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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

    週刊朝日

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    「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

     今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。  センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。 *  *  * 「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」  東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。  夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。  身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。  具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。  夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。  A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。  誰に迷惑をかけるわけでもない、あくまで二人の間の問題だ。交際期間を含め、誰にも悩みを打ち明けたことはない。性交ができなくても、互いへの愛情に変化があるわけではなく、穏やかな日常を過ごしていた。  ところが、その誰にも言えない悩みが、A子さんが35歳の誕生日を迎えた頃から深刻味を帯びてきた。夫婦ともに「子どもが欲しい」という気持ちが強まっていたからだ。  街で子どもを見かけたら、「かわいいね」「うちも子どもがいたら楽しいだろうね」「私たちは……」という会話に自然となる。A子さんの後に結婚した友人も含め、同年代はベビーラッシュ。  子を持つ友人とランチをすれば「少しでも早く産んだ方が、子育てがラクだよ」、「35歳を過ぎたら妊娠率が下がるらしいから、早めに妊活を始めた方がいいよ」などと、悪気のないアドバイスが向けられる。「早く孫の顔が見たい」という親や親戚からの無邪気な声もプレッシャーだ。  そんな中、A子さんは「私たちは妊娠するステップの“入り口”にも立てていない」と焦りを募らせるようになった。  私たち夫婦のように「性交できない」という同じような悩みを持って妊活している人がいないのか、ネットで探したこともある。妊活のノウハウとして出てくるのは排卵日近辺に性交する「タイミング法」をはじめとした、性交ができる前提の情報ばかり。 「自分たちの状態がいかにマイノリティなのか、思い知らされたような気がした」  というA 子さんは同時に、年齢とともに卵子の老化が進むことや、タイムリミットという壁が存在することも知り、余計に焦りに火がついた。 「子どもが欲しいなら、性交ができるようにならないといけない」  思いが強まる中で、しばらく遠のいていた挑戦から、再チャレンジの日々が始まった。「何とかできるようになりたい」との一心で挑戦を重ねるも、どうしてもうまくいかない。このままだと時間が経つばかりで、自然に子どもを授かることは難しいままだ。  藁をもすがる思いで門を叩いたのが、不妊治療を行うクリニックだった。不妊治療を専門とするクリニックに、性交を一度もしたことがない夫婦が行くハードルも「相当なものだった」(A子さん)が、ネットの口コミで「些細なことにも耳を傾けてくれる先生」とあったのが背中を押した。  3年間の交際期間、6年間の夫婦生活の中で、一度も性交が実現していないこと。自分たちなりに試行錯誤を続けているが、どうしてもうまくいかないこと。妊娠を希望するようになって、今の状況に強い焦りを感じていること……。相手はいくら医師と言えども、初対面の他人に話すには、とても勇気がいる内容だった。  医師はゆっくりうなずきながら、顔色ひとつ変えずに話を聞いていた。その後、医師から発せられた言葉は意外なものだった。 「珍しいことではありません。今、そういう方がとても多いんですよ」  医師が言うには、同じように性交ができないという悩みを抱えて相談に訪れる夫婦は決して少なくないという。主に女性側の問題である「挿入障害」や、男性側の問題である「勃起障害」や「射精障害」、さらに性的な興奮が起きないなど、いわば性反応がうまく起こらない状態を総称して「性機能障害」と呼ばれることを知った。  A子さんの場合には、典型的な挿入障害にあたり、少しずつ慣らしていくことで改善されるケースも少なくないという。 「ただ年齢を考えると、あまり悠長なことを言っていられないのも事実です。性交渉の代わりになる手段を並行して試すことから始めましょう」  医師から提案されたのが、採取した精液を、針のない注射器=シリンジを使って膣に注入する「シリンジ法」と呼ばれる方法だ。Amazonなどの通販サイトなどでも手軽に入手することができ、ここ数年で妊活に使用するカップルが増えている。  タイミング法と同じく、排卵日近辺に行うことで、性交渉と同程度の確率で妊娠が期待できるという。使用するシリンジを見ると、膣内に入る部分は柔らかなゴム製で、太さは女性の指より細い程度。A子さんも「これなら、私でも大丈夫かもしれない」と思えた。実際、シリンジは問題なく挿入することができたことから、シリンジを用いたタイミング法に挑戦し始めている。A子さんは言う。 「いつまでも挿入ができない私は“異常”なのだと落ち込んでいましたが、先生の言葉で救われた。シリンジ法でネット検索すると、たくさんのカップルが活用している方法のようで、必ずしも性交しなくても妊娠の手段はあることに、まずは一安心。どうかこの方法で妊娠してほしいと願っています」(A子さん)  複数の医師によれば、性機能障害を持つカップルに共通するのは、性交はうまくいかずとも夫婦仲が良いこと。妊娠したいという希望を機に、医療機関を受診するケースが多い。不妊治療の浸透によって、不妊相談が一般的になってきた中で、「性交ができない」という悩みが表面化しやすくなったこともある。不妊外来で患者と向き合う千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)も言う。 「今の時代、“性交と妊活は別物”と考えた方がうまくいきやすいかもしれません」  晩婚化や女性の社会進出、共働き、現代の生活習慣、デジタルの普及……「性交ができない」妊活の背景には、さまざまな問題が絡み合っているようだ。こうした中で、「子どもは自然に授かるべきもの」と思い込み過ぎると、時に自分たちを追い詰めてしまうことにもなるかもしれない。  A子さんが受診した医師が「珍しいことではない」と言うように、性交を試みてもできない夫婦は少なくない。後編では、性交をパスして妊活に進む「セックスレス妊活」の葛藤や悩みについて。(松岡かすみ) 後編も読む→【年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは】

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    「五輪汚職」アスリートはなぜ沈黙? 元ラグビー日本代表が指摘する「当事者意識の欠如」のワケ

     五輪汚職事件が明るみに出る中、選手やスポーツ界は沈黙を貫いている。元ラグビー日本代表で、神戸親和女子大学教授の平尾剛氏は諸問題の原因は選手にもあると言う。「五輪汚職」を特集したAERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  * ──コロナ禍での開催の是非をめぐって世論が二分する中、無観客で強行開催された東京五輪・パラリンピック。開催前にも、メインスタジアムの国立競技場建設計画が巨額費用の問題視により白紙撤回され、公式エンブレムは盗用疑惑で使用中止に。さらに大会組織委員会の会長だった森喜朗氏が自身の女性蔑視発言の責任をとって辞任するなどさまざまな問題が噴出した。そして開催から1年たったいま、汚職事件が次々と発覚し、五輪への不信感が再び高まっている。  元ラグビー日本代表で神戸親和女子大学教授の平尾剛さん(47)は、五輪をめぐる諸問題の原因は選手にもあると指摘する。 平尾:新型コロナウイルスによる開催延期や森喜朗氏の会長辞任など、昨夏の東京五輪は開催前からさまざまな問題が指摘されていました。あれから1年以上がたち、贈賄問題まで発覚。関係者の逮捕が相次いでいます。 ■見過ごしてきた結果  なぜ、五輪の闇がここまで肥大化してしまったのか。アスリートや指導者など、スポーツ界全体が「おかしさ」を見過ごしてきた結果だと思っています。  僕自身も含めて、内部から適切な批判ができなかったから、どこから手を付けていいかわからないほど問題が大きくなってしまった。ここでしっかり膿(うみ)を出し切らないといけません。 ──不祥事に批判が集まる一方で、当事者であるアスリートの声はほとんど聞こえてこなかった。なぜ、選手は自分の言葉で語らないのか。 平尾:新幼い頃から競技に打ち込んできたアスリートたちは、社会から隔絶された存在です。一つのことに打ち込むことが美徳とされ、生活のなかでスポーツが占める割合も圧倒的に多い。当然、周囲も関係者ばかりになり、そこで純粋培養されてしまうんです。  そうして、アスリートの多くは、異論を唱えるよりも、置かれた環境でベストを尽くすという思考に染まる。酷暑であっても最大限の準備をしてパフォーマンスを発揮すべく努力するし、「暑い」と指摘するのは意見ではなく言い訳で、“負け犬の遠吠え”だと考えている。この価値観が発言を思い留まらせていると思います。  思春期になれば、競技だけでいいのかと人生に悩む場面もあります。でも、「体育会」と呼ばれる過度な上下関係のなかでは違和感を言葉にする機会はほとんどありません。「勝ってから考えるべきだ」「ごちゃごちゃ言わずにやれ」という空気があるし、実際にそういったことを言う指導者もいます。  一心不乱に練習することが結果に結びつく側面はもちろんあります。ただこれは、裏を返せば自分で考えることを放棄しているのに等しい。それに、社会で起きている問題を考えるには、その背景や事情、また歴史を知っておく必要があります。でも、多くのアスリートは学業より練習を優先して上り詰めてきた。だから競技以外に自信が持てず、「自分は無知だ」と自己肯定感が低かったりする。 ■旧態依然の男性社会 ──一方、世界のアスリートはどうか。東京五輪では、テニス世界ランキング男子1位(当時)のノバク・ジョコビッチ選手らが酷暑を指摘し、試合時間変更を要求。陸上女子砲丸投げで銀メダルを獲得した米国のレーベン・ソーンダーズ選手は表彰式で「X」のポーズをとり、抑圧された人々への連帯を示した。 平尾:新海外を見渡せば、自分の意見を表明するアスリートが多くいることに気がつきます。自分たちが持つ影響力に自覚的で、積極的に発信している。でも、日本ではほとんど見当たりません。社会そのものの同調圧力が強いので、社会的な発言に二の足を踏んでしまうのだと思います。  ですが、日本人選手が誰一人として発言しなかったわけではありません。五輪開催の是非が問われていたときは、陸上の新谷仁美選手や水泳の松本弥生選手がSNSなどを使って複雑な胸の内を明かしました。五輪に対してネガティブな発言をすることで協会から睨(にら)まれるのではないかという不安もあったはずで、とても勇気がいったと思います。元アスリートで当時JOCの理事だった山口香さんも開催ありきではない、大会のあり方の見直しを訴えました。 ──五輪に対して意見した国内のアスリートを見ると、女性が多いことに気づく。一方で、森氏が女性蔑視発言で辞任する前の2021年2月時点で、組織委の理事は35人のうち、女性はわずか7人だった。 平尾:新男女という区別をつけるのはよくありませんが、スポーツ界には旧態依然の男性社会がいまだに息づいています。日本ラグビー協会が昨年6月まで協会理事を務めていた谷口真由美さんをけん責処分にしたことが問題になっていますが、ここにも年功序列などの時代遅れと言わざるを得ない価値観があります。  本来チームスポーツでは、試合中に先輩だからと過剰に気を使う人がいるチームは勝てないんです。いざというときには自らの判断でプレーを選択する自立した人間が集まるからこそ、勝利を掴みとれる。ラグビー協会でも、実績のある元選手が理事を務めているのに、組織に入った途端に顔色をうかがうばかりになるのはなぜか、それが不思議で仕方ありません。 ■世間が求めるイメージ ──汚職事件について、選手から声が上がらないことに、平尾さんは憤りを感じているという。 平尾:新たとえるなら、自分の家が火事になっていて、かなり燃え広がっているような状態だと思うんです。今の状況がいかに深刻なのか、スポーツ関係者は薄々わかっていると思います。なのに、自分の競技団体への飛び火を恐れているのか、遠くから様子をうかがうだけで何もしない。そのくらいスポーツビジネスの闇は深い。 ──発言しない背景にはスポンサーや世間がアスリートに求めるイメージも影響していると指摘する。  日本社会には、スポーツ選手に対してある種のさわやかさを求める風潮がありますよね。勝っても驕(おご)らず、負けても潔しとするその態度が美しいし、健気で一生懸命に困難を乗り越える姿に感動する。そこに社会的発言や政治的発言はそぐわない。スポンサーにとっては、さわやかな存在でいてくれたほうが扱いやすいし、お金になる。いわば選手を商品に見立てているわけです。ただ、アスリート自身もそれを自覚したうえで、利用している面もあります。  昨今、アスリートのセカンドキャリア教育が盛んですが、サッカーや野球をはじめトップ選手以外は引退後にどうやって食べていくかは死活問題です。何か発言することでイメージが悪くなり、スポンサーが減ったり、事務所に所属できなくなることは避けたい。ここからスポーツを利用して生きていかねばという考えになり、本質的な問題につい見て見ぬふりをしてしまう。  それに、たとえスポーツ界の構造に違和感を持っても、どう対処していいかわからなければモヤモヤは募るばかりです。だったら違和感を受け入れて生きていくほうが楽だとなってしまうのでしょう。 ■外に目を向けてほしい ──選手たちの「当事者意識の欠如」の先にあるものは何か。 平尾:新当事者なのに何も言わないというのは、アスリートやスポーツそのものの価値を下げることと同義です。コロナで社会が大変な状況に陥っていたにもかかわらず、意見すら言えないのはやはりおかしい。当事者意識が欠如したアスリートばかりでは、スポーツ自体が社会から見向きもされなくなる。それを懸念しています。  そうならないためにも、アスリート自身が変わり、また、スポーツ関係者も危機感を持たないといけない。トップを目指す選手が意見できる空気をつくっていかなければなりません。  アスリートには、スポーツの外側に目を向けてほしい。さまざまな職種に就く人や、そもそもスポーツに興味がない人とも接する。僕自身もラグビー以外の世界を見たことで、自分を客観視することができました。チームメートはもちろん大切ですが、競技一本というのは美談でもなんでもないことを伝えたいです。 (構成/編集部・福井しほ) ※AERA 2022年10月3日号

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは

     約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代であるにもかかわらず、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期集中連載「不妊治療の孤独」。第1回前編では、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実例を紹介したが、後編では、年々増加傾向にある “セックスレス妊活”について。 前編も読む→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】 *  *  *  今、性交を試みても「できない」という夫婦が少なくないという。“セックスレス”が聞かれるようになって久しい今、“セックスレス妊活”という言葉も聞かれるようになった。  一般的な不妊症の定義は「妊娠を希望し、避妊せずに性交しているのに一年以上妊娠しない状態」だが、性交できない人の不妊外来受診が珍しくない現在。ここで言う「性交できない」は、いわゆるセックスレスではなく、「性交したくても何らかの理由でできない」状態を指す。  夫婦のどちらか、あるいはどちらもが性交の経験がなく、対処法が分からずに深刻に悩んでいるケースもあれば、「友人みたいな関係で性交する気分にならないけれど、子どもが欲しい」という声も珍しくない。 「“妊娠を希望しているが、性交ができない”という悩みを抱えて訪れる方が多い」  とは、元日本性科学会理事長で、性機能障害に悩むカップルが数多く訪れる性外来で、30年にわたってカウンセリングを行っている婦人科の大川玲子医師。こうしたカップルは増加傾向にあるものの、相談できる場所が少ないのが深刻な課題だという。 「できれば“子どもを自然に授かりたい”という思いで、性交ができるようになりたいという方が多いものの、セックスに関するカウンセリングを行なっている病院はかなり数が絞られます。晩婚化が進む中、妊娠を望むなら、性交の段階であまり時間をかけていられないという判断から、いきなり不妊治療を選ばれる方も少なくない」(大川医師)  大川医師の性外来を訪れる女性の多くが、体の問題はないのに挿入を伴う性交渉ができない“挿入障害”を抱えている。妊娠したくても挿入できないことが切実な問題となって駆け込まれる方がほとんどだという。 「挿入障害は、性器を含めたスキンシップは問題なくできるのに、膣に触れられそうになると突然体をこわばらせてしまうような状態です。基本的に心因性の疾患になります」(大川医師)  相談者に共通している不安が、「処女膜は最初の性交渉で破れ、血が出る」という“処女膜神話”への過度なとらわれだという。これが「性交渉=出血するほどの痛みを伴う」という思い込みを生み、女性に強い恐怖感を抱かせていることが多い。その結果、性交渉しようとすると骨盤底筋、特に膣周囲の筋肉を、本人の意思とは無関係に収縮させ、膣を閉じてしまうのだという。 「無意識の力というのは強いもので、女性が仮に“力ずくで挿入して欲しい”と思っても、実際は足を閉じて全身で抵抗するので挿入できません」(大川医師) 「性交ができない」という性機能障害における治療の柱の一つが、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なものになる。性行為の際の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みについても、医師から説明を受ける。加えて、個々の症状に合わせて苦手な行為を少しずつ練習し、抵抗感を減らす行動療法を行う。挿入障害の場合には、挿入への過度な恐怖を取り除くため、挿入の練習を段階的に行い、徐々に慣らしていく。 「行動療法では、まずは自分の指を膣に入れてみることから始めます。初めは膣の入り口に触れただけで、痛いと手を離してしまう人もいますが、落ち着いて感覚に集中すると“痛いのではなく、違和感だ”と気づく。違和感を我慢して練習していくうちに、指を通じて膣の構造を感じ取れるようになる」(大川医師)  性機能障害は、不安や緊張が引き起こすことが多く、体に意識を向けてリラックスすることも重要だ。ただ「リラックスしなくては」という思いがかえって緊張させる場合もある。緊張感が拭えない人には、「手や足が重い、温かい」など副交感神経が優位のリラックス状態を思い浮かべ、意識を体に向ける「自律訓練法」を取り入れることもある。  本番であがってしまうアスリートなども取り入れている手法で、訓練によって実際に温感などを得てリラックスした状態になれる。このほか、膣の無意識収縮を和らげる方法には、尿もれ予防などで知られる“骨盤底筋運動”も組み合わせると良いとされる。  挿入障害の場合、月経が順調で排卵もあれば、前編で紹介したAさんのようにシリンジ法を取り入れるのも妊活の一つの手だ。クリニックで販売しているところもあれば、通販サイトなどでも手軽に手に入る。シリンジを用いることで、タイミング法のハードルを下げることにもつながるため、性交が問題なくできるカップルでも活用する例が少なくないという。 「シリンジ法は自宅でできますし、結果は膣内射精と変わりません。私の患者さんでも、排卵のタイミングでシリンジ法を行うようになって、数回で妊娠した方もいます」(大川医師)  女性の性機能障害は、なぜ起こるのだろうか。患者の特徴には、思春期の頃から性的な話題をタブー視し、性=悪いことといったイメージを強く持った人が多い傾向にあるという。大川医師は言う。 「そうした意味では、教育環境にも原因がある。例えば挿入障害における処女膜神話など、教育の中で性交や性反応について正確な情報を教える流れができていないことで、誤った情報が先走っている傾向もある。それが性交渉へのマイナスな向き合い方につながっているようにも感じます」  一方、挿入障害を抱える人が婦人科を訪れた場合、子宮や卵巣、膀胱、直腸などがある骨盤内部と膣を触診する「内診」が高いハードルになることがある。診察器具も含めて性器への挿入を恐怖と感じる人も少なくない。 大川医師の性外来にも、不妊外来での内診ができず、「不妊症としての検査や治療ができない」という理由で来院する人が増えていると言う。妊婦健診の中でも、婦人科検診が終始できないという人もいる。不妊外来 で多くの患者と接する千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。 「婦人科の診察に対して、緊張する人や不安が大きい女性はたくさんいます。不安感が強い人は、事前に伝えてもらえると、患者さんによって診察方法を変える対応もできるので、怖がらずにぜひ相談してほしい」  千村医師のクリニックでは、挿入障害の患者が訪れた場合、膣の萎縮や閉塞を緩和させる目的の「膣ダイレーター」を用いて、自宅で練習する指導なども行っている。また子宮頸癌検診や膣内部の視診などにも用いられる「膣鏡」と呼ばれる診察器具の小さなサイズを用いて、診察の中で少しずつ慣らしていくこともあるそうだ。千村医師は言う。 「性交渉が毎回できることが当たり前ではないという認識を持つことも大事。“子どもを作るために性交できるようにならないといけない”と思うと、余計に追い詰められかねません」  晩婚化が進む中、性交実現のために要する期間があまりに長期化すると、妊娠そのものが難しくなってしまいかねない。前出の大川医師の性外来では、治療を一年で “卒業”する人もいれば、10年にわたって通っている人もいるという。そうした中で、「性交ができるかどうかより、妊娠を優先したい」と、人工授精や体外受精など、性交によらない妊娠の技術を持つ不妊治療クリニックに切り替える人も少なくない。 「性外来を受診する人が、内診ができる程度になると、性交より妊娠を優先する人も多い。その時に、性外来も並行して続けたいという希望を持つ人もいますが、原則として並行しての治療はお勧めしていません。不妊治療はかなり集中力を要しますし、性外来での治療も自己との闘いで神経を使うからです」(大川医師)  生殖医療が発達し、性交渉がなくても妊娠に至るケースが増えている現在。晩婚化が進む中で、妊娠という目的のみを考えると、性交渉ができる・できないに関わらず、一足飛びで進みたくなる気持ちも当然理解できる。  その一方で、性の診療という分野からは、「性交=妊娠のためだけのもの」という流れになりすぎていないかと懸念する声も聞かれる。この葛藤は、“子どもは自然に授かりたい”という自然派信仰的な思いと、生殖医療である不妊治療との間に揺れる、当事者のせめぎ合いにも通ずるものがある。そのせめぎ合いを抱えるのは、女性のみならず男性も然りで――。(次の記事に続く) 前編はこちら→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】

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    “ラジオ界の宝”ピストン西沢の「GROOVE LINE」、24年半の歴史に幕 「ラジオのために生まれてきた」

     J-WAVEの人気番組「GROOVE LINE」が9月29日に終了する。「自分がやりたいことができる環境をつくってきた」というピストン西沢さんの24年半とは、どんなものだったのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  あと十数秒で放送が終わる9月1日の夜7時前、ピストン西沢さんが言った。 「そうだ、この番組、今月いっぱいで終了です」  突然の終了宣言にリスナーはざわつき、DREAMS COME TRUEの中村正人さんは「ピストン西沢はラジオ界の宝。」とブログに投稿した。番組にはアーティストからの出演希望が相次いだ。スタジオでは物心ついたときから聴いていたというチャラン・ポ・ランタンが涙し、石井竜也さんが絵を贈るなど、ラスト1カ月はゲスト満載、祭りのような放送が続いている。  一貫してハイテンション、独特のトークとDJミックスで人気を集めるピストンさんは24年半、J-WAVEの夕方の時間を走り続けてきた。同じナビゲーターが続ける番組でさらに長いのは、同局ではクリス・ペプラーさんの「TOKIO HOT100」しかない。聴取率は6月の首都圏ラジオ聴取率調査(ビデオリサーチ)で同時間帯トップだし、スポンサーもついているが、10月からの新番組編成のために終了することになった。 「ラジオの自分は店じまいして、他の自分が今度はメインになるというだけの話です。やりたいことがいろいろありますから」  とピストンさんは語る。 ■ADから始めた努力家  そもそもバイリンガルのナビゲーターが主流のJ-WAVEに、なぜピストンさんが出演することになったのか? 「脳科学者にも言われたんですけど、僕は小さい頃から今まで子どもが興奮しているような状態がずっと続いてるんですよ。うるさい子どもだったと思うし、我慢しないと社会でうまくやっていけないことはわかっていたから、自分の能力でごはんが食べられるところを目指したんです」  選んだのは音楽の道だった。通産省(当時)の官僚だった父親が薦める企業には行かず、ディスコで、今でいうクラブDJをしていた。番組の初代プロデューサーで当時を知る杉山博さんは、 「彼がターンテーブルミックスを始めると客が集まってきてフロアがぎゅうぎゅうになるんです。とんでもなく人気のあるDJでした」  しかし、ピストンさんにはディスコより放送局の水が合っていた。声をかけられてFM横浜の深夜番組で初めてマイクの前に座り、J-WAVEのパーティーでDJをしたときに自らプレゼンして番組制作に携わるようになる。杉山さんは、 「人気DJなのに、一から番組作りを学びたいと言ってADから始めました。努力家で、でも振り切った面白さがあるやつなんで、スタッフの中でも瞬く間に知れ渡り、裏方よりしゃべったほうがいいんじゃないか、となったんです」 ■少しずつ陣地を拡大  1993年頃から番組に出演し、最初はですます調で真面目に話していた。3週目くらいに、留守番電話にリスナーが入れた鼻歌の曲名を当てる企画を始めた。ピストンさんは振り返る。 「それから番組がうまく回り出しました。僕は制作者としての勘が働いたから生き延びた。どうしたら面白くなるか、自分で矯正していったんでしょうね」  そして98年に「GROOVE LINE」がスタートした。ゲストをいじったり、リスナーとの電話を途中でブチッと切ったりと、J-WAVEらしくない、やんちゃな番組は評判になった。とはいえ、最初から好きなように話せたわけではない。局内には歓迎しない人もいた。 「昨日の放送でいいと言ってくれる人が局の中に1人増えたと感じたら、今日はもう少し言ってみようと、少しずつ陣地を拡大していきました。自分がやりたいことができる環境を作ってきたんです」  とピストンさん。傍若無人に聞こえるトークの裏には緻密な思考がある。松尾健司プロデューサーは、 「ただ話しているのではなく、番組が面白いのか、リスナーは喜んでいるのか、スポンサーがどう思っているかまで、360度が見えている。そんな人はそうそういません」  台本には曲名くらいしか書かれていない。あとはピストンさんが臨機応変に言葉を繰り出す。リスナーが飽きたと察すれば、すかさず言葉や行動で刺激する。ピストンさん自身も、 「僕がディレクターとして自分を見たら、これだけラジオに合ってるやつはいないと思いますね。ラジオのために生まれてきたやつだとも言えます」  人気は過熱し、2009年にHMV渋谷での公開生放送が終了するときには、ファンがフロアを埋め尽くした。  番組にはリスナーから日々1千通、2千通に上るメッセージが届く。ピストンさんはそこから世の中の動きやリスナーの思いを敏感に感じ取ってきた。  東京都板橋区でお好み焼き店「みりおんばんぶー」を営む佐々木拓・麻子夫妻は、仕込みをしながら番組を聴いて17年になる。投稿で番組とつながり、東日本大震災、麻子さんの病気、コロナと、危機に瀕するたびにピストンさんに励まされて乗り越えてきた。  番組での紹介でリスナーが来店するようになり、18日には17人が集まってリスナー会議が開催され、「最後まで番組を盛り上げていきましょう!」と乾杯した。参加したラジオネーム「Mr.ハラキリ」さんは多い日には50通ものメッセージを投稿し、10年間で4670回以上、番組で取り上げられた。 ■リスナーに寄り添う  やはりリスナーにはおなじみの「野球道」さんは仕事中にもネタを考え、生活が番組中心に回っているほど。他の番組より採用のハードルが高いだけに読まれたときの喜びは大きい。 「ピストンさんは一瞬のうちに順番を入れ替えたり、セリフ調にしたりして、より面白く味付けして読んでくれる。そのすごさは投稿した本人にしかわからないんですよ」  20代の「右手にコーラ」さんはトラック運転手をしていた5年前に番組を聴き始めた。毎日30通を投稿するが、採用されなくても番組を盛り上げる一助になればいいと言う。 「ピストンさんには恩があるんです。電波越しにDJの面白さを教えてもらって2年前に機材を買って練習を始めました。今はクラブでDJをしています」  ナビゲーターのトーク力は非常時に試される。東日本大震災後の不安な日々の中、いつものピストンさんの声にホッとした人は多かった。リスナーの気持ちに寄り添った情報発信は高く評価され、ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞している。  コロナで世の中が硬直したときも話題をそらさず、周りに感染した人はいますか、療養中のあなたに電話しますよ、と呼び掛けた。 「僕の中でラジオの重要な部分はやはりコミュニケーションなんです。みんなで同じ気持ちを味わって気が楽になったり、勉強になったり。共有と拡散です」 ■「今、すっごい自由」  今後、やりたいことの一つがSNS、YouTubeでの交流だ。たとえば、悩みや相談事をみんなで考える。生きている上で抱えているものを軽くしたり、やりたいことを我慢しない生き方を探すヒントになればいい。  番組終了後の同時間帯にはタカノシンヤさんと藤原麻里菜さんによる新番組「GRAND MARQUEE」が始まるが、ピストンさんの声は日曜夜7時の「DRIVE TO THE FUTURE」で引き続き聴くことができるし、YouTube配信も始めている。 「長くやっていて一番の大敵は自分に飽きちゃうことなんです。番組終了が決まってから急に楽しくなっちゃった。今まで番組継続に悪影響があるものは自分の中でアウトと縛ってきたけど、もう関係ないもんね。今、すっごい自由ですから」  28日は秀島史香さんと2人で進行する。29日の最終日に何が起きるかはわからない。(ライター・仲宇佐ゆり)※AERA 2022年10月3日号

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    巨人が“浅野以外”で欲しいのは? ドラフト補強ポイント【中日・広島・巨人】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在セ・リーグでBクラスの巨人、広島、中日の3球団だ。 *  *  * 【中日】  立浪和義新監督が就任し、期待が高かった中日だが最下位が決定的となっており、今年も苦しいシーズンとなった。昨年のドラフトでは長打力不足を解消するためにブライト健太、鵜飼航丞の強打者タイプの大学生外野手2人を指名したが、ともに確実性に大きな課題を残しており、一軍の戦力となるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。若手野手では岡林勇希がブレイクし、土田龍空も成長を見せているが、根尾昂が投手に転向となり、石川昂弥も故障続きとなると、やはり今年も野手中心の指名と考えるのが妥当ではないだろうか。  そこで筆頭候補として推したいのが内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。西武のところでも紹介したが、その長打力は高校生ではナンバーワンであり、今年の候補全体を見ても長距離砲としての素質の高さはトップという印象を受ける。仮に内藤を1位で指名できたとしても、大砲候補はプロで苦しむケースが多いだけに、もう1人くらいは高校生の強打者タイプを狙いたい。  石川、ブライト、鵜飼も右打ちだということを考えると左打者が狙い目になりそうだが、2位で残っていれば狙いたいのが西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)だ。体はそれほど大きくないが、ミート力は高校球界でも1、2を争う存在で、技術で遠くに飛ばすことができる。足と肩も高水準で、広い外野を任せられるポテンシャルも備えている。下位で狙えそうな選手では田中多聞(呉港)も面白い。少し確実性には課題が残るが、大型でパワフルなスイングは高校生離れしたものがある。肩の強さがあるのも魅力だ。  投手では高橋宏斗を筆頭に若手に楽しみな選手は多いが、主力はベテランも多いだけにこちらも柱となれる人材は必要だ。2位で西村が残っていなければ、その枠でスケールのある投手に切り替えるのも一つの手だろう。候補としては先発タイプなら青山美夏人(亜細亜大)、リリーフタイプなら橋本達弥(慶応大)が面白い。青山は長身と長いリーチでボールに角度があり、力を入れた時のストレートの勢いは目を見張るものがある。また未完成な部分も目立つが、スケールでは大学生投手でトップクラスだ。橋本は東京六大学を代表する抑え投手。150キロに迫るストレートにフォーク、カットボールと決め球を複数備えている。ともに完全な即戦力という感じではないが、2年目から一軍の戦力になれるだけの潜在能力は十分にありそうだ。 【広島】  5位の広島は森下暢仁、栗林良吏、森浦大輔など即戦力を期待して獲得した投手がしっかり戦力になっている印象が強い。一方で野手は坂倉将吾、小園海斗の成長はあるものの、鈴木誠也の抜けた穴は大きく、昨年社会人の右打者を獲得はしているが、やはり強打者タイプは必要になるだろう。  高校生であれば内藤鵬(日本航空石川・三塁手)ももちろん候補だが、脚力のある選手を重視するチームであることを考えると少しマッチしないようにも感じる。そこで候補として推したいのが森下翔太(中央大・外野手)だ。東海大相模時代から評判の強打者で、1年春には早くも大学日本代表に選ばれている。その後は少し苦しんだ時期が長かったが、今年の春は打率3割をクリアし、課題の確実性も向上してきた。全身を使ったフルスイングで広角に長打を放つことができ、脚力と肩の強さも備えている。また今年は死球による骨折から早期に復帰するなど体の強さを見せているところも広島向きの選手と言えそうだ。  前述した通り、投手陣は確実に補強されてきているが、高校卒の若手となると遠藤淳志と玉村昇吾しか一軍の戦力になっておらず、二軍まで見ても2年目の小林樹斗くらいしか有望株は見当たらない。そうなると高校生のスケールのある投手を狙いたいところだが、候補としては斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)などが挙げられる。斉藤はたくましい体格から投げ込むストレートが武器で、スピードはコンスタントに145キロを超える。まだ粗削りではあるが、今年の高校生投手ではスケールの大きさはナンバーワンと言えるだろう。  門別はオリックスのところでも紹介したが、スピードだけでなく総合力も高いサウスポー。将来の先発候補として期待できるだろう。大学生でも将来性とスケールを重視するなら仲地礼亜(沖縄大)が面白い。高校時代は無名ではあったが、大学で急成長した本格派右腕で、昨年の大学選手権でも好投している。森下に次ぐエース候補として狙いたい存在だ。 【巨人】  4位に沈む巨人は数字的には投手成績が課題のようにも見えるが、今年プロ初勝利をマークした投手が8人出ていることからも分かるように、今後の成長が楽しみな投手は少なくない。一方で野手は坂本勇人、丸佳浩、中田翔など中心選手にはベテランプレイヤーが多く、数年後には大きくメンバーを入れ替える必要があり、若手の有望株は必要不可欠な状況となっている。  そんな中で9月28日には早くも浅野翔吾(高松商・外野手)の1位指名を公言したが、これはチーム状況を考えても非常に理解できる選択と言える。右打ちの外野手で支配下の選手は外国人のウォーカーを含めて2人しかおらず、内野も含めてもパンチ力のある若手は多くない。浅野自身は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームが本拠地であればホームランを量産することも期待できるだろう。  ただ、巨人は抽選に外れ続けており、その時の選択も重要になってくる。過去には野手を外して投手に切り替えたこともあったが、チーム事情を考えるとやはり外しても野手を狙いたい。そこで、指名されず残っていれば推したいのが松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)だ。将来の正捕手候補としても当然魅力的な人材だが、巨人としては坂本の後釜候補として考えたい。地肩の強さとフットワークは抜群で、長打力十分のバッティングも高校生ではトップクラスだ。浅野、松尾ともに指名できないケースでも中日のところでも挙げた西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)や、イヒネ・イツア(誉・遊撃手)など高校生のスケール型の選手を狙いたい。  投手は前述したように楽しみな若手が多いが、リリーフの手当てはしておきたい。4位以降で残っていれば検討したいのが小孫竜二(鷺宮製作所)だ。今年で大学卒3年目だが、短いイニングであれば球威で圧倒することができ、課題だった制球力も確実に向上している。リリーフなら早くから戦力となる可能性は高い。大学生であれば才木海翔(大阪経済大)も好調時のストレートは目を見張るものがあるだけに、セットアッパー候補として面白いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    母は父に処刑され、自身も処刑寸前に追い込まれ…壮絶な生涯を遂げた“もう一人”のエリザベス女王

    『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は、英国での“二人”のエリザベス女王について「診断」する。 *  *  *  9月8日、英国女王エリザベス2世が崩御された。20世紀から21世紀、激動の連合王国を統治した偉大な君主に追悼を申し上げたい。古くから英国は女王が統治すると発展するといわれてきた。その意味で最初に思い浮かぶのは19世紀、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王であろう。そして次に思い浮かぶのは16世紀にイングランドをヨーロッパの強国の地位に引き上げたエリザベス1世である。 ■二人のエリザベス女王  名は体をあらわすというが、心理学的に人は与えられた名に見合った振る舞いをすることが知られている。我々医師や大学教員には古風な名前の持ち主が多く、映画監督や芸術家には少し変わった名前が多いという研究があるが、出身階級や家庭の教育に加えて、与えられた名にふさわしい行動をとろうと無意識のうちに努力しているのかもしれない。故エリザベス2世の場合、同名のエリザベス1世が名君だっただけに直接の血のつながりはないとはいえ、何らかのプレッシャーを感じていたであろう。  エリザベス1世はテューダー朝2代目、英国ルネサンスを代表する名君かつ暴君であるヘンリー8世の次女として生まれた(1533年)。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンに男児が生まれないことに業を煮やしたヘンリー8世がカトリック教会と決別して離婚、再婚したアン・ブーリンとの第1子であったが、その後も男児は生まれず、父王は2番目の王妃に姦通の濡れ衣を着せて処刑してしまう。その後も王妃たちに理由をつけては離別や処刑を繰り返し、都合6人の王妃との間にエリザベス、エドワード、メアリーの3人の子をもうけた。  ヘンリー8世の後を継いだ王子はエドワード6世として即位するが、生来病弱で、結核(一説には先天梅毒)により15歳で死去、そのあとを継いだメアリは愛する母が離婚されたことを恨んで、カトリックに復帰するとともにプロテスタントを徹底弾圧、「ブラッディ・メアリー」という悪名を残した。母方の親戚スペイン王太子フェリペ(のちのフェリペ2世)と結婚するも子には恵まれず42歳で死去。やっとエリザベスに王位が回ってきた。 ■処刑寸前に追い込まれ  エリザベスは母を殺した父によって庶子の身分に落とされたり、その父を恨む姉によってロンドン塔に拘束されて危うく処刑されそうになったり、若年のころから権力闘争と宗教戦争の恐ろしさを痛感していた。そのために、英国国教会を重んじながらカトリックや清教徒に対する厳しい弾圧は行わず、ドイツや北欧のプロテスタント諸国、カトリックのスペインやそのライバルであるフランスと等距離外交を展開。また女王の配偶者を狙って近寄ってくる貴族たちや諸外国の王族を「私は国家と結婚しています」といって適当にあしらい生涯を独身で通した。その間、フランスにおける新教徒と旧教徒の内戦、スペイン無敵艦隊の襲来など何度も危機があったが、宰相バーリー卿ウィリアム・セシルや海賊出身の名提督フランシス・ドレーク卿などの活躍でこれを乗り越え、英国ルネサンスの最盛期を築いた。  筆者の好きな古楽の世界では、ウィリアム・バードやジョン・ダウランド、アンソニー・ホルボーン、トマス・モーリーなどの作曲家が輩出し、文学の世界では英国史上最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアが活躍したのがこの時代である。  しかし。 「処女王」の称号を守るために生涯結婚せず、エリザベス1世の没後にはライバルだった遠縁のスコットランドのメアリー女王の長男ジェームズ6世(英国王としてはジェームズ1世)を後継に迎えざるを得なかった。  エリザベス1世の偉大な生涯は当然ながら、伯父エドワード8世の退位(有名なシンプソン夫人との恋のために王位を放棄)、そして父ジョージ6世の早逝によって、25歳で王位につかざるを得なかったエリザベス2世に影響を与えたに違いない。しかし、エリザベス1世の寂しい晩年に比べると、多くの子供たちや孫たちに囲まれて最期を迎えたエリザベス2世は幸せだったかもしれない。 ■チャールズという名の国王  さて、母の死を受けて即位した新国王チャールズは、その名を冠するイングランド国王(スコットランド国王としても)3代目である。面白いことに国によって王様の名前に好みがあるようで、フランスでは聖ルイ王(ルイ9世)以来、ルイが多い。太陽王ルイ14世が有名だが、その曽孫でロココの遊蕩児ルイ15世、フランス革命に非業の死を遂げたルイ16世、そしてその弟のルイ18世まで18人もいる。  英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。  チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。  その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。  ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。 ■「ピースメーカー」としての期待  チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。  チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。  チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。 ◯早川 智(はやかわ・さとし)1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など ※AERAオンライン限定記事

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    柳田悠岐の“後釜”で狙うべきは? ドラフト補強ポイント【西武・オリックス・ソフトバンク】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在パ・リーグAクラスのソフトバンク、オリックス、西武の3球団だ。 *  *  * 【西武】  昨年の最下位から浮上した西武。近年指名した投手が主力になっており、昨年上位で指名した隅田知一郎と佐藤隼輔の2人もプロのレベルに苦しみながらもそれなりに存在感を示している。一方で野手は長年チームを支えてきた中村剛也と栗山巧の2人が1年を通じての活躍が難しくなっており、それ以外のレギュラーも軒並み中堅、ベテランとなっている。若手野手も少し伸び悩みが目立つだけに、今の主力に余力があるうちに、将来性のある野手を狙いたいところだ。  ポジション的にはレギュラーの固まらない外野が気になるところだが、ポジションにかかわらず中村と山川穂高の後継者となる強打者を狙いたい。そこで筆頭候補としたいのが同じおかわり体型のスラッガーである内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。180センチメートル、100キログラムの巨漢でパワーはもちろんだが、スイングに柔らかさがあるのも中村、山川と共通している。長打力に関しては高校球界でも随一と言える存在で、夏の石川大会では厳しいマークに苦しみながらも特大の一発を放った。投手としても140キロ近いスピードボールを投げるなど、肩の強さも十分だ。  一方で外野手を優先するのであれば蛭間拓哉(早稲田大)が有力候補になるだろう。浦和学院時代にもU18侍ジャパンに選ばれた左の強打者で、早稲田大でも順調に成長し、大学日本代表の中軸としても活躍している。たくましい体格ながら脚力も抜群で、走塁に対する意識も高い。打つ形に悪い癖がないだけに、早くから一軍の戦力となることも期待できそうだ。  二遊間も補強ポイントになるが、チームに合いそうな選手として推したいのが奈良間大己(立正大)だ。常葉大菊川では3年夏の静岡大会で8割を超える打率を残し、蛭間とともにU18侍ジャパンにも選ばれている。大学でも早くからレギュラーをつかみ、現在は東都二部でプレーしているが、打てるショートとして注目度は高い。打撃の確実性、守備の堅実さには少し課題が残るが、何よりも思い切りのよいバッティングが目立ち、西武のチームカラーにもマッチしているように見える。去就が不透明な外崎脩汰の後釜として面白い存在と言えるだろう。 【オリックス】  リーグ連覇は微妙な状態だが、シーズン終盤に見事な巻き返しを見せたオリックス。投手は若くて力のある先発が揃い、野手も杉本裕太郎や紅林弘太郎が“(実質)2年目のジンクス”に苦しんだが、それでもそれなりの成績を残している。若手の充実度で言えば12球団でも1、2を争う存在であり、近年のドラフト戦略が奏功している印象が強い。  あえて投手の補強ポイントを挙げるとすれば、20代前半の若手では宮城大弥以外に支配下がいないサウスポーとなるが、候補として推したのが門別啓人(東海大札幌)だ。甲子園出場こそないものの、今年の高校生左腕ではナンバーワンと言える存在で、ストレート、変化球、コントロール全てが高校生としては高いレベルにある。いきなり1位というのは少し物足りないかもしれないが、他に候補が少ないだけに、思いきって最初に確保してしまうというのも悪くない選択だろう。  野手で補強ポイントを挙げるとすれば捕手のレギュラー候補、そして吉田正尚の後継者あたりと言える。投手よりも野手を優先するのであれば、将来の正捕手候補として松尾汐恩(大阪桐蔭)を狙うのも面白い。まだキャッチングなど不安定な面もあるが、フットワークと肩の強さは抜群で、バッティングも飛ばすコツを知っているのが大きい。松尾を1位、門別を2位という指名ができれば将来が更に明るくなることは間違いないだろう。  吉田の後釜はなかなか難しいが、3位以降で狙えそうな選手としては三塚琉生(桐生第一)も有力候補となる。関東では屈指の強打の外野手で、無駄な動きのないスイングで確実性と長打力を兼ね備えているのが魅力だ。夏は脚を痛めていた影響で走塁と守備は少し精彩を欠いていたが、投手も兼任する肩の強さもあり、決して打つだけの選手ではない。来田涼斗や池田陵真などとともに、近い将来高いレベルでのレギュラー争いを演じることも十分に期待できる素材だ。 【ソフトバンク】  昨年のBクラスから見事なV字回復を見せたソフトバンクだが、巨大戦力というイメージはかなり薄れており、補強ポイントは少なくない。投手では長年先発の柱として活躍してきた千賀滉大が海外FA権を取得。複数年契約を結んでいるが、途中で破棄できる条件を入れているとも見られており、メジャー移籍という可能性も否めない。野手もデスパイネ、グラシアルの外国人2人、さらには柳田悠岐も年齢的な衰えから成績を落としており、今年復活したものの今宮健太の後のショートも気になるところだ。  そんな中でまず狙いたいのが柳田の後を任せられる強打者タイプだが、そこで推したいのが沢井廉(中京大・外野手)だ。地方リーグ所属だが、今年の大学生の中では飛ばす力はトップクラス。昨年12月に行われた大学日本代表候補合宿でもフリーバッティング、紅白戦ともに快音を連発しており、野手の中では最も目立った選手の1人だった。最終学年はワクチン接種の問題で大学日本代表には選ばれなかったが、春、秋ともに豪快なホームランを放ちアピールを続けている。ポスト柳田として最適な人材と言えるだろう。  続いて狙いたいのがショートだが、2位で残っていればぜひ指名したいのが友杉篤輝(天理大)だ。小柄だがプレーのスピードは抜群で、さらに堅実さも兼ね備えている。同じタイプのショートが多かった大学日本代表候補の中でもその守備力は一際目立ち、代表にも選出された。打撃面はまだ少し非力な面は否めないが、大学選手権でも2年連続でしっかり成績を残しており、高いミート力が光る。今宮の後継者としてぜひ狙いたい選手だ。  投手は昨年も風間球打、木村大成を獲得しているが、彼らに続くスケールの大きい選手を1人は指名しておきたい。上位は野手を狙いたいだけに下位で狙えそうな選手で面白いのが茨木秀俊(帝京長岡)だ。新潟県内では田中晴也(日本文理)と並ぶ存在と言われており、夏の新潟大会でも決勝でハイレベルな投手戦を演じている。ストレートは130キロ台後半が多く、期待していたほどスピードが伸びなかったためそこまで評価は上がっていないが、悪い癖のないフォームでしっかり鍛えればまだまだ速くなりそうな雰囲気は十分だ。ソフトバンクで伸びそうなタイプの投手と言えるだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    阿部寛の人生を“小さく”変えたパチンコ三昧の日々 「無駄なことなんてない」

     スタイル抜群でハンサムな千両役者の阿部寛さん。そんな彼が醸す哀愁は、なぜこうも人を惹きつけるのか。ディズニープラス「スター」で配信が始まったドラマ「すべて忘れてしまうから」で演じるのは、漫然と小説を書き続けるミステリー作家、“M”。失踪した恋人を捜すうち、彼女の秘密に気づいていく……というストーリーにからめ、人間関係や人生観について含蓄に富んだ話の数々がこぼれた。 *  *  * ──日常を描く作品に出るのは久しぶりとのことですが、新しい発見は?  普通のドラマだったらいらないような台詞がたくさん書かれているということが既に新しかった。何げない台詞と、何げない掛け合いばかりで。  それに僕が演じた人物は、はっきりした生き方とかポリシーを持っている人間ではないんです。流されるまま生きていて。ここ最近は、(ドラマ)「DCU」とか「ドラゴン桜」とか、はっきりした強い人間を演じることが多かったから、監督の世界観をつかむのは楽しい作業でした。  ゴールデンの連続ドラマは、ある程度ストーリーの展開が見えてないと、その時間帯に視聴してくださる方がついてこられない。でも今回はそういうことではない舞台、ディズニープラスで、配信で、っていうことだから、それはもう自分たちのこだわりを通すという面で、贅沢に作らせていただいてますよ。せっかくやらせてもらうからには、ハードルは高いほうがいいと思ってました。 ──歌手のCharaさんとの共演も話題です。  CharaさんはCharaさんの世界、役者さんでは出せない世界観があって、その方と一緒にやれるっていうのは刺激になりました。本来僕がやるナレーションをCharaさんがやってくださったのも面白い試みだと思います。当たり前ではないドラマになるわけですよ。  本当に気さくな方でしたね。全然壁とか作らないし、最初はその不思議さにちょっとびっくりしましたけど(笑)、楽しかった。 ──今作のテーマについて、「日常の小さな瞬間が人生を変えることもある」といった趣旨のコメントをされていましたね。  いいこと言いますね(笑)。小さくて覚えてないかもしれないけど、たぶんその連続だと思うんですよ。僕の転機で言うと……。26、27歳くらいの不遇の時代、パチンコをやってるときに、「なんで俺、誰とも会わずにずっとここで時間使ってるんだろうな」って気づいた瞬間とかね(笑)。「あれ? この時間、飲みにでも行けばどれだけいろんな人に会えて新しいものを発見できるだろう」って、あるとき思ったんです。  パチンコって楽しいから夢中になるじゃないですか。で、散々やったら突然降りてきた(笑)。長い時間やってなければ気づかなかったかもしれない。その瞬間が僕の人生を小さく変えた。だから無駄なことなんてないんです。 ──作品には、「どんなに近い人でも自分が知らない顔がある」というテーマも。そういう経験をしたことは?  それはありますよね。出会うまでにどういう生き方をしてきたかなんて知らないのだから。そのときは気づかないけど、あとで言われて、「あーそうだったんだ、全然そんなふうに思わなかった」みたいな。  逆に、相手が自分のことをこれだけわかってくれてるだろうと思っても、そうならないのが現実じゃないですか。口で言わなければわかんない部分もあるし。でも説明しても真にわかりあえることはない。それは、人は自分とはまったくちがう生き方をしているからですよね。今はコンプライアンスの時代だけども、お互いに他人であることを認識しなければいけないと思いますよ。 ──二枚目なルックスの阿部さんですが、どこか情けない、残念さ漂う男を好演される印象です。  だいたいの人って残念なところを持っている。それを見せないように生きるのが礼儀なんだけど、その残念さが実は救いというか、近づきやすさだったりするんですよ。人間的な部分があったほうが共感しやすいじゃないですか。だからドラマではそういうものが要求されると思うし、僕がやっているのは、脚本に書いてくださっていることを膨らますくらいかな。  海外の作品でも、すごいクールなキャラクターにちょっとドジなところがあるのが一つのパターンだったり。そういうものを見て、自分でもちがう形で入れてるのかなと思います。 ──今年7月のニューヨーク・アジアン映画祭で、アジアで最も活躍する俳優に贈られる「スター・アジア賞」を日本人で初受賞しました。授賞式では満面の笑みでしたね。  まさかあの賞をいただけるなんて、すごく大きな経験だなと思いました。でも笑顔の理由となると、受賞の喜びより、お客さんに会えたうれしさだと思います。  ニューヨークに行ったとき、みなさん本当に笑顔で迎えてくださって、映画を楽しもうとしているのがわかったんですよね。「来てくれた!」っていう喜びの顔、しかもマスクをしていない笑顔と対面して、こんなに表情が見えるんだってびっくりしました。 ──日本を代表する俳優に名を連ねた今もなお、「越えたい壁」はあるのでしょうか?  昔のドラマの再放送なんかで諸先輩方の演技を見ていると、「僕の年齢でそこの境地まで行かれてたんだな」「越えられなくても近づきたいな」と思いますよ。  一瞬パッと見ただけだったんですけど、NHKで老刑事みたいな役をやってた人がいて。たぶん70歳ぐらいの方だと思うんだけど、繊細な演技だったり、言葉の力だったりがすごくて。僕は70になったとき、その演技をできるかな?と不安になりました。でもそういう姿を見ると、なんかうれしいですよね。 (構成/本誌・大谷百合絵)※週刊朝日  2022年10月7日号

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    13時間前

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    「伝統校vs新興校」中学受験でどっちを選ぶのが正解? 専門家の答えは

     中学受験家庭を悩ませる、受験先の学校選び。校風や難易度のほか、「伝統校と新興校のどちらがいいか」を選択の基準にするという声もよく聞かれます。中高一貫校の取材経験が豊富な教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、伝統校と新興校の二項対立を「思い込みを前提にした図式」と評します。両者の違いは?親が知っておくべきポイントは?『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)から、一部を抜粋して紹介します。 ■伝統校の魅力はブランドだけ?   中学受験の志望校選びに関して「伝統校と新興校とどちらを選ぶのがいいと思いますか?」と聞かれたことが何度かありました。最初は質問の意図がわかりませんでした。古い学校を伝統校と呼び、新しい学校を新興校と呼んでグループ化することはわからないでもないですが、そこに価値の対立みたいなものがあるとは私自身思っていなかったからです。  でも何度かそんな質問を受けているうちに、ようやく真意がわかりました。そういう問いを立てるひとたちはどうやら、「伝統校のブランドをとるか、新興校の先進的な取り組みをとるか」という二項対立の図式を、思い描いているようなのです。  伝統校の魅力はブランド力だけで教育の中身は古くさいものだけど、新興校は新しい取り組みをしていてこれからの時代に役立つ具体的なスキルを身につけさせてくれるのではないかという思い込みを前提にした図式です。  なんだかいろいろなものがこんがらがっていて、ときほぐすにはちょっと手間がかかります。 ■ハビトゥスかシラバスか  まず、伝統校であっても教育の中身は常に刷新し続けています。いわゆる名門校といわれるような伝統校ほど、教員の裁量が大きいので、教員がそれぞれに時代の空気を感じながら自ら研鑽し、授業内容を常にアップデートしています。校長が「学校改革だ!」と旗を振らなくても、学校全体として自然に時代に合わせた変化を続けています。それが学校のあるべき姿です。  でもそれ以上に、長い歴史のなかで培われた学校文化が、伝統校の価値です。文化は必ずしも明文化できません。毎日そこに通って、その学校の空気を吸うことで、理屈を超えたところで生徒たちに学校文化が染み込みます。創立されて10年や20年の学校にはない教育力が伝統校にはあります。  生徒たちの生き方に影響を与える学校文化のようなものを、社会学の用語では「ハビトゥス」と呼びます。伝統校あるいは名門校と呼ばれるような学校は、このハビトゥスが強力なのです。各学校のハビトゥスは「○○高校らしさ」「○○高校っぽさ」のような言い方で、世間にも認識されます。  一方、できたばかりの学校あるいは歴史はあっても経営者が替わって校名まで変えて完全リニューアルしたような学校には、まだ確たるハビトゥスがありません。ですから、高い大学進学実績を掲げたり、先進的なグローバル教育やICT教育を掲げたりして、アピールします。ハビトゥスの代わりに「シラバス」(学習計画表)の特異さで勝負しているわけです。  では、塾顔負けの大学受験対策を行ってくれる学校がいい学校なのか、珍しいグローバル教育やICT教育や探究学習を取り入れていればいい学校なのか。それは伝統校か新興校かの選択とは別の話です。  なんとなく新しく見えてきらびやかな教育が好みならば、そういうシラバスを掲げる学校を選ぶのも悪くはありません。でも、目新しい教育が狙い通りの成果をもたらすかどうかは、やってみなければわかりません。そのことを十分に理解してから選んでください。 ■学校は時とともに成長する生命体  拙著『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)の序章で詳しく述べていますが、中高生の時期は、中世・近代の人類の追体験をすべき時期です。  その観点からいえば、何百万円もするような最新の実験器具を使った大学生顔負けの理科実験をするよりも、昔ながらの顕微鏡やフラスコを用いた前近代的な実験を行うほうが、のちのち最新鋭の機器を使いこなす科学者になるとしても、大切なのではないかと思います。  同様に、中高生のうちは、起業家のまねごとをするよりも、しっかりと論語や万葉集(中世・近代ではないですけど)を勉強しておいたほうが、将来グローバルなビジネスパーソンになるとしても、大切ではないかと思います。  伝統校の教員たちはもちろん、新興校であっても、教養のある教員はそういうことをわかっています。学校説明会ではド派手なことを言っていても、実際にはむやみやたらに表面的な新しさや派手さを追いかけたりはしません。そのほうが本当の意味で子どもたちの将来のためになるとわかっているからです。  私が伝統校推ししていると思われるかもしれませんし、実際そのとおりなのですが、ある意味当然なんです。だって、一般論として、わが子を預けるなら、経験が浅くて実績もないのに声だけ大きい若造よりも、経験豊かで実績もあるのに謙虚に語るベテランの先生のほうが安心できるじゃないですか。学校も同じです。  一方で、自分が先駆者となって新しい学校文化をつくっていくんだという気概で新興校に入るなら、それはそれで、十分に意味あることだと思います。新しい学校でしか経験できないこともあるはずです。  学校は、ただのハコではありません。時とともに成長する生命体のようなものなのです。 (教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)

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    【夫婦が告白】「ryuchellが壊れかけていた」pecoが婚姻解消の経緯を吐露

     ryuchell(りゅうちぇる)さんとpeco(ぺこ)さんが8月25日、夫婦関係を解消し、今後は「人生のパートナーとして暮らしていく」ことをそれぞれのインスタグラムで発表した。二人は2016年に結婚し、いまは4歳になる息子がいる。  夫婦関係を解消した背景として、りゅうちぇるさんは「8年前にてこ(ぺこ)と出逢い、女性を好きになることは、初めての事でした」とする一方で、「“夫”らしく生きていかないといけないと自分に対して強く思ってしまっていた」「“本当の自分”と、“本当の自分を隠すryuchell”との間に、少しずつ溝ができてしまった」などと告白した。  SNS上では「りゅうちぇるさんはとてもつらかったと思う」「受け入れたぺこさんは偉い」などと二人の決断を受け入れるコメントも出たが、「りゅうちぇるのわがままじゃないか」「他に好きな人ができたということでは」などという声もあった。  いったい二人の間に何があったのか、ぺこさんはどう受け止めたのか、そして4歳の息子にはどう接したのか。りゅうちぇるとぺこがAERAdot.のインタビューに思いを語った。 *  *  * ――発表後、様々な反応がありました。現在の心境を教えてください。 ぺこ 皆さんから励ましの声をたくさんもらい、背中を押してもらった感じです。発表するまでは一人で抱え込んでいた部分もあったので、発表後に皆さんから私の気持ちに寄り添ってくれるようなコメントをもらえて、前向きになれました。 りゅう 色んな意見をもらいました。覚悟はしていましたが、やはりけっこう落ち込みます。僕たちが選んだ家族の形が、社会の中にある幸せのイメージとかけ離れている面があったから、様々な意見が出ているんだなと感じています。  ただ、僕たちがインスタで公表した文書を読んで、「何回も読んで理解できた」という方がいたり、「二人でしっかりと話し合ってきた結果だと伝わった」という方もいました。ファンの方からの手紙では「応援している人は静かなことが多いので、書きました」というのもありました。 ――公表では「“本当の自分”と、“本当の自分を隠すryuchell”との間に、少しずつ溝ができてしまった」とありました。これはいつ頃から? りゅう 21年になってからです。徐々に徐々に自分が変化していったんです。自分では溝ができていることがわかっていたんですが、それを必死で隠しているつもりだし、それがうまくできていると思っていました。  でも、隠せていなかった。てこ(ぺこ)から「いつもと違う」「おかしい」とすごく言われて。苦しくて……。 ――具体的にはどういったことがあった? ぺこ 本当に文字にすると刺激が強すぎる出来事があって……もちろん手を出すようなことはなかったですが。 りゅう 車が運転できなくなるとか……。 ぺこ そう。プチパニックになるとか。今までのりゅうちぇるとは違うりゅうちぇるが出てきた、みたいな状況でした。これまでのりゅうちぇるとは本当に違うりゅうちぇるでした。 りゅう だから、変わっていく僕に対して、てこも不審というか、不安に思っていたし、僕もそれがわかっているからいっそう辛かったですね。  てこのインスタの文書でも「正直、墓場まで持っていってほしかった」という言葉がありました。僕も墓場まで持っていくつもりだったし、絶対に言いたくなかったけど、「このままじゃ壊れる」と思いました。言わないほうが、本当に自分が終わってしまうと思うようになっていました。  昨年末で限界だと思って、それで今年の初めに、てこに本当の自分の気持ちを伝えました。 ぺこ りゅうちぇるが話してくれたとき、シンプルに、「いま勇気をもって話してくれてありがとう」「生きててくれてありがとう」と思いました。「えっ、いままで8年間うそをついていたの?」とか、「だましていたの?」とか、そういうことは全く思いませんでした。「このままじゃ壊れる」というか、本当に壊れかけていたので、そこまで行く前に話してくれてよかったです。 ぺこ 本当に墓場まで持っていこうとして、一人で抱え続けて行ったと想像すると、ゾッとするし、勇気を出して伝えてくれてありがとう、と本気で思いました。 りゅう 打ち明けると、すべて終わってしまうと感じていました。だから、すごい怖かったです。  今まで言わずにやってきたのも、絶対に隠していこうとしてきたのも、本当に家族が大切だと思っていたからです。  でも、結局はこういう状態になって、家族のために告白しなければいけないと思ったし、それは自分の弱さのために言うことになってしまったというのも辛いことでした。正直、てこと終わると思って話しました。  だけど、てこは「今まで辛かったね」と言って、泣きながら抱きしめてくれた。 ぺこ 抱きしめていいのかもわからなかったけど……とにかく「辛かったよね」とシンプルに思ってから、思わず……。 りゅう てこの言葉に救われました。 ぺこ りゅうちぇるは今まで私や息子のことを大切に思ってくれていたからこそ隠してきたのだと思うし、逆に大切に思っているからこそ頑張って打ち明けてくれたのだと思いました。  今まで私たちにくれていた愛が本物だと感じられてなかったら、今回のようなリアクションは取れなかったと思います。りゅうちぇるのこれまでの言動を見てきて、今までくれていた愛は本物だとちゃんと信じられましたし、だから、りゅうちぇるのことを抱きしめることができました。 ――その後、話し合いはどのように進んでいったのでしょうか。 ぺこ どういう形で今後やっていくのかということですね。自分が譲れないものを100%譲らないというのはどう考えても無理なので、お互いに歩み寄って…70%、80%くらいにはできるようにと話し合っていました。 りゅう 自分の中でしっかり大切に守ってきたものがあって、それが家族だし、仕事だし、自分の立場だった。この3つはどれも大事だったんですが、自分の立場が一番最後だったんです。でも、自分のことをなかなか捨てられない、隠しきれないというのもあって、苦しくなってきた。  それで立場について考えたとき、いま自分という人間に自信があるのか、パパとして幸せなのか、ということをいっぱい考えて、自問自答を繰り返して、話し合いも繰り返してきました。  そんな中でたどり着いた結論が、自分の大切なもののなかで捨てるものはひとつもないなと。ただ、自分がもやもやしていた「夫」、「旦那」という立場だけを卒業させてもらえたら。  てこがさっき言ってくれたように、僕の愛にはうそは一つもなかったし、家族を守る、子どもを育てたいという気持ちは変わらずある。それをてこが受け入れてくれました。  何か一つを卒業したら、新しいことを一つ始めたり、もしくはすべて卒業したかのように映ってしまうような反応もいただきましたが、そうではないです。「新しい家族の形」と言ってしまうと簡単なのですが、こればかりは、これからの、僕たち比嘉家の形を皆さんに見てもらって、受け入れてもらっていくしかないなと思っています。 ぺこ 「一人の母親である前に一人の女性だから」という言葉をよく聞きますよね。その考えも素敵だと思うし、理解もしますが、私の場合はぜんぜんそうではなくて、一人の女性や一人の人間である前に、息子のお母さんであることが何よりも大きいです。  息子を妊娠した瞬間から、息子が一番大事な存在なんです。私はそれが母親だと思っています。だから、周りから「ぺこちゃん幸せにならないとダメだよ」って、優しさから皆さん言ってくれるんですが、私は大切な息子が毎日元気で、何事もなく笑顔で過ごしてくれていること、大切なryuchellが生きて、息子の父親として一緒にいてくれること、今まで何ら変わりのないママ・パパ・息子という形のまま、これからもいてくれること、それだけで私は幸せです。 ――「他に好きな人が出来たのではないか」という声もありました りゅう そういうわけではないです。ただ、そう思われるのも仕方がないなと思います。それくらい新しいことをしているんだと感じました。 ぺこ りゅうちぇるがこれからも一緒にいたいという気持ちであることを信じているし、私もそう思うし、これからもっともっと協力し合って、すてきな家族にしようね、と思っています。  それこそ皆さんがいってくださったことや、どういうことなのという疑問は理解できます。逆の立場であれば、「どういうことか詳しく教えてくれへん?」みたいに絶対になると思う。ただ、私たち比嘉家の新しい家族の形はこれです、ここから新しくやっていきます、というだけの話だと思っています。 ――今回の決断に対する「後悔」はありますか? ぺこ 半年くらい話し合って、それこそ間違っているんじゃないかと思ったことも何回もあったし、いっぱい泣いたし……なんだろう……もしもりゅうちぇるが私と出会う前に、完全なありのままの自分で生きているとしたら、私と出会っていなかっただろうな、とか、そうなると息子とも出会っていなかっただろうなと思うんです。  だけど、過去のことを遡っても仕方ないことで、それでもこうやって一緒にいれるということは素晴らしいことだと思っている。この形を大切にしていきたいというのが今の私の気持です。  ステキな夫婦になろうね、といって積み上げてきたものを、ゼロに壊れるのではなくて、そこから新しく土台をつくって、またステキな新しい良い家族にやっていこうね、といまから積み上げてやっていけばいいと思っています。 ※続きは後編、【夫婦が告白】4歳息子「ぼくはハッピーだよ」夫婦関係解消のryuchellとpecoを受け止めた (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋をひもとけば、根幹に流れる“解釈”が見えてきた。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。 *  *  *  タッパーのなかで散らばる小松菜。ラップで区切ったハンバーグとラタトゥイユ。詰めたというよりは、ぶちこんだように見えなくもない。  タレントでキャスターのホラン千秋さん(33)は、自身のブログやインスタグラムに手作り弁当を載せている。だが、ぱっと見、流行(はや)りの「映え」とはまるで対極。どんと横たわるきゅうりのぬか漬けに、スカスカのとうもろこしご飯──。そんな自由な弁当が注目されている。 「自分では、お弁当の見た目がひどいなんて思ってもいなかったんです」  と、笑うホランさんだが、ファンやフォロワーの間では「鬼ヤバ弁当」として愛されている。  そうなったきっかけは? 「1食分の料理を作るのって難しいじゃないですか。ほうれん草がぱらぱらと入っているお弁当は、2日くらい保存容器として使って、その最後の1食分を冷蔵庫から出して持っていっただけなんです。どっちも同じ容器だから、詰め替える作業を省略すれば時短になります」 ■「残飯みたい」と言われ  ある時、ブログのネタに困り、目の前にあった弁当を載せた。 「そしたら『残飯みたい』とコメントがきて。母親も、『私がこういうお弁当を作っていたって勘違いされるじゃない』って戸惑っていました。私としては、キラキラしたデコレーション弁当と同列だとは思わないけれど、“あるもので工夫したお弁当”には変わらないよなという感覚だったんです」  料理好きだというホランさん。一つひとつのおかずはどれもおいしそうで、ラザニアなど手が込んだものもある。ただ、その盛り付けは、ときに質素で、ときに豪快。当初はビジュアルについて散々な言われようだったが、次第に変化し始める。 「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」  きらびやかな弁当がSNSに並ぶなか、おかずが1色しかない弁当を恥ずかしく感じる人がいることにハッとしたという。だが、最近では「白米とミートボールだけ」といったシンプルな弁当がコンビニでヒットしていると伝えると、机をバンッと叩いて切り出した。 「何であのお弁当は歓迎されるのに、同じような私のお弁当は『うわぁ』ってなるんだ!って思うんですよ。その気持ちの差がどうして生まれるのかを考えたとき、同じものを作っても、家庭での努力は過小評価されがちだって気づいて」 ■「衣装選び」はパズルだ  たしかに、弁当箱には「こうあるべき」という思い込みを詰めがちだ。だが、ホランさんは違う。小さな箱のなかに「宇宙が広がっている」とたとえる。 「そりゃ私だって、心と時間と脳みそに余裕があれば、『曲げわっぱでのっけ弁』を作ってみたいって願望もあります。全部違うおかずにして、紫キャベツや青じそで彩りや仕切りを加えるとか。でも、寝たいし、頑張りたくないし、韓国ドラマだって見たい。人生の優先順位をリスト化したら、『お弁当をきれいに作る』というのはそれらの欲望よりも下のほうにあって。お弁当作りの優先順位が高い人ももちろんいると思いますし、それはそれで素敵だと思うんです。ただ、他人にあわせて自分が高くする必要はないですよね」  目の前にあることに優先順位をつけて、てきぱき判断する。その考え方は、弁当作り以外にも垣間見える。  平日の夕方、週5日間キャスターを務める「Nスタ」では、1週間分の衣装がまとめて用意されるという。トップニュースがスポーツやエンタメの明るい話題のときは、ピンクや黄色など、暖色系の洋服を。事件や事故など、悲しいニュースが続く日は落ち着いた色を自分で選んでいる。 「ときに、大変なニュースが続いてしまった週の後半には、明るい色しか残っていないということもありうるので、そうならないためにどう組み合わせるか、バランスを見ながら衣装のパズルをしています」  一つ質問するたびに、明快でユーモアの交じった答えが飛び出す。秒単位で動くニュース番組でも、そのスキルはいかんなく発揮。相方であるTBSの井上貴博アナウンサーとともに、落ち着きながらもときにアツく、しっかり的を射た“コメント力”が人気を博している。さらに、今秋からはバラエティーの新番組でMCに抜擢された。 ■バカ笑いできる「瞬間」 「今でも私の“ホーム”は長いこと育てていただいたバラエティーだと思っています。バラエティーの仕事は楽しいし、バカ笑いできる瞬間ってすごく大事だと思っているんです。ニュースとバラエティーって雰囲気に振れ幅がありますが、切り替えは特に意識していません。スタジオに入ると、自然と番組ごとの私に切り替わっているのだと思います。それぞれの番組に合わせてチューニングすることで、どんなジャンルの仕事でも対応できるタレントでありたいです。それに、この数年は皆さん大変なことが多かったですよね。そんなとき、私の場合は半ば強制的に明るい瞬間を持ってくることで、重たい空気にのみ込まれないよう、ニュートラルな場所に私を引き戻してくれるのが、バラエティーの現場。だから、とっても大切なんです」  20代の頃は悩みもあった。強烈な才能と個性にあふれる芸能界で、自分の価値がどこにあるのかわからなくなったことも。 「平凡な私にできることはあるのだろうかと、自信を持てない時期がありました。でも、“普通”が求められることもあると気づいて楽になりました。私たちタレントは“本人”としてテレビに出るので、本来持っている以上のものは出せないと思っています。一時的に取り繕えても、継続は難しい。今も天才的な才能や実力はないし、自信をなくすときもあります。そんなときは、こんな自分を信じてくれる人の声を信じればいい。その積み重ねが、毎日笑いながら仕事ができる日々に続いています」  だからこそ、「自分」を偽らない。 「それに、私のお弁当みたいに自分が普通だと思っていたことが、周りからするとそうじゃなかったということもありますからね(笑)。ありのままでいることが、一番大切なのだと思います」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2022年9月26日号

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    編集者が激やせ 横尾忠則も快調になった導引術とは?

     芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、導引術について。 *  *  *  以前、わが家にミンネという猫がいた。このミンネが病気になって、食欲もなく、痩せ衰えて、骨と皮だけで立体感のないまるで平面の板切れが立っているような姿になってしまった。近所の獣医の先生も「今夜辺りが最後ですので病院で死なせますか、家に連れて帰られますか」と死の最後通達を出されてしまった。どうせ死ぬなら家で、と連れて帰ることにして、一晩中僕のベッドで添い寝することにした。  その時、フト、以前習った導引術のことが頭をかすめた。両方の手の平を強くこすると熱くなる。熱くなった手の平をミンネの腹の両方からソッと抱くように当ててみた。手の熱を感じたのか、ちょっと驚いた表情をしたが、すぐ気持ちよさそうな顔に変わった。そんな「お手当て」療法を一晩中、何度も手をこすりながら、朝まで看病を続けた。すると、朝方、起き上がれないはずの身体なのに自力で起き上がろうとした。そしてベッドから降りようともした。もしや導引術の効果では、と僕は大喜びした。そしてミンネは一命をとりとめて、その後、数年間延命した。  さらに、もう一匹のルンという猫は顔の半分に大きい腫瘍が出来た。病院に連れていく前に、再び、手の平を温めて腫れ上がった頬に「お手当て」をしてみた。すると、異変を感じたのか、後ろ足で患部を掻きむしった。すると皮膚の一部が破けて、中から膿の塊のようなものが大量に飛び出した。その結果、病院にも行かないで、きれいに完治してしまった。ミンネとルンを導引術の施術で治した僕は獣医になれるかもと秘かに思ったものだ。  導引術を初めて知ったのは親しい編集者からだった。ある日、彼がひょっこり展覧会場に現れた。肥満体の彼が驚くほどスマートになっていた。「病気でもしたの?」と聞くと、「一度横尾さんも試してみて下さい。健康になります」と言っていわき市の日本道観へ行きましょうと、電車の切符まで用意して、僕をそこの道場に案内してくれた。彼の痩せた原因は導引術をやった結果だという。導引術は中国の古代の医術で、文化大革命までは権力者のみが利用する秘密の健康法だったのが、文化大革命以後現在は民間にも解放されたと彼はいわきに行く道中、僕にその導引術の歴史や施術法についてこんこんと説明した。  着いた道場には宿泊施設もあって、そこの道長から僕は直接導引術を習うことになった。人の手を借りずに、全て自分の手足を動かしながら、足を揉んだり、按腹したりするだけで、どの動作を行うのも、例の猫にしてやったように、手の平を摩擦しながら、様々な動作を30分たらずで終える。あんまり簡単なので、僕はあっけに取られてしまったが、夕食時に急に気分が悪くなって自室に戻った。その後、頭が痛くなったり、吐き気をもよおしたりして、少々びっくりした。道長は「ちょっと効き過ぎたかな? それにしても素直な身体ですなあ」と、僕のようにこんなに即効性のある人はいない、と妙に感心されてしまった。  一緒に行った友人も、導引術の即効性に驚いていた。この夜は僕の身体の異変とシンクロしたのか一晩中、天候が荒れて、暴風雨が道場の建物を襲った。一夜あけたら、昨夜と打って変わってピーカンである。だけど、窓から外を見ると、田畑は浸水して、道路も水没、まさに昨夜の僕の身体の異変をそのまま、自然が体感したような風景に変わってしまっていた。  やがて水も引き、僕の肉体もすっかり快調になっていた。僕はいっぺんに導引術の虜になって、この日以来、1、2年間は毎日、1日に2回、30分たらず、海外旅行先でも行った。僕の教わったのは基本的な導引術だが、これで十分である。わが家の2匹の猫にも通用した導引術は、別に猫用の導引術ではないが、死にかけていた猫が再生したのは、導引術の宇宙的エネルギーが動物にも作用したのではないかと思った。  身体の部分に変調をきたすと、日本道観にメールをして、新たな導引術を教わったり、自力で治したり、いつの間にか導引術そのものが自分の主治医のようになってしまった。僕は西洋医学と東洋医学の両方に興味があるので西洋医学の他力と東洋医学の自力を自由に活用している。  僕は昔から貝原益軒の「養生訓」を座右の書として、旅行には必ず携帯する。「養生訓」もそうだが、導引術も心と肉体を切り離してはいない。心を入れかえるというのは非常に難しいが、導引術は肉体を改造する(悟らせる)ことによって精神をも悟らせるという効用がある。精神主義によって心に影響を与えるのではなく、導引術という肉体主義によって精神まで変えてしまうというのである。禅は坐禅という肉体行為を通して悟りに至らしめるが、導引術にも共通するものがあるのかも知れない。先ず導引術の効用は身体を動かすことによって病気の原因になるストレスを解放してくれる。そして導引と一体となっているのが呼吸法である。導引の動作と呼吸は不離一体の関係である。 横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰※週刊朝日  2022年10月7日号

    週刊朝日

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    阪神、中日、広島は“将来の大砲候補” 各球団「ドラ1」で狙いたい選手【セ・リーグ編】

     高校生、大学生のプロ志望届提出者の公開もスタートし、10月20日のドラフト会議に向けての話題も多い時期となってきた。各球団、これから候補選手の最終的な絞り込みを行うこととなるが、現在のチーム事情などを考えて1位指名で欲しい選手は誰なのか考えて見たいと思う。今回はセ・リーグの6球団だ(順位は9月8日終了時点)。  まず最下位に沈んでいる中日は昨年のドラフトではブライト健太、鵜飼航丞と大学生の外野手を上位で指名したが、今年もチーム事情を考えるとまずは打てる野手が最優先となりそうだ。特に優先すべき能力は長打力となるが、すべてのカテゴリーを通してホームランバッターとしてのポテンシャルが最も高い選手としては内藤鵬(日本航空石川)を挙げたい。身長180cm、体重100kgの“おかわり”体形でパワーももちろん飛び抜けたものがあるが、それ以上にスイングに悪い癖がなく、柔らかさがあるのも魅力的だ。気になるのは同じサードに年齢も近い石川昂弥がいることだが、石川がセカンドを守れることと、ファーストを守る助っ人のビシエドも年齢的にベテランとなっているため、ポジション的な重なりはそれほど考えなくて良いのではないだろうか。  現在5位の巨人はリーグワーストのチーム防御率(3.81)が課題となっているが、それでも投手陣は期待の若手たちが多く伸びてきており、内野も外野もレギュラーが高齢化していることを考えると、まずは野手を狙いたいところだ。チームを大きく変える意味でもやはり誰もが認める大物選手が欲しいところだ。そうなると先日に1位指名の可能性が報じられた浅野翔吾(高松商)が最適な人材と言えるのではないだろうか。本人は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームであればある程度ホームランも狙うことができ、また外野手登録で右打ちの選手が少ないというチーム事情にもマッチしている。岡本和真以来となる甲子園の大物スター獲得に期待したい。  4位の広島はここ数年、大学、社会人の投手を中心に指名している。8月のスカウト会議では、白武佳久スカウト部長が外野の右の大砲を補強ポイントとして話しているが、その需要に最もマッチする今年の候補と言えば森下翔太(中央大)になるだろう。1年春には早くも大学日本代表に選ばれており、当時の代表候補合宿ではナンバーワンのスイングスピードをマークしている。課題だった確実性もこの春は打率3割をクリアし、自己最多となる3本塁打を放つなど成長を見せているのもプラス材料だ。7月には大学日本代表のオープン戦で死球を受けて右手を骨折するアクシデントに見舞われたが、既に復帰しており、体の強さも備えている。そういう部分も猛練習で知られる広島向きの選手と言えるだろう。  3位の阪神はここ数年、投手も野手も大物選手の獲得に成功し、若手は非常に充実している印象を受ける。その中でも強いて将来的なことを考えての補強ポイントを挙げるとすれば右の強打者タイプとなりそうだ。大山悠輔も来年で29歳となり、23歳以下では井上広大しか見当たらないだけに、右の大砲候補を狙いたい。そうなるとこれまでにも名前の出た内藤鵬(日本航空石川)と森下翔太(中央大)の2人が有力候補となる。どちらかを選ぶとなれば、土のグラウンドで内野の守備力が問われるということを考えると、外野手の森下の方がチームにはマッチしているのかもしれない。もし1位は投手でということになっても、右の強打者タイプを1人は狙いたいところだ。  昨年の最下位からリーグ2位につけているDeNAだが、戦力的には万全と言えず、補強ポイントは少なくない。やはり気になるのが先発投手の太い柱となれる候補が少ないところだ。昨年も1位で小園健太を指名しているが、一昨年1位の入江大生はリリーフタイプだけに、左右問わず長く先発を任せられる投手をまず狙いたい。年齢構成的には高校生を狙いたいが、今年は小園レベルの大物は不在なだけに、筆頭候補として挙げたいのが荘司康誠(立教大)だ。本格化したのは4年春からで、即戦力というには少し完成度は物足りないものの、スケールの大きさは抜群。意外に器用で変化球も悪くない。タイプ的にも先発向きに見えるだけに、ぜひ狙いたい選手である。  リーグ連覇が見えてきた首位ヤクルト。近年多くの投手を上位で指名し、それなりに戦力にはなっているものの、絶対的なエースは不在の状況は続いている。期待の大きい奥川恭伸も怪我の影響もあり今年停滞していることを考えると、やはり先発タイプの投手を真っ先に狙いたいところだ。DeNAのところで挙げた荘司も有力候補だが、より安定感のある先発候補としては金村尚真(富士大)も面白いのではないだろうか。地方リーグ所属ながら、実績は抜群で特にコントロールは大学球界でも1、2を争うレベルにある。常に結果を残し続けており、故障がないというのも大きな魅力だ。タイプ的にも小川泰弘の後継者としてマッチしそうな人材である。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    【沖昌之】仲間を連れてきたサバ白猫「友だちなんだ。よろしく頼むニャ」

     主に外猫を撮影し、猫の自然な姿をとらえた写真が人気の猫写真家・沖昌之さん。「今週の猫しゃあしゃあ」では、そんな沖さんが出会った猫たちを紹介します。今回は「よう、こいつ新入り!ひとつよろしくな!」をお届けします。  *  *  *   宮城県・田代島での一幕。この日は、サバ白が色んな猫にちょっかいをかけていて、このキジトラもちょっかいをかけられては逃げ回っていました。逃げた先に仲良しの長毛の白黒がいたので、あいさつのキスをしようと立ち止まっていたところ、背後からサバ白に追いつかれたところです。でも、写真で見るとそんな風には見えず、新入りを紹介しているさわやかな感じに見えませんかね? ◎沖昌之(おき・まさゆき)/猫写真家。主に外猫を撮影し、猫の自然な姿をとらえた写真が人気。写真集『必死すぎるネコ』は5万部超えのベストセラー。その他の写真集に『明日はきっとうまくいく』『ぶさにゃん』『残念すぎるネコ』など多数。Instagram:@okirakuokitwitter:@okirakuoki※AERA 2022年10月3日号

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    アントニオ猪木さん 最後まで見せた「燃える闘魂」 イラクへの人質救出「オレが行くしかないだろう」

     「燃える闘魂」で知られる、元プロレスラーで参院議員を2期務めたアントニオ猪木(本名・猪木寛至)さんが10月1日、東京都内の自宅で死去した。79歳だった。 「ただ絶句するばかりです。みんなに勇気を与えていただき、本当にありがとうございましたとお礼を言いたいです」  沈痛な表情でそう語るのは、猪木さんが政界進出を最初に果たした「スポーツ平和党」の元参院議員で野球解説者の江本孟紀さん。  猪木さんは、日本にプロレスの礎を築いた力道山さんに見いだされ、プロレスラーとしてデビュー。ジャイアント馬場さんとしのぎを削り、日本にプロレスを根付かせた。  プロレスだけではなく、異種格闘技戦にも乗り出し、ボクシングのヘビー級世界チャンピオン、モハメド・アリさんとの死闘は、全世界でテレビ中継され、今も語り草になっている。  リングで数々の死闘を演じてきた猪木さん。1989年にスポーツ平和党を立ち上げ、その年の参院選に「国会に卍(まんじ)固め」というスローガンで立候補。予想を覆して100万票近い得票で当選し、戦いの場をリングから政界に移した。  なかでも猪木さんの「現場主義」「燃える闘魂」が存分に発揮されたのは、1990年8月のイラクのクウェート侵攻で、アメリカなどの多国籍軍が参戦した湾岸戦争だった。  当時、イラクの在留邦人は、「人質」のような形で出国が認めらず、日本では連日のように大きなニュースになった。  だが、日本政府は具体的な行動には移せず、批判が高まった。猪木さんは、自らが設立した新日本プロレスのレスラーを引き連れて、イラクのバグダッドに乗り込んだ。そこで開催された「平和の祭典」でリングを組み、プロレスの試合を披露した。その場には、在留邦人の「人質」も観戦にやってきた。  それまでかたくなだったイラク。それから間もなく、猪木さんのアッと驚く「プロレス外交」という行動力が評価されたのか、イラクは「人質」の出国を認めたのだ。  多国籍軍がイラクに攻撃をはじめたのはそれから1カ月ほどしてから。まさに、ギリギリのタイミングだった。  筆者は30年以上も前だが、プロレスの専門誌でアルバイトをしていた。当時は猪木さんが全盛期で、興行について歩いたこともあった。猪木さんが参院議員となったとき、筆者は週刊朝日の記者となっていた。  議員会館に猪木さんをいきなり訪ねると、 「ええ? ここでプロレスのことかい」  とビックリしていたのを思い出す。日を改めて、イラクの「人質救出」について聞くと、 「プロレスじゃなくそんな取材もするんだ? 当時は、日本で早く人質を助けろと世論が沸き上がっても、政府は何ら具体的な行動はしない。それなら、オレが行くしかないだろう。なぜ、人質の救出ができたか? そんなの簡単だ。燃える闘魂。これで十分だろう」  と笑っていた。  細かなことは説明せず、深刻そうな話でも、人懐っこい笑顔とワンフレーズで決めるのは、さすが猪木さんだった。  だが、政治の世界でも順風満帆とはいかなかった。借金問題など、何度もスキャンダルに見舞われた。 「猪木さんが当選した3年後の参院選で、私がスポーツ平和党から出馬して議員バッジをつけたくらいから、スキャンダルの話がちょいちょいありました。借金問題はとりわけ深刻だったようです。猪木さんの事務所には怖そうな借金取りが来ていたとも聞きました」  前出の江本さんはそう話した上で、 「そんな話を聞いた翌日です。朝早く議員会館に行く途中、もくもくと走っている人がいる。猪木さんでした。借金問題が騒がれていたので、『大丈夫ですか』と聞いたら『小さなことだよ』と言いながら黙々とスクワットしていました。とにかく、人間が大きい人でした。だから、日本政府がビビッて何もできないのに、イラクに乗り込んだりできるんですよ」  と振り返る。  一度、政界から身を引いた猪木さんは、プロレスの世界へと戻った。モハメド・アリ戦に代表されるように、猪木さんは抜群のアイデアでプロレス界を盛り上げた。  筆者の印象に強く残っているのは1987年の巌流島(山口県下関市)の戦いだ。無観客でレフリーもおらず、リングもない草っぱらで、猪木さんはマサ斎藤さんと戦った。夕方くらいから始まり、暗くなってからはかがり火をたいて戦った。  この戦いについて猪木さんに聞いたところ、 「あれは、確か藤波(辰爾・新日本プロレスの看板レスラー)が誰かにそんなアイデアを話していたのが聞こえてきた。面白いとひらめいた。藤波がやりたそうだったが、ビビっときて、俺がやったほうがいいと。巌流島には船でしか行けなかったはずで、興行としてはどうかという人もいた。プロレスの関係者とマスコミだけでやったほうが神秘的というか、それもいいなとひらめいた」  と教えてくれた。  猪木さんには、スキャンダルのことも聞いたが、どんな時も嫌な顔をせず、逃げることもなく質問に答えてくれた。  2013年、参院選で2度目の当選。だが、19年の任期満了で政治家を引退した。  話を聞きにうかがったときは、昔の猪木さんのような迫力がなく小さく見え、車いすに乗っていることが増えた。 「俺も年かな」  寂しげに笑っていたので、 「猪木さんの元気さ、はつらつさが今の政治には必要なんですよ」  と伝えると、 「そう、元気を出さないとな」  とガッチリ握手してくれた。それが猪木さんにお会いした最後だった。  近年は心臓の難病「全身性アミロイドーシス」を患い、入退院を繰り返していた。猪木さんの親族の一人は、 「体調が悪くても、自ら元気な姿を届けたいとYouTubeまではじめて、『元気ですか』『ダー!』と病室や自宅でもやっていました。ただ、最近はその元気もなくなっていました」  と話した。  最後まで「燃える闘魂」の猪木さん。お疲れ様でした。合掌。 (AERA dot.編集部・今西憲之)

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

    週刊朝日

    17時間前

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    「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

     今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。  センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。 *  *  * 「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」  東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。  夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。  身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。  具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。  夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。  A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。  誰に迷惑をかけるわけでもない、あくまで二人の間の問題だ。交際期間を含め、誰にも悩みを打ち明けたことはない。性交ができなくても、互いへの愛情に変化があるわけではなく、穏やかな日常を過ごしていた。  ところが、その誰にも言えない悩みが、A子さんが35歳の誕生日を迎えた頃から深刻味を帯びてきた。夫婦ともに「子どもが欲しい」という気持ちが強まっていたからだ。  街で子どもを見かけたら、「かわいいね」「うちも子どもがいたら楽しいだろうね」「私たちは……」という会話に自然となる。A子さんの後に結婚した友人も含め、同年代はベビーラッシュ。  子を持つ友人とランチをすれば「少しでも早く産んだ方が、子育てがラクだよ」、「35歳を過ぎたら妊娠率が下がるらしいから、早めに妊活を始めた方がいいよ」などと、悪気のないアドバイスが向けられる。「早く孫の顔が見たい」という親や親戚からの無邪気な声もプレッシャーだ。  そんな中、A子さんは「私たちは妊娠するステップの“入り口”にも立てていない」と焦りを募らせるようになった。  私たち夫婦のように「性交できない」という同じような悩みを持って妊活している人がいないのか、ネットで探したこともある。妊活のノウハウとして出てくるのは排卵日近辺に性交する「タイミング法」をはじめとした、性交ができる前提の情報ばかり。 「自分たちの状態がいかにマイノリティなのか、思い知らされたような気がした」  というA 子さんは同時に、年齢とともに卵子の老化が進むことや、タイムリミットという壁が存在することも知り、余計に焦りに火がついた。 「子どもが欲しいなら、性交ができるようにならないといけない」  思いが強まる中で、しばらく遠のいていた挑戦から、再チャレンジの日々が始まった。「何とかできるようになりたい」との一心で挑戦を重ねるも、どうしてもうまくいかない。このままだと時間が経つばかりで、自然に子どもを授かることは難しいままだ。  藁をもすがる思いで門を叩いたのが、不妊治療を行うクリニックだった。不妊治療を専門とするクリニックに、性交を一度もしたことがない夫婦が行くハードルも「相当なものだった」(A子さん)が、ネットの口コミで「些細なことにも耳を傾けてくれる先生」とあったのが背中を押した。  3年間の交際期間、6年間の夫婦生活の中で、一度も性交が実現していないこと。自分たちなりに試行錯誤を続けているが、どうしてもうまくいかないこと。妊娠を希望するようになって、今の状況に強い焦りを感じていること……。相手はいくら医師と言えども、初対面の他人に話すには、とても勇気がいる内容だった。  医師はゆっくりうなずきながら、顔色ひとつ変えずに話を聞いていた。その後、医師から発せられた言葉は意外なものだった。 「珍しいことではありません。今、そういう方がとても多いんですよ」  医師が言うには、同じように性交ができないという悩みを抱えて相談に訪れる夫婦は決して少なくないという。主に女性側の問題である「挿入障害」や、男性側の問題である「勃起障害」や「射精障害」、さらに性的な興奮が起きないなど、いわば性反応がうまく起こらない状態を総称して「性機能障害」と呼ばれることを知った。  A子さんの場合には、典型的な挿入障害にあたり、少しずつ慣らしていくことで改善されるケースも少なくないという。 「ただ年齢を考えると、あまり悠長なことを言っていられないのも事実です。性交渉の代わりになる手段を並行して試すことから始めましょう」  医師から提案されたのが、採取した精液を、針のない注射器=シリンジを使って膣に注入する「シリンジ法」と呼ばれる方法だ。Amazonなどの通販サイトなどでも手軽に入手することができ、ここ数年で妊活に使用するカップルが増えている。  タイミング法と同じく、排卵日近辺に行うことで、性交渉と同程度の確率で妊娠が期待できるという。使用するシリンジを見ると、膣内に入る部分は柔らかなゴム製で、太さは女性の指より細い程度。A子さんも「これなら、私でも大丈夫かもしれない」と思えた。実際、シリンジは問題なく挿入することができたことから、シリンジを用いたタイミング法に挑戦し始めている。A子さんは言う。 「いつまでも挿入ができない私は“異常”なのだと落ち込んでいましたが、先生の言葉で救われた。シリンジ法でネット検索すると、たくさんのカップルが活用している方法のようで、必ずしも性交しなくても妊娠の手段はあることに、まずは一安心。どうかこの方法で妊娠してほしいと願っています」(A子さん)  複数の医師によれば、性機能障害を持つカップルに共通するのは、性交はうまくいかずとも夫婦仲が良いこと。妊娠したいという希望を機に、医療機関を受診するケースが多い。不妊治療の浸透によって、不妊相談が一般的になってきた中で、「性交ができない」という悩みが表面化しやすくなったこともある。不妊外来で患者と向き合う千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)も言う。 「今の時代、“性交と妊活は別物”と考えた方がうまくいきやすいかもしれません」  晩婚化や女性の社会進出、共働き、現代の生活習慣、デジタルの普及……「性交ができない」妊活の背景には、さまざまな問題が絡み合っているようだ。こうした中で、「子どもは自然に授かるべきもの」と思い込み過ぎると、時に自分たちを追い詰めてしまうことにもなるかもしれない。  A子さんが受診した医師が「珍しいことではない」と言うように、性交を試みてもできない夫婦は少なくない。後編では、性交をパスして妊活に進む「セックスレス妊活」の葛藤や悩みについて。(松岡かすみ) 後編も読む→【年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは】

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    「五輪汚職」アスリートはなぜ沈黙? 元ラグビー日本代表が指摘する「当事者意識の欠如」のワケ

     五輪汚職事件が明るみに出る中、選手やスポーツ界は沈黙を貫いている。元ラグビー日本代表で、神戸親和女子大学教授の平尾剛氏は諸問題の原因は選手にもあると言う。「五輪汚職」を特集したAERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  * ──コロナ禍での開催の是非をめぐって世論が二分する中、無観客で強行開催された東京五輪・パラリンピック。開催前にも、メインスタジアムの国立競技場建設計画が巨額費用の問題視により白紙撤回され、公式エンブレムは盗用疑惑で使用中止に。さらに大会組織委員会の会長だった森喜朗氏が自身の女性蔑視発言の責任をとって辞任するなどさまざまな問題が噴出した。そして開催から1年たったいま、汚職事件が次々と発覚し、五輪への不信感が再び高まっている。  元ラグビー日本代表で神戸親和女子大学教授の平尾剛さん(47)は、五輪をめぐる諸問題の原因は選手にもあると指摘する。 平尾:新型コロナウイルスによる開催延期や森喜朗氏の会長辞任など、昨夏の東京五輪は開催前からさまざまな問題が指摘されていました。あれから1年以上がたち、贈賄問題まで発覚。関係者の逮捕が相次いでいます。 ■見過ごしてきた結果  なぜ、五輪の闇がここまで肥大化してしまったのか。アスリートや指導者など、スポーツ界全体が「おかしさ」を見過ごしてきた結果だと思っています。  僕自身も含めて、内部から適切な批判ができなかったから、どこから手を付けていいかわからないほど問題が大きくなってしまった。ここでしっかり膿(うみ)を出し切らないといけません。 ──不祥事に批判が集まる一方で、当事者であるアスリートの声はほとんど聞こえてこなかった。なぜ、選手は自分の言葉で語らないのか。 平尾:新幼い頃から競技に打ち込んできたアスリートたちは、社会から隔絶された存在です。一つのことに打ち込むことが美徳とされ、生活のなかでスポーツが占める割合も圧倒的に多い。当然、周囲も関係者ばかりになり、そこで純粋培養されてしまうんです。  そうして、アスリートの多くは、異論を唱えるよりも、置かれた環境でベストを尽くすという思考に染まる。酷暑であっても最大限の準備をしてパフォーマンスを発揮すべく努力するし、「暑い」と指摘するのは意見ではなく言い訳で、“負け犬の遠吠え”だと考えている。この価値観が発言を思い留まらせていると思います。  思春期になれば、競技だけでいいのかと人生に悩む場面もあります。でも、「体育会」と呼ばれる過度な上下関係のなかでは違和感を言葉にする機会はほとんどありません。「勝ってから考えるべきだ」「ごちゃごちゃ言わずにやれ」という空気があるし、実際にそういったことを言う指導者もいます。  一心不乱に練習することが結果に結びつく側面はもちろんあります。ただこれは、裏を返せば自分で考えることを放棄しているのに等しい。それに、社会で起きている問題を考えるには、その背景や事情、また歴史を知っておく必要があります。でも、多くのアスリートは学業より練習を優先して上り詰めてきた。だから競技以外に自信が持てず、「自分は無知だ」と自己肯定感が低かったりする。 ■旧態依然の男性社会 ──一方、世界のアスリートはどうか。東京五輪では、テニス世界ランキング男子1位(当時)のノバク・ジョコビッチ選手らが酷暑を指摘し、試合時間変更を要求。陸上女子砲丸投げで銀メダルを獲得した米国のレーベン・ソーンダーズ選手は表彰式で「X」のポーズをとり、抑圧された人々への連帯を示した。 平尾:新海外を見渡せば、自分の意見を表明するアスリートが多くいることに気がつきます。自分たちが持つ影響力に自覚的で、積極的に発信している。でも、日本ではほとんど見当たりません。社会そのものの同調圧力が強いので、社会的な発言に二の足を踏んでしまうのだと思います。  ですが、日本人選手が誰一人として発言しなかったわけではありません。五輪開催の是非が問われていたときは、陸上の新谷仁美選手や水泳の松本弥生選手がSNSなどを使って複雑な胸の内を明かしました。五輪に対してネガティブな発言をすることで協会から睨(にら)まれるのではないかという不安もあったはずで、とても勇気がいったと思います。元アスリートで当時JOCの理事だった山口香さんも開催ありきではない、大会のあり方の見直しを訴えました。 ──五輪に対して意見した国内のアスリートを見ると、女性が多いことに気づく。一方で、森氏が女性蔑視発言で辞任する前の2021年2月時点で、組織委の理事は35人のうち、女性はわずか7人だった。 平尾:新男女という区別をつけるのはよくありませんが、スポーツ界には旧態依然の男性社会がいまだに息づいています。日本ラグビー協会が昨年6月まで協会理事を務めていた谷口真由美さんをけん責処分にしたことが問題になっていますが、ここにも年功序列などの時代遅れと言わざるを得ない価値観があります。  本来チームスポーツでは、試合中に先輩だからと過剰に気を使う人がいるチームは勝てないんです。いざというときには自らの判断でプレーを選択する自立した人間が集まるからこそ、勝利を掴みとれる。ラグビー協会でも、実績のある元選手が理事を務めているのに、組織に入った途端に顔色をうかがうばかりになるのはなぜか、それが不思議で仕方ありません。 ■世間が求めるイメージ ──汚職事件について、選手から声が上がらないことに、平尾さんは憤りを感じているという。 平尾:新たとえるなら、自分の家が火事になっていて、かなり燃え広がっているような状態だと思うんです。今の状況がいかに深刻なのか、スポーツ関係者は薄々わかっていると思います。なのに、自分の競技団体への飛び火を恐れているのか、遠くから様子をうかがうだけで何もしない。そのくらいスポーツビジネスの闇は深い。 ──発言しない背景にはスポンサーや世間がアスリートに求めるイメージも影響していると指摘する。  日本社会には、スポーツ選手に対してある種のさわやかさを求める風潮がありますよね。勝っても驕(おご)らず、負けても潔しとするその態度が美しいし、健気で一生懸命に困難を乗り越える姿に感動する。そこに社会的発言や政治的発言はそぐわない。スポンサーにとっては、さわやかな存在でいてくれたほうが扱いやすいし、お金になる。いわば選手を商品に見立てているわけです。ただ、アスリート自身もそれを自覚したうえで、利用している面もあります。  昨今、アスリートのセカンドキャリア教育が盛んですが、サッカーや野球をはじめトップ選手以外は引退後にどうやって食べていくかは死活問題です。何か発言することでイメージが悪くなり、スポンサーが減ったり、事務所に所属できなくなることは避けたい。ここからスポーツを利用して生きていかねばという考えになり、本質的な問題につい見て見ぬふりをしてしまう。  それに、たとえスポーツ界の構造に違和感を持っても、どう対処していいかわからなければモヤモヤは募るばかりです。だったら違和感を受け入れて生きていくほうが楽だとなってしまうのでしょう。 ■外に目を向けてほしい ──選手たちの「当事者意識の欠如」の先にあるものは何か。 平尾:新当事者なのに何も言わないというのは、アスリートやスポーツそのものの価値を下げることと同義です。コロナで社会が大変な状況に陥っていたにもかかわらず、意見すら言えないのはやはりおかしい。当事者意識が欠如したアスリートばかりでは、スポーツ自体が社会から見向きもされなくなる。それを懸念しています。  そうならないためにも、アスリート自身が変わり、また、スポーツ関係者も危機感を持たないといけない。トップを目指す選手が意見できる空気をつくっていかなければなりません。  アスリートには、スポーツの外側に目を向けてほしい。さまざまな職種に就く人や、そもそもスポーツに興味がない人とも接する。僕自身もラグビー以外の世界を見たことで、自分を客観視することができました。チームメートはもちろん大切ですが、競技一本というのは美談でもなんでもないことを伝えたいです。 (構成/編集部・福井しほ) ※AERA 2022年10月3日号

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    “ラジオ界の宝”ピストン西沢の「GROOVE LINE」、24年半の歴史に幕 「ラジオのために生まれてきた」

     J-WAVEの人気番組「GROOVE LINE」が9月29日に終了する。「自分がやりたいことができる環境をつくってきた」というピストン西沢さんの24年半とは、どんなものだったのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  あと十数秒で放送が終わる9月1日の夜7時前、ピストン西沢さんが言った。 「そうだ、この番組、今月いっぱいで終了です」  突然の終了宣言にリスナーはざわつき、DREAMS COME TRUEの中村正人さんは「ピストン西沢はラジオ界の宝。」とブログに投稿した。番組にはアーティストからの出演希望が相次いだ。スタジオでは物心ついたときから聴いていたというチャラン・ポ・ランタンが涙し、石井竜也さんが絵を贈るなど、ラスト1カ月はゲスト満載、祭りのような放送が続いている。  一貫してハイテンション、独特のトークとDJミックスで人気を集めるピストンさんは24年半、J-WAVEの夕方の時間を走り続けてきた。同じナビゲーターが続ける番組でさらに長いのは、同局ではクリス・ペプラーさんの「TOKIO HOT100」しかない。聴取率は6月の首都圏ラジオ聴取率調査(ビデオリサーチ)で同時間帯トップだし、スポンサーもついているが、10月からの新番組編成のために終了することになった。 「ラジオの自分は店じまいして、他の自分が今度はメインになるというだけの話です。やりたいことがいろいろありますから」  とピストンさんは語る。 ■ADから始めた努力家  そもそもバイリンガルのナビゲーターが主流のJ-WAVEに、なぜピストンさんが出演することになったのか? 「脳科学者にも言われたんですけど、僕は小さい頃から今まで子どもが興奮しているような状態がずっと続いてるんですよ。うるさい子どもだったと思うし、我慢しないと社会でうまくやっていけないことはわかっていたから、自分の能力でごはんが食べられるところを目指したんです」  選んだのは音楽の道だった。通産省(当時)の官僚だった父親が薦める企業には行かず、ディスコで、今でいうクラブDJをしていた。番組の初代プロデューサーで当時を知る杉山博さんは、 「彼がターンテーブルミックスを始めると客が集まってきてフロアがぎゅうぎゅうになるんです。とんでもなく人気のあるDJでした」  しかし、ピストンさんにはディスコより放送局の水が合っていた。声をかけられてFM横浜の深夜番組で初めてマイクの前に座り、J-WAVEのパーティーでDJをしたときに自らプレゼンして番組制作に携わるようになる。杉山さんは、 「人気DJなのに、一から番組作りを学びたいと言ってADから始めました。努力家で、でも振り切った面白さがあるやつなんで、スタッフの中でも瞬く間に知れ渡り、裏方よりしゃべったほうがいいんじゃないか、となったんです」 ■少しずつ陣地を拡大  1993年頃から番組に出演し、最初はですます調で真面目に話していた。3週目くらいに、留守番電話にリスナーが入れた鼻歌の曲名を当てる企画を始めた。ピストンさんは振り返る。 「それから番組がうまく回り出しました。僕は制作者としての勘が働いたから生き延びた。どうしたら面白くなるか、自分で矯正していったんでしょうね」  そして98年に「GROOVE LINE」がスタートした。ゲストをいじったり、リスナーとの電話を途中でブチッと切ったりと、J-WAVEらしくない、やんちゃな番組は評判になった。とはいえ、最初から好きなように話せたわけではない。局内には歓迎しない人もいた。 「昨日の放送でいいと言ってくれる人が局の中に1人増えたと感じたら、今日はもう少し言ってみようと、少しずつ陣地を拡大していきました。自分がやりたいことができる環境を作ってきたんです」  とピストンさん。傍若無人に聞こえるトークの裏には緻密な思考がある。松尾健司プロデューサーは、 「ただ話しているのではなく、番組が面白いのか、リスナーは喜んでいるのか、スポンサーがどう思っているかまで、360度が見えている。そんな人はそうそういません」  台本には曲名くらいしか書かれていない。あとはピストンさんが臨機応変に言葉を繰り出す。リスナーが飽きたと察すれば、すかさず言葉や行動で刺激する。ピストンさん自身も、 「僕がディレクターとして自分を見たら、これだけラジオに合ってるやつはいないと思いますね。ラジオのために生まれてきたやつだとも言えます」  人気は過熱し、2009年にHMV渋谷での公開生放送が終了するときには、ファンがフロアを埋め尽くした。  番組にはリスナーから日々1千通、2千通に上るメッセージが届く。ピストンさんはそこから世の中の動きやリスナーの思いを敏感に感じ取ってきた。  東京都板橋区でお好み焼き店「みりおんばんぶー」を営む佐々木拓・麻子夫妻は、仕込みをしながら番組を聴いて17年になる。投稿で番組とつながり、東日本大震災、麻子さんの病気、コロナと、危機に瀕するたびにピストンさんに励まされて乗り越えてきた。  番組での紹介でリスナーが来店するようになり、18日には17人が集まってリスナー会議が開催され、「最後まで番組を盛り上げていきましょう!」と乾杯した。参加したラジオネーム「Mr.ハラキリ」さんは多い日には50通ものメッセージを投稿し、10年間で4670回以上、番組で取り上げられた。 ■リスナーに寄り添う  やはりリスナーにはおなじみの「野球道」さんは仕事中にもネタを考え、生活が番組中心に回っているほど。他の番組より採用のハードルが高いだけに読まれたときの喜びは大きい。 「ピストンさんは一瞬のうちに順番を入れ替えたり、セリフ調にしたりして、より面白く味付けして読んでくれる。そのすごさは投稿した本人にしかわからないんですよ」  20代の「右手にコーラ」さんはトラック運転手をしていた5年前に番組を聴き始めた。毎日30通を投稿するが、採用されなくても番組を盛り上げる一助になればいいと言う。 「ピストンさんには恩があるんです。電波越しにDJの面白さを教えてもらって2年前に機材を買って練習を始めました。今はクラブでDJをしています」  ナビゲーターのトーク力は非常時に試される。東日本大震災後の不安な日々の中、いつものピストンさんの声にホッとした人は多かった。リスナーの気持ちに寄り添った情報発信は高く評価され、ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞している。  コロナで世の中が硬直したときも話題をそらさず、周りに感染した人はいますか、療養中のあなたに電話しますよ、と呼び掛けた。 「僕の中でラジオの重要な部分はやはりコミュニケーションなんです。みんなで同じ気持ちを味わって気が楽になったり、勉強になったり。共有と拡散です」 ■「今、すっごい自由」  今後、やりたいことの一つがSNS、YouTubeでの交流だ。たとえば、悩みや相談事をみんなで考える。生きている上で抱えているものを軽くしたり、やりたいことを我慢しない生き方を探すヒントになればいい。  番組終了後の同時間帯にはタカノシンヤさんと藤原麻里菜さんによる新番組「GRAND MARQUEE」が始まるが、ピストンさんの声は日曜夜7時の「DRIVE TO THE FUTURE」で引き続き聴くことができるし、YouTube配信も始めている。 「長くやっていて一番の大敵は自分に飽きちゃうことなんです。番組終了が決まってから急に楽しくなっちゃった。今まで番組継続に悪影響があるものは自分の中でアウトと縛ってきたけど、もう関係ないもんね。今、すっごい自由ですから」  28日は秀島史香さんと2人で進行する。29日の最終日に何が起きるかはわからない。(ライター・仲宇佐ゆり)※AERA 2022年10月3日号

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    年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは

     約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代であるにもかかわらず、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期集中連載「不妊治療の孤独」。第1回前編では、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実例を紹介したが、後編では、年々増加傾向にある “セックスレス妊活”について。 前編も読む→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】 *  *  *  今、性交を試みても「できない」という夫婦が少なくないという。“セックスレス”が聞かれるようになって久しい今、“セックスレス妊活”という言葉も聞かれるようになった。  一般的な不妊症の定義は「妊娠を希望し、避妊せずに性交しているのに一年以上妊娠しない状態」だが、性交できない人の不妊外来受診が珍しくない現在。ここで言う「性交できない」は、いわゆるセックスレスではなく、「性交したくても何らかの理由でできない」状態を指す。  夫婦のどちらか、あるいはどちらもが性交の経験がなく、対処法が分からずに深刻に悩んでいるケースもあれば、「友人みたいな関係で性交する気分にならないけれど、子どもが欲しい」という声も珍しくない。 「“妊娠を希望しているが、性交ができない”という悩みを抱えて訪れる方が多い」  とは、元日本性科学会理事長で、性機能障害に悩むカップルが数多く訪れる性外来で、30年にわたってカウンセリングを行っている婦人科の大川玲子医師。こうしたカップルは増加傾向にあるものの、相談できる場所が少ないのが深刻な課題だという。 「できれば“子どもを自然に授かりたい”という思いで、性交ができるようになりたいという方が多いものの、セックスに関するカウンセリングを行なっている病院はかなり数が絞られます。晩婚化が進む中、妊娠を望むなら、性交の段階であまり時間をかけていられないという判断から、いきなり不妊治療を選ばれる方も少なくない」(大川医師)  大川医師の性外来を訪れる女性の多くが、体の問題はないのに挿入を伴う性交渉ができない“挿入障害”を抱えている。妊娠したくても挿入できないことが切実な問題となって駆け込まれる方がほとんどだという。 「挿入障害は、性器を含めたスキンシップは問題なくできるのに、膣に触れられそうになると突然体をこわばらせてしまうような状態です。基本的に心因性の疾患になります」(大川医師)  相談者に共通している不安が、「処女膜は最初の性交渉で破れ、血が出る」という“処女膜神話”への過度なとらわれだという。これが「性交渉=出血するほどの痛みを伴う」という思い込みを生み、女性に強い恐怖感を抱かせていることが多い。その結果、性交渉しようとすると骨盤底筋、特に膣周囲の筋肉を、本人の意思とは無関係に収縮させ、膣を閉じてしまうのだという。 「無意識の力というのは強いもので、女性が仮に“力ずくで挿入して欲しい”と思っても、実際は足を閉じて全身で抵抗するので挿入できません」(大川医師) 「性交ができない」という性機能障害における治療の柱の一つが、不安や緊張、恐怖によって抑制された性反応を取り戻す心理的なものになる。性行為の際の体の反応や、不安や恐怖が挿入を妨げる仕組みについても、医師から説明を受ける。加えて、個々の症状に合わせて苦手な行為を少しずつ練習し、抵抗感を減らす行動療法を行う。挿入障害の場合には、挿入への過度な恐怖を取り除くため、挿入の練習を段階的に行い、徐々に慣らしていく。 「行動療法では、まずは自分の指を膣に入れてみることから始めます。初めは膣の入り口に触れただけで、痛いと手を離してしまう人もいますが、落ち着いて感覚に集中すると“痛いのではなく、違和感だ”と気づく。違和感を我慢して練習していくうちに、指を通じて膣の構造を感じ取れるようになる」(大川医師)  性機能障害は、不安や緊張が引き起こすことが多く、体に意識を向けてリラックスすることも重要だ。ただ「リラックスしなくては」という思いがかえって緊張させる場合もある。緊張感が拭えない人には、「手や足が重い、温かい」など副交感神経が優位のリラックス状態を思い浮かべ、意識を体に向ける「自律訓練法」を取り入れることもある。  本番であがってしまうアスリートなども取り入れている手法で、訓練によって実際に温感などを得てリラックスした状態になれる。このほか、膣の無意識収縮を和らげる方法には、尿もれ予防などで知られる“骨盤底筋運動”も組み合わせると良いとされる。  挿入障害の場合、月経が順調で排卵もあれば、前編で紹介したAさんのようにシリンジ法を取り入れるのも妊活の一つの手だ。クリニックで販売しているところもあれば、通販サイトなどでも手軽に手に入る。シリンジを用いることで、タイミング法のハードルを下げることにもつながるため、性交が問題なくできるカップルでも活用する例が少なくないという。 「シリンジ法は自宅でできますし、結果は膣内射精と変わりません。私の患者さんでも、排卵のタイミングでシリンジ法を行うようになって、数回で妊娠した方もいます」(大川医師)  女性の性機能障害は、なぜ起こるのだろうか。患者の特徴には、思春期の頃から性的な話題をタブー視し、性=悪いことといったイメージを強く持った人が多い傾向にあるという。大川医師は言う。 「そうした意味では、教育環境にも原因がある。例えば挿入障害における処女膜神話など、教育の中で性交や性反応について正確な情報を教える流れができていないことで、誤った情報が先走っている傾向もある。それが性交渉へのマイナスな向き合い方につながっているようにも感じます」  一方、挿入障害を抱える人が婦人科を訪れた場合、子宮や卵巣、膀胱、直腸などがある骨盤内部と膣を触診する「内診」が高いハードルになることがある。診察器具も含めて性器への挿入を恐怖と感じる人も少なくない。 大川医師の性外来にも、不妊外来での内診ができず、「不妊症としての検査や治療ができない」という理由で来院する人が増えていると言う。妊婦健診の中でも、婦人科検診が終始できないという人もいる。不妊外来 で多くの患者と接する千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)は言う。 「婦人科の診察に対して、緊張する人や不安が大きい女性はたくさんいます。不安感が強い人は、事前に伝えてもらえると、患者さんによって診察方法を変える対応もできるので、怖がらずにぜひ相談してほしい」  千村医師のクリニックでは、挿入障害の患者が訪れた場合、膣の萎縮や閉塞を緩和させる目的の「膣ダイレーター」を用いて、自宅で練習する指導なども行っている。また子宮頸癌検診や膣内部の視診などにも用いられる「膣鏡」と呼ばれる診察器具の小さなサイズを用いて、診察の中で少しずつ慣らしていくこともあるそうだ。千村医師は言う。 「性交渉が毎回できることが当たり前ではないという認識を持つことも大事。“子どもを作るために性交できるようにならないといけない”と思うと、余計に追い詰められかねません」  晩婚化が進む中、性交実現のために要する期間があまりに長期化すると、妊娠そのものが難しくなってしまいかねない。前出の大川医師の性外来では、治療を一年で “卒業”する人もいれば、10年にわたって通っている人もいるという。そうした中で、「性交ができるかどうかより、妊娠を優先したい」と、人工授精や体外受精など、性交によらない妊娠の技術を持つ不妊治療クリニックに切り替える人も少なくない。 「性外来を受診する人が、内診ができる程度になると、性交より妊娠を優先する人も多い。その時に、性外来も並行して続けたいという希望を持つ人もいますが、原則として並行しての治療はお勧めしていません。不妊治療はかなり集中力を要しますし、性外来での治療も自己との闘いで神経を使うからです」(大川医師)  生殖医療が発達し、性交渉がなくても妊娠に至るケースが増えている現在。晩婚化が進む中で、妊娠という目的のみを考えると、性交渉ができる・できないに関わらず、一足飛びで進みたくなる気持ちも当然理解できる。  その一方で、性の診療という分野からは、「性交=妊娠のためだけのもの」という流れになりすぎていないかと懸念する声も聞かれる。この葛藤は、“子どもは自然に授かりたい”という自然派信仰的な思いと、生殖医療である不妊治療との間に揺れる、当事者のせめぎ合いにも通ずるものがある。そのせめぎ合いを抱えるのは、女性のみならず男性も然りで――。(次の記事に続く) 前編はこちら→【「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み】

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    「伝統校vs新興校」中学受験でどっちを選ぶのが正解? 専門家の答えは

     中学受験家庭を悩ませる、受験先の学校選び。校風や難易度のほか、「伝統校と新興校のどちらがいいか」を選択の基準にするという声もよく聞かれます。中高一貫校の取材経験が豊富な教育ジャーナリストのおおたとしまささんは、伝統校と新興校の二項対立を「思い込みを前提にした図式」と評します。両者の違いは?親が知っておくべきポイントは?『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)から、一部を抜粋して紹介します。 ■伝統校の魅力はブランドだけ?   中学受験の志望校選びに関して「伝統校と新興校とどちらを選ぶのがいいと思いますか?」と聞かれたことが何度かありました。最初は質問の意図がわかりませんでした。古い学校を伝統校と呼び、新しい学校を新興校と呼んでグループ化することはわからないでもないですが、そこに価値の対立みたいなものがあるとは私自身思っていなかったからです。  でも何度かそんな質問を受けているうちに、ようやく真意がわかりました。そういう問いを立てるひとたちはどうやら、「伝統校のブランドをとるか、新興校の先進的な取り組みをとるか」という二項対立の図式を、思い描いているようなのです。  伝統校の魅力はブランド力だけで教育の中身は古くさいものだけど、新興校は新しい取り組みをしていてこれからの時代に役立つ具体的なスキルを身につけさせてくれるのではないかという思い込みを前提にした図式です。  なんだかいろいろなものがこんがらがっていて、ときほぐすにはちょっと手間がかかります。 ■ハビトゥスかシラバスか  まず、伝統校であっても教育の中身は常に刷新し続けています。いわゆる名門校といわれるような伝統校ほど、教員の裁量が大きいので、教員がそれぞれに時代の空気を感じながら自ら研鑽し、授業内容を常にアップデートしています。校長が「学校改革だ!」と旗を振らなくても、学校全体として自然に時代に合わせた変化を続けています。それが学校のあるべき姿です。  でもそれ以上に、長い歴史のなかで培われた学校文化が、伝統校の価値です。文化は必ずしも明文化できません。毎日そこに通って、その学校の空気を吸うことで、理屈を超えたところで生徒たちに学校文化が染み込みます。創立されて10年や20年の学校にはない教育力が伝統校にはあります。  生徒たちの生き方に影響を与える学校文化のようなものを、社会学の用語では「ハビトゥス」と呼びます。伝統校あるいは名門校と呼ばれるような学校は、このハビトゥスが強力なのです。各学校のハビトゥスは「○○高校らしさ」「○○高校っぽさ」のような言い方で、世間にも認識されます。  一方、できたばかりの学校あるいは歴史はあっても経営者が替わって校名まで変えて完全リニューアルしたような学校には、まだ確たるハビトゥスがありません。ですから、高い大学進学実績を掲げたり、先進的なグローバル教育やICT教育を掲げたりして、アピールします。ハビトゥスの代わりに「シラバス」(学習計画表)の特異さで勝負しているわけです。  では、塾顔負けの大学受験対策を行ってくれる学校がいい学校なのか、珍しいグローバル教育やICT教育や探究学習を取り入れていればいい学校なのか。それは伝統校か新興校かの選択とは別の話です。  なんとなく新しく見えてきらびやかな教育が好みならば、そういうシラバスを掲げる学校を選ぶのも悪くはありません。でも、目新しい教育が狙い通りの成果をもたらすかどうかは、やってみなければわかりません。そのことを十分に理解してから選んでください。 ■学校は時とともに成長する生命体  拙著『子育ての「選択」大全』(KADOKAWA)の序章で詳しく述べていますが、中高生の時期は、中世・近代の人類の追体験をすべき時期です。  その観点からいえば、何百万円もするような最新の実験器具を使った大学生顔負けの理科実験をするよりも、昔ながらの顕微鏡やフラスコを用いた前近代的な実験を行うほうが、のちのち最新鋭の機器を使いこなす科学者になるとしても、大切なのではないかと思います。  同様に、中高生のうちは、起業家のまねごとをするよりも、しっかりと論語や万葉集(中世・近代ではないですけど)を勉強しておいたほうが、将来グローバルなビジネスパーソンになるとしても、大切ではないかと思います。  伝統校の教員たちはもちろん、新興校であっても、教養のある教員はそういうことをわかっています。学校説明会ではド派手なことを言っていても、実際にはむやみやたらに表面的な新しさや派手さを追いかけたりはしません。そのほうが本当の意味で子どもたちの将来のためになるとわかっているからです。  私が伝統校推ししていると思われるかもしれませんし、実際そのとおりなのですが、ある意味当然なんです。だって、一般論として、わが子を預けるなら、経験が浅くて実績もないのに声だけ大きい若造よりも、経験豊かで実績もあるのに謙虚に語るベテランの先生のほうが安心できるじゃないですか。学校も同じです。  一方で、自分が先駆者となって新しい学校文化をつくっていくんだという気概で新興校に入るなら、それはそれで、十分に意味あることだと思います。新しい学校でしか経験できないこともあるはずです。  学校は、ただのハコではありません。時とともに成長する生命体のようなものなのです。 (教育ジャーナリスト・おおたとしまさ)

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    Aぇ! group「今が推しどき」「這いつくばってでも前に」 初アリーナでたてたファンとの誓い【メンバー詳細コメント】

     あの悔しさは、たしかに晴らした。  今年7月、関西ジャニーズJr.のAぇ! groupが出演するはずだったライブ「Summer Paradise 2022」がメンバーのコロナ感染で中止になったとき、SNSには人気チケットを手にしていた人々の悲痛な嘆きがあふれた。大切なファンを悲しませてしまったことは、誰よりも6人のメンバーたち自身が心を傷めたにちがいない。すぐに公式ブログ上で発表されたコメントの数々は、「その気持ち俺たちが責任持って請け負います」「もっと大っきくなって東京突撃します」「絶対に6人でまたリベンジするからな」「浮気せずに待ってて」などと精いっぱいファンの心に寄り添っていた。  そして、約束はすぐに果たされた。9月28~29日、単独ライブ「西からAぇ!風吹いてます! ~おてんと様も見てくれてますねん LIVE2022~」を開催。しかも会場のぴあアリーナMMは、7月のライブで予定されていたTOKYO DOME CITY HALLの約4倍のキャパシティを持ち、ユニット単独では記念すべき“初関東&初アリーナ”公演となった。さすが、オリジナル曲「Stray dogs.」で「We’re like a stray dogs」とシャウトしているメンバーたち。ハングリー精神で、見事にピンチをチャンスに変えた。  28日のライブ当日。大舞台に立った6人は、終始、うれしくてたまらないといったキラキラな笑顔を投げかけた。そして、ときに髪を振り乱して全力で踊り、ときにマイクが割れるほど必死に叫び、頻繁に本場・関西仕込みのハイレベルなコントを炸裂させた。観客たちは必死でペンライトを振ってボルテージを上げたり、ほほえみながら見守ったり、まさに“おてんと様”よろしく暖かに6人を包み込んでいた。  関西ジャニーズとしての誇りを胸に、しっかりと爪痕を刻み付けたメンバーたち。フィナーレでは、それぞれ自らの言葉を噛みしめるように、“次の約束”を口にした。 草間リチャード敬太 えー本日は皆さん、ご来場で、ごらい、噛んじゃったー(笑)。ご来場いただきまして、誠にありがとうございました。僕たちAぇ! groupにとって初となる単独アリーナ公演、どうでしたか?[会場拍手] ありがとうございます。もうそれ以上の拍手を僕から送りたいです(笑)[自分でも小さく拍手]。このね、曲もそうですし、コントもそうですし、もうみんなで一体となって手振ってる感じ、ペンライトばーって振ってる感じ。めちゃめちゃ楽しい。めちゃめちゃ綺麗やし。みんなが出し切ってくれるこの、この感じがすごく伝わってきます。それに負けへんように僕もうわーってやってたら、バテそうになりました(笑)。いやでも、ほんまにそこで感じるエネルギーってすごいなって思うので、これからも僕たちにエネルギーを届けてください。僕らからもエネルギーを送ってます。エネルギーを交換しあいましょう。またこういう場を持てるように僕たち頑張っていきますので、ここからも一緒に上を目指して楽しく歩んでいきましょう。 福本大晴 Aぇ!のライブとしては1月に関西Jr.のライブやってからかな? 本当に久しぶりって感じがして、みんなのペンライトが見えた瞬間に「あ、やっと会えた!」っていう気持ちがあって。で、そのペンライトがバーって、声出されへんぶん、めっちゃ楽しそうに振ってくれてんのがさー、もうすっごい楽しくて。で、俺らが楽しなってんのを見て、(みなさんも)楽しなってるでしょ、絶対?(笑) だからこうお互いに支えあって、なんか人間してるなって感じがして、本当に最高です。タイトルにもありますけどね、西からAぇ!風吹いてます。その勢いを、本当にめちゃめちゃ感じています。なにわ(男子)がデビューして、(関ジャニ)∞さんは日産スタジアムでライブをやって、ジャニーズWESTさんは東京ドームでライブをして、で、僕たちは今、アリーナに立っています。でもね、僕、Aぇ! group結成してプロフィールのところの夢に5大ドームツアーするって書いてるんすよ。だからこのアリーナはまだ通過点です。その5大ドームツアー、夢叶えた先にもっとでっかい夢が待っているかもしれません。なのでみなさん、夢を叶えるため、僕たちも支えるんで、お互い支えあっていきましょう。 末澤誠也 みんなに本当に感謝です。忙しいのにさぁ、足を運んでくれてね。やって平日やん。なんで平日にライブすんねんって思ったやろ? ……そりゃしゃーない(笑)。でもさ、もっとたくさんの場所でみんなと楽しい時間空間を作りたいなっていうのは今日改めて感じました。僕、あのー、ほんまにAぇ! group好きなんですよ。信頼もしてるし。だから全然不安がなくて。そう、だからね、みんなも俺らのことほんまに信用してほしいね。信用してくれとるって信じてるけどね。俺たち絶対後悔させへんし、Aぇ! group応援しててよかったなって思ってもらえるように、がむしゃらに全身全霊で、プライドかけてやっていきたいなと思ってます。みなさん、Aぇ! group、今が推しどきです[うんうんとうなずきながら、自信ありげな表情]。Aぇ! groupってさ、アホなことばっかりするやん。でもみんなノリに付きあってくれるやん。自分たちが楽しい面白いと思っていることをみんなも楽しんだり笑ったりしてくれてるっていうのがすごい僕はうれしいし、これからもそういう関係でいられたらなと思っております。みんな頼むよ! これからAぇ! groupまだまだいくからね! ここで終わらんよ! これからもずっとついてきてください。 佐野晶哉 本日は「西からAぇ!風吹いてます!~おてんと様も見てくれてますねんLIVE2022~」にお越し下さいまして、本当にありがとうございます。「吹かせます(※昨年まで放送されていた冠番組タイトルから)」じゃないんですからね、「吹いてる」んですから! 吹かせてくれてるのは紛れもなく、僕たち6人ではなくてこの会場、全国世界にいるAぇ!を好きでいてくれてるみんなのおかげです。今年の夏はほんまにたくさんの経験させてもらえた夏で、(関ジャニ)∞さん(ジャニーズ)WESTさんの背中を間近で見させてもらって。今までももちろんめちゃめちゃでかく見えたけど、初めて(ライブで)バックにつかせてもらったら、もうね、MAXだと思ってた憧れの気持ちがもっともっと好きになって。こんな先輩勝てへん、すごすぎるて、って悔しい気持ちもたくさんあるけど、Aぇ! groupにしか出せへん空気感も絶対あると思うし、もし今なくてもこの6人とこのみんなとやったら絶対見つけていけると思ってるし。今年の夏、スタジアムっていう7万人のとてつもなくでかい野外の景色[※7月、関ジャニ∞が日産スタジアムで行ったライブ『18祭』]も見せてもらって、また夢も広がっているので、これから本気で戦っていくので、僕たちについてきてください。 小島健 みなさん、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。もう本当にこのライブ楽しくて。リハやったらただただ走ってるところとかも、みんながおるから俺たちめちゃめちゃ楽しくて。このステージにおるときは、Aぇ! group、無敵になれます。だから今後ね、僕らがこう失敗とかすることもあるやろうし、ちょっと間違えちゃうこともあるやろうし、つまづくこともあってコケちゃうかもしれへんけど、その度に俺たち立ち上がって、それはみんながおるから立ち上がれて、這いつくばってでも立ち上がれんくても、前に進んでいきます。それがAぇ! groupなりの、俺たちなりの王道やと思ってるんで。その道で進んでいくんで、みなさん覚悟決めて俺らについてきてください。これからもよろしくお願いします。 正門良規 改めまして本日はご来場いただき本当にありがとうございました。ちょっと眺めさせてください、この景色を[メンバーカラーの青いペンライトが一斉に振られるのをゆっくり見渡して]。ありがとうございます。いや本当にね、今年はAぇ! groupとしてみなさんに会うことはできないんじゃないかなって考えたこともありました。それがこういう形で実際に顔と顔を見あわせながら、同じ空間で、同じ空気吸って、同じ時間を過ごしてる。これほど尊いことはないなと。みなさんの顔を見てパフォーマンスができる幸せ、ね、声こそ出せなかったり、まだマスクをつけてたりとか、みなさんにご協力していただいている部分もたくさんあるんですけども、みんなでつかみ取った、みんなでここまできたと僕は本当に思っています。小島の名言にもありますが、俺たち全員でAぇ! groupです。みなさまどうぞこれからも末永くもっともっとたくさんの景色を、もっともっとたくさんの思い出を共に作っていきましょう。 雨降って、地固まる。おてんと様がいる限り。 「今が推しどき」なAぇ! groupが表紙を飾る10月4日発売の「週刊朝日」10月14-21日号は、メンバーがこのライブへの意気込みなどを語ったインタビューや、数々の写真で公演の模様を振り返るライブスナップ、そして撮り下ろしグラビアなど、計12ページの大ボリュームでその魅力に迫る。 (本誌・大谷百合絵) ※週刊朝日オリジナル記事

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    “弱点”を補える選手は誰だ? ドラフト補強ポイント【日本ハム・ロッテ・楽天】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在パ・リーグのBクラスに沈んでいる日本ハム、ロッテ、楽天の3球団だ。 *  *  * 【日本ハム】  5位に大差をつけられて最下位に沈んだ日本ハムだが、先発投手は伊藤大海、上沢直之、加藤貴之と安定した3人が揃い、野手も清宮幸太郎、万波中正、今川優馬が二桁ホームランを記録するなど全体的に戦力は底上げされた印象を受ける。その中で補強ポイントを挙げるとすれば、リリーフの強化、将来の正捕手候補、近藤健介の後継者などとなりそうだ。  まず補強ポイント関係なく推したいのが二刀流で注目を集めている矢沢宏太(日本体育大・投手兼外野手)だ。投手としては即戦力としては物足りないものの短いイニングであればストレートとスライダーである程度抑え込める可能性はあり、野手としてはプロでもトップクラスの足と肩を備えている。そして何より投手、野手両面でまだまだ能力の底が見えないというのが大きな魅力だ。ビッグボスからは野手の方が良いという発言もあったが、やはり二刀流に挑戦してもらいたいという声も多い。外野手でメインとして出場し、リリーフでも起用するという新たな形の二刀流も検討してもらいたいところだ。  リリーフは層が薄いだけに比較的早く使える投手を複数狙いたいところだが、2位以降でおすすめしたいのが橋本達弥(慶応大)、小孫竜二(鷺宮製作所)の2人だ。橋本はスピードに加えてカットボール、スプリットという絶対の武器があるのが大きな魅力。小孫は短いイニングでのストレートの勢いはアマチュア全体でも上位で、今年は安定感を増している。2位のウェーバーが早いことから、1位候補にもなっている益田武尚(東京ガス)をリリーフ起用を想定して獲得するというのも面白そうだ。  捕手は年齢構成を考えれば将来性のある高校生を獲得したい。4位以降で狙えそうな選手で面白いのが清水叶人(健大高崎)だ。甲子園の出場こそなかったものの、関東では屈指の打てる捕手として評判で、夏の群馬大会でも打った瞬間に分かる一発を放っている。宇佐見真吾の後継者として期待できる素材だろう。 【ロッテ】  2年連続の2位からAクラス入りが苦しくなっているロッテ。今年の成績を見ると長打力不足が課題だが、ドラフトですぐに解消するのは現実的ではない。また、今年は山口航輝が大きく成長し、二軍でも西川僚祐や山本大斗が結果を残してきているのはプラス材料だ。ポジション的には若手まで見た時に気になるのが二遊間だ。  セカンドは中村奨吾がFA権を取得しており去就が不透明な状況。期待の大きかった平沢大河が伸び悩み、その後も選手を獲得しているが、有力なレギュラー候補は見当たらない。昨年も2位で池田来翔を獲得しているが、できれば将来性のある高校生を狙いたいところだ。一方の投手は佐々木朗希を筆頭に若手に楽しみな選手が多いが、リリーフ陣の高齢化が目立ち、若手は左の本格派も少なく、そのあたりを補強しておきたい。  1位を投手にするか野手にするかで悩むところだが、今年は左投手の有力選手が少ないためまず真っ先に確保しておきたい。最有力候補として推したいのが曽谷龍平(白鴎大)だ。明桜時代は無名だったが大学で大きく成長した大型左腕で、軽く投げているようでも145キロを超えるストレートは勢い十分。課題だった制球力も向上しており、三振を奪う能力も高い。他球団との競合も考えられるが、まず狙いたい選手である。  2位で残っていればぜひ狙いたいのが大型ショートのイヒネ・イツア(誉)だ、攻守とも粗削りだが、運動能力の高さは抜群で、今年の高校生内野手の中でもスケールの大きさはナンバーワンと言える存在である。少し時間はかかるタイプに見えるが、高校2年から3年にかけて急激な成長を見せているところも大きな魅力だ。守備力と早くから戦力になることを重視するのであれば友杉篤輝(天理大)を推したい。小柄だがフットワークの良さは大学球界でも随一で、積極的な走塁と高いミート力も光る。うまくいけば今宮健太(ソフトバンク)のようなショートになれる可能性は十分だ。  リリーフタイプの投手では日本ハムのところでも挙げた橋本達弥(慶応大)、小孫竜二(鷺宮製作所)ももちろん候補だが、手薄な左腕ということで面白いのが林優樹(西濃運輸)だ。高校時代は完全な技巧派だったが、社会人でストレートが見違えるほど力強くなった。高校卒3年目という若さも魅力で、3位以降で残っていればぜひ狙いたい投手である。 【楽天】  ここ数年大型補強を繰り返しながらなかなか優勝に届かない楽天。実績のある選手を多く集めたことでレギュラー陣が高年齢化しているが、特に気になるのが投手陣だ。先発で最も若いのが早川隆久で、それ以外は軒並みベテランと言える年齢となっており、若手の有力候補も多くない。リリーフは抑えの松井裕樹が健在で、他にも若手がそれなりにいるだけに、将来先発の柱になれるような投手を狙いたいところだ。一方の野手も気になるポジションは多いが、特に気になるのがショートだ。小深田大翔と山崎剛は来年揃って28歳となり、その下の世代になると有力なレギュラー候補が見当たらない。最低でも1人はショートの選手を指名しておきたいところだ。  優先順位を考えるとやはり投手ということになる。できれば高校生の大物を狙いたいが、今年は明確なナンバーワンと呼べる高校生投手がいないだけに、筆頭候補はロッテと同じく曽谷龍平(白鴎大)としたい。同じサウスポーでも早川とは少しタイプが違い、まだまだ成長が見込めるというのも大きな魅力だ。曽谷は競合も考えられるだけに次の候補も考えたいが、そうなったら思い切って高校生の門別啓人(東海大札幌)を狙うのも面白いだろう。アベレージは140キロ台前半だが、力を入れると145キロを超え、高校生のサウスポーにしてはコントロールも安定している。甲子園出場経験はないものの、総合的に見て高校生の左腕ではナンバーワンと言える存在だ。  曽谷、門別のどちらかが指名できても、もう1人スケールの大きい投手は確保しておきたい。そこで2位の候補として挙げたいのが安西叶翔(常葉大菊川)だ。サイド気味のスリークォーターから投げ込むストレートはコンスタントに145キロを超え、数字以上の勢いが感じられる。今のチームにいないタイプの投手というのも推したいポイントだ。  3位以降では野手の補強ポイントであるショートのレギュラー候補を狙いたい。ロッテでも挙げたイヒネ・イツア(誉)、友杉篤輝(天理大)以外の候補としては戸井零士(天理)も面白い。180cmの大型ショートで、守備に関してはもう少しスローイングの強さが欲しいが、フットワークとハンドリングは高校生離れしたものがあり、丁寧なプレーが光る。打撃も無駄な動きのないスイングで、パンチ力も十分だ。高校生のショートの候補は少ないだけに、3位あたりで狙っている球団も多いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    阪神、中日、広島は“将来の大砲候補” 各球団「ドラ1」で狙いたい選手【セ・リーグ編】

     高校生、大学生のプロ志望届提出者の公開もスタートし、10月20日のドラフト会議に向けての話題も多い時期となってきた。各球団、これから候補選手の最終的な絞り込みを行うこととなるが、現在のチーム事情などを考えて1位指名で欲しい選手は誰なのか考えて見たいと思う。今回はセ・リーグの6球団だ(順位は9月8日終了時点)。  まず最下位に沈んでいる中日は昨年のドラフトではブライト健太、鵜飼航丞と大学生の外野手を上位で指名したが、今年もチーム事情を考えるとまずは打てる野手が最優先となりそうだ。特に優先すべき能力は長打力となるが、すべてのカテゴリーを通してホームランバッターとしてのポテンシャルが最も高い選手としては内藤鵬(日本航空石川)を挙げたい。身長180cm、体重100kgの“おかわり”体形でパワーももちろん飛び抜けたものがあるが、それ以上にスイングに悪い癖がなく、柔らかさがあるのも魅力的だ。気になるのは同じサードに年齢も近い石川昂弥がいることだが、石川がセカンドを守れることと、ファーストを守る助っ人のビシエドも年齢的にベテランとなっているため、ポジション的な重なりはそれほど考えなくて良いのではないだろうか。  現在5位の巨人はリーグワーストのチーム防御率(3.81)が課題となっているが、それでも投手陣は期待の若手たちが多く伸びてきており、内野も外野もレギュラーが高齢化していることを考えると、まずは野手を狙いたいところだ。チームを大きく変える意味でもやはり誰もが認める大物選手が欲しいところだ。そうなると先日に1位指名の可能性が報じられた浅野翔吾(高松商)が最適な人材と言えるのではないだろうか。本人は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームであればある程度ホームランも狙うことができ、また外野手登録で右打ちの選手が少ないというチーム事情にもマッチしている。岡本和真以来となる甲子園の大物スター獲得に期待したい。  4位の広島はここ数年、大学、社会人の投手を中心に指名している。8月のスカウト会議では、白武佳久スカウト部長が外野の右の大砲を補強ポイントとして話しているが、その需要に最もマッチする今年の候補と言えば森下翔太(中央大)になるだろう。1年春には早くも大学日本代表に選ばれており、当時の代表候補合宿ではナンバーワンのスイングスピードをマークしている。課題だった確実性もこの春は打率3割をクリアし、自己最多となる3本塁打を放つなど成長を見せているのもプラス材料だ。7月には大学日本代表のオープン戦で死球を受けて右手を骨折するアクシデントに見舞われたが、既に復帰しており、体の強さも備えている。そういう部分も猛練習で知られる広島向きの選手と言えるだろう。  3位の阪神はここ数年、投手も野手も大物選手の獲得に成功し、若手は非常に充実している印象を受ける。その中でも強いて将来的なことを考えての補強ポイントを挙げるとすれば右の強打者タイプとなりそうだ。大山悠輔も来年で29歳となり、23歳以下では井上広大しか見当たらないだけに、右の大砲候補を狙いたい。そうなるとこれまでにも名前の出た内藤鵬(日本航空石川)と森下翔太(中央大)の2人が有力候補となる。どちらかを選ぶとなれば、土のグラウンドで内野の守備力が問われるということを考えると、外野手の森下の方がチームにはマッチしているのかもしれない。もし1位は投手でということになっても、右の強打者タイプを1人は狙いたいところだ。  昨年の最下位からリーグ2位につけているDeNAだが、戦力的には万全と言えず、補強ポイントは少なくない。やはり気になるのが先発投手の太い柱となれる候補が少ないところだ。昨年も1位で小園健太を指名しているが、一昨年1位の入江大生はリリーフタイプだけに、左右問わず長く先発を任せられる投手をまず狙いたい。年齢構成的には高校生を狙いたいが、今年は小園レベルの大物は不在なだけに、筆頭候補として挙げたいのが荘司康誠(立教大)だ。本格化したのは4年春からで、即戦力というには少し完成度は物足りないものの、スケールの大きさは抜群。意外に器用で変化球も悪くない。タイプ的にも先発向きに見えるだけに、ぜひ狙いたい選手である。  リーグ連覇が見えてきた首位ヤクルト。近年多くの投手を上位で指名し、それなりに戦力にはなっているものの、絶対的なエースは不在の状況は続いている。期待の大きい奥川恭伸も怪我の影響もあり今年停滞していることを考えると、やはり先発タイプの投手を真っ先に狙いたいところだ。DeNAのところで挙げた荘司も有力候補だが、より安定感のある先発候補としては金村尚真(富士大)も面白いのではないだろうか。地方リーグ所属ながら、実績は抜群で特にコントロールは大学球界でも1、2を争うレベルにある。常に結果を残し続けており、故障がないというのも大きな魅力だ。タイプ的にも小川泰弘の後継者としてマッチしそうな人材である。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    専業主婦の年金を増やすワザ 60代の10年で「月約17万円」をめざせ

     老後資金の頼みの綱はやっぱり年金。今の年金世代に多い専業主婦は、その年金が少額のことが多いが、実は制度をうまく利用すれば60代の10年だけで年金額を相当増やせる。しかも、それは将来の「おひとりさま対策」にもつながる。一石二鳥の年金増額策とは──。 *  *  *  都内に住む専業主婦のAさんは、60歳になるとすぐ地元の年金事務所に行った。 「私の年金は70万円弱しかありません。何でも若いころに未加入の期間があるからとのことですが、夫に聞くとそれが今からでも挽回できるというのです」  Aさんが利用するのは、国民年金の「任意加入」という制度。保険料を支払う必要はあるが、加入すると将来の年金は確実に増える。  Aさんがしみじみ言う。 「毎年来る『ねんきん定期便』を見ては『少ないなあ』と思っていたんです。少しは良くなるみたいですが、いったい、どこまで増えるのか……。世の中、本当に知らないことが多い」  Aさんの言うとおり、世の中は知らないことだらけだ。そして、知らないと「損」をすることが多い。年金の世界では、奇しくもAさんのような「専業主婦」が格好の事例になる。現在、年金世代に差しかかっている女性の多くが若いころに未加入の期間があるからだ。  Aさんは「任意加入」を利用したが、実はほかにも年金を増やせる仕組みがあり、上手に利用すれば60代の10年で相当、年金額を増やせる。おおむね50代以上の専業主婦にあてはまる「年金増額策」を探ってみよう。  この世代の専業主婦は、同じような「人生パターン」を生きてきた人が多い。短大か大学へ進学→就職→数年後、会社員の男性との結婚で寿退社→専業主婦、である。  多くの人が未加入の期間があるとしたのは、国の制度による。1991年3月までは、学生は20歳になっても国民年金に強制加入ではなかったのだ。加入は任意だったから、未加入が圧倒的多数派。したがって、大抵の人は「2年」ほど未加入期間がある。浪人していればそれが「3年」などにのびる。また、その後の生き方しだいで、さらに未加入の期間が長い人もいる。  年金制度の中では、専業主婦は国民年金の「第3号被保険者」になる。20~59歳で、会社員の夫の被扶養者なら「3号」でいられる。いくつか年上のことが多い夫は、今や60代前半は会社で働き続けるケースがほとんどだ。したがって専業主婦も「3号」のまま60歳を迎える人が多い。  さあ、問題はそこからだ。冒頭のAさんが行ったように、国民年金に「任意加入」するところから年金増額策は始まる。 【STEP1 任意加入】  任意加入は、まさに未加入や保険料を納められなかった期間がある人のために設けられている制度だ。一定の条件を満たす本人が申し出れば、60歳から65歳まで最長5年間入れる。ただし、59歳までの分と合わせた加入期間が、国民年金の加入上限である「40年(480月)」に達したら、そこで終了となる。  任意加入できる期間は、今年度の「ねんきん定期便」なら【480月-20歳~59歳の加入月数】で自分のケースがわかる。任意加入しておけば、多くの専業主婦が5年間のうちに「満額」の老齢基礎年金をもらえるようになるだろう。  増える年金額は「1620円×加入月数」で、5年間丸々加入できる人なら最大で年間「9万7200円」増やせる。しかも老齢基礎年金は終身年金だから、それが死ぬまでもらえる。  保険料は今年度は月1万6590円、1年で約19万9千円だ。1年加入すると1万9440円(1620円×12)年金が増えるから、65歳から年金受給を始める場合だとちょうど10年で元が取れる。つまり75歳以上生きると、長生きするだけ得になる。  保険料は口座振替が基本で、まとめて払う「前納」も6カ月、1年、2年と3パターンが用意されている。2年前納だと1カ月弱分の1万5790円もお得になるから、それらを利用すると元が取れる期間がさらに短くなる。  女性は長生きの人が多く、さらに後述する「おひとりさま対策」のことを考えると、60代前半での任意加入は必須といえるのではないか。  その上、国民年金に任意加入すると、さらに年金を上積みできる「資格」が得られる。国が国民年金の加入者向けに用意している「上乗せ年金」に加入することができるのだ。 【STEP2 付加年金・国民年金基金】  上乗せ年金には「付加年金」と「国民年金基金」の二つがある。ともに自営業者など国民年金の第1号被保険者のために用意されている制度だ。59歳まで「3号」だった専業主婦は、任意加入後は「1号」扱いになるため利用できるようになる。  付加年金は、月400円の付加保険料を納めれば「200円×納付月数」の付加年金額を終身受給できる。最大5年間納めても年金額は年「1万2千円」にしかならないが、どんな場合でも2年で元が取れる。  国民年金基金も終身年金が基本だ。ただし付加年金と違って、毎月の掛け金が6万8千円までと高額かけることができる。60歳女性なら、5年間加入できる場合は月2万3750円の掛け金で65歳から年「6万円」の終身年金がもらえる(保証期間15年つき)。ただし、計算してみると元を取るのに「約24年」もかかる。  どちらも59歳までの年金未加入期間が「5年」ある人はともかく、多数派を占めるとみられる「2年」程度では金額的なうまみは少なそうだ。ただし、両方に加入することはできない決まりで、どちらかを選ばなければならない(もちろん加入しない手もある)。  早く元が取れるという観点からは付加年金に軍配が上がる。長寿に自信があり、かつお金の管理が苦手という人なら、国民年金基金を利用してもいいかもしれない。「年金化」しておけば将来、勝手に定期的にお金が振り込まれてくるため、ほったらかしで済むからだ。  さらに、もう一つ、確定年金ではないが、個人型確定拠出年金、いわゆるiDeCo(イデコ)にも加入できる(任意加入している期間のみ)。2017年からの規制緩和で専業主婦も加入できるようになり、今年5月から65歳まで加入できるようになった。  しかし、イデコは投資信託を使っての「積み立て投資」が主だ。最長の5年でも期間が短く、長期投資のメリットを生かせない可能性が高い。したがって加入可能になった17年から始めている人以外は、手を出さないほうがいいだろう。 【STEP3 5年繰り下げ】  任意加入で老齢基礎年金を「満額」にし、一定の上乗せ年金にも加入した上で、余裕がある専業主婦には、ぜひ「とどめ」を刺してほしい。60代後半は年金をもらわずに受給を遅らせる「年金繰り下げ」を実行するのである。  長寿時代を迎え、今年の大改正で上限年齢が70歳から75歳に引き上げられたこともあり、「繰り下げ」は注目を集めている。  何と言っても魅力的なのは増額幅だ。1カ月受給を遅らせるごとに「0.7%」年金額が増える。1年で8.4%、5年で42%、仮に上限の75歳まで受給を遅らせると実に「84%」と倍近くまで増える。1年で1割弱も増える金融商品は存在しない。年金は金融商品ではないが、そんな「高利回り」を国が保証してくれるのだ。  60代後半の5年間繰り下げするだけで「約110万円(月9.2万円)」にもなる優れものだ。 「2年未加入」の専業主婦が65歳から年金受給を始めた場合の年金額は「約74万円(月6.2万円)」だから、月3万円も増えるのだ。 ■「おひとりさま」への効果  これだけでもうれしいが、それが夫が先に死亡した場合の「おひとりさま対策」にもなっている点に注目してほしい。若いころ会社で働いていた時代の少額の老齢厚生年金を持つ専業主婦と老齢厚生年金が月10万円の夫で考えてみよう。  こうした専業主婦世帯では、夫の遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3分を受給することになる。すると、この専業主婦は10万円×3/4で「7.5万円」の遺族厚生年金をもらえる(*)。70歳まで繰り下げた自分の老齢基礎年金「9.2万円」を合わせると月「16.7万円」だ。  一方、何もしなかった場合は、7.5万円+6.2万円で「13.7万円」になる。  総務省の家計調査年報(21年)によると、65歳以上の夫婦無職世帯の総支出は月約25万5千円。2人世帯が1人に変わった場合の総支出は約7割に減るとされるから、平均的家計では「約17万8500円」になる。  先の数字と比べてほしい。何もしなかった場合は月4.2万円も不足するのに、増額対策をほどこした専業主婦だと不足額は1.1万円で済む。年額に直しても13.2万円。おひとりさまの期間が10年続いたとしても、貯蓄が150万円程度あれば足りてしまう。 【STEP4 おまけ】  お金はあって困るものではない。さらに余裕資金があるのなら「積み立て投資」に挑戦する手もある。若い世代が今、我先にと始めている投資法だ。  簡単に言えば、主に世界経済全体を対象にしている投資信託を毎月、一定額購入する投資法だ。成長性を重視するのなら、投資対象は「株式」が主流になる。長期間積み立て続けることで世界経済の成長の波に乗ることを狙うのだ。  国の制度である「つみたてNISA」なら年間40万円まで積み立てできる。60代10年なら400万円まで投資ができ、運用益はすべて非課税だ。 ◇  以上見てきたように、年金の少なさを嘆く専業主婦でも、制度を知り、それを利用できる少しの余裕があれば60代の10年で老後資金を増額できる。ちなみに、国民年金の任意加入の保険料は、夫が会社員なら夫に出してもらおう。全額が社会保険料控除に使えるから、夫の所得税・住民税が安くなる。これまた一石二鳥なのだ。(本誌・首藤由之) *正確には、自分の少額の老齢厚生年金が先に支給され、それと夫の老齢厚生年金の4分の3との差額が遺族厚生年金になる※週刊朝日  2022年10月7日号

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    難関高校に合格者を出す「高校を併設しない私立中」が、自閉症児との混合教育から目指すものとは

     武蔵野東中学(東京都小金井市)は、学校生活を健常児と自閉症児がともに過ごす「混合教育(インクルーシブ教育)」を実践する、国内でも珍しい私立中学だ。普通高校を併設していないため、健常児クラスの生徒は全員高校を受験するが、難関の国公立・私立高校に4割の生徒が進学するという。どんな学校なのか。 *  *  * ■向かい合わせや隣同士の教室  武蔵野東中学校は、全校生徒300人あまりの小規模な学校だ。1学年5クラスのうち、A、Bの2クラスは健常児各30人が在籍。C、D、Eの3クラスは自閉症児各12人の少人数クラスに在籍している。健常児クラスと自閉症児クラスは別課程なので入試も在籍クラスも分かれるが、ABとCDEクラスは向かい合わせや隣同士になっており、廊下に面した大きな窓からは、お互いの様子をうかがうことができる。  3年A組の中平野恵さんは、授業中にふと向かいのクラスに目を向ける。楽しそうに授業を受けている向かいのクラスの同級生の姿を見ると心が温かくなり、「よし、がんばろう」という気持ちになるという。 「朝の掃除や生徒会活動など、一緒に行う機会を日常的に設けています。今はコロナで中止になっていますが、給食もクラスの数人が入れ替わって一緒に食べています」(菊地知恵子校長)  朝の掃除では、床のゴミひとつ見逃さない生徒、電話機のボタンの隙間まで丁寧に磨いている自閉症児クラスの生徒を見守りながら、健常児クラスの生徒が一緒に机を動かし床を掃いていた。  中3の自閉症児クラスの担任、岩本淳二教諭は言う。 「自閉症の生徒にとって同じ年の友だちと一緒に過ごすことは、我々教員からとは違う学びがあります。健常児クラスの生徒の言動や行動から、良い刺激を受けています。同時に、健常児クラスの生徒たちも自閉症児クラスの生徒たちの純粋さやひたむきさに感化されており、お互いに良い影響を与え合っていると感じます」  3年A組の腰原祐哉さんは、入学してから自閉症に対する考え方が変わったという。 「入学前は意思が通じないのでは、と思っていました。でもゆっくりと話せば理解しあえるし、それに集中力がすごい。学園祭などで発表する絵画や工芸作品には、驚かされます。熱心にコツコツと取り組む様子を見て、見習わなくては、と思うことも多いです。  校内のところどころに自閉症児クラスの生徒の作品が飾ってある。色彩豊かで独創的な絵画、根気よく丁寧に仕上げた手芸作品など力作が並ぶ。 「健常児クラスの生徒が作品を見て、『すごい』と評価する。それが自閉症児クラスの生徒たちの喜びや自信となり、自己肯定感に繋がっています」(岩本教諭) ■修学旅行は宿泊も同室  行事では、ともに活動する機会が多くなる。多くのイベントの企画、運営が生徒に任されている同校では、スポーツ大会などの競技も自分たちで考える。ムカデ競走やペア縄跳びなどの競技が取り入れられていて、大会間近になると、あちらこちらで一緒に縄跳びの練習をする姿が見られるという。  幼稚園から高等専修学校まで、息子が武蔵野東学園の自閉症児クラスに通った卒業生保護者のAさんは、「自閉症児に対しての、まわりの生徒たちの理解がありがたかった。年上の生徒がよく声をかけてくれました」と振り返る。 「自閉症といっても障害の程度はいろいろですが、うちの子は比較的運動を得意としていました。スポーツ大会の競技に馬跳びがあったのですが、健常児の生徒が馬になって、うちの子がその上を跳んだんです。息子が何が得意かを考えて、主役にしてくれたんだと思います」  夏休み前の7月のある日、9月に行われる京都奈良修学旅行の事前学習では、3年生の生徒全員が体育館に集まっていた。先生による説明の後、クラスから班ごとに分かれるとき、健常児クラスの生徒は、自閉症児クラスの生徒に声をかけうまく自班に誘導していた。修学旅行では健常児と自閉症児がグループになり、宿泊も同室だ。 「宿泊行事の前には、旅行先でグループになる生徒同士が一緒になる活動を設けて、お互いの理解を深めます。日常的に接しているうちに、健常児の生徒は、自閉症児のできることや個性を引き出すのが上手になりましたね。言葉が少ない生徒には、絵を描いてみようかと誘ったり、一緒に歌を口ずさんだりする姿が見られます」(菊地校長) ■アメリカにも姉妹校開設  武蔵野東学園は、北原勝平、キヨ夫妻が1965年に幼稚園を創立したことから始まる。間もなくして、ある自閉症児の母親が「子どもを入れてほしい」と訪ねてきた。他の園から断られ、武蔵野東幼稚園が最後の頼みの綱だった。キヨは快諾し、やがて「生活療法」という自閉症児の教育方法論を確立する。 「生活療法では、基本的な挨拶やマナー、時間を守るなど、社会生活に必要なことを学びます。一人ひとりの個性を引き出しながら課題を克服していきます。健常児の生徒と一緒に過ごすことは、社会に出てからの付き合い方を学ぶうえで有効です。行事、校外学習を通じて、やっていけるという自信に繋げます」(岩本教諭)  当時在園していた保護者たちからの「上級学校をつくってほしい」という願いを受けて、77年に小学校を、83年に中学校、86年に高等専修学校を開校し、健常児と自閉症児の混合教育を実践。さらに自閉症児の療養プログラムを実施する、武蔵野東教育センターが設けられた。自閉症児教育の評判は海外にも広がり、「米国にも生活療法の教育プログラムを実施する学校をつくってほしい」というアメリカの保護者の強い願いに応じ、87年に姉妹校としてボストン東スクールが開設された。 ■卒業生には五輪メダリストも  ほとんどの私立学校が中高6年の一貫教育を実施しているなか、普通高校を併設しない武蔵野東中学校は、健常児クラス全員が受験を経て高校に進学する。難関高校に進む生徒も多く、2021年度は最難関国立や都立の進学指導重点校、偏差値65以上の私立高校などに、約4割の生徒が合格した。菊地校長は言う。 「12歳で行う中学受験は親の力が必要で、すべてが子どもの意思で、とはいかない。でも15歳なら自分のことを客観的に見ることができるようになり、自分で進路を決められる年齢です。高校受験をきっかけに高校、大学と、自分の将来観を構築することができます」  中学3年間の教育は中身が濃い。2年間で学ぶ基礎力を蓄えて、最後の1年間で一気に受験へと向かう。  特徴的な授業のひとつが1、2年で行う「探究科」だ。1年次の6月からグループに分かれ、教員の示したテーマをゼミ形式で探究する。今年のテーマは「信号のない横断歩道問題」「直感を検証、考察してみよう」など、身近な問題に「問い」を持ち、探究する方法を身につける。1年次の12月からは自分の決めたテーマを探究する。冒頭の中平さんは「色彩計画を利用し、さまざまな建物に合う色を考える」、腰原さんは「過疎化した村を盛り上げよう!」というテーマで1年間の探究活動を行った。  もうひとつの特徴ある授業が「生命科」だ。1年次は友だち関係や将来観、2年次は共生社会や命の尊厳、3年次は平和など、決まった答えのない問題についてもディスカッションを通して考えを深める。教科の授業もユニークだ。教科横断型授業が頻繁に行われ、国語科と英語科の先生がコラボレーションして文法の違いを学んだり、数学科と美術科のコラボで相似の知識から黄金比を求めたりするなど、複数要素の知識が結びついていく楽しさを学ぶという。  同校では宿題が出ないため、生徒は家庭学習を自ら計画し、学ぶ力をつける。3年次になると習熟度別に10人程度のグループに分かれ、放課後や長期休みの講習で受験対策を行う。クラブ活動も盛んで、小規模校ながらダンス部は全国大会で15回優勝、陸上競技部も全国大会の常連、体操競技部もかつては全国大会で活躍し、OGには2020東京五輪銅メダリストで昨年引退した村上茉愛選手がいる。  一方、自閉症児のクラスには独自の授業があり、中学校卒業後は高等専修学校に進学し、将来の社会自立を目指していく。学校で経験の幅を広げ、きめ細かく自立のためのさまざまなスキルを身につけている。 「自閉症児は個性に幅があり、個々に秘めた力がある。自立に向かう中学校時期には、得意なことを伸ばすとともに、不得意なことにも根気よく取り組める力をつけていきます。活気ある集団活動や行事での取り組みから、内に秘めた力が出てくるのも思春期ならでは。健常児の生徒もそんな自閉症児の姿を見て、学ぶことが多い。努力することを軽んじる生徒はいません」(菊地校長) ■「助けてあげる」だけの存在ではない  中平さんは「電車や街で、障害者や困っている人を見たとき、声をかけられるようになった」と話す。将来は、世の中のいろいろなことを発信するテレビ局に勤めるのが夢だ。腰原さんもバスの中で、床に小物を落として大声を上げている人に遭遇したとき、それを拾って「大丈夫ですか」と、渡すことができたそうだ。 「卒業生が訪ねてきたとき、よく『高校には、中学のときのような自閉症の友だちがいなくてさみしい』と口にします。自閉症児との学校生活が、あたりまえのことになっていたのだと思います」(菊地校長)  大学4年になったある卒業生が母校を訪れたのは、就職活動から生じた疑問がきっかけだった。企業説明会で一度も自閉症の人に出会うことがなかった。中学校のとき一緒に過ごした同級生は、いったいどこで働いているのか――。その疑問をきっかけに、卒業論文のテーマを「発達障害者への就労支援」とし、母校の先生に話を聞きにきた。在校生には起業して「障害者が働く会社をつくりたい」という将来像を描く生徒もいる。 「昔に比べると障害に対する理解度は上がっていると思いますが、武蔵野東の生徒が社会に出て経験を広めてくれれば、もっと自閉症の人たちが過ごしやすい世界になると思います」(前出のAさん)  菊地校長も言う。 「健常児の生徒が自閉症児の生徒から得るものは大きい。自閉症の生徒は学校生活の中に欠かすことのできない存在感があり、決して『助けてあげる』だけの存在ではありません。多感な時期に同じ目標に向かう仲間として過ごす。そういう経験をした彼らが社会人になったとき、誰にとっても暮らしやすい共生社会をつくり上げる一助になると信じています」 (文/柿崎明子)

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    母は父に処刑され、自身も処刑寸前に追い込まれ…壮絶な生涯を遂げた“もう一人”のエリザベス女王

    『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は、英国での“二人”のエリザベス女王について「診断」する。 *  *  *  9月8日、英国女王エリザベス2世が崩御された。20世紀から21世紀、激動の連合王国を統治した偉大な君主に追悼を申し上げたい。古くから英国は女王が統治すると発展するといわれてきた。その意味で最初に思い浮かぶのは19世紀、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王であろう。そして次に思い浮かぶのは16世紀にイングランドをヨーロッパの強国の地位に引き上げたエリザベス1世である。 ■二人のエリザベス女王  名は体をあらわすというが、心理学的に人は与えられた名に見合った振る舞いをすることが知られている。我々医師や大学教員には古風な名前の持ち主が多く、映画監督や芸術家には少し変わった名前が多いという研究があるが、出身階級や家庭の教育に加えて、与えられた名にふさわしい行動をとろうと無意識のうちに努力しているのかもしれない。故エリザベス2世の場合、同名のエリザベス1世が名君だっただけに直接の血のつながりはないとはいえ、何らかのプレッシャーを感じていたであろう。  エリザベス1世はテューダー朝2代目、英国ルネサンスを代表する名君かつ暴君であるヘンリー8世の次女として生まれた(1533年)。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンに男児が生まれないことに業を煮やしたヘンリー8世がカトリック教会と決別して離婚、再婚したアン・ブーリンとの第1子であったが、その後も男児は生まれず、父王は2番目の王妃に姦通の濡れ衣を着せて処刑してしまう。その後も王妃たちに理由をつけては離別や処刑を繰り返し、都合6人の王妃との間にエリザベス、エドワード、メアリーの3人の子をもうけた。  ヘンリー8世の後を継いだ王子はエドワード6世として即位するが、生来病弱で、結核(一説には先天梅毒)により15歳で死去、そのあとを継いだメアリは愛する母が離婚されたことを恨んで、カトリックに復帰するとともにプロテスタントを徹底弾圧、「ブラッディ・メアリー」という悪名を残した。母方の親戚スペイン王太子フェリペ(のちのフェリペ2世)と結婚するも子には恵まれず42歳で死去。やっとエリザベスに王位が回ってきた。 ■処刑寸前に追い込まれ  エリザベスは母を殺した父によって庶子の身分に落とされたり、その父を恨む姉によってロンドン塔に拘束されて危うく処刑されそうになったり、若年のころから権力闘争と宗教戦争の恐ろしさを痛感していた。そのために、英国国教会を重んじながらカトリックや清教徒に対する厳しい弾圧は行わず、ドイツや北欧のプロテスタント諸国、カトリックのスペインやそのライバルであるフランスと等距離外交を展開。また女王の配偶者を狙って近寄ってくる貴族たちや諸外国の王族を「私は国家と結婚しています」といって適当にあしらい生涯を独身で通した。その間、フランスにおける新教徒と旧教徒の内戦、スペイン無敵艦隊の襲来など何度も危機があったが、宰相バーリー卿ウィリアム・セシルや海賊出身の名提督フランシス・ドレーク卿などの活躍でこれを乗り越え、英国ルネサンスの最盛期を築いた。  筆者の好きな古楽の世界では、ウィリアム・バードやジョン・ダウランド、アンソニー・ホルボーン、トマス・モーリーなどの作曲家が輩出し、文学の世界では英国史上最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアが活躍したのがこの時代である。  しかし。 「処女王」の称号を守るために生涯結婚せず、エリザベス1世の没後にはライバルだった遠縁のスコットランドのメアリー女王の長男ジェームズ6世(英国王としてはジェームズ1世)を後継に迎えざるを得なかった。  エリザベス1世の偉大な生涯は当然ながら、伯父エドワード8世の退位(有名なシンプソン夫人との恋のために王位を放棄)、そして父ジョージ6世の早逝によって、25歳で王位につかざるを得なかったエリザベス2世に影響を与えたに違いない。しかし、エリザベス1世の寂しい晩年に比べると、多くの子供たちや孫たちに囲まれて最期を迎えたエリザベス2世は幸せだったかもしれない。 ■チャールズという名の国王  さて、母の死を受けて即位した新国王チャールズは、その名を冠するイングランド国王(スコットランド国王としても)3代目である。面白いことに国によって王様の名前に好みがあるようで、フランスでは聖ルイ王(ルイ9世)以来、ルイが多い。太陽王ルイ14世が有名だが、その曽孫でロココの遊蕩児ルイ15世、フランス革命に非業の死を遂げたルイ16世、そしてその弟のルイ18世まで18人もいる。  英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。  チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。  その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。  ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。 ■「ピースメーカー」としての期待  チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。  チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。  チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。 ◯早川 智(はやかわ・さとし)1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など ※AERAオンライン限定記事

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    巨人が“浅野以外”で欲しいのは? ドラフト補強ポイント【中日・広島・巨人】

     プロ野球のドラフト会議まであと約3週間となり、各球団の動向や候補選手についての報道も多くなる時期となってきた。今年は本命らしい本命は不在という印象で、近年多かった事前の1位指名公表も少なくなることが予想されるが、各球団どんな選手を狙うべきなのか。補強ポイントと、その選手がチームにマッチするかという点から探ってみたいと思う。今回は現在セ・リーグでBクラスの巨人、広島、中日の3球団だ。 *  *  * 【中日】  立浪和義新監督が就任し、期待が高かった中日だが最下位が決定的となっており、今年も苦しいシーズンとなった。昨年のドラフトでは長打力不足を解消するためにブライト健太、鵜飼航丞の強打者タイプの大学生外野手2人を指名したが、ともに確実性に大きな課題を残しており、一軍の戦力となるにはまだ時間がかかりそうな印象だ。若手野手では岡林勇希がブレイクし、土田龍空も成長を見せているが、根尾昂が投手に転向となり、石川昂弥も故障続きとなると、やはり今年も野手中心の指名と考えるのが妥当ではないだろうか。  そこで筆頭候補として推したいのが内藤鵬(日本航空石川・三塁手)だ。西武のところでも紹介したが、その長打力は高校生ではナンバーワンであり、今年の候補全体を見ても長距離砲としての素質の高さはトップという印象を受ける。仮に内藤を1位で指名できたとしても、大砲候補はプロで苦しむケースが多いだけに、もう1人くらいは高校生の強打者タイプを狙いたい。  石川、ブライト、鵜飼も右打ちだということを考えると左打者が狙い目になりそうだが、2位で残っていれば狙いたいのが西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)だ。体はそれほど大きくないが、ミート力は高校球界でも1、2を争う存在で、技術で遠くに飛ばすことができる。足と肩も高水準で、広い外野を任せられるポテンシャルも備えている。下位で狙えそうな選手では田中多聞(呉港)も面白い。少し確実性には課題が残るが、大型でパワフルなスイングは高校生離れしたものがある。肩の強さがあるのも魅力だ。  投手では高橋宏斗を筆頭に若手に楽しみな選手は多いが、主力はベテランも多いだけにこちらも柱となれる人材は必要だ。2位で西村が残っていなければ、その枠でスケールのある投手に切り替えるのも一つの手だろう。候補としては先発タイプなら青山美夏人(亜細亜大)、リリーフタイプなら橋本達弥(慶応大)が面白い。青山は長身と長いリーチでボールに角度があり、力を入れた時のストレートの勢いは目を見張るものがある。また未完成な部分も目立つが、スケールでは大学生投手でトップクラスだ。橋本は東京六大学を代表する抑え投手。150キロに迫るストレートにフォーク、カットボールと決め球を複数備えている。ともに完全な即戦力という感じではないが、2年目から一軍の戦力になれるだけの潜在能力は十分にありそうだ。 【広島】  5位の広島は森下暢仁、栗林良吏、森浦大輔など即戦力を期待して獲得した投手がしっかり戦力になっている印象が強い。一方で野手は坂倉将吾、小園海斗の成長はあるものの、鈴木誠也の抜けた穴は大きく、昨年社会人の右打者を獲得はしているが、やはり強打者タイプは必要になるだろう。  高校生であれば内藤鵬(日本航空石川・三塁手)ももちろん候補だが、脚力のある選手を重視するチームであることを考えると少しマッチしないようにも感じる。そこで候補として推したいのが森下翔太(中央大・外野手)だ。東海大相模時代から評判の強打者で、1年春には早くも大学日本代表に選ばれている。その後は少し苦しんだ時期が長かったが、今年の春は打率3割をクリアし、課題の確実性も向上してきた。全身を使ったフルスイングで広角に長打を放つことができ、脚力と肩の強さも備えている。また今年は死球による骨折から早期に復帰するなど体の強さを見せているところも広島向きの選手と言えそうだ。  前述した通り、投手陣は確実に補強されてきているが、高校卒の若手となると遠藤淳志と玉村昇吾しか一軍の戦力になっておらず、二軍まで見ても2年目の小林樹斗くらいしか有望株は見当たらない。そうなると高校生のスケールのある投手を狙いたいところだが、候補としては斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)などが挙げられる。斉藤はたくましい体格から投げ込むストレートが武器で、スピードはコンスタントに145キロを超える。まだ粗削りではあるが、今年の高校生投手ではスケールの大きさはナンバーワンと言えるだろう。  門別はオリックスのところでも紹介したが、スピードだけでなく総合力も高いサウスポー。将来の先発候補として期待できるだろう。大学生でも将来性とスケールを重視するなら仲地礼亜(沖縄大)が面白い。高校時代は無名ではあったが、大学で急成長した本格派右腕で、昨年の大学選手権でも好投している。森下に次ぐエース候補として狙いたい存在だ。 【巨人】  4位に沈む巨人は数字的には投手成績が課題のようにも見えるが、今年プロ初勝利をマークした投手が8人出ていることからも分かるように、今後の成長が楽しみな投手は少なくない。一方で野手は坂本勇人、丸佳浩、中田翔など中心選手にはベテランプレイヤーが多く、数年後には大きくメンバーを入れ替える必要があり、若手の有望株は必要不可欠な状況となっている。  そんな中で9月28日には早くも浅野翔吾(高松商・外野手)の1位指名を公言したが、これはチーム状況を考えても非常に理解できる選択と言える。右打ちの外野手で支配下の選手は外国人のウォーカーを含めて2人しかおらず、内野も含めてもパンチ力のある若手は多くない。浅野自身は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームが本拠地であればホームランを量産することも期待できるだろう。  ただ、巨人は抽選に外れ続けており、その時の選択も重要になってくる。過去には野手を外して投手に切り替えたこともあったが、チーム事情を考えるとやはり外しても野手を狙いたい。そこで、指名されず残っていれば推したいのが松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)だ。将来の正捕手候補としても当然魅力的な人材だが、巨人としては坂本の後釜候補として考えたい。地肩の強さとフットワークは抜群で、長打力十分のバッティングも高校生ではトップクラスだ。浅野、松尾ともに指名できないケースでも中日のところでも挙げた西村瑠伊斗(京都外大西・外野手)や、イヒネ・イツア(誉・遊撃手)など高校生のスケール型の選手を狙いたい。  投手は前述したように楽しみな若手が多いが、リリーフの手当てはしておきたい。4位以降で残っていれば検討したいのが小孫竜二(鷺宮製作所)だ。今年で大学卒3年目だが、短いイニングであれば球威で圧倒することができ、課題だった制球力も確実に向上している。リリーフなら早くから戦力となる可能性は高い。大学生であれば才木海翔(大阪経済大)も好調時のストレートは目を見張るものがあるだけに、セットアッパー候補として面白いだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文 1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋をひもとけば、根幹に流れる“解釈”が見えてきた。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。 *  *  *  タッパーのなかで散らばる小松菜。ラップで区切ったハンバーグとラタトゥイユ。詰めたというよりは、ぶちこんだように見えなくもない。  タレントでキャスターのホラン千秋さん(33)は、自身のブログやインスタグラムに手作り弁当を載せている。だが、ぱっと見、流行(はや)りの「映え」とはまるで対極。どんと横たわるきゅうりのぬか漬けに、スカスカのとうもろこしご飯──。そんな自由な弁当が注目されている。 「自分では、お弁当の見た目がひどいなんて思ってもいなかったんです」  と、笑うホランさんだが、ファンやフォロワーの間では「鬼ヤバ弁当」として愛されている。  そうなったきっかけは? 「1食分の料理を作るのって難しいじゃないですか。ほうれん草がぱらぱらと入っているお弁当は、2日くらい保存容器として使って、その最後の1食分を冷蔵庫から出して持っていっただけなんです。どっちも同じ容器だから、詰め替える作業を省略すれば時短になります」 ■「残飯みたい」と言われ  ある時、ブログのネタに困り、目の前にあった弁当を載せた。 「そしたら『残飯みたい』とコメントがきて。母親も、『私がこういうお弁当を作っていたって勘違いされるじゃない』って戸惑っていました。私としては、キラキラしたデコレーション弁当と同列だとは思わないけれど、“あるもので工夫したお弁当”には変わらないよなという感覚だったんです」  料理好きだというホランさん。一つひとつのおかずはどれもおいしそうで、ラザニアなど手が込んだものもある。ただ、その盛り付けは、ときに質素で、ときに豪快。当初はビジュアルについて散々な言われようだったが、次第に変化し始める。 「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」  きらびやかな弁当がSNSに並ぶなか、おかずが1色しかない弁当を恥ずかしく感じる人がいることにハッとしたという。だが、最近では「白米とミートボールだけ」といったシンプルな弁当がコンビニでヒットしていると伝えると、机をバンッと叩いて切り出した。 「何であのお弁当は歓迎されるのに、同じような私のお弁当は『うわぁ』ってなるんだ!って思うんですよ。その気持ちの差がどうして生まれるのかを考えたとき、同じものを作っても、家庭での努力は過小評価されがちだって気づいて」 ■「衣装選び」はパズルだ  たしかに、弁当箱には「こうあるべき」という思い込みを詰めがちだ。だが、ホランさんは違う。小さな箱のなかに「宇宙が広がっている」とたとえる。 「そりゃ私だって、心と時間と脳みそに余裕があれば、『曲げわっぱでのっけ弁』を作ってみたいって願望もあります。全部違うおかずにして、紫キャベツや青じそで彩りや仕切りを加えるとか。でも、寝たいし、頑張りたくないし、韓国ドラマだって見たい。人生の優先順位をリスト化したら、『お弁当をきれいに作る』というのはそれらの欲望よりも下のほうにあって。お弁当作りの優先順位が高い人ももちろんいると思いますし、それはそれで素敵だと思うんです。ただ、他人にあわせて自分が高くする必要はないですよね」  目の前にあることに優先順位をつけて、てきぱき判断する。その考え方は、弁当作り以外にも垣間見える。  平日の夕方、週5日間キャスターを務める「Nスタ」では、1週間分の衣装がまとめて用意されるという。トップニュースがスポーツやエンタメの明るい話題のときは、ピンクや黄色など、暖色系の洋服を。事件や事故など、悲しいニュースが続く日は落ち着いた色を自分で選んでいる。 「ときに、大変なニュースが続いてしまった週の後半には、明るい色しか残っていないということもありうるので、そうならないためにどう組み合わせるか、バランスを見ながら衣装のパズルをしています」  一つ質問するたびに、明快でユーモアの交じった答えが飛び出す。秒単位で動くニュース番組でも、そのスキルはいかんなく発揮。相方であるTBSの井上貴博アナウンサーとともに、落ち着きながらもときにアツく、しっかり的を射た“コメント力”が人気を博している。さらに、今秋からはバラエティーの新番組でMCに抜擢された。 ■バカ笑いできる「瞬間」 「今でも私の“ホーム”は長いこと育てていただいたバラエティーだと思っています。バラエティーの仕事は楽しいし、バカ笑いできる瞬間ってすごく大事だと思っているんです。ニュースとバラエティーって雰囲気に振れ幅がありますが、切り替えは特に意識していません。スタジオに入ると、自然と番組ごとの私に切り替わっているのだと思います。それぞれの番組に合わせてチューニングすることで、どんなジャンルの仕事でも対応できるタレントでありたいです。それに、この数年は皆さん大変なことが多かったですよね。そんなとき、私の場合は半ば強制的に明るい瞬間を持ってくることで、重たい空気にのみ込まれないよう、ニュートラルな場所に私を引き戻してくれるのが、バラエティーの現場。だから、とっても大切なんです」  20代の頃は悩みもあった。強烈な才能と個性にあふれる芸能界で、自分の価値がどこにあるのかわからなくなったことも。 「平凡な私にできることはあるのだろうかと、自信を持てない時期がありました。でも、“普通”が求められることもあると気づいて楽になりました。私たちタレントは“本人”としてテレビに出るので、本来持っている以上のものは出せないと思っています。一時的に取り繕えても、継続は難しい。今も天才的な才能や実力はないし、自信をなくすときもあります。そんなときは、こんな自分を信じてくれる人の声を信じればいい。その積み重ねが、毎日笑いながら仕事ができる日々に続いています」  だからこそ、「自分」を偽らない。 「それに、私のお弁当みたいに自分が普通だと思っていたことが、周りからするとそうじゃなかったということもありますからね(笑)。ありのままでいることが、一番大切なのだと思います」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2022年9月26日号

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    “目玉なき”今年のプロ野球ドラフト 「サプライズ1位」指名の候補挙げるなら誰だ!

     プロ野球ドラフト会議まであと1カ月を切ったが、毎年のように起こるのが事前に予想されていなかった選手のいわゆる“サプライズ”の1位指名だ。昨年も松川虎生(ロッテ)と吉野創士(楽天)を最初の入札で1位指名として予想していたメディアは皆無だった。  そして今年はどのカテゴリーにも明確なナンバーワンと呼べる選手は不在で、昨年以上に読みづらい状況になっている。それを考えると事前に予想されていなかった選手が1位で指名される可能性も高いだろう。そんな中で、現時点で考えられる“サプライズ1位”となり得る候補はどんな選手がいるのか、探ってみたいと思う。  一昨年は早川隆久(楽天)と佐藤輝明(阪神)、昨年は隅田知一郎(西武)に4球団が競合しているように、即戦力として期待される大学生が人気を集めることが多いが、今年はそこまで完成度の高い選手は見当たらない。社会人も吉村貢司郎(東芝)、益田武尚(東京ガス)が有力候補だが、万全の1位候補と呼ぶには少し物足りない印象だ。そうなると、思い切って将来性に賭けて高校生の優先度を上げる球団が増えてくるのではないだろうか。  高校生では現時点で評価が高いのが投手では斉藤優汰(苫小牧中央)、門別啓人(東海大札幌)、野手では松尾汐恩(大阪桐蔭・捕手)、内藤鵬(日本航空石川・三塁手)、浅野翔吾(高松商・外野手)の名前が挙がり、知名度と甲子園での活躍を重視する声が強ければ山田陽翔(近江)という選択も驚きではないだろう。そして今年の高校生候補は浅野以外にも外野手の有力候補が多く、そうなってくると希少性から優先度が上がってきそうなのが内野手だ。  大学生もリードオフマンタイプは多いものの、パワーのある内野手は少ないだけに、多少粗削りでも高校生の内野手を思い切って1位にする球団が出てくることがあってもおかしくないだろう。そうなると筆頭候補として挙げたいのがイヒネ・イツア(誉・遊撃手)だ。両親がナイジェリア出身で、抜群の運動能力を誇る大型ショートである。甲子園や東海大会の出場はなく、夏の愛知大会も2回戦で敗れているものの、プロからの注目度は高く、多くのスカウトが視察に訪れている。まだまだ攻守とも完成度は低いが、モノになった時のスケール感の大きさでは今年の高校生野手でも屈指だ。大化けすれば、今までにはいないタイプのショートになる可能性を秘めた選手である。  高校生の内野手でもう1人サプライズ1位候補として推したいのが内田湘大(利根商・一塁手)だ。恵まれた体格とパワーに加えてスイングに柔らかさがあり、大きいフォロースルーはスラッガーとしての高い素質を感じさせる。夏の群馬大会でも2本のホームランを放ち、その飛距離は圧倒的だった。  ファーストの選手がそこまで評価が高くなるのかという声も聞こえてきそうだが、投手を兼任しており、その負担を考えて一塁を守っているとのことで、その動きはとても一塁手選任の選手のものではない。投手として最速149キロをマークするなど肩の強さも抜群で、高い運動能力を考えれば内野の他のポジションで勝負できるだけのポテンシャルを秘めた選手である。ただでさえ右の強打者タイプは人気になりやすいだけに、急浮上してくることも十分に考えられるだろう。  高校生の投手で候補として挙げたいのが安西叶翔(常葉大菊川)だ。186cmの大型右腕で、サイドスローとスリークォーターの間くらいの独特の腕の位置から、コンスタントに145キロを超えるストレートを投げ込んでくる。ボールの出所を上手く隠したフォームも持ち味で、打者からすると嫌らしさと怖さを感じる投手と言えそうだ。昨年までは安定感が課題だったが、この春から夏にかけて一気に成長してきた点もプラス要因である。大勢(巨人)が変則の本格派として活躍していることも安西にとって追い風となりそうだ。  大学生は1位候補が多く、二刀流の矢沢宏太(日本体育大)を筆頭に投手では金村尚真(富士大)、曽谷龍平(白鴎大)、荘司康誠(立教大)、菊地吏玖(専修大)、青山美夏人(亜細亜大)、野手では野口泰司(名城大・捕手)、山田健太(立教大・二塁手)、蛭間拓哉(早稲田大・外野手)、森下翔太(中央大・外野手)、沢井廉(中京大・外野手)などの名前が挙がる。  そんな中で意外な1位候補として挙げたいのが松山晋也(八戸学院大)、松井颯(明星大)、仲地礼亜(沖縄大)の3人の投手だ。松山は春まではほとんどリーグ戦での実績はなかったが、この秋はイニング数を大きく上回る奪三振を記録。恵まれた体格から投げ下ろすストレートは常時150キロを超え、ストレートだけに関しては今年の候補の中でも指折りだ。  松井も最終学年で大きく成長した右腕。150キロ近いストレートを1試合を通じて投げることができ、コントロールも安定している。首都リーグの二部所属ながら、評価は急上昇している印象だ。仲地は沖縄の大学から初のドラフト指名を狙う。欠点の少ない躍動感あふれるフォームで140キロ台後半のストレートは数字以上の威力があり、縦のスライダーも打者の手元で鋭く変化する必殺のボールだ。昨年出場した大学選手権でも見事な投球を見せており、この3人の中では唯一全国大会の実績があるのもプラス要因だ。  ドラフトの順位は事前の評価や知名度だけでなく、球団のニーズやその年の“市場動向”で大きく変化するものである。冒頭でも触れたが今年はより読みづらい状況となっているだけに、残り1カ月を切ってもここから浮上してくる候補が出てくることも十分に考えられるだろう。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    伝説の名馬”トウカイテイオー”の子どもに乗る 初心者でもジョッキー気分

     トウカイテイオーといえば、1991年に無敗で皐月賞とダービーを制覇した伝説の馬だ。その後は故障に泣いたが、93年の引退レース・有馬記念で奇跡の優勝し、多くのファンが感動の涙を流した。近年はゲーム&アニメの「ウマ娘」の大ヒットで、当時を知らない世代からも注目を集めている。その名馬の産駒に跨れる乗馬クラブが群馬にあるという。しかも未経験者でも乗れるというのだ。競馬好き、ウマ娘好きには、耳寄りな話ではないか。  前橋市からほど近い赤城乗馬クラブを訪れた。  このクラブにはトウカイテイオーの産駒が4頭もおり、会員以外のビジターでも乗れる。とはいえ、あの名馬の子だ。引退後も闘争心に溢れ、未経験者などは振り落とされるのでは? 「いえいえ。4頭とも人に従順で温厚。乗馬に適した性格です」  と語るのは、このクラブの石井計人社長。  ここにいる産駒は、ヤマニンバッスル、ゴールドショット、リラン(競走馬時代の名はダッキ)、トウカイフェスタ。いずれもJRAや地方競馬で走ったうえ、引退後の“第2の馬生”を乗馬として送っているのだ。  乗馬クラブで会員やビジターが乗るだけでなく、馬術大会に出場することもある。9月10日に行われた群馬県馬事公苑乗馬大会には、トウカイフェスタとリランが出場。2種目に出たフェスタは1位と3位と活躍。大会初出場だったリランも2位に入賞した。  記者が取材で訪れた日は、都内から来たという初心者2人が、ヤマニンバッスルとリランで外乗(森の中などを先導馬についてゆっくり進む)をしていた。  帰ってきた2人に、トウカイテイオー産駒に乗った感想を聞いてみたところ、 「えっ、テイオーの子だったんですか? 知りませんでした。リランは草が大好きで、途中で立ち止まっては食べていました。牧場の方に『止めさせないと舐められてしまいますよ』と指導されたので、止めさせるようにしました。こちらの言うことをちゃんと聞いてくれましたし、とても素直な馬でした」  実は赤城乗馬クラブは、トウカイテイオー産駒がいることをアピールしていない。ホームページでも触れていないのだ。ビジターの多くは、まさか自分が乗った馬がテイオーの子であるとも知らずに帰っていく。  石井社長は「僕は競馬の方はそんなに興味がないから。宣伝しようとは思いませんでした」と説明する。  そんな石井社長がテイオー産駒を引き受けるきっかけを作ったのは、「トウカイテイオー産駒の会」の早川代表だ。  91年のダービーでトウカイテイオーの虜となった早川さん。引退の1週間後には、北海道の放牧地に見学に行ったほど。早川さんは、テイオーの父である「皇帝」ことシンボリルドルフが2011年10月に亡くなった時に危機感を覚えた。 「いつかはテイオーも亡くなる日がくる……。なんとも言えない焦燥感に襲われました。そこで産駒を応援することで、テイオーのことをPRしようと思ったんです。決して忘れられないように。有志と『皇帝 帝王 伝説』という文字とテイオーのイラストを入れた横断幕を作って、産駒が走る競馬場のパドックに掲げました。JRA、地方、全ての競馬場を協力して回りました」(早川さん)  テイオーの子も次々に引退していく。早川さんらは、産駒たちに幸せな“第2の馬生”を送ってほしいと願った。特に気になったのは、川崎競馬で走っていたヤマニンバッスル。 「テイオーに顔がよく似ているんです。流星がそっくり。これからもそばにいて欲しいと思い、親しい厩務員さんに間に入ってもらって、厩舎を訪問し想いを伝えました。『そんなに好きで引退後のことを考えてくれているのなら』と、引き取りの話が進んだんです」(早川さん)  13年6月のレースを最後に引退したヤマニンバッスルを引き取り、乗馬のトレーニングを開始。ゴールを目指してひたすら走る競走馬と違い、乗馬では動かないことも要求されるなど、動きがまったく違う。そのため入念なリトレーニングが必要なのだ。引き取って2カ月後にトウカイテイオーが亡くなったこともあり、早川さんはバッスルをテイオーの忘れ形見のように感じたという。  十分にリトレーニングを積み、乗馬として活躍できるようになった17年のこと。 「ちょうど赤城乗馬クラブさんが新しい馬を必要としていると聞きまして、お願いしたんです」(早川さん)  一方、赤城乗馬クラブは、 「うちにとってもありがたかったですよ。バッスルはよく訓練されていましたので」(石井社長)  こうしてトウカイテイオー産駒の会と赤城乗馬クラブの間に縁ができ、翌年にゴールドショットが、20年春にリラン、同年夏にトウカイフェスタがやってきた。  さてテイオー産駒の乗り心地はどうか? 乗馬経験が1度しかない記者が、トウカイフェスタに乗ってみることに。  跨ってみて驚いたのは、フェスタの背の高さ。というのも馬格がとても良いのだ。20年に走った最後のレースでは、馬体重502キログラムという堂々とした体躯(ちなみにトウカイテイオー最後のレースは474キログラム)。また、馬は乗り手の未熟さを感じ取ると、舐めてかかることもあるというが、フェスタはこちらが初心者であることを見抜いただろうに、ちゃんと命じた通りに動くのである。  石井社長が言う。 「テイオー産駒に乗りたいのであれば、乗馬予約の際に伝えて下さい。3日前くらいまでに相談していただければ、よほど込み合っていない限り、4頭のどれかを用意いたします。ゴールドショットはちょっと神経質なところがあるので、中級以上の方が良いと思いますが、他の3頭は初心者でも大丈夫です」  秋の後楽シーズン、天下のトウカイテイオーの産駒に乗るのもお勧めだ。ちょうど30年前の秋、テイオーがジャパンカップで差し切ったシーンを想いつつ。 【赤城乗馬クラブ】 群馬県吉岡町漆原1590の1 電話0279・54・0481 体験乗馬+パカパカ散歩=約40分。平日8800円、土日祝9900円。場内で基本的な馬の動作を練習。 ビジター外乗=約40分。平日9900円、土日祝11000円。森の中や川の中を先導馬についていく。 ※月曜休み  【トウカイテイオーの産駒たち】 ヤマニンバッスル=騙馬。鹿毛。06年生まれ。母ヤマニンドルチェ、母父サンデーサイレンス。29戦4勝。 ゴールドショット=騙馬。栗毛。06年生まれ。母イシノルージュ、母父アフリート。68戦9勝。 リラン(ダッキ)=牝馬。鹿毛。10年生まれ。母キクノジョリー、母父ジョリーズヘイロー。47戦7勝。 トウカイフェスタ=騙馬。鹿毛。10年生まれ。母トウカイデンヒル、母父デインヒル。116戦7勝。 (本誌・菊地武顕) ※週刊朝日オリジナル記事

    週刊朝日

    17時間前

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    【前編】22歳元女性自衛官が実名・顔出しで自衛隊内での「性被害」を告発 テント内で男性隊員に囲まれて受けた屈辱的な行為とは

     元女性自衛官が実名・顔出しで、訓練中に受けた性被害をYouTubeで告白したことが話題を呼んでいる。五ノ井里奈さん(22)は、陸上自衛隊に所属していた2021年の6月~8月、複数の上官から集団でセクハラを受けたという。上長に被害を訴えても取り合ってもらえず、自衛隊内の捜査機関に被害届を出しても、検察からは不起訴とされた。現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。五ノ井さんは、AERA dot.の単独インタビューに応じ、「日常的に起きているセクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、自身の受けた体験を語った。 *  *  * 五ノ井さんが陸上自衛隊に入隊したのは、2020年4月。小学生の頃から女性自衛官に憧れ、20歳のときに自衛隊の門をたたいた。教育期間は順調にこなし、その時までは、思い描いていた自衛官の姿に誇りとやりがいを持っていた。  だが、その後に配属される中隊名が発表されたときから、風向きが変わった。女性の先輩隊員から、こんな忠告を受けたのだ。 「あそこの中隊はセクハラとパワハラがひどいから気をつけろ」  五ノ井さんが配属された東北方面の中隊は、隊員58人の中で女性は5人。1人は育休中だったので、実質的に女性隊員は4人しかいなかった。同部屋の女性隊員からも「セクハラは覚悟して」と言われたので警戒はしていたものの、すぐにそれが現実のものとなった。 「2020年秋ごろ、勤務中に、男性隊員が『柔道しようぜ!』と言いながら技をかけてくるのですが、腰をつかまれて“バック”のような体制にされて腰を振ってくるんです。それを女性隊員が目撃していました。廊下を歩いていると、急に抱きつかれることも日常的にありました」(五ノ井さん)  部屋に戻ると、女性隊員同士でこうした行為を報告しあった。だが女性隊員は圧倒的少数。自分の身を守るだけで精いっぱいの場合もある。  2021年6月24日。山に入って訓練をしていた時、新人の五ノ井さんは夕食や酒のつまみを作る役割を任されていたので、天幕で料理を作っていた。天幕とは2~3人用のテントのことで、山での訓練では寝床として使用されていた。天幕で酒盛りをし、定員より多い男性隊員が入れ代わり立ち代わり入ってきて、多いときには5、6人くらいの隊員がぎゅうぎゅうになって座っていた。料理を作るためにいた五ノ井さんはその輪の中に入れられ、胸をもまれ、キスをされ、男性隊員の陰部を下着越しに触らせられた。  逃げられないと思った五ノ井さんは、別の天幕にいる女性隊員にLINEで「はやく来てください」と助けを求めた。女性隊員からは「オオカミなってる??w」と返事がきた。「オオカミ」とは、男性がお酒を飲んで暴走し、理性をコントロールできない状態のこと。「はい」と返せば、女性隊員は助けに来ないと思い、五ノ井さんは「なってません とりあえず早く来てください」と再度助けを求めた。だが、その女性隊員は「今来たらやばい」という別のLINEも受け取っていたことから、結局、五ノ井さんのいる天幕には来なかった。女性隊員はその直後に退職した。  状況としては“見捨てられた”ようなものだが、五ノ井さんはこの女性隊員の気持ちもわかると話す。 「女性隊員が自分の身を守るためには、来ないのが正解なんです。夜遅い時間に男性隊員のストレス発散に使われて、自分だって危ない目にあう可能性があるんですから、行きたくない気持ちにもなりますよ」(同)  五ノ井さんからLINEを受け取った元女性隊員は当時の状況をこう証言する。 「LINEを受け取った前日に、私も同じ天幕で宴会に参加して、同じようなセクハラを受けていました。その時は、男性隊員から膝に乗って接待しろとか、頬にキスしろと強要されました。ある男性隊員から次の日は『覚悟しとけ』と言われ、もう何をされるかわからないので、五ノ井さんに助けを求められた時に行くことができませんでした。止めに行きたい気持ちはあったのですが、止めに入ったら(次は)自分に来るので、怖くて助けられませんでした」  元女性隊員自身も「ほぼ毎日抱きしめられる」などのセクハラを受けており、五ノ井さんが日常的に被害にあっている場面も目撃していたという。元女性隊員によると、この部隊は2018年から女性隊員が入るようになり、その時から、「セクハラがヤバイ」として悪評が立っていた。セクハラをしているグループの中心は、20代後半の男性隊員数名で、他の隊員は上下関係から、逆らうことができず、ただ見ているだけだったという。  だが、この日のセクハラ事件は、中隊でも問題となった。事件を目撃していた誰かが、中隊長に報告したからだ。すぐに「中隊長に告げ口したのは誰か」と、犯人捜しが始まり、被害者である五ノ井さんが疑われた。加害者からは、「セクハラじゃなくて、コミュニケーションの一部だもんな」と声をかけられた。事情聴取として曹長から呼び出された五ノ井さんは「何もありません。大丈夫です」と報告した。問題が大きくなり、組織に居づらくなるのを避けようとしたからだ。 「自衛隊には厳しい上下関係があって、その場の空気に合わせなければならない。和を乱せば、無視や陰口を言われますから」(同) ■セクハラを超えた性被害を受けて限界に  この日以降、五ノ井さんは気持ちを押し殺しながら日常的なセクハラに耐えてきたが、昨年8月に我慢の限界に達する出来事が起きた。  8月3日から地方で約1カ月間の訓練があった。訓練場所に到着した日の夜、部屋で食事の準備をしていた五ノ井さんは、男性隊員から「料理はいいから接待しろ」と言われ、男性隊員十数人の輪の中に座らされた。宴会だったので、隊員らは酒を飲んでいた。  一曹Eと二曹Yが格闘の話をしていたところに、男性隊員S三曹が部屋に入ってきた。するとEは、Sに「五ノ井に首をキメて倒すのをやってみろ」と命令した。Sは、五ノ井さんの首に両手を当てて、そのままベッドに押し倒すような技をかけた。 「この時、Sさんが暴走し始めたのです。股を無理やりこじ開け、腰を振りながら陰部を押し当ててきました。一人で『あんあん』とあえぎ声みたいな声を出して、それを見ている周りの男性隊員たちは笑っていました。特にEとYはこっちを見ながら確実に笑っていました」(同)  続いて、2人目の男性隊員Kも「首をキメて」押し倒し、Sと同様の動きをした。さらに続いた。3人目男性隊員Rは同様に押し倒した後、五ノ井さんの両手首を押さえつけながら、何度も腰を振ってきた。 「全力で抵抗しようと、手首に力を入れて振りほどこうとしましたが、男性の力にはかないません。諦めて、終わるのを待つしかありませんでした。終わって体を起こすと、周りの男性隊員たちはこっちを見ていました」(同)  コトが終わると、Rからは「五ノ井って案外力が強いな」と言われた。五ノ井さんが抵抗していたことはわかっていたのだ。  一旦話題が収まったにもかかわらず、再び一曹Eが格闘技の話を面白おかしくしはじめて、「あれ、首をキメて倒すのどうやるんだっけ?」と笑いながら言い出した。すると、再びSが、五ノ井さんの首に両手を当てて押し倒し、腰を振ってきた。五ノ井さんの引きつった顔を見たSは「これ誰にも言わないでね」と口止めしてきたという。 「もう限界でした。訓練場所は、すぐに抜け出せる環境ではありませんでしたが、先輩の女性隊員と中隊長Mに相談して、帰りたいとお願いしました」(同)  先輩女性隊員は、最初は味方してくれたが、男性中隊長が「訓練は訓練だ」と言うと、「そうだよ、訓練は訓練だから」と態度を変えた。訓練はあと20日以上続く。これ以上耐えられないと感じた五ノ井さんは、訓練から抜けることを懇願した。だが、セクハラを受けたことが理由では、6月の時のように告げ口したと思われてしまう。母親が倒れたことにして、実家に帰れることになった。  この時、先輩女性隊員からは「一応、嘘ついていることは心の隅にでも置いておいてね」と言われた。エスカレートする性被害から逃れるための苦渋の判断にもかかわらず、被害者である五ノ井さんに非があるような言い方に聞こえた。 ■被害届を出すも不起訴処分  この8月の性被害の後、適応障害と診断され、五ノ井さんは休職することになった。被害については、まず、自衛隊の総務・人事課にあたる「一課」にセクハラ被害を報告した。だが、一課からは「8月のセクハラの件を見たという証言が得られなかった」と回答された。次に、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。 「警務隊の現場検証では、人形を使って再現しました」(同)  検察庁の捜査をへて、22年5月31日付で判決が出た。結果は、不起訴処分。五ノ井さんが不起訴の理由を尋ねると、検察官は「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない」という供述だったと説明された。そして「被疑者を有罪にするにはそれなりの証拠が必要だ」とも言われたという。 「その場で見ていた人がたくさんいたのに、なぜか腰を振ったという証言は出てこない。単に技をキメて押し倒しただけで、どうして笑いが起きるのでしょうか。その続きがなかったら、笑うわけがない」(同)  五ノ井さんは6月7日付で、検察審査会に不服申し立てをしている。  自衛隊内部では、この事件をどう捉えているのか。AERA dot.は五ノ井さんが配属された東北方面の部隊に事実確認すると、広報担当は「現在、部隊で調査中のため回答は差し控える」と答えた。調査結果がいつ出るかは未定だという。また、五ノ井さんが報告を上げた「一課」にも確認をしたが、「その件は一課長が対応したが、いまは不在」とのこと。代わりに対応した指令業務室の担当者は「事実を調査中のため、予断を持って回答することは差し控えたい」と回答した。なお、被疑者の処罰については、「判明した事実に基づき、厳正に対処する」とした。 (AERA dot.編集部 岩下明日香) ※「後編」では、五ノ井さんがセクハラを受けてもすぐに辞めなかった理由、顔と名前を出して告発に踏み切った経緯などを明かす。

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    【後編】元女性自衛官が「性暴力」を告発した理由 「セクハラを“なかったこと”にするのが許せなかった」

     元女性自衛官の五ノ井里奈さん(22)が、訓練中に受けた性暴力をYouTubeなどで告発して話題となっている。五ノ井さんは、「セクハラの被害から、残された女性隊員を守りたい」と、AERA dot.の単独インタビューに応じた。「前編」では具体的な性被害の実態を詳述したが、「後編」では五ノ井さんが自衛隊を志した理由、セクハラを受けてもすぐには辞職せず、今回の告発に踏み切った思いなどを聞いた。 ※「前編」より続く。 *  *  * 宮城県東松島市出身の五ノ井里奈さん(22)は、小学4年生の時に東日本大震災に見舞われた。小学校にいる時に被災し、学校の1階部分は津波で浸水した。五ノ井さんたち児童は2階に逃げて無事だったが、避難所生活の後、母親と再開できたのは1週間後。家に戻ると、1階部分は津波に流され、室内で飼っていた愛犬2頭が亡くなっていた。散り散りに避難していた父親と兄2人とも再会し、その後は公民館で避難生活を送った。  この時、災害支援に来てくれたのが女性自衛官だった。 「女性自衛官がお風呂を造ってくれたり、お風呂上がりには腕相撲をしたりして、遊んでくれました。私は小さい頃から柔道のオリンピック選手を目指していたので女性自衛官にそのことを伝えると、『柔道は続けたほうがいいよ。頑張ってね』と応援してくれました。私にとって憧れの存在でした。この時から、いつかは陸上自衛隊に入りたいと夢を抱くようになりました」(五ノ井さん)  11年たったいまでも、女性自衛官と連絡を取り合って、感謝の言葉を伝えているという。  公民館で3カ月過ごした後、五ノ井さん一家はアパートに移った。しかし、小学6年生の時に両親は離婚。がんの治療中だった母親が、3人の子どもを女手ひとつで育てることになった。  五ノ井さんは、中学・高校と柔道で全国大会ベスト16の成績を残し、山口県にある大学に進学する。だが自衛官への夢が捨てきれずに中退。自衛隊体育学校の柔道部に入って、オリンピックを目指すことにした。好きな柔道を続けながら、自衛官アスリートへの道を切り開こうとしたのだ。  2020年4月、晴れて陸上自衛隊に入隊する。だが、「前編」で記したように、配属された東北方面の中隊では日常的にセクハラをされ、ひどい性暴力を受けた。五ノ井さんは次第に追い詰められていく。 「常にセクハラはあったので、受けている方も感覚がまひしてしまうんです。外ではアウトなことも、自衛隊内ではセーフになってしまう雰囲気がありました。男性隊員は、コミュニケーションの一部だと解釈していたようです。その意識を改善させることはほぼ不可能です。結局は、被害を受けた女性隊員がいなくなるしか解決策はないんですよね。私も自分で自分の身を守るためには逃げるしかありませんでした」  五ノ井さんは、2021年8月に複数の男性隊員から受けた性暴力を機に、休職することになった(被害の詳細は「前編」参照)。精神科医からは、適応障害と診断され、3~4カ月分の薬が処方された。 「憧れていた自衛官になるという夢を失い、どん底でした。先の見えない生活に絶望して、好きな柔道もできなくなりました。震災の時に助けてもらった女性自衛官みたいになりたくて入隊したのに、内部ではあんなにひどい実態があるなんて思ってもいませんでした……」  精神的に追い詰められ、何度も自死を考えた。覚悟を決めた今年の3月16日深夜、思いがけないことが起こった。 「ベッドの上に正座して、よしっ、と決断した時に、震度6強のすごく大きな地震がきたんです。その時、思いました。ああ、ここで死んではいけない。地震のせいで、生きられなかった人がいるのに、自分は何をしているんだろうって」  東日本大震災の記憶がよみがえり、五ノ井さんは自死を踏みとどまった。「どうして被害者が泣き寝入りして苦しまなければならないのか。性暴力に負けてはいけない」と組織と闘うことにした。  昨年8月に受けた性暴力について、自衛隊の犯罪捜査に携わる警務隊(防衛相の直属組織)に強制わいせつ事件として被害届を出した。今年5月末に不起訴処分になったが、現在は検察審査会に不服申し立てをし、結果を待っている。  この不起訴処分に関して、国際人権NGO「ヒューマンライツ・ナウ」副理事長の伊藤和子弁護士はこう疑問を呈する。 「圧倒的に男性が多い自衛隊のような閉ざされた空間で性暴力が起きると、『見ていない』と口裏を合わせる可能性があります。今回はどうだったのか。加害者が何人もいる場合、供述に矛盾が生じることがあります。一貫して細部まで同じことを言っているのか、そうでないのか。すべて同じであれば、口裏合わせをしている可能性もあるでしょう。丁寧に供述の評価が行われたのか疑問の余地が残ります」  不起訴後、五ノ井さんが検察官にその理由を尋ねると「複数の自衛官を取り調べたところ、五ノ井さんを『首ひねり』という技で倒すところは見たけれども、腰を振るようなわいせつ行為をしているところは見ていない(という供述だった)」と説明されたという。ただ、伊藤弁護士は、首に手をかけて押し倒している時点で暴行罪を問うことができるとも指摘する。 「少なくとも押し倒した所を見ている人がいたわけですから、立件すべきです。なぜ検察は暴行罪で起訴しなかったのかも非常に疑問です」  たとえ刑事事件で起訴されなかったとしても、民事裁判でハラスメントが認定されることもある。伊藤弁護士は「第三者委員会を立ち上げて、構造的な問題を調査する必要がある」と話す。 「男性隊員が女性隊員に対して、首に手をかける技をかけていること自体がハラスメントであるという認識があるのか否か。私的な生活の中で起きた出来事なのか、訓練中の行為なのか。訓練と称したハラスメントではないのかなど、さまざまな疑問が浮かびます。ハラスメント行為があれば処分に値する問題なので、組織としてきちんと調査をするべきです」  最後に、五ノ井さんは実名と顔出しで告発に踏み切った理由をこう話す。 「内部に残る自衛隊員から『なかったことにしようとしている』と聞きました。隠蔽(いんぺい)です。ここでなかったことにしたら、これから被害者がもっと増えてしまう。セクハラをしている人は、今でも普通に隊にいて、また新しい女性隊員が入ってきた時に同じことが起こります。それだけは阻止したい。あとは、謝罪がほしいです。その一心で声をあげようと決意しました」  五ノ井さんの悲痛な思いは、自衛隊員たちに響いているのだろうか。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋をひもとけば、根幹に流れる“解釈”が見えてきた。AERA2022年9月26日号の記事を紹介する。 *  *  *  タッパーのなかで散らばる小松菜。ラップで区切ったハンバーグとラタトゥイユ。詰めたというよりは、ぶちこんだように見えなくもない。  タレントでキャスターのホラン千秋さん(33)は、自身のブログやインスタグラムに手作り弁当を載せている。だが、ぱっと見、流行(はや)りの「映え」とはまるで対極。どんと横たわるきゅうりのぬか漬けに、スカスカのとうもろこしご飯──。そんな自由な弁当が注目されている。 「自分では、お弁当の見た目がひどいなんて思ってもいなかったんです」  と、笑うホランさんだが、ファンやフォロワーの間では「鬼ヤバ弁当」として愛されている。  そうなったきっかけは? 「1食分の料理を作るのって難しいじゃないですか。ほうれん草がぱらぱらと入っているお弁当は、2日くらい保存容器として使って、その最後の1食分を冷蔵庫から出して持っていっただけなんです。どっちも同じ容器だから、詰め替える作業を省略すれば時短になります」 ■「残飯みたい」と言われ  ある時、ブログのネタに困り、目の前にあった弁当を載せた。 「そしたら『残飯みたい』とコメントがきて。母親も、『私がこういうお弁当を作っていたって勘違いされるじゃない』って戸惑っていました。私としては、キラキラしたデコレーション弁当と同列だとは思わないけれど、“あるもので工夫したお弁当”には変わらないよなという感覚だったんです」  料理好きだというホランさん。一つひとつのおかずはどれもおいしそうで、ラザニアなど手が込んだものもある。ただ、その盛り付けは、ときに質素で、ときに豪快。当初はビジュアルについて散々な言われようだったが、次第に変化し始める。 「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」  きらびやかな弁当がSNSに並ぶなか、おかずが1色しかない弁当を恥ずかしく感じる人がいることにハッとしたという。だが、最近では「白米とミートボールだけ」といったシンプルな弁当がコンビニでヒットしていると伝えると、机をバンッと叩いて切り出した。 「何であのお弁当は歓迎されるのに、同じような私のお弁当は『うわぁ』ってなるんだ!って思うんですよ。その気持ちの差がどうして生まれるのかを考えたとき、同じものを作っても、家庭での努力は過小評価されがちだって気づいて」 ■「衣装選び」はパズルだ  たしかに、弁当箱には「こうあるべき」という思い込みを詰めがちだ。だが、ホランさんは違う。小さな箱のなかに「宇宙が広がっている」とたとえる。 「そりゃ私だって、心と時間と脳みそに余裕があれば、『曲げわっぱでのっけ弁』を作ってみたいって願望もあります。全部違うおかずにして、紫キャベツや青じそで彩りや仕切りを加えるとか。でも、寝たいし、頑張りたくないし、韓国ドラマだって見たい。人生の優先順位をリスト化したら、『お弁当をきれいに作る』というのはそれらの欲望よりも下のほうにあって。お弁当作りの優先順位が高い人ももちろんいると思いますし、それはそれで素敵だと思うんです。ただ、他人にあわせて自分が高くする必要はないですよね」  目の前にあることに優先順位をつけて、てきぱき判断する。その考え方は、弁当作り以外にも垣間見える。  平日の夕方、週5日間キャスターを務める「Nスタ」では、1週間分の衣装がまとめて用意されるという。トップニュースがスポーツやエンタメの明るい話題のときは、ピンクや黄色など、暖色系の洋服を。事件や事故など、悲しいニュースが続く日は落ち着いた色を自分で選んでいる。 「ときに、大変なニュースが続いてしまった週の後半には、明るい色しか残っていないということもありうるので、そうならないためにどう組み合わせるか、バランスを見ながら衣装のパズルをしています」  一つ質問するたびに、明快でユーモアの交じった答えが飛び出す。秒単位で動くニュース番組でも、そのスキルはいかんなく発揮。相方であるTBSの井上貴博アナウンサーとともに、落ち着きながらもときにアツく、しっかり的を射た“コメント力”が人気を博している。さらに、今秋からはバラエティーの新番組でMCに抜擢された。 ■バカ笑いできる「瞬間」 「今でも私の“ホーム”は長いこと育てていただいたバラエティーだと思っています。バラエティーの仕事は楽しいし、バカ笑いできる瞬間ってすごく大事だと思っているんです。ニュースとバラエティーって雰囲気に振れ幅がありますが、切り替えは特に意識していません。スタジオに入ると、自然と番組ごとの私に切り替わっているのだと思います。それぞれの番組に合わせてチューニングすることで、どんなジャンルの仕事でも対応できるタレントでありたいです。それに、この数年は皆さん大変なことが多かったですよね。そんなとき、私の場合は半ば強制的に明るい瞬間を持ってくることで、重たい空気にのみ込まれないよう、ニュートラルな場所に私を引き戻してくれるのが、バラエティーの現場。だから、とっても大切なんです」  20代の頃は悩みもあった。強烈な才能と個性にあふれる芸能界で、自分の価値がどこにあるのかわからなくなったことも。 「平凡な私にできることはあるのだろうかと、自信を持てない時期がありました。でも、“普通”が求められることもあると気づいて楽になりました。私たちタレントは“本人”としてテレビに出るので、本来持っている以上のものは出せないと思っています。一時的に取り繕えても、継続は難しい。今も天才的な才能や実力はないし、自信をなくすときもあります。そんなときは、こんな自分を信じてくれる人の声を信じればいい。その積み重ねが、毎日笑いながら仕事ができる日々に続いています」  だからこそ、「自分」を偽らない。 「それに、私のお弁当みたいに自分が普通だと思っていたことが、周りからするとそうじゃなかったということもありますからね(笑)。ありのままでいることが、一番大切なのだと思います」 (編集部・福井しほ) ※AERA 2022年9月26日号

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    【後編】「安倍元首相と教団の関係を検証して被害者を救済を」 旧統一教会を脱会した“信仰2世”の願い 

    「世界平和統一家庭連合」(旧統一教会)の元信者で、親が信者である「信仰2世」の冠木結心(かぶらぎけいこ)さん。合同結婚式で二度結婚し、いずれも相手の男性からひどい仕打ちを受けた。そして、韓国で10年もの間、極貧生活を送ることになる。【前編】ではその経緯を詳述したが、冠木さんの苦労は、洗脳が解けて日本に帰国してからも続いた。【後編】では、日本における「2世」としての生きづらさ、安倍晋三元首相と教団との関係性への思いなどを聞いた。 *  *  *「旧統一教会を脱会したときに、私はこれからどうやって生きていけばいいのかわかりませんでした。自分を否定したり、犠牲にしたりすることで成り立っていた世界だったので、自己否定する癖が染みついてしまっていたんです。そんな精神状態のまま、ずっと教会の命令に従って生きてきました。狭い世界の中でしか生きるすべがなかった宗教(信仰)2世の人たちは、外の世界に放り出されたらすんなりとは生きていけない。社会に適応できずに、精神を病んでしまう人も少なくありません」  旧統一教会の「信仰2世」である冠木結心(かぶらぎけいこ)さんはこう語る。  母親が信仰していた旧統一教会に自身も高校生で入信した冠木さんは、合同結婚式による二度の結婚と離婚を経験。娘2人を抱えながら、10年もの間、韓国での極貧生活を耐え忍んだ(詳細は【前編】を参照)。  2013年、教祖である文鮮明が死去したことで洗脳が解けて、脱会。娘たちと日本に帰国することになった。その時の気持ちを冠木さんはこう振り返る。 「私の入信の動機は母への親孝行で、教義への信仰ではなかったので、洗脳が溶けやすかったのだと思います。実は頭の片隅には教会に対して不満がありましたが、母を悲しませたくなかったので受け入れていただけでした」(以下同)  帰国後、まずは親族のアパートに身を寄せた。だが、そこにはまだ信者である母親が住んでいた。献金として教団に生活費を搾取されていた母親は、姉の稼ぎを頼りにしなければ生活がままならない状態になっていたのだ。  旧統一教会では、合同結婚式を挙げて授かった子どもを「神の子」と呼ぶ。母親はすでに洗脳が解けた冠木さんには関心を示さず、「神の子」である娘たちに信仰を強要しようとした。娘たちが自分と同じ目にあうことは絶対に避けたい。私は母と絶縁しなければならない――冠木さんはこう心に決めた。 「親が信者である2世は、どんなに親と離れたいと思っても、経済的な自立ができないと縁を断ち切るのは難しい。だから、親がいないと生きていけない“子どもの2世”は、どんなに嫌でも信仰を受け入れざるを得ない。これは、子どもの人権に関わる問題です。私は身をもってそれを経験したし、娘たちのためにも、ここで私が“負の連鎖”を断ち切らなければいけないと思ったんです」  冠木さんは、親族の家から引っ越す際に警察に相談し、親族による「児童虐待及びこれに準ずる行為」を理由に、住民票の閲覧制限をかけた。その後、安定的な仕事がなかった冠木さんは役所に生活保護を申し出たが、閲覧制限をかけていたことから、母親に居場所を知られずに済んだ。 「10年も韓国で暮らしていた私には、日本での生活基盤がなく、40歳手前のシングルマザーが仕事を見つけるのは困難でした。でも、娘2人はどうにかして育てなければならない。そこで、しばらくは生活保護を受けて暮らしを立て直すことにしたんです。そのおかげで娘たちを学校に通わせることができたし、私自身も心身が回復して、社会復帰することができました。生活保護には本当に助けてもらいました。心から感謝しています。ただ、もしこれが若い2世だったら、役所から『あなたは若いから働ける』と言われて門前払いされたかもしれない。今、宗教2世は社会問題となっていますが、彼らを救済する受け皿がなければ、自立していくことは難しいのではないでしょうか」  社会復帰した冠木さんはすでに生活保護に頼らずに生活しており、娘たちは成人しているという。  ただ、やはり「2世」として社会で生きていくのは困難がつきまとった。他人との距離感に戸惑いを感じることがあり、冠木さんは「教会に戻ろうかな」と何度も心が揺れたという。 「何か悪いことが起こると『教会をやめたからなのかな』と思ってしまうんです。末端の信者はまじめで優しい人が多かったから、『世間の人より、教会の人たちのほうが温かく迎え入れてくれるのでは』と、何度も戻ることを考えてしまいました」  それでも、教団に戻ることなく踏みとどまった冠木さん。旧統一教会は今、宗教法人の「剥奪」まで叫ばれているが、頭をよぎるのは末端の信者のことだという。いま宗教法人が剥奪されたら、末端の信者は行き場を失う。その時のために、信者たちを救済する制度を国に検討してほしいと願っている。 「信者は生きる拠り所を奪われてしまうわけですから、極端な行動をする人が出てしまう可能性もあります。『国から迫害を受けている』と教会から誘導され、かつてのオウム真理教信者の、相手に怒りを向けるような凶行に出たり、自分を傷つけてしまったりする人も出るかもしれません。私はそのことをとても心配しています。あのオウムの事件があった時点で、統一教会にもメスを入れるべきだったのです。そのツケが回ってきて、今になって2世問題が深刻化しているのだと思います」  安倍晋三元首相を銃撃した山上徹也容疑者は、母親が旧統一教会に多額の献金をしたことで生活が苦しくなったと供述している。そんな環境の中、安倍元首相が旧統一教会の友好団体にビデオメッセージを送っている動画を目にして、「つながりがあると思った」ことが動機の一端とされる。同じ2世という立場からも、冠木さんは「安倍元首相とつながりがあったのかは検証すべきだ」と話す。 「亡くなってしまった安倍元首相に直接確かめることはできませんが、ビデオメッセージを出していたのだから、広告塔の役割を果たしていたと思われても仕方がありません。国葬の前に、実際はどうだったのかを政府に検証してほしいと思っています。ただ、すでに友好団体が安倍元首相の大規模な追悼式をやっているわけですから、教団側は関係性を認めたも同然だとは思います」  27日に行われる国葬については、「国葬に反対している国民の意思だけではなく、旧統一教会に人生を狂わされた被害者たちの気持ちも置き去りにされているように感じます」と語った。  2世も含めた被害者の救済に、政府は目を向ける必要がある。(AERA dot.編集部・岩下明日香)

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    阪神、中日、広島は“将来の大砲候補” 各球団「ドラ1」で狙いたい選手【セ・リーグ編】

     高校生、大学生のプロ志望届提出者の公開もスタートし、10月20日のドラフト会議に向けての話題も多い時期となってきた。各球団、これから候補選手の最終的な絞り込みを行うこととなるが、現在のチーム事情などを考えて1位指名で欲しい選手は誰なのか考えて見たいと思う。今回はセ・リーグの6球団だ(順位は9月8日終了時点)。  まず最下位に沈んでいる中日は昨年のドラフトではブライト健太、鵜飼航丞と大学生の外野手を上位で指名したが、今年もチーム事情を考えるとまずは打てる野手が最優先となりそうだ。特に優先すべき能力は長打力となるが、すべてのカテゴリーを通してホームランバッターとしてのポテンシャルが最も高い選手としては内藤鵬(日本航空石川)を挙げたい。身長180cm、体重100kgの“おかわり”体形でパワーももちろん飛び抜けたものがあるが、それ以上にスイングに悪い癖がなく、柔らかさがあるのも魅力的だ。気になるのは同じサードに年齢も近い石川昂弥がいることだが、石川がセカンドを守れることと、ファーストを守る助っ人のビシエドも年齢的にベテランとなっているため、ポジション的な重なりはそれほど考えなくて良いのではないだろうか。  現在5位の巨人はリーグワーストのチーム防御率(3.81)が課題となっているが、それでも投手陣は期待の若手たちが多く伸びてきており、内野も外野もレギュラーが高齢化していることを考えると、まずは野手を狙いたいところだ。チームを大きく変える意味でもやはり誰もが認める大物選手が欲しいところだ。そうなると先日に1位指名の可能性が報じられた浅野翔吾(高松商)が最適な人材と言えるのではないだろうか。本人は中距離打者を目指すと話しているが、東京ドームであればある程度ホームランも狙うことができ、また外野手登録で右打ちの選手が少ないというチーム事情にもマッチしている。岡本和真以来となる甲子園の大物スター獲得に期待したい。  4位の広島はここ数年、大学、社会人の投手を中心に指名している。8月のスカウト会議では、白武佳久スカウト部長が外野の右の大砲を補強ポイントとして話しているが、その需要に最もマッチする今年の候補と言えば森下翔太(中央大)になるだろう。1年春には早くも大学日本代表に選ばれており、当時の代表候補合宿ではナンバーワンのスイングスピードをマークしている。課題だった確実性もこの春は打率3割をクリアし、自己最多となる3本塁打を放つなど成長を見せているのもプラス材料だ。7月には大学日本代表のオープン戦で死球を受けて右手を骨折するアクシデントに見舞われたが、既に復帰しており、体の強さも備えている。そういう部分も猛練習で知られる広島向きの選手と言えるだろう。  3位の阪神はここ数年、投手も野手も大物選手の獲得に成功し、若手は非常に充実している印象を受ける。その中でも強いて将来的なことを考えての補強ポイントを挙げるとすれば右の強打者タイプとなりそうだ。大山悠輔も来年で29歳となり、23歳以下では井上広大しか見当たらないだけに、右の大砲候補を狙いたい。そうなるとこれまでにも名前の出た内藤鵬(日本航空石川)と森下翔太(中央大)の2人が有力候補となる。どちらかを選ぶとなれば、土のグラウンドで内野の守備力が問われるということを考えると、外野手の森下の方がチームにはマッチしているのかもしれない。もし1位は投手でということになっても、右の強打者タイプを1人は狙いたいところだ。  昨年の最下位からリーグ2位につけているDeNAだが、戦力的には万全と言えず、補強ポイントは少なくない。やはり気になるのが先発投手の太い柱となれる候補が少ないところだ。昨年も1位で小園健太を指名しているが、一昨年1位の入江大生はリリーフタイプだけに、左右問わず長く先発を任せられる投手をまず狙いたい。年齢構成的には高校生を狙いたいが、今年は小園レベルの大物は不在なだけに、筆頭候補として挙げたいのが荘司康誠(立教大)だ。本格化したのは4年春からで、即戦力というには少し完成度は物足りないものの、スケールの大きさは抜群。意外に器用で変化球も悪くない。タイプ的にも先発向きに見えるだけに、ぜひ狙いたい選手である。  リーグ連覇が見えてきた首位ヤクルト。近年多くの投手を上位で指名し、それなりに戦力にはなっているものの、絶対的なエースは不在の状況は続いている。期待の大きい奥川恭伸も怪我の影響もあり今年停滞していることを考えると、やはり先発タイプの投手を真っ先に狙いたいところだ。DeNAのところで挙げた荘司も有力候補だが、より安定感のある先発候補としては金村尚真(富士大)も面白いのではないだろうか。地方リーグ所属ながら、実績は抜群で特にコントロールは大学球界でも1、2を争うレベルにある。常に結果を残し続けており、故障がないというのも大きな魅力だ。タイプ的にも小川泰弘の後継者としてマッチしそうな人材である。(文・西尾典文) ●プロフィール西尾典文1979年生まれ。愛知県出身。筑波大学大学院で野球の動作解析について研究。主に高校野球、大学野球、社会人野球を中心に年間300試合以上を現場で取材し、執筆活動を行っている。ドラフト情報を研究する団体「プロアマ野球研究所(PABBlab)」主任研究員。

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    ユニクロを導入した高校の制服購入費が安くなるどころか上がった? それでも保護者から好評の理由

     東京都区部の公立中学校制服一式の価格は、男子用が3万5563円、女子用が3万4295円(2022年3月、総務省統計局)。17年に公正取引委員会が公表した「公立中学校における制服の取引実態に関する調査」で、学校が制服を指定する大きな理由の一つとして「生徒や保護者の経済的負担を軽減する」ことが挙げられた。しかし、成長期に制服を買い替える可能性を考えると、家計負担の低減につながるかは疑問符がつく。それに対する試みとして今春、さいたま市立大宮北高校は安価なユニクロの商品を新たに制服に加えた。「生徒、保護者の負担を減らして、選択の幅を広げてあげたい」という趣旨だった。ところが、いざ新入生を迎えると、想定外の事態が起こった。一部の生徒の制服購入費が安くなるどころか、逆に上がったのだ。 *   *   * 「約4分の1の生徒が、従来の制服とユニクロ制服の両方を購入しました。特に女子生徒の場合は約7割がそうでした。制服購入費が逆に高くなってしまったと思うと、申し訳ない気持ちになりました」  さいたま市立大宮北高校の筒井賢司教頭は、今春の入学時をそう振り返る。  新1年生は旧制服とユニクロ制服を自由に選択できる。制服一式の価格は旧制服が約5万円なのに対して、ユニクロ制服は約1万2000円。後者を選択すれば、制服代を大幅に抑えられる。ところが、半数を超える女子生徒はユニクロ制服とともに旧制服を購入した。  なぜなのか? 「自分だけが目立つ服装はしたくない、突出してしまうことに対する不安がすごく大きかったと思います。それで、ユニクロ制服はいいけれど、心配だから旧制服も買って、まわりを見ながら着よう、となったようです」  筒井さんの話を聞くと、子どもの新しい学校生活での心配を少しでも減らしてあげたい、そんな保護者の親心を感じる。 ■教室内が色とりどりに 「取材は生徒たちが落ち着いたころにいかがですか」と、筒井さんから提案され、筆者が同校を訪れたのは9月のとある土曜日だった。この日、午前は公開授業、午後は受験生と保護者向けに学校説明会が開かれた。  筒井さんに案内され、まず1年生のクラスを訪れると、目に飛び込んできたのは色とりどりのポロシャツ姿で授業を受ける生徒たちの姿だった。  えっ、私服OKなんですか?と筆者が思わず口にすると、筒井さんはこう切り返す。 「いえ、これが新しい制服なんです。ユニクロの『ドライカノコポロシャツ』というアイテムであれば11の販売色、どの色を着てもかまいません。ふつうのシャツについても、白、青、グレーであればどこの製品でもOKです。ユニクロ以外にもいろいろありますから。なので、パッと見、生徒たちは自由な服装をしているように思われるかもしれませんね」  スラックスやスカート、セーターの色も選べる。体形に合うサイズがなければ、学校と相談のうえ、旧制服か、別のアイテムを着用できるという。  入学時、男子は旧制服の学ランを着る生徒が2、3割いたが、「夏休み前には見かけなくなりました」と筒井さんは言い、こう続ける。 「本日の公開授業を中学3年生と保護者が見学して、これだけ多くの生徒がユニクロ制服を着ている、どんな色の服でも悪目立ちすることもないし、生徒も先生もそれを許容している学校なんだ、と感じていただけると思います。導入時のコンセプト『生徒も考える、安価でシンプル、スマートな機能的標準服、ジェンダーレスも重要な要素』がかたちになって表れてきていると思います」  ここまで自由な服装が許されるのであれば、もはや制服は必要なく、私服でいいのではないか?  ところが、「私服ではダメなんです」と、筒井さんはきっぱりと言った。 ■決められたなかでアレンジ  かつて、制服は学校への帰属意識を高める管理教育の象徴だった。しかし、1980年代以降「ダサい」制服は、「かわいい」「かっこいい」制服にモデルチェンジが進み、生徒側の「管理される」という意識は希薄になった。しかし、意外にも「生徒も保護者も私服を望んでいるわけではない。というか、私服化にはすごく抵抗があります」と、筒井さんは言う。 「先ほど話した横並び意識と重なりますが、ある程度決められた範囲内で自分のアレンジをちょっと出すくらいが今っぽいのかもしれません」  私服を敬遠する理由はさまざまだ。他の生徒と違う服を着ることの抵抗感、毎朝服選びをすることの面倒くささ、逆に同じ服を着ていけば裕福でない家庭の事情が透けて見えてしまう、など。 「アンケートをとると、ほとんどの人が私服化を望んでいないことがわかりました。今回の制服改定のコンセプトに照らして考えると、私服にこだわる必要性は感じませんでした。なので、私服化の検討はやめました」 ■話題の一方で苦情も増加  筒井さんが既製品の服を制服にできないかと調べ始めたのは21年春のこと。すると、三重県鳥羽市立の中学校がユニクロの商品を準制服として採用していることがわかった。大宮北高校がユニクロ制服の導入を検討していることを校外に公表したのは、ちょうど1年前の学校説明会だった。 「最寄りのユニクロ店舗からマネキンを借りて、それに制服に採用しようと考えていたジャケットやスラックス、スカートを着せて体育館に集まった中学3年生や保護者に見せたんです。受験校を絞り込む前に知らせることは義務だな、と思いました」  その場でユニクロ制服についてアンケートをとると、結果は好評だった。 「『かっこいい、かわいいと思う』はあまりありませんでしたが、『いいと思う』が圧倒的でした」  ところが、この動きを全国紙が伝えると、否定的なコメントがSNSにあふれた。 <ユニクロ製品を学校制服に検討しているとは何事だ!><日本の繊維産業を守れ!> などと、次々に苦情が寄せられた。 「みんなから怒られて散々でしたが、今春、新入生がユニクロ制服を着て登校するようになると、マスコミが好意的に取り上げてくれるようになったんです。否定的なコメントも劇的に減りました」 ■スラックスが好評の理由  公開授業の後、当事者である1年生を集めて、ユニクロ制服について、ざっくばらんに語ってもらった。  男子生徒が「学園祭の準備で汚してしまったんですけど、安価だから買い直しやすい」と言うと、「学校帰りにユニクロの店舗に立ち寄って買えるのでチョー楽。安いし」と、女子生徒が続ける。  多くの1年生が着ているポロシャツは1990円。保護者にとってもありがたい安さだ。  服選びはどうしているのか? 「そのとき洗ってあるものをその日の気分で選ぶ場合もあるし、朝、時間がなくて、アイロンをかけるのが面倒くさいな、というときはポロシャツを着たりしています」(女子生徒)  予想していたとおり、スラックスが選べるのは女子生徒たちに好評だった。 「スカートはめくれて面倒くさくて嫌だという人が結構スラックスをはいています」「雨が降っていたらスカートで電車だけど、晴れていたらスラックスをはいて自転車で行く」など。  一方、スカートについては「かわいらしさが不足している」ことが不満という。 「スカートにプリーツがないのがさみしい」「中学校時代の友だちと再会したら『OLじゃん』って、めっちゃ笑われた(笑)」。でも、ユニクロ制服を否定する雰囲気はない。いま、この制服に合わせるネクタイとリボンを試作中だそうで、それを着用すればユニクロ制服の印象は変わるかもしれない。  もう一つの問題点は防寒性だ。ポロシャツと同様に販売色すべてOKのセーターも用意されるが、上着のジャケットは風が吹き込みやすい。アイテムは全般的に生地が薄く寒いという。 「冬になったら旧制服の学ランを着るかもしれない。寒いよりはましだから」と男子生徒が言うと、周囲から「わかる、わかる」。  それに対して、筒井さんは「セーター販売が今月から始まっているよ。ヒートテックのスラックスの導入も考えているんだ」と言い、サンプル品を見せると、「へえー、すごい」と声が上がった。 ■保護者からはおおむね好評  午後、体育館に約800人の中学3年生と保護者が集まった。保護者はユニクロ制服をどう見ているのか? 「ユニクロ制服の導入で子どもたちにとって自由度と選択肢が増えた」(男性保護者) 「夏はポロシャツが選べる。ワイシャツよりも洗いやすい」(女性保護者) 「ふつうの制服に比べて購入費を抑えられる」(女性保護者)  旧制服一式約5万円というのは一般的な制服の価格である。しかし、ファストファッションが世の中に広く行き渡っているいまの時代においては、やはり高いと感じる。 「疑問があるのに、それを知らんぷりするのはいけないと思いました。当たり前を疑い、おかしいと思うことを放置せず、最後までやり切ることが大事、と生徒にも普段から言っていますから」(筒井さん)  大宮北高校の事例は生徒や教員の制服に対する思いだけでなく、「日本の制服の構図」を浮かび上がらせる。それが机上論ではなく、リアルなだけに強い説得力を感じた。 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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    乃木坂46で選抜入りゼロも…… 「将来のセンターになれる逸材」と評価急上昇のアイドルは?

     アイドルグループ・乃木坂46は新たな時代を迎えている。今年はグループ結成10周年を迎え、5月14、15日に日産スタジアムで開催された「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」には現メンバーだけでなく、西野七瀬、白石麻衣、生駒里奈ら卒業生たちが登場して公演を盛り上げた。  月日が流れると共に、メンバーが卒業していく。今年に入って1期生の星野みなみ、2期生の北野日奈子、山崎怜奈が卒業。1期生の樋口日奈、和田まあやも8月31日発売の30枚目シングル「好きというのはロックだぜ!」の活動を最後に卒業することが決まっている。  一方で、新しい風も。今年から加入した5期生は井上和、菅原咲月、川崎桜らを筆頭に加入から1年も経たずに人気メンバーとなり、次のシングルで何人が選抜入りするか注目されている。  乃木坂に在籍しているメンバーは現時点で43人。ただ、全員が同じステージで歌えるわけではない。各シングルの表題曲を歌う16~20名の「選抜メンバー」が選ばれる。他のメンバーは「アンダーメンバー」という枠組みの中で活動する。 「人気メンバーが選抜で固定されているので、アンダーから新たに入るのは容易ではありません。乃木坂に在籍して一度も選抜入りできずに卒業するメンバーも少なくない。それほど厳しい世界です。でも選抜メンバーの全員が日の当たる道を歩んできたわけではない。アンダーから大ブレークした代表格がエースの齋藤飛鳥です。グループの初期は白石、西野、生駒ら人気メンバーに隠れる形でアンダーの常連メンバーでしたが、モデルとして活躍してパフォーマンスを磨くことで大輪の花を咲かせた。選抜入りしなくても人気メンバーはいますし、活動の全てではないですが、彼女の歩んだ道のりは後輩に大きな勇気を与えている」(スポーツ紙の芸能担当記者)  ネクストブレークを狙う逸材たちの中で、テレビ関係者から高い評価を得ているのが4期生の林瑠奈だ。  民放のテレビ制作スタッフは「頭の回転が速く、バラエティー能力が高いと現場で評判です。お笑い好きで瞬発力があるだけでなく、場をうまく回すこともできる。共演した芸人やタレントの評判がいい。独特の感性と発言で、乃木坂の中では異質なオーラを身にまとっているのも魅力です」  林は順風満帆な道のりを歩んだわけではない。18年8月に坂道合同オーディションに合格するが、グループには配属されず坂道研修生として活動した後、20年2月に4期生に加入する。同じ4期生の中でも林より早く加入し、圧倒的な人気を誇る賀喜遥香、遠藤さくらに比べて当初は影が薄かったが、アンダーライブやグループ活動で輝きを放つこと存在感が増していく。歌唱力は乃木坂トップクラス。ダンススキルも磨かれ、ライブで見せるパフォーマンスが話題になった。  8月上旬にYouTubeでMVが公開された4期生の楽曲「ジャンピングジョーカーフラッシュ」ではフロントメンバーに抜擢され、大きな武器である歌唱力を発揮。コメント欄には、「林の歌声って世間が気づいたら爆発的に人気出るだろうな。そう思うぐらい魅了される」、「話題の5期生加入。でも、新4期生の覚醒がそれを大きく上回る。林瑠奈、ほんとうに凄すぎる。美しくなりすぎて、一時も目が離せない」など称賛の書き込みが相次いだ。  テレビ東京の帯番組「乃木坂工事中」でも話題に。「10th YEAR BIRTHDAY LIVE」のパフォーマンスを取り上げた放送回で、MCを務めるバナナマン・設楽統が「林とかいい表情するよね。アイドルがステージで輝いているのを絵に描いたみたいな」と名指しで絶賛していた。  前出のスポーツ紙記者は「林は選抜入りにとどまらず、賀喜や遠藤のように将来はセンターになれる可能性も十分に秘めている。楽曲によって色々な表情を見せて観客の目を引きつける。中心の立ち位置でなくても『主役感』があるんですよね。ファンからの人気が高まっていますし、これからも快進撃が続くと思います」と期待を込める。さらなる活躍が楽しみだ。(梅宮昌宗) ※週刊朝日オンライン記事

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    紀子さま24年不変のショートカット、その合理性と愛と

     女性皇族で注目される事柄の一つといえば、髪形の変化だろう。愛子さまがボブヘアにしたときも「イメージチェンジ」と話題になった。一方で、ヘアスタイルに変化がない場合は世間に注目されにくいが、変わらないことの意味とは? 紀子さまについて、コラムニストの矢部万紀子さんが考察した。 *  * * 佳子さまはこの夏、髪を切った。腰に届きそうだったのが、7月の「全国都市緑化祭」では肩と同じほどの長さに。これはショートヘアへの道?  上皇さまの孫は4人いるが、うち3人の女性(小室眞子さん、佳子さま、愛子さま)はみなロングヘアだ。愛子さまはボブにしたこともあったが、すぐに元のロングになった。ショートヘアは女性らしさに欠けるという“自主規制”が働いているのかもしれず、打ち破るとしたら率直に自分の思いを語る佳子さまでは? そう勝手に期待。  が、ある日、突然気づいた。それを言うなら紀子さまは、ずっとショートヘアではないか、と。  9月11日、紀子さまが56歳の誕生日を迎えた。その日に公表された宮内記者会への質問に答える文書には、眞子さんについてこうあった。 <庭の花の世話をしながら、木香薔薇のアーチを作り、いつか娘と一緒にゆっくり庭を歩くことができましたら、と思っております>  木香薔薇は眞子さんが皇族だったときの「お印」で、紀子さまはアーチを作るための手入れをしている、と報じられていた。「納采の儀」も「一時金」もなく旅立っていった眞子さん。親心と薔薇が重なり、読んでいて切ない。  だが、合わせて公開された写真は、1年前のそれより表情が柔らかくなったようだった。アーモンド形の目、柔らかなほほ笑み。少しは気持ちが軽くなったのだろうか、醸し出される雰囲気がふんわりとしている。1989年の婚約内定後の記者会見を思い出した。「秋篠宮さまが初恋の人ですか」と聞かれ、「そうでございます」と恥ずかしそうに答えていた川嶋紀子さん。あのとき紀子さんは、たっぷりと長い髪の毛を紺のバレッタで留めていた。そうだ、紀子さまといえばロングヘアだった。忘れていたのは、現在の髪形がすっかり定着しているからだろう。ずーっとあの髪形なのだ。そう、分け目は右側で、前髪はつくらず、耳にかける。それが紀子さまスタイルだ。  令和になってすぐ、雅子さまを特集する週刊誌に林真理子さんがこんなことを書いていた。 <いつのまにか紀子さまがヒール役を担わされてまことにお気の毒である。ご婚約の時の、愛くるしく清楚な「紀子ちゃん」を知っている者にとって、昨今の「皇室顔」となられた紀子さまにはあまり親近感がわかない。それでもいつのまにかヒール役を負わされていて、私は憤っているのである>(「週刊文春」2019年8月15日・22日号)  確かに紀子さまの表情は、あまり変わらない。笑っているのに笑ってないような、本音を出さないぞというような。そこに髪形が影響しているような気もする。紀子さまはいつからあの髪形だったのだろう。たどってみることにした。  振り返ってみると、幼いときから紀子さまはほとんど長い髪をしていた。1990年6月に皇室に入ってからもしばらくはロングヘアで、まさに<愛くるしく清楚な「紀子ちゃん」>だ。が、その時代は案外短い。2年ほどでセミロングになる。  きっかけは眞子さん誕生だ。91年10月に眞子さんが生まれている。出産後、宮内庁病院を退院するときは、長い髪を一つにまとめていた。が、翌年8月に生後9カ月の眞子さんを抱っこした軽井沢での紀子さまの髪は、肩のあたりまでになっている。単純に分析するなら、子育てにはセミロング、ということだろう。94年12月には佳子さまが生まれた。97年11月、秋篠宮さまの誕生日に公開されたご一家4人の写真では、小さい姉妹も紀子さまも、みな肩までのセミロング。姉妹お揃いの赤いカーディガンがとてもキュートだ。  その翌年、紀子さまはショートヘアになる。4月、眞子さんの学習院初等科入学式に臨んだ時点で肩上10センチほどの長さになっていたのだが、このときはまだ耳が隠れている。が、8月にご一家で静養した須崎御用邸(静岡県)では、さらに5センチほど短くなり、耳を見せる今のスタイルに。以来、24年間、紀子さまはずっと同じ髪形を守り通している。  髪を切るにあたり、何があったのかはわからない。佳子さま出産から1カ月もたたない95年1月に阪神・淡路大震災が起こった。その半年後には紀子さまも被災地を訪問、97年からは追悼式に出席した。そのような経験を通じ、皇族としての役割を体に染み込ませていった。<愛くるしく清楚な「紀子ちゃん」>ではいられなくなる。その延長線上に、「髪を切る」もあったのではないだろうか。そんな気がしている。  そして紀子さまは、合理的な方なのだと想像する。短い髪は長い髪より、ずっと手入れが楽だ。パッと洗えて、サッと乾く。忙しい人向け、と言っていいだろう。紀子さまは、まさに忙しい人だ。  公務の話は後述するが、勉強にも熱心に取り組んでいる。1990年6月に結婚、その5年後に学習院大学大学院の心理学専攻博士前期課程を修了している。そして2009年にはお茶の水女子大学で研究を始め、2013年には博士の学位を授与されている。94年から結核予防会総裁となったことを足場にし、10年から結核予防に関する意識調査を実施、それをまとめた論文で博士号を得たのだ。  06年に悠仁さまが生まれた。次世代では唯一の男子が、天皇家の「次男」の家に生まれた。その“ねじれ”にメディアがつけこみ、紀子さまへの風当たりが強くなる。そんな中、紀子さまは子育てし、勉強し、公務をする。努力の人だ。 「紀子さまほど、実像とかけ離れた姿が描かれる方はいないと感じている」と書いたのは、朝日新聞の島康彦さんだ。紀子さま50歳に際して出版された『清淑なる紀子さま 50年のご足跡』(宝島社)という写真集へ、当時の宮内庁担当記者として寄せた文章でそう書いている。タイトルは「『嫌われ者』に徹する知られざる紀子さまの素顔」だった。  そこで島さんは、出版前年の9月10日から16日を例に紀子さまの多忙ぶりを説明する。週末の10日から1泊で宮城県を訪問、12、13日は宮邸で公務、15日は日帰りで兵庫県、16日は午前中、宮邸で公務、午後から福岡県へ。その上でこうまとめた。 <こうした動静はめったに報道されることはないが、日常的に過密日程は続いている。その多忙さは皇室いちと言っても過言ではないと思う>  この状況は令和になっても同じだった。コロナ禍前の19年7月を例にとると、6日にポーランド、フィンランド訪問から帰国、8日には帰国の参拝を賢所で済ませたのちに、赤坂御所で結核予防関連の研修生と懇談、9日に宮邸で2件の説明を受けて、10日から1泊2日で石川県へ。15日は都内でレセプション出席後、悠仁さまと「国際地図学会議」の展示へ。  これはもう、ショートヘアしかない。髪形は時短が一番。だから、今日までスタイルは不動。そうに違いない。そして紀子さま、意志が強い。24年の間に、髪型を変えたいと思ったときもあったはずだ。だって、女子だもの。だけど変えない。強い意志とは、つまり「仕事ファースト」なのだと思う。写真集で島さんは、こう書いている。 <紀子さまに近い関係者によると、紀子さまは殿下やお子さま方が矢面に立たないよう、あえて周囲に厳しい姿勢で臨み、「嫌われ者」になることもいとわないのだという>  紀子さまの「夫、子どもファースト」を表しているとも読めるが、私は「成果ファースト」なのではないかと思う。今どきの表現になるが、皇室が果たすべき役割=成果だろう。それを実現することが一番。だから「嫌われ者」も引き受ける。髪形を変えるという個人的思いは二番以下になる。成果達成には合理的だし、紀子さまにとってはそれが日常なのだ。島さんの文章はこう続いていた。 <紀子さまの奮闘ぶりの心底にあるのは何か。長く交流のある一人は「やはり秋篠宮さまへの愛情でしょう」と明かす>  愛情とは双方向。9月11日に公表された写真には、秋篠宮さまとお二人で絵本を見る写真があった。そこで秋篠宮さまは、頬杖をついていた。すごく楽しそうで、とてもくつろいでいることが伝わってきた。人が心からくつろげるのは、好きな人の隣だろう。秋篠宮さまの隣で紀子さまも笑っている。紀子さまの横顔に、つややかな髪が映えている。(矢部万紀子)

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    他球団が欲しがる「巨人の中堅2人」 トレードなしで起用も増えず「もったいない」の声も

     現在セ・リーグでBクラスに沈んでいる巨人。新型コロナウイルスの集団感染で多くの選手が離脱して苦しい状況ではあるが、ここからの巻き返しに注目が集まる。そんな中、石川慎吾、重信慎之介と能力的には高く評価されているものの、なかなか出場機会が回ってこない中堅2人が存在する。  選手層の厚いチームという事情もあり、常時出場は難しいかもしれない。加えて、若手への切り替えを図る球団方針もある。出場機会が減ってしまうのは理解できるが、あまりにチャンスが少ない。他球団へ行けばレギュラー争いに加わることのできる実力があると言われているだけに「もったいない」の声も多い。  開幕から調子に乗り切れない巨人はペナント争いで首位から13ゲーム差の5位。先述のようにオールスター前にはコロナ禍の直撃を受け、7月19日からの4日間で首脳陣、選手、スタッフを含め計73人が陽性判定を受けた。  優勝争いは非常に厳しい状況ではあるが、今はチームが若返りの時期でもあり、有望株たちの奮起も期待されている。野手では坂本勇人の後継者と言われる中山礼都、レギュラー定着が期待される増田陸に加え、秋広優人、菊田拡和など有望株は少なくない。一方、投手でも大卒ルーキーの大勢がストッパーとして活躍し、赤星優志、山崎伊織、堀田賢慎など開花の兆しを開幕当初に見せていた将来のエース候補は多い。 「良い素材が多いのは間違いないが中心選手になるには数年かかる。若手の積極起用が苦戦にもつながっている部分もある。編成面も任される原辰徳監督は数年先を考えているのでしょう。オフの積極補強がなかったのを見ても、球団方針として決定事項なのかもしれない」(在京球団編成担当) 「(若手が期待通り成長すれば)将来的に黄金時代が来るかもしれない。しかし巨人は常勝を宿命づけられている球団。ファン、スポンサーなどが(勝てない)現状に対して不満を持っている場合も多い。中堅クラスの実力者をなぜ使わないのかという声も聞こえる。石川、重信はその最たる例です」(大手広告代理店関係者)  数年後を見据えヤングジャイアンツを育成するのはごもっとも。しかし巨人のファン、そしてスポンサーなどは「常に勝利」を求めている。結果を出せる可能性がある実力者を起用すべきとの意見もある。  そして、二軍などで結果を出しながらも「起用されない選手」の筆頭が石川だ。  石川は16年オフのトレードで日本ハムから巨人に移籍。加入1年目となった17年には99試合に出場して、57安打、5本塁打、20打点と存在感を見せたが、それ以降はなかなか出場機会を増やせないでいる。だが、先述のようにファームでは常に結果を残し続けており、一軍で使われないのが不思議な気もするほどだ。 「打撃はレギュラークラス。特に飛距離はトップクラスで逆方向の打球も簡単にスタンドインさせる。東京ドーム外野席上部看板にもバンバン当てています。外野守備も決して悪くなく標準以上でもある。出番は少ないですが確実に仕事をこなせるメンタルの強さもある」(巨人担当記者)  石川は今季もこれまで一軍の出場は13試合と少ないが、打率.353(17打数6安打)とハイアベレージをキープしている。新型コロナウイルスの影響で選手も大量に離脱しており、ここからチームの救世主的な存在となれるのか。  また、石川と同じ外野手の重信も実力がありながら出場機会に恵まれない選手の一人だ。早稲田大時代から安打製造機として知られ、15年のドラフト2位で巨人に入団。即戦力として期待されながらも、なかなかレギュラー奪取には至らず中堅の域に差し掛かっている。 「早稲田の先輩であるヤクルトの青木宣親のような活躍を期待されたが伸び悩んでいる。大学時代の活躍から、将来的にはメジャー挑戦もという声も上がったほどの選手だった。試合に出れば確実に結果を残すが、パフォーマンスが安定しないところもある。チーム編成上の影響もありレギュラー奪取とまではいかない状況が長く続いている」(巨人担当記者)  今のところ巨人ではともに一軍当落線上の選手にはなってしまってはいるが、他球団からの評価も高い。7月31日のトレード期限までに動きはなかったが、「試合に出さないのであれば欲しい」という声も多くあるようだ。 「石川は代打だけでは惜しい。スタメンで4打席立てばシーズン25本塁打は期待できる。重信は実戦タイプで伸び代もまだ感じる。試合に出続け経験を積めば大学時代のような存在感を示すことができる可能性もある」(在京球団編成担当)  これからのチームを担う若い選手を育てなければいけないチーム事情もある。かつての坂本や岡本和真などは若手時代から我慢して使い続けたことで、現在のような確固たる地位を築くことができた。だが、常勝チームがゆえに勝つことも求められる。そうなった場合、やはり石川、重信のような選手も積極的に起用しなければいけないような気もするが……。 「全ては原監督の考え方次第。これだけ苦戦をしても若手中心の起用法に変化はない。今後も同様ならば石川と重信の立ち位置も変わらないので、トレードの可能性も出てくる。2選手との交換でポイントを絞って戦力補強をしつつ若手育成をするのが現実的ではないか」(巨人担当記者)  巨人は今、ピンチを迎えている。球団史上2度目となるシーズン最下位の可能性もでてきた。若手へのシフトも重要だが、目先の1勝も大きな意味を持つ状況になっている。新型コロナウイルスの影響で離脱した選手が多い中で、石川、重信の起用は増えるのか。また、シーズンオフのトレードなど、名門チームでくすぶる中堅2人の今後はどうなっていくのだろうか。

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    橋下徹が安倍元首相の国葬に反対する「フェア」な理由

     9月27日に安倍晋三元首相の国葬が行われる。産経新聞社とFNNの合同世論調査(9月17~18日)では賛成31.5%、反対62.3%。岸田首相の国会での説明に「納得できない」と答えた人は72.6%にのぼる。そんな状況でのいわば強行だが、果たして先日のイギリス・エリザベス女王の国葬のように「しめやかに敬意が示された」などと言えるかどうか。元大阪市長の橋下徹氏は当初から「反対」のコメントを発信してきた。最新刊『最強の思考法 フェアに考えればあらゆる問題は解決する』(朝日新書)の中でも、「安倍元首相は国葬に値する。しかし今のやり方での国葬には反対する」と明言。同書から一部抜粋して、橋下氏の反対論の真意を紹介する。 *  *  * ■「安倍さんだから」が理由なら、北朝鮮と同じ  僕はあらゆる問題を常に「フェアの思考」で考えている。それは、たとえば相手の立場に立って考えることや、自らの主張や態度の一貫性を保つこと、絶対的な正解はないことを前提とすること。「ルールを重視して考える」というのもその一つである。  この思考法を直近の事例で説明しよう。安倍晋三元首相の国葬の問題である。  2022年7月8日、安倍元首相が奈良市内における参議院選挙の街頭演説中に凶弾に倒れた。警備体制が敷かれている中での白昼堂々の銃撃である。日本中に激震が走り、安倍元首相を悼む声が国内のみならず世界各国から溢れかえった。  岸田文雄首相は選挙後の7月14日、国葬を行うと表明した。それに対して、賛成の声も多かったが、反対の声ももちろん上がった。  国葬賛成派は、安倍元首相の功績からすれば当然のことだと主張する。  反対派は安倍元首相個人を礼賛してはならない、安倍政治には罪の部分もある、国税を投入すべきではないということを理由とする。  この点「フェアの思考」からすれば、安倍元首相の功罪の評価については絶対的な正解はないことを前提とする。  その上で、ルールとプロセスを重視する思考をとる。  日本は世界に向けて法の支配、ルールに基づく統治を発信している。特にロシアによるウクライナ侵攻について、ロシアに対して法に従えと強く主張している。  そうであれば、日本自体がルールに基づく統治を厳格に遵守しなければならない。 「安倍さんだから」という理由で国葬にすると判断したのであれば、それは法に基づく統治、法治国家とは言えない。中国や北朝鮮などと同じく、人に基づく統治、人治国家である。  元首相である安倍さんが国葬なら、菅直人元首相が亡くなった場合にはどうするのか?鳩山由紀夫元首相が亡くなった場合にはどうするのか?  安倍元首相を支持する者の多くは、菅元首相や鳩山元首相不支持のいわゆる保守層である。彼ら彼女らは「安倍さんは当然国葬だけど、菅さん、鳩山さんが国葬なんてとんでもない!」と主張するだろう。しかし当然、菅元首相や鳩山元首相の支持者もいるわけで、その者たちは菅元首相や鳩山元首相の国葬も求めるかもしれない。  この点、アメリカは分かりやすい。慣例上、大統領経験者が亡くなった場合にはご遺族が拒否しない限り原則国葬とされている。ニクソン元大統領はウォーターゲート事件があったがゆえに本人やご遺族が国葬を望まなかったそうだ。  アメリカは二大政党制なので、各大統領経験者には単純に言えばアメリカ国民の約半分の不支持者がいるにもかかわらず、国葬になる。 ■雰囲気による国家運営が最も危ない  では、日本はどうか?  戦後、これまでは吉田茂元首相のみが国葬で、あとは国葬は行われず、内閣と自民党の合同葬などが営まれていた。  ゆえに安倍元首相がいきなり国葬になるのであれば、唐突感が否めない。しかし岸田首相の国葬の表明後、国葬でいいじゃないか、という雰囲気に世間は包まれた。  この雰囲気による国家運営というものが一番危険なのだ。  安倍政権の問題の一つに桜を見る会に関するものがあった。もともとは政府主催の一定の功績のある国民を招待する行事であったのだが、安倍元首相はじめ自民党の議員たちが、自分の後援会関係者を呼ぶ行事と化していた。  この点、税金を使う政府の行事が、政治家の支持者獲得のための後援会行事になっていると批判され、桜を見る会は中止に追い込まれた。  このような事態を招いたのは安倍政権や日本政府が、政治イベントと行政イベントの区別がついていなかったことが原因であった。  政治イベントは、政治家が自分の好きな者を呼んでくればいい。政治資金パーティーが典型だが、政治家の政治活動とはそのようなものである。  しかし行政イベントとなればそうはいかない。日本政府は、どのような政治信条を持っているか、どこの政党を支持するかに関係なく、全国民を対象に振る舞わなければならない。全国民からの税金で支えられているのだから当然である。  ゆえに行政イベントの場合には、明確な基準が必要なのだ。  国葬であれば、国葬にする基準、しない基準が必要になる。  この点、内閣府設置法第4条3項33号に、内閣府の所掌事務として「国の儀式」に関する事務が定められていることを根拠に、岸田政権は安倍元首相の国葬を決定してもいいという意見があるが、とんでもない間違いである。  国の儀式を内閣が行うのは当たり前のことである。重要なのは、どのような場合に国葬にするのかの基準と判断プロセスなのである。 ■ルールと判断プロセスの明確化しかない  岸田首相は、(1)憲政史上最長の8年8カ月にわたり内閣総理大臣の重責を担った(2)東日本大震災からの復興、日本経済の再生、日米関係を基軸とした外交の展開などの大きな実績を残した(3)外国首脳を含む国際社会から極めて高い評価を受けている(4)民主主義の根幹たる選挙が行われている中、突然の蛮行によって亡くなり、国の内外から幅広い哀悼、追悼の意が寄せられている、という理由を持ち出し国葬に値すると表明した。  それに対して安倍政治には罪の部分もあるし、国葬にすれば安倍元首相を称えることを国民に強制することになるので国葬にすべきでないという意見もある。  だからこそ、ここは絶対的な正解を求めるのではなく、ルールと判断プロセスを重視する「フェアの思考」が必要なのである。  すなわち岸田首相が掲げた4つの具体的理由とは別に、一般化した国葬の基準を法律上明確化すべきである。そして岸田首相が個人的に判断するのではなく、判断のプロセスも明確化すべきである。  たとえば、衆院・参院両議長や最高裁判所長官、それに民間の代表者も加えて審議会で議論をしてもらい、そしてその意見を踏まえて最後は内閣、つまり首相が判断する。  審議会で責任を負いながら決定するのは困難であろうから、審議会にはあくまでも意見を出してもらう。その上で責任をもって決定するのは内閣、つまり首相だ。  このようなプロセスを踏むことにより、正解に近づいたと見なしていくのである。  その決定について全国民が賛同することはあり得ない。常に反対意見が出るだろう。しかし適切なプロセスを踏むことによって、反対意見の人の納得度も高めていく。これが「フェアの思考」だ。 ■共産党や辻元議員と同じ反対派と思われるのは心外  このような明確な基準や適切なプロセスを踏むことなく、「安倍さんだから」国葬にするというのは最悪の国家運営だ。  法の支配というのは、自分に不利になること、相手に有利になることでも受け入れる姿勢がなければならない。  つまり基準に適合し、適切なプロセスを踏んだのであれば、自分が支持しない元首相が国葬になっても受け入れなければならない。安倍元首相「だけ」を国葬にするというのはあってはならない。  このような「フェアの思考」から、僕は「安倍元首相は国葬に値する。しかし今のやり方での国葬には反対する」というコメントを出した。  しかしこのようなコメントは、世間でなかなか受け入れられない。つまり多くの国民は「フェアの思考」ができていない。  安倍政治と対立していた共産党や立憲民主党の参議院議員の辻元清美さんたちは、案の定、安倍政治の罪の部分も考慮すれば国葬にすべきではないと主張している。結論だけ見ると、僕も共産党も辻元議員も、同じ反対派になってしまう。  これは僕にとって心外なのだ。  共産党や辻元議員たちは安倍政治を否定的に評価して国葬に反対。他方、僕は安倍政治の功績は十分に認めて国葬に値すると評価した上で、「フェアの思考」から反対という主張である。  この2つの論が明確に異なることを理解して欲しい。僕のほうは単純賛成、単純反対とは全く次元の違う論なのだ。  ルールに基づく国家運営を逸脱することほど怖いものはない。あっという間に権力は暴走する。ゆえに僕はルールに基づく国家運営の重要性を国民のみなさんに理解してもらいたい。それで「国葬に値する、しかしこのやり方では反対」という、複雑に聞こえるメッセージを発信したのである。

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    “ラジオ界の宝”ピストン西沢の「GROOVE LINE」、24年半の歴史に幕 「ラジオのために生まれてきた」

     J-WAVEの人気番組「GROOVE LINE」が9月29日に終了する。「自分がやりたいことができる環境をつくってきた」というピストン西沢さんの24年半とは、どんなものだったのか。AERA 2022年10月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  あと十数秒で放送が終わる9月1日の夜7時前、ピストン西沢さんが言った。 「そうだ、この番組、今月いっぱいで終了です」  突然の終了宣言にリスナーはざわつき、DREAMS COME TRUEの中村正人さんは「ピストン西沢はラジオ界の宝。」とブログに投稿した。番組にはアーティストからの出演希望が相次いだ。スタジオでは物心ついたときから聴いていたというチャラン・ポ・ランタンが涙し、石井竜也さんが絵を贈るなど、ラスト1カ月はゲスト満載、祭りのような放送が続いている。  一貫してハイテンション、独特のトークとDJミックスで人気を集めるピストンさんは24年半、J-WAVEの夕方の時間を走り続けてきた。同じナビゲーターが続ける番組でさらに長いのは、同局ではクリス・ペプラーさんの「TOKIO HOT100」しかない。聴取率は6月の首都圏ラジオ聴取率調査(ビデオリサーチ)で同時間帯トップだし、スポンサーもついているが、10月からの新番組編成のために終了することになった。 「ラジオの自分は店じまいして、他の自分が今度はメインになるというだけの話です。やりたいことがいろいろありますから」  とピストンさんは語る。 ■ADから始めた努力家  そもそもバイリンガルのナビゲーターが主流のJ-WAVEに、なぜピストンさんが出演することになったのか? 「脳科学者にも言われたんですけど、僕は小さい頃から今まで子どもが興奮しているような状態がずっと続いてるんですよ。うるさい子どもだったと思うし、我慢しないと社会でうまくやっていけないことはわかっていたから、自分の能力でごはんが食べられるところを目指したんです」  選んだのは音楽の道だった。通産省(当時)の官僚だった父親が薦める企業には行かず、ディスコで、今でいうクラブDJをしていた。番組の初代プロデューサーで当時を知る杉山博さんは、 「彼がターンテーブルミックスを始めると客が集まってきてフロアがぎゅうぎゅうになるんです。とんでもなく人気のあるDJでした」  しかし、ピストンさんにはディスコより放送局の水が合っていた。声をかけられてFM横浜の深夜番組で初めてマイクの前に座り、J-WAVEのパーティーでDJをしたときに自らプレゼンして番組制作に携わるようになる。杉山さんは、 「人気DJなのに、一から番組作りを学びたいと言ってADから始めました。努力家で、でも振り切った面白さがあるやつなんで、スタッフの中でも瞬く間に知れ渡り、裏方よりしゃべったほうがいいんじゃないか、となったんです」 ■少しずつ陣地を拡大  1993年頃から番組に出演し、最初はですます調で真面目に話していた。3週目くらいに、留守番電話にリスナーが入れた鼻歌の曲名を当てる企画を始めた。ピストンさんは振り返る。 「それから番組がうまく回り出しました。僕は制作者としての勘が働いたから生き延びた。どうしたら面白くなるか、自分で矯正していったんでしょうね」  そして98年に「GROOVE LINE」がスタートした。ゲストをいじったり、リスナーとの電話を途中でブチッと切ったりと、J-WAVEらしくない、やんちゃな番組は評判になった。とはいえ、最初から好きなように話せたわけではない。局内には歓迎しない人もいた。 「昨日の放送でいいと言ってくれる人が局の中に1人増えたと感じたら、今日はもう少し言ってみようと、少しずつ陣地を拡大していきました。自分がやりたいことができる環境を作ってきたんです」  とピストンさん。傍若無人に聞こえるトークの裏には緻密な思考がある。松尾健司プロデューサーは、 「ただ話しているのではなく、番組が面白いのか、リスナーは喜んでいるのか、スポンサーがどう思っているかまで、360度が見えている。そんな人はそうそういません」  台本には曲名くらいしか書かれていない。あとはピストンさんが臨機応変に言葉を繰り出す。リスナーが飽きたと察すれば、すかさず言葉や行動で刺激する。ピストンさん自身も、 「僕がディレクターとして自分を見たら、これだけラジオに合ってるやつはいないと思いますね。ラジオのために生まれてきたやつだとも言えます」  人気は過熱し、2009年にHMV渋谷での公開生放送が終了するときには、ファンがフロアを埋め尽くした。  番組にはリスナーから日々1千通、2千通に上るメッセージが届く。ピストンさんはそこから世の中の動きやリスナーの思いを敏感に感じ取ってきた。  東京都板橋区でお好み焼き店「みりおんばんぶー」を営む佐々木拓・麻子夫妻は、仕込みをしながら番組を聴いて17年になる。投稿で番組とつながり、東日本大震災、麻子さんの病気、コロナと、危機に瀕するたびにピストンさんに励まされて乗り越えてきた。  番組での紹介でリスナーが来店するようになり、18日には17人が集まってリスナー会議が開催され、「最後まで番組を盛り上げていきましょう!」と乾杯した。参加したラジオネーム「Mr.ハラキリ」さんは多い日には50通ものメッセージを投稿し、10年間で4670回以上、番組で取り上げられた。 ■リスナーに寄り添う  やはりリスナーにはおなじみの「野球道」さんは仕事中にもネタを考え、生活が番組中心に回っているほど。他の番組より採用のハードルが高いだけに読まれたときの喜びは大きい。 「ピストンさんは一瞬のうちに順番を入れ替えたり、セリフ調にしたりして、より面白く味付けして読んでくれる。そのすごさは投稿した本人にしかわからないんですよ」  20代の「右手にコーラ」さんはトラック運転手をしていた5年前に番組を聴き始めた。毎日30通を投稿するが、採用されなくても番組を盛り上げる一助になればいいと言う。 「ピストンさんには恩があるんです。電波越しにDJの面白さを教えてもらって2年前に機材を買って練習を始めました。今はクラブでDJをしています」  ナビゲーターのトーク力は非常時に試される。東日本大震災後の不安な日々の中、いつものピストンさんの声にホッとした人は多かった。リスナーの気持ちに寄り添った情報発信は高く評価され、ギャラクシー賞ラジオ部門DJパーソナリティ賞を受賞している。  コロナで世の中が硬直したときも話題をそらさず、周りに感染した人はいますか、療養中のあなたに電話しますよ、と呼び掛けた。 「僕の中でラジオの重要な部分はやはりコミュニケーションなんです。みんなで同じ気持ちを味わって気が楽になったり、勉強になったり。共有と拡散です」 ■「今、すっごい自由」  今後、やりたいことの一つがSNS、YouTubeでの交流だ。たとえば、悩みや相談事をみんなで考える。生きている上で抱えているものを軽くしたり、やりたいことを我慢しない生き方を探すヒントになればいい。  番組終了後の同時間帯にはタカノシンヤさんと藤原麻里菜さんによる新番組「GRAND MARQUEE」が始まるが、ピストンさんの声は日曜夜7時の「DRIVE TO THE FUTURE」で引き続き聴くことができるし、YouTube配信も始めている。 「長くやっていて一番の大敵は自分に飽きちゃうことなんです。番組終了が決まってから急に楽しくなっちゃった。今まで番組継続に悪影響があるものは自分の中でアウトと縛ってきたけど、もう関係ないもんね。今、すっごい自由ですから」  28日は秀島史香さんと2人で進行する。29日の最終日に何が起きるかはわからない。(ライター・仲宇佐ゆり)※AERA 2022年10月3日号

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    Aぇ! group「今が推しどき」「這いつくばってでも前に」 初アリーナでたてたファンとの誓い【メンバー詳細コメント】

     あの悔しさは、たしかに晴らした。  今年7月、関西ジャニーズJr.のAぇ! groupが出演するはずだったライブ「Summer Paradise 2022」がメンバーのコロナ感染で中止になったとき、SNSには人気チケットを手にしていた人々の悲痛な嘆きがあふれた。大切なファンを悲しませてしまったことは、誰よりも6人のメンバーたち自身が心を傷めたにちがいない。すぐに公式ブログ上で発表されたコメントの数々は、「その気持ち俺たちが責任持って請け負います」「もっと大っきくなって東京突撃します」「絶対に6人でまたリベンジするからな」「浮気せずに待ってて」などと精いっぱいファンの心に寄り添っていた。  そして、約束はすぐに果たされた。9月28~29日、単独ライブ「西からAぇ!風吹いてます! ~おてんと様も見てくれてますねん LIVE2022~」を開催。しかも会場のぴあアリーナMMは、7月のライブで予定されていたTOKYO DOME CITY HALLの約4倍のキャパシティを持ち、ユニット単独では記念すべき“初関東&初アリーナ”公演となった。さすが、オリジナル曲「Stray dogs.」で「We’re like a stray dogs」とシャウトしているメンバーたち。ハングリー精神で、見事にピンチをチャンスに変えた。  28日のライブ当日。大舞台に立った6人は、終始、うれしくてたまらないといったキラキラな笑顔を投げかけた。そして、ときに髪を振り乱して全力で踊り、ときにマイクが割れるほど必死に叫び、頻繁に本場・関西仕込みのハイレベルなコントを炸裂させた。観客たちは必死でペンライトを振ってボルテージを上げたり、ほほえみながら見守ったり、まさに“おてんと様”よろしく暖かに6人を包み込んでいた。  関西ジャニーズとしての誇りを胸に、しっかりと爪痕を刻み付けたメンバーたち。フィナーレでは、それぞれ自らの言葉を噛みしめるように、“次の約束”を口にした。 草間リチャード敬太 えー本日は皆さん、ご来場で、ごらい、噛んじゃったー(笑)。ご来場いただきまして、誠にありがとうございました。僕たちAぇ! groupにとって初となる単独アリーナ公演、どうでしたか?[会場拍手] ありがとうございます。もうそれ以上の拍手を僕から送りたいです(笑)[自分でも小さく拍手]。このね、曲もそうですし、コントもそうですし、もうみんなで一体となって手振ってる感じ、ペンライトばーって振ってる感じ。めちゃめちゃ楽しい。めちゃめちゃ綺麗やし。みんなが出し切ってくれるこの、この感じがすごく伝わってきます。それに負けへんように僕もうわーってやってたら、バテそうになりました(笑)。いやでも、ほんまにそこで感じるエネルギーってすごいなって思うので、これからも僕たちにエネルギーを届けてください。僕らからもエネルギーを送ってます。エネルギーを交換しあいましょう。またこういう場を持てるように僕たち頑張っていきますので、ここからも一緒に上を目指して楽しく歩んでいきましょう。 福本大晴 Aぇ!のライブとしては1月に関西Jr.のライブやってからかな? 本当に久しぶりって感じがして、みんなのペンライトが見えた瞬間に「あ、やっと会えた!」っていう気持ちがあって。で、そのペンライトがバーって、声出されへんぶん、めっちゃ楽しそうに振ってくれてんのがさー、もうすっごい楽しくて。で、俺らが楽しなってんのを見て、(みなさんも)楽しなってるでしょ、絶対?(笑) だからこうお互いに支えあって、なんか人間してるなって感じがして、本当に最高です。タイトルにもありますけどね、西からAぇ!風吹いてます。その勢いを、本当にめちゃめちゃ感じています。なにわ(男子)がデビューして、(関ジャニ)∞さんは日産スタジアムでライブをやって、ジャニーズWESTさんは東京ドームでライブをして、で、僕たちは今、アリーナに立っています。でもね、僕、Aぇ! group結成してプロフィールのところの夢に5大ドームツアーするって書いてるんすよ。だからこのアリーナはまだ通過点です。その5大ドームツアー、夢叶えた先にもっとでっかい夢が待っているかもしれません。なのでみなさん、夢を叶えるため、僕たちも支えるんで、お互い支えあっていきましょう。 末澤誠也 みんなに本当に感謝です。忙しいのにさぁ、足を運んでくれてね。やって平日やん。なんで平日にライブすんねんって思ったやろ? ……そりゃしゃーない(笑)。でもさ、もっとたくさんの場所でみんなと楽しい時間空間を作りたいなっていうのは今日改めて感じました。僕、あのー、ほんまにAぇ! group好きなんですよ。信頼もしてるし。だから全然不安がなくて。そう、だからね、みんなも俺らのことほんまに信用してほしいね。信用してくれとるって信じてるけどね。俺たち絶対後悔させへんし、Aぇ! group応援しててよかったなって思ってもらえるように、がむしゃらに全身全霊で、プライドかけてやっていきたいなと思ってます。みなさん、Aぇ! group、今が推しどきです[うんうんとうなずきながら、自信ありげな表情]。Aぇ! groupってさ、アホなことばっかりするやん。でもみんなノリに付きあってくれるやん。自分たちが楽しい面白いと思っていることをみんなも楽しんだり笑ったりしてくれてるっていうのがすごい僕はうれしいし、これからもそういう関係でいられたらなと思っております。みんな頼むよ! これからAぇ! groupまだまだいくからね! ここで終わらんよ! これからもずっとついてきてください。 佐野晶哉 本日は「西からAぇ!風吹いてます!~おてんと様も見てくれてますねんLIVE2022~」にお越し下さいまして、本当にありがとうございます。「吹かせます(※昨年まで放送されていた冠番組タイトルから)」じゃないんですからね、「吹いてる」んですから! 吹かせてくれてるのは紛れもなく、僕たち6人ではなくてこの会場、全国世界にいるAぇ!を好きでいてくれてるみんなのおかげです。今年の夏はほんまにたくさんの経験させてもらえた夏で、(関ジャニ)∞さん(ジャニーズ)WESTさんの背中を間近で見させてもらって。今までももちろんめちゃめちゃでかく見えたけど、初めて(ライブで)バックにつかせてもらったら、もうね、MAXだと思ってた憧れの気持ちがもっともっと好きになって。こんな先輩勝てへん、すごすぎるて、って悔しい気持ちもたくさんあるけど、Aぇ! groupにしか出せへん空気感も絶対あると思うし、もし今なくてもこの6人とこのみんなとやったら絶対見つけていけると思ってるし。今年の夏、スタジアムっていう7万人のとてつもなくでかい野外の景色[※7月、関ジャニ∞が日産スタジアムで行ったライブ『18祭』]も見せてもらって、また夢も広がっているので、これから本気で戦っていくので、僕たちについてきてください。 小島健 みなさん、本日はご来場いただき誠にありがとうございました。もう本当にこのライブ楽しくて。リハやったらただただ走ってるところとかも、みんながおるから俺たちめちゃめちゃ楽しくて。このステージにおるときは、Aぇ! group、無敵になれます。だから今後ね、僕らがこう失敗とかすることもあるやろうし、ちょっと間違えちゃうこともあるやろうし、つまづくこともあってコケちゃうかもしれへんけど、その度に俺たち立ち上がって、それはみんながおるから立ち上がれて、這いつくばってでも立ち上がれんくても、前に進んでいきます。それがAぇ! groupなりの、俺たちなりの王道やと思ってるんで。その道で進んでいくんで、みなさん覚悟決めて俺らについてきてください。これからもよろしくお願いします。 正門良規 改めまして本日はご来場いただき本当にありがとうございました。ちょっと眺めさせてください、この景色を[メンバーカラーの青いペンライトが一斉に振られるのをゆっくり見渡して]。ありがとうございます。いや本当にね、今年はAぇ! groupとしてみなさんに会うことはできないんじゃないかなって考えたこともありました。それがこういう形で実際に顔と顔を見あわせながら、同じ空間で、同じ空気吸って、同じ時間を過ごしてる。これほど尊いことはないなと。みなさんの顔を見てパフォーマンスができる幸せ、ね、声こそ出せなかったり、まだマスクをつけてたりとか、みなさんにご協力していただいている部分もたくさんあるんですけども、みんなでつかみ取った、みんなでここまできたと僕は本当に思っています。小島の名言にもありますが、俺たち全員でAぇ! groupです。みなさまどうぞこれからも末永くもっともっとたくさんの景色を、もっともっとたくさんの思い出を共に作っていきましょう。 雨降って、地固まる。おてんと様がいる限り。 「今が推しどき」なAぇ! groupが表紙を飾る10月4日発売の「週刊朝日」10月14-21日号は、メンバーがこのライブへの意気込みなどを語ったインタビューや、数々の写真で公演の模様を振り返るライブスナップ、そして撮り下ろしグラビアなど、計12ページの大ボリュームでその魅力に迫る。 (本誌・大谷百合絵) ※週刊朝日オリジナル記事

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    「あすけんの女」を泣かせるユーザーが続出 会員数750万人超“ダイエットアプリ”人気の理由

     会員数750万人を誇る食事管理アプリ「あすけん」。一日の終わりに食事内容についてアドバイスをくれる管理栄養士キャラクター「未来(みき)さん」、通称「あすけんの女」の泣き顔がSNSで話題だ。「今日もあすけんの女を泣かせた」「あすけんの女、すぐ泣く」といった投稿があげられている。未来さんを泣かせているユーザーと、未来さんの“中の人”に話を聞いた。  *  *  * 「小説トリッパー」2022年春号に掲載された作家の織守きょうやさんのエッセー「あすけんの女」は、食事管理アプリ「あすけん」のキャラクターを題材にしたもので「あすけんの女に対して抱く感情の全てが書いてある」と反響を集めた。織守さんが「あすけん」を使い始めたのはコロナ禍の体重増加がきっかけだったという。 「行動制限の影響もあってか2kgくらい体重が増えてしまったんです。『ゆるゆる調整しなきゃいけないな』と思っていたところ、久しぶりに会った知人がすっかりやせていたんです。理由を聞いたら『あすけん』だというので、その場でインストールしました」 「あすけん」は2007年にサービスを開始した人気のレコーディングダイエットサービス。コロナ禍における体形管理への関心の高まりや、口コミによって、ここ2年は年間150万人のペースでユーザーが増加していて、現在会員数は累計750万人を超える。  使い方は体重や食事内容、運動量を入力するだけ。カロリーや栄養バランスが計算され、その過不足をもとに100点満点で採点結果が出る。ユーザー平均は53点と、意外と低めだ。「あすけん」事業責任者の道江美貴子さんは言う。 「高得点が難しいのは、カロリーのほかにPFCバランスや野菜の摂取量、運動量にもしっかり配点があるためです。『お菓子をいっぱい食べているけれど目標カロリー内だからOK』『とにかくりんごだけを食べて摂取カロリーを下げる』といったアンバランスなダイエットでは良い採点にはなりません。必要な栄養素を必要な分だけ取る、健康的なダイエットをサポートするアプリになっています」 ■「あすけんの女」の表情がバロメーター  そして、「あすけん」の最も特徴的な機能が、管理栄養士のキャラクター・「未来(みき)さん」による毎日のアドバイスだ。状況に応じてさまざま表情を見せ、「どうしてもこってりしたものを食べたい時は、お野菜をいっしょに食べるようにしましょう」など、食事内容に応じて具体的なアドバイスが表示される仕組みになっている。  カロリーオーバーが続けばさめざめと泣き、カロリーが目標値内でも脂質や塩分の摂取量に厳しいものがあれば、スンとした表情で指摘をくれる。この、涙をもって食べ過ぎを指摘してくる未来さんの態度がSNSで話題になっている。「今日もあすけんの女を泣かせた」「あすけんの女、すぐ泣く」といったコメントとともに高カロリーの食事の画像や採点結果のスクリーンショットが毎日のように投稿されている。  織守さんも「叔母がおやつに豚まんを差し入れてくれたので、今日もあすけんの女には泣いてもらいます」「あすけんの女、今日のところはなんとか笑ってる」など、SNSに未来さんとの攻防の様子をつづっている。 「あすけんの女が泣きそうでも、私は『食べたい!』と思ったときは食べるんです。『明日は友達と中華を食べにいく』と投稿すると、『明日は織守さんちのあすけんの女が泣くぞ』『あすけんの女がなんと言うか楽しみですね』といったコメントをもらったりして。そうこうしているうちに、あすけんの女を泣かせる悪い男のような気分になってきましたね(笑)」(織守さん)  ほほ笑んでみせたかと思えば泣いたり冷めた目で見つめてきたり――。そんな「あすけんの女」の機嫌を保つ攻略法を探るうちに、いつのまにか食事管理ができてしまっているというわけだ。  SNSでは泣き顔にばかり言及されている「あすけんの女」だが、本来はめったなことでは涙を見せない。道江さんによれば、カロリーオーバーやお酒の飲みすぎ、過度なカロリー不足が数日続いたときに泣いてしまうのだという。 「未来さんの涙は『いつもと違うけど大丈夫?』という心配の涙なんです。泣いてしまったときは、本当に心配されてしまうような、気を付けなくてはいけない状態なんだな、と思ってくださいね」(道江さん) ■「ダメな日」を受け止めることがダイエット継続のコツ  道江さんいわく、ダイエットから脱落してしまう人に多いのは、飲み会などのちょっとしたイベントを機に、「一回カロリーオーバーしてしまったし、もういいや」となし崩し的に食事管理をやめてしまうパターン。未来さんが泣くという、“失敗”もある種の楽しみや笑いのネタになっている点が、「あすけん」が支持される理由のひとつかもしれない。 「あすけんの女に特別深い愛情があるわけではないんです。『泣かせちゃってごめんね!』とは思わない。でも、深刻そうな泣き顔で『このままだと体重に影響が出てきてしまうかもしれません』とか言われると、『わかったよ……仕方ないなあ』と調整しようという気持ちになります」(織守さん)  そんないつも厳しく指導してくれる未来さんが、「食べ過ぎ」を笑ってゆるしてくれるタイミングがいくつかある。誕生日、クリスマス、年末年始などのハレの日だ。 「誕生日などは、“アメとムチ”で言うところの“アメ”ですね。1週間でやせることはないですから、ダイエットで一番重要なのは継続。ダメなときがたまにあってもいいよね、という気持ちで続けていくのが一番のコツです」(道江さん)  織守さんも、誕生日の日の未来さんのコメントには思わず笑顔になった。 「誕生日だったので思いっきり食べたら、いつもだったら泣くはずの『あすけんの女』が『お誕生日は楽しめましたか?』と笑顔を見せたんです。『ふーん、かわいいとこあるじゃん』って感じ(笑)。点数は容赦なく低いんですけどね」(織守さん) 「ダイエットは自分自身との孤独な闘い。一人で継続するのは大変です。伴走者である未来さんの一喜一憂を楽しんでいただきながら、カロリー制限だけではない健康管理をぜひ学んでください。未公開の表情や衣装もあるので、これからの未来さんにもぜひ期待してください」(道江さん) (文・金山佐和)

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    【フォトギャラリー】ホラン千秋さん、大反響の「鬼ヤバ弁当」の“中身”

     澄んだ声と飾ることのない自然体で、いまやすっかり“夕方の顔”。そんな人気に拍車がかかったのは、飾り気ゼロのお弁当だった。ホラン千秋さんは、こう言う。「写真を載せているうちに、『この弁当を見て気が楽になりました』というコメントがくるようになって。きれいにお弁当を作らなければという呪縛みたいなものがあって、そこから解放される人がいるのだと、予想外の反響に驚きました」【関連記事】ホラン千秋「鬼ヤバ弁当」予想外の反響に驚き 飾り気ゼロも「他人に合わせる必要ないと思う」

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    痴漢されて当然だ? 被害に遭った女性弁護士に心無い言葉 専門家としての“防衛術”と弁護士の選び方

     長年、性被害者の支援を行ってきた弁護士の青木千恵子さんは2020年10月、JR埼京線の車内で痴漢被害に遭った。AERAdot.の取材に対し、専門家として“防衛術”や弁護士の選び方を語った。※記事の前編<<「お尻を触られている」痴漢被害に遭った弁護士が実名告白 被害者の心と体を蝕む恐怖と自己嫌悪>>から続く *  *  *  青木さんは性被害者を支援する活動を学生の頃から20年以上続けている。はじめは心理カウンセラーの資格を取り、心のケアを続けてきた。ただ、当時の日本は被害者を救う制度があまりに脆弱だった。  被害者を支援する法制度の改革が必要だと、早稲田大学大学院法務研究科で研究に打ち込んだ。さらに現場で被害者を救うために弁護士になろうと決心し、法科大学院に入り直した。2018年、41歳で司法試験の合格を手にした努力家だ。  青木さんは、今年9月に記者会見を開き、この時の痴漢被害について現役の弁護士として実名で訴えた。  ニュースで報じられると、ネット上には、青木さんを責める声も書き込まれた。 <露出度の高い服で帰宅ラッシュの電車に乗るのが悪い。痴漢されて当然だ> 性被害に遭った女性へ向けられる批判の多くは、大抵「そんな服装をしているのが悪い」という種類のものだ。  まず青木さんが被害に遭った日は、弁護士としての業務中。青木さんはワンピースにジャケットの仕事着であった。  そして「服装が原因で痴漢被害に遭う」という指摘。青木さんは「それは誤解だ」ときっぱりと否定する。  青木さんは、痴漢やわいせつの被害に遭った少女や女性を何百人と支えてきた。 「断言できます。痴漢する人間は、相手の服装など見ていない。性犯罪に遭う原因とまったく関係ありません」  実際、青木さんも痴漢被害に遭った時は、ジャケットの襟に弁護士バッジをつけていた。  青木さんは、そのバッジに痴漢の男が気づいて行為をやめるのを期待した。しかし、男の手がやむことはなかった。  青木さんは警察に、「痴漢の男は、弁護士バッジを見なかったのか」と聞いた。すると、男は取り調べでこう話したという。 「お尻ばかり見て、バッジには気づかなかった」  服装で自分を守るのは難しい。だが、「そんな服装をしているから被害に遭う」と考えている人がほとんどだと、青木さんは話す。  痴漢の被害に遭う中学生や高校生は多い。  青木さんの事務所にも、母親に付き添われて被害者の少女や女性らが相談に来る。 悪気はないのだろう。被害に遭った娘を前に、こう口にする母親も少なくない。 「電車で丈の短いスカートなどはくから被害に遭うのよ」  しかし、肝心の被害者の少女らを見ると、「お尻や胸が見えそうな短いスカートや派手な服装の子は、ほぼいません」と青木さんは言う。  青木さんによれば、「痴漢」をする人物の発想は、世間一般とはだいぶ違う。服装や色気のあるなしや好みのタイプであるといった理由で、相手を決めるのではない。  犯罪を行う人間は、まず「捕まらない」ことを第一に考える。そのため、「痴漢に反撃しない、おとなしそうな相手」に狙いを定めるのだという。  2022年に内閣府がツイッターで公表した科学警察研究所のデータが興味深い、と青木さんは言う。  性犯罪者が被害者を選んだ理由の1位は、「警察に届け出ることはないと思った」37.2%、2位も「おとなしそうに見えた」36.1% である。 ■シンプルな防犯グッズを  こうした調査は、昔からあるにも関わらず、世間の偏見は消えない。  たとえば、「警察時報」に2000年に掲載された「性犯罪の被害者の被害実態と加害者の社会的背景」という論文では、500人を超える性犯罪容疑者 に、「なぜ被害者を狙ったのか」と質問している。やはり筆頭に来る理由は、「おとなしそう」、「警察に届け出ないと思った」というものだった。  事実、青木さんが会った被害者の少女や女性らは、「絵にかいたようにおとなしい子ばかり」だという。 「派手な子は反撃される確率が高いと考える痴漢が多いのでしょう」  最近は、男の子や男性が被害に遭うことも珍しくないという。  では、「おとなしそう」な印象を持たれる子どもや人は、どう身を守ればいいのか。  青木さんが最も効果的だと薦めるのは、防犯アラームのようなシンプルな防犯グッズだ。たとえば、電車の中で痴漢に遭っても、驚きや恐怖心で「助けて」の言葉が出ない可能性が高い。 「 そんな時の最強の撃退方法は、「迷わず防犯アラームを鳴らすこと」と青木さんは言い、こう続ける。  痴漢は、自分に警戒したのだとすぐに理解します。犯罪者は目立って捕まることを一番恐れます。周囲の視線がアラームを鳴らした子に集まるので、それ以上は手出ししません」  防犯アラームを鳴らすことで、「何かあったな」と不穏な気配を察知して、見守る人が出てくれる可能性も高まる。 「とにかく、早めに鳴らして痴漢行為やわいせつ行為を1秒でも早く止めてください。そのほうが、心の傷も浅く済みます」  幼児や小学生が痴漢やわいせつ被害に遭う事件も多い。子どもには、こう教えると理解がしやすいという。 「下着で隠れる場所を触られたら、防犯アラームを鳴らしなさい」  最近は、「痴漢です」などと音声で警告音を鳴らすスマートフォンのアプリもある。 「性被害に遭っている時は、動揺しています。その場合はスマホより、できるだけシンプルな手順で助けを求められるグッズがよいです」  確かにスマホの場合、手に取ってからロックを解除してアプリを起動させるなど、操作の数が多い。だからこそ、操作がシンプルな防犯アラームを推奨している。 ■刑事事件専門の弁護士ならばいい?  被害者として弁護士を探す時も、コツがある。  まず、性被害者支援を専門としている弁護士を選ぶことだ。注意しなければいけないのは、「わたしは、刑事事件に慣れています」と話す弁護士だ。  なぜか。  その場合、加害者側の弁護士としての仕事をしている場合が多いからだ。  被害に遭って体も心も傷ついている場合は、「被害者に寄り添う」という志を持った弁護士と二人三脚で歩むことが大切になってくる。  さらに、性被害者支援を専門とする弁護士は、行政の支援サービスなどにも詳しい。都道府県単位でも支援はあるが、一歩進んだ行政制度を整えている自治体もある。たとえば、東京都中野区は、中野区犯罪被害者等支援条例によって手厚い支援体制を敷いている。  青木さんによれば、被害に遭った人は、「ご飯が食べられない」「恐怖で外にも出られない」「人に会うこともできない」など、衣食住がガタガタになるケースも少なくない。家族の世話や食事の支度ができなくなれば、家庭が崩壊しかねない。そうした人たちを救うために、保育園や幼稚園の送り迎えや家事の援助、自宅に弁当を届けてくれる配食サービスや弁護士費用などの助成が行われるケースもある。また、自宅に侵入されて犯罪被害に遭うことなどでこれまでの住まいへの居住が困難になる場合についても、20万円を上限としてホテル宿泊費や転居費用への助成もある。  地域によって内容は異なるものの、被害者支援を行う自治体は全国的にも増えている。 「日本でもようやく、被害者の心の傷に寄り添う支援制度が構築されつつあります。もし不幸にも被害に遭われた方は、家族など周りの方が居住する自治体の支援制度などを調べるのもいい。また、支援団体はこうした情報を把握していますから、ぜひ相談してください」  青木さんは、不幸にも犯罪被害に遭った。だからこそ、被害者の心の傷に寄り添う弁護士として活動している。 (AERA dot.編集部・永井貴子)

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    「妊活したいけど1回も性交していない……」結婚6年目夫婦の他人に言えない深い悩み

     今や、約5.5組に1組が不妊治療の検査や治療を受けたことがある時代。今年4月から不妊治療が保険の適用対象になったことで、より治療の間口が広がった側面もある。こうした中、不妊は未だ当事者が「身近な人にこそ話しづらい」と悩むテーマだ。  センシティブな内容であるがゆえに、誰にも言えない深い悩みを抱え、孤独の中に佇んでいる人は依然として多い。こうした当事者のさまざまな“孤独”を掘り下げながら、不妊治療の今を探る短期連載「不妊治療の孤独」。第一回前編は、妊活したいけれども「性交ができない」と悩む37歳女性の実態から――。 *  *  * 「妊娠の入り口にも立てていないことを、ずっと誰にも言えませんでした」  東京都在住の会社員、A子さん(37)。3年間の交際期間を経て、3歳年上の夫と結婚したのは6年前、A子さんが31歳、夫が34歳の時のことだ。自他共に認める仲良し夫婦で、互いを信頼し合っている。週末には二人で外食を楽しんだり、一緒にランニングしたり、どこにでもいる幸せそうな夫婦だ。  夫婦はある一点だけ、人に言えない悩みを抱えていた。それは、「性交ができない」という悩みだった。  身体的に何か問題があるわけではない。性欲もあるし、スキンシップも嫌いじゃない。問題は、“挿入”の一点のみ。それ以外、つまり挿入を伴わない性交であれば、何の問題もないのだ。  具体的には、こんな具合だ。A子さんは、挿入に対する恐怖感が強く、いざという時に体がこわばって萎縮してしまう。反射的に足に力が入ったり、股が閉じてしまうこともしばしばで、どうしても力を抜いて臨めない。  夫からどれだけ「大丈夫だよ」「リラックスして」と優しく声をかけられても、「絶対に痛いに違いない」という思い込みはどうしても拭えず、それが原因で、実はこれまで挿入を伴う性交は誰とも経験がない。  A子さんが怖がることで、夫との性交も、自然と途中でやめることになる。何度も挑戦はしてきたが、うまくいかないことが続き、「そのうちできるようになるよ」と辛抱強く待ってくれていた夫も、いつしか「無理にやらないといけないことじゃないから」と、挑戦から遠ざかるようになっていた。  誰に迷惑をかけるわけでもない、あくまで二人の間の問題だ。交際期間を含め、誰にも悩みを打ち明けたことはない。性交ができなくても、互いへの愛情に変化があるわけではなく、穏やかな日常を過ごしていた。  ところが、その誰にも言えない悩みが、A子さんが35歳の誕生日を迎えた頃から深刻味を帯びてきた。夫婦ともに「子どもが欲しい」という気持ちが強まっていたからだ。  街で子どもを見かけたら、「かわいいね」「うちも子どもがいたら楽しいだろうね」「私たちは……」という会話に自然となる。A子さんの後に結婚した友人も含め、同年代はベビーラッシュ。  子を持つ友人とランチをすれば「少しでも早く産んだ方が、子育てがラクだよ」、「35歳を過ぎたら妊娠率が下がるらしいから、早めに妊活を始めた方がいいよ」などと、悪気のないアドバイスが向けられる。「早く孫の顔が見たい」という親や親戚からの無邪気な声もプレッシャーだ。  そんな中、A子さんは「私たちは妊娠するステップの“入り口”にも立てていない」と焦りを募らせるようになった。  私たち夫婦のように「性交できない」という同じような悩みを持って妊活している人がいないのか、ネットで探したこともある。妊活のノウハウとして出てくるのは排卵日近辺に性交する「タイミング法」をはじめとした、性交ができる前提の情報ばかり。 「自分たちの状態がいかにマイノリティなのか、思い知らされたような気がした」  というA 子さんは同時に、年齢とともに卵子の老化が進むことや、タイムリミットという壁が存在することも知り、余計に焦りに火がついた。 「子どもが欲しいなら、性交ができるようにならないといけない」  思いが強まる中で、しばらく遠のいていた挑戦から、再チャレンジの日々が始まった。「何とかできるようになりたい」との一心で挑戦を重ねるも、どうしてもうまくいかない。このままだと時間が経つばかりで、自然に子どもを授かることは難しいままだ。  藁をもすがる思いで門を叩いたのが、不妊治療を行うクリニックだった。不妊治療を専門とするクリニックに、性交を一度もしたことがない夫婦が行くハードルも「相当なものだった」(A子さん)が、ネットの口コミで「些細なことにも耳を傾けてくれる先生」とあったのが背中を押した。  3年間の交際期間、6年間の夫婦生活の中で、一度も性交が実現していないこと。自分たちなりに試行錯誤を続けているが、どうしてもうまくいかないこと。妊娠を希望するようになって、今の状況に強い焦りを感じていること……。相手はいくら医師と言えども、初対面の他人に話すには、とても勇気がいる内容だった。  医師はゆっくりうなずきながら、顔色ひとつ変えずに話を聞いていた。その後、医師から発せられた言葉は意外なものだった。 「珍しいことではありません。今、そういう方がとても多いんですよ」  医師が言うには、同じように性交ができないという悩みを抱えて相談に訪れる夫婦は決して少なくないという。主に女性側の問題である「挿入障害」や、男性側の問題である「勃起障害」や「射精障害」、さらに性的な興奮が起きないなど、いわば性反応がうまく起こらない状態を総称して「性機能障害」と呼ばれることを知った。  A子さんの場合には、典型的な挿入障害にあたり、少しずつ慣らしていくことで改善されるケースも少なくないという。 「ただ年齢を考えると、あまり悠長なことを言っていられないのも事実です。性交渉の代わりになる手段を並行して試すことから始めましょう」  医師から提案されたのが、採取した精液を、針のない注射器=シリンジを使って膣に注入する「シリンジ法」と呼ばれる方法だ。Amazonなどの通販サイトなどでも手軽に入手することができ、ここ数年で妊活に使用するカップルが増えている。  タイミング法と同じく、排卵日近辺に行うことで、性交渉と同程度の確率で妊娠が期待できるという。使用するシリンジを見ると、膣内に入る部分は柔らかなゴム製で、太さは女性の指より細い程度。A子さんも「これなら、私でも大丈夫かもしれない」と思えた。実際、シリンジは問題なく挿入することができたことから、シリンジを用いたタイミング法に挑戦し始めている。A子さんは言う。 「いつまでも挿入ができない私は“異常”なのだと落ち込んでいましたが、先生の言葉で救われた。シリンジ法でネット検索すると、たくさんのカップルが活用している方法のようで、必ずしも性交しなくても妊娠の手段はあることに、まずは一安心。どうかこの方法で妊娠してほしいと願っています」(A子さん)  複数の医師によれば、性機能障害を持つカップルに共通するのは、性交はうまくいかずとも夫婦仲が良いこと。妊娠したいという希望を機に、医療機関を受診するケースが多い。不妊治療の浸透によって、不妊相談が一般的になってきた中で、「性交ができない」という悩みが表面化しやすくなったこともある。不妊外来で患者と向き合う千村友香里医師(さくら・はるねクリニック銀座)も言う。 「今の時代、“性交と妊活は別物”と考えた方がうまくいきやすいかもしれません」  晩婚化や女性の社会進出、共働き、現代の生活習慣、デジタルの普及……「性交ができない」妊活の背景には、さまざまな問題が絡み合っているようだ。こうした中で、「子どもは自然に授かるべきもの」と思い込み過ぎると、時に自分たちを追い詰めてしまうことにもなるかもしれない。  A子さんが受診した医師が「珍しいことではない」と言うように、性交を試みてもできない夫婦は少なくない。後編では、性交をパスして妊活に進む「セックスレス妊活」の葛藤や悩みについて。(松岡かすみ) 後編も読む→【年々増加する「セックスレス妊活」 性外来の医師が指摘する深刻な課題とは】

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    「飲みたい人だけ飲めば」「優先度めちゃくちゃ低い」国税庁「サケビバ!」に若者冷ややか

     国税庁のキャンペーン「サケビバ!」が、飲酒推奨、税収狙いと批判を呼んでいる。当の若者たちはどうとらえているのか。AERA 2022年9月12日号から。 *  *  *  飲めるけど、飲まない。そんな人を「ソバーキュリアス」と呼ぶらしい。英語のsober(しらふ)とcurious(好奇心が強い)を組み合わせた言葉で、2~3年ほど前からSNSで見かけるようになった。とりわけ、若い世代で広まっているという。 「若者の酒離れ」は数字にも表れている。国税庁によると、週3日以上酒を飲む人の割合は、50代男性52.3%に対し、20代は14.5%。女性はより顕著で、50代22.5%に対し、20代はわずか6.5%。コロナ禍の緊急事態宣言やまん延防止等重点措置で、飲食店での飲酒が制限されたことも流れを加速させた。 ■国が若者の需要を喚起  そんななか、国税庁が立ち上げたのが「サケビバ!」というキャンペーンだ。「若年層へ日本産酒類の発展・振興に向けた訴求」を掲げ、20~39歳の“若者”を対象にアルコール消費を推奨するアイデアを募集する。酒類業界の活性化を図るというが、違った思惑が透けて見えると受け手の視線は冷ややかだ。 <日本の若者よ、もっと酒を飲もう 国が税収増狙い奨励>  こんなタイトルの記事がBBCで報じられると、世間でも批判が殺到。「アルコール依存症が問題になるなか国が飲酒をすすめるなんて」「飲むなと言ったり、飲めと言ったりどっちだ」などの意見があふれた。  当事者の若者は「サケビバ!」について、どう思っているのか。 「国が推奨するのはやめてほしい」  そう話すのは、20代の女性。もともとアルコールに弱く、この数年はほとんど飲んでいない。当初は後ろめたさがあったが、ノンアルでも飲み会を楽しめた経験が増えたり、EXITの兼近大樹さんが酒を飲まないと公言する姿を見たりして、自信を持てるようになった。いまさら国が需要喚起すればアルコールハラスメントが発生するのではないか、と懸念する。 「お酒が好きで楽しめる人は飲めばいい。でも、飲酒を推奨するなら、アルハラや依存症の対策も一緒に強化してほしい」 ■しらふの方が楽しい  話を聞いた20人ほどの若者のほとんどは、酒の好き嫌いを問わず、「飲みたい人だけ飲めばいい」「国が推奨したところで変わらない」と口をそろえた。 「生活のなかで、お酒の優先度はめちゃくちゃ低い」  そう話すのは、都内の男性会社員(23)だ。同僚や友人と居酒屋に行くことはあるが、一人で飲むことはほとんどない。飲まなくなったきっかけは、オンラインゲームだった。 「休みの日や夜はオンラインで対戦することが多くて、酔っ払うと負けちゃうんですよ。自分はしらふの方が楽しい」 「酒離れ」の定義に疑問を持つ声もある。会社員の「聖地」・新橋の飲み屋街近くの小さな公園で、ベンチに座る男女の手には缶チューハイが握られていた。二人は20代前半で、同じ会社の同期。月に2~3回、こうして飲んでいるという。  近くには居酒屋もあるが、彼らにとってはコンビニが“飲み屋”だ。「店に入るとお金がかかるけど、ここなら数百円でいい」  そう言って、うなずき合う。 「お酒は好きだから、『酒離れ』とは思いません。でも、酔っ払うほどは飲まないし、週3日以上と言われるとそこまででもない。酒離れと言いすぎるから、余計に離れてしまうのではとも思います」(男性)  この日も1時間ほどで切り上げ、家に帰るつもりだという。  あの手この手を使って、若者と酒の接点を作ろうとする国。だが、酒との距離感について、当事者たちはいたって冷静なのだ。(編集部・福井しほ)※AERA 2022年9月26日号

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    母は父に処刑され、自身も処刑寸前に追い込まれ…壮絶な生涯を遂げた“もう一人”のエリザベス女王

    『戦国武将を診る』などの著書をもつ産婦人科医で日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授の早川智医師が、歴史上の偉人や出来事を独自の視点で分析。今回は、英国での“二人”のエリザベス女王について「診断」する。 *  *  *  9月8日、英国女王エリザベス2世が崩御された。20世紀から21世紀、激動の連合王国を統治した偉大な君主に追悼を申し上げたい。古くから英国は女王が統治すると発展するといわれてきた。その意味で最初に思い浮かぶのは19世紀、大英帝国の最盛期に君臨したヴィクトリア女王であろう。そして次に思い浮かぶのは16世紀にイングランドをヨーロッパの強国の地位に引き上げたエリザベス1世である。 ■二人のエリザベス女王  名は体をあらわすというが、心理学的に人は与えられた名に見合った振る舞いをすることが知られている。我々医師や大学教員には古風な名前の持ち主が多く、映画監督や芸術家には少し変わった名前が多いという研究があるが、出身階級や家庭の教育に加えて、与えられた名にふさわしい行動をとろうと無意識のうちに努力しているのかもしれない。故エリザベス2世の場合、同名のエリザベス1世が名君だっただけに直接の血のつながりはないとはいえ、何らかのプレッシャーを感じていたであろう。  エリザベス1世はテューダー朝2代目、英国ルネサンスを代表する名君かつ暴君であるヘンリー8世の次女として生まれた(1533年)。最初の王妃キャサリン・オブ・アラゴンに男児が生まれないことに業を煮やしたヘンリー8世がカトリック教会と決別して離婚、再婚したアン・ブーリンとの第1子であったが、その後も男児は生まれず、父王は2番目の王妃に姦通の濡れ衣を着せて処刑してしまう。その後も王妃たちに理由をつけては離別や処刑を繰り返し、都合6人の王妃との間にエリザベス、エドワード、メアリーの3人の子をもうけた。  ヘンリー8世の後を継いだ王子はエドワード6世として即位するが、生来病弱で、結核(一説には先天梅毒)により15歳で死去、そのあとを継いだメアリは愛する母が離婚されたことを恨んで、カトリックに復帰するとともにプロテスタントを徹底弾圧、「ブラッディ・メアリー」という悪名を残した。母方の親戚スペイン王太子フェリペ(のちのフェリペ2世)と結婚するも子には恵まれず42歳で死去。やっとエリザベスに王位が回ってきた。 ■処刑寸前に追い込まれ  エリザベスは母を殺した父によって庶子の身分に落とされたり、その父を恨む姉によってロンドン塔に拘束されて危うく処刑されそうになったり、若年のころから権力闘争と宗教戦争の恐ろしさを痛感していた。そのために、英国国教会を重んじながらカトリックや清教徒に対する厳しい弾圧は行わず、ドイツや北欧のプロテスタント諸国、カトリックのスペインやそのライバルであるフランスと等距離外交を展開。また女王の配偶者を狙って近寄ってくる貴族たちや諸外国の王族を「私は国家と結婚しています」といって適当にあしらい生涯を独身で通した。その間、フランスにおける新教徒と旧教徒の内戦、スペイン無敵艦隊の襲来など何度も危機があったが、宰相バーリー卿ウィリアム・セシルや海賊出身の名提督フランシス・ドレーク卿などの活躍でこれを乗り越え、英国ルネサンスの最盛期を築いた。  筆者の好きな古楽の世界では、ウィリアム・バードやジョン・ダウランド、アンソニー・ホルボーン、トマス・モーリーなどの作曲家が輩出し、文学の世界では英国史上最大の劇作家ウィリアム・シェイクスピアが活躍したのがこの時代である。  しかし。 「処女王」の称号を守るために生涯結婚せず、エリザベス1世の没後にはライバルだった遠縁のスコットランドのメアリー女王の長男ジェームズ6世(英国王としてはジェームズ1世)を後継に迎えざるを得なかった。  エリザベス1世の偉大な生涯は当然ながら、伯父エドワード8世の退位(有名なシンプソン夫人との恋のために王位を放棄)、そして父ジョージ6世の早逝によって、25歳で王位につかざるを得なかったエリザベス2世に影響を与えたに違いない。しかし、エリザベス1世の寂しい晩年に比べると、多くの子供たちや孫たちに囲まれて最期を迎えたエリザベス2世は幸せだったかもしれない。 ■チャールズという名の国王  さて、母の死を受けて即位した新国王チャールズは、その名を冠するイングランド国王(スコットランド国王としても)3代目である。面白いことに国によって王様の名前に好みがあるようで、フランスでは聖ルイ王(ルイ9世)以来、ルイが多い。太陽王ルイ14世が有名だが、その曽孫でロココの遊蕩児ルイ15世、フランス革命に非業の死を遂げたルイ16世、そしてその弟のルイ18世まで18人もいる。  英国で多いのは、ハノーバーから移って王位についたジョージ1世からエリザベス2世の父までのジョージ、エドワード証聖王からエリザベスの伯父まで8人も続くエドワードであろうか。フランスにおける領土を喪失したジョン欠地王のようにケチのつく名前は選ばれない。  チャールズも英国王の名としては微妙である。前述のジェームズ1世の息子だったチャールズ1世は非常に謹厳実直な性格の持ち主だったようであるが、王権神授説を信じて清教徒が多数を占める議会との妥協をあくまで拒み、革命で断頭台に上るという悲劇の最期を遂げた。  その息子チャールズ2世は辛くも清教徒革命を逃れてフランスに亡命したが、父の仇を討つために頑張った形跡はなく、フランスやスペイン領ネーデルラントのブルージュで優雅な宮廷文化の吸収と美女たちとの恋愛遊戯に10年を費やした。強権的な指導者オリバー・クロムウェルの没後、清教徒政府の瓦解を受けて王政復古で英国に戻ってきたが、政治は家臣に任せて相変わらず多くの愛妾を抱え、庶子たちはノーサンバーランド公やバクルー公、グラフトン公、セントオルバンズ公など、現在も続く英国貴族の先祖となっている。  ただ、王妃キャサリンとの間には嫡子に恵まれず、弟のジェームズ2世、そのあとは姪のメアリー2世、アンと続くが直系の子孫は絶えてしまった。そして遠縁のハノーバー家から英語の話せない英国王がヘンデルとともにやってきてこれが現在の英国王室の直系祖先である。 ■「ピースメーカー」としての期待  チャールズも物心つくころから、自分が将来は伝統ある王室の後継者であることは意識していたであろうが、先代先々代のチャールズがあまりぱっとしなかったことは面白くなかったであろう。しかし、欧州全体に目を向けると、有名なシャルルマーニュ(カール大帝)や日の沈まないスペイン帝国を築いたカール5世(カルロス1世)など、同名の名君は少なくない。  チャールズ3世はカミラ夫人に発した“下ネタ”が報じられることもあったが、ご両親や祖父のジョージ6世、曽祖父のジョージ5世のような謹厳実直な君主よりもさらにもう1代前のエドワード7世のようなユーモアあふれる国王になっていただきたいと願う。エドワード7世も母であるヴィクトリア女王があまりに偉大かつ長命で王位に就いたときは高齢であり、治世は10年足らずであったが、保守党(ソールズベリー侯爵とバルフォア)と自由党(キャンベル=バナマンとアスキス)が交互に政権を担当、日英同盟、英仏協商、英露協商を締結、甥で英国に対抗意識むき出しだったドイツ皇帝ウィルヘルム2世とも良好な関係を維持した「ピースメーカー」であった。  チャールズ新国王は皇太子時代から環境問題や人権には活発に意見を述べてこられたが、中東のイスラム原理主義者、ロシアとウクライナ、中国と台湾など、世界がきな臭くなっている今こそ、国際協調への活躍を祈念したい。 ◯早川 智(はやかわ・さとし)1958年生まれ。日本大学医学部病態病理学系微生物学分野教授。医師。日本大学医学部卒。87年同大学院医学研究科修了。米City of Hope研究所、国立感染症研究所エイズ研究センター客員研究員などを経て、2007年から現職。著書に『戦国武将を診る』(朝日新聞出版)など ※AERAオンライン限定記事

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    【夫婦が告白】「ryuchellが壊れかけていた」pecoが婚姻解消の経緯を吐露

     ryuchell(りゅうちぇる)さんとpeco(ぺこ)さんが8月25日、夫婦関係を解消し、今後は「人生のパートナーとして暮らしていく」ことをそれぞれのインスタグラムで発表した。二人は2016年に結婚し、いまは4歳になる息子がいる。  夫婦関係を解消した背景として、りゅうちぇるさんは「8年前にてこ(ぺこ)と出逢い、女性を好きになることは、初めての事でした」とする一方で、「“夫”らしく生きていかないといけないと自分に対して強く思ってしまっていた」「“本当の自分”と、“本当の自分を隠すryuchell”との間に、少しずつ溝ができてしまった」などと告白した。  SNS上では「りゅうちぇるさんはとてもつらかったと思う」「受け入れたぺこさんは偉い」などと二人の決断を受け入れるコメントも出たが、「りゅうちぇるのわがままじゃないか」「他に好きな人ができたということでは」などという声もあった。  いったい二人の間に何があったのか、ぺこさんはどう受け止めたのか、そして4歳の息子にはどう接したのか。りゅうちぇるとぺこがAERAdot.のインタビューに思いを語った。 *  *  * ――発表後、様々な反応がありました。現在の心境を教えてください。 ぺこ 皆さんから励ましの声をたくさんもらい、背中を押してもらった感じです。発表するまでは一人で抱え込んでいた部分もあったので、発表後に皆さんから私の気持ちに寄り添ってくれるようなコメントをもらえて、前向きになれました。 りゅう 色んな意見をもらいました。覚悟はしていましたが、やはりけっこう落ち込みます。僕たちが選んだ家族の形が、社会の中にある幸せのイメージとかけ離れている面があったから、様々な意見が出ているんだなと感じています。  ただ、僕たちがインスタで公表した文書を読んで、「何回も読んで理解できた」という方がいたり、「二人でしっかりと話し合ってきた結果だと伝わった」という方もいました。ファンの方からの手紙では「応援している人は静かなことが多いので、書きました」というのもありました。 ――公表では「“本当の自分”と、“本当の自分を隠すryuchell”との間に、少しずつ溝ができてしまった」とありました。これはいつ頃から? りゅう 21年になってからです。徐々に徐々に自分が変化していったんです。自分では溝ができていることがわかっていたんですが、それを必死で隠しているつもりだし、それがうまくできていると思っていました。  でも、隠せていなかった。てこ(ぺこ)から「いつもと違う」「おかしい」とすごく言われて。苦しくて……。 ――具体的にはどういったことがあった? ぺこ 本当に文字にすると刺激が強すぎる出来事があって……もちろん手を出すようなことはなかったですが。 りゅう 車が運転できなくなるとか……。 ぺこ そう。プチパニックになるとか。今までのりゅうちぇるとは違うりゅうちぇるが出てきた、みたいな状況でした。これまでのりゅうちぇるとは本当に違うりゅうちぇるでした。 りゅう だから、変わっていく僕に対して、てこも不審というか、不安に思っていたし、僕もそれがわかっているからいっそう辛かったですね。  てこのインスタの文書でも「正直、墓場まで持っていってほしかった」という言葉がありました。僕も墓場まで持っていくつもりだったし、絶対に言いたくなかったけど、「このままじゃ壊れる」と思いました。言わないほうが、本当に自分が終わってしまうと思うようになっていました。  昨年末で限界だと思って、それで今年の初めに、てこに本当の自分の気持ちを伝えました。 ぺこ りゅうちぇるが話してくれたとき、シンプルに、「いま勇気をもって話してくれてありがとう」「生きててくれてありがとう」と思いました。「えっ、いままで8年間うそをついていたの?」とか、「だましていたの?」とか、そういうことは全く思いませんでした。「このままじゃ壊れる」というか、本当に壊れかけていたので、そこまで行く前に話してくれてよかったです。 ぺこ 本当に墓場まで持っていこうとして、一人で抱え続けて行ったと想像すると、ゾッとするし、勇気を出して伝えてくれてありがとう、と本気で思いました。 りゅう 打ち明けると、すべて終わってしまうと感じていました。だから、すごい怖かったです。  今まで言わずにやってきたのも、絶対に隠していこうとしてきたのも、本当に家族が大切だと思っていたからです。  でも、結局はこういう状態になって、家族のために告白しなければいけないと思ったし、それは自分の弱さのために言うことになってしまったというのも辛いことでした。正直、てこと終わると思って話しました。  だけど、てこは「今まで辛かったね」と言って、泣きながら抱きしめてくれた。 ぺこ 抱きしめていいのかもわからなかったけど……とにかく「辛かったよね」とシンプルに思ってから、思わず……。 りゅう てこの言葉に救われました。 ぺこ りゅうちぇるは今まで私や息子のことを大切に思ってくれていたからこそ隠してきたのだと思うし、逆に大切に思っているからこそ頑張って打ち明けてくれたのだと思いました。  今まで私たちにくれていた愛が本物だと感じられてなかったら、今回のようなリアクションは取れなかったと思います。りゅうちぇるのこれまでの言動を見てきて、今までくれていた愛は本物だとちゃんと信じられましたし、だから、りゅうちぇるのことを抱きしめることができました。 ――その後、話し合いはどのように進んでいったのでしょうか。 ぺこ どういう形で今後やっていくのかということですね。自分が譲れないものを100%譲らないというのはどう考えても無理なので、お互いに歩み寄って…70%、80%くらいにはできるようにと話し合っていました。 りゅう 自分の中でしっかり大切に守ってきたものがあって、それが家族だし、仕事だし、自分の立場だった。この3つはどれも大事だったんですが、自分の立場が一番最後だったんです。でも、自分のことをなかなか捨てられない、隠しきれないというのもあって、苦しくなってきた。  それで立場について考えたとき、いま自分という人間に自信があるのか、パパとして幸せなのか、ということをいっぱい考えて、自問自答を繰り返して、話し合いも繰り返してきました。  そんな中でたどり着いた結論が、自分の大切なもののなかで捨てるものはひとつもないなと。ただ、自分がもやもやしていた「夫」、「旦那」という立場だけを卒業させてもらえたら。  てこがさっき言ってくれたように、僕の愛にはうそは一つもなかったし、家族を守る、子どもを育てたいという気持ちは変わらずある。それをてこが受け入れてくれました。  何か一つを卒業したら、新しいことを一つ始めたり、もしくはすべて卒業したかのように映ってしまうような反応もいただきましたが、そうではないです。「新しい家族の形」と言ってしまうと簡単なのですが、こればかりは、これからの、僕たち比嘉家の形を皆さんに見てもらって、受け入れてもらっていくしかないなと思っています。 ぺこ 「一人の母親である前に一人の女性だから」という言葉をよく聞きますよね。その考えも素敵だと思うし、理解もしますが、私の場合はぜんぜんそうではなくて、一人の女性や一人の人間である前に、息子のお母さんであることが何よりも大きいです。  息子を妊娠した瞬間から、息子が一番大事な存在なんです。私はそれが母親だと思っています。だから、周りから「ぺこちゃん幸せにならないとダメだよ」って、優しさから皆さん言ってくれるんですが、私は大切な息子が毎日元気で、何事もなく笑顔で過ごしてくれていること、大切なryuchellが生きて、息子の父親として一緒にいてくれること、今まで何ら変わりのないママ・パパ・息子という形のまま、これからもいてくれること、それだけで私は幸せです。 ――「他に好きな人が出来たのではないか」という声もありました りゅう そういうわけではないです。ただ、そう思われるのも仕方がないなと思います。それくらい新しいことをしているんだと感じました。 ぺこ りゅうちぇるがこれからも一緒にいたいという気持ちであることを信じているし、私もそう思うし、これからもっともっと協力し合って、すてきな家族にしようね、と思っています。  それこそ皆さんがいってくださったことや、どういうことなのという疑問は理解できます。逆の立場であれば、「どういうことか詳しく教えてくれへん?」みたいに絶対になると思う。ただ、私たち比嘉家の新しい家族の形はこれです、ここから新しくやっていきます、というだけの話だと思っています。 ――今回の決断に対する「後悔」はありますか? ぺこ 半年くらい話し合って、それこそ間違っているんじゃないかと思ったことも何回もあったし、いっぱい泣いたし……なんだろう……もしもりゅうちぇるが私と出会う前に、完全なありのままの自分で生きているとしたら、私と出会っていなかっただろうな、とか、そうなると息子とも出会っていなかっただろうなと思うんです。  だけど、過去のことを遡っても仕方ないことで、それでもこうやって一緒にいれるということは素晴らしいことだと思っている。この形を大切にしていきたいというのが今の私の気持です。  ステキな夫婦になろうね、といって積み上げてきたものを、ゼロに壊れるのではなくて、そこから新しく土台をつくって、またステキな新しい良い家族にやっていこうね、といまから積み上げてやっていけばいいと思っています。 ※続きは後編、【夫婦が告白】4歳息子「ぼくはハッピーだよ」夫婦関係解消のryuchellとpecoを受け止めた (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    専業主婦の年金を増やすワザ 60代の10年で「月約17万円」をめざせ

     老後資金の頼みの綱はやっぱり年金。今の年金世代に多い専業主婦は、その年金が少額のことが多いが、実は制度をうまく利用すれば60代の10年だけで年金額を相当増やせる。しかも、それは将来の「おひとりさま対策」にもつながる。一石二鳥の年金増額策とは──。 *  *  *  都内に住む専業主婦のAさんは、60歳になるとすぐ地元の年金事務所に行った。 「私の年金は70万円弱しかありません。何でも若いころに未加入の期間があるからとのことですが、夫に聞くとそれが今からでも挽回できるというのです」  Aさんが利用するのは、国民年金の「任意加入」という制度。保険料を支払う必要はあるが、加入すると将来の年金は確実に増える。  Aさんがしみじみ言う。 「毎年来る『ねんきん定期便』を見ては『少ないなあ』と思っていたんです。少しは良くなるみたいですが、いったい、どこまで増えるのか……。世の中、本当に知らないことが多い」  Aさんの言うとおり、世の中は知らないことだらけだ。そして、知らないと「損」をすることが多い。年金の世界では、奇しくもAさんのような「専業主婦」が格好の事例になる。現在、年金世代に差しかかっている女性の多くが若いころに未加入の期間があるからだ。  Aさんは「任意加入」を利用したが、実はほかにも年金を増やせる仕組みがあり、上手に利用すれば60代の10年で相当、年金額を増やせる。おおむね50代以上の専業主婦にあてはまる「年金増額策」を探ってみよう。  この世代の専業主婦は、同じような「人生パターン」を生きてきた人が多い。短大か大学へ進学→就職→数年後、会社員の男性との結婚で寿退社→専業主婦、である。  多くの人が未加入の期間があるとしたのは、国の制度による。1991年3月までは、学生は20歳になっても国民年金に強制加入ではなかったのだ。加入は任意だったから、未加入が圧倒的多数派。したがって、大抵の人は「2年」ほど未加入期間がある。浪人していればそれが「3年」などにのびる。また、その後の生き方しだいで、さらに未加入の期間が長い人もいる。  年金制度の中では、専業主婦は国民年金の「第3号被保険者」になる。20~59歳で、会社員の夫の被扶養者なら「3号」でいられる。いくつか年上のことが多い夫は、今や60代前半は会社で働き続けるケースがほとんどだ。したがって専業主婦も「3号」のまま60歳を迎える人が多い。  さあ、問題はそこからだ。冒頭のAさんが行ったように、国民年金に「任意加入」するところから年金増額策は始まる。 【STEP1 任意加入】  任意加入は、まさに未加入や保険料を納められなかった期間がある人のために設けられている制度だ。一定の条件を満たす本人が申し出れば、60歳から65歳まで最長5年間入れる。ただし、59歳までの分と合わせた加入期間が、国民年金の加入上限である「40年(480月)」に達したら、そこで終了となる。  任意加入できる期間は、今年度の「ねんきん定期便」なら【480月-20歳~59歳の加入月数】で自分のケースがわかる。任意加入しておけば、多くの専業主婦が5年間のうちに「満額」の老齢基礎年金をもらえるようになるだろう。  増える年金額は「1620円×加入月数」で、5年間丸々加入できる人なら最大で年間「9万7200円」増やせる。しかも老齢基礎年金は終身年金だから、それが死ぬまでもらえる。  保険料は今年度は月1万6590円、1年で約19万9千円だ。1年加入すると1万9440円(1620円×12)年金が増えるから、65歳から年金受給を始める場合だとちょうど10年で元が取れる。つまり75歳以上生きると、長生きするだけ得になる。  保険料は口座振替が基本で、まとめて払う「前納」も6カ月、1年、2年と3パターンが用意されている。2年前納だと1カ月弱分の1万5790円もお得になるから、それらを利用すると元が取れる期間がさらに短くなる。  女性は長生きの人が多く、さらに後述する「おひとりさま対策」のことを考えると、60代前半での任意加入は必須といえるのではないか。  その上、国民年金に任意加入すると、さらに年金を上積みできる「資格」が得られる。国が国民年金の加入者向けに用意している「上乗せ年金」に加入することができるのだ。 【STEP2 付加年金・国民年金基金】  上乗せ年金には「付加年金」と「国民年金基金」の二つがある。ともに自営業者など国民年金の第1号被保険者のために用意されている制度だ。59歳まで「3号」だった専業主婦は、任意加入後は「1号」扱いになるため利用できるようになる。  付加年金は、月400円の付加保険料を納めれば「200円×納付月数」の付加年金額を終身受給できる。最大5年間納めても年金額は年「1万2千円」にしかならないが、どんな場合でも2年で元が取れる。  国民年金基金も終身年金が基本だ。ただし付加年金と違って、毎月の掛け金が6万8千円までと高額かけることができる。60歳女性なら、5年間加入できる場合は月2万3750円の掛け金で65歳から年「6万円」の終身年金がもらえる(保証期間15年つき)。ただし、計算してみると元を取るのに「約24年」もかかる。  どちらも59歳までの年金未加入期間が「5年」ある人はともかく、多数派を占めるとみられる「2年」程度では金額的なうまみは少なそうだ。ただし、両方に加入することはできない決まりで、どちらかを選ばなければならない(もちろん加入しない手もある)。  早く元が取れるという観点からは付加年金に軍配が上がる。長寿に自信があり、かつお金の管理が苦手という人なら、国民年金基金を利用してもいいかもしれない。「年金化」しておけば将来、勝手に定期的にお金が振り込まれてくるため、ほったらかしで済むからだ。  さらに、もう一つ、確定年金ではないが、個人型確定拠出年金、いわゆるiDeCo(イデコ)にも加入できる(任意加入している期間のみ)。2017年からの規制緩和で専業主婦も加入できるようになり、今年5月から65歳まで加入できるようになった。  しかし、イデコは投資信託を使っての「積み立て投資」が主だ。最長の5年でも期間が短く、長期投資のメリットを生かせない可能性が高い。したがって加入可能になった17年から始めている人以外は、手を出さないほうがいいだろう。 【STEP3 5年繰り下げ】  任意加入で老齢基礎年金を「満額」にし、一定の上乗せ年金にも加入した上で、余裕がある専業主婦には、ぜひ「とどめ」を刺してほしい。60代後半は年金をもらわずに受給を遅らせる「年金繰り下げ」を実行するのである。  長寿時代を迎え、今年の大改正で上限年齢が70歳から75歳に引き上げられたこともあり、「繰り下げ」は注目を集めている。  何と言っても魅力的なのは増額幅だ。1カ月受給を遅らせるごとに「0.7%」年金額が増える。1年で8.4%、5年で42%、仮に上限の75歳まで受給を遅らせると実に「84%」と倍近くまで増える。1年で1割弱も増える金融商品は存在しない。年金は金融商品ではないが、そんな「高利回り」を国が保証してくれるのだ。  60代後半の5年間繰り下げするだけで「約110万円(月9.2万円)」にもなる優れものだ。 「2年未加入」の専業主婦が65歳から年金受給を始めた場合の年金額は「約74万円(月6.2万円)」だから、月3万円も増えるのだ。 ■「おひとりさま」への効果  これだけでもうれしいが、それが夫が先に死亡した場合の「おひとりさま対策」にもなっている点に注目してほしい。若いころ会社で働いていた時代の少額の老齢厚生年金を持つ専業主婦と老齢厚生年金が月10万円の夫で考えてみよう。  こうした専業主婦世帯では、夫の遺族厚生年金は夫の老齢厚生年金の4分の3分を受給することになる。すると、この専業主婦は10万円×3/4で「7.5万円」の遺族厚生年金をもらえる(*)。70歳まで繰り下げた自分の老齢基礎年金「9.2万円」を合わせると月「16.7万円」だ。  一方、何もしなかった場合は、7.5万円+6.2万円で「13.7万円」になる。  総務省の家計調査年報(21年)によると、65歳以上の夫婦無職世帯の総支出は月約25万5千円。2人世帯が1人に変わった場合の総支出は約7割に減るとされるから、平均的家計では「約17万8500円」になる。  先の数字と比べてほしい。何もしなかった場合は月4.2万円も不足するのに、増額対策をほどこした専業主婦だと不足額は1.1万円で済む。年額に直しても13.2万円。おひとりさまの期間が10年続いたとしても、貯蓄が150万円程度あれば足りてしまう。 【STEP4 おまけ】  お金はあって困るものではない。さらに余裕資金があるのなら「積み立て投資」に挑戦する手もある。若い世代が今、我先にと始めている投資法だ。  簡単に言えば、主に世界経済全体を対象にしている投資信託を毎月、一定額購入する投資法だ。成長性を重視するのなら、投資対象は「株式」が主流になる。長期間積み立て続けることで世界経済の成長の波に乗ることを狙うのだ。  国の制度である「つみたてNISA」なら年間40万円まで積み立てできる。60代10年なら400万円まで投資ができ、運用益はすべて非課税だ。 ◇  以上見てきたように、年金の少なさを嘆く専業主婦でも、制度を知り、それを利用できる少しの余裕があれば60代の10年で老後資金を増額できる。ちなみに、国民年金の任意加入の保険料は、夫が会社員なら夫に出してもらおう。全額が社会保険料控除に使えるから、夫の所得税・住民税が安くなる。これまた一石二鳥なのだ。(本誌・首藤由之) *正確には、自分の少額の老齢厚生年金が先に支給され、それと夫の老齢厚生年金の4分の3との差額が遺族厚生年金になる※週刊朝日  2022年10月7日号

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