それまでの物理のイメージって宇宙と素粒子だったんですが、大学に入ってから統計物理を習って、面白いと思いました。たぶん、父が原子核の教員だったので、父からなるべく遠い分野をやりたい(笑)という思いもあって、4年生で統計物理学研究室の中西秀(なかにし・ひいず)先生のところに入りました。
そこにはすっきりした学問体系があった
――統計物理学とは何か、読者に説明してください。
水が氷になるとき、水分子を1個見ていても差はわからないですよね。0℃でも水分子は水分子ですから。でもたくさんいると、お互いのつながりが0℃で劇的に変わって、ちゃぷちゃぷしていたのがいきなり固くなる。そういう、たくさん集まるからこそ出てくる現象を理解するのが統計物理です。
――そのどこが一番面白いと思ったんですか?
何だろう。まず、素粒子の研究はちっちゃくしていってモノを理解しようとするんですが、日々の理解からどんどん離れていくようなところがありますよね。物理学科には、素粒子みたいなのが一番の基本で、それがわかればすべてわかるという雰囲気を持っている人もいるんですけど、それがわかってもどう見ても世界はわからんだろうというのがある。集まってどうなっているかを知るのは、我々のレベルでの世界を理解するっていうことですから、そこがちょっと楽しい。
それから、統計物理を知る前は、日常レベルの現象ってなんか汚そうっていうか、応用寄り、別に応用を馬鹿にするわけじゃないんですけど、そう思っていたんです。ところが、そこには、すっきりした学問体系があった。それは予想しなかったことで、そこも面白かった。