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4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか
NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 * * * NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。 この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。 実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。 NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。 過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。 新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。 村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。 ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。 新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」 NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。 「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)
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21時間前
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賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も
育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 * * * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」 そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。 読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする> インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言 この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」 この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。 電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」 丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」 三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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20時間前
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日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」
3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」 投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」 岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」 松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」 年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」 高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇ 命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。 刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」 昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」 それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」 現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」 しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日 2023年3月31日号
週刊朝日
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「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法
人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 * * * GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。 脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」 差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。 東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」 そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。 ■GPT力も評価対象に すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」 と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」 として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」 海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。 米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。 こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」 さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋
AERA
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脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも
日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 * * * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。 厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」 昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同) 脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意 心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。 脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」 高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師) また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を 井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師) また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。 日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。 一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より
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同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア
「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」。読売新聞オンラインが3月12日、三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」に触れ、冒頭のように題した記事を配信すると、掲載された「Yahoo! ニュース」などで制度に賛同するコメントがあふれかえった。育休をとりやすい職場環境づくりの一環としての新制度だが、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を改善。この短期間で大きく動いたのだ。同社人事部部長の丸山剛弘さんに立案に至るまでの経緯と、社内での反応を聞いた。 ※記事の前半<<賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も>>から続く * * * 社員が育児休業を取った際に職場の同僚全員に、最大10万円の一時金を給付する「育休職場応援手当」という制度をつくったきっかけは、舩曵真一郎社長が以前から抱いていた課題意識だった。「社会問題の一つとして少子化が大きな課題となっている。その解決に貢献するような、イチ企業としてできる人的投資、制度改定を考えてほしい」という指示が出ており、年明けに人事担当役員と人事部メンバーで、ブレストを行うことにしていた。 丸山さんが言う。 「1月6日、福岡の実家からリモートで会議に参加し、参加メンバー全員で、それぞれが考えたアイデアを持ち寄って論議しました」 リモート会議の出席者は人事担当役員や人事部長ら5人。しかし、これ以上何ができるのか、頭を抱えた。というのも、すでに同社は育児についての支援をかなり充実させていたからだ。 「例えば、男性社員の育休1カ月取得を21年6月から義務化しています。男性社員に対して育休取得を推奨している企業は多い。なので、取得率100%の会社はそれほど珍しくありません。ただ、対象者全員が1日でもとれば取得率は100%になります。しかし、それではあまり意味がない。社長の舩曵は、少子化対策などとともに、産後うつ防止についても気にかけていました」 産後の女性の死因の1位は自殺である。その大きな要因は産後うつだ。出産に必要な女性ホルモンは子どもを産むと急激に減少し、ホルモンバランスが大きく崩れ、うつが引き起こされる。産後うつのピークは出産後2週間から1カ月といわれる。 「そこで夫が休業をとって妻をしっかりと支える。なので、男性社員が育児休業をとるのは当たり前で、産後できるだけ早い時期に連続して休業をとることが重要だと伝えてきました」 実は、育休の取得日数が少ない、いわゆる「とるだけ育休」が特に横行しているのが金融・保険業界である。なので、こうした取り組みはかなり珍しい。さらに社長が産後うつの問題にまで言及して育休取得を進めるのは異例のことである。 ■それより人を増やしてくれよ リモート会議に話を戻そう。 「これまでさまざまな育児支援の仕組みを充実させてきましたから、これ以上、産育休者本人に手当などを増やしてもあまり効果は見込めないかな、という話になりかけたときに、じゃあ、本人ではなく、まわりの人に一時金を支給するのはどうでしょうか、と言ったんです」 筆者は、思わず言葉が出てしまった。「そんなアイデアがよく出ましたね」と。 「いや、たぶん人事を長くやっている人だったら誰でもそういうことは考えていると思います」 丸山部長は謙虚にそう指摘し、さらに、続けた。 「なぜ、育休をとりにくいかというと、休む人は職場の人に迷惑をかけてしまうので、申し訳ないとどうしても思ってしまいます。まわりの人は、おめでとう、と祝福するのが普通ですが、心のどこかに、ああ負担が増えるな、とモヤモヤした気持ちも抱えてしまいがちです」 ちなみに、ヤフコメには「手当を支給するよりも人を増やしてくれよ」という声もあったが、同社は代替要員の配置を以前から行ってきた。 「でも、そう簡単ではないんですよ。すべての産育休のケースで代替要員を配置できるものではありません。部支店の要員計画とも関連がありますし、また、特に業務内容が高度になればなるほど難しい。同等のスキルや経験を持った人材が見つからないとか、見つかっても仕事を教えるのが大変とか。そういう不満はなかなかゼロにはならない。なので、数字のうえでは育休の取得率も取得日数も問題ないように見えても、本当に気兼ねなく育休をとれているか、周囲も心から快く応援できているかといったら、改善の余地が大きいよねと。そこで、本人ではなく、職場を支えるまわりの人にも一時金を支払い、会社全体で育休を応援していこう、という案を出した。そうしたら、『それ、いいね。それでいこう』という話になった」 丸山部長は人事部の課長とともに、制度を設計した。勘案したのは職場の規模と、実際の育休の取得日数である。 「今は男性と女性の育休の期間がかなり違います。女性は平均約17カ月(産休を含む)、男性は平均37日(法律上の育児休業取得日数[現在平均6.4日]と併せて取得する連続休暇やそれに続く土日・祝日を含めた暦日ベースでの育児休業・休暇等の平均日数)。その実態を踏まえて、女性が休んだときには多く支給するほうが本人の気兼ねが軽減できるし、まわりの社員の納得感も得られると思いました。それで最初は男女で支給金額に差を設けた」 冒頭で触れたように、この案が報道されるとインターネット上に賛同の声が一気に広まった。その一方で、「男女別でなければもっといいのに」という声も上がった。 「現状、男性の育休取得日数は女性に比べて短いですけれど、なかには子どもが1歳になるまで休みたい、という人もいるわけです。そういう声を聞いて、なるほど、と思った。今は少数派ですが、そういう男性を応援していかなければならない。そこで、性別ではなく、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えることにしました」 なぜ、3カ月で区切ったのか? 「数は少ないですが、キャリアの断絶をできるだけ少なくしたいと、出産後、育休をとらない女性もいます。当社の場合、産前・産後休暇は約3.7カ月です。そこで、職場に早く復帰したいという女性の妨げにならないように、3カ月を基準にしました。また、産前・産後休暇の期間も育休取得予定期間に含めて判定するルールとしました。そうすれば、産後すぐに職場復帰してもまわりの人に10万円が支払われます(職場規模13人以下の場合)。また、男性社員の育休取得日数は、今は平均37日ですが、3カ月以上の取得を目指しやすくなります。今は少ない長期取得者も周囲からより受け入れられやすくなるでしょう。男性、女性、どちらの少数派に対しても背中を押せるような制度にしました」 ■経営陣に恵まれた 丸山部長は「本当に経営陣に恵まれたと思います」と語る。 「これまでに同様な仕組みを考えた人事担当者はたくさんいると思うんです。でも、そのような意見を下から上げたとき、変な制度じゃないか、とか言われてしまう可能性がある。ところがそれを、やろう、と言ってくれた。そんな『経営陣がすごい』というコメントがありましたが、確かにそうだな、と思いました」 社内の反応は上々という。 「お子さんのいる女性から『安心して2人目をもうけようという気持ちになれる』という声を直接聞きました。そのとき、ああ、これは本当に少子化対策にも貢献できるんじゃないか、と思いました。非常に嬉しく感じました」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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声の出しにくい当事者の代わりに前に出る ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代
ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代。理不尽な誹謗やバッシングがおこるたび、斉加尚代は丁寧な調査報道でその答えをきっちりと示してきた。数々の賞を受賞した映画「教育と愛国」では、教育現場や真理を追究すべき学問が政治に侵食されていく危機を描く。これは「いま」の話である。メディアの役割として「分断された世界をつなぎ直す」ために、斉加は作品を通じて警鐘を鳴らす。 * * * 1948年の創刊以来、『現代用語の基礎知識』は辞典・事典であると同時に時代の流れを映す年鑑でもある。現在の編集長、大塚陽子は2023年版の巻頭の「2022年のキーパーソン10人」にゼレンスキー大統領、イーロン・マスクなどとともに斉加尚代(さいかひさよ・58)を選んだ理由をこう語った。 「ただ話題になっている人物というだけではなく、22年がどういう時代で、何を行った人物かという観点からの選定でした」 斉加は時代を映し、その上でジャーナリストとして、映画監督として、確として社会に伝えるべきものを持っている人物として選定された。 斉加が監督した映画「教育と愛国」は、現在の日本の教育現場が政治によって蹂躙(じゅうりん)されていく過程が、丁寧に掘り起こされた事実と証言で描かれている。かつて家永三郎(元東京教育大学教授)は「教科書検定は国家による検閲である」と裁判を起こしたが、今では、検定を通過した教科書も閣議決定によって変更されるという時代に突入している。教科書執筆者は検定過程において、具体的な根拠資料を求められるが、政府の見解は学術的な裏付けが無くとも逆に書くことを強いられるという。 大塚は言葉の世界に生き、語彙(ごい)の意味も本質も徹底的に調べあげて一冊にする編集者として、教育と学問が政治の侵食ですでに危険水域にあることに警鐘を鳴らした斉加の作品を見て、2022年に記録すべき者として「10人」に推した。 「将来、日本の歴史の中で分水嶺(ぶんすいれい)だったと言われるかもしれない22年に楔(くさび)を打ってくれたキーパーソンです」 封切り以来、「教育と愛国」は全国62館で公開され、アンコール上映にはすでにのべ100近くの劇場が手を挙げている。日本映画ペンクラブ文化映画ベスト1、JCJ大賞等多数の映画賞を受賞し、英語版を見た海外の配給会社や大学からもオファーが届いている。 ■偏差値だけで評価しない公立学校に感銘を受けた 斉加がかねてより希望の報道記者になったのはMBS(毎日放送)入社3年目の1989年。「通った私立の一貫校が肌に合わず、もともとは学校嫌いだった」が、やがて90年代前半には大阪の学校現場の取材にのめり込んでいく。家庭環境を含むさまざまな理由から教室に入れない子どもたちを保健室に受け入れるなど、偏差値だけで評価をされない場所を提供する公立学校の在り方に感銘を受け、ときにやんちゃな生徒と激しくぶつかり合いながら、成長に導いて卒業へと送り出す教師たちの姿に感じ入る。 そんな活発だった大阪の学校が、大阪府知事(当時)の橋下徹と、大阪維新の会の登場で大きな転換を迎える。維新の会は、教職員の思想・良心の自由を侵す違憲の疑いが強いと大阪弁護士会会長が声明を出した「君が代の起立斉唱を義務づける条例」などの条例を次々と作って教師や学校の管理を強めていく。 「教員たちが子どもたちについて活発に議論していた職員室が静まり返り、ただ校長を介して教育委員会の通達を受け取る無機質な空間になっていきました」(斉加) 2012年5月8日。この日、斉加は大阪市長(当時)の橋下との囲み取材に臨んでいた。橋下の友人で民間校長として採用されていた人物が卒業式で教師が君が代を歌っているか、口元をチェックしていた。この振る舞いを「素晴らしいマネージメント」と発言した橋下に、斉加は真意を質(ただ)した。ところが、橋下は逆質問をし続け、不勉強、とんちんかん、という罵倒を斉加に浴びせ続けた。 動画を文字起こしで検証すれば明確になるが、その論法にはいくつかのすり替えと詭弁(きべん)があった。一例をあげれば、起立斉唱命令を出したのは「教育委員会だ」としているが、実際にルール化を命じたのは橋下市長であると教育長から確認されている。しかし、ネット上に記者の名前が投稿でさらされた途端、いっせいに斉加に対するバッシングが始まった。事実を誤認したままの誹謗(ひぼう)やトーンポリシング(口調の取り締まり)であふれ、社の代表電話から斉加に「日本から出て行け」と怒鳴る者まで現れた。ショックであったのは、この件は同業者たちもまた本質を捉えずに非は記者側にあるとしたことだった。面罵事件の少し後、MBSで報道局員を集めてのニュースセンター会が開かれた。局員から、「質問が長すぎた」「首長を怒らせたのは良くない」と意見が表出し、センター長(当時)の澤田隆三によれば、「あまりに否定的な意見が多くて驚きました」。 ■内心まで管理を迫られる教師の悲鳴を聞いている 当時のMBS報道局長であった泉俊行は、現場に判断をゆだねていたが、今、あらためてこの囲み取材の映像を見てこう語った。 「記者ならば、突っ込まなければいけない市長の詭弁と暴言がいくつかあった。例えば『首長と記者は対等だから、まずこちらの質問に答えないと話さない』という発言。人間は対等ですが、首長と記者は非対称の関係で記者の役割は権力のチェックなのでこれは違いますね」 斉加は最後の質問でこう聞いている。「卒業式で教師が君が代を歌わなくてはならないという理由を子どもたちに分かるように教えていただけますか」。橋下の答えは「彼らは公務員なんだから、国家のために仕事をしているのだから、国歌を歌うのは当然じゃないですか」。国家のためにというのは明らかな間違いである。「公務員は国民に対し、公務の民主的且(か)つ能率的な運営を保障することを目的とする」(国家公務員法第1条)。「公務員の雇用主は国民」である。 なぜ、あの場所にいた記者たちは、これらの市長の発言を「今のはどういうことですか?」と質さずに看過してしまったのか。泉は続ける。 「橋下さんは、すでに各局のバラエティーに出ていたし、注目されている人気の政治家でしたから。あれはテレビ的にも派手でキャッチーな映像で、好奇心であおる人がいたかもしれない。今、見返すと斉加は質問する上で敬語を使いひとつとして事実を曲げていないし質問はブレてもいない」 制作局はすでに視聴率の取れる政治家をタレント扱いしていた。納得できる答えが受け取れないときは、さらに問いを続けるのは、記者の責務である。ましてや内心まで管理を迫られる教師たちの悲鳴を斉加は直接聞いている。しかし、市長を怒らせた態度が良くなかった、という流れで会議は結論付けられて散会した。 「政治が学校に介入することを質したのに好き嫌いで質問をしたと言われて、でも反論しなかったです。結果として納得できる答えを聞けなかったのは自分のスキル不足だと内省しました」(斉加) ■沖縄の記者に励まされ秀作を量産していく この頃、MBSを退職して関西大学の教授になっていた報道局OBの里見繁は斉加から電話をもらっている。 「大学に会いに来て、会見のことを話すので、あれはよく市長に当てたな、会社に戻ったら、報道のフロアは拍手喝采(かっさい)だったろう、と言ったら、その逆だったようで、僕も驚きました」 あの当時の斉加は報道局でも白い目で見られていたと思う、と里見は言った。本人は「悔しいという感情ではなかったです。それよりも自分が信じていたテレビ報道が知らない間に変質してしまったのだという感慨の方が大きかった」。 組織の空気が変わりつつあるのを感じていたが、斉加は以降、反論も愚痴も一切出さず、粛々と大阪の教育現場の取材を続けていった。この間もずっとネット上では、反日記者、不勉強でとんちんかんなMBSの女性記者という一方的な言説が流通していた。15年に月イチのドキュメンタリー番組「映像」シリーズのレギュラーディレクターに就くと、最初の作品「なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~」の撮影のために那覇に飛んだ。沖縄の2紙は左翼に偏向しているという中傷が絶えずぶつけられていた。斉加はメディアにとっての中立とは何かを探るために密着取材を試み、そこで沖縄タイムス編集局長(当時)の武富和彦からこんな言葉をもらう。 「一方に絶対的な権力を持っている権力者がいるわけですよ。一方には基本的人権すら守られていない人びとがいる。力の不均衡がある以上は弱いものの声を代弁することこそメディアのあるべき姿だというふうに思っています」 沖縄では、大阪とまったく逆の現象が起こった。名刺を差し出した琉球新報の報道本部長が「ああ、あの斉加さん!」と感極まった声をあげたのだ。橋下への取材を失礼と捉えるどころか、リスペクトの目で見られていた。自らの手でわが子を手にかけることさえ強いられた沖縄戦を生き抜いた高齢者たちから取材を学んだという沖縄の新聞記者たちには、中央の記者が手放しかけていたジャーナリズムのマインドが満ち溢(あふ)れていた。沖縄に励まされるように、斉加は秀作を量産していく。 「沖縄 さまよう木霊」では、MXテレビの番組「ニュース女子」にまであふれ出た沖縄基地反対運動に対するデマの出どころを突き止める。取材中から、デマの発信者にネット上で攻撃にさらされるが、毅然と同業他社を正面から批判した。あとを追うようにBPO(放送倫理・番組向上機構)がMXの同番組に「重大な放送倫理違反があった」と認定した。調査報道の面目躍如だった。 そして17年7月にテレビ版の「教育と愛国」を作り上げる。5年後の映画化の大ヒットも含め、橋下からの面罵への回答を作品できっちりと示したかたちになった。里見に「あの囲み取材のときに記者たちがいっせいに市長に質問を投げかけていたら、こういう映画を作らずに済んだのではないですか」と尋ねると、「そうかもしれませんね。斉加は常に作品を通じて机を叩(たた)いて訴えているんですよ。私たちはテレビ局の中で守られているけど、こんなに危ない社会の状況下でぼっとしていていいのかと」。 年をまたいだ18年、斉加は自らの身をさらすかたちで「バッシング~その発信源の背後に何が~」を制作する。何の瑕疵(かし)も無くただ朝鮮学校への補助金交付などを求めた弁護士たちに対して13万件もの懲戒請求がなされるという異常な事態が起きるが、そのきっかけが、ヘイトブログのデマであったことをあぶり出した。 (文中敬称略) (文・木村元彦) ※記事の続きはAERA 2023年3月27日号でご覧いただけます
AERA
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J2に“定着”してしまった元J1クラブは、今季こそ「沼」から抜け出せるのか
J1と同時に開幕した2023年のJ2リーグ。今季も全22チームによるタフな戦いが予想されるが、例年と異なる点は3チームがJ1へ昇格できることにある(1位と2位が自動昇格、3位~6位はプレーオフを行い優勝チームが昇格)。J1昇格のチャンスが広がっている中、かつてはJ1の常連でありながらも、すっかりJ2に定着しているクラブは、今度こそ「J2の沼」から抜け出すことができるのだろうか。 J1経験クラブで、最も長く「沼」にハマり続けているのが、東京Vである。読売クラブを前身にJ発足直後はV川崎として黄金時代を謳歌したが、次第にチーム力が低下し、2005年に初のJ2降格。2008年にJ1復帰も1年で即降格となり、2009年以降はJ2暮らしが続いて今季で15年目。2017年、18年と2年連続でJ1昇格へのプレーオフに進んだことはあったが、昨季9位とJ2の中位が定位置となっている。だが今季、オフに佐藤凌我、ンドカ・ボニフェイス、馬場晴也、井出遥也の主力勢が“個人昇格”の形で移籍して戦力低下が心配されている中でも、開幕5試合を3勝1分1敗と戦前の予想を上回る好スタート。昨年6月に就任した城福浩監督の下、6連勝締めした昨季終盤のサッカーとチームの雰囲気を新シーズンにもうまく持ち込んでいる。 特徴は強固な守備。DFラインのビルドアップには課題を残すが、チーム全体の守備意識が高く、開幕5試合で1失点のみ。そして、アカデミー育ちの天才MF森田晃樹と横浜FCから完全移籍で加わった齋藤功佑の2人が、4-3-3システムのインサイドハーフの位置で高い技術を発揮。前線では、右ウイングのバスケス・バイロンが独特のリズムのドリブルで積極果敢に仕掛け、梶川諒太も存在感大。新加入のドイツ人FWマリオ・エンゲルスがまだフィットしていないが、第4節の藤枝戦では32歳の阪野豊史が機能して5対0の大勝を収めた。まだ始まったばかりだが、「期待してもいい」シーズンになりそうな気配を漂わせている。 同じくJ発足「オリジナル10」の一員である千葉もJ2暮らしが長く、今季で14年連続となる。なんといってもオシム監督時代の「人もボールも動くサッカー」が思い出されるが、2009年にJ1最下位となってクラブ初のJ2降格となって以降、J1参入プレーオフに計4度(2012~14年、17年)進んだが、1度もJ1復帰を果たせず。2020年からユン・ジョンファン監督の下で「再生」を図ったが、14位、8位、10位と結果が出ず、昨季までヘッドコーチを務めていた小林慶行氏を新監督に据えて新シーズンに臨んでいる。 戦力を見ると、田口泰士、見木友哉、新井一耀と軸となる選手を含めて主力の多くが残留。櫻川ソロモンをレンタルで放出した代わりにJ1でも実績のある呉屋大翔を獲得し、得点力不足解消への解決策を提示した。しかし、開幕戦で長崎相手に1対0の白星スタートを切ったのも束の間、第2節から山形(●1-3)、群馬(△2-2)、秋田(●0-1)、大分(●1-2)と攻守に精彩を欠いた苦しい戦いが続き、5試合を終えた時点で22チーム中19位(1勝1分3敗)。自分たちが主体となったアグレッシブなスタイルを標榜しているが、まだまだ時間がかかりそうだ。J1復帰を果たすためには、長いシーズンの中で「内容が悪くても勝つ」ことが必要であり、序盤戦でどれだけ我慢しながら勝ち点を拾っていけるか。最低でも4月中には建て直したい。 その千葉よりも近年、J2でも下位に低迷しているのが、大宮だ。1999年のJ2誕生初年度にJリーグに参入し、2005年からJ1で10年間、しぶとい戦いぶりで「残留力」を発揮し続けた。1度目のJ2降格の際は1年で即J1復帰を果たしたが、2度目に降格した2018年以降はJ2暮らしが続いて今季が6年目。気がかりなのが右肩下がりの順位で、2019年の3位から2020年15位、2021年16位、2022年19位と年々成績が下降している。昨季は一時J2最下位に沈むなど、クラブ史上最低といえるシーズンとなった。 状況を変えたい今季も戦前の期待値は高くなかった。昨季途中から指揮を執った相馬直樹監督の就任後の成績(6勝8分10敗)や明確な戦力アップを示せなかったオフの補強が理由で、その不安通りに開幕戦は山口相手に0対1の黒星スタート。だが、その後は金沢(○2-0)、熊本(●0-3)、磐田(○1-0)、栃木(●1-2)と安定感を欠きながらもホームではしっかりと勝利し、開幕5試合を2勝3敗で乗り切った。目立つのは、柏から加わったFWアンジェロッティ。24歳、左利きのブラジル人ストライカーは、2トップの一角として前線で起点になりながらピッチを幅広く動き回り、磐田戦で決勝のヘッド弾を決めると、続く栃木戦では左足ボレー弾。身長185センチと大柄ながら柔らかいボールタッチを披露し、チャンスメークからフィニッシュまで、あらゆる場面で“違い”を見せつつある。この男を新エースに据えて“勝てる形”が固まれば、連勝が可能となり、昇格争いにも加われるはずだ。 その他の主な「元J1クラブ」を見ると、2年ぶりのJ1復帰を目指す大分が開幕5試合を4勝1分0敗の好発進を決め、同じく今季こそJ1復帰を果たしたい仙台、さらに昨年の天皇杯で優勝した甲府が、ともに2勝2分1敗とまずまずのスタートを切った。その一方で今季、2016年以来となるJ2の戦いに挑む「本命」清水は5試合連続ドロー発進となり、同じくJ1からの降格組の磐田も1勝2分2敗と開幕から苦しんでいる。そして彼らを横目に首位に立ったのは、青森山田高校の総監督から異例のJクラブ指揮官となった黒田剛監督率いるJ1未経験の町田(4勝1分0敗、得失点差で大分を上回る)。さらに3位には、J3からJ2に昇格して3年目となる秋田(3勝2分0敗)がつけている。 まだ序盤戦で、今後しばらくは毎節のように順位が大きく変わることになるだろうが、不変なのはJ2での戦いが「簡単ではない」こと。そして、「沼にハマるとなかなか抜け出せない」ということ。実力が拮抗する中で相手の良さを消しにくるチームが多く、日程も過密で移動にも時間を要する。なにより、活躍した選手がJ1クラブに引き抜かれることでチーム力の積み上げが難しく、J2に長く停滞すればするほどチーム力が徐々に低下していく傾向にある点が「沼にハマる」大きな理由だろう。そこから抜け出すには相当な力がいる。まずは序盤戦で勢いを掴み、チームが目標に向けて一丸になること。混戦必至の中で、J1で実績のあるクラブには自分たちのプライドを取り戻す戦いをサポーターに見せてもらいたい。(文・三和直樹)
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“黄金世代”の選手にも徐々に明暗 女子ゴルフ界の一大勢力の現在地
「あ、また勝った」 これは先日、女子ゴルフの国内ツアーを見ていた時に頭に浮かんだ言葉だ。 本原稿のテーマは“黄金世代の現在地”。ここ数年、国内女子ツアーは20代前半の若手が席巻しているが、その筆頭といえる“黄金世代”の面々が、どのような現状にあるのかをまとめようというものだ。 で、冒頭の言葉。ここまで言えば、ゴルフファンならこれが誰のことを指しているか想像がつくだろう。 12日まで高知県の土佐カントリークラブで開催されていた国内女子ツアー第2戦の明治安田生命レディス ヨコハマタイヤゴルフトーナメントを制したのは、“黄金世代”の一人、吉本ひかるだった。 吉本は、2打差単独トップで最終日をスタートすると前半で1つスコアを落とし、ささきしょうこに逆転を許す場面もあった。しかし、後半に4つのバーディを奪い通算19アンダーでプレーオフに突入。ささきとのプレーオフでは2ホール目にバーディを奪ってツアー初優勝を飾った。 2019年のフジサンケイレディスでも今回と同じく最終日を2打差の首位で出たが、この時は申ジエ(韓)に逆転されて涙を流した。今回は、プレーオフにもつれ込む接戦となったが、最後は4年前の悔し涙を嬉し涙に変えた。 では、ツアーを席巻する“黄金世代”はどのような活躍をしているのか? 個々に見ていきたいと思う。いわゆる“黄金世代”は、一般的に1998年4月から1999年3月までに生まれた女子プロゴルファーを指す。吉本のツアー制覇で、“黄金世代”のツアー覇者は12人目となったが、今回は吉本のように優勝歴のある12名についてチェックしていきたい。 “黄金世代”の中で最も早くツアー優勝を果たしたのは、勝みなみだった。勝が優勝したのは2014年のKKT杯バンテリンレディスで当時の勝は高校一年生。15歳293日でのツアー勝利は、ツアー史上最年少優勝記録という偉業だった。 2017年のプロテストに合格した勝は、2018年の大王製紙エリエールレディスオープンでプロとして初勝利すると2020年以外は毎年2勝しており、ここまでメジャーの日本女子オープン2勝を含むツアー通算8勝を記録。今季からは米女子ツアーに本格参戦し、海外メジャーVを目指している。 2023年3月現在、“黄金世代”で一番優勝回数が多いのは畑岡奈紗だ。初優勝は2016年の日本女子オープン。これは国内メジャー史上初のアマチュア優勝という偉業だった。 そんな畑岡はプロ転向してから米国を主戦場としており、2018年には19歳で、NWアーカンソー選手権でツアー制覇を達成。昨年はDIOインプラントLAオープンでも優勝するなど、ここまで国内5勝、海外6勝と“黄金世代”を牽引する活躍を見せており、今季もさらなる活躍が期待されている。 “黄金世代”において日米両ツアーの合計優勝回数で畑岡に続くのが小祝さくらだ。2017年のプロテストに合格した小祝は、本格的な参戦となった2018年から4シーズン連続で、賞金ランクでトップ10入り。2020-21シーズンは2億円以上を稼ぎ出し3位にまで躍進した。 鋭いショットとは対照的な素朴でおっとりとしてキャラクターはファンの間でも人気だが、実力は上記の通り折り紙付き。2019年の初優勝を皮切りに昨季も2勝するなどここまで通算8勝しており、こちらも“黄金世代”を代表する女子ゴルファーの一人。そろそろメジャー優勝も果たしたいところだ。 「“黄金世代”といえば?」と聞かれたら、一番この女子プロの名前が多く挙がるのではないだろうか。渋野日向子だ。渋野は2019年のAIG全英女子オープンで、樋口久子以来、42年ぶりに日本人メジャー優勝を果たすと一躍ヒロインに。国内で2勝すると海外メジャー初挑戦となった大舞台で、当時の国内ゴルフ界で最大の快挙を成し遂げた。 同年の渋野はツアーで4勝し賞金ランクは2位。LPGAメルセデス最優秀選手賞などツアーの各賞も多数受賞し、日本中に「シブコ」のニックネームが知れ渡ったことは記憶に新しいだろう。 そんなシブコは、コロナ禍の2020年こそ未勝利だったが、2021年に2勝しツアー通算6勝をマーク。2022年からは舞台を米女子ツアーに移し全英女子オープンに続く海外メジャー2勝目を目指しているが、いまだに国内では“黄金世代”の顔としてその存在感はピカイチと言える。 ツアー屈指の人気を誇る原英莉花も“黄金世代”の一人だ。ツアーの優勝回数こそ4回と、ここまでに挙げた4選手と比べれば劣るが、2020年に日本女子オープン、JLPGAツアーチャンピオンシップリコーカップとメジャーで2勝しており大舞台に強い。 2021年の大王製紙エリエールレディスオープンで4勝目を挙げた後は未勝利で、2022年のメルセデス・ランキングも31位と納得がいくものではなかっただろうが、その存在感は抜群。昨年はツアーのアンバサダー役「JLPGAブライトナー」6名のうちの一人に選出されており、ツアーのPR役としても期待されている。こちらもツアーの顔として、2シーズンぶりの優勝が待たれるところだ。 渋野と仲の良い大里桃子も“黄金世代”の一角だ。2017年にファイナルQTの資格でツアー参戦していたが、2018年7月にプロテストを3位で通過すると翌月のCAT Ladiesでいきなりツアー初優勝。その後2年間、勝利から遠ざかっていたが、2021年にはほけんの窓口レディースでツアー2勝目を挙げている。身長171センチと体格にも恵まれており、これからさらなる飛躍が期待できるだろう。 植竹希望と高橋彩華は、昨年、念願のツアー勝利を挙げた“黄金世代”だ。植竹はKKT杯バンテリンレディスオープンで優勝し同世代10人目のツアー覇者になると、高橋はフジサンケイレディスクラシックで勝利し同世代11人目の優勝メンバーに。ともにコロナ禍でも安定した成績を挙げており、今季はさらなる飛躍が求められている。 一方、ここまで取り上げた“黄金世代”に少し差をつけられ始めているのが、新垣比菜、河本結、淺井咲希の3名だ。新垣は2018年にツアー初勝利を飾ると、河本、淺井は2019年に初優勝。その勢いでさらなるステップアップが望まれたが、3者ともこの1、2年は厳しい戦いを強いられている。 まず新垣は、2022年に富士通レディースで単独3位になったものの、予選落ちが続きメルセデス・ランキングは85位。ステップアップツアーの京都レディースオープンで優勝する明るい話題もあったが、2シーズン連続でシード権を失い今季はQTランキング14位での出場となった。 河本は、2020年に主戦場を米国に置いたが、思うような結果が出せず2021年5月に帰国。その後も、調子がなかなか上がらず2023年シーズンもフルシードとはならなかった。前半戦で好成績を残さなければ、後半戦の出場は難しい状況。今季は開幕から3試合連続予選落ちとなっているが、奮起が待たれる。 淺井は2020-21シーズンにメルセデス・ランキングで56位に落ち込むと、2022年は同114位と低迷した。QTランキングも111位となっており、優勝経験がある他の“黄金世代”にやや水をあけられた状態だ。 しかし今年1月下旬になり自身のインスタグラムでプロキャディの栗永遼さんとの入籍を発表した。栗永さんは、淺井が初優勝した2019年のCAT Ladiesでバッグを担いだ存在。レギュラーツアーでの出場機会は限られるが、夫婦で力を合わせ復活したいところだろう。 ツアーを彩る“黄金世代”だが、このように優勝者12名の現在地には明暗がある。日本、そして海外で、彼女たちの2023年はどのようなシーズンになるのだろうか?
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開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析
首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 * * * 国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。 今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。 まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。 私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。 私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。 東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。 ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。 そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。 さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。 本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。 元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。 大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」 こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。 それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。 この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」 一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。 井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」 3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。 脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日 2023年3月31日号
週刊朝日
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脳梗塞の疑いで救急車を呼ぶとき家族が準備すべき「3つ」のものとは? おくすり手帳、診察券、あと1つは
脳の血管が詰まる脳梗塞。薬で血栓を溶かすt−PA治療や、カテーテルで血栓を除去する血栓回収療法など治療法は進歩している。ただし、できる治療は発症後の時間により異なり、有効な治療を受けるには「時間との勝負」となる。 * * * 脳梗塞は、血管の詰まり方により「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分けられる。からだの片方のまひやしびれ、ろれつが回らないなどの5大症状がみられたら、軽くてもすぐに救急車を呼ぶことが必要だ。その理由を、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は「症状が軽い=軽症とは限らないため」と話す。 「ちょっと言葉が出にくい、足が動かしにくいなど軽い症状の場合、小さい脳梗塞だからということもありますが、大きな血管が詰まりかけていて、前兆として軽い症状が起こっていることもあります。放置したことでその後、大きな症状が起こることも少なくありません」 家族に脳梗塞を疑う症状がみられて救急車を呼んだ場合、到着までに準備してほしいものとして、東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師は、(1)おくすり手帳(2)かかりつけ医療機関の診察券(3)発症時刻(症状に気づいた時間)のメモを挙げる。「昨日の夜寝るまでは元気で、今朝起きたら症状があった」という場合は、「前夜寝た時間」と「今朝起きた時間」でいいという。 「神経が障害される病気の多くは、治療しても発症前のように症状を完全になくすことは難しいのですが、脳梗塞は、早期に適切な治療をすることでかなり症状を改善できる数少ない病気といえます。ただし、そのためには一分一秒でも早く治療を開始することが必要で、この三つはその重要な情報となります。いざというときは慌ててしまうことも多いため、落ち着いて救急隊や医師に伝えてください」(井口医師) ■薬で血栓を溶かす治療法を検討 脳梗塞は、「発症後の時間」により治療法が異なる。そのため脳梗塞の疑いがある場合、病院到着後すぐに診察と検査をおこなう。検査ではとくに、脳の状態をみるMRI検査と、脳の血管をみるMRA検査が重要となる。 「MRIでは、起きたばかりの新しい脳梗塞だけを映し出す方法で、急性期の脳梗塞かどうかを調べます。血管が詰まりかけている、あるいは詰まったばかりで神経細胞が完全に壊死していない場合は、ダメージを最小限におさえるためすぐに血流を再開通させる治療を始めます」(森本医師) 急性期の脳梗塞の治療は、薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、器具で血栓を取り除く「血栓回収療法」が主となる。 血栓溶解療法では、組織型プラスミノゲン・アクティベーター(t−PA)という薬を点滴し、血栓を溶かす。ただし、この治療は発症から4・5時間以内に限られる。 「脳梗塞を起こして時間が経つと、その血管はダメージにより血管壁がもろくなります。t−PAで血栓が溶け、血管が再開通するともろくなった血管から出血するリスクがあるため、発症後4・5時間を過ぎたらt−PAは使用できません」(同) また、以前は就寝中などに発症した発症時刻が不明の人には治療できなかったが、2019年に適応が拡大された。MRIでは、起こったばかりの変化を描出できる画像(DWI)と、描出するまでに3~6時間かかる画像(FLAIR)があり、DWIでは脳梗塞がみられるもののFLAIRではみられないというミスマッチが生じた場合、4・5時間以内に発症したと判断できる。 「発症時刻がわからない人でも、2種類のMRI画像で4・5時間以内かを判断した上で、血栓溶解療法ができるようになりました。これまで治療できなかった人が、t−PAにより救われる可能性が広がったといえます」(井口医師) 発症後4・5時間以上経過した場合や、出血しやすい病気があるなどの理由でt−PA治療ができない場合、血栓が大きく溶かしきれない場合は、血栓回収療法をおこなう。カテーテルを挿入して血栓を取り除く治療法で、専用の器具で血栓を絡めとる方法と、血栓を吸引する方法がある。この治療は原則として発症後24時間以内ならできるが、細い血管にカテーテルを通すため出血のリスクを伴う。技術を要する治療であり、実施できる病院は限られる。 「治療しなければほとんどの人が寝たきりになってしまうような閉塞でも、経験豊富な医師のいる病院であれば、この治療により血栓の約9割は回収できます。治療後早くからリハビリをすることで、そのうち半数の人は歩いて自宅に帰れるほど元気に回復します」(森本医師) 森本医師は、いざというときに備え「脳梗塞の治療に強い病院を調べておくと安心」と話す。血栓回収療法を実施しており症例数が多いこと、日本脳神経血管内治療学会の専門医が複数いること、厚生労働省の認定する脳卒中専門の集中治療室「SCU(Stroke Care Unit)」があることなど、病院のホームページで確認できることも多い。SCUには「24時間専門医が常勤」「患者3人に対し看護師1人以上を配置」などの認可基準がある。 「脳梗塞は症状の急激な変化が多い病気です。SCUでは手厚く患者さんをみることができ、神経症状の変化などにも素早く対応できる強みがあります」(同) ■ためらわずに一刻も早く救急車を 現在は、血栓回収療法を実施できる病院は都市部に集約されている傾向があるが、急性期脳卒中の診療体制を整えている地域や病院は増えていると井口医師は話す。 「救急車を呼んだ後のことを心配するより、早く救急車を呼ぶことが大事です。優れた治療法があっても、24時間以内に治療できるのは3割以下。時間オーバーで治療できないという事態を減らすためにも、まずは一刻も早く救急車を呼んでください」(井口医師) (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月31日号より
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男子校、女子校の人気が回復した中学受験 付属校人気は一服か、増減まだら模様【中学受験2023】
2023年は、男子校は難関から中堅まで、まんべんなく志願者数を伸ばして厳しい戦いになりました。伝統のある女子校も、相変わらず人気に。活況の埼玉を牽引する栄東(さいたま市)は、今年で、10年続けて志願者が1万人を突破しました。一方で、付属校は人気が一服し、隔年現象が見受けられて増減はまだら模様になりました。(※志願者の数値は、首都圏模試センターによる2月11日時点の集計による) * * * 今年の注目校を、東京から見てみよう。増加率トップは日本学園(東京都世田谷区)で、233人から1322人に増加。実に6倍近くに達した。2026年から明治大学の系列校になり、およそ7割が推薦入試によって進学できるとされていることから、受験生や保護者の好感を呼んだ。明治大学の系列化とともに、校名を「明治大学付属世田谷」と変更し共学になる。 「日本学園は探究型のプログラムがしっかりしており、京王線の明大前駅至近に立地するわりに緑が多く環境も良い。明治大学の系列化をきっかけに興味を持った保護者が、同校の良さを認識したのではないでしょうか」(サピックス教育情報センター本部長の広野雅明さん) ■男子校は志願者数増の傾向 「東京の男子校は日本学園が大幅に伸びて目立ちましたが、実は難関校から中堅校までほとんどの学校が増やしています」(安田教育研究所代表の安田理さん) 足立学園(北区)は589人から1612人と3倍近く増加。本郷(豊島区)は2231人から2590人、高輪(港区)は1653人から1974人と多くが前年以上の志願者を集め、男子校は厳しい戦いとなった。今年は、例年多くの志願者を集める人気の男子校、東京都市大学付属(世田谷区)が入試日程を大きく変更した。昨年まで行っていなかった2月1日の午前入試に参入し、2日の日程を廃止。攻玉社(目黒区)、世田谷学園(世田谷区)、本郷、巣鴨(豊島区)などに影響を与えた模様だ。 女子校で目立ったのは、法政大学との提携を拡充した三輪田学園(千代田区)。志願者数を1180人から1685人と、大きく伸ばした。法政大学に30人の推薦枠を設けるとともに、法政大学の全学共通科目の「数理・データサイエンス・AI教育プログラム(MDAP)」を、ウェブで受講できるようになったことも支持された要因か。 ここ数年、目覚ましい勢いを見せる山脇学園(港区)は2990人から3074人に、田園調布学園(世田谷区)も1147人から1417人に伸びた。 「女子のトップ校は、進学志向が理工系にうつっていますが、それが中堅校にも及んできました。今回志願者を増やした山脇学園はデータサイエンスを中心にSTEAM教育を充実させています。田園調布学園も探究学習のプログラムが充実しており、理系に進む生徒も多い」(安田さん) ■女子校はコロナ禍でのきめ細かいケアが高評価 昨年に続き、女子の伝統校も人気だ。 「コロナ禍で学校見学ができないから伝統校なら安心、というのが昨年の理由でしたが、今年は保護者や受験生が、伝統校の良さを改めて見なおしたと感じます」(声の教育社常務取締役・後藤和浩さん) 十文字(豊島区)は849人から1090人、香蘭女学校(品川区)は1040人から1181人に増加、さらに京華女子(文京区)は451人から738人、中村(江東区)は539人から706人、玉川聖学院(世田谷区)は563人から710人と、中堅校も増加した。 首都圏模試センター取締役教育研究所長の北一成さんは、「女子校はコロナ禍にあって、授業だけでなくメンタル面でもきめ細かくケアしてくれた。それが評価されたのも理由のひとつ」と分析している。 森上教育研究所アソシエイトの高橋真実さんは、女子校の広報戦略をあげる。 「コロナ禍もあって、少人数の学校見学会を数多く実施しましたが、それが保護者に『説明会や個別相談よりも話しやすい』と、評判が良かった。また女子校の特徴は、SNSをフルに活用して発信をしていること。たとえば山脇学園では生徒がインスタの素材を提供したり、清泉女学院(神奈川県鎌倉市)ではライン登録した受験生に在校生が応援メッセージを送ったりしています。PR動画を生徒が作っている学校もありますが、とてもセンスが良い。こういう生徒による取り組みは、先生と生徒の仲の良さも感じさせます」 神奈川を見てみよう。受験者動向について後藤さんは「都内志向が強まっており、意外と神奈川のほうが合格をとりやすかったようだ」と、分析する。 そのようななかで、注目は湘南白百合学園(藤沢市)。志願者を536人から822人と大きく伸ばした。 「もともと教育内容がしっかりしており、入試改革も成功している。それをSNSなどでまめに発信し、学校を可視化していることが人気につながりました」(北さん) 横浜創英(横浜市)は工藤勇一校長が赴任して以来、サイエンスコースを開設するなど改革が奏功し、917人から1156人に伸びた。 千葉、埼玉は全体的に好調。高橋さんは「東京に出ずに、県内で完結する受験生も増えたようだ。やはり県内各校の進学実績が上がってきたのが大きい」と、読む。 千葉は新設の流通経済大学付属柏(柏市)が、784人の志願者を集めた。つくばエクスプレスの沿線住民が増えるなかで子どもの数が増加し、志願者増につながったようだ。さらに昭和学院(市川市)が1000人から1274人に増加した。 埼玉では、栄東(さいたま市)の勢いが止まらない。志願者が1万1017人から1万3792人に増加し、今年で10年連続して1万人を超えた。「栄東は入試問題の質が高く大勢の合格者を出すことから力試しで受験する人も多かったのですが、いまはもうお試しの学校ではなくなってきています。魅力ある学校で、進学希望での受験生も増えています」(後藤さん)。姉妹校の埼玉栄(さいたま市)も好調だ。 ■付属校は志願者数減の傾向 一方で大学付属校は一時期の勢いが落ちつき、学校によって増減がわかれた。早慶の付属校では唯一、新校舎を建築中の早稲田(東京都新宿区)が増加。早慶のほかの系列校は減少に転じた。偏差値が上がり敬遠された模様だ。 MARCH(明治・青山・立教・中央・法政)は立教系列と一部が増加したものの、ほとんどが減少に転じた。 「理系志向が強まっているなかで、MARCHはいずれも文系のイメージが強い。成績上位者が理系に強い私大の付属校や国立に流れたのでは」(安田さん) 昨年人気だった日東駒専(日本大学、東洋大学、駒沢大学、専修大学)も、学校によってまだら模様に。ここ数年、勢いのあった日本大学豊山(東京都文京区)は、2678人から2373人に減少した。 「志願者は減りましたが、以前と比べてレベルは上がり受験層も変化しています」(後藤さん) 24年は埼玉県所沢市に開智所沢中等教育学校が開校する。 「中学受験生が少ないエリアなので、掘り起こしにつながるのではないか」(北さん) また香蘭女学校(東京都品川区)が2科入試を廃止し4科入試に絞るなど、すでに動きが始まっている。志望校のHPなどをマメにチェックし、最新の情報を入手して臨もう。 (柿崎明子)
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23時間前
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管理職「なりたくない6割」時代の背景 出世より「持続可能な働き方」の価値観に変化
約6割が「管理職」に昇進したいと思わない──。目標であり、出世のための階段とされてきた管理職が揺らいでいる。責任の重さ、長時間労働、部下との関係。その憂鬱さ、つらさを訴える声が聞かれる。打つ手はないのか。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 * * * 【管理職 官公庁・企業・学校などで、管理または監督の任にある職。また、その任にある人】 辞書に載っている管理職の定義だ。かつては、出世コース上にあるとされ、多くの人が同期や先輩を出し抜き、我先にと目指したポジションに異変が起きている。 厚生労働省の「労働経済白書」(2018年版)によると、役職に就いていない職員や係長・主任相当の職員で「管理職に昇進したいと思わない」のは61.1%。「管理職以上(役員含む)に昇進したい」の38.9%を大きく上回っているのだ。 厚労省の元労働局長で、事業創造大学院大学の浅野浩美教授(キャリア論)は、 「管理職は、責任が重くなり、長時間労働になるので避けたいと考える傾向が強まっています。また、強く言えば、ハラスメントだと訴えられる可能性だってある。マネジメント力に自信がない人は手を挙げなくなっている」 と説明する。 ■「死にたい」と思った その言葉を痛切に受け止めるのは、東京都内のメディア関連会社員の男性(59)だ。21年、勤務先の副社長を自ら降りた経験がある。 副社長になって4年目のことだ。海外にいることが多い社長に代わって実質的な経営の指揮を執っていたが、相次ぐ新興メディアの台頭で業績が急速に悪化。ギスギスしていく社内の雰囲気が全身に突き刺さるうちに、次第に心のバランスを失ったという。男性は、 「なんとか出社はしていましたが、毎日死にたいと思っていた。限界でした」 と話す。うつ病と診断され、心療内科に通った。他の役員が「しんどいでしょう」と声をかけてくれた時、素直に降格人事を受け入れたという。 同じ頃、信頼し、評価していた部下のひとりからパワハラで訴えられた。 育てようという一心で叱咤激励しながらも、家族のように親しく付き合っていたが、部下には受け入れてもらえず、会社からは懲戒処分を受けた。 「ショックでしたね。約15年前に初めて管理職になった当時は、違う景色が見えたような気がして、高揚感がありました。優秀な部下とともに日夜問わず夢中で働き、休日は自宅に招いて食事会もしていたのに。自分にはリーダーシップがあると思っていただけに、コミュニケーションの取り方に悩むことが増えました」(男性) 20年に実施された厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答した人は31.4%。声をあげやすい環境が整いつつあるということでもあるが、前出の浅野教授は、こう指摘する。 「管理職は、部下の指導によりきめ細やかさを求められるようになりました。その上で、自分の仕事をこなしながら、この変化の激しい時代に職場のパフォーマンスも上げなければならない。大変なことばかりに見えて、敬遠されてしまうのは仕方がない面があります」 ■変化している意識 働き方の変化も「管理職離れ」を加速させている。 例えば、この5年ほどで急速に広がっている「ジョブ型雇用」。会社があらかじめ職務(ジョブ)と賃金を定め、それに見合う技能をもつ人を雇う制度だ。社員は原則その職務以外はせず、年齢が上がっても賃金は増えないとされている。働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、 「昇進はキャリアの断絶だと考えられるようになりました。管理職になることは、必ずしも好意的にとらえられていません。自分のやりたいこと、深めたいことを仕事にしたいと考える人が増えました。管理職になるということは、それまで夢中になってやっていたことができなくなるということです」 と話す。昇進や昇格は、仕事ぶりを評価されているからこそであり、会社からの期待の表れのはず。しかし、 「キャリア形成に対する人々の意識が変化しているということです。さらに、かつては部下といえば『男性新卒プロパー』しかいなかった企業で、非正規雇用、テレワーク、時短勤務など、雇用形態や勤務形態、給与も千差万別な部下をまとめる必要が出てきた。負担を感じる人は多いでしょう」(常見さん) 共働き家庭が増えたことも、管理職に対する意欲に影響を与えているようだ。 静岡県のメーカーで働く男性(60)は、かつて班長として部下を抱えていた時期があるが、課長への打診を断ったことがある。当時、45歳。とても忙しく、まだ保育園児だった2人の子どもの世話は、金融機関でフルタイム勤務をしている妻に任せがち。長期の海外出張に行った時に、妻が精神的にまいってしまったこともあったという。男性は、 「会社からはコストダウンを厳命されていたけれど、人を減らすことしか解決策がない状況だった。その分の仕事は、管理職がカバーしなければならないことは明らか。私がこれ以上忙しくなれば、妻が倒れてしまうと思いました」 と振り返る。妻が仕事を続けることを希望したことに加えて、右肩下がりの経済状況を考えると、共働きを続けられる「持続可能な働き方」を夫婦ともに選択する方が賢明だと判断したという。以来、イチ社員として定年までを過ごし、現在は再雇用の身だ。あの時の判断について男性は、こう話す。 「後悔は全くないです。管理職になっても、たいして給料は上がらない。休日もない状態で働き続けていたら、私自身の心身も家族もボロボロになっていたでしょう」 常見さんは、若い世代を中心に同様の価値観が広がっているとし、 「ストレスなく続けられるということは、働き方のひとつの答え。偉くなるより、一人前になりたいと考え、その選択ができるようになった」 と時代の変化を評価する。 けれど、管理職になりたくない人ばかりになると、組織が立ち行かなくなってしまうケースも出てくるだろう。打つ手はないのか。突破口になるかもしれない興味深いデータがある。 ■意欲が高いのは 21世紀職業財団(東京都)が22年、従業員101人以上の企業に勤務している20~59歳の正社員男女4500人を対象に行った調査によると、「管理職になりたい」割合は、総合職男性24.8%、総合職女性12.0%と、男性のほうが高かったが、「管理職に推薦されればなりたい」との回答は男性31.3%に対して女性は33.2%。わずかに、女性が上回っているのだ。 事業創造大学院大学の浅野教授は、 「上を目指したい気持ちのある女性は多いけれど、躊躇(ちゅうちょ)があることがわかる。自信が持てなかったり、子育てや夫との関係などを考えてしまったり。甘えているように見えるかもしれないけれど、その一方で、推薦されるなど後押ししてくれる理由があれば、管理職をやろうという女性はいるのです」 と話す。 また同財団の別の調査では、女性は男性に比べて、年齢が上がっても仕事への意欲が衰えないこともわかっている。内閣府によると、民間企業の女性管理職比率(課長相当職)は21年時点で12.4%だが、管理職のなり手不足に悩む企業は、この女性たちの意欲を見逃す手はないだろう。 「男女問わず、働く人は上司の言葉、態度、雰囲気で自分が評価されているか否かを感じ取り、それがやる気につながる。性別に基づくアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を取り除き、今こそ企業は本気を見せる時です」(浅野教授) (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋
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「キングオブコントの会」孤高の天才松本人志が新作コントを手掛けることにある意義
『M-1グランプリ』などのメジャーなお笑いコンテストがあると、それを見た人々の間で「あの芸人が優勝したのは納得できない」「こっちの芸人の方が面白かった」「あんなのは漫才ではない」といった意見が飛び交い、論争が起こることがある。 3月4日に放送されたピン芸日本一を決める『R-1グランプリ2023』では、大会そのものの意義を問うような「R-1には夢があるか・ないか論争」が盛り上がっていた。事の発端となったのは、昨年末の『M-1グランプリ2022』で優勝したウエストランドの井口浩之が、漫才の中で「R-1には夢がない」という趣旨の発言をしたことだ。 これを受けて『R-1』の番組内では、優勝して人生が変わった芸人や大会に真剣に挑む芸人の映像を流し、「夢がある」ということを改めて強調していた。また、大会前のファイナリスト記者会見や大会後の優勝者会見などでも、井口の発言を踏まえたやり取りがあった。 『R-1』に夢がないと言われる理由は、そもそも『M-1』に比べると世間の注目度が低く、優勝したり決勝で活躍したりしても、仕事が増えないことが多いからだ。 また、タイミングの悪いことに、今年の『R-1』ではモニター画面に芸人名と点数が誤って表示され、ヤラセがあったのではないかと疑われたりもした。これは明らかにスタッフの人為的なミスなのだが、「これだから『R-1』は……」と世間に見下される原因を自ら作ってしまった感は否めない。 お笑いコンテストを盛り上げるためのカギは、主催するテレビ局が放送後にどれだけその熱を持続させられるかということだ。その年のチャンピオンやファイナリストをほかの番組でも積極的に起用したりすることで、大会の価値を高められるし、出場者のモチベーションも上げることができる。 たとえば、日本テレビが主催する『女芸人No.1決定戦 THE W』の場合、優勝者には賞金1000万円に加えて副賞として「日テレ系番組出演権」と「冠特番」が贈呈されることになっている。このように縦の連携を強化する形で芸人の後押しをすることが重要なのだ。 近年のお笑いコンテストの中で、それがうまくできていると思われるのが、TBSが主催するコントの大会『キングオブコント』である。というのも、この大会の関連番組として2021年に『キングオブコントの会』が始まり、これが大いに盛り上がりを見せているのだ。 『キングオブコントの会』では、ダウンタウンの松本人志、さまぁ~ず、バナナマンに『キングオブコント』の過去のチャンピオンやファイナリストの芸人が加わって、さまざまな種類のユニットコントを披露する。 しかも、特筆すべきは、その中に松本が書き下ろした新作コントも含まれているということだ。『ダウンタウンのごっつええ感じ』『松本人志のコント MHK』といった、かつての松本のコント番組では、彼自身の発想がベースになっていて、彼の意向が全面的に反映された作りになっていた。 だが、『キングオブコントの会』では、出演する芸人たちが自ら考えたコントを演じていて、松本が作ったコントもその中に含まれているだけだった。 しかも、松本が手がけたコントの中では複数の芸人が出ていて、それぞれの芸人が自由に何をやってもいいと松本に任されているパートがあったことも明かされていたことがあった。 つまり、この番組で松本は孤高の天才として独裁的に振る舞うことをせずに、後輩芸人たちの自主性を尊重して、のびのびとコントを演じさせているのだ。そのため、『キングオブコントの会』は、過去の松本のコント番組と比べても和気あいあいとした空気が流れる温かみのある番組に仕上がっていた。 コントでは視聴率が取れないと言われる時代に、『キングオブコントの会』は高視聴率だったため、今年も3月25日に放送されることになった。『キングオブコント』で結果を残したコントを本業とする芸人たちが、笑いのカリスマである松本の前で存分に腕を振るうのが見どころだ。 お笑い界にとって意義のある番組であると同時に、視聴者にとって面白い番組だし、『キングオブコント』という大会を盛り上げる効果もある。『キングオブコントの会』は一石三鳥の良質なお笑いコンテンツなのだ。(お笑い評論家・ラリー遠田)
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19時間前
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幸せ度は表情に表れる、スッキリかモヤッとか毎日チェックしてみて しいたけ.さんがアドバイス
AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 * * * Q:私はやりたいことが多すぎたり、ありがたいことにお誘いしてもらえることが多く、予定がいつもパンパンになってしまいます。周りにももっと休みなよって言われるのですが、まだいけると思ってしまい予定を入れ続けて疲れることが多いです。しいたけ.さんはどのようにスケジュール管理したりお断りする術を身につけていますか?(女性/25歳/おひつじ座) A:このご相談、すごく好きなんです。予定が常にパンパンである種ちょっと暴走気味の生活。正直に言うと、ぜひそのまま心ゆくまでやってみてほしいなと思っちゃいました。 大人になって魅力的な人たちって、若い時に必ず「やりすぎ」がある人たちなんじゃないかと思っています。 「休日はちゃんと休みなよ」とか「自分を大事にしなよ」みたいなことを周りの人から言われるぐらい、土日に飲み歩いていたり。そういう何かしらの「やりすぎ」をちゃんと消化してきた人たち。 人にはそれぞれ適応年齢みたいなものがあります。バランスを取ったり利口になったりする年齢が、人によって違うような気がするんですよね。25歳で訪れる人もいるし、人によっては35歳で訪れるかもしれない。それまでは、周りの常識的なアドバイスが届かないぐらいのエネルギー値にいるみたいな感じ。その間は、突っ走っちゃってもいい気がするんですよね。 僕は、その人の「幸せ度」は表情に表れると思っています。占いを通じていろんな人たちに会ってきましたが、自己管理をしっかりして休みをとって、バランスよく暮らしている人たちの、表情の幸せ度が高いかというと、必ずしもそんなことはありません。 逆にむちゃくちゃな生活をしている人でも、結構スッキリした顔をしている人っていうのもいるんですよね。でもこれには客観的な基準があるわけではありません。だからぜひやってみてほしいのが、鏡で自分の顔の幸せ度をチェックし続けることです。 感覚的な話になってしまいますが、顔の表情に陰りが見えてきた時は、休んだほうがいい時です。楽しくなくなってきている、ということだから。誘いをお断りして、自分を大事にする時間を持つほうがいいと思います。 自分の表情を1日1回ちゃんとチェックする。これは、調子が悪い時にこそ、おすすめしたいです。無理やり笑ってみるとかもやってみて。表情がスッキリしてるか、モヤッとしてるか。信用できる一つの基準になると思います。 おひつじ座は、暴走する計画屋みたいなところがあります。旅行の時は分刻みで予定を入れたり、飲み会では1次会、2次会とエネルギーが変わらないまま3次会に突入するみたいな。周りがちょっとついていけないぐらいのテンションが持続します。でも、僕はおひつじ座のこういうところが好きだから、「やりすぎ」をぜひやってほしいと思う。それで表情がスッキリしているなら、まだ大丈夫です。 ◎しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気※AERA 2023年3月27日号
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「立憲は大変な候補者出してきた」山口4区に有田氏参戦 安倍昭恵氏「主人の遺志継ぐ人を」
衆参5補欠選挙が、4月11日に告示される。昨年7月、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、空席となった衆院・山口4区に、前参院議員の有田芳生氏(71)が立憲民主党から立候補することを表明した。当初は、安倍元首相の「弔い選挙」で“無風”と見られていたが、有田氏の立候補表明で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が争点になりそうだ。 安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の霊感商法や献金問題がクローズアップされたのを受け、昨年末の臨時国会で不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が成立した。世論の盛り上がりも一時に比べ、落ち着きを見せてきたなかでの補欠選挙。 自民党は山口4区で、安倍元首相の後援会が推す前下関市議の吉田真次氏(38)を公認すると2月10日に発表した。吉田氏は、安倍元首相が使っていた場所で事務所開きをし、「安倍元総理の思いをしっかり引き継いでいく」と安倍元首相の後継であることを強く訴えた。安倍元首相の妻・昭恵さんも知名度を生かし、吉田氏とミニ集会にも参加。「主人の遺志を継いでくれる吉田氏を応援してほしい」と訴えているようだ。 吉田氏の公認が発表された以降も、野党は山口4区の公認候補がなかなか決まらない状況が続き、当初は“無風”との見方が強かったが、有田氏の立候補表明で局面が変わった。 自民党としては、沈静下していた旧統一教会の問題が蒸し返され、争点になるのは避けたい算段だったようだが、有田氏は出馬表明の会見で「旧統一教会と安倍元首相の長期政権の審判が争点」などと強調した。 自民党の山口県連のある幹部は、「立憲民主党は大変な候補者を出してきた、というのが正直なところ」と語った。 有田氏は、フリーのジャーナリストとして約40年も前から旧統一教会問題を追及し、昨年7月まで参院議員を2期務めた。 立憲民主党の大串博志・選対委員長は、 「昨年夏に参院選が終わり、しばらく国政選挙はないと見られていたなかで、補選が衆参で計五つもある。野党としてなんとか一矢報いたい。とりわけ安倍元首相の地元、山口4区は保守王国ということもあり、候補者を探したけど手を挙げる人がいない。そうした状況のなか、1月末に私が直接有田氏に『旧統一教会問題を訴えるには最高の場ではないか』と出馬をお願いし、決断していただいた」 と党本部主導の擁立だったと明かした。 さらに、自民党にとって山口4区は、野党との戦いとは別に党内の派閥争いもはらんでいる。 山口4区で有権者が多いのは、人口25万人ほどの下関市だ。安倍元首相の地盤だったが、林芳正外相も下関市が「おひざ元」と公言してはばからない。 中選挙区制の時代は、安倍元首相の父、安倍晋太郎元外相と林外相の父、林義郎元蔵相(現・財務相)が激しく争った。 その流れを顕著に表すのが下関市議会だ。自民党会派は「安倍派」といわれる「創世下関」と、「林派」といわれる「みらい下関」という大きな勢力に分かれている。 今年2月の市議選で、安倍派は9人から6人に減ったが、林派は12人から13人に増えた。山口県は次の総選挙では小選挙区の区割り変更「10増10減」で四つの小選挙区が三つになる。 山口4区は山口3区と一体となるような区割りとされ、外相という要職を務める林氏が新山口3区の候補者として有力視されている。 ただ、今回の補欠選挙は「10増10減」の対象にならず、現行のままなので吉田氏が公認となる複雑な状況だ。 「勢いの差というのか、下関市議選では林派が台頭し、親分の安倍元首相を失った安倍派は後退という結果に。その後、林派が議長選でも勝利した。しかし、吉田氏が圧勝すれば、新山口3区に出たいと言ってくるのは間違いない。新山口3区にほぼ内定している林氏としては面白くないでしょう。統一地方選と同じタイミングでの補選だけど、林派はあまり力が入っていない。安倍派も親分がいないので、まとまりに欠ける。そこに有田氏という知名度がある候補者が来たので、選挙戦は楽勝ムードが一転して混沌(こんとん)としている」(前出・自民党山口県連幹部) 2月26日の自民党の党大会で、岸田文雄首相は総裁として、 「補欠選挙は今後の国政に大きな影響を与えるかもしれない、大変重要な選挙。なんとしても自民党の議席を守り抜いていこう」 などと力説した。 支持率低迷にあえぐ岸田政権にとって、補欠選挙はどの選挙区も落とすわけにはいかないが、野党が強い地盤といわれる参院・大分選挙区や、政治とカネの問題で薗浦健太郎氏が辞職した衆院・千葉5区については、厳しい見方をする自民党幹部もいる。 「大分と千葉は厳しい戦いになるでしょう。残る三つをとらなければ、岸田政権の存亡にかかわります。しかし和歌山1区も維新が候補者を擁立したので激しい争いになります。もし負け越しとなれば、岸田降ろしの序章となりかねません。岸田首相が前倒しで救済新法を成立させて沈静化したのに、山口4区に有田氏が出馬することで再び旧統一教会問題がクローズアップされ、政局になる危険性もはらんでいます。それが起爆剤になって、旧統一教会問題がまた広がって大騒ぎになり、統一地方選でも結果が出なければ、岸田政権が瀬戸際に追い込まれかねません」 と険しい表情だ。有田氏は、 「(自身の出馬で)選挙が面白くなってきたでしょう。旧統一教会問題は救済新法ができたといってもまだ終わったわけじゃない。山口4区で旧統一教会問題を語ることがタブーともされています。しかし私は旧統一教会問題を争点に掲げて、積極的に訴えていきます」 山口4区には、吉田、有田両氏のほか、政治家女子48党幹事長の黒川敦彦氏(44)も立候補を表明している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)
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「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔
対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 * * * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。 でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」 快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。 この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。 お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」 なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」 と。願ってもない話だった。 なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。 挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。 大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」 原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」 と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔 私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」 と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。 連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」 というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。 16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」 とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。 私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」 と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。 古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」 私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日 2023年3月31日号
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「最強の城」2位は江戸城、1位は? 駅近な城、城郭が多い都道府県…近世城郭“何でも”ランキング!
「どの城が一番なのか?」。城ファンが集まると話題がつきないテーマの一つである。週刊朝日ムック『歴史道 Vol. 26 江戸三百藩の名城大図鑑』では、近世城郭“何でもランキング”を掲載。ここでは、普請、作事、立地、戦略、権威の5つの指標から分析した「最強の城」や、「標高が高い城」「駅近な城」「近世城郭が多い都道府県」のランキングを紹介する。 * * * ■最強の城 ベスト5 幕藩体制において、もっとも格式の高い城郭として位置づけられたの、将軍家が鎮座する江戸城だった。ただし、敵を迎撃する城として評価してみると、巨大過ぎて締まりがなく、最強の近世城郭かというと疑問が残される。そこで、最強の近世城郭を選考するため、パラメータを設定し、採点した。 2位の江戸城は、全体的な締まりがないため、戦略の項目を減点。1位の大坂城は、各項目の均整が保たれ、最強の近世城郭の称号にふさわしいスペックを誇った。採点には本項執筆者の主観も潜在しており、独自のランキング作成もお勧めしたい。 1位 / 大坂城 97点普請 20点、作事 20点、立地 19点、戦略 19点、権威 19点 大坂夏の陣で陥落したのち、徳川幕府によって再建され、最強の近世城郭へ変貌を遂げた。本丸の石垣は日本一の高さを誇る。 2位 / 江戸城 95点普請 20点、作事 20点、立地 19点、戦略 17点、権威 19点 本丸と西の丸という二つの中核が存在する巨大城郭。縄張りを担当したのは藤堂高虎。 3位 / 熊本城 94点普請 20点、作事 19点、立地 19点、戦略 18点、権威 18点 加藤清正が築いた西国一の名城。普請をはじめ、パラメータのバランスは最高水準を誇る。 4位 / 姫路城 92点普請 18点、作事 19点、立地 20点、戦略 17点、権威 18点 3棟の小天守を従えた連立式天守は、江戸城や大坂城よりも威圧感を示した。 5位 / 名古屋城 91点普請 19点、作事 19点、立地 18点、戦略 17点、権威 18点 最強の平城。江戸城天守が失われたのち、名古屋城天守は日本一へ昇格 * * * ■標高が高い城 ベスト10 日本一標高の高い城郭は、1760mの贄川城とされ、戦国の山城であれば、標高1000m級が列挙される一方、近世城郭に限定すると、800mクラスの高遠城が1位となる。 現存12天守のうち、もっとも標高の高い地点に築かれたのは、山城の備中松山城ではなく、平城の松本城であり、山国信濃(長野県)は、半数の5城を占めた。 1位 / 高遠城 804m 2位 / 高島城 760m 3位 / 岩村城 717m 4位 / 小諸城 658m 5位 / 松本城 592m 6位 / 高取城 583m 7位 / 上田城 456m 8位 / 備中松山城 430m 9位 / 三春城 407m 10位 / 沼田城 400m * * * ■駅近な城 ベスト5 現代の住居では駅近の物件が好まれるように、城跡も駅から近ければ、集客力を期待できる。ただし、駅が近過ぎると、長岡城のように遺構の破壊という悲劇も生じた。 1位 / 長岡城 JR上越新幹線長岡駅 徒歩0分 1898年、北陸鉄道(北陸本線)の長岡駅開業とともに本丸の遺構は消滅。駅構内には城跡であったことを示す案内板等が設置される。 1位 / 三原城 JR山陽新幹線三原駅 徒歩0分 山陽新幹線の建設とともに本丸は分断されたが、新幹線のホーム下には、往時の石垣が現存。見学通路をたどれば、天守台を探査できる 3位 / 高松城 高松琴平電鉄高松築港駅 徒歩2分 4位 / 福山城 JR山陽新幹線福山駅 徒歩3分 5位 / 明石城 JR山陽本線明石駅 徒歩5分 * * * ■近世城郭が多い都道府県 ベスト5 今回ランクインした城が密集するエリアには、譜代大名や親藩大名が配置される傾向が強かった。それらは隣国の強大な外様大名を監視する役割を果たし、幕藩体制の安定に貢献した。 1位 / 福島県 9城 会津若松城・猪苗代城・福島城・三春城・二本松城・白河城・平城・相馬中村城・棚倉城 1位 / 三重県 9城 長島城・桑名城・神戸城・伊勢亀山城・津城・田丸城・松坂城・伊賀上野城・鳥羽城 3位 / 長野県 8城 飯山城・松代城・上田城・小諸城・松本城・高遠城・高島城・飯田城 3位 / 愛知県 8城 吉田城・田原城・岡崎城・西尾城・刈谷城・挙母城・名古屋城・犬山城 3位 / 兵庫県 8城 尼崎城・篠山城・明石城・姫路城・龍野城・赤穂城・出石城・洲本城 (監修・文/外川 淳) ※週刊朝日ムック『歴史道 Vol. 26 江戸三百藩の名城大図鑑』から抜粋
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「管理職の仕事」ポジティブにとらえ奮闘する人たち 「なんて自由なんだ!」驚きの声も
責任の重さ、長時間労働、部下との関係……。「管理職」にはネガティブなイメージがつきまとう。一方で、醍醐味を見いだす人もいる。今どきの管理職事情を取材した。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 * * * 管理職であるからこそ、労働時間が調整しやすいという声もある。会議や納期の期日設定などの主導権を握ることができるからだ。 都内のコンサルタント会社でディレクターを務める女性(47)が初めて管理職になったのは、外資系メーカーで働いていた32歳の時だ。 「なってみて、なんて自由なんだ!と驚きました」 と笑う。ゴールデンウィークなどが飛び石連休になれば、自分も部下もまとまった休みが取れるように仕事を調整。人を育てるというミッションにも価値を見いだし、以来、転職はしているが、管理職のポジションを満喫しているという。 「リーダーになれば、組織のことが本当の意味でわかると思うので、やってみたい」 と話すのは、都内のアーキビストの女性(47)だ。 大学卒業後、5年ほど出版社に勤務し、退職。2人の娘を育てながら、フリーライターなどの仕事を続けてきた。現在は、私立学校で古文書や公文書の保存・管理を担い、4月からはフルタイム勤務になる予定だ。これまで管理職の経験はないが、数年後に上司が定年退職すれば、管理職である室長になる可能性があるという。女性は、来たる未来について、こう話す。 「不安もあるけれど、勤務先の女性事務長が仕事のできる人で、素直にかっこいいなと思い、尊敬している。仕事の根回しはどうして必要なのか。本当にやりたい仕事を実現させるためにはどうすればいいのか。管理職になってから考えてみたい」 ■たまたまなるものに 働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、管理職のイメージをネガティブからポジティブに転換するために「閣僚制度」を提案する。 内閣が組閣され、入閣した議員や学者が次の内閣では入閣しないことは多々ある。これを、誰も必ずしも降格されたとは思わない。 「一般企業の管理職も『ゴール』『通過すべき点』という位置づけから外すのです。課長や部長は、誰もがたまたまなるものにしてしまえばいい。ミッションが終われば、一般社員に戻って働く。そうすることで、管理職への受け止め方は大きく変わるでしょう」(常見さん) 時代の変化に対応しながらも、より良い組織運営のために尽力する管理職を確保すること。これからの企業に求められていることだろう。 ■80歳まで働くなら 「管理職の仕事」をポジティブなものとしてとらえ、日々奮闘する人は他にもいる。 子ども向けブランドの会社で働く大阪府の女性(42)は、1年ほど前から15人の部下を率いる「PRマーケティング部部長」を務めている。 「たしかに管理職は大変な面もあります。部下たちにとって求心力のある上司でありたい意識は強いのですが、辞めるときは辞めてしまう。人の管理は難しい。でも一方で、大きな裁量のある仕事を任され、会社に貢献できることは管理職ならではのモチベーションになります」 女性は管理職の仕事を「いずれ経営者になるためにも必要」とも位置づけている。 「私たち以降の世代は80歳まで働く世代だと言われます。人生のほとんどを何らかの『仕事』に費やすことになるので、サラリーマンでなくとも起業する、個人事業主として仕事をするなど、あらゆる場面で個人の能力が問われる時代になってきたと感じています。管理職の仕事は大変さはあるけれど、経験値が多くて損をすることはない。与えられたチャンスをものにして、もっと女性の活躍を広めていってもらいたいと思います」 管理職の醍醐味とは、何なのか。組織内のチーム開発にくわしい立教大学経営学部助教の田中聡さんは、管理職の仕事とは「他者を通じて事をなす」ことだと話す。 「そこにいる人たちの強みを最大限引き出し、組織の成果に結びつけていく。きわめて高度な専門性が求められる仕事です。言い方を変えれば、自分ができる限界を超えてチームの力を使うことができる。それを生かす裁量権が与えられていて、行使できる。これは管理職の醍醐味だと思います」 では、そんな魅力が働く人に伝わるにはどうすればよいのか。田中さんは、何よりも会社側の努力が必要だと指摘する。 たとえば、「あれもこれも」になりがちな管理職の仕事について「これはやるべき、ここからはやらなくていい」という線引きも含めて役割を明確にすること。その人がこれまで経験したことがない新しいポストへの異動も含め「成長の機会を増やしていくこと」。そして、管理職の報酬を他のメンバーとの差をきちんとつける形で上げること。そういった環境整備が大前提だと田中さんは言う。 ■ポジティブな見方も 「さらに大事なのは、管理職に魅力を感じて働いている人の声を、社内に向けて発信する機会を作ることです。たしかに管理職になりたくないと言う人は多いし、その傾向は強まっている。でも『なってみたら意外とよかった』と話す人も少なくないんです。車座対話を開いてもいいし、新入社員研修の場で話すのもいい。ポジティブな見方をきちんと発信していってほしい」 神奈川県でメーカーに勤務する50代後半の女性も、会社が管理職の仕事の魅力を発信できていないことに不満を持つ一人だ。「私は管理職をぜひ経験したかったけど、年齢的に私はもう難しい。心残りです」と話す。 「私の会社はいまだに男性優位で、女性管理職は数%という難しい状況もあります。ただ、管理職に就いている人たちはと言えば『大変だ』『いいことなんか何もない』と愚痴る人ばかり。そんな負のオーラを出す人はそもそも管理職に向かないでしょ。若い人が管理職に良いイメージを持つはずがありません」 ■次の世代を見すえて 人事権があり、会社の上層部と直接交渉ができ、他の人を評価することでモチベーションアップにも貢献できる。やりがいは多いはず。上の人間が管理職の良い面を見せ、それを見た若手が育っていかないと会社も成長しないと女性は言う。 「管理職は『なったら上がり』の職種ではありません。管理職になって何をやりたいのか自分なりにイメージして、自分のためだけでなく働く部下や組織が健全に成長できるよう考えて動ける人は、管理職になってほしい。何よりも『次の世代』のことを見すえることが大事。その考え方でつながっていかないと、社会も成長しないと思うんです」 (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋
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闇バイトに集う若者の生々しい“青春”を描写? 川上未映子が描く新作
作家・長薗安浩さんの「ベスト・レコメンド」。今回は、『黄色い家』(川上未映子 中央公論新社、2090円・税込み)を取り上げる。 * * * いくつもの作品が翻訳されて海外でも高い評価を得ている川上未映子の新作『黄色い家』は、2020年の春、40歳の伊藤花が小さなネット記事に見覚えのある名前を見つけた場面からはじまる。吉川黄美子60歳。彼女が若い女性を監禁・暴行した罪で逮捕されていたと知り、花は忘却していた過去を思いだす。 花が初めて黄美子に会ったのは15歳の夏休みだった。花はスナックで働く母親と粗末な文化住宅に暮らし、そんな生活から抜け出すためにアルバイトで貯めていた金を、高校2年の夏、母親の恋人に盗まれる。花は絶望するが、そんなときに黄美子に再会し、家を出て彼女と同居。2人でスナック「れもん」を開店する。 年齢を偽って酒は飲んでも、花は真面目によく働く。風水では金運をもたらす黄色にこだわり、とらえどころのない(おそらく障害を抱えている)黄美子に代わって経営や将来について考え、工夫し、地道に貯える。ほどなく、同じように行き場のない同世代の蘭と桃子も店にくわわる。花は4人で暮らせる家を借りてさらに奮闘するが、状況が悪化すると、裏社会に足を踏み入れる。 たとえそれが非合法でも、花は必死で働く。むろん金のための悪事だが、彼女に物欲はない。どうにか黄美子たちとの生活を守るため、時々の条件下で自分なりに選択し、覚悟をもって仕事をこなしていく。それは一般的には暗黒の数年間だが、未熟で一途な花の青春の物語としても読める点に、この作品のフェアな魅力を感じる。 生々しい花の青春に引きこまれた私は、読了してからきょうまで、闇バイトに集う若者について何度も考えている。※週刊朝日 2023年3月31日号
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4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか
NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 * * * NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。 この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。 実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。 NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。 過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。 新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。 村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。 ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。 新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」 NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。 「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)
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「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法
人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 * * * GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。 脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」 差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。 東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」 そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。 ■GPT力も評価対象に すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」 と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」 として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」 海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。 米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。 こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」 さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋
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賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も
育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 * * * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」 そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。 読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする> インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言 この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」 この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。 電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」 丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」 三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」
3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」 投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」 岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」 松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」 年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」 高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇ 命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。 刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」 昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」 それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」 現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」 しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日 2023年3月31日号
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同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア
「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」。読売新聞オンラインが3月12日、三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」に触れ、冒頭のように題した記事を配信すると、掲載された「Yahoo! ニュース」などで制度に賛同するコメントがあふれかえった。育休をとりやすい職場環境づくりの一環としての新制度だが、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を改善。この短期間で大きく動いたのだ。同社人事部部長の丸山剛弘さんに立案に至るまでの経緯と、社内での反応を聞いた。 ※記事の前半<<賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も>>から続く * * * 社員が育児休業を取った際に職場の同僚全員に、最大10万円の一時金を給付する「育休職場応援手当」という制度をつくったきっかけは、舩曵真一郎社長が以前から抱いていた課題意識だった。「社会問題の一つとして少子化が大きな課題となっている。その解決に貢献するような、イチ企業としてできる人的投資、制度改定を考えてほしい」という指示が出ており、年明けに人事担当役員と人事部メンバーで、ブレストを行うことにしていた。 丸山さんが言う。 「1月6日、福岡の実家からリモートで会議に参加し、参加メンバー全員で、それぞれが考えたアイデアを持ち寄って論議しました」 リモート会議の出席者は人事担当役員や人事部長ら5人。しかし、これ以上何ができるのか、頭を抱えた。というのも、すでに同社は育児についての支援をかなり充実させていたからだ。 「例えば、男性社員の育休1カ月取得を21年6月から義務化しています。男性社員に対して育休取得を推奨している企業は多い。なので、取得率100%の会社はそれほど珍しくありません。ただ、対象者全員が1日でもとれば取得率は100%になります。しかし、それではあまり意味がない。社長の舩曵は、少子化対策などとともに、産後うつ防止についても気にかけていました」 産後の女性の死因の1位は自殺である。その大きな要因は産後うつだ。出産に必要な女性ホルモンは子どもを産むと急激に減少し、ホルモンバランスが大きく崩れ、うつが引き起こされる。産後うつのピークは出産後2週間から1カ月といわれる。 「そこで夫が休業をとって妻をしっかりと支える。なので、男性社員が育児休業をとるのは当たり前で、産後できるだけ早い時期に連続して休業をとることが重要だと伝えてきました」 実は、育休の取得日数が少ない、いわゆる「とるだけ育休」が特に横行しているのが金融・保険業界である。なので、こうした取り組みはかなり珍しい。さらに社長が産後うつの問題にまで言及して育休取得を進めるのは異例のことである。 ■それより人を増やしてくれよ リモート会議に話を戻そう。 「これまでさまざまな育児支援の仕組みを充実させてきましたから、これ以上、産育休者本人に手当などを増やしてもあまり効果は見込めないかな、という話になりかけたときに、じゃあ、本人ではなく、まわりの人に一時金を支給するのはどうでしょうか、と言ったんです」 筆者は、思わず言葉が出てしまった。「そんなアイデアがよく出ましたね」と。 「いや、たぶん人事を長くやっている人だったら誰でもそういうことは考えていると思います」 丸山部長は謙虚にそう指摘し、さらに、続けた。 「なぜ、育休をとりにくいかというと、休む人は職場の人に迷惑をかけてしまうので、申し訳ないとどうしても思ってしまいます。まわりの人は、おめでとう、と祝福するのが普通ですが、心のどこかに、ああ負担が増えるな、とモヤモヤした気持ちも抱えてしまいがちです」 ちなみに、ヤフコメには「手当を支給するよりも人を増やしてくれよ」という声もあったが、同社は代替要員の配置を以前から行ってきた。 「でも、そう簡単ではないんですよ。すべての産育休のケースで代替要員を配置できるものではありません。部支店の要員計画とも関連がありますし、また、特に業務内容が高度になればなるほど難しい。同等のスキルや経験を持った人材が見つからないとか、見つかっても仕事を教えるのが大変とか。そういう不満はなかなかゼロにはならない。なので、数字のうえでは育休の取得率も取得日数も問題ないように見えても、本当に気兼ねなく育休をとれているか、周囲も心から快く応援できているかといったら、改善の余地が大きいよねと。そこで、本人ではなく、職場を支えるまわりの人にも一時金を支払い、会社全体で育休を応援していこう、という案を出した。そうしたら、『それ、いいね。それでいこう』という話になった」 丸山部長は人事部の課長とともに、制度を設計した。勘案したのは職場の規模と、実際の育休の取得日数である。 「今は男性と女性の育休の期間がかなり違います。女性は平均約17カ月(産休を含む)、男性は平均37日(法律上の育児休業取得日数[現在平均6.4日]と併せて取得する連続休暇やそれに続く土日・祝日を含めた暦日ベースでの育児休業・休暇等の平均日数)。その実態を踏まえて、女性が休んだときには多く支給するほうが本人の気兼ねが軽減できるし、まわりの社員の納得感も得られると思いました。それで最初は男女で支給金額に差を設けた」 冒頭で触れたように、この案が報道されるとインターネット上に賛同の声が一気に広まった。その一方で、「男女別でなければもっといいのに」という声も上がった。 「現状、男性の育休取得日数は女性に比べて短いですけれど、なかには子どもが1歳になるまで休みたい、という人もいるわけです。そういう声を聞いて、なるほど、と思った。今は少数派ですが、そういう男性を応援していかなければならない。そこで、性別ではなく、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えることにしました」 なぜ、3カ月で区切ったのか? 「数は少ないですが、キャリアの断絶をできるだけ少なくしたいと、出産後、育休をとらない女性もいます。当社の場合、産前・産後休暇は約3.7カ月です。そこで、職場に早く復帰したいという女性の妨げにならないように、3カ月を基準にしました。また、産前・産後休暇の期間も育休取得予定期間に含めて判定するルールとしました。そうすれば、産後すぐに職場復帰してもまわりの人に10万円が支払われます(職場規模13人以下の場合)。また、男性社員の育休取得日数は、今は平均37日ですが、3カ月以上の取得を目指しやすくなります。今は少ない長期取得者も周囲からより受け入れられやすくなるでしょう。男性、女性、どちらの少数派に対しても背中を押せるような制度にしました」 ■経営陣に恵まれた 丸山部長は「本当に経営陣に恵まれたと思います」と語る。 「これまでに同様な仕組みを考えた人事担当者はたくさんいると思うんです。でも、そのような意見を下から上げたとき、変な制度じゃないか、とか言われてしまう可能性がある。ところがそれを、やろう、と言ってくれた。そんな『経営陣がすごい』というコメントがありましたが、確かにそうだな、と思いました」 社内の反応は上々という。 「お子さんのいる女性から『安心して2人目をもうけようという気持ちになれる』という声を直接聞きました。そのとき、ああ、これは本当に少子化対策にも貢献できるんじゃないか、と思いました。非常に嬉しく感じました」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)
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「立憲は大変な候補者出してきた」山口4区に有田氏参戦 安倍昭恵氏「主人の遺志継ぐ人を」
衆参5補欠選挙が、4月11日に告示される。昨年7月、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、空席となった衆院・山口4区に、前参院議員の有田芳生氏(71)が立憲民主党から立候補することを表明した。当初は、安倍元首相の「弔い選挙」で“無風”と見られていたが、有田氏の立候補表明で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が争点になりそうだ。 安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の霊感商法や献金問題がクローズアップされたのを受け、昨年末の臨時国会で不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が成立した。世論の盛り上がりも一時に比べ、落ち着きを見せてきたなかでの補欠選挙。 自民党は山口4区で、安倍元首相の後援会が推す前下関市議の吉田真次氏(38)を公認すると2月10日に発表した。吉田氏は、安倍元首相が使っていた場所で事務所開きをし、「安倍元総理の思いをしっかり引き継いでいく」と安倍元首相の後継であることを強く訴えた。安倍元首相の妻・昭恵さんも知名度を生かし、吉田氏とミニ集会にも参加。「主人の遺志を継いでくれる吉田氏を応援してほしい」と訴えているようだ。 吉田氏の公認が発表された以降も、野党は山口4区の公認候補がなかなか決まらない状況が続き、当初は“無風”との見方が強かったが、有田氏の立候補表明で局面が変わった。 自民党としては、沈静下していた旧統一教会の問題が蒸し返され、争点になるのは避けたい算段だったようだが、有田氏は出馬表明の会見で「旧統一教会と安倍元首相の長期政権の審判が争点」などと強調した。 自民党の山口県連のある幹部は、「立憲民主党は大変な候補者を出してきた、というのが正直なところ」と語った。 有田氏は、フリーのジャーナリストとして約40年も前から旧統一教会問題を追及し、昨年7月まで参院議員を2期務めた。 立憲民主党の大串博志・選対委員長は、 「昨年夏に参院選が終わり、しばらく国政選挙はないと見られていたなかで、補選が衆参で計五つもある。野党としてなんとか一矢報いたい。とりわけ安倍元首相の地元、山口4区は保守王国ということもあり、候補者を探したけど手を挙げる人がいない。そうした状況のなか、1月末に私が直接有田氏に『旧統一教会問題を訴えるには最高の場ではないか』と出馬をお願いし、決断していただいた」 と党本部主導の擁立だったと明かした。 さらに、自民党にとって山口4区は、野党との戦いとは別に党内の派閥争いもはらんでいる。 山口4区で有権者が多いのは、人口25万人ほどの下関市だ。安倍元首相の地盤だったが、林芳正外相も下関市が「おひざ元」と公言してはばからない。 中選挙区制の時代は、安倍元首相の父、安倍晋太郎元外相と林外相の父、林義郎元蔵相(現・財務相)が激しく争った。 その流れを顕著に表すのが下関市議会だ。自民党会派は「安倍派」といわれる「創世下関」と、「林派」といわれる「みらい下関」という大きな勢力に分かれている。 今年2月の市議選で、安倍派は9人から6人に減ったが、林派は12人から13人に増えた。山口県は次の総選挙では小選挙区の区割り変更「10増10減」で四つの小選挙区が三つになる。 山口4区は山口3区と一体となるような区割りとされ、外相という要職を務める林氏が新山口3区の候補者として有力視されている。 ただ、今回の補欠選挙は「10増10減」の対象にならず、現行のままなので吉田氏が公認となる複雑な状況だ。 「勢いの差というのか、下関市議選では林派が台頭し、親分の安倍元首相を失った安倍派は後退という結果に。その後、林派が議長選でも勝利した。しかし、吉田氏が圧勝すれば、新山口3区に出たいと言ってくるのは間違いない。新山口3区にほぼ内定している林氏としては面白くないでしょう。統一地方選と同じタイミングでの補選だけど、林派はあまり力が入っていない。安倍派も親分がいないので、まとまりに欠ける。そこに有田氏という知名度がある候補者が来たので、選挙戦は楽勝ムードが一転して混沌(こんとん)としている」(前出・自民党山口県連幹部) 2月26日の自民党の党大会で、岸田文雄首相は総裁として、 「補欠選挙は今後の国政に大きな影響を与えるかもしれない、大変重要な選挙。なんとしても自民党の議席を守り抜いていこう」 などと力説した。 支持率低迷にあえぐ岸田政権にとって、補欠選挙はどの選挙区も落とすわけにはいかないが、野党が強い地盤といわれる参院・大分選挙区や、政治とカネの問題で薗浦健太郎氏が辞職した衆院・千葉5区については、厳しい見方をする自民党幹部もいる。 「大分と千葉は厳しい戦いになるでしょう。残る三つをとらなければ、岸田政権の存亡にかかわります。しかし和歌山1区も維新が候補者を擁立したので激しい争いになります。もし負け越しとなれば、岸田降ろしの序章となりかねません。岸田首相が前倒しで救済新法を成立させて沈静化したのに、山口4区に有田氏が出馬することで再び旧統一教会問題がクローズアップされ、政局になる危険性もはらんでいます。それが起爆剤になって、旧統一教会問題がまた広がって大騒ぎになり、統一地方選でも結果が出なければ、岸田政権が瀬戸際に追い込まれかねません」 と険しい表情だ。有田氏は、 「(自身の出馬で)選挙が面白くなってきたでしょう。旧統一教会問題は救済新法ができたといってもまだ終わったわけじゃない。山口4区で旧統一教会問題を語ることがタブーともされています。しかし私は旧統一教会問題を争点に掲げて、積極的に訴えていきます」 山口4区には、吉田、有田両氏のほか、政治家女子48党幹事長の黒川敦彦氏(44)も立候補を表明している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)
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J2に“定着”してしまった元J1クラブは、今季こそ「沼」から抜け出せるのか
J1と同時に開幕した2023年のJ2リーグ。今季も全22チームによるタフな戦いが予想されるが、例年と異なる点は3チームがJ1へ昇格できることにある(1位と2位が自動昇格、3位~6位はプレーオフを行い優勝チームが昇格)。J1昇格のチャンスが広がっている中、かつてはJ1の常連でありながらも、すっかりJ2に定着しているクラブは、今度こそ「J2の沼」から抜け出すことができるのだろうか。 J1経験クラブで、最も長く「沼」にハマり続けているのが、東京Vである。読売クラブを前身にJ発足直後はV川崎として黄金時代を謳歌したが、次第にチーム力が低下し、2005年に初のJ2降格。2008年にJ1復帰も1年で即降格となり、2009年以降はJ2暮らしが続いて今季で15年目。2017年、18年と2年連続でJ1昇格へのプレーオフに進んだことはあったが、昨季9位とJ2の中位が定位置となっている。だが今季、オフに佐藤凌我、ンドカ・ボニフェイス、馬場晴也、井出遥也の主力勢が“個人昇格”の形で移籍して戦力低下が心配されている中でも、開幕5試合を3勝1分1敗と戦前の予想を上回る好スタート。昨年6月に就任した城福浩監督の下、6連勝締めした昨季終盤のサッカーとチームの雰囲気を新シーズンにもうまく持ち込んでいる。 特徴は強固な守備。DFラインのビルドアップには課題を残すが、チーム全体の守備意識が高く、開幕5試合で1失点のみ。そして、アカデミー育ちの天才MF森田晃樹と横浜FCから完全移籍で加わった齋藤功佑の2人が、4-3-3システムのインサイドハーフの位置で高い技術を発揮。前線では、右ウイングのバスケス・バイロンが独特のリズムのドリブルで積極果敢に仕掛け、梶川諒太も存在感大。新加入のドイツ人FWマリオ・エンゲルスがまだフィットしていないが、第4節の藤枝戦では32歳の阪野豊史が機能して5対0の大勝を収めた。まだ始まったばかりだが、「期待してもいい」シーズンになりそうな気配を漂わせている。 同じくJ発足「オリジナル10」の一員である千葉もJ2暮らしが長く、今季で14年連続となる。なんといってもオシム監督時代の「人もボールも動くサッカー」が思い出されるが、2009年にJ1最下位となってクラブ初のJ2降格となって以降、J1参入プレーオフに計4度(2012~14年、17年)進んだが、1度もJ1復帰を果たせず。2020年からユン・ジョンファン監督の下で「再生」を図ったが、14位、8位、10位と結果が出ず、昨季までヘッドコーチを務めていた小林慶行氏を新監督に据えて新シーズンに臨んでいる。 戦力を見ると、田口泰士、見木友哉、新井一耀と軸となる選手を含めて主力の多くが残留。櫻川ソロモンをレンタルで放出した代わりにJ1でも実績のある呉屋大翔を獲得し、得点力不足解消への解決策を提示した。しかし、開幕戦で長崎相手に1対0の白星スタートを切ったのも束の間、第2節から山形(●1-3)、群馬(△2-2)、秋田(●0-1)、大分(●1-2)と攻守に精彩を欠いた苦しい戦いが続き、5試合を終えた時点で22チーム中19位(1勝1分3敗)。自分たちが主体となったアグレッシブなスタイルを標榜しているが、まだまだ時間がかかりそうだ。J1復帰を果たすためには、長いシーズンの中で「内容が悪くても勝つ」ことが必要であり、序盤戦でどれだけ我慢しながら勝ち点を拾っていけるか。最低でも4月中には建て直したい。 その千葉よりも近年、J2でも下位に低迷しているのが、大宮だ。1999年のJ2誕生初年度にJリーグに参入し、2005年からJ1で10年間、しぶとい戦いぶりで「残留力」を発揮し続けた。1度目のJ2降格の際は1年で即J1復帰を果たしたが、2度目に降格した2018年以降はJ2暮らしが続いて今季が6年目。気がかりなのが右肩下がりの順位で、2019年の3位から2020年15位、2021年16位、2022年19位と年々成績が下降している。昨季は一時J2最下位に沈むなど、クラブ史上最低といえるシーズンとなった。 状況を変えたい今季も戦前の期待値は高くなかった。昨季途中から指揮を執った相馬直樹監督の就任後の成績(6勝8分10敗)や明確な戦力アップを示せなかったオフの補強が理由で、その不安通りに開幕戦は山口相手に0対1の黒星スタート。だが、その後は金沢(○2-0)、熊本(●0-3)、磐田(○1-0)、栃木(●1-2)と安定感を欠きながらもホームではしっかりと勝利し、開幕5試合を2勝3敗で乗り切った。目立つのは、柏から加わったFWアンジェロッティ。24歳、左利きのブラジル人ストライカーは、2トップの一角として前線で起点になりながらピッチを幅広く動き回り、磐田戦で決勝のヘッド弾を決めると、続く栃木戦では左足ボレー弾。身長185センチと大柄ながら柔らかいボールタッチを披露し、チャンスメークからフィニッシュまで、あらゆる場面で“違い”を見せつつある。この男を新エースに据えて“勝てる形”が固まれば、連勝が可能となり、昇格争いにも加われるはずだ。 その他の主な「元J1クラブ」を見ると、2年ぶりのJ1復帰を目指す大分が開幕5試合を4勝1分0敗の好発進を決め、同じく今季こそJ1復帰を果たしたい仙台、さらに昨年の天皇杯で優勝した甲府が、ともに2勝2分1敗とまずまずのスタートを切った。その一方で今季、2016年以来となるJ2の戦いに挑む「本命」清水は5試合連続ドロー発進となり、同じくJ1からの降格組の磐田も1勝2分2敗と開幕から苦しんでいる。そして彼らを横目に首位に立ったのは、青森山田高校の総監督から異例のJクラブ指揮官となった黒田剛監督率いるJ1未経験の町田(4勝1分0敗、得失点差で大分を上回る)。さらに3位には、J3からJ2に昇格して3年目となる秋田(3勝2分0敗)がつけている。 まだ序盤戦で、今後しばらくは毎節のように順位が大きく変わることになるだろうが、不変なのはJ2での戦いが「簡単ではない」こと。そして、「沼にハマるとなかなか抜け出せない」ということ。実力が拮抗する中で相手の良さを消しにくるチームが多く、日程も過密で移動にも時間を要する。なにより、活躍した選手がJ1クラブに引き抜かれることでチーム力の積み上げが難しく、J2に長く停滞すればするほどチーム力が徐々に低下していく傾向にある点が「沼にハマる」大きな理由だろう。そこから抜け出すには相当な力がいる。まずは序盤戦で勢いを掴み、チームが目標に向けて一丸になること。混戦必至の中で、J1で実績のあるクラブには自分たちのプライドを取り戻す戦いをサポーターに見せてもらいたい。(文・三和直樹)
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声の出しにくい当事者の代わりに前に出る ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代
ジャーナリスト・ドキュメンタリー監督・斉加尚代。理不尽な誹謗やバッシングがおこるたび、斉加尚代は丁寧な調査報道でその答えをきっちりと示してきた。数々の賞を受賞した映画「教育と愛国」では、教育現場や真理を追究すべき学問が政治に侵食されていく危機を描く。これは「いま」の話である。メディアの役割として「分断された世界をつなぎ直す」ために、斉加は作品を通じて警鐘を鳴らす。 * * * 1948年の創刊以来、『現代用語の基礎知識』は辞典・事典であると同時に時代の流れを映す年鑑でもある。現在の編集長、大塚陽子は2023年版の巻頭の「2022年のキーパーソン10人」にゼレンスキー大統領、イーロン・マスクなどとともに斉加尚代(さいかひさよ・58)を選んだ理由をこう語った。 「ただ話題になっている人物というだけではなく、22年がどういう時代で、何を行った人物かという観点からの選定でした」 斉加は時代を映し、その上でジャーナリストとして、映画監督として、確として社会に伝えるべきものを持っている人物として選定された。 斉加が監督した映画「教育と愛国」は、現在の日本の教育現場が政治によって蹂躙(じゅうりん)されていく過程が、丁寧に掘り起こされた事実と証言で描かれている。かつて家永三郎(元東京教育大学教授)は「教科書検定は国家による検閲である」と裁判を起こしたが、今では、検定を通過した教科書も閣議決定によって変更されるという時代に突入している。教科書執筆者は検定過程において、具体的な根拠資料を求められるが、政府の見解は学術的な裏付けが無くとも逆に書くことを強いられるという。 大塚は言葉の世界に生き、語彙(ごい)の意味も本質も徹底的に調べあげて一冊にする編集者として、教育と学問が政治の侵食ですでに危険水域にあることに警鐘を鳴らした斉加の作品を見て、2022年に記録すべき者として「10人」に推した。 「将来、日本の歴史の中で分水嶺(ぶんすいれい)だったと言われるかもしれない22年に楔(くさび)を打ってくれたキーパーソンです」 封切り以来、「教育と愛国」は全国62館で公開され、アンコール上映にはすでにのべ100近くの劇場が手を挙げている。日本映画ペンクラブ文化映画ベスト1、JCJ大賞等多数の映画賞を受賞し、英語版を見た海外の配給会社や大学からもオファーが届いている。 ■偏差値だけで評価しない公立学校に感銘を受けた 斉加がかねてより希望の報道記者になったのはMBS(毎日放送)入社3年目の1989年。「通った私立の一貫校が肌に合わず、もともとは学校嫌いだった」が、やがて90年代前半には大阪の学校現場の取材にのめり込んでいく。家庭環境を含むさまざまな理由から教室に入れない子どもたちを保健室に受け入れるなど、偏差値だけで評価をされない場所を提供する公立学校の在り方に感銘を受け、ときにやんちゃな生徒と激しくぶつかり合いながら、成長に導いて卒業へと送り出す教師たちの姿に感じ入る。 そんな活発だった大阪の学校が、大阪府知事(当時)の橋下徹と、大阪維新の会の登場で大きな転換を迎える。維新の会は、教職員の思想・良心の自由を侵す違憲の疑いが強いと大阪弁護士会会長が声明を出した「君が代の起立斉唱を義務づける条例」などの条例を次々と作って教師や学校の管理を強めていく。 「教員たちが子どもたちについて活発に議論していた職員室が静まり返り、ただ校長を介して教育委員会の通達を受け取る無機質な空間になっていきました」(斉加) 2012年5月8日。この日、斉加は大阪市長(当時)の橋下との囲み取材に臨んでいた。橋下の友人で民間校長として採用されていた人物が卒業式で教師が君が代を歌っているか、口元をチェックしていた。この振る舞いを「素晴らしいマネージメント」と発言した橋下に、斉加は真意を質(ただ)した。ところが、橋下は逆質問をし続け、不勉強、とんちんかん、という罵倒を斉加に浴びせ続けた。 動画を文字起こしで検証すれば明確になるが、その論法にはいくつかのすり替えと詭弁(きべん)があった。一例をあげれば、起立斉唱命令を出したのは「教育委員会だ」としているが、実際にルール化を命じたのは橋下市長であると教育長から確認されている。しかし、ネット上に記者の名前が投稿でさらされた途端、いっせいに斉加に対するバッシングが始まった。事実を誤認したままの誹謗(ひぼう)やトーンポリシング(口調の取り締まり)であふれ、社の代表電話から斉加に「日本から出て行け」と怒鳴る者まで現れた。ショックであったのは、この件は同業者たちもまた本質を捉えずに非は記者側にあるとしたことだった。面罵事件の少し後、MBSで報道局員を集めてのニュースセンター会が開かれた。局員から、「質問が長すぎた」「首長を怒らせたのは良くない」と意見が表出し、センター長(当時)の澤田隆三によれば、「あまりに否定的な意見が多くて驚きました」。 ■内心まで管理を迫られる教師の悲鳴を聞いている 当時のMBS報道局長であった泉俊行は、現場に判断をゆだねていたが、今、あらためてこの囲み取材の映像を見てこう語った。 「記者ならば、突っ込まなければいけない市長の詭弁と暴言がいくつかあった。例えば『首長と記者は対等だから、まずこちらの質問に答えないと話さない』という発言。人間は対等ですが、首長と記者は非対称の関係で記者の役割は権力のチェックなのでこれは違いますね」 斉加は最後の質問でこう聞いている。「卒業式で教師が君が代を歌わなくてはならないという理由を子どもたちに分かるように教えていただけますか」。橋下の答えは「彼らは公務員なんだから、国家のために仕事をしているのだから、国歌を歌うのは当然じゃないですか」。国家のためにというのは明らかな間違いである。「公務員は国民に対し、公務の民主的且(か)つ能率的な運営を保障することを目的とする」(国家公務員法第1条)。「公務員の雇用主は国民」である。 なぜ、あの場所にいた記者たちは、これらの市長の発言を「今のはどういうことですか?」と質さずに看過してしまったのか。泉は続ける。 「橋下さんは、すでに各局のバラエティーに出ていたし、注目されている人気の政治家でしたから。あれはテレビ的にも派手でキャッチーな映像で、好奇心であおる人がいたかもしれない。今、見返すと斉加は質問する上で敬語を使いひとつとして事実を曲げていないし質問はブレてもいない」 制作局はすでに視聴率の取れる政治家をタレント扱いしていた。納得できる答えが受け取れないときは、さらに問いを続けるのは、記者の責務である。ましてや内心まで管理を迫られる教師たちの悲鳴を斉加は直接聞いている。しかし、市長を怒らせた態度が良くなかった、という流れで会議は結論付けられて散会した。 「政治が学校に介入することを質したのに好き嫌いで質問をしたと言われて、でも反論しなかったです。結果として納得できる答えを聞けなかったのは自分のスキル不足だと内省しました」(斉加) ■沖縄の記者に励まされ秀作を量産していく この頃、MBSを退職して関西大学の教授になっていた報道局OBの里見繁は斉加から電話をもらっている。 「大学に会いに来て、会見のことを話すので、あれはよく市長に当てたな、会社に戻ったら、報道のフロアは拍手喝采(かっさい)だったろう、と言ったら、その逆だったようで、僕も驚きました」 あの当時の斉加は報道局でも白い目で見られていたと思う、と里見は言った。本人は「悔しいという感情ではなかったです。それよりも自分が信じていたテレビ報道が知らない間に変質してしまったのだという感慨の方が大きかった」。 組織の空気が変わりつつあるのを感じていたが、斉加は以降、反論も愚痴も一切出さず、粛々と大阪の教育現場の取材を続けていった。この間もずっとネット上では、反日記者、不勉強でとんちんかんなMBSの女性記者という一方的な言説が流通していた。15年に月イチのドキュメンタリー番組「映像」シリーズのレギュラーディレクターに就くと、最初の作品「なぜペンをとるのか~沖縄の新聞記者たち~」の撮影のために那覇に飛んだ。沖縄の2紙は左翼に偏向しているという中傷が絶えずぶつけられていた。斉加はメディアにとっての中立とは何かを探るために密着取材を試み、そこで沖縄タイムス編集局長(当時)の武富和彦からこんな言葉をもらう。 「一方に絶対的な権力を持っている権力者がいるわけですよ。一方には基本的人権すら守られていない人びとがいる。力の不均衡がある以上は弱いものの声を代弁することこそメディアのあるべき姿だというふうに思っています」 沖縄では、大阪とまったく逆の現象が起こった。名刺を差し出した琉球新報の報道本部長が「ああ、あの斉加さん!」と感極まった声をあげたのだ。橋下への取材を失礼と捉えるどころか、リスペクトの目で見られていた。自らの手でわが子を手にかけることさえ強いられた沖縄戦を生き抜いた高齢者たちから取材を学んだという沖縄の新聞記者たちには、中央の記者が手放しかけていたジャーナリズムのマインドが満ち溢(あふ)れていた。沖縄に励まされるように、斉加は秀作を量産していく。 「沖縄 さまよう木霊」では、MXテレビの番組「ニュース女子」にまであふれ出た沖縄基地反対運動に対するデマの出どころを突き止める。取材中から、デマの発信者にネット上で攻撃にさらされるが、毅然と同業他社を正面から批判した。あとを追うようにBPO(放送倫理・番組向上機構)がMXの同番組に「重大な放送倫理違反があった」と認定した。調査報道の面目躍如だった。 そして17年7月にテレビ版の「教育と愛国」を作り上げる。5年後の映画化の大ヒットも含め、橋下からの面罵への回答を作品できっちりと示したかたちになった。里見に「あの囲み取材のときに記者たちがいっせいに市長に質問を投げかけていたら、こういう映画を作らずに済んだのではないですか」と尋ねると、「そうかもしれませんね。斉加は常に作品を通じて机を叩(たた)いて訴えているんですよ。私たちはテレビ局の中で守られているけど、こんなに危ない社会の状況下でぼっとしていていいのかと」。 年をまたいだ18年、斉加は自らの身をさらすかたちで「バッシング~その発信源の背後に何が~」を制作する。何の瑕疵(かし)も無くただ朝鮮学校への補助金交付などを求めた弁護士たちに対して13万件もの懲戒請求がなされるという異常な事態が起きるが、そのきっかけが、ヘイトブログのデマであったことをあぶり出した。 (文中敬称略) (文・木村元彦) ※記事の続きはAERA 2023年3月27日号でご覧いただけます
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管理職「なりたくない6割」時代の背景 出世より「持続可能な働き方」の価値観に変化
約6割が「管理職」に昇進したいと思わない──。目標であり、出世のための階段とされてきた管理職が揺らいでいる。責任の重さ、長時間労働、部下との関係。その憂鬱さ、つらさを訴える声が聞かれる。打つ手はないのか。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 * * * 【管理職 官公庁・企業・学校などで、管理または監督の任にある職。また、その任にある人】 辞書に載っている管理職の定義だ。かつては、出世コース上にあるとされ、多くの人が同期や先輩を出し抜き、我先にと目指したポジションに異変が起きている。 厚生労働省の「労働経済白書」(2018年版)によると、役職に就いていない職員や係長・主任相当の職員で「管理職に昇進したいと思わない」のは61.1%。「管理職以上(役員含む)に昇進したい」の38.9%を大きく上回っているのだ。 厚労省の元労働局長で、事業創造大学院大学の浅野浩美教授(キャリア論)は、 「管理職は、責任が重くなり、長時間労働になるので避けたいと考える傾向が強まっています。また、強く言えば、ハラスメントだと訴えられる可能性だってある。マネジメント力に自信がない人は手を挙げなくなっている」 と説明する。 ■「死にたい」と思った その言葉を痛切に受け止めるのは、東京都内のメディア関連会社員の男性(59)だ。21年、勤務先の副社長を自ら降りた経験がある。 副社長になって4年目のことだ。海外にいることが多い社長に代わって実質的な経営の指揮を執っていたが、相次ぐ新興メディアの台頭で業績が急速に悪化。ギスギスしていく社内の雰囲気が全身に突き刺さるうちに、次第に心のバランスを失ったという。男性は、 「なんとか出社はしていましたが、毎日死にたいと思っていた。限界でした」 と話す。うつ病と診断され、心療内科に通った。他の役員が「しんどいでしょう」と声をかけてくれた時、素直に降格人事を受け入れたという。 同じ頃、信頼し、評価していた部下のひとりからパワハラで訴えられた。 育てようという一心で叱咤激励しながらも、家族のように親しく付き合っていたが、部下には受け入れてもらえず、会社からは懲戒処分を受けた。 「ショックでしたね。約15年前に初めて管理職になった当時は、違う景色が見えたような気がして、高揚感がありました。優秀な部下とともに日夜問わず夢中で働き、休日は自宅に招いて食事会もしていたのに。自分にはリーダーシップがあると思っていただけに、コミュニケーションの取り方に悩むことが増えました」(男性) 20年に実施された厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答した人は31.4%。声をあげやすい環境が整いつつあるということでもあるが、前出の浅野教授は、こう指摘する。 「管理職は、部下の指導によりきめ細やかさを求められるようになりました。その上で、自分の仕事をこなしながら、この変化の激しい時代に職場のパフォーマンスも上げなければならない。大変なことばかりに見えて、敬遠されてしまうのは仕方がない面があります」 ■変化している意識 働き方の変化も「管理職離れ」を加速させている。 例えば、この5年ほどで急速に広がっている「ジョブ型雇用」。会社があらかじめ職務(ジョブ)と賃金を定め、それに見合う技能をもつ人を雇う制度だ。社員は原則その職務以外はせず、年齢が上がっても賃金は増えないとされている。働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、 「昇進はキャリアの断絶だと考えられるようになりました。管理職になることは、必ずしも好意的にとらえられていません。自分のやりたいこと、深めたいことを仕事にしたいと考える人が増えました。管理職になるということは、それまで夢中になってやっていたことができなくなるということです」 と話す。昇進や昇格は、仕事ぶりを評価されているからこそであり、会社からの期待の表れのはず。しかし、 「キャリア形成に対する人々の意識が変化しているということです。さらに、かつては部下といえば『男性新卒プロパー』しかいなかった企業で、非正規雇用、テレワーク、時短勤務など、雇用形態や勤務形態、給与も千差万別な部下をまとめる必要が出てきた。負担を感じる人は多いでしょう」(常見さん) 共働き家庭が増えたことも、管理職に対する意欲に影響を与えているようだ。 静岡県のメーカーで働く男性(60)は、かつて班長として部下を抱えていた時期があるが、課長への打診を断ったことがある。当時、45歳。とても忙しく、まだ保育園児だった2人の子どもの世話は、金融機関でフルタイム勤務をしている妻に任せがち。長期の海外出張に行った時に、妻が精神的にまいってしまったこともあったという。男性は、 「会社からはコストダウンを厳命されていたけれど、人を減らすことしか解決策がない状況だった。その分の仕事は、管理職がカバーしなければならないことは明らか。私がこれ以上忙しくなれば、妻が倒れてしまうと思いました」 と振り返る。妻が仕事を続けることを希望したことに加えて、右肩下がりの経済状況を考えると、共働きを続けられる「持続可能な働き方」を夫婦ともに選択する方が賢明だと判断したという。以来、イチ社員として定年までを過ごし、現在は再雇用の身だ。あの時の判断について男性は、こう話す。 「後悔は全くないです。管理職になっても、たいして給料は上がらない。休日もない状態で働き続けていたら、私自身の心身も家族もボロボロになっていたでしょう」 常見さんは、若い世代を中心に同様の価値観が広がっているとし、 「ストレスなく続けられるということは、働き方のひとつの答え。偉くなるより、一人前になりたいと考え、その選択ができるようになった」 と時代の変化を評価する。 けれど、管理職になりたくない人ばかりになると、組織が立ち行かなくなってしまうケースも出てくるだろう。打つ手はないのか。突破口になるかもしれない興味深いデータがある。 ■意欲が高いのは 21世紀職業財団(東京都)が22年、従業員101人以上の企業に勤務している20~59歳の正社員男女4500人を対象に行った調査によると、「管理職になりたい」割合は、総合職男性24.8%、総合職女性12.0%と、男性のほうが高かったが、「管理職に推薦されればなりたい」との回答は男性31.3%に対して女性は33.2%。わずかに、女性が上回っているのだ。 事業創造大学院大学の浅野教授は、 「上を目指したい気持ちのある女性は多いけれど、躊躇(ちゅうちょ)があることがわかる。自信が持てなかったり、子育てや夫との関係などを考えてしまったり。甘えているように見えるかもしれないけれど、その一方で、推薦されるなど後押ししてくれる理由があれば、管理職をやろうという女性はいるのです」 と話す。 また同財団の別の調査では、女性は男性に比べて、年齢が上がっても仕事への意欲が衰えないこともわかっている。内閣府によると、民間企業の女性管理職比率(課長相当職)は21年時点で12.4%だが、管理職のなり手不足に悩む企業は、この女性たちの意欲を見逃す手はないだろう。 「男女問わず、働く人は上司の言葉、態度、雰囲気で自分が評価されているか否かを感じ取り、それがやる気につながる。性別に基づくアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を取り除き、今こそ企業は本気を見せる時です」(浅野教授) (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋
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脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも
日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 * * * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。 厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」 昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同) 脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意 心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。 脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」 高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師) また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を 井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師) また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。 日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。 一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より
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「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔
対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 * * * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。 でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」 快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。 この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。 お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」 なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」 と。願ってもない話だった。 なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。 挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。 大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」 原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」 と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔 私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」 と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。 連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」 というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。 16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」 とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。 私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」 と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。 古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」 私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日 2023年3月31日号
週刊朝日
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徳川家臣団「忠臣」ランキング! 秀吉からの恩恵を“拒絶”してまで徳川家への奉公を貫いた武将
徳川家康は、関白秀吉に「私は殿下のように名物の茶器や名刀は持たないが、命を賭して仕えてくれる五百ほどの家臣が宝」と、控えめに誇ったという。週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』では、徳川家を支えた忠臣、猛将、智将などを、歴史学者の小和田泰経氏が採点。各武将の生き様と能力を解説している。今回は、「忠臣」で採点した。1位の天野康景は先日報じたが、「犬のように忠節」と称賛された徳川の家臣たちの中で2位と3位に選ばれたのは――。 * * * ■2位 鳥居元忠 / 片足を引きずりながらの最期の奉公 鳥居氏は商いで成功を収めた股肱の臣の家で、蔵に蓄えが溢れていたことから、元忠の父忠義は人質時代の家康に衣服や食料の援助を惜しまなかったとされる。 元忠も13歳のときから、駿府で人質生活を送る家康に仕え始め、旗本部隊の将として数々の戦功を挙げた。三方原の戦いでは斥候中に銃撃を受け、片足が不自由になった。 天正十年(1582)の甲斐平定戦では水野勝成とともに古府中の守備を託され、北条氏忠が1万の軍勢を率いて郡内に侵攻したと知ると、わずか2000騎で奇襲を仕掛け、大勝利を博した(黒駒の戦い)。 天正十四年(1586)に上洛した際、豊臣秀吉から叙爵の内示があったが、徳川家以外から恩恵を受けるわけにはいかないとして、これを辞退。九戸一揆の平定に際しても秀吉からの感状を辞退した。 慶長五年(1600)、家康が上杉討伐のため東下するに際し、松平家忠・内藤家長・松平近正とともに伏見城を託され、石田三成からの降伏勧告を断固拒絶。西軍10万人相手に力戦のすえ討ち死にした。ともに戦死した家臣57人、兵700余人、足軽数百人に及んだ。 ■3位 内藤家長 / 怪力無双にして放つ矢は大気を震わす 祖父の義清は松平信忠・清康に仕え、上野下村城を与えられた、岡崎五人衆の一人であったというから、武芸に秀でていたことがうかがえる。 父清長がそうであったように、家長も家康から一字をもらうなど、代々の主従関係にあった。 石川数正の組で先手を務め、「力量人に勝れ、騎射の達者」と称された。遠江国二俣城を攻めた際には、その弓勢を目にした城主の依田信蕃から、「近代無双、今弁慶と称すべし」と恐れられた。相当な腕力を見せつけたのだろう。 家康の部将達が敵味方に分かれ争った、三河一向一揆の際には終始家康の側に付いた。家康の嫡男・信康が自害を強いられた際には付属の士25人を、宿老の石川数正が徳川を捨てて豊臣秀吉のもとへ走った際には、馬乗同心80を預けられている。 小田原城の包囲には兵50騎と雑兵数百人を率いて参陣すると、家長の容貌を見て感銘を受けた秀吉から、「将帥の器にあたれり」として、鉄砲30挺を与えられた。 関東入国時には、上総国佐貫に2万石を与えられ、伏見城の副将を拝命。鳥居元忠らとともに西軍足止めの大役を果たし、討ち死にした。 ◎監修/小和田泰経(おわだ・やすつね)1972年、東京都生まれ。静岡英和学院大学講師。大河ドラマ『麒麟がくる』の資料提供を担当。最新著書に『すごい ヤバい 戦国武将図鑑』(カンゼン)、『タテ割り日本史5 戦争の日本史』(講談社)、『天空の城を行く』(平凡社新書)など。 ※週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』から抜粋
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開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析
首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 * * * 国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。 今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。 まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。 私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。 私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。 東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。 ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。 そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。 さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。 本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。 元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。 大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」 こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。 それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。 この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」 一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。 井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」 3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。 脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日 2023年3月31日号
週刊朝日
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脳梗塞の疑いで救急車を呼ぶとき家族が準備すべき「3つ」のものとは? おくすり手帳、診察券、あと1つは
脳の血管が詰まる脳梗塞。薬で血栓を溶かすt−PA治療や、カテーテルで血栓を除去する血栓回収療法など治療法は進歩している。ただし、できる治療は発症後の時間により異なり、有効な治療を受けるには「時間との勝負」となる。 * * * 脳梗塞は、血管の詰まり方により「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分けられる。からだの片方のまひやしびれ、ろれつが回らないなどの5大症状がみられたら、軽くてもすぐに救急車を呼ぶことが必要だ。その理由を、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は「症状が軽い=軽症とは限らないため」と話す。 「ちょっと言葉が出にくい、足が動かしにくいなど軽い症状の場合、小さい脳梗塞だからということもありますが、大きな血管が詰まりかけていて、前兆として軽い症状が起こっていることもあります。放置したことでその後、大きな症状が起こることも少なくありません」 家族に脳梗塞を疑う症状がみられて救急車を呼んだ場合、到着までに準備してほしいものとして、東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師は、(1)おくすり手帳(2)かかりつけ医療機関の診察券(3)発症時刻(症状に気づいた時間)のメモを挙げる。「昨日の夜寝るまでは元気で、今朝起きたら症状があった」という場合は、「前夜寝た時間」と「今朝起きた時間」でいいという。 「神経が障害される病気の多くは、治療しても発症前のように症状を完全になくすことは難しいのですが、脳梗塞は、早期に適切な治療をすることでかなり症状を改善できる数少ない病気といえます。ただし、そのためには一分一秒でも早く治療を開始することが必要で、この三つはその重要な情報となります。いざというときは慌ててしまうことも多いため、落ち着いて救急隊や医師に伝えてください」(井口医師) ■薬で血栓を溶かす治療法を検討 脳梗塞は、「発症後の時間」により治療法が異なる。そのため脳梗塞の疑いがある場合、病院到着後すぐに診察と検査をおこなう。検査ではとくに、脳の状態をみるMRI検査と、脳の血管をみるMRA検査が重要となる。 「MRIでは、起きたばかりの新しい脳梗塞だけを映し出す方法で、急性期の脳梗塞かどうかを調べます。血管が詰まりかけている、あるいは詰まったばかりで神経細胞が完全に壊死していない場合は、ダメージを最小限におさえるためすぐに血流を再開通させる治療を始めます」(森本医師) 急性期の脳梗塞の治療は、薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、器具で血栓を取り除く「血栓回収療法」が主となる。 血栓溶解療法では、組織型プラスミノゲン・アクティベーター(t−PA)という薬を点滴し、血栓を溶かす。ただし、この治療は発症から4・5時間以内に限られる。 「脳梗塞を起こして時間が経つと、その血管はダメージにより血管壁がもろくなります。t−PAで血栓が溶け、血管が再開通するともろくなった血管から出血するリスクがあるため、発症後4・5時間を過ぎたらt−PAは使用できません」(同) また、以前は就寝中などに発症した発症時刻が不明の人には治療できなかったが、2019年に適応が拡大された。MRIでは、起こったばかりの変化を描出できる画像(DWI)と、描出するまでに3~6時間かかる画像(FLAIR)があり、DWIでは脳梗塞がみられるもののFLAIRではみられないというミスマッチが生じた場合、4・5時間以内に発症したと判断できる。 「発症時刻がわからない人でも、2種類のMRI画像で4・5時間以内かを判断した上で、血栓溶解療法ができるようになりました。これまで治療できなかった人が、t−PAにより救われる可能性が広がったといえます」(井口医師) 発症後4・5時間以上経過した場合や、出血しやすい病気があるなどの理由でt−PA治療ができない場合、血栓が大きく溶かしきれない場合は、血栓回収療法をおこなう。カテーテルを挿入して血栓を取り除く治療法で、専用の器具で血栓を絡めとる方法と、血栓を吸引する方法がある。この治療は原則として発症後24時間以内ならできるが、細い血管にカテーテルを通すため出血のリスクを伴う。技術を要する治療であり、実施できる病院は限られる。 「治療しなければほとんどの人が寝たきりになってしまうような閉塞でも、経験豊富な医師のいる病院であれば、この治療により血栓の約9割は回収できます。治療後早くからリハビリをすることで、そのうち半数の人は歩いて自宅に帰れるほど元気に回復します」(森本医師) 森本医師は、いざというときに備え「脳梗塞の治療に強い病院を調べておくと安心」と話す。血栓回収療法を実施しており症例数が多いこと、日本脳神経血管内治療学会の専門医が複数いること、厚生労働省の認定する脳卒中専門の集中治療室「SCU(Stroke Care Unit)」があることなど、病院のホームページで確認できることも多い。SCUには「24時間専門医が常勤」「患者3人に対し看護師1人以上を配置」などの認可基準がある。 「脳梗塞は症状の急激な変化が多い病気です。SCUでは手厚く患者さんをみることができ、神経症状の変化などにも素早く対応できる強みがあります」(同) ■ためらわずに一刻も早く救急車を 現在は、血栓回収療法を実施できる病院は都市部に集約されている傾向があるが、急性期脳卒中の診療体制を整えている地域や病院は増えていると井口医師は話す。 「救急車を呼んだ後のことを心配するより、早く救急車を呼ぶことが大事です。優れた治療法があっても、24時間以内に治療できるのは3割以下。時間オーバーで治療できないという事態を減らすためにも、まずは一刻も早く救急車を呼んでください」(井口医師) (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月31日号より
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幸せ度は表情に表れる、スッキリかモヤッとか毎日チェックしてみて しいたけ.さんがアドバイス
AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 * * * Q:私はやりたいことが多すぎたり、ありがたいことにお誘いしてもらえることが多く、予定がいつもパンパンになってしまいます。周りにももっと休みなよって言われるのですが、まだいけると思ってしまい予定を入れ続けて疲れることが多いです。しいたけ.さんはどのようにスケジュール管理したりお断りする術を身につけていますか?(女性/25歳/おひつじ座) A:このご相談、すごく好きなんです。予定が常にパンパンである種ちょっと暴走気味の生活。正直に言うと、ぜひそのまま心ゆくまでやってみてほしいなと思っちゃいました。 大人になって魅力的な人たちって、若い時に必ず「やりすぎ」がある人たちなんじゃないかと思っています。 「休日はちゃんと休みなよ」とか「自分を大事にしなよ」みたいなことを周りの人から言われるぐらい、土日に飲み歩いていたり。そういう何かしらの「やりすぎ」をちゃんと消化してきた人たち。 人にはそれぞれ適応年齢みたいなものがあります。バランスを取ったり利口になったりする年齢が、人によって違うような気がするんですよね。25歳で訪れる人もいるし、人によっては35歳で訪れるかもしれない。それまでは、周りの常識的なアドバイスが届かないぐらいのエネルギー値にいるみたいな感じ。その間は、突っ走っちゃってもいい気がするんですよね。 僕は、その人の「幸せ度」は表情に表れると思っています。占いを通じていろんな人たちに会ってきましたが、自己管理をしっかりして休みをとって、バランスよく暮らしている人たちの、表情の幸せ度が高いかというと、必ずしもそんなことはありません。 逆にむちゃくちゃな生活をしている人でも、結構スッキリした顔をしている人っていうのもいるんですよね。でもこれには客観的な基準があるわけではありません。だからぜひやってみてほしいのが、鏡で自分の顔の幸せ度をチェックし続けることです。 感覚的な話になってしまいますが、顔の表情に陰りが見えてきた時は、休んだほうがいい時です。楽しくなくなってきている、ということだから。誘いをお断りして、自分を大事にする時間を持つほうがいいと思います。 自分の表情を1日1回ちゃんとチェックする。これは、調子が悪い時にこそ、おすすめしたいです。無理やり笑ってみるとかもやってみて。表情がスッキリしてるか、モヤッとしてるか。信用できる一つの基準になると思います。 おひつじ座は、暴走する計画屋みたいなところがあります。旅行の時は分刻みで予定を入れたり、飲み会では1次会、2次会とエネルギーが変わらないまま3次会に突入するみたいな。周りがちょっとついていけないぐらいのテンションが持続します。でも、僕はおひつじ座のこういうところが好きだから、「やりすぎ」をぜひやってほしいと思う。それで表情がスッキリしているなら、まだ大丈夫です。 ◎しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気※AERA 2023年3月27日号
AERA
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「御三家」を蹴って入学する生徒も 私立共学トップ「渋渋」はなぜこれほど躍進したのか?
「ご両親の時代とは様変わりですよ」――。首都圏で私立中学入試の「勢力図」の変遷を語るとき、代表的な例として名前が挙がるのが、渋谷教育学園の幕張中学高校(渋幕)と渋谷中学高校(渋渋)だ。いずれも、田村哲夫理事長(87)が経営のかじをとってきた中高一貫校で、東大合格者数で全国有数の実績を残しているほか、海外大学への進学を早くから支援するなど先進的な教育でも注目される。近年は、男女の「御三家」と言われる名門中に受かる実力がありながら、渋幕、渋渋を選ぶケースが珍しくない。伝統が重視されがちな私学の世界で、なぜこれほどまでに人気を集めることができたのか。今回は、特に競争の厳しい東京で「私立共学トップ」の難関校に成長した「渋渋」に焦点を当てて、躍進の秘密に迫る。「伝説の校長講話 渋渋・渋幕は何を大切にしているのか」(中央公論新社)の著書もある読売新聞編集委員の古沢由紀子氏に寄稿してもらった。 * * * ■渋幕との違いは? 際立つ国際性、元気な女子 振り返れば、筆者が初めて渋谷の校舎に田村理事長を訪ねたのは、社会部記者として文部省(当時)を担当していた1990年代後半にさかのぼる。渋渋は共学の中学校が併設されたばかりで、前身の渋谷女子高校からの移行期だった。渋谷の駅近ながら閑静な環境の中、生徒たちがのびのびと学んでいる様子を記憶している。田村氏は自ら千葉県に創設した渋幕、父から受け継いだ女子高を共学化した渋渋の校長を兼務する傍ら、文部省の中央教育審議会委員を務めるなど、広い視野を持つ論客として教育界で知られた存在だった。 渋幕と渋渋は、ともに「自調自考」「国際人としての資質」「高い倫理感」の三つの教育理念を掲げる。明るく自由な雰囲気や海外からの帰国生を積極的に受け入れてきたことも共通する。一方で、その成り立ちや立地は異なるため、微妙なスクールカラーの違いも感じられる。渋幕は今や、押しも押されもせぬ千葉県トップの進学校という風格を備え、県内の生徒や男子の割合が高い。渋渋はやはり都会的で、帰国生の人数も多めだ。男子の受験者数が全体では女子を上回るようになり、生徒数も男女がほぼ同数とはいえ、女子生徒が元気な印象は強い。 進学塾などによると、渋谷教育学園を志望する子の保護者はグローバルな感覚を身につけさせたいという意識が強く、渋渋でその傾向はより顕著だという。特に中学受験に関心を持つ父親が、各校の教育内容を比較検討し、大学卒業後も見据えて社会の変化に対応できる先進性や国際性を重視するケースが多いようだ。 ■「空白地帯」に切り込んだ女子校の共学化 1996年に渋渋が中高一貫の共学校になってから、短期間で人気を高めたのはなぜか。まず、首都圏の私立校は男女別学が主流で、大学付属以外の共学校、特に進学校が少なかったこと、先行して千葉県に開校した渋幕が進学実績と知名度を伸ばしていたことなどが挙げられる。その影響で当初は渋渋にも千葉県からの出願が多かったが、今は都内や神奈川県の生徒が圧倒的に多い。 渋谷女子高の共学化を検討していたころ、田村氏は「果たして多くの男子が受けてくれるか」という懸念を抱いていたという。抜群の立地は狭い校地と裏表でもあり、広いグラウンドなどがないためだ。私学経営の先輩たちからは「進学指導がしやすいのは別学が常識。男子は競わせ、女子は協力しあうことで意欲を高めればよい」とアドバイスも受けていた。しかし、自らも男子校の麻布中高出身である田村氏は「これからは男女共同参画の時代。必ず保護者のニーズはある」と共学化を決断した。生徒や保護者の視点に立った判断が的確だったのは明らかだが、私立共学進学校の「空白地帯」に切り込んだマーケティングを思わせる視点は、「公立王国」と言われた千葉県での渋幕開設と重なるものがある。 東京は戦前から女子の実業系私立校が多く、戦後は高校進学率が上昇する中、急増する生徒を受け入れてきた。それが1990年代に入ると少子化を受けて中学校の併設が相次いだ。田村氏が進めた渋渋の共学化は限られた敷地を有効に生かす校舎の高層化とエレベーターの活用、地下を利用した体育施設の確保などのアイデアも伴い、都内の多くの女子校が共学化に踏み切るモデル的な先進事例になったのだ。 ■入念に準備された「しがらみのない学校改革」 「しがらみのない全く新しい学校をつくったから、田村さんは思い通りの教育ができた」。やっかみ半分かもしれないが、他の私学関係者からそんな見方を聞いたことがある。確かに、渋幕開設時には、田村氏がつてをたどって評判のよい教師を探し、米国務省に勤務経験のある元都立高教師など多彩な人材を集めた。新たな理念や方針を実現するには、新しい組織のほうがやりやすい。とりわけ学校は教師の独立性が高く、ベテランが改革に同意してくれるとは限らない。当時の公立高校では、教師が校長にも授業を見せたがらないと言われるほど特有の閉鎖性があった。 父が他界したことを受け、35歳の若さで学園の理事長と渋谷女子高校の校長を兼務した田村氏は教員免許を取得し、自ら教壇に立ってもいたが、当時「自分は教育の経験がそれほどない」と自覚していた。ベテラン教師たちを納得させるためには、別の場所で全く新しい学校をつくって実績を挙げてからのほうがよい、と考えて進出したのが、縁のなかった幕張の地だったのだ。 渋幕の教育と経営を軌道に乗せる一方で、田村氏は意識して若手教師を採用するなど、渋谷女子高を一貫校化する準備を進めていた。他校と共同で生徒の短期海外留学や英語研修を始めたのは、都内でも早い時期だった。女子高ならではの厳しい「しつけ教育」を保護者も求める時代にあって、生徒と若手教師の話し合いで「不要」な校則の撤廃を進めていった経緯も実に開明的だったと言える。渋渋の魅力といわれる自由な雰囲気は、一朝一夕ではなく、トップの強い信念のもと育まれたと言えるだろう。 今も両校で年間計60回行っている「校長講話」(現・学園長講話)で田村氏は、古今東西の歴史や哲学、科学の発展などを題材に、「自分で決められる自由」な社会を人類がいかに獲得してきたかを熱く語る。生徒が選んだテーマで1万字程度の「自調自考論文」を書く取り組みは、近年文部科学省が推進する探究学習にも重なり、今や全国の公私立高校に類似の活動が広がりつつある。 ■画期的だった「保護者目線」の改革 最後に、田村氏の学校経営の特徴として「保護者目線」を強調しておきたい。「文句、批判は宝」と教師たちに説き、地域ごとに保護者と意見交換する「地区懇談会」を渋幕で始めたのは30年近く前。公民館などで開かれた懇談会の会場を週末、田村氏がほぼ一人で回ったのは、「他の教師と違って校長は成績をつけないから親の本音を聞きやすい」と考えたためだ。要望を受けたら教師に状況を確認し、誤解があれば親に学校の方針を丁寧に説明する。実際に、保護者の声を受けて英語の授業内容を見直したケースもあったそうだ。 このほか、全国の高校に先駆けて米国型のシラバス(授業計画)を導入し、授業を保護者に公開する機会も設けて感想を募った。こうした取り組みは今でこそ多くの公私立校で行われているが、「渋谷教育学園が始めたのは画期的で、多くの私立校に影響を与えた」と大手進学塾の幹部は指摘する。田村氏が民間企業で培ったバランス感覚を生かした面もあるだろうが、何よりも保護者や生徒の信頼と協力を得て、よりよい学校をつくっていこうという柔軟な姿勢は一貫している。だからこそ、従来の閉鎖的な学校に不満を抱いていた親たちの幅広い支持が得られたのだろう。 田村氏は今も学園の理事長を続けているが、2022年度から両校の校長を退き、学園長という立場になった。渋幕は長男の田村聡明氏、渋渋は長女の高際伊都子氏が校長に就き、実務は次世代にバトンタッチされた形だ。23年度の入試結果をみると、東大合格者は渋幕が74人。渋渋は40人だが、1学年の生徒数が約200人と比較的小規模なことを踏まえると、全国的にも高い合格率だ。両校は米国のアイビーリーグなど海外の名門大学にも合格者を出しており、東大を蹴って海外の大学に進むという選択も相次ぐ。こうした「超進学校」化の流れはさらに加速していく可能性がある。 さらに、87歳の「カリスマ」である田村氏は今も、日本の教育の現状にインパクトを与える新しい挑戦を考えている節がある――と筆者はにらんでいる。決まったルートで目的地に連れていく公立校の教育を「定期航路型」、生徒の自主性を重んじる私学の教育を「大航海型」と表現した田村氏が、次はどんな海原に乗り出すのか。これからも目が離せない。 ◎古沢由紀子(ふるさわ・ゆきこ) 読売新聞東京本社編集委員 教育関連の解説記事を主に執筆。中央教育審議会委員などを務める。著書に「大学サバイバル」(集英社新書)、共著に「伝説の校長講話 渋幕・渋渋は何を大切にしているのか」(中央公論新社)、「志村ふくみ 染めと織り」(求龍堂)など。
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WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」
第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。 先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。 各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。 そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。 セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。 針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。 他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。 上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)
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フィギュア宇野昌磨の恐るべき“俯瞰力” 「あ、ちょっと緊張しているな」からの圧巻の演技
今シーズン負けなしの宇野昌磨(トヨタ自動車)が、底力を見せた。 4年ぶり日本開催となるフィギュアスケート世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)。23日夜には注目の男子シングルのショートプログラムが行われた。宇野にとっては7度目の出場。昨年は6度目の挑戦で悲願の優勝。実は朝の時点では緊張していたと明かしたが、ショートプログラムでは圧巻の演技で、連覇への期待が高まる。 演技後の囲み取材での主なやりとりは以下の通り。 ◇ ――振り返って。 決して本当に完璧なショートプログラムではありませんでしたが、まぁあのジャンプに限らず、(レベルはちょこちょこと落としたと思いますが)久々に状態が悪いのもあって、感情を試合にぶつけるようなちょっといつもよりさぁ頑張るぞという気持で臨んだので、その分、嬉しさがこみあげてきたのかもしれません。 ――心配された右足の状態はどうか。 ひねった直後はやばいな、って思ったのですけど、いろんなサポートや運の良さや、予防をしていたのもあったので、想像よりはるかに少ない支障で、朝の練習ももちろん探り探りでやっていたんですけど。状態が悪いからといって何か救済があるわけではないですし、悪いから何か自分にとってプラスになることがあるわけではないので、今の自分で何ができるのか、フリップが痛くでてきないのであれば他のジャンプを、と。でもできそうならフリップを考えてみたり。過去に直前に変えたジャンプで成功した例があまり少ないので、これはフリップで行こうと思いましたし。6分間やった感じもいつも通りになってきていたので。演技中は右足の支障というのはまったくなく滑ることができました。 ――昨日の囲みで「今年一ひどい状態」と言っていた。そして負傷もあった。逆境に強い宇野昌磨。そんななかで今年一シーズンベスト更新をどうとらえているか。 逆境に強いかはわからないんですが、ただこういう経験も過去には沢山してきましたし、こういう痛い中での練習っていうのも、当初は絶対そんな練習身のためにならないと思っていましたけど、こういう状況になったからには本当に痛いながらも練習していた時期もあってそれがなんか逆に生きたのかな、と。痛い時に練習したらどういうジャンプになるのかというのがなんとなく予想ができていましたし、自分がどこをかばってしまってどういうジャンプになってしまうのかがなんとなく予想がついたので、朝の公式練習とか6分間練習とか。また、試合中に痛いって思えるってことはそれだけ緊張していないってことだと思うし。まだまだフリーもあるので、足の状態はたぶん、もう一回ひねらない限り悪くなることはないと思うので、このあまり調子がよくない状況で、ループ・サルコウ・フリップの最初の3つのジャンプをどう(あと)1日で調整していくかだと思います。 ――連覇がかかる25日のフリー。意気込みを。 正直ショートの前は連覇とか本当にそんなことを意識する余裕はなかったのですが、フリーでは少しでもそういうプレッシャーが自分にかかるぐらいの状態で臨めたらなと思います。 ――(連続ジャンプの)4回転トゥループを降りた後表情が少しやわらいでにやけたような表情に見えたが、どういった気持ちだったのか。 う~ん。想像よりきれいに4回転トゥループが跳べて、自分の中では(試合前の)トゥループの感触がよくなかったので、まず単発でおりてそっから考えるっていうスタンスで跳びにいったんですけど、想像よりうまくいったものの、(次のジャンプへと)構えている踏み切りはダブルで。一瞬トリプルやらなくちゃって思ったんですけど、この中途半端な気持ちで中途半端にコケるのが最悪だなって思ってダブルにして……。また(こうして)言われるだろうなとは思ったんですけど(一同笑)、まぁでも、今回のショートプログラムっていうのは、ジャンプよりも今日までやってきた1年間のショートプログラムをスピンとかステップとか見せたいなと思っていたので、たぶんレベルを落としたのもあったと思うんですがでもやり残してしまったな、と思わないショートプログラムだったかな、と、そこが一番良かったなと思います。 ――今のジャンプやケガの状況。この状態で明後日を成功させるカギはどういうところにあると思うか。 今のままやっても成功する確率は勿論あると思うんですが、気をつけたいのはもう一回ひねる(こと)。サルコウと続けてやった時のケガのリスクって結構多いので。勿論コンディションがよくないとか足の状態が中途半端な時に焦って跳んでしまって歩けなくなってしまっては(大会にも)出られなくなると思うので、それも気をつけながら。 どうやるかっていうのは明日の練習をもって考えたいなと思っています。 今はショートも終わって気持ちも高ぶっているので勝手にできる気がしていますけど、明日冷静になって練習してみて、また考えたいです。 ――痛みの中でも対処して、やはり経験というものが大きい? もちろん僕の経験もありますけど、長年付き添ってくれる方がたのサポートあって、今こういう演技を僕ができますし、ほんとに家族とか身近な方にすごく心配をかけてしまった。「大丈夫」という声を皆さんかけてくれますけど。本当にもしかしたら僕以上に心配をしている人たちがいたと思うので、申し訳なかったですけれども、こういうショートプログラムができて少しでも皆さんに恩返しができたかなと思います。 ――そういう人達のために滑っている? そんな大きなことは考えていなくてほんとに自分がどうするべきか。やっぱり僕も頭でわかっていても、理想的なことを発言しますけど、どうしても落ち込んでしまったりとか、できる気がしない。そう思うこともある。そうなってしまっている時に改めて考えを整理させてもらって。それがいつもの自分に戻れる。 ――今日の4回転は力みもなくキレイだった。 一番はジャンプの跳び方というより「後悔しないジャンプ・演技」をしたいと考えている。なんかこれって考えて失敗してしまったら、それは落ち込んでしまうと思うんです。 フリップも割り切れていたのかな。と。あとはもう失敗したら仕方ない、と。失敗してもひきずらないようにとそういうことを考えていました。 ――体がジャンプを覚えている? 正直「体が覚えているジャンプです」といえないぐらい10日間ぐらい調子が悪かったので、前の跳び方がどんなふうだったのかも(覚えていないぐらい)。普通にやれれば大丈夫だからって、思えない状態でもあったので。ケガ+調子の悪さ、というのがあったので。 まぁでもこういう調子の悪さっていうのも絶対に何か理由があるっていうのは思っているので、色々過去を振り返りながら。でも過去にとらわれ過ぎず、どうするのが最善かっっていうのをなるべく頭で考えるだけじゃなくて、精神状態にもっていけるように。 ――感情的になっているなと自覚する瞬間はあるのか。 最近はショートが終わった後は冷静というのが多かったんですけど、久々に(今日ショートに向かうため)、ホテル出発前に自分が「あ、ちょっと緊張しているな」っていうのはあったんですけど、いろんなことを考えながらやっていたら、いつもどんなふうに、って。 何で今日緊張しているんだろうと考えた時に、全体を見過ぎてしまっているんだって。 ショートプログラムを僕はノーミスでやりたいって今年一年試合に臨んだかって考えた時に。たぶん失敗してもちゃんと他を跳べるっていう気持ちでやってきたのに。 一番状態が悪いのに一番高望みしていたな、と(それに気づいた)。 >>公式練習からショートプログラム本番までを追った記事はこちら【フィギュア宇野昌磨の底力、アクシデントあってもなぜ圧巻の演技ができたのか 連覇へ期待】 (まとめ・大崎百紀)
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フィギュア宇野昌磨の底力、アクシデントあってもなぜ圧巻の演技ができたのか 連覇へ期待
今シーズン負けなしの宇野昌磨(トヨタ自動車)が、底力を見せた。 4年ぶり日本開催となるフィギュアスケート世界選手権(さいたまスーパーアリーナ)。23日夜には注目の男子シングルのショートプログラムが行われた。宇野にとっては7度目の出場。昨年は6度目の挑戦で悲願の優勝。連覇がかかる今年だが、囲み取材での「弱気な発言」や練習での転倒といったアクシデントもあり、心配された。しかしふたを開ければ、ショートプログラムで圧巻の演技。大会での宇野を追った。 * * * 21日午前の公式練習。フリーの曲かけの練習では、ジャンプのタイミングが合わずに途中で開く場面が目立ち、転倒も見られた宇野。曲の最後のポーズも決めずに、曲の流れにあわせずにジャンプを練習。曲かけの後は、失敗が多かったジャンプを繰り返し練習。どのジャンプもタイミングがあわない印象だ。とはいえ、成功したジャンプの質は高く美しい。トリプルアクセルは力まず自然に跳んでいた。その後スピンの練習をした。 この後の囲み取材では、宇野からは「ひどい状況」と悲観するような発言も。たとえば、記者に「状態は?」と聞かれると、開口一番「今年一ひどい状況。先週からあまりにもひどくなりまして」と回答した。表情も心なしかさえない様子だった。 さらに、連覇がかかった大会で、追われる立場の心境をたずねられると、「(それを)感じられるほどの調子があればよかったんですけど」「目の前のことに必死」「投げやりになってしまわないように最善を尽くしたうえでがんばりたい」などと、弱気な発言を連発。 その後も「こういうできない時の僕をどういうふうにできるようにするかというのをちょっと興味本位で見て頂けたらな」と宇野独特の表現で気持ちを述べ、自身も“不調”をかなり気にしている様子だった(主なやりとりはこちらから)。 ところが――。 弱気発言のわずか6時間後の公式練習に現れた宇野は別人のようだった。フリーの曲かけ練習では、「G線上のアリア」の曲に沿った滑らかなスケーティングですべてのジャンプを美しく決めた。前半のジャンプは難なくクリア。流れのあるトリプルアクセル。全てのジャンプの着地はうっとりするほど美しく、プログラムは終わると観客から大きな拍手が上がった。一部の記者たちからは「(原稿)書き直しか?」の声が聞こえる。 そのくらい、弱気発言とこの練習での演技のすばらしさにギャップがあった。 日を改めて。22日の公式練習では宇野にアクシデントがあった。4回転サルコウの着氷時に転倒。練習を途中で切り上げた。スポーツ紙などですぐさま、報じられ、心配の声が上がっていた。 そして、23日のショートプログラム。宇野は20時過ぎの6分間練習にリンクに現れた。同じグループには、今季限りの現役引退を表明している、日本にもファンの多いキーガン・メッシング(カナダ)らがいる。宇野にかけられる「ショーマ、ショーマ」の歓声と拍手。それに応えるかのように、ジャンプをどれもキレイに成功させると、その都度拍手に包まれた。 ついに本番。会場に宇野昌磨の名前がコールされる前の一瞬の沈黙に緊張感が走る。コール後には拍手の嵐だ。SHOMAバナーや国旗が会場に揺れた。 「昌磨、頑張れ」「ショーマ!」「SHOMA!!」 演技が始まる直前まで、声が飛び交った。 演技は、最初の4回転フリップはGOE(出来栄え点)が2.99点つく好ジャンプ。続く連続ジャンプは事前の申請通り「4回転トゥループ+2回転トゥループ」。これにも3.99点ものGOEがついた。演技後半のトリプルアクセルでも2.51点のGOEを稼ぎ、結果は104.63点で、2位のイリア・マリニン(米国)に4.25点差の首位に立った。演技後には右手のこぶしを軽く握り、納得の表情を見せた。 試合後の記者の質問では、演技をふりかえって宇野は「状態が悪いのもあって、感情を試合にぶつけるようなちょっといつもよりさぁ頑張るぞという気持で臨んだので、その分嬉しさがこみあげてきたのかもしれません」と答えていた。 足の痛みがある中で圧巻の演技がなぜできたのか。宇野は、「もちろん僕の経験もありますけど、長年付き添ってくれる方がたのサポートあって(の今回の演技)」と周囲への感謝を口にしていた。 フリーの演技でのジャンプへの自信を聞かれると「このあまり調子がよくない状況で、ループ・サルコウ・フリップの最初の3つのジャンプをどう(あと)1日で調整していくかだと思います」「今はショートも終わって気持ちも高ぶっているので勝手にできる気がしていますけど、明日冷静になって練習してみて、また考えたいです」と回答。演技後の興奮冷めやらぬ中でも、自分自身を見つめる目はクリアに保っていた(主なやりとりはこちらから)。 日をまたいで、24日。アイスダンスが行われている時間帯、練習用リンクでは午後1時15分から宇野らが入る第4グループの公式練習があった。練習用リンクに集まった観客数もプレス席に座る記者席もこれまでの中で一番の人数。満席に近いと言っていいだろう。 宇野はトリプルアクセルや4回転サルコウをキレイに決めた。曲かけ練習で、冒頭の4回転ループで転倒。途中で開いてしまったジャンプはあったものの、決めたジャンプはどれも完成度が高く、相変わらず美しかった。「G線上のアリア」の曲にあわせた宇野の世界感を魅せつけた。 途中リンクサイドに戻り、ステファンと話しながら笑顔も見せた。 25日のフリープログラムでは、4回転アクセルジャンパー、イリア・マリニンとの戦いも見もの。23日夜のプレス会見で、「宇野にどう挑んでいくつもりか」と記者から聞かれたマリニンは「自分の演技に集中するのみ」と応えた。宇野は逃げ切れるか。最高の演技を互いに見せてほしい。 男子シングル・フリースケーティングの競技は25日(土)17時20分から。宇野の滑走順は24番。21時11分ごろ登場予定。(大崎百紀) >>公式練習後の囲み取材の主なやり取りはこちら【圧巻演技の宇野昌磨 フィギュア世界選手権連覇へ期待も直前は「弱気発言」連発だった】 >>ショートプログラム演技後の囲み取材の主なやり取りはこちら【】
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浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由
WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。 投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。 スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。 一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。 球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。 侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。 田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。 2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)
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ヌートバー侍Jでは“低年俸”も今後は安泰? WBCでの活躍がもたらす「巨大な恩恵」
ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で準決勝(日本時間21日)まで駒を進めた侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)の招集などで開幕前から日本中が大騒ぎとなったが、大会が始まって最も注目されるようになったのは、なんといってもラーズ・ヌートバー(カージナルス)だろう。 初戦の中国戦からこれまで5戦全勝を収めている侍ジャパンの1番センターとして全試合に出場。打率.368(19打数7安打)、3打点、7得点とリードオフマンとしての役割を十分に果たし、守備でも好守を披露している。また、試合中やベンチでの“熱い”振舞いでもファンの心をガッチリと掴んだ。 「身体能力の高さや野球へ向き合う真摯な姿勢など、可能性は感じた選手だが未知数の部分も大きかった。カージナルスでは試合の出場数は増えているが、レギュラーポジションが安泰という立場でもない。どこまでやれるのか注目していたが、まさかここまで活躍するとは嬉しい誤算だった」(MLBアジア地区担当スカウト) 「少し前まで国内スポーツ界の話題といえば、(サッカー日本代表・長友佑都の)ブラボー一色だった。3月と時期が早いとはいえ、ペッパーミル・パフォーマンスなど何かしら関係するワードが流行語大賞にノミネートされるのは間違いないでしょう。調理器具専門店ではペッパーミルがバカ売れしているとも聞く。国内の日常風景すら変えてしまった」(大手広告代理店関係者) 一躍スター選手となったヌートバーは、WBCが終わった後も日本から熱い視線がそそがれるのは間違いないだろう。だが、メジャーでは2021年にデビューし、昨年は試合数を増やしたものの、これまで通算の出場試合数は166試合で92安打、19本塁打、55打点、6盗塁と“これから”の選手でもある。 昨年の年俸も53万8625ドル(約7000万円)と大谷やダルビッシュのメジャー組と比べると少なく、NPB組を含めても侍ジャパンでは給料は高いとはいえない部類だ。 「日本での知名度や人気は桁外れとなったが、米国ではまだまだ若手のグリーンボーイ。MLBでの実績がまだ少ないので、現状の年俸は適正価格だといえる」(大手マネージメント会社関係者) 今後の活躍次第では年俸が高騰しているメジャーで大型契約を見込めるだろうが、早くても年俸調停の権利を得るのは2024年のシーズン終了後。フリーエージェント(FA)は2027年のシーズン後と、“高給取り”になるにはこれから数シーズンにわたって結果を残すことが必要とされる。 今季は所属しているカージナルスでライトのレギュラーとして見られているが、同球団は育成上手で、続々と若手の良い選手が出てくるという事情もある。世界から有望な選手が集まる中で定位置を守り続けるのは至難の業だ。 だが今回のWBCでの活躍で日本での株は“急上昇”。仮にメジャーで結果を残さなくても、いずれかのタイミングでNPB球団が獲得に動くというのは間違いないと見られている。 「選手として結果を残せることは証明しつつある。外国人特有の強引さもなく、状況に応じたプレーができるので日本向きといえる。NPB球団に入団しても大外れの心配はないので獲得に動く球団は間違いなくあるだろう。また知名度は日本人トップ選手と比較しても遜色ない。仮に来日した場合には、戦力、営業面の両方で大きな力を発揮するはず」(在京球団編成担当者) 「仮にNPB球団が獲得に動くならば早いに越したことはない。ハードなプレースタイルは身体能力が支えており、またケガと背中合わせの部分もある。また営業面では熱しやすく冷めやすい日本人の国民性を考えても、WBCの記憶が残っているうちでないと意味がない。年俸2億の複数年契約なら今すぐ出す価値がある選手」(大手マネージメント会社関係者) また、試合で一生懸命プレーする姿や、家族愛が溢れるコメントなどでイメージは抜群。これからはCMなど日本からの仕事が舞い込むことも十分に考えられる。 「ルックスも良く、目の下のアイブラックとペッパーミルという際立った特徴もある。水面下ではすでに複数企業からCM契約出演の打診が来ているらしい。一生懸命で爽やかなイメージがあるのでどのような企業にもマッチする。WBC後も様々な場所で見かけることになりそう」(大手広告代理店関係者) そして、現在所属しているカージナルスでもWBCで活躍したことにより、恩恵を受けるかもしれないという。 「カージナルスは“おいしい選手”が出てきて喜んでいる。かつては田口壮(現オリックスコーチ)が在籍し、世界一になったこともある。日本との縁は深く、今回の人気をきっかけに広告や放映権などのジャパンマネー獲得を狙っている。実現すればヌートバーとの高額な長期契約を結ぶ可能性もあるかもしれない」(大手マネージメント会社関係者) ヌートバーはWBCではわずか5試合だけの出場だが、グラウンド内外での価値は想像以上に上がっている。子供の時から夢見た侍ジャパンとしての活躍により、様々な“成功”を手にしたといえそうだ。WBC後も日本人メジャーリーガー以上に注目が集まる存在になるだろう。
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葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由
葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉 冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。 お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。 まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。 正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。 お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切 身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。 一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。 ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。 お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉 死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。 死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。 時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。 深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言 結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。 新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。 お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち 結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。 出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。 文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。 やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。 どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。
プレジデントオンライン
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浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由
WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。 投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。 スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。 一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。 球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。 侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。 田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。 2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)
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「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法
人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 * * * GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。 脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」 差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。 東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」 そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。 ■GPT力も評価対象に すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」 と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」 として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」 海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。 米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。 こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」 さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋
AERA
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WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」
第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。 先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。 各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。 そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。 セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。 針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。 他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。 上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)
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「一国の主にならないと」と1人目の夫が後押し 同志社大教授、女性生命科学者64歳の人生ドラマ
同志社大学生命医科学部教授の野口範子さんは、生命科学者として体の中の活性酸素の研究を続けつつ、「サイエンスコミュニケーター養成副専攻(SC副専攻)」を2016年にスタートさせた。「理系の学生にコミュニケーションのノウハウを教えるのではなく、理系と文系の学生が一緒に社会における科学の問題を議論する場を作りたかった」。周囲の理解が乏しくてもやり抜くことができたのは、子育てと研究の両立に苦闘する中で、持って生まれた胆力がさらにパワーアップされたからなのかもしれない。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) >>【前編:元日テレ桝太一アナを“スカウト”した女性生命科学者64歳の行動力 STAP細胞事件で「やらねば」】から続く * * *――筑波大学の博士課程2年のときに1人目を産んだんですね。 妊娠中に夫は東京に異動して、私は一人で茨城県つくば市のアパートにいた。実家の母に来てもらった次の日に陣痛が来て、夫はいないので私が運転して病院に行きました。京都の母には3カ月いてもらって、約束通り娘を(義父母が住む神奈川県横須賀市の)久里浜に預けにいきました。 「よろしくお願いします」と義母に娘を預けて、私はつくば市に帰った。母乳がよく出たので、毎日乳搾りをして法医学教室の冷凍庫に入れて、週末になるとそれをアイスボックスに入れて車で東京に寄り、そこから夫が運転して久里浜に行って、1泊して帰ってくる、という生活でした。 ――娘さんはずっと久里浜に? えーと、2歳8カ月までそうでした。義母はものすごく娘をかわいがってくれた。 博士3年の夏に次の妊娠がわかりました。そのころは長女を義母に取られたように感じてしまって、ホント勝手ですよ、私が預けてお世話になっているんですけど、なんか返してくれない雰囲気の中、せっかく2人目に恵まれたんだから今度はもっと一緒の時間を過ごそうと決心した。 翌年4月に次女が生まれ、今度は6カ月京都の母にいてもらって、その後は保育ママさんにお世話になりました。週末に次女を助手席に乗せて東京を経由して久里浜へ行き、帰りも次女だけ連れ帰る生活になりました。長女は何を思っていたのか、覚えていないでしょうけど、その頃のことを思うと胸が痛みます。医学系って博士課程が4年なんですが、農薬の毒性発現機序の研究をして4年で無事に博士号を取れました。 医学博士になって帝京大学医学部法医学教室の助手になり、夫婦二人が東京勤務になったので、長女を引き取り、4人で頑張ることにしました。 夫の職場の近くに住み、保育園もすぐそばにあって、毎朝子どもたちをそこに連れて行ったんですけど、やっぱり大変でした。帝京大から家まで、1時間ちょっとかかる。しかも、帝京大の法医学教室は遅くまでいることが大事みたいな古いタイプの研究室でした。 早めに帰るなんて許されず、夕方6時に出る。走って帰っても保育園のお迎えに間に合わないので、外で仕事をしていないご近所さんにお迎えをお願いして、私が帰るまでそのおうちで面倒を見てもらったりしていました。すごくいい人で本当に助けてもらいましたが、その方だって都合が悪い日がある。そのときはまた別の人を探して、本当にもう、米つきバッタみたいに頭を下げて回っていた。保育園に連れて行ったら熱があるから預かれないと言われるときもありますよね。何とか近所の方に預けて遅れて研究室に行くと、「やっぱりお子さんのいる方はダメですねえ」と上司が言う。 夫の職場は、家からも保育園からも1分なのに、土曜日以外はお迎えに行ってくれなかった。子どもが熱を出したときに仕事を休んでお医者さんに連れて行くのもいつも私。小学生になって、授業参観のお知らせが来ると、どっちが行くかで必ずケンカになる。 あるとき、「あなたはいいんだよ。子どものために休むと言っても頑張っているって見てもらえるけど、僕はそういうふうには見てもらえないんだよ」って訴えるように言った。 ――そういう時代でしたね。 これが決定的な言葉だったんです。今振り返ればわかります。彼の立場も、気持ちもわかる。でも言われたときは「もう一緒にやっていけないな」と思いました。だから、それからケンカもしなくなりました。ケンカをしても無駄だなって思って、でも、この関係はどこかで終えてやるって思いました。それで、予定通り離婚しました。 ――いつですか? 2006年ごろですね。娘たちが大学生のとき。 ――かなり時間がたってからなんですね。娘さんたちへの影響を考えてですか? それもあるし、子どもたちが大きくなってきたら、慌てて離婚する必要もなくなったというか。 帝京大の法医学教室は一番つらい時期でしたが、ひょんなことから東京大学へ移ることになりました。帝京の生化学教室の先生とお部屋で研究の話をしていたら電話がかかってきて、切ったあと先生がこちらを向いて「野口さん、東大の二木先生って知ってる?」とおっしゃった。二木鋭雄先生は活性酸素の研究ですごく有名で、学会でお名前を見たことがあったから「知ってます」と答えたら、「二木先生が助手を探しておられるけど、行きますか?」と聞かれた。「行きます、行きます」と言うと、「法医学じゃなくなりますよ?」と言うので、「法医学やめます!」と即答しました。 紹介状を書いていただいて面接に行ったら、OKが出たんですが、そのとき夫が米国の国立保健研究所(NIH)に留学することになった。二木先生に相談したら、「いい機会だから一緒に行っていらっしゃい」と言われ、1年間米国の国立研究所の客員研究員をしました。 帰国して1991年2月に東大工学部に助手として着任しました。二木先生は生体の活性酸素とビタミンEの研究をしていて、本当に神様みたいな先生で、学生さんはたくさんいるし、みんな温かく優しくしてくれるし、精神的にすごく楽になりました。二木先生は「子どもにはいくら愛情をかけてもいいんですよ」とおっしゃった。この言葉が嬉しくて今も忘れません。 先生が東大先端科学技術研究センターに移られたので、私の所属も先端研に変わりました。2000年に二木先生が定年退職されると、児玉龍彦先生が率いる大きな研究チームの中で、私は直属のボスがいない形で研究室を持たせてもらった。研究環境はものすごく恵まれていました。ポスドク3人、博士課程の学生2人、実験補助員3人といった態勢で、お金は児玉先生がたくさん取ってきてくださるので、論文がたくさん書けた。 あるとき、筑波大時代に宿舎が一緒だった親友から「あなた、論文がたくさんあるのになぜ助手なの?」と聞かれたんです。私は研究ができればいいと考えていたんですが、そう言われればそうだなと二木先生に「私はいつまで助手ですか」って手紙を書いた。 そうしたら、二木先生は当時のセンター長に相談に行ってくださったのですが、すでに退職されたお立場だったからでしょう、状況は変わりませんでした。しばらくして、私は科学技術振興機構特任助教授という立場になった。助手は国家公務員ですが、このポストは公務員ではありません。特任助教授という肩書はついたけれど、良かったのかどうかわかりません。ただ、研究環境は変わらず、恵まれた状態でした。 そのうち、活性酸素の研究仲間である京都府立医科大学の先生から「同志社大に行かへんか」と声がかかった。工学部(当時)の環境システム学科が教員を募集しているというんです。そのときは娘が高校生で、連れて行くわけにも置いていくわけにもいかないと思って、お断りしました。このとき府立医大から同志社大に移った谷川徹先生から1年後にまたお誘いを受けた。夫に相談したら、「やっぱり一国の主にならないとダメなんだよ」と言ってくれて、じゃあ行こうかとなった。次女も大学生になるという時期でした。 2005年に同志社大の教授になりましたが、行ってみたら学生もスタッフも誰もいない、私一人なんですよ。これでは研究ができないので、東京に帰ろうと思いました。先端研にはまだ博士課程の学生がいたので、先端研の特任教授を兼務して研究は東京のラボで続けていました。もう同志社は早く辞めようと思ったんですが、その年の12月に新しい学部をつくる話が出て、今に至る、ということです。 ――2回目の結婚はどんな方と? さっき話に出た谷川先生と。私、今の戸籍名は谷川です。 ――離婚はどのように? 子どもたちが小学生のころ、夫は東京から離れた別の機関に移り、長女は小学6年生の途中から再び義母に引き取られて夫の赴任地で生活するようになりました。次女は私と東京に残りました。長女が東京の高校に進学したので、3人一緒に東京の家に住むようになり、私は同志社に就職してから京都と東京を行ったり来たりするようになった。週末は東京で4人全員集合です。 それでお互いに穏やかに暮らしていたわけですが、やはりけじめをつけたいと思い、私は離婚したいという手紙を書きました。自分が思ってきたことをまとめ、そしてこれからはそれぞれ別のほうがいいでしょう、みたいな感じで。その後二人で会って、彼は真面目だから手紙の内容の一つ一つにコメントをくれて、「前から考えていたんだよね。しょうがないね」って。 でも、その後も生活は変わらないんです。週末は親子4人でごはんを仲良く食べる。いつかは娘たちに言わなくちゃと思って、下北沢に4人でブランチに行ったとき、お互いに「そっちから言って」と目配せしあって、彼が「実はお父さんとお母さん離婚したんだよ」って伝えました。 ――娘さんたちは何と? エーッてなりました。大きな衝撃を受けたのは長女のほうでしたね。それから2年後ぐらいに再婚しようと思っていることを娘たちに話したんですけど、そのことは「あんまり衝撃じゃなかった」って言ってました。その後、彼も再婚して安心しました。 娘たちは父親と普通に行き来しています。長女は結婚して、3人の子どものママ。父親が再婚したお相手にもお孫さんがいらして、ちょうど同年齢なのでお宅にお泊まりに行ったりしています。お祝いがあるときは旧野口家大集合みたいになる。次女は京都が好きと言ってよく京都に来ます。今の夫のことは「徹さん」って呼んで、楽しくやっています。だから、どんどん家族が増えているみたいな感じですね。 ――なんともすごいドラマの連続で、野口さんのパワーがびんびん伝わってきました。 そうですか。とにかく今は2人目の夫と仲良く暮らしています。私ももうしばらくすると定年なので、サイエンスコミュニケーター養成副専攻をどのように継続していってもらうか、私がいる間にできる限りの手を打たなきゃと思っているところです。 野口範子(のぐち・のりこ)/1958年、京都市生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒業、同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。帝京大学医学部助手、東京大学工学部助手、同大先端科学技術研究センター助手などを経て2005年に同志社大学工学部教授。2008年から同大生命医科学部教授、2018~2019年に生命医科学部学部長・研究科長、2020年から研究推進部長。京都市教育委員会の教育委員を2018 年から務める。創設したサイエンスコミュニケーター養成副専攻では、同志社大卒の作家・佐藤優氏に15回のフル講義「サイエンスとインテリジェンス」を担当してもらっている。
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【超速報】東大合格発表、開成146人、灘86人、麻布・聖光学院78人<3月10日20時時点>
東京大学と京都大学の一般選抜の合格者が3月10日に発表された。 週刊朝日は、サンデー毎日・大学通信と合同調査を行い、高校別の合格者数を集計した。 午後8時時点での速報値で、東大の合格者1位は146人の開成(東京)、2位は86人の灘(兵庫)、3位に78人の麻布(東京)と聖光学院(神奈川)が入る。 今年は、東大の一般選抜の志願者数9306人に対し、2997人が合格した。うち女子合格者は653人。割合は21・8%で、過去5年間で最も高い割合だった。 藤垣裕子副学長は10日のオンライン記者会見で、 「女子の志願者数および合格者が増えたことは、我々としても大変喜ばしいと思っている。『女子枠』については私が入学した20~30年前から議論があったが、当時の先生方からは『女子枠を設けると、当の女子学生から反対される』と聞かされていた。実際に導入するとなれば様々な方の意見をまとめねばならず、議論が収束していない状態だ」と述べた。 今年の特徴を見ていこう。まず、受験生に人気を集めたのは理系の学部だ。 東大の理科二類は募集人員532人に対して、計2294人の志願者が集まった。現行の定員となった2008年以来、最多の人数だという。 東進ハイスクールを運営するナガセ専務取締役・コンテンツ本部本部長の渋川哲矢さんが言う。 「コロナ禍で医療関連の話題に接する機会が増えたためか、近年では他大学も含め、医学や薬学などのメディカル系の学部が人気です。農学系統では生命科学系の人気が非常に高い。東大理科二類で志願者が増えた背景にも、こうした事情が関わっていると思います」 京大の志願者数も理学部が前年比114%、医学部で同115%だった。 「京大の場合、理学部と医学部・医学科では第1段階選抜に基準点が設定されていますので、22年度入試では共通テストが難化したことの影響から、両学部で志願者が減りました。それに対し今年は共通テストが昨年に比べて易しくなったこともあり、志願者が戻ってきたものと考えられます」(渋川さん) また、今年度の東大入試では、物理の問題が「ここ十数年で最高水準の難易度」としてSNS上で話題になった。 渋川さんが言う。 「生徒からも『難しかった』と相談の電話がかかってきました。化学や生物に関しても難度の高い問題が多く、理系科目については全体として難化傾向にあったと言えます」 Y-SAPIX事業本部長の山口拓司さんはこう話す。 「大問2は電磁気・波動に関する問題で、一見とても難しそうですが、一生懸命解いていると取っかかりが見えてくる。大問3は熱に関する問題で、易しそうに見えますがいざ解いてみると答案にするのが非常に難しい。ぱっと見だけでは難易度はわからない、という教訓となる問題だったと思います」 ◇ 東大・京大合格者ランキングは、3月14日(火)発売の「週刊朝日3月24日増大号」で詳報します。合格者数1人まで掲載の充実した内容で、去年と同じ定価据え置き、税込み470円。私立大学の医学部、歯学部、薬学部の結果もあわせて掲載します。 関連企画として、東京工業大学の益一哉学長に聞いた学校推薦型や総合型選抜入試での「女子枠」導入、東大推薦、京大特色入試に合格した「スーパー高校生」へのインタビューと実名アンケートなども紹介します。 ◇ 以下は、午後8時時点での東大合格者数上位20校と、その人数。 (1)開成(東京) 146 (117) (2)灘(兵庫) 86(66) (3)麻布(東京) 78(53) (3)聖光学院(神奈川) 78(70) (5)渋谷教育学園幕張(千葉) 74(59) (6)西大和学園(奈良) 73(50) (7)桜蔭(東京) 72(67) (7)駒場東邦(東京) 72(55) (9)日比谷(東京) 47(33) (10)栄光学園(神奈川) 46(38) (11)横浜翠嵐(神奈川) 44(35) (12)海城(東京) 43(31) (12)浅野(神奈川) 43(39) (14)渋谷教育学園渋谷(東京) 40(35) (15)早稲田(東京) 38(30) (16)東海(愛知) 37(25) (16)久留米大附設(福岡) 37(32) (18)浦和・県立(埼玉) 36(21) (18)甲陽学院(兵庫) 36(29) (20)ラ・サール(鹿児島) 35(26) (合格実績のある学校への週刊朝日とサンデー毎日、大学通信の合同調査を基にした速報値で、数値は今後変動する可能性がある。右のかっこ内は現役合格者数) ※週刊朝日オリジナル記事 (本誌・松岡瑛理)
週刊朝日
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開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析
首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 * * * 国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。 今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。 まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。 私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。 私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。 東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。 ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。 そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。 さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。 本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。 元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。 大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」 こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。 それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。 この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」 一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。 井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」 3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。 脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日 2023年3月31日号
週刊朝日
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安倍政治を検証した「妖怪の孫」監督「成熟した大人の言動とは思えない」
衝撃の死を遂げた安倍晋三元首相。高い支持を集めた一方で国民の分断と格差を広げた。「パンケーキを毒見する」で菅義偉氏を追った内山雄人監督(56)が新作「妖怪の孫」で安倍氏の実体に迫る。 * * * 前作の「パンケーキを毒見する」(2021年)の公開直後からプロデューサーの河村光庸さん(22年6月急逝)に「次は“本丸”をちゃんと描くべきなんじゃないか」と言われていたんです。自民党のあるベテラン議員にも呼び出されて「自民党がおかしくなったのは、安倍さんからなんだよ」と資料を渡された。とはいえ簡単に手を出せる対象ではない。ある種の恐れもあったんです。 ──そう内山監督は話す。それでも「やらねば」と動いた理由には、日々じわじわ感じる閉塞感や、恐怖があった。 第2次安倍政権ではさまざまなことが勝手に閣議で決められました。13年の「特定秘密保護法」、15年の集団的自衛権の行使を可能とさせる「安全保障関連法」、そして岸田文雄政権での「防衛費増額」「原発再稼働」。自民党は野党の質問にも国民の声にもまともに答えず、そもそも会話になっていない。なのにマスコミも危機感を全く伝えていない。その始まりが安倍さんにある、ということをみんなが感じている。ならば安倍さんという人はなんだったのか。客観的な事実をもとに検証しなければならないと思ったんです。 ──だが、取材を進めていた22年7月に安倍氏が殺害される。世の中の空気が一変し、与党、野党の政治家や安倍氏を取材してきた記者たちからも軒並み取材を断られた。 いったんすべてがストップしました。でも直後に旧統一教会の話が出てきて「これももともと、安倍さんが抱えていた問題なのでは」と、もう一度製作陣の気持ちが立ち上がった。元経済産業省の官僚でジャーナリストの古賀茂明氏の協力を得て、取材を再開しました。 ──映画はさまざまな「なぜ?」をキーワードに、わかりやすく「安倍政権」を読み解いていく。最初の問いは「何で安倍さんはこんなに選挙に強いの?」。12年に第2次安倍政権がスタートした後から自民党が大手広告代理店と手を組み、徹底的なマーケティング戦略をしてきた事実がデータや内部文書で明らかになる。 自民党は一度野党に落ちたことで、本気でメディア対策をやり始めました。そしていまも発信力とメディアへの圧力で世論をコントロールしている。この映画は本来ならばテレビの2時間の特別番組でできるはずです。膨大な映像資料や取材記録が残っているんですから。でもいまのテレビではそれができない。だれもやろうとしない。 ──劇中には16年に高市早苗総務相(当時)が国会答弁で「電波停止」発言をするシーンが映る。まさにいま、内部文書発覚で揺れる「放送の政治的公平性」問題の起点だ。続く質問は「安倍さんはどんなふうに育ってきたの?」。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が幼少期の安倍氏を語る。「ミーハーだよね、ほんとに」と評する人物像は衝撃的ですらある。 乳母兼養育係だったウメさんの「兄(寛信氏)にかまけると、すぐにすねてしまう」などの証言はすごい話だなと思いました。安倍さんの幼少期からの性格や特性について考察できる。 映画を観て気づかれる方も多いと思いますが、安倍さんは敵を作る発言や言葉をあえて発する人です。「あんな人たちに負けるわけにはいかない」とか「悪夢のような民主党政権時代」とか。とにかく相手をくさす。およそ成熟した大人の言動とは僕には思えません。しかもそれを一国の総理の立場で言うわけですから、それが社会全体の空気として蔓延し、いまにも続いてしまっていると感じます。 ──「昭和の妖怪」と呼ばれた母方の祖父・岸信介氏の人物像も紹介される。野上氏は祖父に心酔していたという安倍氏のねじれた思いにも言及する。内山監督が取材のなかで特に印象深かったと振り返るのは、匿名でインタビューに応じてくれた現役官僚2人の言葉だ。 彼らは「総理が平気で嘘をつき、そのあと財務省の赤木(俊夫)さんが自殺してしまった」と、当時のショックも語ってくれた。上司(幹部)から「政権の方向性と違うことは考えるな」と言われ、逆らえば「ぽーん、と首が飛ぶ」と。その状況が露骨に始まったのは14年に内閣人事局が設置され、菅官房長官が人事権を握ってからだと。 彼らはこの10年間で日本がおかしくなっている状況に猛烈なフラストレーションを抱えている。映画には使っていませんが、「辞め時を逸した」という発言もありました。しかし辞められない。理由のひとつは、ある種エリートから離脱してしまう怖さがあるから。それはマスコミの人間も同じだと思います。自分の生活が根っこから変わってしまう、その恐怖から逃れられない。それでも彼らはこの映画が誰かに少しでも届き、少しでも社会が変わればという思いで協力してくれたんです。 ──現代日本に巣くう不寛容さを「妖怪」としてアニメーションで紹介するなど、ユーモラスな仕掛けもある。ジャーナリストの鈴木エイト氏や、新右翼系民族主義団体「一水会」の代表・木村三浩氏による解説は、旧統一教会と自民党に関する「なぜ?」の素朴な疑問を解決してくれる。 この映画は安倍氏の直截(ちょくせつ)な批判をするものではありません。いまの政治の背景がおおよそわかるようになっているので、どんな立場の人にもまずは観てほしい。本作の公開で自分や家族の身に何かが起きるかもしれないという怖さは正直あります。それでも多くの人にこの危機的な状況に気づいてもらいたいんです。 いまの岸田政権にどれほど安倍さんが影響を与えているか。私たちはいま起きている状況を知り、何ができるかを考えないといけない。会話にならない答弁を「おかしいじゃないか!」ともっと突き上げなければならない。日本の状況に「希望がないなあ!」と感じるときもありますが、それでもまだやれることはある、と僕は思っているんです。 (フリーランス記者・中村千晶)※週刊朝日 2023年3月24日号
週刊朝日
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「芦田愛菜」慶應政治学科進学で再注目された“秀才伝説” 15歳で読書1000冊&台本は全出演者分を暗記
4月から内部進学で慶應義塾大学法学部政治学科へ進学することが報じられた女優の芦田愛菜(18)。報道によると、同学科は内部進学を目指す生徒から人気があり、3年間で優秀な成績を収めた結果、無事進学が決まったという。 芦田は慶應義塾中等部に入学した2017年、「スッキリ!!」(日本テレビ系)で、将来について「病理医」になりたいと話したこともあってか、医学部への進学もささやかれていた。ふたを開けてみれば法学部へ進んだが、なぜ法律学科ではなく政治学科を選んだのだろうか。週刊誌の記者は言う。 「芦田は今後も芸能活動にも力を入れていく予定のようで、やはり理系学部となると授業が忙しくなり支障が出るからでしょう。慶應の法律学科は司法試験合格を目指す学生も多く、法律について深く学び専門性が高い。一方、芦田が選んだ政治学科は法律から政治学まで、さまざまな分野を幅広く学ぶことができる。もしかしたら、将来はそこで学んだことを生かしてマルチに活躍できる芸能人という道も視野に入れているのかもしれません。2月に行われた『2023年エランドール賞』の授賞式に出席した際も、新人賞に選ばれた芦田は今年の目標について『いろんなことにチャレンジしたり、フットワークが軽い人間になりたい』とコメントしています」 芸能活動は多忙で、昨年は主演映画「メタモルフォーゼの縁側」が公開され、現在もバラエティー番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日系)でMCを担当するうえ、多数のCMに出演するなど引っ張りだこだ。医学部進学が取り沙汰された際は、芦田に女優と医師という“二刀流”を期待した人もいるかもしれないが、多忙な芸能活動をこなしながら成績上位で人気学科に進学したのは、やはりすごいと言うべきだろう。 最近メディアで活躍する慶應義塾大学法学部政治学科のOGといえば、テレビ朝日の弘中綾香アナ、情報番組「シューイチ」のMCを務める日本テレビの徳島えりかアナ、コメンテーターなどでも活躍するトラウデン直美など、知的で華もある女性が多い。 芦田もそのイメージ通りと言えそうだが、そもそも、その秀才ぶりは子役のころからたびたび話題になってきた。19年、15歳で初の単行本『まなの本棚』(小学館)を刊行。発売記念会見では、これまでトータル1000冊以上は読んでいると明かし、読書は歯磨きや入浴と同じくらい当たり前な日常だと語っていた。子どものころから読書が習慣だった人は知識が豊富で地頭の良い人が多く、だからこそ芸能活動と学業が両立できたのかもしれない。 ■マルモリ福くんが学友に!? また、「バラいろダンディ」(TOKYO MX、3月10日放送)では、芦田が6歳ぐらいのころに一緒に営業に回っていたという古坂大魔王が当時の芦田について、「どの現場にも必ず宿題を持ってきていた」「本番で全員分の台本を覚えていた」と明かしていた。やはり、子どものころから地頭の良さは健在だったようだ。 「最近のコメントからも頭の良さがにじみ出ています。一昨年放送された『博士ちゃん』で、廃虚となった軍艦島が紹介された際、『人が造ったものがまだ残っているっていうのは、崩れないことの皮肉というか、循環していけないことのむなしさを感じる』と、とても10代とは思えない含蓄のあるコメントを残していました。その一方で、昨年6月に放送されたバラエティー番組の料理企画ではホイコーロー作りに悪戦苦闘し、『どんくさいんです』と漏らすなど、普通の高校生らしいところも残っていました」(前出の記者) また、「マルモのおきて」(フジテレビ系)で、子役としてともにブレークした鈴木福も慶應大学に進学すると報じられた。“マルモリコンビ”は大学でも学友となることに。 「報道によると、鈴木の場合は書類と面接で評価される『AO入試』で合格したとのこと。学力だけでいえば芦田のほうが勝っている印象ですが、昨年7月に2人が『博士ちゃん』で共演した際は、鈴木が『愛菜ちゃんも頑張っているのを見ると刺激になる』と率直な思いを語っていました。さらに、『戦友だと勝手に感じている部分がある』と鈴木が言うと、芦田も『うん!』と応答。そんなやりとりを見て、今後もお互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら活躍してほしいと願っている視聴者は多いでしょう」(テレビ情報誌の編集者) 元「週刊SPA!」芸能デスクの田辺健二氏は芦田についてこう評する。 「兵庫県生まれで幼いころは関西弁を話していた愛菜ちゃんですが、仕事で新幹線が東京に近づくにつれ『どんどん標準語になっていった』といったエピソードなど、彼女には“天才子役伝説”がたくさんあり、神格化されてきた感もあります。しかし、そのプレッシャーに押しつぶされることなく、マイペースにここまで芸能界と学業を両立していることがまずすごい。子役出身で芸能界に残れる人はほんのひと握り。愛菜ちゃんは役に恵まれてきたという側面もありますが、その“当たり役”を引き寄せたのは彼女の実力です。学業を優先しつつ、昨年は映画『メタモルフォーゼの縁側』に主演。興行的に苦戦しましたが、BL好きの女子高生という役を好演し、新たな可能性を感じさせる作品になりました。今後は学業が忙しくなると思いますが、いつか女優としてフルスイングする愛菜ちゃんも見てみたいですね。元天才子役のポテンシャルはまだまだこんなものではないと思います」 大学生活も注目を集めそうな芦田。身につけた教養を生かしてどんな活躍を見せるのか楽しみだ。 (丸山ひろし)
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4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか
NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 * * * NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。 この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。 現在の受信料(払用紙で2カ月払いの場合、税込み)は、地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。 実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NKHは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。 そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。 NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。 過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。 新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。 村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。 ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。 新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士) 最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」 NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。 「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之)
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「悠仁さまも愛子さまも、早いうちに海外王室との親善の機会を」 昭和天皇も上皇さまも見た“19歳の世界”
悠仁さまは、皇位継承順位2位にある。いまの皇室典範に則れば、若い世代で唯一の皇位継承者である。悠仁さまは、幼い時期からご両親と国内の土地を訪ね、そこに暮らす人たちと触れ合い文化を学んできた。天皇陛下が昔から、ご友人に「自分の足で現地に行き、自分の言葉でじかに、人びとと話をすることを大事にしたい」と語ってきたように、悠仁さまも自身の足で土地を歩き、学びを積んでいる。 ※記事の前半<<16歳の悠仁さまを執拗に批判する社会は正しいのか? 幼い時期から各地に足を運び風土を学ぶ「帝王学」の芽>>から続く * * * 平成の天皇、皇后両陛下が行ってきた慰霊の旅が令和にも引き継がれたように、悠仁さまも戦争の歴史と犠牲について学んできた。 秋篠宮ご夫妻が心を寄せてきた学童疎開船「対馬丸」の犠牲者を慰霊する集いや、沖縄戦の犠牲者を追悼する集会などにも参加してきた。7歳のときにはご両親と一緒に、沖縄本島南部の糸満市摩文仁にある「平和の礎」を訪れた。ご両親は、24万人余りの名前が刻まれた石碑を前に、この土地で起きた凄惨な犠牲について説明をしている。 10歳の冬には、ご両親と長崎県の原爆の爆心地にある「原爆落下中心地碑」に供花をした。長崎原爆資料館で熱線や爆風の被害を学んでいる。 翌年の夏には、東京・小笠原諸島を訪れた悠仁さま。美しい自然とともに戦争の痕跡がいまだ残るこの地で塹壕や軍道、軍用トラックなどが残る戦争の痕跡もめぐった。 11歳の夏を迎えた2018年の8月10日。広島市の平和記念公園を初めて訪れ、原爆死没者慰霊碑に拝礼し、被爆者の体験を聞いている。 5日後の終戦記念日。秋篠宮ご夫妻は、昭和史研究者・半藤一利氏を宮邸に招いた。半藤氏は、悠仁さまに戦争について話している。 悠仁さまは、半藤氏にこう問いかけた。 「どうして日本に原爆が落ちたのか」 「なぜ戦争になったのか」 秋篠宮さまは「統帥権」について質問した。秋篠宮さまはこのとき、皇位継承順位2位。親子で学ぶ姿がそこにあった。 かつて皇室で皇太子や親王を導いた「傅育官(ふいくかん)」は、いまはいない。しかし、悠仁さまは幼いころから長い時間をかけて「帝王学」を身につけているのだろう。 前述のように、ご両親と公務の場に同行する経験も積んでいる。 一方で、皇室制度にも詳しい八幡和郎・徳島文理大学教授は、悠仁さまは「もっと公的な場に出る機会を積まれるべきだ」と話す。 「というのも、昭和天皇や上皇さまも御幼少の時期から、御学問所で天皇にふさわしい教養や知識を学んでいます。しかし、海外王室との親善や対応を行うという点では、宮内庁による教育は限界がありました。そこで宮内庁は、皇太子の時期に海外を訪問する機会を設けて実地で学びの場をつくったのです」 かつて、元老の山県有朋や原敬首相は、裕仁(ひろひと)皇太子(昭和天皇)も海外で学ぶべきであると勧めている。 「将来の君主として、皇太子が大戦後の欧洲各国を巡遊し、世界の大勢を審(つまび)らかにし、各国の君主・元首と交際して交誼(こうぎ)を厚くすべし」 裕仁皇太子は19歳だった1921(大正10)年3月から6カ月の間、英国やフランスをはじめとする欧州各国を訪れた。そこで目にしたのは、第1次世界大戦による犠牲の跡だ。 英国軍の多大な犠牲を出したベルギーの激戦地を目にした裕仁皇太子。深い衝撃を受け、英国王のジョージ5世にこう電報を送っている。 「『イープル戦場ノ流血凄惨』ノ語ヲ痛切ニ想起セシメ、予ヲシテ感激・敬虔ノ念、無量ナラシム」 フランスでも、破壊された街と荒廃した森を目にした。裕仁皇太子はその光景を嘆き、現地紙に、「戦争を讃美(さんび)し、暴力を謳歌(おうか)する者の眼には如何(いか)に映ず可(べ)きか」と、談話を寄せた。 戦後、昭和天皇としてこのときの欧州訪問を、こう振り返っている。 「英国国王ジョージ五世から立憲政治のあり方について聞いたことが終生の考えの根本にある」 上皇さまも父と同じ19歳の皇太子だった53年、エリザベス女王の戴冠式に昭和天皇の名代として参列するため、欧米を訪問している。上皇さまは、還暦を迎える93年の誕生日会見で、当時をこう振り返っている。 「英国の女王陛下の戴冠式への参列と欧米諸国への訪問は、私に世界の中における日本を考えさせる契機となりました」 53年という年は、第2次世界大戦に敗れた日本が国際社会に復帰した翌年で、日本や日本人を見る世界の目はまだまだ厳しかった。19歳の青年だった明仁親王にとっては、そのあと長い友情を育むことになる各国の王族との出会いの場であると同時に、英国民の冷たい視線にさらされた場でもあった。 前出の八幡教授は、こう話す。 「昭和天皇も上皇さまも皇族として海外王室との親善の旅に出たのは、ともに19歳でした。悠仁さまも、天皇家の長女として公務を担う愛子さまも早いタイミングで、どんどん海外で学び同世代の王室メンバーと人脈を築く経験が必要だと思います。さらには、おふたりとも国民に聞こえてくる動静が少なすぎる点は気になります。たとえば英エリザベス女王が王女時代、紛争で家を失った子どもたちに向けてラジオ放送で演説を行ったのは1940年、わずか14歳のときでした。悠仁さまは皇位継承者として、愛子さまは皇室を支える内親王というお立場です。学業優先とのご家庭の方針は、もっともです。しかし、ご両親とともに公務に同席し、ご経験をもっと重ねるべきではと感じます」 悠仁さまも来年の9月には、18歳の成年を迎える。在籍する筑波大学付属高校は超が付くほどの進学校だけに、旅となれば受験勉強との兼ね合いも難しいところだ。 ただ、若い世代の唯一の皇位継承者であることも現実である。悠仁さまの成長と教育に関心が集まっている。 (AERA dot.編集部・永井貴子)
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早慶の首都圏中高一貫校「合格率」ランキング 慶大は男子校が占めるなか早大トップは女子校
中学受験において、志望校選びはいろいろな情報があり、迷うのも確か。そんな時に頼りになるのが客観的なデータで、中でも特に重視したいのが大学合格実績です。ここでは、合格実績などを指標に、首都圏の中高一貫校のさまざまなランキングを紹介します。第3回目は早稲田大・慶應義塾大のランキングです。 表3と4を見ていこう。近年は早稲田大、慶應義塾大にどうしても入りたいからと、文系学部を全部受けるような受験生は減っている。大学で学びたいことを決め、学びたいことを軸に併願プランを立てていくのが普通だ。大学へのこだわりが薄れてきている。 早稲田大トップは女子学院の76・1%だ。2位が前年トップの聖光学院、3位は共学校トップの渋谷教育学園渋谷、4位は合格者数全国トップの開成、5位は渋谷教育学園幕張だった。 一方、慶應義塾大のトップは聖光学院の57・5%で、2位は栄光学園の56・4%、3位は合格者数全国トップの開成、4位は前年トップの浅野、5位は海城だった。男子校が強い中、女子校トップは6位の洗足学園、共学校トップは8位の渋谷教育学園渋谷だった。 表の早慶の顔ぶれは似ている。トップ30のうち24校が同じなのは、早慶の併願者が多いことの表れだ。異なる6校は、早稲田では、東京都市大付、東葛飾、暁星、南、白百合学園、桐朋、慶應では、雙葉、芝、世田谷学園、桐蔭学園中教、武蔵、吉祥女子だった。学校によって、早稲田に強い、慶應に強いといった差はある。女子学院は早稲田トップだが慶應は10位、渋谷教育学園幕張は早稲田は5位だが慶應は15位、逆に浅野は慶應は4位だが早稲田は22位だ。 ひとくくりに早慶と言われるが、校風やキャンパスの立地、学部構成や入試科目も異なる。慶應は医学部や薬学部などの医療系の学部があるが、早稲田には無い。それらが影響して人気の分かれ目になっている。 (文/大学通信・大野香代子)
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ヌートバーの侍J入りで注目度アップ! MLBで活躍の「日系人選手」は他に誰がいる
今年3月に行われる第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では大谷翔平選手(エンゼルス)をはじめとした日本人メジャーリーガーたちが多数参戦という朗報が届いた。そして、それと同等の驚きとインパクトをもたらしたのが日系メジャーリーガーとして初めてラーズ・ヌートバー外野手が日本代表に加わるというニュースだった。 もともとWBCでは両親がルーツを持つ国であれば代表として出場が可能な場合もあり、これまでも殿堂入りの名捕手マイク・ピアザがイタリア代表としてプレーしたことはあったが、日本代表はこれまで日本国籍を持つ選手のみで構成されていた。それだけに画期的な方針転換と言っていい。 25歳のヌートバーは母親が日本人。21年にカージナルスでメジャーデビューすると、22年は108試合出場で打率2割2分8厘、14本塁打、40打点、4盗塁だった。打率は低めだが出塁率3割4分が示すように選球眼がよく、8補殺をマークした強肩が示すように守備での貢献度も高い。起用法次第で貴重な戦力となってくれるだろう。 前置きが長くなったが、今回はヌートバーの代表選出で注目度が高まった日系メジャーリーガーたちの歴史を振り返ってみようと思う。 日本でおなじみの日系メジャーリーガーと言えば、21年からはエンゼルスで大谷とバッテリーを組んだこともあったカート・スズキ(日系3世)だろう。アスレチックスなどで長年に活躍した捕手で、ナショナルズ時代の19年にはワールドシリーズでホームランを放って優勝に貢献した。22年限りで現役引退を表明し、通算成績は打率2割5分5厘、143本塁打、730打点だった。 このスズキやカイル・ヒガシオカ捕手(日系4世、ヤンキース)のように和風のファミリーネームならば日系だと分かりやすいが、ヌートバーのように母方が日本人の血を引いていると日系だと気づきにくいこともある。現在はドジャースを率いているデーブ・ロバーツ監督も実は日系の元メジャーリーガーだ。 ロバーツは米軍人だった父と日本人の母親の間に沖縄で生まれた日系2世。現役時代は俊足の外野手としてドジャースなどで活躍した。彼のプレーで最も有名なのは、レッドソックス時代の2004年に見せた好走塁だろう。 ア・リーグ優勝決定シリーズで宿敵ヤンキースに3連敗を喫して後がなくなったレッドソックスは、第4戦で1点を追う9回にロバーツを一塁走者の代走に出した。ここでロバーツは初球からいきなり二盗を成功。さらに2球後にはビル・ミラーのセンター前ヒットで同点のホームを踏んだ。盗塁に失敗すれば反撃ムードも断たれて敗退濃厚となるシーンで見事に決めたのは走塁のスペシャリストとしての面目躍如だった。 これで息を吹き返したレッドソックスはこの試合をサヨナラ勝ち。勢いに乗って3連敗からの4連勝でヤンキースを下すと、ワールドシリーズでも86年ぶりの優勝を果たして「バンビーノの呪い」を過去のものとした。それもこれもロバーツの盗塁成功がターニングポイントだったのは間違いない。 引退後は2015年途中にパドレスの代理監督を務め、メジャー史上初めて日本出身の監督に(日系の監督としてはマリナーズを率いたドン・ワカマツの方が先)。20年にはドジャースの指揮官としてワールドシリーズ制覇も達成している。 活躍度で言えばナ・リーグMVPに輝いたクリスチャン・イエリチ外野手(ブルワーズ)。母方の祖父が日本人の日系3世で、曽祖父はNFLで活躍したフレッド・ジャークという家系の出身だ。 17年の第4回WBCでは米国代表として優勝に貢献し、最優秀外野手にも選出。メジャーでは18年に打率3割2分6厘、36本塁打、110打点、22盗塁で首位打者とMVPに輝き、翌19年も打率3割2分9厘、44本塁打、97打点、30盗塁で首位打者を獲得した。 この活躍が認められて20年3月に9年総額2億1500万ドル(約276億2000万円)の大型契約で契約延長。ただしその後の3年間は故障や不振が続き、昨季は154試合で14本塁打どまり。今季こそ完全復活が期待されている。 今後が楽しみな日系メジャーリーガーでは、一時はヌートバーとともに日本代表入りもうわさされたスティーブン・クワン外野手(ガーディアンズ)。父方は中国系米国人で、母方が日本の血を引く日系3世だ。 昨季にメジャーデビューするといきなり4試合連続3出塁以上というメジャー史上初の快挙を達成し、デビューから116球連続で空振りなしという驚異のバットコントロールを披露した。最終的には147試合の出場で打率2割9分8厘、6本塁打、52打点、19盗塁。ホームランは少ないが攻守に隙のない玄人好みの選手で、将来的には首位打者を狙える逸材だろう。 この他にも、大洋(現DeNA)でもプレーしたマイク・ラム(ブレーブスほか)や、報復の危険球を巡って黒田博樹(ドジャースほか)と一触即発の乱闘寸前までいったことがあるシェーン・ビクトリーノ(フィリーズほか)、メジャー通算91勝のジェレミー・ガスリー(オリオールズほか)などがかつて活躍した。 現役ではヌートバーやクワン以外にも前述のヒガシオカや、そのチームメートでもあるゴールドグラブ賞遊撃手のアイザイア・カイナーファレファ、17年のドラフト全体9位指名で通算50本塁打のケストン・ヒウラ内野手(ブルワーズ)などがいる。日本人メジャーリーガーだけでなく、彼らのような日系メジャーリーガーの今後の活躍にも注目だ。(文・杉山貴宏)
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脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも
日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 * * * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。 厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」 昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同) 脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意 心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。 脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」 高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師) また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を 井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師) また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。 日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。 一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より
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徳川家臣団「忠臣」ランキング! 秀吉からの恩恵を“拒絶”してまで徳川家への奉公を貫いた武将
徳川家康は、関白秀吉に「私は殿下のように名物の茶器や名刀は持たないが、命を賭して仕えてくれる五百ほどの家臣が宝」と、控えめに誇ったという。週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』では、徳川家を支えた忠臣、猛将、智将などを、歴史学者の小和田泰経氏が採点。各武将の生き様と能力を解説している。今回は、「忠臣」で採点した。1位の天野康景は先日報じたが、「犬のように忠節」と称賛された徳川の家臣たちの中で2位と3位に選ばれたのは――。 * * * ■2位 鳥居元忠 / 片足を引きずりながらの最期の奉公 鳥居氏は商いで成功を収めた股肱の臣の家で、蔵に蓄えが溢れていたことから、元忠の父忠義は人質時代の家康に衣服や食料の援助を惜しまなかったとされる。 元忠も13歳のときから、駿府で人質生活を送る家康に仕え始め、旗本部隊の将として数々の戦功を挙げた。三方原の戦いでは斥候中に銃撃を受け、片足が不自由になった。 天正十年(1582)の甲斐平定戦では水野勝成とともに古府中の守備を託され、北条氏忠が1万の軍勢を率いて郡内に侵攻したと知ると、わずか2000騎で奇襲を仕掛け、大勝利を博した(黒駒の戦い)。 天正十四年(1586)に上洛した際、豊臣秀吉から叙爵の内示があったが、徳川家以外から恩恵を受けるわけにはいかないとして、これを辞退。九戸一揆の平定に際しても秀吉からの感状を辞退した。 慶長五年(1600)、家康が上杉討伐のため東下するに際し、松平家忠・内藤家長・松平近正とともに伏見城を託され、石田三成からの降伏勧告を断固拒絶。西軍10万人相手に力戦のすえ討ち死にした。ともに戦死した家臣57人、兵700余人、足軽数百人に及んだ。 ■3位 内藤家長 / 怪力無双にして放つ矢は大気を震わす 祖父の義清は松平信忠・清康に仕え、上野下村城を与えられた、岡崎五人衆の一人であったというから、武芸に秀でていたことがうかがえる。 父清長がそうであったように、家長も家康から一字をもらうなど、代々の主従関係にあった。 石川数正の組で先手を務め、「力量人に勝れ、騎射の達者」と称された。遠江国二俣城を攻めた際には、その弓勢を目にした城主の依田信蕃から、「近代無双、今弁慶と称すべし」と恐れられた。相当な腕力を見せつけたのだろう。 家康の部将達が敵味方に分かれ争った、三河一向一揆の際には終始家康の側に付いた。家康の嫡男・信康が自害を強いられた際には付属の士25人を、宿老の石川数正が徳川を捨てて豊臣秀吉のもとへ走った際には、馬乗同心80を預けられている。 小田原城の包囲には兵50騎と雑兵数百人を率いて参陣すると、家長の容貌を見て感銘を受けた秀吉から、「将帥の器にあたれり」として、鉄砲30挺を与えられた。 関東入国時には、上総国佐貫に2万石を与えられ、伏見城の副将を拝命。鳥居元忠らとともに西軍足止めの大役を果たし、討ち死にした。 ◎監修/小和田泰経(おわだ・やすつね)1972年、東京都生まれ。静岡英和学院大学講師。大河ドラマ『麒麟がくる』の資料提供を担当。最新著書に『すごい ヤバい 戦国武将図鑑』(カンゼン)、『タテ割り日本史5 戦争の日本史』(講談社)、『天空の城を行く』(平凡社新書)など。 ※週刊朝日ムック『歴史道 Vol.25 真説!徳川家康伝』から抜粋
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「人の顔色ばかり伺う自分」が嫌で「言いたいことを言える自分」になりたいと吐露する27歳女性に、鴻上尚史が“その2つは一緒”だと指摘し提案したこと
「人の空気感や顔色をうかがうことは得意」でも「人の気持ちを考えることがとても苦手」と告白する27歳女性。自分の頭で考えられるようになりたいと願う相談者に、鴻上尚史が指摘する「こんな私でも」と否定的な思考の流れを遮断する必要性。 【相談177】私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちを考えることがとても苦手です(27歳 女性 砂漠) 鴻上さん、こんにちは。 以前、「大人というのは自分の頭で考えられる人間になることだ」という鴻上さんの言葉を拝見しました。 私は、なるほどなと思うと同時に、それなら自分は子どもだなとも感じました。 というのも、昔から私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちに寄り添う=その人の気持ちを考えることがとても苦手で、そのせいか友達は少ないのに、先生や友達の親といった大人からは好かれやすいところがありました。 周りからはそれを「優等生」「いい子」と見られ、褒められることもありましたが、私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました。私には私の考えがないから、自分の意見を言うことができない。子どもが親に許しをもらおうとするように、うかがいをたてることしかできないんだと辛くなりました。 本をたくさん読むと自分で考える力が付くとも言いますが、私の場合、本を読んでもこんな考えもあるのか!とは思えど、それをちゃんと力にできていない気もして……(力にできていたら、こんなダメにはなっていませんよね)。 今回もこのような形で自分の力ではなく、鴻上さんの力に頼るようなことをしておりますが、こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたいとも思っており、投稿しました。 長文をすいません。 どんな厳しい言葉でもいいので、よろしくお願いします。 【鴻上さんの答え】 砂漠さん。そうですか。「顔色をうかがうことは得意」でも、「その人の気持ちを考えること」がとても苦手なんですね。 この二つは、似ているようで違いますよね。「顔色をうかがうこと」と「その人の気持ちを考えること」の違いはなんでしょうか。 僕が思うには、「顔色をうかがうこと」は、「人に嫌われたくない」という気持ちが中心で、関心は自分に向いていると感じます。一方、「その人の気持ちを考える」ということは、関心は相手に向いているんじゃないかと思います。自分中心か、相手中心かの違いですね。 いきなりの例え話なんですが、俳優になりたい初心者の中で、ものすごく自意識が強い人がいます。 相手役と会話していても、「どんなふうに見られているか」「恥は絶対にかきたくない」「笑われたくない」と強く思っている人です。そういう人は、相手に対する関心はまったくありません。相手がどんな表情をしようが、どんな演技をしようが関係ないのです。関心は自分です。自分がどうしたら恥をかかないか、笑われないか、どんな言い方をしたら演出家にほめられるかだけを考えているのです。 極端な例ですが、砂漠さんの状況もそれに近いと思います。 相手が本当は何を求めているかとか、本当はどう思っているかが問題ではなく、自分が嫌われないこと、自分が傷つかないことが重要なんだということです。 どうしてそうなってしまうかは、みんな、なんとなく分かっていると思います。自分に自信がない、ということですね。自分に自信がないから、とにかく、嫌われないこと、否定されないこと、笑われないことが一番大切なことになるのです。 どうですか、砂漠さん。もし、そうだと納得してもらえるなら、砂漠さんのやることはたったひとつです。 自分に自信をつけること。別な言い方をすると、自己肯定感を高めることだと思います。 だって、焦って本を読んでも何も身につかないでしょう。私なんかダメだと思いながらいろんなことに接しても、あまり得るものはないんじゃないでしょうか。 さて、砂漠さん。どうしたら自分に自信がつくのか。 僕は以前にこの「ほがらか人生相談」で、「小さな勝ち味を積み重ねること」と書きました。 自分のことを「こんなダメにはなっていませんよね」と書く砂漠さんですが、100%ダメですか? まったく良い点はありませんか? でも、仕事のために(働いてないなら家事手伝いのために)毎朝ちゃんと起きてるんじゃないですか? 顔を洗えてるし、歯も磨けているんじゃないですか? 冗談ではないですよ。いくつかのことを、毎日ちゃんとできているのは素晴らしいことです。全部ダメなんて人はいません。ただ、全部を一気に否定する方が、細かな良い点を見つけるより楽だから、「私はダメだ」と言いたい人が多いのだと僕は思っています。 だって、自分と自分の生活を見つめて、小さいけれど良い点を見つけることはエネルギーが必要ですからね。 ネットで調べれば、自己肯定感を上げる方法を書いた本にたくさん出会うでしょう。僕はこの前、自己肯定感が低かったOLさんがどうやって自信をつけたかを正直に書いた本を読んで感動しました。 自己肯定感が低くて苦しんでいる人は多いですが、同時に、少しずつ少しずつ自己肯定感を高めて楽になった人も多いのです。そういう人が書いた本や経験談はきっと砂漠さんの参考になると思います。 自己肯定感が高まれば、焦ることはなくなります。相手の顔色をうかがうことに必死になる必要もなくなります。 人間の能力には限界があるので、一度にたくさんのことはできません。自意識の強い俳優は、エネルギーを「自分はどう見られているか」を探ることに使います。当然、相手のことを感じたり、観察したりする余裕はなくなります。人間のエネルギーは有限だからです。 でも、自分に向けるエネルギーが減ると、必然的に相手を観察するエネルギーが増えてきます。俳優はそうやって成長するのです。 自己肯定感が高まると、落ち着いて、相手の感情に寄り添うことができるようになります。本を読んでも、「早く吸収しよう」とか「自分は全然ダメだ」と焦ることもなくなります。ゆっくりと、言葉が身体に染み込んで、やがて使えるようになります。 ちなみに、俳優の初心者で、周りのことばかりを気にしていた人が、突然、思い切った演技を始めることがあります。思っていることを全部、ぶちまけるような演技です。 今まで「こんなことを言ったら嫌われるから言わないようにしよう」とフタをしていたことを一気に出すのです。 でも、残念ながら、そういう演技は人を感動させることは少ないです。ただ気持ちを吐き出しているだけで、一種の排泄作用のようなものだからです。 そして、この場合もじつは、相手に関心は向いていません。関心は、やっぱり自分です。自分の感情をとにかく吐き出すことに集中しているのです。 砂漠さんは「私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました」と書きます。 残念ながら、それは極端から極端へ移っただけで、「自分の考えにすべてフタをする」と「なんでもズバズバ言う」は、コインの裏表で、相手を無視するという意味では同じことじゃないかと感じます。 どちらも、自分に自信がないから起こることだと僕は思っています。 「こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたい」と砂漠さんは書きますが、「こんな私でも」と思っている間は、「自分の頭で考えられる」ことはないと思います。 まずは「こんな私でも」とオートマチックに考えてしまう流れを遮断することが必要なのです。 大丈夫。自己肯定感を低くしたのは、砂漠さんです。だから、自己肯定感を高くできるのも、砂漠さんなのです。人は変われます。変われると思ったら変われます。 少しずつ、自分をほめて、認めてあげませんか? ■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載! ↓【声で聴く】鴻上尚史が「人生相談に込める思い」ポッドキャストはこちら↓
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落選組で侍ジャパンを作ってみると…「栗山ジャパンに見劣りしない布陣」に
3月のWBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンの陣容が固まった。 投手陣を見ると、先発はダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)が当確で、4番手候補は今永昇太(DeNA)の可能性が高い。試合の中盤から投げる「第2先発」は宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、高橋宏斗(中日)が控える。終盤は湯浅京己(阪神)、宇田川優希(オリックス)と頭角を現した若手成長株に加え、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、大勢(巨人)と各球団の守護神が。様々な起用法に対応できる伊藤大海(日本ハム)の存在も心強い。大谷翔平(エンゼルス)が守護神として起用される可能性も考えられる。 野手はメジャー組が軸になりそうだ。大谷、ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)と強打者がズラリ。4番は昨年日本記録の56本塁打で三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)で間違いないだろう。ホームランアーティストの岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)も選出されており、破壊力十分。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)は出場辞退が報じられたが、投打で過去最強の布陣と言ってよいだろう。 ただ、今回のメンバーの選出に対しては賛否両論の声が上がっている。外野手が4人のみで本職のセンターが選出されていないことや、変則フォームの投手が少ないことが懸念されている。裏を返せば、それだけ代表候補の実力者が多いと言える。 今回の栗山ジャパンから漏れた「落選組」でメンバーを編成すると、どんなチームを作れるだろうか。他球団のスコアラーは「日の丸に縁がないけど、球界を代表する選手は少なくない。大谷レベルの選手はなかなかいませんが、総合力では栗山ジャパンに見劣りしないチームを作れますよ」と言葉に力を込める。 以下は現場の首脳陣、選手の評価が高い選手で構成したスタメンだが、いかがだろうか。 (右)松本剛(日本ハム) (中)岡林勇希(中日) (一)佐野恵太(DeNA) (指)浅村栄斗(楽天) (左)西川龍馬(広島) (三)宮崎敏郎(DeNA) (遊)長岡秀樹(ヤクルト) (捕)梅野隆太郎(阪神) (二)菊池涼介(広島) (投)青柳晃洋(阪神) 投手を含めた上記の10人を選出するのも頭を悩ませる。外野は塩見泰隆(ヤクルト)、近本光司(阪神)、ベテランの秋山翔吾(広島)、丸佳浩(巨人)、大島洋平(中日)も有力候補で層が厚い。複数のポジションが守れて、打撃センスが高い坂倉将吾(広島)、牧原大成(ソフトバンク)はベンチに入れたい。和製大砲の大山悠輔(阪神)も一塁、三塁、外野を守れることから重宝できる。代走の切り札では今季盗塁王に輝いた高部瑛斗(ロッテ)が筆頭候補だ。捕手と遊撃がやや手薄か。遊撃は紅林弘太郎(オリックス)、小園海斗(広島)が殻を破ってほしい。菊池と長岡の二遊間は守備能力が非常に高い。俊足強肩の岡林を含めたセンターラインは強固だ。 投手陣は先発が青柳のほか、西勇輝、伊藤将司(阪神)、大野雄大、小笠原慎之介(中日)、高橋光成(西武)、上沢直之、加藤貴之(日本ハム)、田中将大(楽天)ら多士済々。特に抜群の制球力を誇る加藤は先発、救援で抜群の制球力を発揮できるので起用法の幅が広い。救援陣は清水昇(ヤクルト)、伊勢大夢、山崎康晃(DeNA)、高梨雄平(巨人)、山崎颯一郎、比嘉幹貴(オリックス)、藤井皓哉(ソフトバンク)、與座海人、水上由伸(西武)が有力候補になるだろう。 スポーツ紙デスクは、「監督の目指す野球の方向性でメンバーはガラリと変わります。栗山監督は第2先発で起用する投手に、各球団のエース級をそろえましたが、ここがポイントになると思います。先発と救援では試合に入るリズムが変わるので、対応力が問われる。個人的にはロングリリーフできる加藤や與座を入れるかなと思いましたが、栗山監督の継投策が注目ですね」と分析する。 今回の侍ジャパンからは漏れたが、プロ野球を盛り上げる実力者たちの活躍も楽しみだ。(今川秀悟)
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東浩紀「ゲームのように制度の穴を突いても意味がない。政治も論壇も空転するばかり」
批評家の東浩紀さんの「AERA」巻頭エッセイ「eyes」をお届けします。時事問題に、批評的視点からアプローチします。 * * * 10年ほど前、若い批評家がやたらと「ハック」という言葉を使った時期があった。老人支配の日本社会は正攻法では変わらない。ならば既存制度の穴を見つけ、脱法的に改革を進めるほかない。そんな発想をコンピューターのハッキングになぞらえた表現だ。 当時は一部の流行でしかなかったが、いまやその精神は社会全体に蔓延(まんえん)している。社会学者の伊藤昌亮氏は「世界」3月号で「ひろゆき現象」を論じている。そこにハックという言葉が出てくる。 ひろゆき氏はいまや日本で最大の影響力をもつ言論人のひとりである。けれども彼の核にあるのは特定の思想や正義感ではない。むしろライフハックの喜びである。ひろゆき氏はあらゆる主張をハックし、ゲームのように相手を「論破」する。そのさまが痛快なので若者は支持しているわけだ。 同じ精神がガーシー騒動の背景にもある。ガーシー氏は昨年2月に暴露系ユーチューバーとして活動を開始、瞬く間に知名度を上げて、7月の参院選で当選してしまった。その後の混乱はご存知(ぞんじ)のとおりで、この3月15日についに国会を除名処分となった。 筆者は除名処分に全面的に賛成である。氏の言動にはほとんど公共性がない。しかしそれだけに支持が消えないのは不気味である。氏は選挙の穴を突いた改革者だとみなされている。騒動を受け、氏が所属するNHK党は政治家女子48党に改名した。もはやコメディーだが、仕掛け人は一種のハックだと考えているのだろう。 この状況はじつに不健康である。日本社会が変わりにくいことは確かだ。制度の穴を突くのも悪くない。しかしハックそのものを自己目的化しても意味がない。何のために制度を逆手に取るのか、何のために相手を論破するのか、目的がないところでハックを繰り返しても政治も論壇も空転するばかりである。私たちはハッキング礼賛こそ抜け出す必要がある。 むろんこんな言葉はひろゆき氏やガーシー氏の支持者には響かないだろう。それでもひとりの「老害」として、人生はゲームではないとだけ言っておきたいと思う。 ◎東浩紀(あずま・ひろき)/1971年、東京都生まれ。批評家・作家。株式会社ゲンロン取締役。東京大学大学院博士課程修了。専門は現代思想、表象文化論、情報社会論。93年に批評家としてデビュー、東京工業大学特任教授、早稲田大学教授など歴任のうえ現職。著書に『動物化するポストモダン』『一般意志2・0』『観光客の哲学』など多数※AERA 2023年3月27日号
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WBC大谷の看板直撃ホームランの“値段” 巨人戦なら賞金100万円、広告効果は1億円以上
WBC日本代表の快進撃で、日本中が沸いている。12日のオーストラリア戦では、大谷翔平選手が打ったホームランが、自身が映し出されたセールスフォースの看板に直撃。SNSでは「自分の看板を破壊」、「広告効果抜群」、「大谷に賞金をあげるべき」などと思わぬ話題を集めた。果たして、賞金は出るのか、修理費はいくらか、広告効果はどのくらいあったのか――。 * * * 「ものスゴイ打球速度で来たホームランでした」 こう語るのは、東京ドームで開催された日本対オーストラリア戦を現地で観戦した「ミスターX」(ツイッターのハンドル名)さんだ。偶然にも看板の真下の席にいたという。大谷選手は1回、ランナーを1、2塁において、特大の3ランホームランを放った。 「周りは狂喜乱舞で大騒ぎだったので、看板に直撃した音はわかりませんでした。直撃した看板がチカチカ点滅していたので壊れたんだなと思いました」(ミスターXさん) ちなみに東京ドームでは、読売巨人軍の公式戦でメインビジョンの広告にホームランを当てると、「ビッグボードホームラン賞」としてスポンサーから選手に100万円相当の賞金、または賞品が贈られるという特別ルールがある。今回のホームランには賞金は出ないのだろうか。 「カーネクスト 2023 ワールド・ベースボール・クラシック 東京プール」(WBC)の主催者に尋ねると、広報担当者は「大会では用意していない」という。セールスフォースは「契約内容は公開できないので、コメントは控えたい」ということだった。 壊れた看板は誰が修理費を払うのだろうか。主催者に確認すると、なんとメインビジョンは壊れていないという。 「当たった後は壊れたように見えましたが、壊れていません。13日もチェコ対オーストラリア戦の試合がありましたが、ボールが当たった個所は支障はなく映っていました」(広報担当者) 東京ドームに尋ねると、故障はしていないとした上で、メインビジョンの仕組みについては「面積等以外の情報を全て社外秘とさせていただいており、非公表」ということだった。 では、宣伝効果はいったいどのくらいあったのか。大手PR会社であるプラップジャパンにネット上での影響について分析してもらった。 SNSやウェブ記事などを分析するツール「Talkwalker」で12日から14日の3日間で大谷選手の名前とセールスフォース、同社のロゴが含まれている投稿、記事を調べた。その結果、Twitterでの投稿者数は399人、投稿数は420件だった。約120万人ものユーザーに情報が届いたと見られる。また、ウェブ記事としては転載を含めて204件もあったという。 プラップジャパンのデータアナリスト、寺門洸人さんはこう分析する。 「Twitterでは、スポーツ紙関連アカウントや野球ファンだけでなく、著名企業家や有名ブロガー、エコノミストなどビジネス界隈の著名アカウントで複数投稿が見られ、話題が拡散しました。また、スポーツ各紙のオンライン記事がYahoo!ニュースに複数転載されたことで、野球ファン以外の一般層の多くの目に触れられる効果があったと思います。Twitterでの二次波及も引き起こしました」 放送されることでの宣伝効果はどのくらいあったのか。 テレビ放送の効果測定などを行うニホンモニターによると、中継で「セールスフォースの看板」が出た回数は14回、合計で36秒だった。また、12日の夜から13日の正午までに放送されたニュース番組では、合計で20番組、約602秒も出ていたという。 広告換算すると、中継での金額が約1900万円、ニュース番組での金額が9700万円、合計で1億1600万円もの効果があったと分析する。調査を担当したニホンモニターの安藤純一さんはこう語る。 「注目度の高い大谷選手が打ったこと、そして初回にホームランが出たことで、ハイライトシーンでも繰り返し放送されることになりました。看板の広告費用がいくらかわかりませんが、広告効果は十分にあったのではないでしょうか」 東京ドームに広告掲載がいくらになるか尋ねたが、「金額条件をお伝えすることはできません」と、こちらも非公表だった。 話題となったセールスフォースは、思わぬ効果に喜びに溢れているのではないか。取材を申し込むと、「今回の件につきましては、特に当社としてのコメントや感想はご提供しておりません」(セールスフォース・ジャパン広報担当)とまさかの塩対応だった。 日本代表は16日に準々決勝でイタリアと対戦する。次はどんな話題が飛び出すか。 (AERA dot.編集部・吉崎洋夫)
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