子どもの中学受験勉強のため、親たちはひたすら過去問をコピーする。1年分が数十ページにわたるうえ、本番形式に近いかたちで過去問を解けるよう、原寸大に拡大し、表紙を付けるなど整える(撮影/写真映像部・佐藤創紀)

 このやり方が功を奏し、息子の成績は安定した。面白くないのは妻である。「やれるもんならやってみなさい」というつもりで夫に任せたら、成果が出てしまった。それ以降、中学受験にはノータッチになってしまった。

 息子の勉強を見るためだけに家に帰る日々。中学受験さえなければこんな家にいたくない。金井さんは都心にもアクセスがいいリゾートマンションをネットで検索した。手ごろなものが見つかった。家を出てのんびりと暮らすことを夢見て、ストレスに耐えた。

フルタイム勤務でワンオペ、ストレスが娘への罵倒に

 中学受験で夫婦は破綻した。せめてもの救いは、息子が熱望した学校での生活を最高に満喫していることだ。

 40代の赤堀さん(仮名)はフルタイムのワーキングマザーだ。小学校での吹奏楽の部活と中学受験の両立は、娘本人だけでなく、母親である赤堀さんにとっても過酷だった。仕事も家事も、下の子の面倒もぜんぶワンオペ。そもそも夫は中学受験に否定的だ。

 赤堀さんのストレスはそのまま娘への罵倒として吐き出された。

「やる気がないなら中学受験なんてやめなさい!」

 仲裁に入る夫にも、「あなたは黙っててよ! 中学受験もしたことないくせに!」と食ってかかった。そんなことが続けば続くほど、夫の気持ちがだんだんと遠のいていくのが赤堀さんにもわかっていたが、止められなかった。

 紆余(うよ)曲折ありながらも、なんとか娘は希望の中学に合格した。しかしその直後、赤堀さんは夫から「離れて暮らそう」と告げられる。

 青天の霹靂(へきれき)だった。しかしそうとなったら切り替えは早い。赤堀さんは自分主導で離婚の手続きを進めた。公正証書も整えて、あとは離婚届に判を押してもらうのを待つばかり。しかし夫はいまだ家にいて、判は押さない。赤堀さんは言う。

「だましだましで人生を丸ごと無駄にするよりもいま気づいて良かった。これから人生の新たな局面が始まると思うと将来が楽しみ」

 20代の男性、ソウタさん(仮名)は、自分が中学受験生だった小5の秋に、両親の離婚を経験した。

 中学受験の生活が始まってから、母親はソウタさんを頻繁になじるようになった。見かねた父親が止めに入ったことがある。それから、母親は父親を無視するようになった。食卓には父親の食器だけ出てこない。

「あれー、ママ、なんか忘れてるね。もう、しっかりしてよ~」

 意図的に自分が無視されていることはわかっているが、父親はソウタさんの前ではおどけてみせる。その茶番が毎度くり返された。

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