール提供)    必ずしも入試問題を持ち帰ることができるわけではありませんが、試験中にできなかったことを塾の先生と相談して、次に向けた復習をしましょう。今回も厳しい入試が予想され、不合格になるケースも多く出てきます。不合格で落ち込んだとしても2月までには十分リカバーできますし、2月の本番で不合格をとった場合に備えての心構えにもなります。 ――入試までの約1ヵ月間は、子どものフォローや受験校への出願など、保護者にとってもやることがたくさんあります。どういう点に注意すればいいのでしょう。  夜型のお子さんなら、朝方の生活リズムに切り替えることでしょうか。本来はもっと前からやっておくべきですが、まだ夜型なら本番に備え、できるだけ早く切り替えるようにしましょう。入試の時間を起点に、何時に起きたら本番でいちばんパフォーマンスを発揮できるか、逆算してみるといいですね。生活は普段通りを心がけて。急にお料理が豪華になったり、親の態度が変わったりすると子どもが動揺してしまいます。  感染症には十分気を付けましょう。マスクや手洗いなど、基本的なこともしっかりと行ってください。 出願が始まったら「親の出番」 ――出願の際、親はどんなことをしてサポートしたらいいでしょう。  出願が始まったら、親の出番です。事務的な手続きがたくさんあるので、エクセルなどでやるべきことをまとめたリストを作り、もれがないようにすると安心です。複数の学校に出願することになると思うので、学校ごとにファイルを作り、きちんと管理することがポイント。子どもの写真は、予備も含め多めに用意しておきましょう。調査書や資格証明が必要ならば、早めに取りそろえておきます。出願の種類や受験票は各校とも似ているので、他校と間違えないように注意してください。  最近は共働きの家庭が多いので、入試時のつきそいは早い段階からスケジュールを立て、仕事を調整しておきましょう。入試は長引くケースも考えて、2月1日から5日まで、午前、午後の予定を立てておきます。A校が合格したら次はB校、不合格ならC校など、結果を想定してフロートチャートを作っておくといいですね。 受験生の保護者の持ちものリスト(栄光ゼミナール提供)    仕事の都合で子どもに付き添えない場合には、兄弟や祖父母など依頼できる人を探しておきます。何かあったらすぐ動けるように、スケジュールは家族みんなで共有しておきましょう。 ――今年は2月1日が木、2日が金曜日と、平日に入試が行われます。入試当日に留意したいことは。  ラッシュアワーを避けて、その前に行動することです。2月3日までは午前、午後とダブルで受験する可能性もあるので、電車の乗り換えの方法や混む路線、昼食をとる場所などを事前にしっかりと確認しておくといいですね。  学校によっては、1000人を超える受験生がいて駅周辺が混み合い、親子がはぐれることも想定されます。以前は、塾の先生が校門付近で待機していましたが、コロナ禍以降はそれができなくなりました。子どもが不安にならないよう、はぐれても心配せず学校の指示に従うように言い聞かせておきましょう。子どもの荷物は、渡し忘れを防ぐため、親が持つのではなく自分で持たせたほうが安心です。  午前、午後と連日続くのは体力的にもきついのですが、チャンスが広がるわけですから、がんばって集中力を途切れさせないようにしてください。過去には昼食時に、喫茶店で子どもを5~10分仮眠させてから午後入試に向かう保護者もいましたね。 友達とは連絡を取らないほうがいい? ――ライバルでもある受験生の友人たちとは、どんな距離で接したらいいのでしょう。  リスクを減らすためにも、同じ学校だからと友達同士で誘い合ったりしない方がいいです。塾の仲間が入試で同室になった場合、答え合わせをすると不安になるので、試験の話題は避けましょう。そのほうが、次の科目を平常心で受けることができます。終わった後、友達に結果がどうだったのかを尋ねないのもエチケットです。  今はWEBで直前まで出願できるため、便利になった半面、併願校を決めるのに右往左往してしまうケースもあるようです。本来はもっと前に決めておくべきですが、ぎりぎりになって迷ったら、塾の先生に相談してください。 ――中学受験は、第1志望に合格する生徒が3割だと言われています。もし不合格だったとき、親がとってはいけない態度、言葉は。  本人の前で、がっかりした態度をとらないことが一番大切です。『どうしてだめだったの』といったネガティブな言葉は慎みましょう。『Nちゃんはどうだったの』など、同じ学校を受けた友達の結果を聞くのもNGです。『今回はおしかったね!明日はきっと大丈夫だからがんばろうね』と、ポジティブな言葉をかけてあげてください。  ただし試験の内容を見直し、どこが悪かったのか、どこでミスをしたのかを分析することは大事です。そのうえで『次は、ここでミスしないようにしようね』と、注意を促してあげましょう。  合格したら、すぐに手続きをすること。実は、たまに合格後の手続きを失念してしまう保護者もいるんですよ。最近は出願が簡便になっているため、つい忘れてしまうようです。せっかく合格しても、手続きの締め切り過ぎるとその学校に進学できません。事務的な手続きは、早め早めに済ませておくことをおすすめします。 (聞き手/柿崎明子) 〇ふじた・としみち/中学受験・高校受験対策の大手進学塾「栄光ゼミナール」の入試情報センター責任者。中学入試だけでなく、高校入試の情報も統括し、中学入試では理科の講師を務める。
地震保険はやはり必要か 都道府県別の世帯加入率トップは宮城県、最下位は?【能登半島地震で見直す備え】
地震保険はやはり必要か 都道府県別の世帯加入率トップは宮城県、最下位は?【能登半島地震で見直す備え】 写真はイメージですⒸgettyimages    1月1日の夕方に起きた能登半島の地震では住宅など建物の倒壊や火災が相次ぎ、自然災害の恐ろしさを見せつけられた。地震への備えとして、地震保険について改めて考える人も少なくないのではないか。  1日には石川県志賀町で震度7の強い揺れを観測し、地震の規模を示すマグニチュード(M)は7.6を記録した。  石川県輪島市では地震発生後に観光名所の朝市通りで大規模な火災が発生し、住宅など約200棟が全焼した。市内では7階建てのビルが倒れた様子も伝えられた。ほかにも津波で浸水したり、土砂崩れや液状化現象で家屋が倒壊したり傾いたりするなど被害は広がっている。  被害の全容はまだ分かっていないものの、各地で停電や断水も相次ぎ、自宅が壊れて避難生活を余儀なくされている住民は多い。地震で道路が遮断され、飲料水や食品、日用品といった必要な物資の手当てもままならない地域もある。 二重の負担が生じる恐れ  一刻も早い支援が待たれるが、被災者の頭を悩ますのが生活や暮らしの再建だ。ファイナンシャルプランナー(FP)の清水香さんは言う。 「自宅で暮らせなくなれば、新しい住まいを確保するのにお金が必要になるかもしれません。加えて、壊れた自宅に充てていた住宅ローンが残っている場合には返済は原則続くため二重の負担が生じる恐れもあります」  住宅が全壊するなど深刻な被害を受けた時には最大300万円が支給される「被災者生活再建支援金」をはじめ、公的な支援制度も整えられている。だが新しい住宅を購入したり、修理や補修をしたりするのには必ずしも十分とは言えない。  そこで助けになるのが、地震によって生じた住宅などの損害をカバーする地震保険だ。清水さんは「公的な支援制度が限られるなか、生活再建を支える有力な手段」と強調する。  地震保険は、地震やそれに伴う火災などで住宅や家財が受けた損害を補償する保険のことだ。火災や風水害によって生じた住宅の被害は、通常、火災保険で備えられる。しかし地震や、地震が原因で起きた火災や津波の被害は火災保険では補償されない。地震保険は噴火や津波、さらに地震が原因で起きた山崩れや液状化現象などによる損害も補償の対象となる。  ユニークなのが、国と保険会社が共同で運営する点だ。 「地震はいつ、どこで、どのくらいの規模で起きるかが分かりません。予測を超える被害が生じる可能性もある。民間の保険会社だけでは賄えない可能性があるため、官民一体の仕組みがあるのです」(清水さん) 四つの区分  地震保険は単独ではなく、火災保険とセットで加入する。対象になるのは居住用の建物と家財(生活用の動産)だ。工場や店舗、自動車、30万円を超える貴金属などは対象にならない。  保険金は火災保険の30~50%に設定するルールがある。加えて、建物は5千万円、家財は1千万円が上限だ。例えば建物の保険金が3千万円の火災保険に入っている場合、地震保険の保険金は900万~1500万円の範囲で設定できる。  被災時にもらえる保険金の額は、損害の程度に応じて決まり、損害の程度は「全損」「大半損」「小半損」「一部損」の四つの区分に判定される点が特徴だ。  建物の場合は壁や柱、屋根といった「主要構造部」が時価の50%以上損害を受けたり、延床面積の70%以上が焼失、または流失したりすると「全損」となり、設定した保険金の100%が支払われる。大半損の場合は60%、小半損は30%、一部損は5%が受け取れる(下の表)。 清水香さんの資料をもとに作成。「主要構造部」は建物の基礎、柱、壁、屋根など。「一部損」は「全損」や「大半損」「小半損」に至らない建物が、床上浸水または地盤面から45センチを超える浸水を受けて損害が生じた場合に区分される    清水さんによれば、建物の主要構造部の損害に注目したり、被害状況を四つの区分で判定したりするのは、火災保険のように被害の状況を一軒一軒詳しく調べると、保険金の支払いまで相当の時間がかかる恐れがあることが理由という。より迅速な支払いができるように、こうした仕組みが用意されている。 保険料はどの保険会社でも一緒  保険料は地域や建物の構造によって違ってくる。日本損害保険協会のホームページで試算したところ、建物に保険金1500万円をかける場合の保険料は、東京都の耐火性能が高い住宅で年4万1250円(月3438円)、耐火性能が低い住宅で年6万1650円(月5138円)。石川県の耐火性能が高い住宅は年1万950円(月913円)、耐火性能が低い住宅は年1万6800円(月1400円)だ。保険料はどの保険会社でも一緒だ。  地震のリスクに対し、さらに手厚く備えたい場合には、一部の損保会社で「火災保険金額の50%まで」といった、地震保険の上限を超えて上乗せした補償が受けられる火災保険の特約がある。だが「補償は同じ額でも保険料は官民で運営する地震保険の倍以上となるケースもある」(前出の清水さん)。  損害保険料率算出機構によると、地震保険に加入する人は少しずつ増えているものの、世帯加入率は2022年になお35%にとどまっている。都道府県別では宮城県の53.6%が最も高く、沖縄県の17.9%が最も低かった。東京都は37.5%で大阪府に次ぐ7番目で、石川県は29番目の30.2%で平均を下回る(下の表)。 損害保険料率算出機構の資料をもとに作成    12年以前は年度ベースでの集計だったため単純には比較できないが、東日本大震災のあった10年度と直近の22年の数値を比べてみたところ、この間に世帯加入率が最も伸びたのは福島県(21.3ポイント増)で、熊本県(21ポイント増)や宮城県(20ポイント増)が続いた。反対に、伸び幅が最も小さかったのは東京都と高知県だった(7ポイント増)。 証拠保全は不可欠  損害保険各社は今回の地震を受けて、すでに災害対策本部を設けるなど、調査や支払いへ向けた対応を進めている。清水さんは次のように話す。 「保険証券が手元になかったり、契約先の保険会社がどこか分からなくなってしまったりしても、日本損害保険協会の『自然災害等損保契約照会センター』で契約の有無や契約先を調べてもらうことができます。また、保険金の請求期間は被災翌日から3年間ですが、証拠保全は不可欠。損害部分の写真を複数枚撮っておきましょう」  災害が起きた時には「保険金の請求をサポートします」「保険を使って住宅を無料で修理できます」などと勧誘する訪問業者が現れることもある。国民生活センターによれば、「無料だから」といって契約すると、ずさんな修理をされたり、解約時に高額の手数料を請求されたりするトラブルが各地で多数発生している。  清水さんは「被災後は直接、保険会社に連絡を。突然現れる、見知らぬ業者を相手にしてはいけません」と注意を呼びかけている。 (AERA dot.編集部・池田正史)  
【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由
【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 ※写真はイメージです(Getty Images)  中高年になってよく出てくる健康問題である高血圧。健康診断で気になるスコアが出た場合、早めに受診するのは大切なことだが、薬だけに頼るのではなく、食生活を見直すことで改善されることもある。健康診断の読み方と数値別・食養生について、アンチエイジングクリニックを開院した医師・満尾正氏の新著『ハーバードが教える 最高の長寿食』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。 * * * 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは 血圧が高い人  中高年になると、多くの人が高血圧気味になり、健康診断の判定によっては血圧を下げる薬を処方される人も少なくありません。確かに、高血圧はさまざまな病気を引き起こす要因になります。日本では、高血圧からつながる脳出血が死因の多くを占め、対策が重要であった時代もありました。もちろん、上の血圧(収縮期血圧)が180mmHgを超えるような高血圧であれば、要注意です。  ただし、降圧薬などで必要以上に血圧を下げ過ぎれば、脳の血流が低下してしまい、違う問題も生じてきます。近年は脳の血管が破れる脳出血が減少する一方で、脳の血管が詰まる脳梗塞が増えていますが、これには降圧薬によって血圧を抑えていることも少なからず影響しているのではないかと考えています。 【こちらも話題】 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな https://dot.asahi.com/articles/-/209678  また、特に高齢者の場合に顕著なのですが、血圧が低くて脳の血流を保てないと、ふらつきが起こったり、ちょっとした拍子に倒れて転倒から骨折といった事故につながりかねません。「夕食後、アルコールを飲んで、降圧薬も服用した後に入浴」という条件が揃うと、血管が過度に拡張し、血圧が急激に下がって意識を失ってしまい、入浴事故につながるケースが少なくありません。特に気をつけていただきたいと思います。  では、そもそも血圧はどれくらいの値を目安にすればいいのでしょうか。これには基準がいくつかあります。  アメリカの心臓病学会の基準(2017年)は「収縮期血圧130mmHg、拡張期血圧80mmHg」です。日本高血圧学会の診断基準(2019年)では、診察室での「収縮期血圧140mmHgまたは拡張期血圧90mmHg」以上の場合を高血圧とし、自宅で測る家庭血圧は少し低く「収縮期血圧135mmHg、拡張期血圧85mmHg」としています。  私は、大まかに言って、上の血圧が「年齢+90」以下であれば問題ないと考えています。高齢になればある程度、全身の動脈硬化が進みますから、脳の血流を保つためには「少し高め」の血圧が必要なのです。特に糖尿病の人は動脈硬化が進んでいるため、上の血圧を140mmHg以下に下げるべきではないと言われています。 【こちらも話題】 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 https://dot.asahi.com/articles/-/209682  健康診断の判定基準に単純に当てはめるのではなく、健康で長生きするためには「全身の健康状態」を俯瞰して考える必要があることを忘れないでください。  一般的に、高血圧の予防のためには、食事での塩分(ナトリウム)摂取量の制限がすすめられています。「日本人の食事摂取基準(2020年版)」の目標量では、成人男性で7.5g未満、成人女性で6.5g未満とされています。また、日本高血圧学会は減塩目標を1日6g未満にすることを強く推奨しています。  しかし、「国民健康・栄養調査」(令和元年)によると、日本人の1日の平均塩分摂取量は約10gと非常に多くなっているのが現状です。和食は醤油や味噌など塩分の多い調味料が日常的に使われているため、どうしても塩分摂取量が多くなりがちなのが、唯一の難点と言えそうです。  こうした和食の調味料にはメリットも多いのですが、塩分を控えるには酢やレモンなどの柑橘類で調味したり、出汁をたっぷり使って旨みを増やすことで調味料を加減したりする工夫も必要です。  ただし、塩分制限で血圧が下がる人は続ければ良いのですが、塩分の主成分であるナトリウムには、反応する人と反応しない人がいることがわかっていて、塩分制限をしても血圧が下がらない人もいます。 【こちらも話題】 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? https://dot.asahi.com/articles/-/209706  特に高齢者の場合、加齢に伴い「アルドステロン」というホルモンの分泌量が減少すると、体内の塩分を維持する力も低下するため、塩分制限も過剰にしすぎないように注意が必要です。ナトリウムが不足して低ナトリウム血症(血中のナトリウム濃度が低くなる)になり、逆に体調が悪くなることもあるので、全員が塩分制限をすればよいというわけではありません。塩分を制限されている方は、年に1回は血液中の塩分濃度の指標である、ナトリウムと塩素の濃度を確認することをおすすめします。  塩分の摂り方もバランスを考えながら、工夫していくことが大切です。動物性脂肪と塩分を一緒に摂ると血圧を上げ、動脈硬化を進めます。一方、魚の脂と大豆のたんぱく質は血管を守る力があることが疫学研究からも明らかになっています。  こうしたことからも、魚・大豆を中心に肉は控えめにといったバランスを考えて摂ることの大切さがわかります。同時にカリウムが豊富な野菜をたくさん摂れば、ナトリウムとバランスがとれて体の機能が正常に働きやすくなります。  また、味覚が鈍化していると塩分の摂取量も多くなりがちですから、味覚を正常化し、繊細な違いを味わう感覚を保つよう心がけましょう。味覚を正常化するのに必要な栄養素は亜鉛です。亜鉛は牡蠣やシジミなどの貝類、カニ、うなぎ、チーズ、卵などから補給できます。 【『ハーバードが教える 最高の長寿食』の記事を読む】 #1 【医師が解説】日本人が意識して摂りたい3大栄養素。「スーパービタミン」を忘れるな #2 和食こそ世界最高の健康長寿食 医師が「1975年頃の食事内容」が優秀と指摘する理由 #3 【摂りたい油、避けたい油】マヨネーズ原料の落とし穴、脂肪燃焼を促進するおすすめ油は? #4 「3食規則正しく食べる=健康の基本」は“刷り込み” 医師が教える食べる時間・食べる順番 #5 飲酒リスク、総量を減らすだけでは語れない 少量でも大きく影響を受ける“遺伝子タイプ” #6 【医師が解説】高齢なら血圧「少し高め」が必要 上が「年齢+90」以下なら問題ない理由 #7 【医師が解説】コレステロール下げればよいわけではない 薬を飲む前に見直すべきこと #8 「健康とは当たり前の状態ではありません」 元救急医が伝える健康診断や検診の大切さ #9 脳の健康によい5つの「ブレインフード」 ハーバード大で栄養学を学んだ医師が注目 #10 睡眠の質を改善するにはどうすれば? 医師が教える快眠できなくなったときの対処法 #11 大豆は消化が悪く、摂りすぎはすい臓がんのリスクを高める!? 医師が解説する、大豆の正しい摂り方とは ●満尾 正(みつお・ただし) 満尾クリニック院長・医学博士。日本キレーション協会代表。米国先端医療学会理事。日本抗加齢医学会評議員。1957年、横浜生まれ。1982年、北海道大学医学部卒業。内科研修を経て杏林大学救急医学教室講師として救急救命医療に従事。ハーバード大学外科代謝栄養研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本初のキレーション治療とアンチエイジングを中心としたクリニックを赤坂に開設、2005年、広尾に移転、現在に至る。主な著書に『世界の最新医学が証明した長生きする食事』『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)、『医者が教える「最高の栄養」』(KADOKAWA)など多数。  

カテゴリから探す