中学受験は年々過熱し、人気の中学受験塾には小3の2月に入ろうと思ってもすでに定員になってしまうため、低学年から入塾する子も少なくない(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 金井さんに意地悪な質問をしてみた。

「夫婦関係を犠牲にしたら第1志望に合格させてやると悪魔に取引をもちかけられたら、どうしますか?」

「すごい質問ですね。でも答えは明確です。息子の第1志望を優先します」

 しかし、こうも付け足す。

「学校生活を楽しんでいる息子の姿を見ているから断言できますが、もし中学受験を始める前に同じ質問をされたら、そこまでして合格させたいとは思わないと答えるかもしれませんね」

 中学受験は、親の未熟な部分をあぶり出す。学歴なんて関係ない、偏差値なんて関係ないと口では言っていた親が、実際には模試の結果に一喜一憂し、場合によっては子どもに暴言を吐くようになる。わが子よりできる子をもつ親を妬(ねた)んだり、他人の不合格を心の底で笑ったりする。自分にこんな一面があったのかと自分自身が驚く。

 未熟な部分が夫婦関係において露呈すると、「中学受験クライシス」に陥る。中学受験がきっかけになって、もともと夫婦の間に隠されていた火薬に引火するのだ。もともとあった火薬が多ければ多いほど、爆発は大きくなる。

 でもこれは成長のチャンスでもある。自分たちの未熟なところをお互いに認めて、それぞれに改善を重ねることができれば、夫婦の絆はむしろ強まる。仮に中学受験クライシスをだましだまし回避しても、長い人生の中では夫婦関係を揺るがすクライシスはいくらでも襲ってきていずれ破綻する。

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