上田耕司
りゅうちぇるが「怒りを感じた」保育所が入る吉祥寺のコロナ療養施設がひっそり開設【現地ルポ】
タレントのりゅうちぇる(C)朝日新聞社
タレントのりゅうちぇる(25)がTBS系「サンデージャポン」(7月4日放送)で、ホテルの中に保育所があるのに、東京都がコロナ療養施設に指定したことについて、「怒りを感じた」と疑問を投げかけ、SNS上で賛否両論が沸き上がった。
その舞台となった東京都武蔵野市にある吉祥寺東急REIホテル―ー。東京都が全室234部屋を丸ごと借り上げ、新型コロナウイルス陽性者を受け入れる施設として7月15日、ひっそりと開設していた。記者が現地でルポした。
りゅうちぇるは番組内で同ホテルを取材し、「陽性者の方の施設は作らなきゃいけないと思うんですけど、施設をなぜ、わざわざ保育所の入っているところに設けたのか、怒りを感じました。しっかり説明すべき」などと発言。当日に記者が訪ねると、ホテルは吉祥寺の駅から徒歩1分の場所にあった。
ホテルの近くには不動産チェーンや進学塾、ショッピングセンターなどがあり、駅前商店街が広がっていた。ホテルの看板はそのままで、一見するとコロナ療養施設とわからない。ただし、ホテル内のエレベーターにはこんなビラが貼ってあった。
「当社は東京都と協議のうえ、2021年7月15日(木)より、吉祥寺東急REIホテルを新型コロナウイルス感染症の軽症者・無症状者の方の宿泊療養施設として提供することとしましたのでお知らせいたします」
ホテルの建物の地下から2階にはテナントがあり、保育所やエステ、ホットヨガ、飲食店などが営業中だった。午後になると、駐車場にホテルの職員や警備員ら数名が立ち、コロナ陽性者を乗せたと思われるワンボックスカーが駐車場から入って、東京都の職員らと建物の中に消えた。都によれば、この日の入所者は15人だった。
「感染者は駐車場から入れるエレベーターを使い、上のホテルの客室まで直行で行く。他のエレべーターは全部、止められています」(ホテルのテナント店員)
2階にある保育所に子どもを預けている30代ママが最近の様子をこう話してくれた。
コロナ療養施設となった吉祥寺東急REIホテル(撮影・上田耕司)
「反対の保護者は多かったです。ここは普通の保育所で0歳から6歳児がいます。保護者からは『コロナ陽性者が勝手に出歩いちゃうのではないか』などの心配の声もありました。全国的にはそういうことが実際にありましたから……」
東京都が保護者のために説明会を開いたが、納得はいかなかったという。
「私も説明会には行きましたが、図面を渡されて、ここはパーテーションを置くなどという簡単な説明でした。私たち保護者の意見を聞いてくれる場ではなくて、決めたことの事後報告でしかなかった。私たちがどんな意見を言っても、変更する気がないと気づき、時間のムダと思いました。ホテルの決め方がよくわからず、何も起こらなければいいなと思います」(同前)
開設を前に反対した保護者の多くは保育所の姉妹店に移ったという。約30名いた子どもは現在、半分の15名くらいに激減しているという。
「『ここがコロナ療養施設でなくなったら、また戻って来たい』と言った保護者もいました。出て行きたくても、子どもの受け入れ先がなくて動けない方もいます」(同前)
保育所の本社に取材したところ、こう回答が寄せられた。
「心配はないわけではないですが、保護者の人それぞれかと思います。これは東京都がお決めになったことなので、会社としてはノーコメントにさせていただきます」(担当者)
東急REIホテルは北海道から沖縄まで全国に約20店舗を展開するホテルチェーン。経営母体である東急ホテルズではこう説明した。
「私どもは、東京都から要請があったので、それにお応えしたということ。建物をお貸ししているだけで、運営は東京都になります。『東急REIホテル』の看板を外したりすると費用がかかるので、外していません」(総務担当者)
ホテルのテナントとして入居している飲食店からも不安の声が上がった。テナントの店主はこう話す。
「この件で東京都の職員とは一度も話をしたことがありませんし、説明会もありません。全てテナント契約先のホテル側と相談しています。ホテルの担当者には、『コロナ患者さんが集まっているビルに食事に行かれますか』と尋ねたこともありました。そうしたら『なるべく行きたがらないだろう』と答えた。ホテルから半年以上、療養施設になると聞いています」
東京都の職員と警備員が見守る駐車場には「閉鎖中」という看板があった(撮影・上田耕司)
コロナ陽性者の入所数と退出数は、各テナントに毎日、メールが来ることになっている。6月には東京都から書類が送られ、建物の見取り図はゾーニングされ、危ない所は『レッドゾーン』、危なくない所は『グリーンゾーン』となっていた。
「うちは6月半ばくらいに『グリーンゾーン』に指定されましたが、そんな指定を受けても不安ですよ。お客さんたちが、このビルにだんだん寄りつかなくなり、敬遠されていくだろうなと思いますね」(店主)
5基あるエレベーターのうち3基が止まったという。
「客室まで行くエレベーターは全部、止められているんですね。バックヤードで従業員が仕事で使っているエレベーターも止められてしまい不便。1階のホテルグループの直営の飲食店は休業しています。でも、私たちは休んだら食べていけない」(同前)
東京都などによると、武蔵野市は慢性的にコロナ療養施設が不足し、市内の軽症患者を他の区市に受け入れてもらっている実態が続いているという。
「誰かが泣かなきゃいけないのはわかるので、ホテル側とも折り合いをつける相談をし、少しだけ家賃を免除してもらいました。ホテル側としては最大の譲歩だったんだろうと思います」(店主)
昨年5月1日、武蔵野市長は三鷹市、小金井市、府中市、狛江市、調布市の市長らと連名で東京都にコロナ療養施設のホテル確保の要望書を提出していた。
武蔵野市はAERAdot.の取材に対し、「これは東京都の事業。あくまで武蔵野市が事業主体ではない」(企画調整課担当者)とした上で、こう続けた。
「武蔵野市として1年前、多摩地域にもコロナ療養施設が必要だという申し出を都にしたというのは事実です。しかし、療養施設を武蔵野市に開設して欲しいという話は申し上げていない。都から今回のホテルの話が来た時、『うちは繁華街ですし、課題が多いのではないか』ということは申し上げました。けれども、やめてくれというような話には当然、なりませんでした」
東京都福祉保健局に保育所があるホテルをコロナ療養施設にした理由などを質問した。
武蔵野市長らが小池百合子東京都知事に宛てた要望書
まず、保育所の保護者から疑問の声が相次いでいる点については、「6月4日の説明会後も、保護者に対して計4回、文書で説明を行うとともに、内覧会も3回実施するなど、丁寧な説明に努めております」
前出のテナント店主が、東京都からの説明が一度もないと話している点については、「ホテル内の話ですので、テナントさんと大家さんの間できちんと話をしていただく。必要があれば都も話をさせていただくというスタンスです」
コロナ陽性となり、ホテルに入所した人たちの行動制限についてはこう説明した。
「入所者の方には、食事の受け取りやゴミ捨て以外は居室で療養いただいており、療養期間中は一切、外出できません。従って、地域のコンビニなどへの買い物もできません」
吉祥寺東急REIホテルをまるごと借り上げる費用については、「公表していません」と答えなかった。
冒頭のりゅうちぇるの発言については、担当者はこう答えた。
「何とも申し上げにくいですが、保育所の入っているところにわざわざ作りたいというワケではございません。しかし、施設の確保が厳しく、どうしても必要になって開設させていただくことになった。借りあげられなければ、始まらないですし、療養施設として適した立地、施設かという部分も出てきます。ホテルは多くあるのですが、療養施設として必要なゾーニングができないところが多く、そうした中でこちらになりました」
そして同番組に7月4日、出演していた元衆院議員の杉村太蔵氏のコメントを引用し、こう続けた。
「杉村さんは『この映像でコロナ差別とか社会の分断を助長しないか。迷惑施設ではない……。施設を今、利用している人はただでさえ、片身の狭い思いをしているのに、どんな思いをするかなと胸が痛い』とコメントし、様々な意見があるものと認識しております」
東京都福祉局によれば、コロナ療養施設は都内に現在14施設あり、計5703室を借り上げているという。
東京都の小池百合子都知事(C)朝日新聞社
しかし、その全ての部屋が使えるわけではなく、看護師が健康管理を行う部屋、夜勤職員が泊まる部屋、防護服などの物資を保管する部屋など一定数、事務局が利用する部屋を用意するため、それらを除いた入室可能な部屋数は現在、2920室。
現状の入所者数は1696人(7月14日現在)であることから、受け入れ可能数の6割強が埋まっている状態で、「十分に余裕があるとはいえる状況ではありません」(東京都福祉局)という。
緊急事態宣言が再発出された東京都で16日、確認された新たな感染者は1271人で、3日連続で1000人を超えた。東京五輪の開幕を1週間後に控え、感染拡大が止まらない中、全国的にワクチン不足に陥り、接種が一部地域で止まっている状況が続く。
AERAdot.(5月9日配信)は、菅政権が都内にある警察用宿舎を37億円かけて改修し、コロナ陽性者を受け入れる施設として使うと発表したものの、完成後に一度も利用することなく放置。今年4月からもとの警察用宿舎に11億円かけて戻し、計48億円の血税が無駄になった顛末をルポした。
ちぐはぐな菅政権のコロナ政策の中、感染者数が再び急増しているが、いつ誰が感染者になってもおかしくない。真に必要な医療体制の確保が求められている。
(AERAdot.編集部 上田耕司)
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2021/07/16 18:20