子どもの中学受験を通して、夫婦が葛藤を抱えるケースが増えている。教育方針を巡ってもめ、子どもが第1志望には入れても、離婚を選ぶ家庭もある(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 2024年度の中学入試本番まで、100日を切った。親も模試の結果に一喜一憂し、ほかの子の親への妬みを抱くなど、自分の知らなかった自分と向き合う中学受験。夫婦の危機があらわになることも少なくない。AERA 2023年11月13日号より。

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 首都圏の中学受験者数は2023年に過去最多の約5万2600人を記録した(首都圏模試センターの推定)。裾野が広がっているだけでなく、最難関を目指すトップ層の競争は毎年レベルアップして過酷さを増している。大手中学受験塾の某講師は「たった数年で3割、下手したら5割も6年生の課題が増えた気がする」と言う。そこにSNSの玉石混交の情報が拍車をかける。

 この過熱した状況では、親にかかる負担やプレッシャーも増している。当然ながら、夫婦間の葛藤も増える。

 特に小6の11月が危ない。それまで一歩引いて見ていた父親でも、いよいよあとがなくなったわが子に対して急にプレッシャーをかけたり、成績が上がらないのを伴走する母親のせいにしたり、志望校選びに口を挟んで混乱させたりする。父親主導の中学受験も増えており、子どもの中学受験にあまりに熱くなる夫の姿を見て幻滅したという母親の声も増えている。

 夫婦関係にひびが入り、最悪の場合は離婚にいたる。いわば「中受離婚」である。

 都内に住む40代の男性、金井さん(仮名)は、息子の中学受験にぴったりと伴走し、第1志望合格という最高の結果で走り終えたあと、家を出た。

「仕事帰りの夜中の2時とかに、コンビニに行って延々と過去問をコピーしました。あの、ピカッて光を何度も浴びてると、本当に心がすさんでくるんですよ。なんであのひとは何もしてくれないんだって」

「あのひと」とは、妻のことである。専業主婦なんだから、過去問のコピーくらい、分担してくれてもいいじゃないかといういら立ちだ。

 小5の11月に、子どもへの態度をめぐって金井さん夫婦は大喧嘩をした。この夜から、夫婦の会話はなくなった。その代わり金井さんは、息子の中学受験にコミットしようと決意する。学習予定を立て、テストの結果はエクセルに入力し、対策を本人に考えさせ、タスク化し、それをまたスケジュールに落とし込む。スケジュール通りにタスクが消化できているかを毎日管理する。できていないときは厳しく叱った。

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