不安になって記者は両親(ともに60代)に聞いてみたところ、2人とも「あるよ」と、事もなげに語った。母は出産後の30代、右ふくらはぎの裏側に2~3センチ程度の“ボコボコ”を発見。仕事と育児に追われ、いつ下肢静脈瘤になっていたのかわからないという。父は左ふくらはぎの裏側にあり、やはり「いつできたのかわからない」。痛みはなく、医師には「経過観察」と言われたという。

 このように、下肢静脈瘤では自覚症状がほとんどない。むくみ、かゆみ、こむら返りなど、体がサインを出していても、見逃したり放置されたりしがちだ。

 静脈瘤ができるメカニズムを詳しくみてみよう。

 冒頭に記したように、足の周辺では重力の影響で血液がたまりやすい。ふくらはぎのポンプ機能で血液は静脈を通って上のほうに戻される。そこで大事な働きをしているのが、静脈にある弁だ。

 弁は、血液の逆流を防ぐため「八」の字形をしていて、血液を心臓に戻すときに開く。足を長時間動かさないと筋肉ポンプが働かず、血流が停滞してしまう。さらに重力の影響も重なって弁が壊れると血液が逆流して末端の静脈が壊れ、下肢静脈瘤ができる。

 阿保義久・北青山Dクリニック院長はこう話す。

「足の静脈は筋肉の中にある『深部静脈』と、皮膚の下を走る『表在静脈』の二つに分けられます。立ちっぱなしや運動不足で血流が滞ると、深部静脈に圧力がかかる。特に表在静脈が深部静脈に合流するところにある逆流防止弁に強い圧がかかると、しまいには弁が壊れる。すると深部静脈の血液が表在静脈に逆流して末端の静脈にたまっていき、その静脈が蛇行したり膨れたりして静脈瘤になるのです」

 足の付け根とひざの裏は弁が壊れやすく、下肢静脈瘤ができやすいという。弁が壊れる時点ではほとんど痛みを伴わないが、放置して悪化すると怖い。

 岩井、阿保両氏によれば、放置すると、次のように症状が進むことがある。

 【1】色素沈着──くるぶし付近の内側から肌の色が黒くなる。
【2】湿疹やうっ滞性皮膚炎──かゆみを伴う。爪でひっかいた傷に細菌が入ると、ただれ状態になる。
【3】潰瘍──赤くはれて歩けなくなるほどの痛みや発熱を伴う。
【1】【2】であれば、治療も難しくないので、下肢静脈瘤は比較的「良性」の病気とも言われる。だが、【3】になると深刻だ。皮膚がめくれて痛みが延々と続き、日常生活に支障をきたす。「歩行障害を起こし、行動範囲を狭め、生活の質(QOL)を著しく下げる場合もある」(阿保院長)。沈静化はできても、根本的な治療をしないと再発するケースが多いという。

【1】~【3】と違い、突然死のリスクのある病気もある。

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