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日大、経営陣はダメでも「就職力」はすごい 採用者数が全大学中トップの企業や職業は?
日大、経営陣はダメでも「就職力」はすごい 採用者数が全大学中トップの企業や職業は?
日本大学本部  2021年11月、日本大学理事長の田中英寿氏が所得税法違反の容疑で逮捕された。日大板橋病院の建て替えをめぐり、計約1億2000万円のリベート収入などを申告しなかった脱税容疑が問われている。  日大はこの事態を受けて、田中英寿氏の理事職解任を決定。新たに理事長に就任した加藤直人氏は「日本大学は田中前理事長と永久に決別し、その影響力を排除します」と宣言した。  この間、メディアは連日、3年前のアメフトの悪質タックル事件までさかのぼって日大の不祥事を伝えた。  日大の学生、そして、日大を志望する受験生は「日大は大丈夫なのか」と動揺しただろう。これから就職活動に臨む3年生のなかには、「日大ということで不利になるのではないか」と、不安を抱く者も少なくなかったようだ。  結論から言うと、不利になることはない。  もし、企業の採用担当者が日大の学生を色メガネで見るようなことがあれば、そちらのほうが間違っている、と思えばいい。  とはいっても、学生にすれば、不安はなかなか払拭できないだろう。  日大の就職支援担当者はウェブサイトで学生にこんなメッセージを送っている。 「私たち就職指導担当者は、在学生の皆様の就職活動への影響が最小限となるよう求人企業・団体に対しまして、大学としてお詫びするとともに、一人ひとりの学生は様々な困難な局面の中、勉学に励み真摯に学生生活を過ごしていることをご理解いただけるようお願いし、採用に当たっては従前どおりのご高配を賜れるよう努めております。  多くの企業・団体の採用担当者の方からは、ご理解を示していただき『採用にあたっては学生個人の資質により判断いたします』とのお言葉をいただいておりますので、学生の皆様は今までに培ってきた能力を存分に発揮して就職活動に臨んでください」(2021年12月8日 日本大学学生部生物資源科学部就職指導課)  大学を信じていいのではないか。  日大の学生はこれまで、「能力を存分に発揮して就職活動に臨んで」きた。それはデータでもしっかり裏付けられている。  就職先、国家試験合格などの進路に関わる実績をみると、ランキング1位あるいは上位となっている項目が多い。2020年の実績をみてみよう(就職先は大学通信、国家試験は所管官庁、社長は東京商工リサーチ調べ)。 ◆進路(職種、業種)警察官129人(2位)消防官53人(3位)自衛官37人(1位)中学校教員150人(1位)高校教員103人(1位)キャビンアテンダント21人(20位)  ◆進路(就職先)JR東日本57人(1位)JR東海23人(2位)第一生命保険23人(2位)富士電機13人(1位)いすゞ自動車28人(1位)三菱自動車工業29人(1位)SUBARU 28人(1位)日本通運10人(2位)大林組12人(1位)竹中工務店17人(1位)大成建設29人(1位)清水建設19人(1位)鹿島12人(2位)  ◆国家試験合格(人)一級建築士162人(1位)技術士86人(3位)司法試験21人(13位)  ◆国家試験合格(率)医師97.0%(11位)獣医師97.5%(3位) ◆社長の出身全企業2万1253人(1位)一部上場企業43人(7位)女性社長435人(1位) ※都道府県別(企業所在地)の社長:日大が1位の都県―――青森199人、岩手226人、秋田180人、山形367人、福島531人、茨城530人、栃木524人、群馬344人、埼玉1241人、千葉1108人、東京6986人、神奈川1687人、山梨224人、長野435人、岐阜217人、静岡859人、香川165人、高知88人、宮崎133人 自衛官採用ランキング/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から 一級建築士合格ランキング/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から 社長の出身大学ランキング/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から  日大は就職支援センターで3年生向けに「公務員試験警察官・消防官講座」を行っており、全国各地の警察に多くの人材を送り出した。その担い手として新たに加わったのが、2016年設置の危機管理学部である。同学部は2020年に初の卒業生を出し、この年の就職先上位は、(1)警視庁12人、(2)東京消防庁5人、(3)陸上自衛隊2人、航空自衛隊2人、川口市2人、横須賀市2人ほか―――となっている(「大学ランキング 2022」)。  危機管理学部は、前理事長、田中英寿氏の肝いりで作られたといわれている。田中氏の生い立ちを描いた本にこんなくだりがある。 「英壽は、自ら手掛けて創設した『危機管理学部』に多大な期待を寄せた。これまで、英壽は危機管理に関して、常に想いを巡らせてきた。『世界を取り巻く状況はますます複雑化し、国家・社会・人間の安全を確保する総合的な危機管理能力を有する人材が求められる』」(『炎の男 田中英壽の相撲道』佐藤三武朗 幻冬舎 2020年)  なお、同書は、田中氏と「永久に決別し、その影響力を排除」すると宣言した加藤直人現学長・理事長の推薦文がオビに表記された、いわくつきの評伝である。  2018年、アメフト部で悪質タックル問題が起こったとき、同部は公式試合の出場資格停止処分を受け、監督やコーチが一新された。このとき大学の対応は後手にまわり、組織として危機管理がなされていないという批判を受けている。それは危機管理学部に対しても向けられた。揶揄するかのように。同学部の学生はさぞ、つらかったことだろう。  2020年、危機管理学部は初めて卒業生を出し、そのうち警視庁に12人が就職した。  今回、脱税問題で東京地検に起訴された田中英寿氏は、「国家・社会・人間の安全を確保する」人材育成の願いがかなったことを、自らの過ちを反省しつつ、喜んでほしいものだ。 人気企業就職者数ランキング(JR東日本)/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から  就職先で企業別の大学ランキングをみると、大林組、竹中工務店、大成建設、清水建設で、日大が1位となっているのは目を引く。  なぜ大手建設会社に強いのだろうか。日大には建築学系の学科が3つ―――工学部建築学科(福島)、理工学部建築学科(東京)、生産工学部建築工学科(千葉)―――あるからだ。3学科の学年定員は628人を数え、他大学を圧倒するスケールの大きさが、日大の特徴である。  こうした「数の論理」は、一級建築士国家試験合格者数1位にも示された。建築業界に優れた人材を多く送り出しており、日大閥が幅を利かせている大手建築会社があるようだ。  大林組建築事業部に勤務する、理工学部建築学科OG(一級建築士)がこう話している。 「会社では、日大出身のOB、OG間で定期的に懇親会が行われています。人数と規模は社内でもトップクラスです。そこで出会った大学の先輩たちはいろいろな世代にわたり、それぞれ違うキャリアを辿ってきた人ばかり。大先輩から豊富な経験談を聞いたり、年代の近い先輩にはいろいろなことを相談できたり、同じ大学出身というだけで親近感が湧いてきます」(日大理工学部建築学科ウェブサイト) 中学校教員採用ランキング/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から 高校教員採用ランキング/「大学ランキング2022」(朝日新聞出版)から  中学校教員、高校教員の採用者がいずれもトップなのは、ほぼすべての教科の教員を養成できる学部、学科がそろっているからだ。  英数国理社は文理、理工、法、経済、商学部などの卒業生が教壇に立てる。美術、音楽、体育は芸術、スポーツ科学部の卒業生が教えることができる。  日大の強みは、受験生の進路にかなう学部、学科、専攻、コースがどの大学よりも多く用意されていることだ。医、歯、薬、獣医系学科もある。ないのは看護、医療ぐらいだろうか。  日大の図体は最近の言葉でいえば「ハンパない」。  2021年、日大は学部学生数6万6036人(男子4万5335人、女子2万701人)を数える。日本でいちばん学生数が多い。2番目は早稲田大(3万7921人)なので、その規模は群を抜く(日大、早大いずれも大学ウェブサイトから)。  日大は数の論理をフルに活用して、それぞれの業界に多くの人材を送り出し、日大のネットワークを築き上げてきた。学生が就職活動をする際、OB・OGからの情報収集が有利に働くこともあろう。  日大は経営陣から逮捕者を出し、起訴されてしまった。大学という組織全体にとって、たいへんな不祥事である。また、田中英寿氏の独裁的といえるような大学運営が明るみに出た。こうした体質は教育機関として致命的である。早急な改善が求められる。  これまで日大の経営陣はあまりにもダメだった。アメフトの悪質タックル問題で経営陣交代する機会があったのに逸してしまった。自浄能力がなかった。  だからといって、日大の教育や研究がダメということではない。  日大には優れた教員がいる。意欲的な学生がいる。魅力的な授業を行っている。新しい研究テーマに挑戦している。どの学部もキラリと光るものがある。危機管理学部が名称で揶揄されるいわれはない。ここに挙げた就職実績、国家試験合格状況はその好例であろう。  日大の学生は一連の不祥事でがっくりしているかもしれない。しかし、自信と誇りをもってほしい。学生、教員のことばを紹介しよう。  日大スポーツ科学部3年、水泳部の池江璃花子さんは白血病から復活。「東京2020」での活躍は記憶に新しい。池江さんは、アメフトの悪質タックル問題が取りざたされ日大バッシングが起こるなか、同大学にAO入試で合格し、2019年に入学した。2021年10月、池江さんは水泳部の女子主将となり、こうコメントしている。 「この度、次年度の女子キャプテンを務めさせていただくことになりました。歴史ある日本大学水泳部の女子キャプテンになるという責任と誇りを持って、これから更に成長し、結果を出していけるように頑張りたいと思います」  日大文理学部教授で学部長を務める紅野謙介さんは、文理学部の公式ウェブサイトでこう呼びかけた。 「本学の校歌に『正義と自由の旗標のもとに 集まる学徒の使命は重し』という一節があります。『正義と自由』、今はその言葉が空虚に響きます。『自主創造』という言葉も、ほんとうにひとりひとりが自主的、創造的であったか、従順な機械になっていなかったかを問い直さないと、無意味なスローガンで終わるでしょう。しかし、形だけになった言葉を、実質あるものにするのはやはりそこに関わる人々です。ひとりひとりは愚かで弱い、無力な存在ですが、その愚かさや弱さの自覚に立ちながら、言葉を実のある言葉にしていかなければなりません。失敗と混乱から立ち直るなかでこそ人の真価が問われる。このことを心に刻み、これから先の緊急対応に当たって行く所存です。ひきつづき注視していただくとともに、学生、教職員の皆さんが落ち着いて勉学や仕事にあたられることを望んでいます」(2021年12月6日) (教育ジャーナリスト・小林哲夫)
大学ランキング日大
dot. 2022/01/04 10:00
シリアの武装勢力拘束事件で政府が動かなかった本当の理由 安田純平・特別寄稿【前編】
シリアの武装勢力拘束事件で政府が動かなかった本当の理由 安田純平・特別寄稿【前編】
安田純平氏(提供)  中東シリアで武装勢力に3年以上、拘束された後、解放されたジャーナリストの安田純平さん。釈放から3年あまりの歳月が過ぎたが、今も多くの謎が残されたままだ。安田氏は帰国後、政府、支援団体など釈放に関わった関係者を丹念に取材、事件の真相に迫った。 ***    内戦の続く中東シリアでの3年4カ月にわたる拘束から帰国して3年が過ぎた。「身代金が払われた」との報道が流れ、何の検証もされないまま既成事実のようになっているが、日本政府は実際には何をしていたのか。当事者の視点から振り返った。  2018年9月13日の夕方、私の妻の携帯電話がなった。妻が8月に行った記者会見に同席したI弁護士からだった。私が解放される40日前のことである。 「トルコの人道支援団体IHHが安田純平さんの解放に向けて動いていて、家族の依頼というかたちにしたいそうです。身代金の話はなく、数日のうちに解放の可能性があるそうです」  人道支援団体「人道支援復興基金(IHH)」はトルコ最大の人道支援団体で、2011年に始まったシリアの反政府運動とその後の内戦では反政府地域への支援物資の供給を続けている。世界各地の紛争地帯で活動実績があり、エルドアン政権に近い立場にあるとされている。  日本でも2011年に東日本大震災の被災地への援助を行っており、その際に日本での窓口となった在日トルコ人男性K氏から私の「解放に向けた動き」の情報はもたらされた。K氏の妻は日本人で、I弁護士も知る人権団体の活動に関わっており、K氏の妻からの電話を受けたI弁護士は「信頼できる相手」と判断してK氏とのやり取りを始めたという。  私がシリアに入った2015年6月23日の朝に携帯電話から妻にメッセージを送って以来、音信不通になってすでに3年3カ月が過ぎていた。その間に拘束者が撮影した動画や画像が公開されていたが、事態が進展する気配は全くなかった。妻は藁にもすがる思いで「家族の依頼」とすることに同意した。  しかしこのとき、妻はI弁護士から気になることを告げられた。IHHは解放の手続きを進めるにあたって日本政府か家族の同意を求めており、K氏はまず私の件を直接担当している日本の外務省邦人テロ対策室に連絡を取ったが、同意を得られなかったために家族に打診したのだという。  何があったのか。 釈放後、両親と妻と会った安田純平氏(提供)  K氏は2018年8月、日本の公安調査庁の男性職員S氏から「日本国内のテロ関連の情報について話を聞きたい」との電話を受け、埼玉県内で面会している。初対面だった。  話はあくまで日本国内についてだったが、「話の流れ」(両氏)で2015年にシリアでイスラム国(IS)に殺害された後藤健二さん、湯川遥菜さんの話題になった。「IHHは2人を救けようと動いたんですよ」と言うK氏にS氏は「実はもう1人シリアで拘束されている。どうにかできませんか」と私の名前を伝え、「捕まえている組織は分からないが、ヌスラ戦線ではないかという話が…」と続けたという。  K氏は私の件を知らなかったというが、これをS氏からの「依頼」と受け取り、すぐにトルコのIHH本部の人道外交担当理事に連絡を取った。後藤さん、湯川さんの件では、報道で事件を知ったK氏が自身の判断でIHHに相談したが、「ISに人脈がないので難しい。やってはみるが確率は低い」という反応で、その後、IHHから何も情報がないまま2人は殺害された。しかし私の件では「ISでないなら何とかできるかもしれない」と前向きな回答を得たという。  S氏が挙げた「ヌスラ戦線」はアルカイダ系組織で、2013年にISと分裂してからは交戦状態となった。2016年にはアルカイダからの離脱を宣言。2017年に他の組織と統合して「ハイヤト・タハリール・シャム(HTS)」へと改組している。  K氏が同理事からのメッセージを受け取ったのは2018年9月12日の午後10時過ぎだった。「どこにいるのかが分かった。身代金なしで2日後には解放される。日本政府か家族の許可がなければ話を進められないので、すぐにもらってほしい」というものだった。  翌13日、K氏が電話でその旨を伝えるとS氏は「頼んでいませんが」と言った。K氏は「頼まれたから動いたんですが」と食い下がった。S氏は「分かりました。上司に聞いてみます」と述べて電話を切った。しかし2~3時間たっても連絡がなく、K氏が再び電話するとS氏は「この件は外務省が担当しており、公安調査庁の仕事ではないので外務省に聞いてくれますか」と告げた。  埒のあかない押し問答になった。 「そちらからお願いしてきたのだから、そちらから外務省に聞いてください」(K氏) 「お願いはしていません。話の流れで言っただけで、救けてくださいと言ったわけではありません」(S氏) 「なぜそんなこと言うんですか」(K氏) 「お願いしていませんから」(S氏) 「では外務省のどこに連絡すればよいのですか」(K氏) 「分かりません。ご自分で調べてください」(S氏) 安田純平さんとみられる男性の動画の一場面  電話を切ったK氏は、思いもしなかったS氏の反応に途方に暮れた。  S氏は私の取材に対し、「公安調査庁は関連情報を集めるのが業務で、国際機関などがどう動いているのかを知りたかった。救出できるかどうかではなく、IHHの情報を何か聞けるかと思った。K氏が誤解したようで、『お願いされた』と言われてこちらが寝耳に水だった。それでもK氏が『頼まれたから動いた』と言うので無理だろうと思ったが上司に話し、やはり外務省以外は動くなということなのでそのとおりK氏に伝えた」と説明している。 「3年以上も進展がなかった事件でIHHという有力な組織から無償解放の話が来たのだから、そのまま進めることはできなかったのか」との私の問いに、S氏は「お気持ちは分かりますが、邦人保護には外務省以外はタッチできないので」と語るのみだった。  K氏にとっては“はしごを外された”状態だったが、「IHH本部には自分が連絡したので、S氏が『頼んでいない』と言っているなんて話をIHHにするわけにはいかない」と外務省の電話番号を自分で調べてその日のうちに電話をかけた。  K氏は外務省邦人テロ対策室に状況を説明し、「2日後にはIHHに引き渡されるが、そのために日本政府の許可がほしいという話です。私が誰なのか分からないだろうから、在日本トルコ大使館に問い合わせてもいい」と打診し、電話口の外務省職員は「上に聞いてみます」と答えたという。しかし3時間ほど過ぎても音沙汰がなく、K氏が再び電話したが「上に聞いてみます」と同じ回答をするだけで、その後も連絡はなかった。  K氏は「時間がないのに」と困惑しながら当時の在日トルコ大使に電話で事情を説明すると「日本の外務省に聞いてみる」とのことだったが、その後は「大使に電話が繋がらなくなった」という。  「頼まれて始めた話なのに、なぜ自分がこんなことをしなければならないのか。もうやめようか」とも思ったK氏だったが、「これで本当に解放される可能性があるならできるだけのことをやろう」と考え直し、私の妻の記者会見の報道で隣に立つI弁護士の姿に気づいていたK氏の妻がI弁護士に電話を入れた。ここまでが私の妻が「同意」するまでの経緯である。  この間、K氏から日本政府の反応を聞いたIHH本部の人道外交担当理事は、「なぜ悪いことでもしているかのように扱われなければならないのか、とがっかりしていた」(K氏)というが、I弁護士が13日午後11時に送った感謝を伝えるメールへの返信では、IHHの過去の解放交渉の実績や後藤さん・湯川さんを救えなかったことを述べ、「そうした経験を経て、安田氏の解放に向けて努力している。拘束者からは、本人の健康状態はよく、何の条件もなく交渉を受け入れると連絡が来ている。すぐに解放されて安全に帰れるよう望んでいる」と記している。   安田純平さんとみられる人物について声明を出したトルコ南部のハタイ県庁(2018年10月)  しかし翌14日、トルコ大使館が運営しているイスラム教礼拝所「東京ジャーミィ」(渋谷区)の関係者からK氏に電話があり、「その件には手をつけないほうがいい」と釘をさしたという。  同日午後4時45分、I弁護士からの私の妻へのメールには「先ほど、K氏から電話があり、トルコ大使館や外務省から動かないでくれとのメッセージが届き、公安警察らしき車に監視されるようになったとのことです」とある。  「外務省」とは日本の外務省のことである。「公安警察らしき車」はK氏が受けた印象でしかないが、K氏はその後はI弁護士にもこの件について口を閉ざすようになったという。  私の妻は、13日にI弁護士に「家族の依頼」の同意を伝えてすぐに、外務省邦人テロ対策室の担当者に電話で事態を話し、「なぜこんな大切なことを教えてくれなかったのか」と問いただした。K氏が途中で諦めていたら、この件を家族が知ることすらできなかったからだ。これに対し外務省の担当者は「これまでにも不確かな情報があり、すぐに知らせるのではなく調べていた」と説明している。  3年余りの間に「不確かな情報」が無数に飛び交ったのは事実だった。仲介役になろうとしたスウェーデン人コンサルタントは「すでに死亡しました」とメールを送ってきて私の妻を半狂乱にさせ、やはり仲介役を買って出た在日シリア人は「拘束者は(高級大型クロスカントリー車の)ランドクルーザー4台を欲しがっている。そのための金がないなら家を売ればいい」などと現物支給という異常な要求を何の裏付けも示さずに次々に送ってきた。そうした「不確かな情報」に私の家族が翻弄されてきたことを外務省の歴代担当者も知っていた。  しかし、IHHは実体のある著名な団体である。K氏が実際にIHHの窓口という立場なのかはIHHに問い合わせれば分かることだ。IHHがやり取りしている「拘束者」が本当に私を拘束している本物の拘束者なのかどうかは、私しか答えられない質問をIHHを通して拘束者に送り、正解が返ってくるかどうかで判断ができる。これを「生存証明」というが、私は「生存証明」は一度も取られておらず、外務省が本気で「調べていた」とは思えない。「2日後には解放」という期限が迫っていたにもかかわらずK氏への回答をせず、家族にも伝えなかった理由として「調べていたから」は説得力に欠ける。  結局、数日が過ぎても私が解放されることはなかった。K氏によると「15日ころにはIHHも拘束者と連絡が取れなくなってしまった」という。 安田さんの解放について、取材に応じる安倍晋三首相(2018年10月24日当時)  私は2018年3月末以降、中国新疆ウイグル自治区から来たというウイグル人だけで運営されている施設に拘束されていた。2018年9月上旬には看守から「我々のリーダーが今、トルコのイスタンブールに行ってお前の話をしている。きっともうすぐ解放だ」と言われていたが、同月半ばころにはそうした話はされなくなり、私がたずねても気まずそうに黙り込むだけになった。同29日にはそれ以前に監禁されていたアラブ人運営の巨大収容施設に移された。IHHはトルコと言語や文化につながりがあるウイグル人の支援をしてきた。IHHの動きと私の周囲の様子の関連性は全く不明だが、この時期にIHH以外に具体的な動きが何も表面化していないのも事実である。  IHHの言う「数日」が過ぎても私が解放されなかったことから、私の妻は外務省の担当者に改めて「なぜIHHの話を進めてくれなかったのか」と問うている。担当者はこれに「我々は信頼できるルートを通して対応をしており、同時に複数のルートを使うのはよくない」と説明している。「それでもIHHのルートで先に解放になるならそれでよいのではないか」とさらに問うと、「そうなっても対応できるように準備はしている」と述べたという。つまり、それまで否定してきた「不確かな情報」よりも確度の高い情報とみなしていたということだ。  その「準備」とは具体的に何だったのか、外務省をはじめ日本政府は一切明らかにしていない。しかし、私の手元にある「帰国のための渡航書」から垣間見ることができる。拘束者に旅券を奪われた私を帰国させるために臨時に発行された片道用の「渡航書」だが、その発給日が「2018年9月14日」になっているからだ。  外務省はその日に「渡航書」を発給した理由も明らかにしておらず、明らかになっている事実をもとに考察するしかない。  解放につながる何らかの情報がなければ「渡航書」を発給しても無駄である。トルコへ解放された翌日に身元確認に来た在トルコ日本大使館員は私に「すぐ帰国してもらいます。渡航書は過去の旅券申請時のデータを使います」と言っていた。すでに発給されていたことを知らなかったのだろうが、一般論として、何の根拠もなく用意しておくようなものではないということは分かる。発給の日付や、ほかに具体的な「解放」の動きが何もなかったことから、外務省が「IHHによる解放」を視野に入れて発給したと考えるのが自然だ。 「複数のルートを使うのはよくない」と言いながら「IHHによる解放」にも備えたのは、外務省が頼っていた「信頼できるルート」による具体的な交渉が進んでいなかったからだろう。  3年3カ月も解決していなかったにもかかわらず、それなりの確度があると外務省自身がみなした「IHHによる解放」の可能性を無視どころか制止したのは、「信頼できるルート」への配慮に加え、邦人保護の“部外者”である公安調査庁による解決は外務省のメンツにかかわる問題になるため、正式に認めるわけにはいかなかったからではないか。  私を救出できる可能性を探ることよりも、「信頼できるルート」への配慮や自らのメンツを優先させた外務省は、実際には何をしていたのか。  メディアは「身代金が払われた」と盛んに報道し、それをもとに様々な批判が巻き起こったが、現実には身代金支払いどころか、交渉すら行われていないという実態がわかってきた。【後編】はその詳細を報告する。 (安田純平) ◆やすだ・じゅんぺい 1974年生まれ。一橋大学卒業後、1997年信濃毎日新聞入社、脳死肝移植問題などを担当した。 …… 2003年に退社し、フリージャーナリストに転身する。山本美香記念国際ジャーナリスト賞・特別賞受賞。近著に『自己検証・危険地報道』 (集英社新書)など。
dot. 2021/12/31 16:00
レクサス、ランクルなど高級車の盗難急増 CANインベーダーの悪用で「ハンドルロックを」と専門家
レクサス、ランクルなど高級車の盗難急増 CANインベーダーの悪用で「ハンドルロックを」と専門家
※写真はイメージ(gettyimages)  特殊な装置を使って高級車を盗んだ大阪府堺市の男(38)に、4年4カ月の実刑判決が言い渡された。自動車盗難の手口として急激に増えていると言われるその装置とは――。 *  *  *  神戸地裁の判決が出たのは12月10日。報道によると、男は仲間とともにレクサスやアルファードといった高級車などを繰り返して盗み、2事件(被害総額約750万円)で起訴された。その際に使用していたのが「CAN(キャン)インベーダー」と呼ばれる装置だった。  自動車のセキュリティーに詳しい加藤電機の加藤学社長が説明する。 「現在の車はコンピューター制御されていますが、外部からアクセスできるポイントが何カ所かあります。そこに装置を接続して信号を流すことでドアの開錠やエンジンの始動が一瞬できてしまう。それがCANインベーダーと呼ばれる手法です」  狙われるのはヘッドライトの裏側部分にある接続ポイント。車の正面にある網や格子状のフロントグリルを外せば、容易にアクセスできてしまう場所にある。 「フロントグリルを外してCANインベーダーから延びるケーブルを接続ポイントにつなぎ、エンジンを始動するまでの時間はほんの数分。ドアをこじ開けたり窓ガラスを割ったりすることもなく、窃盗団は静かに盗み去っていきます」(同)  CANインベーダー装置は手のひらに収まるぐらいの大きさ。男が犯行に使ったものは、見かけはモバイルバッテリーと区別がつかないタイプだった。専門家によると、ドアの開錠やエンジンを始動させるには車が持つ正規の信号と一致させる必要があるものの、難しい技術ではないという。  海外では製造者不明のこうした装置がネット販売され、カギを無くした際の非常用装置として簡単に手に入る。装置を販売するロシアなどの複数の業者に取材したところ、40万円程度から購入でき、すでに日本にも数多く販売しているという。現状では装置を所持していても違法ではないため、取り締まることもできない。  埼玉県では11月に個人宅などから2晩でランドクルーザー9台が盗まれ、栃木県でも今年10月までの自動車盗難件数が前年同期比で約1.7倍に増えた。警察では「最近の自動車盗難の多くはCANインベーダーを使ったプロの窃盗団の犯行」(捜査幹部)と見て警戒を強めている。  盗んだ車は車体番号を加工して転売したり、解体して部品として海外へ輸出されたりすることもあるという。  ターゲットにされやすいのはレクサス、アルファード、ランドクルーザーなどの高級車。前出の加藤氏によると、盗まれにくい工夫はできるという。 「ハンドルロックやタイヤロックなど目に見える対策をすると、盗むまでに時間がかかると判断され窃盗団から敬遠されます。CANインベーダー対策をしている市販のセキュリティーシステムを装着するのも有効です」  盗まれないように自衛するしかない。 (ジャーナリスト・桐島瞬) ※AERAオンライン限定記事
AERAオンライン限定
AERA 2021/12/25 10:00
「撮り鉄」のモラルハザード、なぜ減らない? 加熱する迷惑行為、拍車をかける背景とは
野村昌二 野村昌二
「撮り鉄」のモラルハザード、なぜ減らない? 加熱する迷惑行為、拍車をかける背景とは
撮り鉄ブームが続く。11月20日、近鉄特急12200系のラストランに近鉄賢島駅(三重県志摩市)のホームはカメラを持った人であふれた  カメラを手にした鉄道ファン「撮り鉄」によるトラブルがまた起きた。マナー違反が問題視され続けながら、減る気配はない。その背景は──。AERA2021年12月13日号の記事を紹介する。 *  *  *  以前から本誌が報じている撮り鉄のマナー問題。解消するどころか、一向に改善しない。 「いいから、どけ!」  11月23日午前9時半ごろ、さいたま市内を走るJR武蔵野線の東浦和駅近く。長く伸ばした三脚を手に、脚立の上に立った男が大声で怒鳴った。  場所は、鉄道写真の撮影を趣味とするいわゆる「撮り鉄」の間では知られた写真撮影スポット。この日、国鉄時代の機関車が貨物を牽引(けんいん)して走るため、複数の撮り鉄が集合したのだ。 ■パトカーが出動の事態 「事件」が起きたのはそんな時。怒鳴った男性に対し、前方にいた撮り鉄の男性が「自分勝手なこと言ってんじゃないよ!」といさめた。すると、怒鳴った男性は「てめえは関係ないだろ!!」と言い、手で払った三脚が男性の顔を直撃した。この様子を撮影した動画がインターネット上で拡散した。  所轄の埼玉県警浦和東署によれば、現場は騒然となり、パトカーが出動する事態にまでなったという。三脚をぶつけたのは30代の男性。一方、顔に当たった男性は目のあたりに軽いけがをした。だが、男性はわざと三脚をぶつけようとした意図はなく、興奮して思わず三脚を払いのける形になったと謝罪。被害者の男性にも処罰感情がないことから、同署は事件としての立件は見送ったという。  11月上旬には、大阪市内を走る京阪電鉄の線路内に立ち入ったとして、撮り鉄の少年(19)が鉄道営業法違反の疑いで大阪家裁に書類送致された。新聞報道などによると、少年は、 「いい写真を撮りたかった」  と容疑を認めているという。 ■資料性や記録性を重視  それにしても、ここまでモラルハザード(倫理の崩壊)が起きるのはなぜか。  撮り鉄の心理は、「いい写真を撮りたい」に尽きる。だが、鉄道に詳しいライターの小林拓矢さんは、撮り鉄と撮り鉄以外のカメラマンが考える「いい写真」は価値観が異なると語る。 「報道カメラマンのような撮り鉄以外のカメラマンが考える『いい写真』は、人物が写り社会情勢なども反映され表現された写真です。一方、撮り鉄が重視するのは資料性があり記録性も高い写真。というのも、鉄道雑誌は特集の際に古い鉄道写真を募集するので、それに採用されることを意識するからです」  しかも、最近はSNSで写真を見せ合う時代。「いいね!」の数を競い合っている。ネットで写真を販売することも可能で、それがニュースサイトで採用されることもある。そうした状況が撮り鉄の過熱に拍車をかけているという。  しかし、こうしたマナー違反に、多くの撮り鉄は心を痛める。 「肩身が狭くなりました」  と、撮り鉄歴20年以上だという男性(35)は嘆く。  大多数の撮り鉄は、ルールやマナーを守り写真撮影を楽しんでいる。だが、ごく少数の撮り鉄がルールやマナーを無視するため、世間では「撮り鉄はろくでもない」というレッテルを貼られていると感じると話す。 「いい写真を撮るために燃えるのは理解できます。だけど、他人や世間には迷惑をかけるようなことはしてはいけない」  先の小林さんは、撮り鉄は鉄道あってのもので、その逆はないと強調する。 「そのためにも鉄道の運行に支障をきたすようなことも、他人に迷惑をかけるようなこともしてはいけません。このあたりの考えが身についていない撮り鉄がいますが、これは自省によって身につけるべき性質のものであり、撮影合戦が過熱している状況の中では難しいと思います」  そして、こう言う。 「鉄道写真を一生懸命撮影しようとする人が、トラブルを起こしている状況を一般の人がどう見ているか。撮り鉄のみなさまは考える必要があると思います」 (編集部・野村昌二)※AERA 2021年12月13日号
AERA 2021/12/09 11:30
ヒスブル元メンバーが強制わいせつ未遂の再犯 懲役1年2カ月に「短すぎる」と怒りの声
ヒスブル元メンバーが強制わいせつ未遂の再犯 懲役1年2カ月に「短すぎる」と怒りの声
さいたま地裁 「更生できるのか」という疑念を感じた人が多くいても致し方ないだろう。女性の胸を触ろうとしたとして強制わいせつ未遂の罪に問われた人気ロックグループ「ヒステリックブルー」(現在は解散)の元メンバー・二階堂直樹被告(42)の判決公判が24日に開かれ、さいたま地裁は懲役1年2カ月(求刑懲役1年6カ月)の実刑判決を言い渡した。  報道によると、二階堂被告は昨年7月、埼玉県朝霞市の路上を歩いていた20代女性に背後から近づき、手で口をふさぎ服の上から胸を触ろうとした。抵抗され、未遂に終わった。裁判官は二階堂被告が過去に同種の性犯罪で服役していた経緯に触れ、「性犯罪に対する規範意識は鈍っており、性癖には根深いものがある」などと実刑の理由を述べた。  ヒステリックブルーは男女3人組のグループで1998年にメジャーデビュー。二階堂被告はアーティスト名・ナオキでギタリストとして活動していた。99年に発売したセカンドシングル「春~spring」が67万枚を売り上げる大ヒットを記録し、人気は全国区に。同年のNHK紅白歌合戦にも出場した。その後もヒット曲を出して順調に活動していたかに見えたが、2003年9月に大阪でのライブを最後に活動休止。二階堂被告が女性9人に対する強姦・強制わいせつ容疑で04年に逮捕されたことを受け、バンドの解散が発表された。二階堂被告は06年に懲役12年の判決を受けて服役したが、出所後に再び性犯罪に手を染めた。 「前回の出所時に手記を発表していますが、その時は更生に対する強い意志が感じられました。あまりにも酷い性犯罪を繰り返し、当時は12年という懲役に対して『短すぎる』と批判的な言葉が多く聞かれました。社会の目が厳しくなり、出所して生き方が問われるのに、また性犯罪で逮捕された。周囲で支えてきた人たちもショックでしょう。今回の事件当時、酒を飲んでいたと聞きましたが、自分を律することができないのなら酒を飲むべきではない。更生への本気度に疑問を感じざるを得ません」(テレビ局の記者)  SNS、ネット上では二階堂被告に対する懲役1年2カ月の判決に対し、「短すぎるわ。再犯率が高いのに。男に甘すぎる量刑だと思う。もっと重くすべきだわ」、「加害者に甘すぎる判決。更生できると信じてはダメだよ。その結果、多くの女性が被害に遭って傷ついている。加害者の人権より、被害者のことを考えるべきだよ」など疑問を呈するコメントが目立つ。  裁判官は最後に「あなたが更生に向けて努力している方向性は間違っていない」と述べると、二階堂被告は何度もうなずいたという。  本当に更生できるのか――。疑問形に終わらず、更生しなければいけない。ただ被害に遭った女性たちがいることを忘れてはいけない。性犯罪について法改正を含め、厳罰化の検討を望む声が多く上がっている。この事実に、政府や裁判所はどう向き合うだろうか。(松木歩)
dot. 2021/11/26 12:21
息子を殴った恋人に礼…母子の虐待の連鎖描いた桐野夏生の新作 「救いを見いだせず、やや絶望的な気持ちで書き進めた」
息子を殴った恋人に礼…母子の虐待の連鎖描いた桐野夏生の新作 「救いを見いだせず、やや絶望的な気持ちで書き進めた」
主人公の小森優真は空腹を抱えて町をさまよい、「理想の家族」が住む家に潜り込む。そこで小さなピンクのソックスを盗み出す……(撮影/写真部・東川哲也)  桐野夏生さんが新作『砂に埋もれる犬』で親から虐待を受けた少年を描いた。なぜ、このテーマに挑んだのか。AERA 2021年11月8日号で10代の子どもたちの深い闇について語った。 *  *  *  主人公の小森優真(ゆうま)は小学6年の少年だ。母親の亜紀が転がり込んだ男の家で、4歳の弟・篤人(あつと)とともに暮らす。食事を満足に与えられず、小学4年の途中から学校にも行っていない。ゴミだらけの部屋で弟と食べ物を奪い合う、荒廃した生活だ。空腹に耐えかね、コンビニ店長の目加田(めかた)浩一に賞味期限切れの弁当を分けてもらう場面から、桐野夏生さんの新作『砂に埋もれる犬』は始まる。  桐野さんは、3年ほど前に女子高生が主人公の『路上のX』(朝日文庫)を書きあげたころから、「次は男の子を書きたい」と思っていたという。 「『路上のX』は、女の子が大人の男たちに性的にも経済的にも恋愛対象としても搾取される物語です。書き終えてから、これだけでは足りない、少年たちは何によって損なわれるのかを知りたい、と考えるようになりました」  2014年に埼玉県川口市で17歳の少年が祖父母を殺害する事件が、15年には川崎市で中学1年の男子生徒が10代の少年たちに殺害される事件がそれぞれ起きた。こうした陰惨な出来事も「少年」という存在について考えを深める契機となったという。これらの事件を調べるなどして行きついたのが、虐待の連鎖だった。 ■亜紀の物語でもある  亜紀は、男を優先して子どもを虐げる母親に育てられ、同じことを優真と篤人に繰り返す。自分の恋人が優真を殴れば、男におもねり礼すら言う。 「優真の心を損なったのは、ネグレクト(育児放棄)、虐待という家庭環境ですが、亜紀も虐待による犠牲者の一人です。とすれば、これは優真・篤人の物語であると同時に、亜紀の物語でもあると考えたのです」  優真は、ある事件をきっかけに不登校になる。だが、勉強は嫌いではなく理解力も高い。貧困と飢え、暴力のなかで必死に生き抜くため、大人の喜びそうな表情を作るといった処世術も身につけている。  児童相談所(児相)に保護され、里親となった目加田の家から中学に通い始めたときも、最初は「良い息子」を演じた。しかし、次第に女性を性的に支配したいという欲望を募らせ、同級生の花梨(かりん)らに攻撃的な行動を取るようになる。  桐野さんは「被害者であるはずの少年が加害に至るメカニズムを、自分なりに解き明かそうと試みました」と話す。 「子育てを通じて、10代の子どもたちの、どす黒くてもやもやとした感情や、一歩間違えば死をも選びかねない危うさを感じていました。特に男の子の場合は性的な抑圧が爆発の引き金になるのでは、と想像したのです」 きりの・なつお/1951年生まれ。『柔らかな頬』で直木賞、『東京島』で谷崎潤一郎賞。2015年に紫綬褒章を受章。21年5月、女性初の日本ペンクラブ会長に就任した(撮影/写真部・東川哲也) ■母から愛されていない  優真は母親から愛されていないのではないか、という不安のなかで育つ。「ひどい母親を捨てた父親は偉い人だ」という歪(ゆが)んだ父親信仰と、女性嫌悪(ミソジニー)を抱くようになる。 「虐待がもたらす傷が性的な欲求を歪ませ、本人も爆発を止められなくなる。私の想像ではありますが、実際にこうしたベクトルが働くとすれば、虐待は本当に残酷なことだと思います」  優真や同級生にとって、スマートフォンは友だちづきあいに不可欠のツールだ。内閣府の20年度の調査によると、中学生の約7割がスマホを利用している。優真も、スマホがあればクラスに溶け込める、「真の仲間」を探せると信じていた。しかし、実際はスマホを通じて同級生から残酷な仕打ちを受けてしまう。  昨年11月に東京都町田市で小学6年の少女が自殺した事件でも、遺族は少女への悪口がチャットに書きこまれていたと訴えている。 「スマホさえあれば友だちができるというのは幻想にすぎず、むしろ世界中でいじめに利用されています。狭い世界で生きる子どもたちが、リアルだけでなくバーチャルでも居場所を奪われたら、死を思うようになっても不思議ではありません」  虐待されてきた優真は他人との適切な距離感がわからず、不満や鬱屈(うっくつ)を暴力でしか表現できない。このため、同級生たちの不信を買うばかりだ。両者の間には、絶望的な隔絶が横たわっている。 「同質的な人間関係のなかだけで生きる花梨たちにとって、優真のような子は『気持ち悪い』存在としか映らないでしょう」  自分が関心を持つ分野、自分にとって都合の良い情報ばかりが集まりがちなネット社会の特性も、異質な人々への「想像力の欠如」に拍車をかけていると、桐野さんは考える。 「想像力のなさは、他人が起こした結果のすべてを個人の能力や努力に帰する『自己責任論』にも通じます。価値観の違う人を『上から目線』でしか見られない人が増えれば、優真のような辺縁に置かれた人は、ますます社会から排除されてしまう。そこに恐怖すら覚えます」  里親の目加田夫妻や児相の職員らは、それぞれのやり方で優真を思いやり、理解しようと努める。しかし、その思いは届かず、優真は心を閉ざすようになる。 AERA 2021年11月8日号より ■口やかましく「しつけ」  特に目加田は「しつけなければ、本人が恥ずかしい思いをする」と、食事のマナーやあいさつなどについて口やかましく優真に干渉する。子どもを虐待死させた親からよく聞かれるのも「しつけのためにやった」という弁明だ。 「優真は食事や入浴などの基礎的な生活習慣も教えられず、半ば野生動物のように育ちました。いわゆる『しつけ』は、そんな彼の心には響かないでしょう」  優真に最も必要なのは、彼が何をしても受け入れるという愛情なのだろうか。 「反抗的で、感情を素直に表に出さなくなった優真はもう、大人たちが無条件に『救ってあげよう』と思える相手ではなくなっています。たとえ彼に深い愛情を注ぐ人が現れても、すぐに心の傷が癒やされ、歪んだ認識が改められるほど、人間は簡単な生き物ではありません。人を信頼し愛する心というのは、鍛え上げないと育ちません。たとえ花梨が、優真に優しく接していたとしても、状況は変わらなかったと思います」 ■全く救いを見いだせず  桐野さんは「全く救いを見いだせず、やや絶望的な気持ちで書き進めました」と明かす。 「どうすれば彼を救えるのかも、私には分かりません。主人公が愛情を受けて立ち直る、といったきれいごとで終わることはできませんでした」  本作のタイトルは、スペインの画家フランシスコ・デ・ゴヤ(1746~1828)の絵画から取った。絵の一部は装丁にも使われている。 「あがいてもあがいても、虐待のくびきから逃れられない優真のイメージ」が、ゴヤの絵に重なったという。  18歳未満の子どもに対する児童虐待で、全国の児相が相談対応した件数(厚生労働省調べ)は20年度、20万5029件と過去最多を更新した。国立社会保障・人口問題研究所の17年の調査によると、過去1年間のうちに、ひとり親家庭の15%が電気料金を、14%弱が水道料金を滞納したことがある。優真や亜紀のような親子は、フィクションのなかだけに存在するのでは決してない。  桐野さんは最後、次のように言った。 「優真のような子どもや、優真がそのまま成人したかのような壊れた男たち、そして亜紀のような母親たちは、現実社会のあちこちにいるはずです」 (フリーライター・有馬知子)※AERA 2021年11月8日号
読書
AERA 2021/11/06 11:00
小泉進次郎氏は「ぬるま湯」、山本太郎氏は苦戦? 関東の選挙区の行方は
秦正理 秦正理 池田正史 池田正史 亀井洋志 亀井洋志
小泉進次郎氏は「ぬるま湯」、山本太郎氏は苦戦? 関東の選挙区の行方は
※写真はイメージです (c)朝日新聞社  解散から投開票まで17日という戦後最短の短期決戦となる今回の衆院選。政治ジャーナリストの野上忠興氏と角谷浩一氏に、北海道・東北地方・関東地方の選挙区の情勢を聞いた。 *  *  * ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。 (週刊朝日2021年10月29日号より) ■北海道・東北  それでは、全国の選挙区の情勢を見ていこう。  北海道では自民が苦戦を余儀なくされそうだ。もともと旧民主党系の候補が強い傾向があるが、前回の衆院選で自民は全12選挙区のうち半分の6議席を獲得した。今回は、野上氏はわずか3勝、角谷氏も4勝止まりに終わると見る。 「共産が独自候補を立てていた3、4、9区は、最終的に擁立を見送りました。共産は比例北海道ブロックでの議席確保が悲願ですから、立憲系の労働組合が比例で共産の協力に回るという棲み分けができると早くから聞いていました」(野上氏)  維新の鈴木宗男参院議員の長女で、自民の比例代表選出の貴子氏は7区で出馬を検討したが、候補者調整の結果、今回も比例に回ることになった。  角谷氏がこう語る。 「安泰なのは12区の武部新氏だけです。4、5、7区は自民が僅差でとれそう。9区の元スピードスケート選手、堀井学氏は失速気味です。もともと元民主党代表の鳩山由紀夫氏の選挙区で踏ん張ってきたが、この間の政府の支持率低下のあおりと野党が一本化したことから、このままいけば立憲に明け渡すことになりそうです」  東北は近年、TPP(環太平洋経済連携協定)の批准問題や農協改革などを巡って、たびたび“農家の反乱”が起き、自民の候補者は苦杯をなめさせられてきた。自民が苦戦する選挙では、県都を取りこぼす「1区現象」が起きやすいが、岩手、宮城、福島の各1区で立憲候補が優勢に選挙戦を進めている。  注目選挙区は、秋田2区。法相を務めた際に国会での答弁能力の欠如が批判された金田勝年氏は前回、わずか1672票差で緑川貴士氏に競り勝った。だが、1万3642票を獲得した共産が候補擁立を見送ったため、落選の危機だ。 ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。 (週刊朝日2021年10月29日号より)  農村地帯においては、コロナ禍による外食産業の営業自粛で、業務用野菜の需要が激減。さらにコメの値下がりが見込まれ、減収を心配する生産者の不満が高まっている。野上氏がこう予測する。 「160万票とされる農民票の自民党離れが加速する可能性があります。農家の反乱は東北のみならず、米作地帯の北海道や北信越にも広がるかもしれません。政府の対策は後手に回っており、衆院選を前に慌てて支援策に乗り出しています」 ■関東  北関東は、群馬4区では自民の総務会長に抜擢された福田達夫氏が堅調だ。群馬5区は組織運動本部長に就いた小渕優子氏も敵なしの状況。  立憲の枝野幸男氏は地元・埼玉でどれだけ仲間を勝たせられるかが正念場となる。前回は15選挙区のうち自民が12選挙区を制したが、今回は圧勝とはいかないようだ。5区の枝野氏のほか、6区の大島敦氏、7区の小宮山泰子氏らが安定した戦いを見せている。1区の自民・村井英樹氏は前回、立憲の武正公一氏に約3万票差をつけて当選した。だが、今回不出馬の共産候補が約3万3600票を集めており、武正氏に上乗せすると逆転する。  神奈川は、麻生自民党副総裁の側近として知られる1区の松本純氏が注目される。緊急事態宣言下に銀座のクラブに繰り出した“銀座3兄弟”の長男格。自民を離党し、無所属で立つため比例復活を当てにすることもできず、苦戦を強いられることになりそうだ。 ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。 (週刊朝日2021年10月29日号より)  11区の小泉進次郎氏は、総裁選で河野太郎氏を支持したことで、岸田文雄政権では当面、冷遇か。ただし、選挙では相変わらず盤石のようだ。 「環境相として実力不足が露呈して、評価を落としました。レジ袋の有料化にはプラごみ削減の効果はないと自分で認めてしまった。強固な地盤に守られ、地元でちやほやされて厳しい審判に晒されない。政治家として伸びないのは、そのせいではないか」(角谷氏)  首都・東京では「石原兄弟」の当選に黄信号がともる。3区の宏高氏は前回、立憲の松原仁氏に約1万3千票差で逃げ切ったが、約4万5千票を取った共産が立候補を取り下げると、形勢は一気に逆転する。 ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。 (週刊朝日2021年10月29日号より)  8区は、伸晃氏と吉田晴美氏の事実上の一騎打ちとなった。この間、れいわ新選組の山本太郎代表が参戦しかけたが、撤回。続いて、共産も候補を取り下げた。角谷氏が舞台裏を解説する。 「山本氏は実際に立憲と話がついていました。当初、吉田氏と共産の話し合いが進んでおらず、山本氏ならば共産も乗りやすいだろうということでしたが、完全に立憲側の調整ミス。山本氏は頼まれたのに追い出された格好で恥をかかされた」  山本氏は結局、比例東京ブロックからの出馬に。 「小選挙区での参戦なら野党の重点選挙区の一つになっていたと思うと、もったいない。比例で票を集めるのは一筋縄ではいかない。当落はボーダーラインというところでしょう」  東京9区は、公職選挙法違反事件で公民権停止となった菅原一秀氏の後釜に、自民は比例東京の安藤高夫氏を据えた。だが立憲の新人、山岸一生氏が優勢か。 ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。 (週刊朝日2021年10月29日号より)  15区は、カジノ汚職事件で収賄などの罪に問われ、東京地裁で懲役4年の実刑判決が言い渡された秋元司氏が立候補する注目選挙区。無所属の柿沢未途氏が優勢だが、首相指名選挙で岸田氏に票を投じ、「立憲民主・無所属」の会派から退会したばかり。今回、自民が無所属の今村洋史氏とともに推薦を決めた。自民幹部の一人がこう語る。 「柿沢氏には誘いの声をかけていますが、本人も自民に来たいという気持ちがあるのか、まんざらでもない様子です」  18区の菅直人氏vs.長島昭久氏の旧民主党対決も火花を散らす。19年に自民入りした長島氏が、首相経験者の地元に“討ち入り”をかける構図だ。 「前回、次点候補をわずか1046票差でしのいだ菅氏にとっては、長島氏は手ごわい相手にちがいありませんが、首相経験者の菅氏がやや有利と見ます」(野上氏) (本誌・亀井洋志、秦正理、池田正史) ※獲得議席予測、各選挙区の当落予測については調査の結果ではありません。公示日前に識者2人が予想しました。※週刊朝日  2021年10月29日号より抜粋
小泉進次郎衆院選2021
週刊朝日 2021/10/20 07:00
横浜駅のエスカレーターは速すぎる? 作家・下重暁子「体の弱い人や高齢者にはつらい」
下重暁子 下重暁子
横浜駅のエスカレーターは速すぎる? 作家・下重暁子「体の弱い人や高齢者にはつらい」
下重暁子・作家  人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、エスカレーターの速度について。 *  *  *  私の子供時代は、動く歩道であるエスカレーターは夢の一種であった。  それから何十年? 当たり前の風景になる。エスカレーター上で歩くことも普通になった。東京近郊では、歩かない人は左側に立ち、歩く人のために右側をあける。関西では逆に右側に立って左側を歩く人用にあけておく。同じ国なのにややこしい。  それらが重なって事故の原因となることが多かった。特に障害のある人にとっては、右に手すり左に手すりという違いがあるために、エスカレーターを使うことが困難な場合もある。  そこで事故防止のために利用者にエスカレーター上で歩かないよう努力義務を課す全国初の条例が、埼玉で十月から施行された。  大切なことだ。罰則はないが、条例化されることによって、歩かないで、止まってとお願い出来ることになる。  世の中が便利になり、急いでいる人が早く行動出来るのはいいことだが、そのために弱者が不便になったり、切りすてられることがあってはならない。  エスカレーターで私がいつも気になるのが、徐々に速度が増していることだ。それは東京でも感じるが、とくに横浜駅のめまぐるしさは体の弱い人や高齢者にはつらい。  私はまだ自由に体が動くからいいけれど、あの速さに上手にリズムを合わせて飛び乗ることに勇気を必要とする人は多かろう。私自身、横浜駅に行く時は身がまえている。まして荷物が多かったり、キャリーバッグの客が前後にいたりすると要注意だ。手すりにつかまることもままならぬ時はハラハラする。  つくづく日本の交通機関は元気な人を中心に作られていると思ってしまう。改善されるのは、何か事故が起きてからである。日本の警察も何か事件が起きないとなかなか対処してくれない。  先日、幼児が熱湯を浴びせられて死亡する痛ましい事件があったが、知人らが市に通報したにもかかわらず、市は警察に知らせることもなく幼い命が奪われてしまった。 ※写真はイメージです (GettyImages)  なぜ前もって予防することが出来ないのだろう。事故や事件が起きてからでは手遅れだということは言うまでもない。その意味で今回の「エスカレーターで歩かないで」という要望は意味がある。  自分は元気でも、弱い人、体の不自由な人への思いやりを社会の場で持てるようになって初めて成熟した社会ということなのではないか。  ついでに、私が愛するこの上なくのどかなエスカレーターを御紹介しておこう。  地下鉄神保町駅の近くの学士会館にある、短いエスカレーターだ。  学士会館は、帝大卒業生のために作られた学士様用の会館だが、お年寄りの利用が多いためか、入口の階段横にエスカレーターがある。これが日本一のんびりしたエスカレーターで、最初のうちは、私も歩いて登ったりしたが、今は必ず止まってその時間を楽しむ。なんだか心が豊かに古きよき時代にもどるのだ。 下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中※週刊朝日  2021年10月15日号
下重暁子
週刊朝日 2021/10/08 07:00
9月号教育研究者・俳優 山崎聡一郎 Yamasaki Soichiro『こども六法』著者が、執筆を拒んだいじめ体験を明かした理由
9月号教育研究者・俳優 山崎聡一郎 Yamasaki Soichiro『こども六法』著者が、執筆を拒んだいじめ体験を明かした理由
『10代の君に伝えたい 学校で悩むぼくが見つけた 未来を切りひらく思考』 朝日新聞出版より発売中  ドイツの宰相ビスマルクが残した「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」という言葉があります。私の書いた『こども六法』は私自身のいじめ経験が執筆のきっかけとなってはいるものの、「いじめ研究」という領域に挑むにあたっては、その経験が仇になることが多々ありました。  だから私はいじめ問題を語る上で、自身の経験に依り過ぎないように細心の注意を払いますし、その経験を記した本を書くつもりもありませんでした。  今回、執筆を拒み続けていた自身の経験を吐露しようと決意したのは、まだ私が10代の子どもたちと近い世代にいるうちに、彼らにとって少しでもマシな未来に歩みを進めるための指針を残せるかもしれないと感じたからです。  きっと私の経験から学ぶことも、私を反面教師にしようと思うこともあるでしょう。それでも、私が胸のうちに抱えていた経験が、10代にとってのちっぽけな歴史として、少しでも明るい未来を思い描く材料になってくれたらいいなと願っています。  この本では、大人が助けてくれない時に、自分自身でどうやって問題を消化して耐え、とりあえず「死なずにいる」のかというテーマについて、私自身の経験から考えを述べています。大人が助けてくれない前提で本を書くのは何とも残酷な話だと我ながら思いますが、この背景には「私の時代」と現代とで、相変わらず大人によるいじめのスルーが行われ続けているという問題意識が念頭にあります。  私がいじめ被害に遭っていたのは小学5年生から6年生にかけてのことです。当時の私は毎日死にたいと思い続けていました。しかし、それは加害者による暴力が痛かったからでも、悪口で心が傷ついたからでもありません。周囲の大人、教師や学校や教育委員会が、いつまで経っても問題の根本的な解決に向けて動いてくれず、先生の保身が優先されているのではないかと邪推してしまうような対応が多くあったからです。  私は加害者ではなく、こういった大人の対応によって「自分は救われるに値しないのだ」「自分に価値がないからいじめの被害に遭うし、救ってもらうことが叶わないのだ」「そうであれば、生きている価値もないのではないか」と考えるようになっていきました。自殺に向けた様々なトライが失敗したことで「偶然」私は生き残りましたが、今、私が生きていることは確実なことである、という実感が未だに持てないほど、当時の私にとって死は身近なものでした。  2019年に埼玉県川口市内のマンションから飛び降りて亡くなった当時15歳の小松田辰乃輔くんは、遺書のようなメモで、いじめに対する大人の対応を糾弾しています。「教育委員会は、大ウソつき。いじめた人を守って嘘ばかりつかせる」。まさに自分が感じていたことだと思いましたし、私がいじめ被害に遭ってから10年以上経った今でも変わっていないのだと痛感した事件でした。  このような過酷な環境で、誰にも助けてもらえずに悩んでいる子どもの中に、本書で救われる子がいればいいなというのが、著者の願いです。本書では、ツラい経験を通じて人生に絶望した自分が、どうやって少しずつ「自分は、自分の人生を選べる」という自信を取り戻したのかを解説しました。  いじめに遭い、親や先生に怒られ続け、自身の尊厳を踏みにじられ続けていると、子どもは「自分には何もできない。才能がない」と思いこむようになっていきます。いや、「子どもは」と申し上げましたが、大人もそうでしょう。本書にはそうした人に対する個人的なアドバイスを多く盛り込みました。  一方で気をつけていただきたいのは、この本に書いた内容はあくまでも私個人の経験に過ぎず、すべての人にとって役に立つ知識であるとは限らないということです。本書はともすれば、「考え方を変えれば一人で乗り越えられる」と、被害者をさらに追い詰めてしまうであろう本でもあります。この点に大人は細心の注意を払わなければいけません。  本書をきっかけに、一人でも救われる子がいてくれたらいいと願っているのはもちろんのこと、一人でも多くの大人が、悩んでいる子どもとまっすぐ向き合うようになってくれたらいいなとも願っています。  大人が苦しんでいる子どもから目を背けない世の中になれば、やがては『こども六法』もろとも、本書も必要ない存在になるでしょう。そんな未来をつくるきっかけの一冊になれば、私が本書に書き留めた個人的な体験は、いじめのような「理不尽な苦痛のない世界」が実現するまでの歴史の一部として、意味のあるものに昇華していくと信じています。
朝日新聞出版の本
著者から 2021/09/03 17:57
横浜市長選で衝撃の大敗 菅首相が総裁選前に電撃解散も「勝ち抜くと驚嘆のメンタル」
横浜市長選で衝撃の大敗 菅首相が総裁選前に電撃解散も「勝ち抜くと驚嘆のメンタル」
菅義偉首相と小此木八郎・前国家公安委員長(C)朝日新聞社 横浜市長選で当選確実となった山中竹春氏(C)朝日新聞社 「やばい。午後8時に野党候補に当確が出るなんて衝撃だ…。出口調査ですでに野党に10ポイント以上、負けていた。菅首相は最後まで望みがあると言い続けていただけに今頃、真っ青だろうな」  こう力なく語るのは、自民党幹部だ。22日投開票された横浜市長選は、立憲民主党などが推薦する元大学教授、山中竹春氏が自民党の推す前国家公安委員長、小此木八郎氏を破り、勝利を確実にした。  菅義偉首相の側近で、閣僚を辞して横浜市長選にのぞみ、圧勝と思われていた小此木氏。午後8時に投票が締め切られるとすぐ、山中氏に当確が出る衝撃の幕切れとなった。 「横浜市長選の大敗でもう菅政権はだめなんじゃないか、というムードが一気に強まりました。菅首相や政権幹部のイライラはピークに達し、周囲もピリピリして官邸の空気は澱んでいます。いまだに菅首相はなぜ、小此木氏で勝てなかったのか、自分が動いたのになぜだ、と敗因を理解できずにいます。首をかしげていました」(官邸関係者)  菅首相は小此木氏の父親で建設大臣などを歴任した彦三郎氏の秘書を経て、横浜市議、衆院議員となり、神奈川2区(横浜市内)が地盤だ。小此木家は八郎氏の祖父の時代から横浜を地盤に衆院議員を世襲してきた名門なだけに大敗の打撃は計り知れない。前出の自民党幹部も動揺を隠せず、こう言う。 「小此木氏が出馬表明した時は、誰もが圧勝と思っていた。それがこのザマです。菅首相の地元でもある横浜市長選を落としてしまった。コロナの感染拡大が止まらず、対策が後手にまわる菅政権にNOが突きつけられた選挙だったと思いますね」  選挙戦の最終日。横浜市内を演説していた小此木氏の周囲には聴衆がまばらで閑散としていた。自民党の横浜市議はこう振り返る。 「空気に向かって演説しているようでした。動員はかけたが、支援者が反応しなかった。閣僚まで務めた小此木氏にとって、屈辱的な光景でした。菅首相のコロナ対応に対する市民の不信感がそのまま、現れたなと思いました」  横浜市長選の争点は、いつの間にかカジノを含む統合型リゾート施設(IR)の誘致から新型コロナウイルス対策になっていったという。 「小此木氏がコロナ対策を訴える度に『感染者を減らせ』とヤジが飛んだ。有権者からの冷たい視線を感じました」(同前)  横浜市長選の大敗で「菅おろし」も始まりつつある。9月17日に告示され、同29日に予定される自民党総裁選挙。安倍晋三前首相が率いる清和会(細田派)所属の国会議員はこう語る。 「横浜市長選で市民、国民が菅首相に対し、ダメ出しをしたということ。月曜日から政局が激化し、清和会など大派閥の総裁候補選びが本格化する。解散総選挙も間近ですから、選挙に勝てる人が総裁候補となるでしょう。うちでは政調会長の下村博文さんが名乗りを上げているけど、安倍前首相の3度目の登板もありうる。派閥を超えて人気が高いのは、麻生派の河野太郎ワクチン担当相ですね」  安倍前首相に近い高市早苗衆院議員も立候補の意向を示している。だが、菅首相も黙ってはいないはずだという。  新型コロナウイルスの感染拡大で9月12日まで延長された東京、神奈川、千葉、埼玉、大阪などの緊急事態宣言は当初、8月31日までだった。 延長幅が12日間というのは、なんとも中途半端な感があるが、そこに「駆け引き」があるという。 「自民党総裁選のスタートが9月17日。同12日まで緊急事態宣言ですから、5日間の空白が生まれる。菅首相がここで電撃的に解散総選挙に打って出るという話が周辺から出ています。もともと解散の余地を残すために緊急事態宣言を12日まで延長した訳です…。自公連立与党で過半数を取れば、国民から信任された、と総裁選に出て続投するというシナリオを考えているようだ」(前出の自民党幹部)  だが、新型コロナウイルス対策の相次ぐ失敗で新規感染者、重症者の増加が止まらず、不人気の菅首相が解散総選挙に踏み切れば、自民党が大敗する危険性もある。   また、東京地検特捜部が捜査を進めているテクノシステム社の詐欺事件に関連した公明党の遠山清彦元財務副大臣の「口利き疑惑」という爆弾もある。公明党の国会議員はこう語る。 「東京地検特捜部の捜査のメスが入り、遠山氏の”爆弾”がいつ炸裂するのか気が気でないです。捜査の影響で解散総選挙になれば、うちは厳しい選挙となる。自民党の選挙まで手が回りませんよ」 「菅おろし」が加速する中、菅首相は21日午前、東京・代々木のJR東京総合病院を受診した。演説原稿の読み飛ばしや読み間違いなどの失敗も続き、体調面を心配する声も出ている。 「人間ドックのフォローで受診自体は、大したものでは全くないのですが、ずっと休んでないので疲労が蓄積しているのは周囲から見ても明らかです。それでも気力の衰えなどで、辞めたいなどとは一切、漏らさず、総裁選も勝ち抜けると思っているのが、菅首相のメンタルの偉大さ。そこだけは感嘆しますね」(前出の官邸関係者)  菅首相の次の一手が注目される。(今西憲之 AERAdot.編集部)
dot. 2021/08/22 20:10
菅首相「コロナ自爆」で議席減、沖縄も全敗か…衆院選当落予測
池田正史 池田正史 亀井洋志 亀井洋志
菅首相「コロナ自爆」で議席減、沖縄も全敗か…衆院選当落予測
菅義偉首相 (c)朝日新聞社  五輪開催で内閣支持率は好転する。菅政権のそんな政治的たくらみが招いたのは新型コロナウイルス「第5波」、かつて経験したことのない感染爆発だった。目前に迫る決戦で、自公政権に逆風が吹くと予想される。政治ジャーナリストの角谷浩一氏と選挙プランナーの松田馨氏に、各党の獲得議席数と全選挙区の当落予測を依頼した。 【菅政権下の衆院選は? 「自民逆風で前回票より減らすのは確実」と公明元幹部が嘆息】より続く *  *  *  全国の選挙区情勢を順に見ていこう。  北海道は角谷、松田両氏ともに、12選挙区のうち、自民が安泰なのは12区の武部新氏だけと見る。野党側のウィークポイントは4区だ。性交同意年齢を巡る発言で、立憲を離党した本多平直氏が議員辞職。共産は独自候補を立てて野党の統一候補とするよう立憲に呼びかけるが、角谷氏は「リベラル派の本多氏の後を狙い、中道右派のグループが候補を立てる動きがある。共産との共闘路線にヒビが入る可能性もあります」。  東北は、TPP(環太平洋経済連携協定)の批准問題や農協改革などを巡って“農家の反乱”が起き、自民の候補者は痛い目に遭ってきた。自民が大敗する際に県都を取りこぼす「1区現象」の再現があるかもしれない。 「1区では秋田、宮城、岩手、福島が激戦と予想しています」(角谷氏)  政治ジャーナリストの野上忠興氏は、こんな予測もしている。 「コロナ禍による飲食店の営業自粛で、業務用野菜の需要が激減して、農家は大打撃を受けています。秋の収穫を前に新米の価格暴落への危機感も加わり、不満が高まっています。160万票とされる農民票の自民党離れが加速する下地がある。農家の反乱は東北にとどまらず、米作地帯の北海道や北信越、自民に厳しい目を向ける傾向がある九州の佐賀、大分あたりまで飛び火する可能性も秘めています」 ■枝野氏は地元で盛り返せるか  北関東は、立憲の枝野幸男代表の地元、埼玉での戦いが焦点。前回は15選挙区のうち自民が13議席を制した。 「最大野党の代表の地元としては寂しい限り。どれだけ奪還できるか、枝野氏にとって正念場です」(角谷氏)  千葉も前回は全13選挙区中、自民が12勝と圧倒した。4区の立憲・野田佳彦元首相を除き、今回も野党勢は苦闘が想定される。その中で角谷氏が「立憲の有望株」と注目するのが7区の新人、竹内千春氏だ。 「日弁連国際室室長という切れ者。毎日きっちり辻立ちをしているらしく地元の評判もいい。選挙区で勝つのは難しいでしょうが、比例復活の可能性があります」  神奈川は菅首相の地元。緊急事態宣言のさなか、銀座のクラブで飲食した問題で離党した1区の松本純・元国家公安委員長は無所属で立つが、苦戦が予想される。3区は横浜市長選に小此木八郎・前国家公安委員長が出るのに伴い、自民は参院議員の中西健治氏を立てた。だが角谷、松田両氏とも立憲新人の小林丈人氏が有利とみる。 ■小池氏復帰なら東京9、10区か  首都・東京は「石原兄弟」の当落に注目だ。宏高氏の3区は前回、約4万5千票を取った共産が候補者の擁立を見送ると形勢は一気に逆転する。松田氏は「宏高氏は苦戦が避けられない。8区の兄、伸晃氏は選挙に強くはないが、野党候補の乱立のおかげで救われそうです」と説明する。  松田氏は12区にも熱視線を注ぐ。公明は今回、太田昭宏前代表が守ってきた選挙区を岡本三成氏に譲る。維新も新人の阿部司氏を立てる。 「大胆予想ですが、共産の池内沙織氏が勝つ可能性があります。共産は前回、14年衆院選の倍近い約8万3千票を取っています。この選挙区は公明にも共産にも入れたくないとして白票が多いのですが、今回は維新が出ることで、自民支持層の一部が維新へ流れ、岡本氏の票が削られると見ています」  小池百合子氏が国政復帰を狙うなら、選挙区は公職選挙法違反事件で公民権停止となった元自民、菅原一秀氏がいた9区とみられている。ただ角谷氏はこんな見方を披露した。 「9区には、参院から衆院にくら替えしたがっている丸川珠代五輪担当相を持ってくるとの情報もある。それより10区の鈴木隼人氏の動きが鈍く、むしろこちらを小池氏に明け渡す可能性があるのではないか」  新潟の注目は5区の元知事対決。松田氏は泉田裕彦氏、角谷氏は米山隆一氏が優勢と見解が分かれた。「米山氏は(知事辞職に追い込まれた)女性問題はそれほど尾を引いていないと思う。妻の作家、室井佑月さんが地元で評判がいいらしい」(角谷氏)  愛知は、1区の自民現職、熊田裕通氏が苦戦。5区は衆院副議長を務める赤松広隆氏の後継で立憲新人の西川厚志氏が有利だ。  京都1区は自民・伊吹文明氏の引退で、共産の穀田恵二氏が伊吹氏の後継、勝目康氏に競り勝つと角谷氏は予測した。  大阪では維新が堅調に選挙戦を進めそうだ。松田氏は「前回は希望の党のあおりを食らったが、今回は選挙区で自民に勝つところもあるし、比例の得票も増えるでしょう」。激戦は11区。角谷氏は元枚方市長の維新新人、中司宏氏、松田氏は立憲の平野博文代表代行が有利と見る。 ■注目の広島3区 自公の足並みは  全国的に注目されるのは広島3区だ。公職選挙法違反の罪に問われ、一審で懲役3年の実刑判決を受けた元法相、河井克行被告の選挙区だ。自公は公明の斉藤鉄夫副代表に候補を一本化した。 「自民県連は3区を恒久的に公明に明け渡すことを恐れ、斉藤氏の名前は書けないと言っています。ライアン真由美氏が優勢と見ます」(角谷氏)  一方、松田氏は斉藤氏に軍配を上げる。 「3区で選挙協力が不調となれば全国的な問題に発展する。公明も、自民の選挙区は支援しないという話になってしまう。自民党本部と県連の間では話がついています」 ■激突の山口3区 林氏の「圧勝」か  山口では、3区で林芳正参院議員がくら替えを目指す。無所属でも立つ見込みで、自民の河村建夫・元官房長官が迎え撃つ。「総理の座を狙う林氏の圧勝でしょう。河村氏は衆院議長をやりたいのでしょうが、次の議長は細田博之・元官房長官で決まりです」(角谷氏)  長崎1区は安倍前首相の元秘書、自民新人の初村滝一郎氏と国民現職の西岡秀子氏が争う。角谷氏がこう解説する。 「自民県連は女性県議の擁立をほぼ固めていました。野田聖子氏が推薦人で、女性議員を増やすためにもいいだろうという話だったのに、安倍氏サイドから割り込まれた。西岡氏にかなり票が流れ、互角以上の戦いになるでしょう」  沖縄は前回、自民が選挙区で唯一議席を得た4区が接戦。全敗の憂き目に遭う可能性が濃厚だ。  自公政権にとっては政権を奪われた09年以来のアゲンストと見られるが、野党に当時ほど勢いがないのも事実。ワクチン接種が進む欧米では行動制限が緩和される一方、日本はコロナ禍から抜け出す糸口さえ見いだせない。閉塞状況を打ち破るには、国会の風景を一新させるしかない。(8月上旬現在の情勢です) (本誌・亀井洋志、池田正史) ※週刊朝日  2021年8月20‐27日号より抜粋
週刊朝日 2021/08/20 07:00
審判に「認められない」と叱られた打法も!  思わぬ形で"全国区"となった球児たち
久保田龍雄 久保田龍雄
審判に「認められない」と叱られた打法も! 思わぬ形で"全国区"となった球児たち
“ヘリコプター打法”で有名となった滋賀学園の馬越大地 (c)朝日新聞社  ネットの普及で、高校野球の地方大会も、家にいながら見たい試合を視聴できるようになった。そんなネット全盛時代のなか、珍プレーや珍打法がネット上で紹介されたことをきっかけに、全国区の人気者になった選手もいる。  その先駆け的存在が、浦安南の背番号11・佐久間勇気だ。  2003年の千葉大会2回戦、京葉工戦、0対22とリードされ、コールド負けまであと1人の5回2死無走者で代打出場。見事中前に落ちる安打で出塁したが、直後、パスボールで二進した際に、スライディングすることなく二塁ベースを駆け抜けてしまい、タッチアウトで試合終了となった。  野球部員が6人しかいない同校は、他部から5人の助っ人を補充しての出場。寄せ集めチームならではのハプニングと言えなくもないが、この動画はユーチューブで460万回以上再生され、“浦安南の佐久間君”は高校野球ファンの間で有名人になった。  個性的な“ヌンチャク打法”で、日本はもとより、アメリカでも人気を博したのが、滑川総合の背番号12・馬場優治だ。  15年の埼玉大会5回戦の埼玉栄戦、1対3とリードされた7回に代打で登場した馬場は、バットをヌンチャクのようにめまぐるしく振り回し、エビ反りの姿勢で飛び跳ねる派手なパフォーマンスを披露。ファウルを連発して粘りに粘り、最後は一ゴロに倒れたものの、“ヌンチャク効果”で勢いづいたチームは、この回スクイズで1点を返した。  試合後、馬場の打席を撮影した観客がユーチューブに動画をアップすると大反響を呼び、当時レンジャーズに在籍していたダルビッシュ有も、ツイッターで「どこの高校の誰か気になる(笑)」と興味を示した。  MLB公式サイトでも「日本の高校生が代打と創作ダンスを組み合わせた、これがすべてだ」と題して紹介され、“ニンジャ・ヒッター”と評判になったばかりでなく、野球に関する面白い出来事を紹介する公式サイト「Cut4」では、年間の人気記事トップ10の6位にランクインした。  だが、県高野連は、この打法を「遅延行為になるし、バットが捕手に当たる可能性もある」という理由から、「認めるわけにいかない」と学校側に注意した。  ちなみに馬場は、3回戦の浦和東戦では三塁打で2打点を挙げるなど、計4回代打で出場。その間、審判が注意した様子がなかったのも大らかで、地方予選らしい。  翌16年、ヌンチャク打法に続いて話題を集めたのが、滋賀学園の4番・馬越大地の“ヘリコプター打法”だ。  2年秋から「タイミングを取る」ために、打席で構えたときに頭上でバットをクルクル右回転させる打法を始めたところ、近畿大会で本塁打を記録するなど、16打数8安打5打点の大当たりで準Vの立役者に。翌春のセンバツでも、2回戦の釜石戦で2ランを含む5打数3安打4打点と好調を持続し、8強入りに貢献した。  センバツ後、「身が入っていない」と山口達也監督に叱られ、春の大会ではベンチから外れたが、自主練習の打ち込みを100本から200本に増やし、率先して走り込むなど、主砲の自覚を持って努力したことが認められ、再び背番号3を貰った。  最後の夏は動作を緩めにした“新ヘリコプター打法”で、3試合連続本塁打を含む18打数11安打11打点。県大会準決勝で近江に敗れ、春夏連続の甲子園を逃したものの、馬越は翌年2月、日本学生野球協会の2016年度優秀選手に選ばれている。  王貞治もビックリの“逆一本足打法”で注目されたのが、和光の室橋達人だ。  16年の西東京大会1回戦の狛江戦、左打席に入った2番・室橋は、前方の右足を上げる王とは逆に、後方の左足を1、2度高く上げてタイミングを取るユニークな打法を披露した。  本人によれば、「もともと軸足への体重移動が苦手で、いろいろ試しているうちに」、この打法に行き着いたのだとか。 「それで本当に打てるの?」とスタンドが好奇の目で見守るなか、室橋は2回の第2打席で中越え三塁打を放ち、珍打法の写真とともにその日のヤフートップ記事になった。  残念ながら、チームは同年、翌17年と2年連続初戦敗退。悲願の1勝を挙げることはできなかったが、室橋は「名前がついて知ってもらえて、自信になった」と満足そうだった。  最後に番外編を紹介する。05年夏、“高知高校の上田君”なる球児がネット上で話題になった。  同校は県大会決勝で明徳義塾に延長12回の末惜敗したが、甲子園大会開幕直前の8月4日、明徳が不祥事で出場辞退。急きょ代替出場が決まった。  その直後からネット上で、同校の上田勝右翼手が1週間前に「自転車で日本を一周してくる」と友人たちと家を出たまま連絡が取れなくなったという情報が拡散された。  だが、該当する部員は実在せず、自転車で遠出してチームに合流できなくなった話は、デマと判明した。  ところが、この“都市伝説”めいた話が、明徳ナインの無念を気遣い、「喜んではいけない」と神経を尖らせていた高知ナインに、心のゆとりを取り戻させたという。世の中、何が幸いするかわからない、  甲子園では初戦で日大三に敗れたが、ナインが最後まで気持ちを切らすことなくノーエラーで戦うことができたのは、ひょっとすると、“上田君”のお蔭だったかも?(文・久保田龍雄) ●プロフィール 久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2019」(野球文明叢書)。
dot. 2021/07/11 18:00
「どういう歩き方してんだよ!」階下の住人の“勘違い”に恐怖…コロナで増える隣人トラブル
野村昌二 野村昌二
「どういう歩き方してんだよ!」階下の住人の“勘違い”に恐怖…コロナで増える隣人トラブル
自粛生活で気になるもの。車の音、隣家のガーデニングから飛んでくる虫や料理のにおい、子どもの遊び声や足音──(撮影/写真部・戸嶋日菜乃) AERA 2021年6月21日号より  騒音、たばこの臭い……。コロナ禍で隣人とのトラブルが増えている。最悪の場合は事件に発展する可能性もある。AERA 2021年6月21日号から。 *  *  *  コロナ禍の3月中旬、東京都内に住む会社員の女性(39)は「殺される」と思うほどの隣人トラブルに遭遇した。  その日の昼過ぎ、マンションの玄関のインターホンが鳴った。出ると、怒鳴り声が響いた。 「どういう歩き方してんだよ! ドタドタドタと!!」  何度か見かけたことがある、真下の部屋に住む男性だった。  女性は在宅勤務でパソコンに向かって仕事をしていた。歩き回って音を出すはずがない。男性は、ルームランナーで走る振動のようなものが以前から響いていると主張する。しかし、女性はルームランナーも持っていない。「違います」と答えると、男性はまくし立てた。 「しらばっくれるな。わかってんだからな」 ■恐ろしくて安心できず  女性は恐ろしくなってインターホンのスイッチを切った。しばらく震えが止まらなかった。  女性は管理会社に連絡。担当者の説明では、マンションは建物の構造上、必ずしも真上の部屋の音が真下の部屋に響くわけではない。斜め上やさらにその上の部屋など意外なところから聞こえることもあり、今回もそのケースに当たるのではないかという。管理会社は騒音に関する注意喚起の貼り紙をマンション共用部分に貼ってくれたが、女性は安心できない。  引っ越したくても、仕事の関係で簡単にはできない。極力音を出さないように暮らし、男性とはなるべく会わないようにしているという。女性は言う。 「周りには『私が死んだら犯人は階下の男だからね』と、冗談ではなく話しています」  新型コロナウイルスの感染拡大で、自宅で過ごす時間が増える中、近隣住民同士のトラブルが相次いでいる。なかでも多いのが騒音トラブルだ。  感染拡大が始まった昨年3月と4月、都内で騒音関連の110番受理件数は計2万4245件に上り、前年同期(1万8864件)と比べ28.5%も増加した。AERA本誌がアエラネットで実施した「コロナ禍の隣人トラブル」に関するアンケートなどでも音に関する苦情が目立った。「マンションで子どもが昼間や夜に共用部分を走り回るようになってしまった」(32歳、会社員男性)、「上の階の住人が深夜に大きな音を立てる」(57歳、会社員女性)、「テレビゲームの太鼓を使ったものをやられた日にはトントコトントコ天井から音が響きます」(51歳、主婦)などだ。 ■侮ってはいけない「音」  なぜ増えたのか。音環境工学が専門で、騒音問題総合研究所(青森県八戸市)代表を務める橋本典久さん(八戸工業大学名誉教授)はこう分析する。 「地域のコミュニティーがなくなり、人間関係が薄くなって孤独感や閉塞(へいそく)感を覚える人が増えるなか、フラストレーションを抱く人が増えてきました。そのフラストレーションから相手の出す音を迷惑行為だと認識するようになったのです。今、コロナ禍で自粛生活をしているので、フラストレーションがたまりやすい状態にあります」  こうした心理状態でうるさく感じる音を、橋本さんは「煩音(はんおん)」と呼ぶ。音は決して大きくなくても、相手との人間関係によってうるさく感じるような、人を煩わす音のことだ。  たかが「音」と侮ってはいけない。  今年4月下旬、大阪府大東市のマンション3階に暮らす大学生の女性が殺害され、直後に直下の部屋で会社員の男が死亡した。朝日新聞によると、大阪府警は男が事件に関与したとみて捜査を進めている。男はマンションでの生活音に過敏になっていた、との証言があるという。  橋本さんはこう語る。 「通常、音の発生から敵意を膨らませ、攻撃性を持ち、事件につながるまで半年くらい。短ければ3カ月程度、長ければ2年くらいかかる場合もあります。騒音問題は感情的な葛藤から発生する感情公害。さらに言えば、音に限らず悪臭や振動などコロナ禍で増えている隣人トラブル全体が感情公害と言えます」 ■苦しいたばこの臭い  隣人のたばこの臭いにウンザリしているというのは埼玉県内のマンションに住む主婦(51)だ。  隣の男性は在宅勤務になったのか、平日の昼間もベランダや共有廊下側の換気扇からたばこの臭いがするようになった。洗濯物を干すのも気になるし、窓も開けていられない。ここまで苦しんでいるのに、誰にも相談できないという。 「同じマンションですし。でも、本当に我慢しています」  千葉県内に住む主婦(45)は、コロナ禍で隣人が始めたガーデニングに閉口する。風が吹くとベランダに花や葉が飛んできたり、大量に発生した虫が洗濯物についたりして、室内に入ってくることもある。苦情を言いたいが、我慢している。 「今後のつきあいのこともありますし……」 (編集部・野村昌二) ※AERA 2021年6月21日号より抜粋
新型コロナウイルス
AERA 2021/06/16 11:30
菅野美穂「育児は根性試しの連続」 高畑充希・尾野真千子に語った“母”の本音
中村千晶 中村千晶
菅野美穂「育児は根性試しの連続」 高畑充希・尾野真千子に語った“母”の本音
菅野美穂(かんの・みほ、中央):1977年、埼玉県出身。93年にデビュー後、「イグアナの娘」など数々の作品で活躍/高畑充希(たかはた・みつき、左):1991年、大阪府出身。2005年にデビューし16年、連続テレビ小説「とと姉ちゃん」でヒロインを務める。近作に映画「キャラクター」(6月11日公開予定)など/尾野真千子(おの・まちこ、右):1981年、奈良県出身。97年にデビュー。2011年に連続テレビ小説「カーネーション」でヒロインを務める。近作に映画「茜色に焼かれる」(公開中)など  映画「明日の食卓」は、椰月美智子の同名小説を原作にした、同じ名前の10歳の息子を持つ3人の母親たちの物語だ。母親の日常と苦労をリアルに捉え、共感と戦慄を呼ぶ。AERA 2021年6月7日号に掲載された記事を紹介する。 *  *  * ――映画「明日の食卓」で3人が演じたのは住む場所も境遇も違う3人の母親。2児の母でフリーライターの留美子(菅野美穂)、シングルマザーの加奈(高畑充希)、専業主婦のあすみ(尾野真千子)だ。作中に共演シーンはなく、撮影はパートごとに行われた。 尾野真千子(以下、尾野):みなさんのパートを観て、あらためて内容が何十倍もの凄さで伝わってきました。 高畑充希(以下、高畑):私はまさに加奈が暮らしている大阪の町工場のあるような町で育ったんです。シングルマザーもたくさんいたので、幼い頃の記憶に助けられました。 菅野美穂(以下、菅野):私は2人の子どもがいるので、台本と小説を読んで他人事と思えなかった。観ていて自分がえぐられるようでもあったけれど、後には不思議な清涼感も残るんですよね。子育てをがんばればがんばるほど孤独になっていく。そういう人たちに、「あなただけじゃないよ」と励ましのメッセージを届けることもできると感じました。 尾野:私、菅野さんが実生活で母親になられたことで、演技がどう変化するのかな?と興味がありました。自分も参考にしたいから。 ■必ずしもマッチしない 菅野:それがね、あまり関係ないみたい。 尾野・高畑:そうなんですか? 菅野:日常でこんなに大変な思いをしているから、ちょっとは演技に還ってきてほしい!と思うんですけど(笑)。具体的な子育て中の「あるある」はあるけれど、それは役の状況と必ずしもマッチしない。子どもは一人一人違うし、お母さんも全然違う。カメラの前で演じることは、本当に子どもがいるかどうかは関係ないんだなとすごく思いました。 ――3人が演じる母親に共通するのは、「ワンオペ育児」のしんどさだ。そのなかで、どこかの家庭に悲劇が起こる。 菅野:この作品が生まれた原動力は、育児中の女性の「怒り」だと思うんです。ニュースで痛ましい事件を聞くとやりきれないけれど、対岸の話ではないんだと思います。我慢して、こらえている状況で気持ちが爆発してしまう。そういう瞬間ってあるんじゃないかと思います。特にいまはコロナ禍で前みたいに気軽に人と会って話せないから、ストレスを解消する手段がない。 尾野:私はあすみが別の母親から、「あんたの子はサイコパスだ」と言われるシーンが衝撃でした。必死に「うちの子はいい子」と思い込もうとしていたのに、他人からの指摘で母親自身が「そうかも」と思ってしまう。そこから一線を越える何かが始まってしまう気がした。 高畑:加奈は人に頼るのがヘタな人だと思うんです。でも、私もその気持ちがわかる。なんでも「自分一人でやれる! やらなきゃ!」と追い詰められてしまう。本当は助けようとしてくれる人がいっぱいいるのに。 菅野:実際、産んでみると「やらなきゃ!」と迷っている暇がないんだよね。 高畑:そうなんですね。 菅野:自分ももしかしたら爆発するかもしれない。でもそうならずに、戻ることができる瞬間が必ずある。そう、この映画は投げかけていると思います。 ■計画どおりにいかない ――3人自身はワーク・ライフ・バランスをどう取っているのか。 尾野:いや~私は考えたことないです。1回結婚しましたけど、当時も仕事のことしか考えてなかった。もともと役を引きずらないタイプなので、うまくバランスがとれているのかな。 菅野:私は育児と仕事のバランスをまだ掴みきれていないです。両立はしたいけど無理! 今回、復帰してみて「1年、2年ではムリかも。10年くらいかけてゆっくりでいいのかな」と思ったり。でも、仕事をすると脳が切り替わって、「よし!」と再び子どもと向き合えもするんですよ。なにより、仕事中は自分の荷物しか持たなくていい。いつも両手に子どもの荷物を持っているとホント疲れちゃうんだよね。 尾野:すごくリアルで参考になる(笑)。子育ての話ってキレイなことしか聞かないから。 菅野:そこがいまの育児のしんどさだと思う。SNSとかで「ステキな子育て」を目にしたりするけど、いや日常にはできないから! 高畑:私、今日すごく勉強になっています。菅野さんは結婚や出産の時期を計画しましたか? 菅野:いやいや、全然計画どおりにはいかなかったですよ。「周囲に迷惑かけないように」ということにはすごく頭を使ったけど。 高畑:私はもうちょっと恋愛したいなと思っているんですけど、いつかは結婚もしたいし子どももほしい気持ちはある。でもこの仕事は3年先とかのスケジュールが入るから……。 菅野:わかります。演じ手としての自分と、結婚してお母さんになりたいという自分との時計が違いすぎるよね。 尾野:大丈夫、いざそうなったら、みんな「おめでとう!」って許してくれる。 菅野:そうそう。でもいっぽうで充希ちゃんは若いし、やりたい役があったらいまは絶対やったほうがいい、とも思う。 尾野:そうだね。私も結婚後に2年休んでちょっと後悔した。あのときは旦那様との時間を作ろうと思ったんだけど……。 菅野:私も4年くらい空いた時期があるかな。でも、けっこう世間は「え? 4年も休んでたっけ?」みたいな感じよ? 高畑:たしかに、お二人とも休んでいたイメージがないです。 ■育児のホントのところ 尾野:意外とそんなものだよね。もし今後、出産などで仕事を休むときがきたら、菅野さんに相談するかもしれないです。 菅野:私に答えられることだったら何でも! 女性の先輩が育児の大変さをあまり発言しないのは、続く世代を怖がらせたくないという優しさなのかもしれないけど、でも、私はもっと事前に聞きたかった。「聞いてないよ!」ってことばっかりだもん。だからどんどんホントのことを言っていきますよ! 高畑:ありがたいです。 菅野:育児は根性試しの連続です。「がんばったね。じゃあ次はこれだ!」の繰り返し。達成感を感じるのは難しいです。連ドラやっているとき、最終回までの1週間って寝られないでしょ? 尾野・高畑:はい。 菅野:産後1カ月はね、あれが続く感じかな。 尾野・高畑:うわあ、それはつらい! 強くなりますねえ。 菅野:自分でも図太くなってきているなあと思う。それに、まわりのお母さんがもう10歳くらい若いの。だから常にスマホに「プリント提出○日までです」とか教えてくれる。ポンコツ中年、感謝しきりです(笑)。 (フリーランス記者・中村千晶) ※AERA 2021年6月7日号
AERA 2021/06/03 11:30
勾留期限が迫る「茨城一家殺人事件」 解明すべき5つの謎
勾留期限が迫る「茨城一家殺人事件」 解明すべき5つの謎
岡庭由征容疑者(昨年11月) (c)朝日新聞社 被害者の小林さん宅 (c)朝日新聞社  茨城県境町の一家殺傷事件で、殺人容疑で逮捕された岡庭由征(よしゆき)容疑者(26)=埼玉県三郷市=の勾留期限が29日と迫っている。事件をめぐる警察の捜査は昨年11月以降、いくつかの「節目」で異例の経緯をたどってきた。次なる手は──。 *  *  * 「今のままでは、またやっちゃうと思う」  2011年、14歳と8歳の少女が刃物で切りつけられた事件の裁判で、殺人未遂罪で起訴された当時16歳の岡庭容疑者が語った言葉だ。動機について、「女の人を襲うときは性的に興奮した」と述べていた。  被害者の少女が損害賠償を求めた民事裁判の記録などによると、自宅のパソコンで、猫への残虐行為の動画などを見ていたこともあったようだ。高校2年だった11年11月には、自宅の庭で切断した猫の頭部を学校へ持って行き、騒ぎになっている。  トラブルの後、岡庭容疑者は高校を退学し、通信制高校に編入。少女への事件が起こったのは高校退学から3日後のことだった。  その後、岡庭容疑者は医療少年院に入り、茨城県境町の殺傷事件の前には少年院を出ていた。  まだ容疑者の段階だが、残念ながら冒頭の言葉が「現実」となってしまったのかもしれない。  猫を殺していたことなどは近隣住民にも知れ渡っていたが、今回、殺人容疑で逮捕されたことを知った無職の女性(78)は、驚きながらこう話した。 「中学生になる頃にはあまり姿を見かけなくなった。小さい頃の様子を見ていたので、いまだに信じられない」  別の近所の70代の女性は、「殺人にも関わっていたとしたら、まさかという一言」と顔をこわばらせた。 ■この条例違反で逮捕はしない  今回の殺傷事件を振り返っておくと、事件が起きたのは19年9月23日午前0時40分ごろ。うっそうとした林に囲まれた住宅2階の寝室で、小林光則さん(当時48)と妻美和さん(同50)が首や胸などを刃物で刺されて亡くなった。5人家族のうち、2階の別の部屋にいた当時中学1年の長男(14)は手足を切られ重傷、小学6年の次女(13)も催涙スプレーを両手にかけられ軽傷を負った。1階にいた長女(22)には、けがはなかった。  周辺の防犯カメラに犯人らしき映像はなく、凶器も見当たらない。茨城県警は当初、犯人は小林さん一家に恨みを持っている人物とみて、交友関係を中心に捜査した。だが、いくら調べても夫婦ともに目立ったトラブルは確認できず、捜査は長期化した。  県警は交友関係の捜査と並行し、県外を含め過去に面識のない人を刃物で襲うなどした事件の洗い出しを進めた。  その中で浮上したのが、冒頭の少女を切りつけた事件を起こした、埼玉県に住む岡庭容疑者だった。  茨城県警から連絡を受けた埼玉県警は、茨城県警との合同捜査班を設けた。人に危害を及ぼすおそれがある商品を購入した形跡があるとして、埼玉県警は昨年11月19日、埼玉県三郷市の岡庭容疑者宅を殺人予備の疑いで家宅捜索した。  捜索に先立ち、県警は岡庭容疑者に任意同行を求めた。午前6時ごろに始まった捜索では、危険物に備えて青や黄色の防護服に身を包み、ヘルメットと防毒マスクをかぶる捜査員の姿もあった。  捜索の結果、硫黄やアルコール類など消防法上の危険物が見つかった。日付が変わったころ、岡庭容疑者は硫黄約44キロを貯蔵したとする三郷市火災予防条例違反容疑で逮捕された(起訴時の罪名は消防法違反)。  ある捜査幹部は、 「普通はこの条例違反では逮捕しない」  と異例の捜査だったことを認める。自宅の捜索は約1週間に及んだ。 「捜索をすべて終えていない中、その時点で適用できる容疑でやった」(前出の捜査幹部)  次に捜査が動いたのは今年2月。茨城県警は、公記号偽造容疑で岡庭容疑者を逮捕した。聞き慣れない罪名だが、警察手帳につける記章を偽造したというものだ。  この翌日には、さいたま地裁で消防法違反事件の初公判が予定されていたというタイミングだった。公判が始まれば、早期に判決が出て岡庭容疑者が釈放される可能性もあった。  両県警は捜索で、複数の刃物のほか、岡庭容疑者が使っていたスマートフォンやパソコンなど約600点を押収した。  捜査関係者によると、一連の捜査の過程で、岡庭容疑者が殺傷事件前に現場周辺を撮影したり、事件について頻繁にネットで検索したりするなど、この現場に関心を持っていたことを示す情報を見つけたという。  さらに、小林さんの次女にかけられた催涙スプレーと同じ成分を含む熊よけ用スプレーを岡庭容疑者が購入していたことや、現場に残された足跡と同じ種類の靴を事件前にインターネットで買った履歴があることも明らかになっていた。  5月7日、茨城県警は、殺人容疑で岡庭容疑者の逮捕に踏み切った。  今回も、4日後に公記号偽造事件の初公判が水戸地裁で開かれる見通しだった。 ■なぜ被害者宅に 動機、移動手段は  今後の捜査はどうなるのか──。  逮捕にまではこぎ着けたが、決定的な証拠が見つかったという話は出ておらず、解明すべき点は多い。 (1)   岡庭容疑者が事件前に購入したとみられるスプレーや、小林さん方に残されていた足跡と同じ種類の靴は捜索では見つかっていない (2)   事件当日に現場にいたことを直接裏付ける証拠も得ていないとみられる (3)   県警は、岡庭容疑者と被害者との接点はなかったとみており、小林さん一家を襲ったとする動機がはっきりしていない (4)   三郷市と現場とは約30キロの距離があり、一家の生活圏とも重ならない (5)   岡庭容疑者はサイクリングが趣味で、県警は自転車で被害者宅を訪れたとみているが、なぜこの家を狙ったのか  7日の逮捕から2週間以上が過ぎ、勾留期限の29日が迫る。子どもに対する傷害容疑もしくは殺人未遂容疑で再逮捕するのか。鑑定留置の可能性もある。  県警は逮捕後の認否を明らかにしていないが、捜査関係者によると、岡庭容疑者は容疑を否認しているという。  岡庭容疑者側の弁護方針は明らかになっていないが、捜査側と全面的に争う展開が予想される。別の捜査関係者は言う。「状況証拠を積み上げる捜査になる」 (朝日新聞取材班) ※週刊朝日  2021年6月4日号
週刊朝日 2021/05/26 09:00
最近は“大人しく”なった? Jリーグサポーターたちの「度を越した」行動の数々
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最近は“大人しく”なった? Jリーグサポーターたちの「度を越した」行動の数々
サポーター“問題行動”は減った?※写真はイメージです(写真/gettyimages)  昨年より続くコロナ禍により、Jリーグの各スタジアムの風景、そして応援スタイルは大きく変わってしまった。改めてクラブとサポーターの関係の再構築が求められているが、過去の歴史を振り返れば、これまでもサポーターの在り方が問われる数々の“事件”が起こっている。  Jリーグ発足時から熱狂的かつ悪名高かったのが浦和サポーターだった。当時はチームの成績が振るわない中でフラストレーションを溜め、自チームの不甲斐なさだけでなく、レフェリーの判定や敵チームの選手たちの行動に怒りを爆発させ、試合終了後は度々ピッチ内へ。自分たちを挑発した相手GK(シジマール)に詰め寄って土下座させることもあった。そしてJリーグ屈指の名門鹿島のサポーターも事件を起こしている。2004年10月23日の鹿島対浦和戦(カシマスタジアム)でのこと。終了間際に失点して2対3で敗れると、試合後に挨拶に来た鹿島の選手たちに向けて罵声、ブーイングの嵐を浴びせた。そして、自分たちが投げた缶を本田泰人に投げ返されると、ゴール裏の一部サポーターが激怒し、ピッチに下り、ゴールネットに本田を押し倒しながら集団で暴行を加えた。  そこから月日が流れ、浦和がアジア王者まで上り詰め、強者のプライドを手にした中で起きたのが、2008年5月17日の浦和対G大阪戦(埼玉スタジアム)での暴動騒ぎだ。「ナショナルダービー」と言われて激しいライバル関係にあった両チームは、当時の報道によると、試合前にG大阪サポーターのアウェー席から投げ入れられた水風船が浦和サポーターの子供に当たったことが発端となり、暴動に発展した。試合では勝利したG大阪の選手たちによる「ワニナレナニワ」の勝利の儀式に浦和の選手たちが抗議してピッチ上で小競り合いになったことも、火に油を注いだ。罵声と物が飛び交うバトル状態は、ホームで圧倒的な人数を誇った浦和サポーターが、約1000人のG大阪サポーターを包囲する結果に。最終的に警察や機動隊が出動し、G大阪サポーターは貸し切りバス16台で帰路に着くことになった。  この2008年の騒動は「相手も悪い」という状況だったと言えるが、2014年に起きた「差別横断幕事件」は相手云々の事象ではない。問題となったのは、2014年3月8日の鳥栖戦(埼玉スタジアム)。コンコースからスタンドへの通用口の上部に貼られた「JAPANESE ONLY」という横断幕。人種差別と解釈されるものは本来、即刻撤去されるべきだが、警備員による撤去要請も「試合中のために難しい」などの理由から結局は試合終了後まで掲げたままになった。この出来事は試合終了後、各方面からの数々の批判を浴び、リーグも問題視。浦和にはJリーグ初となる無観客試合という処分が下された。  このような「差別行為」は、残念ながらその他のスタジアムで繰り返され、2014年8月23日の横浜FM対川崎戦(三ツ沢)では、ゴール裏の横浜FMサポーターの1人がピッチ上のブラジル人選手に向けてバナナを振りかざす行為(アフリカ系の人々を揶揄する悪質な人種差別行為)が発生。2017年4月16日のC大阪対G大阪戦(長居)では、G大阪の一部サポーターがナチス親衛隊「SS」を連想させる文字の入ったフラッグを掲出する事件も発生した。。本人たちには「人種差別」や「政治的意図」の意図はなかったのかも知れないが、「無知」であることでは決して許されるものではなく、国際社会の中では完全にアウト。当該サポーターは無期限入場禁止になった。  さらに言語道断の許されざる行動として“黒歴史”となっているのが、2008年9月20日の柏対鹿島戦(日立柏サッカー場)で起きた鹿島サポーターによる応援フラッグでの殴打、妨害事件だ。ピッチと観客席の距離が近いサッカー専用スタジアムにて、そのスタンド最前列に陣取っていた1人の鹿島サポーターが、応援用の大旗を振り回し、CKを蹴ろうとした柏のアレックスの頭部を竿の部分で殴打。さらに逆サイドのCKの場面でも、今度は栗澤僚一の顔付近で旗の先端部分を何度も振り回す威嚇行為を行った。この人物はハーフタイムで退場させられ、ホーム、アウェーに関わらず、公式戦の無期限観戦禁止の処分が下されることになった。  その他、その大小を問わなければ、サポーター同士の揉め事、争い事、さらには乱闘事件が毎年、全国のスタジアム各所で繰り返されている。だが、それはほんの一部であり、大部分のサポーターは節度を持ち、心の底からクラブを愛し、選手を力強く支えている。それだけに、一部の者の心ない行動で、その関係性が失われることは、単純に悲しい。コロナ禍の中で再び無観客開催を強いられることになった今、Jリーグにおいてのサポーターの在り方を、改めて見つめ直すべきだろう。 ※2008年5月17日の浦和対G大阪戦で発生した暴動について、その発端に関する記載がされていなかったため、事件の経緯について誤解を招く恐れがあることから、文章の一部を修正いたしました。お詫びして訂正いたします。(2021年5月11日)
dot. 2021/05/10 18:00
茨城一家殺傷事件 逮捕の26歳男は「人を殺してみたかった」と殺人未遂、放火、猫殺しの過去
茨城一家殺傷事件 逮捕の26歳男は「人を殺してみたかった」と殺人未遂、放火、猫殺しの過去
2019年に4人が殺傷された事件の茨城県の事件現場(C)朝日新聞社 茨城県警に移送される岡庭由征容疑者(C)朝日新聞社  幸せだった一家を突如、襲った惨劇は発生から1年8カ月を経て大きく動いた。  茨城県境町の民家で2019年に会社員の小林光則さん(当時48)と妻の美和さん(当時50)が殺害され、子ども2人も重軽傷を負った事件で、茨城県警が埼玉県三郷市に住む無職、岡庭由征容疑者(26)を夫婦への殺人の疑いで逮捕した。  捜査関係者によると、岡庭容疑者は現在、茨城県警境警察署に拘留中。 県警はことし2月に岡庭容疑者が偽造した警察手帳を所持していたとして公記号偽造容疑で逮捕していた。  しかしこの逮捕には前段があった。 「去年11月に埼玉県警が危険物を所持しているとの情報提供を受けて岡庭容疑者の自宅を家宅捜索。44キロに及ぶ硫黄が見つかったため、消防法違反罪などで男を逮捕していた」  岡庭容疑者はどんな人物なのか。  警察関係者によると、岡庭容疑者は10年ほど前に埼玉県と千葉県で女子中学生、小学女児に対する殺人未遂事件を起こし逮捕・起訴されていた。  岡庭容疑者は当時16歳。自宅からは数十本の刃物が見つかり、調べに対し「人を殺してみたかった」と供述していたという。  岡庭容疑者はこの事件の他に17件の放火や猫の死骸を遺棄したとして立件されている。  岡庭容疑者を巡っては、請われるままに刃物を買い与えていたとして父親が銃刀法違反で書類送検されている。  今回の事件では催涙スプレーをかけられ軽いけがをした小林さんの次女(当時13)が「帽子とマスク姿の男に襲われた」と供述。  警察は付近の聞き込み、防犯カメラの映像を調べるなどして行方を追ってきた。  記者は事件発生から1か月後の現場を取材したが、当時は有力な手掛かりはなく、2人の捜査員が被害者宅の目の前に拡がる釣り堀の会員名簿を押収し調べるなどしていた。  捜査関係者によると、境署捜査本部では不審者情報を中心に裏付け捜査をすすめていたという。 「岡庭容疑者と一家との接点は見当たらないが、犯行を裏付ける物証が得られた。今後は供述面で裏を取っていく」(警察関係者)  男は凄惨な事件の動機について何を語るのか。(野田太郎)
dot. 2021/05/07 15:04
コロナの罰則…日本社会で強まる「厳罰主義」 自ら“警察”をやるのは「問題」の風潮も
コロナの罰則…日本社会で強まる「厳罰主義」 自ら“警察”をやるのは「問題」の風潮も
都心部の繁華街ではほとんどの店が「時短」に協力してきたが、その一方で応じない店への厳罰化は議論を呼んだ/3月18日、東京・歌舞伎町で (c)朝日新聞社 AERA 2021年4月5日号より  感染症法や動物殺傷、大麻使用──社会は厳罰化に進むが、はたして効果的なのか。厳しいルールが敷かれることで「萎縮につながる」との声もある。背景には何があるのか。AERA 2021年4月5日号から。 *  *  *  3月24日。兵庫県明石市議会の定例会最終日で「明石市新型コロナウイルス感染症の患者等に対する支援及び差別禁止に関する条例」の制定案が可決された。5条5項にこうある。 「感染症法第80条又は第81条の規定にかかわらず、これらの条に規定する行為を行った市民の事情等に配慮し、寄り添いながら支援を実施する」  2月3日に成立した改正感染症法では、感染者が入院を拒否したり入院先から逃げたりすると50万円以下の過料が科せられるようになった(80条)ほか、濃厚接触者を特定するための保健所による疫学調査を拒否した場合も、30万円以下の過料の対象となった(81条)。  反対に、明石市条例では「寄り添いながら支援」をうたう。罰則の適用は保健所を設置する自治体の判断に委ねられるが、泉房穂(ふさほ)市長は任期中は罰則を適用しない方針。取材にこう語った。 「そもそも感染した人を罰するなど間違っている。『北風と太陽』の話ではありませんが、何でもかんでも北風を吹かせて罰則を加えても目的は達成できません。必要なのは支援です」  が、社会が向かうのは厳罰主義だ。それは刑事司法の世界にとどまらない。 ■大した罪にならない  2017年8月、埼玉県の元税理士の男が動物愛護法違反で逮捕され、懲役1年10カ月執行猶予4年の地裁判決が確定した。男は動物を虐待する様子を動画に記録し、匿名のファイル共有サイトに投稿していた。 「動物環境・福祉協会Eva」の理事長を務める俳優の杉本彩さんは衝撃を受けた。 「こんな残虐なことができるのかという衝撃と、裁判の結果に対する衝撃の両方がありました。法定刑が非常に軽微であるという問題がそこにありました。まずやるべきは動物の殺傷や虐待についての厳罰化なのではないかと考えました」  その頃、動物殺傷罪が「2年以下の懲役または200万円以下の罰金」で、器物損壊罪より軽かったのを知った。協会ではその後、厳罰化を求める署名活動を展開し、改正動物愛護法は実際に19年6月に成立。「5年以下の懲役または500万円以下の罰金」になった。  殺しても大した罪にならない──。事件当時、そうした傾向がある人たちが集うサイトに、こんな言葉が書き込まれていたのを杉本さんは確認した。 「厳罰化ですべての問題が解決するとも思っていませんが、こうした層には抑止力が期待できるかもしれません」  こうしたやむを得ないと思える厳罰化の一方で、行き過ぎとも捉えられるケースが出てきている。厳罰主義への傾向については、立命館大学の富永京子准教授が注目しているデータがある。シノドス国際社会動向研究所(東京)とともに新型コロナに関連して昨年10月に行った意識調査の結果だ。 ■公的な存在に介入期待  全国の6600人から回答を得た調査で、自粛や休業の要請に従わない事業者に「貼り紙を貼って『活動をやめろ』と警告すべきだ」「店名をツイッターで広めてもいい」と考えるのがそれぞれ約1割だったが、約4割は「メディアはもっと注意を呼びかけるべきだ」、3割超が「自治体は店名を公表するべきだ」と考えていたという。 「つまり、自分たちの間で“警察”をやるのは問題があると思っている一方で、特に喫緊の課題に対しては公的な存在に介入してなんとかしてほしいという、厳罰主義的な感覚が強く表れているのだと解釈しています」(富永准教授)  筑波大学の原田隆之教授(犯罪心理学)は、厳罰主義の背景として、(1)社会で被害者が声を上げる機会が増えた、(2)SNSなどで犯行現場が可視化され感情がかき乱される機会が増えた、(3)もともと処罰する法律がなかったり刑罰が不十分であったりした、の3点を挙げた。  あおり運転の罰則などは、(2)や(3)の典型的なケースだろう。ただ、厳罰方向への変更とはいえ、男性目線で作られた古い法律が現代の実情に合わないことから刑罰の重さを引き上げているケースなどは、「厳罰化」ではなく「適正化」だと原田教授は考えている。性犯罪などの「適正化」がそうだ。 ■犯罪者としてレッテル  一方で、むやみな厳罰化は逆効果であるとも指摘する。 「犯罪心理学の分野では、厳罰にすると逆に犯罪率や再犯率がわずかに上がるというエビデンスがあります。政治家も一般の人たちも犯罪や逸脱行為に対して罰という対処しか思いつきにくいのですが、対処の方法はある。私が常に述べているのは治療や福祉、教育などヒューマンサービスと呼ばれるものです」  わかりやすい事例が、薬物犯罪に対する罰則のあり方だろうか。国内ではちょうど1月に大麻の規制に関する検討会が立ち上がったばかりだ。  現在、大麻取締法で罰則を設けているのは「所持」や「栽培」についてで、「使用」は対象とはなっていない。神社のしめ縄などに使う大麻草を合法的に栽培している農家の人たちが、作業中に成分を吸い込む可能性などに配慮しているとされる。  詳細は省くが、海外では医療用大麻の効果を評価して規制を緩める方向に向かいつつある、というのが一般的な理解とされている。一方、国内では検討会を立ち上げて医療用大麻の是非についてだけでなく、「使用」に罰則を設けるかどうかも検討の対象としている。  メディアを通じて反対の声を上げている亀石倫子弁護士が重視しているのは、大麻の使用に被害者がいないことだという。このため、規制薬物の使用を犯罪としてとらえるのではなくて、個人の健康問題、社会の問題と受け止め、どうしたら薬物に過度に依存せず健康を維持し、経済的な問題や家庭の問題などを解決できるかを支援するような方法が必要だと考えている。  亀石弁護士は指摘する。 「犯罪者としてレッテルを貼って社会から排除することのほうが、その人や社会にとってのデメリットが大きい。大麻使用罪創設の議論は、取り締まる側の思惑だけで進めてはいけないと思っています」 ■ルールの設定で「拘束」  評論家の荻上チキさんも、同じ考えだ。どんなデメリットがあるのか。 「長い懲役で社会から遠ざけることによって社会復帰はより困難になり、場合によっては旧来の仲間のところに戻っていく可能性もあります。社会との接点を切らすのではなくて、人為的に接点を作れるような形にすることが大切です」  荻上さんがこう話すのは、特に検挙者のうち再犯した人の割合を示す「再犯者率」に注目してのことだ。昨年1年間に警察が把握した刑法犯は61万4303件(暫定値)で、前年より17.9%減少している。戦後最少を6年連続で更新したといい、犯罪自体は減っているのが現状だ。そんな現状だからこそ、次のように考える。 「再犯者率を下げなければ刑務所などに再入所する数がより下がっていかないという面があります。そのための課題が具体的な包摂ケアだと考えています」  厳罰主義をめぐっては、前出の富永准教授は別の視点からも懸念を抱いているという。厳罰化による若年層の「萎縮」についてだ。富永准教授によれば、内閣府の国際比較調査では、「他人に迷惑をかけなければ何をしようと個人の自由だ」と考える若年層の割合は4割であり、他国の約2分の1にとどまる。 「厳罰主義を強めたときに一番怖いのは、さらにそうした『自粛』傾向が強まり、言動の萎縮につながる効果が発揮されることです。ルールを設定すると、若い人ほど、そのルール以上に自分の振る舞いを拘束しかねないのです」  影響はさまざまにあるだろう。慎重な議論が必要だ。(編集部・小田健司) ※AERA 2021年4月5日号
新型コロナウイルス
AERA 2021/04/03 08:02
広瀬隆「即刻、全原発廃炉しかない」 除染作業が続く現実 #あれから私は
広瀬隆 広瀬隆
広瀬隆「即刻、全原発廃炉しかない」 除染作業が続く現実 #あれから私は
爆発で上部が吹き飛んだ同原発3号機の原子炉建屋=2011年11月 (c)朝日新聞社 『東京に原発を!』など多くの著書を通して40年にわたって原発の危険性を訴えてきた作家・広瀬隆さん(78)は、福島第一原発事故10年に何を思うのか。本誌で連載した「原発破局を阻止せよ!」スペシャル版として、寄稿してもらった。 *  *  *  今年2月13日夜、福島県沖でマグニチュード7.3の大地震が起こって、原発がずらりと並ぶ浜通りで、最強の揺れ震度7とほとんど同じ「震度6強」の揺れとなった。東京でも、揺れがだんだん大きくなり、いつまでも揺れているので、10年前を思い出してこわかった。「相馬市で常磐自動車道に崖崩れが起こり、通行不能」というニュースが出たが、このあたりの人口は10年前の福島原発事故前の4分の1程度に激減しているんだよ。福島原発の至近距離を通る国道6号線が開通したのは2014年9月で、その時、東京の200倍の放射線量なので、自動車の外に出られないどころか車の窓も開けられなかった。今回の地震で崩れたのは、それと並行してやや西側を走る常磐自動車道で、同年12月に開通した時、オートバイは走行禁止だった。意味が分かる? 自動車の中にいれば何とか呼吸してもいいが、オートバイの運転手は危ない。それより原発に近い国道6号にあるJヴィレッジでは、平均的な放射線量の1000倍を超えたが、そこから東京オリンピック聖火リレーをスタートしようとしてきたのだ。  日本には、2021年3月現在、二つの緊急事態宣言が発令中である。コロナの緊急事態宣言は誰にも理解できるが、原子力緊急事態宣言は2011年に発令されてからもうすでに10年たっても、まだ発令中である。なぜかって? 福島第一原発が爆発して、大量に放出された放射性セシウム137は、大地と山中に降り積もり、放射能の半減期が30年なので、30年で半分にしかならない。セシウムの放射能が安全な1000分の1まで減るのに計算すると300年かかるんだ。今の科学では自然消滅を待つしかない。300年前というのは、江戸時代の第八代将軍・徳川吉宗の治世だ。このセシウムは永遠にゼロにならない。福島原発事故からもう10年もたったんじゃなくて、まだ10年しかたっていないから、緊急事態が続いているのだ。セシウムだけでなく、半減期28年以上のストロンチウム90も、どこにも消えないから、グルグルと日本の国内をまわっている。事故で避難した人にとって、放射能というのは背中に貼り付いたようにおそろしい言葉だという。福島県の住民は、震災の時にガソリンがなくて、放射能から逃れられなくなる恐怖を味わったから、いまだに自動車のガソリンを満タンの半分以下にできない。今も第一原発から出続け、漏れている放射能をおそれているのは、当然のことだ。  東京都+神奈川県+埼玉県+千葉県を首都圏と呼んでいるが、この1都3県をちょうど合計した面積が福島県で、福島県は、東京都の6.3倍だ。この広大な地域のかなりの部分が、放射能に汚染されて住めなくなり、住民は遠くに追い立てられ、戻れなくなった。日本がどれほど長い歴史をもっていても、こんなことは初めての出来事だ。言い換えると、農業県の福島県から、大量の食べ物を送ってもらって生きてきたのが、食料自給率1%、ほとんどゼロの東京都だった。そもそもオリンピックを、なぜ日本で開催するのかね。  10年前に自衛隊がフル装備で装甲車に乗ってきたのを見て驚愕(きょうがく)して逃げた人たちの自宅は、この10年の間に、野生のイノシシや猿やハクビシンや、泥棒の侵入によって、原野のように日々ますます荒れ果てていった。恋しい自宅を何度か訪れるうち、「こりゃダメだ」と感じて、最後は更地にするしか手がなかった。家も解体されて、更地になった。原発事故のために、帰る場所がなくなったのだ。  福島第一原発がある大熊町と双葉町で、避難指示が解除され、「3000億円もかけて除染したから、自宅に帰って下さい」という地域でも、若い人は放射能の寿命を知っているので戻らない。帰る人は数少なく、高齢者ばかりで、一番多いのは70代で、その中でも車の運転のできる人だけだ。除染したと言っても、里山は手つかずだから、よく言われるのは「除染したが、再び線量が上がってきた」という話だ。2019年10月の19号台風で福島県は大被害にあった。川は氾濫(はんらん)して決壊し、高濃度に汚染された山林の土砂が崩れて、道路へ、農地へ、住宅へと流れ出した。「安全です」と言ってくれるが、その後、何年過ぎても除染作業が続いている。放射能を取り除いたはずなのに、変だと思わない? コロナと同じかね。いや、コロナはいつか終息するけれど、放射能は永遠に消えないんだ。病院もないところへ若い娘や息子に戻ってこいと言えるかね。  避難者は10年前に、車を降りた時「ここで息していいの?」と言い合って、平均で6~7回も避難場所を転々としてきたので、精神状態は極限に追い込まれてきた。多くの高齢者は避難中に半身麻痺(まひ)になって歩けなくなり、時には死にたいと思うこともあり、自ら命を絶つ事件が続発する。この人たちが生きてきたことが不思議なくらいだ。1年前の2020年3月、警察庁がまとめた東日本大震災の死者は1万5899人・行方不明2529人だったが、思い返すと、まだ助けられた津波被害者を、放射能のために後ろ髪をひかれる思いで残してきたことは、悔やんでも悔やみ切れない、と言っている。震災関連死(昨年12月25日発表値)は岩手469人/宮城929人/福島2313人で福島が断トツだ。震災関連死というよりも明らかに原発関連死である。実際は3000人を超えている。地震津波だけではなく、原発事故が起こったからこうなった。  福島第一原発の汚染水はどんどん増え続けるので、国は海に流すことだけを考えているが、この汚染水の主成分トリチウムは、セシウムの放射能より質が悪くて、遺伝子の水素を消してゆくから、おそろしいことに、子供に伝える親の遺伝子DNAがバラバラになって、子供たちに重大な障害を起こす。それを風評被害と呼ぶのは科学的に間違いだ。  汚染土を公共事業で再利用する計画を目論(もくろ)んでいるのが環境省だ。安倍晋三内閣以来、菅義偉内閣でも環境大臣は小泉進次郎で、この男が全国へ放射性物質をバラまくのだ。全国の道路や防潮堤などの建設資材として再利用しようとしている。  われわれ日本人は内心で、いつまた同様の巨大事故が起きるかもしれないという、大きな不安を抱いている。何しろ2016年4月の熊本地震で最強の震度7を観測し、2018年の北海道胆振(いぶり)東部地震でも最強の震度7を観測し、日本列島の全原発と六ケ所再処理工場、東海再処理工場が、放射能のかたまりである行き場のない大量の使用済み核燃料を、不安定なプールに抱えているからだ。いつどこで大地震による大事故が起こってもおかしくない。なぜ、即刻、全原発を廃炉にして、完全な対策を講じないのだ。この愚かな国民は、いつまでこのような政治家を信頼して命を預けているのだ。愚かと言われたくなければ、頭を使えよ! ※週刊朝日  2021年3月19日号
東日本大震災
週刊朝日 2021/03/11 08:02
吉川元農水相、鶏卵汚職はなぜ起きた? 背景に「票を出すのが無理だからお金」の構図も
吉川元農水相、鶏卵汚職はなぜ起きた? 背景に「票を出すのが無理だからお金」の構図も
秋田善祺・アキタ代表(左)から要望書を受け取る吉川貴盛・農水相(中央)。右は西川公也・内閣官房参与(肩書はいずれも当時)/2018年11月12日、農水省・大臣室(西川氏のブログから) 3例目の鳥インフルエンザウイルス感染が確認され、殺処分が進められる養鶏場/2020年11月11日、香川県三豊市 AERA 2021年3月8日号より  吉川貴盛元農林水産相が鶏卵生産大手から500万円を受け取ったとされる汚職事件。背景には鶏卵業界の「焦り」と、農家の減少による地位低下に苦悩する農水省と農水族の「癒着」があった。AERA 2021年3月8日号から。 *  *  * 「農業自体が衰退していて、農家戸数も、農業生産額も減っています。農林水産省も、昔のように黙っていても財務省が予算を付けてくれる状況ではなくなったんですね。農水族にしがみついて、その力を借りて予算を獲得せざるを得なくなり、今回の事件が起こったのでしょう」  元農水官僚で、現在はキヤノングローバル戦略研究所研究主幹の山下一仁さん(66)は、アキタフーズ事件の背景の一つをこう解説する。秋田善祺前代表=贈賄罪で在宅起訴=は吉川貴盛元農水相=収賄罪で在宅起訴=に、アニマルウェルフェア(動物福祉=AW)の国際基準案への反対や、卵の生産調整制度(鶏卵生産者経営安定対策事業)の拡充を要望したとされ、いずれも実現している。それにしても、なぜ鶏卵なのか。 ■派手でも政治力乏しく 「農業の中で、規模拡大が割と順調に進んだ畜産だけは、生産現場が比較的元気です。そのため、畜産業を支持母体とする政治家が、農水族の中でも重きを占めるようになっていきました」(山下さん)  鶏卵の産出額は4848億円(2018年、農水省調べ)で、これは農業産出額の5.4パーセントに過ぎない。山下さんは1990年前後に農水省畜産局(現・畜産部)に所属したが、当時から「畜産部の中での鶏卵の重要度はそんなに高くなかった。酪農、肉用牛、ブタと続いてその下に鶏卵やブロイラー(肉鶏)がくるイメージ」という。これには理由がある。鶏卵は産出額が小さい上に、事業者数が他と比べて圧倒的に少ないのだ。  62年に380万戸以上だった事業者は、2015年には4181まで減った(畜産統計及び農林業センサスから)。実に約900分の1である。反対に、1戸当たりの羽数の平均は6万6900羽に拡大。しかも10万羽以上を飼う事業者は全体の17.1パーセントなのに、そうした事業者が飼育する羽数は76パーセントを占める。大規模化が進む畜産の中でも、鶏卵は特に巨大化し、工場と見まごうような養鶏場も珍しくない。  そのような鶏卵業界の中でも、アキタフーズは最大手のイセ食品(埼玉県鴻巣市)と並び、業界の2大巨頭だ。グループで700万羽を飼育し、売り上げは700億円近い。ちなみに、イセ食品代表は、ピカソをはじめとする世界の美術品の収集で知られる。アキタフーズは日本最大級の高級クルーザーを所有し、これで、吉川氏や西川公也元農水相、元農水次官らを接待したとされる。鶏卵大手は、他の農業分野に比べ、振る舞いが極めて派手だと見られている。  業界にも泣きどころはあった。政治力のなさである。それを補おうと今回の汚職事件につながったと、山下さんは見る。 「コメとか酪農、肉用牛とかブタだったら、ある意味、オールジャパンで政策を決める仕組みになっています。JAグループの全中などが、自民党の農林部会や農水省と掛け合って要求を通すスタイルが多く、今回の事件のように特定の政治家に金を渡せばいいという話じゃない。政治家に自分たちの要求を代弁してもらった場合、その見返りは何かというと、選挙の票です」(山下さん) ■自社ファーストの歴史  しかし、事業者数の少ない鶏卵業界が北海道2区選出の吉川氏に、票で恩を返すのは現実的ではない。山下さんは「票を出すのが無理だから、お金を出すしかないという構図だと思います」と言う。  ある鶏卵業者は「特に大手が協調せず、業界としてまとまらない」とこぼす。これは、大規模業者が業界全体の利益より「自社ファースト」で突き進んできた歴史が影響している。鶏卵業界では74年から、国による生産調整が本格的に始まった。60年代にケージを使った多数羽の飼育が可能になり、養鶏農家の規模拡大や、企業化した鶏卵業者の参入で、供給過剰に陥ったためだ。  中小業者は生産調整に協力したのに、規模拡大に意欲を見せる業者は、羽数を増やすところが少なくなかった。その結果、数十万、数百万羽を飼育する大規模業者が出現し、中小はコスト面で太刀打ちできなくなり、廃業が続いている。熾烈(しれつ)な競争の結果、規模拡大を続けて巨大化した大規模業者と、安い卵価にあえぐ中小業者の構図ができた。 ■力のある前代表に頼る  秋田前代表が2019年に特別顧問に就任した業界団体「日本養鶏協会」(東京都)の問題点を指摘するのは、北海道大学大学院農学研究院研究員で僧侶の大森隆さん(74)だ。同会は、養鶏経営の安定や養鶏産業の健全な発展に寄与することを目的に、国の委託で生産調整を担い、需給や価格の安定化、流通の改善などを図っているという。しかし、期待される役割の大きさに実態が追いついていないと大森さんは言う。 「私の見る限り、役員に大手ではない、あまり力のない人たちが就いて運営しています。これでは業界団体として弱体です。会員からも、大規模業者の意見集約ができていないなどと批判の声も上がっています」  そうした中、日本養鶏協会は2019年6月の定時総会で、秋田前代表に特別顧問に就くことを要請。業界紙「鶏鳴新聞」の同年7月5日付の記事によると、総会の出席者から「直面するAW基準と、経営安定対策事業を中心とする低卵価対策の実現に向け有力者の力を借りることも必要ではないか」「アキタフーズの秋田社長(当時)に特別顧問を引き受けてもらって指導いただけたらと思う」などの意見が出たという。  協会の懸案には、いずれも後に、秋田前代表が吉川氏に要望したとされるAWへの対応や鶏卵生産者経営安定対策事業の新たな制度設計があったことが分かる。なお、特別顧問の職掌について、同会事務局は「会長の諮問に応じるだけの立場で、その他何ら活動する立場にない」と断言する。  大森さんは鶏卵業界と事件の関係についてこう指摘する。 「鶏卵業界として、政治家に金を渡すことを望んだわけではなかったはずです。ただ、個人的に力のある人を担ぎ上げて、課題に対処しようとする日本養鶏協会の土壌そのものにも、問題はあった。また担ぎ上げられた人が、協会の特別顧問の肩書を逸脱する行動をして、事件を招く結果になったのでは」  定時総会には、秋田前代表が現金を渡したと供述しているという西川元農相(当時は内閣官房参与)や高級料亭での会食に招かれた農水省幹部ら(2月25日に減給などの処分)が来賓として参加していた。 ■鳥インフルの被害拡大  一方、卵価をみると、1955年にキロ当たり205円だったが、2017年も207円と、ほとんど変わっていない。 「物価の変動を勘案して実質化すると、今の卵価は70年のおよそ半額に過ぎません。鶏卵の原価の大半を占める飼料とニワトリの償却費から換算しても、とんでもなく安いのです。大手は、規模で中小を凌駕(りょうが)して、コストを下げるわけですが、資金を借りて規模を拡大し、その返済のために売り上げを大きくしようと、さらに規模を拡大する……という行き過ぎた過当競争にあります」(大森さん)  規模拡大の弊害の一つがこの冬、意外な形であらわになった。過去最大の被害を更新している高病原性鳥インフルエンザだ。2月15日時点で、17県で50事例が発生し、975万羽が殺処分になった。1羽でも発病すると、農場内のすべてのニワトリを殺処分するため、大規模な養鶏場ほど被害が大きくなる。1農場当たりの殺処分数は増える傾向にあり、116万羽を処分した養鶏場もあった。 「卵を工業製品と同じように考えるべきではなく、動物が産む以上、動物個体の病気もあるということを前提に、安心、安全で持続可能な生産を考えなければ」  大森さんはこう警鐘を鳴らす。安価で栄養価が高い鶏卵を消費者は手頃な食品として歓迎しているが、その裏側にある鶏卵業者を取り囲む状況は厳しいのが現実だ。(ジャーナリスト・山口亮子) ※AERA 2021年3月8日号
AERA 2021/03/02 08:02
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