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「振り返ればあれは教育虐待だったかもしれない」…中学受験の渦中に親が追い詰められてしまう理由と“SOS”の出し方
「振り返ればあれは教育虐待だったかもしれない」…中学受験の渦中に親が追い詰められてしまう理由と“SOS”の出し方 写真はイメージ (c)gettyimages 「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さんです。今回は、受験期の親の精神状態について、二人が語ります。 【相談】 我が家は中学受験をしてよかったと振り返っていますが、親の私も中学受験はしておらず、最初で最後の経験だったので、特に6年生の秋以降の精神状態が厳しかったです。志望校に合格するためには、大量の勉強が必要だ、という塾からの洗脳もあり、周りのお子さんもやっていたので自分の頭で判断することができず、ケンカをしつつやらせていました。同じような状況の方が今年もいると思います。お2人の先生のお考えをお伺いしたいです。(中1女子の母) 安浪:ご相談者の方が、あの時は精神状態が厳しかったと振り返っていらっしゃるのか、渦中にいるときからつらかったのかわかりませんが、渦中にいる時は、自分は本気なんだ、これが当たり前なんだ、と思ってしまって、親も子どもも精神状態がおかしくなっていることに気づかないことがありますよね。 矢萩:「塾からの洗脳」と書かれていますけれど、親御さんたちも中学受験の専門家じゃないし、たとえ自分が中学受験を経験していても、今とは違うじゃないですか。その中ではやっぱり塾の情報に頼らざるを得ない。だからこそ、塾が言っていることをそのまま受け取りがちです。とはいえ、塾がなんと言おうが、うちの家庭はこういう価値観ですよ、とかこの子はこういう子ですよ、ということが真ん中になければいけないと思うんですよね。塾はあくまで活用するものだし、受験も活用するもの。そういう視点で受験と付き合っていかないと。 「あんなにやらせなくてもよかった」 安浪:受験が終わってから親御さんから「先生、食事でもご一緒しませんか」とお誘いいただくことがあるんですが、多くの親御さんが「あれは教育虐待だったかもしれない、あんなにやらせなくてもよかった」って、口を揃えておっしゃるんですよね。 矢萩:僕は大手塾時代に時々子どもたちに勉強や生活に関するアンケートをとっていたんですが、最後に「親に暴力を振るわれたことはあるか」「それはいつか」と聞いていたことがあるんです。そうするとクラスの4分の3ぐらいが2週間以内に手を上げられたり、物を投げられたりしていました。もちろん度合いはあると思います。でも、中にはバッサリ切られた塾のカバンを持ってきた子もいて。「これどうしたの?」って聞いたら淡々と「親に刃物で切られた」とか言うんですね。たぶんもうお互い麻痺しちゃっている。 安浪:よく私は親向けのセミナーで「秋からは自分が知らない自分が出てくるから注意してください」と話しているんですが、まさにそれですね。 安浪京子さん   矢萩:そんなの手加減しているし、ちょっと脅しのためにやったんです、って親本人は思っていると思うんですが、はたから見れば普通じゃない状態になっていますよね。閉鎖された空間で、親子で追い詰められてしまう怖さです。普通に理性を保つことがすごく大事なんです。 安浪:今年の春、大学生になった教え子に会ったとき、その子が6年生の時の模試を見せたんです。彼女は難関国立大に進学したので全教科勉強しているんですが、理科の問題を見て「これ、今の私でも解けないかも」と言っていました。でもあの時は、これ解けない、偏差値53だ、とかピーピー言ってたんだよね、と言ったら「もう狂ってますね」ってドン引きしてました。でも、渦中にいるとわからないんですよね。 矢萩:やはり受験をしたからには「やってよかった」「この学校に行ってよかった」という経験をしてほしいです。僕自身もそうなんですが、周りにも「行かないほうがよかった」と言っている人は一定数います。それはすごくもったいないです。僕は自分の経験をプラスに転じられるようにしたい、と思って教育業界に行ったのですが、全員が全員プラスにできるわけではないし、やはりやらなくていい経験もありますから。 自分でも知らない自分が出てくる 安浪:そうですね。親も追い詰められると、先ほど話したように自分でも知らない自分が出てくることがある。極限状態になると、そうなることもあるんだ、ということを知っておくことが大事かと思います。そうしたら、「今の私、それかも」とちょっと客観的に自分を見て、立ち止まれるかもしれない。 矢萩:親がみて、これ以上頑張らせたらまずいな、という状態はわかると思うんです。訳もなく叫ぶようになってしまったとか、攻撃的になったとか、自暴自棄になってしまってしまったとか。何かそういうSOSのサインがあったときにはそれはまず親が気づいて助けてあげないといけない。塾から「この時期はみんな追い詰められるものです」と言われたとしても、「みんなそうだからしょうがない」と思ってしまうとまずいと思います。 矢萩邦彦さん   安浪:やはり親が追い詰められるのは、理想の状態、シンプルに偏差値や点数が届いていない時ですよね。親が偏差値や点数的に厳しいと思っていて、精神的にもつらくなっているのに、子どもに必死さがないのであれば、それは親がまずその志望校を手放すべきでしょうね。あるいは、子どもが必死でもこの成績じゃダメだ、って子ども自身がどんどん自信を失っていくケースもあります。そういうときは、親がいくら「それだけ頑張っているならもう十分だよ」と言ったところで子どもには響かない。そうなると先ほど矢萩さんがおっしゃったように子どもも奇声を発するとか、チックが出るとか、さまざまなSOSを発する子もいます。でもまだSOSを出しているうちはいいほうで、その次の段階まで進むと無反応になってしまうんですよね。 矢萩:ありますね。一度無反応になってしまうと、声がなかなか届かなくなる。自己防衛のために、文字通り心の扉を閉ざしてしまうんですね。 安浪:精神的に追い詰められた時は、あまり家庭だけで解決しようと思わないで、外にSOSを出してほしいです。塾の先生でもいいし今はフリーの相談窓口もいろいろあるし、こういった相談にお寄せいただくのもいいし。ただ、直前期になったらママ友に相談するのはあまりおすすめしません。異性の子どもだったらギリギリいいとしても、同性の子どもがいるママ友はたとえ志望校が全然違ったとしても距離を置いたほうがいいです。子ども同士で仲がいいのは問題ありませんが。 合格したら「はい、終わり」じゃない 矢萩: 何はともあれ、こういったSOSを発しない状態で中学受験を乗り切ったのであれば、それはもうそのまま人生の糧になると思います。あのときあれだけ頑張れたんだからこれからもいけるよ、みたいに自信にも繋げることができます。要は一線超えないようにメンタルを保つこと。そこだけ注意すればいい。もし子どものSOSを感じたら即、話を聴く。説得するのではなく、本心に耳を傾ける。SOSをスルーしてしまったのなら、気づいた時点でちゃんと向き合い、対話の中でつらかった過去に意味付けして呪縛を解き、未来に視点を移すことで糧に転じることができます。 安浪:親御さんで、9月ぐらいから心療内科で薬をもらう方は珍しくありません。不眠とかイライラとかですね。「これ更年期でしょうか」って先生に聞いたら、「ストレスですね」と言われたとか。特にお母さんは受験のサポートのために薬を飲んでまでやり過ごそうとするんですよ。自分より中学受験のほうが優位なんですよね。以前、入試の終わったお母様が「娘は素直なので、私が頑張れば何とかなると思っていました。でも、それがいかに傲慢な考え方か、全て終わった今ならわかります」とおっしゃっていました。中学受験ってどこまでも受験生本人のものなんです。たとえ入試までは引っ張っていけたとしても、合格したらはい、終わり、じゃない。この連載で何度も話題に出ているように、熱望校に進学しても、不登校になったり、学校を辞めたりする子もいます。繰り返しになりますが“中学受験で一丁アガリ”じゃないと、常に一歩引いて見ていただきたいと思います。 (構成/教育エディター・江口祐子)    
「強盗に狙われやすい」危険な家"10の特徴"と対策 あなたの家は大丈夫?今日からできる防犯対策
「強盗に狙われやすい」危険な家"10の特徴"と対策 あなたの家は大丈夫?今日からできる防犯対策 ※写真はイメージです(gettyimages)    首都圏で発生し、殺人や連れ去り監禁も起きた連続強盗事件。次々と実行犯が逮捕され、その実態が明らかになりつつある。  しかし恐ろしいのは、その実行犯は「闇バイト」で即席的に集められた者たちで、今回の事件の犯人が逮捕されようとも、今後も全国で同様の事件が発生しうる危険性があるということだ。  市民の間では防犯意識がこれまでになく高まっている。これから対策を考えている人のために、セキュリティコンサルタントの視点から、「危険な家」の特徴と「今すぐやるべき防犯対策」をお伝えしたい。 「危険な家」10の特徴 「闇バイト」で集められた即席集団であったとしても、犯行グループは強盗に入る前に下見をしていると思われる。大体の狙いを定めた地域で、水道や屋根の修理業者を装って民家の中に入り、その家庭の情報を集めてターゲットを決めている。  もちろん、そういった怪しげな者に声をかけられたり、訪問を受けたりしても絶対に家に入れないこと、そして家庭の情報を一切渡さないことが肝心だ。  しかし、外から見てわかってしまう情報もある。また、「訪問業者を装って、この家の中を調べよう」と思われやすい家というものも存在する。  では、犯行グループから見てターゲットにしやすい「危険な家」とは、どのような条件の住宅だろうか。次の「10の特徴」が当てはまる家は注意したほうがいい。 【強盗に狙われやすい「危険な家」の特徴】 1. 家が目立たない位置にあり、周囲が雑然としている 2. 周囲に高い塀やフェンス、木が多く、隠れやすい場所がある 3. 門やフェンスの施錠がされていない 4. 照明が少なく、夜間は真っ暗 5. 家の構造が入りやすい作りである(ドアや窓が多い) 6. 玄関の鍵が古い・ドアの立て付けが悪いなどで、防犯性が低い印象がある 7. 高級車がつねに駐車されている 8. 家族構成がわかりやすいものが目につきやすい場所にある(洗濯物など) 9. 住人が高齢者や一人暮らしだと周囲に知られている 10. 近隣との交流が少ない  言わずもがなだが、強盗は外から見えにくい家を好む。ポツンと一軒家のように、周囲から断絶された場所にある民家が危険なのはもちろんだが、住宅街にあっても、周囲から隔離されたような印象の家は注意が必要だ。  たとえば、防犯やプライバシー保護のために高い塀やフェンスを設置する家は多い。確かに犯行グループが下見する際には家の中を見られずに済むだろうし、侵入の際には乗り越える手間ができるという点では、防犯になるかもしれない。  だが、いったん塀の中に入ってしまえば、絶好の隠れみのとなるわけで危険は増してしまう。上記に挙げた3以降も当てはまる家は、その高い塀やフェンスが逆効果となる。 「マンションでも危険」である理由  ドアや窓が多いという点では、戸建ての危険性がよく言われるが、マンションのような集合住宅であっても変わらない。  集合住宅の1階で、庭やデッキからリビングまでひと続きのようなつくりの部屋がある。大抵、床から天井までの大きな掃き出し窓が設置されており、陽がよく入ったり、換気ができたりとメリットも多いが、防犯上は危険性が増す。  強盗が数人いても余裕を持って通れる大きさで、窓を割れば簡単に侵入することができるからだ。  玄関の鍵が古く、ドアの立て付けが悪い家は、実際に侵入する際に容易というだけでなく、下見の段階で「この家は防犯対策をしていない」とみなされ、マークされやすくなるだろう。  家の作りだけでなく、生活面でも注意が必要だ。住人が高齢者や一人暮らしと悟られないようにするためには、洗濯物など家族構成がわかるものを家の外から丸見えの場所に置かないようにする工夫が必要だ。 「家族構成を周囲に知られないようにする」と「近所の交流がない」は一見、矛盾しているようだが、近所に高齢者の一人暮らしと知られていても、毎日誰かと顔を合わせ、挨拶するような関係性が築けていれば安心感が増す。  この家がいつもと違う状況になったり、異様な物音がすれば、周囲の家が気づいてくれる可能性が高くなるからだ。  問題なのは、近所付き合いがまったくない状態で、「どうやらあそこは一人暮らしの高齢者がいるらしい」となんとなく知られているような状況だ。その噂を聞きつけた強盗に目をつけられるリスクは高まる。 「侵入されない家」にする3つの対策  とはいえ、家を建て替えたり、住み替えをしたりというのも、現実的にはなかなか難しい。今の家の安全性を高め、先述した「10の特徴」を少しでも減らす方法を紹介したい。  まずは、玄関や窓など、出入り口に防犯対策を施すことだ。  警察庁が公表している「侵入窃盗の侵入口」(2022年)のデータによると、戸建てもしくはマンションなどの集合住宅の場合、「窓」と「表出入口」からの侵入が全体の7割以上を占めている。  さらに、同じく警察庁によると、「5分以内」に侵入することができなければ、約7割の侵入者が侵入を諦めるという。つまり、「窓」や「表出入口」に5分を耐えしのぐ設備があれば、強盗を防ぐことが可能かもしれないのだ。  その方法は3つある。 1. 玄関や窓に防犯カメラやセンサーライトを設置する 2. 窓に防犯バーや二重ロックを設置する 3. 窓に防犯ガラスや防犯フィルムを使用する  外から防犯カメラやセンサーライトが見えるだけで、抑止力になる。また、扉や窓の不自然な振動を知らせるセンサーも販売されているので、それらの導入も効果があるだろう。  夜間に侵入者が侵入を試みた際に、ライトが点いたり、振動センサーの音が鳴ったりすれば、住人に危険を知らせるだけでなく、侵入者側も驚き、侵入を躊躇する気持ちが生まれる。  また、防犯バーも効果的だ。窓に設置する鉄格子のようなものだが、仰々しさに抵抗がある場合は、バーの本数が少ないものもある。  ガラスを破壊して中に侵入する際、鍵付近を割って手を入れ、解錠して入ってくるパターンが多いが、この鍵が1カ所ではなく2カ所になれば、それだけ時間稼ぎをすることができる。二重ロックも効果はあるだろう。  ただそれも窓ガラスを全面的に破壊すれば意味はなくなってしまう。より効果があるのが、防犯ガラスに替えることだ。  ただし注意が必要なのは、ガラスが飛び散りにくいとされる網入りガラスは防火用のもので、防犯用ではない。ガラスが飛び散らなければ侵入者にとっては破壊に適してしまうので、必ず「防犯ガラス」にしたい。 「賃貸マンション」でもできる対策は?  しかし、賃貸であったり、分譲であっても集合住宅の場合は、規定によって窓やサッシ、ドアを替えられないという物件がほとんどだ。  その場合は窓に防犯フィルムを貼ることで、侵入経路を防ぐことの一助となるだろう。そのときに注意したいのは、鍵部分だけ割られないように貼るのではなく、必ず全面に貼ること。一部だけ貼っても、全体を破壊されたら意味がない。  また、内側にサッシを取り付けることも防犯になるだろう。内窓を設置する(二重サッシにする)ことで、侵入者は窓を二重に破らなくてはならず、侵入に時間を要することになる。  防犯性を高めるためには、これらの策を取り入れたほうがいいが、そこまで予算が許さないという家庭は、「防犯カメラ作動中」といった防犯ステッカーを貼る、金庫などの貴重品を窓の外や玄関先から見える場所に置かない、などの基本的な対策をまずは行おう。  何よりまずは、あなたの自宅が「危険な家」であるかどうか、今すぐに確認してみてほしい。 (松丸 俊彦 セキュリティコンサルタント)
悠仁さま“進学先”が決まれば来春に「園遊会デビュー」か 愛子さまと比較される“振る舞い”の差
悠仁さま“進学先”が決まれば来春に「園遊会デビュー」か 愛子さまと比較される“振る舞い”の差 筑波大付属高校の入学式を前に、新生活への抱負を語る秋篠宮家の長男・悠仁さま=2022年4月9日、東京都文京区  天皇、皇后両陛下をはじめ皇族方と各界の功労者が懇談する「秋の園遊会」が30日に開かれた。秋篠宮家からはご夫妻と次女・佳子さまが出席し、長男・悠仁さまの参加は見送られた。来るべき悠仁さまの“園遊会デビュー”はいつになるのか、そしてデビューを成功させるためのポイントとは。元宮内庁職員で皇室解説者の山下晋司氏に聞いた。 *  *  *  今年7月、突如、秋の園遊会に悠仁さまが参加する可能性が取り沙汰された。悠仁さまの18歳の誕生日(9月6日)が2カ月後に迫る中、宮内庁の定例会見で、西村泰彦長官の口からこんな発言が飛び出したからだ。 「(悠仁さまは)園遊会などの宮中行事以外の行事には、成年式以前であっても学業の都合がつけば参加される可能性がある」  世間の注目が集まる中、会見からわずか1カ月後、秋篠宮家を支える側近トップの吉田尚正皇嗣職大夫が「悠仁さまは秋の園遊会に出席されない」と発表した。急な方針転換ともとれる宮内庁の対応に、山下氏は苦言を呈する。 「なぜ西村長官は、わざわざ園遊会という個別の行事名を出してご出席の可能性を示唆したのか、いまだに不可解です。宮内庁は以前から、週刊誌をはじめとしたメディアに対し、『根拠のない臆測による報道』と遺憾の意を示してきました。しかし、昨年の秋篠宮邸の引っ越しの際は、佳子内親王殿下が御仮寓所に残ることを週刊誌報道の後で発表しました。こうした臆測を生んで当然といえる説明を続けてきた宮内庁側にも問題があると思います」  実際、西村長官の発言を受け、「“愛子天皇”待望論が持ち上がる中、秋篠宮家は悠仁さまの存在感をアピールしようとしているのでは?」などの推測記事も出た。  このような“秋篠宮家バッシング”の空気によって、悠仁さまの園遊会デビューが見送られた可能性はないのか。山下氏は「それはないでしょう」としたうえで、こう話す。 春の園遊会で出席者と話す愛子さま=2024年4月23日、東京・元赤坂 園遊会で国民の心をつかんだ愛子さま 「紀子妃殿下のお考えやお人柄については存じ上げませんが、少なくとも秋篠宮殿下は、そういう報道を気にして考えを変えるような方ではないと思っています。今回、悠仁親王殿下が出席されない理由は大学受験との兼ね合いかもしれません。来年3月には進学先も決まっているでしょうから、来春の園遊会には出席されるでしょう」  今春の園遊会では、天皇、皇后両陛下の長女・愛子さまが華々しく“デビュー”を飾った。淡い桜色のアンサンブルに身を包んだ愛子さまが現れると、会場は「ピンクがお似合いですね」「お目にかかれてうれしいです」などと沸き立ち、招待者の一人である漫画家の里中満智子さんは「花のような方」と評した。一方の愛子さまは、はにかみながら「(園遊会は)初めてなんです」「緊張しています」などと応じ、その飾らない初々しさで場を和ませた。  初めての園遊会で愛子さまが国民の心をつかんだ一方で、悠仁さまの場合はいくつかの懸念があると山下氏は指摘する。 「悠仁親王殿下は皇位継承順位2位の成年男性皇族ということで、世間のまなざしは、愛子内親王殿下に対するものとは当然変わってきます。また秋篠宮家は、長女・眞子さんの結婚が物議をかもしたことも相まって、何かと批判にさらされやすい状況にある。国民の間にさまざまな見方や感情が渦巻く中でのお出ましとなることは避けられないでしょう」  また、愛子さまと比較して、悠仁さまの素顔はあまり世間に知られていない。天皇ご一家のご静養時の写真や映像は数多く報じられている一方、秋篠宮家については情報が限られている。そのぶん、余計に園遊会での立ち居振る舞いに関心が集まることも考えられる。山下氏は「プライベートの映像などの公表は少ないという印象を持っていますが、秋篠宮殿下の意向によるものでしょう」と見る。 軽井沢でのご静養中、ホテルで飼われている大型犬に触れる悠仁さま=2008年5月3日、長野県軽井沢町、代表撮影 「皇族にもプライベートはある」 「皇嗣である秋篠宮殿下は、天皇陛下が皇太子だった時の仕事を引き継ぐことに加えて、宮家皇族として関わってきた公務もできる限り務めたいというお考えなので、相当忙しい日々をおくられています。一方で、皇族にもプライベートはあるので、それは尊重してほしいというお気持ちが強いようにお見受けしています。皇族に対して、公務中のお姿だけでなく、素のお人柄に触れたいと願う人もいる中、いかに皇族としての姿勢を保ちつつ、ロボットではない生身の人間としての共感を集められるか。その最適なバランスを時代に応じて模索することが求められています」  悠仁さまの素顔が垣間見えた瞬間として記憶に新しいのが、2022年の筑波大学附属高校の入学式の日の一幕だ。式の直前、初めて一人で取材を受けた悠仁さまは、報道陣から「新しい制服はいかがですか?」と問われ、「(私服通学なので)スーツなんですけれども……」と焦りをのぞかせながら懸命に応じた。  山下氏は、このような「自然体のお姿からにじみ出る親近感」こそが、悠仁さまの園遊会デビュー成功の鍵だと考えている。 「愛子内親王殿下は初めての園遊会での緊張を正直に表現し、ほほえましく受け止められました。悠仁親王殿下も『将来の天皇として威厳を示さなければ』などと気負う必要はありません。“地位が人を作る”ということわざのとおり、これからさまざまな経験を積む中で、国民から信頼、敬愛される天皇像を見いだしていかれればいいと思っています」  半年後の園遊会の注目ポイントは、悠仁さまの「18歳らしさ」なのかもしれない。 (AERA dot.編集部・大谷百合絵)
「ヒレカツカレーはサクッと揚げたて」「スケールがでかい図書館」五感を刺激する、大学のオープンキャンパスレポート
「ヒレカツカレーはサクッと揚げたて」「スケールがでかい図書館」五感を刺激する、大学のオープンキャンパスレポート 青山学院大学のオープンキャンパス(撮影/石川明奈)  夏から秋にかけて、多く開催される大学のオープンキャンパス。今年の夏も進学を希望する高校生たちが全国の大学に訪れ、この場所で学ぶ未来の自分に思いをはせた。大学にとってもオープンキャンパスは高校生たちに向けた貴重なアピールの機会だ。各大学は高校生に向けてどのような取り組みをオープンキャンパスで行っているのだろうか。高校生はそこで何を得られるのか——。今夏、関東近郊の大学のオープンキャンパスに参加した「AERAサポーター高校」の高校生記者たちのレポートから考えてみる(引用文のあとの大学名は訪れた大学)。 *  *  *  オープンキャンパスは、大学受験を目指す高校生にとって、実際の大学の雰囲気や学生の様子などを知ることができる貴重な場だ。  キャンパス内だけではない。大学に行く道のり——最寄り駅からのアクセスは良いのか。大学周辺の環境——飲食店や娯楽施設の有無、勉強のしやすい環境かどうか。高校生にとって、大学の立地も志望する上で重要な要素だ。 都市型キャンパスの魅力 「駅から真っすぐ行くだけで着くというアクセスの良さに驚いた」(専修大学) 「立地もよく大学内での活動だけでなく、外での活動もしやすいと感じた」(青山学院大学) 「キャンパスの近くに長年応援しているチームの球場があるのは夢のよう」(日本大学)  首都圏の大学の魅力のひとつでもある都市型のキャンパス。大学周辺の公共交通機関が発達しており、アクセスの良さや大学外での活動のしやすさが高校生の心を引いている。 地方の大学の良さ  一方、地方の大学の良さをオープンキャンパスがきっかけで感じることもある。 「高崎経済大学は、高崎駅で新幹線から降り、バスで約20分の立地。木々に囲まれた平地に多くの建物が詰まっていた。自分の地域から見れば群馬県はとても離れていて、あまりイメージもつかないような場所だった。しかし、駅前にはいろいろなお店が並んでおり生活に困らないだろうという安心感が得られた。大学の先生方の雰囲気も知り、キャンパスライフの想像が安心できるものになった」 大学の講義を実際に体験  オープンキャンパスに参加する大きな目的は、その大学がどんな大学かを知ること。大学も高校生たちに大学を知ってもらおうとさまざまなプログラムを行っている。その中でも人気があるのが「模擬授業」だ。大学の講義を実際に体験し、大学での学びとはどのようなものか肌で感じることができる。 「青山学院大学法学部ヒューマンライツ学科の模擬授業は、『結婚する相手の性別は限定されるべきか?』がテーマだった。今ある問題に目を向けてから理論としての法学を学ぶという、メジャーである法律学科とは逆の方向のアプローチの仕方が印象的だった」 「スケールがでかい図書館」  こうしたプログラムに参加せずとも、大学内を歩いて周るだけでも多くの発見がある。 キャンパス内の図書館の様子(中央大学法学部、撮影/佐藤陽和乃) 「専修大学神田キャンパスの魅力が詰まっている10号館(140年記念館)、外装はパッと見た感じはすごくオシャレで縦に細長く伸びている。ほぼガラス張りで、そのデザインに端正な印象を受けた。入り口もまた、オシャレなものであった。白と黒をベースとしていて、締まっている」 「学生スタッフの方とたくさんの棟を周り、丁寧にガイドしてくださった。特に感動したのは図書館。とにかく広い。スケールがでかい。解放感抜群で、きっと何をやっても集中できそう」(日本大学) 「特にびっくりしたのは図書館の一階にあるほぼ全ての本が法に関するものだったこと。また図書館を始め椅子と机がさまざまな所に置いてあることにビックリした。別にしっかりと自習室もあり、一人で静かに勉強したい、他人と話し合って協力して行いたい、どちらの願望もかなえることが出来る良いスペースだなと感じた」(中央大学法学部) 「星5レベルのおいしい学食があった。ヒレカツカレーはサクッと揚げたてのようなおいしさだった」(中央大学法学部) サクッと揚げたてのヒレカツカレーとジャージャーうどんの卵のせ(中央大学法学部、撮影/佐藤陽和乃)  キャンパス内の雰囲気や建物の質感、施設の設備や食堂の味などは現地に行かなければわからない。五感を通じて大学を知ることで、高校生たちの大学の志望度がより明確に更新されていったようだ。 「経営学を学びたかったことに気づいた」  オープンキャンパスは時に、今までの考えを変えるきっかけになることもある。 「オープンキャンパスに行って、志望大学に実際に足を運び、模擬授業や相談会を通して大学の雰囲気を知ることは大切だと思った。そして、勉強に対するモチベーションを上げることにも繋がると感じた」(青山学院大学) 「オープンキャンパスで漠然と考えていた経済学の授業を受け、私は二時間以上かけて来たこの場所でその考えを改めた。実際受けた授業と、自分が学んでみたいと思っていたことに差があると気づき大学の先生に相談をした。その結果、私は経営学を学びたかったということに気づいた。客観的に見て、経済学と経営学なんて対して変わらないというイメージがあった。しかし、もし、ただのイメージでその学部に入っていたら——。やはり学部のミスマッチを避けるためにもオープンキャンパスに行くことは大切なのだと感じた」(高崎経済大学)  これだけインターネットが発達しているなかでも、オープンキャンパスが持つ役割はまだまだ大きい。  いや、むしろ今このような時代だからこそ必要なのではないか。「オープンキャンパス」という名前なのだから高校生以外にも対象を広げれば、市井の人々が大学の価値を再認識する場としても機能するのではないか——などと想像が膨らんでしまう。  少子化が進行している今の日本社会、オープンキャンパスには無限の可能性があるのではないだろうか。高校生たちの純粋で希望に満ちあふれたオープンキャンパスレポートを読むと、そう思う。 (文・構成=大石純平/取材協力=AERAサポーター高校記者:石川明奈、KIMIGAYO、桑田愛菜、佐藤陽和乃、服部紀伽、渡辺 嵐/協力校:沖縄カトリック高校、静岡県立伊豆伊東高校、捜真女学校高等学部、都立豊島高等学校、成田高等学校、富士見中学高等学校) ※「AERAサポーター高校」プロジェクトは2022年に始まり、これまではAERA本誌や広告企画で紹介した進学や進路の情報を高校へ提供し、教員の皆さんとの情報交換を中心に活動してきました。今年度からサポーター高校の生徒たちにAERAの誌面作りなどにご参加いただく企画をスタートしました。お問い合わせはAERAサポーター高校事務局まで。adv@asahi.com
給食から「揚げパン」が消える? パン業者の相次ぐ「撤退」の背景に「給食費無償化」と厳しすぎる「縛り」
給食から「揚げパン」が消える? パン業者の相次ぐ「撤退」の背景に「給食費無償化」と厳しすぎる「縛り」 かっぽう着姿の給食当番が順番に盛りつける=東京都大田区立嶺町小学校、米倉昭仁撮影  学校給食のパンの提供の中止が全国各地で相次いでいる。給食の大スター、揚げパンは献立から消えてしまうのか。 *   *   * 「揚げパン」発祥の小学校では  今日は、待ちに待った「揚げパンの日」だ。4時間目の終わりを告げるチャイムが鳴ると、かっぽう着姿の給食当番が鍋や食器の入ったかごを運んできた。メニューはカレーポトフ、揚げパン、ミカン、牛乳。配膳台の前に並び、盛りつけてもらう。 「みんな、揚げパンは好きかな?」  記者が尋ねると、東京都大田区立嶺町小学校の子どもたちは「はーい」と、いっせいに手を挙げた。揚げパンが好きな理由をこう教えてくれた。「甘さとパンが絶妙にマッチしている」「中が柔らかくて、外が硬い、食感が好き」「砂糖、きな粉、シナモンと、味が選べるのがいい」「大きいから食べ応えがある」  揚げパンは1952(昭和27)年ごろ、同小で初めて作られ、全国に広まったといわれる。栄養士によると、「新しい油を使い、高い温度でサッと揚げるのがおいしい揚げパンを作るコツです」。  そんな話を聞くと、油になじんだ砂糖をまとったパンの甘い香りとともに、懐かしい思い出がよみがえってくる。揚げパンに限らず、今の子どもたちはパンが好きで、残食は米飯より少ないという。  ところが、いま、給食のパンがピンチだ。各地でパンの提供中止が相次いでいる。 栄養士によると、米飯よりもパンのほうが残食が少ないという=東京都大田区立嶺町小学校、米倉昭仁撮影 採算が合わず給食から撤退  福井市では今年4月から市立小中学校への給食パンの供給が停止。10月から再開されたが、それまでの間は米飯給食のみになった。同市教育委員会などによると、市内の学校を担当していた製パン業者4社のうち2社が「これ以上の負担には耐えられない」「採算が合わない」という理由で撤退したのが原因だという。三重県大紀町、大分県日田市、沖縄県宮古島市などでも今年に入り同様の事態が発生している。  全日本パン協同組合連合会(全パン連)の鈴木賢市専務理事兼事務局長によると、給食パンの製造業者は、約40年前のピーク時には全国に6千社ほどあった。それが現在は1/3以下に減少している。  これまでは、業者の廃業や撤退があっても、その地域の同業他社がカバーしてきた。だが業者の数が減り、その協力体制も限界にきている。 いつの時代も「揚げパン」は人気メニューだ=東京都大田区立嶺町小学校、米倉昭仁撮影 揚げパンを楽しみにしている子どもは多い=東京都大田区立嶺町小学校、米倉昭仁撮影 国は米飯給食を推進  実は半世紀以上前、学校給食の主食といえば、米ではなくパンだった。それが変わり始めたのは1970年代。当時、農林省は「米余り」の解消策として、文部省と連携して米飯給食の普及を推進した。76年、学校給食に米飯が正式導入。85年、文部省は週3回の米飯給食実施を目標に掲げた。目標は2007年に達成されたが、「『日本型食生活』を受け継いでもらう」(農林水産省)という新たな目的が設定され、昨年度は全国平均週3.6回に達した。  一方、給食パンの製造は年々採算が合わなくなってきた。採算性は企業形態によって異なるが、現在、生き残るのは、家族経営の比較的規模の小さな業者か、給食パンの製造以外に主力事業を持つ業者がほとんどだという。最近は人件費や光熱費が高騰し、製造業者の経営を圧迫する。  神奈川県相模原市に本社工場のある「オギノパン」は昨年3月末で給食パン事業から撤退した。荻野隆介代表取締役は、こう漏らす。 「昔は週に4回パン給食がありましたが、今は週に1回。売り上げは当然4分の1に減ります。でも、製造ラインや配送車、それを動かす人手は維持しなければならない」 子どもたちから贈られた感謝のメッセージを手にする高久製パンの高久直輝代表取締役社長=神奈川県平塚市、米倉昭仁撮影 過疎地でも「自社配送」  給食パンの業界は特殊だ。価格や材料、納品まで、とにかく縛りが多いのだ。  まず、「学校へのパンの売り渡し価格をこちらでは決められない」(荻野さん)。パンの価格は都道府県ごとに設置された「学校給食会」が統一して定めている。例えば、今年度の神奈川県の給食用コッペパン(小麦粉の重さ50グラムの場合)は51.7円。  製造業者によってパンの味や食感に差が出ないよう、原材料やレシピも厳密に定められている。小麦粉などの主原料は学校給食会が一括購入し、指定した業者に引き渡され、パンに加工される。その「加工賃」が業者に支払われる。パンの価格の約8割が加工賃だ。  各学校へのパンの配送は「自社配送」が求められる。オギノパンが担当していた小中学校は50校強(22年度)。児童・生徒数の少ない過疎地の学校にもパンを納品に行かなければならない。 「撤退直前は、『宅配便でパンを届けられないか』とまじめに考えていたくらい、収支が切迫していました」(同) 安定供給できるギリギリ  この10年で神奈川県内の指定業者は約25社から13社に減った。 「県内の学校にパンを安定供給できる本当にギリギリのラインです」と、同県平塚市で給食パンを製造する「高久(たかく)製パン」の高久直輝代表取締役社長は訴える。  神奈川県学校給食会もパン業者の苦境を十分認識している。 給食パンを製造する「高久製パン」の工場=神奈川県平塚市、米倉昭仁撮影 焼き上がったコッペパン=高久製パン提供 加工賃を上げているが… 「最近は(パン1個あたりの)加工賃を年『数円単位』で、かなり上げています」と、同給食会の大石敏靖事務局長兼物資課長は説明する。  しかし、給食のパン代は保護者が支払う「給食費」で賄われており、学校給食会には「安全な給食をできるだけ安価に提供する役割がある」(大石さん)という。  全パン連が求めてきた「製造実態に即した加工賃の値上げ」との間には大きなギャップがあるのが実情だ。全パン連青年部総連盟の給食委員会で委員長も務める高久さんは、こう話す。 「コッペパンであれば、1個80円、90円、100円近い売り渡し価格を実現しなければ、パン業者の廃業や撤退が続く現状は変わらない。ある程度の金額をいただかないと、事業を継続するのは難しい」 神奈川県学校給食会物資課の田中恵子課長補佐(左)と大石敏靖事務局長兼物資課長=大和市、米倉昭仁撮影   食材は高騰、給食無償化で「入札」制に  また、単にパンを値上げするだけでは、「学校でのパンの提供回数が減るのは目に見えている」という。  文部科学省によると、昨年度の公立校の給食費の全国平均月額は小学校で4688円、中学校は5367円。1食にかけられる費用はたった250円前後だ。それをさまざまな食材の高騰が圧迫している。  全国の公立小中学校の給食費について、約3割(文科省調査/23年9月時点)の自治体が無償化しているが、高久さんはこの動きもパン業者の撤退につながると懸念する。  財政が苦しい自治体は「1円でも10銭でも安い給食を作ろうとする可能性がある」(高久さん)。実際、給食を無償化した自治体がパンの納入を指定業者から毎月の入札に切り替える例もあるという。パンは買いたたかれ、業者はますます苦境にあえぐ。 大きなオーブンにコッペパンの生地を入れて焼き上げる=高久製パン提供 給食費の仕組みを根本から見直すべき 「給食パン業者の苦境は、保護者が負担する『給食費』の仕組みを根本的に変えないと解消しないでしょう」  こう話すのは、千葉工業大学工学部教育センターの福嶋尚子准教授だ。  給食無償化についても、「単に保護者負担を公費負担に付け替えただけのところが多い。コスト重視で、『よりよい給食を提供する』という意識が欠けている」(福嶋准教授、以下同)と、厳しい目を向ける。  給食費の無償化は、「保護者に対する支援」ではなく、子どもが健全に成長する権利、「成長発達権」に基づいて行われるべきだという。成長発達権は日本が1994年に批准した「子どもの権利条約」の原則の一つだ。 「市区町村の財政力には大きな差がある。全国の問題ですから、自治体に国が補助金を出して、給食を支える仕組みをつくる必要があると思います」  給食は日本に根づいた文化だ。揚げパン、ソフトめん、わかめごはん、鯨肉(げいにく)の竜田揚げ、冷凍みかん。さまざまなメニューと味わいが、子どものころの思い出と深く結びついている。そんな給食の土台を見直す時期にきている。 かつて学校給食の主食といえばパンだった=神奈川県大和市、米倉昭仁撮影 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
ソニーを選んだ女性AIエンジニアが語る「日本企業の良さ」と「外資系企業の良さ」 仕事が生きがいになる条件
ソニーを選んだ女性AIエンジニアが語る「日本企業の良さ」と「外資系企業の良さ」 仕事が生きがいになる条件 写真/gettyimages  ソニーよりも高給の中国企業の誘いを断ってソニーに入社した楊瀛(ヤン・イン)さん。彼女は「ソニーには外資の良さと日本企業の良さの両方がある」と語る。彼女が感じている「ソニーの魅力」とは何か? 彼女の働き方から解剖する(片山修著『ソニー 最高の働き方』よりの抜粋記事です)。 *  *  * 上司と本音で話せる飲み会  さて、個を尊重するソニー内部の人間関係はどうなのだろうか。  近年、若手を「飲み会に誘ってもついてこない」という嘆きをしばしば聞く。年齢差のある人間関係の構築には、多くの企業が悩んでいる。「OJT」による人材育成が通用しない時代になったとはいえ、ソニーでも人間関係は希薄になっているのだろうか。必ずしもそうではないようだ。  楊の直属の上司は、システムソリューション事業部長の柳沢英太で、積極的に飲み会を行うタイプだ。不定期ながら、おおよそ月に一度ほどのペースで10人前後の開発メンバーが集まり、居酒屋で飲み会を行っている。柳沢も参加する。 【こちらも話題】 初めて見た母親の姿はビデオカメラの映像だった ソニーの“鉄人”を突き動かす感動体験 https://dot.asahi.com/articles/-/339  楊は、次のように語る。 「ほかの部署はわかりませんが、柳沢さんのようなマネジメントと業務以外で直接話せる機会は少ないので、飲み会の機会に〝これをやってみたいです〞という話をしたりします。〝それはむずかしいんじゃない? ほかの会社で失敗していたものでしょ?〞なんて返されることもあります」  若手は上司に遠慮なくいいたいことをいい、上司もまた、甘やかさずに返事をする。互いに本音で話ができるからこそ、飲み会が意味ある「場」になる。  楊に「自身の役割や、期待を感じるのではないですか」と尋ねると、「それに関して、疑ったことはないですね」という返事だった。 『ソニー 最高の働き方』(片山修・著/朝日新聞出版)    チームのメンバーや上司に対する、絶対的な信頼が感じられる。その信頼は、自分自身がその期待に応えられるという自負につながり、自信になる。生き生きと楽しんで働く社員が増え、彼らのエンゲージメントも高まる。 「上司は、なんでもすぐ褒めてくれるんですよ」と、うれしそうに語った。 「日本企業の良さ」「外資系企業の良さ」とは何か?  楊は、ソニーを選び続ける背景をこう説明する。  まず、ソニーの良さについて、彼女は「外資系っぽい良さと、日本企業の良さを併せ持っているところ」と、表現した。 「日本企業の良さというのは、新人を育ててくれるところです。〝外資系っぽい〞良さというのは、上下関係が緩いところですね」 (写真/アフロ)    たとえば、各分野の専門家に困りごとについて尋ねると、必要な答えが即、戻ってくる。 さらに、仕事を任せてくれる、信頼してくれる、小さな成功を見ていて褒めてくれるといった点も、自分が「大事にされている」「育ててもらっている」という実感につながっている。 「上下関係が緩い」ことは、組織のフラットさと同時に、空気を読んだり忖度したりすることなく、いいたいことがいえる関係を指すといえよう。飲み会の席で、上司の隣に座って話を聞いてもらえたり、意見したことに本気で返事をしたりしてもらえる。そうした体験から、部下であっても、年下であってもリスペクトされていると実感できる。それは、個の尊重といえる。 「仕事が生きがい」と感じられる条件  近年、社員の生産性やパフォーマンスの向上だけでなく、社員満足度や定着率の向上、クリエイティビティを発揮させるための基準として、社員エンゲージメントが重視されるようになっている。社員エンゲージメントは、わかりやすくいうと、社員が職場でモチベーションを高く保ち、やりがいを持って楽しく働く「働きがい」を意味する。そのなかで、楊の次の言葉が印象的だった。 「入社する前は、仕事はお金を稼ぐ手段として、好きではなくてもある程度妥協してするべきものだと考えていたんです。でも、認識が変わりました。いまは、仕事は生きがいになるものだなと思っています」  社員エンゲージメントが高いのである。  仕事を生きがいと感じられるのは、幸せだ。そして、そのように感じさせられる企業は多くない。  楊は、なぜ仕事に生きがいを感じているのか。やはり、自分が望んだ仕事ができているという充実感が大きいだろう。ソニーを志望した理由からして、楊は、センサーとAIを組み合わせてさまざまなことを実現できるようにしたいと考えていた。実際、それを実現できる場にいる。夢見た舞台に立っているのだ。  アカデミックの分野では、さまざまな種類のAIの研究開発が進んでいる。各分野で世界が競っているのが現状だ。  しかし、アカデミックの分野で行われている最先端の研究を、一般人が実際に使う形にまで落とし込めないところに、AI普及に向けた最大の問題がある。  最先端のAIを生活に有効利用できるよう、実用化に向けた橋を渡すのが、楊らの役割だ。 『ソニー 最高の働き方』(片山修・著/朝日新聞出版)   「われわれみたいな、AIを扱うソフトウェアエンジニアは、そのギャップを埋めていくのが使命です。AIの実装に関しては、ソニーは世界でも最先端をいっていると思っています。AIにどんなデータが必要かは、お客さんのニーズや状況によって異なります。ソニーの場合、必要なデータがわかれば、そのデータを拾ってくることができるセンサーという強みがあります」  と、楊は語る。ギャップを埋めるためのプラットフォームとなるのが、「AITRIOS」である。  たとえば、ユーザーが実際に使う際のインターフェースや操作性について、直感的に使いやすいような設計に改善する。あるいは、用途に応じてカスタマイズ、パーソナライズする必要もある。顧客が要求する性能に特化させたり、セキュリティやプライバシーの対策を講じたりする必要もある。目的や用途にあわせて、使いやすい形に整える必要もある。 「お客さんが、こんなセンサーを使ってこんなAIをつくりたい、使いたい、と思ったときに、それがすぐに実現できるプラットフォームをつくっていて、それを完全にしていきたいと思っているんです。AIの可能性はまだまだ広がっていきます」  と力を込める。  現在も、「IMX500」に関して、AIモデルの最適化、検証、データ処理、ライブラリ開発などを行っている。 多様な働き方が、パフォーマンスとエンゲージメントを向上させる  働き方改革の視点でいえば、SSSの開発の現場では、柔軟な働き方が許容されている。楊の場合、夜型なので、朝の始業時間は遅いタイプだ。現在は対外的な仕事は少ないので、時間の制約も少ない。在宅勤務も活用している。  新型コロナ禍で普及した働き方の多様化は、一部の企業では「在宅勤務制度の廃止」「原則出社」といった形で揺り戻しがきている。今後も、在宅勤務と出社の割合や制度には、流行り廃りがあるだろう。  しかし、重要なのは社員が、効率よく最大のパフォーマンスを発揮できるかどうかである。在宅勤務を推奨するか、禁止するかという議論ではなく、どうすれば社員の高いパフォーマンスとエンゲージメントを維持できるかが議論されるべきだろう。  その点、ソニーでは、現在も、在宅勤務を含めた多様な働き方を許容する。社員のパフォーマンスの最大化とエンゲージメントにつながると考えているからだ。  仕事と休みの緩急もある。楊の趣味は、カメラである。休日には、首都圏の公園や植物園などを訪れ、季節の花を写真におさめる。AIという最先端技術に携わりながら、花など自然に視線を向けるところがおもしろい。愛用しているのは、ソニー製のセンサーを搭載しているキヤノンの「EOS Kiss」だ。もっとも、ほしいものを尋ねると「ソニーのミラーレス一眼カメラ『α』が買いたいですね」と笑った。  若いエンジニアや、専門の知識を備える人材に、活躍の場と成長実感を与え、やりがいを感じさせられるか。生きがいといえるほど、仕事に没頭させることができるか。最大のパフォーマンスを発揮させられるか。彼らがそうした場を求めていることはわかっていても、それを与えられる企業は多くない。  ソニーと楊は、この点について相思相愛だ。そんな人材がたくさんいることが、ソニーの強みである。 ◯片山 修(かたやま・おさむ)/経済ジャーナリスト。2001年から2011年まで10年間、学習院女子大学客員教授。 著書は60冊以上。『ソニーの法則』(小学館文庫)20万部、『トヨタの方式』(同)8万部のベストセラー。近著に『ソニー 最高の働き方』(朝日新聞出版)。中国語、韓国語への翻訳書多数。
総選挙で語られなかった「タブー」とは何だったのか 与党も野党も隠したかった「増税の真実」 古賀茂明
総選挙で語られなかった「タブー」とは何だったのか 与党も野党も隠したかった「増税の真実」 古賀茂明 古賀茂明氏    衆議院議員選挙で与党が過半数を大きく割り込んだ。  今後の政局を見通すことは、現段階(28日昼)では難しいが、ここでは政局ではなく、政策の話をしてみたい。  今回の選挙では、裏金問題が最大の焦点だった。  一方、政策の議論はどうだったかと言えば、これまでと同様、各党は本音を隠して、聞こえの良い政策を公約に並べただけだった。本来は、マスコミが政党や候補者に問いただし、矛盾点や課題を洗い出して有権者に伝えるべきなのだが、実際には、マスコミ報道は、各党の表向きの公約のほんの一部をさらに簡略化して伝えるだけに終わった。新聞でさえ、各党に突っ込む取材はしていなかった。  そうした各党の公約や党首討論などを見ていて気づいたことがある。 それは、政治家、官僚、有権者の間に矛盾した「常識」と「タブー」があるということだ。それはあらゆる分野に存在するのだが、ここでは、社会保障と税について例を挙げてみよう。  今回の選挙では、国民の最大の関心事は自分たちの生活に関わる問題だった。  各党もそうした国民のニーズは百も承知なので、社会保障や少子化対策などについてバラ色の明日が待っているかのような政策を羅列した。  もちろん、国民も馬鹿ではない。全部実現するとは思わないし、それだけの給付を約束するからには、どこかで国民負担となって跳ね返るのだろうと薄々感じている。  しかし、一方で、今何かもらえるなら、とりあえずもらっておこうと考えるのが私たち国民である。将来の負担に付け回しされる国債発行が原資だとわかっていても、「そんなことはやめるべきだ」と考えて、むやみに給付を提示する政党には投票しない、という行動にはならない。  そして、厄介なことに、人々の要求は千差万別だ。広く支持を得るには全ての人に喜んでもらえるように政策を並べなければならない。しかも、そのメニューは、他党よりも魅力的でなければならないのだ。  各党の公約のごく一部を並べてみよう。基礎年金受給額引き上げ、医療介護従事者の賃上げ、高校生までの医療費無償化、年収の壁の見直し、社会保障負担の引き下げや上限設定、低所得世帯への給付、児童手当の所得制限撤廃や支給額の拡大、大学教育費負担軽減ないし無償化、出産費用無償化、公立校の給食費や授業料無償化、など国民の歓心を買うための政策が並ぶ。今後の国会審議では、各党が補正予算や来年度予算・税制改正などにさまざまな要求を盛り込もうとするはずだ。 総選挙で自公過半数割れの惨敗を喫した石破茂首相   「とりあえず国債で」と言えば何でも通る  ここでは、社会保障と少子化対策の例だけを挙げたが、この他にも、歳出増案件の行列は延々と続く。政権の枠組みがどうなるかに関わらず、与野党の勢力が伯仲し、来夏の参議院議員選挙を意識せざるを得ない中では、当然歳出増の圧力は高まる。  しかも、日本は世界でも稀に見る「とりあえず国債で」と言えば何でも通ってしまう国だ。こんな国は世界中どこにもない。その証拠に、日本の公的債務の対GDP比率は、250%を超えて世界ダントツの借金大国である。  これまでは、日銀の異次元緩和により、無制限に日銀が国債を買い支えていたので、金利が上がることはなかったが、今や、円安の亢進と継続的インフレで金利を上げざるを得なくなっている。金融政策の正常化と言えば聞こえは良いが、早い話が、国債無制限発行はもうできなくなったということなのだ。  そうなれば、歳出を増やすのであれば、何らかの財源を探さなければならないという当たり前のことが要請される。もちろん、そんなことは与党のみならず、野党も一部を除きよくわかっている。  しかし、それを正直に公約に明示する政党はない。  こんなことを続けていては、日本の財政は破綻するか、インフレによる政府債務の国民への目に見えない転嫁が続くかどちらかということになる。  もちろん、近々確実に襲ってくるはずの大震災や年々被害が大きくなる風水害、あるいはいつ来てもおかしくないパンデミックなどの大きなショックに対応するための財政余力は細ったままだ。  しかし「増税」は今や完全に「タブー」になっている。岸田文雄前首相の「増税メガネ」騒ぎからも分かるとおり、増税という言葉が出た途端、議論の余地なく「悪だ」という話になってしまうので、増税しようという提案はおろか、選択肢の一つとして提示することも難しい。  政権を担う自民党は、本来、財源論を堂々と議論しなければならないはずだが、安倍晋三内閣で2回消費税を上げて以来、菅義偉元首相も岸田前首相も、消費税増税を封印してきた。そして驚くべきことに、石破茂首相まで、当面上げることは考えていないと選挙戦の中で述べている。野党は、立憲民主党以外はみな消費税の減税または廃止まで訴えている。  日本では、増税はタブーであり、とりわけ消費税増税を叫べば「極悪人」であるかのようなレッテルを貼られて終わりだ。  一方で、信じられないことだが、霞が関では、社会保障の財源は消費税の増税でというのが「常識」となっている。所得税や法人税は景気変動の影響を受けやすい。削減することが許されない社会保障費の財源としては、比較的安定している消費税を充てることが適しているとか、消費税は、収入のない高齢者も支払うので、現役世帯に負担が偏る所得税よりも適しているというようなもっともらしいことが言われている。 新たな「タブー」は金融所得課税  しかし、この「常識」は決して正論とは言えない。社会保障は、国民にとって最も重要なサービスである。税金を払っている最大の理由は、社会保障のためだと言っても良い。そのサービスの財源が足りないなら、どんな税でも良いから充当して欲しいと考えるのが自然だ。防衛費や企業への補助金の財源を何か特定の税に限るという話は聞いたことがない。なぜ、社会保障サービスを維持・拡充するときだけは、消費税に限定して増税の是非が議論されるのだろうか。  しかも、消費税は、低所得層ほど負担率が上がる逆進性がある。実は、2024年1〜8月期のエンゲル係数(消費に占める食料費の割合/2人以上世帯)は28.0%で、1982年以来の高い水準になった。中でも、年収1000万〜1250万円の世帯のエンゲル係数は25.5%だったのに、年収200万円未満の世帯は33.7%と大きな格差があり、最近の物価高が特に低所得層を直撃していることがわかる。霞が関では、社会保障費の増大に備えて、消費税増税の議論が高級官僚の間で隠密裏に進んでいるという報道があったが、こうした庶民の苦境を知りながら、しかも格差を放置したままそのような議論を進めていることが理解できない。社会保障財源は消費税でという「常識」に囚われているのだろう。  他方、欧州諸国では非常に高い消費税率を設定している国が多い。高税率で国民は不幸かというと、むしろ北欧諸国のように幸福度ランキングで上位に入る国は20%を超える高い消費税率になっている。高い税金を取られても、社会保障や子育て支援などで十分に還元されるという政府への信頼感があれば、増税はむしろ良いことなのだ。  日本も、そろそろ消費税が悪という「タブー」は捨てた方が良い。  ただし、だからと言って、社会保障費の増大に対応するための財源を逆進性の高い消費税に「限定する」ということなら、これには明確に反対すべきだ。消費税に限らず、他の財源も探すべきなのだ。この二つのことを混同してはいけない。  他の財源と言えば、ここにも「タブー」がある。トヨタへなどの増税だ。  現在の物価高の原因である円安で大儲けしたトヨタなどを、政府は巨額の補助金などで支援しているが、むしろ、庶民の苦境の原因である円安で何の努力もしないで儲けた棚ぼた利益に超過課税をする方が正義にかなう。原油価格高騰の折には、エネルギー関連の企業も大儲けしていた。そうした企業への課税は、欧州では大企業の反対を押し切って実施されている。トヨタなどへの増税を「タブー」視するのをやめるべきである。  財源論では、最近また新しいタブーができた。 「金融所得課税」だ。岸田前首相は、就任当初、「新しい資本主義」を掲げ、その一環として、金融所得課税の強化を唱えた。しかし、株価が大幅に下がると、慌ててこれを封印した。  石破首相も、自民党総裁選前に金融所得課税強化の方針を打ち出したが、総裁選で勝利し、株価が暴落すると「現時点では検討しない」と方向転換した。 立憲民主党が触れたがらない「マイナンバー」  金融所得課税を強化すると言えば、株が下がるのは当然だ。しかし、いわゆる1億円の壁(年間所得が1億円までは全体の所得にかかる税金の比率が上昇するのに、1億円を超えるような富裕層は、金融所得の所得税率が一律約15%であるために、全体の税負担率が減るという現象)という不公正税制を放置するのは決して正しいとは言えない。  この話を「金融所得課税強化」という形で取り上げるのではなく、富裕層優遇税制の是正として、できれば、金融所得を他の所得と合算して課税する総合課税にすることを目標にすればより支持が得られるのではないだろうか。NISAなどの少額投資についてはもちろん、非課税にすると言えばすむ。  この新しいタブーは、一日も早くなくして議論を始めるべきだ。  もう一つ、取り上げたいタブーがマイナンバーだ。特にマイナンバーカードは依然として不人気だ。取得率は上がったが、健康保険証とのリンクが進んでいない。リベラル層では、マイナンバーカードというだけで即拒絶という人が多い。  マイナンバーカードは確かに色々な問題がある。そもそもカードなどではなくスマホリンクにしてもらいたかったという人は多いだろう。  しかし、カードではなく、「マイナンバー」そのもの、あるいは、それと類似した国民一人一人を特定した番号などで紐づけて行政サービス提供のために利用することは絶対に必要だ。特にIT技術の進展で、これをうまく使えば、行政の効率化や国民の利便性向上だけでなく、公正なサービス提供や国民の間の格差是正への活用、さらに脱税や政治資金規正法違反や不正診療などの不公正な行為を摘発・排除するためにも非常に有効だ。  とりわけ、立憲民主党が掲げる給付付き税額控除(減税を行う際に、所得が低い人や所得がない人には減税では十分な控除に届かないため、その不足分を直接給付する制度)を行うには、各個人の資産や収入を総合的に把握することが必須である。立憲民主党は、この制度の具体的導入方法にあえて触れていない。マイナンバーを使いたいのだろうが、それを言うと、彼らの支持層であるリベラル層が反発するので、言い出せないようだ。  これは大変不幸なことだ。マイナンバーを低所得層支援に使い、富裕層や権力者監視にも使うとなれば、むしろ国民は喜ぶはずだ。説明に失敗すると炎上すると恐れていては、国民のための政治は実現できない。「タブー」を廃して、マイナンバーを活用した給付付き税額控除などを実現すべきだ。  政局は大きな変動期に入ったようだが、むしろこうした時期だからこそ、あらゆる分野における過去の「常識」を総点検し、「タブー」を乗り越えて、真に国民のためになる政策実現のために議論を急いで欲しい。
仕事に明け暮れて家に無頓着だった私が片づけたら、月1回ホームパーティーを楽しむようになった
仕事に明け暮れて家に無頓着だった私が片づけたら、月1回ホームパーティーを楽しむようになった 荷物やモノが床にも散らかって落ち着かないリビング・ダイニング/ビフォー    5000件に及ぶ片づけ相談の経験と心理学をもとに作り上げたオリジナルメソッドで、汚部屋に悩む女性たちの「片づけの習慣化」をサポートする西崎彩智(にしざき・さち)さん。募集のたびに満員御礼の講座「家庭力アッププロジェクト®」を主宰する彼女が、片づけられない女性たちのヨモヤマ話や奮闘記を交えながら、リバウンドしない片づけの考え方をお伝えします。  case.82 “理想の基地”としての家が完成 夫・子ども2人・母/医療関係  家事を「手伝うよ」と言ったら、「“手伝う”じゃなくて一緒にやるんだよ」と返されてしまった。  このような夫婦の“あるある”な状況では、多くの場合、「手伝うよ」と発言したのは夫です。でも、ゆうかさんの家庭では逆でした。 「私は仕事が忙しく、勉強することもあるので、朝6時半から仕事をして日付が変わる前に帰ればいいという生活でした。なので、うちでは一般的な夫婦関係が逆転。夫は勤務時間を調整できる仕事なので、私の働き方を尊重して、主に家事や育児をしてくれていました」  それでもワンオペの家事には限界があり、家の中は散らかるように。今の家に引っ越したときの段ボール箱も整理しきれずにそのままの状態で、探し物や忘れ物に振り回される毎日でした。 「週末になったら自分が生まれ変わって、ものすごく片づけられるということを毎週夢見ていました。実際のところは、週末になったら疲れているし、せっかくのお休みだからお出かけもしたいと思って、何もできません。一生、こうやって悩むだけなんだろうなと思っていました」  さらに、同居する母親の引っ越しの荷物は段ボール箱が120個以上。家の中は手のつけられない荷物だらけになってしまいました。積み上げられた段ボール箱の横を子どもが歩くと、崩れそうでヒヤヒヤすることも。  もともと片づけが得意ではないゆうかさんは、以前からSNSなどで目にしていた家庭力アッププロジェクト®のことを思い出します。 「何年も前からずっと気になっていました。ちょうどこの頃、体調の関係もあって少し仕事をセーブしようと思っていて、プライベートを整えるいいタイミングだと思って参加しようと思ったんです」 家具の配置を見直してくつろげる空間に変身/アフター    ゆうかさんが家の片づけに取り組むと、夫は「やっと家のことに関心を持ったのか」とうれしそうな様子。家のことはゆうかさんよりも知っていたので、片づけのときは相談に乗ってもらうことも多く、夫とのコミュニケーションも増えました。 「まず、私はどこに何があるかを把握していませんでした。私自身が家のことに関心を持って、すべてのモノを把握することから始めると、部屋に血が通うような感覚がありましたね」  母のモノは母に決定権があるので手をつけず、自分たちの荷物はひと通り“いる・いらない”を判断し、不要なモノは手放しました。  子どもたちもゆうかさんのマネをして、一緒にモノの選別をしたり、自分でゴミ箱に捨てたりしてくれるようになりました。お風呂の前にみんなで片づけて、きれいになったらアイスやデザートを食べるという“お片づけタイム”を始めると家族にも大好評。  モノが減ってスッキリしたものの、モノの定位置を決めるのには苦労しました。 「一度場所を決めても元の場所に戻されてなくて、『なんでここに置いちゃうんだろう』と悩むこともありましたね」  使う人にとって取り出しやすく、戻しやすい場所が理想の定位置。それを見つけ出すには、仮置きをして検証するというトライ&エラーを何度も繰り返します。収納グッズや置く場所も考え抜き、すべてのモノを収納すると、ものすごく暮らしやすくなりました。 「私、ミニマリストに憧れていたんです。でも、今のうちの状況では無理ですね。生活感があっても、例えば爪切りが必要なときに取り出しやすい場所にあるという今の過ごしやすい暮らし方が私たちに合っています」  家の中が片づいてきれいになると、ゆうかさんは月に1回のペースでホームパーティーをするようになりました。家に人を呼ぶというのは家の状態を見直すきっかけにもなるので、見事に実践してきれいな家をキープしています。「今まで仕事の方に比重を置いていましたが、これからは家のことを充実させたいですね。夫だけでなく、私も家事と仕事を両立させたいし、子どもたちと楽しく過ごせる空間を保っていきたいと思います」  ゆうかさんは、仕事という外の世界に目を向けていたので、気づいたら家の中のことがわからなくなっていました。でも家が片づいた今、自分の落ち着く居場所があって、自分に向き合うことができる。そこから仕事に行けるので、理想的な基地のようだと笑顔を見せてくれました。  以前見ていた「週末になったら片づく」という夢は、自分の手で叶えました。次の夢も、大きくふくらみます。 引っ越しのときの段ボール箱がそのままの子ども部屋/ビフォー   「私の仕事は『子どもがいるから』『女性だから』という偏見を感じることがあります。体調を崩した一因でもありました。でも、私は他の人の価値観に左右されずに、バリバリ働きたいし、家庭のことも大切にしたい。背中を追いかけてくれる女性の後輩のためにも、子どもがいても柔軟に働けるような環境にしたいと思っています」  ゆうかさんは落ち着いた口調で、でも芯の通った言葉で将来の夢を話してくれました。 子どもたちが自分で厳選したおもちゃを広げて遊べるように/アフター   「自分が失敗しながらやっていくしかないんですけどね。後輩たちには気軽に家に遊びに来てもらったりして、小さな子どもがいて仕事をしていても、こういう家庭ができるという一つのロールモデルができれば、と思って」  きれいになった家は、ゆうかさんの心地よい毎日の基盤になるだけでなく、後輩たちの希望にもなりそうです。ゆうかさんの次の夢が実現できたとき、きっと今のような素敵な笑顔で報告してくれることでしょう。今から楽しみに待ちたいと思います。 AERAオンライン限定記事
窓拭きロボ、油なしのオーブン、脱臭ハンガー…家事に革命を起こす"時短家電”
窓拭きロボ、油なしのオーブン、脱臭ハンガー…家事に革命を起こす"時短家電” 働き方改革など、職場環境が大きく変化してきた昨今、一方で家事を巡る環境は決して改善されたとは言い難いものがあります。 もちろん、夫婦での家事シェアが一般化しつつあるとはいえ、何かと多忙な現代生活で家事環境を改善するには、家電に頼るのも有力な解決策と言えそうです。 そこで、今回は家庭における様々な時短家電をご紹介します。 時短掃除機 窓ガラスに吸着させる窓拭きロボット 【全自動の窓掃除】 HOBOT-R3(ホボット) 窓拭きロボット AI搭載 商品価格¥45,800 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 強⼒な吸引モーターを内蔵しており、窓ガラスに吸着させて使う窓拭きロボットです。 スプレーノズルを2つ持ち、霧状の水で窓の表⾯へ均⼀に噴射。ガラスに息を吹きかけた状態を再現し、回転しながらガラス⾯や壁を⾃由⾃在に清掃できます。 付属リモコンか、Bluetooth経由でiPhoneやAndroidスマホでの操作もできます。 お風呂掃除が楽しくなる充電式電動ブラシ ツインバード バスポリッシャー 電動 お掃除ブラシ コードレス 風呂掃除 充電式 BD-4399BL 5%オフ 商品価格¥9,280 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 軽量750gで女性や高齢者の方も扱いやすい、こすりつける必要がない浴室掃除ブラシです。 ブラシのヘッドは浴槽の底だけでなく、床や側面も洗いやすいように約45°の角度がついています。 充電式でコードレスのため取り回しは楽。泡立ちや水切れの良いソフトなブラシを回転し、強く擦らずにお風呂掃除ができます。 時短キッチン家電 高温の熱風を使って揚げ油不要のエアーオーブン レコルト エアーオーブン RAO-1  商品価格¥9,800 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 高温の熱風を循環し、食材の脂を利用して調理するため揚げ油が不要。加えて、余分な脂が内アミの下に落ちるので、カロリーダウンも可能です。 本体はA4サイズとコンパクト設計。市販の天ぷらの温め直しは5分ほどでできます。 使った後はバスケットと内アミを丸洗いすればOK。揚げ物調理で敬遠されがちだった、飛び散った油の掃除や使った油の廃棄など面倒な後始末は必要なし! 充電式ブラシでコンロやシンク、お皿やお鍋を簡単掃除 ブラックアンドデッカー 充電式ブラシ シャボンスクラバー プロ BHPC110 商品価格¥3,900 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 見た目もおしゃれな充電式ブラシはゴシゴシいらずでコンロやシンク、お皿、お鍋を簡単掃除できます。 台に掛けるだけで充電できる内蔵リチウム電池により、約1時間の使用が可能で持ち運びも便利。 ブラシ、スポンジへの交換は専用台にくっつけるだけで、とても簡単です。 時短洗濯機/時短クリーナー家電 ハンガーにかけるだけで焼肉やタバコ臭など、気になるニオイを脱臭 パナソニック 脱臭ハンガー ナノイーX搭載 ブラック MS-DH210-K 商品価格¥13,939 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 衣類をハンガーにかけるだけで、かんたんに脱臭し、花粉を抑制します。 衣類の内側の汗臭はそのままかけて使い、タバコ臭や花粉などの付着物には、付属の衣類用カバーをかけて使います。 使い方は簡単。衣類を脱臭ハンガーにかけて電源スイッチを押すだけです。付着したニオイの強さに合わせて2種類のモードを使い分けし、電気代は1回1円以下と経済的です。 超音波の力で衣類の汚れを弾き飛ばす! シャープ 超音波ウォッシャー (コンパクト軽量タイプ USB防水対応)  UW-S2-V 商品価格¥19,800 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 毎秒約3万8000回の超音波振動で衣類の汚れを吹き飛ばす、超音波ウォッシャーです。 幅26×奥行22.5×高さ165mm、重量約100gの超コンパクト軽量サイズで外出時も重宝します。 使い方は汚れた部分を水に浸し、本機をなぞって、最後はすすぐだけ。汚れが酷い場合は洗濯用液体洗剤を使うとさらにきれい。 満充電で約15分利用でき、布痛みも少ないのでデリケートな衣類の洗剤にも便利です。 時短掃除機はこちらもおすすめ! ケルヒャー(Karcher) 窓用バキュームクリーナー WV1 プラス LR 1.633-224.0 価格¥6,300 詳細はこちら アイロボット(IRobot) ブラーバジェット m6 アイロボット 床拭きロボット 水拭き ロボット掃除機 マッピング Wi-Fi対応 遠隔操作 静音 複数の部屋の清掃可能 m613360グラファイト Alexa対応 価格¥40,600 詳細はこちら スティック型掃除機 ホワイト [サイクロン式 /コードレス] 日立 PVBS1L 価格¥25,394 詳細はこちら ブラックアンドデッカー 乾湿両用 リチウムダストバスター ブルー WDC215WB 価格¥6,273 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 時短キッチン家電はこちらもおすすめ!   ベビーブレッツァ フードメーカー 離乳食調理器"蒸す・きざむ・つぶす"までの調理が自動タイマーをセットしたらあとはおまかせ ホワイト 離乳食スプーン付き 1個 (x 1) 価格¥6,980 詳細はこちら シロカ 電気圧力鍋 SP-4D131 ホワイト[圧力/無水/蒸し/炊飯/温め直し/大容量] 価格¥9,980 詳細はこちら シロカ おりょうりケトル ちょいなべ [リニューアルモデル/湯切り機能付/モード切替付/丸洗い可/無段階温度調整/容量1L/電気ケトル] SK-M251 アイボリー 価格¥10,793 詳細はこちら 【助成金対象】パナソニック 生ゴミ処理機 家庭用 コンポスト 温風乾燥式 6L シルバー MS-N53XD-S 価格¥83,273 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。 時短洗濯機/時短クリーナー家電はこちらもおすすめ!   ツインバード 燕三条 超音波洗浄器 自動停止 アクセサリーホルダー付 眼鏡洗浄 アクセサリー 時計 指輪 入れ歯 【メーカー保証1年】ホワイト EC-4548W 価格¥4,936 詳細はこちら アイリスオーヤマ(IRIS OHYAMA) 布団乾燥機 ふとん乾燥機 布団2組・靴2組対応 ダニ退治 カラリエ 温風機能 マット不要 ツインノズル メーカー保証付き AZKFK-202-W ホワイト 価格¥10,999 詳細はこちら パナソニック スチームアイロン 衣類スチーマー NI-FS60A-H カームグレー 360°パワフルスチーム コンパクトタイプ プレスもできる2WAY 脱臭 除菌 価格¥11,250 詳細はこちら マクセル(maxell) Maxell マクセル オゾン除菌消臭器 《オゾネオ部屋干しネクスト》 MXAP-ARD200専用衣類カバー 価格¥1,472 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。   まとめ 時短家電の数々。いかがでしたでしょうか? 今回ご紹介した製品は、細かいニーズにフィットするニッチな魅力にあふれています。 いずれのモデルも家事を減らし、ご家庭での安息時間を増やすことができるはず。ぜひお試しください。 (暮らしとモノ班)
「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?」フリーライターが政治家に直接聞いた/文庫化記念!和田靜香×安田浩一対談
「時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?」フリーライターが政治家に直接聞いた/文庫化記念!和田靜香×安田浩一対談 安田浩一さん(左)と和田靜香さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・和仁貢介)  政局が目まぐるしく変わった今秋、10月7日、『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日文庫)が発売された。「政治に関心はあれど、まったくわかっていなかった」音楽ライター・和田靜香さんが、衆議院議員・小川淳也氏(立憲民主党)に「がっぷり四つ」の対話を挑んだ、その足跡。2021年9月に単行本(左右社)として出版されたものに、特別編「戦争を起こさないために––––あれから3年」を加筆して文庫化された。刊行記念して行われた、ジャーナリスト・安田浩一さんとの対談の一部を要約して公開する。 *  *  * 安田:僕は当初、政治問答集のようなものだと思って読み始めたんです。でも、読み終えてみたら、とっても胸が苦しくなった。単なるその政治家とライターの激突、ぶつかり合いという文脈だけではなくて、「和田靜香」という人間の物語を感じたんですよ。……50代後半の女性で、アルバイトを掛け持ちしても生活が苦しい、そうした人々が抱えている、その不安や苦悩のストーリーが浮き上がってきて。正直、若干動揺しました。 和田:ありがとうございます。動揺しただなんて、どんなところが刺さったんでしょう? 安田:僕は男だから、社会的に和田さんより優位なポジションにいることは間違いない。でも、和田さんと同業者でフリーランス。僕らは常に不安定な中で生きていかなくちゃならないし、いつも不安の中にいる。僕自身も社会に対する不満や不安なんて、常に抱え続けています。そんな自分を、「和田靜香」の物語の中に投影したのかな。 誰にでも起こりうる物語 本書には、お金もなく、なにもかもうまくいかなかった頃の和田さんが、他人の家のきれいな花壇を見て、蹴散らしたい衝動にかられる、というエピソードが登場する。花に何の罪もないことは重々承知したうえで、他人の幸せを妬んでしまう。許せない。理不尽で不寛容な気持ちが抑えきれず、思わず足が上がりかける。だが、かろうじて思いとどまり、泣きながら電車に乗る。 和田靜香『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか? 国会議員に聞いてみた。』(朝日文庫)>>書籍の詳細はこちら 和田:あのエピソードが印象深かった、とおっしゃる方が多いんですよ。 安田:わかります。僕だってパソコンを叩き壊してやろうかと思ったり、締め切りも原稿も、何もかもかなぐり捨てて、誰もいないところへ逃げ出したい!と思ったり。 和田:えー? 安田さんでもそんなことあるんですか? 私が花壇を踏み荒らしてやりたい!と思った日から10年が経ってるんですが、あの頃に私が感じていた誰かを妬んだり恨んだり攻撃したくなるような息苦しさって、今はもっと大きくなってる気がするんですよね。 安田:この本を通して、同じような思いを抱いた人って、多いんじゃないかと思うんです。特に非正規で働いてる人、女性であるというだけで様々な不利益を強いられてる人、漠然たる不安に苦しんでいる人。本の前半でも書かれているけど、僕らは今、高度経済成長の時代には生きていないわけですよね。低成長どころか、むしろ「どこまで落ちていくんだろう」っていう社会にいる。 和田:若いころは社会も経済も、ずっと成長し続けるものだと思ってましたけど、今は、とてもそうは思えないじゃないですか。あらゆるものの値段が上がって、スーパーで伸ばした手を引っ込める。近所のスーパーで大好きなマリービスケットが、130円から180円に値上がりしていて、 ささやかな楽しみなのに、もう、気軽に買えないじゃん!って。矮小な話ですけど。 安田:それ大事なことだと思って、僕はメモしてきたんですよ、本に出てくるマリービスケットと1機149億円の戦闘機の話。 和田:わぁ、それはうれしい。防衛費を倍増させ、1機で149億円もするF35A戦闘機を何機も買うそれって、マリービスケット、何枚分だよ。そもそも、そんなに戦闘機、いるのかよ?って。でも、そういうことを言うと「国を守らないでどうする」「お花畑だ」「ぱよくが」って責められる。 安田:でもね、僕、それこそが政治だと思うんですよ。マリービスケットも戦闘機も地続きだし、政治と生活はつながってる。困窮も不安も、誰にでも起きること。戦闘機の値段をお菓子に例える。これを読んで、それこそが政治に必要なエネルギーだと僕は思った。 和田靜香さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・和仁貢介) 日常と地続きの政治を変えるには、選挙しかない! 和田:私はもともと、政治に興味がなかったわけじゃないんです。「政治を変えるには選挙しかない。だからみんな、選挙に行こうよ!」って呼びかける、「選挙ステッカー」という運動を2013年に始めました。でも肝心の政治のことはぜんぜんわかってなかった。それに私自身、選挙に行かなかった時期もありましたよ。バイトに忙しくて余裕がないとか、朝、バイト行く前に選挙行こうと思ったのに、ものすごく疲れてて朝起きられなかったとか。でも今では、そういう人こそ行ってほしいって心から思うんです。そのころの私って絶望してばかりで、よくないけど、毎日「死にたい」が口癖になっていました。それが「いや、私、死ななくてもいいんじゃないか? そうか、これってわたしのせいじゃない。政治で変えていくべきことであって、私が自力で変えられる話じゃないんだ」ってわかってきた。そんな風に思えるようになったことが、この本を作った一番大きな成果だと思う。だからほんと、みんなにもそう思えるようになってほしい。 安田:これは「和田靜香」の物語であると同時に、政治参加のきっかけとして、たくさんの人に届いてほしい。政治って難しそうでとっつきにくいって思われがちだけど、そうじゃないんです。自分の物語なんですよ。社会に対して「クソむかつくよな!」っていう思いこそが、政治を変える。「あの偉そうなやつ、ひっくり返さなくちゃ世の中よくならない」とか、「貧乏なんだから金よこせよ!」っていう思いが、原動力になる。 和田:自分の1票なんて、大した力じゃないと思ってる人に「それでも選挙に行かなきゃ、政治は変わらないんだよ?」って言うと、今度は「間違って変な人に入れちゃったりしたら、取り返しがつかない」「失敗したら怖い」って言うんです。失敗したっていいんですよ。あなたの1票は1億分の1にすぎない。たかが1票。されどすごく貴重な1票。もし「やべぇ、とんでもない奴に入れちゃった!」と思ったら、次はもうちょっと政策を読むとかしてみたらいい。失敗は、だいじな一歩になります。 安田浩一さん(撮影/朝日新聞出版写真映像部・和仁貢介) 政治家を、思い切り働けるところへ連れて行ってやる。それが選挙 安田:政治家に言いたいのは「国民のために働けよ!」ってことですよ。そのためにも、自分たちの考えや方針ははっきり示せ。そしたら、思い切り働ける場所(国会)まで、俺たちが連れてってやる。選挙って、そういうものなんじゃないかと思うんです。 和田:圧倒的な権力と安定した立場、少なくない報酬を手に入れるんだもの! 安田:そう。その代わり、死に物狂いで働けよ!ってこと。政治家になったとたん、偉くなったと勘違いしてふんぞり返っちゃう、それもまあわかる。ちょっとぐらいは許そう。でも、その分ぐらいは…… 安田・和田:「働けよ!」(笑) 「選挙の大切さが少しでも伝われば」 「選挙の大切さが少しでも伝われば」。そう、和田さん、安田さんは口をそろえる。だが、本書の中で和田さんが必死で格闘したように、政治も法律も制度も、にわかに理解するのは難しい。何を基準に、どう判断すればいいのか。結局誰に、どの党に一票を託せばいいのか。有権者はどう考えたらいいのだろう。 和田:大事なのは、まず自分が何に困ってるか? 不安なのかをしっかり自覚することからだと思います。本を読んでいただくと、私もそうしてるのがわかると思います。そこから、じゃ、私の困りごとを解決してくれそうな政治家を、家のポストに配られたり、駅に置いてある「選挙公報」を読んで判断するのがいいのではないでしょうか? 選挙が終わったら、自分が投票したその人のこと、ちょっと気にしてあげてもいいかも。インスタやX、ネットのニュースに出てきたら、「ありゃ、こんな人だったのか。次は入れないよ」とか。小さなことからコツコツと。それしかないんですよね、選挙って。 (構成:黒川エダ) 和田靜香(わだ・しずか) 1965年生まれ。静岡県沼津市出身。ライター。20歳で音楽評論家・作詞家の湯川れい子さんのアシスタントに。その後フリーのライターとして音楽や相撲などエンタメを中心に執筆を続けるが仕事が徐々に減りアルバイト生活を送り始める。コロナ禍に生活がさらに苦しくなり、一念発起して小川淳也議員事務所に面談取材を申し入れる。その問答が2021年、単行本で刊行(本書同タイトル、左右社)。以降、政治を語るライターとしても活動中。 安田浩一(やすだ・こういち) 1964年生まれ。「週刊宝石」「サンデー毎日」記者を経て2001年からフリーに。事件、労働問題などを中心に取材・執筆活動を続ける。12年『ネットと愛国 在特会の「闇」を追いかけて』で第34回講談社ノンフィクション賞受賞。15年「ルポ 外国人 『隷属』労働者」(「G2」vol.17掲載)で第46回大宅壮一ノンフィクション賞(雑誌部門)を受賞。著書に『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』『ヘイトスピーチ「愛国者」たちの憎悪と暴力』『「右翼」の戦後史』『団地と移民 課題最先端「空間」の闘い』『地震と虐殺 1923-2024 』などがある。
安全保障が十八番の石破茂総理 経済政策も任せて大丈夫?
安全保障が十八番の石破茂総理 経済政策も任せて大丈夫? 首相官邸で記者の質問に答える石破茂総理   内閣発足から「戦後最速」といわれる解散を決めた石破茂総理。安全保障が十八番といわれるが、いまの日本には物価高や円安など、経済面での課題も多い。果たして、石破総理はこれまでの経済政策をどう捉えているのか? 経済をテーマにする小説家、榎本憲男さんが、石破氏の著書をもとに読み解く。 * * * 安全保障を専門とする石破総理 「アベノミクス反対」は本当か?  石破茂が内閣総理大臣に就任した。得意分野は安全保障で、日米同盟を維持しつつも、日本とアメリカは同等の関係であるべきだと述べている。基本的には安倍陣営からかなり外れた位置にいて、自民党の中ではリベラルと目されており、リベラル系の知識人からは石破総理の誕生を望む声はよく聞かれた。このような人たちの中では、正論を吐くが、それゆえに冷や飯を食わされているというイメージが浸透していたらしい。なので、彼らにとっては待望していた総理大臣が誕生したことになる。ただ、変節が激しいという声もあり、早くもそのような意見が出ている。一体、石破の本音はどこにあるのか、それを知りたくて、『保守政治家』(石破茂著、倉重篤郎編、講談社)を読んでみた。  思った通り、経済政策では、反アベノミクス的な意見が随所に出てくる。基本的にアベノミクス的な金融緩和を否定し、増税、財政健全化、金融正常化に舵を切りたいらしい。本書では、菅・岸田の経済政策もアベノミクスのマイナーチェンジだと評価されている。ところが、最近はあまり安倍派の神経を逆なでするのはまずいと思ったのか、アベノミクスや岸田前首相の経済政策に対しても一定の評価を与えるような発言をしはじめている。ただ本音は、この本に書かれた内容であると思われる。そして、いま石破の本音を代弁しているのは総務相に就任した村上誠一郎のようで、物価高・円安はアベノミクスの負の遺産だと発言している(10月2日の就任会見にて)。  本書に石破の本音が書かれているとしたら、経済政策においては、僕は石破政権を支持できない。例えば、本書で石破はアベノミクスに触れて――  これはつまり、デフレをどう脱却するか、について、マクロ経済学の中で言われているメジャーなものをすべて試そうとした、ということだと私は思っています。金融緩和によって解決しようというマネタリスト、政府の財政出動によって解決しようというケインジアン、規制緩和など成長政策によって解決しようという新自由主義、これらすべてを試そうとしたのが当初のアベノミクスだったのではないでしょうか。  と述べたあとで、 「異次元の金融緩和」によって、もともと抱えている病気が治るわけではないのです。カンフル剤で時間稼ぎをしながら、アベノミクスの三本目の矢であった成長戦略につながる構造改革を大々的に実施して生産性の向上を図ることこそが、日本経済の病に対する治療法だったのではないでしょうか。金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があったのではないでしょうか。  と語っている。  アベノミクスは三本合わせての経済政策であり、ばらばらにレッテル貼りをして「いいとこ取り」しているかのように述べるのはスジが悪い。また、「異次元の金融緩和」だけでは低迷する経済に活は入れられないという判断は正しいが、石破はここで2番目の矢の「財政出動」を完全に無視している。明らかに意図的な黙殺をした上で、三番目の矢が必要だったと述べる。これは大いに問題有りの論理展開だ。  国民民主党党首の玉木雄一郎は、自身のYouTubeちゃんねるの『追悼 安倍元総理 思い出をお話します』の回で、「アベノミクスがうまくいかなかったのは、第二の矢が飛ばなかったから。出すべきところにお金を出さないから、潜在成長率を上げるようなイノベーションが起きず、第三の矢も飛ばなかったのだ」(大意)と述べている。素直に考えれば、玉木雄一郎のほうがスジが通っていて、わかりやすく、石破のアベノミクス批判はひねくれて、こじつけめいている。 アベノミクスによって、本当にお金は出回ったのか?  さらに、石破氏は「金利のつかないお金が大量に市場に出回ったことで、企業が金利負担という資本主義における付加価値創造能力を失い、安きに流れた面があったのではないでしょうか。」と述べているが、これも僕に言わせればあやしい。本当に「金利のつかないお金が大量に市場に出回った」のか。たしかに、金融緩和によって、マネタリーベース(日銀における銀行の当座預金を含めたすべてのマネー)は増えた。しかし、市場に出回るお金、マネーストックはさほど増えていないのではないか。  なぜか。企業側から見れば、事業プランがなければ、借りた金の使い道がないことがひとつ。また、銀行側から見れば、ゼロ金利や超低金利政策においては、儲けがほとんどない金を貸すことを意味する。つまり貸し出しに旨味はなく、また低金利をいいことに調子にのって借りまくった企業が事業をコケさせることを考えると、貸し出し意欲は低下する。  さらに、日銀がゼロ金利政策を取りながらも、「窓口指導」と称して、銀行の貸し出しをコントロールしていたという可能性(『誰も書かなかった日本銀行』石井正幸著、にそのような記述がある)も紹介しておく。そんな馬鹿なと僕も思ったが、『日銀 円の王国』(合研パブリッシング)の著者吉田祐二は、このような事態に触れて、「まわりの中小企業経営者に実際に訊いてみると、ゼロ金利政策が実行されたときですら、一般の中小企業は銀行の「貸し渋り」にあっていた」と解説している。とにかく、マネタリーベース(お金の素)は増えたがマネー(市場のお金)はさほど増えず、増えたとしても預金で積み上がっていただけで市中を循環して(つまり出回っては)いなかったと思われる。  では、循環させるにはどうすべきだったのか? それには、マネーの素をぐいと市場に押し出してマネーに変えるポンプ、2本目の矢である積極財政が必要だったという説が浮上する。つまり、前述の玉木雄一郎の意見に戻るわけである。立憲民主党の枝野元代表はかつて、「本来効果が上がるはずの金融緩和をとことんアクセルを踏み、財政出動にとことんアクセルを踏んでも、個人消費や実質賃金という、国民生活をよりよくするという経済政策の本来の目的にはつながらないところで止まっているのではないでしょうか」と、あたかも第2の矢が放たれたような前提で批判をしていた(2018年7月20日衆院本会議)。これも事実誤認に基づいた意味のない批判である。  アベノミクスによって、株価の上昇はあったものの、日本経済がデフレから完全に脱却し、上向きになったという事実はない。これは確かだろう。けれど、これをネタに、反安倍的なモチベーションで歪んだ解釈を流布するのはいただけない。石破政権のアキレス腱は経済政策にある、というのが本書を読んだ僕の感想である。  
「40代の自分が『若手』」 能登半島「複合災害」で介護職が苦境に、目立つ若い人の離職
「40代の自分が『若手』」 能登半島「複合災害」で介護職が苦境に、目立つ若い人の離職 被災者宅の「被災診断」の現場。泥は重量があり、被災者が自力で掻き出すのは困難。災害ボランティアも手伝う(写真:吉村誠司さん提供)    大地震から生活再建の途上で再び災害に見舞われた石川県能登地方。地震の影響で土砂災害が多発するなど豪雨の被害も拡大したが、ハード面だけでなく、ケア力が弱っていた地域を危機的状況に追い込んでいる。AERA 2024年10月28日号より。 *  *  * 「家の中が川になっていて浸水が止まりません!」 「次の雨で、家下の土砂が削られたら家が崩れる!」  9月下旬に発生した能登半島の豪雨災害。被災者や災害派遣医療チーム「DMAT」、災害ボランティアセンターから緊急依頼を受け応急対応を進める“災害現場の助さん”こと、吉村誠司さん(59)は今、傾きかけた家の倒壊防止や貴重品捜しなどに追われている。災害支援NGO「ヒューマンシールド神戸」代表を務め、阪神・淡路大震災、東日本大震災、九州北部豪雨災害など、あらゆる被災現場の技術ニーズに応えてきた。今回の能登豪雨は、「地震による地盤の緩みや亀裂の影響がかなりある」と「複合災害」の恐ろしさを語る。 「地震では持ちこたえた家が、豪雨による土砂崩れでつぶれた事例もある。中学校の運動場から流出した砂が、下の方の道の駅周辺を埋めた現場も見た。地震と水害が複合的に発生したことで、被害を増大させていると感じます」 地震で半壊、新しい畳を入れた翌日に自宅が水没  気象庁が能登地方に大雨特別警報を出したのは、9月21日の正午。石川県によれば10月9日時点で死者は14人。浸水被害は398棟に上った。被害が大きかった輪島市では6河川が氾濫。20カ所の避難所が開設され、8日時点で406人が避難生活を続ける。  同市の元岡則子さん(79)は、氾濫した河原田川沿いにある自宅で被害に遭った。2階建ての1階部分は完全に水没。家具は泥だらけになった。  正月の地震の時は半壊になり、市外の息子宅に避難していた。断水していた上下水道が復旧して5月末に自宅に戻り、開かなくなった玄関扉のサッシを直し、家屋の修繕を進めていた。  新しい畳に入れ替えたのが20日の午後。川が氾濫したのはその翌日だ。元岡さんは呆然(ぼうぜん)とした口調で言う。 「青畳が泥水にすっかり浸(つ)かってしまって、もう人生、次に何が起こるかなんてわからない。ケセラセラですわ」 高齢女性の自宅の畑に流れ込んだ土砂をかき出すボランティアたち=2024年10月20日、石川県輪島市町野町    高齢過疎地域ならではの影響もある。福祉防災学を専門とする、同志社大学社会学部の立木茂雄教授は、高齢者や障害者を支えるはずの介護職そのものが危機的状況に陥っていると懸念している。今年6月末、標準的な計量経済モデルを使い、輪島市では約400人の介護従事者が不足すると割り出した。 「地震発災後は利用者が広域避難して介護需要が急減した。そのため、介護事業者の経営が立ち行かなくなってケア人材も流出。復旧途上で事業再開ができない施設もある。水害後に地域の脆弱な介護体制を補い合うには事業者間を調整して、助け合いによってケアニーズに応えていくことも必要ですが、自治体職員も削減されて支援の調整が進みにくいのが現状です」 利用者が減って職員も減収、若手職員の離職が目立つ  実際、ケア職が苦境に陥っている状況はある。輪島市の「あての木園」もその一つ。同デイサービスセンターで生活相談員を務める干場(ほしば)朝勝さん(44)によれば、地震後になんとか復旧していた六つのトイレが、豪雨後の「再断水」により三つ使えなくなったという。復旧の繰り返しで暮らしの制限が長期化する中、施設利用者も職員も強いストレスにさらされていると言う。 「介護スタッフがいなくなっている中、被災した職員自身が被災者のケアに当たるという困難な状況が続いています。ケアが必要な人たちが目の前にいて、なんとか少ない人数でも応えてあげたい気持ちなんですけど……」  そもそも地震の後、多くの利用者が避難し、以前は30人いたデイサービスの利用者が3人にまで落ち込んだ。その後、徐々に回復し、地震前の半分まで回復したところで水害が襲った。  利用者減により、介護職員の手当はカットされ減収が続く。職員数も大幅に減少し、特に若手職員の離職が目立つ。「40代の自分が『若手』と呼ばれる状況」と干場さん。さらに水害で、一部の職員は自宅が被害を受け、休職者もいる中、現場の人手は足りない。  干場さん自身も、土砂災害で自宅に戻れず、親戚宅に避難している。裏山が崩れて家まで土砂が迫り、土砂撤去を依頼するも、市と県の調整で作業の待機が続く。仮設住宅も順番待ち。「自宅で年越しは無理かな」と諦め顔だ。  今は職員のモチベーション低下が課題だと、干場さんは打ち明ける。 「地震と水害の被害で、職員も目の前の現実で手いっぱい。若い人がいなくなり町全体に活気がない。ケア人材も流出。そんな中、どうやって人を支えるか。力が湧いてこないのが現実です」  地震で損壊した建物の修繕が続き、広域避難させた利用者の帰還支援も途上。ケア体制が回復しきっていないところに水害が起き、これまで以上に介護職への支援の必要性が高まっている──。  そう指摘するのは、厚生労働省DMAT事務局災害医療課の上吉原良実さん。輪島市で地震発災時から長期で支援活動を続けている。 「今、前線でケアに当たる方々の危機が感じられます。職員さんの心が折れそうなところを、いかに早く、『水害前』のメンタリティーまで戻してあげられるかが目下の課題です」  上吉原さんは、市の職員と連携を取りながら、被災職員宅の戸別訪問や状況確認など、ケア職の生活再建にも注力しているという。 「2段、3段と復旧を進めていたところに水害が来て、また1段下がってしまった。そんな『後退感』にとらわれて職員さんの士気が下がらないよう、もう一回補強して通常のケアができる環境に戻していくことが大事な局面。その『支え直し』には、メンタルケアも含め、外部の専門家やボランティア人材の力も必要です」 (ジャーナリスト・古川雅子) ※AERA 2024年10月28日号より抜粋  
「もっとお金があれば」と思っているうちは幸せになれない 鍵はお金の使い方に
「もっとお金があれば」と思っているうちは幸せになれない 鍵はお金の使い方に お金があっても幸せになれるとは限らない(撮影/写真映像部・佐藤創紀)    もっとお金があれば、もっと幸せになれるのに──。メディアをにぎわす「富裕層」たちの暮らしぶりを見てうらやみ、何となく落ち込んでしまう。そんな人も多いかもしれない。しかし本当に、お金がたくさんあればそのぶん、幸せになれるのだろうか。AERA2024年10月28日号より。 *  *  * 「私たちは、『お金=幸せ』という間違った答えを導き出してしまいがちです」  こう話すのは、慶応大学大学院SDM研究科・武蔵野大学ウェルビーイング学部教授で「幸福学」の第一人者、前野隆司さん(62)だ。 だんだん頭打ち 「もちろん、憲法で保障されている『健康で文化的な最低限度の生活』を営むためのお金は必要です。お金持ちでかつ、幸せいっぱいの人もいるでしょう。ただ、『お金持ちになればなるほど必ず、すごく幸せになるのか』というと、それは違うと思います」  ノーベル経済学賞を受賞したプリンストン大学のダニエル・カーネマン名誉教授による「お金と幸福度の関係」についての研究がある。  収入を横軸に、幸福度を縦軸にグラフをとると、収入増につれて幸福度が青天井に伸びていくのではなく、収入が増えてもだんだんと幸福度には影響しなくなっていき、その先は幸福度が頭打ちになるという線を描く。経済学用語のいわゆる「限界効用逓減(ある財の消費量の増加に伴って、限界効用はしだいに減少する)の法則」がそこにも見られるというのだ。なぜなのか。 「たとえば、貧しくて冷蔵庫も買えなくて困っている人が冷蔵庫を買うと、幸せになりますよね。つまり欠乏状態からの脱出というものは幸せにつながるでしょう。多くの人は大なり小なりこのような『これが買えて助かった』という脱出経験は持っているので、ついそのまま延長する発想で『この先も豊かになればなるほどものすごく幸せになる』と考えてしまう。でもそれは人間の脳が持ってしまうイリュージョン(幻想)であり、間違いです。貧しさからの脱出と、ある程度豊かになってからの『ぜいたく消費』では、『幸せへの寄与率』がまったく違うんです」 前野隆司さん(まえの・たかし)/慶応大学大学院・武蔵野大学教授。著書に『幸せに働くための30の習慣』『幸福学の先生に、聞きづらいことぜんぶ聞く』(写真:本人提供)    前野さんは、「そもそも『もっとお金があれば幸せなのに』と思っているうちは幸せになれません」と言い切る。 「年収400万円であれ1千万円であれ、自分のライフプランニングがきちんとできていて、『お金はもう十分。自分はこの年収で生涯安定して生きていける』と思っている人は幸福度が高い傾向にあります。逆に『もっとお金があればいいのに』という考えを手放せない人は、ボーナスが出たり年収が10万円増えたりしたときには『一瞬のハピネス(嬉しいという感情)』は得られますが、長期的に心が良い状態(ウェルビーイング)にある『長続きする幸せ』は、いつまでたってもやって来ないんです」  なぜ、そうなってしまうのか。 「幸福の対象には、『地位財』によるものと、『非地位財』によるものがあります。地位財による幸せとは、おカネ、モノ、地位など他人との比較に勝って満足が得られるもの。こちらの幸せは短期的なものにとどまり、長続きしません。地位財で比較して負けたらそれはそれで悔しくてうらやましいばかりで不幸せ。どっちにしろ『他人と比較してしまうこと』は、私たちにさほど幸せはもたらしません。一方の非地位財は、健康、自主性、自由、愛情など、他人と比較しなくても満足感が得られるもの。これらを得ることによる幸せは、長続きするんです」  そしてこのことは、いま持っているお金は「どのように使えば」幸せになれるのか、にもつながってくると前野さんは指摘する。 「モノ(地位財)を買うよりも、『体験(非地位財)』を買う方が幸福度は長く持続するという研究結果もあるんです。1万円で何かモノを買うよりも、1万円でたとえば何らかのチャレンジ体験をすることの方が、心に幸福感が持続する。つまりモノよりも『心の思い出になるような経験』の方が、幸せは増すんです」  もう一つのポイントは、「利他的なお金の使い方」だ。お金は自分のために使うよりも、他人のために使った方が幸せという研究結果があるという。 他人のために使う 「世の『お金持ち』の中には、お金を自分のためばかりに使って、贅沢したり自慢したりという人も多いですよね。でも、これをやっている間は、幸せにはならない。寄付でもいいし、儲けるための投資ではなく『彼らはいいビジネスをしているから応援したい』という意味での投資をするのもいい。他人のために使って、『世の中の役に立てて良かったな』と思えると、セロトニンやオキシトシンといった幸福感につながる脳内物質も出る。お金持ちが幸せになるには、他人のためにお金を使う。そこに尽きると思います」 (編集部・小長光哲郎) ※AERA 2024年10月28日号より抜粋  
「中学受験の志望校、どこもいい学校に思えて選べない」と悩む母に、プロが教える「判断のポイント」とは
「中学受験の志望校、どこもいい学校に思えて選べない」と悩む母に、プロが教える「判断のポイント」とは (写真はイメージ/GettyImages) 「詰め込み」「偏差値」というイメージが強い中学受験。「受験のための勉強は子どもの将来に役に立つの?」「難易度より、子どもを伸ばしてくれる学校を選びたい」といった悩みを抱えている親御さんも増えています。思い切って「偏差値」というものさしから一度離れて、中学受験を考えてみては――。こう提案するのは、探究学習の第一人者である矢萩邦彦さんと、「きょうこ先生」としておなじみのプロ家庭教師・安浪京子さんです。今回は、「学校が選べない」という小5のお母さんからのお悩みです。 【相談】 いくつか学校説明会などに参加しました。お話を伺うとどこも良いなと思ってしまい、わが子に合う学校がどんな学校なのか。どのようなことを基準にして考えると良いのか、かえってわからなくなってしまい困っています。ぜひアドバイスをお願いします。(小5男子の母) 安浪:この連載でいつも言っていることかもしれませんが、まず先に親が軸を持ってから見に行かないと難しいですよね。どの学校も全力で宣伝してくるわけですから、どこもよく見えてしまいます。 矢萩:学校説明会は、学園祭などのイベントと違って、生徒たちの等身大の生活が見えづらいところがあります。ホームページなどの情報と同じで、学校側が見せたい部分をピックアップできるし、見せたくない部分は隠せてしまいます。なので、「そういうものだ」という意識を持って参加する必要があります。そのうえで、学校のどこが気になるのか。優先順位は何なのかを、ある程度明確にしておくことが大事ですね。 「コロッと学校のウリに流される」 安浪:私も昨年は息子が6年生だったのでいくつか学校を見に行って思うところがいろいろありました。どちらかというと、「この学校はここがウリだけどうちの子にとってはどうなんだろう」と思うことが多く、「バッチリここがいい!」という学校はあまりなかったので、このご相談者さんと逆ですね。特に私立はどこも手厚く、それがかえって「帯に短したすきに長し」という感じで、最終的にはある程度学校のなかで流される部分があったとしても、その中で自分で是正して成長してくれたらいいかな、という結論にはなったのですが。でも、「家庭で軸を持っていないと、コロッと学校のウリに流されるだろうね」と夫婦で話していました。 矢萩邦彦さん 矢萩:どの学校もよく見えるというのは、素晴らしいことだと思います。学校のあら探しをするといくらでも出てきますし、実際に入学すると学校自体の問題よりもクラスや先生との相性のほうが影響が大きかったりします。校庭の広さや設備面、部活、宿題、ケア体制など、自分たちがこだわっている軸やポイント以外は、ポジティブな面に注目する選び方でよいと思います。 安浪:軸といっても中学受験の軸だけでなく、もっと根幹にあるのは家庭における教育の軸ですね。そもそもどんな人間になってほしいと思っているのか。情緒的な話になりますが、生まれて名前をつけたときに、一番最初に考えているはずなんです。それを思い出してみるのもいいかもしれません。 いざ通い始めると大事なのは「人間関係」 矢萩:僕は中学校や高校でも教えているんですが、その中で「今通っている学校のどこが好き?どこが嫌?」といった質問をたくさんの生徒にしてきました。それでわかったのは、実際に通っている生徒たちが感じている好きな部分も嫌な部分も、大半が人間関係についてなんです。「この教科の先生が好き」「担任の先生と合わない」「友だちが楽しい」「部活の先輩が嫌」など、社会人の悩みの多くが職場の人間関係なのと似ています。先生たちは学校のハード面やプログラム・カリキュラムがいかにすごいかを力説しますが、いざ通い始めると結局人間関係が大事になってくるんですね。 安浪:それ、すごくわかります。「絶対に受験する!」と言っている小学生には、今の小学校の人間関係が続くのが嫌だから、という動機の子もいますもんね。 矢萩:じゃあ、どうやってそれを見分けるか、ということですが、まず、今小学校に通っている中での人間関係を思い浮かべてみて、こういう友達とは喧嘩することがあったな、この先生とはうまくいっていたな、あるいはこういう先生とはうまくいかなかったな、など、なんとなくでいいので「人物像」をイメージしてから志望校を見てみることです。「この学校だったら、うちの子とは合いそうな人が多そうだ」とか「先生とぶつかりそうかな」ということをイメージしてみます。 安浪京子さん その学校に通う自分がイメージできるか 矢萩:そのためには僕はいつも学校説明会だとか、何かイベントに行ったときは複数の先生と話をしてください、と言っています。校長先生や広報の先生の話を聞くだけでなく、そのへんに立っている先生にトイレの場所を聞くだけでもいいので、ちょっと声をかけてみて、違和感がないか、フレンドリーに話せるかどうか体感してみるといいです。お父さんお母さんが話して、何かかたいな、とか、何か違和感がある受け答えだな、と思った場合は、子どもいずれそう思うようになる可能性があると思ったほうがいいです。 安浪:同じ学校でも、学年やクラスによってカラーが違うというのは当然ありますが、いずれも指導するのは先生ですからね。たしかに複数の先生に話しかけることで、違和感の有無をある程度把握できそうです。 矢萩:あとは、その学校に通っていることが自分の生活スタイルの中にイメージできるかどうかですね。カリキュラムや宿題量なども関係してくると思いますが、よく学校のパンフレットなどに、生徒の1日の生活、みたいなものがあるじゃないですか。それを見て自分の将来の生活として違和感なく想像できるんだったらそれは結構合っている学校なのかと思いますね。先生たちとの対話と合わせて、いろいろな方向から総合的に判断していくといいと思います。 (構成/教育エディター・江口祐子) 大阪・梅田で中学受験セミナーを2日連続で開催します! 11月15日(金)、本連載の専門家による中学受験セミナーが大阪・梅田で開催されます。テーマは「中学受験『うまくいった』家庭の極意」。矢萩邦彦さん、安浪京子さんと、教育ジャーナリストのおおたとしまささんが登壇。3人の中学受験の専門家が、それぞれの立場から「うまくいった家庭」「うまくいっている家庭」の例を挙げ、中学受験の上手な乗り越え方や最新情報を教えてくれます。お申込みはこちらから。 11月14日(木)には、3男1女東大理Ⅲ合格の「佐藤ママ」こと佐藤亮子さん、安浪京子さんによる「中学受験の悩み ドンドン答えます」が開催されます。いよいよ本番が迫ってきた6年生、悩みが複雑化する5年生、4年生。お子さんの学年を区切って、2回開催します。お申込みはこちらから。<いずれも主催:エディットプラン、後援:AERA with Kids編集部>  
小池都知事が“助成”検討の「無痛分娩」、メリット・デメリットとは? 医師が最新研究を解説
小池都知事が“助成”検討の「無痛分娩」、メリット・デメリットとは? 医師が最新研究を解説 (写真はイメージ/GettyImages)  少子化に歯止めがかかりません。2024年1~6月の出生数は約35万人と、上半期で過去最少でした。国も、出産や育児にかかる費用の補助や無償化などを検討しています。そんななか、小池百合子東京都知事が「無痛分娩」も新たに助成すると動き出しています。無痛分娩は安全なのでしょうか。そのメリット、デメリットについて、「ふらいと先生」こと、小児科医・新生児科医の今西洋介医師が最新の研究結果をもとに解説します。 変わりつつある日本の出産事情  2024年6月、東京都の小池百合子知事が、7月の都知事選に向け医療保険の対象外である「無痛分娩」に助成金を出すとした公約が話題になりました。子どもを産む人を増やすために、出産の痛みへの心配を減らそうというわけです。  その後当選し、3期目の都政をスタートさせた小池知事は、公約の実現に向け動き出しているようです。これが実現すれば、日本のお産の風景が大きく変わるかもしれません。  欧米では当たり前となったといえる無痛分娩ですが、日本では総分娩数に占める無痛分娩数の割合が11・6%(2023年、日本産婦人科医会調べ)と、まだあまり広まっていません。しかし、最近では徐々に選択する人が増えています。  ただ、無痛分娩には賛成の人もいれば反対の人もいます。安全なのか、赤ちゃんへの影響はないのか、皆さんもいろいろな意見を聞いたことがあると思います。ここでは、最近の研究結果を見ながら、無痛分娩のメリットとデメリットについて考えていきましょう。 無痛分娩のメリットとは  無痛分娩の一番の良いところは、当然ですが「痛くないこと」です。痛みが少なければ、出産への怖さも減りますし、リラックスしてお産に臨めます。痛みが少ないことで、お母さんの体への負担も減ります。これは後々のお母さんの健康にもいい影響があるかもしれません。  興味深いことに、無痛分娩は生まれてくる赤ちゃんにとってもいいかもしれないという研究結果もあるのです。  スコットランドの六つの人口データベースを用いて43万組の母子を対象とした研究によると、無痛分娩で生まれた赤ちゃんは、生まれて5 分のアプガースコア(※)が7点未満になるリスクが低く、蘇生が必要になったり、特別な治療室に入ったりする可能性も低くなるという結果が出ています[#1]。 ※アプガースコア 出生直後の新生児の状態を評価するスコア。五つの評価項目の合計点で10~7点を正常、6~4点を軽症仮死(第1度仮死)、3~0点を重症仮死(第2度仮死)とするもの。  これらの結果を見ると、無痛分娩はお母さんにも赤ちゃんにもいいのかもしれません。  ただし、この研究結果の見方には注意が必要です。どうしてかというと、これらの研究は「こうだったら、こうなった」という観察をもとにしているだけで、「これが原因で、こうなった」とは言い切れないからです。ほかにも影響している要因があるかもしれないのです。 無痛分娩の懸念点とその解釈  無痛分娩にも、気をつけなければいけないところがあります。一つは、無痛分娩を受けたお母さんは分娩中に「熱が出やすい」ということです。ある研究によると、無痛分娩を受けたお母さんは、そうでないお母さんに比べて有意に熱が出やすくなります。  お母さんに熱が出ると、赤ちゃんの健康に影響があるかもしれません。28個の研究を吟味した「システマティックレビュー」という研究手法を用いた方法では、確かに、無痛分娩をすると分娩中にお母さんが発熱して抗生物質を投与される割合が増えていました[#2]。  しかし、この研究では無痛分娩で生まれた赤ちゃんは、病気になっていないかをより頻繁にチェックされている可能性がありました。この研究では実際に赤ちゃんが感染症にかかりやすくなっているかどうかははっきりわかりませんでした。  また、子どもの発達への影響を心配する声もあります。  ある日本で行われた大規模調査によると、無痛分娩で生まれた子は、特に体を動かす能力やコミュニケーション能力において、1歳半の時点で遅れが見られ、コミュニケーション能力への影響は3歳まで続いたそうです[#3]。  一見、これは無痛分娩が子どもの発達に悪いように思えますが、この結果の見方には注意が必要です。例えば、無痛分娩を選ぶお母さんは、そうでないお母さんと比べて生活環境や教育レベルが違う可能性があり、それらが子どもの成長に影響しているかもしれないからです。  このように、無痛分娩が子どもの成長に与える影響については、まだ議論が残るのが現状です。研究の方法の違いや、考えられている要因の違い、さらには地域による医療の違いなどが影響している可能性があります。 「無痛分娩は自閉症を増やす」は現時点でウソ  無痛分娩と子どもの自閉症の関係についても議論が続いています。  2020年に発表された研究では、無痛分娩を受けたお母さんから生まれた子は、自閉症になる可能性が高くなるかもしれないと発表して物議を醸しています[#4]。  しかし、この研究はASD(自閉スペクトラム症)の発症リスクに分娩期間、胎児仮死状態、分娩方法などの重要な交絡因子が調整されていないとして、イギリス国立麻酔科医協会やアメリカ麻酔科医協会などの欧米諸国の専門機関から広く批判されています。  一方、2021年に発表されたカナダの大規模研究では、さまざまな要因を細かく考慮した結果、無痛分娩と自閉症の関係はないという結果が出ています[#5]。  また、2022年に発表された複数の研究をまとめた分析でも無痛分娩と自閉症の関連性は一見あったように見えましたが、検討されてない因子が影響している可能性を指摘しています[#6]。  これらの研究結果を踏まえ、無痛分娩が子どもの自閉症を増やすというのは現時点で否定的な意見が強いです。  一方で、これらの研究結果は無痛分娩の安全性をある程度支持するものですが、同時にもっと研究が必要だということも示しています。特に、子どもの長期的な成長への影響については、さらに詳しい研究が求められています。 自分に合った選択をすることが大切  無痛分娩の良いところと気をつけるべきところを見てきましたが、これが正解というものはありません。それぞれの研究結果には限界があり、また人それぞれの状況によって最適な選択は違います。  無痛分娩を考えている皆さんが、不安や心配を感じるのは当たり前のことです。でも、最新の研究結果を見ると、無痛分娩が必ずしも子どもの健康や成長に悪影響を与えるわけではないことがわかっています。  むしろ、いくつかの研究では、無痛分娩がお母さんと赤ちゃんの両方にいい影響を与える可能性さえ示されています。  大切なのは、十分な情報を得た上で、自分で選ぶことです。お医者さんや助産師さんとよく相談して、自分に合った選択をすることが大事です。  無痛分娩を選ぶにしろ、自然分娩を選ぶにしろ、あなたの決定は尊重されるべきです。  そして、社会全体としては、どんな選択をした人も十分にサポートできる環境を整えていくことが大切です。東京都の助成への取り組みは、そのための一歩だといえるでしょう。  これからも、もっとたくさんの研究が行われ、より確かな情報が提供されることを期待しています。そして、一人ひとりの女性が自信を持ってお産に臨めるよう、みんなで支えていく必要があります。  あなたの選択が、あなたと赤ちゃんにとって最良のものになることを願っています。自信を持って、お産に臨んで頂けたらと思います。私は一介の新生児科医として、生まれてくる赤ちゃんや出産に臨むお母さんのサポートをさせて頂けたら、これに勝る幸せはありません。 (小児科医、新生児科医・ふらいと先生/今西洋介) 参考文献 #1.Kearns RJ, et al. JAMA Netw Open 2021:4(10):e2131683 #2. Jansen S, et al. Neonatology 2020;117(3):259-270 #3. Shima M, et al. Environ Health Prev Med 2022;27:37 #4. Qiu C, et al. JAMA Pediatr 2020;174(12):1168-1175 #5. Wall-Wieler E, et al. JAMA Pediatr 2021;175(7):698-705 #6. Fang LL, et al. Front Pediatr 2022:10:965205 ふらいと先生 〇今西洋介(ふらいと先生)/小児科医・新生児科医。日本小児科学会専門医/日本周産期・新生児医学会新生児専門医。一般社団法人チャイルドリテラシー協会代表理事。小児公衆衛生学者。医療漫画『コウノドリ』取材協力。富山大学医学部卒業後、都市部と地方の両方のNICU(新生児集中治療室)で新生児医療に従事。Xアカウント(@doctor_nw)は2024年10月現在約14万フォロワー。
高校生が語り合う「若者と政治」 SNS活用は「身近に感じられる」「公平性の観点から議論必要」
高校生が語り合う「若者と政治」 SNS活用は「身近に感じられる」「公平性の観点から議論必要」 選挙は、票を投じて自分の意思を表明する重要な場だ。2022年度からは高校で政治参加などを学ぶ新科目「公共」の授業も始まった(立体イラスト:kucci、撮影:写真映像部・和仁貢介)    選挙権の年齢が18歳以上に引き下げられて8年経つが、10、20代の投票率は低い水準にとどまる。若者の政治参加が進まないのはなぜなのか。東京、奈良、神奈川、沖縄の高校生がオンラインで初対面。語り合ううちに、政治を身近に感じるヒントが見えてきた。 AERA2024年10月21日号より。 *  *  * ──今回は「若者の政治参加が進まないのはなぜか」をテーマに、AERAサポーター高校生記者のみなさんで議論したいと思います。まず、みなさんは政治や政治家についてどんな印象を持っていますか。 服部紀伽(東京都立豊島高校3年):国民の代表であるはずなのに、そう実感できる場面がなく、遠い存在に見えている気がします。それに、政治家の年齢層が高いですよね。 石川明奈(沖縄カトリック高校2年):それも男性が多くて、属性が偏りすぎていると感じます。年齢層が高い男性中心の議会で、若い人や女性向けの政策がどれだけ出てくるのか、少し不安になります。 小坂井希実(奈良女子大学附属中等教育学校6年):実際、文部科学省の予算は減っていますよね。私の通う学校は国立なので、かなり直接的に影響している気がします。猛暑でもエアコンの設定温度を下げられないなど、教育現場がないがしろにされているように感じますね。 岡島由奈(神奈川・捜真女学校高等学部2年):あとは、裏金とか宗教との癒着とか、マイナスのニュースが多いので、本当に日本をよくするために働いてくれているのかなと疑問に思ってしまいます。清廉潔白に頑張っている方も多いと思うのですが。 「自分が言っても何も変わらない」 ──若者の投票率は他の世代と比べて低いです。直近の国政選挙である2022年参院選は全体の52.05%に対して、18、19歳で35.42%、20代で33.99%でした。投票に行かない若者が多いのはなぜだと思いますか。 岡島:私たちの生活に政治が入ってきていないからだと思います。普段、私たちに向けられた政策があまり見えてこない。テレビをつけてもニュースではなくバラエティー番組を見る人が多いので、政治に対する関心も生まれません。その状態で選挙となっても「普段からよく知らないし」と、投票する意味を感じられないように思います。 オンライン座談会は10月上旬に実施。参加した4人は東京、神奈川、奈良、沖縄から参加し、身近な社会課題や学校内の自治について語り合った   石川:今回の座談会に向けて、クラスメートに18歳になったら投票に行くかアンケートをとってみたのですが、「行かない」という人の中で多かったのは「自分が行っても何も変わらない」という意見でした。 服部:今年の7月に東京都知事選挙があって、私は17歳でしたがクラスメートには18歳になっている人も大勢いました。私の周りでは比較的投票に行った人が多かったようですが、石川さんが言ったように「自分の一票で何か変わるわけがない」と棄権した人も実際にいました。でも、「変わるわけがない」ということは、社会や今の生活に不満や変えてほしいことがあるってことだと思うんです。公共や政治経済の授業で選挙の意義や仕組みは習うけれど、もっと身近なレベルで選挙に行くことにどんな意味があるのか実感できる機会があれば、変わってくるのかなと思います。 日常で感じるジェンダーギャップ ――今日の参加者はたまたま全員が女性でした。先ほど、「政治家は年齢層の高い男性が多い」という話もありましたが、社会に残るジェンダーギャップについてどう感じますか。 石川:選択的夫婦別姓は進めてほしいと思います。同姓にしなければならないことで生じる手続きや仕事上の不利益もありますけれど、それ以上に問題なのは夫の姓に合わせることが当たり前になっていることです。私たちの学校の先生で妻側の姓にした人がいるのですが、その話題になったとき、若い世代である私たち生徒から「なんで?」という疑問が出たんです。それが衝撃的でした。夫側の「家に入る」という考えが、無意識のうちに高校生にも染みついているんです。夫婦別姓が認められれば、そうした意識も変わっていくのではと期待しています。 岡島:私自身、政治家と言われて思い浮かべるのは高齢の男性です。社会全体で、ジェンダーギャップをなくす動きがもっと進んでほしいですよね。身近な例では、今は女子校ですけれど、小学生のときには出席番号が男の子が先、女の子が後でした。そのときは気にもしていなかったけれど、いま振り返るとこうしたところに性による区別があって、悲しかったですね。 小坂井:私の親の実家では、お盆などの法事ごとに本家に集まります。そのとき、料理をしたり動いているのは女性で、男性はお酒を飲みながらしゃべっているだけ。そういうところにも差を感じます。 学校内の選挙で得た当事者意識 ──学校生活では生徒会役員など選挙の機会もあります。選挙や生徒会活動などを通して変わる実感を得たことはありますか。 岡島:うちの学校でも選挙はあります。ただ、立候補者がなかなか集まらないようです。信任投票になる役職が多く、政治参加の機会としては残念ながら形骸化している気がします。 小坂井:私たちの学校では生徒会は役職によっては6人くらい立候補することもあって、大がかりな選挙活動をやっています。それ以外にも、生徒たちの投票で物事を決める場面がいくつかあって、一番大きいのは修学旅行。生徒がプレゼンして投票で行き先を決め、修学旅行実行委員会がプレゼン案をもとに実際の旅行プランをつくります。その委員長や副委員長も選挙で決まります。投票で決まると、先生から一方的に決められるよりも納得感がありますよね。方針の決定に関与したという当事者意識も持つことができます。国政などとは一票の重さは全然違いますけれど、政治参加することへの無力感は払拭されるかなと感じます。 石川:私の学校では数年前、生徒会によって校内でのスマホ使用のルールが大きく変わりました。ルール変更を公約に掲げた人が生徒会長に当選して、実際に先生方と交渉して学校のルールが変わったとき、生徒たちの選挙や政治に対する意識もちょっと変わったような気がします。本当に変わるんだって。 服部:私の学校でも生徒会選挙は結構大がかりにやっています。ただ、小坂井さんや石川さんの学校と違って生徒会の活動が私たちの生活に影響するような場面はあまりありません。小坂井さんたちのお話を聞いて、もしそうした機会があれば将来にも役立つだろうし、もっと広まってほしいなと思いますね。 都知事選をどう見たか ──実際の選挙ではTikTokなどSNSを活用する候補者も出てきています。高校生にはどう見えているのでしょうか。 服部:この前の都知事選は18歳になった子にとっては初めての投票の機会で、結構盛り上がったんです。高校生はSNSが情報源になるので、私のSNSも都知事選の話題がだいぶ増えました。周りの同世代の意見も聞けるし、身近に感じられる面もあったと思います。ネットでショート動画を見た候補者が地元に演説しに来るとわかって、友達と見に行ったりもしました。ネットをうまく活用している候補者は若者にかなりアピールできていたんだろうなと感じます。 岡島:私たちの世代はテレビよりもSNSを見ている時間の方が長いですし、動画などで発信した内容が流れてくると、若者が政治に興味を持つきっかけになるのかなと思います。 小坂井:ただ、SNSの選挙運動は候補者全員がそれをうまく利用できるわけではないので、政策や人柄とあまり関係なく、うまく利用した人だけが注目されることになるとも思います。候補者の努力の結果とも言えるでしょうが、選挙の公平性の観点から議論が必要なのかなとも感じます。 服部:一方で、SNSの選挙運動が注目されているのは、やっている人が少なくてインパクトがあるからですよね。例えば選挙ポスターとか政見放送に代わる公営制度として候補者全員のリール動画が流れてきても、逆に若者は興味を失うと思います。 「突き詰めると社会の問題なんだよ」 ──若者の政治参加のカギはどこにあるでしょうか。 石川:先ほどの話に戻りますが、政治に関心がないという子でもいろいろ不満は持っています。例えば私は沖縄に住んでいますが、沖縄から県外の大学に進学するには金銭面などのハードルがあります。貧困率も高くて、大学進学が選択肢に入っていなかったり、高校の途中でお金がかかるからとやめてしまったりする子もいます。そうしたことも自分の家庭の問題として終わってしまう。それって突き詰めると社会の問題なんだよってことがもっと伝わる機会があるといいなと思います。 岡島:みんな高校に進学して卒業していくのが当たり前の環境なので、「お金がかかるから」と高校をやめる子がいるというのは驚きでした。でも、政治で解決できる問題がある、私たちの投票で変えられるんだってことはもっとみんなが知っていかなければならないですね。 服部:最近、授業で「権利を持っているのに行使しないのは権利があることに安住して甘えている」ということを学びました。いま、その状況にある若者が多いですよね。ただ、「政治は自分たちが感じている不満を解決する手段である」と思いにくいのも事実だと思います。 小坂井:私は、「参加しても意味がない」という意見は責任を政治家に転嫁している言い訳だと思うんです。民主主義の政治は、私たちが政治家にしてほしいことがあって、それを実現してくれる人を選ぶ、逆に政治家は国民が求めていることを考えてその実現のために努力する、その相互の関係で成り立つものです。選挙権は権利だけど、民主主義国家の国民が持っている責任でもあることを、もっと教育していく必要があると思います。 --------------------------------------------------------------------------------  今年の夏からアイルランドに留学している「AERAサポーター高校」高校生記者の山下心暖(こはる)さん=神戸龍谷高校1年=は、時差の関係で座談会には参加できなかったが、留学先から「若者と政治」について意見を寄せてくれた。  留学先の友人に聞いたところ、アイルランドでは6年間の中等教育(12~18歳)が前期課程・後期課程に分かれていて、前期課程で「政治基礎」を学ぶほか、宗教やビジネスや歴史の授業でも政治の話題に触れるという。また後期課程の3年では政治の授業がなく、政治に興味がある人は、塾に行って習うそうだ。  山下さんが留学先で15~18歳の10人に尋ねたところ、「政治に興味がある」と答えたのは1人だけで、あとは「興味がない」と回答した。友達とは普段、政治の話をすることはないという。  アイルランドといえば、2代連続で30代首相が誕生し、今年は同国最年少、37歳のサイモン・ハリス首相が就任。一方、日本の戦後の首相では、2006年に52歳で就任した安倍晋三氏が最年少。30代、40代の首相はまだいない。 「30代で首相になる人が2代続いたことに、私の友だちは何も思っていないということでしたが、私はいいなと思います。私自身、若いこともあって30代首相の政治に親近感がわきます。また、前首相は父親がインド人、母親がアイルランド人のインド系首相でした。国民が外国人を受け入れることに抵抗を持ってないと感じ、そこもよいところだと思います」(山下さん) (構成/編集部・川口穣) ※AERA 2024年10月21日号に加筆  
「株式投資はインフレ対策」楽観論に潜む“先入観のワナ”に注意を 人口減少下で日本の消費は伸びるのか
「株式投資はインフレ対策」楽観論に潜む“先入観のワナ”に注意を 人口減少下で日本の消費は伸びるのか AERA 2024年10月21日号より    物価高や円安、金利など、刻々と変わる私たちの経済環境。この連載では、お金に縛られすぎず、日々の暮らしの“味方”になれるような、経済の新たな“見方”を示します。 AERA 2024年10月21日号より。 *  *  *  さて、前回の続きである。 「NISAで株式投資を始めれば、40年後に退職するときには資産が増えていますよ」  疑う余地のなさそうなこの言葉には「先入観のワナ」が潜んでいるという話をした。そして、株価変動の要因は、「企業の業績」と「投資家の需要」という話だった。  まず、一つ目の「企業の業績」。これは日本全体の消費がどれだけ伸びるかに左右される。消費される金額は「消費量×物価」で決まる。「株式投資はインフレ(物価高)対策になる」という先入観には、「全体の消費量が変わらない、もしくは増える」という前提が隠されている。たとえ物価が上がっても、全体の消費量が減少すれば、企業の業績は悪化し、株式投資がインフレ対策として機能しない可能性があるのだ。  ここで重要なのが、日本の人口減少だ。国立社会保障・人口問題研究所の人口将来推計(死亡率中位出生率低位)によると40年後の日本の人口は今から3割減って8680万人になると予想されている。この減少分を補うためにはどうすればいいだろうか。  1人当たりの消費量を増加させるのには限界がある。昭和の高度成長期にならいざ知らず、物質的に豊かになった現代の日本社会ではそこまで増やすことはできない。  輸出を増やす手もあるが、ハードルは高い。消費以外に設備投資もある。しかし、消費が増えないのに設備投資を増やすことは考えにくい。  そして、仮に消費や設備投資を増やしたとしても、それらを生産する能力はあるだろうか。農業でも介護でも今後もあらゆる分野で人手不足は続いていく。地方にいくほど問題は深刻になるだろう。  現在7350万人いる日本の生産年齢人口(15〜64歳)は、40年後には4510万人と4割近くも減少するそうだ。つまり、今と同じだけの生産量を維持するためには、これまで10人で行ってきた作業を6人でこなさないといけなくなる。工業製品ならAIや機械化の進展で対応できるかもしれないが、介護などのサービス業の分野では大きな課題だ。 たうち・まなぶ◆1978年生まれ。ゴールドマン・サックス証券を経て社会的金融教育家として講演や執筆活動を行う。著書に『きみのお金は誰のため』、高校の社会科教科書『公共』(共著)など    ここで気をつけなければいけないのは、これらの課題をすべて克服して、全体の経済規模がようやく現状維持できるということだ。経済がこれまでのように「成長し続ける」とか「株式投資はインフレ対策になる」といった楽観的な前提は、今後の人口減少社会を見据えると非常に無責任であると言える。  そして、もう一つの要素である「投資家の需要」についても考えなければならない。確かに、現在NISAによる積み立て投資を始める人が増え、株を買う人が増加しているため、株価上昇圧力がかかっている。  しかし、いつかは積み立てを崩して現金化する時が来るだろう。40年後に定年を迎えたとき、多くの人が株を売り始めるとどうなるだろうか。新たに社会人になる人口は大幅に減っているため、株を買いたい人は少数しかおらず、売りたい人が多数派になる。このとき、安く売りたくないと思っても、生活資金が必要であれば売らざるを得ないという状況に直面する。  今から40年前、年功序列や終身雇用制度に対する疑問の声は少なかった。初任給が低くても、将来は昇進して給料が上がるものだと信じていたからだ。しかし、40年経った今、「こんなはずじゃなかった」と嘆息する人も多い。会社の人口構成がいびつになり、上が詰まっていて昇進も昇給も見込めないという現実に直面している。  この人口構造による問題が、賃金の世界から投資の世界に移ることを僕は危惧している。40年後に株を売るとき、「こんなはずじゃなかった」と言わなければ良いのだが。 ※AERA 2024年10月21日号  
給食無償化を70年以上続ける町に聞いた、できた理由とは? 「無償」から「完全給食なし」まで“自治体格差”も
給食無償化を70年以上続ける町に聞いた、できた理由とは? 「無償」から「完全給食なし」まで“自治体格差”も (写真はイメージ/GettyImages)  食欲の秋ですが、記録的な猛暑などの影響を受け、お米や野菜といった食材の値段が上昇しています。学校給食の献立を考えるのも難しくなっているようです。その学校給食について興味深い調査結果が文部科学省から公表されました。全国の自治体のうち約30%の自治体が2023年度中に公立小中学校の全員に対して学校給食費の無償化を実施しているといいます(23年9月1日時点。予定を含む)。学校給食開始当初から無償化を続けている山口県和木町は、どのように無償化を実現したのでしょうか。有償か無償か以前に忘れてはいけない給食費をめぐる論点についても、専門家に聞きました。 給食費は全国で約1.4倍もの開きがある  コロナ禍で学校が一斉休校になったとき、給食のありがたさを実感した保護者も多かったでしょう。しかし、給食費は決して安いものではありません。文部科学省が今年6月に発表した学校給食に関する実態調査結果によれば、公立小学校の給食費(保護者が支払った額ではなく、食材費に相当する金額)の月額は全国平均で4688円。年間では約5万6000円にもなります。都道府県別にみると、最も高いのが福島県の月額5314円、最も安いのは滋賀県の同3933円で約1.4倍の差があります。  給食費(食材費相当分)は1954年成立の学校給食法で「保護者負担」とされ、生活保護など経済的に苦しい家庭については無償とされてきました。ただ、保護者の経済的な負担の軽減、子育て支援、少子化対策などを目的に無償化を実施する自治体が増えています。全国の自治体のうち約30%にあたる547自治体が公立小中学校に対し完全無償化を実施し、2017年度調査時の76自治体(約4.4%)から大幅に増加していることがわかります。  政府は昨年12月に閣議決定された「子ども未来戦略」で、学校給食無償化に向けて自治体の取り組みなどを調査し、具体的な方策を検討するとしています。前述の文科省調査はこれを受けたものです。 山口県和木町で給食費を無償化できている理由  学校給食が始まった当初からずっと給食費の無償化を続けている自治体があります。山口県の最東端に位置する人口約5800人の和木町です。同町では食育にも力を入れ、毎日、給食の際に校内放送でメニューの紹介をしているそうです。9月20日はお彼岸にちなんだメニューで、おはぎが出ましたが、「ぼたもち」と「おはぎ」の違いが放送されたといいます。 和木町の給食の献立(9月20日)。秋の炊き込みご飯、ごまあえ、秋野菜のみそ汁、おはぎ、牛乳と、お彼岸にちなんだメニューになっています。小学校の1食当たりの食材費は平均285円  和木町では学校給食法成立前の1947、48年ごろから小学校のミルク給食が始まり、52年に小学校の完全給食が無償化されました。その後、中学校、幼稚園の給食も無償化されています。給食制度のスタート時から一貫して無償化を続けている自治体は全国でも和木町だけといわれています。  なぜ、和木町では給食を無償化できているのでしょうか。和木町教育委員会の担当者はこう説明します。 「給食が始まった当時(当時は和木村)、地元企業からの税収が多く、村長が住民に還元できるものはないかと考え、給食費を無償化したのがはじまりです。当初のごく短い期間だけミルク代だけを徴収していたようですが、給食費自体は無償となっていました」  和木町は「日本初の石油化学コンビナートの町」です。給食開始当時は、こうした地元企業からの税収があり、財政にも余裕があったことがうかがわれます。 「ただ現在は、当時ほどの税収はなく、財政状況は厳しいものがありますが、子育て支援の一環として、保護者の負担軽減を図る観点から無償化を継続しているところです」(和木町教育委員会の担当者)  和木町の給食無償化は、町民はもちろんのこと、周辺自治体にも広く認知されているといいます。同町への移住を促す際のアピールポイントの一つにもなっています。下校中の子どもたちが給食センターの給食調理員や配送員に「給食、おいしかったよ」と気軽に声をかける光景が日常的になっています。  和木町の一般会計予算は23年度約41億6000万円。給食材料費(決算ベース)は4540万円で、予算の約1%を占めています。小学校の1食当たりの食材費は285円で、月額は全国平均4688円を少し下回る程度です。人口規模や物価水準などが異なるため一概には言えませんが、ほかの自治体も予算の配分次第でねん出できない金額とは言えないのではないでしょうか。 子どもの権利を保障するため国が無償化の枠組みを  そもそも学校給食は「自治体任せではなく、国の責任で無償化すべき」と話すのは千葉工業大学准教授(教育行政学)の福嶋尚子さんです。 「法律の規定もあり、給食費は保護者が支払うものとこれまで当たり前に考えられてきました。それがコロナ禍や最近の物価高で経済的に苦しい家庭が増え、ここ数年で給食費を無償にする自治体が急速に増えてきました。無償化の広がりは保護者の経済的な負担軽減のためにも好ましいことですが、給食によって子どもが栄養バランスのとれた一食を食べることができるという食の権利の保障こそが無償化の最大のメリットなのです」  現状では無償化できている自治体と、そうではない自治体があります。つまり、自治体間で費用負担の格差が生じています。また、無償化を実現できても、いまのような食材費の上昇が続くなか、給食単価を維持しようと思えば、質の低下や量の減少を招くことにもなりかねません。では、どうすればいいのでしょうか。福嶋さんはこう指摘します。 「給食費が有償か無償かをいう前に、まず完全給食の提供を受けていない子どもが少なからずいるという現実をみる必要があります。特に公立中学校では全国で264校、約6万3000人の生徒が完全給食の提供を受けていません」 「(児童自立支援施設など)ほかの施設で昼食が提供されているため」というのがその理由ですが、そもそも、法律上、給食の提供は学校設置者(公立学校の場合は自治体)の「努力義務」と規定されているためです。福嶋さんはこう強調します。 「努力義務にとどまっている限り、自治体間の格差は解消されませんし、給食の提供を受けられていない子どもをなくすことはできません。私はまず、子どもの食の権利保障の観点から、国の責任において完全給食の提供と給食無償化の枠組みをつくるべきだと考えています。この観点から取り組めば、十分な給食単価を設定することになり、質の低下や量の減少は起こりえないでしょう」  日本は1989年に国連総会で採択された「子どもの権利条約(児童の権利に関する条約)」を批准しています。条約締約国は子どもの成長発達権を確保する義務があり、食の権利確保はその成長発達権に含まれると考えられています。 「国際条約上、日本政府に課された義務を果たすためにも、国として給食の無償提供の枠組みを整えるべきなのです。こういう指摘をすると、すぐに『財源をどうすればいいのか』という議論になりますが、財源の確保はそれこそ政治家の仕事でしょう」(福嶋さん)  給食費の無償化の議論は、保護者の経済的な負担軽減からも必要です。しかし、私たち大人は、福嶋さんが指摘するように、まず子どもの権利をいかに守っていくか、子どもたちのために何ができるかというところから議論を始めるべきではないでしょうか。 (取材・文/西島博之) 福嶋尚子さん 〇福嶋尚子(ふくしま・しょうこ)/新潟大学大学院教育学研究科修士課程を経て、2011年、東京大学大学院教育学研究科の博士課程に進学。15年から千葉工業大学で教職課程の助教として勤務し、教育行政学を担当。現在は准教授。16年12月に博士号(教育学)取得。「子どもを排除しない学校」「学校の自治」「公教育の無償性」の実現、「教職員の専門職性」の確立を目指して研究を続ける。
5種類以上の薬をすぐ処方する医者には要注意 精神科医・和田秀樹氏が説く「わがままな患者のススメ」
5種類以上の薬をすぐ処方する医者には要注意 精神科医・和田秀樹氏が説く「わがままな患者のススメ」 Getty Images  もし、あなたが同じ医者から5種類以上の薬を処方されて飲んでいたら、医者を変えた方がいい。それは、複数の薬を飲むことによる副作用があるから。  精神科医の和田秀樹さんは、「とりあえず検査を」「とりあえず薬を」と言う医者には要注意だと訴えます。では、良い医者をどう見極め、医者とどうやって付き合ではいいのでしょうか。そのヒントになる知識を、和田さんの著書『「せん妄」を知らない医者たち』(幻冬舎新書)の一部を抜粋、編集して紹介します。 ****************************************** その薬、運転禁止薬や運転注意薬に該当していませんか  みなさんは、医師から薬を処方される際に、運転への影響について聞いたことはありますか。運転禁止薬は国内で使われているものでも2700種類超あり、医療用医薬品の実に25%が指定されています。  医療用麻薬であるオピオイド系鎮痛薬、認知症薬、抗精神病薬、鎮咳薬、解熱鎮痛薬、総合感冒薬、抗パーキンソン病薬、抗てんかん薬など…。  風邪や関節痛で一般に処方されている薬が、眠気やめまいを引き起こす可能性のある「運転禁止薬」かもしれません。運転禁止薬とわかっていながら服用し、運転して事故を起こした場合は、危険運転致死傷罪になります。処方の際には、担当医に運転禁止薬や運転注意薬に該当していないか、聞くことが大切です。処方せんを受け取った時に、「先生、私は日頃運転をするのですが、これ、『運転禁止薬』とか『運転注意薬』じゃないですよね」と。  面倒な患者だな、と邪険な態度をとられてごまかされたり、回答をしてもらえなかったりしたら、迷わずこう言ってください。 「もし、それに該当しているとわかって運転して交通事故を起こしたら私は危険運転致死傷罪になります。知らなかった場合、教えなかった先生の責任も問われます」  これぐらい言わないと、医者たちも変わっていかないでしょう。 年をとればとるほど、引き算ではなく「たし算」医療  私が一番悪いと思っているのが「低血糖」です。  北米における糖尿病の大規模調査の代表的なもの(アコード試験)によると、HbA1c(糖尿病のリスクを見る検査数値)を正常値である6.0%以下に下げようとした群と、7.0~7.9%とした群を比較したところ、死亡率が25%も違っていました。  なんと血糖値を正常値まで下げた群の方が死亡率が高かったのです。  もちろん、HbA1cが非常に高い人が体に不調を感じて、ある程度下げてその人の健康を維持するという治療はよいと思います。  ちなみに私が血糖値を9%ちょっとでコントロールしているのは、日常的に運転をしているから。運転中に低血糖を起こすと怖いので、そのリスクを少しでも下げようとしているのです。  LDLコレステロールは、それが多いと動脈硬化が進み、心筋梗塞や脳梗塞を引き起こしてしまうために敵対視されているようで、「悪玉コレステロール」と呼ばれていますが、私は無理に下げなくても良いと思います。  LDLコレステロールは女性ホルモンの材料です。これがあまりにも減ってしまえば、肌つやが悪くなったり、骨粗しょうになりやすくなったりします。免疫細胞の材料でもあります。  LDLコレステロールは高すぎるのも問題ですが、総じて低い人より高めの人の方が免疫機能も高く元気で、ホルモン効果で肌つやもよく、うつにもなりにくい。  諏訪中央病院名誉院長の鎌田實先生も、高齢者には、コレステロール値を下げる薬を出すのを基本的にやめる方向で診ているそうです。  高齢者の体には「足りない」ということの害の方が、より悪い影響を及ぼすのです。  食べ物の種類も増やすなどして、いろんな栄養素を「足す」、数値も下げていくのではなく、上げて結構。糖分も足し、ナトリウムも足し、さらには運動も足し、ホルモンも足す。 「足し算の医療」の方が、特に高齢者は、今より元気になることは間違いない。  今より楽しく生きましょうよ。 わがままな患者になっていい  今の医療は臓器別診断によって行われて「木を見て森を見ず」みたいになっています。  医者の言いなりにならずに、「受ける必要がない検査は受けませんし、飲んで害が大きい薬は飲みません」と主張するのはまったく問題ないと思います。  むしろ、「わがままな患者のススメ」をしたいぐらい。  自分の体のことは自分がよくわかりますし、心だって、自分のものです。  医療に限りませんが、すべて自己決定で進めるということが、本来の自分らしい生き方だと思います。要するにもっともっと、皆さんわがままな患者になっていいのです。  鎌田先生と対談した時、こう言われました。 「和田秀樹的生き方は、日本の医療を変えるかもしれません」と。  医療や介護を受ける時に、「私はこう生きたいから」と自分の人生観をしっかり伝えることができて、医療職や介護職もそれらを受け止めていくようになれば、介護や医療のあり方が変わっていくのではないかということだと私は思っています。 医者の信者になるな  薬を飲むなら自己決定で。「先生にお任せします」ではダメです。 医者ができることは、情報と選択肢の提供までだと私は思っています。  健康診断や人間ドックで使われる「基準値」をすべての人に当てはめて、さらにそれこそが正解というように患者側に求めること自体が異常だと私は思っています。  年をとれば皆、標準とされる数値からずれていきます。まったく自然なことなのです。  正常な数値というのは、皆違います。結局はその人次第なのです。  自分なりの健康でいられる数値というのは、本当はあるはずなのです。血圧は、あるいは血糖値はこのぐらいだったら大丈夫、という数値が。 「自分健康数値」を探しましょう。  それを自分で見つけて、その数値を自身でキープしていくというのが理想だと思います。それこそが、医者に頼らず自分で自分の健康をコントロールする秘訣でもあります。  自分の体の調子を自分で感じ取れる「勘」とでも言いましょうか。そういうセンスを磨き、体の声を聞く習慣をつけるといいと思います。 良い医者の見極め方、医者との付き合い方 第一カ条:医者の言いなりになってはいけない 第二カ条:医者への質問をためらわない 第三カ条:医者に年齢を聞いてみよう  「先生、お年はおいくつでしょうか」  医者の生きる姿は、健康の見本。もしも年齢より若く見えて、表情もいきいきとしていて豊かで、肌つやもよく、目に力もあって、滑舌もよくお元気であれば「あぁこの先生の言うことを信じていたら、私も健康になれるかもしれない」とおのずと思えるもの。 第四カ条:すぐに薬を出す・5種類以上の薬を出す医者には注意する 第五カ条:「とりあえず検査しましょう」と言う医者にも注意する 第六カ条:往診や生活指導など、患者に寄り添った医師と付き合おう! 第七カ条:かかりつけ薬剤師・調剤薬局を味方につける   体調に不安を感じた時とか、病気のこととか、薬に関することだけでなく、積極的に相談をしてもいいと私は思います。医者とのコミュニケーションの仲介に、調剤薬局にいるかかりつけの薬剤師に入って貰ってもいいと思います。  「何かあった時にいつでも相談できる」という、かかりつけ薬剤師を決めておくと、すごく安心できると思います。そういう意味でも、調剤薬局を一本化してもいい。薬剤師の中にはプロフェッショナリズムの高い、優秀な方も一定数います。そういう方に出会えるといいですね。 「せん妄」を知らない医者たち (幻冬舎新書 746) 商品価格¥1,034 詳細はこちら ※価格などの情報は、原稿執筆時点のものになるため、最新価格や在庫情報等は、Amazonサイト上でご確認ください。
元競泳選手・萩原智子が小4息子の習い事に「口出ししない」と決めた理由 「監督の言葉にハッとしました」
元競泳選手・萩原智子が小4息子の習い事に「口出ししない」と決めた理由 「監督の言葉にハッとしました」 萩原智子さん  シドニーオリンピックに出場した元競泳選手の“ハギトモ”こと萩原智子さんは、10歳の男の子のママです。トップアスリートとしての経験は、子育ての中でどのようにいきているのでしょうか? 「絵本作家になる」という長年の夢を叶えるきっかけとなった息子さんの言葉、絵本を通じて子どもたちに伝えたいことなどを聞きました。※前編<「小6で身長170cm、電信柱とからかわれた」元競泳選手・萩原智子が語る、コンプレックスが“長所”に変わったきっかけとは>より続く 小4の息子は柔道と水泳を習っています ――現在、息子さんは小学校4年生とお聞きしました。何かスポーツはされているんですか?  柔道と水泳ですね。小さいうちからスポーツに触れることは、健康なからだづくりはもちろん、練習や試合などを通じて幅広い経験値を得ることにつながりますし、家と学校以外の「非日常的な空間」で過ごすことで、コミュニケーション能力も身につくと思っています。 ――息子さんは、ママがオリンピック選手だったことを知っているんでしょうか?  東京オリンピックのときに聖火ランナーをさせていただいたので、今はもうわかっています。でも昔は全然知らなくて、一緒にプールに行くと「ママ、泳げるの?」なんて聞かれました(笑)。ちょっと泳いで見せたら「おぉ〜、すごい!」って。 「お母さん、やってみてください」 監督の言葉にハッとした ――スイミングスクールに見学に行くことはありますか?  行きますよ。コーチの中には私のことを知っている方もいて、息子は「ママに教えてもらわないの?」と聞かれることもあるようですが、私は息子から聞かれない限り教えることはありません。コーチが一生懸命指導してくださっているのに私が口出しをするのは申し訳ないし、子どもも混乱してかわいそうです。  まぁ今はこんなことを言っていますけど、息子がまだ柔道を始めて間もない頃、他の子との違いが気になって、口出しをしそうになったことがあるんです。でもある時、指導者に「うちの子は、なかなか上手にならなくて……」と言ったら「じゃあお母さん、やってみてください。簡単にはできないですよ」と返され、ハッとしました。そうだそうだ、自分も選手として長年やってきてわかっていたはずなのに、なぜこんなこと言ってしまったんだろう、って。それからは絶対に口出しはしないと決めました。 息子さんとハギトモさん ちょっとした冒険は手出しせず見守る ――口出しをしない……簡単そうで、案外難しいことですよね。  指導者と子どもの相性を見極めるとか、あいさつや練習道具の後片付けの仕方を教えるのは親の役割だと思いますが、それ以外はすべて指導者にお任せする方がいいと思います。私の両親も、水泳に関しては一切口を出しませんでした。  親の関わり方、という意味では、日常生活の中で子どもが「ちょっと危ないな」という状況になっても、驚いたり大袈裟に心配したりしない心構えを持つことも大切だと思います。横にいる大人がびっくりすると、子どもはそれがすごくいけないことや恐ろしいことだと感じてしまい、結果としてチャレンジの機会を狭めてしまうんじゃないかな、と。  私が水泳を始めたきっかけは、小学校2年生のときに海で溺れかけたことですが、そのときそばにいた父は、特に慌てることもなくのんびりと私を助けてくれました。当時はそんな父の態度を不満に感じましたが、もし、あのとき父が慌てふためいていたら、私の中には恐怖心が残り、水泳を始めることはなかったかもしれません。大きなケガはしないよう注意しつつ、子どものちょっとした“冒険”には余計な手出しをせず見守ることも、時には必要だと感じますね。 他人を「認められる人」とは? ――息子さんに対して「こんな子に育ってほしい」という願いはありますか?  自分以外の人を「認められる人」になってほしいと思っています。「認める」というのは、多様性を受け入れることであり、他人のいいところを素直にほめたたえられるということでもあります。いずれにしても、人を認めるという行為は、周りに振り回されない自分なりの価値観や信念があってこそできることだと思うんです。  もちろん「人を認めなさい」と直接的な言葉で息子に伝えることはありませんが、例えばお年寄りを助けたとか、芸術やスポーツで活躍している人の話題がニュースなどで取り上げられたら「こんなことができるなんて、すごいね!」と話しながら、息子と一緒に見るようにしています。  幸い息子には私の思いが伝わっているようで、以前出場した柔道の大会で同じクラブの友だちが優勝したときは、誰よりも大きなガッツポーズで喜んでいました。彼自身は1回戦で負けてしまったのに、そういうふうに相手の活躍を喜べる人に育ってくれたことがうれしかったですし、親が言うのもなんですが、素敵だなと思いました。 ライバルの存在が人を成長させる ――厳しい競争の世界に身を置いて来たハギトモさんだからこそ、人を認めることの大切さがわかるんですね。  私自身、現役生活の中で出会った先輩、ライバルからたくさんの力をもらってきましたからね。そもそも勝負の世界は、競い合う相手がいてこそ成り立つもの。負ければもちろん悔しいですが、「なんて強いんだろう」「どれだけのつらい練習を乗り越えてきたんだろう」と、相手のすごさを認め、受け入れることは、人としての成長につながると思います。  シドニーオリンピックの200m背泳ぎでは、先輩と私の日本人同士で銅メダル争いをするレース展開になり、結果、私は4位になりました。ものすごく悔しかったし、正直、今でも悔しいです。でも、レースが終わってその先輩の顔を見た瞬間、思わず口から出た言葉は「おめでとうございます」ではなく「ありがとうございました」でした。その先輩と切磋琢磨してきたからこそ自分はこの舞台に立てたんだという気持ちから、そういう言葉が出てきたんだと思います。 シドニーオリンピック、女子200メートル個人メドレーに出場したハギトモさん 長年の夢だった「絵本作家」に  ――その辺りのお話、7月に出版された絵本『ペンギンゆうゆ よるのすいえいたいかい』ともつながりますね。そもそもなぜ絵本を作ろうと思われたのでしょうか?  小さい頃から絵本は大好きでした。特に『ぐりとぐら』のシリーズが好きで、あの中に出てくるケーキをマネして作ってみたこともあるほど。息子が生まれて読み聞かせをするようになり、子どもにも大人にもアプローチできる絵本はいいな、私もいつか作ってみたいな、と思うようになりました。  それでもなかなか行動を起こせずにいたのですが、ある時息子に「ママって、夢あるの?」と聞かれ「やるなら今だ」と決心しました。ちょうど募集中だった文芸社さんの「えほん大賞」に応募したところ、結果は落選だったものの、編集部の方からお声がけいただいたんです。 ――主人公がペンギンというのは、萩原さんのアイデアですか?  そうです。ストーリーはずっと前から決まっていたのですが、主人公を誰にするかは悩みましたね。最終的にはサンシャイン水族館を取材させていただいて、ペンギンにしよう、と。ペンギンは、泳ぐ姿がすごくきれいなんですよ。ペンギンの周りにいたモモイロペリカンやカリフォルニアアシカなども、物語には登場しています。 本当の優しさと強さって 何だろう? ――読者に一番伝えたいことは、何でしょうか?  本当の強さとか優しさってなんだろう、ということです。これは私が水泳人生で指導者や先輩、ライバルから学んだことであり、自分自身で感じたことでもあります。勝負に勝ったとき、自分はどのように振る舞うのか、敗者となったときはどうなのか。主人公のペンギン「ゆうゆ」が水泳と出会い、仲間やライバルとともに成長していく姿から、親子で本当の強さや優しさについて考えるきっかけになればうれしいです。 【ハギトモさんの絵本『ペンギンゆうゆ』を途中まで読む】 (構成/木下昌子) ※前編<「小6で身長170cm、電信柱とからかわれた」元競泳選手・萩原智子が語る、コンプレックスが“長所”に変わったきっかけとは>より続く ◯萩原智子(はぎわら・ともこ)/1980年、山梨県生まれ。山梨学院大学大学院卒業。小学校2年生から水泳を始め、高校時代にはインターハイの200m背泳ぎで3連覇を達成。2000年、シドニーオリンピックに出場し、200m背泳ぎで4位、200m個人メドレーで8位入賞を果たす。現役引退後は、スポーツアドバイザーとして、スポーツ団体等の役員を務めながら、メディア出演や講演活動等も行っている。山梨県・福島県・愛知県春日井市で萩原智子杯水泳大会を開催。水泳の普及活動をはじめ、水の大切さと感謝の思いを伝える「水ケーション」の活動にも注力している。2024年7月には、自身初の絵本『ペンギンゆうゆ よるのすいえいたいかい』(文芸社)を出版。1児の母。

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