渡辺豪
10分で届くスーパー「OniGO」が登場 1年後に100店舗を目指す
注文が入ると同時に、ピッカーの端末に商品の情報が表示される(撮影/工藤隆太郎)
注文して10分以内に商品が届く。夢のようなスーパーができた。高齢化やコロナ禍で増える宅配のニーズを、ITを駆使して効率化した。AERA 2021年9月20日号から。
* * *
注文から10分以内に商品を届けるネットスーパーが東京・目黒に誕生した。「即配」を売り物とするこの店は「OniGO(オニゴー)」。「鬼ごっこ」のように楽しく、また「鬼速」で届けるという意味も込めたという。オープン翌日の8月26日、東急東横線の学芸大学駅近くにある1号店を訪ねた。
自動車販売店が軒を連ねる目黒通り沿い。外車のショールームだった建物に店があった。といっても、お客が入れるわけではない。商品棚や冷蔵・冷凍庫が並ぶ物流センターなのだ。約130平方メートルの広さに、生鮮食品やお菓子、ドリンクのほか、洗剤やオムツなどの日用品も含め約1千種が並ぶ。
お客は専用アプリを使って商品を注文する。決済もスマホで行い、商品代のほかに宅配料金が300円かかる。“店内”には、パソコンで注文や配送状況をチェックする人や、「ピッカー」と呼ばれる商品の収集・梱包(こんぽう)担当、配達を担うライダーら10人足らずのスタッフが、注文に備えて待機している。
棚で注文品を見つけたら、小型の読み取り機でスキャン。間違えたらエラーが出る仕組みだ(撮影/工藤隆太郎)
■秒単位で作業を管理
筆者が訪ねたのは昼下がり。直前に注文が入り、店内には張り詰めた空気が流れていた。店に入ると、すれ違いざまにライダーの男性が電動アシスト自転車で軽やかに店を後にした。注文からほんの数分の早業だ。
一連の流れは秒単位で管理されている。パソコンの記録を見せてもらうと、お客が「11時55分57秒」に注文ボタンを押した。それと同時に店内のブザーが鳴り、ピッカーが腕に装着した端末に、商品の画像と、棚の番号が表示される。
今回の注文は「調整豆乳とカフェボトルコーヒー」。ピッカーが商品を集めて梱包するまで1分足らず。担当の女性は「商品が多い場合でも2~3分以内の梱包を目標にしています」と説明する。
OniGOの商圏は店から1~2キロ。ライダーが商品を受け取ると、電動アシスト自転車に乗って注文先に届ける(撮影/工藤隆太郎)
■商圏は半径1~2キロ
お客が初回登録と決済を終えたのは「12時8分25秒」。それと同時に、ライダーが配達に出る。お客のアプリには、ライダーの名前と、「今から商品をお届けします」というチャットのメッセージが流れる。
配達先は店から約1キロ離れたマンション。ライダーが玄関前に到着すると店に通知する。時刻は「午後12時15分47秒」。支払い手続きの完了から到着まで7分強。10分以内でミッション完了というわけだ。
この日の都心は最高気温36度の猛暑だった。だが、配達から戻った男性は額に汗も浮かばせず、「戻りました」と元気な声を店内に響かせた。
「即配」のカバー範囲は店から半径1~2キロ。10分以内に自転車で配達できるエリアを実際の交通状況に応じて設定した。1号店の販売対象は約5万世帯。世帯年収が比較的高く、子育て中の家庭が主なターゲットだ。坂道が少ないことも適地と判断する理由の一つになった。
OniGOの最高経営責任者(CEO)を務める梅下直也さん(44)は「これだけ狭いエリアに住宅が密集している街は世界でも稀有(けう)です。首都圏は商圏として優位性があると見込んでいます」と自信を見せる。
OniGOのビジネスモデルは「ダークストア」といい、お客を店に入れないことから「表に見えない店」という意味がある。コロナ禍の欧米や中国で急速に広まりつつある新業態だ。OniGOは、商品のピックアップや在庫管理、注文や配達のシステムをすべて自社で開発した。梅下さんは言う。
「コロナ禍以降、フードデリバリーが一般化し、ネットスーパーの市場が拡大している今は食品通販の潮目と考えています」
シンクタンク「矢野経済研究所」の調べでは、2020年度の食品通販の市場規模は4兆円超の見通し。OniGOは、とりわけ即配ビジネスが急速に伸びるとみており、25年には2兆円規模に膨らむと予測する。「国内初の即配ビジネスの専業事業者として、リーディング会社になることを目指しています」(梅下さん)
梅下直也(うめした・なおや)/1977年、横浜市生まれ。東京大学経済学部卒。2002年、三井住友銀行に入り、その後独立。21年にOniGO創業(撮影/工藤隆太郎)
仕事や家事、介護など多忙な生活を送る人や、スーパーから重い荷物を持って帰るのを負担に感じる高齢者たちにとって、宅配のニーズは高い。すでに宅配に取り組んでいるスーパーもあるが、配達時間が2~3時間の幅で設定されていることが多く、不便を感じる人もいる。ほしい時に、必要な分だけ食品を受け取れるようになれば、買いだめせずに済み、家庭の食品ロスも発生しにくくなる。
■1年後に100店展開
OniGOは年内に、1号店の近隣に25店を出す計画だ。1年後には100店の展開を目指す。店舗ごとの商圏が狭いため、地域密着型で顧客のニーズに細かく対応していく。1号店では、地元の米穀店から仕入れたお米や、「ミシュランシェフ」が手掛ける低糖質の冷凍弁当も販売している。
これまでに「食後にアイスクリームが食べたい」「夜食にラーメンが食べたくなった」という理由で注文した人や、自宅のパーティー中にドリンクやつまみを発注した人もいた。
開業してまだわずかだが、「すごい、本当に10分で届いた」「ママ友に紹介する」といった声も寄せられている。梅下さんは「大事なのは、リピーターを増やすこと」と強調する。
「一度利用した人に満足してもらい、また使いたいと思っていただけるかが、このビジネスの一番大事な肝だと思っています。地域のお客様に向き合い、受け入れられるサービスを、日本全体に提供できるようになりたいです」
OniGOは年中無休、営業時間は午前10時~午後10時。配達圏外の場合でも、アプリに住所とメールアドレスを入力しておけば、圏内に店がオープンした時に通知してもらえる。(編集部・渡辺豪)※AERA 2021年9月20日号
AERA
2021/09/16 11:00