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![米倉昭仁](/common/images/noimage_person.png)
「東京六大学より下の学生は勧誘行って」 旧統一教会の元信者で現役牧師が明かす入会と脱会の“異常性”
世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の本部(アフロ)
なぜ、いまもなお世界平和統一家庭連合(旧統一教会)に入ってしまう人が後をたたないのか。「大半の人はそれがどういう団体か、まったく知らないまま誘い込まれていく」と、日本基督教団白河教会の竹迫之(たけさこ・いたる)牧師(55)は話す。実は、竹迫さん自身も旧統一教会の元信者だ。脱会時には兄弟姉妹のように親しかった仲間たちから「裏切り者」と見なされ、暴行や脅迫を受けた。現在は世界平和統一家庭連合から脱会を望む人たちの支援を続ける竹迫さんに、当時の実体験を語ってもらった。
※記事前編 <<旧統一教会「元信者」の現役牧師が告白「ハンカチ売り」と「ギョウザ寝」の苦行 忘れられない1本の印鑑>>から続く。
* * *
「別に旧統一教会に入ろうと思って入ったわけではないんです。ぼくの場合『月額2500円で500本のビデオが見放題ですよ』と誘われて、サークルに通い始めた」
竹迫さんは、そう語る。
1985年の春。それは大学受験が終わった日だった。
「きっと散々な結果だったに違いない」と思いながら、竹迫さんが東京・池袋駅前を歩いていた。
「こんにちは」
雑踏で突然、声をかけられた。
「あまりにも親しげだったので最初は知り合いかな、と思ったんです。初対面だとはしばらく気がつかなかった」
後で知ったことだが、アンケート調査と称する勧誘だった。しかし、このときはまったくわからなかった。
「最初はキャッチセールスだと思って、ちょっと警戒したんです。いろいろ聞かれたので。『今、何しているんですか?』『受験の帰りです』『受験って、どこ?』『日大の芸術学部です』『なんで芸術なの?』『映画を撮りたいから』という具合にどんどん話を引き出された」
しばらく会話した後、相手は「池袋ライフアカデミー(ILA)」という、映画をみんなで鑑賞しながら人生の勉強をするサークルなんです、と切り出した。そして電話番号を記したカードを手渡した。
今回、取材に応じた日本基督教団白河教会の竹迫之牧師
「数日後、入試結果の発表を見に行ったら、落ちていた。池袋に遊びに行こうと思ったら、雨が降り出した。行く当てがなくなってしまった。そういえば月額2500円で映画が見放題になるサークルがあったなと思い出して、電話して、ILAを訪れた」
自分も同じことをやった
ILAは「サンシャイン60」の近くにある貸しビルの中にあった。そこは「本当に喫茶店みたいな雰囲気」で宗教っぽさを感じさせるものは何もなかった。喫茶スペースの奥にはビデオブースが設けられ、それぞれ独立したテレビとデッキでビデオが見られるようになっていた。ビデオを見終わると、喫茶スペースでスタッフと雑談をした。
「ぼくの話をとにかく聞いてくれたんです。だから、自分のことをどんどん話してしまう」
特に、小学生のとき事故で視力を失った左目のことについてじっくりと話を聞いてくれたことが心にしみた。それまで他人に話してもわかってもらえないと思っていたことを初めて受け止めてもらえたと感激した。大きな善意を感じた。
「しかし、それは一度足を踏み入れた組織をやめるにやめられない状況に追い込んでいく常套手段だったのです」
なぜ、そう言えるのか?
「自分も誘う側になると、同じことやっていましたから……」
ILAに入会すると、昼間は予備校に通い、夜はILAでビデオを見る生活が始まった。
合宿もあった。最初の合宿で自分の長所を挙げながら自己紹介すると、熱烈な拍手で盛り上がった。参加者は互いを褒めたたえた。ひたすらいい気分になった。
しかし、そこには仕掛けが隠されていた。参加者のなかにはたくさんの信者、つまり、「サクラ」が潜り込んでいたのだ。やがて竹迫さんもその一人となる。
韓国の老人の姿に衝撃
ILAのスタッフはさまざまな場面で「人生の転換期」を語った。これこそが、旧統一教会に引き込むための典型的な手段で、いわゆる「転換期トーク」と呼ばれている。
「いま『人生の転換期』を迎えているんじゃないですか、って言われると、だいたいみんな、心当たりがあるものなんです。ぼくもちょうど受験のときだったから、確かにそうだよな、と思った」
80年代には霊感商法が大々的に報じられた(写真は朝日ジャーナル1986年12月5日号)
ILAのスタッフはその「人生の転換期」をきっかけに「世界のために自分ができることを考えよう」と語りかけ、ドキュメンタリー風のビデオを見せた。世界中で起こっている悲惨な事件を例に挙げ、「世界は滅びる」といった映像を繰り返し見せられる。やがて、ビデオは世界の破滅を回避する手段を示すようになり、どうすれば平和な世界が実現するかと訴えた。それは旧統一教会の教えに従い、協力して働くことだった。
予備校が夏休みに入ったころ、「ILAは旧統一教会の下部組織である」と入会していた友人から打ち明けられた。竹迫さんは愕然とした。なぜ最初から言わなかったのか――友人を問い詰めたが、旧統一教会の教えに背けば死後の世界で耐え難い苦しみにさらされると教え込まれていたことが怖くなった。それに、心やさしい仲間たちを失いたくなかった。
その数日後、12日間のスクーリング(勉強会)に参加した。内容は講師のビデオを見るだけの退屈なものだった。だが、画面に韓国の老人が映し出された直後、参加者の間に衝撃が走った。「この文鮮明こそが、世界を破滅から救う現代のメシアだ!」と興奮ぎみのナレーション。そこでスタッフは初めて、ILAと統一教会の関係を参加者全員に告げた。
戸惑う参加者。「騙された」という表情で抗議する人もいた。
学生部長は現役東大生
続けて仕上げの4日間の合宿が行われた。そこで徹底的に植えつけられたのは韓国人への贖罪(しょくざい)の意識と共産主義への恐怖だった。
「かつて植民地支配した朝鮮半島の人々に対して、日本はこんなひどいことしてごめんなさいっていうムードが盛り上げられていく。そこでサクラが率先してお祈りするわけです。『私たち日本人は罪を悔い改めて』と言うと、泣き出す人もいた」
のちに、竹迫さんは「学生部受験科」に配属された。そこはいわば、浪人生のための部署。学生部長は現役の東大生が務めていた。竹迫さんは新メンバーを勧誘する「伝道活動」に励みながら、部長から英語や教義を学んだ。「映画で世界を救いたい」という強い信念で受験勉強に打ち込んだ。そして翌年、日本大学芸術学部に合格した。
しかし、だ。
なぜ、旧統一教会はわざわざ「学生部受験科」という部署を設けてまで、浪人生の面倒をみるのか? そこには、あわよくば浪人生を有名大学に送り込み、広告塔として利用したい意図があるという。
「学生を勧誘するとき『東大生もいますよ』と言うと、それだけで『おーっ』となりますから」
一方、東大や早稲田大、慶應義塾大など「東京六大学」よりランクが下の大学生は、学業を放棄させられることが多いという。
「有名大学の学生以外は、学業よりも勧誘や物を売りつける活動のほうが重視されていました。なので、次第に学校に通わなくなって、中退を勧められるような雰囲気がありました」
80年代には霊感商法が大々的に報じられた(写真は朝日ジャーナル1987年1月30日号)
竹迫さん自身も大学生となったものの、日大にはまったく通わず、統一教会の活動に専念した。
その後参加した合宿では毎朝、空手の訓練が行われた。「いずれ、第3次世界大戦が起こる」という理由で、参加者は30人弱。ほとんどは20代だった。「1人1殺」と言われて、いきなり殴り合いのような訓練をした。
得意の「トカゲの尻尾切り」
一方、竹迫さんの両親はなんとか息子を旧統一教会から連れ戻そう必死に動き始める。
困った竹迫さんが幹部に相談すると、「それはあなたの問題だ。あなたの責任で解決しなさい」と冷たく言った。「要するに旧統一教会お得意の『トカゲの尻尾切り』ですよ」と竹迫さんは指摘する。
「面倒な問題が起きると『全部信者が勝手に起こした問題だ。信者の自己責任だ』と言う。今年8月の田中富広会長(世界平和統一家庭連合)の会見もそうでした。いまだに全然変わってないんだな、と」
夏になると、竹迫さんはハンカチ売りのキャラバン隊の一員として北海道に送り込まれた(記事前編参照)。ところが、雨に濡れた段差で転倒し、足首を骨折。埼玉県にある実家に戻ってきた。
両親にとっては、旧統一教会から息子を脱会させるチャンスだった。キリスト教の牧師に力を貸してくれるように頼んだ。
両親の行動に慌てた竹迫さんは「わかった、やめる」と言った。もちろん、出まかせだった。両親を丸め込んで「偽装脱会」を図り、「隠れ原理」として活動するつもりだった。
ところが牧師は「お前が引き込んだ友だちはどうするんだ? お前だけがやめればいいのか」と、畳み込んだ。仕方なく、竹迫さんは牧師とともに友人メンバーを訪れる羽目となった。
「みんな、ぼくほど深入りしていなかったので、牧師が統一教会の資料を見せると『こんな団体だと思わなかった』と言って、やめちゃったんです」
始まった報復
その後、事態は思わぬ方向に進んでいく。旧統一教会は「裏切り」と受け止めたのだ。
すると、報復が始まった。
ある日曜日のこと。竹迫さんは池袋駅前の歩行者天国を歩いていた。すると、顔見知りの信者たちがアンケート調査(伝道活動)をしていた。
「そこで『あっ、久しぶり』って、声かけようと思ったら、すっといなくなったんです。『あれ、見えなかったのかな』と思った。でも、何人かに声をかけようと繰り返しているうちに、いつの間にか取り囲まれた」
裏路地に連れ込まれ、腹に3発、蹴りを入れられた。「スパイ」「サタン」と罵られた。
「彼らとは同じホーム(旧統一教会の宿舎)で暮らしていたので、兄弟姉妹っていうくらい強い仲間意識で結ばれていたんです。でも、彼らからしたら、ぼくは裏切り者だった」
竹迫さんは寂しそうに語った。
自宅には無言電話が絶え間なくかかってきた。だが、それで初めて、自分がやったことに気づいた。
「統一教会の上司から電話番号を書いた紙片とテレホンカードを数十枚渡されて、公衆電話から電話して、相手が出たら切る、という作業を朝から晩までやらされたことがあるんです。相手がどこの誰かは知りません。それが無言電話だということに自分がやられて、初めてわかった」
かつての仲間から殺されるのではないか……。そんな恐怖感を覚える日々だった。外出する際にはかばんに鉄板を忍ばせ、サバイバルナイフを携帯した。夜はいつでも逃げられるように、靴を履いたまま寝た。
強い圧力をかけてきたワケ
これまで大勢の脱会信者のケアをしてきた竹迫さんだが、脱会時にこれほどの体験をした話は聞いたことがないという。
「どうやらハンカチ売りのキャラバン隊はあの地区の総責任者のポケットマネーを稼ぐための私設部隊だったらしく、その情報がぼくから漏れるのを恐れて、強い圧力をかけてきたみたいです」
旧統一教会では「上司の意向は神の意志」である。末端信者は何の疑問も持たず、上司の指示を実行に移すという。
筆者はこれまでの取材で「旧統一教会は昔も今も基本的に何も変わっていない」と、関係者から繰り返し聞かされてきた。勧誘のトークも驚くほど変わらないという。清掃ボランティアや生け花教室、合唱サークルなど、さまざまな旧統一教会のダミー団体が報告されている。
「大半の人はそれがどういう団体か、まったく知らないまま誘い込まれていくんです」
そう話す竹迫さん。これからも脱会支援の活動に従事するという。
(AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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2022/09/10 11:30