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    堂々としてカッコいいのはなぜ? 宇野昌磨の「真凛」発言に見たブレないメンタルの軸

     先週行われたフィギュア世界選手権。男子シングルの宇野昌磨は、いろんな意味で「主役」となった。注目されたのは、連覇を達成した成績だけでなく、会見でさらりと交際相手への感謝を口にする姿だった。 * * * ショートプログラムを終えて1位に立ったのは、宇野昌磨。続く2位がマリニン(米国)。3位は韓国のチャ・ジュンファンだった。  勝負のフリープログラムを振り返ろう。  宇野の直前に滑ったマリニン。大技4回転アクセルに挑んだ。成功こそしたものの、さほどGOE(出来栄え点)をのばせない。ジャンプの小さなミスが響き、総合順位は、その時点で2位。表示された得点を見て、笑顔を見せたものの、演技後はちょっと残念そうな表情でもあった。全てのジャンプを決めれば高得点が狙えた難易度の高い構成でもあったからだ。  最終滑走の宇野の滑りは、マリニンと対照的ともいえる柔らかい着氷とのびやかなスケーティングで、演技構成点はマリニン(80.98点)よりはるかに高得点の93.38点をたたき出した。  ショートに続き、フリーでも1位。  宇野の一人勝ちだった。  総合得点301.14。300点超えは宇野だけだった。 ◆「僕を超えて」とステファン  心配されていた右足首周辺の故障について、実は先週に練習で傷めていたことを、演技後の会見で明かしたのは、コーチであるステファン・ランビエルだ。 「ここ2週間ほどは昌磨にとっては(ケガもあり)チャレンジングだった。厳しい調整だった。でも大事なのはパフォーマンスすること。回復傾向にあったので体は心配していなかったが、どちらかというとメンタルの方で、どの程度揺さぶられているところが一つの課題だった。しかし彼にはすごい経験があるので、私自身は全然心配していなかった。彼のスィッチが『オン』に入れば、痛くても練習がひどくても必ず計画通りにやってくれるので。 (試合前)昌磨には練習でやりすぎないように体の調整を心がけるようにと指示しました。練習はいいものではなかったけれど、大切なのは冷静でいること。普段通りに行かなかったとしても自分の自信が勝るということが大事だと思います。2005年と2006年に僕は2連覇しているけれど、昌磨もこの2連覇を今回達成したので、さらに僕を超えてほしい」 ◆記者も衝撃の宇野の発言  その後のプレス会見で、優勝した気持ちを宇野はこう語った。 「ほんとうにうれしい。ショートもフリーも自分が想定していたよりもいい演技だったと思いますし。フリーに関しては細かいミスというものもありましたけれどもほんとに今日できる最高の演技だったと思うので嬉しいです」  そして、記者らが驚いたのは、この次の発言だった。ケガがあり厳しい中でも素晴らしい演技ができた秘訣を聞かれた宇野は、 「長年の経験なのもありますが、僕を近くで支えてくれている、昔だと家族、今だと真凛とか、僕を支えてくれる皆さんーステファン、でみ先生(トレーナーの出水先生)、マネージャーさん、など皆さんの力があって自分があると思います」  と答えた。気負った様子もなく、自然と出てきた交際相手の名前。女子選手の本田真凛とは「良いお付き合いをさせて頂いております」と、自身の公式サイトでも交際を報告していた。とはいえ、記者らは、この場でこのようなかたちで交際相手に言及するとは想定していなかった。  プレスの間でも、聞くのは憚られるが、聞きたかったことでもある。  そんな「真凛」ワードを宇野はさらりと、カメラの入ったオンライン生中継の会見の場で言ったのだ。 ◆SNSで賞賛相次ぐ理由  早速SNSでは、「宇野くん、真凛ちゃんのことも堂々と言って(中略)かっこいいね」「支えてもらっている人として真凛ちゃんの名前をプレカンでさらっと出す宇野昌磨!かっこいいなぁまったくもう。」「宇野昌磨の会見で真凛のおかげって最初に言ってたのかっこいいな!」など賞賛の声が上がった。  しかし宇野が自ら発言するとは―。  ソウル五輪シンクロ銅メダリストでスポーツ心理学者(博士)の田中ウルヴェ京さんは「恋人の名前を出すことに、私は驚かないです」。その理由については「判断基準を主観でちゃんと持っている人なら、そうだろうなあ、です『自分の内に、自分の判断軸を持っている人』であれば、『何をいつ、どう、いうか』を自分で決める。」と話す。  宇野もしっかりと自分の軸をもっているのだろう。 「だからこそ、逆に『どういうご判断で、それを語ったのか?』には心理的に興味があります。ご本人にしかわからないからです。例えば、本当に感謝をしているので、ついうっかり名前を出しちゃったのか、それとも、何か理由があって出したのか……。判断理由はわからないですよね」  日本男子初となる世界選手権二連覇を成し遂げた宇野。限界を作らずに、これからも挑み続けてほしい。(大崎百紀)

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    「老害化前に集団自決」発言で考える世代間対立 標的になるのは 貧困の高齢者

     米イェール大学に在籍する経済学者、成田悠輔さんの「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹をすればいい」との発言が物議を醸した。高齢者は社会のお荷物なのか。不毛な世代間対立の根を断つ必要がある。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 * * *  日本社会では以前から高齢者への風当たりが強い。高齢者が問題を起こせば「老害」という批判が飛び交い、「シルバー民主主義」という用語は選挙のたびに使われている。超高齢社会が顕在化するにつれ、高齢者は「お荷物」あるいは「優遇されている」という認識が浸透しているようにも感じられるが、実際はどうなのだろう。 「公的年金制度が賦課方式によって運用されている以上、そうした議論もあると思います。ただ、優遇されているという話を高齢者一般に当てはめるのは少し無理があるかもしれません。現在、シニアの方々の仕事なしには日本経済は成り立たない状況になっているからです」  こう話すのは、高齢者の就労に詳しいリクルートワークス研究所の坂本貴志研究員だ。  日本の高齢者の就業率は主要国の中で韓国に次いで高い水準にある。「とりわけ65~69歳の過半数、70~74歳の3分の1が働いている日本の状況は特筆すべきものであり、高齢になるとほとんどが働かない欧米主要国とは全く異なります」(坂本さん)  職種別で見ると、農林漁業で52%、清掃従事者のほぼ4割が65歳以上の高齢者で占められる。ほかにも居住施設・ビルなどの管理人や、輸送、建設、飲食などのサービス業でも2割前後が高齢者で占められている。  そう言えば、昨年、首都圏の物件を請け負う建設会社を取材した際、社長が「建設の現場は今、本当に若手が少ないんです」と吐露していた。ファッションブランドが軒を連ねる都心の通りを明け方に歩くと、店舗の内外にいるのは高齢の清掃員ばかりで日中とのギャップに戸惑ったこともある。タクシー運転手も高齢者が目立つ。地方では人手不足や高齢化はさらに深刻で、学校や施設の送迎バスの運行や配送などのサービス業も高齢者が不可欠な担い手になっているという。 ■人手不足の業界・職種ほど高齢化が進む傾向にある  少子化が進む日本社会では、もはや高齢者抜きには維持できない職場が増えているのが実情なのだ。だとしても、なぜここまで高齢者の就労が増えているのか。高齢者側には経済的な事情がある、と坂本さんは言う。 「年金支給額も減るなか、働き続けることで受給年齢を遅らせたり、家計の足しにしたりする人が増えています」  企業側は人手確保が必須。若い人を優先して採用する企業が多いなか、人手不足の業界や職種ほど高齢化が進む傾向にあるという。国が近年、高齢者就労を促す政策を進めているのも、少子化による人手不足や年金支給年齢の引き上げが背景にある。かといって条件の良くない職場を生活の苦しい高齢者に押し付ける構図を定着させるべきではない、と坂本さんは唱える。 「市場原理に委ねていればそれで良いと考えるのは適切ではありません。最低賃金の引き上げなど政策的なバックアップが必要です。高齢の方に無理なく社会に貢献してもらえるようインセンティブ付けを図るとともに、年をとっても働かれている人たちの権利を守っていくことが大切です。日本経済は今、そういう局面にあります」  2022年の自殺者数は中高年の男性で大幅に増えた。昨年11月までの暫定値では、50代が2604人(前年同期比12・9%増)、80代以上では1425人(同16・8%増)だった。過去の調査では、生活保護を利用している高齢者の自殺リスクが高いとの調査結果も報告されている。生活困窮者の支援活動に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事がかつて接した人の中にも、あえて病気を治療せずに「緩慢な死」を選ぶ高齢者がいたという。 「コロナ禍でもリーマン・ショックの時もそうですが、日本経済を支えるど真ん中の世代が生活に困窮している状況に対しては、社会全体としてなんとかしないといけないというコンセンサスを得やすい半面、高齢者の貧困は見過ごされがちなのは否めません」  物価高騰は生活保護を受けている世帯や、少額の年金で生活している高齢者の暮らしを直撃している。生活保護を利用している70代の女性から「ガス代がかさむため温かいものを食べるのをあきらめた」と聞いて稲葉さんはショックを受けたという。 「団塊の世代は裕福と思われがちですが、生活保護を利用している世帯の過半数が高齢者世帯で、うち9割が単身高齢者です。背景には低年金、無年金の問題があって、景気動向にかかわらず増え続けています」 ■シルバー民主主義の批判は格差無視する乱暴な議論  都内で路上生活をしている人の平均年齢は65歳を超え、70~80代の路上生活者も珍しくない。90代で野宿している人もいるという。  稲葉さんは、若者の投票率アップを呼び掛けるキャンペーンで「シルバー民主主義」という言葉が用いられることに異議を唱えてきた。有権者人口が多く、投票率も高い高齢者層向けの政策が優先され、若年層の声が政治に反映されにくいことを指す言葉だ。 「子どもの貧困問題に真摯に取り組む人たちも、若者の投票率アップを促すためにあえて『シルバー民主主義』という言葉を使って現状を批判するんですが、当然ながら裕福な高齢者もいれば貧困の高齢者もいて、政策に求めるものは全く違う。同じ世代の中でも貧富の差やジェンダーの格差が大きいことを無視して、世代全体を一括りにして語るのはあまりに乱暴な議論です」  稲葉さんはこう続ける。 「貧困は世代を問わず拡大しています。今の日本社会で富の再分配がきちんと行われていないことが問題なのに、世代間対立をあおることで論点がずらされてしまうのを懸念しています」  少子高齢化で日本社会はもう持たないんじゃないか。そんな不安心理に付け入る形で、若者と高齢者を分断していく言説は今に始まったことではない。「老人はみんな死ねばいい」といった発言をする人は昔からいた。ただ、たいていは居酒屋談議や暴言を売りにしているお笑いタレントだった。今回の成田さんの「集団自決」発言に、稲葉さんは強い危機感を抱いたという。 「有名大学の学者が発言することで学問的に裏打ちされた主張であるかのようなイメージが社会に広がることを危惧しています。一見、高齢者全体を批判しているように聞こえますが、医療や福祉が社会全体の負担になっているという言説の中で使われる言葉ですから、実際に標的になっているのは貧困の高齢者です」  これは「優生思想」につながる発言だと稲葉さんは警鐘を鳴らす。 「今回は高齢者がターゲットですが、次は障害者だったり、生活保護利用者だったり、と際限なく広がっていくでしょう。結局、私たちの社会全体の根幹を崩す議論にしかなりません」 ■少子化政策の不備が世代間対立にすり替えられ  かつて留学していたフランスの年金制度改革の反対運動をめぐる研究の中で、日本国内の世代間対立の根深さに気づかされた、と話すのは科学史や社会思想史が専門の東京大学の隠岐さや香教授だ。  フランスでは今年に入ってマクロン政権が年金改革法案を発表。1月にはフランス全土で100万人以上が参加する反対デモがあった。とりわけ不評なのは、現在62歳となっている年金支給開始年齢を64歳に引き上げる改革案だ。現地報道で20代とおぼしき男子学生が「今この改革に反対しておかないと、私たちが手に入れてきたさまざまな権利が次々にないがしろにされてしまう」と訴えていた。  その動画を見た隠岐さんは、「私たちは完全に分断されていた」と悟ったという。日本で厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられると決まった00年当時の自身の経験と重ね、隠岐さんはこう振り返る。 「当時20代だった私は自分の将来への不安で頭がいっぱいで、年金問題には全く無関心でした。実際には高齢者の貧困率が高いことも知らず、『若者は苦しんでいるが、上の世代は恵まれている』という感情すら持っていました」  日本の高齢者の貧困率は女性が22・8%で男性が16・4%。いずれもOECD(経済協力開発機構)平均を上回る。日本の超高齢化社会は少子化政策の失敗の帰結でもある。  本来、少子化政策の不備を指摘しなければならないのにもかかわらず、問題の本質が「高齢者優遇」といった世代間対立にすり替えられる状況はなぜ生じたのか。年金問題を「労働者の権利保障の問題」と捉えるフランスでは、シルバー民主主義といった言葉を聞いたことがない、と隠岐さんは言う。 「フランスで年金改革に反対している人たちには、文化的な生活を維持するための労働者の権利は、いったん手放すと政府によってどんどん奪われていくという危機感が背景にあります。しかし、日本では『労働者の権利』という話を持ち出すと、『左翼』とたたかれるような言論空間があります。こうした分断を乗り越え、私たちは世代間対立という奇妙な対立の構図に落とし込められていることに気づくべきです」  隠岐さんは成田さんの言説について、従来の「男の子的な文化」との親和性を感じるという。 「『有害な男性性』という概念がフェミニズムにあります。男性たち自身が子どもの頃から『男らしく』しなさいと言われて育ち、こうあるべきという規範意識にとらわれた結果、暴力的になったり、弱いものと自分を区別し、かつ相手を支配しないと自分を保てないと感じたりする意識です。そういう自己認識はエリート校など競争的な環境にいた人ほど持ちやすい。成田さんの言葉に肯定的に反応している層が今もそうだとすれば心配です」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2023年4月3日号

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    「2時間ドラマの女王」片平なぎさ ついにシリーズ最終回で恋も決着

     漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏さんが「山村美紗サスペンス赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形~」(フジテレビ系 3月17日20:00~[シリーズ最終回])をウォッチした。 *  *  * 「山村美紗サスペンス・赤い霊柩車」シリーズがついに最終回を迎えた。30年あまり続いたこのシリーズ、何かと懐かしいものが終わっていく今日この頃なのだ。  京都の葬儀社女社長・石原明子を演じる「2時間ドラマの女王」片平なぎさ。番宣番組でご本人が語っていたが、初期のファッションはまさに「平野ノラ」だ。  前髪くりんのロングソバージュ、ブルゾンは「ガンダムみたいな肩パッド入り」で、そのまんまOK!バブリー明子。  時は流れ、今や片平さんも御年63歳。明子の婚約者で医師の春彦役・神田正輝は72歳だ。明子が知人に「フィアンセの春彦さんです」と紹介し続けて幾年月。  40代も50代も60代もずっとこのままフィアンセなのか。フィアンセ期間のギネス世界記録でも狙っているのか。  と、固唾(かたず)を呑んで見守っていたら、ついに最終回で決着が。京都と東京の遠距離恋愛を続けていた二人、やっと春彦は明子に告げた。 「京都の病院で働くことにした」。遅い、遅いよ春彦。もう定年だよ!  そんなこんなで葬儀社事務員・良恵役にして原作者の実の娘・山村紅葉も62歳。秋山専務役の大村崑はまさかまさかの91歳! そして京都府警の狩矢警部役、若林豪は83歳になる。  葬儀社ミステリーだけど、リアル霊柩車はまだまだ来てほしくない。このおなじみキャストでシリーズ完走できたことに大拍手なのだ。  最終回ではオンライン葬儀が紹介されたり、迷惑ユーチューバーみたいな客がやって来て、動画であることないことを言いふらし、石原葬儀社が炎上してしまったり。葬儀自体が時代と共に変化していく様を実感する。 「明子はんだってこのままずっとやってても、どうもあかんなぁと思うてるんちゃいますか?」という秋山専務のセリフを、思わずこのシリーズと重ねてしまいしんみり。  しかしその秋山を演じるご本人、大村崑さんはまったく年齢を感じさせない若さだ。背筋はシャキーン、滑舌もキレキレだから、もうびっくり。 「一級葬祭デレクター(ディじゃなくデがこだわり)」ならぬ「一級健康デレクター」なの?  どうしたらこんな元気ハツラツな91歳でいられるのか。今からオロナミンC飲むべき? カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など※週刊朝日  2023年4月7日号

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    1人死亡の保津川下り「全員ベテラン。難所ではないのに、なぜ」 歴20年の元船頭男性の疑問

     京都の観光名物「保津川下り」で3月28日に起きた転覆事故。船頭1人が死亡、別の船頭1人が行方不明となっていたが、30日には事故現場の下流で人が見つかり、行方不明の船頭とみて身元の確認を進めている。400年の歴史がある川下りに何が起きたのか。20年近く、保津川下りの船頭をしていた男性に話を聞いた。  保津川下りは、京都府亀岡市から京都市の嵐山、渡月橋近くまでの16キロを2時間かけて運航する。  記者も子どものころから何度も乗ったことがある。3~5人の船頭が独特のさおと櫂(かい/水をかくオールのような道具)を巧みに操り、川幅の狭い急流でもうまく舟を運んでくれる。  大きなしぶきがあがり、スリル感を味わえたり、のんびりと川面や対岸の景色を楽しめたりもする。船頭の軽妙な語りも魅力の一つだ。  今回、事故が起きたのは、出発してから15~20分ほどでさしかかる「大高瀬」という場所だ。ゆったりした流れから、急に速くなる所で、名物ポイントの一つでもある。  舟には、子ども3人を含む乗客25人と船頭4人の計29人が乗っていたといい、全員が船外に投げ出された。乗客は、周囲の船に救助されたという。  20年ほど保津川下りの船頭をしていた男性はAERAdot.の取材に、 「乗っていた船頭の4人は、前に2人、真ん中に1人、後に1人。舟の一番後ろで舵を取るのがわかりやすくいえば船長で、船頭のまとめ役です。今回は後方の船頭が、空舵(からかじ)という状態になって川に落ちた。2人の船頭が後方に走り舟を安定させようとしたが、間に合わずに岩にぶつかり転覆してしまった。全員、ベテランで保津川下りを知り尽くしているメンバーです。どうしてこんなことになってしまったのか」  と残念そうに話した。  以下、男性との一問一答。  *  *  * ――事故が起きた場所を動画などで見ると厳しい流れに見えますが? 「大高瀬は波はあるけど難所ではないと思う。たしかに、舟に水が入ってきて歓声が沸き上がるハイライト地点ではあります。前から2人目、舵をとる船頭も『これからです。青いシートを』とはやしたてて盛り上げます。動画でもそういうシーンがあるでしょう」 ――空舵(からかじ)という言葉が報じられています。 「舟は激流で船体が浮くことがあります。そうすると、舵が水に届かず空中で空振りする状態になる。それを空舵といいます。そうなると舵が取れないので舟の方向が定まらない。さらに、舵を取る船頭が転落したとなれば、舵が完全にきかなくなります。流れが速い場所で空舵になると方向が定まらないということになります」 ――救命胴衣は装着しているのですね。 「腰に巻くタイプのものを必ずつけます。お客様、船頭とも同じです。お客様がきちんと装着しているか、船頭が確認してから出発します」 ――船頭がさおでどの岩を突くのか、櫂をどうこぐのか、技を見せるのも保津川下りの魅力です。 「そこそこ年数を積めば、どこにどんな形の岩がある、今日の水位はこれくらいだからその岩が水面からどれくらい出ているとかわかる。流れの速さからどこで岩に竿をつくのか、櫂はどうこぐか自然と身につきます。その日の流れ、水位、天候によって微妙に変わるけど、経験で頭に入ってくるものです」 ――船頭はそれぞれやることが決まっているんでしょうか。 「保津川下りは船頭3人、4人なりの共同作業で安全にお客様に楽しんでいただくもの。その呼吸が合わないとだめ。過去に、呼吸が合わずに起きた事故もあった。今回もどこかで4人の呼吸が合わなかったのかもしれないし、船尾の船長が落下したのも何か影響があったのかもしれない。20mほどの長さがある舟を操り、お客様を安全に送り届ける。チームワークなくしてできません」 ――今後はどうなるのでしょうか。 「これまで事故が起こると、しばらく休んで検証してきました。今回も桜のシーズンで予約も多いかき入れ時だけど、当面は休んで原因究明となるはずです。ここできちんと検証して次につなげていかないと、400年の歴史がついえてしまうことにもなりかねない。こういうときこそ、一致結束してことにあたるべきだ」   *  *  *  保津川下りの運航会社「保津川遊船企業組合」が報道陣にした説明では、28日は、水位が規定の85cm以下の69cmだったため運航を決めたという。  国土交通省が観測して公表している保津峡水位観測所の水位が85センチ以上になれば運航を中止するが、28日の水位は船頭を1人増やすと定めている50センチ以上75センチ未満の範囲だった。  国交省運輸安全委員会は、船舶事故調査官2人を現地に派遣することを決めた。  保津川下り400年の伝統を守ってくためにも、原因究明をしっかりとした上で、今後の事故防止につなげてほしい。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    BTS・JIMINの「大きくて新たな挑戦」 コロナ禍の2年を「昇華させるために作った」

     コロナ禍に人々への慰めと希望を歌った「Dynamite」を聞いたことのない人はいないだろう。いまや世界を代表するポップスター、BTSのメンバー・JIMINさんが、自身初となるソロアルバム「FACE」をリリースした。アルバムに込めた思いとは──。AERA 2023年4月3日号から。 *  *  * ──昨年6月、BTSはグループ活動とソロ活動を並行して行っていくと発表した。それから10カ月、どんな時間を過ごしていたのだろうか。 JIMIN:とにかく一生懸命、生きていましたね。「FACE」の制作もありましたし、BIGBANGのSOL先輩とのコラボレーションやBTSメンバーたちとのコンテンツ撮影などがあり、ほとんど休みはありませんでした。「FACE」のPR活動が終われば、少し時間に余裕もできるんじゃないかな。 ──メンバーのJ-HOPE、JIN、RMに続き、3月24日、ソロアルバム「FACE」をリリースした。 JIMIN:このアルバムは、僕にとって大きくて新たな挑戦です。正直、プレッシャーはものすごく大きいです。だって、僕一人の出来で判断されるわけじゃないですか。逃げも隠れもできない。自分の足りない部分を補って、必死にやらなければいけません。やり遂げられるのかという心配もありますし。「BTSのJIMIN」として出すからにはうまくやりたいんです。何より、BTSに迷惑をかけたくないという思いが大きい。メンバーたちも見守ってくれていると思うので、頑張りたいです。 ──一人での活動は、メンバーと活動している時とは全く「心持ちが違う」という。 JIMIN:メンバーがいる時には、疲れていても話をしているだけで自然と笑えて元気になったりもしたのですが、今は一人なので、メンバーたちの空席が大きく感じられます。 ──BTSが世界中の人々を魅了する理由の一つが、「自分たちのストーリー」を歌に乗せることだ。「FACE」にもまた、「JIMINのストーリー」が詰めこまれている。 JIMIN:楽曲の方向性を決めたり、歌詞を書いたり、作曲家さんと同居しているのかと思うくらい毎日一緒にいて、一緒に作業をしました。音楽制作は簡単ではないということを改めて感じた時間でした。 「FACE」は、誰かに何かメッセージを伝えようと思って作ったというより、コロナ禍の2年の間に僕が感じたことを昇華させるために作ったアルバムです。自分と向き合い、少しずつ心の奥深いところまで掘り下げて、歌詞を紡いで曲にして、アルバムという形にしました。  1stトラックから順序通りに聴いていただくと、僕たちが会えなかった間、僕が何を考えていたのか。メンタルの揺らぎも、そこからどう克服していったのかも、感情の変化が手に取るようにわかると思います。 ──コロナ禍により、世界の動きは一時的にストップした。BTSも思い描いていた活動ができなくなった。そんな中、無力感にさいなまれたこともあったという。 JIMIN:パンデミックが始まったころは、強がって、こんな風に言っていたんです。“しばらく待てばいいんだろ”って。でも、「何もできることがない」のは、僕にとって思ったよりもダメージが大きかった。次第にメンタルがどんどん揺らいでいきました。  歌手というのは、観てくれる方がいるからこそ存在するものです。ファンの皆さんに会えなくなったことで、自分たちの意味が失われた気がしていったんです。そして、だんだん心が疲れ果てていきました。  同じころ、僕たちの中でも、いろいろな変化が起こりました。それに対しても、僕は無力でした。自分がそんなふうになるなんて、全く想像していなかったので、自分の変化にものすごく戸惑いました。 (構成/ライター・酒井美絵子) ※AERA 2023年4月3日号より抜粋

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    15時間前

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    工藤、古田、吉井…侍ジャパンの次期監督は誰?「イチロー待望論」は現実的か

     WBCで2009年の第2回大会以来14年ぶりの頂点に立った侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(レッドソックス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)の活躍、村上宗隆(ヤクルト)の復活劇、チームを一つにまとめたダルビッシュ有(パドレス)の献身的な姿勢がフォーカスされたが、栗山英樹監督の功績を忘れてはいけない。  スポーツ紙デスクは、「栗山監督でなければ、ヌートバーを招集するという選択肢は思いつかない。ダルビッシュ、大谷も栗山監督のためにという思いは強かったはず。短期決戦では不調の選手を起用し続けると致命傷になるケースがありますが、村上を最後まで信じて代えなかった。気配りの人で、全ての選手、コーチ陣、裏方を含めたスタッフを大事にしていた。米国との決勝戦を終えて出場機会が少なかった牧原大成(ソフトバンク)に謝っていた姿が印象的でした」と振り返る。  気になるのは次期監督だ。栗山監督の続投を望む声は多いが、今月27日に都内の日本記者クラブで会見を行った時、「もし『やってくれ』と言われたら、もちろん考えますけど、野球でまず自分が留まってはいけないと思っている」と語った。  栗山監督が退任した場合は、次期監督を選定しなければいけない。最有力候補と目されるのが、工藤公康氏だ。15年から21年までソフトバンクの監督を務め、3度のリーグ優勝、5度の日本一に輝いた。短期決戦の強さに定評があり、勝負に徹した柔軟な選手起用で知られる。また、元ヤクルト監督の古田敦也氏も候補の1人だろう。アマチュア時代にソウル五輪で銀メダルを獲得。ヤクルトでの現役時代は野村克也監督の下、「ID野球の申し子」と形容されて球界を代表する名捕手として活躍した。今春にはダイヤモンドバックスで臨時コーチを務めている。  侍ジャパンで投手コーチを務めたロッテ・吉井理人監督、リーグ連覇を飾ったヤクルト・高津臣吾監督、オリックス・中嶋聡監督もふさわしい人材だが、否定的な見方を示す球界関係者もいる。 「NPBの監督と代表監督の兼任は大きな負荷がかかる。現実的ではないでしょう。09年の第2回大会で巨人の原辰徳監督が侍ジャパンの監督に就任しましたが、あの時は08年の北京五輪でメダルを逃した星野仙一監督の続投路線に世論が反発し、監督人事が白紙に戻った経緯がある。12球団を回り、じっくりチームを作るためにもNPBの現役監督は選ばれないでしょう」  知名度や国際舞台での実績を踏まえ、有力候補がもう一人いる。マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(49)だ。その名は米国でもレジェンドとして知れ渡っている。現役時代はメジャーで2度の首位打者を獲得し、04年にシーズン安打となる262安打をマーク。10年連続200安打の大記録を樹立した。走攻守3拍子揃ったプレースタイルで日米通算4367安打を積み上げた天才打者は、WBCでの活躍も印象深い。06、09年とWBC連覇に大きく貢献。09年は打撃不振に苦しんだが、決勝・韓国戦で同点の延長10回2死二、三塁の好機に決勝打となる2点中前適時打を放った。大谷、村上は少年時代にこの場面が強く印象に残ったことを明かしている。全国の野球少年、野球少女が心を揺さぶられた一打だった。  イチロー氏が侍ジャパンの監督に就任すれば、日本列島がいまだかつてない盛り上がりに包まれるのは間違いないだろう。一方で懸念材料もある。MLB、NPBで監督としての経験がなく、指導者としての手腕は未知数だ。  イチロー氏は19年3月に引退会見を行った際に「監督は絶対無理ですよ。絶対がつきますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕」と語っていた。スポーツ紙記者は「イチローさんはアマチュア野球の普及に熱心で、プロの世界で監督というのは現実味がわかない。ただ、侍ジャパンの監督として打診を受けたら、受諾する可能性はゼロではない。日の丸をつけて戦うことは大きな重圧を伴いますが、かけがえのない経験ですから」  栗山監督が続投するか、それとも――。侍ジャパンを託す監督の動向が注目される。(今川秀悟)

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    聴覚を失いつつある横尾忠則「神が知を奪い痴を与える生き方へ」

     芸術家として国内外で活躍する横尾忠則さんの連載「シン・老人のナイショ話」。今回は、「難聴の影響」について。 *  *  *  僕の生活の中から音楽が完全に抹殺されてしまいました。強度の難聴のせいで、音楽に限らず、人の話す声も理解不能です。従ってテレビの音声や映画、演劇、コンサートだけでなく音の文化が生活から完全に排除されてしまったのです。五感のひとつである聴覚を喪失してしまったことは人生における最大の危機感でもあります。音の理解を遮断された生活はハタ目からは全く理解されません。耳は不自由だけれど、口は聴覚とは無関係に機能するからです。  しかし他人との会話が不自由になったために言葉の量も大幅に減りました。最初は補聴器で会話ができましたが、今では補聴器の許容範囲をはるかに超えてしまったので、唯一、ワイヤレスイヤホンによってかろうじて会話の機能は果たしていますが、これも時間の問題です。唯一の会話手段のワイヤレスイヤホンも最近はかなり聞きとりにくくなってきています。家族やスタッフとの会話は次第に筆談によることが多くなってきました。  まあ、すでに老齢者なので、あとしばらく不自由だと思えば、それほど会話をしなくても生きていけそうです。五感のひとつを喪失すると、他の四感にも影響を与えるらしく、目も鼻も口も触覚も気のせいか朦朧(もうろう)となりつつあるのがわかります。つまり生きる必要が次第になくなっていく兆候が始まったのかも知れませんね。だけど五感の消滅と同時に冴えてくるのは第六感だと思うのですが、どうでしょうかね。五感が機能している間、控えていた原始的な機能が復活し始めているように思うんですが。  以前、瀬戸内寂聴さんが「難聴になると、絵が変わるわよ」とおっしゃったことがあります。ベートーベンじゃあるまいし、聴覚が芸術に与える影響など、あるはずがないと思っていましたが、最近はなんとなく、そのようなことがあるのかな?と思うようになってきました。  どういうことかというと、難聴のせいで、聞こえなくったって、多少は不自由をしますが、どうせ大したことはないだろう、聞こえなきゃ聞こえないで、知らんぷりをしていればいいんだ、という変な開き直りが出てきて、物事を曖昧に済ませてしまうことが多くなりました。それは僕の考えにも影響を及ぼし、考え全体に対してもいい加減になってきているように思います。何が正しくて、何がそうでないのかというようなことも、それほど重要ではないように思うのです。理解の範囲がうんと狭められてきたが、それはそれで便利がいい。人になんと思われようと、どうでもいいじゃないかという考えに到達してくるような気がするのです。つまり人に何と思われようが、知ったことではない。別に嫌われたっていい、自分が自分であることの方が、ずっと大事だと思うようになるのです。  そうした考えは、絵にも影響を与え始めます。つまり、他者や世間という社会意識が希薄になってくるのです。三島由紀夫さんが生前、僕に言った言葉で「人は人、自分は自分」という考えが妙に確立されてくるのです。他者意識とか社会意識が希薄になってくるのです。これが他と共存しなければいけない立場の人にとっては困りものですが、僕のように対峙する相手がキャンバスの場合は、かえって、このようなハンディキャップは必要なのかも知れないと思うのです。  つまり世間の通念や常識は必要ないように思います。他人と競争することや、世間の流行や通念など全く不必要になるのです。自分を束縛していたことから解放されて自由な気分になってくるのです。何をやってもいいんだ、芸術なんてちっぽけな枠の中で、不自由さの中で、やっていたことが、おかしく見えてくるのです。芸術家でありながら芸術を否定することの快感が快楽になってくるのです。  最も評価されるはずの社会的な関心や発言などで自己という枠の中で規制していた自分のキャパシティーの狭さに疑問を抱くようになるのです。「人は人、自分は自分」の境地こそ自分のアイデンティティーであることが見えてくるのです。  難聴はある意味で社会的なことからの逸脱のきっかけであったのか? 社会に組み込まれることで人生を全うしてきたが、それが老齢の様々なハンディキャップに出合うことで次第に人生から逃れたくなってくるのです。生きるために、生きようとしたことから、人生の最後には、生きることから、死を生きることに生き方を変える生き方に変わってくるのかも知れません。そのために神が五感のひとつを取り上げて、あとの四感も捨てながら次第に第六感という世界へ向かわせようとする神の計画だと、都合のいい風に思わせて、人間から知を奪い、そして痴を与えるような生き方へと導こうとするのかも知れません。 横尾忠則(よこお・ただのり)/1936年、兵庫県西脇市生まれ。ニューヨーク近代美術館をはじめ国内外の美術館で個展開催。小説『ぶるうらんど』で泉鏡花文学賞。2011年度朝日賞。15年世界文化賞。20年東京都名誉都民顕彰※週刊朝日  2023年4月7日号

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    10時間前

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    「エホバの証人」2世らが答えたアンケートの衝撃的な中身 「下着を脱がされて尻にむち打ち」「泣き叫ぶと回数が増える」

     宗教団体「エホバの証人」の元2世信者らに対するアンケート結果が衝撃を与えている。国会の委員会質問で立憲民主党の山井和則衆院議員が取り上げたそのアンケート結果には、幼少期に人目がある中で下着を脱がされて親にむち打ちをされたことや「周りの人たちに体を押さえつけられた」「泣き叫ぶとむち打ちの回数が増えた」などという、信じがたい行為が記されていた。より痛みが強くなるように加工した道具が使われたり、親同士でどの道具が効果的か情報交換も行われたりしていたという。「私たちが何をされてきて、今どう生きているかを知ってほしい」(元2世信者)。調査から垣間見える虐待の実態と、大人になった当事者たちの心の声とは。 *  *  *  調査を行ったのは「エホバの証人」の元2世信者らでつくるグループ「JW児童虐待被害アーカイブ」。2021年9月に、SNSを通じて実施した。同グループ代表の綿和孝さん(44=仮名)も元2世信者である。  アンケート対象者はエホバの証人の親からむち打ちをされた(または「した」)経験がある、1970~2000年代生まれの元信者205人と、現役信者20人の計225人。うち217人がむち打ちを「された」経験があり、8人が「した」経験があったという。  エホバの証人といえば、かつて裁判にもなった「輸血禁止」が知られているが、その他にも、子どもでは、自由な恋愛や誕生日会、クリスマスパーティーなどのお祝い事は禁止、など独自のルールがある。布教活動に励むため、学校の友人と遊ぶことや部活動を制限されたり、大学進学を諦めさせられたりするケースもあるとされる。  さらに今、「虐待」として問題視されているのが、日常的に子どもをむちで打つという行為。教団のホームページには「懲らしめは愛の表れ」として、「むちを控える人は子供を憎んでいる。子供を愛する人は懲らしめを怠らない」との聖書の言葉が紹介されている。  綿和さんは実態をこう話す。 「教団は子どもへのむち打ちを推奨していました。『巡回監督』や『長老』という幹部が、集会の場などでむち打ちを勧める発言をしていたんです。私も何度もされましたし、他の子どもたちがされている場面も数えきれないほど見ました。ところが、教団はそうした虐待を認めないばかりか、むち打ちはなかった、などと歴史を消し去ろうとまでしている。私たちが子ども時代に何をされてきたか、事実を知っていただきたいと強く願っています」  実際、綿和さんらが行った調査結果には、驚くべき回答がならぶ。以下、主な質問項目と回答をピックアップしてみる。 ▼むち打ちが始まった年齢と、終わった年齢 「された」217人のほぼ全員が小学校低学年までに始まったと回答した。そのうち約75%に当たる162人は、就学前からむち打ちを受けていた。  むち打ちがいつまで続いたかについては、「小学校高学年まで」と「中学生まで」との回答がそれぞれ全体の30%を超えた。高校生まで続いた人も14人、高校卒業以降も続いたとの回答が3人いた。 ▼むち打ちをした人 「した」人も含む225人のほぼ全員が「母親」と回答。父親は全体の約24%に当たる54人だった。幹部など、両親や親族以外からむち打ちを受けた人も19人いた(複数回答)。 ▼むち打ちの道具  さまざまな道具を使い分けていたようで、「革ベルト」「ホース」「物差し」との回答がそれぞれ約50%いた(「した」人も含む、以下同)。「電気コード」や「野球バット」という回答もあった(同)。  さらに、たたきやすく、より痛みが強くなるように道具を加工していたケースも多かったようだ。 「束ねた電気コードや折りたたんだ革ベルトをビニールテープで巻いたもの」 「ガスホースに金属製のパイプを入れたもの」 「竹の根をむち用に細くしたもの」  など30もの加工事例があり、集会で「長老」が自作したむちを親たちに配ったり、もうけが目的ではないものの、わざわざ売っていたりしたこともあったという。 ▼一度の平均で何回ぶたれたか。また、一度にぶたれた最大の回数は何回か  一度の平均の中央値は10.4回。ただ、20回以上は36人いて、うち100回も5人いた。  最大で見ると、中央値は27.3回。50回以上が32人いて、うち100回が20人。300回以上も2人いた。 ▼むち打ちに併せて行われたことはあったか 「自分で下着を下ろしてお尻を出す」が約81%の182人。 「泣き叫ぶと回数が増える」が約62%の140人。 「むち打ち前にあいさつを言う」「むち打ち後にお礼を言う」は約28%の約60人。 「終わると抱きしめられる」は約21%の47人いた。(同) ▼むち打ちをされた理由  これについては、宿題を忘れた、ウソをついた、友達のものを盗んだなど、子どもの教育上、叱られること自体は仕方ない理由も目立つ一方で、理不尽な内容もあった。 「幼稚園で誕生日の歌を歌ったのがバレた」 「祭りにこっそり参加したのがバレた」 「世の子(エホバの証人ではない家の子ども)と遊んだ」 「友達からマンガを借りた」 「異性と連絡を取った」 「奉仕中(住居を訪問しての勧誘活動)に(日射病で)歩けなくなって迷惑をかけたから」  一般的に考えて、子どもが学校の友達と遊んだり、友達の誕生日を祝ったりしても親にぶたれることはない。ましてや、加工した“凶器”を使われることはない。  ただ、回答者の多くが幼少期を過ごした時代は、体罰が教育の手段として半ば容認されていた。エホバの証人の信者ではなくとも、親や教師から平手打ちやげんこつをくらった人は多いだろう。マンガやテレビドラマでも体罰のシーンが美談として描かれている作品があった。  そうした時代背景もあってか、2世の子どもが勇気を出して誰かに相談しても「虐待」とは認めてくれなかったという。  元2世信者の手塚麻子さん(41=仮名)も、その一人だ。  小学生のころ、集会で落ち着きがない態度を取るなどの“粗相”をすると、親に下着を脱がされて、革のベルトで尻にむち打ちをされた。 「大人の信者が、時には親しい信者や2世の子どもたちにも手伝わせて粗相した子を押さえつけ、下着を脱がせてたたいていましたし、私もされました」  痛くて恥ずかしくて、泣き叫びながらたたかれ続け、終わると親が「これは愛なんだ」と抱きしめてくる。そんな日常だった。  高校時代、教師に勇気を出して打ち明けたところ、教師はこう答えた。 「いいご両親じゃないか」  親に対する思春期のよくある悩みとして、片付けられてしまった。手塚さんの孤独感は、より深まったという。  だが、回答からは教育とも愛情とも受け取れない虐待の状況が伝わってくる。 「集会中に子どもたちが次々と引きずってトイレに連れていかれ、泣き叫ぶ声が聞こえてきていた」 「(集会で)子どもがむちを打たれる音と、口を押さえられてくぐもる泣き声うめき声が響き渡っていたが、『親子ともに頑張っている』と称賛されていた」 「王国会館にむち打ち専用の『懲らしめ室』があった」 「親同士でどのむちが一番効き目があるかを相談していた」  個々人の特別なケースでは決してなく、調査には、上記と同じような経験をした回答が多数寄せられている。そして、これらの行為を幹部らが正しい行為だと推奨し、親たちに勧めていたとの回答が目立った。  綿和さんもこう証言する。 「幹部が虐待を推奨するだけではなく、親同士も、より痛みを感じる道具について、あれがいいこれがいいなどと情報を交換していました。なかなか想像できないと思いますが、むち打ちは本当に痛いんですよ。私も片方のお尻がみみず腫れになって痛くて、授業中は体を傾けていすに座っていました」  もっとも問題なのは、幼少期の虐待によって元2世信者らが大人になった今も精神面で深刻な問題を抱えているという現実である。  調査に対し、むち打ちを「された」人の「人格形成にネガティブな影響があった」という回答は約74%。半数以上が「精神的な後遺症がある」と答えている。  その詳細を見ると、 「親が高齢になり助けを求めてきたら復讐(ふくしゅう)したい」「そのうち親を殺してしまいそうだ」という怒りに支配されるケース。 「自分が何者なのかわからない」「愛されているということの意味が理解できない」などの虚無感。 「ふとしたときに死にたくなる」などの自殺願望を抱く人。「うつ病で精神科に通院している」など、うつ症状の回答も約40あった。むち打ちのシーンがフラッシュバックしたり、不眠に苦しんでいたりする人も多かった。  また、子どもに対する暴力を正当な行為だととらえてしまったり、自分の子どもをたたきたい衝動にかられてしまったりする「虐待の連鎖」に苦しんでいるという回答も複数あった。  手塚さんも幼少期を振り返り、思いを話す。 「私の場合は、たたかれ続けているうちに、いつの間にかむちが快楽のようなものに変わっていきました。私は親に愛されているんだ、これが愛なんだ。もっとたたかれたい、もっと愛されたいって。抵抗できない子どもがゆえ、認知が大きくゆがんで育ってしまうんです。さらに、他人や社会と接することもずっと制限されてきましたから、脱会してもどうしていいかがわからず、生きづらさに直面します。私と同じように、元2世信者の多くが苦しんでいます。『昔よくあった体罰を受けた』のではなく、幼少期に大変な思いをして、今も後遺症を抱えながら生きているということを知っていただきたいです」  淡々と話す手塚さんだが、時折うつむき、表情が苦しそうになった。  これらの行為について、教団はどう答えるのか。  AERA dot.がエホバの証人に対して「むち打ちを組織的に奨励してきたのか」「子どもへの輸血を拒否しているのはなぜか」と質問したところ、「具体的な事例が事実認定されているわけではない」として、エホバの証人の考え方を記したという「メディア用ステートメント(声明)」を送ってきた。  その中では、 「エホバの証人は児童虐待を容認していません。エホバの証人の出版物は一貫して、子どもを愛情深く教え導くよう親に勧めてきました。(中略)しつけには、子どもが悪いことをしたときに矯正することも含まれます。とはいえ、しつけは子どもに対する愛に基づいて行われるべきであり、決して虐待したり、冷酷に接したりすべきではありません」 「聖書に出てくる『懲らしめ』という語は、教え諭すことや正すことに関連しており、虐待や残酷さとは全く関係がありません。エホバの証人の出版物は『懲らしめ』を(1)愛情をもって(2)適度に(3)一貫して与えるように勧めています」  また、子どもへの輸血拒否については、 「エホバの証人が輸血を受け入れないのは、医学的な理由ではなく、宗教上の理由です。『血……を避けて』いるようにという聖書の言葉に従いたいと願っているからです」 「エホバの証人は、輸血やその他の治療法を受け入れるかどうかは、各人の個人的な決定であると教えており、強制されたり、圧力を受けたりして決めることではないと考えています。個々のエホバの証人は、聖書の原則に基づいて、どんな治療を選ぶかを個人的に決定します」などと記されていた。  綿和さんは、強く憤る。 「教団は、虐待を認めて謝罪すべきです。間違っていたことを公に認めなければ、これからも子どもたちがたたかれ続ける可能性があります。実際、このアンケート結果を公表してから、今でもまだ信者の家庭内でむち打ちが続いていることや、子どもが教団から離れないようにするためにむち打ちは必要だと話す信者が多くいる、という証言が集まっています。ただ、おそらく教団は(批判の)嵐が過ぎるのを待っているだけで、変わるつもりはないでしょうね」  学校の友達と遊ぶ。マンガを読む。誰かの誕生日を祝う。集会でちょっとはしゃぐ。思春期に自由に異性に興味を持って仲良くなったり、好きになって交際したりする。  話を聞いた2人によると、そんなたわいのない経験すら許されず、人生の楽しみや、夢や希望を持つことができないまま大人になっていくのが2世信者たちの姿だという。  親に頼るしかなく抵抗もできない子どもたちに深い傷を残していることについて、教団は正面から向き合った方がいいのではないか。 (AERA dot.編集部・國府田英之)

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    16時間前

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    Snow Man阿部亮平、「滝沢歌舞伎」公演期間に号泣した理由

     一般受験で上智大学に合格、ジャニーズ初の大学院修了者で“ジャニーズクイズ部”のリーダー・Snow Man阿部亮平さんが、満を持して登場! 合格率4%の難関で知られる気象予報士や、世界遺産検定2級に合格するなど、アイドルとしての活動と学業との両立を見事成し遂げた阿部さんが、そのなかで号泣した理由とは? *  *  * ──小学5年生からジャニーズJr.として活動されてきて、自分には取(と)り柄(え)が少ないと感じるようになったことで、勉強をしようと思われたとか?  僕が所属していたMis Snow Manとか、Jr.BOYSって、先輩たちのバックに引っ張りだこなJr.が集まっていて。まわりみんなダンスすごくうまいし覚えるの超早いし、歌うまい人もいて、自分はあんまり取り柄ないなーって感じることがあったんですよね。自分が置いていかれてるって思ったのは、中2とかなのかな。本当にね、俺一番下手だなって思ってた。頑張って食いついてはいたんですけど、何か一番できるものがほしい、ってなったときに、勉強しかないなと。もちろんダンスとか歌とかアイドル業も磨くけど、プラスアルファでもう一軸、勉強をやろうって思ったのが、高校2年生ぐらい。受験は経験しておきたいって意識もあったので、半年間活動を休んで勉強をしっかりして一般受験をするって決断しました。 ──休んだ半年間はどのように勉強を?  8月から3月の頭までの半年は、毎日12~13時間勉強して、でも絶対7、8時間は寝ていましたね。眠いのに無理して続けるのは、効率が悪い気がして。独学中心でしたが、冬期講習だけは受けました。冬は朝9時からずっと自習室にいて、講習の時間は教室に行って、家帰ってリビングで勉強するんですよ、夜12時ぐらいまで。あとは通学中もキクタン聞いたりしていました。毎日、だいたいの目標は決めるんですけど、例えばもう無理、眠くなった、ってなったらやめるし、いやまだめっちゃ集中できてる、って思ったら続けるようにしていましたね。だから高2の試験勉強で朝4時まで勉強しちゃったこととかありました。空がだんだん明るくなっていくのが、これだけ勉強したんだっていう証しになるから、ちょっとうれしかったな(笑)。 ──一般受験に際し、上智大学を選んだ理由は?  ほかも受験したんですけど、結局はいちばんいいところに受かったなって思いますね。研究室でやりたいこともできたし、いい教授とも出会えたし、都心だからすごく通いやすいのもあって。受験でいろいろな大学を受けて、っていう流れは多分誰しもにあって、でも結局どこに行くかっていうのは、自分が頑張ったぶんの努力が連れてってくれるんだと思うんです。僕は理工学部で、出席や単位にはすごく厳しかったんですけど(笑)。 ──その厳しい学部で学業優秀賞を受賞した?  4年のときに表彰されました。学科で毎年3人くらいですかね。仕事と両立させるなかで、出席が足りなくなって必修科目を落としたこともありますけど、そういう賞をいただいて、ね、ほんと真面目にやってよかったなあって。 ──仕事と学業を両立するなかで、号泣するほど悩んだこともあったとか。  大学4年生の頃ですね。ちょうど「滝沢歌舞伎」の公演中で。研究室では院進(大学院への進学)の話題で持ち切りだったんです。大学在学中も、出席が厳しいからちょっとお仕事休ませてもらったりとか、メンバーに迷惑をかけてしまうことがあって、それが4年で終わるって思っていたんですけど、自分のなかに、院に進んであと2年学びたいっていう思いがあったんですね。理系で、コンピューターによって便利になった社会に対してどう生かすかといった情報学を学んでいたので、ライブの演出についてもうちょっと学ぶことができないかな、例えば何かを念じたり集中したりっていう脳波を信号として読み取って演出に生かせないかな、って。院進したいっていう思いと、メンバーにこれ以上迷惑はかけたくないっていう思いがあって、マネジャーさんと話してるうちに、だんだん気持ちの整理がついてきて……進学したいっていう自分の真の気持ちに気づいたら、号泣していたんですよね、なぜか。最終的には大学4年生から大学院の授業を受けられる制度をフルで駆使して、院ではほとんど仕事を休まなくてもいいようにして、落とし込んだ感じですね。 ──受験勉強は自身に返ってきていると感じる?  受験っていう経験はマジで一生ものだなって思いますね。人生で得られる経験値としてすごく大きいなって。後にも先にもあんなに勉強したのはあのときだけだし。僕自身はジャニーズの活動をお休みして、メンバーに迷惑をかけて、っていうのがかなりプレッシャーだったので、忍耐強くなりましたよね。 ──勉強が自分の役に立っているといま最も実感するのはどんなとき?  いちばんは、学んだ内容そのものよりも学び方にあるかなって。社会人になってからも新しく学ぶことって多いじゃないですか。たぶん応用が利くと思うんですよね。僕はいま、クイズ番組でクイズを解くためにはどう勉強したらいいか、みたいに使えてますね。 ──阿部さんにとって、その「学び方」とは?  学び方の、ほんっとの第一歩は、興味を持つことですね。僕は社会とか地理とかが苦手なんですが、でも旅行は好きなんですよ。だから旅行で得た知識を最初の呼び水みたいにして、例えばここが有名だとか、これがおいしいとか、みたいにして、地歴がめっちゃ苦手なのに、世界遺産検定2級を取りました。僕は、勉強ってモチベーションがすべてだと思っていて。どうやっても面白さを見いだせなかったら、この勉強終わったらおいしいもの食べられるとか、この勉強するときのこのノートがお気に入りとか、そういうところでうまく自分をあやしていくのが大事かなって思います。 ──ご自身が勉強するときの、いまのご褒美は?  最近ね、サウナかもしんない。そこまでサウナーってわけじゃないんですけど、たまに行くとすごくゆったりとできるので。もともとお風呂も大好きですし。 ──サウナ好きのメンバーもたくさんいますが。  そうなんですよ。うちにはサウナに精通してる人がたくさんいるので、楽しいですね。いろいろ相談にのってくれるんですよ、親身になって。この前、岩本(照さん)からサウナハットをもらって、愛用してますし。ただ、一緒に行ったこともあるけど、まあほぼ一人ですね。一人でのんびり過ごすのがすごい好きで。 ──ライブの演出「スノインザボックス」を思いついたのもサウナだとか。  そうだった気もするようなしないような(笑)。でも確かに、のんびりしているときにいろいろ考えて、あっと思ったものをお風呂とかサウナとか上がった後にメモしておくことは多いですね。 ──最後に、来春の受験生に向けてメッセージを。  時が過ぎるのって本当にあっという間。来年の受験までまだ1年弱ある、って思ってる人がいるかもだけど、本当にすぐ来る。だからこそ、未来の自分に向けてプレゼントを贈る気持ちで、いまからちょっとずつ頑張ってほしいと思います。 (取材・構成/編集部・伏見美雪)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    別のところで自分のエンジンを動かして、他の悩みが解決に進んでいくから しいたけ.さんがアドバイス

     AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 *  *  * Q:地方でフリーランスをしていますがコロナで仕事が減。転職もうまくいかず、バイトでしのごうと思っても、年齢&フリーの仕事の時間の都合があり、不採用に。視点を変え資格を取ってみる?とも思いますが財力もなく。言い訳ばかりなのはわかっていますが、どうしても頑張るぞ!という気力がわきません。途方に暮れています。(女性/フリーライター・編集/48歳/おとめ座) A:今回この相談を読んで、なんとなく今の僕らが立っている時代背景が浮かび上がってくる感じがしました。そして思ったのが、今って日本にいる全員が「留学」を必要としているのかも、ということ。  つまり、これまで自分がいた場所の外に学びに行くこと。  今までのやり方で行き詰まり、右肩上がりではなくなった今、日本にいる僕らはどこか自信を見失ってしまった状態にいます。戦後、日本が世界のモデルになっていた時代には、外から日本に学びにくる人たちも多くいましたが、今はまた外に学びに行くサイクルが来ているんじゃないかと思うんです。  新しい世界に自分から学びに行くことを、苦行とするのか、楽しめちゃうのか。  例えば「1回飲食店で働いてみたかったんだよな」と思えて動ける人のほうがハッピーになれるというか。今そういう岐路にみんなが立っている気がします。仕事にプライドと責任感を持ってキャリアを形成してきた人たちこそ、この岐路でジャンプをすることにきつさを感じてしまうこともあると思います。でも、留学のいちばん最初って、心細さと不安はつきもの。乗り越えた先に、きれいな街並みや人との出会いがあるはずです。  とはいえ新しいチャレンジは膨大なエネルギーを使います。今まで競争もして、戦って、責任を果たして、疲れきっている……そういう人はまず森に行ってみてください。人間社会から離れて、自然の中に行って感じる不便さは、人間の力強さや生命力を奮い起こしてくれるものだと僕は信じています。ボタン一つでいろんなことができてしまう世の中だから、頭の中のハードルが上がりすぎてしまっているように思うんですよね。キャンプに行って、火起こしや薪割りをするだけで、自信って回復します。  おとめ座はバランサー的ポジションで、権力者の右腕とか手助けをするポジションに自然に収まる人たちが多いです。でも今は上の人たちも自信が揺らいでいるから、「私は誰の言うことを聞けばいいんだろう」と戸惑いを感じているおとめ座も多いと思います。  こういう時こそ、仕事以外でやってみたかったことをやってみてください。そうすると仕事に関しても新しいご縁が必ず見つかってくるから。  別のところで自分のエンジンを動かしておくと、他の悩みが解決に進んでいくことって意外とあります。悩み事を真正面に置かない、壁の真正面に立っちゃいけないっていうのが、なんとなく僕がいつも気をつけていることです。 ◎しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気※AERA 2023年4月3日号

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    加藤シゲアキ「“終わりある刹那”に魅了されて」 舞台「エドモン」の運命的なオファー

     4月1日開幕の舞台「エドモン」で、加藤シゲアキは劇作家エドモン・ロスタンを演じる。自身も作家として活躍するが、人物への共感と演劇の醍醐味について語った。AERA 2023年4月3日号から。 *  *  * ──主演を務める舞台「エドモン~『シラノ・ド・ベルジュラック』を書いた男~」が4月1日に東京で開幕する。フランスの名作戯曲「シラノ・ド・ベルジュラック」の誕生秘話を描いた作品で、2016年にパリで上演されるやロングランヒットとなり、翌年にはフランス演劇界の栄誉と言われる「モリエール賞」で5冠を達成した作品だ。舞台は、1897年のパリ。加藤が演じるのは、2年も書けずにスランプに陥っている劇作家エドモン・ロスタン、その人だ。 ■役柄とシンクロしすぎ 加藤シゲアキ(以下、加藤):書けない時の苦しみは理解できますし、共感する気持ちもありますが、お話をいただいたときは「ハマりすぎている」と思われることに対する照れのようなものもありました。もちろん、僕の書く作品と100年以上前のパリで書かれているものは違いますが、役柄と自分の職業がシンクロしすぎて、観る人の想像を狭めてしまわないか、と。  ですが、ストーリーを聞いて「名作が生まれるまでのコメディー」って面白いなと感じました。不勉強ながら「シラノ・ド・ベルジュラック」の物語は知らなかったので、学んでいくこと自体も楽しめるのではないかと思いましたし、その過程が「エドモン」の物語と重なっていくのではないかと感じました。僕自身、そうしたメタ的な構造が好きなんです。  アルフォンス・ミュシャの絵を通して知っていたサラ・ベルナールや、チェーホフといった歴史上の人物も登場しますし、「演劇」そのものについての演劇にもなっている。観る方に「事前に準備をしてきて」と言うのは負担になるなとは思いますが、この作品はシラノ・ド・ベルジュラックや時代背景について少し頭に入れておくと、より楽しめる作品ではないかと思います。 ──演出家のマキノノゾミからは、稽古に入る前に「シラノ・ド・ベルジュラック」に関する映像作品をフランス語で観るよう、伝えられたという。 加藤:「物語を理解する」だけでなく、フランス語の言葉が持つ詩的な美しさや響きを意識してほしい、ということだと受け止めました。フランス映画の印象からか、僕はこれまでフランス語についてはボソボソと話すイメージがあったのですが、フランスで行われた演劇の映像を観るととてもエモーショナルなんです。  嘘をつこうとしても顔に出てしまうような人々として描かれていますが、確かにフランスの人は政治についても自分なりの意見を持っていますし、「怒り」や「悲しみ」「愛」といったものにとにかく真っすぐなイメージはあります。チャーミングだなと思いますし、素直に愛せるんです。日本特有の「わび・さび」の文化も魅力的ですが、直情的で人間的な人たちは、演じていても楽しいですね。頭より先に言葉が出るような人たちとして描かれているので、演じる際も頭で考えている時間がない。早く役を掴まなければ、という気持ちもありました。 ■友だちに「どう思う?」 ──自身は「書けないとき」をどう乗り越えているのか。 加藤:僕の場合、二つ方法があります。一つは、散歩をしたり、乗り物に乗ったりするだけで脳が一度区切られるので、物理的に「移動する」のは書けないときのブレークスルーとしていいな、と思っています。もう一つは、僕は“壁打ち”と言っていますが、編集の方に話し相手になってもらったり、友だちに「どう思う?」と尋ねてみたりすることもあります。ヒントをもらって、執筆に生かすというよりは、話すことで自分のなかから湧き出てくるものがあるんです。腹を割って話せる友だちと会話をすることで答えが出てくることもあるので、何度も話し相手になっている友だちは「この本の印税の何%かは自分のお陰」と言ってきますけれど(笑)。 ──歌手活動、作家、舞台の演じ手と、さまざまな活動が良い作用をもたらしているという。実感するのはどんな時か。 加藤:演劇に向き合う時にすごくいいなと思うのは、「身体を動かせる」ことです。身体表現を通して生み出されるものは結構あって、たとえば台本を読んで泣けなくとも、実際に体を動かしてお芝居をすると泣ける、ということもある。相手の動きのなかから見えるもの、自分の動きから見えてくるものが確かにあるんです。  対して、小説は脳内で人を動かしていくので、その違いは面白いな、と。執筆で行き詰まった時に演劇と向き合うと爽快感があるというか。逆に、演劇で自分ではない誰かになり続けている苦しみを感じたときは、小説という「創作」で発散できるという面もあります。 ■稽古での気づき多い ──演劇ならではの楽しさを感じる瞬間について尋ねると、「学んでいくことが好き」という加藤らしい答えが返ってきた。 加藤:みなでものを作り上げ、表現していく楽しみはもちろんありますが、稽古を通しての「気づき」が多いことが演劇の楽しみにつながっています。稽古場で同じセリフを言い続け、同じシーンを演じ続けるなかでの気づきが演劇は圧倒的に多いんです。  稽古を重ねるたび、「自分一人ではどれだけ台本を読めていなかったのだろう」と思わされますし、どんどん台本を掘り下げていけるようになる。そうした意味では「身体を通した読書体験」と言えるかもしれません。身体に感情やセリフを落とし込み、いかにうまく表出させられるかはまた別の課題ですが、ただ「悲しい」だけでなく、なぜ悲しいと思うのか、物語の複合的な流れが稽古を通して見えてくるようになる。 「エドモン」で言えば、描かれていない部分が稽古を重ねるたびに埋まっていく。本当の意味で台本が読めるようになり、演じるキャラクターが深みのある人間になっていく過程は、何度経験しても楽しいなと感じます。 ──「演劇は、稽古にゆっくり時間をかけられるのも魅力」という。 加藤:それでいて、刹那的でもありますよね。2、3週間の上演のために時間をかけ稽古し、同じ公演は一つとして存在しない。ドラマであれば、多くの場合、一度演じればそれで終わりですけれど、演劇の場合、上演のたびに振り出しに戻り、ゼロからスタートする。毎回タイムリープするので、面白いなと。そんな“終わりのある刹那”に魅了されているのかもしれません。  実は、初めて小説を書いたときは、「小説家を演じる」という気持ちで書き始めたんです。「小説家はきっとこんな時間に、こうした文章を書いているんだ」と、どこかで小説家を演じながら書いて生まれたのが『ピンクとグレー』という作品です。幻影を追いかけるという意味でも「エドモン」に重なりますし、運命的なオファーを頂いたのかなといまは感じています。 (構成/ライター・古谷ゆう子) ※AERA 2023年4月3日号

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    14時間前

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    Snow Man阿部亮平、キャスターを目指す理由と自身の生きる意味

     Snow Manきって、ジャニーズきっての知性派として数々のクイズ番組でその実力を発揮している阿部亮平さん。一方で、ニュース番組でのスペシャルキャスターや、ドラマで航空管制官役を務めるなど、幅広い活躍を見せている。そんな阿部さんが目指す将来像、そして生きる意味とは? *  *  * ──Snow Manでは、常に全体を俯瞰して、状況に応じて立ち位置を柔軟に変えている印象が。  まあ例えばメンバーから何人か出るお仕事のときは、バランスは見ますね。このメンツだったら、俺ちょっとふざけに行く側だなとか、ちょっとしっかりしたほうがいいなとか……僕はメンバーカラー緑なんですけど、緑って虹の色の順番に並べたら真ん中なんですよ。だから、どっちにもなれるようにしたいなと。軸はインテリで、いろいろ変化できていったらいいなって思っています。 ──目指すべきアイドル像がしっかりあって進んでいる印象も。  はい。そうですね。理想はやっぱり櫻井翔くんなんです。ほんっとに多才で、真面目な顔もあるし、ふざけたりお茶目なアイドルっぽいときもある、っていうのに強く惹かれていて。僕、アイドルってすごい職業だなあと思ってるんです。何でもやるじゃないですか。そんななかでも知性とか品性とかも生かしていろいろマルチにこなすっていうのが、本当に理想のアイドル像です。 ──櫻井さんもされているキャスターを、阿部さんも目標に掲げています。目指すキャスター像は?  生活に溶け込みたいですね。以前はずっと、「いってらっしゃい」を言いたいって考えていたんですけど、「おかえり」もいいなって。その人から始まるのでも、その人で終わるのでも、1週間の中でこの日に必ずこの人がいる、みたいな存在になりたいかな。ニュース番組は幅広い世代の方が見るからこそ、ふさわしいイメージも必要だと思うので、もっとクイズ番組で頑張んなきゃなとも思ってます。 ──キャスターは当初から目標にしていた?  キャスターというよりはもう、櫻井翔くん的な存在ですね。もちろん、キャスターとしては、ね、もっともっと勉強しなきゃいけないこともあるだろうと思いますし。 ──櫻井さんはキャスターとして、主演ドラマ「大病院占拠」のテーマ「正義とは何か」を意識しているとおっしゃっていましたが、その主題歌でSnow Manの新曲「W」にも「人の数だけ正しさ」という歌詞が。阿部さんも考えることが?  僕は社会が苦手なので、知識が浅い段階で発言するのはちょっと怖いなっていうところもありますが、まずは自分の身のまわりのことから、社会のことも少しずつ勉強していきたいなとは思っています。それこそSDGsとか、言葉は難しそうに見えるけど、できることが多いから。身のまわりに落ちているヒントとかを、ね、自分なりに広げていったりして、ゆくゆくはそういう大きなことも考えていきたいですね。SDGsの目標には平和も入っているので。 ──まさにSDGsや選挙番組に出ていい影響を与えていますが、逆に最近影響を受けたことは?  昨年ドラマ(「NICE FLIGHT!」)で玉森(裕太)くんとご一緒させていただいたんですが、玉森くんが基本的に現場に台本を持ち込まない人で。僕はもう初日は本当に不安で……セリフはもちろんちゃんと覚えて入ったつもりなんですけど、精神安定剤代わりに台本を持ってたんです。でも、いやこれはダメだと思って、それからはマネジャーさんに持ってもらって、できるだけ開かないようにしましたね。そういう現場が本当に初めてだったので、先輩を盗み見て、というわけじゃないですけど、得るものがありました。 ──ドラマといえば、次にやってみたい役は? 「NICE FLIGHT!」はだいぶ自分と重なる部分があって、そのぶんやりやすさはあったんですけど、今度はもうちょっと自分の性格から離れた役をやってみたいという気持ちがあります。例えば、オタク気質とか、ちょっと寡黙とか。 ──ちなみに、20代のうちにやりたいことは?  あー、確かに今年30になりますからね。えー、なんだろう……「週刊朝日」で表紙を飾る、じゃないですかね(笑)。 ──3月15日、新曲「タペストリー/W」が発売に。 「タペストリー」は目黒(蓮さん)・渡辺(翔太さん)が最初に歌ってからのスピードアップがポイントですね。あそこでドキッとするんですよ。ちょっとゆったり始まるのかなと思いきや、だいぶテンポがいい。けどすごいしっとりとしてるっていうの、ちょっとグッとくるかなって思います。 ──阿部さんが歌う2番Bメロが話題です。  うれしいです。僕は普段けっこう低いパートを担当することが多くて、サビも下ハモを歌うことが多いんですけど、今回はすごく高い音があって。地声では高い音が出ないので、Bメロの「自分が消えてしまわぬ様に」はファルセットで頑張ってるんですけど、この音この人から出るんだって思っていただけたら。なかなか聞かない僕の声だと思うので、楽しんでもらいつつ、メンバーそれぞれが前に歌っていた人からパスもらって次の人に渡していく、つながっていく歌い方にもぜひ注目してもらいたいです。 ──「タペストリー」で「全てを投げ出してもいいから」という歌詞が。そう思ったことはある? 「それSnow Manにやらせて下さい」っていう冠番組が、この春からゴールデンタイムに進出するんですけど(金曜20時から1時間番組として全国放送決定)、ここからがむしろ勝負だなって思っていて。だからまさにいまが、この言葉の気持ちかもしれない。“それスノ”のゴールデン化と全国化は、どっちも叶(かな)えたい夢だったんですよ。どっちが先に叶うかねーみたいな話をしていた3日後ぐらいにその話が出たので、すごくうれしかったです。せっかくここまで来たからには、長く愛される番組にしたいと思います。 ──「W」の歌詞にちなんで、「生きる意味」は?  CM(ユーキャンで出演中)で、学ぶことは生きること、って言っちゃってるんですけど(笑)、まさに間違いなく死ぬまで勉強だと思ってます。僕はすごく受験の勉強もしたし、クイズ用の学術的・学力的な勉強もしているし、生きるための術、例えば上座の場所を覚えるとか(笑)も、大切になってくることもあるじゃないですか。本当に一生ずっと勉強で、かつ自分の覚えた知識は誰にも奪えない財産だと思っているので、どれだけ蓄えられるか、経験値も含めてどれだけ得られるかっていうのが、人生を豊かにするポイントなのかなって思います。※週刊朝日  2023年3月31日号

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    留学はBTS「Dynamite」がきっかけ 30代女性にBTSが教えてくれたこと

     それまでのキャリアを見直し、韓国に留学する──。コロナ禍でのBTSとの出会いが、人生の転機になった人がいる。フォトグラファーの松沢美緒さんもその一人だ。彼女は何に惹かれ、海を越えたのか。AERA 2023年4月3日号から。 *  *  *  フォトグラファーの松沢美緒さん(35)は、昨年6月からソウルの延世(ヨンセ)大学に留学している。きっかけは、BTSだ。2020年に世界的なメガヒットを飛ばした「Dynamite」で彼らを知った。  世界的なコロナ禍で、先の見えない状況に多くの人が疲弊していたころだ。松沢さんはフリーランスでフォトグラファーを続けながら、料理人を目指して修業を積んでいた。飲食店に勤務していたが、人員削減によって負担が増え、心身ともに疲れ果てていた。そんな中、たまたま耳に入ってきたのがBTSの「Dynamite」だった。 「明るく軽快なディスコサウンドが心地よく、無限リピートして聴いていました」  同じころ、日本の音楽番組でBTSのパフォーマンスを初めて見て、衝撃を受けた。 ──なんて楽しそうに歌って踊る人たちなんだろう。 「BTSのメンバーたちもツアーが中止になったりして苦しかったはずなのに、活動の足を止めずに、ファンとオンラインでつながって、希望と癒やしを届けてくれていました」  松沢さんは寝る間も惜しんでBTSについて調べ、未見のコンテンツを追った。  社会性のある歌詞や2018年9月にニューヨークの国連本部で行ったスピーチを知り、心を打たれた。その背景にある歴史や政治を学ぶきっかけにもなった。  ARMY(BTSのファンの呼称)の存在も大きかった。BTSの公式YouTubeチャンネル「BANGTANTV」の登録者数は約7400万人、公式インスタグラムのフォロワー数は約7250万人で、世界中のARMYは「ドイツの人口(約8300万人)に匹敵する」とされ、「史上最強のファンダム」とも言われる。 ■多様性を尊重する  松沢さんは「たくさんのファンがいる分、さまざまな才能や知識を持ち合わせた人々が集まっていて、それを無償で共有してくれる」と語る。  例えば字幕だ。メンバーたちが話す言葉は世界中のARMYによってほぼリアルタイムで翻訳され、SNSで共有される。  松沢さんは、「メンバーの言葉をダイレクトに理解したい」という一心で韓国に留学したが、留学してから、ARMYとのつながりも深くなった。昨年10月に釜山で開かれたコンサートは、チケットが取れなかったため、会場近くのライブビューイングで楽しんだが、SNSを通じて知り合ったARMYをソウルの自宅に泊めて交流した。SNSを介して、留学経験をARMYたちに語ったこともある。  松沢さんの「推し」はJUNG KOOKだが、それ以前に「BTSとARMYのファン」だ。BTSとARMYは、多様性について考え、尊重する姿勢も教えてくれた。BTSの曲の中には、手話で振り付けた「手話ダンス」が登場するものもある。また、コンサートでは手話通訳が配置される。これはARMYによる要望の結果でもある。 「私の知見を広げてくれたBTSとARMYには感謝しかありません。私も、小さくても彼らを照らすひと筋の光であり続けたいです」 (ライター/成川彩=ソウル) ※AERA 2023年4月3日号より抜粋

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    18時間前

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    なぜ「上の子」だけうまく褒められないのか 3兄弟の母が小学校の授業参観で気づいた「懺悔」と「恥」

     子どもを褒めたい気持ちはやまやまだけど、ほかのきょうだいに目がいってしまったり、期待値が高すぎて言葉に詰まったり。3人の男子を育てているコミックエッセイストtomekkoさんも、いちばん上の長男に対しては褒めるよりお小言が多くなるのが悩みです。そんななか、デジタルツールを駆使したプレゼン発表会が小学校で行われ、意外な子どもの成長を見ることに。発表から気づかされた長男への懺悔や「子離れの心境」とは――。 *  *   *   感染症対策のため窓という窓が開け放された体育館で、震えながら5年生のプレゼンテーションを観賞する――。GIGAスクール構想なんて名前だけ聞くと妙に進化的な教育方針の改変と、それを実施する吹きっさらしの実質“青空教室”のギャップに苦笑しながら、学年末、長男の学習発表会を見に行ってきました。  子どもたちは日本の歴史をテーマにおのおの興味のある分野を調べ、iPadにまとめたプレゼン内容をスクリーンに映して前に出て次々と発表する、という流れ。5年生のデジタル教育に求める成果を公立校がどのレベルに設定し指導しているのか、それを決めているのは教育委員会なのか学校なのか、はたまた担任の先生なのか……よくわからないまま見せられる成果物にどんな反応をしていいかわからなかったんですが。正直、全体を通して小5のプレゼンなんてまぁこんなもんだろうという印象でした。  でも実は私はこの日、わが子の発表に、デジタルとは全然違うところでひっそりと感動していました。長男が発表したのは「日本の城」。もちろん掘り下げ方は浅いしツッコミどころ満載のプレゼンではありました。ただ、家で接しているだけでは知り得なかった長男の力が見えてきたんです。  一つは資料の使い方。多くの発表が、画面が文字で埋まってしまい、もう少し視覚的な補助が欲しかったな~というパターンか、画像資料はあるもののそれが何を表しているかの説明がないものでした。そのなかで長男は城の構造の違いがよくわかるような比較画像を使ったり、説明している城の特徴が伝わりやすい資料をタイミングよく目に入るように出したりしていました。  そんなの当たり前のように思えますが、プレゼンって実は視覚と聴覚の情報をバランスよく補って聞き手に伝えなければならないんですよね。こういうことって自然に身につくものではないし、案外教えてもらう機会も少ないもの。そんなに本を読むほうでもないし、参考にしているとしたらYouTubeくらいでしょうか。案外自分の説明を客観的に見ているんだな、と思いました。  もう一つの驚きは「全て自分の言葉」に落とし込んで説明していたこと。グーグルで検索して出てきた文献の文章をそのままコピペして、自分の感想を付け足して読み上げるだけの発表が多いなか、なぜか長男のプレゼン画面に並ぶ見出しや説明は口語体。いや、口語……で説明するのはいいんですが、 「てゆーか」「ぶっちゃけ」「って思いません?」……etc.  イキリ小学生(というキャラではないはずだが)がウケ狙いでやったのかと思い「サムイぞお前……」と若干引いて見ていたのですが、このふざけた口調のおかげでネットに転がっている説明をそのまま読み上げているのではなく、自分なりの言葉で準備したんだとわかったんです。  長男は普段から家庭内でも発言が少なく、自分から友達を誘ったりもしない。こちらから聞いてもなかなかはっきりとした自分の意見というものを言わないので、理解力や言語能力、コミュニケーション能力が育っていないのでは……と正直夫婦でかなり心配していました。もちろんプレゼンに適切な言葉遣いではないけれど、彼がインプットした情報をしっかり理解していること、そしてそれを自分の言葉で説明できる状態まで落とし込んでアウトプットしている姿に、一気に安心感が込み上げました。  このプレゼンを子ども同士で評価し合ったり、担任の先生がコメントしたりすることも特になかったようで、先生からは頑張ったことをおうちで褒めてあげてください、で終わり。つまり長男はこの学習を通じて特別評価されたわけではありませんでした。  実際、世間に目を向ければもっとレベルの高い素晴らしいプレゼンができる小学生はたくさんいるでしょうし自慢できるほどのことではないと思います。でも、親バカって言われてもいい! 学校で評価されなくても、私的にはなんだかこのプレゼンを見て涙が出そうなくらいうれしかったんです。 「長男やるじゃん~! お城のプレゼン、オリジナリティーがあっておもしろかったよ!!」  夕食を並べながら、ガラにもなくはしゃいで長男を褒めちぎった私。本当は誰よりも自信をつけさせてあげたいのに、3兄弟の中でもなかなか褒めて伸ばすということができずに頭を抱えていた「長男の隠れた長所」を見つけて一番うれしかったのは、母だったのです。  運動神経がよく、4歳も離れているのに長男よりもスポーツができてしまう次男。口が達者で空気を読んでうまいこと可愛がられる三男。弟たちは見た目にわかりやすい長所があり、そもそも下の子は幼く見えるのでちょっとしたことでも褒められます。  一方で、生まれつきのんびり、他者の影響を受けずゆらゆらと自分だけの世界で生きているように見える長男にはいつもヤキモキ。年齢が上がるにつれできていないことのほうにばかり目がいってしまい出るのは小言ばかり。なかなか、長男を手放しで褒めることができなくなっていました。  よく聞く話です。誰しも生まれたときには、 「この子が大きな病気や事故に遭わずとにかく健康でさえいてくれたら何も望まない!」  と心から思ったはずなのに。その思いは決して嘘ではなかった。心変わりしたつもりもない……それなのに、いつの間にかまわりの友達と比べ、平均データと比べ、できないことばかりが気になり弱点や欠点は埋めてあげなくてはと、先回りして備えなければ!という強迫観念に苛まれていく。  なんとかして自信をつけさせてやろうと小さい頃からいろいろな習い事にチャレンジさせた結果、何をやってもうまくいかずかえって長男の自信を削り取る本末転倒な事態を招いてきたことは、言い訳のしようもありません。今回のプレゼンを見て、安心と喜びと一緒に湧き上がってきた強い感情は「恥」でした。  親なのに、わが子のまだ芽吹いていないだけかもしれない力を信じてあげられなかったこと。本人の花開くタイミングを待つことができず、より早く得意なこと・好きなものを「見つけさせてやろう」なんて傲慢な考えを持っていたこと。3兄弟の中でも特に時間をかけて向き合ってきたつもりでいたけれど、私は一体何と向き合っていたんだろうか。 「実は、ノロマで要領も悪く何事もコツを掴むのに時間がかかった自分の幼少期を長男に投影して、イライラしていただけなんじゃないの?」  人一倍時間はかかったけれど、今は「好き」を仕事にして幸せだと思えている大人の自分がちゃんとここにはいるのに。長男は今11歳。もう親の目も細かく行き届かなくなり、預かり知らぬうちに全くの想定外なところから興味の芽が伸びたり他人から長所を見いだされたりするのかもしれないんですよね。親はそれを知ったとき、本人から応援を求められたときにできる限りのサポートをするしかないんだ。余計なお世話はやめよう。  学校のデジタル教育に言いたいことはいろいろあるけど、子育ての面では最終学年を前に、よい子離れのきっかけになった学習発表会でした。 ○tomekko/主婦力は低いが妄想力は高いアラフォー。3兄弟に育てられる日々。イラストレーター、漫画家、コミックエッセイスト。小5、小1、年中の男子3兄弟に夫とほぼ男子校な日々を綴っているポンコツ母さん。主な著書に『飛んで火に入る』(講談社モーニング)、『おっとり長男もっちり次男きょうだい観察手帳』(赤ちゃんとママ社)など。『AERA with Kids』で連載中の「脱・カンペキ親修行」は6年目に突入!

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    10時間前

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    室井佑月「反論記事を読んでみた」

     作家・室井佑月さんは、上野千鶴子さんの「文春砲」反論記事を読んだ感想を明かす。 *  *  *  先週号のこのコラムに、週刊文春のスクープ、「“おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた」というものを取り上げた。その後、上野さんが反論記事を書くといったので、楽しみにしていた。  それは婦人公論4月号。「緊急寄稿 『文春砲』なるものへの反論 15時間の花嫁」。  読んだ感想としては、がっかりの一言だ。フェミニスト村のボスの緊急寄稿というわりに、中途半端なページというのもさもありなん。非常につまらないものだった。  なんでも上野さんはパートナーの介護と看取りのため、「婚姻届を提出した(入籍)といわれたくない」らしい。パートナーの彼曰(いわ)く、上野さんは「親友」なのだそうだ。  本人がそうだというなら、そうなのだろう。しかし、私が期待したものとはまったく違った。  私が期待したものは、 「誰にどういわれようがかまわなかった。私は彼のすべてが欲しかった」  というようなものだったかもしれない。  上野さんほど成功し、お金もあり、誰かのツテも使えそうな人は、少々の面倒を嫌がらなければ、ずっと自分が否定してきた婚姻をしなくてもどうにかなったはずである。  上野さんのパートナーにはその昔、奥様がいた。本当に婚姻したのは、婦人公論に書かれてあった、優等生的なつまらない理由だけだったのか。  愛した男のすべてが欲しいという願望は、上野さんにはなかったのだろうか。  恋人であり、親友であり、現世では母になるのは無理であっても、妻というものが残っていた。私ならなりたいと思っただろう。  そして、上野さんのコラムの最初と最後には、他人のプライバシーを嗅(か)ぎまわるのは卑しい、というようなことが書かれてあったのが印象的だった。最初と最後にわざわざ書くほど、強くいいたかったことに違いない。  こうして上野さんのことを書いている私も、彼女からいわせれば卑しいのか。  私たちはどうも分かり合えないようだ。私が考える卑しさとは、違う。  たとえば、ジャニーズ事務所のジャニーさん問題、海外メディアが報じても、日本では、上野さんがいうところの卑しい『週刊文春』しか扱わない。上野さんや上野さんの子分たちと一緒に、「性的搾取が!」「ジェンダーが!」と始終騒いでいるメディアはだんまりだ。この週刊誌の大元の会社、朝日新聞社はとくにこの話題が好きである。上野さんがカウンターで手記を出した婦人公論も、この手の話が好物だ。なぜ、この件では動かないの? 偉そうに正義風味だけど、正義で動いてないからじゃない? 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中※週刊朝日  2023年4月7日号

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    WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」

     第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。  先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。  各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。  そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。  セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。  針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。  他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。  上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)

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    WBC世界一の日本野球、かつては米国に「コテンパン」 王貞治らが健闘も“絶望的な差”

     第5回ワールドベースボールクラシック(WBC)で、日本が米国を3対2で下し、3度目の世界一を実現した。  過去2回の決勝の相手はキューバと韓国だったが、今回は初めて決勝で野球発祥の国・米国を下しての快挙という意味でも、“真の世界一”という思いを深めたファンも多いはずだ。  だが、侍ジャパンが躍進する以前の日本は、日米野球で米国に何度もコテンパンにやられ、“野球の本場”とのレベルの差に圧倒されっぱなしだった。そんな長い苦闘の歴史を振り返ってみよう。  まず昭和9年(1934)、日本が初めてプロチーム「全日本軍」を結成し、ベーブ・ルースらを擁するMLB選抜に挑んだが、16戦全敗に終わっている。  屈辱的な惨敗のなかで、今でも“伝説の試合”として語り継がれているのが、17歳の沢村栄治が先発した静岡・草薙球場での第10戦だ。  初回にルースを“懸河のドロップ”で三振に打ち取った沢村は、2回にもルー・ゲーリッグを3球三振に切って取るなど、米国を5回まで1安打に抑える。  7回にドロップの曲がりばなをゲーリッグに右翼席中段に運ばれ、0対1で敗れたものの、5安打9奪三振の1失点と大健闘。つい3カ月前まで京都商に在学していた“スクールボーイ”の快投に、コニー・マック監督も「サワムラを米国に送らぬか。2、3年でメジャーで使えるようになる」と惚れ込んだ。  その後、大日本東京野球倶楽部(巨人の前身)に入団した沢村は、翌年の第一次米国遠征でも、3月17日のセネタース戦で7回まで無安打無失点に抑えるなど21勝を挙げ、米国人をも熱狂させた。  戦後は1949年に日米野球が再開され、3Aのサンフランシスコ・シールズが来日した。  だが、相手がMLB球団ではなかったにもかかわらず、日本は7戦全敗(六大学選抜戦を含む)に終わる。  黒歴史はなおも続く。51年は全米選抜、53年にはMLB選抜が来日も、日本は1勝13敗2分、1勝11敗とまったく歯が立たず、55年のヤンキースには0勝15敗1分と1勝もできなかった。  そんな苦境にあって、あと少しでノーヒットノーランの快投を演じたのが、62年の阪神・村山実だ。  デトロイト・タイガースを迎えての第16戦、村山は直球と変化球を内外角低めに投げ分け、7回まで安打を許さない。  4対0とリードした8回も、村山は先頭打者に四球を与えたものの、2死を取り、ノーヒットノーランまであと4人となった。  ところが、次打者、マイク・ロークの左前へのライナーを張本勲が一度はグラブに入れながら落球……。エラー判定に一縷の望みをかけ、振り返ってスコアボードを見つめた村山だったが、無情にも「H」のランプがともった。 「ノーヒットノーランを意識していたが、大リーガーに打たれたのだから仕方がない」と気持ちを切り替えた村山は、9回にも安打を許したものの、1死一、二塁から後続を断ち、2安打完封勝利。日本の投手が9回を投げ抜き、米国を完封したのは、史上初の快挙だった。  だが、全18試合のタイガース戦で、日本は4勝12敗2分と大きく負け越し、米国は依然として“超えられない壁”だった。  村山の快投から4年後の66年、日本はドジャースを相手に8勝9敗1分と善戦し、大きな手応えを掴む。  中でも全18試合に出場し、5本塁打を記録した巨人・王貞治の活躍が光った。  第9戦で1号2ランを放った王は、第10戦でも2打席連続弾を記録し、「僕の一本足打法が大リーグでも通用することがわかった」と自信を深める。ワールドシリーズV4度の名将、ウォルター・オルストン監督も「あれだけ足を上げてバランスが崩れないのは素晴らしい。大リーグでもクリーンアップの一角を打てるかもしれない」と賛辞を惜しまなかった。  王は68年にもカージナルスを相手に通算6本塁打を記録したが、日本は通算5勝13敗と振るわず、一歩後退となった。  86年にはMLB選抜との日米オールスター対決が実現し、以後隔年開催されるようになるが、同年の日本は第5戦で1勝するのが精一杯(通算1勝6敗)。3対13と大敗した第4戦では、4回2死から落合博満が左翼線二塁打で出塁した直後、捕手、トニー・ペーニャが座ったまま二塁にけん制球を投げ、まさかのタッチアウト。メジャーでは「ルーティン(当たり前のプレー)」(ペーニャ)という“神送球”にしてやられた落合は「あんなのないよ」と唖然とするばかりだった。   だが、90年にMLB選抜に4勝3敗1分と、日米野球の長い歴史の中で初めて勝ち越すと、その後は野茂英雄をはじめ日本人メジャーリーガーも次々に誕生。しだいに日米の実力差も縮まっていく。  そして、沢村の伝説の快投から89年後、侍ジャパンが“打倒米国”の悲願を実現し、世界の頂点に駆け上がった。 「僕らはアメリカの野球をリスペクトしていますし、彼らの野球を見本にしてこれまで頑張ってきたと思うので、今日はたまたま勝ちましたけど、これからもっともっと高いところを目指して、もっともっと頑張っていきたいなと思います」とさらなる飛躍を誓う大谷翔平の言葉からも窺えるように、日米対決はこれからも熱い火花を散らしながら、新たな歴史を刻みつづけていくことだろう。(文・久保田龍雄) ●プロフィール久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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    8時間前

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    カズオ・イシグロ脚本の黒澤明リメイク LiLiCoも「身体の芯から感動」

     3月31日から全国公開の始まる映画「生きる LIVING」。脚本は、若かりし頃にこの黒澤映画に衝撃を受け、そのメッセージに影響されたというノーベル賞作家カズオ・イシグロ。本年度のアカデミー賞では、イシグロの脚色賞、ビル・ナイの主演男優賞の2部門にノミネートされた。  1953年。第2次世界大戦後、いまだ復興途上のロンドン。公務員のウィリアムズ(ビル・ナイ)は、今日も同じ列車の同じ車両で通勤する。役所の市民課に勤める彼は、部下に煙たがられながら事務処理に追われる毎日。家では孤独を感じ、人生を空虚で無意味なものだと感じていた。  ある日、彼は医者からがんで余命半年であることを告げられる。彼は歯車でしかなかった日々に別れを告げ、人生を見つめ直し始める。手遅れになる前に充実した生活を手に入れようと、海辺のリゾートで酒を飲みバカ騒ぎをしてみるが、しっくりこない。ロンドンに戻った彼は、かつて彼の下で働いていたマーガレット(エイミー・ルー・ウッド)に再会するのだが……。 本作に対する映画評論家らの意見は?(★4つで満点) ■渡辺祥子(映画評論家) 評価:★★★★ 人生最後の仕事で残りの命を燃やすビル・ナイの折り目正しい公務員ぶりに見とれた。カズオ・イシグロの視点で見つめられた黒澤映画は、洗練されながらも親しみやすさは失わず、見る者に訴えかける力強さも変わらない。 ■大場正明(映画評論家) 評価:★★★ 物語はかなり忠実だが、画作りが独特。画面サイズやタイトルデザイン、映像の質感など、50年代を当時の映画で見るように再現している。両大戦間や戦後の時代に愛着を持つイシグロの関心が細部にまで反映されたリメイク。 ■LiLiCo(映画コメンテーター) 評価:★★★★ 涙と鼻から濃い液体が出たほど身体の芯から感動しました。ビル・ナイが醸し出す主人公の生きた証拠。頑固で真面目に生きる日本のオジサマに見てほしい。国の問題と人の心が一緒に解けていく。生きるって楽しいはず。 ■わたなべりんたろう(映画ライター) 評価:★★★★ カズオ・イシグロの見事な脚色が堪能できる逸品。オリジナルの映画よりも黒澤明が参考にしたトルストイの『イワン・イリッチの死』に近い印象があるのが興味深い。オリジナルより40分短いように簡潔さの美徳の勝利。※週刊朝日  2023年4月7日号

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    9時間前

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    葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由

     葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉  冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。  お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。  まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を  お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。  正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。  お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切  身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。  一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。  ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。  お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉  死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。  死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。  時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。  深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言  結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。  新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。  お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち  結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。  出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。  文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。  やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。  どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。

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    「2時間ドラマの女王」片平なぎさ ついにシリーズ最終回で恋も決着

     漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏さんが「山村美紗サスペンス赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形~」(フジテレビ系 3月17日20:00~[シリーズ最終回])をウォッチした。 *  *  * 「山村美紗サスペンス・赤い霊柩車」シリーズがついに最終回を迎えた。30年あまり続いたこのシリーズ、何かと懐かしいものが終わっていく今日この頃なのだ。  京都の葬儀社女社長・石原明子を演じる「2時間ドラマの女王」片平なぎさ。番宣番組でご本人が語っていたが、初期のファッションはまさに「平野ノラ」だ。  前髪くりんのロングソバージュ、ブルゾンは「ガンダムみたいな肩パッド入り」で、そのまんまOK!バブリー明子。  時は流れ、今や片平さんも御年63歳。明子の婚約者で医師の春彦役・神田正輝は72歳だ。明子が知人に「フィアンセの春彦さんです」と紹介し続けて幾年月。  40代も50代も60代もずっとこのままフィアンセなのか。フィアンセ期間のギネス世界記録でも狙っているのか。  と、固唾(かたず)を呑んで見守っていたら、ついに最終回で決着が。京都と東京の遠距離恋愛を続けていた二人、やっと春彦は明子に告げた。 「京都の病院で働くことにした」。遅い、遅いよ春彦。もう定年だよ!  そんなこんなで葬儀社事務員・良恵役にして原作者の実の娘・山村紅葉も62歳。秋山専務役の大村崑はまさかまさかの91歳! そして京都府警の狩矢警部役、若林豪は83歳になる。  葬儀社ミステリーだけど、リアル霊柩車はまだまだ来てほしくない。このおなじみキャストでシリーズ完走できたことに大拍手なのだ。  最終回ではオンライン葬儀が紹介されたり、迷惑ユーチューバーみたいな客がやって来て、動画であることないことを言いふらし、石原葬儀社が炎上してしまったり。葬儀自体が時代と共に変化していく様を実感する。 「明子はんだってこのままずっとやってても、どうもあかんなぁと思うてるんちゃいますか?」という秋山専務のセリフを、思わずこのシリーズと重ねてしまいしんみり。  しかしその秋山を演じるご本人、大村崑さんはまったく年齢を感じさせない若さだ。背筋はシャキーン、滑舌もキレキレだから、もうびっくり。 「一級葬祭デレクター(ディじゃなくデがこだわり)」ならぬ「一級健康デレクター」なの?  どうしたらこんな元気ハツラツな91歳でいられるのか。今からオロナミンC飲むべき? カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など※週刊朝日  2023年4月7日号

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    17時間前

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    Snow Man阿部亮平、「滝沢歌舞伎」公演期間に号泣した理由

     一般受験で上智大学に合格、ジャニーズ初の大学院修了者で“ジャニーズクイズ部”のリーダー・Snow Man阿部亮平さんが、満を持して登場! 合格率4%の難関で知られる気象予報士や、世界遺産検定2級に合格するなど、アイドルとしての活動と学業との両立を見事成し遂げた阿部さんが、そのなかで号泣した理由とは? *  *  * ──小学5年生からジャニーズJr.として活動されてきて、自分には取(と)り柄(え)が少ないと感じるようになったことで、勉強をしようと思われたとか?  僕が所属していたMis Snow Manとか、Jr.BOYSって、先輩たちのバックに引っ張りだこなJr.が集まっていて。まわりみんなダンスすごくうまいし覚えるの超早いし、歌うまい人もいて、自分はあんまり取り柄ないなーって感じることがあったんですよね。自分が置いていかれてるって思ったのは、中2とかなのかな。本当にね、俺一番下手だなって思ってた。頑張って食いついてはいたんですけど、何か一番できるものがほしい、ってなったときに、勉強しかないなと。もちろんダンスとか歌とかアイドル業も磨くけど、プラスアルファでもう一軸、勉強をやろうって思ったのが、高校2年生ぐらい。受験は経験しておきたいって意識もあったので、半年間活動を休んで勉強をしっかりして一般受験をするって決断しました。 ──休んだ半年間はどのように勉強を?  8月から3月の頭までの半年は、毎日12~13時間勉強して、でも絶対7、8時間は寝ていましたね。眠いのに無理して続けるのは、効率が悪い気がして。独学中心でしたが、冬期講習だけは受けました。冬は朝9時からずっと自習室にいて、講習の時間は教室に行って、家帰ってリビングで勉強するんですよ、夜12時ぐらいまで。あとは通学中もキクタン聞いたりしていました。毎日、だいたいの目標は決めるんですけど、例えばもう無理、眠くなった、ってなったらやめるし、いやまだめっちゃ集中できてる、って思ったら続けるようにしていましたね。だから高2の試験勉強で朝4時まで勉強しちゃったこととかありました。空がだんだん明るくなっていくのが、これだけ勉強したんだっていう証しになるから、ちょっとうれしかったな(笑)。 ──一般受験に際し、上智大学を選んだ理由は?  ほかも受験したんですけど、結局はいちばんいいところに受かったなって思いますね。研究室でやりたいこともできたし、いい教授とも出会えたし、都心だからすごく通いやすいのもあって。受験でいろいろな大学を受けて、っていう流れは多分誰しもにあって、でも結局どこに行くかっていうのは、自分が頑張ったぶんの努力が連れてってくれるんだと思うんです。僕は理工学部で、出席や単位にはすごく厳しかったんですけど(笑)。 ──その厳しい学部で学業優秀賞を受賞した?  4年のときに表彰されました。学科で毎年3人くらいですかね。仕事と両立させるなかで、出席が足りなくなって必修科目を落としたこともありますけど、そういう賞をいただいて、ね、ほんと真面目にやってよかったなあって。 ──仕事と学業を両立するなかで、号泣するほど悩んだこともあったとか。  大学4年生の頃ですね。ちょうど「滝沢歌舞伎」の公演中で。研究室では院進(大学院への進学)の話題で持ち切りだったんです。大学在学中も、出席が厳しいからちょっとお仕事休ませてもらったりとか、メンバーに迷惑をかけてしまうことがあって、それが4年で終わるって思っていたんですけど、自分のなかに、院に進んであと2年学びたいっていう思いがあったんですね。理系で、コンピューターによって便利になった社会に対してどう生かすかといった情報学を学んでいたので、ライブの演出についてもうちょっと学ぶことができないかな、例えば何かを念じたり集中したりっていう脳波を信号として読み取って演出に生かせないかな、って。院進したいっていう思いと、メンバーにこれ以上迷惑はかけたくないっていう思いがあって、マネジャーさんと話してるうちに、だんだん気持ちの整理がついてきて……進学したいっていう自分の真の気持ちに気づいたら、号泣していたんですよね、なぜか。最終的には大学4年生から大学院の授業を受けられる制度をフルで駆使して、院ではほとんど仕事を休まなくてもいいようにして、落とし込んだ感じですね。 ──受験勉強は自身に返ってきていると感じる?  受験っていう経験はマジで一生ものだなって思いますね。人生で得られる経験値としてすごく大きいなって。後にも先にもあんなに勉強したのはあのときだけだし。僕自身はジャニーズの活動をお休みして、メンバーに迷惑をかけて、っていうのがかなりプレッシャーだったので、忍耐強くなりましたよね。 ──勉強が自分の役に立っているといま最も実感するのはどんなとき?  いちばんは、学んだ内容そのものよりも学び方にあるかなって。社会人になってからも新しく学ぶことって多いじゃないですか。たぶん応用が利くと思うんですよね。僕はいま、クイズ番組でクイズを解くためにはどう勉強したらいいか、みたいに使えてますね。 ──阿部さんにとって、その「学び方」とは?  学び方の、ほんっとの第一歩は、興味を持つことですね。僕は社会とか地理とかが苦手なんですが、でも旅行は好きなんですよ。だから旅行で得た知識を最初の呼び水みたいにして、例えばここが有名だとか、これがおいしいとか、みたいにして、地歴がめっちゃ苦手なのに、世界遺産検定2級を取りました。僕は、勉強ってモチベーションがすべてだと思っていて。どうやっても面白さを見いだせなかったら、この勉強終わったらおいしいもの食べられるとか、この勉強するときのこのノートがお気に入りとか、そういうところでうまく自分をあやしていくのが大事かなって思います。 ──ご自身が勉強するときの、いまのご褒美は?  最近ね、サウナかもしんない。そこまでサウナーってわけじゃないんですけど、たまに行くとすごくゆったりとできるので。もともとお風呂も大好きですし。 ──サウナ好きのメンバーもたくさんいますが。  そうなんですよ。うちにはサウナに精通してる人がたくさんいるので、楽しいですね。いろいろ相談にのってくれるんですよ、親身になって。この前、岩本(照さん)からサウナハットをもらって、愛用してますし。ただ、一緒に行ったこともあるけど、まあほぼ一人ですね。一人でのんびり過ごすのがすごい好きで。 ──ライブの演出「スノインザボックス」を思いついたのもサウナだとか。  そうだった気もするようなしないような(笑)。でも確かに、のんびりしているときにいろいろ考えて、あっと思ったものをお風呂とかサウナとか上がった後にメモしておくことは多いですね。 ──最後に、来春の受験生に向けてメッセージを。  時が過ぎるのって本当にあっという間。来年の受験までまだ1年弱ある、って思ってる人がいるかもだけど、本当にすぐ来る。だからこそ、未来の自分に向けてプレゼントを贈る気持ちで、いまからちょっとずつ頑張ってほしいと思います。 (取材・構成/編集部・伏見美雪)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    工藤、古田、吉井…侍ジャパンの次期監督は誰?「イチロー待望論」は現実的か

     WBCで2009年の第2回大会以来14年ぶりの頂点に立った侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(レッドソックス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)の活躍、村上宗隆(ヤクルト)の復活劇、チームを一つにまとめたダルビッシュ有(パドレス)の献身的な姿勢がフォーカスされたが、栗山英樹監督の功績を忘れてはいけない。  スポーツ紙デスクは、「栗山監督でなければ、ヌートバーを招集するという選択肢は思いつかない。ダルビッシュ、大谷も栗山監督のためにという思いは強かったはず。短期決戦では不調の選手を起用し続けると致命傷になるケースがありますが、村上を最後まで信じて代えなかった。気配りの人で、全ての選手、コーチ陣、裏方を含めたスタッフを大事にしていた。米国との決勝戦を終えて出場機会が少なかった牧原大成(ソフトバンク)に謝っていた姿が印象的でした」と振り返る。  気になるのは次期監督だ。栗山監督の続投を望む声は多いが、今月27日に都内の日本記者クラブで会見を行った時、「もし『やってくれ』と言われたら、もちろん考えますけど、野球でまず自分が留まってはいけないと思っている」と語った。  栗山監督が退任した場合は、次期監督を選定しなければいけない。最有力候補と目されるのが、工藤公康氏だ。15年から21年までソフトバンクの監督を務め、3度のリーグ優勝、5度の日本一に輝いた。短期決戦の強さに定評があり、勝負に徹した柔軟な選手起用で知られる。また、元ヤクルト監督の古田敦也氏も候補の1人だろう。アマチュア時代にソウル五輪で銀メダルを獲得。ヤクルトでの現役時代は野村克也監督の下、「ID野球の申し子」と形容されて球界を代表する名捕手として活躍した。今春にはダイヤモンドバックスで臨時コーチを務めている。  侍ジャパンで投手コーチを務めたロッテ・吉井理人監督、リーグ連覇を飾ったヤクルト・高津臣吾監督、オリックス・中嶋聡監督もふさわしい人材だが、否定的な見方を示す球界関係者もいる。 「NPBの監督と代表監督の兼任は大きな負荷がかかる。現実的ではないでしょう。09年の第2回大会で巨人の原辰徳監督が侍ジャパンの監督に就任しましたが、あの時は08年の北京五輪でメダルを逃した星野仙一監督の続投路線に世論が反発し、監督人事が白紙に戻った経緯がある。12球団を回り、じっくりチームを作るためにもNPBの現役監督は選ばれないでしょう」  知名度や国際舞台での実績を踏まえ、有力候補がもう一人いる。マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(49)だ。その名は米国でもレジェンドとして知れ渡っている。現役時代はメジャーで2度の首位打者を獲得し、04年にシーズン安打となる262安打をマーク。10年連続200安打の大記録を樹立した。走攻守3拍子揃ったプレースタイルで日米通算4367安打を積み上げた天才打者は、WBCでの活躍も印象深い。06、09年とWBC連覇に大きく貢献。09年は打撃不振に苦しんだが、決勝・韓国戦で同点の延長10回2死二、三塁の好機に決勝打となる2点中前適時打を放った。大谷、村上は少年時代にこの場面が強く印象に残ったことを明かしている。全国の野球少年、野球少女が心を揺さぶられた一打だった。  イチロー氏が侍ジャパンの監督に就任すれば、日本列島がいまだかつてない盛り上がりに包まれるのは間違いないだろう。一方で懸念材料もある。MLB、NPBで監督としての経験がなく、指導者としての手腕は未知数だ。  イチロー氏は19年3月に引退会見を行った際に「監督は絶対無理ですよ。絶対がつきますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕」と語っていた。スポーツ紙記者は「イチローさんはアマチュア野球の普及に熱心で、プロの世界で監督というのは現実味がわかない。ただ、侍ジャパンの監督として打診を受けたら、受諾する可能性はゼロではない。日の丸をつけて戦うことは大きな重圧を伴いますが、かけがえのない経験ですから」  栗山監督が続投するか、それとも――。侍ジャパンを託す監督の動向が注目される。(今川秀悟)

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    「老害化前に集団自決」発言で考える世代間対立 標的になるのは 貧困の高齢者

     米イェール大学に在籍する経済学者、成田悠輔さんの「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹をすればいい」との発言が物議を醸した。高齢者は社会のお荷物なのか。不毛な世代間対立の根を断つ必要がある。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 * * *  日本社会では以前から高齢者への風当たりが強い。高齢者が問題を起こせば「老害」という批判が飛び交い、「シルバー民主主義」という用語は選挙のたびに使われている。超高齢社会が顕在化するにつれ、高齢者は「お荷物」あるいは「優遇されている」という認識が浸透しているようにも感じられるが、実際はどうなのだろう。 「公的年金制度が賦課方式によって運用されている以上、そうした議論もあると思います。ただ、優遇されているという話を高齢者一般に当てはめるのは少し無理があるかもしれません。現在、シニアの方々の仕事なしには日本経済は成り立たない状況になっているからです」  こう話すのは、高齢者の就労に詳しいリクルートワークス研究所の坂本貴志研究員だ。  日本の高齢者の就業率は主要国の中で韓国に次いで高い水準にある。「とりわけ65~69歳の過半数、70~74歳の3分の1が働いている日本の状況は特筆すべきものであり、高齢になるとほとんどが働かない欧米主要国とは全く異なります」(坂本さん)  職種別で見ると、農林漁業で52%、清掃従事者のほぼ4割が65歳以上の高齢者で占められる。ほかにも居住施設・ビルなどの管理人や、輸送、建設、飲食などのサービス業でも2割前後が高齢者で占められている。  そう言えば、昨年、首都圏の物件を請け負う建設会社を取材した際、社長が「建設の現場は今、本当に若手が少ないんです」と吐露していた。ファッションブランドが軒を連ねる都心の通りを明け方に歩くと、店舗の内外にいるのは高齢の清掃員ばかりで日中とのギャップに戸惑ったこともある。タクシー運転手も高齢者が目立つ。地方では人手不足や高齢化はさらに深刻で、学校や施設の送迎バスの運行や配送などのサービス業も高齢者が不可欠な担い手になっているという。 ■人手不足の業界・職種ほど高齢化が進む傾向にある  少子化が進む日本社会では、もはや高齢者抜きには維持できない職場が増えているのが実情なのだ。だとしても、なぜここまで高齢者の就労が増えているのか。高齢者側には経済的な事情がある、と坂本さんは言う。 「年金支給額も減るなか、働き続けることで受給年齢を遅らせたり、家計の足しにしたりする人が増えています」  企業側は人手確保が必須。若い人を優先して採用する企業が多いなか、人手不足の業界や職種ほど高齢化が進む傾向にあるという。国が近年、高齢者就労を促す政策を進めているのも、少子化による人手不足や年金支給年齢の引き上げが背景にある。かといって条件の良くない職場を生活の苦しい高齢者に押し付ける構図を定着させるべきではない、と坂本さんは唱える。 「市場原理に委ねていればそれで良いと考えるのは適切ではありません。最低賃金の引き上げなど政策的なバックアップが必要です。高齢の方に無理なく社会に貢献してもらえるようインセンティブ付けを図るとともに、年をとっても働かれている人たちの権利を守っていくことが大切です。日本経済は今、そういう局面にあります」  2022年の自殺者数は中高年の男性で大幅に増えた。昨年11月までの暫定値では、50代が2604人(前年同期比12・9%増)、80代以上では1425人(同16・8%増)だった。過去の調査では、生活保護を利用している高齢者の自殺リスクが高いとの調査結果も報告されている。生活困窮者の支援活動に取り組む一般社団法人「つくろい東京ファンド」の稲葉剛代表理事がかつて接した人の中にも、あえて病気を治療せずに「緩慢な死」を選ぶ高齢者がいたという。 「コロナ禍でもリーマン・ショックの時もそうですが、日本経済を支えるど真ん中の世代が生活に困窮している状況に対しては、社会全体としてなんとかしないといけないというコンセンサスを得やすい半面、高齢者の貧困は見過ごされがちなのは否めません」  物価高騰は生活保護を受けている世帯や、少額の年金で生活している高齢者の暮らしを直撃している。生活保護を利用している70代の女性から「ガス代がかさむため温かいものを食べるのをあきらめた」と聞いて稲葉さんはショックを受けたという。 「団塊の世代は裕福と思われがちですが、生活保護を利用している世帯の過半数が高齢者世帯で、うち9割が単身高齢者です。背景には低年金、無年金の問題があって、景気動向にかかわらず増え続けています」 ■シルバー民主主義の批判は格差無視する乱暴な議論  都内で路上生活をしている人の平均年齢は65歳を超え、70~80代の路上生活者も珍しくない。90代で野宿している人もいるという。  稲葉さんは、若者の投票率アップを呼び掛けるキャンペーンで「シルバー民主主義」という言葉が用いられることに異議を唱えてきた。有権者人口が多く、投票率も高い高齢者層向けの政策が優先され、若年層の声が政治に反映されにくいことを指す言葉だ。 「子どもの貧困問題に真摯に取り組む人たちも、若者の投票率アップを促すためにあえて『シルバー民主主義』という言葉を使って現状を批判するんですが、当然ながら裕福な高齢者もいれば貧困の高齢者もいて、政策に求めるものは全く違う。同じ世代の中でも貧富の差やジェンダーの格差が大きいことを無視して、世代全体を一括りにして語るのはあまりに乱暴な議論です」  稲葉さんはこう続ける。 「貧困は世代を問わず拡大しています。今の日本社会で富の再分配がきちんと行われていないことが問題なのに、世代間対立をあおることで論点がずらされてしまうのを懸念しています」  少子高齢化で日本社会はもう持たないんじゃないか。そんな不安心理に付け入る形で、若者と高齢者を分断していく言説は今に始まったことではない。「老人はみんな死ねばいい」といった発言をする人は昔からいた。ただ、たいていは居酒屋談議や暴言を売りにしているお笑いタレントだった。今回の成田さんの「集団自決」発言に、稲葉さんは強い危機感を抱いたという。 「有名大学の学者が発言することで学問的に裏打ちされた主張であるかのようなイメージが社会に広がることを危惧しています。一見、高齢者全体を批判しているように聞こえますが、医療や福祉が社会全体の負担になっているという言説の中で使われる言葉ですから、実際に標的になっているのは貧困の高齢者です」  これは「優生思想」につながる発言だと稲葉さんは警鐘を鳴らす。 「今回は高齢者がターゲットですが、次は障害者だったり、生活保護利用者だったり、と際限なく広がっていくでしょう。結局、私たちの社会全体の根幹を崩す議論にしかなりません」 ■少子化政策の不備が世代間対立にすり替えられ  かつて留学していたフランスの年金制度改革の反対運動をめぐる研究の中で、日本国内の世代間対立の根深さに気づかされた、と話すのは科学史や社会思想史が専門の東京大学の隠岐さや香教授だ。  フランスでは今年に入ってマクロン政権が年金改革法案を発表。1月にはフランス全土で100万人以上が参加する反対デモがあった。とりわけ不評なのは、現在62歳となっている年金支給開始年齢を64歳に引き上げる改革案だ。現地報道で20代とおぼしき男子学生が「今この改革に反対しておかないと、私たちが手に入れてきたさまざまな権利が次々にないがしろにされてしまう」と訴えていた。  その動画を見た隠岐さんは、「私たちは完全に分断されていた」と悟ったという。日本で厚生年金の支給開始年齢が60歳から65歳に引き上げられると決まった00年当時の自身の経験と重ね、隠岐さんはこう振り返る。 「当時20代だった私は自分の将来への不安で頭がいっぱいで、年金問題には全く無関心でした。実際には高齢者の貧困率が高いことも知らず、『若者は苦しんでいるが、上の世代は恵まれている』という感情すら持っていました」  日本の高齢者の貧困率は女性が22・8%で男性が16・4%。いずれもOECD(経済協力開発機構)平均を上回る。日本の超高齢化社会は少子化政策の失敗の帰結でもある。  本来、少子化政策の不備を指摘しなければならないのにもかかわらず、問題の本質が「高齢者優遇」といった世代間対立にすり替えられる状況はなぜ生じたのか。年金問題を「労働者の権利保障の問題」と捉えるフランスでは、シルバー民主主義といった言葉を聞いたことがない、と隠岐さんは言う。 「フランスで年金改革に反対している人たちには、文化的な生活を維持するための労働者の権利は、いったん手放すと政府によってどんどん奪われていくという危機感が背景にあります。しかし、日本では『労働者の権利』という話を持ち出すと、『左翼』とたたかれるような言論空間があります。こうした分断を乗り越え、私たちは世代間対立という奇妙な対立の構図に落とし込められていることに気づくべきです」  隠岐さんは成田さんの言説について、従来の「男の子的な文化」との親和性を感じるという。 「『有害な男性性』という概念がフェミニズムにあります。男性たち自身が子どもの頃から『男らしく』しなさいと言われて育ち、こうあるべきという規範意識にとらわれた結果、暴力的になったり、弱いものと自分を区別し、かつ相手を支配しないと自分を保てないと感じたりする意識です。そういう自己認識はエリート校など競争的な環境にいた人ほど持ちやすい。成田さんの言葉に肯定的に反応している層が今もそうだとすれば心配です」 (編集部・渡辺豪) ※AERA 2023年4月3日号

    AERA

    21時間前

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    1人死亡の保津川下り「全員ベテラン。難所ではないのに、なぜ」 歴20年の元船頭男性の疑問

     京都の観光名物「保津川下り」で3月28日に起きた転覆事故。船頭1人が死亡、別の船頭1人が行方不明となっていたが、30日には事故現場の下流で人が見つかり、行方不明の船頭とみて身元の確認を進めている。400年の歴史がある川下りに何が起きたのか。20年近く、保津川下りの船頭をしていた男性に話を聞いた。  保津川下りは、京都府亀岡市から京都市の嵐山、渡月橋近くまでの16キロを2時間かけて運航する。  記者も子どものころから何度も乗ったことがある。3~5人の船頭が独特のさおと櫂(かい/水をかくオールのような道具)を巧みに操り、川幅の狭い急流でもうまく舟を運んでくれる。  大きなしぶきがあがり、スリル感を味わえたり、のんびりと川面や対岸の景色を楽しめたりもする。船頭の軽妙な語りも魅力の一つだ。  今回、事故が起きたのは、出発してから15~20分ほどでさしかかる「大高瀬」という場所だ。ゆったりした流れから、急に速くなる所で、名物ポイントの一つでもある。  舟には、子ども3人を含む乗客25人と船頭4人の計29人が乗っていたといい、全員が船外に投げ出された。乗客は、周囲の船に救助されたという。  20年ほど保津川下りの船頭をしていた男性はAERAdot.の取材に、 「乗っていた船頭の4人は、前に2人、真ん中に1人、後に1人。舟の一番後ろで舵を取るのがわかりやすくいえば船長で、船頭のまとめ役です。今回は後方の船頭が、空舵(からかじ)という状態になって川に落ちた。2人の船頭が後方に走り舟を安定させようとしたが、間に合わずに岩にぶつかり転覆してしまった。全員、ベテランで保津川下りを知り尽くしているメンバーです。どうしてこんなことになってしまったのか」  と残念そうに話した。  以下、男性との一問一答。  *  *  * ――事故が起きた場所を動画などで見ると厳しい流れに見えますが? 「大高瀬は波はあるけど難所ではないと思う。たしかに、舟に水が入ってきて歓声が沸き上がるハイライト地点ではあります。前から2人目、舵をとる船頭も『これからです。青いシートを』とはやしたてて盛り上げます。動画でもそういうシーンがあるでしょう」 ――空舵(からかじ)という言葉が報じられています。 「舟は激流で船体が浮くことがあります。そうすると、舵が水に届かず空中で空振りする状態になる。それを空舵といいます。そうなると舵が取れないので舟の方向が定まらない。さらに、舵を取る船頭が転落したとなれば、舵が完全にきかなくなります。流れが速い場所で空舵になると方向が定まらないということになります」 ――救命胴衣は装着しているのですね。 「腰に巻くタイプのものを必ずつけます。お客様、船頭とも同じです。お客様がきちんと装着しているか、船頭が確認してから出発します」 ――船頭がさおでどの岩を突くのか、櫂をどうこぐのか、技を見せるのも保津川下りの魅力です。 「そこそこ年数を積めば、どこにどんな形の岩がある、今日の水位はこれくらいだからその岩が水面からどれくらい出ているとかわかる。流れの速さからどこで岩に竿をつくのか、櫂はどうこぐか自然と身につきます。その日の流れ、水位、天候によって微妙に変わるけど、経験で頭に入ってくるものです」 ――船頭はそれぞれやることが決まっているんでしょうか。 「保津川下りは船頭3人、4人なりの共同作業で安全にお客様に楽しんでいただくもの。その呼吸が合わないとだめ。過去に、呼吸が合わずに起きた事故もあった。今回もどこかで4人の呼吸が合わなかったのかもしれないし、船尾の船長が落下したのも何か影響があったのかもしれない。20mほどの長さがある舟を操り、お客様を安全に送り届ける。チームワークなくしてできません」 ――今後はどうなるのでしょうか。 「これまで事故が起こると、しばらく休んで検証してきました。今回も桜のシーズンで予約も多いかき入れ時だけど、当面は休んで原因究明となるはずです。ここできちんと検証して次につなげていかないと、400年の歴史がついえてしまうことにもなりかねない。こういうときこそ、一致結束してことにあたるべきだ」   *  *  *  保津川下りの運航会社「保津川遊船企業組合」が報道陣にした説明では、28日は、水位が規定の85cm以下の69cmだったため運航を決めたという。  国土交通省が観測して公表している保津峡水位観測所の水位が85センチ以上になれば運航を中止するが、28日の水位は船頭を1人増やすと定めている50センチ以上75センチ未満の範囲だった。  国交省運輸安全委員会は、船舶事故調査官2人を現地に派遣することを決めた。  保津川下り400年の伝統を守ってくためにも、原因究明をしっかりとした上で、今後の事故防止につなげてほしい。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

    dot.

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    Snow Man阿部亮平、キャスターを目指す理由と自身の生きる意味

     Snow Manきって、ジャニーズきっての知性派として数々のクイズ番組でその実力を発揮している阿部亮平さん。一方で、ニュース番組でのスペシャルキャスターや、ドラマで航空管制官役を務めるなど、幅広い活躍を見せている。そんな阿部さんが目指す将来像、そして生きる意味とは? *  *  * ──Snow Manでは、常に全体を俯瞰して、状況に応じて立ち位置を柔軟に変えている印象が。  まあ例えばメンバーから何人か出るお仕事のときは、バランスは見ますね。このメンツだったら、俺ちょっとふざけに行く側だなとか、ちょっとしっかりしたほうがいいなとか……僕はメンバーカラー緑なんですけど、緑って虹の色の順番に並べたら真ん中なんですよ。だから、どっちにもなれるようにしたいなと。軸はインテリで、いろいろ変化できていったらいいなって思っています。 ──目指すべきアイドル像がしっかりあって進んでいる印象も。  はい。そうですね。理想はやっぱり櫻井翔くんなんです。ほんっとに多才で、真面目な顔もあるし、ふざけたりお茶目なアイドルっぽいときもある、っていうのに強く惹かれていて。僕、アイドルってすごい職業だなあと思ってるんです。何でもやるじゃないですか。そんななかでも知性とか品性とかも生かしていろいろマルチにこなすっていうのが、本当に理想のアイドル像です。 ──櫻井さんもされているキャスターを、阿部さんも目標に掲げています。目指すキャスター像は?  生活に溶け込みたいですね。以前はずっと、「いってらっしゃい」を言いたいって考えていたんですけど、「おかえり」もいいなって。その人から始まるのでも、その人で終わるのでも、1週間の中でこの日に必ずこの人がいる、みたいな存在になりたいかな。ニュース番組は幅広い世代の方が見るからこそ、ふさわしいイメージも必要だと思うので、もっとクイズ番組で頑張んなきゃなとも思ってます。 ──キャスターは当初から目標にしていた?  キャスターというよりはもう、櫻井翔くん的な存在ですね。もちろん、キャスターとしては、ね、もっともっと勉強しなきゃいけないこともあるだろうと思いますし。 ──櫻井さんはキャスターとして、主演ドラマ「大病院占拠」のテーマ「正義とは何か」を意識しているとおっしゃっていましたが、その主題歌でSnow Manの新曲「W」にも「人の数だけ正しさ」という歌詞が。阿部さんも考えることが?  僕は社会が苦手なので、知識が浅い段階で発言するのはちょっと怖いなっていうところもありますが、まずは自分の身のまわりのことから、社会のことも少しずつ勉強していきたいなとは思っています。それこそSDGsとか、言葉は難しそうに見えるけど、できることが多いから。身のまわりに落ちているヒントとかを、ね、自分なりに広げていったりして、ゆくゆくはそういう大きなことも考えていきたいですね。SDGsの目標には平和も入っているので。 ──まさにSDGsや選挙番組に出ていい影響を与えていますが、逆に最近影響を受けたことは?  昨年ドラマ(「NICE FLIGHT!」)で玉森(裕太)くんとご一緒させていただいたんですが、玉森くんが基本的に現場に台本を持ち込まない人で。僕はもう初日は本当に不安で……セリフはもちろんちゃんと覚えて入ったつもりなんですけど、精神安定剤代わりに台本を持ってたんです。でも、いやこれはダメだと思って、それからはマネジャーさんに持ってもらって、できるだけ開かないようにしましたね。そういう現場が本当に初めてだったので、先輩を盗み見て、というわけじゃないですけど、得るものがありました。 ──ドラマといえば、次にやってみたい役は? 「NICE FLIGHT!」はだいぶ自分と重なる部分があって、そのぶんやりやすさはあったんですけど、今度はもうちょっと自分の性格から離れた役をやってみたいという気持ちがあります。例えば、オタク気質とか、ちょっと寡黙とか。 ──ちなみに、20代のうちにやりたいことは?  あー、確かに今年30になりますからね。えー、なんだろう……「週刊朝日」で表紙を飾る、じゃないですかね(笑)。 ──3月15日、新曲「タペストリー/W」が発売に。 「タペストリー」は目黒(蓮さん)・渡辺(翔太さん)が最初に歌ってからのスピードアップがポイントですね。あそこでドキッとするんですよ。ちょっとゆったり始まるのかなと思いきや、だいぶテンポがいい。けどすごいしっとりとしてるっていうの、ちょっとグッとくるかなって思います。 ──阿部さんが歌う2番Bメロが話題です。  うれしいです。僕は普段けっこう低いパートを担当することが多くて、サビも下ハモを歌うことが多いんですけど、今回はすごく高い音があって。地声では高い音が出ないので、Bメロの「自分が消えてしまわぬ様に」はファルセットで頑張ってるんですけど、この音この人から出るんだって思っていただけたら。なかなか聞かない僕の声だと思うので、楽しんでもらいつつ、メンバーそれぞれが前に歌っていた人からパスもらって次の人に渡していく、つながっていく歌い方にもぜひ注目してもらいたいです。 ──「タペストリー」で「全てを投げ出してもいいから」という歌詞が。そう思ったことはある? 「それSnow Manにやらせて下さい」っていう冠番組が、この春からゴールデンタイムに進出するんですけど(金曜20時から1時間番組として全国放送決定)、ここからがむしろ勝負だなって思っていて。だからまさにいまが、この言葉の気持ちかもしれない。“それスノ”のゴールデン化と全国化は、どっちも叶(かな)えたい夢だったんですよ。どっちが先に叶うかねーみたいな話をしていた3日後ぐらいにその話が出たので、すごくうれしかったです。せっかくここまで来たからには、長く愛される番組にしたいと思います。 ──「W」の歌詞にちなんで、「生きる意味」は?  CM(ユーキャンで出演中)で、学ぶことは生きること、って言っちゃってるんですけど(笑)、まさに間違いなく死ぬまで勉強だと思ってます。僕はすごく受験の勉強もしたし、クイズ用の学術的・学力的な勉強もしているし、生きるための術、例えば上座の場所を覚えるとか(笑)も、大切になってくることもあるじゃないですか。本当に一生ずっと勉強で、かつ自分の覚えた知識は誰にも奪えない財産だと思っているので、どれだけ蓄えられるか、経験値も含めてどれだけ得られるかっていうのが、人生を豊かにするポイントなのかなって思います。※週刊朝日  2023年3月31日号

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    4月から「マイナ保険証」を使わないと医療費アップに!対策を知って備えよう

    4月以降、オンライン資格確認システムを導入または申請中の医療機関で、従来保険証で受診すると医療費が高くなる。マイナ保険証対応の医療機関が増える中、本格的にマイナ保険証を使わないと損、ということになりそうだ。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第256回では、4月以降のマイナ保険証の利用について注意しておきたいポイントを押さえておこう。(フリーライター 早川幸子) 4月からマイナ保険証を使ったほうが初診時40円、再診時20円お得になる  この4月から、「マイナ保険証」を使わない人の医療費が、さらに引き上げられることになった。   現在、その病気で初めて病院や診療所を受診したときの医療費は、マイナ保険証より、従来の健康保険証のほうが、20円(3割負担で6円)高くなるように設定されている。この差が、4月以降は、特例措置として40円(3割負担で12円)に広がることになったのだ。  ただし、医療費に差が出るのは、オンライン資格確認のシステムを導入しているなど、一定の要件を満たしている医療機関を受診した場合だ。また、今回の加算は、全国の医療機関にマイナ保険証に対応できるシステムが普及するまでの期間限定の措置となっている。  どのようなケースで医療費に差が出るのか。この4月以降のマイナ保険証に関する見直し内容について確認しておこう。  これまで病院や診療所などを利用するときは、自分が加入している健康保険組合を証明するために、「健康保険被保険者証(健康保険証)」を提示することになっていた。  この健康保険証の代わりに、マイナンバーカードの個人認証機能を使って、本人確認や健保組合の特定を行うのが「マイナ保険証」で、2021年10月に本格導入された。そして、普及を促すために、2022年4月の診療報酬改定で、マイナ保険証に対応できるシステムを導入した病院や診療所に対して、通常の医療費に加えて、マイナ保険証関連の加算が付けられることになった。  だが、このときの診療報酬体系は、マイナ保険証を利用した患者のほうが、健康保険証で受診した患者よりも、医療費が高くなるように設定されていた。  マイナ保険証に対応する医療機関を増やすための誘導策とはいえ、患者はマイナ保険証を使うと損してしまう。そのため、国民目線を欠いた制度設計には疑問の声が上がっていた。  そこで、2022年10月、マイナ保険証の利用者のほうが、健康保険証を利用するよりも、医療費が安くなるように見直しが図られたのだ(連載の第247回参照)。  今回の見直しは、この考え方を拡大したものだ。では、今後どのように医療費は変わるのだろうか。次ページから見ていこう。 ●4月からマイナ保険証では初診時加算が20円だが、旧健康保険証では、これまでの初診40円が60円に引き上げられ、再診ではマイナ保険証にない20円の加算が付く●加算はオンライン資格確認システム導入済み、または申請中の医療機関で適用される ●24年秋までに現行保険証は廃止。マイナ保険証に移行したくない人は「資格確認証」の発行手続きを自分で行う必要がある カードリーダー設置または資格確認届け出を行っている病院ではマイナ保険証提示がなければ負担増に  オンライン資格確認システムの導入を加速させるために、2023年4月から12月までの期間限定で、病院や診療所の初・再診時に加算される金額が次のように見直されることになった。  マイナ保険証を利用した場合は、初診時の加算が20円(3割負担で6円)で据え置かれているが、健康保険証で受診した場合は、これまでの40円(3割負担で12円)から60円(3割負担で18円)に引き上げられる。  また、再診時については、マイナ保険証では加算がないが、健康保険証で受診した場合は20円(3割負担で6円)がプラスされることになった。  つまり、初診時は40円(3割負担で12円)、再診時は20円(3割負担で6円)の差がつくことになったのだ。  ただし、この加算が付くのは、マイナンバーカードを読み取れるカードリーダーなどを設置している医療機関を利用した場合だ。オンライン資格システムを導入していない医療機関を受診した場合は、そもそも追加の負担がない。  実のところは、マイナ保険証に対応していない医療機関を利用するのが、一番医療費が安いのが現状だ。  だが、厚生労働省は、23年4月までに、すべての病院や診療所などに対して、マイナ保険証による健康保険の資格確認システムを導入することを義務付けておりその数は徐々に増えてきている。  さらに、今回の加算の特例措置は、すでにシステムを導入している医療機関だけではなく、今年12月までにオンライン資格確認の開始を届け出ている医療機関も対象となっている。  2023年3月5日時点の「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」によると、病院は98.7%、診療所(医科)は91.7%がカードリーダーの申し込みを済ませている。そのため、今年の4月~12月は、マイナ保険証で受診したほうが医療費が安くなる医療機関のほうが多くなりそうだ。  4月以降、医療機関を受診するときは、忘れずにマイナンバーカードも持参するのが得策だ。 2024年秋までに健康保険証は廃止代わる「資格確認証」の発行は自分で行う必要がある  このように、医療機関はマイナ保険証に対応できるシステムを整えつつあるが、肝心のマイナンバーカードの交付率は2023年3月12日時点で75.4%。いまだ2割強がカードを取得していない状況だ(総務省の「マイナンバーカードの交付状況について」)。  カードを取得していなければ、当然のことながら、マイナ保険証の機能も使えないが、国は2024年秋までに従来の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を打ち出している(発行済みの従来の健康保険証も、有効期限が来るまでは利用できる)。  マイナンバーカードを取得するかどうかは個人の自由で、マイナ保険証の登録を希望しない人については、従来の健康保険証に代わるものとして「資格確認書」を発行することになっている。資格確認書の有効期限は1年間で、更新もできるので、今後もマイナ保険証を登録していなくても健康保険の適用は受けられる。  だが、資格確認書は、原則的に必要な人が自分で申請するもので、健康保険証のように自動的に発行されるものではない。  マイナンバーカードの申請をしていない人の中には、一人暮らしの高齢者などで、自分では手続きがままならない人が含まれている可能性がある。そうした人が、マイナ保険証を登録しておらず、資格確認書の申請もできなければ、病院や診療所を利用するときに健康保険の資格確認ができず、不便を強いられてしまう。  国がマイナ保険証を導入した目的は、医療分野にもデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れることで業務を効率化し、患者に質の高い医療を提供することだったはずだ。だからこそ、この4月からマイナ保険証関連の医療費をさらに引き上げる特例措置を行い、マイナンバーカードの普及を急いだわけだ。  患者の利益のために導入したはずのマイナ保険証によって、保険適用が受けられないという不利益を被る国民を作り出すのは本末転倒で、制度を導入した意味がなくなってしまう。  システムの変更によって、弱い立場にいる人が置き去りになるようなことは、絶対にあってはならない。健康保険の資格確認をマイナ保険証に一本化すると決めたなら、個人からの申請を待つだけではなく、国が責任を持って丁寧にフォローしていく必要があるのではないだろうか。

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    室井佑月「反論記事を読んでみた」

     作家・室井佑月さんは、上野千鶴子さんの「文春砲」反論記事を読んだ感想を明かす。 *  *  *  先週号のこのコラムに、週刊文春のスクープ、「“おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた」というものを取り上げた。その後、上野さんが反論記事を書くといったので、楽しみにしていた。  それは婦人公論4月号。「緊急寄稿 『文春砲』なるものへの反論 15時間の花嫁」。  読んだ感想としては、がっかりの一言だ。フェミニスト村のボスの緊急寄稿というわりに、中途半端なページというのもさもありなん。非常につまらないものだった。  なんでも上野さんはパートナーの介護と看取りのため、「婚姻届を提出した(入籍)といわれたくない」らしい。パートナーの彼曰(いわ)く、上野さんは「親友」なのだそうだ。  本人がそうだというなら、そうなのだろう。しかし、私が期待したものとはまったく違った。  私が期待したものは、 「誰にどういわれようがかまわなかった。私は彼のすべてが欲しかった」  というようなものだったかもしれない。  上野さんほど成功し、お金もあり、誰かのツテも使えそうな人は、少々の面倒を嫌がらなければ、ずっと自分が否定してきた婚姻をしなくてもどうにかなったはずである。  上野さんのパートナーにはその昔、奥様がいた。本当に婚姻したのは、婦人公論に書かれてあった、優等生的なつまらない理由だけだったのか。  愛した男のすべてが欲しいという願望は、上野さんにはなかったのだろうか。  恋人であり、親友であり、現世では母になるのは無理であっても、妻というものが残っていた。私ならなりたいと思っただろう。  そして、上野さんのコラムの最初と最後には、他人のプライバシーを嗅(か)ぎまわるのは卑しい、というようなことが書かれてあったのが印象的だった。最初と最後にわざわざ書くほど、強くいいたかったことに違いない。  こうして上野さんのことを書いている私も、彼女からいわせれば卑しいのか。  私たちはどうも分かり合えないようだ。私が考える卑しさとは、違う。  たとえば、ジャニーズ事務所のジャニーさん問題、海外メディアが報じても、日本では、上野さんがいうところの卑しい『週刊文春』しか扱わない。上野さんや上野さんの子分たちと一緒に、「性的搾取が!」「ジェンダーが!」と始終騒いでいるメディアはだんまりだ。この週刊誌の大元の会社、朝日新聞社はとくにこの話題が好きである。上野さんがカウンターで手記を出した婦人公論も、この手の話が好物だ。なぜ、この件では動かないの? 偉そうに正義風味だけど、正義で動いてないからじゃない? 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中※週刊朝日  2023年4月7日号

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    「オータニ」が必要だった3月 女性支援団体Colaboを「とても楽しそう」に攻撃する男たちに言葉失う

    作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「オータニ」の凄さについて。 *   *  *  今月、私が一番発した言葉は「オータニ」かもしれない。  圧倒的なあのきらめきはいったい何だろう。BTSを初めて見たときに、「想定を超える未来って存在するんだな」と、その未来感、その希望的存在に衝撃を受けたものだけれど、BTS(7人です)=1オータニ……くらいの単位で、今のオータニは眩しい。オータニの横に並ぶと、あのダルビッシュにすら影が見えてしまう。光って凄いな……と思います。  なにより凄いのは、「日本はおかしい。なぜ連日、トップニュースがWBCなのか?」とメディアへの義憤にかられる女友だちですら、「オータニは好きだけどね」とひとこと言わずにはいられないことだ。ふだん「信用できるオトコなんていない」と、男性への不信を語るフェミ友ですら、恐る恐る「オータニってどう思う?」と聞いてみれば、「いいよね!!!」と顔が明るくなる。もちろんそれは「野球の腕が凄い」ということではなく、「何だか分からないけど、あの人凄い」という称賛である。いったい、これはどういう現象なのだろう。  大谷翔平の凄さとは何なのか……なんてことを考えていたとき、Twitterでトレンドに入っていた言葉に膝を打つような思いになった。 「大谷翔平のただしさと息苦しさ」だ。  思わず声をあげて笑ってしまう。その瞬間にスルスルと理解する。野球に関心などなく、プロ野球は特に苦手で、マッチョな男集団を怖いと感じる女ですら(私です)、オータニへの好意を語らずにはいられない理由について。  そもそも、これはTwitterで、オータニは「高校生みたいでキモい」「ネオテニー(幼形のまま成熟した状態)っぽい」とか、「欠点がない=人間的魅力がない」「無機質だ、男性のメス化だ、中性化だ」など、オータニの光を前にした男たちが「僕はオータニを認めない」というようなことを口にしたためにボコボコにされる様を見た男性ライターの有料noteのタイトルである。  つまり、オータニは一部の男たちにとり「正しく」、それ故に「息苦しい」存在ということのようだ。ライターの意向は他にあるのかもしれないが、Twitterでは思い思いの解釈でバズったのだろう。なかなかの島国的発言、ホモソ(男性中心社会ですね)の日本男子的な正直な感覚に私には見える。そしてそれ故に……オータニの正しさと、その正しさで焼かれている男たちの存在が見えるからこそ、女はオータニに希望と未来を見いだしオータニを語りたがるのかもしれない。  ある種の男性たちは、オータニが「男というだけでは連帯しないタイプの男」であることを繊細に敏感に見抜いているのだ。どこかで目にした記事だが、オータニは男どうしの下ネタに交わろうとせず、女性を性的に嘲笑する仲間をたしなめたことがあるという。そのエピソードが事実かどうかは分からないが、「そういうこと、オータニさんならあるだろうな」と思わせる説得力がオータニにはなぜかある。根拠はないが、なぜか、ある。それが先の男性たちの「オータニが性的な成人男性に思えない」発言につながるのだろう。この場合の「男」とは、間違ったことも、キモいことも、不正義も、男どうしならば……と互いに目をつむり許しあえる、ぬるい男湯で生きられる日本の男ジェンダーのことである。オータニはそのぬるま湯には入ってこない、そもそもそのぬるま湯が嫌なのでは……というのが伝わるからこそ、ある種の男たちはオータニに傷つくのかもしれない。  と、野球に全く関心ないくせに、エラソーにオータニさんを語ってしまってすみません。でも私には今月、オータニが必要だったのだ。  今年に入ってから女性支援団体Colaboへの誹謗中傷が激しさを増している。私も何度か歌舞伎町に通い、この目でColaboを攻撃する男性たちの姿を見てきた。「女性を尊敬してます~」とヘラヘラし自慰行為のフリをする男性、「帰れ!」と抗議する女性たちに「バレンタインだから」とチョコレートを無理やり渡そうとする男性、「公金チューチュー」と楽しそうに罵倒する男性、「ババアか? 気持ち悪いんだよ、ババア」とババアババアを連呼する男性……。デマからはじまったColabo叩きは、東京都が助成金の過払いはなく、返還請求は行わないことを明らかにした今も熾烈化している。都は「安全が確保できない」として、Colaboが新宿区役所前で続けてきたバスカフェの中止を要請した。中止はきっと妨害者たちの成功体験になってしまったことだろう。  私が本当に驚くのは、彼らが「とても楽しそう」なことだ。女性を罵倒し、性的なことを言ってはゲヒヒと笑い、女性が真剣に怒れば怒るほど楽しげに振る舞うことだ。オンライン上に溢れる匿名の下卑た連帯が、そのままリアルに目の前で動く衝撃は、やはり強い。女性たちが少女を支援する現場にわざわざやって来て、女虐めの「悦楽」に浸る男たちを目の前に、凄い世界になったと言葉を失う。苦しいのは、彼らが「特殊な一部の先鋭的な集団」に思えないことでもある。実際に行動に移すのは一部の人たちであるとしても、彼らが街に繰り出すまでの煽りの空気は、十分にもうこの社会にある。陰湿に女性を排除してきた社会がじわじわと育ててきた結果だ。  そんな世界から自分の心を取り戻すために、今月はオータニが必要だったのかもしれない。ミソジニーでホモソーシャルな空気をまとっていない(ように見える)オータニさんの“正しさ”に、ようやく深い呼吸ができた。男どうしの「な?」が通じそうもない男に、ある種の男たちが感じる不安の正体を知ることもできた。そして、そんな男どうしの「な?」の通じない世界の風通しの良さを私は心から願っていて、その象徴にオータニさんがいたのかもしれない。女虐めを悦楽にする男たちの下卑た笑いをオータニの最強の光で燃やしてくれればいいのにな。まじで、オータニさんがいなければ3月を乗り切れなかったかも。ありがとう、オータニ。そして東京都は、Colaboのバスカフェ、再開を認めてください。

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    別のところで自分のエンジンを動かして、他の悩みが解決に進んでいくから しいたけ.さんがアドバイス

     AERAの連載「午後3時のしいたけ.相談室」では、話題の占い師であり作家のしいたけ.さんが読者からの相談に回答。しいたけ.さんの独特な語り口でアドバイスをお届けします。 *  *  * Q:地方でフリーランスをしていますがコロナで仕事が減。転職もうまくいかず、バイトでしのごうと思っても、年齢&フリーの仕事の時間の都合があり、不採用に。視点を変え資格を取ってみる?とも思いますが財力もなく。言い訳ばかりなのはわかっていますが、どうしても頑張るぞ!という気力がわきません。途方に暮れています。(女性/フリーライター・編集/48歳/おとめ座) A:今回この相談を読んで、なんとなく今の僕らが立っている時代背景が浮かび上がってくる感じがしました。そして思ったのが、今って日本にいる全員が「留学」を必要としているのかも、ということ。  つまり、これまで自分がいた場所の外に学びに行くこと。  今までのやり方で行き詰まり、右肩上がりではなくなった今、日本にいる僕らはどこか自信を見失ってしまった状態にいます。戦後、日本が世界のモデルになっていた時代には、外から日本に学びにくる人たちも多くいましたが、今はまた外に学びに行くサイクルが来ているんじゃないかと思うんです。  新しい世界に自分から学びに行くことを、苦行とするのか、楽しめちゃうのか。  例えば「1回飲食店で働いてみたかったんだよな」と思えて動ける人のほうがハッピーになれるというか。今そういう岐路にみんなが立っている気がします。仕事にプライドと責任感を持ってキャリアを形成してきた人たちこそ、この岐路でジャンプをすることにきつさを感じてしまうこともあると思います。でも、留学のいちばん最初って、心細さと不安はつきもの。乗り越えた先に、きれいな街並みや人との出会いがあるはずです。  とはいえ新しいチャレンジは膨大なエネルギーを使います。今まで競争もして、戦って、責任を果たして、疲れきっている……そういう人はまず森に行ってみてください。人間社会から離れて、自然の中に行って感じる不便さは、人間の力強さや生命力を奮い起こしてくれるものだと僕は信じています。ボタン一つでいろんなことができてしまう世の中だから、頭の中のハードルが上がりすぎてしまっているように思うんですよね。キャンプに行って、火起こしや薪割りをするだけで、自信って回復します。  おとめ座はバランサー的ポジションで、権力者の右腕とか手助けをするポジションに自然に収まる人たちが多いです。でも今は上の人たちも自信が揺らいでいるから、「私は誰の言うことを聞けばいいんだろう」と戸惑いを感じているおとめ座も多いと思います。  こういう時こそ、仕事以外でやってみたかったことをやってみてください。そうすると仕事に関しても新しいご縁が必ず見つかってくるから。  別のところで自分のエンジンを動かしておくと、他の悩みが解決に進んでいくことって意外とあります。悩み事を真正面に置かない、壁の真正面に立っちゃいけないっていうのが、なんとなく僕がいつも気をつけていることです。 ◎しいたけ./占い師、作家。早稲田大学大学院政治学研究科修了。哲学を研究しながら、占いを学問として勉強。「VOGUE GIRL」での連載「WEEKLY! しいたけ占い」でも人気※AERA 2023年4月3日号

    AERA

    21時間前

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    米紙「今年行くべき五十二カ所」で二番目に盛岡市 理由を下重暁子が分析

     人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子氏の連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「岩手県盛岡市」について。 *  *  *  二月二十七日の朝日新聞夕刊によれば、NYタイムズ「今年行くべき五十二カ所」で、日本の盛岡市がイギリスのロンドンに次いで二番目に紹介されているという。ロンドンは首都で、今年はチャールズ国王の戴冠式などで注目度が高いことはわかる。  では、盛岡はなぜ? 人口三十万人弱、みちのくの地方都市なのに。日本ではこれまで東京・京都・大阪などが選ばれたのは当然として、なぜ今年選ばれたのか。  名物のわんこそばに挑戦する楽しさが一つ。「盛岡は人が良く、自然もきれい。ごはんもおいしい」とオーストラリアから来た若い観光客は言う。  NYタイムズは、盛岡が選ばれた理由をいくつも挙げている。混雑を避けて歩いて楽しめる場所。山に囲まれていくつもの川が流れる豊かな自然がある。盛岡城跡や赤レンガの岩手銀行旧本店本館など和洋折衷の伝統的建物が並ぶ。東京から新幹線で約二時間と近い……など。  盛岡駅そばのジャズ喫茶「開運橋のジョニー」など秋吉敏子さんも演奏する「和ジャズの聖地」。岩手大学近くの「ナガサワコーヒー」。生豆の仕入れと焙煎で評判だ。  盛岡の魅力を私がつけ加えるとしたら、手織りのホームスパンの生地を織る工房。日本古来のものを受け継ぐ伝統工芸品はあるが、ホームスパンという羊の毛で織った西洋の生地はなんとも手ざわりが良く素朴で暖かい。注文してから時間のかかる生地を、白黒の縦縞模様と濃紫の無地、二着分を織ってもらい、つれあいのジャケットと私のツーピースに仕立てた。四十年前なのに、今も大切に着ている。  わんこそばでいえば、量で勝負出来ぬ私は、そばに酒をかけて楽しむ酒そばを食べる。講演会の会場の隣にあった不来方城(盛岡城)跡の丘に寝そべった春の日ののどけさ。街はなぜか西洋の香りがしておしゃれである。ここで東京から移り住み、木馬を作っている友人にも出会った。  JTBが出していた「旅」という雑誌があった。戸塚文子という女性の名物編集長がいて、ある時グラビアと読み物で、母娘旅をして欲しいと言われた。照れ屋の私は母と二人旅などしたくなかったが、母にいちおう聞いてみた。「どこへ行きたい?」  すると即座に「岩手県」という返事。理由は、宮沢賢治と石川啄木、それに高村光太郎であった。若い頃文学少女だった母は短歌を作り、賢治の詩が大好きだった。 「参ったなあ」と思いながら賢治の故郷へ。なぜ賢治の作品が西洋風の不思議な世界なのか、その謎が少し解けた。  欧米の人々が岩手県に惹かれる理由もわかる気がする。光太郎が智恵子なき晩年を過ごした雪深い小屋にも光太郎の詩のノートや、彫刻家として作ったトルソーなどがあった。ここにはどこにもない不思議な世界が広がっている。  そういえばコロナの初期の頃、陽性者が毎日増え続ける中で、岩手県だけが0を続けていた。 下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中※週刊朝日  2023年3月17日号

    週刊朝日

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    大谷翔平が韓国でも大人気 子供たちも「投打の二刀流」がブームに

     侍ジャパンが14年ぶりの頂点に立った今回のWBCは野球ファンだけでなく、普段メジャーやプロ野球を見ない視聴者も夢中になった。その主役は大谷翔平だ。投打で大活躍し、「3番・指名打者」でスタメン出場した決勝・米国戦では1点リードの9回に守護神でマウンドへ。エンゼルスの同僚でメジャー球界を代表する強打者のマイク・トラウトを空振り三振に仕留め、喜びを爆発させた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「ドラマや漫画でもこんな劇的な展開は描けない。完全に大谷劇場でしたね。決勝ラウンドは米国のマイアミで開催されたので完全アウェーの空気でしたが、大谷がマウンドに上がった時の盛り上がりは凄かった。試合後には侍ジャパンのメンバーたちに、大観衆がスタンディングオベーションで拍手を送っていました。感動的な光景でしたね」と振り返る。  大谷の活躍はお隣の韓国でも大きな反響を呼んだ。08年の北京五輪で金メダル、09年のWBCで準優勝と国際大会で強さを見せ、「日本の好敵手」として知られていた韓国だが、近年は精彩を欠いている。13、17年のWBCでいずれも1次ラウンド敗退。21年の東京五輪も準決勝で日本に敗れると、3位決定戦でドミニカ共和国に敗れてメダルを逃した。  今大会は韓国系米国人のトミー・エドマン(カージナルス)、キム・ハソン(パドレス)とメジャーでプレーする二遊間コンビを招集するなど、復活に向けて闘志を感じたが、課題の投手陣が機能しなかった。1次ラウンドの初戦・豪州戦で7-8と敗れると、2戦目の日本戦は3回に先発のダルビッシュ有(パドレス)から3点を先制したが、直後に4点を奪われて逆転を許した。その後は救援陣が打ち込まれて一方的な展開に。4-13と大敗を喫して2連敗。3大会連続で1次ラウンド敗退となった。  韓国国内で、「弱すぎる」、「情けない」などSNS上で批判の声が多く上がる一方で、国境を越えて心をつかんだのが、大谷だった。メジャーの舞台で、投打の二刀流で異次元のパフォーマンスを続けていたため以前から注目度は高かったが、今回のWBCで活躍ぶりを韓国メディアが連日大きく取り上げた。規格外のプレーだけでなく、甘いマスク、誠実で謙虚な姿勢も好感度が高まった理由だろう。決勝・米国戦で頂点に立った試合後のインタビューで、「日本だけじゃなく、韓国も台湾も中国も、またその他の国も、もっともっと野球を大好きになってもらえるように、その一歩として優勝できたことが良かったなと思うし、そうなってくれることを願っています」と答えたことも大きな反響を呼んだ。  韓国に駐在する一般紙記者は「大谷の人気は韓国でも凄い。ナショナルチームが国際試合で結果を残していないことも影響して、野球人口の減少が危惧されていますが、大谷を目指して投手と野手の二刀流でプレーを熱望する子供たちは増えている。同じアジア人として、あれだけ凄い活躍を見せている姿は大きな励みになっていると思います」  大谷は勝利への執着心を前面に出す一方で、野球を楽しむ姿勢を常に忘れない。韓国戦でも二塁の塁上でキム・ハソンと談笑する光景が見られた。野球で見せる高水準のパフォーマンスだけでなく、立ち振る舞いや野球に向き合う姿勢が世界の野球ファンに愛される秘訣だ。  「打倒・日本」を掲げた韓国代表は、大谷を筆頭に個々の選手の能力、チームの組織力で侍ジャパンと大きな差を感じただろう。苦い敗戦を糧に、もう一度はい上がれるか。大谷を目指した子供たちが韓国代表として、侍ジャパンに立ちはだかる日が来るかもしれない。(今川秀悟)

    週刊朝日

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    俳優・吉岡秀隆のリアル過ぎる演技に警察幹部が「困った映画だ」 警察裏金問題を告発した元巡査部長とは

    「組織のためなら何してもいいんか?」制服を着た巡査部長役の吉岡秀隆さんが、同じ警察官にそう問いかける。3月10日に封切られた映画「Winny」の一場面。吉岡さんの役は、愛媛県警の巡査部長時代の2005年に、県警の裏金問題を実名で告発した仙波敏郎さん(75)だ。巨大な組織を敵に回してでも仙波さんが貫こうとしたこととは何だったのか。 「18年前に警察の裏金問題を告発したことを、大手の配給会社の映画の中で取り上げてもらい、本当に感無量です」(仙波さん)  映画の主役は、東出昌大さんが演じる天才プログラマーの金子勇さん(2013年に42歳で死去)だ。2002年、当時、東京大学大学院助手だった金子さんは、インターネットで映画や音楽などの情報を直接やりとりできるファイル交換ソフト「Winny」を開発し、その試用版をネットの掲示板「2ちゃんねる」に公開した。  すると、大量の映画や音楽などが違法にアップロードされ、事件化されることも多かった。2004年、金子さんは著作権法違反の幇助(ほうじょ)の容疑で京都府警に逮捕されてしまう。その後、金子さんは弁護団と裁判を戦い、2011年に無罪を勝ち取る。映画はその7年間の壮絶なストーリーを描いている。  そのなかで、仙波さんの警察裏金問題の告発の話が出てくる。接点はWinnyだった。Winnyは情報漏洩系ウイルスに感染しやすく、個人や企業、官公庁の情報などが次々とインターネット上に流出した。警察でも捜査情報が漏洩するトラブルが相次いだ。  仙波さんがこう説明する。 「裏金づくりの手口は、白紙の領収書に、捜査協力をしてもらったとして一般市民の架空の名前や金額、日付などを書かせます。私はニセ領収書を書きませんでしたから、当然のことながら実物を持っていなかった。そこで『仙波の(告発の)話は本当なのか?』となった。しかしその後、愛媛県警の刑事がWinnyに接続した結果、パソコンのデータが流出したんです。その中にニセ領収書が含まれていたので愛媛県警が言い訳できなくなった」  映画化の話が仙波さんに持ち込まれたのは、2021年3月のことだった。  それまでも何度か、仙波さんの裏金告発について映画化するという話は持ち上がっていた。しかし、なかなか実現にはいたらなかった。 「今回、映画会社からオファーがきて、いろいろ聞きました。Winnyの話が大半ですが、裏金告発を一部でも取り込んでくれるというのはありがたいことです。当初、台本では裏金告発の警官はシラトリリョウという架空の人物だったんです。私からすれば『なんで実名出さんのか?』となりますので、そう監督に申し入れると『本当に実名でいいのですか』とびっくりされていました。その時はすでに撮影に入っていたけど、台本を書き換えたそうです」  実名であることも含め、仙波さんの裏金告発の内容はリアルに表現されている。 「ええか、ニセ領収書を書いたら私文書偽造で3カ月以上5年以下の罪になる。それを元に公文書を偽造すると1年以上10年以下の罪や。詐欺や業務上横領は10年以下。それだけの罪を犯したもんが千円のもんを万引きした人に調書をとれんのか」  仙波さん役の吉岡さんが、若い警官を悟す場面だ。  仙波さんは2008年1月20日に実名で記者会見することを決める。するとその数日前から、人や車に尾行されていることに気づく。それが愛媛県警の関係者や車両と見られ、仙波さんが苦悩、葛藤する様子も描かれている。  仙波さんが意を決して臨んだ記者会見で、 「仙波敏郎巡査部長55歳、38年間の警察生活の中で見たこと聞いたこと、そして自分の体験に基づく真実を話します。捜査費の支払いはすべて架空、捜査協力者に支払われた事実はありません。一つだけ言わせてください。人一倍強い正義感を持って警察官になった若者たちが今日もどこかで裏金づくりに加担させられている」  というセリフがある。このシーンについて仙波さんは、 「本気で映画を作っているんだなと思いましたよ。記者会見した時と一言一句同じ。吉岡さんは、私の著書なども徹底的に読み込んで演じてくださったそうで感動しました」  と振り返る。  映画の撮影現場にも1度だけ訪れた。 「そのとき、私も一瞬ですがエキストラとして出演しました。裁判で傍聴しているシーンがあるのですが、スーツにネクタイ姿で映っています。とてもいい経験でした」  吉岡さんはその日、別の撮影があって不在だったが、東出さんらとは話す機会があったという。  仙波さんは一人でも多くの人にこの映画のことを知ってほしいと、愛媛県警の記者クラブを訪れたという。 「映画のチラシを記者に渡しにいったのです。配り終えて記者と雑談していると、県警の広報担当者が息せき切ってやってきて、『仙波さんちょっと』『ここはダメなので』と言いました。裏金告発からは18年も経っているのに、という感じでしたね」  映画の撮影が終わってから公開されるまで1年ほどあったといい、仙波さんは「警察の圧力」も危惧していたという。  ある警察幹部は取材に、 「困った映画だな。また警察の裏金問題が蒸し返されるきっかけになりかねないよ。吉岡さんがうまく演じているからな」  と話した。  仙波さんは、 「無事、上映にこぎつけられよかった。吉岡さんや制作にかかわった皆さんに感謝したい。ぜひ映画館で見てほしい」  と話している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    6回連続で勝率8割台、史上最年六冠の藤井聡太 本人は記録にほとんど興味なし

     3月19日におこなわれた棋王戦五番勝負第4局で、10連覇中の渡辺明(38)を破り史上最年少で六冠を達成した藤井聡太(20)。史上初の八冠制覇に期待がかかる。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  今年度の藤井はハードスケジュールの中、叡王、棋聖、王位、竜王、王将を順に防衛。さらには棋王を獲得し、保持するタイトルは全部で六つとなった。 「7月以降はかなり、対局が多いときが続いたんですけど。その中で、勝負強く指すことができたのは収穫だったかなと思っています」 「まだまだ実力的には足りないところが多いと思うので。立場にふさわしい将棋が指せるように、よりいっそう頑張らなくてはいけないのかなと思います」(藤井)  対局地の栃木県はイチゴの名産地としても知られる。終局後、藤井が贈られた6粒のイチゴには「祝六冠 1+5=6」と記されていた。六冠は羽生善治九段(52)に続いて史上2人目の偉業だ。羽生の六冠達成は1994年、24歳のとき。藤井は弱冠20歳にして「史上最年少六冠」という記録を作った。  藤井のこれまでのタイトル獲得数は森内俊之九段(十八世名人資格者、52)に並んで12だった。 「そういった実績のある棋士の方の対局を見ると、まだまだ学ぶところが多いのかなというふうにも感じています」(藤井)  棋王獲得で通算13期。佐藤康光九段(永世棋聖資格者、53)に並んで歴代7位タイとなった。  事前に収録され、棋王戦第4局と同日に放映されたNHK杯決勝では、藤井は佐々木勇気七段(A級昇級により八段に昇段、28)を破り、初優勝を達成。史上初めて、銀河戦、日本シリーズ、朝日杯、NHK杯と、早指しのトーナメント4棋戦をすべて制することになった。  要するに藤井は今年度、途中で敗退した棋戦は、挑戦権を争うトーナメントの1回戦で大橋貴洸六段(現七段、30)に敗れた王座戦のみ。ほとんど完璧に近いシーズンだったと表現するのが適切だろう。 ■6回連続で勝率8割台  藤井は2022年度の対局を終え、成績は53勝11敗(勝率8割2分8厘)。将棋界では、年度勝率8割台は、数年に1回見られるかどうかというハイアベレージだ。過去に複数回達成した棋士は羽生(3回)と中原誠十六世名人(2回、75)というレジェンドクラスしかいない。藤井はそれをデビュー以来6回連続でやってのけた。形容すべき言葉が見つからない。  改めて言うまでもないことだが、六冠の時点ですでに偉業だ。しかし藤井の場合、それが通過点のように思われてしまうのが恐ろしい。4月から始まる名人戦七番勝負では、藤井が渡辺に挑戦する。藤井には史上最年少名人、そして羽生以来の七冠がかかっている。 「名人戦ですと持ち時間が(2日制の)9時間ということで、公式戦の中でも一番長い対局になるので、その点も踏まえてしっかりいい将棋が指せるように頑張りたいと思っています」(藤井)  渡辺は04年に初タイトルの竜王位を獲得して以来、これまで無冠になったことがない。しかし藤井に棋聖、王将、棋王を奪われ、残す牙城は名人のみとなった。渡辺にとって、相当厳しい情勢なのは間違いない。 「あれこれ考える時間もなく次が始まりますが、まあその時の最善を尽くすしかないので、また頑張っていきたいと思います」(渡辺のツイッター投稿から)  藤井は保持したタイトルを失うことなく、名人を獲得し、さらには王座も獲得すれば、今秋にも史上初の八冠となる。八冠なんて、夢のようなストーリーであったはずだ。しかし現時点ではもう、現実的に想定しうる段階に入っている。  藤井自身は、そうした記録にほとんど興味がない。一方で観戦者の多くは、そうはいかない。「八冠なるか?」とドキドキしながら、藤井の対局を見守り続けることになりそうだ。(ライター・松本博文) ※AERA 2023年4月3日号より抜粋

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    「たまむすび」沼にハマった人たちは放送終了ロスどう乗り越える?

     春は出会いと別れの季節。それにしても今年は強烈なお別れが多すぎる。サービスの終了や老舗の商業施設の閉店によるお別れのほか、とくに目立っているのが、長年人気のあったレジェンド級の番組とのお別れだ。「タモリ倶楽部」(テレビ朝日系)の終了は世間を驚かせたが、ほかにも多くの番組が消えていく。 *  *  *  テレビ番組では3月25日、27年の歴史を誇る巨星が消えていった。以前は全国のテレビ東京系列局で放送、13年からはBSジャパン(現BSテレ東)で放送されていた「サブちゃんと歌仲間」だ。  北島三郎(86)をホストに演歌を中心にしたスターたちがゲスト出演。歌とサブちゃんとのほのぼのトーク、お便り紹介などで構成されていた貴重な演歌番組だった。放送回数は1377回、延べ6千組以上のゲストが出演した、演歌界にはなくてはならない番組としても知られていた。  BSテレ東での放送は、毎週土曜の朝5時半から30分間。SNSを見ると、ゲストで出演する推しの若手歌手の姿をいち早く見たいと早起きしたり、夜のお仕事から帰って番組を楽しんでからゆっくり眠るというファンも少なくなかった。  だが、芸歴60周年を機に幕を下ろしたいという北島の意向で、終了することになったといわれる。またこの番組終了とともに、北島音楽事務所からもうひとつのお別れの発表もあった。  1972年設立された「北島音楽事務所」から、原田悠里、北山たけし、山口ひろみ、大江裕の4人が独立。石原裕次郎軍団の石原ファミリー、脚本家橋田壽賀子の橋田ファミリーに続いて、演歌界の大手、北島ファミリーも「実質的解体」との声があがっている。  TBSラジオの昼の人気番組「赤江珠緒たまむすび/金曜たまむすび」(以下、「たまむすび」)も3月末で終了が決まった。フリーアナウンサーの赤江珠緒が月曜から木曜のパーソナリティーを務める午後の帯番組だ(「金曜たまむすび」はTBSアナウンサーの外山惠理がパーソナリティー、パートナーは玉袋筋太郎)。  昨年9月におこなわれた放送10周年記念イベント「たまむすび in 武道館~10年の実り大収穫祭!~」では、武道館に8千人以上のリスナーを集めた人気絶頂期の終了となる。  終了理由として赤江は、放送中心の生活のなか、子どもとの時間を取りたいと番組内で語ったこともあった。  3月20日には、裏番組の文化放送「大竹まことゴールデンラジオ!」とのコラボ企画も実現。文化放送にいるはずの大竹まことがTBSの「たまむすび」のスタジオに乱入。 「赤江珠緒の前に赤江なく、赤江珠緒の後に赤江なし」といった赤江への手紙を読み上げた。毎日放送を聞いているディープなファンのなかには、終了後を思い、早くもロスを感じている人も多い。  テキスタイルデザイナーの高橋真紀さん(58)は、5年ほど前から「たまむすび」漬けの毎日を送るようになった。 「最初、町山智浩さんを聞くようになり、さらに語りがおもしろい土屋礼央さん(RAG FAIR)がレギュラーになってからは、家にいるときはリアルタイムで聞いて、聞き逃したらradikoのタイムフリーで。さらにリアルタイムで聞いたおもしろかったところは、タイムフリーでリピートして聞くほどのヘビーリスナーになりました」  仕事は自宅で、パソコンに向かって行うことがほとんど。そんな“ながら聴取”に、アナウンサーの訓練を受けた赤江の明るい声が心地よかった。 「それでいて、普通のアナウンサーのように聞き役に徹するわけじゃない。だからといって笑わせてやろうという気負いもないんですよね。まじめにしゃべっているのに、どこか気が抜けた赤江さんの語りで、聞いている空間そのものが軽くなる感じも好きでした」  高橋さんにとって、「たまむすび」は「仲のいい中学2年3組のクラス」みたいなもの。 「今感じているロスは、大好きだったそのクラスが組替えでなくなってしまうさみしさに似ています。今回は後番組の『こねくと』に土屋さんが出るので、新しいクラスにも愉快な土屋クンがいる、感じ。新番組がロスを癒やしてくれることを期待しています」(同)  もうひとり50代のソフトウェアエンジニアの石原安浩さんの「たまむすび」との出会いはコロナが流行してから。リモートワーク中のランチ時、偶然radikoで出合ったのが始まりだった。 「赤江さんが自宅から電話で出演していて、ディレクターからのファクスを待っているのに届かないと言っていた。と、スタジオから『赤江さんが電話使っているから、今ファクス送れないよ』との声が。爆笑したのを覚えています」  赤江とパートナー陣との会話が心地よく、毎晩寝る前にベッドで聞く。 「魅力ですか? とくに有益な情報があるわけでもなく(笑)。寝落ちするような番組なのに、気がつけば毎日聞かずにはいられなくなり、去年の武道館イベントにも、わざわざ名古屋から夫婦で参加しているんですよね」  番組を例えるとすると、通勤電車の中から毎朝見ている小学校。名前も知らない学校ながら、校庭で遊んでいたり、運動会の練習をしていたり。そんな子どもたちの様子を見るのが楽しみになった。 「今の時代、身の回りには、『ほら、役に立つでしょ?』という情報であふれている。でも、『たまむすび』という番組は、ただ存在しているだけで毎日心に小さなカイロを入れているような感じ。推しを推すのともちょっと違うんですよね」  よく言われるように、聞き終わったら内容をキレイさっぱり忘れるような番組ではあるものの、その存在に大きな意味があったことを、あらためて感じているという。  最初は何かの冗談かと思ったのに、本当だったことを知って驚いたという終了の告知。 「終了ロスを乗り越えるのはなかなか難しい。数年ぐらいは、録音した過去番組や武道館のDVDを見返していると思う」  そうして、いさぎよく消えていく番組たち。週刊朝日も、すぐ行きます。(福光恵)※週刊朝日  2023年4月7日号より抜粋

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    約束を破った息子からipadを没収した鈴木おさむが、息子に返却条件として課したこととは

     放送作家・鈴木おさむさんが、今を生きる同世代の方々におくる連載『1970年代生まれの団ジュニたちへ』。今回は、物をエサに勉強させることについて。 * * *  東大卒のプロゲーマー・ときどさんと会った時に、子供のころ、勉強した時間だけゲームが出来たと言ってました。1時間勉強すれば1時間ゲーム。5時間勉強すれば5時間ゲーム。  勉強したら〇〇してあげると子供に言うのは賛否両論あるところだとは思いますが。僕は小学6年生の時は成績は普通でした。生徒会長ではありましたが、すごくよいわけでもない。  中学に上がり最初の中間テスト。僕はとてもパソコンが欲しかった。すると母が「中間テストで10位以内に入ったら買ってあげる」と言ったのです。一学年の生徒は200人ほど。  物をぶら下げられて、めちゃくちゃ勉強しました。結果、6位になり、母親にパソコンを買ってもらえました。自分でもびっくりしました。勉強するとそれが結果に繋がるんだなと13歳にして初めて気づけました。  さあ、ここで息子の話です。息子は7歳。春から小学2年生になります。正直、勉強がかなり嫌いです。ゲームばかりしてます。僕らは息子の好きなことをなるべくやらせてあげたいと思ってはいますが、こんなに勉強嫌いになるなんてと。  そんな息子が先日、ちょっとした事件を起こしました。大好きなipadを持ち、友達の家に行きました。夜帰ってくると、妻がかなり怒ってます。友達の家に行き、笑福はipadで課金してしまったのです。以前、勝手に課金したことがあり、その時にかなり強く注意したのですが・・・。  今回は友達と一緒で気が緩んだのか、課金してしまいました。まあまあの金額を。妻はかなり息子に怒ってます。僕も約束を破った息子に腹が立ちました。息子は色々理由を言っていますが、言い訳にすぎません。僕が課金にロックをかけなかったのも大きなミスです。だけど、もうしないだろうと思っていたのがダメでした。  息子に怒りました。もうipad禁止にすることに決めました。が、怒ってる途中に、この怒りは何も生まないなと思い始めました。息子が反省していることを次につなげたいなと。  そこで、思いつたことを息子に言いました。「ipadは没収です。そのかわり、2年生から習う掛け算九九を全部覚えたらipadを返します」と。  すると、息子は「えーーーーー!??」と驚いた顔をしました。  だけど、ipadが永遠に禁止になるわけではないことに少し安心していました。翌日から、息子はとんでもない勢いで掛け算を勉強しています。その集中力を見て「やれるんかーーーい」と思わず突っ込みそうになりますが。大好きなものをなんとか取り返してやろうという思いが、掛け算九九に繋がっていく。  僕は中学1年の時にパソコンをかけて猛勉強したときに勉強するコツを覚えられた。  今回、息子が、今回の事件をきっかけに勉強するコツを覚えてくれて、結果自信になってくれたらいいなと思っています。  物を賭けての勉強。色々と意見があるところだとは思いますが、僕は今のところ、息子のやる気を見て、「マイナスの事件」をプラスに変えられることになったらいいなと思っています。 ■鈴木おさむ(すずき・おさむ)/放送作家。1972年生まれ。19歳で放送作家デビュー。映画・ドラマの脚本、エッセイや小説の執筆、ラジオパーソナリティー、舞台の作・演出など多岐にわたり活躍。パパ目線の育児記録「ママにはなれないパパ」(マガジンハウス)、長編小説『僕の種がない』(幻冬舎)が好評発売中。漫画原作も多数で、ラブホラー漫画「お化けと風鈴」は、毎週金曜更新で自身のインスタグラムで公開、またLINE漫画でも連載中。「インフル怨サー。 ~顔を焼かれた私が復讐を誓った日~」は各種主要電子書店で販売中。コミック「ティラノ部長」(マガジンマウス)が発売中。

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    「大奥」、3Pを超える仲里依紗の濡れ場の凄さ「あらゆる女の情が凄まじい」

     漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏が、「大奥」(NHK総合 火曜22:00~)をウォッチした。 *  *  *  まさかNHKで“3P”場面が流れるとは。とんでもなく攻めている「男女逆転大奥」なのだ。  今回描かれるのは、三代将軍・家光(堀田真由)から五代・綱吉(仲里依紗)、八代・吉宗(冨永愛)の時代まで。  若い男のみ感染する致死率80%の奇病「赤面疱瘡(あかづらほうそう)」が蔓延し、男の数が激減した江戸時代という設定。  日本の社会構造は激変し、男子は希少な種馬として育てられ、家光以降の将軍職は女子へと引き継がれることになる。  ゆえに大奥は、美男三千人と謳われる男の世界。  そして、ここから「男女逆転」ならではの妙が生まれるのだ。  それが露わに描かれたのは綱吉編。世継ぎ・松姫を亡くし、父・桂昌院(竜雷太)から再びの子作りを迫られる綱吉。  将軍になりながらも求められるのは、世継ぎを産むことだけ。男なら一年に何人も懐妊させられるだろうけど、女はそうはいかない。なんたって上様自ら出産するのだ!  鮮やかな着物のすそを翻し、お鈴廊下の男たちを物色する綱吉を、皆「色狂い」と噂する。その噂に倣うかのように、寝間で男二人と絡みあう。 「さささ、3P!?」などと言ってる場合ではないのだ。綱吉を演じる仲里依紗が凄すぎて。  艶めいた肌ににじむ汗。その身がかもし出す必死さ。恍惚と開く唇さえ哀れで、これは濡れ場というより涙に濡れる場。  男同士密かに情を交わしていた二人に、目の前で「睦みあえ」と命じる綱吉。次の間に控えた大奥総取締・右衛門佐(山本耕史)が止めに入る。 「人の前で睦みあえと言うのは辱めでしょう」と。  しかし綱吉こそ毎夜毎夜、情事のさまを次の間で聞かれているのだ。 「そうか、これは辱めであったか。どうであった、私の夜の営みは!?」  嘆き、痛み、怒り、絶望。すべてを発して綱吉は慟哭する。「将軍とは、この国で一番卑しい女のことじゃ!」  これ、まずよしながふみの原作漫画が素晴らしいんだけど、その芯の部分を濡れ場含めて演じきった仲里依紗も最高だ。  子を失った母の空白、父の願いに応えられぬ娘の苦しみ、将軍という外向きの顔、実は右衛門佐を思慕する乙女心。  あらゆる女の情が凄まじくて、いつもうさんくささみなぎる山本耕史がちょっと漂白されてた。 カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など※週刊朝日  2023年3月10日号

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    WBC放送、言葉の貧しさに苦言 元NHKアナ「紋切り型で表現力に欠ける」

     人間としてのあり方や生き方を問いかけてきた作家・下重暁子さんの連載「ときめきは前ぶれもなく」。今回は、「WBC」について。 *  *  *  WBCで日本が優勝するのを待ってこの原稿を書きはじめた。それまではそわそわして手につかない。  よほど野球が好きなのかと思われるかもしれないが、昔アナウンサーでNHKに入局した時の研修で、スコアのつけ方を学んだので興味を持たざるをえなかった。  しかしWBCに関して言えば、見たのは今回がはじめて。むしろ敬遠していた。各国の代表といってもほんとに見たい選手がいなかったり、国を背負った悲愴感があったりでついていけない部分も多かった。  それがなぜ今回、天邪鬼(あまのじゃく)の私の中で盛り上がったのか。きっかけは、かつて住んでいた麻布のマンションが戻ってきて、仕事場兼遊び場にすると決めたからだ。直前まで住んでいた作家の友人が新しいマンションに移るにあたって、大きい荷物が必要なら置いていくというので、リビングにある大画面の超大型テレビとベッドルームの箪笥を引き受けた。  テレビはニュース主体にしか見ないので、大きなテレビは恥ずかしかったが、スポーツ中継を見るには大型にかぎるという友人の言葉に従って、初めて見たのがWBCだった。ビールとおつまみと、近所のおいしいうなぎ屋からとった出前と準備万端整えて、つれあいと二人画面に向かう。  なるほど選手はほぼ等身大で迫力満点。しかも大谷翔平選手の二刀流での中国戦を見てすっかりはまってしまった。翌日からの東京ドームの中継、さらに朝弱い私が、マイアミからの中継で三時間以上も続く試合をばっちり優勝の瞬間まで見たのである。  いったいどうしたことか? 一言で言えば、面白かったのだ。団体が苦手な私だが、今回は大谷・ダルビッシュを始め、日本の若い投手たちや不調を最後にはね返した村上やムードメーカーのヌートバーなど、一人一人の個性が際立っていた。その個人が自分のやるべきことをきっちりやって、アメリカ戦の最後は八回にダルビッシュ、九回は大谷が投げて締めくくるその演出の見事さ! 栗山監督の選手を信じる采配が見事だ。  予定通り運ばないのがスポーツの面白さ。何が起こるかわからない瞬間を選手たちは全力でプレーする。それを支えるキャッチャーの存在も大きい。  だが、選手たちの懸命さに比べて、放送する側の言葉が紋切り型で表現力に欠けるのが気になった。 「見るものの魂を揺さぶるプレー」だの「日の丸を背負って戦う」だのと、国を持ち上げる表現の羅列。「日本が一つになった」と言われると、戦争時を思い出してひねくれ者は不安になる。素直に自然にそれぞれ喜べばいいので、必要以上の盛り上げや涙などいらない。  もっと自分なりの表現力を養って欲しい。今回のWBC優勝の瞬間など、酔わせる一言が飛び出す最高の機会だったが、ついぞなかった。  ちなみに「野球」と名付けたのは俳人正岡子規ともいわれる。 下重暁子(しもじゅう・あきこ)/作家。早稲田大学教育学部国語国文学科卒業後、NHKに入局。民放キャスターを経て、文筆活動に入る。この連載に加筆した『死は最後で最大のときめき』(朝日新書)が発売中※週刊朝日  2023年4月7日号

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    21時間前

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    「あの恵泉が」と関係者も衝撃 “名門”恵泉女学園大が「募集停止」に至った背景は?

     恵泉女学園大の学習募集停止は、教育関係者に大きな波紋を投げかけた。  大学は募集停止について、こう説明している。 「18歳人口の減少、とくに近年は共学志向など社会情勢の変化の中で、入学者数の定員割れが続き、大学部門の金融資産を確保・維持することが厳しくなりました」(大学ウェブサイト)  社会情勢の変化に対応しきれなかった、ということである。  これは昨今、女子大への志願者が少なくなったことが大きい。  女子大の多くは学生募集で苦戦している。名門とされる津田塾大、東京女子大、日本女子大も例外ではない。10年前に比べて難易度が下がった、つまり人気が低下している。予備校関係者によれば、津田塾大と東洋大に合格すれば、いまでは東洋大を選ぶ受験生がいるという。以前では考えられなかったことだ。  実践女子大、昭和女子大、白百合女子大、聖心女子大、共立女子大のような歴史があるところでも入学者数の定員割れが起きることがあり、大学関係者は先行きに相当な危機感を抱いている。  1980年代以降、短期大学から生まれた女子大がいくつかある。これらはさらに厳しく、入学者数を大きく減らしている。  学習院女子大は2017年431人から2022年358人、東洋英和女学院大2019年504人から2022年327人、そして恵泉女学園大は2019年361人から2022年162人となった。愛国学園大は定員100人で22年入学者は11人となっている。  東京女学館大は2002年に開学したが、定員割れが続き、2013年で大学経営を断念して募集を停止し、2017年に閉学している。  女子大離れの原因はさまざまだ。単純に「男子と学びたい」という高校生が多くなったという面もあるだろうが、少子化で私立男子校・女子校の男女共学化が進み、女子大に対するイメージが湧かなくなった、とみる高校教員もいる。  そして、「女子大だから」というより、「女子大には学びたい学部がなかったから」という理由も大きい。いま、法、経済、経営、商、政策などの社会科学系学部で学びたいという学生が多い。社会で女性が活躍する場が増えたことによって、経済や会計を学んで企業でさまざまなビジネスに挑戦したい、法律を習得して公務員や法曹で世の中に役立ちたい、と思う女子高校生が増えたからだ。 ■早慶MARCHは年々、女子学生が増えている  早慶MARCHは年々、女子学生が増えており、その原動力となったのは、女子の比率が高くなった社会科学系学部である。2022年、学部ごとの女子比率をみると、青山学院大法学部48.9%、早稲田大政治経済学部34.5%、立教大経営学部50.5%、中央大商学部34.8%、慶應義塾大総合政策学部40.9%となっており(各大学ウェブサイトから作成)、いずれも5年前に比べると上昇している。2023年、東京大文科一類(主に法学部進学コース)の女子合格者が初めて3割を超えたのも、象徴的といえよう。  残念なことに、女子大にはこうした社会科学系学部がほとんどない。  恵泉女学園大は人文、人間社会の2学部で、たとえば将来、自分で会社をつくりたいと夢を抱く女子高校生にすれば、選択肢には入りにくくなる。これも「社会情勢の変化」といえよう。  これに対応するために学部設置に動いた女子大がある。京都女子大法学部、共立女子大ビジネス学部、武庫川女子大経営学部、昭和女子大グローバルビジネス学部などだ。  また、社会科学系ではなく、看護、薬学、医療、福祉など専門職養成に特化した学部をつくった女子大もあった。だが、こうした分野でも思うように学生が集まらないところがある。  女子大そのものをやめてしまった大学もある。10年以降では、文化女子大、東京純心女子大、広島文教女子大、東北女子大などだ。  恵泉女学園大が募集停止、という一報を聞いて、「あの恵泉が」と驚く大学、高校、企業関係者は少なくなかった。「あの」には恵泉は「名門」という思いが込められており、ブランド力があったからだ。  恵泉女学園大は1988年に開学しており、古い歴史と伝統があるというわけではない。50代以上の教育関係者にすれば、恵泉女学園短期大、恵泉女学園中学高校のイメージが強い。短期大学は1950年、中学は1947年、高校は1948年に開校した。その起源は1929年設立の普通部5年制学校にさかのぼる(短期大は英文科が1999年、園芸生活学科が2005年に廃止)。 ■名門短大に優秀な女子学生が集まった時代  1990年代ぐらいまで、「名門短大」というくくりがあった。  入試難易度が高く優秀な女子学生が集まった。そして、就職先は著名企業ばかりだった。恵泉女学園短期大もそこにカテゴライズされていたといっていい。  1983年、旺文社は「全国主要短期大学の入試難易度」を発表している。おもな上位校の「偏差値」は次のとおりだ(学科は英文、英語、人文など)。  上智短期大62.1、立教女学院短期大60.4、青山学院女子短期大59.9、恵泉女学園短期大59.9、東京女子大短期大学部59.2、学習院女子短期大56.7、東洋英和女学院短期大54.6  当時、明治大、法政大、中央大に合格したが、上智、青学、恵泉、東洋英和の短大に不合格というケースも見られた。  1983年、恵泉女学園短期大の就職先も見ておこう。  三菱商事6人、住友商事5人、東邦生命4人、朝日生命4人、三井物産3人、安田生命3人、日本興業銀行保険3人など(「週刊サンケイ」1983年4月27日号)。   男女雇用機会均等法以前の話であり、そのほとんどは総合職採用ではない。しかし、恵泉はこうした大手商社、生損保から絶大な信頼を得ていたことがわかる。  それは恵泉女学園大学が開学してからも同じだった。教育、進路指導は熱心に行われており、みずほフィナンシャルグループには2016年5人、2017年8人、2018年3人が採用されている(「大学ランキング」2018~2020年版)。  また、短大以上に恵泉のブランド力を支えていたのが、恵泉女学園中学高校である。教育熱心な保護者に人気があり進学校として知られている。難関大学合格者は次のとおり。  1993年:東京大1人、一橋大1人、東京外国語大3人、慶應義塾大10人、上智大9人、早稲田大19人  2022年:東京大1人、東京外国語大1人、防衛医科大学校1人、慶應義塾大6人、上智大18人、早稲田大9人 (1993年は大学通信調べ、2022年は学校ウェブサイトから引用) ■「恵泉」ブランドを守る最善の策では  もっとも、恵泉女学園中学高校から恵泉女学園短期大、恵泉女学園大に進む生徒は少なかった。フェリス女学院、神戸女学院などのように付属、系列校が進学校として確立しているケースと同じである。  恵泉女学園大の募集停止をどう見たらいいか。  大学の世界から退くという経営判断は正しいといえる。他の女子大では、コンサルタントの指南で需要があるとされる看護学部を設置したが、そこでも定員割れを招き失敗しているケースもある。恵泉がこうした分野に手をださなかったのは賢明だった。いつまでもブランドにしがみついて大学経営を続けることをしない、というのは、「恵泉」ブランドを守るために最善の策であろう。  それでも、「恵泉」の一つがなくなるのは、さびしい。  学校法人恵泉女学園は、第1次世界大戦後の1929年、「広く世界に向って心の開かれた女性を育てなければ戦争はなくならない」と考えた女性キリスト者、河井道によって設立された。  この思いは、いまに伝えられている。  2015年、安保関連法案をめぐって、当時の学長は安倍政権を次のように厳しく批判していた。 <創立者の平和への希求に思いを寄せつつ、大学建学以来、平和をつくりだす女性を育てることを使命としてきた私たちは、現在国会で審議されている安全保障関連法案(以下、この法案)に対して、反対の意をここに表明します。この法案は、従来長らく、政府解釈によっても憲法違反とされてきた「集団的自衛権」の行使を容認し、時の政権の判断によって際限なく自衛隊の武力行使を可能とするものです。今回のように審議を尽くすことなく、また世論の強い反対にもかかわらず、時の政権が解釈のみで憲法を空洞化してしまうことは、立憲主義への明白な挑戦であり、戦後日本の議会制民主主義をも根底から破壊するものです。(略) 私たち恵泉女学園大学の教職員有志は、それぞれの専門領域における学知と個人の良心にもとづき、大学に対して歴史や社会から付託された使命に思いを致しながら、民意と著しく乖離し、戦後日本の基本理念に背馳する安倍政権の政治手法を強く非難します。そして、この法案に反対し、その強行採決に断固として抗議します。2015年7月23日 恵泉女学園大学 学長 川島堅二 教職員有志一同>(大学ウェブサイト)  恵泉女学園大はリベラルで自由な校風として知られていた。  時の政権にものを言う大学がなくなってしまうのは、いまの世の中だからこそ、残念でならない。 (教育ジャーナリスト・小林哲夫)

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    4月から「マイナ保険証」を使わないと医療費アップに!対策を知って備えよう

    4月以降、オンライン資格確認システムを導入または申請中の医療機関で、従来保険証で受診すると医療費が高くなる。マイナ保険証対応の医療機関が増える中、本格的にマイナ保険証を使わないと損、ということになりそうだ。連載『医療費の裏ワザと落とし穴』の第256回では、4月以降のマイナ保険証の利用について注意しておきたいポイントを押さえておこう。(フリーライター 早川幸子) 4月からマイナ保険証を使ったほうが初診時40円、再診時20円お得になる  この4月から、「マイナ保険証」を使わない人の医療費が、さらに引き上げられることになった。   現在、その病気で初めて病院や診療所を受診したときの医療費は、マイナ保険証より、従来の健康保険証のほうが、20円(3割負担で6円)高くなるように設定されている。この差が、4月以降は、特例措置として40円(3割負担で12円)に広がることになったのだ。  ただし、医療費に差が出るのは、オンライン資格確認のシステムを導入しているなど、一定の要件を満たしている医療機関を受診した場合だ。また、今回の加算は、全国の医療機関にマイナ保険証に対応できるシステムが普及するまでの期間限定の措置となっている。  どのようなケースで医療費に差が出るのか。この4月以降のマイナ保険証に関する見直し内容について確認しておこう。  これまで病院や診療所などを利用するときは、自分が加入している健康保険組合を証明するために、「健康保険被保険者証(健康保険証)」を提示することになっていた。  この健康保険証の代わりに、マイナンバーカードの個人認証機能を使って、本人確認や健保組合の特定を行うのが「マイナ保険証」で、2021年10月に本格導入された。そして、普及を促すために、2022年4月の診療報酬改定で、マイナ保険証に対応できるシステムを導入した病院や診療所に対して、通常の医療費に加えて、マイナ保険証関連の加算が付けられることになった。  だが、このときの診療報酬体系は、マイナ保険証を利用した患者のほうが、健康保険証で受診した患者よりも、医療費が高くなるように設定されていた。  マイナ保険証に対応する医療機関を増やすための誘導策とはいえ、患者はマイナ保険証を使うと損してしまう。そのため、国民目線を欠いた制度設計には疑問の声が上がっていた。  そこで、2022年10月、マイナ保険証の利用者のほうが、健康保険証を利用するよりも、医療費が安くなるように見直しが図られたのだ(連載の第247回参照)。  今回の見直しは、この考え方を拡大したものだ。では、今後どのように医療費は変わるのだろうか。次ページから見ていこう。 ●4月からマイナ保険証では初診時加算が20円だが、旧健康保険証では、これまでの初診40円が60円に引き上げられ、再診ではマイナ保険証にない20円の加算が付く●加算はオンライン資格確認システム導入済み、または申請中の医療機関で適用される ●24年秋までに現行保険証は廃止。マイナ保険証に移行したくない人は「資格確認証」の発行手続きを自分で行う必要がある カードリーダー設置または資格確認届け出を行っている病院ではマイナ保険証提示がなければ負担増に  オンライン資格確認システムの導入を加速させるために、2023年4月から12月までの期間限定で、病院や診療所の初・再診時に加算される金額が次のように見直されることになった。  マイナ保険証を利用した場合は、初診時の加算が20円(3割負担で6円)で据え置かれているが、健康保険証で受診した場合は、これまでの40円(3割負担で12円)から60円(3割負担で18円)に引き上げられる。  また、再診時については、マイナ保険証では加算がないが、健康保険証で受診した場合は20円(3割負担で6円)がプラスされることになった。  つまり、初診時は40円(3割負担で12円)、再診時は20円(3割負担で6円)の差がつくことになったのだ。  ただし、この加算が付くのは、マイナンバーカードを読み取れるカードリーダーなどを設置している医療機関を利用した場合だ。オンライン資格システムを導入していない医療機関を受診した場合は、そもそも追加の負担がない。  実のところは、マイナ保険証に対応していない医療機関を利用するのが、一番医療費が安いのが現状だ。  だが、厚生労働省は、23年4月までに、すべての病院や診療所などに対して、マイナ保険証による健康保険の資格確認システムを導入することを義務付けておりその数は徐々に増えてきている。  さらに、今回の加算の特例措置は、すでにシステムを導入している医療機関だけではなく、今年12月までにオンライン資格確認の開始を届け出ている医療機関も対象となっている。  2023年3月5日時点の「オンライン資格確認の都道府県別導入状況について」によると、病院は98.7%、診療所(医科)は91.7%がカードリーダーの申し込みを済ませている。そのため、今年の4月~12月は、マイナ保険証で受診したほうが医療費が安くなる医療機関のほうが多くなりそうだ。  4月以降、医療機関を受診するときは、忘れずにマイナンバーカードも持参するのが得策だ。 2024年秋までに健康保険証は廃止代わる「資格確認証」の発行は自分で行う必要がある  このように、医療機関はマイナ保険証に対応できるシステムを整えつつあるが、肝心のマイナンバーカードの交付率は2023年3月12日時点で75.4%。いまだ2割強がカードを取得していない状況だ(総務省の「マイナンバーカードの交付状況について」)。  カードを取得していなければ、当然のことながら、マイナ保険証の機能も使えないが、国は2024年秋までに従来の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に一本化する方針を打ち出している(発行済みの従来の健康保険証も、有効期限が来るまでは利用できる)。  マイナンバーカードを取得するかどうかは個人の自由で、マイナ保険証の登録を希望しない人については、従来の健康保険証に代わるものとして「資格確認書」を発行することになっている。資格確認書の有効期限は1年間で、更新もできるので、今後もマイナ保険証を登録していなくても健康保険の適用は受けられる。  だが、資格確認書は、原則的に必要な人が自分で申請するもので、健康保険証のように自動的に発行されるものではない。  マイナンバーカードの申請をしていない人の中には、一人暮らしの高齢者などで、自分では手続きがままならない人が含まれている可能性がある。そうした人が、マイナ保険証を登録しておらず、資格確認書の申請もできなければ、病院や診療所を利用するときに健康保険の資格確認ができず、不便を強いられてしまう。  国がマイナ保険証を導入した目的は、医療分野にもデジタルトランスフォーメーション(DX)を取り入れることで業務を効率化し、患者に質の高い医療を提供することだったはずだ。だからこそ、この4月からマイナ保険証関連の医療費をさらに引き上げる特例措置を行い、マイナンバーカードの普及を急いだわけだ。  患者の利益のために導入したはずのマイナ保険証によって、保険適用が受けられないという不利益を被る国民を作り出すのは本末転倒で、制度を導入した意味がなくなってしまう。  システムの変更によって、弱い立場にいる人が置き去りになるようなことは、絶対にあってはならない。健康保険の資格確認をマイナ保険証に一本化すると決めたなら、個人からの申請を待つだけではなく、国が責任を持って丁寧にフォローしていく必要があるのではないだろうか。

    ダイヤモンド・オンライン

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    4月から「NHK受信料」未払いだと“3倍”の金額の請求が来る? 未払い者はどうなるのか

     NHKとの放送受信契約に正当な理由がないにもかかわらず応じない人に、割増金を請求できる制度が4月に導入される。過去には受信料支払いの督促に応じない人や事業者にNHKが裁判を起こすこともあったが、新たな制度の創設で、支払いを拒んできた人たちは、より“痛い思い”をすることになるのか。 *  *  *  NHKの放送受信規約が改正され、4月1日に施行される。新たな規約では、受信契約書の提出期限を明確にし、従来の「遅滞なく」から「受信機の設置の月の翌々月の末日まで」と規定された。  この期限内に受信契約書を提出しなかった場合と、受信契約の解約や受信料免除について、ウソなどの不正があった場合に、受信料の2倍に当たる額を割増金として「請求することができる」とした。未払いの受信料を入れると、3倍の金額を支払う羽目になる。  現在の受信料は振込払いの場合、一般的に1世帯あたり地上契約(地上放送のみ受信)が月額1275円で、衛星契約(衛星放送も受信)が同2220円。このため、未払いの場合は、地上契約だと1カ月あたり3825円、衛星契約だと6660円の請求が来る可能性がある(事業者の場合は、受信機のある部屋数などによって異なる)。  実は、受信料には5年の消滅時効があるが、NHKは「受信料のお支払いが滞っている分については、これまでどおり全額請求させていただき、時効の申し出があった場合には、時効を5年として取り扱います」としている。もし時効の申し出をしなかったら、一体いくらになってしまうのか……。長く支払って来なかった人は気が気でないだろう。  そもそも、NHKとの契約は放送法64条で「協会の放送を受信することのできる受信設備を設置した者は、(略)受信契約を締結しなければならない」と定められている。  NHKのホームページには、「未契約の世帯や事業所に対しても、訪問や文書などを通じて受信料制度の意義を誠心誠意丁寧にご説明し、ご契約とお支払いをお願いしていきますが、こうした努力を重ねてもなお、ご契約いただけない場合の最後の方法として、受信契約の締結や受信料の支払いを求める民事訴訟を実施しています」とある。  過去には大手ホテルチェーンに対し、客室に設置されたテレビの受信料を支払うようNHKが裁判を起こし、19億円超の支払い命令が確定したケースもあった。  新たな規約によって、未払いを続けてきた個人や事業者はこれまで以上に“痛い思い”をすることになるのだろうか。  村松由紀子弁護士は、「受信契約書の提出期限というルールが明確になったことで、訴訟を起こした場合、今までより短期間で判決が出ると予想されます。裁判にかかる費用や労力も軽減されるため、NHKにとっては、訴訟手続きに移行しやすくなる面があるでしょう」と指摘する。  ただ、訴訟が増えるかどうかは定かでない。  新たな規約には割増金を「請求する」、ではなく「請求することができる」と、やや遠回しな文言が用いられている。このため、訴訟を起こす前に、割増金は請求しないことにして受信料を任意で支払うように促す、という運用をしていくことも考えられるという。 「いずれにしても、嫌々でも支払う判断をする個人や事業者が増える可能性が高いと思います」(村松弁護士)  最近では「チューナーレステレビ」と呼ばれる、地上波や衛星放送を受信するためのチューナーがないテレビが「NHK受信料を払わなくていい」と話題になった。ただ、テレビをチューナーレステレビに買い替えれば100%支払いを免れることができる、という単純な話ではないようだ。村松弁護士はこう注意を促す。 「放送法の『協会の放送を受信することのできる受信設備』には、ワンセグ機能付き携帯電話やテレビチューナー付きのカーナビ、テレビチューナー付きのパソコンも該当するとあり、受信契約の対象となります」  NHKの稲葉延雄会長は1月の就任会見で割増金について、「一律に条件に該当するからといって請求するわけではない。お客さまの個別の事情を総合的に勘案しながら運用していく姿勢にあると聞いている」と話した。  「割増金」の効果やいかに。 (AERA dot.編集部・國府田英之) 【訂正】 当初の記事では、地上契約と衛星契約を加算して「両方未払いの場合は未納分と割増金で1カ月当たり1万485円を支払わなくてはならない。年間で約12万6000円もの額になる。」と記載しましたが、個人(世帯)契約の場合は、衛星契約をすれば地上放送も受信できるため、地上契約と衛星契約を加算する必要はありませんでした。訂正します。

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    俳優・吉岡秀隆のリアル過ぎる演技に警察幹部が「困った映画だ」 警察裏金問題を告発した元巡査部長とは

    「組織のためなら何してもいいんか?」制服を着た巡査部長役の吉岡秀隆さんが、同じ警察官にそう問いかける。3月10日に封切られた映画「Winny」の一場面。吉岡さんの役は、愛媛県警の巡査部長時代の2005年に、県警の裏金問題を実名で告発した仙波敏郎さん(75)だ。巨大な組織を敵に回してでも仙波さんが貫こうとしたこととは何だったのか。 「18年前に警察の裏金問題を告発したことを、大手の配給会社の映画の中で取り上げてもらい、本当に感無量です」(仙波さん)  映画の主役は、東出昌大さんが演じる天才プログラマーの金子勇さん(2013年に42歳で死去)だ。2002年、当時、東京大学大学院助手だった金子さんは、インターネットで映画や音楽などの情報を直接やりとりできるファイル交換ソフト「Winny」を開発し、その試用版をネットの掲示板「2ちゃんねる」に公開した。  すると、大量の映画や音楽などが違法にアップロードされ、事件化されることも多かった。2004年、金子さんは著作権法違反の幇助(ほうじょ)の容疑で京都府警に逮捕されてしまう。その後、金子さんは弁護団と裁判を戦い、2011年に無罪を勝ち取る。映画はその7年間の壮絶なストーリーを描いている。  そのなかで、仙波さんの警察裏金問題の告発の話が出てくる。接点はWinnyだった。Winnyは情報漏洩系ウイルスに感染しやすく、個人や企業、官公庁の情報などが次々とインターネット上に流出した。警察でも捜査情報が漏洩するトラブルが相次いだ。  仙波さんがこう説明する。 「裏金づくりの手口は、白紙の領収書に、捜査協力をしてもらったとして一般市民の架空の名前や金額、日付などを書かせます。私はニセ領収書を書きませんでしたから、当然のことながら実物を持っていなかった。そこで『仙波の(告発の)話は本当なのか?』となった。しかしその後、愛媛県警の刑事がWinnyに接続した結果、パソコンのデータが流出したんです。その中にニセ領収書が含まれていたので愛媛県警が言い訳できなくなった」  映画化の話が仙波さんに持ち込まれたのは、2021年3月のことだった。  それまでも何度か、仙波さんの裏金告発について映画化するという話は持ち上がっていた。しかし、なかなか実現にはいたらなかった。 「今回、映画会社からオファーがきて、いろいろ聞きました。Winnyの話が大半ですが、裏金告発を一部でも取り込んでくれるというのはありがたいことです。当初、台本では裏金告発の警官はシラトリリョウという架空の人物だったんです。私からすれば『なんで実名出さんのか?』となりますので、そう監督に申し入れると『本当に実名でいいのですか』とびっくりされていました。その時はすでに撮影に入っていたけど、台本を書き換えたそうです」  実名であることも含め、仙波さんの裏金告発の内容はリアルに表現されている。 「ええか、ニセ領収書を書いたら私文書偽造で3カ月以上5年以下の罪になる。それを元に公文書を偽造すると1年以上10年以下の罪や。詐欺や業務上横領は10年以下。それだけの罪を犯したもんが千円のもんを万引きした人に調書をとれんのか」  仙波さん役の吉岡さんが、若い警官を悟す場面だ。  仙波さんは2008年1月20日に実名で記者会見することを決める。するとその数日前から、人や車に尾行されていることに気づく。それが愛媛県警の関係者や車両と見られ、仙波さんが苦悩、葛藤する様子も描かれている。  仙波さんが意を決して臨んだ記者会見で、 「仙波敏郎巡査部長55歳、38年間の警察生活の中で見たこと聞いたこと、そして自分の体験に基づく真実を話します。捜査費の支払いはすべて架空、捜査協力者に支払われた事実はありません。一つだけ言わせてください。人一倍強い正義感を持って警察官になった若者たちが今日もどこかで裏金づくりに加担させられている」  というセリフがある。このシーンについて仙波さんは、 「本気で映画を作っているんだなと思いましたよ。記者会見した時と一言一句同じ。吉岡さんは、私の著書なども徹底的に読み込んで演じてくださったそうで感動しました」  と振り返る。  映画の撮影現場にも1度だけ訪れた。 「そのとき、私も一瞬ですがエキストラとして出演しました。裁判で傍聴しているシーンがあるのですが、スーツにネクタイ姿で映っています。とてもいい経験でした」  吉岡さんはその日、別の撮影があって不在だったが、東出さんらとは話す機会があったという。  仙波さんは一人でも多くの人にこの映画のことを知ってほしいと、愛媛県警の記者クラブを訪れたという。 「映画のチラシを記者に渡しにいったのです。配り終えて記者と雑談していると、県警の広報担当者が息せき切ってやってきて、『仙波さんちょっと』『ここはダメなので』と言いました。裏金告発からは18年も経っているのに、という感じでしたね」  映画の撮影が終わってから公開されるまで1年ほどあったといい、仙波さんは「警察の圧力」も危惧していたという。  ある警察幹部は取材に、 「困った映画だな。また警察の裏金問題が蒸し返されるきっかけになりかねないよ。吉岡さんがうまく演じているからな」  と話した。  仙波さんは、 「無事、上映にこぎつけられよかった。吉岡さんや制作にかかわった皆さんに感謝したい。ぜひ映画館で見てほしい」  と話している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由

     葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉  冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。  お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。  まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を  お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。  正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。  お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切  身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。  一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。  ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。  お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉  死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。  死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。  時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。  深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言  結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。  新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。  お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち  結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。  出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。  文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。  やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。  どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。

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    Snow Man阿部亮平、「滝沢歌舞伎」公演期間に号泣した理由

     一般受験で上智大学に合格、ジャニーズ初の大学院修了者で“ジャニーズクイズ部”のリーダー・Snow Man阿部亮平さんが、満を持して登場! 合格率4%の難関で知られる気象予報士や、世界遺産検定2級に合格するなど、アイドルとしての活動と学業との両立を見事成し遂げた阿部さんが、そのなかで号泣した理由とは? *  *  * ──小学5年生からジャニーズJr.として活動されてきて、自分には取(と)り柄(え)が少ないと感じるようになったことで、勉強をしようと思われたとか?  僕が所属していたMis Snow Manとか、Jr.BOYSって、先輩たちのバックに引っ張りだこなJr.が集まっていて。まわりみんなダンスすごくうまいし覚えるの超早いし、歌うまい人もいて、自分はあんまり取り柄ないなーって感じることがあったんですよね。自分が置いていかれてるって思ったのは、中2とかなのかな。本当にね、俺一番下手だなって思ってた。頑張って食いついてはいたんですけど、何か一番できるものがほしい、ってなったときに、勉強しかないなと。もちろんダンスとか歌とかアイドル業も磨くけど、プラスアルファでもう一軸、勉強をやろうって思ったのが、高校2年生ぐらい。受験は経験しておきたいって意識もあったので、半年間活動を休んで勉強をしっかりして一般受験をするって決断しました。 ──休んだ半年間はどのように勉強を?  8月から3月の頭までの半年は、毎日12~13時間勉強して、でも絶対7、8時間は寝ていましたね。眠いのに無理して続けるのは、効率が悪い気がして。独学中心でしたが、冬期講習だけは受けました。冬は朝9時からずっと自習室にいて、講習の時間は教室に行って、家帰ってリビングで勉強するんですよ、夜12時ぐらいまで。あとは通学中もキクタン聞いたりしていました。毎日、だいたいの目標は決めるんですけど、例えばもう無理、眠くなった、ってなったらやめるし、いやまだめっちゃ集中できてる、って思ったら続けるようにしていましたね。だから高2の試験勉強で朝4時まで勉強しちゃったこととかありました。空がだんだん明るくなっていくのが、これだけ勉強したんだっていう証しになるから、ちょっとうれしかったな(笑)。 ──一般受験に際し、上智大学を選んだ理由は?  ほかも受験したんですけど、結局はいちばんいいところに受かったなって思いますね。研究室でやりたいこともできたし、いい教授とも出会えたし、都心だからすごく通いやすいのもあって。受験でいろいろな大学を受けて、っていう流れは多分誰しもにあって、でも結局どこに行くかっていうのは、自分が頑張ったぶんの努力が連れてってくれるんだと思うんです。僕は理工学部で、出席や単位にはすごく厳しかったんですけど(笑)。 ──その厳しい学部で学業優秀賞を受賞した?  4年のときに表彰されました。学科で毎年3人くらいですかね。仕事と両立させるなかで、出席が足りなくなって必修科目を落としたこともありますけど、そういう賞をいただいて、ね、ほんと真面目にやってよかったなあって。 ──仕事と学業を両立するなかで、号泣するほど悩んだこともあったとか。  大学4年生の頃ですね。ちょうど「滝沢歌舞伎」の公演中で。研究室では院進(大学院への進学)の話題で持ち切りだったんです。大学在学中も、出席が厳しいからちょっとお仕事休ませてもらったりとか、メンバーに迷惑をかけてしまうことがあって、それが4年で終わるって思っていたんですけど、自分のなかに、院に進んであと2年学びたいっていう思いがあったんですね。理系で、コンピューターによって便利になった社会に対してどう生かすかといった情報学を学んでいたので、ライブの演出についてもうちょっと学ぶことができないかな、例えば何かを念じたり集中したりっていう脳波を信号として読み取って演出に生かせないかな、って。院進したいっていう思いと、メンバーにこれ以上迷惑はかけたくないっていう思いがあって、マネジャーさんと話してるうちに、だんだん気持ちの整理がついてきて……進学したいっていう自分の真の気持ちに気づいたら、号泣していたんですよね、なぜか。最終的には大学4年生から大学院の授業を受けられる制度をフルで駆使して、院ではほとんど仕事を休まなくてもいいようにして、落とし込んだ感じですね。 ──受験勉強は自身に返ってきていると感じる?  受験っていう経験はマジで一生ものだなって思いますね。人生で得られる経験値としてすごく大きいなって。後にも先にもあんなに勉強したのはあのときだけだし。僕自身はジャニーズの活動をお休みして、メンバーに迷惑をかけて、っていうのがかなりプレッシャーだったので、忍耐強くなりましたよね。 ──勉強が自分の役に立っているといま最も実感するのはどんなとき?  いちばんは、学んだ内容そのものよりも学び方にあるかなって。社会人になってからも新しく学ぶことって多いじゃないですか。たぶん応用が利くと思うんですよね。僕はいま、クイズ番組でクイズを解くためにはどう勉強したらいいか、みたいに使えてますね。 ──阿部さんにとって、その「学び方」とは?  学び方の、ほんっとの第一歩は、興味を持つことですね。僕は社会とか地理とかが苦手なんですが、でも旅行は好きなんですよ。だから旅行で得た知識を最初の呼び水みたいにして、例えばここが有名だとか、これがおいしいとか、みたいにして、地歴がめっちゃ苦手なのに、世界遺産検定2級を取りました。僕は、勉強ってモチベーションがすべてだと思っていて。どうやっても面白さを見いだせなかったら、この勉強終わったらおいしいもの食べられるとか、この勉強するときのこのノートがお気に入りとか、そういうところでうまく自分をあやしていくのが大事かなって思います。 ──ご自身が勉強するときの、いまのご褒美は?  最近ね、サウナかもしんない。そこまでサウナーってわけじゃないんですけど、たまに行くとすごくゆったりとできるので。もともとお風呂も大好きですし。 ──サウナ好きのメンバーもたくさんいますが。  そうなんですよ。うちにはサウナに精通してる人がたくさんいるので、楽しいですね。いろいろ相談にのってくれるんですよ、親身になって。この前、岩本(照さん)からサウナハットをもらって、愛用してますし。ただ、一緒に行ったこともあるけど、まあほぼ一人ですね。一人でのんびり過ごすのがすごい好きで。 ──ライブの演出「スノインザボックス」を思いついたのもサウナだとか。  そうだった気もするようなしないような(笑)。でも確かに、のんびりしているときにいろいろ考えて、あっと思ったものをお風呂とかサウナとか上がった後にメモしておくことは多いですね。 ──最後に、来春の受験生に向けてメッセージを。  時が過ぎるのって本当にあっという間。来年の受験までまだ1年弱ある、って思ってる人がいるかもだけど、本当にすぐ来る。だからこそ、未来の自分に向けてプレゼントを贈る気持ちで、いまからちょっとずつ頑張ってほしいと思います。 (取材・構成/編集部・伏見美雪)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    ryuchell 息子とお出かけ中に「だいぶ成長したな」と感じた出来事とは

     現在4歳になる男の子を育てるpeco(ぺこ)さんとryuchell(りゅうちぇる)さん。昨年8月、婚姻関係を解消しましたが、これまで通り3人で「新しい家族の形」を築いていくことを公表しました。本連載では、お二人の日々の育児や家庭について交互に語ってもらっています。今回はryuchellさんに、最近、息子と過ごした出来事について話を聞きました。 *  *  *  少し前ですが、息子とサンリオピューロランドに行ってきました。息子はポムポムプリンが好きで、私もキティちゃんが好きなんです。  とても盛り上がったのは、歌舞伎とキティちゃんがコラボしたミュージカル(KAWAII KABUKI ~ハローキティ一座の桃太郎~)です。息子はかわいいけど、格好いいというのが好きなんですね。いいところで観たかったので、早く席を取りに行って、前の席で観ることができました。  実は、このミュージカルはもうすでに4、5回くらい見ています(笑) パフォーマンスがとてもすばらしいんです。ダンサーは格好よくて、華やか。キティちゃんやポムポムプリンたちが出てきて、歌舞伎のメイクや着物の姿ですが、かわいらしさもあります。それで鬼退治をするんです。  その他にも、キティちゃんが作ってくれるポップコーンを食べたり、アトラクションに乗ったり、かわいいランチを食べたりと、大満足でした。  サンリオには行く度に、お土産を買っています。大きなお人形とかは家にあるので、「今回はちっちゃいのだよ」と約束したら、ポムポムプリンのついたキーホルダーを持ってきました。とてもかわいかったです。  一緒にお出かけして、改めて息子もだいぶ成長したなと感じることがいくつもありました。  サンリオには電車で行きましたが、最近はどこにいくにも、「抱っこして」とは言わなくなりました。手はつないで一緒に歩いています。抱っこしなくなった分、外出がとても楽になりました。  電車でサンリオに行くと、次第に窓から見える風景が自然いっぱいな感じに変わるんですよね。「お山が見えてきた!」とか窓から見える外の風景について共有して楽しめる年齢になってきました。  私は電車には普段あまり乗らないので、乗り換えを間違えてしまって。それで乗り換えたら、また間違って……。そしたら、息子も優しくて「大丈夫だよー」ってフォローしてくれました。イヤイヤ期もありましたが、頼れるお兄ちゃんになっているんだなと感じました。  最近は、息子と一緒にカラオケにも行きました。息子はカラオケで歌うのも大好きです。  歌うのは、NHKの「おかあさんといっしょ」に出てくるような子どもの曲です。息子が選曲して歌っています。私が好きな曲とかは歌わないです。それはもうちょっと大きくなってからかなと思っています。  カラオケは子どもが喜ぶようなものが多くあって、いいですね。  デンモク(選曲・予約する通信機器)の機能に、お絵かきできるものがあって、息子はそこで恐竜とか、キティちゃんの絵を描いていました。3時くらいにいったので、おやつにスイーツも食べました。キッズルームもあるカラオケ店で、滑り台とかつみ木で遊びました。2時間くらい満喫しました。  息子は肩車が大好きなので、家でよく肩車をして、歩き回っています。身長も大きくなって、体重も重くなってきているので、最近は重くなってきたなぁと思います。まだしばらくはできると思いますが、そのうち難しくなるんですね。できるときまで肩車したいと思います。  私のSNSでは紹介できていませんが、息子との時間も大切に過ごしています。一緒にいると予想外のハプニングも起こりますが、「あぁ、どうしよう」と思うよりも、「なんくるないさー」(なんとかなるさ)の精神で子育てしています。 (構成/AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。週刊朝日連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」

     3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」  投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」  岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」  松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」  年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」  高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇  命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。  刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」  昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」  それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」  現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」  しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    6回連続で勝率8割台、史上最年六冠の藤井聡太 本人は記録にほとんど興味なし

     3月19日におこなわれた棋王戦五番勝負第4局で、10連覇中の渡辺明(38)を破り史上最年少で六冠を達成した藤井聡太(20)。史上初の八冠制覇に期待がかかる。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  今年度の藤井はハードスケジュールの中、叡王、棋聖、王位、竜王、王将を順に防衛。さらには棋王を獲得し、保持するタイトルは全部で六つとなった。 「7月以降はかなり、対局が多いときが続いたんですけど。その中で、勝負強く指すことができたのは収穫だったかなと思っています」 「まだまだ実力的には足りないところが多いと思うので。立場にふさわしい将棋が指せるように、よりいっそう頑張らなくてはいけないのかなと思います」(藤井)  対局地の栃木県はイチゴの名産地としても知られる。終局後、藤井が贈られた6粒のイチゴには「祝六冠 1+5=6」と記されていた。六冠は羽生善治九段(52)に続いて史上2人目の偉業だ。羽生の六冠達成は1994年、24歳のとき。藤井は弱冠20歳にして「史上最年少六冠」という記録を作った。  藤井のこれまでのタイトル獲得数は森内俊之九段(十八世名人資格者、52)に並んで12だった。 「そういった実績のある棋士の方の対局を見ると、まだまだ学ぶところが多いのかなというふうにも感じています」(藤井)  棋王獲得で通算13期。佐藤康光九段(永世棋聖資格者、53)に並んで歴代7位タイとなった。  事前に収録され、棋王戦第4局と同日に放映されたNHK杯決勝では、藤井は佐々木勇気七段(A級昇級により八段に昇段、28)を破り、初優勝を達成。史上初めて、銀河戦、日本シリーズ、朝日杯、NHK杯と、早指しのトーナメント4棋戦をすべて制することになった。  要するに藤井は今年度、途中で敗退した棋戦は、挑戦権を争うトーナメントの1回戦で大橋貴洸六段(現七段、30)に敗れた王座戦のみ。ほとんど完璧に近いシーズンだったと表現するのが適切だろう。 ■6回連続で勝率8割台  藤井は2022年度の対局を終え、成績は53勝11敗(勝率8割2分8厘)。将棋界では、年度勝率8割台は、数年に1回見られるかどうかというハイアベレージだ。過去に複数回達成した棋士は羽生(3回)と中原誠十六世名人(2回、75)というレジェンドクラスしかいない。藤井はそれをデビュー以来6回連続でやってのけた。形容すべき言葉が見つからない。  改めて言うまでもないことだが、六冠の時点ですでに偉業だ。しかし藤井の場合、それが通過点のように思われてしまうのが恐ろしい。4月から始まる名人戦七番勝負では、藤井が渡辺に挑戦する。藤井には史上最年少名人、そして羽生以来の七冠がかかっている。 「名人戦ですと持ち時間が(2日制の)9時間ということで、公式戦の中でも一番長い対局になるので、その点も踏まえてしっかりいい将棋が指せるように頑張りたいと思っています」(藤井)  渡辺は04年に初タイトルの竜王位を獲得して以来、これまで無冠になったことがない。しかし藤井に棋聖、王将、棋王を奪われ、残す牙城は名人のみとなった。渡辺にとって、相当厳しい情勢なのは間違いない。 「あれこれ考える時間もなく次が始まりますが、まあその時の最善を尽くすしかないので、また頑張っていきたいと思います」(渡辺のツイッター投稿から)  藤井は保持したタイトルを失うことなく、名人を獲得し、さらには王座も獲得すれば、今秋にも史上初の八冠となる。八冠なんて、夢のようなストーリーであったはずだ。しかし現時点ではもう、現実的に想定しうる段階に入っている。  藤井自身は、そうした記録にほとんど興味がない。一方で観戦者の多くは、そうはいかない。「八冠なるか?」とドキドキしながら、藤井の対局を見守り続けることになりそうだ。(ライター・松本博文) ※AERA 2023年4月3日号より抜粋

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    賛同の嵐「育休で同僚に10万円」の三井住友海上 ネット記事の「至極真っ当」な書き込みで即改善も

     育休をとりやすい職場環境づくりの一環として三井住友海上火災保険が新設する「育休職場応援手当」が大きな反響を呼んでいる。3月12日、読売新聞オンラインが「育休を取得した社員の同僚に最大10万円の一時金」と配信すると、掲載された「Yahoo!ニュース」や「NewsPicks」などに賛同するコメントが数多く書き込まれた。しかも、驚くべきことに、同社はたった数日でこれらの声を吸い上げ、制度内容を大きく改善したことがわかった。 *   *   * 「読売さんの記事が出たのが日曜でした。月曜の朝、出社すると、ヤフー(ニュース)などのコメントがすごいことになっていると言われた」  そう語るのは、「育休職場応援手当」制度を立案した三井住友海上火災保険人事部部長の丸山剛弘さんだ。  読売新聞の記事には、次のように書かれている。 <13人以下の職場で育休取得者が女性の場合、同僚に各10万円を支給する。取得者が男性の場合、育休期間が女性より短い実態を踏まえ各3万円とする。41人以上の職場で取得者が女性なら各1万円、男性なら各3000円とする>  インターネット上のコメントにとどまらず、「直接、話をしたい」と、人事部にも電話がかかってきた。見知らぬ声の主は、こう訴えた。 「非常に素晴らしい仕組みだと思うし、期待している。ただ、男性と女性のどちらが育休をとったかで支給金額に差があるのは惜しい。ぜひ男女の差をなくしてほしい」 ■社長に見直しを進言  この声に丸山部長は耳を傾けた。 「ヤフーにも同様のコメントがあったのですが、もうおっしゃる通りというか、至極真っ当なご意見でした。制度をよりよいものにしたい、という気持ちがすごく伝わってきた。なので、経営会議にも出し、労組にも提案した内容だけれど、変えちゃえばいいじゃないか、と思った」  この制度案はすでに経営会議に付議され、労使協議の完了を条件に新設することが承認されていた。それをヤフー・ニュースのコメント(ヤフコメ)や直電の意見をもとに大幅に見直そう、というのである。  電話を終えた丸山部長は、すぐに上司の執行役員人事部長と人事担当役員(常務)に相談した。 「『すごい反響です。でも、男女差がないほうがもっといい、というお声もいただきました。私もそう思いますので、修正しませんか』と言ったら、『そうだよな。ぜひ変えよう』という話になった」  丸山部長は一晩考えて、男女で支給金額に差をつけない案に修正し、人事部内のダイバーシティ推進担当者たちにも意見を聞いたうえで、育休取得予定期間が3カ月以上か、3カ月未満かで区切って支給金額を変えるといった修正案を人事担当役員と人事部長に見せた。 「そうしたら、こちらのほうが絶対にいい、と言ってもらえた。翌日、労使協議中の労組に対しても、提案内容を修正したい旨を申し入れると、前向きに受けとめられ、よい感触を得た。そして15日、人事部長から、出張中の社長にも労使協議と内容見直しの動きをお伝えするようにと、私と部内の企画チーム長に対して指示があったので、企画チーム長から修正を進言するメールを社長に送ってもらった。すると、『見直す方向で進めてください』と、社長からすぐに返信があった」  三井住友海上火災保険の社員数は約1万7千人。大企業にもかかわらず、信じられないほどの柔軟性とスピードである。ネット記事の反応から、即座に制度を改善――。筆者はさまざまな企業を取材してきたが、このような事例は聞いたことがない。反響をさらにプラスに変えようとする前向きな意識が形を変えたのだ。 ※記事の後半<<同僚の育休で“まわりの人に一時金”の案に「それ、いいね!」 三井住友海上、背景に「産後うつ」のケア>>に続く (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    Snow Man阿部亮平、キャスターを目指す理由と自身の生きる意味

     Snow Manきって、ジャニーズきっての知性派として数々のクイズ番組でその実力を発揮している阿部亮平さん。一方で、ニュース番組でのスペシャルキャスターや、ドラマで航空管制官役を務めるなど、幅広い活躍を見せている。そんな阿部さんが目指す将来像、そして生きる意味とは? *  *  * ──Snow Manでは、常に全体を俯瞰して、状況に応じて立ち位置を柔軟に変えている印象が。  まあ例えばメンバーから何人か出るお仕事のときは、バランスは見ますね。このメンツだったら、俺ちょっとふざけに行く側だなとか、ちょっとしっかりしたほうがいいなとか……僕はメンバーカラー緑なんですけど、緑って虹の色の順番に並べたら真ん中なんですよ。だから、どっちにもなれるようにしたいなと。軸はインテリで、いろいろ変化できていったらいいなって思っています。 ──目指すべきアイドル像がしっかりあって進んでいる印象も。  はい。そうですね。理想はやっぱり櫻井翔くんなんです。ほんっとに多才で、真面目な顔もあるし、ふざけたりお茶目なアイドルっぽいときもある、っていうのに強く惹かれていて。僕、アイドルってすごい職業だなあと思ってるんです。何でもやるじゃないですか。そんななかでも知性とか品性とかも生かしていろいろマルチにこなすっていうのが、本当に理想のアイドル像です。 ──櫻井さんもされているキャスターを、阿部さんも目標に掲げています。目指すキャスター像は?  生活に溶け込みたいですね。以前はずっと、「いってらっしゃい」を言いたいって考えていたんですけど、「おかえり」もいいなって。その人から始まるのでも、その人で終わるのでも、1週間の中でこの日に必ずこの人がいる、みたいな存在になりたいかな。ニュース番組は幅広い世代の方が見るからこそ、ふさわしいイメージも必要だと思うので、もっとクイズ番組で頑張んなきゃなとも思ってます。 ──キャスターは当初から目標にしていた?  キャスターというよりはもう、櫻井翔くん的な存在ですね。もちろん、キャスターとしては、ね、もっともっと勉強しなきゃいけないこともあるだろうと思いますし。 ──櫻井さんはキャスターとして、主演ドラマ「大病院占拠」のテーマ「正義とは何か」を意識しているとおっしゃっていましたが、その主題歌でSnow Manの新曲「W」にも「人の数だけ正しさ」という歌詞が。阿部さんも考えることが?  僕は社会が苦手なので、知識が浅い段階で発言するのはちょっと怖いなっていうところもありますが、まずは自分の身のまわりのことから、社会のことも少しずつ勉強していきたいなとは思っています。それこそSDGsとか、言葉は難しそうに見えるけど、できることが多いから。身のまわりに落ちているヒントとかを、ね、自分なりに広げていったりして、ゆくゆくはそういう大きなことも考えていきたいですね。SDGsの目標には平和も入っているので。 ──まさにSDGsや選挙番組に出ていい影響を与えていますが、逆に最近影響を受けたことは?  昨年ドラマ(「NICE FLIGHT!」)で玉森(裕太)くんとご一緒させていただいたんですが、玉森くんが基本的に現場に台本を持ち込まない人で。僕はもう初日は本当に不安で……セリフはもちろんちゃんと覚えて入ったつもりなんですけど、精神安定剤代わりに台本を持ってたんです。でも、いやこれはダメだと思って、それからはマネジャーさんに持ってもらって、できるだけ開かないようにしましたね。そういう現場が本当に初めてだったので、先輩を盗み見て、というわけじゃないですけど、得るものがありました。 ──ドラマといえば、次にやってみたい役は? 「NICE FLIGHT!」はだいぶ自分と重なる部分があって、そのぶんやりやすさはあったんですけど、今度はもうちょっと自分の性格から離れた役をやってみたいという気持ちがあります。例えば、オタク気質とか、ちょっと寡黙とか。 ──ちなみに、20代のうちにやりたいことは?  あー、確かに今年30になりますからね。えー、なんだろう……「週刊朝日」で表紙を飾る、じゃないですかね(笑)。 ──3月15日、新曲「タペストリー/W」が発売に。 「タペストリー」は目黒(蓮さん)・渡辺(翔太さん)が最初に歌ってからのスピードアップがポイントですね。あそこでドキッとするんですよ。ちょっとゆったり始まるのかなと思いきや、だいぶテンポがいい。けどすごいしっとりとしてるっていうの、ちょっとグッとくるかなって思います。 ──阿部さんが歌う2番Bメロが話題です。  うれしいです。僕は普段けっこう低いパートを担当することが多くて、サビも下ハモを歌うことが多いんですけど、今回はすごく高い音があって。地声では高い音が出ないので、Bメロの「自分が消えてしまわぬ様に」はファルセットで頑張ってるんですけど、この音この人から出るんだって思っていただけたら。なかなか聞かない僕の声だと思うので、楽しんでもらいつつ、メンバーそれぞれが前に歌っていた人からパスもらって次の人に渡していく、つながっていく歌い方にもぜひ注目してもらいたいです。 ──「タペストリー」で「全てを投げ出してもいいから」という歌詞が。そう思ったことはある? 「それSnow Manにやらせて下さい」っていう冠番組が、この春からゴールデンタイムに進出するんですけど(金曜20時から1時間番組として全国放送決定)、ここからがむしろ勝負だなって思っていて。だからまさにいまが、この言葉の気持ちかもしれない。“それスノ”のゴールデン化と全国化は、どっちも叶(かな)えたい夢だったんですよ。どっちが先に叶うかねーみたいな話をしていた3日後ぐらいにその話が出たので、すごくうれしかったです。せっかくここまで来たからには、長く愛される番組にしたいと思います。 ──「W」の歌詞にちなんで、「生きる意味」は?  CM(ユーキャンで出演中)で、学ぶことは生きること、って言っちゃってるんですけど(笑)、まさに間違いなく死ぬまで勉強だと思ってます。僕はすごく受験の勉強もしたし、クイズ用の学術的・学力的な勉強もしているし、生きるための術、例えば上座の場所を覚えるとか(笑)も、大切になってくることもあるじゃないですか。本当に一生ずっと勉強で、かつ自分の覚えた知識は誰にも奪えない財産だと思っているので、どれだけ蓄えられるか、経験値も含めてどれだけ得られるかっていうのが、人生を豊かにするポイントなのかなって思います。※週刊朝日  2023年3月31日号

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    宇野昌磨「成長する感覚味わっていたい」 勝利を重ねて思う“今すべきこと”

     グランプリシリーズスケートカナダ、NHK杯、グランプリファイナルと勝利を積み重ねてきた宇野昌磨選手。3月にさいたまスーパーアリーナで開幕する世界選手権に挑む。AERA 2023年3月27日号から。 *  *  * ――今季のフィギュアスケート男子の主役は、間違いなく彼だ。宇野昌磨(25)。グランプリ(GP)シリーズのスケートカナダとNHK杯を2連勝し、昨年12月のGPファイナル(イタリア)で初優勝。全日本選手権では5度目の優勝を果たした。  3月22日にさいたまスーパーアリーナで開幕する世界選手権では、日本勢初となる連覇がかかる。彼を阻むものは、今のところ見当たらない。「孤高」の王者が挑むのは、自分自身だ。 宇野昌磨(以下、宇野):もちろん、(連覇を)期待されていることに応えられる演技をしたいと思っています。けど、まず一番はケガをしないことだと思っています。万全な状態で試合に挑みたい。  日々の練習は絶対におろそかにせずやると思うので、そこはあまり心配はしていないです。気合を入れすぎてケガをしないように。それ以外は、何も考えなくても僕は絶対にやると思っています。 ――今季は10月のジャパンオープンから「無敗」で走り続ける。  宇野:それは偶然でもあり、偶然じゃない部分もあります。「偶然」というものを日々の練習で偶然じゃないものにしているのは、自分の成果だと思うんです。けど、フィギュアスケートは一発なんです。本当に一発勝負で、どれだけすごい選手でも失敗したら順位は落ちてしまう。いかに失敗しないパーセンテージを上げていくのかが、日々の練習からつながってくると思います。 ■失敗を恐れない理由  その一方で、あまり失敗というものを恐れていないのも事実です。今25歳で、20年間もスケートをやっているからなのか、あまり失敗を恐れなくなりました。実際に失敗しても、皆さんが思っているほど、大きなものを失うことはないと思う。  それは、周囲の方やファンの方々が、これまで僕が失敗してきた中でも応援してくださったり支えてくださったりして、それを経験したからこそ言えることだと思うんです。 ――「失敗」を恐れない。その意味で、5度目の優勝を果たした全日本が象徴的だった。フリーの前半に予定していた2本の4回転ジャンプに失敗し、後半にギアを上げた。宇野の顔つきが引き締まり、三つの連続ジャンプを今季初めて決めてみせた。 宇野:前半二つの失敗は、僕の気持ちを変えました。サルコーは仕方ないなと思っていましたけど、フリップは練習からずっとできていたので、気をつける部分が曖昧(あいまい)だったというか。ジャンプを跳びにいく時に気をつけないといけない部分が、成功しているのをいいことにちょっとおろそかになりました。 ■レベルを上げる感覚  僕の良くないところではあるんですけど、自分の番が来る前に全員の演技を見るんです。そして、「どんな演技をしたら優勝する」とか、演技中にもだいたい考えながら演技をしてしまうところがあるんです。前半二つ失敗したからこそ、「後半頑張らないといけない」と思っていました。前半にジャンプを成功していたら、後半は絶対に連続ジャンプは跳んでいなかっただろうなと思います。僕の良くないところだなと思いますけど……。 ――逆境を力に変える能力もある一方で、慎重な面も。一見相反するようだが、頂点に近づくための流儀。まじめに真摯(しんし)にスケートと向き合ってきた宇野だからこそなせることだろう。 宇野:何をもってまじめかはわからないですけど、僕は別にまじめな性格ではないですよ(笑)。もともと人の目を見計らってさぼったりするタイプだと思いますし。ただ、怖くてそういう度胸がないから、してこなかっただけです。今となっては、本当にゲームでいう“レベルを上げる”感覚で、その感覚がすごく楽しくてスケートをやっています。  だから、フィギュアスケートの魅力というものを僕自身がまだ言語化できないんです。もっともっとやっていく中で、フィギュアスケートの魅力が自分の中で見つかりそうな気もします。でも、まだまだ今はトップで争うことだったり、日々自分が成長する感触を味わったりしていたいんです。  自分の体と向き合って、練習したことがしっかり結果に反映されるのがスポーツのあり方だと思います。フィギュアスケートは技術や表現力、芸術性もありますし、求めるものによって考え方は変わると思います。  ただ、僕は競技者である以上、今はジャンプを頑張らないといけないという気持ちですね。もっと表現面を頑張りたいという思いもありますけど、それは競技者をやめてからなのかなとか考えてしまいます。 ■まだやれることある ――北京五輪金メダルのネーサン・チェン(米国)を筆頭に、時代は4回転の全盛期とも言える。頂点に立つためにジャンプを追究する日々はこれからも続く。 宇野:今できているジャンプでも、練習していく中でいろいろな発見があったり、成長したりしている部分があります。この1年でも明らかにジャンプの成功率が上がったりもする。昨季のジャンプと今のジャンプを比べても跳び方がどんどん良くなっているのが、動画を見ていてもわかる。いま跳べているジャンプの中にも、まだまだやれることがたくさんあると感じています。  4回転の種類を増やすのも視野に入れながら、練習はしていきたいなと思います。何をめざして今スケートをしているのかというと、毎日課題を見つけてそれをクリアにする日々を送って、その先に大会というものがあるという感じです。だから、僕にモチベーションのアップダウンはないんです。 ――25歳。頂点を極めた王者なりの悩みも最近出てきたという。  宇野:僕は何をめざしているんだろうな、と思う時もありますね。まったく悲観的なものではなくて、純粋な疑問というか、何をめざしているんだろう?というのはありますね。  絶対いつかは競技生活を終える時が来ると思うんです。大きなケガをするとか、トップにかなわないくらい周囲の成長が著しくなるとか、年齢とともに技術力が落ちるとか……。その後に、自分が何をするのかなとか考えてしまうこともあります。 ■自分が何をすべきか  そうした時、今、自分は何をすべきなのかなというのは、ちょっとずつ考えるようになりました。まだ何も行動には移していないんですけど(笑)。僕があまりにもフィギュアスケートという競技だけにしか向き合ってこなかったので、もうちょっと視野を広げて、自分のためにもいろいろな道を考えていくことが必要なのかなと。そういうことを今季、考えることが多くなりました。  それは立場的な問題もあると思います。今まではずっと上を追いかける立場で、ただただ追いかけるだけでよかった。でも今は、自分が引っ張ることができているとは思ってはいないですけど、そういう立場に立たされたからこそ、考えるようになったのかな、と。  でも、僕にはやりたいことがなさすぎるんですよね……。何かしたいというものが。もし見つからないのであれば、せっかく今まで培ってきたフィギュアスケートを無駄にするのはもったいないなと思います。 ――宇野の澄んだ瞳の中には、世界の頂点以上の何か──。無限の可能性が広がっているようだ。 (構成/朝日新聞スポーツ部・坂上武司) ※AERA 2023年3月27日号

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    「2時間ドラマの女王」片平なぎさ ついにシリーズ最終回で恋も決着

     漫画家&TVウォッチャーのカトリーヌあやこ氏さんが「山村美紗サスペンス赤い霊柩車39 FINAL~弔の京人形~」(フジテレビ系 3月17日20:00~[シリーズ最終回])をウォッチした。 *  *  * 「山村美紗サスペンス・赤い霊柩車」シリーズがついに最終回を迎えた。30年あまり続いたこのシリーズ、何かと懐かしいものが終わっていく今日この頃なのだ。  京都の葬儀社女社長・石原明子を演じる「2時間ドラマの女王」片平なぎさ。番宣番組でご本人が語っていたが、初期のファッションはまさに「平野ノラ」だ。  前髪くりんのロングソバージュ、ブルゾンは「ガンダムみたいな肩パッド入り」で、そのまんまOK!バブリー明子。  時は流れ、今や片平さんも御年63歳。明子の婚約者で医師の春彦役・神田正輝は72歳だ。明子が知人に「フィアンセの春彦さんです」と紹介し続けて幾年月。  40代も50代も60代もずっとこのままフィアンセなのか。フィアンセ期間のギネス世界記録でも狙っているのか。  と、固唾(かたず)を呑んで見守っていたら、ついに最終回で決着が。京都と東京の遠距離恋愛を続けていた二人、やっと春彦は明子に告げた。 「京都の病院で働くことにした」。遅い、遅いよ春彦。もう定年だよ!  そんなこんなで葬儀社事務員・良恵役にして原作者の実の娘・山村紅葉も62歳。秋山専務役の大村崑はまさかまさかの91歳! そして京都府警の狩矢警部役、若林豪は83歳になる。  葬儀社ミステリーだけど、リアル霊柩車はまだまだ来てほしくない。このおなじみキャストでシリーズ完走できたことに大拍手なのだ。  最終回ではオンライン葬儀が紹介されたり、迷惑ユーチューバーみたいな客がやって来て、動画であることないことを言いふらし、石原葬儀社が炎上してしまったり。葬儀自体が時代と共に変化していく様を実感する。 「明子はんだってこのままずっとやってても、どうもあかんなぁと思うてるんちゃいますか?」という秋山専務のセリフを、思わずこのシリーズと重ねてしまいしんみり。  しかしその秋山を演じるご本人、大村崑さんはまったく年齢を感じさせない若さだ。背筋はシャキーン、滑舌もキレキレだから、もうびっくり。 「一級葬祭デレクター(ディじゃなくデがこだわり)」ならぬ「一級健康デレクター」なの?  どうしたらこんな元気ハツラツな91歳でいられるのか。今からオロナミンC飲むべき? カトリーヌあやこ/漫画家&TVウォッチャー。「週刊ザテレビジョン」でイラストコラム「すちゃらかTV!」を連載中。著書にフィギュアスケートルポ漫画「フィギュアおばかさん」(新書館)など※週刊朝日  2023年4月7日号

    週刊朝日

    17時間前

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    「オータニ」が必要だった3月 女性支援団体Colaboを「とても楽しそう」に攻撃する男たちに言葉失う

    作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、「オータニ」の凄さについて。 *   *  *  今月、私が一番発した言葉は「オータニ」かもしれない。  圧倒的なあのきらめきはいったい何だろう。BTSを初めて見たときに、「想定を超える未来って存在するんだな」と、その未来感、その希望的存在に衝撃を受けたものだけれど、BTS(7人です)=1オータニ……くらいの単位で、今のオータニは眩しい。オータニの横に並ぶと、あのダルビッシュにすら影が見えてしまう。光って凄いな……と思います。  なにより凄いのは、「日本はおかしい。なぜ連日、トップニュースがWBCなのか?」とメディアへの義憤にかられる女友だちですら、「オータニは好きだけどね」とひとこと言わずにはいられないことだ。ふだん「信用できるオトコなんていない」と、男性への不信を語るフェミ友ですら、恐る恐る「オータニってどう思う?」と聞いてみれば、「いいよね!!!」と顔が明るくなる。もちろんそれは「野球の腕が凄い」ということではなく、「何だか分からないけど、あの人凄い」という称賛である。いったい、これはどういう現象なのだろう。  大谷翔平の凄さとは何なのか……なんてことを考えていたとき、Twitterでトレンドに入っていた言葉に膝を打つような思いになった。 「大谷翔平のただしさと息苦しさ」だ。  思わず声をあげて笑ってしまう。その瞬間にスルスルと理解する。野球に関心などなく、プロ野球は特に苦手で、マッチョな男集団を怖いと感じる女ですら(私です)、オータニへの好意を語らずにはいられない理由について。  そもそも、これはTwitterで、オータニは「高校生みたいでキモい」「ネオテニー(幼形のまま成熟した状態)っぽい」とか、「欠点がない=人間的魅力がない」「無機質だ、男性のメス化だ、中性化だ」など、オータニの光を前にした男たちが「僕はオータニを認めない」というようなことを口にしたためにボコボコにされる様を見た男性ライターの有料noteのタイトルである。  つまり、オータニは一部の男たちにとり「正しく」、それ故に「息苦しい」存在ということのようだ。ライターの意向は他にあるのかもしれないが、Twitterでは思い思いの解釈でバズったのだろう。なかなかの島国的発言、ホモソ(男性中心社会ですね)の日本男子的な正直な感覚に私には見える。そしてそれ故に……オータニの正しさと、その正しさで焼かれている男たちの存在が見えるからこそ、女はオータニに希望と未来を見いだしオータニを語りたがるのかもしれない。  ある種の男性たちは、オータニが「男というだけでは連帯しないタイプの男」であることを繊細に敏感に見抜いているのだ。どこかで目にした記事だが、オータニは男どうしの下ネタに交わろうとせず、女性を性的に嘲笑する仲間をたしなめたことがあるという。そのエピソードが事実かどうかは分からないが、「そういうこと、オータニさんならあるだろうな」と思わせる説得力がオータニにはなぜかある。根拠はないが、なぜか、ある。それが先の男性たちの「オータニが性的な成人男性に思えない」発言につながるのだろう。この場合の「男」とは、間違ったことも、キモいことも、不正義も、男どうしならば……と互いに目をつむり許しあえる、ぬるい男湯で生きられる日本の男ジェンダーのことである。オータニはそのぬるま湯には入ってこない、そもそもそのぬるま湯が嫌なのでは……というのが伝わるからこそ、ある種の男たちはオータニに傷つくのかもしれない。  と、野球に全く関心ないくせに、エラソーにオータニさんを語ってしまってすみません。でも私には今月、オータニが必要だったのだ。  今年に入ってから女性支援団体Colaboへの誹謗中傷が激しさを増している。私も何度か歌舞伎町に通い、この目でColaboを攻撃する男性たちの姿を見てきた。「女性を尊敬してます~」とヘラヘラし自慰行為のフリをする男性、「帰れ!」と抗議する女性たちに「バレンタインだから」とチョコレートを無理やり渡そうとする男性、「公金チューチュー」と楽しそうに罵倒する男性、「ババアか? 気持ち悪いんだよ、ババア」とババアババアを連呼する男性……。デマからはじまったColabo叩きは、東京都が助成金の過払いはなく、返還請求は行わないことを明らかにした今も熾烈化している。都は「安全が確保できない」として、Colaboが新宿区役所前で続けてきたバスカフェの中止を要請した。中止はきっと妨害者たちの成功体験になってしまったことだろう。  私が本当に驚くのは、彼らが「とても楽しそう」なことだ。女性を罵倒し、性的なことを言ってはゲヒヒと笑い、女性が真剣に怒れば怒るほど楽しげに振る舞うことだ。オンライン上に溢れる匿名の下卑た連帯が、そのままリアルに目の前で動く衝撃は、やはり強い。女性たちが少女を支援する現場にわざわざやって来て、女虐めの「悦楽」に浸る男たちを目の前に、凄い世界になったと言葉を失う。苦しいのは、彼らが「特殊な一部の先鋭的な集団」に思えないことでもある。実際に行動に移すのは一部の人たちであるとしても、彼らが街に繰り出すまでの煽りの空気は、十分にもうこの社会にある。陰湿に女性を排除してきた社会がじわじわと育ててきた結果だ。  そんな世界から自分の心を取り戻すために、今月はオータニが必要だったのかもしれない。ミソジニーでホモソーシャルな空気をまとっていない(ように見える)オータニさんの“正しさ”に、ようやく深い呼吸ができた。男どうしの「な?」が通じそうもない男に、ある種の男たちが感じる不安の正体を知ることもできた。そして、そんな男どうしの「な?」の通じない世界の風通しの良さを私は心から願っていて、その象徴にオータニさんがいたのかもしれない。女虐めを悦楽にする男たちの下卑た笑いをオータニの最強の光で燃やしてくれればいいのにな。まじで、オータニさんがいなければ3月を乗り切れなかったかも。ありがとう、オータニ。そして東京都は、Colaboのバスカフェ、再開を認めてください。

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    天龍さんが語る“プレゼント” ジャイアント馬場からの贈り物はまさかの「年金」! 

     9月に「環軸椎亜脱臼(かんじくつい あだっきゅう)に伴う脊髄症・脊柱管狭窄症」であるということがわかり、現在は入院してリハビリ中の天龍源一郎さん。今回は入院先から主治医の許可をもらいながら、プレゼントにまつわる思い出を語ってもらいました。 * * *  プレゼントと言っても、俺は相撲時代、スポンサーやタニマチにいい顔をしていなかったから、ほかの力士と違って、たいしてプレゼントをもらってないんだよ。  そんな中で、相撲時代にもらったものといえば、化粧まわしに尽きるね。前にも話したことがあると思うが、俺の場合は21歳のときに十両に上がったその場所で、地元・福井の後援会の人達が手配してくれたんだ。  ところが、化粧まわしの代金の支払いが遅れていたらしく、場所が始まっても肝心の化粧まわしがなかなか届かなかったんだ。「代金は自腹で払うしかないのか……」と100~200万円の金の算段をし始めた  13日目にようやく届いてね。そのときは嬉しかったよ! 初めての化粧まわしは、四股名にちなんで登り龍がデザインだ。まあ、当時も“龍”がつく四股名の力士は俺以外にも多かったから、インパクトはそんなに無かったけど(笑)。それ以降もいくつか化粧まわしを作ってもらったけど、デザインはだいたい登り龍だね。  化粧まわしは、引退後は作ってくれた人にお返ししたり、誰かにプレゼントしたりした。俺だけじゃなく、化粧まわしは作ってくれた人にお返しすることは多いんだ。それでもいくつかは倉庫にしまっていたり、少しは手元に残っているものもある。廃業してちゃんこ屋をやっている人とか、自分の店に飾ったりしているだろう。俺も寿司屋をやっていた頃は店に飾っていたよ。やっぱり、普通の人からしたら珍しいから、お客さんも喜んでいたね。  全日本プロレスに入って、最初にジャイアント馬場さんからもらったのは、馬場さんが着なくなった服なんだけど、俺でもサイズが大きくて、どうしようもなかったね(笑)。  そんな馬場さんからのプレゼントで大切にしているのは、モノではなくプロレスラーとしての姿勢を教えられたことだ。直接「プロレスラーとはこうあるべき」というものではなく、馬場さんの何気ない仕草や態度を見て覚えたもんだよ。  例えば、飯を食うときも常にファンに見られていることを意識して、立ち食いそばなんか食べない。ホテルに行ったらレストランできちんとしたものを食べる、ケチらないということだったり。俺も相撲上がりだから馬場さんの考えはカッコいいなと思ってマネするようにしたんだ。だから俺は引退するまでファミレスやコンビニに全くといっていいほど行ったことはない。  実際に行ってみるとファミレスもコンビニもなかなかいいところだし、コンビニのホットスナックは美味しいよね(笑)。馬場さんは「プロレスラーとしてこうしろ」と口うるさく言わないタイプだから、周りのレスラーはそんなことしていなかったけど、威厳を落とさないという姿勢は馬場さんからもらった大切なもののひとつだ。  馬場さんはニューヨークでトップを取ったから、アメリカナイズされていることを匂わせていたと思う。「俺は田舎じゃなくてニューヨークでメインを取っていた」という雰囲気をプンプンさせていたよ。アメリカ時代に培ったトップとしての振る舞い方をしていたね。  そんな馬場さんからもらったもので、一番なのが「年金」なんだ。全日本プロレスのレスラーは俺も含めてみんな知らなかったのだが、実は所属している期間、馬場さんは会社としてみんなの厚生年金を払っていてくれていたんだ。当時は年金のことなんて全然考えていなかったし、そもそも個人事業主としての契約だと思っていたから、そんなことをしているとはまったく思わなかったよ。  俺もほかのレスラーも年金をもらう歳になって初めて気が付くんだ。今でも数万円の年金が入り続けていて、本当にありがたいことだよ。グレート小鹿ともこの年金のことで話をしたことがあって、そのとき小鹿は「そうなるまでいろいろあったんだよ……」となんだか含みを持たせた言い方をしていたが。俺はどんなことがあったのか知る由もないが、今となっては年金が馬場さんからの一番のプレゼントだ。  俺がプレゼントをもらった相手は、昨年亡くなった妻のまき代がやっぱり多いし、印象的なものもすべて彼女からのものだ。思い出深いプレゼントはいくつかあって、ひとつは、まき代が「駐車場まで来て」と言うから行ってみたら、ベンツの300クーペが置いてあったこと。これはさすがにびっくりしたよ。  当時は国産の車に乗っていたんだけど、ジャンボ鶴田がベンツに乗っていたのを見て、プロレスラーとしてはこれくらいのクラスの車に乗らないと、恰好がつかないと考えたんじゃないかな。SWS時代は同じように「駐車場まで来て」と言われて行ってみたら、ベンツ560SECが停まっていたこともあったね。まき代からのプレゼントはいつもサプライズで、彼女は本当に人を驚かせるのが好きなんだ。  車以外で印象的だったのは腕時計。俺がいつも「馬場さんがプラチナのロレックスをしていてさぁ」なんて、ことあるごとにまき代に話していてら、誕生日に「はい、これ」って同じ時計をプレゼントしてくれたこともあった。  馬場さんが買った当時は1000万円くらいしたようだから、かなり高価だよ。本当は1000万円もする腕時計をはめる必要なんてないのに、さすが「天龍源一郎を一等賞にする」と公言した女房だ。そのロレックスも寿司屋の経営が悪くなって手放しちゃったけど、もったいないとは思わなかった。それでまき代の負担が少しでも楽になるといいなという気持ちが強かったからね。  だから、俺がもらった一番のプレゼントはまき代が俺の嫁になってくれたこと。それが最高のプレゼントだ。結婚当初は俺もやんちゃでいい加減だったけど、それでもずっと家庭を守ってくれて、子どもを育ててくれて、本当に俺は幸せだったと思う。まき代の男前さには誰も勝てないよ。  彼女のそんな姿を見ていたからか、娘の紋奈が一度もプロレスラー天龍源一郎のことを嫌うことがなかったことも嬉しいし、俺にとっての大切なプレゼントでもある。紋奈が小学生のころは「プロレスなんて八百長だ」とか、よくイジメられていたんだけど、イジメられても一人で怒って立ち向かっていたんだって。  娘のそんな姿を見ると俺も勇気づけられるし、プロレスなんて八百長といってしまえばそうかもしれないが、娘を見ていると、それ以上のものがプロレスにはあって、彼女たちにも大きな影響を与えてくれているんじゃないかと思うんだ。家族は俺にとっての最高のプレゼント。皆さんもにもそれぞれ思い出のプレゼントがあると思うけど、大切にしてください! (構成・高橋ダイスケ) 天龍源一郎(てんりゅう・げんいちろう)/1950年、福井県生まれ。「ミスター・プロレス」の異名をとる。63年、13歳で大相撲の二所ノ関部屋入門後、天龍の四股名で16場所在位。76年10月にプロレスに転向、全日本プロレスに入団。90年に新団体SWSに移籍、92年にはWARを旗揚げ。2010年に「天龍プロジェクト」を発足。2015年11月15日、両国国技館での引退試合をもってマット生活に幕を下ろす。

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    「立憲は大変な候補者出してきた」山口4区に有田氏参戦 安倍昭恵氏「主人の遺志継ぐ人を」

     衆参5補欠選挙が、4月11日に告示される。昨年7月、安倍晋三元首相が凶弾に倒れ、空席となった衆院・山口4区に、前参院議員の有田芳生氏(71)が立憲民主党から立候補することを表明した。当初は、安倍元首相の「弔い選挙」で“無風”と見られていたが、有田氏の立候補表明で世界平和統一家庭連合(旧統一教会)の問題が争点になりそうだ。  安倍元首相の銃撃事件以降、旧統一教会の霊感商法や献金問題がクローズアップされたのを受け、昨年末の臨時国会で不当寄付勧誘防止法(被害者救済新法)が成立した。世論の盛り上がりも一時に比べ、落ち着きを見せてきたなかでの補欠選挙。  自民党は山口4区で、安倍元首相の後援会が推す前下関市議の吉田真次氏(38)を公認すると2月10日に発表した。吉田氏は、安倍元首相が使っていた場所で事務所開きをし、「安倍元総理の思いをしっかり引き継いでいく」と安倍元首相の後継であることを強く訴えた。安倍元首相の妻・昭恵さんも知名度を生かし、吉田氏とミニ集会にも参加。「主人の遺志を継いでくれる吉田氏を応援してほしい」と訴えているようだ。  吉田氏の公認が発表された以降も、野党は山口4区の公認候補がなかなか決まらない状況が続き、当初は“無風”との見方が強かったが、有田氏の立候補表明で局面が変わった。  自民党としては、沈静下していた旧統一教会の問題が蒸し返され、争点になるのは避けたい算段だったようだが、有田氏は出馬表明の会見で「旧統一教会と安倍元首相の長期政権の審判が争点」などと強調した。  自民党の山口県連のある幹部は、「立憲民主党は大変な候補者を出してきた、というのが正直なところ」と語った。  有田氏は、フリーのジャーナリストとして約40年も前から旧統一教会問題を追及し、昨年7月まで参院議員を2期務めた。  立憲民主党の大串博志・選対委員長は、 「昨年夏に参院選が終わり、しばらく国政選挙はないと見られていたなかで、補選が衆参で計五つもある。野党としてなんとか一矢報いたい。とりわけ安倍元首相の地元、山口4区は保守王国ということもあり、候補者を探したけど手を挙げる人がいない。そうした状況のなか、1月末に私が直接有田氏に『旧統一教会問題を訴えるには最高の場ではないか』と出馬をお願いし、決断していただいた」  と党本部主導の擁立だったと明かした。  さらに、自民党にとって山口4区は、野党との戦いとは別に党内の派閥争いもはらんでいる。  山口4区で有権者が多いのは、人口25万人ほどの下関市だ。安倍元首相の地盤だったが、林芳正外相も下関市が「おひざ元」と公言してはばからない。  中選挙区制の時代は、安倍元首相の父、安倍晋太郎元外相と林外相の父、林義郎元蔵相(現・財務相)が激しく争った。  その流れを顕著に表すのが下関市議会だ。自民党会派は「安倍派」といわれる「創世下関」と、「林派」といわれる「みらい下関」という大きな勢力に分かれている。  今年2月の市議選で、安倍派は9人から6人に減ったが、林派は12人から13人に増えた。山口県は次の総選挙では小選挙区の区割り変更「10増10減」で四つの小選挙区が三つになる。  山口4区は山口3区と一体となるような区割りとされ、外相という要職を務める林氏が新山口3区の候補者として有力視されている。  ただ、今回の補欠選挙は「10増10減」の対象にならず、現行のままなので吉田氏が公認となる複雑な状況だ。 「勢いの差というのか、下関市議選では林派が台頭し、親分の安倍元首相を失った安倍派は後退という結果に。その後、林派が議長選でも勝利した。しかし、吉田氏が圧勝すれば、新山口3区に出たいと言ってくるのは間違いない。新山口3区にほぼ内定している林氏としては面白くないでしょう。統一地方選と同じタイミングでの補選だけど、林派はあまり力が入っていない。安倍派も親分がいないので、まとまりに欠ける。そこに有田氏という知名度がある候補者が来たので、選挙戦は楽勝ムードが一転して混沌(こんとん)としている」(前出・自民党山口県連幹部)  2月26日の自民党の党大会で、岸田文雄首相は総裁として、 「補欠選挙は今後の国政に大きな影響を与えるかもしれない、大変重要な選挙。なんとしても自民党の議席を守り抜いていこう」  などと力説した。  支持率低迷にあえぐ岸田政権にとって、補欠選挙はどの選挙区も落とすわけにはいかないが、野党が強い地盤といわれる参院・大分選挙区や、政治とカネの問題で薗浦健太郎氏が辞職した衆院・千葉5区については、厳しい見方をする自民党幹部もいる。 「大分と千葉は厳しい戦いになるでしょう。残る三つをとらなければ、岸田政権の存亡にかかわります。しかし和歌山1区も維新が候補者を擁立したので激しい争いになります。もし負け越しとなれば、岸田降ろしの序章となりかねません。岸田首相が前倒しで救済新法を成立させて沈静化したのに、山口4区に有田氏が出馬することで再び旧統一教会問題がクローズアップされ、政局になる危険性もはらんでいます。それが起爆剤になって、旧統一教会問題がまた広がって大騒ぎになり、統一地方選でも結果が出なければ、岸田政権が瀬戸際に追い込まれかねません」  と険しい表情だ。有田氏は、 「(自身の出馬で)選挙が面白くなってきたでしょう。旧統一教会問題は救済新法ができたといってもまだ終わったわけじゃない。山口4区で旧統一教会問題を語ることがタブーともされています。しかし私は旧統一教会問題を争点に掲げて、積極的に訴えていきます」  山口4区には、吉田、有田両氏のほか、政治家女子48党幹事長の黒川敦彦氏(44)も立候補を表明している。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    工藤、古田、吉井…侍ジャパンの次期監督は誰?「イチロー待望論」は現実的か

     WBCで2009年の第2回大会以来14年ぶりの頂点に立った侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、吉田正尚(レッドソックス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)の活躍、村上宗隆(ヤクルト)の復活劇、チームを一つにまとめたダルビッシュ有(パドレス)の献身的な姿勢がフォーカスされたが、栗山英樹監督の功績を忘れてはいけない。  スポーツ紙デスクは、「栗山監督でなければ、ヌートバーを招集するという選択肢は思いつかない。ダルビッシュ、大谷も栗山監督のためにという思いは強かったはず。短期決戦では不調の選手を起用し続けると致命傷になるケースがありますが、村上を最後まで信じて代えなかった。気配りの人で、全ての選手、コーチ陣、裏方を含めたスタッフを大事にしていた。米国との決勝戦を終えて出場機会が少なかった牧原大成(ソフトバンク)に謝っていた姿が印象的でした」と振り返る。  気になるのは次期監督だ。栗山監督の続投を望む声は多いが、今月27日に都内の日本記者クラブで会見を行った時、「もし『やってくれ』と言われたら、もちろん考えますけど、野球でまず自分が留まってはいけないと思っている」と語った。  栗山監督が退任した場合は、次期監督を選定しなければいけない。最有力候補と目されるのが、工藤公康氏だ。15年から21年までソフトバンクの監督を務め、3度のリーグ優勝、5度の日本一に輝いた。短期決戦の強さに定評があり、勝負に徹した柔軟な選手起用で知られる。また、元ヤクルト監督の古田敦也氏も候補の1人だろう。アマチュア時代にソウル五輪で銀メダルを獲得。ヤクルトでの現役時代は野村克也監督の下、「ID野球の申し子」と形容されて球界を代表する名捕手として活躍した。今春にはダイヤモンドバックスで臨時コーチを務めている。  侍ジャパンで投手コーチを務めたロッテ・吉井理人監督、リーグ連覇を飾ったヤクルト・高津臣吾監督、オリックス・中嶋聡監督もふさわしい人材だが、否定的な見方を示す球界関係者もいる。 「NPBの監督と代表監督の兼任は大きな負荷がかかる。現実的ではないでしょう。09年の第2回大会で巨人の原辰徳監督が侍ジャパンの監督に就任しましたが、あの時は08年の北京五輪でメダルを逃した星野仙一監督の続投路線に世論が反発し、監督人事が白紙に戻った経緯がある。12球団を回り、じっくりチームを作るためにもNPBの現役監督は選ばれないでしょう」  知名度や国際舞台での実績を踏まえ、有力候補がもう一人いる。マリナーズの会長付特別補佐兼インストラクターのイチロー氏(49)だ。その名は米国でもレジェンドとして知れ渡っている。現役時代はメジャーで2度の首位打者を獲得し、04年にシーズン安打となる262安打をマーク。10年連続200安打の大記録を樹立した。走攻守3拍子揃ったプレースタイルで日米通算4367安打を積み上げた天才打者は、WBCでの活躍も印象深い。06、09年とWBC連覇に大きく貢献。09年は打撃不振に苦しんだが、決勝・韓国戦で同点の延長10回2死二、三塁の好機に決勝打となる2点中前適時打を放った。大谷、村上は少年時代にこの場面が強く印象に残ったことを明かしている。全国の野球少年、野球少女が心を揺さぶられた一打だった。  イチロー氏が侍ジャパンの監督に就任すれば、日本列島がいまだかつてない盛り上がりに包まれるのは間違いないだろう。一方で懸念材料もある。MLB、NPBで監督としての経験がなく、指導者としての手腕は未知数だ。  イチロー氏は19年3月に引退会見を行った際に「監督は絶対無理ですよ。絶対がつきますよ。人望がない。本当に。人望がないですよ、僕」と語っていた。スポーツ紙記者は「イチローさんはアマチュア野球の普及に熱心で、プロの世界で監督というのは現実味がわかない。ただ、侍ジャパンの監督として打診を受けたら、受諾する可能性はゼロではない。日の丸をつけて戦うことは大きな重圧を伴いますが、かけがえのない経験ですから」  栗山監督が続投するか、それとも――。侍ジャパンを託す監督の動向が注目される。(今川秀悟)

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    羽生結弦「希望」のアイスショー 「自分の幸せを削ってでも、全てを背負って進んでいく」

    「羽生結弦 notte stellata」が3月10~12日、東日本大震災から12年に合わせて開催された。羽生さんが地元・宮城で伝えたのは「希望」だった。AERA 2023年4月3日号の記事を紹介する。 *  *  *  満天の星が氷上と大画面に映し出され、ショーのタイトルでもある「notte(ノッテ)stellata(ステラータ)(星降る夜)」の音色が響く。羽生結弦さん(28)のソロからスタートするという豪華演出に、歓声が湧き起こった。 「今回は『希望』というテーマが一つ大きなもの。オープニングで、スクリーンに3.11の頃の星空を出していただいて『星空から出てきた希望とともに今まで滑ってきたんだ』ということを感じながら滑らせていただきました」  自身も被災した2011年3月11日の、停電した仙台の夜空に広がった満天の星。羽生さんがその時に感じた希望がショーのコンセプトだ。総合演出のデイビッド・ウィルソン氏と、震災への複雑な思いを希望という前向きなテーマとしてどう発信していくか綿密に打ち合わせた。 「オープニングで僕が演じたあと、星が降ってくるような形で流れ星のように今回のキャストのスケーターさんたちを見せたい、とデイビッドさんと話しました。僕の『notte stellata』と、その後に続くオープニングが一つのプログラムとして見える感覚になっています」 ■内村航平さんとコラボ  共に演じるのは縁ある8人のゲストスケーターだ。仙台生まれの本郷理華さん(26)、大学時代に仙台を練習拠点とした鈴木明子さん(37)は鎮魂の思いを込めた。18年平昌五輪に羽生さんと共に出場した宮原知子さん(25)は耽美(たんび)な滑り。米国のジェイソン・ブラウンさん(28)は世界選手権(22~26日)直前にもかかわらず友情出演し、SNSでコメントした。 「ゆづ、このとくべつなショーで滑る機会を与えてくれてありがとう。あなたの心と闘志が私を奮い立たせます」  そして「希望」のテーマを強く発信した新しい取り組みがあった。それは体操界のレジェンド内村航平さん(34)とのコラボレーションだ。五輪を連覇したカリスマ同士の共演である。 「普通のアイスショーではないことをしたいという企画のなかで、内村さんとのコラボの話が出ました」  第1幕の最後、金の刺繍(ししゅう)が胸元にほどこされた黒い衣装で2人は登場した。内村さんが円馬で旋回を始めると、羽生さんは同時にコンビネーションスピン。回転が見事にシンクロし、会場からどよめきが起きた。 ■「試合感もありました」  羽生さんは一気に加速してジャンプコースに入っていく。内村さんも助走を始めた。羽生さんは4回転トーループを、内村さんは伸身の2回転ひねりを決めた。羽生さんはこう語る。 「なんか試合感もありました。僕自身は4回転を跳んで、内村さんも本気の技を繰り出してくださって。床とスケートリンクという場所は違うんですが、エネルギーが増幅して、支え合って、ぶつかって、みたいないろいろな力の掛け合わせみたいなものが見えました」  昨夏のプロ転向の会見で「競技会としての緊張感を味わってもらえるようなことをしたい」と話していたとおりだった。  お互いの刺激も大きかった。内村さんは、羽生さんの集中力に接した。 「本番前、2メートルくらいの距離感で、五輪や世界選手権の試合前の羽生くんが集中している、あの感じを生で見られて、『本当に全力なんだな』って。誰に対しても全力で、自分の思いをしっかりぶつけられる人間だなと感じました」  羽生さんも、内村さんに対して感じるものがあった。 「同じオーラを持っている人だな、とすごく思いました。競技とか技とか、そういう枠を超えて人を引きつけるカリスマ性的なもの。単純な言葉にすると、かっこいいなって思いました」 ■希望となりますように  3月11日をまたぐ3日間で開催されたこのショーにとって、もっとも深い意味を持つ場面がフィナーレだった。初日はMISIAの「希望のうた」、GReeeeNの「道」のあと、羽生さんはマイクを握った。 「もうすぐ、あれから12年という時が経とうとしています。これからの人生でも、つらいこと、幸せなこと、苦しいこと、悲しいこと、寂しくなること、いろいろなことがあると思います。今日という日が、僕らの星みたいに輝いてくれたプログラムたちが、皆さんにとって少しでも希望となりますように」  震災当日の11日は様子が違った。演技中、羽生さんは幾度も氷を手で触れ、最後のあいさつでは声を詰まらせた。会場であるセキスイハイムスーパーアリーナは、震災時に遺体を安置する場所として使われていたのだ。 「ここは宮城県民、仙台市民、そして全ての人々にとって本当に特別な場所です。ここに氷を張って、3月11日という日に僕が演技をしてしまってよいのだろうか、という戸惑いはすごくありました。ただ今日、ちょっとでも希望や優しさを感じる時間ができたのではないか、僕が生きて今日という日をこの会場で迎えることができたのは少しでも意味があったのではないか、と自分を肯定できます」  同日、会場に隣接して置かれた献花台は黙祷(もくとう)を捧げる人であふれた。この日にこの場所でショーを行ったことの重みを物語っていた。 ■「全てを背負って進む」  12日の千秋楽は空気が一変した。「希望」の意味合いが強くなる。グランドフィナーレ後にはサプライズでBTSの「Dynamite」が流れ、羽生さんが生ダンスを披露。最後のあいさつは笑みをたたえながら約7分間、思いを口にした。 「昨日はあんなに苦しくて、悲しくて、つらい日でしたが、1日経ってみると、悲しさを越えて前に進んでいかなきゃ、僕が暗い気持ちになっていたらだめだと思って頑張ってはっちゃけて、希望になろうと思って頑張りました。(中略)皆さんに希望を届けることができて幸せであると同時に、これからもいろいろなことを背負って、スケートのためだけに日々を過ごしたいと思っています。精いっぱい、自分の幸せを削ってでも、羽生結弦として全てを背負って進んでいきます」  羽生さんが演技にこめた思いは変化していった。初日は新たなコラボレーションへの挑戦も含めた希望への「願い」、11日は自身の「葛藤」、そして12日は「決意」へ。あの日の悲しみを背負い、希望へと変化させ、伝えていく覚悟。28歳の胸に、たしかな魂が宿っていた。(ライター・野口美恵) ※AERA 2023年4月3日号

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