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    4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか

     NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 *  *  *  NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。  この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。  実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。  NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。  過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。  新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。  村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。  ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。  新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」  NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。  「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」

     3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」  投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」  岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」  松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」  年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」  高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇  命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。  刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」  昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」  それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」  現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」  しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    ryuchell 息子とお出かけ中に「だいぶ成長したな」と感じた出来事とは

     現在4歳になる男の子を育てるpeco(ぺこ)さんとryuchell(りゅうちぇる)さん。昨年8月、婚姻関係を解消しましたが、これまで通り3人で「新しい家族の形」を築いていくことを公表しました。本連載では、お二人の日々の育児や家庭について交互に語ってもらっています。今回はryuchellさんに、最近、息子と過ごした出来事について話を聞きました。 *  *  *  少し前ですが、息子とサンリオピューロランドに行ってきました。息子はポムポムプリンが好きで、私もキティちゃんが好きなんです。  とても盛り上がったのは、歌舞伎とキティちゃんがコラボしたミュージカル(KAWAII KABUKI ~ハローキティ一座の桃太郎~)です。息子はかわいいけど、格好いいというのが好きなんですね。いいところで観たかったので、早く席を取りに行って、前の席で観ることができました。  実は、このミュージカルはもうすでに4、5回くらい見ています(笑) パフォーマンスがとてもすばらしいんです。ダンサーは格好よくて、華やか。キティちゃんやポムポムプリンたちが出てきて、歌舞伎のメイクや着物の姿ですが、かわいらしさもあります。それで鬼退治をするんです。  その他にも、キティちゃんが作ってくれるポップコーンを食べたり、アトラクションに乗ったり、かわいいランチを食べたりと、大満足でした。  サンリオには行く度に、お土産を買っています。大きなお人形とかは家にあるので、「今回はちっちゃいのだよ」と約束したら、ポムポムプリンのついたキーホルダーを持ってきました。とてもかわいかったです。  一緒にお出かけして、改めて息子もだいぶ成長したなと感じることがいくつもありました。  サンリオには電車で行きましたが、最近はどこにいくにも、「抱っこして」とは言わなくなりました。手はつないで一緒に歩いています。抱っこしなくなった分、外出がとても楽になりました。  電車でサンリオに行くと、次第に窓から見える風景が自然いっぱいな感じに変わるんですよね。「お山が見えてきた!」とか窓から見える外の風景について共有して楽しめる年齢になってきました。  私は電車には普段あまり乗らないので、乗り換えを間違えてしまって。それで乗り換えたら、また間違って……。そしたら、息子も優しくて「大丈夫だよー」ってフォローしてくれました。イヤイヤ期もありましたが、頼れるお兄ちゃんになっているんだなと感じました。  最近は、息子と一緒にカラオケにも行きました。息子はカラオケで歌うのも大好きです。  歌うのは、NHKの「おかあさんといっしょ」に出てくるような子どもの曲です。息子が選曲して歌っています。私が好きな曲とかは歌わないです。それはもうちょっと大きくなってからかなと思っています。  カラオケは子どもが喜ぶようなものが多くあって、いいですね。  デンモク(選曲・予約する通信機器)の機能に、お絵かきできるものがあって、息子はそこで恐竜とか、キティちゃんの絵を描いていました。3時くらいにいったので、おやつにスイーツも食べました。キッズルームもあるカラオケ店で、滑り台とかつみ木で遊びました。2時間くらい満喫しました。  息子は肩車が大好きなので、家でよく肩車をして、歩き回っています。身長も大きくなって、体重も重くなってきているので、最近は重くなってきたなぁと思います。まだしばらくはできると思いますが、そのうち難しくなるんですね。できるときまで肩車したいと思います。  私のSNSでは紹介できていませんが、息子との時間も大切に過ごしています。一緒にいると予想外のハプニングも起こりますが、「あぁ、どうしよう」と思うよりも、「なんくるないさー」(なんとかなるさ)の精神で子育てしています。 (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    「管理職の仕事」ポジティブにとらえ奮闘する人たち 「なんて自由なんだ!」驚きの声も

     責任の重さ、長時間労働、部下との関係……。「管理職」にはネガティブなイメージがつきまとう。一方で、醍醐味を見いだす人もいる。今どきの管理職事情を取材した。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 *  *  *  管理職であるからこそ、労働時間が調整しやすいという声もある。会議や納期の期日設定などの主導権を握ることができるからだ。  都内のコンサルタント会社でディレクターを務める女性(47)が初めて管理職になったのは、外資系メーカーで働いていた32歳の時だ。 「なってみて、なんて自由なんだ!と驚きました」  と笑う。ゴールデンウィークなどが飛び石連休になれば、自分も部下もまとまった休みが取れるように仕事を調整。人を育てるというミッションにも価値を見いだし、以来、転職はしているが、管理職のポジションを満喫しているという。 「リーダーになれば、組織のことが本当の意味でわかると思うので、やってみたい」  と話すのは、都内のアーキビストの女性(47)だ。  大学卒業後、5年ほど出版社に勤務し、退職。2人の娘を育てながら、フリーライターなどの仕事を続けてきた。現在は、私立学校で古文書や公文書の保存・管理を担い、4月からはフルタイム勤務になる予定だ。これまで管理職の経験はないが、数年後に上司が定年退職すれば、管理職である室長になる可能性があるという。女性は、来たる未来について、こう話す。 「不安もあるけれど、勤務先の女性事務長が仕事のできる人で、素直にかっこいいなと思い、尊敬している。仕事の根回しはどうして必要なのか。本当にやりたい仕事を実現させるためにはどうすればいいのか。管理職になってから考えてみたい」 ■たまたまなるものに  働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、管理職のイメージをネガティブからポジティブに転換するために「閣僚制度」を提案する。  内閣が組閣され、入閣した議員や学者が次の内閣では入閣しないことは多々ある。これを、誰も必ずしも降格されたとは思わない。 「一般企業の管理職も『ゴール』『通過すべき点』という位置づけから外すのです。課長や部長は、誰もがたまたまなるものにしてしまえばいい。ミッションが終われば、一般社員に戻って働く。そうすることで、管理職への受け止め方は大きく変わるでしょう」(常見さん)  時代の変化に対応しながらも、より良い組織運営のために尽力する管理職を確保すること。これからの企業に求められていることだろう。 ■80歳まで働くなら 「管理職の仕事」をポジティブなものとしてとらえ、日々奮闘する人は他にもいる。  子ども向けブランドの会社で働く大阪府の女性(42)は、1年ほど前から15人の部下を率いる「PRマーケティング部部長」を務めている。 「たしかに管理職は大変な面もあります。部下たちにとって求心力のある上司でありたい意識は強いのですが、辞めるときは辞めてしまう。人の管理は難しい。でも一方で、大きな裁量のある仕事を任され、会社に貢献できることは管理職ならではのモチベーションになります」  女性は管理職の仕事を「いずれ経営者になるためにも必要」とも位置づけている。 「私たち以降の世代は80歳まで働く世代だと言われます。人生のほとんどを何らかの『仕事』に費やすことになるので、サラリーマンでなくとも起業する、個人事業主として仕事をするなど、あらゆる場面で個人の能力が問われる時代になってきたと感じています。管理職の仕事は大変さはあるけれど、経験値が多くて損をすることはない。与えられたチャンスをものにして、もっと女性の活躍を広めていってもらいたいと思います」  管理職の醍醐味とは、何なのか。組織内のチーム開発にくわしい立教大学経営学部助教の田中聡さんは、管理職の仕事とは「他者を通じて事をなす」ことだと話す。 「そこにいる人たちの強みを最大限引き出し、組織の成果に結びつけていく。きわめて高度な専門性が求められる仕事です。言い方を変えれば、自分ができる限界を超えてチームの力を使うことができる。それを生かす裁量権が与えられていて、行使できる。これは管理職の醍醐味だと思います」  では、そんな魅力が働く人に伝わるにはどうすればよいのか。田中さんは、何よりも会社側の努力が必要だと指摘する。  たとえば、「あれもこれも」になりがちな管理職の仕事について「これはやるべき、ここからはやらなくていい」という線引きも含めて役割を明確にすること。その人がこれまで経験したことがない新しいポストへの異動も含め「成長の機会を増やしていくこと」。そして、管理職の報酬を他のメンバーとの差をきちんとつける形で上げること。そういった環境整備が大前提だと田中さんは言う。 ■ポジティブな見方も 「さらに大事なのは、管理職に魅力を感じて働いている人の声を、社内に向けて発信する機会を作ることです。たしかに管理職になりたくないと言う人は多いし、その傾向は強まっている。でも『なってみたら意外とよかった』と話す人も少なくないんです。車座対話を開いてもいいし、新入社員研修の場で話すのもいい。ポジティブな見方をきちんと発信していってほしい」  神奈川県でメーカーに勤務する50代後半の女性も、会社が管理職の仕事の魅力を発信できていないことに不満を持つ一人だ。「私は管理職をぜひ経験したかったけど、年齢的に私はもう難しい。心残りです」と話す。 「私の会社はいまだに男性優位で、女性管理職は数%という難しい状況もあります。ただ、管理職に就いている人たちはと言えば『大変だ』『いいことなんか何もない』と愚痴る人ばかり。そんな負のオーラを出す人はそもそも管理職に向かないでしょ。若い人が管理職に良いイメージを持つはずがありません」 ■次の世代を見すえて  人事権があり、会社の上層部と直接交渉ができ、他の人を評価することでモチベーションアップにも貢献できる。やりがいは多いはず。上の人間が管理職の良い面を見せ、それを見た若手が育っていかないと会社も成長しないと女性は言う。 「管理職は『なったら上がり』の職種ではありません。管理職になって何をやりたいのか自分なりにイメージして、自分のためだけでなく働く部下や組織が健全に成長できるよう考えて動ける人は、管理職になってほしい。何よりも『次の世代』のことを見すえることが大事。その考え方でつながっていかないと、社会も成長しないと思うんです」 (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋

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    なぜ三原舞依はスケートファンに愛されるのか 6年ぶり世界選手権で笑顔、観客も「ありがとう」

     三原舞依が世界選手権に戻ってきた。  勝負のフリープログラム。3月24日午後8時55分。  滑り始める直前、氷の感触を確かめるように、リンクを大きく周回した。観客たちが固唾をのんで見守る。三原の動きにあわせて会場の観客の視線が一斉に動く。前に滑り終えたイザボー・レビトの得点待ちの時間のため、静まる観衆。  レビトの得点(総合207.65点)が出ると、 「マイ、ミハラ」  三原がコールされた。  会場は割れんばかりの声援に包まれ、演技開始のポーズをとる三原の表情は、口角が上がり、落ち着いているようにも見える。そんな三原に、会場からは曲がかかる寸前まで声援が飛ぶ。 「マイちゃーん!」 ◇  6年ぶりの世界選手権での演技だった。  結果は、ショート3位。フリーは6位。総合得点205.70点。メダルも期待されたが、5位に終わった。得点源となるジャンプでミスがあり、点数を伸ばしきれなかった。それでも、会場を魅了し、演技後はスタンディングオベーションで、拍手が鳴りやまなかった。  フリーの曲は「恋は魔術師」。演技はまるでバレエの舞台を見ているようだった。指先までしなやかに美しい動き。その動きに伴って深紅の衣装は炎が燃えているように揺れ、三原の表現する世界観に観客は引き込まれた。音楽が盛り上がると会場も熱を帯び、それを力にして滑っているようだった。  演技後は、一瞬悔しそうな表情を見せた三原だったが、リンクを上がるときは観衆に向かって何度も何度も笑顔を見せた。 「一番上の座席まで見る」。これは毎回の三原の目標でもある。客席から「舞依ちゃんありがとうー!」と声が上がった。  客席からだけでなく、直後ネットでも「心が浄化された」「また応援したくなった」「順位はどうあれ、すばらしかった」など賞賛の声があふれた。  なぜ、これほどまでに三原は愛されるのか――。 ◇  三原はいつも「感謝の思い」を口にする。  会場でファンらが掲げるバナーのこと、ファンから届く手紙のこと。その都度「私は本当に幸せ者だな」と思うという。 「色々なところからお手紙やプレゼントを受け取り読ませていただいています。本当に本当に感謝の思いでいっぱいです」  あるインタビューでは、「イタリア(での大会)の時も来てくださっていた」とファンが掲げたバナーについても触れていた。  いつも健気で一生懸命。中野園子コーチからは「集中力の天才」と称される。  そして浅田真央さんに憧れる23歳でもある。 「いろんな選手の滑りを見て研究するのが好きです」  自分自身の課題を探り、欠点にも向き合い努力する。その姿勢は尊敬する浅田さんに通じるものがあるかもしれない。   シニアデビューは17歳。デビュー戦(2016年10月のGPスケートアメリカ)では3位に輝き、「シンデレラガール」として話題になった。そのシーズン(2016-17)は、全日本選手権で3位。初の世界選手権の切符を手にした。世界選手権ではショートでミスをして15位スタートとなったが、フリーで圧巻の演技で総合5位入賞。  順調なスタートだったと思われたが、実は関節が痛む難病「若年性突発性関節炎」を発症し、2015年12月に入院。一時は歩くこともできなかった。復帰してからも紆余曲折があった。2019-20のシーズンは体調不良で全試合を欠場。翌2020-21シーズン、北京五輪の最終選考会でもある全日本選手権で4位。表彰台にあと一歩及ばず、代表に選ばれなかった。  実力がありながら、チャンスに恵まれない。普通の人ならば、苦しい胸の内が思わず表に出てしまいそうなところだ。しかし三原はかつてテレビのインタビューに次のように答えていた。 「山あり谷ありっていうか、谷の方が多かったかなと思うんですけど、沢山の方がたのサポートのおかげでこうして今はスケートができていると思うので、その感謝を一回でもというか、一瞬でも多く伝えられるように。一瞬、一瞬を大切にして滑れたらいいなと思います」  苦しい時期を経験した三原。それでも「自分を信じて」スケートを諦めなかった。  ◇  トンネルを抜けたように今季は絶好調だった。出場した10の試合すべてで、表彰台に上がった。グランプリシリーズは2戦2勝。ファイナルでは坂本花織をおさえて初優勝。  そして、17歳で出場した世界選手権に、23歳で戻ってきた。 「23年間生きてきた中で一番というか、ほんとに濃い一年だったなと思っています。ここまで帰ってこれたので、去年以上のどん底はほんとにずっともうないと思っています」(テレビのインタビューで)  今季はカナダの名振付師、デイヴィッド・ウィルソンが振り付けた2つのプログラムで、挑んだ。大会前はプログラムのブラッシュアップもしてもらったという。  三原自身も強い思い入れのあるショートプログラムは、三原のスケート人生を表現したものだ。曲は「戦場のメリークリスマス」。 「最初のポーズから最後のポーズまで一瞬一瞬を自分の人生を振り返りながら滑っています。一緒に今シーズン、何十試合も闘ってきたプログラムに感謝の思いを込めて、力強い部分は力強く、優しい部分は優しく、というコントラストをつけながら滑られたら」(ショートプログラム前の取材で)  三原は今大会への思いも強かったが、スケートファンも同じ気持ちだったのだろう。ショートの演技では、中盤、客席から自然と手拍子が起き、最後までリンクは温かい空気に包まれた。  ショートプログラムの演技後、三原はこう語った。 「今シーズンの中でびっくりするぐらい一番緊張して、最後まで滑れるか不安との戦いだったのですが、観客席の声援がすごくて、ぐん!って(背中を)押してくださって、お客さまに感謝しながら滑れたかな、と思います。ショートに今までの人生を込めて滑ってね、と言われた時から、何回も何回も滑ってきて。今日が一番心をマックスで込めきれたかな、と。最後すごいうるうるしながら感謝の思いがこめられたかな、と思います」  ◇  リンクの上では、妖精のような三原、華やかさもある。透明感のある心が洗われるような滑りで見る者を魅了する。リンクから出れば一言ひとことを丁寧に、記者の目をしっかり見ながら誠実に対応する。気負わず、素直で。心根の優しさが伝わってくる。  今大会の結果は残念だったが、演技後のインタビューで中野コーチが三原の体の調子の悪さに触れていた。足の調子が悪かったのだという。10試合以上も戦い続け、足にも相当疲労がきたのだろう。  しかし、そのようなそぶりは記者たちの前ではまったく見せなかった。くやしさをにじませたフリー後の会見でも 「もっと成長した自分をみせられるように。やっぱり練習が大事。練習に耐えうる体っていうのをもっともっと強くしていきたいなと思います」  そして、会見をこう締めくくった。 「本当にたくさんのバナーだったり、日本の国旗を滑る前に見ることができてほんとに幸せだなという思いがいっぱいだったんですけど、演技でお返しするというのができなかったので、もし今後も応援を続けて頂けるのであれば、あの全力で恩返しができるようなスケーターになっていきたいと思いますので、これからも応援よろしくお願いしますって言いたいです」  翌25日の囲み取材。足の状態を聞かれた三原は、 「私からは言わないでおこうと思ってて。コンディション調整も含めてトップアスリート(になっていけるように)。どんな状況でも心配させないようなスケーターになりたいと思ってて。すみません」  と頭を下げた。 ◇  今大会、演技以外のシーンで記者の印象に残ったことがある。  演技後の囲み取材直前、親友でありチームメートの坂本花織の演技が始まるところだった。ミックスゾーンで記者たちの取材に対応する直前、離れたところにあるテレビ映像に目をやり(これから演技が始まる坂本に向けて)三原は小さく、本当に小さな声でつぶやくように、「かおちゃん、がんばれ。かおちゃんがんばれ」と声を出していた。  そして、取材で優勝した坂本について尋ねられると「全力で『おめでとう!!』って言いたいです」と弾んだ声で答えていた。  彼女が愛されるのはこんなところなのかもしれない。(大崎百紀)

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    天龍さんが語る“プレゼント” ジャイアント馬場からの贈り物はまさかの「年金」! 

     9月に「環軸椎亜脱臼(かんじくつい あだっきゅう)に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」であるということがわかり、現在は入院してリハビリ中の天龍源一郎さん。今回は入院先から主治医の許可をもらいながら、プレゼントにまつわる思い出を語ってもらいました。 * * *  プレゼントと言っても、俺は相撲時代、スポンサーやタニマチにいい顔をしていなかったから、ほかの力士と違って、たいしてプレゼントをもらってないんだよ。  そんな中で、相撲時代にもらったものといえば、化粧まわしに尽きるね。前にも話したことがあると思うが、俺の場合は21歳のときに十両に上がったその場所で、地元・福井の後援会の人達が手配してくれたんだ。  ところが、化粧まわしの代金の支払いが遅れていたらしく、場所が始まっても肝心の化粧まわしがなかなか届かなかったんだ。「代金は自腹で払うしかないのか……」と100~200万円の金の算段をし始めた  13日目にようやく届いてね。そのときは嬉しかったよ! 初めての化粧まわしは、四股名にちなんで登り龍がデザインだ。まあ、当時も“龍”がつく四股名の力士は俺以外にも多かったから、インパクトはそんなに無かったけど(笑)。それ以降もいくつか化粧まわしを作ってもらったけど、デザインはだいたい登り龍だね。  化粧まわしは、引退後は作ってくれた人にお返ししたり、誰かにプレゼントしたりした。俺だけじゃなく、化粧まわしは作ってくれた人にお返しすることは多いんだ。それでもいくつかは倉庫にしまっていたり、少しは手元に残っているものもある。廃業してちゃんこ屋をやっている人とか、自分の店に飾ったりしているだろう。俺も寿司屋をやっていた頃は店に飾っていたよ。やっぱり、普通の人からしたら珍しいから、お客さんも喜んでいたね。  全日本プロレスに入って、最初にジャイアント馬場さんからもらったのは、馬場さんが着なくなった服なんだけど、俺でもサイズが大きくて、どうしようもなかったね(笑)。  そんな馬場さんからのプレゼントで大切にしているのは、モノではなくプロレスラーとしての姿勢を教えられたことだ。直接「プロレスラーとはこうあるべき」というものではなく、馬場さんの何気ない仕草や態度を見て覚えたもんだよ。  例えば、飯を食うときも常にファンに見られていることを意識して、立ち食いそばなんか食べない。ホテルに行ったらレストランできちんとしたものを食べる、ケチらないということだったり。俺も相撲上がりだから馬場さんの考えはカッコいいなと思ってマネするようにしたんだ。だから俺は引退するまでファミレスやコンビニに全くといっていいほど行ったことはない。  実際に行ってみるとファミレスもコンビニもなかなかいいところだし、コンビニのホットスナックは美味しいよね(笑)。馬場さんは「プロレスラーとしてこうしろ」と口うるさく言わないタイプだから、周りのレスラーはそんなことしていなかったけど、威厳を落とさないという姿勢は馬場さんからもらった大切なもののひとつだ。  馬場さんはニューヨークでトップを取ったから、アメリカナイズされていることを匂わせていたと思う。「俺は田舎じゃなくてニューヨークでメインを取っていた」という雰囲気をプンプンさせていたよ。アメリカ時代に培ったトップとしての振る舞い方をしていたね。  そんな馬場さんからもらったもので、一番なのが「年金」なんだ。全日本プロレスのレスラーは俺も含めてみんな知らなかったのだが、実は所属している期間、馬場さんは会社としてみんなの厚生年金を払っていてくれていたんだ。当時は年金のことなんて全然考えていなかったし、そもそも個人事業主としての契約だと思っていたから、そんなことをしているとはまったく思わなかったよ。  俺もほかのレスラーも年金をもらう歳になって初めて気が付くんだ。今でも数万円の年金が入り続けていて、本当にありがたいことだよ。グレート小鹿ともこの年金のことで話をしたことがあって、そのとき小鹿は「そうなるまでいろいろあったんだよ……」となんだか含みを持たせた言い方をしていたが。俺はどんなことがあったのか知る由もないが、今となっては年金が馬場さんからの一番のプレゼントだ。  俺がプレゼントをもらった相手は、昨年亡くなった妻のまき代がやっぱり多いし、印象的なものもすべて彼女からのものだ。思い出深いプレゼントはいくつかあって、ひとつは、まき代が「駐車場まで来て」と言うから行ってみたら、ベンツの300クーペが置いてあったこと。これはさすがにびっくりしたよ。  当時は国産の車に乗っていたんだけど、ジャンボ鶴田がベンツに乗っていたのを見て、プロレスラーとしてはこれくらいのクラスの車に乗らないと、恰好がつかないと考えたんじゃないかな。SWS時代は同じように「駐車場まで来て」と言われて行ってみたら、ベンツ560SECが停まっていたこともあったね。まき代からのプレゼントはいつもサプライズで、彼女は本当に人を驚かせるのが好きなんだ。  車以外で印象的だったのは腕時計。俺がいつも「馬場さんがプラチナのロレックスをしていてさぁ」なんて、ことあるごとにまき代に話していてら、誕生日に「はい、これ」って同じ時計をプレゼントしてくれたこともあった。  馬場さんが買った当時は1000万円くらいしたようだから、かなり高価だよ。本当は1000万円もする腕時計をはめる必要なんてないのに、さすが「天龍源一郎を一等賞にする」と公言した女房だ。そのロレックスも寿司屋の経営が悪くなって手放しちゃったけど、もったいないとは思わなかった。それでまき代の負担が少しでも楽になるといいなという気持ちが強かったからね。  だから、俺がもらった一番のプレゼントはまき代が俺の嫁になってくれたこと。それが最高のプレゼントだ。結婚当初は俺もやんちゃでいい加減だったけど、それでもずっと家庭を守ってくれて、子どもを育ててくれて、本当に俺は幸せだったと思う。まき代の男前さには誰も勝てないよ。  彼女のそんな姿を見ていたからか、娘の紋奈が一度もプロレスラー天龍源一郎のことを嫌うことがなかったことも嬉しいし、俺にとっての大切なプレゼントでもある。紋奈が小学生のころは「プロレスなんて八百長だ」とか、よくイジメられていたんだけど、イジメられても一人で怒って立ち向かっていたんだって。  娘のそんな姿を見ると俺も勇気づけられるし、プロレスなんて八百長といってしまえばそうかもしれないが、娘を見ていると、それ以上のものがプロレスにはあって、彼女たちにも大きな影響を与えてくれているんじゃないかと思うんだ。家族は俺にとっての最高のプレゼント。皆さんもにもそれぞれ思い出のプレゼントがあると思うけど、大切にしてください! (構成・高橋ダイスケ) 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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    賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も

     育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 *   *   * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」  そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。  読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする>  インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言  この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」  この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。  電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」  丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」  三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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    みんな等しく貧しくなる日本「高齢者世代いなくなる時が本当の危機」

    “既得権者”“社会のお荷物”──。シニア世代へのバッシングが止まらない。中央大学の山田昌弘教授は「高齢者世代がいなくなる時が本当の危機」だと警告する。 *  *  *  少子高齢化が進む日本で、若い世代の社会保障負担が重くなっているのは事実です。ただ、それが極端な世代間対立につながっているわけではありません。若い人は「損をしている」とは思っていても、格差是正を求める大きな運動にはなっていません。日本で問題なのは、世代内の格差がそのまま次世代に引き継がれていることです。貧しい親の子どもは貧しいまま。日本はパラサイト(寄生)社会ですから、経済的に豊かな親の恩恵を受けている子どもも多い。  東京都立大教授の宮台真司さんが、大学内で男に切りつけられる事件がありました。容疑者とみられる無職の男は死亡しましたが、親が年金保険料を払っていたそうです。成人した子どもの生活費だけでなく保険料まで親が面倒を見ることは、欧米では考えられないことです。  ただ、これは日本の文化なので、そう簡単には変わりません。だから制度を変える必要があるのですが、日本人は制度が変わるのが嫌なんです。  なぜ、変わるのが嫌なんでしょうか。それは「今の生活を変えたくないから」。たとえば、格差是正のために、高等教育の無償化を目指したとします。そこには財源が必要で、どこかで痛みが出ます。でも、その痛みは自分に降りかかってくるかもしれない。だから制度を変えたくない。  官僚は優秀なので、消費税の税率を上げるのが大変なことはわかっています。代わりに、社会保険料を少しずつ上げていく。気がついたら、昔は年に2回行けていた旅行が1回になる。そうやって、みんなでだんだん貧しくなっているのが今の日本です。  それでも、みんな等しく貧しくなっていくのなら、日本人は気にしないのではないでしょうか。外圧や戦争といったことが起きない限り、この国は変わらないのでしょう。  では、子どもを援助している今の高齢者世代がいなくなるとどうなるのでしょうか。おそらく、その時に日本の本当の危機が訪れます。※週刊朝日  2023年3月31日号

    週刊朝日

    1時間前

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    身長147センチの妻に憧れを抱く俳優・佐藤二朗 死体役で「邪魔」と言われる存在感

     個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は小さいものへの憧れについて。 *  *  *昔、舞台で死体をやりまして。 正確には、斬られて絶命し、暗転までその場で倒れておりました。 その時の演出家にこう言われました。 「うーん、二朗ね、邪魔。なぁんか、邪魔。二朗がそこに倒れてるとね、なぁんか邪魔」 邪魔と言われましても、そこで斬られて絶命し、その場に倒れこむ、という演出だから仕方ないわけですが、要するに、なんでしょうね、体積? 僕の体の、体積みたいなものが大きくて、他の人より邪魔に感じる、みたいなことだったと思います。なんか、大きな鯨(くじら)がデーンと、ドデーンと、そこに横たわってるようだと。 そうなんです。僕、すべてにおいて大きいんです。 まずは顔。肩の高さは僕の方が低いのに、顔の大きさにより身長では逆転する、という怪奇現象(?)も度々あるほどです。そんな大顔面にも関わらず、ある朝、「うわっビックリした! 君、目、細いね」と妻に驚かれるような目細なものですから、そら壁のような顔になるわけです。そしてなぜに妻が唐突にその朝ビックリしたかはいまだに謎です。 さらに手。たとえば僕の小指は、平均的な女性の中指より長い。そう言いながら何人かの女優さんの手を握ることに成功しております(あの、冗談ですからね。あ、でも指の長さは冗談ではなく、本当にそれくらい手が大きいのです)。 さらに言わずと知れた、足。僕の足の大きさは31センチ(メーカーによって多少は前後します)。僕の靴は、靴というより、ほぼ小舟。 かようにいろいろ大きい理由として思い当たるのはやはり、生まれた時の体重です。僕、4250グラムだったんです。母親もさぞ苦労して生んだことでしょう。母親いわく、その時の看護師さんが「お肉ちゃん」と言っていたそうです。 看護師さんも失礼なことを言うもんだと思いましたが、生まれたばかりの自分の写真を見ると、やはり「お肉ちゃん」です。むしろ「お肉ちゃん」以外の言葉が思いつかないほどに「お肉ちゃん」です。 その「お肉ちゃん」のお肉が、主に体の末端に行ったんでしょうね。顔、手、足。バランス的におかしいくらい、とにかく大きいんです。 人間、自分にないものに憧れを抱くという傾向は多かれ少なかれあるような気がしていますが、ご多分に漏れず、すべてが大きい僕は、逆に小さいものに憧れます。 たとえば酒の肴も、大皿料理にはあまり惹かれず、旅館の料理のような小さい盛りつけの方が断然好きだったりします。 あと、麺類も、太麺より細麺の方が好き。ラーメンはもちろん、焼きそばだってスパゲティーだって細麺が好き。ビーフンとか大好き。うどんより蕎麦が好き。あと、ソーメンとか大好き。 さらに、「君が役に立つのは、高いところにある物を取ることだけ」と言い放つ我が妻の身長は、147センチ。その小さい体を存分に生かし、人混みをスルスルとかいくぐり、僕の3倍くらいのスピードで闊歩する妻にはやはり憧れに近い感情を抱きます。 ここまで書いて、今回のコラムのオチが思いつかないので妻に相談したら、「君にも小さいものがあるじゃん」。 なんだろ?と思って、妻に聞いてみました。「俺の小さいところなんてある?」。 妻、ニヤリと笑い、 「気。あと、器」。 しょぼぼん。

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    15時間前

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    ボクシングデビューの那須川天心 井上尚弥と「夢の対決」は実現するか

     キックボクシング47戦無敗で「神童」の異名を取り、プロボクシングに転向した那須川天心(帝拳)が、スーパーバンタム級ノンタイトル6回戦で、日本バンタム級4位・与那覇勇気(真正)と都内の有明アリーナで4月8日に対戦することが決まった。  ボクシングを取材するライターは、このマッチメイクに驚きを隠せなかったという。 「デビュー戦で日本ランカーと対戦するのは極めて異例です。与那覇は変則的な動きから重いパンチが特徴です。日本タイトルに縁がないですが、高校時代は全国選抜大会のバンタム級で優勝するなど、将来は世界ランカーになれると期待された選手でした。天心との対戦が決まり、モチベーションは高いでしょう。スピードは天心が上ですが、前半で仕留めきれないようだと、与那覇にもチャンスが出てくる。簡単な相手ではありません」  ボクシング関係者は「一気に駆け上がりたいという思いが、天心サイドから伝わってくるマッチメイクです。デビュー戦で与那覇を倒せば、2戦目で日本タイトルをかけた相手と戦える。世界チャンピオンになるのは険しい道ですが、そのポテンシャルは十分に持っている。楽しみですね」と期待を込める。  日本ボクシング界には、世界を代表するスーパースターがいる。井上尚弥(大橋)だ。昨年12月に行なわれた世界バンタム級の一戦でWBO王者のポール・バトラー(イギリス)に11ラウンドKO勝ちを飾り、アジア人でも史上初となる4団体統一王者となった。井上はさらに極みを目指す。今年1月にスーパーバンタム級へ階級を上げることを表明した。  運命の糸か。那須川は井上と同じ階級でデビュー戦となり、格闘技ファンからはネット上で「天心VS井上を早く見たい」、「天心が井上尚弥と対戦したら最高」と井上との対戦が実現することを心待ちにする声が上がっている。だが、前出のボクシング関係者は「その可能性は現時点でゼロに近い」と私見を口にする。 「井上は世界に名を轟かすレジェンドです。天心は格闘技界ではスーパースターですが、ボクシングはまだスタートしたばかりで、技術的に磨かなければいけないことが山ほどある。キックを繰り出していた間合いもこれから変わってくるし、キックボクシングの選手とボクサーはパンチの出るタイミング、フォームなど全く違う。練習や試合をこなすことでボクサーとしての新たなスタンスを構築しなければいけない。現時点では井上の足元にも及ばないことは天心自身が分かっているはず。焦らずに実績を積み重ねて欲しいですね」  デビュー戦が決まった那須川は、今月13日に自身のツイッターを更新。「覚悟と尊敬を持ってボクシングと闘います 色々な声があると思います けど僕は何も気にしません 自分自身を信じて闘います 僕の行動で皆さんの心の中にある何かが変わってくれれば嬉しいです 人生は一度 僕の身体で体現します かますぞ!」とメッセージを綴った。2日後の15日のツイートは英文が。「Hello, I am Tenshin」から始まり、「私はキックボクシングからボクシングに転向しました。まだ新人ですが、チャンピオンになって、アニメから現れたようなエンターテイメントをお見せします! いつか海外で戦いたいとも思っています。世界を変えるので注目してください! すぐに行くので待っていてください!」と呼びかけた。  ボクサー・那須川天心として新たなスタートを切る。日本国内にとどまらず、世界のボクシングファンを驚かせる戦いを繰り広げ、井上と「夢の対決」が実現する可能性を切り拓けるか。(今川秀悟)

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    「最強の城」2位は江戸城、1位は? 駅近な城、城郭が多い都道府県…近世城郭“何でも”ランキング!

    「どの城が一番なのか?」。城ファンが集まると話題がつきないテーマの一つである。週刊朝日ムック『歴史道 Vol. 26 江戸三百藩の名城大図鑑』では、近世城郭“何でもランキング”を掲載。ここでは、普請、作事、立地、戦略、権威の5つの指標から分析した「最強の城」や、「標高が高い城」「駅近な城」「近世城郭が多い都道府県」のランキングを紹介する。 *  *  * ■最強の城 ベスト5  幕藩体制において、もっとも格式の高い城郭として位置づけられたの、将軍家が鎮座する江戸城だった。ただし、敵を迎撃する城として評価してみると、巨大過ぎて締まりがなく、最強の近世城郭かというと疑問が残される。そこで、最強の近世城郭を選考するため、パラメータを設定し、採点した。  2位の江戸城は、全体的な締まりがないため、戦略の項目を減点。1位の大坂城は、各項目の均整が保たれ、最強の近世城郭の称号にふさわしいスペックを誇った。採点には本項執筆者の主観も潜在しており、独自のランキング作成もお勧めしたい。  1位 / 大坂城 97点普請 20点、作事 20点、立地 19点、戦略 19点、権威 19点 大坂夏の陣で陥落したのち、徳川幕府によって再建され、最強の近世城郭へ変貌を遂げた。本丸の石垣は日本一の高さを誇る。 2位 / 江戸城 95点普請 20点、作事 20点、立地 19点、戦略 17点、権威 19点 本丸と西の丸という二つの中核が存在する巨大城郭。縄張りを担当したのは藤堂高虎。 3位 / 熊本城 94点普請 20点、作事 19点、立地 19点、戦略 18点、権威 18点 加藤清正が築いた西国一の名城。普請をはじめ、パラメータのバランスは最高水準を誇る。 4位 / 姫路城 92点普請 18点、作事 19点、立地 20点、戦略 17点、権威 18点 3棟の小天守を従えた連立式天守は、江戸城や大坂城よりも威圧感を示した。 5位 / 名古屋城 91点普請 19点、作事 19点、立地 18点、戦略 17点、権威 18点 最強の平城。江戸城天守が失われたのち、名古屋城天守は日本一へ昇格  *  *  * ■標高が高い城 ベスト10  日本一標高の高い城郭は、1760mの贄川城とされ、戦国の山城であれば、標高1000m級が列挙される一方、近世城郭に限定すると、800mクラスの高遠城が1位となる。  現存12天守のうち、もっとも標高の高い地点に築かれたのは、山城の備中松山城ではなく、平城の松本城であり、山国信濃(長野県)は、半数の5城を占めた。 1位 / 高遠城 804m 2位 / 高島城 760m 3位 / 岩村城 717m 4位 / 小諸城 658m 5位 / 松本城 592m 6位 / 高取城 583m 7位 / 上田城 456m 8位 / 備中松山城 430m 9位 / 三春城 407m 10位 / 沼田城 400m *  *  * ■駅近な城 ベスト5 現代の住居では駅近の物件が好まれるように、城跡も駅から近ければ、集客力を期待できる。ただし、駅が近過ぎると、長岡城のように遺構の破壊という悲劇も生じた。 1位 / 長岡城 JR上越新幹線長岡駅 徒歩0分 1898年、北陸鉄道(北陸本線)の長岡駅開業とともに本丸の遺構は消滅。駅構内には城跡であったことを示す案内板等が設置される。 1位 / 三原城 JR山陽新幹線三原駅 徒歩0分 山陽新幹線の建設とともに本丸は分断されたが、新幹線のホーム下には、往時の石垣が現存。見学通路をたどれば、天守台を探査できる 3位 / 高松城 高松琴平電鉄高松築港駅 徒歩2分 4位 / 福山城 JR山陽新幹線福山駅 徒歩3分 5位 / 明石城 JR山陽本線明石駅 徒歩5分 *  *  * ■近世城郭が多い都道府県 ベスト5 今回ランクインした城が密集するエリアには、譜代大名や親藩大名が配置される傾向が強かった。それらは隣国の強大な外様大名を監視する役割を果たし、幕藩体制の安定に貢献した。 1位 / 福島県 9城 会津若松城・猪苗代城・福島城・三春城・二本松城・白河城・平城・相馬中村城・棚倉城 1位 / 三重県 9城 長島城・桑名城・神戸城・伊勢亀山城・津城・田丸城・松坂城・伊賀上野城・鳥羽城 3位 / 長野県 8城 飯山城・松代城・上田城・小諸城・松本城・高遠城・高島城・飯田城 3位 / 愛知県 8城 吉田城・田原城・岡崎城・西尾城・刈谷城・挙母城・名古屋城・犬山城 3位 / 兵庫県 8城 尼崎城・篠山城・明石城・姫路城・龍野城・赤穂城・出石城・洲本城 (監修・文/外川 淳) ※週刊朝日ムック『歴史道 Vol. 26 江戸三百藩の名城大図鑑』から抜粋

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    謎に包まれた平成の人気女優「加藤あい」 40歳でも変わらぬ美貌で世間が騒然

     女優の加藤あい(40)が久々に話題となっている。加藤は美容誌「美ST」3月号のメークページにモデルとして登場すると、同じ写真がウェブメディア「magacol」にも掲載。すると、SNSでは「久しぶりに見たけどめっちゃキレイ」など、その変わらぬ美貌を称賛するコメントが相次いだ。  1990年代後半から2000年代にかけて数々のドラマや映画に出演し、人気女優となった加藤。「海猿」シリーズ(04~12年)では主人公の恋人、そして妻となっていく環菜役を好演。遠距離恋愛の切なさや、危険な仕事に携わる夫を持つ妻の心の葛藤などを見事に演じ、作品を支える存在感をみせた。同作は映画4本、テレビドラマ1作が制作される人気シリーズとなった。 「00年には長瀬智也さんが主演、宮藤官九郎さんが脚本を手がけ、今や伝説のドラマと呼ばれる『池袋ウエストゲートパーク』に出演。長瀬さんの恋人役で、解離性同一性障害に悩む女性という難しい役を見事に演じました。同ドラマは、今年1月からはネットフリックスで配信され、若者に再び注目を浴びています。また加藤さんはデビュー直後からCM出演も相次ぎ、CM女王と呼ばれていた時期も。ピュアでクリーンなイメージで、大企業はこぞって起用。NTTドコモのCMでは約8年にわたり、イメージキャラクターを務めました。彼女の評価がいかに高かったかを物語っています」(テレビ情報誌の編集者)  01年、高校卒業後に大学へ進学した後も、女優と学業を両立させストレートで卒業。その後は、女性誌でイメージを覆すような大胆なセミヌードにも挑戦して、ファンを驚かせたこともあった。 「当時、細くしなやかな加藤さんのスタイルに憧れを持つ女性も多かったはずです。『FRaU』(13年3月号)では、『“本当にこのようなカラダをみなさんにお見せしていいものか”と、すごく悩みました』といった迷いを吐露しており、彼女の控えめな人柄も垣間見えました。同誌でのセミヌード発表から数カ月後、7歳年上の男性との結婚を発表しました。加藤さんが語学留学していた米ニューヨークに、たまたま仕事で来ていた彼と、深く話す時間が多くなったことで一気に距離が縮まったそうです。彼の印象については『居心地がよくて、かわいいクマさんみたいな方です』と当時の取材に答えています。その後、2015年に第1子、2018年に第2子を出産。結婚・出産後は一気に露出が減ったので引退説もささやかれていましたが、第2子出産時に『育児が落ち着いたら順次仕事を再開』と発表があったので、女優業を続ける意思はあったようです」(同) ■女性誌に「第3子」の文字が  女優としての活動は17年に放送された相葉雅紀主演ドラマ「貴族探偵」(フジテレビ系)へのゲスト出演が最後となっている加藤。19~20年には、製薬会社のシミ対策医薬品のCMにも出演したこともあるが、21年には約10年間所属した事務所を退所。その後は、福岡に本社があるスキンケア商品のイメージキャラクターを務めているが、まだまだ本格復帰にはいたっていない。 「夫は日本とアメリカを拠点にしている会社役員だと報じられました。また加藤自身の実家も裕福でお嬢様育ち。仕事をしなくても相応の生活レベルを維持できるのでしょう。最近では21年に女性週刊誌がスーパーでの買い物後の姿をキャッチしています。メガネをかけ、少し疲れた表情で高級ブランド・エルメスのバーキンに食材を無造作に突っ込み、入りきらなかった牛乳パックを手に持って歩く写真が掲載されました。忙しい子育て女性の“ガサツさ”が逆に好感を得たようで、SNSでは『バーキンの使い方がかっこよすぎる』『意地でもレジ袋を買わないのがいい』などと好意的な意見があがっていました」(女性週刊誌の記者)  加藤はSNSも一切やっておらず、私生活は謎に包まれている。だが、3月発売のファッション誌「VERY NaVY」(4月号)には「現在は三人の子育てを優先」と書かれていた。未公表だが、第3子を出産していたのかもしれない。  芸能評論家の三杉武氏は、加藤の今後についてこう予測する。 「インタビュー記事などでのご本人の発言からみても、今はやはり家庭優先で芸能界とはある程度距離を置いているのでしょう。SNSでの発信すらしていないあたりにも、強い意思が感じられます。中学生のころからモデルとして活動しているので、年齢のわりに芸能界でのキャリアは長く、かつて輝かしい活躍をみせたからこそ、かえってスッパリと芸能界から離れることに迷いがなかったのかもしれません。とはいえ、人気女優として一時代を築いた方ですし、仕事のオファーもあるので、今後も家庭に影響のない範囲で、美容やファッション関連の仕事で露出はあるでしょう。子育てが一段落すれば芸能活動を活発化させる可能性もあります」  母となった加藤の新境地を見たいと思う人は多いはずだ。本格復帰に期待したい。 (高梨歩)

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    20時間前

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    鶴界にもジェンダーの波? 春風亭一之輔が旅での出会いを実感

     落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「さまざま」。 *  *  *  岸田総理の口癖らしい「さまざま」。国会質問で野党から「それはごまかしだ」と指摘され、NGワード認定されてもなお「さまざま」を連発し、岸田さん冷や汗。まるでコント。平和ですな。  2月末に広島へ仕事に行きました。奇しくも総理の地元です。  同行の三遊亭まんと君は高知県四万十町出身で師匠は三遊亭萬窓師匠。しまんと、まんそう、の「まん」を頂いて『まんと』。「広島は小学校の修学旅行以来です!」だって。高知辺りだと広島はけっこう近いのね。  原爆ドーム近くに新しくビルが建っていた。『おりづるタワー』。地上13階の屋上展望デッキ「ひろしまの丘」からは市内が見渡せるらしい。「行ってみっか」と受付へ。屋上までのチケット、大人1700円也。ちょっとたじろいだが、折しも快晴。そんな日の1700円は250円くらいに感じられるね(付き添いの方が払ってくれた)。エレベーターで屋上へ。「おー!」。ほぼ360度のパノラマに風が吹き抜ける。原爆ドームを上から観たのは初めて。  なるほど……平和記念公園を上空から観ると「景色がいい」だけじゃなく、さまざまな想いが巡ります。  12階は「おりづる広場」。液晶ビジョンで広島の街の移り変わりを観たり、折り鶴になったようにモニター上を飛べるマシンだの(説明下手)があって家族で遊べます。「おりづるの壁」なるモノがありました。鶴を折って12階から落とすと、ガラス張りの壁面に鶴が堆積していき、時を経て、平和を祈る「おりづるの壁」が出来上がるという……。これはやらねば。おりづる代100円(払ってもらった)。何十年ぶりに鶴を折る。不思議なもので指先は覚えている。なかなかよく出来た。 「私も出来ました!」。笑顔のまんとが差し出した。??? なにこれ? 首、みじか! 羽、みじか! そして開かねー! 胴体が異常にふっくらしててなんかカッコわる! 見たことのない自称・鶴。「お前、鶴折れないのかよ?」「これ鶴ですよ」「違うだろ! 鶴はこれだろ」「……あー、それオンヅルですか?」。オンヅル? 「オスですね、それ」。性別? 鶴界にもジェンダーの波? 「僕のはメンヅルですから」。『ですから』って……?  まんと曰く、高知県民の折り鶴はこの『雌鶴(メンヅル)』なるものがスタンダードらしい。「高知以外は基本雄鶴(オンヅル)なんですね……初めて知りました……」だそうです。  早速「おりづるの壁」へ鶴を落とす。私の『オンヅル』は独楽のようにクルクル回りながらゆっくり落ちていき、一方まんとの『メンヅル』は空気抵抗を受けることなく猛スピードで一直線に落下していった。「こういう時、あっけないですね……メンヅルは」。  折り鶴も『さまざま』。まんと、広島、おりづるタワー。この組み合わせがなけりゃ私は生涯『メンヅル』と出会わなかったかもしれません。旅の仕事はいろんな出会いがありますなぁ。  さて、今度はメンヅルの折り方でも覚えてみよか。 春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!※週刊朝日  2023年3月31日号

    週刊朝日

    15時間前

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    副業が会社にバレるのはどんなとき?バレたらクビ?退職金は没収? 現役社労士が教えるトラブル回避術

     働き方が多様化するにしたがって、副業を考える人が増えている。副業とは本業以外の仕事全般のこと。形態はさまざまで、個人事業主などの自営業から、パートタイマーや派遣、在宅での内職、投資などが一般的だ。近年は、本業に支障が出ない範囲で副業を認める会社も多い。  とはいえ、正社員や契約社員の副業を就業規則で禁じている企業や団体も少なくないし、副業は人によって働き方が違うため、何かトラブルが起こったときにどう対応していいか分からず、1人で抱え込んでしまうケースも散見される。『読めば得する 働く人のもらえるお金と手続き 実例150』の著者で現役の社会保険労務士・蓑田真吾さんに、これから副業を始めたいと考えている人や、すでに副業をしている人から多く寄せられる6つの質問に答えてもらった。 【質問1】副業禁止の会社に勤めています。法律上、どこまでならOKですか?【蓑田社労士】副業をすることは、法律では禁止されていません。まずは本業先の就業規則を確認してみましょう。  一般的な就業規則では、明確に書いていない場合でも、次の4つの理由にあてはまる場合を禁止としている会社が多い。ライバル企業での副業や深夜の時間帯に行われる副業、長時間に及び本業の仕事がおろそかになるような副業が想定されている。 (1) 営業秘密が漏れる場合(2) 本業での業務に支障がある場合(3) 副業先が競合他社の場合(4) 本業先の信頼関係が損なわれる場合  副業先でも雇用される、という場合は、求人票で見ておくべきポイントがある。労働条件の中でもとても重要であるはずの「賃金等」の部分が「応相談」となっている会社は要注意。最低賃金を下回っているということはなかったとしても、「どんぶり勘定」の可能性があるので、入社を決める前に面接や電話で確認したほうがいい。 【質問2】会社に副業がバレてしまうのは、どんなときですか?【蓑田社労士】住民税の額が変わり、かつ、会社の給料から天引きされているときは発覚してしまいます。  住民税の徴収には2つのパターンがある。会社の給料から天引きして会社が納付する「特別徴収」と、会社を経由せず個人で納付する「普通徴収」だ。「特別徴収」の場合は、副業収入分を確定申告した後に住民税の額が変わると会社に通知され、そこで発覚することがある。 「普通徴収」の場合は個人に通知が来るので、会社に知られることはない。ただ、副業がパートやアルバイトなどの給与所得の場合は特別徴収になるし、自治体によっては、副業収入分から生じる住民税の払い漏れを防ぐために、普通徴収にできないところもある。 【質問3】副業禁止の会社で、副業が知られてしまいました。就業規則には「懲戒解雇」と書いてあり、その場合、退職金も没収されるようです。どうにもならないでしょうか?【蓑田社労士】懲戒解雇や退職金の没収は現実的ではないと思われます。  ルール違反に対する懲罰が科せられることは、もちろんあり得る。しかし、最も重い懲罰である「懲戒解雇」は現実的とは言えないだろう。懲戒解雇にする場合、会社は、副業の影響で自社にどの程度の損害が生じたのかを示す必要があるが、これはかなり大変だからだ。  過去の裁判例から、退職金は、これまで継続して働いてくれた「功績」と「賃金の後払い」という2つの顔を持っていると考えられている。よって、退職金に関しても、一部減額されるということはあり得るが、「没収」となるとほぼ無理だろう。仮に会社が没収を強行したとしても、法的な争いに発展すれば没収は無効となる可能性が高い。 【質問4】本業先から副業先に出勤する途中で事故に遭いました。労災保険は使えますか?使える場合、どちらの会社に申し出ればよいですか?【蓑田社労士】使えます。副業先に申し出ましょう。  本業先から副業先に向かう途中であれば、副業先に申し出て、副業先の労災保険を使う。なぜなら「副業先で働くために移動」していたからだ。ただしこの場合、副業先とは雇用契約でなければならない。  2020年9月に法改正があり、労災保険として給付額を算定する際には本業先と副業先の賃金を合わせて計算されることになった。以前よりも給付される額は多くなるはずだ。ただ、不幸中の幸いで軽傷で済み、診察のみであとは経過観察となった場合、受診時の自己負担がないなど、単に「お財布からお金が出ていかない」というかたちの給付で終わる場合もある。 【質問5】副業先に転職します。採用日が11月1日に決まったので、本業の職場と退職日のすり合わせをしています。10月30日での退職はどうかと聞かれたのですが、末日退職ではない場合に気をつけることはありますか?【蓑田社労士】社会保険料の支払いに影響します。空白期間に気をつけましょう。  社会保険は、月末時点でどの制度に加入しているかで判断されるため、月末の1日の違いはとても大きい。末日である「10月31日」に在籍していなければ、会社はあなたの10月分の社会保険料を支払う必要がない。「空白の1日」に関しては、市区町村の窓口であなた自身が手続きをして、国民健康保険と国民年金に加入し、10月分を支払うことになる。これまでは、保険料の半額を会社が支払ってくれていたが、もちろん全額、あなたの負担だ。  空白期間があるにも関わらず放置していると、年金が少なくなったり、たまたまその日に具合が悪くなっても保険証が使えなかったりするので、要注意だ。 【質問6】副業先を退職することになりました。本業先では引き続き働きますが、失業保険はもらえますか?【蓑田社労士】失業状態とはいえませんので、失業保険はもらえません。ただ、65歳以上の場合、もらえることがあります。  たとえ副業先を退職しても、本業先では働いているので、失業保険の対象にはならない。ただ、65歳以上の人であれば、本業先と副業先の一方だけを辞めた場合でも、失業保険の対象となるケースがある。2022年1月から「マルチジョブホルダー制度」という新しい制度が導入されたためだ。  該当するのは、以下の条件に当てはまる人だ。 (1) 複数の事業所に雇用される65歳以上の労働者であること(2) 2つの事業所(1つの事業所における1週間の所定労働時間が5時間以上20時間未満)の労働時間を合計して1週間の所定労働時間が20時間以上であること(3) 2つの事業所のそれぞれの雇用見込みが31日以上であること  この3点に該当する場合は、居住地を管轄するハローワークで手続きをすると雇用保険の被保険者となる。被保険者として6カ月以上経っていれば、退職時に一時金として高年齢求職者給付金をもらうことができる。 (構成 生活・文化編集部 上原千穂)

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    1時間前

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    MEGUMIが語る「思春期」息子の子育て 中学受験を直前で断念も「結果としてやめてよかった」

     タレント、俳優、ドラマのプロデューサーなど、多彩な活躍を見せるMEGUMIさんは、思春期男子のママでもあります。「思春期ですが、“反抗期”ではないですね」と話しますが、その背景には小学生時代から向き合い、話し合ってきた積み重ねがあるようです。プレ思春期ママ、必読のインタビュー。発売中の「AERA with Kids 2023年春号」(朝日新聞出版)から一部抜粋してお届けします。 *    *  * ■イマドキ思春期はテンション低めです  春から中3になる息子は、ここ数年でとても変わりましたね。急激に背が伸びて、声も変わり、同時に天真らんまんさのようなものが薄れました。親子の立場が逆転するような発言もあります。  まさに思春期。といっても、反抗的ではありません。息子の友だちもそう。穏やかで、優しくて、テンションが低いなぁって感じることもあります。  彼らは思春期の入り口でコロナ禍に突入した世代です。おしゃべりしちゃいけない、外出しちゃいけないって言われた影響はあると思います。リアルよりバーチャルが身近で、情報はたくさん知っているんだけど体験が圧倒的に少ない。だから言っていることは大人びて、妙に現実的なんだけど、「それは本当に正しいの?」と問われるとあやふやだったり……。  大人になろうとする息子を尊重はしますけど、リアルを知る大人として教えるべきことは、まだたくさんあると思っています。情報が特に多い世代なので、親もちゃんと考えて、誠実に話さないと信用してもらえません。  彼らが大人になったときは、きっと今よりさらにグローバル化が進むでしょう。だからこそ、誰かの言葉に振り回されるのではなく、自分の頭で理解して、自分の言葉で表現できる人になってほしいんです。  ぶつかることもありますが、高校生になったら親子の時間は物理的にも減りますよね。ここから高校受験までの1年間は、うるさがられてもいいからしっかり向き合っていこうと思っています。 ■中学受験を全力サポート 「やめる」なんて勘弁して!  実を言うと、息子は中学受験をやめているんです。  しかも「やめたい」と言い出したのが6年生になってから。最初は「はあ?」でした。学校の情報を集めて、いい塾やいい家庭教師の情報を集めて……親なら当たり前かもしれないけれど、全力でサポートしてきたつもりでした。それを全部ナシにするなんて勘弁してよ!と、大反対しました。  それから半年間、「やめる・やめない」のせめぎ合いがあり、結局は受験目前になって「やめる」という決断を受け入れました。正直、キツかったです。それでも息子の意見を受け入れたのは、「私が反対しているのは単に、ここまでの私の努力を結果で証明したいだけ」と気づいたからです。息子のためじゃなくて、自分のために反対してるんじゃん……って。  結果としては、やめてよかった。でも高校受験に向けて「これがラストチャンス」という思いはあります。義務教育じゃないので、ここでがんばるしかない。「勉強は苦手。嫌なことはしたくない」という気持ちと闘えるか、見守っていきたいです。 ■プレ思春期に見えた私の知らない息子の顔  振り返れば、彼の個性みたいなものが明確になったのは、小学校4年生ぐらいだったと思います。それまではまだまだかわいくて甘えん坊で、息子のことは全部知っているような気がしていました。  小4のとき、息子は自分で希望してオーディションを受け、映画に出演したことがありました。大人の中に交じって表現する姿を見たとき、「かわいい、幼いと思っているのは自分だけだった」と気づきました。  私の知らない顔で大人と話し、がまんし、努力もできていた。9歳でしたが、精神面では大人に近づいていました。  とても素晴らしい体験をさせてもらった息子ですが、いまのところ俳優業に進む予定はないみたいです。理由を聞くと、「演技は恥ずかしい」って。ええ? そういう理由なの?と、私はけっこう驚きましたけどね(笑)。  小4ぐらいのプレ思春期って、実はものすごく変化の時期だと思います。受験するか決めたり、新しい習い事を始めたり。親はその選択や送迎に時間をとられるし、「やめたい」と言われると「やめさせていいのか」と親も迷います。本人の主体性と親の価値観のせめぎ合いですよね。その始まりの時期がプレ思春期なのかなと思います。 ※「AERA with Kids 2023年春号」から一部抜粋 (取材・文/神 素子) 〇MEGUMI/1981年生まれ。岡山県出身。2008年に結婚。翌年2月に長男誕生。現在は俳優としてドラマや映画などで活躍する。22年にドラマ「完全に詰んだイチ子はもうカリスマになるしかないの」を企画・プロデュース。金沢市では「Cafeたもん」を経営する。母親役で出演した映画『赦(ゆる)し』が公開中。

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    「死ぬ日まで晩酌を楽しみたい」 87歳の帯津医師が続けていること

     西洋医学だけでなく、さまざまな療法でがんに立ち向かい、人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱する帯津良一(おびつ・りょういち)さん。老化に身を任せながら、よりよく老いる「ナイス・エイジング」を説く。今回のテーマは「87歳になって思う」。 *  *  * 【日銭】ポイント (1)佐藤一斎の没年齢に追いついて、やはりうれしい (2)老人だと自覚してから、もう17年もたってしまった (3)最近は死後の世界への親しみが一段と増してきた  2月17日に87歳になりました。去年ここに書いた「86歳の誕生日」という原稿(2022年3月18日号)で、江戸時代の4大養生家の没年齢を紹介しました。単純に没年から生年を引いて計算したのですが、白隠慧鶴(1686~1769)=83歳、貝原益軒(1630~1714)=84歳、神沢杜口(1710~1795)=85歳、佐藤一斎(1772~1859)=87歳です。  去年はこのうち3人の没年齢を超えたと自慢したのですが、今年は佐藤一斎にも追いつきました。やはり、うれしいですね。とはいっても、江戸時代にこれだけ長寿だったことを思うと、かないませんが。  誕生日のお祝いというのはあまりやったことがなかったのですが、70歳になったときに病院のスタッフから「お祝いをしましょう」と言われました。実は「えっ」という感じだったのですが、「古稀ですから」と説明されて、「ああ、そうか」と納得しました。  古稀とは中国の唐時代の詩人、杜甫の詩「人生七十古来稀なり」に由来していると言われています。つまり、そこまで生きれば、大したものだということなのです。「そうか、俺もいよいよ老人なのだ」と、このときに初めて自覚しました。急に老人であることが気になり、古代ローマの哲学者・政治家キケローの著作である『老年について』(岩波文庫)を買って読んだりしました。それからもう17年もたってしまいました。長く老人を続けてこられたものです。  76歳になったときに、ある雑誌のリクエストで「日銭を稼ぎながら凜として老いる」というタイトルの原稿を書きました。原稿料、講演料といった日銭を稼ぎ、そのお金で楽しい晩酌を続けて、凜として老いたい、といった内容です。その原稿にこうあります。 「不幸にして脳出血とか心筋梗塞などの病を得たらどうだろう。話せない書けないでは万事休す。日銭はその日から途絶える。(中略)でも甘いかもしれないが、全国の女性ファンが助けてくれるのではないかと高をくくっているところもある」  いま読み返してみると、なんとも自分勝手で恥ずかしい限りです(笑)。  でも、このときに書いた「日銭を稼ぎ続けて、死ぬその日まで晩酌を楽しみたい」という気持ちは10年以上たった今も変わりがありません。ですから、脳梗塞を防ぐためのサプリメントを摂(と)り続け、下半身の衰えを防ぐために牛肉を食べ、骨を強くするために昆布の出し汁を飲み、毎朝の太極拳を続けています。  変わったところといったら、死後の世界への親しみが一段と増してきたことでしょうか。最近も親しい人が向こうに行きました。あちらも賑やかになっていると思うと、向こうの世界に行くのが楽しみになります。 帯津良一(おびつ・りょういち)/1936年生まれ。東京大学医学部卒。帯津三敬病院名誉院長。人間をまるごととらえるホリスティック医学を提唱。「貝原益軒 養生訓 最後まで生きる極意」(朝日新聞出版)など著書多数。本誌連載をまとめた「ボケないヒント」(祥伝社黄金文庫)が発売中※週刊朝日  2023年3月31日号

    週刊朝日

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    関西は14年ぶりに受験率10%超え 東海も志願者数過去最高の学校が続々と【中学受験2023】

    関西、東海でも首都圏同様に中学受験市場が活気づいています。難関校の志願者が増えるとともに、中堅校が伸びており、中学受験の裾野が広がっていることがうかがえます。共学校が人気なのも両エリアの特徴です。 * * *  関西2府4県(大阪・京都・兵庫・奈良・滋賀・和歌山)の中学受験率は、10.01%と2009年以来の10%超えとなった。小学6年生人口の減少にもかかわらず、受験者数も前年の1万6892人から387人増の1万7279人となっている。日能研関西(神戸市)取締役の森永直樹さんは、その理由を次のように話す。 「今年の受験生は、受験勉強がスタートする新4年次からコロナ禍にいた世代です。休校措置が取られたときに、私立は即座にオンラインで授業を再開しました。それらの対応を含めて私立の優位性がわかり、今まで関心がなかった層が中学受験に向かったと思われます」 ■今年の傾向は、中堅以下の学校で志願者数が伸びたこと  特徴のひとつが、難関校の志願者の増加だ。昨年の安全志向から一転、強気の受験となった。 「昨年が安全志向だったのでその反動でしょう。従来の形に戻ったという印象です」(森永さん)  最難関校の灘(神戸市)は、志願者が2022年の652人から745人に増加した。 「灘には北海道から九州まで、全国から志願者が集まります。関西はもちろんですが、全国からの志願者も増加しています」(森永さん)  洛南(京都市)も775人から883人へと大幅に増加。 「洛南は灘との併願が多いため、灘が伸びると必然的に増加します」(森永さん)  今年の傾向は、中堅以下の学校で志願者数が伸びたことだという。 「たとえば1年ぐらい準備をすれば受験できるような比較的狙いやすい学校で、かつ設備やカリキュラムが整っている、私学らしい学校が人気になりました」(森永さん)  特に大阪の共学校の増加が目立つ。上宮学園(大阪市)は380人から488人へと躍進。「校舎や設備が良くICT教育の先進校」(森永さん)であることが注目された。履正社(大阪府豊中市)は267人から299人への伸び。6年一貫コースのカリキュラムが刷新され、充実したことで好感を呼んだ。初芝立命館(堺市)は、一定の成績を収めれば立命館大に進学できるコースが設定されたことで660人から964人に志願者が増加した。  付属校は難関校に受験生が戻ってきた。 「昨年は安全志向で産近甲龍(京都産業大・近畿大・甲南大・龍谷大)系列が志願者を集めましたが、今年は減少。一方で、関関同立(関西学院大・関西大・同志社大・立命館大)系列全体の志願者数は昨年よりも増加しました」(森永さん)  しかし、関関同立枠内での安全志向も働いた。ほとんどの学校の志願者が増加するなかで、難関の同志社香里(大阪府寝屋川市)は1472人から1277人に、関西学院(兵庫県西宮市市)は888人から740人に減少した。 「この2校は難しくなりすぎて敬遠されたのと、レベルが高くなり受験生が他の難関校に分散したことが考えられます」(森永さん)  一方で府県をまたいで受験する受験生が増えたことで、県境に位置していたり、交通アクセスが良かったりする学校が復活。帝塚山(奈良市)が1640人から1819人に、清風(大阪市)が1611人から1743人に、明星(大阪市)が1139人から1256人に、開明(大阪市)が1530人から2038人に増加。特に開明は入試回数を増やすなど入試改革が奏功し、508人の大幅増加につながった。 ■教育に特徴のある私立に注目が集まる  東海3県(愛知・三重・岐阜)は、愛知が牽引し全体を引き上げた。岐阜県と三重県は横ばい。特に名古屋市の中堅校が志願者を伸ばした。日能研東海(名古屋市)企画情報部部長の藤原康弘さんはこう話す。 「名古屋市内は今まで受験を考えていなかった層も中学受験を選ぶようになってきました。愛知は公立志向が強く“公立王国”と言われていますが、公立上位校は安定しているものの、名古屋市以外の公立高校では定員割れし2次募集している学校も珍しくありません。みんなが公立に行く時代ではなくなり、教育に特徴のある私立に注目が集まっています」(藤原さん)  愛知では、志願者で過去最高を記録した学校が続出した。  滝(愛知県江南市)は昨年の1868人から1929人に増やし2000人に迫る勢い。早期にICTに取り組み、面倒見が良いと好感を呼んだ。大学進学実績も伸びているという。 「20年ほど前は約1000人でしたから、2倍近くに増えたことになります。昨年からは2駅でスクールバスを走らせたことで利便性が増し、人気が上昇しました」(藤原さん)  星城(豊明市)が182人から282人、名古屋国際(名古屋市)が271人から309人に、名古屋経済大学高蔵(名古屋市)が200人から224人に、名古屋女子大学(名古屋市)が991人から1026人へと過去最高を記録した。  東海地区の入試解禁日は1月第1土曜日だ。原則として入試日は土・日・祝日に限られている。今年の入試日程は1月7、8、9日の前半に集中した。 「従来は、早い時期に入試を行う学校は押さえ校だったのですが、受験生が増えるとともに進学する生徒も増えています。競争が厳しくなっているので、早い時期に合格が取れないと進学先の確保が難しくなっています」(藤原さん)  難関校も安定した人気。最難関の東海(名古屋市)は1050人から1071人へと志願者を増やした。海陽(蒲郡市)も722人から884人へ増加した。 「寮のある学校の人気が高まっており、首都圏からの志願者が増えています。首都圏でも入試会場を設けているので、その影響もあるのでは」(藤原さん)  岐阜県は鶯谷(岐阜市)が425人から470人へ増加と健闘した。 「鶯谷も過去最高です。同校最寄り駅の岐阜は名古屋からも通学が可能です。名古屋に入試会場を設置して依頼、勢いを増しています」(藤原さん)  三重県は海星(四日市市)の前記が113人から136人に増加。 「英語教育に力を入れており、地元からの期待値が高い。共学になってから3年連続で志願者が増えています」(藤原さん)   愛知県では2025年に公立中高一貫校が4校開設される。私立への影響はあるのか。 「注目を浴びているので、公私併願する受験生はいると思います。ただ定員もそれほど多くないので、影響は限定的では。私立も、奮起してより教育を充実させ、アピールしていくので、中学入試はますます活況になるのではないでしょうか」(藤原さん) (柿崎明子) ※文中の数値は「2023出願・入試状況(2023/3/1時点)」(日能研関西調べ)、「2023年度 私立中学入試結果一覧(2023/3/1時点)」(日能研東海調べ)を参照。

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    1時間前

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    脳梗塞の疑いで救急車を呼ぶとき家族が準備すべき「3つ」のものとは? おくすり手帳、診察券、あと1つは

    脳の血管が詰まる脳梗塞。薬で血栓を溶かすt−PA治療や、カテーテルで血栓を除去する血栓回収療法など治療法は進歩している。ただし、できる治療は発症後の時間により異なり、有効な治療を受けるには「時間との勝負」となる。 *  *  *  脳梗塞は、血管の詰まり方により「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分けられる。からだの片方のまひやしびれ、ろれつが回らないなどの5大症状がみられたら、軽くてもすぐに救急車を呼ぶことが必要だ。その理由を、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は「症状が軽い=軽症とは限らないため」と話す。 「ちょっと言葉が出にくい、足が動かしにくいなど軽い症状の場合、小さい脳梗塞だからということもありますが、大きな血管が詰まりかけていて、前兆として軽い症状が起こっていることもあります。放置したことでその後、大きな症状が起こることも少なくありません」  家族に脳梗塞を疑う症状がみられて救急車を呼んだ場合、到着までに準備してほしいものとして、東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師は、(1)おくすり手帳(2)かかりつけ医療機関の診察券(3)発症時刻(症状に気づいた時間)のメモを挙げる。「昨日の夜寝るまでは元気で、今朝起きたら症状があった」という場合は、「前夜寝た時間」と「今朝起きた時間」でいいという。 「神経が障害される病気の多くは、治療しても発症前のように症状を完全になくすことは難しいのですが、脳梗塞は、早期に適切な治療をすることでかなり症状を改善できる数少ない病気といえます。ただし、そのためには一分一秒でも早く治療を開始することが必要で、この三つはその重要な情報となります。いざというときは慌ててしまうことも多いため、落ち着いて救急隊や医師に伝えてください」(井口医師) ■薬で血栓を溶かす治療法を検討  脳梗塞は、「発症後の時間」により治療法が異なる。そのため脳梗塞の疑いがある場合、病院到着後すぐに診察と検査をおこなう。検査ではとくに、脳の状態をみるMRI検査と、脳の血管をみるMRA検査が重要となる。 「MRIでは、起きたばかりの新しい脳梗塞だけを映し出す方法で、急性期の脳梗塞かどうかを調べます。血管が詰まりかけている、あるいは詰まったばかりで神経細胞が完全に壊死していない場合は、ダメージを最小限におさえるためすぐに血流を再開通させる治療を始めます」(森本医師)  急性期の脳梗塞の治療は、薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、器具で血栓を取り除く「血栓回収療法」が主となる。  血栓溶解療法では、組織型プラスミノゲン・アクティベーター(t−PA)という薬を点滴し、血栓を溶かす。ただし、この治療は発症から4・5時間以内に限られる。 「脳梗塞を起こして時間が経つと、その血管はダメージにより血管壁がもろくなります。t−PAで血栓が溶け、血管が再開通するともろくなった血管から出血するリスクがあるため、発症後4・5時間を過ぎたらt−PAは使用できません」(同)  また、以前は就寝中などに発症した発症時刻が不明の人には治療できなかったが、2019年に適応が拡大された。MRIでは、起こったばかりの変化を描出できる画像(DWI)と、描出するまでに3~6時間かかる画像(FLAIR)があり、DWIでは脳梗塞がみられるもののFLAIRではみられないというミスマッチが生じた場合、4・5時間以内に発症したと判断できる。 「発症時刻がわからない人でも、2種類のMRI画像で4・5時間以内かを判断した上で、血栓溶解療法ができるようになりました。これまで治療できなかった人が、t−PAにより救われる可能性が広がったといえます」(井口医師)  発症後4・5時間以上経過した場合や、出血しやすい病気があるなどの理由でt−PA治療ができない場合、血栓が大きく溶かしきれない場合は、血栓回収療法をおこなう。カテーテルを挿入して血栓を取り除く治療法で、専用の器具で血栓を絡めとる方法と、血栓を吸引する方法がある。この治療は原則として発症後24時間以内ならできるが、細い血管にカテーテルを通すため出血のリスクを伴う。技術を要する治療であり、実施できる病院は限られる。 「治療しなければほとんどの人が寝たきりになってしまうような閉塞でも、経験豊富な医師のいる病院であれば、この治療により血栓の約9割は回収できます。治療後早くからリハビリをすることで、そのうち半数の人は歩いて自宅に帰れるほど元気に回復します」(森本医師)  森本医師は、いざというときに備え「脳梗塞の治療に強い病院を調べておくと安心」と話す。血栓回収療法を実施しており症例数が多いこと、日本脳神経血管内治療学会の専門医が複数いること、厚生労働省の認定する脳卒中専門の集中治療室「SCU(Stroke Care Unit)」があることなど、病院のホームページで確認できることも多い。SCUには「24時間専門医が常勤」「患者3人に対し看護師1人以上を配置」などの認可基準がある。 「脳梗塞は症状の急激な変化が多い病気です。SCUでは手厚く患者さんをみることができ、神経症状の変化などにも素早く対応できる強みがあります」(同) ■ためらわずに一刻も早く救急車を  現在は、血栓回収療法を実施できる病院は都市部に集約されている傾向があるが、急性期脳卒中の診療体制を整えている地域や病院は増えていると井口医師は話す。 「救急車を呼んだ後のことを心配するより、早く救急車を呼ぶことが大事です。優れた治療法があっても、24時間以内に治療できるのは3割以下。時間オーバーで治療できないという事態を減らすためにも、まずは一刻も早く救急車を呼んでください」(井口医師) (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月31日号より

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    4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか

     NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 *  *  *  NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。  この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。  実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。  NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。  過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。  新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。  村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。  ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。  新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」  NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。  「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)

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    ryuchell 息子とお出かけ中に「だいぶ成長したな」と感じた出来事とは

     現在4歳になる男の子を育てるpeco(ぺこ)さんとryuchell(りゅうちぇる)さん。昨年8月、婚姻関係を解消しましたが、これまで通り3人で「新しい家族の形」を築いていくことを公表しました。本連載では、お二人の日々の育児や家庭について交互に語ってもらっています。今回はryuchellさんに、最近、息子と過ごした出来事について話を聞きました。 *  *  *  少し前ですが、息子とサンリオピューロランドに行ってきました。息子はポムポムプリンが好きで、私もキティちゃんが好きなんです。  とても盛り上がったのは、歌舞伎とキティちゃんがコラボしたミュージカル(KAWAII KABUKI ~ハローキティ一座の桃太郎~)です。息子はかわいいけど、格好いいというのが好きなんですね。いいところで観たかったので、早く席を取りに行って、前の席で観ることができました。  実は、このミュージカルはもうすでに4、5回くらい見ています(笑) パフォーマンスがとてもすばらしいんです。ダンサーは格好よくて、華やか。キティちゃんやポムポムプリンたちが出てきて、歌舞伎のメイクや着物の姿ですが、かわいらしさもあります。それで鬼退治をするんです。  その他にも、キティちゃんが作ってくれるポップコーンを食べたり、アトラクションに乗ったり、かわいいランチを食べたりと、大満足でした。  サンリオには行く度に、お土産を買っています。大きなお人形とかは家にあるので、「今回はちっちゃいのだよ」と約束したら、ポムポムプリンのついたキーホルダーを持ってきました。とてもかわいかったです。  一緒にお出かけして、改めて息子もだいぶ成長したなと感じることがいくつもありました。  サンリオには電車で行きましたが、最近はどこにいくにも、「抱っこして」とは言わなくなりました。手はつないで一緒に歩いています。抱っこしなくなった分、外出がとても楽になりました。  電車でサンリオに行くと、次第に窓から見える風景が自然いっぱいな感じに変わるんですよね。「お山が見えてきた!」とか窓から見える外の風景について共有して楽しめる年齢になってきました。  私は電車には普段あまり乗らないので、乗り換えを間違えてしまって。それで乗り換えたら、また間違って……。そしたら、息子も優しくて「大丈夫だよー」ってフォローしてくれました。イヤイヤ期もありましたが、頼れるお兄ちゃんになっているんだなと感じました。  最近は、息子と一緒にカラオケにも行きました。息子はカラオケで歌うのも大好きです。  歌うのは、NHKの「おかあさんといっしょ」に出てくるような子どもの曲です。息子が選曲して歌っています。私が好きな曲とかは歌わないです。それはもうちょっと大きくなってからかなと思っています。  カラオケは子どもが喜ぶようなものが多くあって、いいですね。  デンモク(選曲・予約する通信機器)の機能に、お絵かきできるものがあって、息子はそこで恐竜とか、キティちゃんの絵を描いていました。3時くらいにいったので、おやつにスイーツも食べました。キッズルームもあるカラオケ店で、滑り台とかつみ木で遊びました。2時間くらい満喫しました。  息子は肩車が大好きなので、家でよく肩車をして、歩き回っています。身長も大きくなって、体重も重くなってきているので、最近は重くなってきたなぁと思います。まだしばらくはできると思いますが、そのうち難しくなるんですね。できるときまで肩車したいと思います。  私のSNSでは紹介できていませんが、息子との時間も大切に過ごしています。一緒にいると予想外のハプニングも起こりますが、「あぁ、どうしよう」と思うよりも、「なんくるないさー」(なんとかなるさ)の精神で子育てしています。 (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も

     育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 *   *   * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」  そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。  読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする>  インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言  この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」  この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。  電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」  丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」  三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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    天龍さんが語る“プレゼント” ジャイアント馬場からの贈り物はまさかの「年金」! 

     9月に「環軸椎亜脱臼(かんじくつい あだっきゅう)に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」であるということがわかり、現在は入院してリハビリ中の天龍源一郎さん。今回は入院先から主治医の許可をもらいながら、プレゼントにまつわる思い出を語ってもらいました。 * * *  プレゼントと言っても、俺は相撲時代、スポンサーやタニマチにいい顔をしていなかったから、ほかの力士と違って、たいしてプレゼントをもらってないんだよ。  そんな中で、相撲時代にもらったものといえば、化粧まわしに尽きるね。前にも話したことがあると思うが、俺の場合は21歳のときに十両に上がったその場所で、地元・福井の後援会の人達が手配してくれたんだ。  ところが、化粧まわしの代金の支払いが遅れていたらしく、場所が始まっても肝心の化粧まわしがなかなか届かなかったんだ。「代金は自腹で払うしかないのか……」と100~200万円の金の算段をし始めた  13日目にようやく届いてね。そのときは嬉しかったよ! 初めての化粧まわしは、四股名にちなんで登り龍がデザインだ。まあ、当時も“龍”がつく四股名の力士は俺以外にも多かったから、インパクトはそんなに無かったけど(笑)。それ以降もいくつか化粧まわしを作ってもらったけど、デザインはだいたい登り龍だね。  化粧まわしは、引退後は作ってくれた人にお返ししたり、誰かにプレゼントしたりした。俺だけじゃなく、化粧まわしは作ってくれた人にお返しすることは多いんだ。それでもいくつかは倉庫にしまっていたり、少しは手元に残っているものもある。廃業してちゃんこ屋をやっている人とか、自分の店に飾ったりしているだろう。俺も寿司屋をやっていた頃は店に飾っていたよ。やっぱり、普通の人からしたら珍しいから、お客さんも喜んでいたね。  全日本プロレスに入って、最初にジャイアント馬場さんからもらったのは、馬場さんが着なくなった服なんだけど、俺でもサイズが大きくて、どうしようもなかったね(笑)。  そんな馬場さんからのプレゼントで大切にしているのは、モノではなくプロレスラーとしての姿勢を教えられたことだ。直接「プロレスラーとはこうあるべき」というものではなく、馬場さんの何気ない仕草や態度を見て覚えたもんだよ。  例えば、飯を食うときも常にファンに見られていることを意識して、立ち食いそばなんか食べない。ホテルに行ったらレストランできちんとしたものを食べる、ケチらないということだったり。俺も相撲上がりだから馬場さんの考えはカッコいいなと思ってマネするようにしたんだ。だから俺は引退するまでファミレスやコンビニに全くといっていいほど行ったことはない。  実際に行ってみるとファミレスもコンビニもなかなかいいところだし、コンビニのホットスナックは美味しいよね(笑)。馬場さんは「プロレスラーとしてこうしろ」と口うるさく言わないタイプだから、周りのレスラーはそんなことしていなかったけど、威厳を落とさないという姿勢は馬場さんからもらった大切なもののひとつだ。  馬場さんはニューヨークでトップを取ったから、アメリカナイズされていることを匂わせていたと思う。「俺は田舎じゃなくてニューヨークでメインを取っていた」という雰囲気をプンプンさせていたよ。アメリカ時代に培ったトップとしての振る舞い方をしていたね。  そんな馬場さんからもらったもので、一番なのが「年金」なんだ。全日本プロレスのレスラーは俺も含めてみんな知らなかったのだが、実は所属している期間、馬場さんは会社としてみんなの厚生年金を払っていてくれていたんだ。当時は年金のことなんて全然考えていなかったし、そもそも個人事業主としての契約だと思っていたから、そんなことをしているとはまったく思わなかったよ。  俺もほかのレスラーも年金をもらう歳になって初めて気が付くんだ。今でも数万円の年金が入り続けていて、本当にありがたいことだよ。グレート小鹿ともこの年金のことで話をしたことがあって、そのとき小鹿は「そうなるまでいろいろあったんだよ……」となんだか含みを持たせた言い方をしていたが。俺はどんなことがあったのか知る由もないが、今となっては年金が馬場さんからの一番のプレゼントだ。  俺がプレゼントをもらった相手は、昨年亡くなった妻のまき代がやっぱり多いし、印象的なものもすべて彼女からのものだ。思い出深いプレゼントはいくつかあって、ひとつは、まき代が「駐車場まで来て」と言うから行ってみたら、ベンツの300クーペが置いてあったこと。これはさすがにびっくりしたよ。  当時は国産の車に乗っていたんだけど、ジャンボ鶴田がベンツに乗っていたのを見て、プロレスラーとしてはこれくらいのクラスの車に乗らないと、恰好がつかないと考えたんじゃないかな。SWS時代は同じように「駐車場まで来て」と言われて行ってみたら、ベンツ560SECが停まっていたこともあったね。まき代からのプレゼントはいつもサプライズで、彼女は本当に人を驚かせるのが好きなんだ。  車以外で印象的だったのは腕時計。俺がいつも「馬場さんがプラチナのロレックスをしていてさぁ」なんて、ことあるごとにまき代に話していてら、誕生日に「はい、これ」って同じ時計をプレゼントしてくれたこともあった。  馬場さんが買った当時は1000万円くらいしたようだから、かなり高価だよ。本当は1000万円もする腕時計をはめる必要なんてないのに、さすが「天龍源一郎を一等賞にする」と公言した女房だ。そのロレックスも寿司屋の経営が悪くなって手放しちゃったけど、もったいないとは思わなかった。それでまき代の負担が少しでも楽になるといいなという気持ちが強かったからね。  だから、俺がもらった一番のプレゼントはまき代が俺の嫁になってくれたこと。それが最高のプレゼントだ。結婚当初は俺もやんちゃでいい加減だったけど、それでもずっと家庭を守ってくれて、子どもを育ててくれて、本当に俺は幸せだったと思う。まき代の男前さには誰も勝てないよ。  彼女のそんな姿を見ていたからか、娘の紋奈が一度もプロレスラー天龍源一郎のことを嫌うことがなかったことも嬉しいし、俺にとっての大切なプレゼントでもある。紋奈が小学生のころは「プロレスなんて八百長だ」とか、よくイジメられていたんだけど、イジメられても一人で怒って立ち向かっていたんだって。  娘のそんな姿を見ると俺も勇気づけられるし、プロレスなんて八百長といってしまえばそうかもしれないが、娘を見ていると、それ以上のものがプロレスにはあって、彼女たちにも大きな影響を与えてくれているんじゃないかと思うんだ。家族は俺にとっての最高のプレゼント。皆さんもにもそれぞれ思い出のプレゼントがあると思うけど、大切にしてください! (構成・高橋ダイスケ) 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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    22時間前

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    日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」

     3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」  投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」  岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」  松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」  年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」  高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇  命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。  刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」  昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」  それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」  現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」  しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    身長147センチの妻に憧れを抱く俳優・佐藤二朗 死体役で「邪魔」と言われる存在感

     個性派俳優・佐藤二朗さんが日々の生活や仕事で感じているジローイズムをお届けします。今回は小さいものへの憧れについて。 *  *  *昔、舞台で死体をやりまして。 正確には、斬られて絶命し、暗転までその場で倒れておりました。 その時の演出家にこう言われました。 「うーん、二朗ね、邪魔。なぁんか、邪魔。二朗がそこに倒れてるとね、なぁんか邪魔」 邪魔と言われましても、そこで斬られて絶命し、その場に倒れこむ、という演出だから仕方ないわけですが、要するに、なんでしょうね、体積? 僕の体の、体積みたいなものが大きくて、他の人より邪魔に感じる、みたいなことだったと思います。なんか、大きな鯨(くじら)がデーンと、ドデーンと、そこに横たわってるようだと。 そうなんです。僕、すべてにおいて大きいんです。 まずは顔。肩の高さは僕の方が低いのに、顔の大きさにより身長では逆転する、という怪奇現象(?)も度々あるほどです。そんな大顔面にも関わらず、ある朝、「うわっビックリした! 君、目、細いね」と妻に驚かれるような目細なものですから、そら壁のような顔になるわけです。そしてなぜに妻が唐突にその朝ビックリしたかはいまだに謎です。 さらに手。たとえば僕の小指は、平均的な女性の中指より長い。そう言いながら何人かの女優さんの手を握ることに成功しております(あの、冗談ですからね。あ、でも指の長さは冗談ではなく、本当にそれくらい手が大きいのです)。 さらに言わずと知れた、足。僕の足の大きさは31センチ(メーカーによって多少は前後します)。僕の靴は、靴というより、ほぼ小舟。 かようにいろいろ大きい理由として思い当たるのはやはり、生まれた時の体重です。僕、4250グラムだったんです。母親もさぞ苦労して生んだことでしょう。母親いわく、その時の看護師さんが「お肉ちゃん」と言っていたそうです。 看護師さんも失礼なことを言うもんだと思いましたが、生まれたばかりの自分の写真を見ると、やはり「お肉ちゃん」です。むしろ「お肉ちゃん」以外の言葉が思いつかないほどに「お肉ちゃん」です。 その「お肉ちゃん」のお肉が、主に体の末端に行ったんでしょうね。顔、手、足。バランス的におかしいくらい、とにかく大きいんです。 人間、自分にないものに憧れを抱くという傾向は多かれ少なかれあるような気がしていますが、ご多分に漏れず、すべてが大きい僕は、逆に小さいものに憧れます。 たとえば酒の肴も、大皿料理にはあまり惹かれず、旅館の料理のような小さい盛りつけの方が断然好きだったりします。 あと、麺類も、太麺より細麺の方が好き。ラーメンはもちろん、焼きそばだってスパゲティーだって細麺が好き。ビーフンとか大好き。うどんより蕎麦が好き。あと、ソーメンとか大好き。 さらに、「君が役に立つのは、高いところにある物を取ることだけ」と言い放つ我が妻の身長は、147センチ。その小さい体を存分に生かし、人混みをスルスルとかいくぐり、僕の3倍くらいのスピードで闊歩する妻にはやはり憧れに近い感情を抱きます。 ここまで書いて、今回のコラムのオチが思いつかないので妻に相談したら、「君にも小さいものがあるじゃん」。 なんだろ?と思って、妻に聞いてみました。「俺の小さいところなんてある?」。 妻、ニヤリと笑い、 「気。あと、器」。 しょぼぼん。

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    13時間前

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    「立憲は大変な候補者出してきた」山口4区に有田氏参戦 安倍昭恵氏「主人の遺志継ぐ人を」

     衆参5補欠選挙が、4月11日に告示される。昨年7月、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、空席となった衆院・山口4区に、前参院議員の有田芳生氏(71)が立憲民主党から立候補することを表明した。当初は、安倍元首相の「弔い選挙」で“無風”と見られていたが、有田氏の立候補表明で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が争点になりそうだ。  安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の霊感商法や献金問題がクローズアップされたのを受け、昨年末の臨時国会で不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が成立した。世論の盛り上がりも一時に比べ、落ち着きを見せてきたなかでの補欠選挙。  自民党は山口4区で、安倍元首相の後援会が推す前下関市議の吉田真次氏(38)を公認すると2月10日に発表した。吉田氏は、安倍元首相が使っていた場所で事務所開きをし、「安倍元総理の思いをしっかり引き継いでいく」と安倍元首相の後継であることを強く訴えた。安倍元首相の妻・昭恵さんも知名度を生かし、吉田氏とミニ集会にも参加。「主人の遺志を継いでくれる吉田氏を応援してほしい」と訴えているようだ。  吉田氏の公認が発表された以降も、野党は山口4区の公認候補がなかなか決まらない状況が続き、当初は“無風”との見方が強かったが、有田氏の立候補表明で局面が変わった。  自民党としては、沈静下していた旧統一教会の問題が蒸し返され、争点になるのは避けたい算段だったようだが、有田氏は出馬表明の会見で「旧統一教会と安倍元首相の長期政権の審判が争点」などと強調した。  自民党の山口県連のある幹部は、「立憲民主党は大変な候補者を出してきた、というのが正直なところ」と語った。  有田氏は、フリーのジャーナリストとして約40年も前から旧統一教会問題を追及し、昨年7月まで参院議員を2期務めた。  立憲民主党の大串博志・選対委員長は、 「昨年夏に参院選が終わり、しばらく国政選挙はないと見られていたなかで、補選が衆参で計五つもある。野党としてなんとか一矢報いたい。とりわけ安倍元首相の地元、山口4区は保守王国ということもあり、候補者を探したけど手を挙げる人がいない。そうした状況のなか、1月末に私が直接有田氏に『旧統一教会問題を訴えるには最高の場ではないか』と出馬をお願いし、決断していただいた」  と党本部主導の擁立だったと明かした。  さらに、自民党にとって山口4区は、野党との戦いとは別に党内の派閥争いもはらんでいる。  山口4区で有権者が多いのは、人口25万人ほどの下関市だ。安倍元首相の地盤だったが、林芳正外相も下関市が「おひざ元」と公言してはばからない。  中選挙区制の時代は、安倍元首相の父、安倍晋太郎元外相と林外相の父、林義郎元蔵相(現・財務相)が激しく争った。  その流れを顕著に表すのが下関市議会だ。自民党会派は「安倍派」といわれる「創世下関」と、「林派」といわれる「みらい下関」という大きな勢力に分かれている。  今年2月の市議選で、安倍派は9人から6人に減ったが、林派は12人から13人に増えた。山口県は次の総選挙では小選挙区の区割り変更「10増10減」で四つの小選挙区が三つになる。  山口4区は山口3区と一体となるような区割りとされ、外相という要職を務める林氏が新山口3区の候補者として有力視されている。  ただ、今回の補欠選挙は「10増10減」の対象にならず、現行のままなので吉田氏が公認となる複雑な状況だ。 「勢いの差というのか、下関市議選では林派が台頭し、親分の安倍元首相を失った安倍派は後退という結果に。その後、林派が議長選でも勝利した。しかし、吉田氏が圧勝すれば、新山口3区に出たいと言ってくるのは間違いない。新山口3区にほぼ内定している林氏としては面白くないでしょう。統一地方選と同じタイミングでの補選だけど、林派はあまり力が入っていない。安倍派も親分がいないので、まとまりに欠ける。そこに有田氏という知名度がある候補者が来たので、選挙戦は楽勝ムードが一転して混沌(こんとん)としている」(前出・自民党山口県連幹部)  2月26日の自民党の党大会で、岸田文雄首相は総裁として、 「補欠選挙は今後の国政に大きな影響を与えるかもしれない、大変重要な選挙。なんとしても自民党の議席を守り抜いていこう」  などと力説した。  支持率低迷にあえぐ岸田政権にとって、補欠選挙はどの選挙区も落とすわけにはいかないが、野党が強い地盤といわれる参院・大分選挙区や、政治とカネの問題で薗浦健太郎氏が辞職した衆院・千葉5区については、厳しい見方をする自民党幹部もいる。 「大分と千葉は厳しい戦いになるでしょう。残る三つをとらなければ、岸田政権の存亡にかかわります。しかし和歌山1区も維新が候補者を擁立したので激しい争いになります。もし負け越しとなれば、岸田降ろしの序章となりかねません。岸田首相が前倒しで救済新法を成立させて沈静化したのに、山口4区に有田氏が出馬することで再び旧統一教会問題がクローズアップされ、政局になる危険性もはらんでいます。それが起爆剤になって、旧統一教会問題がまた広がって大騒ぎになり、統一地方選でも結果が出なければ、岸田政権が瀬戸際に追い込まれかねません」  と険しい表情だ。有田氏は、 「(自身の出馬で)選挙が面白くなってきたでしょう。旧統一教会問題は救済新法ができたといってもまだ終わったわけじゃない。山口4区で旧統一教会問題を語ることがタブーともされています。しかし私は旧統一教会問題を争点に掲げて、積極的に訴えていきます」  山口4区には、吉田、有田両氏のほか、政治家女子48党幹事長の黒川敦彦氏(44)も立候補を表明している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも

    日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 *  *  * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。  厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」  昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同)  脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意  心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。  脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」  高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師)  また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を  井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師)  また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。  日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。  一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より

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    男子校、女子校の人気が回復した中学受験 付属校人気は一服か、増減まだら模様【中学受験2023】

     2023年は、男子校は難関から中堅まで、まんべんなく志願者数を伸ばして厳しい戦いになりました。伝統のある女子校も、相変わらず人気に。活況の埼玉を牽引する栄東(さいたま市)は、今年で、10年続けて志願者が1万人を突破しました。一方で、付属校は人気が一服し、隔年現象が見受けられて増減はまだら模様になりました。(※志願者の数値は、首都圏模試センターによる2月11日時点の集計による) * * *  今年の注目校を、東京から見てみよう。増加率トップは日本学園(東京都世田谷区)で、233人から1322人に増加。実に6倍近くに達した。2026年から明治大学の系列校になり、およそ7割が推薦入試によって進学できるとされていることから、受験生や保護者の好感を呼んだ。明治大学の系列化とともに、校名を「明治大学付属世田谷」と変更し共学になる。 「日本学園は探究型のプログラムがしっかりしており、京王線の明大前駅至近に立地するわりに緑が多く環境も良い。明治大学の系列化をきっかけに興味を持った保護者が、同校の良さを認識したのではないでしょうか」(サピックス教育情報センター本部長の広野雅明さん) ■男子校は志願者数増の傾向 「東京の男子校は日本学園が大幅に伸びて目立ちましたが、実は難関校から中堅校までほとんどの学校が増やしています」(安田教育研究所代表の安田理さん)  足立学園(北区)は589人から1612人と3倍近く増加。本郷(豊島区)は2231人から2590人、高輪(港区)は1653人から1974人と多くが前年以上の志願者を集め、男子校は厳しい戦いとなった。今年は、例年多くの志願者を集める人気の男子校、東京都市大学付属(世田谷区)が入試日程を大きく変更した。昨年まで行っていなかった2月1日の午前入試に参入し、2日の日程を廃止。攻玉社(目黒区)、世田谷学園(世田谷区)、本郷、巣鴨(豊島区)などに影響を与えた模様だ。  女子校で目立ったのは、法政大学との提携を拡充した三輪田学園(千代田区)。志願者数を1180人から1685人と、大きく伸ばした。法政大学に30人の推薦枠を設けるとともに、法政大学の全学共通科目の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(MDAP)」を、ウェブで受講できるようになったことも支持された要因か。  ここ数年、目覚ましい勢いを見せる山脇学園(港区)は2990人から3074人に、田園調布学園(世田谷区)も1147人から1417人に伸びた。 「女子のトップ校は、進学志向が理工系にうつっていますが、それが中堅校にも及んできました。今回志願者を増やした山脇学園はデータサイエンスを中心にSTEAM教育を充実させています。田園調布学園も探究学習のプログラムが充実しており、理系に進む生徒も多い」(安田さん) ■女子校はコロナ禍でのきめ細かいケアが高評価  昨年に続き、女子の伝統校も人気だ。 「コロナ禍で学校見学ができないから伝統校なら安心、というのが昨年の理由でしたが、今年は保護者や受験生が、伝統校の良さを改めて見なおしたと感じます」(声の教育社常務取締役・後藤和浩さん)  十文字(豊島区)は849人から1090人、香蘭女学校(品川区)は1040人から1181人に増加、さらに京華女子(文京区)は451人から738人、中村(江東区)は539人から706人、玉川聖学院(世田谷区)は563人から710人と、中堅校も増加した。  首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成さんは、「女子校はコロナ禍にあって、授業だけでなくメンタル面でもきめ細かくケアしてくれた。それが評価されたのも理由のひとつ」と分析している。  森上教育研究所アソシエイトの高橋真実さんは、女子校の広報戦略をあげる。 「コロナ禍もあって、少人数の学校見学会を数多く実施しましたが、それが保護者に『説明会や個別相談よりも話しやすい』と、評判が良かった。また女子校の特徴は、SNSをフルに活用して発信をしていること。たとえば山脇学園では生徒がインスタの素材を提供したり、清泉女学院(神奈川県鎌倉市)ではライン登録した受験生に在校生が応援メッセージを送ったりしています。PR動画を生徒が作っている学校もありますが、とてもセンスが良い。こういう生徒による取り組みは、先生と生徒の仲の良さも感じさせます」  神奈川を見てみよう。受験者動向について後藤さんは「都内志向が強まっており、意外と神奈川のほうが合格をとりやすかったようだ」と、分析する。  そのようななかで、注目は湘南白百合学園(藤沢市)。志願者を536人から822人と大きく伸ばした。 「もともと教育内容がしっかりしており、入試改革も成功している。それをSNSなどでまめに発信し、学校を可視化していることが人気につながりました」(北さん)  横浜創英(横浜市)は工藤勇一校長が赴任して以来、サイエンスコースを開設するなど改革が奏功し、917人から1156人に伸びた。  千葉、埼玉は全体的に好調。高橋さんは「東京に出ずに、県内で完結する受験生も増えたようだ。やはり県内各校の進学実績が上がってきたのが大きい」と、読む。  千葉は新設の流通経済大学付属柏(柏市)が、784人の志願者を集めた。つくばエクスプレスの沿線住民が増えるなかで子どもの数が増加し、志願者増につながったようだ。さらに昭和学院(市川市)が1000人から1274人に増加した。  埼玉では、栄東(さいたま市)の勢いが止まらない。志願者が1万1017人から1万3792人に増加し、今年で10年連続して1万人を超えた。「栄東は入試問題の質が高く大勢の合格者を出すことから力試しで受験する人も多かったのですが、いまはもうお試しの学校ではなくなってきています。魅力ある学校で、進学希望での受験生も増えています」(後藤さん)。姉妹校の埼玉栄(さいたま市)も好調だ。 ■付属校は志願者数減の傾向  一方で大学付属校は一時期の勢いが落ちつき、学校によって増減がわかれた。早慶の付属校では唯一、新校舎を建築中の早稲田(東京都新宿区)が増加。早慶のほかの系列校は減少に転じた。偏差値が上がり敬遠された模様だ。  MARCH(明治・青山・立教・中央・法政)は立教系列と一部が増加したものの、ほとんどが減少に転じた。 「理系志向が強まっているなかで、MARCHはいずれも文系のイメージが強い。成績上位者が理系に強い私大の付属校や国立に流れたのでは」(安田さん)  昨年人気だった日東駒専(日本大学、東洋大学、駒沢大学、専修大学)も、学校によってまだら模様に。ここ数年、勢いのあった日本大学豊山(東京都文京区)は、2678人から2373人に減少した。 「志願者は減りましたが、以前と比べてレベルは上がり受験層も変化しています」(後藤さん)   24年は埼玉県所沢市に開智所沢中等教育学校が開校する。 「中学受験生が少ないエリアなので、掘り起こしにつながるのではないか」(北さん)  また香蘭女学校(東京都品川区)が2科入試を廃止し4科入試に絞るなど、すでに動きが始まっている。志望校のHPなどをマメにチェックし、最新の情報を入手して臨もう。  (柿崎明子)

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    謎に包まれた平成の人気女優「加藤あい」 40歳でも変わらぬ美貌で世間が騒然

     女優の加藤あい(40)が久々に話題となっている。加藤は美容誌「美ST」3月号のメークページにモデルとして登場すると、同じ写真がウェブメディア「magacol」にも掲載。すると、SNSでは「久しぶりに見たけどめっちゃキレイ」など、その変わらぬ美貌を称賛するコメントが相次いだ。  1990年代後半から2000年代にかけて数々のドラマや映画に出演し、人気女優となった加藤。「海猿」シリーズ(04~12年)では主人公の恋人、そして妻となっていく環菜役を好演。遠距離恋愛の切なさや、危険な仕事に携わる夫を持つ妻の心の葛藤などを見事に演じ、作品を支える存在感をみせた。同作は映画4本、テレビドラマ1作が制作される人気シリーズとなった。 「00年には長瀬智也さんが主演、宮藤官九郎さんが脚本を手がけ、今や伝説のドラマと呼ばれる『池袋ウエストゲートパーク』に出演。長瀬さんの恋人役で、解離性同一性障害に悩む女性という難しい役を見事に演じました。同ドラマは、今年1月からはネットフリックスで配信され、若者に再び注目を浴びています。また加藤さんはデビュー直後からCM出演も相次ぎ、CM女王と呼ばれていた時期も。ピュアでクリーンなイメージで、大企業はこぞって起用。NTTドコモのCMでは約8年にわたり、イメージキャラクターを務めました。彼女の評価がいかに高かったかを物語っています」(テレビ情報誌の編集者)  01年、高校卒業後に大学へ進学した後も、女優と学業を両立させストレートで卒業。その後は、女性誌でイメージを覆すような大胆なセミヌードにも挑戦して、ファンを驚かせたこともあった。 「当時、細くしなやかな加藤さんのスタイルに憧れを持つ女性も多かったはずです。『FRaU』(13年3月号)では、『“本当にこのようなカラダをみなさんにお見せしていいものか”と、すごく悩みました』といった迷いを吐露しており、彼女の控えめな人柄も垣間見えました。同誌でのセミヌード発表から数カ月後、7歳年上の男性との結婚を発表しました。加藤さんが語学留学していた米ニューヨークに、たまたま仕事で来ていた彼と、深く話す時間が多くなったことで一気に距離が縮まったそうです。彼の印象については『居心地がよくて、かわいいクマさんみたいな方です』と当時の取材に答えています。その後、2015年に第1子、2018年に第2子を出産。結婚・出産後は一気に露出が減ったので引退説もささやかれていましたが、第2子出産時に『育児が落ち着いたら順次仕事を再開』と発表があったので、女優業を続ける意思はあったようです」(同) ■女性誌に「第3子」の文字が  女優としての活動は17年に放送された相葉雅紀主演ドラマ「貴族探偵」(フジテレビ系)へのゲスト出演が最後となっている加藤。19~20年には、製薬会社のシミ対策医薬品のCMにも出演したこともあるが、21年には約10年間所属した事務所を退所。その後は、福岡に本社があるスキンケア商品のイメージキャラクターを務めているが、まだまだ本格復帰にはいたっていない。 「夫は日本とアメリカを拠点にしている会社役員だと報じられました。また加藤自身の実家も裕福でお嬢様育ち。仕事をしなくても相応の生活レベルを維持できるのでしょう。最近では21年に女性週刊誌がスーパーでの買い物後の姿をキャッチしています。メガネをかけ、少し疲れた表情で高級ブランド・エルメスのバーキンに食材を無造作に突っ込み、入りきらなかった牛乳パックを手に持って歩く写真が掲載されました。忙しい子育て女性の“ガサツさ”が逆に好感を得たようで、SNSでは『バーキンの使い方がかっこよすぎる』『意地でもレジ袋を買わないのがいい』などと好意的な意見があがっていました」(女性週刊誌の記者)  加藤はSNSも一切やっておらず、私生活は謎に包まれている。だが、3月発売のファッション誌「VERY NaVY」(4月号)には「現在は三人の子育てを優先」と書かれていた。未公表だが、第3子を出産していたのかもしれない。  芸能評論家の三杉武氏は、加藤の今後についてこう予測する。 「インタビュー記事などでのご本人の発言からみても、今はやはり家庭優先で芸能界とはある程度距離を置いているのでしょう。SNSでの発信すらしていないあたりにも、強い意思が感じられます。中学生のころからモデルとして活動しているので、年齢のわりに芸能界でのキャリアは長く、かつて輝かしい活躍をみせたからこそ、かえってスッパリと芸能界から離れることに迷いがなかったのかもしれません。とはいえ、人気女優として一時代を築いた方ですし、仕事のオファーもあるので、今後も家庭に影響のない範囲で、美容やファッション関連の仕事で露出はあるでしょう。子育てが一段落すれば芸能活動を活発化させる可能性もあります」  母となった加藤の新境地を見たいと思う人は多いはずだ。本格復帰に期待したい。 (高梨歩)

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    18時間前

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    佳子さま お引っ越し3月末の「期限」まで数日 「きちんと説明し、堂々とお使いになればいい」と専門家

     活躍の目覚ましい秋篠宮ご一家。注目度が高いだけに、ご一家の一挙手一投足に視線が注がれる。佳子さまの「お引っ越し問題」もその一つだ。宮内庁サイドは、引っ越しのめどについて今年度中としているが、はたして――。 *  *  *  赤坂御用地にある秋篠宮本邸は、2022年9月30日に改修工事を終えた。プライベートな生活の場である私室部分の荷物も徐々に運び出され、秋篠宮ご夫妻と悠仁さまの生活や公務での活動も、新居に移っているという。  ご一家の引っ越し状況について宮内庁に問い合わせても、 「改修後の御本邸並びに御仮寓所(ごかぐうしょ)の私室部分の具体的な使われ方については、私的な事柄であることから、お答えは控えます」  との返答のみだ。  御仮寓所とは、秋篠宮本邸の改修工事の間に暮らしていた仮の住まい。19年2月から秋篠宮ご一家が使われていた。  しかし、依然として佳子さまの引っ越しは終わっていないと見られている。  この改修工事自体、秋篠宮さまは、国民への負担を思い、長年断り続けた末の工事だった。築50年となる旧秩父宮邸を利用した秋篠宮邸(00年に増築)は老朽化が進んでいた。眞子さんと佳子さま、悠仁さまも成長し、住居部分も手狭になった。見かねた宮内庁が増築を伴う改修を打診しても秋篠宮さまは、 「やめておきましょう」  と断り続けてきたのだ。  しかし、ここにきて佳子さまの「引っ越し問題」が注目を集めてしまった。  騒ぎが大きくなった背景には、宮内庁側の説明に一貫性がないこと。そして、秋篠宮家から、きちんとした説明がないことだ。  秋篠宮邸が改修工事に入ると宮内庁が発表したのは、19年2月のこと。その際は、本邸の改修工事が終わった後に、仮住まいの御仮寓所が私室部分にも使用されるとは、ひと言も触れていない。各紙の報道にも、 「ご一家が宮邸に戻った後は、事務所と収蔵庫として使用される」  と、しっかりと記載されている。  宮内庁サイドが御仮寓所を「私室としても使う」と漏らしたのは、改修工事を終えた22年秋の報道陣への公開時だった。「御仮寓所を分室とし、私室も残る」と説明したのだ。  その後、秋篠宮ご夫妻と悠仁さまが改修を終えた秋篠宮邸で生活を始めても、佳子さまの御仮寓所での“分室暮らし”は続いていると見られる。  宮内庁も秋篠宮家も私生活であることを理由に、一切の説明をしない。しかし、めどといわれている「今年度中」があとわずかになっても、佳子さまが「引っ越しを終えた」という話は、いまだ聞こえてこない。  人間がひとり、別の建物で生活を続ければ、食事の世話に始まり、衣類の洗濯、部屋にとどまらずお風呂やトイレなど使用部分の掃除を行う人手も必要になる。食事を新宮邸で作っていたとしても、「分室」に運ぶ手間も必要だ。  秋篠宮さまが、「国民の負担になる」と改修工事を断り続けたのは、その費用も源流は税金だと認識しているからに他ならない。  元宮内庁職員で皇室解説者の山下晋司さんは、こう話す。 「御仮寓所を佳子内親王殿下が引き続き使わなければいけないなら、当初の方針と違うわけですから、その理由をきちんと説明すべきです。社会情勢を鑑みるなどして、これまで改修をしてこなかったというのはご立派ですが、様々な方針変更に関しては、その理由がわかりません。これでは、臆測が生まれるのも当然で、国民の不信感も募ることになります」  皇族方のプライベートは、もちろん守られるべきだ。私生活に制約をかけられ、人生の多くを「公」に捧げてきた方々だ。生活のすべての原資が「税金である」などと追い詰めるべきではない。  しかし、説明のある部分とない部分の境界があいまいであれば、当惑が生じてしまう。山下さんは、こうも言う。 「秋篠宮同妃両殿下や長女の眞子さん、佳子内親王殿下は、平成の時代から多くの公務を担い、天皇を支えてこられました。このようなことで、臆測に基づいた批判が出てくるのは残念です。公私に関わらず、秋篠宮家にとって必要なら、宮内庁は国民に対してきちんと説明し、ご一家には宮邸の施設を堂々と使っていただきたい。批判を恐れて説明をしないと臆測を呼び、また批判に繋がるという悪循環になります」 (AERA dot.編集部・永井貴子)

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    21時間前

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔

     対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 *  *  * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。  でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」  快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。  この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。  お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」  なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」  と。願ってもない話だった。  なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。  挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。  大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」  原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」  と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔  私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」  と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。  連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」  というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。  16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」  とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。  私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」  と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。  古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」  私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    脳梗塞の疑いで救急車を呼ぶとき家族が準備すべき「3つ」のものとは? おくすり手帳、診察券、あと1つは

    脳の血管が詰まる脳梗塞。薬で血栓を溶かすt−PA治療や、カテーテルで血栓を除去する血栓回収療法など治療法は進歩している。ただし、できる治療は発症後の時間により異なり、有効な治療を受けるには「時間との勝負」となる。 *  *  *  脳梗塞は、血管の詰まり方により「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分けられる。からだの片方のまひやしびれ、ろれつが回らないなどの5大症状がみられたら、軽くてもすぐに救急車を呼ぶことが必要だ。その理由を、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は「症状が軽い=軽症とは限らないため」と話す。 「ちょっと言葉が出にくい、足が動かしにくいなど軽い症状の場合、小さい脳梗塞だからということもありますが、大きな血管が詰まりかけていて、前兆として軽い症状が起こっていることもあります。放置したことでその後、大きな症状が起こることも少なくありません」  家族に脳梗塞を疑う症状がみられて救急車を呼んだ場合、到着までに準備してほしいものとして、東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師は、(1)おくすり手帳(2)かかりつけ医療機関の診察券(3)発症時刻(症状に気づいた時間)のメモを挙げる。「昨日の夜寝るまでは元気で、今朝起きたら症状があった」という場合は、「前夜寝た時間」と「今朝起きた時間」でいいという。 「神経が障害される病気の多くは、治療しても発症前のように症状を完全になくすことは難しいのですが、脳梗塞は、早期に適切な治療をすることでかなり症状を改善できる数少ない病気といえます。ただし、そのためには一分一秒でも早く治療を開始することが必要で、この三つはその重要な情報となります。いざというときは慌ててしまうことも多いため、落ち着いて救急隊や医師に伝えてください」(井口医師) ■薬で血栓を溶かす治療法を検討  脳梗塞は、「発症後の時間」により治療法が異なる。そのため脳梗塞の疑いがある場合、病院到着後すぐに診察と検査をおこなう。検査ではとくに、脳の状態をみるMRI検査と、脳の血管をみるMRA検査が重要となる。 「MRIでは、起きたばかりの新しい脳梗塞だけを映し出す方法で、急性期の脳梗塞かどうかを調べます。血管が詰まりかけている、あるいは詰まったばかりで神経細胞が完全に壊死していない場合は、ダメージを最小限におさえるためすぐに血流を再開通させる治療を始めます」(森本医師)  急性期の脳梗塞の治療は、薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、器具で血栓を取り除く「血栓回収療法」が主となる。  血栓溶解療法では、組織型プラスミノゲン・アクティベーター(t−PA)という薬を点滴し、血栓を溶かす。ただし、この治療は発症から4・5時間以内に限られる。 「脳梗塞を起こして時間が経つと、その血管はダメージにより血管壁がもろくなります。t−PAで血栓が溶け、血管が再開通するともろくなった血管から出血するリスクがあるため、発症後4・5時間を過ぎたらt−PAは使用できません」(同)  また、以前は就寝中などに発症した発症時刻が不明の人には治療できなかったが、2019年に適応が拡大された。MRIでは、起こったばかりの変化を描出できる画像(DWI)と、描出するまでに3~6時間かかる画像(FLAIR)があり、DWIでは脳梗塞がみられるもののFLAIRではみられないというミスマッチが生じた場合、4・5時間以内に発症したと判断できる。 「発症時刻がわからない人でも、2種類のMRI画像で4・5時間以内かを判断した上で、血栓溶解療法ができるようになりました。これまで治療できなかった人が、t−PAにより救われる可能性が広がったといえます」(井口医師)  発症後4・5時間以上経過した場合や、出血しやすい病気があるなどの理由でt−PA治療ができない場合、血栓が大きく溶かしきれない場合は、血栓回収療法をおこなう。カテーテルを挿入して血栓を取り除く治療法で、専用の器具で血栓を絡めとる方法と、血栓を吸引する方法がある。この治療は原則として発症後24時間以内ならできるが、細い血管にカテーテルを通すため出血のリスクを伴う。技術を要する治療であり、実施できる病院は限られる。 「治療しなければほとんどの人が寝たきりになってしまうような閉塞でも、経験豊富な医師のいる病院であれば、この治療により血栓の約9割は回収できます。治療後早くからリハビリをすることで、そのうち半数の人は歩いて自宅に帰れるほど元気に回復します」(森本医師)  森本医師は、いざというときに備え「脳梗塞の治療に強い病院を調べておくと安心」と話す。血栓回収療法を実施しており症例数が多いこと、日本脳神経血管内治療学会の専門医が複数いること、厚生労働省の認定する脳卒中専門の集中治療室「SCU(Stroke Care Unit)」があることなど、病院のホームページで確認できることも多い。SCUには「24時間専門医が常勤」「患者3人に対し看護師1人以上を配置」などの認可基準がある。 「脳梗塞は症状の急激な変化が多い病気です。SCUでは手厚く患者さんをみることができ、神経症状の変化などにも素早く対応できる強みがあります」(同) ■ためらわずに一刻も早く救急車を  現在は、血栓回収療法を実施できる病院は都市部に集約されている傾向があるが、急性期脳卒中の診療体制を整えている地域や病院は増えていると井口医師は話す。 「救急車を呼んだ後のことを心配するより、早く救急車を呼ぶことが大事です。優れた治療法があっても、24時間以内に治療できるのは3割以下。時間オーバーで治療できないという事態を減らすためにも、まずは一刻も早く救急車を呼んでください」(井口医師) (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月31日号より

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    J2に“定着”してしまった元J1クラブは、今季こそ「沼」から抜け出せるのか

     J1と同時に開幕した2023年のJ2リーグ。今季も全22チームによるタフな戦いが予想されるが、例年と異なる点は3チームがJ1へ昇格できることにある(1位と2位が自動昇格、3位~6位はプレーオフを行い優勝チームが昇格)。J1昇格のチャンスが広がっている中、かつてはJ1の常連でありながらも、すっかりJ2に定着しているクラブは、今度こそ「J2の沼」から抜け出すことができるのだろうか。  J1経験クラブで、最も長く「沼」にハマり続けているのが、東京Vである。読売クラブを前身にJ発足直後はV川崎として黄金時代を謳歌したが、次第にチーム力が低下し、2005年に初のJ2降格。2008年にJ1復帰も1年で即降格となり、2009年以降はJ2暮らしが続いて今季で15年目。2017年、18年と2年連続でJ1昇格へのプレーオフに進んだことはあったが、昨季9位とJ2の中位が定位置となっている。だが今季、オフに佐藤凌我、ンドカ・ボニフェイス、馬場晴也、井出遥也の主力勢が“個人昇格”の形で移籍して戦力低下が心配されている中でも、開幕5試合を3勝1分1敗と戦前の予想を上回る好スタート。昨年6月に就任した城福浩監督の下、6連勝締めした昨季終盤のサッカーとチームの雰囲気を新シーズンにもうまく持ち込んでいる。  特徴は強固な守備。DFラインのビルドアップには課題を残すが、チーム全体の守備意識が高く、開幕5試合で1失点のみ。そして、アカデミー育ちの天才MF森田晃樹と横浜FCから完全移籍で加わった齋藤功佑の2人が、4-3-3システムのインサイドハーフの位置で高い技術を発揮。前線では、右ウイングのバスケス・バイロンが独特のリズムのドリブルで積極果敢に仕掛け、梶川諒太も存在感大。新加入のドイツ人FWマリオ・エンゲルスがまだフィットしていないが、第4節の藤枝戦では32歳の阪野豊史が機能して5対0の大勝を収めた。まだ始まったばかりだが、「期待してもいい」シーズンになりそうな気配を漂わせている。  同じくJ発足「オリジナル10」の一員である千葉もJ2暮らしが長く、今季で14年連続となる。なんといってもオシム監督時代の「人もボールも動くサッカー」が思い出されるが、2009年にJ1最下位となってクラブ初のJ2降格となって以降、J1参入プレーオフに計4度(2012~14年、17年)進んだが、1度もJ1復帰を果たせず。2020年からユン・ジョンファン監督の下で「再生」を図ったが、14位、8位、10位と結果が出ず、昨季までヘッドコーチを務めていた小林慶行氏を新監督に据えて新シーズンに臨んでいる。  戦力を見ると、田口泰士、見木友哉、新井一耀と軸となる選手を含めて主力の多くが残留。櫻川ソロモンをレンタルで放出した代わりにJ1でも実績のある呉屋大翔を獲得し、得点力不足解消への解決策を提示した。しかし、開幕戦で長崎相手に1対0の白星スタートを切ったのも束の間、第2節から山形(●1-3)、群馬(△2-2)、秋田(●0-1)、大分(●1-2)と攻守に精彩を欠いた苦しい戦いが続き、5試合を終えた時点で22チーム中19位(1勝1分3敗)。自分たちが主体となったアグレッシブなスタイルを標榜しているが、まだまだ時間がかかりそうだ。J1復帰を果たすためには、長いシーズンの中で「内容が悪くても勝つ」ことが必要であり、序盤戦でどれだけ我慢しながら勝ち点を拾っていけるか。最低でも4月中には建て直したい。  その千葉よりも近年、J2でも下位に低迷しているのが、大宮だ。1999年のJ2誕生初年度にJリーグに参入し、2005年からJ1で10年間、しぶとい戦いぶりで「残留力」を発揮し続けた。1度目のJ2降格の際は1年で即J1復帰を果たしたが、2度目に降格した2018年以降はJ2暮らしが続いて今季が6年目。気がかりなのが右肩下がりの順位で、2019年の3位から2020年15位、2021年16位、2022年19位と年々成績が下降している。昨季は一時J2最下位に沈むなど、クラブ史上最低といえるシーズンとなった。  状況を変えたい今季も戦前の期待値は高くなかった。昨季途中から指揮を執った相馬直樹監督の就任後の成績(6勝8分10敗)や明確な戦力アップを示せなかったオフの補強が理由で、その不安通りに開幕戦は山口相手に0対1の黒星スタート。だが、その後は金沢(○2-0)、熊本(●0-3)、磐田(○1-0)、栃木(●1-2)と安定感を欠きながらもホームではしっかりと勝利し、開幕5試合を2勝3敗で乗り切った。目立つのは、柏から加わったFWアンジェロッティ。24歳、左利きのブラジル人ストライカーは、2トップの一角として前線で起点になりながらピッチを幅広く動き回り、磐田戦で決勝のヘッド弾を決めると、続く栃木戦では左足ボレー弾。身長185センチと大柄ながら柔らかいボールタッチを披露し、チャンスメークからフィニッシュまで、あらゆる場面で“違い”を見せつつある。この男を新エースに据えて“勝てる形”が固まれば、連勝が可能となり、昇格争いにも加われるはずだ。  その他の主な「元J1クラブ」を見ると、2年ぶりのJ1復帰を目指す大分が開幕5試合を4勝1分0敗の好発進を決め、同じく今季こそJ1復帰を果たしたい仙台、さらに昨年の天皇杯で優勝した甲府が、ともに2勝2分1敗とまずまずのスタートを切った。その一方で今季、2016年以来となるJ2の戦いに挑む「本命」清水は5試合連続ドロー発進となり、同じくJ1からの降格組の磐田も1勝2分2敗と開幕から苦しんでいる。そして彼らを横目に首位に立ったのは、青森山田高校の総監督から異例のJクラブ指揮官となった黒田剛監督率いるJ1未経験の町田(4勝1分0敗、得失点差で大分を上回る)。さらに3位には、J3からJ2に昇格して3年目となる秋田(3勝2分0敗)がつけている。  まだ序盤戦で、今後しばらくは毎節のように順位が大きく変わることになるだろうが、不変なのはJ2での戦いが「簡単ではない」こと。そして、「沼にハマるとなかなか抜け出せない」ということ。実力が拮抗する中で相手の良さを消しにくるチームが多く、日程も過密で移動にも時間を要する。なにより、活躍した選手がJ1クラブに引き抜かれることでチーム力の積み上げが難しく、J2に長く停滞すればするほどチーム力が徐々に低下していく傾向にある点が「沼にハマる」大きな理由だろう。そこから抜け出すには相当な力がいる。まずは序盤戦で勢いを掴み、チームが目標に向けて一丸になること。混戦必至の中で、J1で実績のあるクラブには自分たちのプライドを取り戻す戦いをサポーターに見せてもらいたい。(文・三和直樹)

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    声の出しにくい当事者の代わりに前に出る ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代

     ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代。理不尽な誹謗やバッシングがおこるたび、斉加尚代は丁寧な調査報道でその答えをきっちりと示してきた。数々の賞を受賞した映画「教育と愛国」では、教育現場や真理を追究すべき学問が政治に侵食されていく危機を描く。これは「いま」の話である。メディアの役割として「分断された世界をつなぎ直す」ために、斉加は作品を通じて警鐘を鳴らす。 *  *  *  1948年の創刊以来、『現代用語の基礎知識』は辞典・事典であると同時に時代の流れを映す年鑑でもある。現在の編集長、大塚陽子は2023年版の巻頭の「2022年のキーパーソン10人」にゼレンスキー大統領、イーロン・マスクなどとともに斉加尚代(さいかひさよ・58)を選んだ理由をこう語った。 「ただ話題になっている人物というだけではなく、22年がどういう時代で、何を行った人物かという観点からの選定でした」  斉加は時代を映し、その上でジャーナリストとして、映画監督として、確として社会に伝えるべきものを持っている人物として選定された。  斉加が監督した映画「教育と愛国」は、現在の日本の教育現場が政治によって蹂躙(じゅうりん)されていく過程が、丁寧に掘り起こされた事実と証言で描かれている。かつて家永三郎(元東京教育大学教授)は「教科書検定は国家による検閲である」と裁判を起こしたが、今では、検定を通過した教科書も閣議決定によって変更されるという時代に突入している。教科書執筆者は検定過程において、具体的な根拠資料を求められるが、政府の見解は学術的な裏付けが無くとも逆に書くことを強いられるという。  大塚は言葉の世界に生き、語彙(ごい)の意味も本質も徹底的に調べあげて一冊にする編集者として、教育と学問が政治の侵食ですでに危険水域にあることに警鐘を鳴らした斉加の作品を見て、2022年に記録すべき者として「10人」に推した。 「将来、日本の歴史の中で分水嶺(ぶんすいれい)だったと言われるかもしれない22年に楔(くさび)を打ってくれたキーパーソンです」  封切り以来、「教育と愛国」は全国62館で公開され、アンコール上映にはすでにのべ100近くの劇場が手を挙げている。日本映画ペンクラブ文化映画ベスト1、JCJ大賞等多数の映画賞を受賞し、英語版を見た海外の配給会社や大学からもオファーが届いている。 ■偏差値だけで評価しない公立学校に感銘を受けた  斉加がかねてより希望の報道記者になったのはMBS(毎日放送)入社3年目の1989年。「通った私立の一貫校が肌に合わず、もともとは学校嫌いだった」が、やがて90年代前半には大阪の学校現場の取材にのめり込んでいく。家庭環境を含むさまざまな理由から教室に入れない子どもたちを保健室に受け入れるなど、偏差値だけで評価をされない場所を提供する公立学校の在り方に感銘を受け、ときにやんちゃな生徒と激しくぶつかり合いながら、成長に導いて卒業へと送り出す教師たちの姿に感じ入る。  そんな活発だった大阪の学校が、大阪府知事(当時)の橋下徹と、大阪維新の会の登場で大きな転換を迎える。維新の会は、教職員の思想・良心の自由を侵す違憲の疑いが強いと大阪弁護士会会長が声明を出した「君が代の起立斉唱を義務づける条例」などの条例を次々と作って教師や学校の管理を強めていく。 「教員たちが子どもたちについて活発に議論していた職員室が静まり返り、ただ校長を介して教育委員会の通達を受け取る無機質な空間になっていきました」(斉加)  2012年5月8日。この日、斉加は大阪市長(当時)の橋下との囲み取材に臨んでいた。橋下の友人で民間校長として採用されていた人物が卒業式で教師が君が代を歌っているか、口元をチェックしていた。この振る舞いを「素晴らしいマネージメント」と発言した橋下に、斉加は真意を質(ただ)した。ところが、橋下は逆質問をし続け、不勉強、とんちんかん、という罵倒を斉加に浴びせ続けた。  動画を文字起こしで検証すれば明確になるが、その論法にはいくつかのすり替えと詭弁(きべん)があった。一例をあげれば、起立斉唱命令を出したのは「教育委員会だ」としているが、実際にルール化を命じたのは橋下市長であると教育長から確認されている。しかし、ネット上に記者の名前が投稿でさらされた途端、いっせいに斉加に対するバッシングが始まった。事実を誤認したままの誹謗(ひぼう)やトーンポリシング(口調の取り締まり)であふれ、社の代表電話から斉加に「日本から出て行け」と怒鳴る者まで現れた。ショックであったのは、この件は同業者たちもまた本質を捉えずに非は記者側にあるとしたことだった。面罵事件の少し後、MBSで報道局員を集めてのニュースセンター会が開かれた。局員から、「質問が長すぎた」「首長を怒らせたのは良くない」と意見が表出し、センター長(当時)の澤田隆三によれば、「あまりに否定的な意見が多くて驚きました」。 ■内心まで管理を迫られる教師の悲鳴を聞いている  当時のMBS報道局長であった泉俊行は、現場に判断をゆだねていたが、今、あらためてこの囲み取材の映像を見てこう語った。 「記者ならば、突っ込まなければいけない市長の詭弁と暴言がいくつかあった。例えば『首長と記者は対等だから、まずこちらの質問に答えないと話さない』という発言。人間は対等ですが、首長と記者は非対称の関係で記者の役割は権力のチェックなのでこれは違いますね」  斉加は最後の質問でこう聞いている。「卒業式で教師が君が代を歌わなくてはならないという理由を子どもたちに分かるように教えていただけますか」。橋下の答えは「彼らは公務員なんだから、国家のために仕事をしているのだから、国歌を歌うのは当然じゃないですか」。国家のためにというのは明らかな間違いである。「公務員は国民に対し、公務の民主的且(か)つ能率的な運営を保障することを目的とする」(国家公務員法第1条)。「公務員の雇用主は国民」である。  なぜ、あの場所にいた記者たちは、これらの市長の発言を「今のはどういうことですか?」と質さずに看過してしまったのか。泉は続ける。 「橋下さんは、すでに各局のバラエティーに出ていたし、注目されている人気の政治家でしたから。あれはテレビ的にも派手でキャッチーな映像で、好奇心であおる人がいたかもしれない。今、見返すと斉加は質問する上で敬語を使いひとつとして事実を曲げていないし質問はブレてもいない」  制作局はすでに視聴率の取れる政治家をタレント扱いしていた。納得できる答えが受け取れないときは、さらに問いを続けるのは、記者の責務である。ましてや内心まで管理を迫られる教師たちの悲鳴を斉加は直接聞いている。しかし、市長を怒らせた態度が良くなかった、という流れで会議は結論付けられて散会した。 「政治が学校に介入することを質したのに好き嫌いで質問をしたと言われて、でも反論しなかったです。結果として納得できる答えを聞けなかったのは自分のスキル不足だと内省しました」(斉加) ■沖縄の記者に励まされ秀作を量産していく  この頃、MBSを退職して関西大学の教授になっていた報道局OBの里見繁は斉加から電話をもらっている。 「大学に会いに来て、会見のことを話すので、あれはよく市長に当てたな、会社に戻ったら、報道のフロアは拍手喝采(かっさい)だったろう、と言ったら、その逆だったようで、僕も驚きました」  あの当時の斉加は報道局でも白い目で見られていたと思う、と里見は言った。本人は「悔しいという感情ではなかったです。それよりも自分が信じていたテレビ報道が知らない間に変質してしまったのだという感慨の方が大きかった」。  組織の空気が変わりつつあるのを感じていたが、斉加は以降、反論も愚痴も一切出さず、粛々と大阪の教育現場の取材を続けていった。この間もずっとネット上では、反日記者、不勉強でとんちんかんなMBSの女性記者という一方的な言説が流通していた。15年に月イチのドキュメンタリー番組「映像」シリーズのレギュラーディレクターに就くと、最初の作品「なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~」の撮影のために那覇に飛んだ。沖縄の2紙は左翼に偏向しているという中傷が絶えずぶつけられていた。斉加はメディアにとっての中立とは何かを探るために密着取材を試み、そこで沖縄タイムス編集局長(当時)の武富和彦からこんな言葉をもらう。 「一方に絶対的な権力を持っている権力者がいるわけですよ。一方には基本的人権すら守られていない人びとがいる。力の不均衡がある以上は弱いものの声を代弁することこそメディアのあるべき姿だというふうに思っています」  沖縄では、大阪とまったく逆の現象が起こった。名刺を差し出した琉球新報の報道本部長が「ああ、あの斉加さん!」と感極まった声をあげたのだ。橋下への取材を失礼と捉えるどころか、リスペクトの目で見られていた。自らの手でわが子を手にかけることさえ強いられた沖縄戦を生き抜いた高齢者たちから取材を学んだという沖縄の新聞記者たちには、中央の記者が手放しかけていたジャーナリズムのマインドが満ち溢(あふ)れていた。沖縄に励まされるように、斉加は秀作を量産していく。 「沖縄 さまよう木霊」では、MXテレビの番組「ニュース女子」にまであふれ出た沖縄基地反対運動に対するデマの出どころを突き止める。取材中から、デマの発信者にネット上で攻撃にさらされるが、毅然と同業他社を正面から批判した。あとを追うようにBPO(放送倫理・番組向上機構)がMXの同番組に「重大な放送倫理違反があった」と認定した。調査報道の面目躍如だった。  そして17年7月にテレビ版の「教育と愛国」を作り上げる。5年後の映画化の大ヒットも含め、橋下からの面罵への回答を作品できっちりと示したかたちになった。里見に「あの囲み取材のときに記者たちがいっせいに市長に質問を投げかけていたら、こういう映画を作らずに済んだのではないですか」と尋ねると、「そうかもしれませんね。斉加は常に作品を通じて机を叩(たた)いて訴えているんですよ。私たちはテレビ局の中で守られているけど、こんなに危ない社会の状況下でぼっとしていていいのかと」。  年をまたいだ18年、斉加は自らの身をさらすかたちで「バッシング~その発信源の背後に何が~」を制作する。何の瑕疵(かし)も無くただ朝鮮学校への補助金交付などを求めた弁護士たちに対して13万件もの懲戒請求がなされるという異常な事態が起きるが、そのきっかけが、ヘイトブログのデマであったことをあぶり出した。 (文中敬称略) (文・木村元彦) ※記事の続きはAERA 2023年3月27日号でご覧いただけます

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    「管理職の仕事」ポジティブにとらえ奮闘する人たち 「なんて自由なんだ!」驚きの声も

     責任の重さ、長時間労働、部下との関係……。「管理職」にはネガティブなイメージがつきまとう。一方で、醍醐味を見いだす人もいる。今どきの管理職事情を取材した。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 *  *  *  管理職であるからこそ、労働時間が調整しやすいという声もある。会議や納期の期日設定などの主導権を握ることができるからだ。  都内のコンサルタント会社でディレクターを務める女性(47)が初めて管理職になったのは、外資系メーカーで働いていた32歳の時だ。 「なってみて、なんて自由なんだ!と驚きました」  と笑う。ゴールデンウィークなどが飛び石連休になれば、自分も部下もまとまった休みが取れるように仕事を調整。人を育てるというミッションにも価値を見いだし、以来、転職はしているが、管理職のポジションを満喫しているという。 「リーダーになれば、組織のことが本当の意味でわかると思うので、やってみたい」  と話すのは、都内のアーキビストの女性(47)だ。  大学卒業後、5年ほど出版社に勤務し、退職。2人の娘を育てながら、フリーライターなどの仕事を続けてきた。現在は、私立学校で古文書や公文書の保存・管理を担い、4月からはフルタイム勤務になる予定だ。これまで管理職の経験はないが、数年後に上司が定年退職すれば、管理職である室長になる可能性があるという。女性は、来たる未来について、こう話す。 「不安もあるけれど、勤務先の女性事務長が仕事のできる人で、素直にかっこいいなと思い、尊敬している。仕事の根回しはどうして必要なのか。本当にやりたい仕事を実現させるためにはどうすればいいのか。管理職になってから考えてみたい」 ■たまたまなるものに  働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、管理職のイメージをネガティブからポジティブに転換するために「閣僚制度」を提案する。  内閣が組閣され、入閣した議員や学者が次の内閣では入閣しないことは多々ある。これを、誰も必ずしも降格されたとは思わない。 「一般企業の管理職も『ゴール』『通過すべき点』という位置づけから外すのです。課長や部長は、誰もがたまたまなるものにしてしまえばいい。ミッションが終われば、一般社員に戻って働く。そうすることで、管理職への受け止め方は大きく変わるでしょう」(常見さん)  時代の変化に対応しながらも、より良い組織運営のために尽力する管理職を確保すること。これからの企業に求められていることだろう。 ■80歳まで働くなら 「管理職の仕事」をポジティブなものとしてとらえ、日々奮闘する人は他にもいる。  子ども向けブランドの会社で働く大阪府の女性(42)は、1年ほど前から15人の部下を率いる「PRマーケティング部部長」を務めている。 「たしかに管理職は大変な面もあります。部下たちにとって求心力のある上司でありたい意識は強いのですが、辞めるときは辞めてしまう。人の管理は難しい。でも一方で、大きな裁量のある仕事を任され、会社に貢献できることは管理職ならではのモチベーションになります」  女性は管理職の仕事を「いずれ経営者になるためにも必要」とも位置づけている。 「私たち以降の世代は80歳まで働く世代だと言われます。人生のほとんどを何らかの『仕事』に費やすことになるので、サラリーマンでなくとも起業する、個人事業主として仕事をするなど、あらゆる場面で個人の能力が問われる時代になってきたと感じています。管理職の仕事は大変さはあるけれど、経験値が多くて損をすることはない。与えられたチャンスをものにして、もっと女性の活躍を広めていってもらいたいと思います」  管理職の醍醐味とは、何なのか。組織内のチーム開発にくわしい立教大学経営学部助教の田中聡さんは、管理職の仕事とは「他者を通じて事をなす」ことだと話す。 「そこにいる人たちの強みを最大限引き出し、組織の成果に結びつけていく。きわめて高度な専門性が求められる仕事です。言い方を変えれば、自分ができる限界を超えてチームの力を使うことができる。それを生かす裁量権が与えられていて、行使できる。これは管理職の醍醐味だと思います」  では、そんな魅力が働く人に伝わるにはどうすればよいのか。田中さんは、何よりも会社側の努力が必要だと指摘する。  たとえば、「あれもこれも」になりがちな管理職の仕事について「これはやるべき、ここからはやらなくていい」という線引きも含めて役割を明確にすること。その人がこれまで経験したことがない新しいポストへの異動も含め「成長の機会を増やしていくこと」。そして、管理職の報酬を他のメンバーとの差をきちんとつける形で上げること。そういった環境整備が大前提だと田中さんは言う。 ■ポジティブな見方も 「さらに大事なのは、管理職に魅力を感じて働いている人の声を、社内に向けて発信する機会を作ることです。たしかに管理職になりたくないと言う人は多いし、その傾向は強まっている。でも『なってみたら意外とよかった』と話す人も少なくないんです。車座対話を開いてもいいし、新入社員研修の場で話すのもいい。ポジティブな見方をきちんと発信していってほしい」  神奈川県でメーカーに勤務する50代後半の女性も、会社が管理職の仕事の魅力を発信できていないことに不満を持つ一人だ。「私は管理職をぜひ経験したかったけど、年齢的に私はもう難しい。心残りです」と話す。 「私の会社はいまだに男性優位で、女性管理職は数%という難しい状況もあります。ただ、管理職に就いている人たちはと言えば『大変だ』『いいことなんか何もない』と愚痴る人ばかり。そんな負のオーラを出す人はそもそも管理職に向かないでしょ。若い人が管理職に良いイメージを持つはずがありません」 ■次の世代を見すえて  人事権があり、会社の上層部と直接交渉ができ、他の人を評価することでモチベーションアップにも貢献できる。やりがいは多いはず。上の人間が管理職の良い面を見せ、それを見た若手が育っていかないと会社も成長しないと女性は言う。 「管理職は『なったら上がり』の職種ではありません。管理職になって何をやりたいのか自分なりにイメージして、自分のためだけでなく働く部下や組織が健全に成長できるよう考えて動ける人は、管理職になってほしい。何よりも『次の世代』のことを見すえることが大事。その考え方でつながっていかないと、社会も成長しないと思うんです」 (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋

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    鶴界にもジェンダーの波? 春風亭一之輔が旅での出会いを実感

     落語家・春風亭一之輔さんが週刊朝日で連載中のコラム「ああ、それ私よく知ってます。」。今週のお題は「さまざま」。 *  *  *  岸田総理の口癖らしい「さまざま」。国会質問で野党から「それはごまかしだ」と指摘され、NGワード認定されてもなお「さまざま」を連発し、岸田さん冷や汗。まるでコント。平和ですな。  2月末に広島へ仕事に行きました。奇しくも総理の地元です。  同行の三遊亭まんと君は高知県四万十町出身で師匠は三遊亭萬窓師匠。しまんと、まんそう、の「まん」を頂いて『まんと』。「広島は小学校の修学旅行以来です!」だって。高知辺りだと広島はけっこう近いのね。  原爆ドーム近くに新しくビルが建っていた。『おりづるタワー』。地上13階の屋上展望デッキ「ひろしまの丘」からは市内が見渡せるらしい。「行ってみっか」と受付へ。屋上までのチケット、大人1700円也。ちょっとたじろいだが、折しも快晴。そんな日の1700円は250円くらいに感じられるね(付き添いの方が払ってくれた)。エレベーターで屋上へ。「おー!」。ほぼ360度のパノラマに風が吹き抜ける。原爆ドームを上から観たのは初めて。  なるほど……平和記念公園を上空から観ると「景色がいい」だけじゃなく、さまざまな想いが巡ります。  12階は「おりづる広場」。液晶ビジョンで広島の街の移り変わりを観たり、折り鶴になったようにモニター上を飛べるマシンだの(説明下手)があって家族で遊べます。「おりづるの壁」なるモノがありました。鶴を折って12階から落とすと、ガラス張りの壁面に鶴が堆積していき、時を経て、平和を祈る「おりづるの壁」が出来上がるという……。これはやらねば。おりづる代100円(払ってもらった)。何十年ぶりに鶴を折る。不思議なもので指先は覚えている。なかなかよく出来た。 「私も出来ました!」。笑顔のまんとが差し出した。??? なにこれ? 首、みじか! 羽、みじか! そして開かねー! 胴体が異常にふっくらしててなんかカッコわる! 見たことのない自称・鶴。「お前、鶴折れないのかよ?」「これ鶴ですよ」「違うだろ! 鶴はこれだろ」「……あー、それオンヅルですか?」。オンヅル? 「オスですね、それ」。性別? 鶴界にもジェンダーの波? 「僕のはメンヅルですから」。『ですから』って……?  まんと曰く、高知県民の折り鶴はこの『雌鶴(メンヅル)』なるものがスタンダードらしい。「高知以外は基本雄鶴(オンヅル)なんですね……初めて知りました……」だそうです。  早速「おりづるの壁」へ鶴を落とす。私の『オンヅル』は独楽のようにクルクル回りながらゆっくり落ちていき、一方まんとの『メンヅル』は空気抵抗を受けることなく猛スピードで一直線に落下していった。「こういう時、あっけないですね……メンヅルは」。  折り鶴も『さまざま』。まんと、広島、おりづるタワー。この組み合わせがなけりゃ私は生涯『メンヅル』と出会わなかったかもしれません。旅の仕事はいろんな出会いがありますなぁ。  さて、今度はメンヅルの折り方でも覚えてみよか。 春風亭一之輔(しゅんぷうてい・いちのすけ)/1978年、千葉県生まれ。落語家。2001年、日本大学芸術学部卒業後、春風亭一朝に入門。この連載をまとめたエッセー集の第1弾『いちのすけのまくら』(朝日文庫、850円)が絶賛発売中。ぜひ!※週刊朝日  2023年3月31日号

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    幸せ度は表情に表れる、スッキリかモヤッとか毎日チェックしてみて しいたけ.さんがアドバイス

     AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 *  *  * Q:私はやりたいことが多すぎたり、ありがたいことにお誘いしてもらえることが多く、予定がいつもパンパンになってしまいます。周りにももっと休みなよって言われるのですが、まだいけると思ってしまい予定を入れ続けて疲れることが多いです。しいたけ.さんはどのようにスケジュール管理したりお断りする術を身につけていますか?(女性/25歳/おひつじ座) A:このご相談、すごく好きなんです。予定が常にパンパンである種ちょっと暴走気味の生活。正直に言うと、ぜひそのまま心ゆくまでやってみてほしいなと思っちゃいました。  大人になって魅力的な人たちって、若い時に必ず「やりすぎ」がある人たちなんじゃないかと思っています。 「休日はちゃんと休みなよ」とか「自分を大事にしなよ」みたいなことを周りの人から言われるぐらい、土日に飲み歩いていたり。そういう何かしらの「やりすぎ」をちゃんと消化してきた人たち。  人にはそれぞれ適応年齢みたいなものがあります。バランスを取ったり利口になったりする年齢が、人によって違うような気がするんですよね。25歳で訪れる人もいるし、人によっては35歳で訪れるかもしれない。それまでは、周りの常識的なアドバイスが届かないぐらいのエネルギー値にいるみたいな感じ。その間は、突っ走っちゃってもいい気がするんですよね。  僕は、その人の「幸せ度」は表情に表れると思っています。占いを通じていろんな人たちに会ってきましたが、自己管理をしっかりして休みをとって、バランスよく暮らしている人たちの、表情の幸せ度が高いかというと、必ずしもそんなことはありません。  逆にむちゃくちゃな生活をしている人でも、結構スッキリした顔をしている人っていうのもいるんですよね。でもこれには客観的な基準があるわけではありません。だからぜひやってみてほしいのが、鏡で自分の顔の幸せ度をチェックし続けることです。  感覚的な話になってしまいますが、顔の表情に陰りが見えてきた時は、休んだほうがいい時です。楽しくなくなってきている、ということだから。誘いをお断りして、自分を大事にする時間を持つほうがいいと思います。  自分の表情を1日1回ちゃんとチェックする。これは、調子が悪い時にこそ、おすすめしたいです。無理やり笑ってみるとかもやってみて。表情がスッキリしてるか、モヤッとしてるか。信用できる一つの基準になると思います。  おひつじ座は、暴走する計画屋みたいなところがあります。旅行の時は分刻みで予定を入れたり、飲み会では1次会、2次会とエネルギーが変わらないまま3次会に突入するみたいな。周りがちょっとついていけないぐらいのテンションが持続します。でも、僕はおひつじ座のこういうところが好きだから、「やりすぎ」をぜひやってほしいと思う。それで表情がスッキリしているなら、まだ大丈夫です。 ◎しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気※AERA 2023年3月27日号

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    ヌートバー侍Jでは“低年俸”も今後は安泰? WBCでの活躍がもたらす「巨大な恩恵」

     ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で準決勝(日本時間21日)まで駒を進めた侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)の招集などで開幕前から日本中が大騒ぎとなったが、大会が始まって最も注目されるようになったのは、なんといってもラーズ・ヌートバー(カージナルス)だろう。  初戦の中国戦からこれまで5戦全勝を収めている侍ジャパンの1番センターとして全試合に出場。打率.368(19打数7安打)、3打点、7得点とリードオフマンとしての役割を十分に果たし、守備でも好守を披露している。また、試合中やベンチでの“熱い”振舞いでもファンの心をガッチリと掴んだ。 「身体能力の高さや野球へ向き合う真摯な姿勢など、可能性は感じた選手だが未知数の部分も大きかった。カージナルスでは試合の出場数は増えているが、レギュラーポジションが安泰という立場でもない。どこまでやれるのか注目していたが、まさかここまで活躍するとは嬉しい誤算だった」(MLBアジア地区担当スカウト) 「少し前まで国内スポーツ界の話題といえば、(サッカー日本代表・長友佑都の)ブラボー一色だった。3月と時期が早いとはいえ、ペッパーミル・パフォーマンスなど何かしら関係するワードが流行語大賞にノミネートされるのは間違いないでしょう。調理器具専門店ではペッパーミルがバカ売れしているとも聞く。国内の日常風景すら変えてしまった」(大手広告代理店関係者)  一躍スター選手となったヌートバーは、WBCが終わった後も日本から熱い視線がそそがれるのは間違いないだろう。だが、メジャーでは2021年にデビューし、昨年は試合数を増やしたものの、これまで通算の出場試合数は166試合で92安打、19本塁打、55打点、6盗塁と“これから”の選手でもある。  昨年の年俸も53万8625ドル(約7000万円)と大谷やダルビッシュのメジャー組と比べると少なく、NPB組を含めても侍ジャパンでは給料は高いとはいえない部類だ。 「日本での知名度や人気は桁外れとなったが、米国ではまだまだ若手のグリーンボーイ。MLBでの実績がまだ少ないので、現状の年俸は適正価格だといえる」(大手マネージメント会社関係者)  今後の活躍次第では年俸が高騰しているメジャーで大型契約を見込めるだろうが、早くても年俸調停の権利を得るのは2024年のシーズン終了後。フリーエージェント(FA)は2027年のシーズン後と、“高給取り”になるにはこれから数シーズンにわたって結果を残すことが必要とされる。  今季は所属しているカージナルスでライトのレギュラーとして見られているが、同球団は育成上手で、続々と若手の良い選手が出てくるという事情もある。世界から有望な選手が集まる中で定位置を守り続けるのは至難の業だ。  だが今回のWBCでの活躍で日本での株は“急上昇”。仮にメジャーで結果を残さなくても、いずれかのタイミングでNPB球団が獲得に動くというのは間違いないと見られている。 「選手として結果を残せることは証明しつつある。外国人特有の強引さもなく、状況に応じたプレーができるので日本向きといえる。NPB球団に入団しても大外れの心配はないので獲得に動く球団は間違いなくあるだろう。また知名度は日本人トップ選手と比較しても遜色ない。仮に来日した場合には、戦力、営業面の両方で大きな力を発揮するはず」(在京球団編成担当者) 「仮にNPB球団が獲得に動くならば早いに越したことはない。ハードなプレースタイルは身体能力が支えており、またケガと背中合わせの部分もある。また営業面では熱しやすく冷めやすい日本人の国民性を考えても、WBCの記憶が残っているうちでないと意味がない。年俸2億の複数年契約なら今すぐ出す価値がある選手」(大手マネージメント会社関係者)  また、試合で一生懸命プレーする姿や、家族愛が溢れるコメントなどでイメージは抜群。これからはCMなど日本からの仕事が舞い込むことも十分に考えられる。 「ルックスも良く、目の下のアイブラックとペッパーミルという際立った特徴もある。水面下ではすでに複数企業からCM契約出演の打診が来ているらしい。一生懸命で爽やかなイメージがあるのでどのような企業にもマッチする。WBC後も様々な場所で見かけることになりそう」(大手広告代理店関係者)  そして、現在所属しているカージナルスでもWBCで活躍したことにより、恩恵を受けるかもしれないという。 「カージナルスは“おいしい選手”が出てきて喜んでいる。かつては田口壮(現オリックスコーチ)が在籍し、世界一になったこともある。日本との縁は深く、今回の人気をきっかけに広告や放映権などのジャパンマネー獲得を狙っている。実現すればヌートバーとの高額な長期契約を結ぶ可能性もあるかもしれない」(大手マネージメント会社関係者)  ヌートバーはWBCではわずか5試合だけの出場だが、グラウンド内外での価値は想像以上に上がっている。子供の時から夢見た侍ジャパンとしての活躍により、様々な“成功”を手にしたといえそうだ。WBC後も日本人メジャーリーガー以上に注目が集まる存在になるだろう。

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか

     NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 *  *  *  NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。  この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。  実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。  NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。  過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。  新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。  村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。  ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。  新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」  NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。  「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)

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    WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」

     第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。  先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。  各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。  そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。  セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。  針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。  他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。  上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)

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    「一国の主にならないと」と1人目の夫が後押し 同志社大教授、女性生命科学者64歳の人生ドラマ

     同志社大学生命医科学部教授の野口範子さんは、生命科学者として体の中の活性酸素の研究を続けつつ、「サイエンスコミュニケーター養成副専攻(SC副専攻)」を2016年にスタートさせた。「理系の学生にコミュニケーションのノウハウを教えるのではなく、理系と文系の学生が一緒に社会における科学の問題を議論する場を作りたかった」。周囲の理解が乏しくてもやり抜くことができたのは、子育てと研究の両立に苦闘する中で、持って生まれた胆力がさらにパワーアップされたからなのかもしれない。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) >>【前編:元日テレ桝太一アナを“スカウト”した女性生命科学者64歳の行動力 STAP細胞事件で「やらねば」】から続く * * *――筑波大学の博士課程2年のときに1人目を産んだんですね。  妊娠中に夫は東京に異動して、私は一人で茨城県つくば市のアパートにいた。実家の母に来てもらった次の日に陣痛が来て、夫はいないので私が運転して病院に行きました。京都の母には3カ月いてもらって、約束通り娘を(義父母が住む神奈川県横須賀市の)久里浜に預けにいきました。 「よろしくお願いします」と義母に娘を預けて、私はつくば市に帰った。母乳がよく出たので、毎日乳搾りをして法医学教室の冷凍庫に入れて、週末になるとそれをアイスボックスに入れて車で東京に寄り、そこから夫が運転して久里浜に行って、1泊して帰ってくる、という生活でした。 ――娘さんはずっと久里浜に?  えーと、2歳8カ月までそうでした。義母はものすごく娘をかわいがってくれた。  博士3年の夏に次の妊娠がわかりました。そのころは長女を義母に取られたように感じてしまって、ホント勝手ですよ、私が預けてお世話になっているんですけど、なんか返してくれない雰囲気の中、せっかく2人目に恵まれたんだから今度はもっと一緒の時間を過ごそうと決心した。  翌年4月に次女が生まれ、今度は6カ月京都の母にいてもらって、その後は保育ママさんにお世話になりました。週末に次女を助手席に乗せて東京を経由して久里浜へ行き、帰りも次女だけ連れ帰る生活になりました。長女は何を思っていたのか、覚えていないでしょうけど、その頃のことを思うと胸が痛みます。医学系って博士課程が4年なんですが、農薬の毒性発現機序の研究をして4年で無事に博士号を取れました。  医学博士になって帝京大学医学部法医学教室の助手になり、夫婦二人が東京勤務になったので、長女を引き取り、4人で頑張ることにしました。  夫の職場の近くに住み、保育園もすぐそばにあって、毎朝子どもたちをそこに連れて行ったんですけど、やっぱり大変でした。帝京大から家まで、1時間ちょっとかかる。しかも、帝京大の法医学教室は遅くまでいることが大事みたいな古いタイプの研究室でした。  早めに帰るなんて許されず、夕方6時に出る。走って帰っても保育園のお迎えに間に合わないので、外で仕事をしていないご近所さんにお迎えをお願いして、私が帰るまでそのおうちで面倒を見てもらったりしていました。すごくいい人で本当に助けてもらいましたが、その方だって都合が悪い日がある。そのときはまた別の人を探して、本当にもう、米つきバッタみたいに頭を下げて回っていた。保育園に連れて行ったら熱があるから預かれないと言われるときもありますよね。何とか近所の方に預けて遅れて研究室に行くと、「やっぱりお子さんのいる方はダメですねえ」と上司が言う。  夫の職場は、家からも保育園からも1分なのに、土曜日以外はお迎えに行ってくれなかった。子どもが熱を出したときに仕事を休んでお医者さんに連れて行くのもいつも私。小学生になって、授業参観のお知らせが来ると、どっちが行くかで必ずケンカになる。  あるとき、「あなたはいいんだよ。子どものために休むと言っても頑張っているって見てもらえるけど、僕はそういうふうには見てもらえないんだよ」って訴えるように言った。 ――そういう時代でしたね。  これが決定的な言葉だったんです。今振り返ればわかります。彼の立場も、気持ちもわかる。でも言われたときは「もう一緒にやっていけないな」と思いました。だから、それからケンカもしなくなりました。ケンカをしても無駄だなって思って、でも、この関係はどこかで終えてやるって思いました。それで、予定通り離婚しました。 ――いつですか?  2006年ごろですね。娘たちが大学生のとき。 ――かなり時間がたってからなんですね。娘さんたちへの影響を考えてですか?  それもあるし、子どもたちが大きくなってきたら、慌てて離婚する必要もなくなったというか。  帝京大の法医学教室は一番つらい時期でしたが、ひょんなことから東京大学へ移ることになりました。帝京の生化学教室の先生とお部屋で研究の話をしていたら電話がかかってきて、切ったあと先生がこちらを向いて「野口さん、東大の二木先生って知ってる?」とおっしゃった。二木鋭雄先生は活性酸素の研究ですごく有名で、学会でお名前を見たことがあったから「知ってます」と答えたら、「二木先生が助手を探しておられるけど、行きますか?」と聞かれた。「行きます、行きます」と言うと、「法医学じゃなくなりますよ?」と言うので、「法医学やめます!」と即答しました。  紹介状を書いていただいて面接に行ったら、OKが出たんですが、そのとき夫が米国の国立保健研究所(NIH)に留学することになった。二木先生に相談したら、「いい機会だから一緒に行っていらっしゃい」と言われ、1年間米国の国立研究所の客員研究員をしました。  帰国して1991年2月に東大工学部に助手として着任しました。二木先生は生体の活性酸素とビタミンEの研究をしていて、本当に神様みたいな先生で、学生さんはたくさんいるし、みんな温かく優しくしてくれるし、精神的にすごく楽になりました。二木先生は「子どもにはいくら愛情をかけてもいいんですよ」とおっしゃった。この言葉が嬉しくて今も忘れません。  先生が東大先端科学技術研究センターに移られたので、私の所属も先端研に変わりました。2000年に二木先生が定年退職されると、児玉龍彦先生が率いる大きな研究チームの中で、私は直属のボスがいない形で研究室を持たせてもらった。研究環境はものすごく恵まれていました。ポスドク3人、博士課程の学生2人、実験補助員3人といった態勢で、お金は児玉先生がたくさん取ってきてくださるので、論文がたくさん書けた。  あるとき、筑波大時代に宿舎が一緒だった親友から「あなた、論文がたくさんあるのになぜ助手なの?」と聞かれたんです。私は研究ができればいいと考えていたんですが、そう言われればそうだなと二木先生に「私はいつまで助手ですか」って手紙を書いた。  そうしたら、二木先生は当時のセンター長に相談に行ってくださったのですが、すでに退職されたお立場だったからでしょう、状況は変わりませんでした。しばらくして、私は科学技術振興機構特任助教授という立場になった。助手は国家公務員ですが、このポストは公務員ではありません。特任助教授という肩書はついたけれど、良かったのかどうかわかりません。ただ、研究環境は変わらず、恵まれた状態でした。  そのうち、活性酸素の研究仲間である京都府立医科大学の先生から「同志社大に行かへんか」と声がかかった。工学部(当時)の環境システム学科が教員を募集しているというんです。そのときは娘が高校生で、連れて行くわけにも置いていくわけにもいかないと思って、お断りしました。このとき府立医大から同志社大に移った谷川徹先生から1年後にまたお誘いを受けた。夫に相談したら、「やっぱり一国の主にならないとダメなんだよ」と言ってくれて、じゃあ行こうかとなった。次女も大学生になるという時期でした。  2005年に同志社大の教授になりましたが、行ってみたら学生もスタッフも誰もいない、私一人なんですよ。これでは研究ができないので、東京に帰ろうと思いました。先端研にはまだ博士課程の学生がいたので、先端研の特任教授を兼務して研究は東京のラボで続けていました。もう同志社は早く辞めようと思ったんですが、その年の12月に新しい学部をつくる話が出て、今に至る、ということです。 ――2回目の結婚はどんな方と?  さっき話に出た谷川先生と。私、今の戸籍名は谷川です。 ――離婚はどのように?  子どもたちが小学生のころ、夫は東京から離れた別の機関に移り、長女は小学6年生の途中から再び義母に引き取られて夫の赴任地で生活するようになりました。次女は私と東京に残りました。長女が東京の高校に進学したので、3人一緒に東京の家に住むようになり、私は同志社に就職してから京都と東京を行ったり来たりするようになった。週末は東京で4人全員集合です。  それでお互いに穏やかに暮らしていたわけですが、やはりけじめをつけたいと思い、私は離婚したいという手紙を書きました。自分が思ってきたことをまとめ、そしてこれからはそれぞれ別のほうがいいでしょう、みたいな感じで。その後二人で会って、彼は真面目だから手紙の内容の一つ一つにコメントをくれて、「前から考えていたんだよね。しょうがないね」って。  でも、その後も生活は変わらないんです。週末は親子4人でごはんを仲良く食べる。いつかは娘たちに言わなくちゃと思って、下北沢に4人でブランチに行ったとき、お互いに「そっちから言って」と目配せしあって、彼が「実はお父さんとお母さん離婚したんだよ」って伝えました。 ――娘さんたちは何と?  エーッてなりました。大きな衝撃を受けたのは長女のほうでしたね。それから2年後ぐらいに再婚しようと思っていることを娘たちに話したんですけど、そのことは「あんまり衝撃じゃなかった」って言ってました。その後、彼も再婚して安心しました。  娘たちは父親と普通に行き来しています。長女は結婚して、3人の子どものママ。父親が再婚したお相手にもお孫さんがいらして、ちょうど同年齢なのでお宅にお泊まりに行ったりしています。お祝いがあるときは旧野口家大集合みたいになる。次女は京都が好きと言ってよく京都に来ます。今の夫のことは「徹さん」って呼んで、楽しくやっています。だから、どんどん家族が増えているみたいな感じですね。 ――なんともすごいドラマの連続で、野口さんのパワーがびんびん伝わってきました。  そうですか。とにかく今は2人目の夫と仲良く暮らしています。私ももうしばらくすると定年なので、サイエンスコミュニケーター養成副専攻をどのように継続していってもらうか、私がいる間にできる限りの手を打たなきゃと思っているところです。  野口範子(のぐち・のりこ)/1958年、京都市生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒業、同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。帝京大学医学部助手、東京大学工学部助手、同大先端科学技術研究センター助手などを経て2005年に同志社大学工学部教授。2008年から同大生命医科学部教授、2018~2019年に生命医科学部学部長・研究科長、2020年から研究推進部長。京都市教育委員会の教育委員を2018 年から務める。創設したサイエンスコミュニケーター養成副専攻では、同志社大卒の作家・佐藤優氏に15回のフル講義「サイエンスとインテリジェンス」を担当してもらっている。

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    【超速報】東大合格発表、開成146人、灘86人、麻布・聖光学院78人<3月10日20時時点>

     東京大学と京都大学の一般選抜の合格者が3月10日に発表された。   週刊朝日は、サンデー毎日・大学通信と合同調査を行い、高校別の合格者数を集計した。  午後8時時点での速報値で、東大の合格者1位は146人の開成(東京)、2位は86人の灘(兵庫)、3位に78人の麻布(東京)と聖光学院(神奈川)が入る。  今年は、東大の一般選抜の志願者数9306人に対し、2997人が合格した。うち女子合格者は653人。割合は21・8%で、過去5年間で最も高い割合だった。  藤垣裕子副学長は10日のオンライン記者会見で、 「女子の志願者数および合格者が増えたことは、我々としても大変喜ばしいと思っている。『女子枠』については私が入学した20~30年前から議論があったが、当時の先生方からは『女子枠を設けると、当の女子学生から反対される』と聞かされていた。実際に導入するとなれば様々な方の意見をまとめねばならず、議論が収束していない状態だ」と述べた。  今年の特徴を見ていこう。まず、受験生に人気を集めたのは理系の学部だ。  東大の理科二類は募集人員532人に対して、計2294人の志願者が集まった。現行の定員となった2008年以来、最多の人数だという。  東進ハイスクールを運営するナガセ専務取締役・コンテンツ本部本部長の渋川哲矢さんが言う。 「コロナ禍で医療関連の話題に接する機会が増えたためか、近年では他大学も含め、医学や薬学などのメディカル系の学部が人気です。農学系統では生命科学系の人気が非常に高い。東大理科二類で志願者が増えた背景にも、こうした事情が関わっていると思います」  京大の志願者数も理学部が前年比114%、医学部で同115%だった。 「京大の場合、理学部と医学部・医学科では第1段階選抜に基準点が設定されていますので、22年度入試では共通テストが難化したことの影響から、両学部で志願者が減りました。それに対し今年は共通テストが昨年に比べて易しくなったこともあり、志願者が戻ってきたものと考えられます」(渋川さん)  また、今年度の東大入試では、物理の問題が「ここ十数年で最高水準の難易度」としてSNS上で話題になった。  渋川さんが言う。 「生徒からも『難しかった』と相談の電話がかかってきました。化学や生物に関しても難度の高い問題が多く、理系科目については全体として難化傾向にあったと言えます」  Y-SAPIX事業本部長の山口拓司さんはこう話す。  「大問2は電磁気・波動に関する問題で、一見とても難しそうですが、一生懸命解いていると取っかかりが見えてくる。大問3は熱に関する問題で、易しそうに見えますがいざ解いてみると答案にするのが非常に難しい。ぱっと見だけでは難易度はわからない、という教訓となる問題だったと思います」    ◇  東大・京大合格者ランキングは、3月14日(火)発売の「週刊朝日3月24日増大号」で詳報します。合格者数1人まで掲載の充実した内容で、去年と同じ定価据え置き、税込み470円。私立大学の医学部、歯学部、薬学部の結果もあわせて掲載します。  関連企画として、東京工業大学の益一哉学長に聞いた学校推薦型や総合型選抜入試での「女子枠」導入、東大推薦、京大特色入試に合格した「スーパー高校生」へのインタビューと実名アンケートなども紹介します。    ◇  以下は、午後8時時点での東大合格者数上位20校と、その人数。 (1)開成(東京) 146 (117) (2)灘(兵庫) 86(66) (3)麻布(東京) 78(53) (3)聖光学院(神奈川) 78(70) (5)渋谷教育学園幕張(千葉) 74(59) (6)西大和学園(奈良) 73(50) (7)桜蔭(東京) 72(67) (7)駒場東邦(東京) 72(55) (9)日比谷(東京) 47(33) (10)栄光学園(神奈川) 46(38) (11)横浜翠嵐(神奈川) 44(35) (12)海城(東京) 43(31) (12)浅野(神奈川) 43(39) (14)渋谷教育学園渋谷(東京) 40(35) (15)早稲田(東京) 38(30) (16)東海(愛知) 37(25) (16)久留米大附設(福岡) 37(32) (18)浦和・県立(埼玉) 36(21) (18)甲陽学院(兵庫) 36(29) (20)ラ・サール(鹿児島) 35(26) (合格実績のある学校への週刊朝日とサンデー毎日、大学通信の合同調査を基にした速報値で、数値は今後変動する可能性がある。右のかっこ内は現役合格者数) ※週刊朝日オリジナル記事 (本誌・松岡瑛理)

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    葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由

     葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉  冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。  お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。  まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を  お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。  正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。  お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切  身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。  一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。  ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。  お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉  死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。  死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。  時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。  深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言  結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。  新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。  お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち  結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。  出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。  文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。  やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。  どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。

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    「芦田愛菜」慶應政治学科進学で再注目された“秀才伝説” 15歳で読書1000冊&台本は全出演者分を暗記

     4月から内部進学で慶應義塾大学法学部政治学科へ進学することが報じられた女優の芦田愛菜(18)。報道によると、同学科は内部進学を目指す生徒から人気があり、3年間で優秀な成績を収めた結果、無事進学が決まったという。  芦田は慶應義塾中等部に入学した2017年、「スッキリ!!」(日本テレビ系)で、将来について「病理医」になりたいと話したこともあってか、医学部への進学もささやかれていた。ふたを開けてみれば法学部へ進んだが、なぜ法律学科ではなく政治学科を選んだのだろうか。週刊誌の記者は言う。 「芦田は今後も芸能活動にも力を入れていく予定のようで、やはり理系学部となると授業が忙しくなり支障が出るからでしょう。慶應の法律学科は司法試験合格を目指す学生も多く、法律について深く学び専門性が高い。一方、芦田が選んだ政治学科は法律から政治学まで、さまざまな分野を幅広く学ぶことができる。もしかしたら、将来はそこで学んだことを生かしてマルチに活躍できる芸能人という道も視野に入れているのかもしれません。2月に行われた『2023年エランドール賞』の授賞式に出席した際も、新人賞に選ばれた芦田は今年の目標について『いろんなことにチャレンジしたり、フットワークが軽い人間になりたい』とコメントしています」  芸能活動は多忙で、昨年は主演映画「メタモルフォーゼの縁側」が公開され、現在もバラエティー番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日系)でMCを担当するうえ、多数のCMに出演するなど引っ張りだこだ。医学部進学が取り沙汰された際は、芦田に女優と医師という“二刀流”を期待した人もいるかもしれないが、多忙な芸能活動をこなしながら成績上位で人気学科に進学したのは、やはりすごいと言うべきだろう。  最近メディアで活躍する慶應義塾大学法学部政治学科のOGといえば、テレビ朝日の弘中綾香アナ、情報番組「シューイチ」のMCを務める日本テレビの徳島えりかアナ、コメンテーターなどでも活躍するトラウデン直美など、知的で華もある女性が多い。  芦田もそのイメージ通りと言えそうだが、そもそも、その秀才ぶりは子役のころからたびたび話題になってきた。19年、15歳で初の単行本『まなの本棚』(小学館)を刊行。発売記念会見では、これまでトータル1000冊以上は読んでいると明かし、読書は歯磨きや入浴と同じくらい当たり前な日常だと語っていた。子どものころから読書が習慣だった人は知識が豊富で地頭の良い人が多く、だからこそ芸能活動と学業が両立できたのかもしれない。 ■マルモリ福くんが学友に!?  また、「バラいろダンディ」(TOKYO MX、3月10日放送)では、芦田が6歳ぐらいのころに一緒に営業に回っていたという古坂大魔王が当時の芦田について、「どの現場にも必ず宿題を持ってきていた」「本番で全員分の台本を覚えていた」と明かしていた。やはり、子どものころから地頭の良さは健在だったようだ。 「最近のコメントからも頭の良さがにじみ出ています。一昨年放送された『博士ちゃん』で、廃虚となった軍艦島が紹介された際、『人が造ったものがまだ残っているっていうのは、崩れないことの皮肉というか、循環していけないことのむなしさを感じる』と、とても10代とは思えない含蓄のあるコメントを残していました。その一方で、昨年6月に放送されたバラエティー番組の料理企画ではホイコーロー作りに悪戦苦闘し、『どんくさいんです』と漏らすなど、普通の高校生らしいところも残っていました」(前出の記者)  また、「マルモのおきて」(フジテレビ系)で、子役としてともにブレークした鈴木福も慶應大学に進学すると報じられた。“マルモリコンビ”は大学でも学友となることに。 「報道によると、鈴木の場合は書類と面接で評価される『AO入試』で合格したとのこと。学力だけでいえば芦田のほうが勝っている印象ですが、昨年7月に2人が『博士ちゃん』で共演した際は、鈴木が『愛菜ちゃんも頑張っているのを見ると刺激になる』と率直な思いを語っていました。さらに、『戦友だと勝手に感じている部分がある』と鈴木が言うと、芦田も『うん!』と応答。そんなやりとりを見て、今後もお互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら活躍してほしいと願っている視聴者は多いでしょう」(テレビ情報誌の編集者)  元「週刊SPA!」芸能デスクの田辺健二氏は芦田についてこう評する。 「兵庫県生まれで幼いころは関西弁を話していた愛菜ちゃんですが、仕事で新幹線が東京に近づくにつれ『どんどん標準語になっていった』といったエピソードなど、彼女には“天才子役伝説”がたくさんあり、神格化されてきた感もあります。しかし、そのプレッシャーに押しつぶされることなく、マイペースにここまで芸能界と学業を両立していることがまずすごい。子役出身で芸能界に残れる人はほんのひと握り。愛菜ちゃんは役に恵まれてきたという側面もありますが、その“当たり役”を引き寄せたのは彼女の実力です。学業を優先しつつ、昨年は映画『メタモルフォーゼの縁側』に主演。興行的に苦戦しましたが、BL好きの女子高生という役を好演し、新たな可能性を感じさせる作品になりました。今後は学業が忙しくなると思いますが、いつか女優としてフルスイングする愛菜ちゃんも見てみたいですね。元天才子役のポテンシャルはまだまだこんなものではないと思います」  大学生活も注目を集めそうな芦田。身につけた教養を生かしてどんな活躍を見せるのか楽しみだ。 (丸山ひろし)

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    早慶の首都圏中高一貫校「合格率」ランキング 慶大は男子校が占めるなか早大トップは女子校

     中学受験において、志望校選びはいろいろな情報があり、迷うのも確か。そんな時に頼りになるのが客観的なデータで、中でも特に重視したいのが大学合格実績です。ここでは、合格実績などを指標に、首都圏の中高一貫校のさまざまなランキングを紹介します。第3回目は早稲田大・慶應義塾大のランキングです。  表3と4を見ていこう。近年は早稲田大、慶應義塾大にどうしても入りたいからと、文系学部を全部受けるような受験生は減っている。大学で学びたいことを決め、学びたいことを軸に併願プランを立てていくのが普通だ。大学へのこだわりが薄れてきている。  早稲田大トップは女子学院の76・1%だ。2位が前年トップの聖光学院、3位は共学校トップの渋谷教育学園渋谷、4位は合格者数全国トップの開成、5位は渋谷教育学園幕張だった。  一方、慶應義塾大のトップは聖光学院の57・5%で、2位は栄光学園の56・4%、3位は合格者数全国トップの開成、4位は前年トップの浅野、5位は海城だった。男子校が強い中、女子校トップは6位の洗足学園、共学校トップは8位の渋谷教育学園渋谷だった。  表の早慶の顔ぶれは似ている。トップ30のうち24校が同じなのは、早慶の併願者が多いことの表れだ。異なる6校は、早稲田では、東京都市大付、東葛飾、暁星、南、白百合学園、桐朋、慶應では、雙葉、芝、世田谷学園、桐蔭学園中教、武蔵、吉祥女子だった。学校によって、早稲田に強い、慶應に強いといった差はある。女子学院は早稲田トップだが慶應は10位、渋谷教育学園幕張は早稲田は5位だが慶應は15位、逆に浅野は慶應は4位だが早稲田は22位だ。  ひとくくりに早慶と言われるが、校風やキャンパスの立地、学部構成や入試科目も異なる。慶應は医学部や薬学部などの医療系の学部があるが、早稲田には無い。それらが影響して人気の分かれ目になっている。 (文/大学通信・大野香代子)

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    徳川家臣団「忠臣」ランキング! 秀吉からの恩恵を“拒絶”してまで徳川家への奉公を貫いた武将

     徳川家康は、関白秀吉に「私は殿下のように名物の茶器や名刀は持たないが、命を賭して仕えてくれる五百ほどの家臣が宝」と、控えめに誇ったという。週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』では、徳川家を支えた忠臣、猛将、智将などを、歴史学者の小和田泰経氏が採点。各武将の生き様と能力を解説している。今回は、「忠臣」で採点した。1位の天野康景は先日報じたが、「犬のように忠節」と称賛された徳川の家臣たちの中で2位と3位に選ばれたのは――。 *  *  * ■2位 鳥居元忠 / 片足を引きずりながらの最期の奉公  鳥居氏は商いで成功を収めた股肱の臣の家で、蔵に蓄えが溢れていたことから、元忠の父忠義は人質時代の家康に衣服や食料の援助を惜しまなかったとされる。  元忠も13歳のときから、駿府で人質生活を送る家康に仕え始め、旗本部隊の将として数々の戦功を挙げた。三方原の戦いでは斥候中に銃撃を受け、片足が不自由になった。  天正十年(1582)の甲斐平定戦では水野勝成とともに古府中の守備を託され、北条氏忠が1万の軍勢を率いて郡内に侵攻したと知ると、わずか2000騎で奇襲を仕掛け、大勝利を博した(黒駒の戦い)。  天正十四年(1586)に上洛した際、豊臣秀吉から叙爵の内示があったが、徳川家以外から恩恵を受けるわけにはいかないとして、これを辞退。九戸一揆の平定に際しても秀吉からの感状を辞退した。  慶長五年(1600)、家康が上杉討伐のため東下するに際し、松平家忠・内藤家長・松平近正とともに伏見城を託され、石田三成からの降伏勧告を断固拒絶。西軍10万人相手に力戦のすえ討ち死にした。ともに戦死した家臣57人、兵700余人、足軽数百人に及んだ。 ■3位 内藤家長 / 怪力無双にして放つ矢は大気を震わす  祖父の義清は松平信忠・清康に仕え、上野下村城を与えられた、岡崎五人衆の一人であったというから、武芸に秀でていたことがうかがえる。  父清長がそうであったように、家長も家康から一字をもらうなど、代々の主従関係にあった。  石川数正の組で先手を務め、「力量人に勝れ、騎射の達者」と称された。遠江国二俣城を攻めた際には、その弓勢を目にした城主の依田信蕃から、「近代無双、今弁慶と称すべし」と恐れられた。相当な腕力を見せつけたのだろう。  家康の部将達が敵味方に分かれ争った、三河一向一揆の際には終始家康の側に付いた。家康の嫡男・信康が自害を強いられた際には付属の士25人を、宿老の石川数正が徳川を捨てて豊臣秀吉のもとへ走った際には、馬乗同心80を預けられている。  小田原城の包囲には兵50騎と雑兵数百人を率いて参陣すると、家長の容貌を見て感銘を受けた秀吉から、「将帥の器にあたれり」として、鉄砲30挺を与えられた。  関東入国時には、上総国佐貫に2万石を与えられ、伏見城の副将を拝命。鳥居元忠らとともに西軍足止めの大役を果たし、討ち死にした。 ◎監修/小和田泰経(おわだ・やすつね)1972年、東京都生まれ。静岡英和学院大学講師。大河ドラマ『麒麟がくる』の資料提供を担当。最新著書に『すごい ヤバい 戦国武将図鑑』(カンゼン)、『タテ割り日本史5 戦争の日本史』(講談社)、『天空の城を行く』(平凡社新書)など。 ※週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』から抜粋 

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    「人の顔色ばかり伺う自分」が嫌で「言いたいことを言える自分」になりたいと吐露する27歳女性に、鴻上尚史が“その2つは一緒”だと指摘し提案したこと

    「人の空気感や顔色をうかがうことは得意」でも「人の気持ちを考えることがとても苦手」と告白する27歳女性。自分の頭で考えられるようになりたいと願う相談者に、鴻上尚史が指摘する「こんな私でも」と否定的な思考の流れを遮断する必要性。 【相談177】私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちを考えることがとても苦手です(27歳 女性 砂漠)  鴻上さん、こんにちは。  以前、「大人というのは自分の頭で考えられる人間になることだ」という鴻上さんの言葉を拝見しました。  私は、なるほどなと思うと同時に、それなら自分は子どもだなとも感じました。  というのも、昔から私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちに寄り添う=その人の気持ちを考えることがとても苦手で、そのせいか友達は少ないのに、先生や友達の親といった大人からは好かれやすいところがありました。  周りからはそれを「優等生」「いい子」と見られ、褒められることもありましたが、私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました。私には私の考えがないから、自分の意見を言うことができない。子どもが親に許しをもらおうとするように、うかがいをたてることしかできないんだと辛くなりました。  本をたくさん読むと自分で考える力が付くとも言いますが、私の場合、本を読んでもこんな考えもあるのか!とは思えど、それをちゃんと力にできていない気もして……(力にできていたら、こんなダメにはなっていませんよね)。  今回もこのような形で自分の力ではなく、鴻上さんの力に頼るようなことをしておりますが、こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたいとも思っており、投稿しました。  長文をすいません。  どんな厳しい言葉でもいいので、よろしくお願いします。 【鴻上さんの答え】 砂漠さん。そうですか。「顔色をうかがうことは得意」でも、「その人の気持ちを考えること」がとても苦手なんですね。  この二つは、似ているようで違いますよね。「顔色をうかがうこと」と「その人の気持ちを考えること」の違いはなんでしょうか。  僕が思うには、「顔色をうかがうこと」は、「人に嫌われたくない」という気持ちが中心で、関心は自分に向いていると感じます。一方、「その人の気持ちを考える」ということは、関心は相手に向いているんじゃないかと思います。自分中心か、相手中心かの違いですね。  いきなりの例え話なんですが、俳優になりたい初心者の中で、ものすごく自意識が強い人がいます。  相手役と会話していても、「どんなふうに見られているか」「恥は絶対にかきたくない」「笑われたくない」と強く思っている人です。そういう人は、相手に対する関心はまったくありません。相手がどんな表情をしようが、どんな演技をしようが関係ないのです。関心は自分です。自分がどうしたら恥をかかないか、笑われないか、どんな言い方をしたら演出家にほめられるかだけを考えているのです。  極端な例ですが、砂漠さんの状況もそれに近いと思います。  相手が本当は何を求めているかとか、本当はどう思っているかが問題ではなく、自分が嫌われないこと、自分が傷つかないことが重要なんだということです。  どうしてそうなってしまうかは、みんな、なんとなく分かっていると思います。自分に自信がない、ということですね。自分に自信がないから、とにかく、嫌われないこと、否定されないこと、笑われないことが一番大切なことになるのです。  どうですか、砂漠さん。もし、そうだと納得してもらえるなら、砂漠さんのやることはたったひとつです。  自分に自信をつけること。別な言い方をすると、自己肯定感を高めることだと思います。  だって、焦って本を読んでも何も身につかないでしょう。私なんかダメだと思いながらいろんなことに接しても、あまり得るものはないんじゃないでしょうか。  さて、砂漠さん。どうしたら自分に自信がつくのか。  僕は以前にこの「ほがらか人生相談」で、「小さな勝ち味を積み重ねること」と書きました。  自分のことを「こんなダメにはなっていませんよね」と書く砂漠さんですが、100%ダメですか? まったく良い点はありませんか?  でも、仕事のために(働いてないなら家事手伝いのために)毎朝ちゃんと起きてるんじゃないですか? 顔を洗えてるし、歯も磨けているんじゃないですか?  冗談ではないですよ。いくつかのことを、毎日ちゃんとできているのは素晴らしいことです。全部ダメなんて人はいません。ただ、全部を一気に否定する方が、細かな良い点を見つけるより楽だから、「私はダメだ」と言いたい人が多いのだと僕は思っています。  だって、自分と自分の生活を見つめて、小さいけれど良い点を見つけることはエネルギーが必要ですからね。  ネットで調べれば、自己肯定感を上げる方法を書いた本にたくさん出会うでしょう。僕はこの前、自己肯定感が低かったOLさんがどうやって自信をつけたかを正直に書いた本を読んで感動しました。  自己肯定感が低くて苦しんでいる人は多いですが、同時に、少しずつ少しずつ自己肯定感を高めて楽になった人も多いのです。そういう人が書いた本や経験談はきっと砂漠さんの参考になると思います。  自己肯定感が高まれば、焦ることはなくなります。相手の顔色をうかがうことに必死になる必要もなくなります。  人間の能力には限界があるので、一度にたくさんのことはできません。自意識の強い俳優は、エネルギーを「自分はどう見られているか」を探ることに使います。当然、相手のことを感じたり、観察したりする余裕はなくなります。人間のエネルギーは有限だからです。  でも、自分に向けるエネルギーが減ると、必然的に相手を観察するエネルギーが増えてきます。俳優はそうやって成長するのです。  自己肯定感が高まると、落ち着いて、相手の感情に寄り添うことができるようになります。本を読んでも、「早く吸収しよう」とか「自分は全然ダメだ」と焦ることもなくなります。ゆっくりと、言葉が身体に染み込んで、やがて使えるようになります。  ちなみに、俳優の初心者で、周りのことばかりを気にしていた人が、突然、思い切った演技を始めることがあります。思っていることを全部、ぶちまけるような演技です。  今まで「こんなことを言ったら嫌われるから言わないようにしよう」とフタをしていたことを一気に出すのです。  でも、残念ながら、そういう演技は人を感動させることは少ないです。ただ気持ちを吐き出しているだけで、一種の排泄作用のようなものだからです。  そして、この場合もじつは、相手に関心は向いていません。関心は、やっぱり自分です。自分の感情をとにかく吐き出すことに集中しているのです。  砂漠さんは「私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました」と書きます。  残念ながら、それは極端から極端へ移っただけで、「自分の考えにすべてフタをする」と「なんでもズバズバ言う」は、コインの裏表で、相手を無視するという意味では同じことじゃないかと感じます。  どちらも、自分に自信がないから起こることだと僕は思っています。 「こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたい」と砂漠さんは書きますが、「こんな私でも」と思っている間は、「自分の頭で考えられる」ことはないと思います。  まずは「こんな私でも」とオートマチックに考えてしまう流れを遮断することが必要なのです。  大丈夫。自己肯定感を低くしたのは、砂漠さんです。だから、自己肯定感を高くできるのも、砂漠さんなのです。人は変われます。変われると思ったら変われます。  少しずつ、自分をほめて、認めてあげませんか? ■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載! ↓【声で聴く】鴻上尚史が「人生相談に込める思い」ポッドキャストはこちら↓

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    日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」

     3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」  投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」  岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」  松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」  年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」  高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇  命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。  刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」  昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」  それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」  現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」  しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    東浩紀「ゲームのように制度の穴を突いても意味がない。政治も論壇も空転するばかり」

     批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。 *  *  *  10年ほど前、若い批評家がやたらと「ハック」という言葉を使った時期があった。老人支配の日本社会は正攻法では変わらない。ならば既存制度の穴を見つけ、脱法的に改革を進めるほかない。そんな発想をコンピューターのハッキングになぞらえた表現だ。  当時は一部の流行でしかなかったが、いまやその精神は社会全体に蔓延(まんえん)している。社会学者の伊藤昌亮氏は「世界」3月号で「ひろゆき現象」を論じている。そこにハックという言葉が出てくる。  ひろゆき氏はいまや日本で最大の影響力をもつ言論人のひとりである。けれども彼の核にあるのは特定の思想や正義感ではない。むしろライフハックの喜びである。ひろゆき氏はあらゆる主張をハックし、ゲームのように相手を「論破」する。そのさまが痛快なので若者は支持しているわけだ。  同じ精神がガーシー騒動の背景にもある。ガーシー氏は昨年2月に暴露系ユーチューバーとして活動を開始、瞬く間に知名度を上げて、7月の参院選で当選してしまった。その後の混乱はご存知(ぞんじ)のとおりで、この3月15日についに国会を除名処分となった。  筆者は除名処分に全面的に賛成である。氏の言動にはほとんど公共性がない。しかしそれだけに支持が消えないのは不気味である。氏は選挙の穴を突いた改革者だとみなされている。騒動を受け、氏が所属するNHK党は政治家女子48党に改名した。もはやコメディーだが、仕掛け人は一種のハックだと考えているのだろう。  この状況はじつに不健康である。日本社会が変わりにくいことは確かだ。制度の穴を突くのも悪くない。しかしハックそのものを自己目的化しても意味がない。何のために制度を逆手に取るのか、何のために相手を論破するのか、目的がないところでハックを繰り返しても政治も論壇も空転するばかりである。私たちはハッキング礼賛こそ抜け出す必要がある。  むろんこんな言葉はひろゆき氏やガーシー氏の支持者には響かないだろう。それでもひとりの「老害」として、人生はゲームではないとだけ言っておきたいと思う。 ◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数※AERA 2023年3月27日号

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    「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔

     対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 *  *  * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。  でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」  快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。  この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。  お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」  なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」  と。願ってもない話だった。  なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。  挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。  大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」  原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」  と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔  私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」  と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。  連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」  というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。  16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」  とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。  私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」  と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。  古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」  私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    落選組で侍ジャパンを作ってみると…「栗山ジャパンに見劣りしない布陣」に

     3月のWBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンの陣容が固まった。  投手陣を見ると、先発はダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)が当確で、4番手候補は今永昇太(DeNA)の可能性が高い。試合の中盤から投げる「第2先発」は宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、高橋宏斗(中日)が控える。終盤は湯浅京己(阪神)、宇田川優希(オリックス)と頭角を現した若手成長株に加え、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、大勢(巨人)と各球団の守護神が。様々な起用法に対応できる伊藤大海(日本ハム)の存在も心強い。大谷翔平(エンゼルス)が守護神として起用される可能性も考えられる。  野手はメジャー組が軸になりそうだ。大谷、ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)と強打者がズラリ。4番は昨年日本記録の56本塁打で三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)で間違いないだろう。ホームランアーティストの岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)も選出されており、破壊力十分。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)は出場辞退が報じられたが、投打で過去最強の布陣と言ってよいだろう。  ただ、今回のメンバーの選出に対しては賛否両論の声が上がっている。外野手が4人のみで本職のセンターが選出されていないことや、変則フォームの投手が少ないことが懸念されている。裏を返せば、それだけ代表候補の実力者が多いと言える。  今回の栗山ジャパンから漏れた「落選組」でメンバーを編成すると、どんなチームを作れるだろうか。他球団のスコアラーは「日の丸に縁がないけど、球界を代表する選手は少なくない。大谷レベルの選手はなかなかいませんが、総合力では栗山ジャパンに見劣りしないチームを作れますよ」と言葉に力を込める。  以下は現場の首脳陣、選手の評価が高い選手で構成したスタメンだが、いかがだろうか。 (右)松本剛(日本ハム) (中)岡林勇希(中日) (一)佐野恵太(DeNA) (指)浅村栄斗(楽天) (左)西川龍馬(広島) (三)宮崎敏郎(DeNA) (遊)長岡秀樹(ヤクルト) (捕)梅野隆太郎(阪神) (二)菊池涼介(広島) (投)青柳晃洋(阪神)  投手を含めた上記の10人を選出するのも頭を悩ませる。外野は塩見泰隆(ヤクルト)、近本光司(阪神)、ベテランの秋山翔吾(広島)、丸佳浩(巨人)、大島洋平(中日)も有力候補で層が厚い。複数のポジションが守れて、打撃センスが高い坂倉将吾(広島)、牧原大成(ソフトバンク)はベンチに入れたい。和製大砲の大山悠輔(阪神)も一塁、三塁、外野を守れることから重宝できる。代走の切り札では今季盗塁王に輝いた高部瑛斗(ロッテ)が筆頭候補だ。捕手と遊撃がやや手薄か。遊撃は紅林弘太郎(オリックス)、小園海斗(広島)が殻を破ってほしい。菊池と長岡の二遊間は守備能力が非常に高い。俊足強肩の岡林を含めたセンターラインは強固だ。  投手陣は先発が青柳のほか、西勇輝、伊藤将司(阪神)、大野雄大、小笠原慎之介(中日)、高橋光成(西武)、上沢直之、加藤貴之(日本ハム)、田中将大(楽天)ら多士済々。特に抜群の制球力を誇る加藤は先発、救援で抜群の制球力を発揮できるので起用法の幅が広い。救援陣は清水昇(ヤクルト)、伊勢大夢、山崎康晃(DeNA)、高梨雄平(巨人)、山崎颯一郎、比嘉幹貴(オリックス)、藤井皓哉(ソフトバンク)、與座海人、水上由伸(西武)が有力候補になるだろう。  スポーツ紙デスクは、「監督の目指す野球の方向性でメンバーはガラリと変わります。栗山監督は第2先発で起用する投手に、各球団のエース級をそろえましたが、ここがポイントになると思います。先発と救援では試合に入るリズムが変わるので、対応力が問われる。個人的にはロングリリーフできる加藤や與座を入れるかなと思いましたが、栗山監督の継投策が注目ですね」と分析する。  今回の侍ジャパンからは漏れたが、プロ野球を盛り上げる実力者たちの活躍も楽しみだ。(今川秀悟)

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    ヌートバーの侍J入りで注目度アップ! MLBで活躍の「日系人選手」は他に誰がいる

     今年3月に行われる第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では大谷翔平選手(エンゼルス)をはじめとした日本人メジャーリーガーたちが多数参戦という朗報が届いた。そして、それと同等の驚きとインパクトをもたらしたのが日系メジャーリーガーとして初めてラーズ・ヌートバー外野手が日本代表に加わるというニュースだった。  もともとWBCでは両親がルーツを持つ国であれば代表として出場が可能な場合もあり、これまでも殿堂入りの名捕手マイク・ピアザがイタリア代表としてプレーしたことはあったが、日本代表はこれまで日本国籍を持つ選手のみで構成されていた。それだけに画期的な方針転換と言っていい。  25歳のヌートバーは母親が日本人。21年にカージナルスでメジャーデビューすると、22年は108試合出場で打率2割2分8厘、14本塁打、40打点、4盗塁だった。打率は低めだが出塁率3割4分が示すように選球眼がよく、8補殺をマークした強肩が示すように守備での貢献度も高い。起用法次第で貴重な戦力となってくれるだろう。  前置きが長くなったが、今回はヌートバーの代表選出で注目度が高まった日系メジャーリーガーたちの歴史を振り返ってみようと思う。  日本でおなじみの日系メジャーリーガーと言えば、21年からはエンゼルスで大谷とバッテリーを組んだこともあったカート・スズキ(日系3世)だろう。アスレチックスなどで長年に活躍した捕手で、ナショナルズ時代の19年にはワールドシリーズでホームランを放って優勝に貢献した。22年限りで現役引退を表明し、通算成績は打率2割5分5厘、143本塁打、730打点だった。  このスズキやカイル・ヒガシオカ捕手(日系4世、ヤンキース)のように和風のファミリーネームならば日系だと分かりやすいが、ヌートバーのように母方が日本人の血を引いていると日系だと気づきにくいこともある。現在はドジャースを率いているデーブ・ロバーツ監督も実は日系の元メジャーリーガーだ。  ロバーツは米軍人だった父と日本人の母親の間に沖縄で生まれた日系2世。現役時代は俊足の外野手としてドジャースなどで活躍した。彼のプレーで最も有名なのは、レッドソックス時代の2004年に見せた好走塁だろう。  ア・リーグ優勝決定シリーズで宿敵ヤンキースに3連敗を喫して後がなくなったレッドソックスは、第4戦で1点を追う9回にロバーツを一塁走者の代走に出した。ここでロバーツは初球からいきなり二盗を成功。さらに2球後にはビル・ミラーのセンター前ヒットで同点のホームを踏んだ。盗塁に失敗すれば反撃ムードも断たれて敗退濃厚となるシーンで見事に決めたのは走塁のスペシャリストとしての面目躍如だった。  これで息を吹き返したレッドソックスはこの試合をサヨナラ勝ち。勢いに乗って3連敗からの4連勝でヤンキースを下すと、ワールドシリーズでも86年ぶりの優勝を果たして「バンビーノの呪い」を過去のものとした。それもこれもロバーツの盗塁成功がターニングポイントだったのは間違いない。  引退後は2015年途中にパドレスの代理監督を務め、メジャー史上初めて日本出身の監督に(日系の監督としてはマリナーズを率いたドン・ワカマツの方が先)。20年にはドジャースの指揮官としてワールドシリーズ制覇も達成している。  活躍度で言えばナ・リーグMVPに輝いたクリスチャン・イエリチ外野手(ブルワーズ)。母方の祖父が日本人の日系3世で、曽祖父はNFLで活躍したフレッド・ジャークという家系の出身だ。  17年の第4回WBCでは米国代表として優勝に貢献し、最優秀外野手にも選出。メジャーでは18年に打率3割2分6厘、36本塁打、110打点、22盗塁で首位打者とMVPに輝き、翌19年も打率3割2分9厘、44本塁打、97打点、30盗塁で首位打者を獲得した。  この活躍が認められて20年3月に9年総額2億1500万ドル(約276億2000万円)の大型契約で契約延長。ただしその後の3年間は故障や不振が続き、昨季は154試合で14本塁打どまり。今季こそ完全復活が期待されている。  今後が楽しみな日系メジャーリーガーでは、一時はヌートバーとともに日本代表入りもうわさされたスティーブン・クワン外野手(ガーディアンズ)。父方は中国系米国人で、母方が日本の血を引く日系3世だ。  昨季にメジャーデビューするといきなり4試合連続3出塁以上というメジャー史上初の快挙を達成し、デビューから116球連続で空振りなしという驚異のバットコントロールを披露した。最終的には147試合の出場で打率2割9分8厘、6本塁打、52打点、19盗塁。ホームランは少ないが攻守に隙のない玄人好みの選手で、将来的には首位打者を狙える逸材だろう。  この他にも、大洋(現DeNA)でもプレーしたマイク・ラム(ブレーブスほか)や、報復の危険球を巡って黒田博樹(ドジャースほか)と一触即発の乱闘寸前までいったことがあるシェーン・ビクトリーノ(フィリーズほか)、メジャー通算91勝のジェレミー・ガスリー(オリオールズほか)などがかつて活躍した。  現役ではヌートバーやクワン以外にも前述のヒガシオカや、そのチームメートでもあるゴールドグラブ賞遊撃手のアイザイア・カイナーファレファ、17年のドラフト全体9位指名で通算50本塁打のケストン・ヒウラ内野手(ブルワーズ)などがいる。日本人メジャーリーガーだけでなく、彼らのような日系メジャーリーガーの今後の活躍にも注目だ。(文・杉山貴宏)

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    脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも

    日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 *  *  * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。  厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」  昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同)  脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意  心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。  脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」  高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師)  また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を  井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師)  また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。  日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。  一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より

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    賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も

     育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 *   *   * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」  そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。  読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする>  インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言  この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」  この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。  電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」  丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」  三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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