――研究者になろうと思ったのはいつごろから?
修士までは全然思っていなかったです。科学者の伝記とかを読むと、子どものころに、例えば物理学者だったらラジオを分解して、とか、そういうエピソードがあるじゃないですか。私はまったくないんですよ。テスト勉強はできるけど、研究者として向いているかは全然わからなかった。
だから、修士を終えたら就職かなとも思っていたんですけど、中西先生から修論のテーマとして与えていただいた交通渋滞の数理モデルの研究がたまたまうまくいっちゃって、論文にできた。統計物理の中でも「複雑系」と呼ばれる分野の研究です。そんなに大したことじゃないんですけど、モデルを使って、今までになかった解析をして、面白い結果が出た。やっぱり、これを今考えているのは世界で私だけかもしれないというのはちょっと楽しいな、と思った。
それに、中西先生から博士課程に行く気があったら採りますよって言っていただいて。それで、就職はせずに3年の猶予をもらった感じで、とりあえず行けるところまでは行って、研究者を目指してみようかなと思いました。
――博士課程ではどんな研究を?
粉をやりました。粉体の研究は物理学科でそれなりにやられていたんですよ。車と同じように粉体も渋滞する。つまり、詰まる。数理的には共通するところがあるんですが、もうちょっと本格的なシミュレーションをやることにした。粉となると粒子が何千個とか何万個とかあるので、計算量がものすごく大きくなる。私はそんなにプログラミングが好きではないんですけど、この時代、それができないわけにはいかないよねって、いろいろ工夫して研究しました。
やって良かったなと思うのは、応用が利くんですよ。いま、生物系の研究をずっとやっているんですけど、「細菌なんて成長する粉体だよ」って考えればプログラムを使いまわせるとか。それにシミュレーションというのは数値実験ですから、いろいろな仮定のどこが良くてどこが悪いというのを一つ一つ確かめることができる。そうすると、物理的直観が育つんです。