東京都は2024年、女性活躍やDE&I推進を目的とする「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」事業を発足した。2024年1月には、女性活躍・女性登用に向けた経営者の意識や職場の文化の変革を促すため「東京女性未来フォーラム」を開催し、女性活躍・ダイバーシティ経営の推進に向けた共同宣言を行った。「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」は、この宣言を実行し、女性活躍やダイバーシティ経営を推し進める企業のネットワークである。「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」では、変化の激しい時代に活躍していく女性リーダーを育成する、2クール(1クール各4回)の「女性リーダー育成プログラム」や、企業同士のネットワークを広げて自社の課題解決を共創する、全8回の「企業交流会プログラム」等を実施している。
DE&I(Diversity, Equity and Inclusion 多様性・公平性・包摂性)とは、これまで社会のグローバル化に応じて多くの企業が推進してきたD&I(Diversity & Inclusion 多様性・包摂性)が発展した理念。グローバル人材マネジメントが事業ライフサイクルを左右する現代、人材育成の過渡期を経験するビジネスリーダーが、長期的な取組としてスタートを切るべき課題だ。
従来、多様性や包含性を示すD&Iに平等という理念は組み込まれているが、DE&Iは、これに「公平性・公正性(Equity)」が加わっている。同じ環境や機会が与えられる平等だけでなく、ジェンダー、人種、セクシュアリティ、障がいなど、個々の特性による偏りや構造的な差別を排除し、スタート地点での公平性を担保するという。
こうした潮流の背景には、経済の持続的成長に向けて多様な人材の活躍がますます必要になった時代へ突入したことが挙げられる。グローバル化が進み、技術革新が加速し、価値観や社会的期待が多様化するなかで、VUCA(予測が困難で複雑な状態)という言葉に象徴される通り、未来の不確実性が増してきた。このような環境のなか、企業が経営を持続可能にし、競争力を高めていくためには、イノベーションを生み出すことが不可欠となり、多様な視点を取り入れることで、新たなアイデアやソリューションを生み、その成長をより加速していく必要に迫られている。このため、DE&Iは単なる社会的責任にとどまらず、世界各国で企業の経営戦略としても重要視されるようになってきている。
この潮流は、日本企業にとっても、当然のことながら強い関心を生み出している。DE&I推進において、特に日本では、女性活躍推進に焦点が当てられる傾向があり、近年女性の活躍状況や課題考察に着目して取組を進める動きが活発化している。
一方で、日本企業における女性活躍推進は、依然として課題が多い。まず、企業文化に根強く残る性別役割分担や固定観念が女性のキャリアアップを妨げており、制度的な整備は進んでいるものの、現場レベルでの実践が十分に伴っていない企業も多いのが実態だ。さらに、柔軟な働き方を支援する制度は存在するが、経営層や管理職層の理解や意識の低さが影響し、その活用を妨げることもある。加えて、女性自身にもキャリア形成に対する意識改革が求められており、全体的な取組効果を高めるためには、これらの障壁を取り除いていく必要があるといえるだろう。
DE&I先駆者と専門家のノウハウで自社独自の取組を見つける
東京都主催の「東京女性リーダーズ応援ネットワーク」による「企業交流会プログラム」は、このような課題を持つ企業で「DE&Iを始めたいが、始め方が分からない」「取り組むなら確実に実らせたい」というビジネスリーダーにおすすめだ。DE&I推進企業を対象に、次回(2月5日水曜)で第7回となる当プログラムでは、女性活躍推進コンサルタントによるDE&Iのトレンド解説や施策づくりのレクチャー、DE&Iを実現するためのメソッドはもちろん、これからのビジネスリーダーに必要なマインドセットも学べる。
過去の開催では、『女性活躍から始める多様な人材を活かす経営』(第2回)、『人事から全社を巻き込み、動かすDE&I推進』(第5回)などのテーマをもとに、実際に企業内でDE&Iを進めるロールモデルの講話や、専門家による多角的な切り口のレクチャーが行われた。参加者同士が業種や職種の垣根を越えて課題や悩みを共有し意見交換を行う、企業間ネットワークによる共創の場であることも魅力だ。
「自社のフェーズを可視化できた」「課題解決につながる具体的な打ち手を知ることができた」「名刺交換ができ、今後のつながりができた」など、自社のDE&I推進の加速に手応えを感じた参加者も多い。
ゆっくりと、だが確実に企業価値となるDE&I
今やDE&Iは世界的潮流となっているものの、多様化する価値観や、女性のライフステージに対する理解や配慮が求められることから、企業のDE&I推進には長期的なスタンスが必要になる。さまざまな課題を乗り越えるためにも、識者や先駆者のアドバイスを得て、早期に自社に合ったアプローチを検討し始めることが大切だ。前述の「企業交流会プログラム」第5回に登壇した株式会社ルネサンスの人事部 DE&I推進チーム次長、吉羽典子氏は「ルネサンスは、『生きがい創造企業』としてお客様に健康で快適なライフスタイルを提案するとともに、人生100年時代を豊かにする健康のソリューションカンパニーとして、全世代の多様なお客様に寄り添い、元気で快適に暮らせる社会づくりを目指しています。そのためにもDE&Iの推進は重要な経営戦略の一つであり、特に女性起用をはじめとした管理職の多様性を重視しています。DE&Iを推進する企業同士の交流プログラムを通じ、各社の女性社員や推進担当者が互いに学び合い交流を深めることで、誰もが輝ける社会の実現につながることを願っております」と、自社の掲げる理念を語った。
DE&Iの取組は、数値などですぐに成果を可視化することが難しい。また、短期的な取組では、かえって現場の混乱を招く可能性が高い。地道に、諦めないことがDE&Iを推進するうえでの肝だが、その結果、組織全体が「働きやすい」「居心地がいい」と感じる環境に刷新することができれば、従業員エンゲージメントが高まることも期待できる。好評を博している当プログラムは、現在、第7回・第8回開催の参加者を募集している。また関連イベントとして、「東京女性未来フォーラム2025」も1月28日(火)に開催予定だ。このフォーラムでは、DE&I推進を行っている企業トップが登壇し、どのように取組を進め、組織を変革してきたのか、その道のりや今後のビジョンなどを語る。DE&I推進で課題となるものは千差万別であり、時代の潮流に取り残されないためのノウハウは、組織内だけではなかなか発掘することができない。他社における好事例を知ることや、DE&Iに取り組む者同士のリアルな情報交換は、自社の実践に反映しやすいのではないだろうか。
著しい時代の変化があっても、多彩なバックグラウンドや価値観を持つ人ほど、有益なイノベーションが期待できる。DE&Iが根付いた好環境で組織の原動力となる人的資本を育むことができれば、CSRやエシカル経営とともに企業の本質的価値を高められるだろう。
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