肺塞栓(そくせん)症だ。命にかかわる循環器疾患の中では、心筋梗塞症、大動脈解離と並び、「3大疾患」とも言われる。

 長時間にわたって同じ姿勢でいると、静脈に血液の塊(血栓)ができ、これが肺動脈に運ばれて血管を詰まらせる。胸痛や呼吸困難を引き起こし、死亡例もある。別名は「エコノミークラス症候群」で、聞き覚えがあるだろう。

 とくに危険なのは災害時だ。西日本の豪雨でも、避難所や車中で寝泊まりする人たちに対し、医療関係者が注意を呼びかけていた。寝返りもできないような狭いところでじっとしていると、血栓ができやすくなる。トイレなどで立ち上がった拍子に血栓が血流に乗って運ばれ、血管が詰まることがあるという。

 実際、東日本大震災や地震では多くの人が車中泊を強いられ、死者も出た。

「とりわけ高齢者が危険」(岩井所長)

「夏場はリスク大。適度に水分を補給しないと、脱水症状で血栓ができやすくなる。気温が高いと静脈壁が柔らかくなり、足に血液がたまりやすくなる」(阿保院長)

 美容の観点も含め、多くの人が気にする「むくみ」にも触れておこう。これも“敵”は重力だが、血液でなく、リンパ液が要因になるケースが多いようだ。

 岩井所長は言う。

「むくみは静脈のすぐ脇を流れるリンパ管に関係していることもある。リンパ液も重力に逆らって上へ運ばれるが、むくんでいる人の何人かはリンパ液の流れが悪い。従って、リンパ浮腫(ふしゅ)や深部静脈血栓症という病気に注意が必要だったり、心臓、肝臓、腎臓の働きが悪かったりする場合もある。軽視せずに診断を受けたほうがいいです」

 下肢静脈瘤、肺塞栓症、むくみへの対策はある。

 昔の日本では脚絆(きゃくはん)を、欧州ではゲートルをふくらはぎに巻いていた。足を圧迫することで静脈の血流を改善し、下肢静脈瘤や肺塞栓症などを防ぐ効果があった。現代の代用品としては、医療用の弾性ストッキング(ハイソックス)がある。

 もっと手軽なのが、少しでも足を動かすことだ。かかとやつま先をちょっと動かすだけでも効果はある。車中泊をせざるを得ないときは、数時間ごとに起きて歩いたり、ふくらはぎをマッサージしたりしよう。

 ふくらはぎを含め、足腰を鍛えないと、歩くのが億劫になり、寝たきり→認知症という危険性も高まるのだ。(本誌・岩下明日香)

【下肢静脈瘤の危険度チェック】
□仕事などで、長時間立ち続けることが多い
□足がむくむ、ときどきかゆい
□こむら返りがよく起こる
□近親者に下肢静脈瘤になった人がいる
□妊娠・出産を何度か経験している

※岩井武尚著『下肢静脈瘤・むくみは自分で治せる!』から作成

週刊朝日 2018年8月3日号