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    75歳以上に安楽死を勧める制度ができたら…落合恵子が考えたこと

     昨年公開のフィクション映画「PLAN75」はリアルな現実と架空の近未来が重なって観る人の心をかき乱した。理由は「75歳以上に安楽死を勧める制度ができたら──」という世界を描いていたから。作家で、クレヨンハウス代表の落合恵子さんに「映画のような社会を現実のものとしないために私たちに何ができるのか」について聞いた。 *  *  * ■「年金生活者も立ち上がっていい」  主役の倍賞千恵子さんといえば、私の世代にとって、1963(昭和38)年の映画「下町の太陽」(山田洋次監督が映画化)をまず思い出します。その方が、いま81歳で主役をされている。素敵に年齢を重ねられていますね。自然な老いによる表面的な変化もそのまま見せておられる。  作品を観て、私は「政治や社会から自らの最期を押し付けられることはお断りします」。そう、改めて強く感じました。人は誰もいつかは死を迎えますが、私はそれを国に管理されたくない。可能な限り、自分で自分の最期を決めたい。  私は長年、毎年1月1日に、おおまかに言うと「自然のまま、私を逝かせてください」という内容のリビングウィルを書いています。30代と40代で仲のいい友人を亡くしたときの宿題として、医療従事者や周囲の友人たちが後々「あれでよかったのか」と苦しまなくていいように、私の意思を文書で残しています。  弱者をないがしろにするような政治が続いて、生きにくさを感じる社会ですよ。私が国葬反対、原発反対、改憲反対とデモに参加しているのは、民主主義の基本である、私たちひとりひとりが社会に参加しているのだ、という感覚を確認したいからでもあります。 「パンとサーカス」という言葉があります。権力者は市民にわずかな食料と娯楽を与えておけばいいという意味ですが、私は「パンは自分で作ります、タネから。サーカスも勝手に示さないでください。自分たちで考えます」と。そうしないと、結局は政治や制度にからめとられてしまいます。  若い人たちにもっと声を上げていただきたいし、年金生活者も、もう少し立ち上がってもいいと思うんですよね。社会を変えることは大変ですが、私は「まだ、やってるよ」と言われる一人でいいのです。  昨年、国葬反対のデモの帰りに転んでしまって。医師に「なんて強い骨なんだ!」と褒められるほど、何でもなかったって喜んでいたのですが、寒くなると痛むようになって。老いは日々感じます。  でも、「だから、デモには行かない」というのはできないな。  ただ、ちょっとだけ「体も労わりなさい」って、自分の体から教えてもらう。体からの教えは贈り物と思っています。  最期まで生きていくために必要なことのひとつは、悔しいけど経済力ですよね。でも、大好きだったお年寄り(私も年寄りですが)が言っていました。「棺おけに持っていけるのは、菊の花だけだよ」。最後にプラマイゼロになればいい、と私は考えています。  そのために、みんなが、あるいは、みんなで、分かち合えるかどうか。分かち合うことは奪われることではない。分かち合うことがスムーズに機能しない社会では、すぐに自己責任という言葉が登場し、問われます。  昨年12月、クレヨンハウスの東京店は表参道から吉祥寺に移転しました。47年目を迎えたクレヨンハウスは、子どもも大人も自分であることに疲れた人の居場所になったらいいなって、空間作りをしてきました。次は小さな教室もやりたい。農福連携のような活動、さまざまな古今東西の本を読む、シュタイナーの教育や絵を描く、何でもいい。  血縁だけではなく、結び縁を大切にしたい。どうして、日本は養子が少ないのか。結び縁の家族があってもいいですよね。そんな結び縁を続けていくことが、この映画に対する答えでもあるのかなと思います。 (医療ジャーナリスト/介護福祉士・福原麻希)※週刊朝日  2023年2月10日号

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。本誌連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    東大理三合格者数トップの高校は? 「学校教材のみで合格」に「入学辞退者」“ハンパない”天才列伝

     日本でもっとも優秀な高校生が入学するといわれる東京大学理科三類。過去60年間で、合格者数トップになった回数が最も多かった高校はどこか。また2022年、初めて1位になった女子校は――。教育ジャーナリストの小林哲夫さんが、理三に合格した「天才」たちのエピソードとともに、過去の合格高校のデータを振り返る。※『改訂版 東大高校合格盛衰史』(光文社新書)から一部抜粋 *  *  *  2022年、東大理三合格者1位は桜蔭だった。同校初、そして初めての女子校トップである。  温故知新。  いまから60年前の1963年はどうだったのだろうか。ランキングを作ってみた。  1位日比谷、2位灘である。同年の東大全体のトップは日比谷で168人、翌年の1964年には193人の合格者を出している。日比谷の全盛期だった。  63年理三合格者92人の出身校は、公立63人、国立10人 私立19人となっている。地方の公立高校が勢いがあった時代である。なお、このとき、いまの理三合格上位常連校の開成、桜蔭が登場していなかった。  2022年、東大理科の合格最低点は理一303点、理二287点、理三348点だった。東大入試では1点のあいだだけで優秀な受験生がひしめいている。同じ東大でも、理三との差が理一で45点、理二で61点だから、これは天文学的な数字のように見えるようだ。東大で他の科類からすれば理三は別世界であり、天才、秀才的な地頭をさらにハンパない努力で鍛えないと受からない、と言われている。実際、駿台予備学校、河合塾の東大模試上位成績者は理三志望者で埋め尽くされる。上位60人ぐらいはそのまま理三合格者となってしまう。  理三に日本でもっとも成績が良い高校生が入る。最先端研究に取り組む、医療現場で命と健康を守るという強い志を持って受験するのが大半だろうが、灘高校の元教員によれば、自分の頭の良さを証明するために理三を受けた。入学後も駿台の東大模試を受けて頭の良さを確かめる者もいたという。   理三は62年から募集を開始した(それ以前は理一、理二から受験して医学部へ進学)。理三合格史60年からエピソードをいくつか紹介しよう。  70年代半ば、宇都宮高校の「進学資料」に理三合格者に記録が残っている。「一年から群を抜いた実力を発揮し、校外模試においても全国の中で常に最上位にあった。一年時から毎日五時間の勉強を確保し、(略)休み中は各教科あわせて十二時間の勉強をした」(『宇都宮高校百年誌』、79年)。87年、大学入試センターは、「共通一次試験のトップは地方の現役の女子高生で792点(800点満点)」と発表した。該当者が1人いた。富山県立富山中部高校の女子生徒Yさんである。彼女は東大理三、京大医学部に合格した(当時はダブル受験が可能)。  02年、山形東から理三合格のKさんは浪人生活が長かった。「僕ほどふざけた人間もいないでしょう。なんせ、7浪ですから。なかなかできることじゃありません」(『天才たちのメッセージ 東大理III 2002』 エール出版)。  04 年、土佐塾高校出身のHさんは現役で理三合格したが入学を辞退。後期試験で京大理学部を受けて合格し入学した。Hさんは中学受験で灘、愛光に受かったが土佐塾へ進む。高校2年、3年の時、数学オリンピックに出場。3年で銀賞(上位4分の1)を獲得する。Hさんはこう話す。「申し訳ないんですが記念受験というやつです。(略)これからは存分に数学の研究をやっていくつもりです。理IIIに合格された人たちも頑張って医学の道を進んでください」(『天才たちのメッセージ 東大理III 2004』)。  08年、盛岡第一から現役で2人が合格した。うち1人、Eさんが語る。「学校がすごく力を入れて指導してくれましたから、ほとんど学校の教材を使って勉強していました」(『天才たちのメッセージ 東大理III 2008』)。東大合格校御用達の鉄緑会もENAもない地方公立高校の理三受験生にとってこれほど勇気づけられることはない。  理三女子二題。13年、豊島岡学園女子出身のAさんが15年に準ミスユニバースに、18年、岡崎高校から入学したWさんがミス日本準グランプリに選ばれた。2000年代以降、理三の女子比率は文一を凌ぐようになる。  そして、22年理三合格者高校1位は桜蔭高校だった。13人を数え桜蔭初、女子校で初のトップとなる。同校出身のIさんは鉄緑会で桜蔭OGの教えを受けていた。そのOGも桜蔭に在学中は鉄緑会に通い桜蔭OGに面倒をみてもらったという。こう話す。「桜蔭と鉄緑会、そして理IIIというバトンがそうやって受け継がれているような気がするので、私もそうやって誰かの目標になれれば嬉しいな、と思っています」(『天才たちのメッセージ 東大理III 合格の秘訣◯37』)。桜蔭、鉄緑会、理IIIという黄金のトライアングルは長く続きそうである。中学受験を含めれば、これにSAPIXが加わるはずだ。  62年から22年までの理三合格者の出身校、合格者数の累計は、設置別に国立大附属13校680人、公立284校1325人、私立152校3352人。合格者数累計の上位校は (1)灘798人(13・1人)、(2)開成396人(6.5人)、(3)筑波大附属駒場362人(5.9人)、(4)ラ・サール329人(5.4人)、(5)桜蔭181人(3.0人)だった(カッコ内は1年平均に換算)。公立高校は、(1)日比谷41人、(2)戸山36人、(3)湘南34人、(4)西33人、(5)旭丘33人。  理三合格トップになった回数がもっとも多いのは、灘43回、開成7回、筑駒4回、ラ・サールと麻布3回、日比谷2回。そして、1つの高校から理三に多く合格者を出したのは、13年の灘だった。27人を数える。灘は81、87年にも24人が合格している。一方、地方の公立高校でふだんは東大に多くの合格者を出していないが、理三合格者を出した学校がある(以下、カッコ内は所在地・合格者を出した年)。倶知安(北海道・64年)、熊毛南(山口・71年)、三島(愛媛・94年)、天草と八代(熊本・66年)、臼杵(大分・88年)、錦江湾(鹿児島・84年)などだ。  少子化は理三に人材を送りだした学校も容赦しなかった。自治体の方針で隣接高校との再編で廃校となった理三合格校がある。千歳(東京・63年)と明正(同・66年)は統合して芦花、長後(神奈川・98年)は藤沢北と統合して藤沢総合、日和佐(徳島・97年)は海南と宍喰商業の2校と統合し海部となった。  東大医学部には推薦で入学できる。ただ、当然その要件は厳しい。「高い基礎学力」「自然科学の領域においてきわめて高い能力」あるいは「非常に優れた語学力」が求められる。そのため、国際科学オリンピック(数学、物理学、化学、生物学など)で「顕著な成績を挙げ」たこと、または「きわめて高い英語の語学力(TOEFL iBT100点以上あるいはIELTS 7点以上に相当する英語力)及び豊富な国際経験」を証明する資料を提出しなければならない。  推薦入試に合格した西大和学園高校の生徒は、選考に挑む際の準備について、次にようにふり返る。「志願書は英語力をアピールするために英語で書き、私は理科系オリンピックの受賞歴がないので、英語力と国際経験の方面で出願。英語力はTOEFL iBTで114点を取った証明書、国際経験を示す資料として、シンガポールの生活やワールド・スカラーズ・カップでの経験をまとめました」(『天才たちのメッセージ 東大理III 合格の秘訣35』)。理三(東大医学部)には日本でもっとも優秀な頭脳が揃う。だが、ノーベル賞受賞者は出していない。それゆえ、しばしば記憶力抜群だが創造性に欠ける頭でっかちと冷ややかな評価がなされ、理三の選抜方法、合格者の資質、大学教育のあり方が問われる。そんな批判をはね返す活躍をしてほしい。 (教育ジャーナリスト・小林哲夫) ※『改訂版 東大合格高校盛衰史~1949年~最新ランキング徹底解剖』(光文社新書)から抜粋

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    日本にはびこるシニアたたき シニアの言い分「そのうち私たちのような年代になる」

     3月2日付朝日新聞の「声」欄(読者投稿欄)に、経済学者・成田悠輔氏の「高齢者は老害化する前に集団自決、集団切腹みたいなことをすればいい」という旨の発言に対する投書が掲載された。 「この言動は高齢者に対する若い世代の憎悪や敵意をあおる力を持っていて、私は容認できない」  投書は「世代間の敵意をあおらないで」と題されていた。投書をした北海道の松本美紀子さん(67)は、この発言をTwitterで知って、震えるような恐ろしさを感じた。 「なかなかのインテリなのになぜこんな残酷なこと、前近代的なことを平気で言うのか。弱者を切り捨てていった戦前の歴史をまず思い出しました」  岸田内閣が次々と国益優先の閣議決定をしている最中。そんななかこの発言を聞き、歴史が逆行するような感覚を覚えたという。松本さんの投稿を読んだ昔の同僚からメールも来た。 「わたしたちも諦めているよね、どうしょもないねって。でもやっぱり日本、おかしいよって」  松本さんはこの発言に触れる少し前に、年金の受給開始年齢を現行の62歳から64歳に引き上げる年金制度改革案に反対するフランスの大規模なストライキのニュースを読んでいた。全国で実施された抗議デモに112万人が参加。レピュブリック広場がデモの参加者で埋め尽くされた。 「若者が高齢者と共にプラカードを掲げて歩いていることに感動しました」  年金で生活している松本さんだが、後期高齢者になったときに自分がこのまま生活していけるのかとても不安だ。 「これは私たちの年代だけの問題じゃない。若いエリートたちが弱者を冷笑するような文化がありますが、『あなたたちもそのうち私たちみたいな年代になるんですよ』とまず言いたいです」  高齢者福祉を削り子育てなどの予算を充実させるべきという議論があるが、高齢者福祉を削るとその子ども世代が自己資金で親を支えなければならなくなる。シニア世代と若者世代の利害は、単純に対立しているだけではないのだ。 「今の若者は生まれたときから格差があたりまえに存在していて、大変な世の中で不満がいっぱいたまっている。若者は『自分たちは年金なんかもらえないよ』と言うだろうけど、当然の権利をあきらめてしまっていいんですか。若い人も高齢者も、支えあって生きていくんです」 ◇  命に優劣をつけ選別する「優生思想」。2016年、相模原市の障害者施設「津久井やまゆり園」の入所者ら45人が殺傷された事件の際にも、社会に潜む優生思想について多くの声があがった。  刑法・堕胎罪の撤廃を求めている「SOSHIREN女(わたし)のからだから」での活動を長く続ける大橋由香子さん(63)は、その活動のなかで、中絶を許可した優生保護法の目的に「不良な子孫の出生防止」があることに闇の深さを感じる。強制不妊手術という人権侵害、社会に浸透する優生思想について問い続けてきた。 「優生思想という言葉は、いろいろな意味でつかわれますが、優れた存在と劣った存在、能力がある人とない人に分けること自体に無理があります。その区別は、誰が、どう作るのか。線引きはいくらでも恣意的になりえます」  昨年のカンヌ国際映画祭でカメラドール特別表彰を受けた映画「PLAN 75」(早川千絵監督)は、少子高齢化が進んだ近未来の日本で、満75歳以上の人に自らの生死を決定できる制度のある社会を描いた。大橋さんは、この映画を見た日はよく眠れなかったという。 「安楽死については『したい人が選ぶのだから問題はない』と言う人もいるのでしょうが、実際には自己決定というより、死を選ぶように追い込まれる危険性が高いと思います。これだけ賃金が上がらず、不安定雇用の人も多く、性差別も含めた格差が広がっている世の中ですから」 ◇ 『時給はいつも最低賃金、これって私のせいですか?国会議員に聞いてみた。』の著者、フリーランスライターの和田靜香さん(57)は、生活のためにライター業と並行していろいろなバイトを経験してきた。コンビニ、パン屋、スーパー、おにぎり屋……。将来が心配で「地域おこし協力隊」(総務省が行う都市から過疎地域への移住促進事業)に応募したこともある。コロナ禍前はバイトを二つかけもちしていたが、コロナ前・コロナ後で二つともクビになってしまった。 「本当に生活、どうしようかなって。私はフリーランスだから自己責任の部分もあるにはあるんですけど、でもそれだけが理由なのか」  それを知りたくて、国会議員に直接聞いてみることにした。そうしてできたのが前述の本だ。 「これで私のせいばかりではないとやっと思えました。知らないからこそ過激で簡単な言葉にひきよせられてしまう。自分で学ばないと自己責任だけに囚われます」  現行の日本の社会保障制度は「標準的家族(ライフコース)」を前提としている。また、経済問題やケアはすべて家族の中で解決する「家族主義」も強い。標準的ライフコースをとっているうちは守られるが、一度そこから外れるといきおいリスクに晒(さら)される。この間、雇用の流動化など、人びとが標準的ライフコースから外れるような社会の変化はどんどん進んでいるのに、社会保障制度は以前のままだ。 「時代に合わせて社会制度を作り変えてこなかった。つくづく政治が変化できないことや、怠惰さが問題であって。そういう政治を放置してきた私たちの責任でもあるんですけどね」  しかし、声をあげると、見える景色が違ってきたという。 「不安や不満があったら、うまく言えなくていい、戦争したくないよ、軍拡すんな! もっと税金安くしろ! そのとき、自分が思う不安をみんなガンガン叫んだらいい。多分その集合って大きいもので、それこそが力になる気がするんですよね」 (本誌・小柳暁子、佐賀旭/西岡千史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    4時間前

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    「高齢者は周囲に迷惑をかけてもいい」 映画「PLAN75」で専門家が涙した理由

     75歳以上に安楽死を勧める制度ができたら──。昨年公開されたフィクション映画「PLAN75」はリアルな現実と架空の近未来が重なって観る人の心をかき乱した。「映画のような社会を現実のものとしないために私たちに何ができるのか」。介護施設で高齢者を支える2人の専門家に聞いた。 *  *  * ■「周囲に迷惑をかけてもいいんだよ」 ●デイサービス・すまいるほーむ管理者 六車由実さん  民俗学を教えていた大学教員から高齢者介護職員に転職して、13年になります。規模の大きな施設での勤務を経て、2012年、静岡県沼津市の小規模デイサービス「すまいるほーむ」に勤務し始めました。毎日、さまざまな困難を抱えた高齢者が集まって、ともに一日を過ごしています。  利用者さんは、よく「周りや家族に迷惑をかけたくない」と言います。「迷惑をかけてもいいんだよ。いままで、頑張ってきたんだから」と伝えますが、子どものころからそう教わってきているからか、考えを変えることは、なかなか難しい。母も私自身も、できれば周囲には迷惑をかけたくないと思ってしまうタイプです。  そのため、映画の主人公が「PLAN75」の制度で自死を選んでいくシーンは、これまでの介護経験や母のことが重なって心動かされ、涙が止まりませんでした。映画館からまっすぐ家に帰って、同居する母に「認知症になっても、何かできなくなっても、周囲に迷惑をかけてもいいから、絶対自分から死んだりしないでね。とにかく、生きてて!」と一気にまくし立てたほどです。母は「わかった、わかった」と、うなずいてくれました。  すまいるほーむでは、仲間としてつながりを持っていくことで、自分が置かれた状況を自然と受け止めることができるようになっていくようです。  運営の特徴は、何でも利用者さんたちと一緒に考え、取り組むことです。昨年は、死期が近い利用者さんの「世界の子どもたちのために何かしたい」という希望をかなえるためウクライナの国旗を手作りして平和への祈りを捧げました。利用者さんで作る「すまいる劇団」が思い出を取り入れた物語を演じることも。そんな日常に、地域の人にも関わってもらえるよう、老人会などにも声がけします。  拙著『介護民俗学へようこそ!』(新潮社)で紹介しましたが、すまいるほーむでは利用者さんから「聞き書き」をしています。人生を振り返り、生きてきた時代や地域の文化伝承について聞く。語る人への敬意が生まれ、場の雰囲気も変わり、介護される人と介護する人の関係は対等になっていくように思います。  生活の中で、ともに喜び、ともに悲しみ、愛情が育まれるなかで、介護する側が救われる場面もたくさんあります。それを、介護をするのは大変とか迷惑とか、関わりの一部だけで判断しないでほしいし、判断されるべきではありません。  映画のような社会にならないようにするためには、家族や介護現場で結ばれる個別の関係性にいかに注目していくかが大切ではないかと考えます。 ■「絶望の淵の気持ち、変化させたい」 ●高齢者住宅などを展開 シルバーウッド代表取締役 下河原忠道さん  将来を担う子どもたちには、この国の繁栄を支えてきた高齢者の大先輩を敬い、大切にすべきだと教えなければならないはず。そこを飛ばして、自分たちの利益を重んじる風潮が広がっている気がします。  鉄鋼販売事業をするなか、オリジナルのスチールパネル工法を開発しました。その流れで2011年、サービス付き高齢者向け住宅「銀木犀」の運営を始めました。人と人との関係性をどのように育めるかを考え抜いてきました。  高齢者が集合住宅に住むときは伴侶が亡くなったり、生活に不安を感じていたり、絶望の淵とともに移り住んでくるケースが多いです。いい意味で、そんな気持ちを裏切りたい。変化させたい。  例えば、食事はできるだけ部屋から食堂に来てもらっています。入居者同士のコミュニケーションが生まれ、生きる意欲につながるからです。  また、認知症の人は、一人で部屋にいると落ち着かなくなります。そんなとき、階下に下りてきて、誰かに温かく声をかけられることで会話が生まれると、自分が悩んでいたことや「どこかに行かなければ」という強迫観念が消えてしまうものです。建物の中で、無理やり人と会話することが増えるよう、設計や運営に組み込んでいます。  高齢者住宅を地域に開放しています。特に近所の子どもたちが遊びに来たいと思ってもらえるような空間を作っています。  駄菓子屋を開いたり、本を貸し出したり。子どもたちは、必ずしも高齢者と話しているわけではありません。子どもたち同士で勝手に遊んだり、宿題をしたり、プレゼント交換をしたりしている。高齢者は、いつもその光景を見ていて、いつのまにか一緒に話している。関係性は自然に生まれています。  17年からは「VR認知症プロジェクト」を始めました。VR(仮想現実)で当事者が見えている世界、感じている世界、例えば、「送迎バスを降りるとき、どうして躊躇(ちゅうちょ)するか」「幻視はどのように見えるか」などを体験してもらいます。認知症の人の気持ちを想像する力を持つことが映画に対する一つの答えになればと考えます。 (医療ジャーナリスト/介護福祉士・福原麻希)※週刊朝日  2023年2月10日号

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    WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」

     第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。  先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。  各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。  そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。  セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。  針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。  他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。  上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)

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    ヌートバー侍Jでは“低年俸”も今後は安泰? WBCでの活躍がもたらす「巨大な恩恵」

     ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で準決勝(日本時間21日)まで駒を進めた侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)の招集などで開幕前から日本中が大騒ぎとなったが、大会が始まって最も注目されるようになったのは、なんといってもラーズ・ヌートバー(カージナルス)だろう。  初戦の中国戦からこれまで5戦全勝を収めている侍ジャパンの1番センターとして全試合に出場。打率.368(19打数7安打)、3打点、7得点とリードオフマンとしての役割を十分に果たし、守備でも好守を披露している。また、試合中やベンチでの“熱い”振舞いでもファンの心をガッチリと掴んだ。 「身体能力の高さや野球へ向き合う真摯な姿勢など、可能性は感じた選手だが未知数の部分も大きかった。カージナルスでは試合の出場数は増えているが、レギュラーポジションが安泰という立場でもない。どこまでやれるのか注目していたが、まさかここまで活躍するとは嬉しい誤算だった」(MLBアジア地区担当スカウト) 「少し前まで国内スポーツ界の話題といえば、(サッカー日本代表・長友佑都の)ブラボー一色だった。3月と時期が早いとはいえ、ペッパーミル・パフォーマンスなど何かしら関係するワードが流行語大賞にノミネートされるのは間違いないでしょう。調理器具専門店ではペッパーミルがバカ売れしているとも聞く。国内の日常風景すら変えてしまった」(大手広告代理店関係者)  一躍スター選手となったヌートバーは、WBCが終わった後も日本から熱い視線がそそがれるのは間違いないだろう。だが、メジャーでは2021年にデビューし、昨年は試合数を増やしたものの、これまで通算の出場試合数は166試合で92安打、19本塁打、55打点、6盗塁と“これから”の選手でもある。  昨年の年俸も53万8625ドル(約7000万円)と大谷やダルビッシュのメジャー組と比べると少なく、NPB組を含めても侍ジャパンでは給料は高いとはいえない部類だ。 「日本での知名度や人気は桁外れとなったが、米国ではまだまだ若手のグリーンボーイ。MLBでの実績がまだ少ないので、現状の年俸は適正価格だといえる」(大手マネージメント会社関係者)  今後の活躍次第では年俸が高騰しているメジャーで大型契約を見込めるだろうが、早くても年俸調停の権利を得るのは2024年のシーズン終了後。フリーエージェント(FA)は2027年のシーズン後と、“高給取り”になるにはこれから数シーズンにわたって結果を残すことが必要とされる。  今季は所属しているカージナルスでライトのレギュラーとして見られているが、同球団は育成上手で、続々と若手の良い選手が出てくるという事情もある。世界から有望な選手が集まる中で定位置を守り続けるのは至難の業だ。  だが今回のWBCでの活躍で日本での株は“急上昇”。仮にメジャーで結果を残さなくても、いずれかのタイミングでNPB球団が獲得に動くというのは間違いないと見られている。 「選手として結果を残せることは証明しつつある。外国人特有の強引さもなく、状況に応じたプレーができるので日本向きといえる。NPB球団に入団しても大外れの心配はないので獲得に動く球団は間違いなくあるだろう。また知名度は日本人トップ選手と比較しても遜色ない。仮に来日した場合には、戦力、営業面の両方で大きな力を発揮するはず」(在京球団編成担当者) 「仮にNPB球団が獲得に動くならば早いに越したことはない。ハードなプレースタイルは身体能力が支えており、またケガと背中合わせの部分もある。また営業面では熱しやすく冷めやすい日本人の国民性を考えても、WBCの記憶が残っているうちでないと意味がない。年俸2億の複数年契約なら今すぐ出す価値がある選手」(大手マネージメント会社関係者)  また、試合で一生懸命プレーする姿や、家族愛が溢れるコメントなどでイメージは抜群。これからはCMなど日本からの仕事が舞い込むことも十分に考えられる。 「ルックスも良く、目の下のアイブラックとペッパーミルという際立った特徴もある。水面下ではすでに複数企業からCM契約出演の打診が来ているらしい。一生懸命で爽やかなイメージがあるのでどのような企業にもマッチする。WBC後も様々な場所で見かけることになりそう」(大手広告代理店関係者)  そして、現在所属しているカージナルスでもWBCで活躍したことにより、恩恵を受けるかもしれないという。 「カージナルスは“おいしい選手”が出てきて喜んでいる。かつては田口壮(現オリックスコーチ)が在籍し、世界一になったこともある。日本との縁は深く、今回の人気をきっかけに広告や放映権などのジャパンマネー獲得を狙っている。実現すればヌートバーとの高額な長期契約を結ぶ可能性もあるかもしれない」(大手マネージメント会社関係者)  ヌートバーはWBCではわずか5試合だけの出場だが、グラウンド内外での価値は想像以上に上がっている。子供の時から夢見た侍ジャパンとしての活躍により、様々な“成功”を手にしたといえそうだ。WBC後も日本人メジャーリーガー以上に注目が集まる存在になるだろう。

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    侍ジャパン凱旋「熱狂の舞台裏」 記者には“犯罪歴なし”を確認、厳戒態勢でグータッチした55歳男性、6時間待ちの女子高生も

     WBCで14年ぶりの世界一となった侍ジャパンが23日、成田空港にチャーター機で帰国した。約1200人のファンが詰めかけるなか、厳重な警備体制が敷かれていたが、それでも監督や選手と「グータッチ」ができた幸運な男性もいた。セーラー服姿の女子高生まで熱狂していた、侍ジャパン凱旋帰国の舞台裏を取材した。 *  *  *  選手たちが通る成田空港のゲート前では、取材陣にも厳重なチェックが行われた。取材申請書や本人確認のみならず、過去5年間の犯罪歴の有無を調べるチェックもあった。  取材陣も選手たちへの声掛けはNGで、写真撮影も所定の場所から動かないことが条件とされた。  到着ゲート前で待ち構えていた報道陣はざっと50人ほどいたが、航空会社の職員も同じくらいの人数がズラっと並び、無線などで連絡を取りながら現場を取り仕切っていた。一方、ロビーには到着前からファンがあふれ、青いテープが張られた規制線の前では、千葉県警の警察官や民間の警備員たちが「立ち止まらないで下さい!」と声を張り上げていた。  選手たちを乗せたチャーター機は予定より少し遅れて成田空港に到着。栗山英樹監督や選手たちがロビーに現れると、「キャー」という悲鳴のような歓声が起こる。ファンたちは一斉にスマホをかかげながら、「世界一おめでとう!」「ありがとう!」などと称賛を送った。  前に出ようとするファンを警備員が必死に抑えようとするなか、最前列に1人の目立つ男性がいた。WBCでも大注目されたヤクルトの村上宗隆選手の55番のユニホームを着て、大きな声を張り上げながら、選手たちに手を伸ばしている。ファンの規制線と選手たちとの間には結構な距離があるのだが、侍ジャパンの選手たちからもその男性はよほど目立って見えたのだろう。栗山監督や選手はその男性に近づき、グータッチをするほどだった。  選手たちが通り過ぎた後、男性に声をかけてみた。三重県津市からやってきたという増井孝充(55)さん。WBC観戦のために3月8日に東京に来てから、約2週間ずっと滞在しているという。準決勝は東京・渋谷のスポーツバーで、決勝は東京タワーメディアセンターで約400人のファンと観戦した。今日は、最後に侍ジャパンを見届けようと、午前8時に成田空港へやってきたという。  増井さんはグータッチの瞬間を興奮気味に話す。 「栗山監督が目の前を通った時に、『おめでとうございます!』と言って、すっと腕を出したら、監督がグータッチしてくれました。もう最高です。明るいキャラクターなのに、燃えるものがあって、厳しさもある。栗山監督だからこそ、大谷投手もダルビッシュ投手も呼べたのだと思います。退任すると聞いてショックですが、またいつの日か采配をふるってほしいです」  出迎えるファンのなかには、若い女性の姿も目立った。セーラー服姿の4人組は、千葉県の女子高生だという。そのうちの1人は「きょうは学校帰りに来ました」と言う。 「2時間くらい待ちましたけど、選手たちを見るためなら、全然待っていられました。村上さんはガタイが大きく見えましたね。王者の貫ろくがあって、堂々と胸張って生きている感じで、感動して泣いちゃいました」  4人の中の別の女子高生は、ヤクルトの山田哲人選手のファンだという。 「打ち方がメッチャ好きなんです。『ここぞ』という時に打ってくれる。さっき、前を通る時に姿が見えて、カッコ良かったです」  別の女子高生は、好きな選手にソフトバンクの周東佑京選手を挙げた。 「周東さんの顔の輪郭がシュとしていてかっこいい。WBCでは、(準決勝の)メキシコ戦の最後の1塁から走りがヤバかった。前にいた大谷さんを追い抜きそうだった。塁を飛び出す時の瞬発力がすごいし、足も速いし、完璧です」  東京都内の高校に通う古越香帆さん(16)と加部碧唯さん(16)は「サインして下さい 全勝優勝おめでとう 感動ありがとう!」というミニ横断幕を持って出迎えた。 「私は午前10時に成田空港に着いて、6時間くらい待ちました。選手たちは足早に歩いていってしまったので、サインしてもらう機会はなかったんですけど、間近に見られただけでもうれしかった」(古越さん)  その隣では加部さんが、「私はヌートバー選手のファン」と言う。 「日本の選手を尊重してくれるところと、日本のために絶対優勝するという気合の入ったプレーがよかった」(加部さん)  帰国後は、すぐに都内ホテルの会見場に向かった侍ジャパン。栗山監督は「日本でたくさんの人が応援してくれたということを空港で感じた。みなさんの思いが力になり、感謝で一杯だ」と語った。  日本中が、感動の余韻にひたった1日となった。 (AERA dot.編集部・上田耕司)

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    脳梗塞の疑いで救急車を呼ぶとき家族が準備すべき「3つ」のものとは? おくすり手帳、診察券、あと1つは

    脳の血管が詰まる脳梗塞。薬で血栓を溶かすt−PA治療や、カテーテルで血栓を除去する血栓回収療法など治療法は進歩している。ただし、できる治療は発症後の時間により異なり、有効な治療を受けるには「時間との勝負」となる。 *  *  *  脳梗塞は、血管の詰まり方により「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに分けられる。からだの片方のまひやしびれ、ろれつが回らないなどの5大症状がみられたら、軽くてもすぐに救急車を呼ぶことが必要だ。その理由を、横浜新都市脳神経外科病院院長の森本将史医師は「症状が軽い=軽症とは限らないため」と話す。 「ちょっと言葉が出にくい、足が動かしにくいなど軽い症状の場合、小さい脳梗塞だからということもありますが、大きな血管が詰まりかけていて、前兆として軽い症状が起こっていることもあります。放置したことでその後、大きな症状が起こることも少なくありません」  家族に脳梗塞を疑う症状がみられて救急車を呼んだ場合、到着までに準備してほしいものとして、東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師は、(1)おくすり手帳(2)かかりつけ医療機関の診察券(3)発症時刻(症状に気づいた時間)のメモを挙げる。「昨日の夜寝るまでは元気で、今朝起きたら症状があった」という場合は、「前夜寝た時間」と「今朝起きた時間」でいいという。 「神経が障害される病気の多くは、治療しても発症前のように症状を完全になくすことは難しいのですが、脳梗塞は、早期に適切な治療をすることでかなり症状を改善できる数少ない病気といえます。ただし、そのためには一分一秒でも早く治療を開始することが必要で、この三つはその重要な情報となります。いざというときは慌ててしまうことも多いため、落ち着いて救急隊や医師に伝えてください」(井口医師) ■薬で血栓を溶かす治療法を検討  脳梗塞は、「発症後の時間」により治療法が異なる。そのため脳梗塞の疑いがある場合、病院到着後すぐに診察と検査をおこなう。検査ではとくに、脳の状態をみるMRI検査と、脳の血管をみるMRA検査が重要となる。 「MRIでは、起きたばかりの新しい脳梗塞だけを映し出す方法で、急性期の脳梗塞かどうかを調べます。血管が詰まりかけている、あるいは詰まったばかりで神経細胞が完全に壊死していない場合は、ダメージを最小限におさえるためすぐに血流を再開通させる治療を始めます」(森本医師)  急性期の脳梗塞の治療は、薬で血栓を溶かす「血栓溶解療法」と、器具で血栓を取り除く「血栓回収療法」が主となる。  血栓溶解療法では、組織型プラスミノゲン・アクティベーター(t−PA)という薬を点滴し、血栓を溶かす。ただし、この治療は発症から4・5時間以内に限られる。 「脳梗塞を起こして時間が経つと、その血管はダメージにより血管壁がもろくなります。t−PAで血栓が溶け、血管が再開通するともろくなった血管から出血するリスクがあるため、発症後4・5時間を過ぎたらt−PAは使用できません」(同)  また、以前は就寝中などに発症した発症時刻が不明の人には治療できなかったが、2019年に適応が拡大された。MRIでは、起こったばかりの変化を描出できる画像(DWI)と、描出するまでに3~6時間かかる画像(FLAIR)があり、DWIでは脳梗塞がみられるもののFLAIRではみられないというミスマッチが生じた場合、4・5時間以内に発症したと判断できる。 「発症時刻がわからない人でも、2種類のMRI画像で4・5時間以内かを判断した上で、血栓溶解療法ができるようになりました。これまで治療できなかった人が、t−PAにより救われる可能性が広がったといえます」(井口医師)  発症後4・5時間以上経過した場合や、出血しやすい病気があるなどの理由でt−PA治療ができない場合、血栓が大きく溶かしきれない場合は、血栓回収療法をおこなう。カテーテルを挿入して血栓を取り除く治療法で、専用の器具で血栓を絡めとる方法と、血栓を吸引する方法がある。この治療は原則として発症後24時間以内ならできるが、細い血管にカテーテルを通すため出血のリスクを伴う。技術を要する治療であり、実施できる病院は限られる。 「治療しなければほとんどの人が寝たきりになってしまうような閉塞でも、経験豊富な医師のいる病院であれば、この治療により血栓の約9割は回収できます。治療後早くからリハビリをすることで、そのうち半数の人は歩いて自宅に帰れるほど元気に回復します」(森本医師)  森本医師は、いざというときに備え「脳梗塞の治療に強い病院を調べておくと安心」と話す。血栓回収療法を実施しており症例数が多いこと、日本脳神経血管内治療学会の専門医が複数いること、厚生労働省の認定する脳卒中専門の集中治療室「SCU(Stroke Care Unit)」があることなど、病院のホームページで確認できることも多い。SCUには「24時間専門医が常勤」「患者3人に対し看護師1人以上を配置」などの認可基準がある。 「脳梗塞は症状の急激な変化が多い病気です。SCUでは手厚く患者さんをみることができ、神経症状の変化などにも素早く対応できる強みがあります」(同) ■ためらわずに一刻も早く救急車を  現在は、血栓回収療法を実施できる病院は都市部に集約されている傾向があるが、急性期脳卒中の診療体制を整えている地域や病院は増えていると井口医師は話す。 「救急車を呼んだ後のことを心配するより、早く救急車を呼ぶことが大事です。優れた治療法があっても、24時間以内に治療できるのは3割以下。時間オーバーで治療できないという事態を減らすためにも、まずは一刻も早く救急車を呼んでください」(井口医師) (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月31日号より

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    「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔

     対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 *  *  * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。  でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」  快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。  この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。  お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」  なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」  と。願ってもない話だった。  なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。  挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。  大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」  原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」  と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔  私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」  と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。  連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」  というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。  16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」  とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。  私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」  と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。  古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」  私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    管理職「なりたくない6割」時代の背景 出世より「持続可能な働き方」の価値観に変化

     約6割が「管理職」に昇進したいと思わない──。目標であり、出世のための階段とされてきた管理職が揺らいでいる。責任の重さ、長時間労働、部下との関係。その憂鬱さ、つらさを訴える声が聞かれる。打つ手はないのか。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 *  *  * 【管理職 官公庁・企業・学校などで、管理または監督の任にある職。また、その任にある人】  辞書に載っている管理職の定義だ。かつては、出世コース上にあるとされ、多くの人が同期や先輩を出し抜き、我先にと目指したポジションに異変が起きている。  厚生労働省の「労働経済白書」(2018年版)によると、役職に就いていない職員や係長・主任相当の職員で「管理職に昇進したいと思わない」のは61.1%。「管理職以上(役員含む)に昇進したい」の38.9%を大きく上回っているのだ。  厚労省の元労働局長で、事業創造大学院大学の浅野浩美教授(キャリア論)は、 「管理職は、責任が重くなり、長時間労働になるので避けたいと考える傾向が強まっています。また、強く言えば、ハラスメントだと訴えられる可能性だってある。マネジメント力に自信がない人は手を挙げなくなっている」  と説明する。 ■「死にたい」と思った  その言葉を痛切に受け止めるのは、東京都内のメディア関連会社員の男性(59)だ。21年、勤務先の副社長を自ら降りた経験がある。  副社長になって4年目のことだ。海外にいることが多い社長に代わって実質的な経営の指揮を執っていたが、相次ぐ新興メディアの台頭で業績が急速に悪化。ギスギスしていく社内の雰囲気が全身に突き刺さるうちに、次第に心のバランスを失ったという。男性は、 「なんとか出社はしていましたが、毎日死にたいと思っていた。限界でした」  と話す。うつ病と診断され、心療内科に通った。他の役員が「しんどいでしょう」と声をかけてくれた時、素直に降格人事を受け入れたという。  同じ頃、信頼し、評価していた部下のひとりからパワハラで訴えられた。  育てようという一心で叱咤激励しながらも、家族のように親しく付き合っていたが、部下には受け入れてもらえず、会社からは懲戒処分を受けた。 「ショックでしたね。約15年前に初めて管理職になった当時は、違う景色が見えたような気がして、高揚感がありました。優秀な部下とともに日夜問わず夢中で働き、休日は自宅に招いて食事会もしていたのに。自分にはリーダーシップがあると思っていただけに、コミュニケーションの取り方に悩むことが増えました」(男性)  20年に実施された厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答した人は31.4%。声をあげやすい環境が整いつつあるということでもあるが、前出の浅野教授は、こう指摘する。 「管理職は、部下の指導によりきめ細やかさを求められるようになりました。その上で、自分の仕事をこなしながら、この変化の激しい時代に職場のパフォーマンスも上げなければならない。大変なことばかりに見えて、敬遠されてしまうのは仕方がない面があります」 ■変化している意識  働き方の変化も「管理職離れ」を加速させている。  例えば、この5年ほどで急速に広がっている「ジョブ型雇用」。会社があらかじめ職務(ジョブ)と賃金を定め、それに見合う技能をもつ人を雇う制度だ。社員は原則その職務以外はせず、年齢が上がっても賃金は増えないとされている。働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、 「昇進はキャリアの断絶だと考えられるようになりました。管理職になることは、必ずしも好意的にとらえられていません。自分のやりたいこと、深めたいことを仕事にしたいと考える人が増えました。管理職になるということは、それまで夢中になってやっていたことができなくなるということです」  と話す。昇進や昇格は、仕事ぶりを評価されているからこそであり、会社からの期待の表れのはず。しかし、 「キャリア形成に対する人々の意識が変化しているということです。さらに、かつては部下といえば『男性新卒プロパー』しかいなかった企業で、非正規雇用、テレワーク、時短勤務など、雇用形態や勤務形態、給与も千差万別な部下をまとめる必要が出てきた。負担を感じる人は多いでしょう」(常見さん)  共働き家庭が増えたことも、管理職に対する意欲に影響を与えているようだ。  静岡県のメーカーで働く男性(60)は、かつて班長として部下を抱えていた時期があるが、課長への打診を断ったことがある。当時、45歳。とても忙しく、まだ保育園児だった2人の子どもの世話は、金融機関でフルタイム勤務をしている妻に任せがち。長期の海外出張に行った時に、妻が精神的にまいってしまったこともあったという。男性は、 「会社からはコストダウンを厳命されていたけれど、人を減らすことしか解決策がない状況だった。その分の仕事は、管理職がカバーしなければならないことは明らか。私がこれ以上忙しくなれば、妻が倒れてしまうと思いました」  と振り返る。妻が仕事を続けることを希望したことに加えて、右肩下がりの経済状況を考えると、共働きを続けられる「持続可能な働き方」を夫婦ともに選択する方が賢明だと判断したという。以来、イチ社員として定年までを過ごし、現在は再雇用の身だ。あの時の判断について男性は、こう話す。 「後悔は全くないです。管理職になっても、たいして給料は上がらない。休日もない状態で働き続けていたら、私自身の心身も家族もボロボロになっていたでしょう」  常見さんは、若い世代を中心に同様の価値観が広がっているとし、 「ストレスなく続けられるということは、働き方のひとつの答え。偉くなるより、一人前になりたいと考え、その選択ができるようになった」  と時代の変化を評価する。  けれど、管理職になりたくない人ばかりになると、組織が立ち行かなくなってしまうケースも出てくるだろう。打つ手はないのか。突破口になるかもしれない興味深いデータがある。 ■意欲が高いのは  21世紀職業財団(東京都)が22年、従業員101人以上の企業に勤務している20~59歳の正社員男女4500人を対象に行った調査によると、「管理職になりたい」割合は、総合職男性24.8%、総合職女性12.0%と、男性のほうが高かったが、「管理職に推薦されればなりたい」との回答は男性31.3%に対して女性は33.2%。わずかに、女性が上回っているのだ。  事業創造大学院大学の浅野教授は、 「上を目指したい気持ちのある女性は多いけれど、躊躇(ちゅうちょ)があることがわかる。自信が持てなかったり、子育てや夫との関係などを考えてしまったり。甘えているように見えるかもしれないけれど、その一方で、推薦されるなど後押ししてくれる理由があれば、管理職をやろうという女性はいるのです」  と話す。  また同財団の別の調査では、女性は男性に比べて、年齢が上がっても仕事への意欲が衰えないこともわかっている。内閣府によると、民間企業の女性管理職比率(課長相当職)は21年時点で12.4%だが、管理職のなり手不足に悩む企業は、この女性たちの意欲を見逃す手はないだろう。 「男女問わず、働く人は上司の言葉、態度、雰囲気で自分が評価されているか否かを感じ取り、それがやる気につながる。性別に基づくアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を取り除き、今こそ企業は本気を見せる時です」(浅野教授) (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋

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    WBC米国で「鳴り物応援」していたのは誰? 侍Jの優勝後押し、現地で“好評”日本の応援団

     ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で世界一となった侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)がMVPに輝くなど選手の活躍が目立ったが、それを後押ししたのが米国に場所を移した準決勝、決勝でも日本独自の鳴り物応援を続けた人々だ。  東京ドームで行われた第1ラウンド、準決勝から米国へ戦いの舞台を移しても“変わらぬ風景”があったことが選手の力になったのは間違いないだろう。 「侍ジャパンの応援は(現地でも)話題になっていた。一糸乱れぬ熱い応援が日本の勝利に貢献したとベタ褒めしているメディアもいた。メジャーリーグでは見ることのない、カレッジスポーツのような応援風景。米国はもちろん中南米の人たちはお祭り好きなので、応援に参加している人も多かった」(在米スポーツライター)  鳴り物の応援はNPBでプレーする選手はもちろん、大谷翔平(エンゼルス)には日本時代の応援歌が奏でられた。また、NPBでプレー経験のないラーズ・ヌートバー(カージナルス)にも応援歌が急遽作成され、本人も気分良く打席に入れたという。 「日本の応援は外国人には新鮮で、『試合に参加して一緒に楽しめる』と好意的に受け止められる。以前から日米野球で来日したメジャーリーガーが、守備位置で応援歌に合わせてリズムを刻むシーンが目についた。(準決勝以降の)マイアミ会場でも日本の応援を動画撮影するファンも多かった」(在京テレビ局スポーツ担当)  米国の高校や大学では、日本のようにブラスバンドやチアリーダーによる派手な応援がスタンダード。しかしプロスポーツではチアリーダーこそいるが、鳴り物を使用した応援を見ることは滅多にない。ほとんどが場内でかかる音楽に合わせて声や手拍子での応援になっている。 「MLBでもオークランドやクリーブランドでは太鼓などの鳴り物を使用している。ミルウォーキーにはトランペット吹きが出没することもある。しかし日本のように選手1人ずつに専用の応援歌が作られることはない。『俺にも作って欲しい』という選手も多い」(MLB球団の日本人スタッフ)  応援を仕切る「侍ジャパン応援団」は、NPB数球団の応援団から集められた精鋭たちによって構成されている。2017年にWBC開催へ向けて、侍ジャパンを組織するNPBエンタープライズによって作られた公認応援団だ。 「以前も五輪予選などでは、NPB各球団の応援団の有志メンバーによる応援が行なわれていた。当時2大会ぶりにWBCでの世界一奪還を目指すため、NPBが中心となり応援団を現地へ派遣することとなった。準決勝で米国に敗退したが、迫力ある応援がドジャースタジアムに響き渡った」(侍ジャパン関係者) 「応援での後押しとともに、ルールの一本化をしたい思いもあったのでしょう。NPBのレギュラーシーズンで応援するには事前登録制度が採用されている。侍ジャパンはNPB管轄下にあるので、応援団に関しても同様の措置をとったとも考えられる」(スポーツ新聞デスク)  昨年末にワールドカップが盛り上がったサッカー日本代表では、サッカー協会公認のサポーター組織は存在しない。「ドーハの悲劇」時代から応援を仕切るウルトラスニッポンという組織は存在するが彼らも公式的な存在ではない。NPBの本気度が伝わってくる。 「今回の侍ジャパン応援団に関しては公にはされていないが、以前は交通費などの負担もあったという。特定エリアでまとまった応援をしているので、観戦チケットに関してはNPB側が手配しているのでしょう。場内を盛り上げるために欠かせない、演者の一員という扱いです」(スポーツ新聞デスク)  コロナ禍が収束気配を見せ始め、NPBでもオープン戦から声出し応援が解禁となった。球場には以前のような鳴り物応援が戻ってきて、応援歌を合唱する声も響いている。 「WBCでの応援風景に関しては賛否両論が巻き起こっている。『ベースボールを楽しみたいのに球音を消してしまう鳴り物は不要』という声もある。しかしWBCは世界一決定戦と同時に、お祭り要素も多大にある。国家の枠を超えて多くの人たちが楽しめているのは確か」(在京テレビ局スポーツ担当) 「東京ラウンドが連日、大盛況となったのは声出しの応援が解禁となったのも理由の1つでしょう。コロナ禍で自粛ばかりを呼びかけられてきた中、やっと内に溜めたものを発散できる舞台が整った。応援歌を合唱することで一体感も生まれる。野球などのスポーツやエンターテインメントに求められているのはこういうことだと思う」(侍ジャパン関係者)  日本中を巻き込み1つにした侍ジャパンの戦いは見事だった。世界一という結果はもちろん、粘り強く逆転を繰り返した懸命な姿は心を打った。そして大会期間中は日常を少しだけでも忘れさせてくれた。そこにあるハレの世界を作り出す1つの要素が応援だった。大舞台を盛り上げてくれた「侍ジャパン応援団」の活躍にも拍手を送りたい。

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    17時間前

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    “最も口がクサい芸能人”クロちゃんが語る「口臭」 キス直前に彼女が見せる意外な反応とは

     安田大サーカスのクロちゃんが、気になるトピックについて"真実"のみを語る連載「死ぬ前に話しておきたい恋の話」。今回のテーマは「口臭」。「水曜日のダウンタウン」をはじめ、さまざまなバラエティー番組やSNSなどで、「口臭」についてイジられる機会が多いと話すクロちゃん。もっぱら「クサい」という評判だが、本人はどう感じているのだろうか。そして、彼女のリチさんの反応は? クロちゃんが「口臭」について語った。 *  *  *  数年前から、ボクはよく「口臭」をイジられている。もちろん、そのほとんどが「クサい」という、ひどいものばかり。バラエティー番組やYouTubeでは罰ゲーム的な扱いをされることもあるし、SNSでのイジりはもう恒例。「ペンギンの臭いがする」とか「水族館の臭いがする」などと指摘を受けたり、イベントなどの仕事にいくと、お客さんから、「息をハァーって吹きかけてもらえませんか?」という変なリクエストされることもある。気づけば、なぜか「日本一口がクサい人」みたいになってしまっている(笑)。みんな、ひどいしん! ボクだったら、そんなこと、絶対他人には言わないのに……。  振り返ってみると、口臭をイジられるようになったのは、「水曜日のダウンタウン」の企画「モンスターアイドル」がきっかけだと思う。その企画に参加していた、のちに「豆柴の大群」のメンバーになるアイカに、「口が少し臭いです」と、面と向かってハッキリと言われたんだよね。どうやら、あのカミングアウトが、視聴者的に、めちゃくちゃ面白かったみたい(笑)。あのオンエア後から、口臭をイジられることが急激に増えた。芸人として「面白い」と言われることはもちろんうれしいんだけど、「クサい」ってことで笑ってもらうのは、なんかちょっと違うというか、どうも素直に喜べない、複雑な気持ちになったのを覚えている。  ちなみに、ボクは、口臭について、実は、そこまで気にしてはいない。そんなに、みんなが騒ぐほど、絶対「クサくない」と思っている。だって、親友のたかみな(高橋みなみ)や、仲の良い後輩芸人の菊地(ワンワンニャンニャン)、サンミュージックのマネージャー・オオゼキさんには、「クサい」なんて、一度も言われたことがないからね。  だから、みんながイジってくることも、そこまで信じていないというか、「そうやってイジることで、ボクと仲良くなりたいんだろうな」くらいにしか考えていない。  ただ、もちろん、ボクだって、そりゃ人間なんだから、状況によっては、多少臭うことはあるだろうなとは、思っている。  若手の頃は、安田大サーカスのネタ合わせの時に、団長から「お前口クサいな!」とよく指摘はされていた。新ネタを練習していたりすると、緊張のせいで口が乾いてしまうからね。でも、それは仕方ないでしょ。みんなだって、同じ状況になれば、そんな風になってしまう時もあるはずだから。  まあ、でも、正直に白状すると……若手の頃は、団長以外の人にも、ちょくちょく口臭については指摘をされていた。  原因は、まあ、わかっている。当時のボクは、あまり歯磨きをしていなかったからね。  こんなことを言うと、またイジられそうだろうけど、あの頃は、歯磨きが、めっちゃ面倒くさくて、大嫌いだったんだ。だから、1~2週間、歯を磨かずに放置するなんてことはよくあった。最長では1カ月くらい放置していたこともある。ひとり暮らしだし、別に誰かに怒られるわけじゃないから、ついついおろそかになってしまっていたの。  だから、当時のボクは虫歯だらけで、歯がボロボロ。そんな状態だったし、もろもろの条件がそろえば、多少臭うことはあった……とは思う(笑)。  でも、そんな状態も、「いいかげんヤバいな」って思ったから、ある時から、ちゃんと近所の歯科医院にも通うようになったんだ。口の中もお掃除してもらったし、虫歯も全部治療してもらった。歯磨きだって、ちゃんとするようになったの。 「もう、これで大丈夫」  そんな風に思えて、安心していたのに、「モンスターアイドル」の影響で、「口クサい人=ボク」みたいなイメージが完全に定着してしまった。  改めて確認するけど、ボクの「口臭」については、みんな大げさに言っているだけだよね?(笑)。  だって、虫歯はもう治療しているんだから、臭うはずないでしょ。もし、それが本当なら、原因は歯じゃなくて、臓器が悪いってことなのかな。  もう対処法が分からない。というか、みんなの本音が分からない(笑)。  ちなみに、彼女のリチはどう思っているのか。  実は、最近、リチと過ごしていて、「ん?」と少し気になることがあった。  それは、ボクとリチがキスをする時なんだけど……リチは、キスをする直前に、毎回、息を「スー」って吸い込むんだ。毎回、必ずね。そんな謎の行動、普通はしないよね?  最初、気にはなったけど、とくに問い詰めることもなく、ボクは「あ~♪口の中に吸い込まれる~」みたいなことを言って、コントチックな雰囲気にしてから、キスをしていた。リチは、そういう面白いキスが好きなんだなって思って。  でも、ほんとに毎回それをやるから、「息を吸い込んでからキスをするのが好きなの?」ってリチに聞いてみたの。  そしたら、「違う違う、好きとかじゃなくて、まず息を吸ってからキスをするとクサくないから」だって(笑)。  もうびっくり。 「クサイと思ってるのかよ!!!」って、心で何度も叫んだよ(笑)。  まさか、口臭の対処法だったとは……なんなの、もう!  ボクの口は、クサくないからーーー!! (構成・AERA dot.編集部・岡本直也)

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    室井佑月「自分ファーストの娘(息子)って?」

     作家の室井佑月さんは、上野千鶴子さんを身近に感じている理由を明かす。 *  *  *  週刊文春に「“おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた」というスクープが載った。上野さんは3月15日発売の婦人公論で、反論記事を書くという(私がこのコラムを書いているのは3月12日)。上野さんはTwitterで「『文春砲』なる下劣な報道」といっていた。なにを下劣といっているのか?  なにを隠そう、私は今ほど上野千鶴子を身近に感じたことはない。  私の1回目の結婚は、出会った時はまだ奥さんのいる男の人とだったので、略奪婚と一部の厳格な人々から叩かれたものだ。そうそう、相手が19歳年上だったこともあって、「気持ち悪い」と散々ないわれようだった。それはその時の子が成人し、20年以上経った今でもたまにいわれる。  蓋をあければ、フェミニストの親玉の上野さんも、私とおなじだったのか。もちろん、そこを責めるつもりはない。恋は狙って落ちるものじゃない。たまたまパートナーのいる人を愛し「結婚制度、反対」という意見になり、パートナーのパートナーが亡くなって独りになったら(介護や財産分与のこともあるんだろうが)結婚というものをしてみたくなる。上野千鶴子、なんとも人間らしい、魅力的な女性じゃないか。  なぜ、上野千鶴子を崇拝してやまない一部のフェミニストは、上野千鶴子以外の上野千鶴子と似たようなことをしている女は、叩けるのだろうか? 上野千鶴子が今回、下劣だと怒っているのは、他人に向けるゲスな興味のことじゃないの?  上野さんの教えが不味(まず)いのか、受け取る側によっぽど難があるのか。  一方で、3月8日の国際女性デーには、上野さんのインタビューが読売新聞「大手小町」に載っていた。上野さんは記事の中で、こんなことをいっていた。 「自分ファーストの娘たちが大量に登場した、日本史上初の快挙です。(中略)耐えることが日本の女の美徳でなくなった」  耐えることが日本女性の美徳なんて、私も真っ平ごめんだ。しかし今、自分ファーストすぎる娘たち(息子たちもいると思う)も問題なのだと思ってる。子がいるいないは関係なく、いくつになっても大人になれない、自分のことしか考えない人間たち。  上野さんはこうもいっていた。 「候補者男女均等法(※政治分野における男女共同参画推進法のこと)を作ったけれど罰則規定がない、つまりやる気がない証拠です。法律に実効性を持たせるには、強制力が必要です」  罰則? そこまでいうなら社会のために上野さんが立候補すればいい。けど、それはない。上野さんこそ、自分ファーストの娘だものね。いくつになっても。 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中※週刊朝日  2023年3月31日号

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    落選組で侍ジャパンを作ってみると…「栗山ジャパンに見劣りしない布陣」に

     3月のWBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンの陣容が固まった。  投手陣を見ると、先発はダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)が当確で、4番手候補は今永昇太(DeNA)の可能性が高い。試合の中盤から投げる「第2先発」は宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、高橋宏斗(中日)が控える。終盤は湯浅京己(阪神)、宇田川優希(オリックス)と頭角を現した若手成長株に加え、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、大勢(巨人)と各球団の守護神が。様々な起用法に対応できる伊藤大海(日本ハム)の存在も心強い。大谷翔平(エンゼルス)が守護神として起用される可能性も考えられる。  野手はメジャー組が軸になりそうだ。大谷、ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)と強打者がズラリ。4番は昨年日本記録の56本塁打で三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)で間違いないだろう。ホームランアーティストの岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)も選出されており、破壊力十分。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)は出場辞退が報じられたが、投打で過去最強の布陣と言ってよいだろう。  ただ、今回のメンバーの選出に対しては賛否両論の声が上がっている。外野手が4人のみで本職のセンターが選出されていないことや、変則フォームの投手が少ないことが懸念されている。裏を返せば、それだけ代表候補の実力者が多いと言える。  今回の栗山ジャパンから漏れた「落選組」でメンバーを編成すると、どんなチームを作れるだろうか。他球団のスコアラーは「日の丸に縁がないけど、球界を代表する選手は少なくない。大谷レベルの選手はなかなかいませんが、総合力では栗山ジャパンに見劣りしないチームを作れますよ」と言葉に力を込める。  以下は現場の首脳陣、選手の評価が高い選手で構成したスタメンだが、いかがだろうか。 (右)松本剛(日本ハム) (中)岡林勇希(中日) (一)佐野恵太(DeNA) (指)浅村栄斗(楽天) (左)西川龍馬(広島) (三)宮崎敏郎(DeNA) (遊)長岡秀樹(ヤクルト) (捕)梅野隆太郎(阪神) (二)菊池涼介(広島) (投)青柳晃洋(阪神)  投手を含めた上記の10人を選出するのも頭を悩ませる。外野は塩見泰隆(ヤクルト)、近本光司(阪神)、ベテランの秋山翔吾(広島)、丸佳浩(巨人)、大島洋平(中日)も有力候補で層が厚い。複数のポジションが守れて、打撃センスが高い坂倉将吾(広島)、牧原大成(ソフトバンク)はベンチに入れたい。和製大砲の大山悠輔(阪神)も一塁、三塁、外野を守れることから重宝できる。代走の切り札では今季盗塁王に輝いた高部瑛斗(ロッテ)が筆頭候補だ。捕手と遊撃がやや手薄か。遊撃は紅林弘太郎(オリックス)、小園海斗(広島)が殻を破ってほしい。菊池と長岡の二遊間は守備能力が非常に高い。俊足強肩の岡林を含めたセンターラインは強固だ。  投手陣は先発が青柳のほか、西勇輝、伊藤将司(阪神)、大野雄大、小笠原慎之介(中日)、高橋光成(西武)、上沢直之、加藤貴之(日本ハム)、田中将大(楽天)ら多士済々。特に抜群の制球力を誇る加藤は先発、救援で抜群の制球力を発揮できるので起用法の幅が広い。救援陣は清水昇(ヤクルト)、伊勢大夢、山崎康晃(DeNA)、高梨雄平(巨人)、山崎颯一郎、比嘉幹貴(オリックス)、藤井皓哉(ソフトバンク)、與座海人、水上由伸(西武)が有力候補になるだろう。  スポーツ紙デスクは、「監督の目指す野球の方向性でメンバーはガラリと変わります。栗山監督は第2先発で起用する投手に、各球団のエース級をそろえましたが、ここがポイントになると思います。先発と救援では試合に入るリズムが変わるので、対応力が問われる。個人的にはロングリリーフできる加藤や與座を入れるかなと思いましたが、栗山監督の継投策が注目ですね」と分析する。  今回の侍ジャパンからは漏れたが、プロ野球を盛り上げる実力者たちの活躍も楽しみだ。(今川秀悟)

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    怠け者だった宮澤エマが役者を夢見た瞬間「自分の声を見つけた!」

     10年前は、「宮沢喜一元首相の孫」としてバラエティー番組に出演し、「おちょやん」以降はドラマでも引っ張りだこの宮澤エマさん。でも、彼女の原点は舞台だ。 *  *  *  子どもの頃は「私って怠け者なんだ」という自覚があった。小学校には片道1時間かけて通っていたが、行きは座席でグーグーと眠りこけ、帰りの車内では読書三昧。小説や漫画を読みながら、空想の世界に浸っていた。休みの日は、一日中ベッドの上で、ゴロゴロ本を読みながら過ごすことも珍しくなかった。 「脳内で、物語を体験することで『あ~、これが私の幸せだ~』って思えるような子どもでした(笑)。割とシャイなところもあって、習い事とか、5歳年上のとても優秀で社交的な姉のやることに憧れて、とりあえず追いかけるものの一つもかなわない。5歳も違うんだから当たり前なんですけど、でも一つだけ、小学校に入学したとき、姉が入っていた演劇部の公演を観て、『あれだけは私のほうが上手にできる気がする』『あれならきっと私のほうがうまい』って思ったんです」  根拠のない自信だったが、実際に演劇部に入って、人前で大きな声でセリフを言ったとき、初めて「自分の声を見つけた!」と感じた。 「その頃からですね。将来は音楽か芝居をやりたいなって思い始めたのは。興味の幅が限られているものだから、夏休みの宿題も、『明日から学校だ』っていうタイミングまで何もやらなくて、『お姉ちゃ~ん!』って泣きつくようないい加減な子どもだったんですが(笑)、自分が好きなことに関しては負けず嫌いだった。今から思うと、お芝居は、自分の言葉じゃなくて人の言葉を借りてしゃべることができるから、それが私の性格に合っていたのかもしれないです」  とはいえ芸能の世界へ足を踏み入れたのは、アメリカの大学を卒業後の、23歳のときだった。最初は、元首相の孫ということで、バラエティー番組などで顔を売ることになるが、当時から、「歌とお芝居がやりたい」という気持ちは一貫していた。でも、「歌」と「芝居」がいっぺんにできる「ミュージカル」に出演できるとは思っていなかった。 「ミュージカル自体は大好きでしたが、あれは、歌えて踊れて芝居ができる特別な人たちがやるもの、特別なトレーニングを受けた人たちがやるものという認識でした」  ところがあるとき、高校時代のエマさんの歌声を聴いたことがあった宮本亞門さんから「ミュージカルのオーディションがある」と誘われた。そのミュージカルがさほどダンスの場面がなかったことに勇気づけられ、オーディションを受けることに。実際には、誘われた作品ではなく、その次のミュージカルのメインキャストに抜擢された。 「それが私の舞台人生の始まりでした。その後も、オーディションに通ったり通らなかったり、オファーをいただけるようになったりならなかったり。4年ぐらいそんな状況が続いたんです。その間、映像のお芝居とかストレートプレイもやってみたいと思っていたんですが、映像に出演するきっかけを作ってくださったのが三谷(幸喜)さんでした。三谷さん書き下ろしのミュージカル『日本の歴史』に出演することが決まったタイミングで、中井貴一さん主演の映画『記憶にございません!』にも出させていただくことになり、それによって映像の方にもお声がけいただけるようになったんです」  映画が公開されたのが2019年9月。それからほどなくして、NHK連続テレビ小説「おちょやん」に出演のオファーがあった。ずっとやりたかった映像の仕事。張り切って撮影に臨む中、新型コロナウイルスのパンデミックが起こる。 「私が出演する予定だった舞台で上演中止になったものは、『ウエスト・サイド・ストーリー』だけでしたが、ステイホーム期は、『舞台の存在意義ってなんだろう?』みたいなことはすごく考えました。21年の夏からは『鎌倉殿の13人』の撮影に入ることになっていたので、去年1年間は、デビューから8年ずっと必死に頑張ってきた舞台の仕事から、いったん離れたタイミングでもあったんです。そんな中で、今回『ラビット・ホール』という舞台で、主演のお話をいただいて。正直ちょっと荷が重いんじゃないかって、すごく真剣に悩みました。でも、このチャンスを逃したら一生後悔すると思って」 「鎌倉殿~」で共演した小池栄子さんや小栗旬さんも、大河が終わった直後の仕事は舞台だった。ドラマでは台本のセリフは絶対だが、舞台では、自分が違和感を覚えたら伝えることもできるし、相談することもできる。一緒に作っていける感覚があった。大河の後で舞台に戻っていく先輩たちを見て、「だからなのかな」と思った。 「演劇が一つ楽しいのは、誰かにとっての真実を突き詰めていく作業ができるからだと思うんです。その真実は必ずしも、その作品に関わる人たち全員の真実じゃないことが多いんですが、役を通して、その物語が言いたいことを理解できたときに、その真実を自分のものにできるというか……。たとえば、殺人犯が主人公の物語でも、最初と終わりではその主人公の見え方が全く違ってくることってありますよね? 演じる側もそうだし、観る側も、悪人のはずの主人公に共感してしまったり。そうやって、一人の人間を善悪だけで判断するのではなく、もっと多角的に見つめていくことは、人間が生きていく上で必要な作業なんじゃないかと私は思うんです。それをお説教したり、説得したりするとかじゃなく、エンターテインメントとして舞台上で見せていけることが、かけがえがないことだなって」 (菊地陽子、構成/長沢明)※週刊朝日  2023年3月31日号より抜粋

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    首都圏中学受験は史上初の5万2000人超え 男子校が激戦に【中学受験2023】

     中学受験市場が活況を呈しています。右肩上がりの受験者数は、今年もさらに伸びて9年連続で増加しました。しばらく共学校の人気が続いていましたが、今年は男子校、女子校の志願者が増加しました。(※志願者の数は、首都圏模試センターによる2月11日時点の集計によるもの) *  *  *  2023年の首都圏の私立・国立中学校の受験者数は約5万2600人(首都圏模試センター調べ)だった。同センター取締役教育研究所所長の北一成さんによると「過去39年間で、5万2000人超えは初めて」だという。受験率も17.86%まで上昇した。 ■大学入試改革などが私立志望の要因に  受験者が増加した要因として北さんは、「コロナ禍の公私の対応格差、大学入試改革、世の中で求められる力の変化」の三つをあげている。 「学校閉鎖になってから私立はWEBに切り替え、素早く授業を再開した。また学習指導要領の変更にともない25年から大学入試が変わりますが、保護者はそれに対応できるのは私学のほうが有利と見ている。同様にこれからの時代に適応する能力を身につけるには、私学の教育が上と期待を寄せているのでしょう」(北さん)  森上教育研究所アソシエイトの高橋真実さんは経過を、「昨年秋の模試の受験者数が減っていたので、今年は減少に転じるかもという予測もあったのですが、実際には増加した」と話す。模試の受験者数の減少は「ちょうどコロナの感染者が急増したころで、受験生が大事を取って外出を控えたためではないか」と、推測する。東京都内だけでなく、神奈川、千葉、埼玉も増加。特に埼玉は各校の進学実績が伸びており、県内の学校で終了する受験生も多かったという。高橋さんは増加の要因を「保護者が中学受験を経験した世代になったため」と分析する。 「自身も経験しているので、中学受験のハードルが下がってきた。今年は別学が人気になりましたが、親世代の多くは別学に進学している。自分の経験を踏まえて、子どもにも男子校、女子校を後押ししたためではないでしょうか」 ■午後入試の導入で併願校が増加 今年は併願校が増えたのも特徴。サピックス教育情報センター本部長の広野雅明さんはこう話す。 「午後入試が増えたのが一番の要因で、本塾の塾生も平均8校に出願しています。午後入試はもともと女子校や共学校に多かったのですが、男子校にも広がってきました。人気の高い学校が設定したことが受験者数の増加につながりました」  女子校では品川女子学院(品川区)、普連土学園(港区)、東京女学館(渋谷区)、実践女子(渋谷区)、男子校では巣鴨(豊島区)、世田谷学園(世田谷区)、高輪(港区)などが導入している。  午後入試の導入により受験機会が増えたことで、2月1、2日の前半戦で合格を決める受験生が増えているという。その分、後半の入試日程では合格者数が絞られ、合格がより厳しくなった。広野さんは「安心して2月受験に臨むために、1月にしっかりと合格をとっておくことが肝心」と、アドバイスしている。 ■23年は別学の志願者増の傾向が  ここ数年は共学校人気が続いていたが、先述のように今年は男子校、女子校の増加が目立った。声の教育社常務取締役・後藤和浩さんは、「特に都内の男子校はほとんどの学校の倍率が上がり、安全校を設定できない状況でした。今後も男子校の人気は続きそうです。志望校を広げて、共学も視野に入れたほうがいい」と、アドバイスする。  安田教育研究所の調査によると、1月17日時点の学校種ごとの出願率(前年の最終出願者数に対してどのくらい出願校があったか)は、東京の男子校が63.5%、女子校が62.5%に対して共学校は57.9%、神奈川は男子校63.5%、女子校74.8%に対して共学校59.1%となっており、別学のほうが早く出願する傾向がうかがえる。また、代表の安田理さんは受験生の動向をこう見る。 「男子校・女子校は伝統校が多く、独自の校風、宗教などがあるので、こだわりのある家庭は早々に出願する。一方の共学の人気校は次世代に向けた教育を標ぼうしており、似ている学校が多い。そのため難易度や倍率で選ぶ傾向があり、ぎりぎりまで出願を控えているのではないか」  東京では、特に目立ったのが日本学園(世田谷区)。明治大学の系列校になることが好感を呼んだ。前年、人気を回復した女子の伝統校も引き続き増加。法政大学との提携を拡充した三輪田学園(千代田区)が大幅に増加した。  今年は開成(荒川区)、桜蔭(文京区)など別学の最難関校も増加した。また隔年現象が顕著に表れ、昨年増加した麻布(港区)、武蔵(練馬区)、女子学院(千代田区)、フェリス女学院(横浜市)などの難関校は減少。さらに昨年大幅に受験者数を伸ばした実践女子学園、品川翔英(品川区)、広尾学園小石川(文京区)、神奈川大学付属(横浜市)、関東学院(横浜市)も減少した。 ■神奈川・千葉・埼玉も増加の傾向  神奈川でも栄光学園(鎌倉市)や聖光学院(横浜市)などの難関校が増加。湘南白百合学園(藤沢市)、また工藤勇一校長が赴任して注目を浴びた横浜創英(横浜市)が大幅に増加した。 千葉は新設の流通経済大学付属柏(柏市)が受験者を集めた。昭和学院(市川市)も増加。 埼玉では栄東(さいたま市)の志願者が、今年で10年連続して1万人を超えた。  24年は首都圏で6年生の数が6000人以上減少する。来年の入試について、北さんは次のように分析している。 「来年の予想は、受験者数の増加と減少に見解が分かれていますが、私自身は減少するのではないかと思っています。人口減と、過去の例を見ても10年連続して増加したことがなかった。来年から右肩下がりになるのではないかと踏んでいます」  アフターコロナの状況も影響しそうだ。景気が悪化すれば、受験生が減少する可能性は大きい。どちらにしても、情報はしっかり集めて早めに対策をしておこう。  高橋さんは今年の受験生に、こうエールをおくる。 「今年受験した子どもたちは、新4年からコロナ禍で勉強をしてきた世代です。不安な状況の中で、よく3年間がんばってきたと思います。受験生とその親御さんに敬意を表したい。進学した中学校で、充実した生活をおくれるように願っています」 (柿崎明子)

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    男性育休の推進企業に潜む「とるだけ育休」 取得率100%なのに“取得日数わずか数日”驚きの実態

     昨年の出生数が80万人を割り込んだ衝撃を受け、少子化対策を巡る議論が国会で熱を帯びている。3月17日、岸田文雄首相は記者会見で、男性の育児休業の取得率の目標を2025年度に50%、30年度に85%に引き上げることを明らかにした。一方、4月1日から改正育児・介護休業法の施行により、従業員1千人を超える企業は、男性従業員の育休取得率を公表することが義務づけられる。それに先立ち、15日、「男性育休推進企業実態調査2022」の結果発表が厚生労働省で行われた。そこで繰り返し指摘されたのは育休取得率100%の企業でも取得日がわずか数日の「とるだけ育休」になっていることが少なくない実態だ。 *   *   * 「男性育休の取得率100%の企業でも取得日数には数日から約150日までと、すごくばらつきがあります。つまり、取得率が高いからといって取得日数が長いというわけではない。取得率が100%でも取得日数がともなわない『とるだけ育休』が存在することがうかがえます」  厚生労働省イクメンプロジェクトの座長で、認定NPO法人フローレンス会長の駒崎弘樹さんは、そう語った。  今回の調査結果は、男性従業員の育児休業取得を推進する141企業・団体の回答を分析したものだ。2021年度の全国の男性育児休業平均取得率は13.97%(厚労省調べ)なのに対して、今回の調査では59.7%(21年度)。企業全体と男性育休推進企業とでは取得率に大きな差があることを感じた。  男性の育休の取得率に大きな伸びがあったこともわかった(有効回答数92企業・団体)。20年度は52.0%だったが、22年度は76.9%と、直近の2年間で24.9ポイントも増加した(22年度は回答時点での見込みの数値。以下同)。  一方、平均取得日数については大きな変化がなく(有効回答数83企業・団体)、20年度は42.2日、21年度は35.4日、22年度は40.7日だった。  これらは、何を意味するのか。 ■金融・保険の「とるだけ育休」  取得率と平均取得日数の分布を示した図を見ると、取得率が高い企業ほど取得日数が長いわけではなく、むしろ、取得率100%でも取得日数の少ない企業が目立つ。つまり、男性育休推進企業でさえも「とるだけ育休」が珍しくない実態が明らかになった。  特に取得日数の少なさが際立ったのは金融・保険業界で、22年度の取得率は平均97.9%と非常に高いものの、平均取得日数は、20年度は6日、22年度は11.0日だった。  その背景について、イクメンプロジェクトの委員で、ワーク・ライフバランス社長の小室淑恵さんは、「金融・保険業界の特徴として、長時間労働があり、長期では休めない風土がまだまだあるのが実態ではないか」と言う。  対照的に取得日数の伸びが大きかったのは建設・不動産・物流業界で、平均取得日数は20年度が8日だったが、22年度は22.6日と、約2.8倍に増えた。 「19年から働き方改革関連法(働き方改革を推進するための関係法律の整備に関する法律)が順次施行されてきましたが、建設・物流業界では24年度から労働時間の上限規制が適用されます。この業界では今、非常に頑張って働き方改革をしている。なので、ここ数年で大きな変化が生まれたと思われます」(小室さん)  結局のところ、「本当に社内で男性育休が定着しているのかを見極めるためには『当事者が希望する期間の取得ができたのか』『とるだけ育休になっていないか』といった点で情報を精査する必要があります」(発表資料から)。 ■ブラックな職場の指標に  男性育休取得の実態公表の意義を、先の駒崎さんは、こう語る。 「ただ単に育休、育休と発信している企業や業界は、『とるだけ育休』になっている、ということがだんだんと見えてきた。今の学生は就活の際、育休の取得日数を見るようになってきていますので、そのような表面的な対応を繰り返していたら、学生から選ばれなくなる。男性が希望する育休をとれないような職場、イコール、ブラックな職場、ということで、採用力がどんどん落ちて淘汰されてしまう。そのような時代になってくるのでは、と思います」  その点、もっとも厳しい目が向けられているのが先に書いた金融・保険業界だろう。最近、三井住友海上火災保険は社員が育児休業をとった際に職場の同僚全員に3千~10万円の一時金を給付する制度を7月から始めると発表した。すると、同僚に気兼ねすることなく育休をとれると、インターネット上で共感が広まった。  今回の調査結果から職場の働き方改革と男性育休の取得日数の間には強い相関関係があることもわかった。 「働き方改革を職場全体で実施していると回答した企業の男性従業員の22年度の平均取得日数は33日なのに対して、一部の部署で実施していると回答した企業の平均取得日数は17日でした。約2倍の取得日数の違いがあるわけです」(駒崎さん)  つまり、男性育休の取得日数は、働きやすい企業を示す指標の一つになっているといえよう。 ■男性育休は少子化対策  そもそも、なぜ、男性が育休をとることが少子化対策に結びつくのか?  前出の小室さんは、出産数と夫の家事・育児時間の関係について、グラフを示しながら、こう説明した。 「これは厚労省のデータですが、第1子が生まれたとき、夫の家事・育児時間が長い家庭ほど第2子以降が生まれるということがわかっています。男性が育休を取得すると男性の家事・育児時間が延びる。そうした家庭ほど、第2子以降の出生が増加している。男性の育休取得が少子化対策の大きなかぎになる、ということです」  4月1日から改正育児・介護休業法の施行により、従業員1千人を超える企業は、男性従業員の育休取得率を公表することが義務づけられる。公表は厚労省が運営するサイト「両立支援のひろば」や自社のホームページなどで行われる。  しかし、だ。  平均取得日数の記載は任意である。これまで書いたように、育休の実効性は取得率と取得日数の両方が明らかにならなければわからない。  なぜ、国は取得率の公表のみを義務化したのか?  筆者の質問に対して、厚労省雇用環境・均等局職業生活両立課の平岡宏一課長は、こう答えた。 「育休は取得率と取得日数のかけ算で求めた『積』が大事なポイントで、この面積をどう増やしていくか、というお話がありましたが、男性の育休取得率自体が低い状況なので、まずは取得率から公表するということで、この制度が導入されたものと承知しております」 ■なぜ、公表できないのか  ただ、国がどこまで意識したのかは不明だが、取得率の公表のみを義務化し、取得日数の記載は任意とするのは、企業に男性の育休取得を促すには効果的な方法かもしれない。  本当に男性の育休取得を推進する企業であれば、取得率と取得日数の両方を公表するだろう。しかし、取得日数を空欄にした企業に対しては「なぜ、公表できないのか」と、社会から圧力が働く。その結果、職場全体の働き方改革が迫られる。 「企業トップや人事部門からの声かけで取得率の向上はできますが、誰が休んでもまわる職場づくりができていないと取得日数は増えない、ということがわかった調査結果」と、小室さんは述べたうえで、全社的に働き方改革を行うと、必ず行き着くのが属人化の解消だという。  小室さんは、さらにこう続けた。 「同僚が普段から休めていないなかで育休をとると非常に肩身が狭い。ですから、特別な事情がなくても休める、お互いさまの風土がある職場をつくることが重要です。普段から、あの人にしかできない仕事とか、特定の人に情報が偏っている仕組みを改善することで、育休をとる人の肩身の狭さが軽減され、十分な日数の育休を申請できるようになると思います」 (AERA dot.編集部・米倉昭仁)

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    ヌートバー侍Jでは“低年俸”も今後は安泰? WBCでの活躍がもたらす「巨大な恩恵」

     ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で準決勝(日本時間21日)まで駒を進めた侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)の招集などで開幕前から日本中が大騒ぎとなったが、大会が始まって最も注目されるようになったのは、なんといってもラーズ・ヌートバー(カージナルス)だろう。  初戦の中国戦からこれまで5戦全勝を収めている侍ジャパンの1番センターとして全試合に出場。打率.368(19打数7安打)、3打点、7得点とリードオフマンとしての役割を十分に果たし、守備でも好守を披露している。また、試合中やベンチでの“熱い”振舞いでもファンの心をガッチリと掴んだ。 「身体能力の高さや野球へ向き合う真摯な姿勢など、可能性は感じた選手だが未知数の部分も大きかった。カージナルスでは試合の出場数は増えているが、レギュラーポジションが安泰という立場でもない。どこまでやれるのか注目していたが、まさかここまで活躍するとは嬉しい誤算だった」(MLBアジア地区担当スカウト) 「少し前まで国内スポーツ界の話題といえば、(サッカー日本代表・長友佑都の)ブラボー一色だった。3月と時期が早いとはいえ、ペッパーミル・パフォーマンスなど何かしら関係するワードが流行語大賞にノミネートされるのは間違いないでしょう。調理器具専門店ではペッパーミルがバカ売れしているとも聞く。国内の日常風景すら変えてしまった」(大手広告代理店関係者)  一躍スター選手となったヌートバーは、WBCが終わった後も日本から熱い視線がそそがれるのは間違いないだろう。だが、メジャーでは2021年にデビューし、昨年は試合数を増やしたものの、これまで通算の出場試合数は166試合で92安打、19本塁打、55打点、6盗塁と“これから”の選手でもある。  昨年の年俸も53万8625ドル(約7000万円)と大谷やダルビッシュのメジャー組と比べると少なく、NPB組を含めても侍ジャパンでは給料は高いとはいえない部類だ。 「日本での知名度や人気は桁外れとなったが、米国ではまだまだ若手のグリーンボーイ。MLBでの実績がまだ少ないので、現状の年俸は適正価格だといえる」(大手マネージメント会社関係者)  今後の活躍次第では年俸が高騰しているメジャーで大型契約を見込めるだろうが、早くても年俸調停の権利を得るのは2024年のシーズン終了後。フリーエージェント(FA)は2027年のシーズン後と、“高給取り”になるにはこれから数シーズンにわたって結果を残すことが必要とされる。  今季は所属しているカージナルスでライトのレギュラーとして見られているが、同球団は育成上手で、続々と若手の良い選手が出てくるという事情もある。世界から有望な選手が集まる中で定位置を守り続けるのは至難の業だ。  だが今回のWBCでの活躍で日本での株は“急上昇”。仮にメジャーで結果を残さなくても、いずれかのタイミングでNPB球団が獲得に動くというのは間違いないと見られている。 「選手として結果を残せることは証明しつつある。外国人特有の強引さもなく、状況に応じたプレーができるので日本向きといえる。NPB球団に入団しても大外れの心配はないので獲得に動く球団は間違いなくあるだろう。また知名度は日本人トップ選手と比較しても遜色ない。仮に来日した場合には、戦力、営業面の両方で大きな力を発揮するはず」(在京球団編成担当者) 「仮にNPB球団が獲得に動くならば早いに越したことはない。ハードなプレースタイルは身体能力が支えており、またケガと背中合わせの部分もある。また営業面では熱しやすく冷めやすい日本人の国民性を考えても、WBCの記憶が残っているうちでないと意味がない。年俸2億の複数年契約なら今すぐ出す価値がある選手」(大手マネージメント会社関係者)  また、試合で一生懸命プレーする姿や、家族愛が溢れるコメントなどでイメージは抜群。これからはCMなど日本からの仕事が舞い込むことも十分に考えられる。 「ルックスも良く、目の下のアイブラックとペッパーミルという際立った特徴もある。水面下ではすでに複数企業からCM契約出演の打診が来ているらしい。一生懸命で爽やかなイメージがあるのでどのような企業にもマッチする。WBC後も様々な場所で見かけることになりそう」(大手広告代理店関係者)  そして、現在所属しているカージナルスでもWBCで活躍したことにより、恩恵を受けるかもしれないという。 「カージナルスは“おいしい選手”が出てきて喜んでいる。かつては田口壮(現オリックスコーチ)が在籍し、世界一になったこともある。日本との縁は深く、今回の人気をきっかけに広告や放映権などのジャパンマネー獲得を狙っている。実現すればヌートバーとの高額な長期契約を結ぶ可能性もあるかもしれない」(大手マネージメント会社関係者)  ヌートバーはWBCではわずか5試合だけの出場だが、グラウンド内外での価値は想像以上に上がっている。子供の時から夢見た侍ジャパンとしての活躍により、様々な“成功”を手にしたといえそうだ。WBC後も日本人メジャーリーガー以上に注目が集まる存在になるだろう。

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    WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」

     第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。  先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。  各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。  そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。  セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。  針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。  他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。  上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)

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    “最も口がクサい芸能人”クロちゃんが語る「口臭」 キス直前に彼女が見せる意外な反応とは

     安田大サーカスのクロちゃんが、気になるトピックについて"真実"のみを語る連載「死ぬ前に話しておきたい恋の話」。今回のテーマは「口臭」。「水曜日のダウンタウン」をはじめ、さまざまなバラエティー番組やSNSなどで、「口臭」についてイジられる機会が多いと話すクロちゃん。もっぱら「クサい」という評判だが、本人はどう感じているのだろうか。そして、彼女のリチさんの反応は? クロちゃんが「口臭」について語った。 *  *  *  数年前から、ボクはよく「口臭」をイジられている。もちろん、そのほとんどが「クサい」という、ひどいものばかり。バラエティー番組やYouTubeでは罰ゲーム的な扱いをされることもあるし、SNSでのイジりはもう恒例。「ペンギンの臭いがする」とか「水族館の臭いがする」などと指摘を受けたり、イベントなどの仕事にいくと、お客さんから、「息をハァーって吹きかけてもらえませんか?」という変なリクエストされることもある。気づけば、なぜか「日本一口がクサい人」みたいになってしまっている(笑)。みんな、ひどいしん! ボクだったら、そんなこと、絶対他人には言わないのに……。  振り返ってみると、口臭をイジられるようになったのは、「水曜日のダウンタウン」の企画「モンスターアイドル」がきっかけだと思う。その企画に参加していた、のちに「豆柴の大群」のメンバーになるアイカに、「口が少し臭いです」と、面と向かってハッキリと言われたんだよね。どうやら、あのカミングアウトが、視聴者的に、めちゃくちゃ面白かったみたい(笑)。あのオンエア後から、口臭をイジられることが急激に増えた。芸人として「面白い」と言われることはもちろんうれしいんだけど、「クサい」ってことで笑ってもらうのは、なんかちょっと違うというか、どうも素直に喜べない、複雑な気持ちになったのを覚えている。  ちなみに、ボクは、口臭について、実は、そこまで気にしてはいない。そんなに、みんなが騒ぐほど、絶対「クサくない」と思っている。だって、親友のたかみな(高橋みなみ)や、仲の良い後輩芸人の菊地(ワンワンニャンニャン)、サンミュージックのマネージャー・オオゼキさんには、「クサい」なんて、一度も言われたことがないからね。  だから、みんながイジってくることも、そこまで信じていないというか、「そうやってイジることで、ボクと仲良くなりたいんだろうな」くらいにしか考えていない。  ただ、もちろん、ボクだって、そりゃ人間なんだから、状況によっては、多少臭うことはあるだろうなとは、思っている。  若手の頃は、安田大サーカスのネタ合わせの時に、団長から「お前口クサいな!」とよく指摘はされていた。新ネタを練習していたりすると、緊張のせいで口が乾いてしまうからね。でも、それは仕方ないでしょ。みんなだって、同じ状況になれば、そんな風になってしまう時もあるはずだから。  まあ、でも、正直に白状すると……若手の頃は、団長以外の人にも、ちょくちょく口臭については指摘をされていた。  原因は、まあ、わかっている。当時のボクは、あまり歯磨きをしていなかったからね。  こんなことを言うと、またイジられそうだろうけど、あの頃は、歯磨きが、めっちゃ面倒くさくて、大嫌いだったんだ。だから、1~2週間、歯を磨かずに放置するなんてことはよくあった。最長では1カ月くらい放置していたこともある。ひとり暮らしだし、別に誰かに怒られるわけじゃないから、ついついおろそかになってしまっていたの。  だから、当時のボクは虫歯だらけで、歯がボロボロ。そんな状態だったし、もろもろの条件がそろえば、多少臭うことはあった……とは思う(笑)。  でも、そんな状態も、「いいかげんヤバいな」って思ったから、ある時から、ちゃんと近所の歯科医院にも通うようになったんだ。口の中もお掃除してもらったし、虫歯も全部治療してもらった。歯磨きだって、ちゃんとするようになったの。 「もう、これで大丈夫」  そんな風に思えて、安心していたのに、「モンスターアイドル」の影響で、「口クサい人=ボク」みたいなイメージが完全に定着してしまった。  改めて確認するけど、ボクの「口臭」については、みんな大げさに言っているだけだよね?(笑)。  だって、虫歯はもう治療しているんだから、臭うはずないでしょ。もし、それが本当なら、原因は歯じゃなくて、臓器が悪いってことなのかな。  もう対処法が分からない。というか、みんなの本音が分からない(笑)。  ちなみに、彼女のリチはどう思っているのか。  実は、最近、リチと過ごしていて、「ん?」と少し気になることがあった。  それは、ボクとリチがキスをする時なんだけど……リチは、キスをする直前に、毎回、息を「スー」って吸い込むんだ。毎回、必ずね。そんな謎の行動、普通はしないよね?  最初、気にはなったけど、とくに問い詰めることもなく、ボクは「あ~♪口の中に吸い込まれる~」みたいなことを言って、コントチックな雰囲気にしてから、キスをしていた。リチは、そういう面白いキスが好きなんだなって思って。  でも、ほんとに毎回それをやるから、「息を吸い込んでからキスをするのが好きなの?」ってリチに聞いてみたの。  そしたら、「違う違う、好きとかじゃなくて、まず息を吸ってからキスをするとクサくないから」だって(笑)。  もうびっくり。 「クサイと思ってるのかよ!!!」って、心で何度も叫んだよ(笑)。  まさか、口臭の対処法だったとは……なんなの、もう!  ボクの口は、クサくないからーーー!! (構成・AERA dot.編集部・岡本直也)

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    葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由

     葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉  冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。  お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。  まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を  お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。  正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。  お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切  身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。  一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。  ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。  お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉  死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。  死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。  時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。  深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言  結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。  新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。  お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち  結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。  出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。  文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。  やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。  どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。

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    落選組で侍ジャパンを作ってみると…「栗山ジャパンに見劣りしない布陣」に

     3月のWBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンの陣容が固まった。  投手陣を見ると、先発はダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)が当確で、4番手候補は今永昇太(DeNA)の可能性が高い。試合の中盤から投げる「第2先発」は宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、高橋宏斗(中日)が控える。終盤は湯浅京己(阪神)、宇田川優希(オリックス)と頭角を現した若手成長株に加え、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、大勢(巨人)と各球団の守護神が。様々な起用法に対応できる伊藤大海(日本ハム)の存在も心強い。大谷翔平(エンゼルス)が守護神として起用される可能性も考えられる。  野手はメジャー組が軸になりそうだ。大谷、ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)と強打者がズラリ。4番は昨年日本記録の56本塁打で三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)で間違いないだろう。ホームランアーティストの岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)も選出されており、破壊力十分。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)は出場辞退が報じられたが、投打で過去最強の布陣と言ってよいだろう。  ただ、今回のメンバーの選出に対しては賛否両論の声が上がっている。外野手が4人のみで本職のセンターが選出されていないことや、変則フォームの投手が少ないことが懸念されている。裏を返せば、それだけ代表候補の実力者が多いと言える。  今回の栗山ジャパンから漏れた「落選組」でメンバーを編成すると、どんなチームを作れるだろうか。他球団のスコアラーは「日の丸に縁がないけど、球界を代表する選手は少なくない。大谷レベルの選手はなかなかいませんが、総合力では栗山ジャパンに見劣りしないチームを作れますよ」と言葉に力を込める。  以下は現場の首脳陣、選手の評価が高い選手で構成したスタメンだが、いかがだろうか。 (右)松本剛(日本ハム) (中)岡林勇希(中日) (一)佐野恵太(DeNA) (指)浅村栄斗(楽天) (左)西川龍馬(広島) (三)宮崎敏郎(DeNA) (遊)長岡秀樹(ヤクルト) (捕)梅野隆太郎(阪神) (二)菊池涼介(広島) (投)青柳晃洋(阪神)  投手を含めた上記の10人を選出するのも頭を悩ませる。外野は塩見泰隆(ヤクルト)、近本光司(阪神)、ベテランの秋山翔吾(広島)、丸佳浩(巨人)、大島洋平(中日)も有力候補で層が厚い。複数のポジションが守れて、打撃センスが高い坂倉将吾(広島)、牧原大成(ソフトバンク)はベンチに入れたい。和製大砲の大山悠輔(阪神)も一塁、三塁、外野を守れることから重宝できる。代走の切り札では今季盗塁王に輝いた高部瑛斗(ロッテ)が筆頭候補だ。捕手と遊撃がやや手薄か。遊撃は紅林弘太郎(オリックス)、小園海斗(広島)が殻を破ってほしい。菊池と長岡の二遊間は守備能力が非常に高い。俊足強肩の岡林を含めたセンターラインは強固だ。  投手陣は先発が青柳のほか、西勇輝、伊藤将司(阪神)、大野雄大、小笠原慎之介(中日)、高橋光成(西武)、上沢直之、加藤貴之(日本ハム)、田中将大(楽天)ら多士済々。特に抜群の制球力を誇る加藤は先発、救援で抜群の制球力を発揮できるので起用法の幅が広い。救援陣は清水昇(ヤクルト)、伊勢大夢、山崎康晃(DeNA)、高梨雄平(巨人)、山崎颯一郎、比嘉幹貴(オリックス)、藤井皓哉(ソフトバンク)、與座海人、水上由伸(西武)が有力候補になるだろう。  スポーツ紙デスクは、「監督の目指す野球の方向性でメンバーはガラリと変わります。栗山監督は第2先発で起用する投手に、各球団のエース級をそろえましたが、ここがポイントになると思います。先発と救援では試合に入るリズムが変わるので、対応力が問われる。個人的にはロングリリーフできる加藤や與座を入れるかなと思いましたが、栗山監督の継投策が注目ですね」と分析する。  今回の侍ジャパンからは漏れたが、プロ野球を盛り上げる実力者たちの活躍も楽しみだ。(今川秀悟)

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    「厳しく怖い」伝説の大江健三郎 編集者が体験した冷や汗と忘れられない笑顔

     対談や連載など週刊朝日はノーベル賞作家の大江健三郎さんと深いご縁をいただいた。担当だった山本朋史元編集委員が大江さんの優しさを記憶に刻んでいた。 *  *  * 「編集者に厳しく怖い」。そんな伝説めいた大江評がなぜか本誌編集部に語り継がれていて近寄りがたい存在と目されていた。代表作をいくつか読んだだけで大江文学についてほとんど知らない事件記者だったぼくに1994年にノーベル文学賞受賞の記事を作れと指示が下った。困り果てて作家丸谷才一さんに泣きつき寄稿していただくことで救われた。徒手空拳で向かう相手ではない。受賞直後に単独インタビューなど、とても無理だった。  でも、大江さんに本誌に登場願いたい。ない知恵をしぼり、作家井上ひさしさんと20世紀末を振り返る対談をお願いしたのはたしか1998年の暮れのことだった。 「井上さんとだったらいいですよ」  快諾をいただき朝日新聞東京本社で行った対談は当初は3時間ほどで終わる予定だったが、お二人とも準備したものを語り尽くせず場所を変えて深夜に及んだ。  この対談は1999年新年号から2回にわたって掲載された。  お礼の手紙を出すと丁寧な返事をいただき、何度かやり取りが続いた。葉書や便箋に大江さん独特の角張った文字でびっしり書かれていた。当時の編集長から、 「大江さんに何か目玉になるような連載をやってもらえないか」  なかなか直接は口に出せないでいた。ある時、大江さんのほうから、 「子どもにもわかる童話のようなエッセイなら書いてもいいな」  と。願ってもない話だった。  なぜ学校に行かないといけないの?といった子どもの疑問に答えるエッセイの構想だった。最初の原稿を見せていただいた。簡単だが全体像を伝えるレジュメもできあがっていた。大江さんの故郷、愛媛県内子町で子ども時代に体験した話などを盛り込むという話も魅力的だった。  挿絵をどうするか。相談すると妻ゆかりさんが描いた絵を見せてくださった。繊細で詩的なタッチの完成度に驚いたものだ。タイトルは『「自分の木」の下で』。この時すでに大江さんの頭の中ではすべてができあがっていたのだと思う。担当記者のぼくのやることといえば、毎週月曜日に世田谷区の自宅に原稿を取りに行くこと。文学オンチのぼくでも楽勝、と思ったのは束の間。実はそんなに簡単ではなかった。  大江さんはいつも目の前で原稿を渡して、私が読み終わるとじっと見つめられた。 「子どもでもわかるようにしたいので、あなたが読んで少しでもわかりにくい部分があったら遠慮なく言ってください」  原稿用紙をハサミで何度か切り貼りした跡があったり、原稿用紙の隅に小さな字で書き込みをしたり。何度も推敲されたに違いない。重厚だが難解と思い込んでいた大江さんの文体とはひと味違っていた。読み応えがある、しかもわかりやすい。 「週刊朝日の読者にピッタリ。すばらしいです」といった通りいっぺんの称賛だけでは足りない。ふさわしい言葉が出てこない。情けなくなった。何か言わねば。焦り狂って畏れ多くもある時、 「この部分が少しわかりにくいと思います。ぼくにはちょっと難しい」  と言ったことがあった。すると大江さんは表情を変えた。 「そこで待っていてください」 ■詩集と色紙 忘れがたい笑顔  私がゆかりさんと挿絵について話していると10分ほどで大江さんは、 「これでどうですか」  と文章を作り変えてこられた。この時ほど冷や汗をかいたことはなかった。  連載はモノクロ誌面なのに、ゆかりさんは毎回時間をかけて丁寧にカラーで挿絵を描いてくれた。 「毎回色がすばらしい。なんとかカラーで本にしたいですね」  というと大江さんは自分の原稿のこと以上に喜んでくれた。連載は一回4ページ。切り貼りや書き込みが多かったのに分量はいつも変わらずきちっとしていた。ゲラをファクスで送るのだが直しはほとんどなかった。編集部の手続きミスで叱られたことはあったが、理不尽な怒りではない。大江さんを怖いと思ったことはなかった。  16回続いた連載が単行本になると評判を呼び36万部を超えるベストセラーに。しばらくして続編もお願いすると、 「彼女さえよければ」  とゆかりさんを見た。主婦業をやりながら時間をかけて一回に2枚の絵を描くのは大変な作業であることは大江さんも認識していたのだろう。『「新しい人」の方へ』というタイトルで続編が始まったのは1年近く経った2003年新年号からだった。  私事で恐縮だが、連載期間中に私の父が咽頭がんで死亡。数カ月後に母が末期の肺がんとわかった。看病のドサクサで原稿受け取りの日を変えてもらったことがある。すると大江さんは、 「病床でこの本をお母さんに読んであげたらいいですよ」  と一冊の詩集をくれた。ゆかりさんの手料理をご馳走になって、長男の光さんに悲しみを癒やすCD音楽を聞かせていただいたのもその頃だった。  古新聞に包んだ色紙を2枚いただいたこともあった。新井白石の「折たく柴の記」からの一文を筆記したもので、 「学業の道ではどんなに辛いことがあっても、自分を甘やかすことなく、いつも堪えて、人が一やることは十やり、十やることは百やりなさい」  私の無知を見通して、人の十倍勉強せよという励ます言葉をくださったのだと勝手に理解した。大江さんには、こういう優しさがあった。私が同時期に取材していたKSD事件の話も熱心に聞いてくれた。ちゃめっけたっぷりの笑顔が忘れがたい。2冊の本を再び手にしながらなんだか頭の中を寂しい風が抜けていくような気がする。(山本朋史)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    「芦田愛菜」慶應政治学科進学で再注目された“秀才伝説” 15歳で読書1000冊&台本は全出演者分を暗記

     4月から内部進学で慶應義塾大学法学部政治学科へ進学することが報じられた女優の芦田愛菜(18)。報道によると、同学科は内部進学を目指す生徒から人気があり、3年間で優秀な成績を収めた結果、無事進学が決まったという。  芦田は慶應義塾中等部に入学した2017年、「スッキリ!!」(日本テレビ系)で、将来について「病理医」になりたいと話したこともあってか、医学部への進学もささやかれていた。ふたを開けてみれば法学部へ進んだが、なぜ法律学科ではなく政治学科を選んだのだろうか。週刊誌の記者は言う。 「芦田は今後も芸能活動にも力を入れていく予定のようで、やはり理系学部となると授業が忙しくなり支障が出るからでしょう。慶應の法律学科は司法試験合格を目指す学生も多く、法律について深く学び専門性が高い。一方、芦田が選んだ政治学科は法律から政治学まで、さまざまな分野を幅広く学ぶことができる。もしかしたら、将来はそこで学んだことを生かしてマルチに活躍できる芸能人という道も視野に入れているのかもしれません。2月に行われた『2023年エランドール賞』の授賞式に出席した際も、新人賞に選ばれた芦田は今年の目標について『いろんなことにチャレンジしたり、フットワークが軽い人間になりたい』とコメントしています」  芸能活動は多忙で、昨年は主演映画「メタモルフォーゼの縁側」が公開され、現在もバラエティー番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日系)でMCを担当するうえ、多数のCMに出演するなど引っ張りだこだ。医学部進学が取り沙汰された際は、芦田に女優と医師という“二刀流”を期待した人もいるかもしれないが、多忙な芸能活動をこなしながら成績上位で人気学科に進学したのは、やはりすごいと言うべきだろう。  最近メディアで活躍する慶應義塾大学法学部政治学科のOGといえば、テレビ朝日の弘中綾香アナ、情報番組「シューイチ」のMCを務める日本テレビの徳島えりかアナ、コメンテーターなどでも活躍するトラウデン直美など、知的で華もある女性が多い。  芦田もそのイメージ通りと言えそうだが、そもそも、その秀才ぶりは子役のころからたびたび話題になってきた。19年、15歳で初の単行本『まなの本棚』(小学館)を刊行。発売記念会見では、これまでトータル1000冊以上は読んでいると明かし、読書は歯磨きや入浴と同じくらい当たり前な日常だと語っていた。子どものころから読書が習慣だった人は知識が豊富で地頭の良い人が多く、だからこそ芸能活動と学業が両立できたのかもしれない。 ■マルモリ福くんが学友に!?  また、「バラいろダンディ」(TOKYO MX、3月10日放送)では、芦田が6歳ぐらいのころに一緒に営業に回っていたという古坂大魔王が当時の芦田について、「どの現場にも必ず宿題を持ってきていた」「本番で全員分の台本を覚えていた」と明かしていた。やはり、子どものころから地頭の良さは健在だったようだ。 「最近のコメントからも頭の良さがにじみ出ています。一昨年放送された『博士ちゃん』で、廃虚となった軍艦島が紹介された際、『人が造ったものがまだ残っているっていうのは、崩れないことの皮肉というか、循環していけないことのむなしさを感じる』と、とても10代とは思えない含蓄のあるコメントを残していました。その一方で、昨年6月に放送されたバラエティー番組の料理企画ではホイコーロー作りに悪戦苦闘し、『どんくさいんです』と漏らすなど、普通の高校生らしいところも残っていました」(前出の記者)  また、「マルモのおきて」(フジテレビ系)で、子役としてともにブレークした鈴木福も慶應大学に進学すると報じられた。“マルモリコンビ”は大学でも学友となることに。 「報道によると、鈴木の場合は書類と面接で評価される『AO入試』で合格したとのこと。学力だけでいえば芦田のほうが勝っている印象ですが、昨年7月に2人が『博士ちゃん』で共演した際は、鈴木が『愛菜ちゃんも頑張っているのを見ると刺激になる』と率直な思いを語っていました。さらに、『戦友だと勝手に感じている部分がある』と鈴木が言うと、芦田も『うん!』と応答。そんなやりとりを見て、今後もお互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら活躍してほしいと願っている視聴者は多いでしょう」(テレビ情報誌の編集者)  元「週刊SPA!」芸能デスクの田辺健二氏は芦田についてこう評する。 「兵庫県生まれで幼いころは関西弁を話していた愛菜ちゃんですが、仕事で新幹線が東京に近づくにつれ『どんどん標準語になっていった』といったエピソードなど、彼女には“天才子役伝説”がたくさんあり、神格化されてきた感もあります。しかし、そのプレッシャーに押しつぶされることなく、マイペースにここまで芸能界と学業を両立していることがまずすごい。子役出身で芸能界に残れる人はほんのひと握り。愛菜ちゃんは役に恵まれてきたという側面もありますが、その“当たり役”を引き寄せたのは彼女の実力です。学業を優先しつつ、昨年は映画『メタモルフォーゼの縁側』に主演。興行的に苦戦しましたが、BL好きの女子高生という役を好演し、新たな可能性を感じさせる作品になりました。今後は学業が忙しくなると思いますが、いつか女優としてフルスイングする愛菜ちゃんも見てみたいですね。元天才子役のポテンシャルはまだまだこんなものではないと思います」  大学生活も注目を集めそうな芦田。身につけた教養を生かしてどんな活躍を見せるのか楽しみだ。 (丸山ひろし)

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    室井佑月「自分ファーストの娘(息子)って?」

     作家の室井佑月さんは、上野千鶴子さんを身近に感じている理由を明かす。 *  *  *  週刊文春に「“おひとりさまの教祖”上野千鶴子(74)が入籍していた」というスクープが載った。上野さんは3月15日発売の婦人公論で、反論記事を書くという(私がこのコラムを書いているのは3月12日)。上野さんはTwitterで「『文春砲』なる下劣な報道」といっていた。なにを下劣といっているのか?  なにを隠そう、私は今ほど上野千鶴子を身近に感じたことはない。  私の1回目の結婚は、出会った時はまだ奥さんのいる男の人とだったので、略奪婚と一部の厳格な人々から叩かれたものだ。そうそう、相手が19歳年上だったこともあって、「気持ち悪い」と散々ないわれようだった。それはその時の子が成人し、20年以上経った今でもたまにいわれる。  蓋をあければ、フェミニストの親玉の上野さんも、私とおなじだったのか。もちろん、そこを責めるつもりはない。恋は狙って落ちるものじゃない。たまたまパートナーのいる人を愛し「結婚制度、反対」という意見になり、パートナーのパートナーが亡くなって独りになったら(介護や財産分与のこともあるんだろうが)結婚というものをしてみたくなる。上野千鶴子、なんとも人間らしい、魅力的な女性じゃないか。  なぜ、上野千鶴子を崇拝してやまない一部のフェミニストは、上野千鶴子以外の上野千鶴子と似たようなことをしている女は、叩けるのだろうか? 上野千鶴子が今回、下劣だと怒っているのは、他人に向けるゲスな興味のことじゃないの?  上野さんの教えが不味(まず)いのか、受け取る側によっぽど難があるのか。  一方で、3月8日の国際女性デーには、上野さんのインタビューが読売新聞「大手小町」に載っていた。上野さんは記事の中で、こんなことをいっていた。 「自分ファーストの娘たちが大量に登場した、日本史上初の快挙です。(中略)耐えることが日本の女の美徳でなくなった」  耐えることが日本女性の美徳なんて、私も真っ平ごめんだ。しかし今、自分ファーストすぎる娘たち(息子たちもいると思う)も問題なのだと思ってる。子がいるいないは関係なく、いくつになっても大人になれない、自分のことしか考えない人間たち。  上野さんはこうもいっていた。 「候補者男女均等法(※政治分野における男女共同参画推進法のこと)を作ったけれど罰則規定がない、つまりやる気がない証拠です。法律に実効性を持たせるには、強制力が必要です」  罰則? そこまでいうなら社会のために上野さんが立候補すればいい。けど、それはない。上野さんこそ、自分ファーストの娘だものね。いくつになっても。 室井佑月(むろい・ゆづき)/作家。1970年、青森県生まれ。「小説新潮」誌の「読者による性の小説」に入選し作家デビュー。テレビ・コメンテーターとしても活躍。「しがみつく女」をまとめた「この国は、変われないの?」(新日本出版社)が発売中※週刊朝日  2023年3月31日号

    週刊朝日

    21時間前

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    WBC大谷の看板直撃ホームランの“値段” 巨人戦なら賞金100万円、広告効果は1億円以上

     WBC日本代表の快進撃で、日本中が沸いている。12日のオーストラリア戦では、大谷翔平選手が打ったホームランが、自身が映し出されたセールスフォースの看板に直撃。SNSでは「自分の看板を破壊」、「広告効果抜群」、「大谷に賞金をあげるべき」などと思わぬ話題を集めた。果たして、賞金は出るのか、修理費はいくらか、広告効果はどのくらいあったのか――。 *  *  *  「ものスゴイ打球速度で来たホームランでした」  こう語るのは、東京ドームで開催された日本対オーストラリア戦を現地で観戦した「ミスターX」(ツイッターのハンドル名)さんだ。偶然にも看板の真下の席にいたという。大谷選手は1回、ランナーを1、2塁において、特大の3ランホームランを放った。 「周りは狂喜乱舞で大騒ぎだったので、看板に直撃した音はわかりませんでした。直撃した看板がチカチカ点滅していたので壊れたんだなと思いました」(ミスターXさん)  ちなみに東京ドームでは、読売巨人軍の公式戦でメインビジョンの広告にホームランを当てると、「ビッグボードホームラン賞」としてスポンサーから選手に100万円相当の賞金、または賞品が贈られるという特別ルールがある。今回のホームランには賞金は出ないのだろうか。 「カーネクスト 2023 ワールド・ベースボール・クラシック 東京プール」(WBC)の主催者に尋ねると、広報担当者は「大会では用意していない」という。セールスフォースは「契約内容は公開できないので、コメントは控えたい」ということだった。  壊れた看板は誰が修理費を払うのだろうか。主催者に確認すると、なんとメインビジョンは壊れていないという。 「当たった後は壊れたように見えましたが、壊れていません。13日もチェコ対オーストラリア戦の試合がありましたが、ボールが当たった個所は支障はなく映っていました」(広報担当者)  東京ドームに尋ねると、故障はしていないとした上で、メインビジョンの仕組みについては「面積等以外の情報を全て社外秘とさせていただいており、非公表」ということだった。  では、宣伝効果はいったいどのくらいあったのか。大手PR会社であるプラップジャパンにネット上での影響について分析してもらった。  SNSやウェブ記事などを分析するツール「Talkwalker」で12日から14日の3日間で大谷選手の名前とセールスフォース、同社のロゴが含まれている投稿、記事を調べた。その結果、Twitterでの投稿者数は399人、投稿数は420件だった。約120万人ものユーザーに情報が届いたと見られる。また、ウェブ記事としては転載を含めて204件もあったという。  プラップジャパンのデータアナリスト、寺門洸人さんはこう分析する。 「Twitterでは、スポーツ紙関連アカウントや野球ファンだけでなく、著名企業家や有名ブロガー、エコノミストなどビジネス界隈の著名アカウントで複数投稿が見られ、話題が拡散しました。また、スポーツ各紙のオンライン記事がYahoo!ニュースに複数転載されたことで、野球ファン以外の一般層の多くの目に触れられる効果があったと思います。Twitterでの二次波及も引き起こしました」  放送されることでの宣伝効果はどのくらいあったのか。  テレビ放送の効果測定などを行うニホンモニターによると、中継で「セールスフォースの看板」が出た回数は14回、合計で36秒だった。また、12日の夜から13日の正午までに放送されたニュース番組では、合計で20番組、約602秒も出ていたという。  広告換算すると、中継での金額が約1900万円、ニュース番組での金額が9700万円、合計で1億1600万円もの効果があったと分析する。調査を担当したニホンモニターの安藤純一さんはこう語る。 「注目度の高い大谷選手が打ったこと、そして初回にホームランが出たことで、ハイライトシーンでも繰り返し放送されることになりました。看板の広告費用がいくらかわかりませんが、広告効果は十分にあったのではないでしょうか」  東京ドームに広告掲載がいくらになるか尋ねたが、「金額条件をお伝えすることはできません」と、こちらも非公表だった。  話題となったセールスフォースは、思わぬ効果に喜びに溢れているのではないか。取材を申し込むと、「今回の件につきましては、特に当社としてのコメントや感想はご提供しておりません」(セールスフォース・ジャパン広報担当)とまさかの塩対応だった。  日本代表は16日に準々決勝でイタリアと対戦する。次はどんな話題が飛び出すか。 (AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    管理職「なりたくない6割」時代の背景 出世より「持続可能な働き方」の価値観に変化

     約6割が「管理職」に昇進したいと思わない──。目標であり、出世のための階段とされてきた管理職が揺らいでいる。責任の重さ、長時間労働、部下との関係。その憂鬱さ、つらさを訴える声が聞かれる。打つ手はないのか。AERA 2023年3月27日号の記事を紹介する。 *  *  * 【管理職 官公庁・企業・学校などで、管理または監督の任にある職。また、その任にある人】  辞書に載っている管理職の定義だ。かつては、出世コース上にあるとされ、多くの人が同期や先輩を出し抜き、我先にと目指したポジションに異変が起きている。  厚生労働省の「労働経済白書」(2018年版)によると、役職に就いていない職員や係長・主任相当の職員で「管理職に昇進したいと思わない」のは61.1%。「管理職以上(役員含む)に昇進したい」の38.9%を大きく上回っているのだ。  厚労省の元労働局長で、事業創造大学院大学の浅野浩美教授(キャリア論)は、 「管理職は、責任が重くなり、長時間労働になるので避けたいと考える傾向が強まっています。また、強く言えば、ハラスメントだと訴えられる可能性だってある。マネジメント力に自信がない人は手を挙げなくなっている」  と説明する。 ■「死にたい」と思った  その言葉を痛切に受け止めるのは、東京都内のメディア関連会社員の男性(59)だ。21年、勤務先の副社長を自ら降りた経験がある。  副社長になって4年目のことだ。海外にいることが多い社長に代わって実質的な経営の指揮を執っていたが、相次ぐ新興メディアの台頭で業績が急速に悪化。ギスギスしていく社内の雰囲気が全身に突き刺さるうちに、次第に心のバランスを失ったという。男性は、 「なんとか出社はしていましたが、毎日死にたいと思っていた。限界でした」  と話す。うつ病と診断され、心療内科に通った。他の役員が「しんどいでしょう」と声をかけてくれた時、素直に降格人事を受け入れたという。  同じ頃、信頼し、評価していた部下のひとりからパワハラで訴えられた。  育てようという一心で叱咤激励しながらも、家族のように親しく付き合っていたが、部下には受け入れてもらえず、会社からは懲戒処分を受けた。 「ショックでしたね。約15年前に初めて管理職になった当時は、違う景色が見えたような気がして、高揚感がありました。優秀な部下とともに日夜問わず夢中で働き、休日は自宅に招いて食事会もしていたのに。自分にはリーダーシップがあると思っていただけに、コミュニケーションの取り方に悩むことが増えました」(男性)  20年に実施された厚労省の「職場のハラスメントに関する実態調査」によると、過去3年以内にパワハラを受けたことがあると回答した人は31.4%。声をあげやすい環境が整いつつあるということでもあるが、前出の浅野教授は、こう指摘する。 「管理職は、部下の指導によりきめ細やかさを求められるようになりました。その上で、自分の仕事をこなしながら、この変化の激しい時代に職場のパフォーマンスも上げなければならない。大変なことばかりに見えて、敬遠されてしまうのは仕方がない面があります」 ■変化している意識  働き方の変化も「管理職離れ」を加速させている。  例えば、この5年ほどで急速に広がっている「ジョブ型雇用」。会社があらかじめ職務(ジョブ)と賃金を定め、それに見合う技能をもつ人を雇う制度だ。社員は原則その職務以外はせず、年齢が上がっても賃金は増えないとされている。働き方評論家で千葉商科大学准教授の常見陽平さんは、 「昇進はキャリアの断絶だと考えられるようになりました。管理職になることは、必ずしも好意的にとらえられていません。自分のやりたいこと、深めたいことを仕事にしたいと考える人が増えました。管理職になるということは、それまで夢中になってやっていたことができなくなるということです」  と話す。昇進や昇格は、仕事ぶりを評価されているからこそであり、会社からの期待の表れのはず。しかし、 「キャリア形成に対する人々の意識が変化しているということです。さらに、かつては部下といえば『男性新卒プロパー』しかいなかった企業で、非正規雇用、テレワーク、時短勤務など、雇用形態や勤務形態、給与も千差万別な部下をまとめる必要が出てきた。負担を感じる人は多いでしょう」(常見さん)  共働き家庭が増えたことも、管理職に対する意欲に影響を与えているようだ。  静岡県のメーカーで働く男性(60)は、かつて班長として部下を抱えていた時期があるが、課長への打診を断ったことがある。当時、45歳。とても忙しく、まだ保育園児だった2人の子どもの世話は、金融機関でフルタイム勤務をしている妻に任せがち。長期の海外出張に行った時に、妻が精神的にまいってしまったこともあったという。男性は、 「会社からはコストダウンを厳命されていたけれど、人を減らすことしか解決策がない状況だった。その分の仕事は、管理職がカバーしなければならないことは明らか。私がこれ以上忙しくなれば、妻が倒れてしまうと思いました」  と振り返る。妻が仕事を続けることを希望したことに加えて、右肩下がりの経済状況を考えると、共働きを続けられる「持続可能な働き方」を夫婦ともに選択する方が賢明だと判断したという。以来、イチ社員として定年までを過ごし、現在は再雇用の身だ。あの時の判断について男性は、こう話す。 「後悔は全くないです。管理職になっても、たいして給料は上がらない。休日もない状態で働き続けていたら、私自身の心身も家族もボロボロになっていたでしょう」  常見さんは、若い世代を中心に同様の価値観が広がっているとし、 「ストレスなく続けられるということは、働き方のひとつの答え。偉くなるより、一人前になりたいと考え、その選択ができるようになった」  と時代の変化を評価する。  けれど、管理職になりたくない人ばかりになると、組織が立ち行かなくなってしまうケースも出てくるだろう。打つ手はないのか。突破口になるかもしれない興味深いデータがある。 ■意欲が高いのは  21世紀職業財団(東京都)が22年、従業員101人以上の企業に勤務している20~59歳の正社員男女4500人を対象に行った調査によると、「管理職になりたい」割合は、総合職男性24.8%、総合職女性12.0%と、男性のほうが高かったが、「管理職に推薦されればなりたい」との回答は男性31.3%に対して女性は33.2%。わずかに、女性が上回っているのだ。  事業創造大学院大学の浅野教授は、 「上を目指したい気持ちのある女性は多いけれど、躊躇(ちゅうちょ)があることがわかる。自信が持てなかったり、子育てや夫との関係などを考えてしまったり。甘えているように見えるかもしれないけれど、その一方で、推薦されるなど後押ししてくれる理由があれば、管理職をやろうという女性はいるのです」  と話す。  また同財団の別の調査では、女性は男性に比べて、年齢が上がっても仕事への意欲が衰えないこともわかっている。内閣府によると、民間企業の女性管理職比率(課長相当職)は21年時点で12.4%だが、管理職のなり手不足に悩む企業は、この女性たちの意欲を見逃す手はないだろう。 「男女問わず、働く人は上司の言葉、態度、雰囲気で自分が評価されているか否かを感じ取り、それがやる気につながる。性別に基づくアンコンシャスバイアス(無意識の偏見)を取り除き、今こそ企業は本気を見せる時です」(浅野教授) (編集部・古田真梨子、小長光哲郎) ※AERA 2023年3月27日号より抜粋

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    21時間前

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    大谷翔平、トラウト、山本由伸…WBC出場選手の年俸は?「MLBとNPBで衝撃の格差」が

     パドレスのダルビッシュ有が6年総額1億800万ドル(約140億4000万円/すべて「1ドル=130円」で計算)で契約延長することで合意したと、MLB公式サイトで報じられて話題になった。ダルビッシュは昨季メジャー自己最多タイの16勝をマーク。実力を示せば、36歳でも大型契約を結べると証明したことにロマンを感じる。日本球界では考えられない契約内容だろう。  ただ、MLBでは上には上がいる。大谷翔平のエンゼルスの同僚で米国代表のマイク・トラウト(エンゼルス)は2019年から12年契約を結んでおり、今季の推定年俸は3712万ドル(約48億2000万円)でWBC出場選手の年俸ランキングではトップの可能性が高い。本塁打王を3度獲得した実績を持つノーラン・アレナド(カージナルス)は推定年俸3500万ドル(約45億5000万円)。メジャーを代表するショートストップでプエルトリコ代表のフランシスコ・リンドア(メッツ)は推定年俸3410万ドル(約44億3000万円)。走攻守3拍子揃った大型内野手でドミニカ共和国代表のマニー・マチャド(パドレス)は推定年俸3200万ドル(約41億6000万円)。日本人最高は大谷とダルビッシュが共に推定年俸3000万ドル(約39億円)で、昨オフはポスティングシステムでレッドソックスへの移籍が決まった吉田正尚が5年総額9000万ドル(約117億円)の大型契約を結んだ。  NPBの年俸ランキングはどうだろうか。山本由伸(オリックス)が推定年俸6億5000万円で日本人トップ。2位が柳田悠岐(ソフトバンク)で推定年俸6億2000万円。3位は村上宗隆(ヤクルト)、坂本勇人(巨人)が推定年俸6億円で並ぶ。侍ジャパンで予想スタメンを組むと、MLBとNPBの選手で年俸に大きな格差を感じてしまう。(金額はいずれも推定) (指)大谷翔平(エンゼルス)   39億円 (中)ヌートバー(カージナルス) 9300万円  (左)吉田正尚(レッドソックス) 21億円  (三)村上宗隆(ヤクルト)     6億円 (右)鈴木誠也(カブス)     23億円 (一)牧秀悟(DeNA)          1億2000万円 (二)山田哲人‘(ヤクルト)   5億円 (捕)甲斐拓也(ソフトバンク)  2億1000万円 (遊)源田壮亮(西武)       3億円  メジャーを取材するスポーツ紙記者は「MLBとNPBではマーケットの規模が違う」と指摘する。 「スポンサーから入ってくる金額や放映権料のケタが違うので、年俸にも当然反映される。米国ではコロナが収束したのも年俸が高騰した要因です。ただ世界各国の選手たちが集まってくるメジャーで活躍できる選手はごく一握り。活躍できなければ、他の選手にすぐに取って代わられる世界です。NPBより選手層が厚いし、競争もはるかに激しい。メジャーの昨季の最低年俸は約8000万円ですが、マイナーに降格したら大幅に減額されます。メジャーに一度も昇格していない選手の中には、年俸1000万円をもらっていないベテランもいます。どちらのリーグのほうが恵まれた待遇かは一概に言えないですね」  確かに、日本球界のトッププレーヤーたちがメジャーで活躍できる保証はない。特に日本人野手は苦戦するケースが多く、西武で最多安打のタイトルを4度獲得した秋山翔吾は19年オフにレッズにFA移籍したが、20、21年で通算142試合出場にとどまり、打率.224、0本塁打、21打点。昨季は開幕ロースターから外れて自由契約になり、パドレスでマイナー契約を結んでメジャー昇格を目指したがかなわず、シーズン途中に広島で日本球界復帰した。  侍ジャパンの4番を務めた経験を持つ筒香嘉智も米国挑戦4年目の今季はレンジャーズとマイナー契約を結び、スプリングトレーニングに招待選手として参加。厳しい競争を勝ち抜き、メジャー昇格するためには実戦で結果を残すしかない。  スポーツ紙デスクは、「NPBはMLBと3Aの中間ぐらいのレベルという位置づけだと思います。そう考えると選手の年俸はちょうど良いバランスのように感じます。今回のWBCで米国代表の選手たちの推定総年俸は430億円を超えるといわれています。メジャー組を含めた侍ジャパンの選手たちの推定総年俸よりもはるかに多いのですが、勝負事は何が起きるか分かりません。順当に勝ち進めば米国と準決勝で対戦する。一発勝負ですし、NPB組が世界の野球ファンを驚かせる活躍を見せてほしいですね」と期待を込める。 「銀河系軍団」と形容される米国代表を撃破できるか。 (今川秀悟)

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    契約金“5億円超え”で騒動になった男も 期待外れに終わった「ドラ1大型左腕列伝」

     身長190センチ前後の大型左腕といえば、現役では、188センチの山崎福也(オリックス)、191センチの上原健太(日本ハム)、日本人左腕歴代最長身、193センチの弓削隼人(楽天)が該当する。彼らはアマチュア時代から“和製ランディ・ジョンソン”の異名で呼ばれることが多いが、過去には「将来のエース」と期待されながら、不発に終わった者も少なくない。  新人王候補と期待されながら、プロで伸び悩んだのが、2004年に自由枠で横浜に入団した192センチ左腕・那須野巧だ。  日大時代は4年の春に優勝投手になるなど、通算22勝を記録。最速149キロの速球は「ホームベースの1メートル手前から伸びる」といわれた。  1年目は5月15日の日本ハム戦でプロ初先発初登板デビューも、初回に小笠原道大と新庄剛志にタイムリーを浴びるなど、6回4失点と力みから制球を乱し、「さすがに緊張した。1軍は甘くないなあと」とプロの厳しさを味わった。  その後、5月22日の西武戦で5回4失点ながら、うれしいプロ初勝利を挙げたものの、同29日のロッテ戦は里崎智也に満塁弾を浴び、1回4失点KOで中継ぎに降格。1年目は1勝2敗、2年目も3勝8敗と不本意な成績に終わった。  さらに翌07年は、開幕直後の4月11日に入団時の契約金が最高標準額(1億円プラス出来高5000万円)を大幅に超える5億3000万円だったことも明るみになる。  そんな騒動のなか、「グラウンド上で精一杯のプレーをして結果を出す」と誓った那須野は、4月24日の巨人戦で、夫人の出産に立ち会うため、一時帰国した守護神・クルーンの代役として8、9回を抑え、プロ初セーブを挙げた。  だが、同26日の巨人戦では、1点リードの8回から三浦大輔をリリーフした直後、4連続長短打を浴び、三浦の2年ぶりのG戦白星を消してしまう。  先発に戻った08年も5勝12敗、防御率6.47と安定感を欠き、翌年以降は1勝もできないまま、「最後まで熱いものがなかった」と、11年のロッテを最後にユニホームを脱いだ。  高校時代に“和製ランディ”の異名をとりながら、プロでは通算1勝で終わったのが、ロッテの190センチ左腕・木村優太(本名・雄太)だ。  秋田経法大付時代は甲子園に出場していないが、素質豊かな最速144キロ左腕に12球団がこぞって注目した。  2003年春、筆者は取材で会った広島のスカウトから「今年のウチの1位は木村で決まり」と聞かされた。同郷の秋田出身のスカウトが密着しているという。  だが、同年のドラフトでは、木村はどの球団からも指名されず、東京ガスに入社したので、「広島の話は?」と首を捻ったことを覚えている。  その後、07年春に西武の裏金問題が発覚し、木村が高校時代から「栄養費」を貰っていたことが明らかになった。1年間の謹慎処分を受けた木村は、解禁後の08年の都市対抗で活躍し、ロッテに1位指名で入団する。  2年間2軍暮らしのあと、西本聖コーチとフォーム改造に取り組み、11年8月24日に1軍初昇格。同日のソフトバンク戦に7回からリリーフで初登板をはたすと、1イニングを1安打無失点に抑え、内川聖一、カブレラから三振を奪った。  だが、初勝利までの道のりはさらに遠かった。15年4月8日のオリックス戦、先発・木村は初回を除いて毎回走者を出しながらも、5回を1失点と踏ん張る。そして、0対1の5回に今江敏晃の逆転2点タイムリーが飛び出し、7年目の初勝利を手にした。 「長かった。やっと勝てたなという気持ち。アマチュア時代から気にかけてくれている人も多いので、勝てて良かった」と笑顔を見せた29歳の遅咲き左腕だったが、4月15日の日本ハム戦では、大谷翔平に2点タイムリー二塁打を浴びるなど、4回途中5失点KO。その後は結果を出せないまま、翌16年シーズン後に戦力外通告を受けた。  1軍デビュー直後にあっと驚く快投を演じながら、エースになることができなかったのが、楽天の191センチ左腕・片山博視だ。  報徳学園時代に2度甲子園に出場。打者としても高校通算36本塁打を記録した片山は、投打いずれもドラフト上位候補と注目され、05年の高校生ドラフトで楽天から1巡目指名を受けた。  1年目に肘を痛め、一時は130キロも出ない苦境を克服した片山は、08年に1軍初昇格。2度目の先発となった7月2日のロッテ戦では、「逃げない」の言葉を胸に刻み、6回1死一、三塁のピンチに、ベニー、ズレータを連続三振に切って取る。9回2死三塁も、今江を遊ゴロに打ち取り、鮮やかな3安打完封でプロ初勝利を挙げた。 「まだ実感がわかないです。1軍で勝ちたい気持ちでやってきた。この3年間はあっという間でした」と初々しいコメントを口にする21歳の若武者に、野村克也監督も「ナイスゲーム!よく踏ん張ってくれた。あの子の真っすぐはスライスする。いわゆる“真っスラ”なんだ。右打者が詰まるのはそれ」と賛辞を惜しまなかった。  だが、その後は相次ぐ故障から15年に打者転向、16年に投手復帰、さらにはトミー・ジョン手術と苦闘を続けた末、育成契約の17年を最後に退団。18年からBCリーグ・埼玉武蔵で主に野手、現在はコーチ兼野手として登録されている。(文・久保田龍雄) ●プロフィール久保田龍雄/1960年生まれ。東京都出身。中央大学文学部卒業後、地方紙の記者を経て独立。プロアマ問わず野球を中心に執筆活動を展開している。きめの細かいデータと史実に基づいた考察には定評がある。最新刊は電子書籍「プロ野球B級ニュース事件簿2021」(野球文明叢書)。

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    「人の顔色ばかり伺う自分」が嫌で「言いたいことを言える自分」になりたいと吐露する27歳女性に、鴻上尚史が“その2つは一緒”だと指摘し提案したこと

    「人の空気感や顔色をうかがうことは得意」でも「人の気持ちを考えることがとても苦手」と告白する27歳女性。自分の頭で考えられるようになりたいと願う相談者に、鴻上尚史が指摘する「こんな私でも」と否定的な思考の流れを遮断する必要性。 【相談177】私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちを考えることがとても苦手です(27歳 女性 砂漠)  鴻上さん、こんにちは。  以前、「大人というのは自分の頭で考えられる人間になることだ」という鴻上さんの言葉を拝見しました。  私は、なるほどなと思うと同時に、それなら自分は子どもだなとも感じました。  というのも、昔から私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちに寄り添う=その人の気持ちを考えることがとても苦手で、そのせいか友達は少ないのに、先生や友達の親といった大人からは好かれやすいところがありました。  周りからはそれを「優等生」「いい子」と見られ、褒められることもありましたが、私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました。私には私の考えがないから、自分の意見を言うことができない。子どもが親に許しをもらおうとするように、うかがいをたてることしかできないんだと辛くなりました。  本をたくさん読むと自分で考える力が付くとも言いますが、私の場合、本を読んでもこんな考えもあるのか!とは思えど、それをちゃんと力にできていない気もして……(力にできていたら、こんなダメにはなっていませんよね)。  今回もこのような形で自分の力ではなく、鴻上さんの力に頼るようなことをしておりますが、こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたいとも思っており、投稿しました。  長文をすいません。  どんな厳しい言葉でもいいので、よろしくお願いします。 【鴻上さんの答え】 砂漠さん。そうですか。「顔色をうかがうことは得意」でも、「その人の気持ちを考えること」がとても苦手なんですね。  この二つは、似ているようで違いますよね。「顔色をうかがうこと」と「その人の気持ちを考えること」の違いはなんでしょうか。  僕が思うには、「顔色をうかがうこと」は、「人に嫌われたくない」という気持ちが中心で、関心は自分に向いていると感じます。一方、「その人の気持ちを考える」ということは、関心は相手に向いているんじゃないかと思います。自分中心か、相手中心かの違いですね。  いきなりの例え話なんですが、俳優になりたい初心者の中で、ものすごく自意識が強い人がいます。  相手役と会話していても、「どんなふうに見られているか」「恥は絶対にかきたくない」「笑われたくない」と強く思っている人です。そういう人は、相手に対する関心はまったくありません。相手がどんな表情をしようが、どんな演技をしようが関係ないのです。関心は自分です。自分がどうしたら恥をかかないか、笑われないか、どんな言い方をしたら演出家にほめられるかだけを考えているのです。  極端な例ですが、砂漠さんの状況もそれに近いと思います。  相手が本当は何を求めているかとか、本当はどう思っているかが問題ではなく、自分が嫌われないこと、自分が傷つかないことが重要なんだということです。  どうしてそうなってしまうかは、みんな、なんとなく分かっていると思います。自分に自信がない、ということですね。自分に自信がないから、とにかく、嫌われないこと、否定されないこと、笑われないことが一番大切なことになるのです。  どうですか、砂漠さん。もし、そうだと納得してもらえるなら、砂漠さんのやることはたったひとつです。  自分に自信をつけること。別な言い方をすると、自己肯定感を高めることだと思います。  だって、焦って本を読んでも何も身につかないでしょう。私なんかダメだと思いながらいろんなことに接しても、あまり得るものはないんじゃないでしょうか。  さて、砂漠さん。どうしたら自分に自信がつくのか。  僕は以前にこの「ほがらか人生相談」で、「小さな勝ち味を積み重ねること」と書きました。  自分のことを「こんなダメにはなっていませんよね」と書く砂漠さんですが、100%ダメですか? まったく良い点はありませんか?  でも、仕事のために(働いてないなら家事手伝いのために)毎朝ちゃんと起きてるんじゃないですか? 顔を洗えてるし、歯も磨けているんじゃないですか?  冗談ではないですよ。いくつかのことを、毎日ちゃんとできているのは素晴らしいことです。全部ダメなんて人はいません。ただ、全部を一気に否定する方が、細かな良い点を見つけるより楽だから、「私はダメだ」と言いたい人が多いのだと僕は思っています。  だって、自分と自分の生活を見つめて、小さいけれど良い点を見つけることはエネルギーが必要ですからね。  ネットで調べれば、自己肯定感を上げる方法を書いた本にたくさん出会うでしょう。僕はこの前、自己肯定感が低かったOLさんがどうやって自信をつけたかを正直に書いた本を読んで感動しました。  自己肯定感が低くて苦しんでいる人は多いですが、同時に、少しずつ少しずつ自己肯定感を高めて楽になった人も多いのです。そういう人が書いた本や経験談はきっと砂漠さんの参考になると思います。  自己肯定感が高まれば、焦ることはなくなります。相手の顔色をうかがうことに必死になる必要もなくなります。  人間の能力には限界があるので、一度にたくさんのことはできません。自意識の強い俳優は、エネルギーを「自分はどう見られているか」を探ることに使います。当然、相手のことを感じたり、観察したりする余裕はなくなります。人間のエネルギーは有限だからです。  でも、自分に向けるエネルギーが減ると、必然的に相手を観察するエネルギーが増えてきます。俳優はそうやって成長するのです。  自己肯定感が高まると、落ち着いて、相手の感情に寄り添うことができるようになります。本を読んでも、「早く吸収しよう」とか「自分は全然ダメだ」と焦ることもなくなります。ゆっくりと、言葉が身体に染み込んで、やがて使えるようになります。  ちなみに、俳優の初心者で、周りのことばかりを気にしていた人が、突然、思い切った演技を始めることがあります。思っていることを全部、ぶちまけるような演技です。  今まで「こんなことを言ったら嫌われるから言わないようにしよう」とフタをしていたことを一気に出すのです。  でも、残念ながら、そういう演技は人を感動させることは少ないです。ただ気持ちを吐き出しているだけで、一種の排泄作用のようなものだからです。  そして、この場合もじつは、相手に関心は向いていません。関心は、やっぱり自分です。自分の感情をとにかく吐き出すことに集中しているのです。  砂漠さんは「私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました」と書きます。  残念ながら、それは極端から極端へ移っただけで、「自分の考えにすべてフタをする」と「なんでもズバズバ言う」は、コインの裏表で、相手を無視するという意味では同じことじゃないかと感じます。  どちらも、自分に自信がないから起こることだと僕は思っています。 「こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたい」と砂漠さんは書きますが、「こんな私でも」と思っている間は、「自分の頭で考えられる」ことはないと思います。  まずは「こんな私でも」とオートマチックに考えてしまう流れを遮断することが必要なのです。  大丈夫。自己肯定感を低くしたのは、砂漠さんです。だから、自己肯定感を高くできるのも、砂漠さんなのです。人は変われます。変われると思ったら変われます。  少しずつ、自分をほめて、認めてあげませんか? ■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載!

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    【選考委員のことばを全文掲載!】第47回木村伊兵衛写真賞は新田樹氏が受賞

     第47回「木村伊兵衛写真賞」(主催・朝日新聞社、朝日新聞出版)が新田樹氏とその作品に決定しました。新田氏には賞状と賞牌(しょうはい)、副賞100万円が贈られます。 *  *  *  対象作は写真集「Sakhalin(サハリン)」(ミーシャズプレス)と、写真展「続サハリン」(ニコンサロン)。受賞作品展は4月28日から5月11日まで、ソニーイメージングギャラリー銀座(東京)で開催されます。  新田氏は1967年福島県生まれ。東京工芸大学工学部卒業後、写真事務所を経て独立。日本の統治後、ソ連領になった後も帰郷することができないまま現在まで暮らす、韓国・朝鮮系、日本人の姿を丹念な取材で追いかけています。  木村伊兵衛写真賞は、故木村伊兵衛氏の業績を記念し、1975年に創設。各年にすぐれた作品を発表した新人写真家を対象に表彰しています。受賞者は、写真関係者からアンケートによって推薦された候補者の中から、選考会によって決定されます。   第47回の同賞は、既に発表されたノミネート5人(王露氏、清水裕貴氏、新田樹氏、吉田亮人氏、吉田多麻希氏)の作品から選考委員4人(写真家・大西みつぐ氏、澤田知子氏、長島有里枝氏と小説家・平野啓一郎氏)による討議を重ねて確定しました。以下に、選考委員のことばを全文掲載します。  ■10年越しのまなざし  昨今、動画などをインスタレーションとして組み込んだ「展示」に重心を置いた作品もこの木村伊兵衛写真賞にいくつか推挙されてきている。それらに添付された展示資料などを頭の中で組み立て、作品として認識していくのは簡単ではない。肝心の写真イメージがそこに立った時のように続かないこともある。 「写真賞」であるがゆえに、選考させていただく側の一人としては、写真表現の新たな領域や場(空間)の成り立ちの美を問うだけにとどまらず、「写真」が世界に対して何を表現し、人間にいかに関わっていこうとしているのかを素朴に確かめてみたい。  古臭い言い方になるが、受賞作の新田樹さんの「Sakhalin」には確かな厚みがある。昨年展示を拝見した時にまずそう思った。正確に言えば写真の中に厚みが感じられるものだ。それはもちろん、そこに写されている人々の生き様、時間、時代、事実などの厚みということであり、戸惑い、悩みながらもそれらをじっくり引き出していった作者の誠実で粘り強い取材姿勢と、技巧に頼らない確かな写真の技術力によるものだ。  サハリンと日本をつなぐ長き歴史の断片は、ロシアとウクライナの戦争ゆえにかき消されていくものではなく、残留日本人朝鮮人の方々のご苦労を改めて伝える物語としてここに丹念に編まれている。10年越しのまなざしは、そこに生きた人間の「消息」と私たちのそれを「国境」を越えてしっかりつなげていくものになっている。写真集を貫く母たちの思いと言葉が心に響く。  ノミネートの4人のみなさんの中では、清水裕貴さんの「微睡み硝子」にひかれた。画像を変容させながら、個人的な海辺の記憶や物語を普遍的なイメージに置き換えていく静謐なイメージ。稲毛(千葉市)の旧別荘での「展示」を拝見していないことが悔やまれる。また吉田亮人さんの「 The Dialogue of Two」は痛切な感情を伴うある時間の流れを表現したもので、最後まで残像として焼きついたが、その前編の素朴な展示に対して、後編にあたる今回の美し過ぎる「写真集」に戸惑った。他のお二人も含め、みなさんきっとまたここに名を連ねてくれるだろう。(写真家・大西みつぐ氏) ■離れた場所にいても 自身の家族のような存在 「Sakhalin」は、いま世界が忘れてしまった大切なことを浮き彫りにし、作品を見た人の心から温かい大切な何かをそっと引き出してくれる、そんな特別な作品でした。  新田さんの作品は目新しい手法で作られたものではなく、今回推薦されていた作品には同じようなタイプの作品も昨年より多かったように思います。奇をてらった表現は目を引きますが、それと作品としての解釈はもちろん別の話。「Sakhalin」はとても静かなのに最も存在感がありました。何の下心も欲もなく、ただただ作品と向き合ったという神聖ささえ感じるほどに。  私は文字で補足しなければ解釈できない作品よりも、作家の意図とは違ったとしても写真だけで様々な解釈を想像させてくれる作品に興味をひかれますが、「Sakhalin」は写真を見ながら同時に文章を読むことを忘れるほどに写真に、写真集に吸い込まれました。そして文章が添えられていると言う理由からではなく、引き込まれた写真にどのような文章が載せられているのか知りたくて再び初めのページに戻りました。  新田さんにとって「Sakhalin」に登場する人達が物理的に離れた場所にいても自身の家族のような存在になっていたのだということは容易に想像がつきますが、その境地に行き着くまでの時間の長さと、「Sakhalin」に常に真摯に向き合い続けた覚悟を持った精神力は想像することも憚(はばか)られます。きれいも汚いも希望も諦めも様々な人間の感情を、触れたら壊れてしまいそうな繊細なところを新田さんは純粋に素直に受け止めて歴史を編んでいくのです。心が心に話しかけてくるのです。 「世界で最も素晴らしく、最も美しいものは、目で見たり手で触れたりすることはできません。それは心で感じなければならないのです」(ヘレン・ケラー)(写真家・澤田知子氏) ■生きている以上は 決して省略することができないなにか 『Sakhalin』はとても美しい。  一瞬で人の目を釘付けにするとか、テーブルに並ぶ100冊近い写真集のなかでひときわ輝きを放つとかというわけでは(少なくともわたしには)ない。けれども、審査の過程で他の本からこの本に戻ってくるたび、わたしが見たかったのはこういう写真だったのだと思った。ページを繰る回数を重ねるごとに、その実感は確信に変わりもした。  本作には、日本の戦争に翻弄された女性たちが登場する。敗戦後、国籍を理由に日本への帰国が許されなかった人たちだ。若い頃、旅の途中でサハリンを訪れた新田さんは、そこで出会った人を通じてそのことを知る。そしてのちに、このシリーズに取り組む。  長い時間をかけて丁寧に撮影された写真からは、被写体との関係性を最も重視する写真家のスタンスがうかがえる。ボタンを一つでもかけ違えば、作者の政治的主張が優先された作品になる可能性もあったと思うのに、新田さんはそういう方法を選ばなかった。そこに彼の仕事の美しさ、彼という人の美しさが感じられた。  自分の部屋で、自分の椅子に座ったまま、SNSで遠くの他者と安易に「論争」ができてしまう時代になり、その傾向は新型コロナウイルスの流行以降、加速しているようにみえる。新田さんの写真は、ともすれば見過ごされてしまうほど些細ではあるが、どんなに便利になっても、生きている以上は決して省略することができないなにかを、静かにわたしたちに見せてくれる。  当事者としてある問題に取り組むことの重要性の先に、ならば第三者としてどのように世界と関わることが可能なのか、という問いがある。他のノミネート作品をおさえて本作が受賞した理由は、ときに挫(くじ)けそうになりながらも新田さんが「Sakhalin」で、その問いと向き合っていたからかもしれないなと思う。目の前にいる人と「いま」を共有し、それを積み重ねていくことでしか生まれないものがある。この気づきを得られる本作は、未来の課題と最もコミットしているように思う。(写真家・長島有里枝氏) ■ 重層的な記録の静かな訴え  私的領域、社会的領域、そして、自然環境を、各候補作は、幅広く独自のアプローチでカヴァーしており、今日に於ける写真の意味を考えさせられる選考だった。  中国の急激な発展とは、最早、クリシェのような言葉だが、王露は、その急激な変化から取り残された時間の中でゆっくり生きる――生きざるを得ない――父の姿を、家族としての近さと、記録者としての距離との間で捉え、感銘を与えた。  吉田亮人の作品も、他者が入り込めない私的領域の記録であるが、王露より内向的である。しかし私は、一人の人間が、被写体として即時的にプロジェクト化してゆき、死を以て完結する、というこの本の作りに、何とも言えない違和感を覚えた。そんなことを言い出せば、写真は撮れないじゃないかというのは重々承知だが、せっかく門外漢の選考委員として参加しているので、選考の場でも敢えてそれを表明した。  今回は、文章が重要な意味を成す作品が多かったが、殊に清水裕貴の作品は、一種、「絵本」的なスタイルで、濁りを帯び、多方向からの干渉を被った記憶のようなイメージが印象的だった。しかし、文章を俟(ま)って完成するように構想されたその世界は、写真賞の選考会という場では、若干、写真自体の強度不足と取られる不利な点もあった。  吉田多麻希は、人新世の環境破壊の被害を被る動物たちの存在を、鮮烈な、ディストピア的に孤独な世界を通じて可視化している。現像に際して混入した我々の日常が排出する環境汚染物質の効果という技法が斬新だった。  受賞は新田樹で、選考委員の全員が感嘆したこの技巧的な写真集は、日本統治時代に樺太に住んでいながら、戦後、ソ連領となった後、多くの日本人とは違い、帰国が叶わなかった韓国・朝鮮人とその家族の記録である。政治的批評性に於いても卓越しているが、人物の皺の一本一本に刻まれた複雑な時の流れを、その社会と自然への大きなスケールの視点を背景に活写している。重厚でシャープな傑作として高く評価したい。(小説家・平野啓一郎氏)  撮影・松永卓也(朝日新聞出版写真映像部)、文・長谷川拓美(朝日新聞出版)  

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    18時間前

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    WBCに対する米国の“本音” 怪我人続出で開催に批判も、侍Jの強さに「NPBとMLB王者の戦い見たい」

     今月8日に開幕したワールド・ベースボール・クラシック(WBC)。史上最強との呼び声もある侍ジャパンが前評判通りの強さを発揮し、異常なほどの盛り上がりを見せている。  日本時間の明日21日には準決勝(対メキシコ代表)が行われるが、既に日本国内だけを見れば成功と言ってもいいほど大会は盛況だ。だが、毎回ではあるがWBCはサッカーのワールドカップなどと比べるとまだ歴史の浅い国際大会であり、開催のたびに様々な議論がなされている。  そして、毎回話題となるのが“出場することの意義”について。今回も1次ラウンドのプールDで行われた試合でプエルトリコ代表の守護神エドウィン・ディアス(メッツ)が今季絶望とも報道されている大怪我をしたことで再び議論が噴出。オフにディアスが5年1億200万ドル(約134億5000万円)の大型契約を結んでいたこと、さらに試合中ではなく勝利後にチームメイトと歓喜していた際の負傷であったことから、米国の野球ファンたちから多くの意見がネット上に書き込まれている。  最も多い反応はMLB球団側も懸念している主力の怪我に関してだ。米国の『Yahoo Sports』に掲載されたディアス負傷のニュースに対しては「これだからメジャーは高給取りの選手をWBCに派遣するのを心配しているんだ」というものや、「自分はWBCのようなトーナメントにはどのMLBプレイヤーも参加するべきではないと思う。出場するのは有望なマイナー選手、大学の選手、引退したメジャーリーガーもいいかもしれない。特定のチームで保証された契約がある場合は、それが切れるまでは所属するチームに全てを捧げるべきだ」と、怪我のリスクがあるイベントにメジャーリーガーは参加すべきでないというコメントが目立った。  中には「このトーナメント(WBC)はMLBと(コミッショナーの)バド・セリグが作ったものだから、ワールドカップのようにメジャーリーガーがプレーすることができるはずだ」というものもあったが、これは少数派。大会前もWBCは米国ではあまり盛り上がっていないという報道も毎回のように出てくるが、故障者が出たことで現地ファンも再びWBCに対する抵抗感が出てしまったように感じる。  現地18日に行われた米国代表とベネズエラ代表の準々決勝でもアストロズの主力ホセ・アルテューベ内野手が死球を受け途中交代。右手親指の骨折と診断され、こちらも大会の意義について疑問を投げかけることになってしまったのは残念ではある。  また、シーズン開幕前に行われるWBCでは調整も懸念の一つ。今回侍ジャパンのメンバーとして戦うダルビッシュ有の所属するパドレスのボブ・メルビン監督も「理想的ではない」とこれまでわずか5イニングしか投じていないダルビッシュの実戦不足を憂慮していた。大谷のように投手としての出場に球団から制限がかかるなど、“出すぎ”も問題のようだが“出なさすぎ”も問題のようで、改めて開催時期や投球制限については考える必要性がありそうだ。  サイ・ヤング賞3度の右腕マックス・シャーザー(メッツ)も、シーズン中の開催であれば「先発投手は体ができているし、投球制限のようなものはなくなるだろう。本気の選手たちがプレーしてリアルな試合が見られるようになる」と米メディアの『SNY』でコメントしている。今回も米国代表は野手こそ豪華なメンバーが揃ったが、投手は見劣りするだけに、開催時期の再考も大事なのは間違いないだろう。  また、世界に野球を広めるための絶好の機会にもなるWBCが“米国の都合”で開催されることに関しても、自国から批判がある。NPBのオリックスでもプレーし、前回のWBCでは優勝した米国代表のメンバーとして戦ったアダム・ジョーンズは自身のツイッターでWBCが世界的な野球の普及に貢献しているとし、否定的な声の多い中で“大会の意義”を常に訴えている。  そしてジョーンズが訴えるように、WBCにあるのはネガティブな側面ばかりではない。特に日本については大会での盛り上がりはもちろん、侍ジャパンがNPBの選手を主体として強さを発揮していることを目の当たりにし、「米国=世界」ではないと認識するファンもいるようだ。  米国の掲示板サイト『Reddit』では、各国の代表にどれだけの数のメジャーリーガーがプレーしているかのグラフを載せたスレッドが立てられていたが、そこには「日本は(MLBに所属する選手の数が)下の方なのにWBCを2度制覇して、どの大会でもトップチームで居続けているのはクールだね」とメジャーリーガーが少ないながらも、全ての大会で準決勝に進出している侍ジャパンを称賛するコメントも。  そのほか「NPBの優勝チームとワールドシリーズの勝者との戦いを見たい」「私たちは(ワールドシリーズを)…これからアメリカンシリーズと呼ぶよ」「サッカーのチャンピオンズリーグ、もしくはクラブワールドカップの野球版をぜひ見てみたい」など、NPBのレベルの高さを認識し、MLBのワールドシリーズだけが世界一を決めるものではないのではという意見も出ていた。  今大会は、侍ジャパンでは日系人のラーズ・ヌートバー(カージナルス)が活躍し、野球が決して盛んではないチェコ共和国の代表チームの奮闘が盛り上がりにつながった。“野球の国際化”という意味ではWBCが果たせる役割が決して小さくないのを示したといっても良いだろう。今後さらにWBCが意義のあるもの、そして野球の普及に貢献する大会になるためには、野球の母国である米国がどういった立場をとるかも重要となりそうだ。

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    BBCのジャーナリストが混乱しながらも日本社会に一石を投じた問題 波紋は広がるか

    作家・北原みのりさんの連載「おんなの話はありがたい」。今回は、英ジャーナリストが日本社会に問題提起したことについて。 *   *  *  故ジャニー喜多川氏による子供への性虐待疑惑を報じたBBCドキュメンタリーは、衝撃だった。イギリスのメディアがなぜ、日本の芸能事務所の問題に関心を持つのかわからなかったのだが、目の離せない重たい約1時間を経て気が付かされるのは、BBCの関心は日本の芸能事務所のスキャンダルなどではなく、「なぜ日本社会は沈黙しているのか」という一点にあるということだった。この問題を報じてきた「週刊文春」のページをめくるような感覚でBBCのドキュメンタリーを見ると、胃が重くなるような不快感と居心地の悪さにいたたまれなくなる。あのね、これはジャニーズ事務所のスキャンダルじゃないですよ、日本のスキャンダルですよ? わかってます? そんなストレートな批判に突き刺されるのだ。  そもそもは1999年、週刊文春がジャニーズ事務所の元少年ら、十数人の証言を元に書いた記事にさかのぼる。成人した男性たちは、過去を語るときに手が震え、泣き出すこともあったという。語られた被害は詳細で酷似していたことから、週刊文春の記者は男性たちの話は真実だと確信し、14週にわたってジャニーズ事務所の問題を掲載した。当時、ジャニーズ事務所は記事を全否定し、ジャニー氏と事務所は1億700万円の名誉毀損の損害賠償を文藝春秋に求めた。裁判は4年にもわたる長いものだったが、元少年が証言をする場面もあり、結果的に裁判所は性被害の信憑性を認め、記事の重要な部分のほとんどを真実と認定した。  BBCのドキュメンタリーは、この裁判結果をもってしても、警察も、メディアも、世間も完全無風であったことに疑問を投げかける。被害者がいるのに、なぜ事件化されなかったのか? メディアはなぜ報道しなかったのか? なぜジャニー氏はその地位も名誉も奪われることなく芸能界に君臨し続けられたのか。  ドキュメンタリーには、元ジュニアだった男性が4人登場する。  なかには語りながら言葉につまり、こみ上げてくるものを抑えられなくなる男性がいた。彼は自らジャニーズ事務所に応募し、スターを夢見る男の子だった。未来への夢が一瞬にして壊れた15歳の「あの日」は、彼の人生を決定的に変えた。 「合宿所には大人はジャニーさんしかいなく、相談できる人はいなかった。売れてる人に限っては、ジャニーさんのおかげで人生が変わっていると思うので感謝の気持ちはあると思うんですけれど、それと性犯罪は別です」  一方で、「あれは虐待ではなかった」と考える男性もいた。彼は、仲間との古い共通の思い出のように、ちゃかす感じで被害をこう語った。 「小学生や中学生で、初体験はジャニーさんだったと、今でも笑い話です」  70代のジャニー氏に性的なマッサージを強要されながらも、ジャニー氏への愛情を口にする男性もいた。 「やってることは悪いことなんですが、ジャニーさんのことが嫌いじゃない(笑)。(略)僕にとってはそこまで大きな問題じゃないんで、こうやって笑ってしゃべれてるのかなと思います」  さらに被害は受けていないが、ジャニー氏が亡くなる2019年までジュニアとして事務所に所属していたある男性は、もし取引が提示されていたなら「(僕は)有名になるのが夢なので、受け入れると思う」と言い、BBCのジャーナリストを本気で驚愕させていた。 「正直な答えには感謝するが、落ち込みました」  BBCのジャーナリストが追った被害者の大半は、自分を被害者とは考えていなかった。「失礼ですが理解できません」と、ジャーナリストが本気で頭を抱えるシーンは何度も出てくる。また、街中でのインタビューもインパクトがあった。「ヒー・イズ・ゴッド!」と浮かれたように繰り返す若い男性もいれば、「彼が亡くなられた今、触れたくない」と“いい人風”に語る年配の女性もいた。「僕はゲイなんでよ」という若い男性は「LGBTという言葉すらない時代において、(同性愛者であることは)アイドルを育成する上ではマイナスのイメージだったかもしれない」と楽しげに日本社会を説明したりもする。さすがに、「セクシュアリティーの話はしていない、性暴力の話だ」とBBCのジャーナリストが口を挟むのだが、「(性暴力は)表だって追及する問題ではないのかな」と彼は微笑むだけなのだった。  若いイギリスの男性ジャーナリストは衝撃を受ける。虐待のうわさは多くの人が知っている。それなのになぜ、誰も声をあげないのか? なぜ、社会はここまで無関心なのか? 来日前、こんな結論を彼は予想していただろうか? ジャーナリズムの使命に基づき、真実を追いかけ、不正義を告発し、大企業に責任を問い、社会への問題提起を目指していたはずのドキュメンタリーが、次第にジャーナリスト自身が日本の無気力と無関心にのまれていくような、不穏で不気味な空気に支配されていく。  大人が、その地位と権力を利用し、圧倒的に弱い立場の子供を性的に利用する。その大人は怒鳴ったわけでも、暴力を振るったわけでもない。ただ優しい言葉で、マッサージをしてあげる、と多数の中から、一人を選ぶ。自分の運命を握る大人から「選ばれた」ことは、ただの恐怖体験ではなく、性的な快楽も含めたとしても、複雑な混乱を子供にもたらすだろう。だからこそ、あれは被害だった、あれは暴力だった、と言語化ができない時間はあまりにも長い。たとえ被害を訴えたとしても、訴えたことで得るよりも失うもののほうが圧倒的に多いとしたら。というより、そもそも誰もそんな話を聞きたがらないとしたら。何よりも大きな問題は、私たちの多くが性虐待の疑惑を知りながら、目を背けてなかったことにし、アイドルたちが見せる美しい夢の世界をただ享受し続けたことだろう。  BBCのジャーナリストが混乱しながらも日本社会に一石を投じたこの問題。これからどの程度の波紋を日本社会にもたらすのか、それが今、問われる。

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    脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも

    日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 *  *  * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。  厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」  昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同)  脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意  心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。  脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」  高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師)  また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を  井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師)  また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。  日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。  一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より

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    次回WBCのメンバーを予想! “新戦力”で期待したいのは? 「史上最強」更新の予感も

     日本列島を熱狂の渦に包み込んだ第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)の戦いが幕を閉じた。コロナ禍の影響で今大会は6年ぶりの開催となったが、次回の第6回大会は2026年3月に開催する予定となっている。3年後に連覇、そして4度目の優勝を狙う侍ジャパンは、果たしてどのようなメンバーになるだろうか……。 *  *  *  チームの「顔」は、今回と同じく大谷翔平(エンゼルス)で変わりない。現在28歳で選手として充実期にあるが、3年後の31歳は円熟期。より多くの経験と実績を積み、より高い名声を得た中で「MLB最高のスター」の称号を得ている可能性は大いにある。懸念すべきは、故障と所属球団との契約。2023年オフにフリーエージェント(FA)となる予定で、MLB史上初の「総額5億ドル(約673億円)」プレーヤーになることも予想されており、その“巨大契約”がWBC出場への足かせになるかもしれない。それでも今回の大会でMVPとなった大谷の存在感、そしてWBCへの意欲を見る限り、3年後も“二刀流”でのメンバー入りを当然、期待する。  その大谷も含め、投手陣の今大会のメンバー16人(追加招集1人を含む)は、平均年齢24.9歳と非常に若かった。3年後に27歳となる山本由伸(オリックス)、24歳となる佐々木朗希(ロッテ)の2人は今回同様に外せない。さらに先発陣では、右の戸郷翔征(巨人)、高橋宏斗(中日)、左の宮城大弥(オリックス)、高橋奎二(ヤクルト)らも成長しているはずで、今永昇太(DeNA)もまだまだ健在。今回のメンバーがそのまま次回大会に出場しても、力は落ちるどころか、むしろ上がっているだろう。唯一、ダルビッシュ有(パドレス)が3年後は39歳で全盛期を過ぎているはずだが、今大会同様にチームのまとめ役、精神的支柱として招集したい。  ただ、他にも候補者は多くおり、東京五輪代表だった森下暢仁(広島)、青柳晃洋(阪神)、平良海馬(西武)以外にも、先発では高橋光成(西武)、大関友久(ソフトバンク)、中継ぎでは今季から先発に転向するが藤井皓哉(ソフトバンク)、水上由伸(西武)らメンバー入りさせたい投手が目白押し。若手に絞ると、山下舜平大(オリックス)、井上温大(巨人)、達孝太(日本ハム)らが大きく成長する可能性があり、さらに今秋のドラフト1位候補の前田悠伍(大阪桐蔭)もいる。今オフにメジャー移籍を果たした千賀滉大(メッツ)、さらに藤浪晋太郎(アスレチックス)の3年後にも注目したいところだ。 ■2026年WBC侍ジャパン予想メンバー<投手陣>(※印は今大会招集選手、チームは現所属、年齢は3年後)※大谷翔平(エンゼルス)31歳※ダルビッシュ有(パドレス)39歳※山本由伸(オリックス)27歳※佐々木朗希(ロッテ)24歳※今永昇太(DeNA)32歳※戸郷翔征(巨人)25歳※高橋宏斗(中日)23歳※宮城大弥(オリックス)24歳※高橋奎二(ヤクルト)28歳※湯浅京己(阪神)26歳※栗林良吏(広島)29歳千賀滉大(メッツ)33歳大関友久(ソフトバンク)28歳井上温大(巨人)24歳山下舜平大(オリックス)23歳  一方の野手陣は、“二刀流”の大谷翔平を含めて今大会のメンバーの平均年齢は28.1歳。3年後はやや気になるところだ。  捕手陣での新戦力として期待したいのは、現在24歳の坂倉将吾(広島)と27歳の森友哉(オリックス)だ。ともに打撃能力は申し分なし。坂倉は今季から捕手専念、森はFAで新天地移籍となったが、彼らが今後3年間にわたって所属球団で不動の捕手の地位を築くことができれば、次回WBCでは侍ジャパンのマスクを被らせたい。もう1枠は、甲斐拓也(ソフトバンク)や中村悠平(ヤクルト)の経験者に頼りたいところ。だが、現在19歳の松川虎生(ロッテ)や18歳の松尾汐恩(DeNA)の若手がどこまで成長できるかも注視すべきだ。  内野陣では、現在23歳の村上宗隆(ヤクルト)、26歳の岡本和真(巨人)、24歳の牧秀悟(DeNA)の3人は3年後もバリバリの主力として働ける。現在30歳の源田壮亮(西武)がどこまでトップレベルをキープできるかが気になる部分だが、今後3年間の伸びしろを考えると、二遊間では現在22歳の小園海斗(広島)や、21歳の紅林弘太郎(オリックス)、森敬斗(DeNA)らに期待。そしてまだ未知数な部分を多く残すが、清宮幸太郎(日本ハム)の3年後にも夢を馳せたいところで、それが叶わなければ、佐藤輝明(阪神)、もしくは石川昂弥(中日)を選びたい。  外野陣も激戦だが、今大会の活躍を見る限り、近藤健介(ソフトバンク)、吉田正尚(レッドソックス)、そしてラーズ・ヌートバー(カージナルス)は次回大会も外したくない。さらに今回は故障辞退となった鈴木誠也(カブス)も状態と状況が整っていれば、間違いなく次回大会は大きな戦力になるはずだ。新戦力としては、昨季ブレイクした現在21歳のヒットメーカー・岡林勇希(中日)を指名。今季のルーキー・森下翔太(阪神)、浅野翔吾(巨人)がプロ1年目から活躍できれば、あるいは3年後の侍ジャパン入りもあるかもしれない。  その他、今大会のヌートバーのように、MLBで活躍する日系人の招集もあり得る。それでなくても、現在は日本でプレーしている選手が、今後3年の間にメジャー移籍を果たしていることも考えられ、今回以上のNPB組とMLB組の「融合」と「化学反応」が大きな鍵になりそうだ。「史上最強」との呼び声が高かった今大会の侍ジャパンだったが、3年後はその強さを塗り替える可能性は、十分にある。 ■2026年WBC侍ジャパン予想メンバー<野手陣>(※印は今大会招集選手、チームは現所属、年齢は3年後)<捕手>※甲斐拓也(ソフトバンク)33歳森友哉(オリックス)30歳坂倉将吾(広島)27歳<内野手>※岡本和真(巨人)29歳※牧秀悟(DeNA)27歳※村上宗隆(ヤクルト)26歳清宮幸太郎(日本ハム)26歳小園海斗(広島)25歳紅林弘太郎(オリックス)24歳森敬斗(DeNA)24歳<外野手>※近藤健介(ソフトバンク)32歳※吉田正尚(レッドソックス)32歳※ヌートバー(カージナルス)28歳鈴木誠也(カブス)31歳岡林勇希(中日)24歳

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    葬式で「ご愁傷様です」と言われたら、なんと返せばいいのか…「ありがとうございます」を避けるべき理由

     葬式で「ご愁傷様です」と声をかけられたら、なんと返せばいいのだろうか。マナー講師の諏内えみさんは「『ありがとうございます』『すみません』という言葉は避けたほうがいい。『恐れ入ります』『痛み入ります』としたほうが場に適した表現といえる」という――。 ※本稿は、諏内えみ『一生ものの「正しい敬語と上級の気遣い」 先生! ダメダメな私を2時間で仕事デキる風にしてください!』(KADOKAWA)を再編集したものです お通夜やお葬式で絶対に口にしてはいけない言葉  冠婚葬祭の中でも、失敗できないのがお通夜とお葬式。悲しみに満ちた場では、ちょっとした失礼や失言でも人を深く傷つけることになります。「もし自分が言われたら……」という想像力を持っておくようにしましょう。  お通夜やお葬式の時、ご遺族にどんな言葉をかけていいものかは誰もが悩むところ。だからといって、ご遺族に声をかけずにその場を辞することは、何よりも失礼にあたります。深い悲しみから一日も早く立ち直ってほしいという思いは理解できますが、「がんばってください」は配慮が足りず不適切です。これ以上がんばれないくらい辛い思いをしている人にとって、「がんばって」は禁句です。 「お力を落とされないように」は一般的な言い回しとされていますが、力を落とさずにいられないのは当然のこと。寄り添う気持ちに欠ける印象です。  まずは「お力落としのことと存じます」と傷心のご遺族に心を寄せた上で、「何かお手伝いできることがありましたら、おっしゃってください」と、どんなことでもいいから力になりたいという気持ちを伝えます。その思いは、きっと届くはずです。 定型句よりも伝わる言葉を  お悔やみの言葉でよく知られているのは「ご愁傷様です」。この言葉は、お通夜に駆けつけてご遺族に挨拶をするシーンで用いられるのが一般的です。前項の「お力落としのことと存じます」は場を辞する時に言うことが多いので、「ご愁傷様です」との使い分けをしましょう。同じ言葉ばかりを使うのは、幼稚なイメージになります。 「ご愁傷様」は目上の方にも友人にも使える言葉ですが、もし故人やご遺族と親しい間柄である場合、「ご愁傷様」はよそよそしく感じられるかもしれません。定型句のような汎用性の高い言い回しは、相手を選ばずに使える反面、誰に対しても言えるという点で心がこもっていないととられる可能性もあるのです。  正式なマナーとは少し異なりますが、親しい方のお通夜に駆けつけたときの第一声は、「ご愁傷様」ではなく、「このたびは……」と言葉にならない悲しみをご遺族と共有する形でもいいかもしれません。  お悔やみの言葉はハキハキと明瞭に言う必要はなく、言葉を濁して語尾を小さく言ってもかまいません。時として、言葉にならない気持ちをそのままにご挨拶する、という方が思いが伝わることもあるのです。 「ありがとうございます」「すみません」は不適切  身内が亡くなった時は、参列者から挨拶を受ける立場になります。「ご愁傷様です」と言われた場合、何と答えるのが適切でしょうか。  一般的には「恐れ入ります。生前は○○が大変お世話になりました」です。「恐れ入ります」は「すみません」を丁寧にした形ではありますが、「参列してくださって恐れ多いこと(ありがたいこと)です」というお礼の意味もあります。 「恐れ入ります」に似た意味の表現に、「痛み入ります」があります。「ご丁寧に、痛み入ります」と使います。あまりの感謝に恐縮し、心苦しく思うという意味で、「恐れ入ります」よりも若干恐縮度が高いニュアンスがあります。  ちなみに、「恐れ入ります」も「痛み入ります」も、お通夜やお葬式だけでなく、結婚式に参列してくださった方へのお礼の際にも用いる表現です。  お悔やみの言葉をいただいて、「ありがとうございます」と言うのはお勧めできません。気持ちはわかりますが、場に適した言葉を使うようにしましょう。「すみません」も同様です。つい言ってしまいがちな言葉なので、気をつけましょう。 知っておいて損はない「死」についての言葉  死についての表現には、いくつかあります。身内の死については、「他界いたしました」「永眠いたしました」「死去いたしました」となります。 「亡くなる」は基本的には敬意表現になるので、身内に使うのはふさわしくありません。ただし、「死にました」というとあまりにダイレクトで少々乱暴に聞こえてしまうので、話し言葉として「亡くなる」を使うのは問題ないでしょう。  死の尊敬語は「逝去」です。弔電などの書き言葉では、「○○様のご逝去を悼み、謹んでお悔やみ申し上げます」とします。「謹んでお悔やみ申し上げます」は話し言葉でも使うので、覚えておきましょう。  時折耳にするのが「お亡くなりになられました」という表現。これは「亡くなる」+「~になる」の二重敬語であり、敬意表現として正しいものではないのですが、マナー違反ととがめられることはないようです。  深い悲しみで皆が動揺している場面では、正しさよりも気持ちを優先する傾向にあるのです。 招待した方もされた方も幸せになるひと言  結婚式に招待された場合、新郎新婦にはもちろん、そのご家族にも挨拶をするのが礼儀です。「おめでとうございます。すごいですねー」で終わらせることのないよう、最低限言うべきことを身につけておきましょう。  新郎新婦とご家族、どちらに対しても基本構造は同じ。「お祝い・感謝・ほめる」のセットで挨拶をします。 (1) まずは「本日は誠におめでとうございます」というお祝いの言葉。新郎新婦が友人であれば、「本当におめでとう!」でもかまいません。(2) 次に、「お招きいただきありがとうございます」という感謝の言葉。ここは、新郎新婦にもきちんと伝えたいところです。(3) 最後に「素敵な会場ですね」や「和やかで楽しい披露宴でした」など、式や披露宴の会場や雰囲気などを称賛する言葉を付け加えます。  お祝い・感謝に何が素晴らしかったかを一言伝えると、招待した甲斐があったと思ってもらえます。招待した方もされた方も幸せな気持ちになるコミュニケーションです。 正しいマナーの土台にあるのは相手への気持ち  結婚式の招待状には、出席・欠席を知らせるハガキが同封されています。これを正しく記入できると、社会人として一目置かれることでしょう。  出席にしても欠席にしても、「御出席」「御欠席」と書かれている「御」の文字を消すのは知っていますよね。もし出席するなら「御出席」の「御」と「御欠席」を、欠席するなら「御欠席」の「御」と「御出席」を消します。同じように、「御住所」「御芳名」の「御」と「芳」も消します。  文字を二重線で消すのが一般的ですが、「御」や「芳」の上に「寿」を重ねて書くことで消す方法もあります。覚えておいて損はありません。  やむをえず欠席する場合は、余白に「おめでとうございます。出張中につきおうかがいできず大変残念です」と書き添えます。無言で欠席するのではなく、お祝いの気持ちと、本当は行きたいのにやむをえず欠席することを伝えるようにしましょう。  どんな場面でも、気持ちを言葉に乗せることが大事です。正しい言葉遣いやマナーは、気持ちという土台があってこそ生きるもの。気持ちと言葉は不即不離なのです。両方を的確に正しく表現できる人が「デキる人」であり、信頼されて出世できる人でもあるのです。 諏内 えみ(すない・えみ)「マナースクール・ライビウム」「親子・お受験作法教室」代表 VIPアテンダント業務を経てスクールを設立。上質なふるまいや会話、社交術、テーブルマナーが学べるオンライン講座『Class the SUNAI』を主宰。難関幼稚園、名門小学校合格率95%のお受験講座は「にじみ出る育ちの良さ」が身につくと話題に。映画やドラマで女優への所作指導のほか、テレビ出演多数。著書に『「育ちがいい人」だけが知っていること』(ダイヤモンド社)』など。

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    ヌートバー侍Jでは“低年俸”も今後は安泰? WBCでの活躍がもたらす「巨大な恩恵」

     ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)で準決勝(日本時間21日)まで駒を進めた侍ジャパン。大谷翔平(エンゼルス)、ダルビッシュ有(パドレス)の招集などで開幕前から日本中が大騒ぎとなったが、大会が始まって最も注目されるようになったのは、なんといってもラーズ・ヌートバー(カージナルス)だろう。  初戦の中国戦からこれまで5戦全勝を収めている侍ジャパンの1番センターとして全試合に出場。打率.368(19打数7安打)、3打点、7得点とリードオフマンとしての役割を十分に果たし、守備でも好守を披露している。また、試合中やベンチでの“熱い”振舞いでもファンの心をガッチリと掴んだ。 「身体能力の高さや野球へ向き合う真摯な姿勢など、可能性は感じた選手だが未知数の部分も大きかった。カージナルスでは試合の出場数は増えているが、レギュラーポジションが安泰という立場でもない。どこまでやれるのか注目していたが、まさかここまで活躍するとは嬉しい誤算だった」(MLBアジア地区担当スカウト) 「少し前まで国内スポーツ界の話題といえば、(サッカー日本代表・長友佑都の)ブラボー一色だった。3月と時期が早いとはいえ、ペッパーミル・パフォーマンスなど何かしら関係するワードが流行語大賞にノミネートされるのは間違いないでしょう。調理器具専門店ではペッパーミルがバカ売れしているとも聞く。国内の日常風景すら変えてしまった」(大手広告代理店関係者)  一躍スター選手となったヌートバーは、WBCが終わった後も日本から熱い視線がそそがれるのは間違いないだろう。だが、メジャーでは2021年にデビューし、昨年は試合数を増やしたものの、これまで通算の出場試合数は166試合で92安打、19本塁打、55打点、6盗塁と“これから”の選手でもある。  昨年の年俸も53万8625ドル(約7000万円)と大谷やダルビッシュのメジャー組と比べると少なく、NPB組を含めても侍ジャパンでは給料は高いとはいえない部類だ。 「日本での知名度や人気は桁外れとなったが、米国ではまだまだ若手のグリーンボーイ。MLBでの実績がまだ少ないので、現状の年俸は適正価格だといえる」(大手マネージメント会社関係者)  今後の活躍次第では年俸が高騰しているメジャーで大型契約を見込めるだろうが、早くても年俸調停の権利を得るのは2024年のシーズン終了後。フリーエージェント(FA)は2027年のシーズン後と、“高給取り”になるにはこれから数シーズンにわたって結果を残すことが必要とされる。  今季は所属しているカージナルスでライトのレギュラーとして見られているが、同球団は育成上手で、続々と若手の良い選手が出てくるという事情もある。世界から有望な選手が集まる中で定位置を守り続けるのは至難の業だ。  だが今回のWBCでの活躍で日本での株は“急上昇”。仮にメジャーで結果を残さなくても、いずれかのタイミングでNPB球団が獲得に動くというのは間違いないと見られている。 「選手として結果を残せることは証明しつつある。外国人特有の強引さもなく、状況に応じたプレーができるので日本向きといえる。NPB球団に入団しても大外れの心配はないので獲得に動く球団は間違いなくあるだろう。また知名度は日本人トップ選手と比較しても遜色ない。仮に来日した場合には、戦力、営業面の両方で大きな力を発揮するはず」(在京球団編成担当者) 「仮にNPB球団が獲得に動くならば早いに越したことはない。ハードなプレースタイルは身体能力が支えており、またケガと背中合わせの部分もある。また営業面では熱しやすく冷めやすい日本人の国民性を考えても、WBCの記憶が残っているうちでないと意味がない。年俸2億の複数年契約なら今すぐ出す価値がある選手」(大手マネージメント会社関係者)  また、試合で一生懸命プレーする姿や、家族愛が溢れるコメントなどでイメージは抜群。これからはCMなど日本からの仕事が舞い込むことも十分に考えられる。 「ルックスも良く、目の下のアイブラックとペッパーミルという際立った特徴もある。水面下ではすでに複数企業からCM契約出演の打診が来ているらしい。一生懸命で爽やかなイメージがあるのでどのような企業にもマッチする。WBC後も様々な場所で見かけることになりそう」(大手広告代理店関係者)  そして、現在所属しているカージナルスでもWBCで活躍したことにより、恩恵を受けるかもしれないという。 「カージナルスは“おいしい選手”が出てきて喜んでいる。かつては田口壮(現オリックスコーチ)が在籍し、世界一になったこともある。日本との縁は深く、今回の人気をきっかけに広告や放映権などのジャパンマネー獲得を狙っている。実現すればヌートバーとの高額な長期契約を結ぶ可能性もあるかもしれない」(大手マネージメント会社関係者)  ヌートバーはWBCではわずか5試合だけの出場だが、グラウンド内外での価値は想像以上に上がっている。子供の時から夢見た侍ジャパンとしての活躍により、様々な“成功”を手にしたといえそうだ。WBC後も日本人メジャーリーガー以上に注目が集まる存在になるだろう。

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    浅村&田中将はWBC出場志願も叶わず…「侍ジャパン落選」の理由

     WBCに向け、侍ジャパンの選考は大きな話題になった。野手では山川穂高が内定。2019年秋のプレミア12でアキレス腱に不安を抱えていたことから出場を断念すると、日の丸から遠ざかっていた。昨季は本塁打、打点の2冠に輝くなど長距離砲としての実力は疑う余地がない。本大会での活躍が楽しみだ。  投手でサプライズ選出は、オリックスの宇田川優希だ。昨年7月下旬に育成枠から支配下登録されると、セットアッパーとして奮闘。最速159キロの直球に落差の鋭いフォークで三振の山を築いた。19試合登板で2勝1敗、防御率0.81と抜群の安定感を誇り、CS、日本シリーズでも快投を続け、26年ぶり日本一の原動力となった。 「出場辞退」を決断した選手たちも話題を呼んだ。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)はコンディションに不安があったり、シーズンに集中したいという理由で代表入りを見送った。  スポーツ紙デスクは、「柳田、坂本は今年35歳を迎えるシーズンで、もう若くない。昨年はチームとしても個人としても思うような結果を残せず、悔しい思いをしている。2人は侍ジャパンの常連でしたが、遊撃は源田壮亮(西武)、外野も選手がそろっているので、彼らに託せるという思いもあったのでは。森も西武からFAで新天地のオリックスに移籍し、投手の特徴を把握するなど、やらなければいけないことがたくさんある。WBC出場に迷いはあったと思いますが、リーグ3連覇に向けて中心選手として期待が大きい。この決断は致し方ないと思います」と理解を示す。  一方で、侍ジャパン入りを熱望したが落選した選手たちがいる。楽天の田中将大、浅村栄斗だ。田中の実績は語るまでもないだろう。日米通算190勝をマークし、WBC、五輪と共に2度出場。ヤンキースでは6年連続2桁勝利をマークするなどメジャーの強打者を抑える術を熟知している。昨年10月には自身のツイッターで、「来年開催されるWBCについて自分の気持ちをお話する機会がなかったので、ここで言わせていただきます。良い選手が沢山居ますし、なかなか簡単なことではないのは重々承知の上ですが、出場したいです!この気持ちを持ってオフシーズンのトレーニングにも取り組んでいきます」と出場を志願。昨オフの契約更改の席でも侍ジャパンで先発にこだわらず、どの役割でも全うすることを望んでいたが、朗報は届かなかった。  球界を代表する強打者として長年活躍している浅村も、代表から漏れた。21年の東京五輪では金メダル獲得に大きく貢献し、日の丸への思いは強い。2度目のFA権を取得し、去就が注目された22年オフに4年契約で楽天に残留を発表。WBC出場に向けても意欲を示していた。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「田中、浅村はメンバー入りしても不思議ではなかったし、栗山英樹監督は迷ったと思います。田中の場合は全盛期に比べて球速が落ちたのがネックになったと思います。投球術はさすがですが、不慣れな救援で投げさせるのはリスクがある。先発陣は枠が埋まっていますしね。浅村は牧秀悟(DeNA)とタイプが重なる。勝負強さに定評がある中距離砲で、浅村と同様に牧も本職の二塁だけでなく一塁を守れる。二塁は激戦区で山田哲人(ヤクルト)、菊池涼介(広島)もいる。それぞれ持ち味は違いますが、栗山監督は国際舞台に強い山田をチョイスした。こればかりは仕方ないですね」と振り返る。  田中、浅村が日の丸をつけるにふさわしい実力者であることは間違いない。テレビ関係者は「実績を残している2人が代表入りを熱望してメディアに発信した姿に敬意を表したい。落選しましたが、彼らの侍ジャパンへの思いは野球ファンに十分に伝わっていると思います」と評価する。  2人の目標は、楽天の10年ぶりのリーグ優勝に切り替わっているだろう。投打の両輪として活躍を期待したい。(今川秀悟)

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    イタリア撃破の侍ジャパンに「考えられない…」とメジャー関係者が漏らした驚きの選手起用とは

     侍ジャパンが16日に行われたWBCの準々決勝でイタリアを9-3で振り切り、5大会連続のベスト4進出を決めた。  先発の大谷翔平は「3番・投手」で出場。負けたら終わりの試合にかける思いが伝わってくる熱投だった。1球投げるごとにうなり声を上げ、直球は最速164キロを計測。5回途中までに5三振を奪い、2失点と先発の役割を果たした。  闘争心を前面に出す一方で、「打者・大谷」は冷静だった。0-0で迎えた3回1死一塁の2打席目。遊撃手を二塁ベースの右に置くイタリアの極端な守備陣形を逆手に取り、がら空きの三塁方向へセーフティーバント。絶妙なアイデアが相手の悪送球を誘い、一塁走者の近藤健介は三塁に到達。大谷の奇襲が球場に漂う重苦しい空気を変えた。続く吉田正尚の遊ゴロの間に近藤が本塁生還すると、岡本和真が左中間に自身今大会1号の3ラン。一挙4点を先制して試合の主導権を握った。  岡本は5回も右中間へ適時二塁打。試合後のお立ち台では、インタビュアーの質問に「最高です」を5回繰り返してスタンドの笑いを誘うと、決勝ラウンドで侍ジャパンを代表して抱負を聞かれ、「えー、もう…最高です!」と自身の世界観を貫いた。  明るい材料はこれだけではない。打撃不振で、イタリア戦は5番で先発した村上宗隆が5回に5点目の左中間適時二塁打。今大会初の長打で肩の荷が軽くなったのだろう。7回にも左翼のグラブをはじく二塁打で出塁してマルチ安打。牧秀悟の右邪飛で三塁にタッチアップでヘッドスライディングするなど、好走塁も光った。  侍ジャパンを取材するスポーツ紙記者は、「これまでの村上は甘い球を見逃して難しい球を振るケースが多かったが、5回の打席は初球から積極的に振りにいって逆方向に適時二塁打を放った。結果を出そうと焦りもあり、力んで引っ張りの意識が強かったが、広角に長打を打てる選手です。本来の形を取り戻して、完全復活は近いと思います」と期待を込める。  試合前のスタメン発表では、どよめきが起きた。源田壮亮が「8番・遊撃」で先発出場。10日の1次ラウンド2戦目・韓国戦で、牽制の帰塁の際に負傷交代し、病院で「右手小指骨折」の診断を受けただけに強行出場は相手ベンチも予測できなかっただろう。バックネット裏で見守ったメジャーの関係者は「メジャーだったら考えられない。本人が出場を志願しても、所属先の球団からドクターストップが入る」と驚きを隠せなかった。遊撃の守備でケガの影響を感じさせない抜群の安定感をみせると、7回1死一、三塁の好機で148キロの直球を振り抜き、9点目の右前適時打。一塁ベンチは大盛り上がりだった。  栗山英樹監督は試合後のインタビューで、「本当に皆さんありがとうございました。なかなか多くの野球ファンの皆さんが球場に来られない時期が続きましたけど、野球が戻ってきたなという感じがします」とスタンドを見つめた。そして、「長い間戦っているとまあまあ…」と話したところで、大谷がイタリアのベンチ前に出向き、エンゼルスでチームメートのダビッド・フレッチャーと写真撮影をして球場がどよめいたために、インタビューが一時中断。栗山監督は「すみません、しゃべらせて頂きます」と苦笑いを浮かべて仕切り直すと、「最終的に点差が離れましたけど、日本が誇る素晴らしい投手が投げても、(イタリア打線が)バットの芯に当たる。試合展開がどうなるか分からなかったので、たまたま勝たせてもらいました」とイタリアの健闘をたたえた。 そして、「試合前から久しぶりに選手に少し話をする中で、これだけの緊張感をなかなか感じないぐらい、選手は緊張していました。多くのファンの皆さんに、日本の素晴らしい野球を見せるんだという緊張感は僕も凄く感じましたが、試合の形で出たので本当に良かったです」と安堵の表情を浮かべ、「日本の誇る投手全員を突っ込んで…人前でそういう話はしませんが、今日に関してはファンの皆さんにも届いていると思いますが、翔平があれだけ1球1球声を出しながら、何とかしたいなというのは初回から感じられていたので、その思いは僕を含めて全員に伝わってました」と大谷を称賛した。  野球の本場・米国で開催される決勝ラウンドに向け、言葉に力が入る。「最初にチームを作った時に言ったように、僕がということではなくて、日本の大先輩方、野球を作ってくださった方の思いを持ちながら戦いたいという風に思いましたが、野球が発展するためにはアメリカに行って、アメリカでやっている選手たちに勝たなければ前に進まないとずっと思っていたので、ぜひ勝ち切れるるように頑張ります」と力強く誓った。  あと2勝。全員野球で頂点を目指す。(今川秀悟)

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    WBC「やっぱり“侍ジャパン”に選んでほしかった投手」は? 球界関係者が推す令和版「投げる精密機械」

     第5回WBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンは、「過去最強」の呼び声が高い。ダルビッシュ有(パドレス)、大谷翔平(エンゼルス)、ラーズ・ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)らチームの中心を担うメジャー組が参戦できるのが大きなプラスアルファだ。  先発はダルビッシュ、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)、今永昇太(DeNA)の4人で回る公算が高い。WBCは1次ラウンドが65球、準々決勝が80球、準決勝以降は95球と球数制限が設定されている。カギを握るのが「第2先発」だ。ここに各球団のエース級がズラリ。戸郷翔征(巨人)、宮城大弥(オリックス)、高橋宏斗(中日)、高橋奎二(ヤクルト)、伊藤大海(日本ハム)と先発陣と遜色ない実力者たちが控えている。そして、試合終盤のリリーバーは大勢(巨人)、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、宇田川優希(オリックス)、湯浅京己(阪神)と三振奪取能力が高い投手たちがそろう。大谷を含めて計15人の投手を登録。盤石な布陣と言えるが、現場の見方はどうだろうか。  各球団の首脳陣、スコアラー、球団スタッフなど球界関係者に「侍ジャパンに選ばれるべきだった投手」を調査したところ、「この布陣で十分に戦える」という回答が3人。他の人からは水上由伸(西武)、伊勢大夢(DeNA)、高梨雄平(巨人)の名前が。いずれもセットアッパーだった。  そして、3票を集めたのが藤井皓哉(ソフトバンク)だった。26歳右腕は苦労人だ。高卒で広島に入団したが、5年目のオフに戦力構想から外れて退団。四国アイランドリーグplus・高知ファイティングドッグスで制球力を磨き、ソフトバンクに育成枠で入団した昨季に大ブレークした。150キロを超える直球、スライダー、フォークを武器に実戦で好結果を残し続けて開幕前に支配下昇格。セットアッパーで稼働して55試合登板で5勝1敗3セーブ22ホールド、防御率1.12と抜群の安定感だった。他球団のスコアラーは「落差の鋭いフォークで打者は『消える』と話していました。直球も速くてスピードガン以上の体感速度を感じるので、なかなか打てない。今年は救援から先発に転向するのでコンディション調整を配慮して代表招集が見送られたのかもしれませんが、国際試合でも十分に通用するでしょう」と太鼓判を押す。  セットアッパーとしてチームを支えてきた西武の平良海馬も、今年から本人の強い希望を球団が受け入れ、先発に転向。調整に専念するため、侍ジャパンに選出されても辞退する意向を示していた。平良と同様に、先発挑戦する藤井はさらなる飛躍ができるか。 「侍ジャパンに選ぶべき投手」で最も支持を集めたのが、5票で加藤貴之(日本ハム)だった。  針の穴を通す制球力が武器で、昨季は11四死球で72年ぶりに日本記録を更新。22試合登板で8勝7敗1ホールド、防御率2.01をマークした。  他球団の首脳陣は「加藤は先発でも救援でも力を発揮できる投手。第2先発に一番ハマる投手だと思う。先発ができるから中継ぎができるという簡単な問題ではない。侍ジャパンのロングリリーフ要員を見ると、チームで先発しかしていない投手ばかり。立ち上がりが良いとは言えない投手もいるし、そこが懸案材料かなと。加藤は球速が速いとは言えないから敬遠されたのかな。メジャーリーガー相手にどんな投球を見せてくれるか、楽しみな投手だけどね」と指摘する。  上記の投手たちは今後、侍ジャパンに招集される可能性が十分にある。NPBで今後の活躍が楽しみだ。(今川秀悟)

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    安倍政治を検証した「妖怪の孫」監督「成熟した大人の言動とは思えない」

     衝撃の死を遂げた安倍晋三元首相。高い支持を集めた一方で国民の分断と格差を広げた。「パンケーキを毒見する」で菅義偉氏を追った内山雄人監督(56)が新作「妖怪の孫」で安倍氏の実体に迫る。 *  *  *  前作の「パンケーキを毒見する」(2021年)の公開直後からプロデューサーの河村光庸さん(22年6月急逝)に「次は“本丸”をちゃんと描くべきなんじゃないか」と言われていたんです。自民党のあるベテラン議員にも呼び出されて「自民党がおかしくなったのは、安倍さんからなんだよ」と資料を渡された。とはいえ簡単に手を出せる対象ではない。ある種の恐れもあったんです。 ──そう内山監督は話す。それでも「やらねば」と動いた理由には、日々じわじわ感じる閉塞感や、恐怖があった。  第2次安倍政権ではさまざまなことが勝手に閣議で決められました。13年の「特定秘密保護法」、15年の集団的自衛権の行使を可能とさせる「安全保障関連法」、そして岸田文雄政権での「防衛費増額」「原発再稼働」。自民党は野党の質問にも国民の声にもまともに答えず、そもそも会話になっていない。なのにマスコミも危機感を全く伝えていない。その始まりが安倍さんにある、ということをみんなが感じている。ならば安倍さんという人はなんだったのか。客観的な事実をもとに検証しなければならないと思ったんです。 ──だが、取材を進めていた22年7月に安倍氏が殺害される。世の中の空気が一変し、与党、野党の政治家や安倍氏を取材してきた記者たちからも軒並み取材を断られた。  いったんすべてがストップしました。でも直後に旧統一教会の話が出てきて「これももともと、安倍さんが抱えていた問題なのでは」と、もう一度製作陣の気持ちが立ち上がった。元経済産業省の官僚でジャーナリストの古賀茂明氏の協力を得て、取材を再開しました。 ──映画はさまざまな「なぜ?」をキーワードに、わかりやすく「安倍政権」を読み解いていく。最初の問いは「何で安倍さんはこんなに選挙に強いの?」。12年に第2次安倍政権がスタートした後から自民党が大手広告代理店と手を組み、徹底的なマーケティング戦略をしてきた事実がデータや内部文書で明らかになる。  自民党は一度野党に落ちたことで、本気でメディア対策をやり始めました。そしていまも発信力とメディアへの圧力で世論をコントロールしている。この映画は本来ならばテレビの2時間の特別番組でできるはずです。膨大な映像資料や取材記録が残っているんですから。でもいまのテレビではそれができない。だれもやろうとしない。 ──劇中には16年に高市早苗総務相(当時)が国会答弁で「電波停止」発言をするシーンが映る。まさにいま、内部文書発覚で揺れる「放送の政治的公平性」問題の起点だ。続く質問は「安倍さんはどんなふうに育ってきたの?」。政治ジャーナリスト・野上忠興氏が幼少期の安倍氏を語る。「ミーハーだよね、ほんとに」と評する人物像は衝撃的ですらある。  乳母兼養育係だったウメさんの「兄(寛信氏)にかまけると、すぐにすねてしまう」などの証言はすごい話だなと思いました。安倍さんの幼少期からの性格や特性について考察できる。  映画を観て気づかれる方も多いと思いますが、安倍さんは敵を作る発言や言葉をあえて発する人です。「あんな人たちに負けるわけにはいかない」とか「悪夢のような民主党政権時代」とか。とにかく相手をくさす。およそ成熟した大人の言動とは僕には思えません。しかもそれを一国の総理の立場で言うわけですから、それが社会全体の空気として蔓延し、いまにも続いてしまっていると感じます。 ──「昭和の妖怪」と呼ばれた母方の祖父・岸信介氏の人物像も紹介される。野上氏は祖父に心酔していたという安倍氏のねじれた思いにも言及する。内山監督が取材のなかで特に印象深かったと振り返るのは、匿名でインタビューに応じてくれた現役官僚2人の言葉だ。  彼らは「総理が平気で嘘をつき、そのあと財務省の赤木(俊夫)さんが自殺してしまった」と、当時のショックも語ってくれた。上司(幹部)から「政権の方向性と違うことは考えるな」と言われ、逆らえば「ぽーん、と首が飛ぶ」と。その状況が露骨に始まったのは14年に内閣人事局が設置され、菅官房長官が人事権を握ってからだと。  彼らはこの10年間で日本がおかしくなっている状況に猛烈なフラストレーションを抱えている。映画には使っていませんが、「辞め時を逸した」という発言もありました。しかし辞められない。理由のひとつは、ある種エリートから離脱してしまう怖さがあるから。それはマスコミの人間も同じだと思います。自分の生活が根っこから変わってしまう、その恐怖から逃れられない。それでも彼らはこの映画が誰かに少しでも届き、少しでも社会が変わればという思いで協力してくれたんです。 ──現代日本に巣くう不寛容さを「妖怪」としてアニメーションで紹介するなど、ユーモラスな仕掛けもある。ジャーナリストの鈴木エイト氏や、新右翼系民族主義団体「一水会」の代表・木村三浩氏による解説は、旧統一教会と自民党に関する「なぜ?」の素朴な疑問を解決してくれる。  この映画は安倍氏の直截(ちょくせつ)な批判をするものではありません。いまの政治の背景がおおよそわかるようになっているので、どんな立場の人にもまずは観てほしい。本作の公開で自分や家族の身に何かが起きるかもしれないという怖さは正直あります。それでも多くの人にこの危機的な状況に気づいてもらいたいんです。  いまの岸田政権にどれほど安倍さんが影響を与えているか。私たちはいま起きている状況を知り、何ができるかを考えないといけない。会話にならない答弁を「おかしいじゃないか!」ともっと突き上げなければならない。日本の状況に「希望がないなあ!」と感じるときもありますが、それでもまだやれることはある、と僕は思っているんです。 (フリーランス記者・中村千晶)※週刊朝日  2023年3月24日号

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    【超速報】東大合格発表、開成146人、灘86人、麻布・聖光学院78人<3月10日20時時点>

     東京大学と京都大学の一般選抜の合格者が3月10日に発表された。   週刊朝日は、サンデー毎日・大学通信と合同調査を行い、高校別の合格者数を集計した。  午後8時時点での速報値で、東大の合格者1位は146人の開成(東京)、2位は86人の灘(兵庫)、3位に78人の麻布(東京)と聖光学院(神奈川)が入る。  今年は、東大の一般選抜の志願者数9306人に対し、2997人が合格した。うち女子合格者は653人。割合は21・8%で、過去5年間で最も高い割合だった。  藤垣裕子副学長は10日のオンライン記者会見で、 「女子の志願者数および合格者が増えたことは、我々としても大変喜ばしいと思っている。『女子枠』については私が入学した20~30年前から議論があったが、当時の先生方からは『女子枠を設けると、当の女子学生から反対される』と聞かされていた。実際に導入するとなれば様々な方の意見をまとめねばならず、議論が収束していない状態だ」と述べた。  今年の特徴を見ていこう。まず、受験生に人気を集めたのは理系の学部だ。  東大の理科二類は募集人員532人に対して、計2294人の志願者が集まった。現行の定員となった2008年以来、最多の人数だという。  東進ハイスクールを運営するナガセ専務取締役・コンテンツ本部本部長の渋川哲矢さんが言う。 「コロナ禍で医療関連の話題に接する機会が増えたためか、近年では他大学も含め、医学や薬学などのメディカル系の学部が人気です。農学系統では生命科学系の人気が非常に高い。東大理科二類で志願者が増えた背景にも、こうした事情が関わっていると思います」  京大の志願者数も理学部が前年比114%、医学部で同115%だった。 「京大の場合、理学部と医学部・医学科では第1段階選抜に基準点が設定されていますので、22年度入試では共通テストが難化したことの影響から、両学部で志願者が減りました。それに対し今年は共通テストが昨年に比べて易しくなったこともあり、志願者が戻ってきたものと考えられます」(渋川さん)  また、今年度の東大入試では、物理の問題が「ここ十数年で最高水準の難易度」としてSNS上で話題になった。  渋川さんが言う。 「生徒からも『難しかった』と相談の電話がかかってきました。化学や生物に関しても難度の高い問題が多く、理系科目については全体として難化傾向にあったと言えます」  Y-SAPIX事業本部長の山口拓司さんはこう話す。  「大問2は電磁気・波動に関する問題で、一見とても難しそうですが、一生懸命解いていると取っかかりが見えてくる。大問3は熱に関する問題で、易しそうに見えますがいざ解いてみると答案にするのが非常に難しい。ぱっと見だけでは難易度はわからない、という教訓となる問題だったと思います」    ◇  東大・京大合格者ランキングは、3月14日(火)発売の「週刊朝日3月24日増大号」で詳報します。合格者数1人まで掲載の充実した内容で、去年と同じ定価据え置き、税込み470円。私立大学の医学部、歯学部、薬学部の結果もあわせて掲載します。  関連企画として、東京工業大学の益一哉学長に聞いた学校推薦型や総合型選抜入試での「女子枠」導入、東大推薦、京大特色入試に合格した「スーパー高校生」へのインタビューと実名アンケートなども紹介します。    ◇  以下は、午後8時時点での東大合格者数上位20校と、その人数。 (1)開成(東京) 146 (117) (2)灘(兵庫) 86(66) (3)麻布(東京) 78(53) (3)聖光学院(神奈川) 78(70) (5)渋谷教育学園幕張(千葉) 74(59) (6)西大和学園(奈良) 73(50) (7)桜蔭(東京) 72(67) (7)駒場東邦(東京) 72(55) (9)日比谷(東京) 47(33) (10)栄光学園(神奈川) 46(38) (11)横浜翠嵐(神奈川) 44(35) (12)海城(東京) 43(31) (12)浅野(神奈川) 43(39) (14)渋谷教育学園渋谷(東京) 40(35) (15)早稲田(東京) 38(30) (16)東海(愛知) 37(25) (16)久留米大附設(福岡) 37(32) (18)浦和・県立(埼玉) 36(21) (18)甲陽学院(兵庫) 36(29) (20)ラ・サール(鹿児島) 35(26) (合格実績のある学校への週刊朝日とサンデー毎日、大学通信の合同調査を基にした速報値で、数値は今後変動する可能性がある。右のかっこ内は現役合格者数) ※週刊朝日オリジナル記事 (本誌・松岡瑛理)

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    「一国の主にならないと」と1人目の夫が後押し 同志社大教授、女性生命科学者64歳の人生ドラマ

     同志社大学生命医科学部教授の野口範子さんは、生命科学者として体の中の活性酸素の研究を続けつつ、「サイエンスコミュニケーター養成副専攻(SC副専攻)」を2016年にスタートさせた。「理系の学生にコミュニケーションのノウハウを教えるのではなく、理系と文系の学生が一緒に社会における科学の問題を議論する場を作りたかった」。周囲の理解が乏しくてもやり抜くことができたのは、子育てと研究の両立に苦闘する中で、持って生まれた胆力がさらにパワーアップされたからなのかもしれない。(聞き手・構成/科学ジャーナリスト・高橋真理子) >>【前編:元日テレ桝太一アナを“スカウト”した女性生命科学者64歳の行動力 STAP細胞事件で「やらねば」】から続く * * *――筑波大学の博士課程2年のときに1人目を産んだんですね。  妊娠中に夫は東京に異動して、私は一人で茨城県つくば市のアパートにいた。実家の母に来てもらった次の日に陣痛が来て、夫はいないので私が運転して病院に行きました。京都の母には3カ月いてもらって、約束通り娘を(義父母が住む神奈川県横須賀市の)久里浜に預けにいきました。 「よろしくお願いします」と義母に娘を預けて、私はつくば市に帰った。母乳がよく出たので、毎日乳搾りをして法医学教室の冷凍庫に入れて、週末になるとそれをアイスボックスに入れて車で東京に寄り、そこから夫が運転して久里浜に行って、1泊して帰ってくる、という生活でした。 ――娘さんはずっと久里浜に?  えーと、2歳8カ月までそうでした。義母はものすごく娘をかわいがってくれた。  博士3年の夏に次の妊娠がわかりました。そのころは長女を義母に取られたように感じてしまって、ホント勝手ですよ、私が預けてお世話になっているんですけど、なんか返してくれない雰囲気の中、せっかく2人目に恵まれたんだから今度はもっと一緒の時間を過ごそうと決心した。  翌年4月に次女が生まれ、今度は6カ月京都の母にいてもらって、その後は保育ママさんにお世話になりました。週末に次女を助手席に乗せて東京を経由して久里浜へ行き、帰りも次女だけ連れ帰る生活になりました。長女は何を思っていたのか、覚えていないでしょうけど、その頃のことを思うと胸が痛みます。医学系って博士課程が4年なんですが、農薬の毒性発現機序の研究をして4年で無事に博士号を取れました。  医学博士になって帝京大学医学部法医学教室の助手になり、夫婦二人が東京勤務になったので、長女を引き取り、4人で頑張ることにしました。  夫の職場の近くに住み、保育園もすぐそばにあって、毎朝子どもたちをそこに連れて行ったんですけど、やっぱり大変でした。帝京大から家まで、1時間ちょっとかかる。しかも、帝京大の法医学教室は遅くまでいることが大事みたいな古いタイプの研究室でした。  早めに帰るなんて許されず、夕方6時に出る。走って帰っても保育園のお迎えに間に合わないので、外で仕事をしていないご近所さんにお迎えをお願いして、私が帰るまでそのおうちで面倒を見てもらったりしていました。すごくいい人で本当に助けてもらいましたが、その方だって都合が悪い日がある。そのときはまた別の人を探して、本当にもう、米つきバッタみたいに頭を下げて回っていた。保育園に連れて行ったら熱があるから預かれないと言われるときもありますよね。何とか近所の方に預けて遅れて研究室に行くと、「やっぱりお子さんのいる方はダメですねえ」と上司が言う。  夫の職場は、家からも保育園からも1分なのに、土曜日以外はお迎えに行ってくれなかった。子どもが熱を出したときに仕事を休んでお医者さんに連れて行くのもいつも私。小学生になって、授業参観のお知らせが来ると、どっちが行くかで必ずケンカになる。  あるとき、「あなたはいいんだよ。子どものために休むと言っても頑張っているって見てもらえるけど、僕はそういうふうには見てもらえないんだよ」って訴えるように言った。 ――そういう時代でしたね。  これが決定的な言葉だったんです。今振り返ればわかります。彼の立場も、気持ちもわかる。でも言われたときは「もう一緒にやっていけないな」と思いました。だから、それからケンカもしなくなりました。ケンカをしても無駄だなって思って、でも、この関係はどこかで終えてやるって思いました。それで、予定通り離婚しました。 ――いつですか?  2006年ごろですね。娘たちが大学生のとき。 ――かなり時間がたってからなんですね。娘さんたちへの影響を考えてですか?  それもあるし、子どもたちが大きくなってきたら、慌てて離婚する必要もなくなったというか。  帝京大の法医学教室は一番つらい時期でしたが、ひょんなことから東京大学へ移ることになりました。帝京の生化学教室の先生とお部屋で研究の話をしていたら電話がかかってきて、切ったあと先生がこちらを向いて「野口さん、東大の二木先生って知ってる?」とおっしゃった。二木鋭雄先生は活性酸素の研究ですごく有名で、学会でお名前を見たことがあったから「知ってます」と答えたら、「二木先生が助手を探しておられるけど、行きますか?」と聞かれた。「行きます、行きます」と言うと、「法医学じゃなくなりますよ?」と言うので、「法医学やめます!」と即答しました。  紹介状を書いていただいて面接に行ったら、OKが出たんですが、そのとき夫が米国の国立保健研究所(NIH)に留学することになった。二木先生に相談したら、「いい機会だから一緒に行っていらっしゃい」と言われ、1年間米国の国立研究所の客員研究員をしました。  帰国して1991年2月に東大工学部に助手として着任しました。二木先生は生体の活性酸素とビタミンEの研究をしていて、本当に神様みたいな先生で、学生さんはたくさんいるし、みんな温かく優しくしてくれるし、精神的にすごく楽になりました。二木先生は「子どもにはいくら愛情をかけてもいいんですよ」とおっしゃった。この言葉が嬉しくて今も忘れません。  先生が東大先端科学技術研究センターに移られたので、私の所属も先端研に変わりました。2000年に二木先生が定年退職されると、児玉龍彦先生が率いる大きな研究チームの中で、私は直属のボスがいない形で研究室を持たせてもらった。研究環境はものすごく恵まれていました。ポスドク3人、博士課程の学生2人、実験補助員3人といった態勢で、お金は児玉先生がたくさん取ってきてくださるので、論文がたくさん書けた。  あるとき、筑波大時代に宿舎が一緒だった親友から「あなた、論文がたくさんあるのになぜ助手なの?」と聞かれたんです。私は研究ができればいいと考えていたんですが、そう言われればそうだなと二木先生に「私はいつまで助手ですか」って手紙を書いた。  そうしたら、二木先生は当時のセンター長に相談に行ってくださったのですが、すでに退職されたお立場だったからでしょう、状況は変わりませんでした。しばらくして、私は科学技術振興機構特任助教授という立場になった。助手は国家公務員ですが、このポストは公務員ではありません。特任助教授という肩書はついたけれど、良かったのかどうかわかりません。ただ、研究環境は変わらず、恵まれた状態でした。  そのうち、活性酸素の研究仲間である京都府立医科大学の先生から「同志社大に行かへんか」と声がかかった。工学部(当時)の環境システム学科が教員を募集しているというんです。そのときは娘が高校生で、連れて行くわけにも置いていくわけにもいかないと思って、お断りしました。このとき府立医大から同志社大に移った谷川徹先生から1年後にまたお誘いを受けた。夫に相談したら、「やっぱり一国の主にならないとダメなんだよ」と言ってくれて、じゃあ行こうかとなった。次女も大学生になるという時期でした。  2005年に同志社大の教授になりましたが、行ってみたら学生もスタッフも誰もいない、私一人なんですよ。これでは研究ができないので、東京に帰ろうと思いました。先端研にはまだ博士課程の学生がいたので、先端研の特任教授を兼務して研究は東京のラボで続けていました。もう同志社は早く辞めようと思ったんですが、その年の12月に新しい学部をつくる話が出て、今に至る、ということです。 ――2回目の結婚はどんな方と?  さっき話に出た谷川先生と。私、今の戸籍名は谷川です。 ――離婚はどのように?  子どもたちが小学生のころ、夫は東京から離れた別の機関に移り、長女は小学6年生の途中から再び義母に引き取られて夫の赴任地で生活するようになりました。次女は私と東京に残りました。長女が東京の高校に進学したので、3人一緒に東京の家に住むようになり、私は同志社に就職してから京都と東京を行ったり来たりするようになった。週末は東京で4人全員集合です。  それでお互いに穏やかに暮らしていたわけですが、やはりけじめをつけたいと思い、私は離婚したいという手紙を書きました。自分が思ってきたことをまとめ、そしてこれからはそれぞれ別のほうがいいでしょう、みたいな感じで。その後二人で会って、彼は真面目だから手紙の内容の一つ一つにコメントをくれて、「前から考えていたんだよね。しょうがないね」って。  でも、その後も生活は変わらないんです。週末は親子4人でごはんを仲良く食べる。いつかは娘たちに言わなくちゃと思って、下北沢に4人でブランチに行ったとき、お互いに「そっちから言って」と目配せしあって、彼が「実はお父さんとお母さん離婚したんだよ」って伝えました。 ――娘さんたちは何と?  エーッてなりました。大きな衝撃を受けたのは長女のほうでしたね。それから2年後ぐらいに再婚しようと思っていることを娘たちに話したんですけど、そのことは「あんまり衝撃じゃなかった」って言ってました。その後、彼も再婚して安心しました。  娘たちは父親と普通に行き来しています。長女は結婚して、3人の子どものママ。父親が再婚したお相手にもお孫さんがいらして、ちょうど同年齢なのでお宅にお泊まりに行ったりしています。お祝いがあるときは旧野口家大集合みたいになる。次女は京都が好きと言ってよく京都に来ます。今の夫のことは「徹さん」って呼んで、楽しくやっています。だから、どんどん家族が増えているみたいな感じですね。 ――なんともすごいドラマの連続で、野口さんのパワーがびんびん伝わってきました。  そうですか。とにかく今は2人目の夫と仲良く暮らしています。私ももうしばらくすると定年なので、サイエンスコミュニケーター養成副専攻をどのように継続していってもらうか、私がいる間にできる限りの手を打たなきゃと思っているところです。  野口範子(のぐち・のりこ)/1958年、京都市生まれ。筑波大学第二学群生物学類卒業、同大大学院医学研究科博士課程修了、医学博士。帝京大学医学部助手、東京大学工学部助手、同大先端科学技術研究センター助手などを経て2005年に同志社大学工学部教授。2008年から同大生命医科学部教授、2018~2019年に生命医科学部学部長・研究科長、2020年から研究推進部長。京都市教育委員会の教育委員を2018 年から務める。創設したサイエンスコミュニケーター養成副専攻では、同志社大卒の作家・佐藤優氏に15回のフル講義「サイエンスとインテリジェンス」を担当してもらっている。

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    プロゴルファーの青木功会長と選手会が対立 理事辞任、委任状争奪……ツアー開幕直前に組織で“お家騒動”

     今年のツアーが間もなく開幕する男子プロゴルフ。だが、ツアーを取り仕切る日本ゴルフツアー機構(JGTO)の青木功会長ら執行部と、会員である選手側がもめにもめている。JGTOは設立以来、会長選挙をめぐりさまざまな争いが繰り広げられてきた。今回も青木会長と選手側との確執、執行部の人事問題など火種は複数ある。今回も簡単には収まりそうにない。  2月22日に開かれたJGTOの定例理事会。そこで配られた社員総会の参考資料について選手の一人が、こう話した。 「執行部がJGTOの定款の変更案を出してきたのですが、その内容に驚きました」  JGTOは日本の男子プロゴルフツアーを統括し、ツアートーナメントを主催する団体で1999年に設立された一般社団法人だ。団体のホームページによると、会長は青木氏で、副会長が3人。そのうちの一人はジャパンゴルフツアー選手会(以降、選手会)の谷原秀人会長。ほかにもゴルフ関連団体の幹部、テレビ局、製薬会社、大学教授、プロゴルファーら計17人が理事として団体を運営しており、日本のトッププロら約200人の選手が正会員として入会している(2022年7月20日現在)。  青木氏は2016年に会長に就き、現在4期目(任期は2年)。青木氏といえばゴルフ界では言わずと知れたレジェンドだが、この青木会長と選手会側との対立が、3月22日に開かれるJGTOの社員総会を前に表面化しているのだ。  原因はいくつかあるようだが、その一つが、冒頭で前出の選手が指摘した定款の変更案だ。  AERA dot.が入手した社員総会の参考資料を見ると、定款の変更案について、改訂前と改訂後が書かれている。  選手会が反応したのは以下の部分だ。 (種別) 改訂前「正会員をもって法律上の社員とする」 改訂後「社員を持って法律上の社員とする」(社員は、ジャパンゴルフツアー選手会会長、日本ゴルフトーナメント振興協会、日本ゴルフツアー機構会長の3者としている) (決議) 改訂前「社員総会の決議は、出席した正会員の議決権の過半数をもって行う」 改訂後「社員総会の決議は、出席した社員の議決権の過半数をもって行う」  つまり、現行は、正会員である選手たちは法律上の「社員」で、全員がそれぞれ1票を持っており、議決に際しては1票を投じることができる。  しかし改訂した場合は、正会員は社員ではなくなり、選手会会長、日本ゴルフトーナメント振興協会、JGTO会長の3者のみが社員とされ、何かを決議する際には社員3者で決めることになるのだ。  このように変更する理由については、「会長選挙をめぐる争いの歴史に終止符を打ち、持続可能な組織へと生まれ変わるための『ガバナンス改革』」と記している。  関係者によると、これまでもJGTOの会長選挙をめぐっては、選手やスポンサーなどの思惑がからんで紛糾し、そのたびに選手の委任状争奪といった多数派工作が繰り広げられてきたという。  青木氏の前任の会長は、NHK元会長の海老沢勝二氏だったが、選手会は海老沢氏に対する不信感から2016年に「解任やむなし」として委任状を集めた。 「青木氏周辺が中心になって社員総会の委任状を集めました。海老沢氏は『このままだと、選手の委任状で解任動議が出されクビになりますよ』と示唆され、自ら辞表を出したんです」(JGTO関係者)  昨年3月には、「ABCマート」の創業者の三木正浩氏が副会長として理事に加わったが、三木氏は、 「現在の体制をなんとかしなければならない」  などと“青木体制”を批判する声を上げてきたという。これが執行部の人事をめぐる問題にも発展し、現在ももめ事の一つとなっている。  こうしたごたごたを繰り返さない方策として、定款の変更案が浮上したという。  しかし、この案については、谷原選手会長から「選手会は反対」との意向が伝えられたといい、3月22日の総会では上程しないことになった。  問題は他にもある。青木氏と谷原選手会長がJGTOの執行体制について半年以上に渡って交渉し、まとめた合意書を谷原選手会長が破棄したとの青木氏側の主張だ。  これについては、青木氏が「選手会理事の皆さんへ」として送ったメールに詳しく書かれている。  それによると、合意内容は、 (1) 三木氏と上田昌孝理事の辞任(2) 来年4月以降の会長と名誉会長について(3) 三木氏と上田氏がJGTO理事に復活しないこと  の3項目。  (1)と(3)については、青木氏に批判的な三木氏と、青木氏に近いとされる専務理事の上田氏の双方が辞任し、その後もお互い復活しないということだ。  (2)については、来年、会長任期が満了となる青木氏が退任後に名誉会長に就任し、次期会長に大和証券グループ本社名誉顧問の鈴木茂晴氏を選任するというものだった。  この3点について合意書に残すことを提案したところ、谷原選手会長は同意し、「合意書にサインします」と青木氏側に連絡してきたという。  しかしその後、谷原選手会長は選手会で反対の意見が出たとして、合意書については代理人と交渉してほしいと述べたといい、 「合意を一方的に破棄し、半年以上にわたる交渉を否定するもので、JGTOとの信頼関係を破壊するものです」  と青木氏はメールで批判している。  こうした青木氏の主張を、谷原選手会長はどう受け止めたのだろうか。  そこで、中東でツアーに参加しているという、谷原選手会長を直撃した。 ――JGTOで「お家騒動」のようなことになっていますが? 「このようなことでファンの皆様にご心配をおかけすることになり、申し訳ないという思いです」 ――「定款変更」と「合意書」が原因になっているようですが。 「まず定款変更ですが、執行部から突然、変更案が示されました。社員を3人に限定するということは、スポンサーの力が強くなり、JGTOとGTPAの会長が組めば、選手会長が反対しても執行部の意見が通ってしまう。選手側の思いは無視されかねず、言いたいことが言えなくなる。そういう声が選手側から上がったのです」 「青木さんが送ったメールには、私が『合意書にサインを約束した』という記述があります。それは合意書を見る前に執行部の方から言われて、必要ならサインしますという程度で返信しただけです。三木さんの進退についてですが、あれほどの方ですからご自身で決められるはずです。『青木名誉会長』には反対だし、次期会長を1年も前から決めるというのもどうかなという気持ちです。それに社員である選手すべてに意見も聞き、確認しなければならず、簡単にサインできません」 ――「合意書」には三木氏は退任後、理事に復活させないという文言があります。 「その点については執行部が出してきた合意書で、私はなんともお答えのしようがありません。退任届は2月20日ころに三木氏自らが一度は出されました。でも何らかの不備があって保留になり、その後に受理されましたと聞いています」 ――青木氏は「3月22日の社員総会には定款変更の議案は出さない」としていますが。 「その言葉を信じたいです。私は選手会長ですが、自分勝手に決めているわけではありません。執行部から案が出されたら選手に意見を聞き、ツアーがよくなるなら採用してほしい、そうでないならやめてほしい、と伝える。これまでも自分で勝手に決めたことはありません。定款変更は、執行部が出さなくても社員総会で社員の動議があれば議案になる可能性があるとも聞きますので警戒しています。重ねて言いますが、定款変更は絶対反対です。合意書にもサインはしません」  一部の選手からは、社員総会で動議が出ると定款変更案が通るのではないか、との疑念があるといい、委任状を集める動きがあるという。  こうした選手会側からの批判などをJGTO側はどう捉えているのか。JGTOに取材を申し込むと、代理人の弁護士が対応した。  まず定款変更については、こう説明した。 「定款変更の目的は、2月22日の定例理事会に合わせて配布された資料にある通り、会長選挙をめぐる争いの歴史に終止符を打ち、持続可能な組織へと生まれ変わるということに尽きます。選手がいないとツアー、試合はできません。プロスポーツなのでスポンサーなどのサポートは不可欠。JGTOがそれを統括していく。この3者の協調が絶対に必要です。議決権を3票にすれば安定した運営ができるのでは、と考えたのが変更を提案しようとした理由です」  その後の合意書の作成、破棄については、 「一部の報道でもありましたが、三木氏の言動によって青木氏の会長体制やJGTOの運営に支障が出ました。そこで三木氏には引いていただくということで、谷原選手会長が三木氏と相談し、辞任の方向が決まったはずです。青木氏の会長退任後の名誉会長、鈴木氏の新会長というのは、新体制にスムーズに移行したいとの考えからです。これまでも会長職をめぐってはもめることがあったので」  と話した。その上で、「谷原選手会長が『合意書にサインする』とJGTOに連絡をしてきたと聞いています」と付け加えた。  選手らが疑心暗鬼になっている3月22日の社員総会での定款変更案の提出などについては、本当にないのか改めて尋ねると、 「社員総会の議案は事業報告、決算報告となることがもう決まっています。選手からの反対があったので、定款変更の案を示した直後に取り下げています。総会で執行部から定款変更の議案は出ません。社員の動議から議案になることもありません」  と念を押した。  しかし、選手側の不安、不満は解消されていないようで、 「これまでも執行部はいろいろと仕掛けてきました。社員総会が終わるまでは安心できません。青木氏の会長退任後の名誉会長、鈴木氏の会長というのも新体制へのスムーズな移行のためということですが、1年も先のことです。なぜ今決めようとするのでしょうか」  と執行部に対する不信感は根深く、一連の混乱がすぐに収まる気配はない。 「お家騒動」といってしまえばそれまでだが、近年ゴルフは女子プロの人気が目立っているだけに、ツアー前の内輪もめでファン離れが進むのは避けたいところでは……。 (AERA dot.編集部 今西憲之)

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    開成がついに失冠、明大は合格者1千人増 激変した私大入試を分析

     首都圏の難関私大の合格者がほぼ出そろった。今年の私大入試の特徴を、ランキングとともに紹介する。 *  *  *  国公立大学の後期日程の試験が終わり、2023年度入試もいよいよ幕を閉じようとしている。国公立よりも一足早く実施された私大入試では合格者がほぼ出そろった。  今号の大学合格者高校ランキング(4)では、私学の雄である早稲田・慶應を筆頭に、上智、東京理科、GMARCH(学習院、明治、青山学院、立教、中央、法政)の有名私大編をお届けする。  まずは早大から。ランキングをみると、上位校の顔ぶれは大きく変わらないが、順位に変動があった。東大合格者とともにここ10年以上トップを走ってきた開成(東京)がついに失冠し、渋谷教育学園幕張(千葉)にその座を明け渡した。慶大のランキングでは、開成がトップを死守したものの、2位の横浜翠嵐(神奈川)の躍進が目立った。  私立最難関の早慶に合格者を出す高校の多くは、東大合格者でも上位につける。だが、例外もある。慶大で5位に輝いた頌栄女子学院(東京)は近年、60~80人台をキープしているが、東大は5人と100位以下だ。頌栄女子学院は上智大のランキングではトップに輝いている。有名私大に強い高校と言えるだろう。  私大の場合、大学からの距離によって、上位校の陣容が変わる傾向もある。早大は千葉県や埼玉県、東京都の中心北部から西部にかけて、慶大は日吉や湘南藤沢キャンパスがある神奈川県を中心に、東京都の中心南部から南西部一帯の高校が増える、といった具合だ。  東大と違って1都3県の高校で上位が占められている。自宅からの通いやすさも大きな要因となっているといえそうだ。  ほかの私大はどうか。東京理科は栄東(埼玉)、明治は湘南(神奈川)、青山学院は厚木(神奈川)、立教・中央・法政・学習院の4大学は大宮開成(埼玉)がトップに輝いた。高校によっては、東大をはじめとする国公立大の合格実績よりも、難関私大の合格者を伸ばすことに力を入れているところもある。  そのため、文系の場合は早い段階から数学を必修から外す高校もある。また、早大向けに社会科目は政経に集中したり、慶大向けに小論文指導に力を入れたりしている高校もある。国公立大入試が受験の核となる首都圏以外の高校からすると、驚きかもしれない。  さて、近年の私大入試の動きとして欠かせないのが、16年度入試から文部科学省の主導で段階的に進められてきた入学定員の厳格化だ。  本来の定員よりも多く入学させたら補助金カットの対象とするもので、22年度入試は定員8千人以上の大規模大学は定員の1.1倍、4千人以上8千人未満の中規模校は1.2倍、4千人未満の大学は1.3倍までしか毎年の入学者を取れなかった。学部単位でもこの制約が課されていたため、全国的に私大の合格者数が大きく減り、入試の難化につながったというものだ。  元々は定員割れが続いている地方私大への対策や、若者の東京一極集中を避ける狙いがあっての施策だったが、受験人口の割に国公立大の定員が少ない首都圏では大きな影響となった。特に東京都では大打撃となり、全国的には大学進学率が上がっている一方で、東京都の現役大学進学率は16年から18年にかけて3年連続で下がった。  大学通信で情報調査・編集部部長を務める井沢秀さんが解説する。 「定員厳格化の影響で16年度から19年度にかけて私大の倍率が上がり続けていました。しかし新型コロナウイルスの影響や、21年1月に始まった共通テストの受験を嫌い、受験生の多くが20年度入試で合格した大学に入学した影響で、21年度は私大の一般選抜の志願者が前年比14%減という史上最高ともいわれる減少幅となりました」  こうした問題が生じたことから、文科省は定員厳格化の動きを撤回、23年度入試から緩和する方針を打ち出した。  それまで学年ごとの入学定員で判断されていたものが、全学年の総定員数で判断されることとなり、その年で入学者を出しすぎても、その次の年以降で調整できるようになったのだ。  この新制度1年目となった今年の私大入試はどうだったのか。井沢部長が分析する。 「私大の志願者は去年から増えており、定員管理厳格化の合格者の出し方に大学側が慣れたということと、緩和の影響で今年は合格者が出しやすい状況にありました。実際に明治大では現時点で去年より1千人近く合格者数が増えています。その他の私大も全体的に合格者が増えた傾向にあります。今年の入試は近年で一番私大に受かりやすかったのではないでしょうか」  一方、私大の共通テスト利用入試においては、数学などの「難問対策」に時間を取られたくない私大専願者を中心に、「共通テスト離れ」が起きているとの指摘も出ていた。実際にこうした影響はあったのだろうか。  井沢部長はこう話す。 「確かに私大専願者を中心に共通テストの受験者が大きく減るのではないかという見方があったのですが、蓋を開けてみれば18歳人口の減少分程度にとどまりました。昨年の秋ごろにコロナの第8波の影響も強かったことから、移動が伴わない共通テスト利用で私大を受ける動きも強かったようです。また国公立大受験者も、昨年の難化の影響により共通テスト利用で私大に多く併願する動きもあったようです」  3月13日から「マスク緩和」となり、多くの受験生を苦しめたコロナ禍から、かつての日常に徐々に戻りつつある。キャンパスライフがより活動的になり、海外留学もしやすくなる。有名私大が集まる大都市圏と地方との行き来の障壁も大幅に下がるだろう。  脱コロナと定員厳格化の緩和が重なる24年度の入試では、私大の人気が復活する可能性も十分にありそうだ。(河嶌太郎)※週刊朝日  2023年3月31日号

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    朝ドラの妄想短歌を俵万智さん本人が語る “仕込み”疑惑も「頼まれてもないのに、勝手に(笑)」

    「非公式応援歌人と呼ばれてる 妄想短歌とまらぬ我は」  軽やかな口語調で日常を詠い、短歌を身近な存在にしてきた歌人の俵万智さんが投稿する朝ドラのツイッターが話題だ。  現在放映中の朝ドラ「舞いあがれ!」は、主人公であるヒロイン・舞(福原遥)の夫が歌人・貴司(赤楚衛二)で、ドラマの中のシーンには、たびたび短歌が登場する。それに呼応するかのように俵さんがツイッター上で繰り広げる“妄想短歌”がツイッターでトレンド入りするなど、新たな動きを見せている。ドラマを詠み、詠む楽しみを広げる、その心は。俵さんに聞いた。 * * * ——朝ドラをどんな風に観ていますか?  もともとドラマ好きで、いろんなドラマを見ていますが、「舞いあがれ!」は短歌が物語の中で重要な役割を果たしていて、歌人としても、一視聴者としても楽しんでいます。朝ドラを観ている視聴者同士って、毎朝同じ時間に同じドラマを観て一日が始まるという、ちょっと特別な連帯感がある気がします。  朝ドラをツイッターに投稿するようになったきっかけは、ヒロインの幼なじみ(貴司)が作る短歌を、ドラマを通して味わう中で、「この楽しさをみんなで共有したい!」と、感想や解説をツイッターに投稿し始めたのが最初。短歌は、解釈が一つではないのが面白いところで、いろんな風に解釈しては、その読み方を共有し合うのがまた楽しいんです。「今日のこの歌は、こんな風にも読めるよね」と、何気なくつぶやいた一言に大きな反応があったりして、いろんな人と一緒に、ドラマと短歌を楽しんでいる感覚。ドラマの放送と、現実と妄想がないまぜになっているような、不思議な日々を過ごしています(笑) ——登場人物に向けた短歌をツイッターに投稿したり、放送内容から妄想した“妄想短歌”でもファンや読者を楽しませています。  この人物のキャラクターだったら、こんな風に詠むんじゃないかなと考えたりするのも、また楽しくて。「この人の歌も作って」というリクエストにも応えたりして、短歌を通じてドラマの解釈が広がる楽しさを味わっています。  貴司くんがヒロインに告白する重要な局面を迎える日の朝(2月17日)は、よりにもよって、あいにく飛行機に乗っている時間で、リアルタイムで観ることができなくて。だから「きっとこんな短歌で告白するんじゃないか」という妄想短歌を2首、搭乗前に投稿してから飛行機に乗ったんです。 (「7時半から10時まで飛行機だと気づき、頭抱えている。貴司くん、きっと恋の歌詠むよね・・・地上のみなさん、ひと足先に舞いあがってください」から続けて、「千億の星の一つになりたくて心が空を舞いあがる夜」「一瞬の君の微笑み永遠にするため僕は歌い続ける」の2首を投稿)  そしたら、貴司くんを演じる俳優の赤楚衛二さんが、ちょうどその日のNHK「あさイチ」にゲスト出演していて、番組で私の妄想短歌を見ていることと感想話してくれて、めちゃくちゃ嬉しかったです。飛行機から降りてツイッターを見たら、搭乗前のツイートがバズっていて、こんな風に広がることがあるんだって驚きました。 ——「舞いあがれ!」で出てきた中で、一番好きな短歌は?  どれか一つを選ぶのは難しいですが、「トビウオが飛ぶとき 他の魚は知る 水の外にも世界があると」は、すごく好きです。新しい世界に踏み出すヒロインを「トビウオ」にたとえて、海しか知らない魚が、新しい世界に飛び出すことを爽やかに捉えている。ドラマを象徴するような、みずみずしい歌だと思います。  脚本家の桑原亮子さんは、歌人でもありますが、ドラマに出てくる短歌を読むにつれ、「この人は紫式部だ」と感じ入っています。 『源氏物語』を書いた紫式部も、物語の中で登場人物に歌を詠ませていますが、ダサい男にはダサい歌を詠ませたり、田舎の姫にはそれらしい歌を詠ませるなど、登場人物のキャラクターに合わせた短歌が絶妙。桑原さんは、朝ドラでそれと同じことをやっているなと思います。  例えば貴司くんが、初めて詠んだ短歌は、「星たちの 光あつめて 見えてきた この道をいく 明日の僕は」。とても良い歌なんだけれど、若干抽象的だし、稚拙なところもある。言ってみれば、いかにも初心者が作りそうな歌なんです。それがドラマが進むごとに、だんだん微妙にうまくなっていって、その塩梅の加減がぴったり。私がドラマをもとに作る妄想短歌は、やっぱりどこか私の短歌になってしまうけれど、桑原さんは脚本としての短歌を紡げる。これは歌人でもあるし脚本家でもないとできない技だと思います。 ——ツイッターでトレンド入りするなど、妄想短歌が話題になるにつれ、「ドラマの宣伝の一環なのでは?」という声もあります。  いえ、全然“仕込み”などではなく、勝手にやっています(笑)。私は、頼まれてもないのにやることが好きなんです。仕事ではなく、純粋な楽しみとして詠んだり書いたりすることが、いちばんの贅沢だと思うから。  例えば私にとっての短歌も、頼まれてもないのに作ったのが最初ですが、だんだん仕事になってくると、頼まれて書くようになる。それはありがたいことである一方、本当の豊かさは、頼まれてもないのにやることの中にあると思うのです。朝ドラの中でも、貴司くんが“売れる歌集”を作れと言われて悩むシーンがありますが、誰かから何かを期待されて作るサイクルばかりになると、自分が何のために作っているのかわからなくなることがあります。  だから頼まれてもないのに詠んでいる妄想短歌で、自分の原点でもある“言葉を使う喜び”を思い出させてもらってもいます。何をやってもいい自由さと、止めてくれる人がいないという怖さは、責任も伴いますが、私にとってはすごく贅沢な遊びなんです。 ——俵さんにとって、短歌を詠む行為とは?  私にとっては、生きることと並行して、短歌があります。短歌を考えるのは、朝起きて、そのまま寝床でというのが多いパターン。感じたものや見たものが、一日かけて心の中に沈んでいって、次の日の朝、起きた時に浮かんでくるというサイクルです。洗濯したり掃除したり、日常の雑事が始まる前の時間の方が、考えやすいのかもしれません。 ——280万部のベストセラーとなった第1歌集『サラダ記念日』から35年。昨年末、60歳の還暦を迎えられたばかりですが、今の心境は?  日常を大事に生きていたら、何か大きな鉱脈を掘り当てるようなことはなくても、歌を詠み続けることができる。そう信じられるようになりました。  実は3年前に出した6冊目の歌集(『未来のサイズ』)が、高い評価をいただいたこともあり(歌壇の最高峰とされる迢空賞のほか、詩歌文学館賞を受賞)、「次はどうしようかな」と立ち止まっていた時期がありました。私のこれまでの6冊の歌集は、前半3冊は主に恋愛がテーマ、後半3冊は子どもがテーマです。息子が20歳になって手を離れた今、これから何をテーマにしようかと。今後の自分と短歌について考えていた時期がありましたが、最近、日常を大事に生きていたらそれで良いんだと、少し自信が持てるようになりました。  プライベートで言えば、両親が高齢になったこともあって、昨年、宮崎から両親が住む仙台に引っ越しました。子育ては“人生の復習”という感じがあったけれど、両親を見ていると“人生の予習”をさせてもらっているような気がします。  息子とは離れて暮らしていますが、短歌を作る上で、良い“壁打ち相手”になってくれるというか、的確な意見を言ってくれることが多いです。母親が良い歳こいて、恋の歌を作っていたりするのは、子どもとして微妙な気持ちもあると思うのですが(笑)、言葉に関しては対等に話し相手になってくれるのでありがたいです。 ——ドラマをきっかけに短歌に興味を持った人に伝えたいことは?   短歌を作ることは、人生を豊かにしてくれると思います。特別な何かが必要なわけではなく、誰でも思い立った時に、いつでも作ることができる。  これまでの経験から言えるのは、短歌は万人受けするものを狙うより、たった一人のために作る歌の方が強い。万人に受ける感じを目指すと、結果的に誰にも届かないような気がします。忙しい毎日の中で、歌のために立ちどまる時間が生まれることは、丁寧に生きることにつながります。  短歌は俳句に比べて季語を入れるなどの縛りもないし、自分の思いを乗せやすい文芸。千年以上前からある日本の財産だと思います。歌を作ることは、生きることを確実に豊かにしてくれる。だから一人でも多くの人に、その魅力を味わってほしいです。 (聞き手 松岡かすみ)

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    ヌートバーの侍J入りで注目度アップ! MLBで活躍の「日系人選手」は他に誰がいる

     今年3月に行われる第5回ワールド・ベースボール・クラシック(WBC)では大谷翔平選手(エンゼルス)をはじめとした日本人メジャーリーガーたちが多数参戦という朗報が届いた。そして、それと同等の驚きとインパクトをもたらしたのが日系メジャーリーガーとして初めてラーズ・ヌートバー外野手が日本代表に加わるというニュースだった。  もともとWBCでは両親がルーツを持つ国であれば代表として出場が可能な場合もあり、これまでも殿堂入りの名捕手マイク・ピアザがイタリア代表としてプレーしたことはあったが、日本代表はこれまで日本国籍を持つ選手のみで構成されていた。それだけに画期的な方針転換と言っていい。  25歳のヌートバーは母親が日本人。21年にカージナルスでメジャーデビューすると、22年は108試合出場で打率2割2分8厘、14本塁打、40打点、4盗塁だった。打率は低めだが出塁率3割4分が示すように選球眼がよく、8補殺をマークした強肩が示すように守備での貢献度も高い。起用法次第で貴重な戦力となってくれるだろう。  前置きが長くなったが、今回はヌートバーの代表選出で注目度が高まった日系メジャーリーガーたちの歴史を振り返ってみようと思う。  日本でおなじみの日系メジャーリーガーと言えば、21年からはエンゼルスで大谷とバッテリーを組んだこともあったカート・スズキ(日系3世)だろう。アスレチックスなどで長年に活躍した捕手で、ナショナルズ時代の19年にはワールドシリーズでホームランを放って優勝に貢献した。22年限りで現役引退を表明し、通算成績は打率2割5分5厘、143本塁打、730打点だった。  このスズキやカイル・ヒガシオカ捕手(日系4世、ヤンキース)のように和風のファミリーネームならば日系だと分かりやすいが、ヌートバーのように母方が日本人の血を引いていると日系だと気づきにくいこともある。現在はドジャースを率いているデーブ・ロバーツ監督も実は日系の元メジャーリーガーだ。  ロバーツは米軍人だった父と日本人の母親の間に沖縄で生まれた日系2世。現役時代は俊足の外野手としてドジャースなどで活躍した。彼のプレーで最も有名なのは、レッドソックス時代の2004年に見せた好走塁だろう。  ア・リーグ優勝決定シリーズで宿敵ヤンキースに3連敗を喫して後がなくなったレッドソックスは、第4戦で1点を追う9回にロバーツを一塁走者の代走に出した。ここでロバーツは初球からいきなり二盗を成功。さらに2球後にはビル・ミラーのセンター前ヒットで同点のホームを踏んだ。盗塁に失敗すれば反撃ムードも断たれて敗退濃厚となるシーンで見事に決めたのは走塁のスペシャリストとしての面目躍如だった。  これで息を吹き返したレッドソックスはこの試合をサヨナラ勝ち。勢いに乗って3連敗からの4連勝でヤンキースを下すと、ワールドシリーズでも86年ぶりの優勝を果たして「バンビーノの呪い」を過去のものとした。それもこれもロバーツの盗塁成功がターニングポイントだったのは間違いない。  引退後は2015年途中にパドレスの代理監督を務め、メジャー史上初めて日本出身の監督に(日系の監督としてはマリナーズを率いたドン・ワカマツの方が先)。20年にはドジャースの指揮官としてワールドシリーズ制覇も達成している。  活躍度で言えばナ・リーグMVPに輝いたクリスチャン・イエリチ外野手(ブルワーズ)。母方の祖父が日本人の日系3世で、曽祖父はNFLで活躍したフレッド・ジャークという家系の出身だ。  17年の第4回WBCでは米国代表として優勝に貢献し、最優秀外野手にも選出。メジャーでは18年に打率3割2分6厘、36本塁打、110打点、22盗塁で首位打者とMVPに輝き、翌19年も打率3割2分9厘、44本塁打、97打点、30盗塁で首位打者を獲得した。  この活躍が認められて20年3月に9年総額2億1500万ドル(約276億2000万円)の大型契約で契約延長。ただしその後の3年間は故障や不振が続き、昨季は154試合で14本塁打どまり。今季こそ完全復活が期待されている。  今後が楽しみな日系メジャーリーガーでは、一時はヌートバーとともに日本代表入りもうわさされたスティーブン・クワン外野手(ガーディアンズ)。父方は中国系米国人で、母方が日本の血を引く日系3世だ。  昨季にメジャーデビューするといきなり4試合連続3出塁以上というメジャー史上初の快挙を達成し、デビューから116球連続で空振りなしという驚異のバットコントロールを披露した。最終的には147試合の出場で打率2割9分8厘、6本塁打、52打点、19盗塁。ホームランは少ないが攻守に隙のない玄人好みの選手で、将来的には首位打者を狙える逸材だろう。  この他にも、大洋(現DeNA)でもプレーしたマイク・ラム(ブレーブスほか)や、報復の危険球を巡って黒田博樹(ドジャースほか)と一触即発の乱闘寸前までいったことがあるシェーン・ビクトリーノ(フィリーズほか)、メジャー通算91勝のジェレミー・ガスリー(オリオールズほか)などがかつて活躍した。  現役ではヌートバーやクワン以外にも前述のヒガシオカや、そのチームメートでもあるゴールドグラブ賞遊撃手のアイザイア・カイナーファレファ、17年のドラフト全体9位指名で通算50本塁打のケストン・ヒウラ内野手(ブルワーズ)などがいる。日本人メジャーリーガーだけでなく、彼らのような日系メジャーリーガーの今後の活躍にも注目だ。(文・杉山貴宏)

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    脳卒中の5つのサイン 症状が出たら迷わず救急車を呼んで 脳梗塞には前兆がみられることも

    日本人の死因第4位(2021年厚生労働省「人口動態統計」)、寝たきりの大きな原因となる脳卒中。その多くを占める脳梗塞は、生活習慣と深く関わる。万が一のとき、迅速に治療を受けられるよう原因や症状を理解しておきたい。 *  *  * 「脳卒中」は脳の血管の病気であり、血管が破れる「脳出血」「くも膜下出血」と血管が詰まる「脳梗塞」に大別される。脳梗塞は、脳の血管が詰まって血流が途絶えることで神経細胞が壊死し、その働きが失われる病気だ。  厚労省の統計では脳卒中の患者数は111万5千人(2017年)とされているが、国立循環器病研究センター病院副院長の豊田一則医師は「実際にはもっと多いと推察される」と話す。 「国で定めた統計の方法により、このデータには、リハビリ施設に移行した回復期の患者さんや、施設・在宅で療養している患者さんは含まれておらず、実際には約300万人という報告もあります。ただし、いずれも推計であり、正確なデータは今のところありません」  昔は、脳卒中のなかでも脳出血の割合が圧倒的に高かったが、現在は脳梗塞のほうが多い。その理由について豊田医師は、画像診断技術の進歩で両者の正確な区別が可能になったこと、国民の健康意識の高まりによる塩分摂取量の減少、高血圧治療薬の進歩などを挙げる。 「血圧が高いと血管が破裂する脳出血が起こりやすくなります。高血圧の管理ができるようになったことで1980年代に脳出血と脳梗塞の割合が逆転し、日本脳卒中データバンクによると、現在は脳卒中の75%が脳梗塞とされています」(同)  脳梗塞は、「ラクナ梗塞」「アテローム血栓性脳梗塞」「心原性脳塞栓症」の3タイプに大別される。前者二つは、首や脳の動脈硬化により起こる。ラクナ梗塞は、脳内の細い血管が詰まるもので、症状が起こりにくく比較的軽症なことが多い。アテローム血栓性脳梗塞は、首や脳の太い動脈で起こる。血管の内側にコレステロールなどが沈着したかたまり「アテローム」ができることで血管が閉塞する。 ■生活習慣病や心臓病に注意  心原性脳塞栓症は、心房細動など心臓の病気が原因で起こる。心臓でできた血のかたまり(血栓)が血流にのり脳に運ばれ血管を詰まらせる。このタイプは脳梗塞のなかでもとくに重症化しやすい。  脳梗塞の主な原因は、加齢や生活習慣だ。60歳代から増え始め、発症のピークは男性が70代前半、女性は80代前半とされる。東京慈恵会医科大学病院脳神経内科教授の井口保之医師はこう話す。 「加齢にともなう血管の老化や動脈硬化、脳梗塞のリスク因子となる生活習慣病の増加・悪化など、さまざまな要因が重なって脳梗塞が起こりやすくなると考えられます」  高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病、心臓の病気、喫煙、飲酒など、脳梗塞のリスク因子のほとんどが生活習慣に関わるもの。「総コレステロール値が1ミリモルパーリットル増加すると脳梗塞の発症率が25%増加する」「心房細動のある人は、ない人と比べて脳梗塞発症リスクが5倍高い」という報告も。一方で、高血圧や脂質異常症の適切な治療、禁煙で脳卒中のリスクが低下するというデータもある。 「遺伝的な要因など予防が難しいリスク因子もありますが、ほとんどが生活習慣に関わるものです。言い換えれば生活習慣の改善や生活習慣病の治療により脳梗塞のリスクを減らせるということです」(豊田医師)  また、一般的に心臓や血管の病気は冬に多いとされるが、豊田医師が実施した研究によると、脳梗塞の発症率は秋だけがやや少なく、それ以外の季節では差がなかった。ただし重症例は冬が多く、これは、季節により起こりやすい脳梗塞のタイプが異なるためだという。 「冬は、脳梗塞のなかでも重症化しやすい心原性脳塞栓症が多い傾向があります。冬は血圧が高くなることや血圧の変動が多く、心房細動が起こりやすくなることが主な理由です。一方、動脈硬化が原因の脳梗塞は脱水がきっかけとなることが多く、夏に起こりやすくなります」(同) ■症状がみられたら迷わず救急車を  井口医師は、「脳卒中の5大症状」として、図の症状を挙げる。脳の障害される場所により、症状はひとつのことも、複数が重なることもある。 「脳梗塞は、発症後いかに早く治療するかで予後が異なります。症状がみられたら迷わず救急車を呼んでください」(井口医師)  また、脳梗塞には前兆がみられることもあり、これを「一過性脳虚血発作(TIA)」という。脳の血管が一時的に詰まり、脳梗塞の症状が出るが、自然に血流が改善することで短時間のうちに症状が消失する。TIAが起こると3カ月以内に10~15%の人が脳梗塞を発症し、その半数が48時間以内に発症するといわれる。「治まったから大丈夫」と考えず、すぐ受診することが必要だ。  日本脳卒中学会や日本脳卒中協会も「ACT−FAST」を合言葉に、「F(Face:顔のゆがみ)、A(Arm:腕の力が入らない)、S(Speech:言葉が出ない)などの症状がみられたら、症状が出た時間(Time)を確認し、すぐに(FAST)救急車を呼ぶ(ACT)こと」をすすめる。  一方、脳梗塞には「無症候性脳梗塞」という、症状がないものもある。そのときは症状が出なくても、放置して神経細胞のダメージが積み重なると、意欲や認知機能の低下、大きな脳梗塞やほかの神経の病気につながる可能性も。むやみに恐れることはないが、「5大症状」を忘れず、「おかしい」と思ったらすぐに専門医を受診してほしい。 (文・出村真理子) ※週刊朝日2023年3月24日号より

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    「芦田愛菜」慶應政治学科進学で再注目された“秀才伝説” 15歳で読書1000冊&台本は全出演者分を暗記

     4月から内部進学で慶應義塾大学法学部政治学科へ進学することが報じられた女優の芦田愛菜(18)。報道によると、同学科は内部進学を目指す生徒から人気があり、3年間で優秀な成績を収めた結果、無事進学が決まったという。  芦田は慶應義塾中等部に入学した2017年、「スッキリ!!」(日本テレビ系)で、将来について「病理医」になりたいと話したこともあってか、医学部への進学もささやかれていた。ふたを開けてみれば法学部へ進んだが、なぜ法律学科ではなく政治学科を選んだのだろうか。週刊誌の記者は言う。 「芦田は今後も芸能活動にも力を入れていく予定のようで、やはり理系学部となると授業が忙しくなり支障が出るからでしょう。慶應の法律学科は司法試験合格を目指す学生も多く、法律について深く学び専門性が高い。一方、芦田が選んだ政治学科は法律から政治学まで、さまざまな分野を幅広く学ぶことができる。もしかしたら、将来はそこで学んだことを生かしてマルチに活躍できる芸能人という道も視野に入れているのかもしれません。2月に行われた『2023年エランドール賞』の授賞式に出席した際も、新人賞に選ばれた芦田は今年の目標について『いろんなことにチャレンジしたり、フットワークが軽い人間になりたい』とコメントしています」  芸能活動は多忙で、昨年は主演映画「メタモルフォーゼの縁側」が公開され、現在もバラエティー番組「サンドウィッチマン&芦田愛菜の博士ちゃん」(テレビ朝日系)でMCを担当するうえ、多数のCMに出演するなど引っ張りだこだ。医学部進学が取り沙汰された際は、芦田に女優と医師という“二刀流”を期待した人もいるかもしれないが、多忙な芸能活動をこなしながら成績上位で人気学科に進学したのは、やはりすごいと言うべきだろう。  最近メディアで活躍する慶應義塾大学法学部政治学科のOGといえば、テレビ朝日の弘中綾香アナ、情報番組「シューイチ」のMCを務める日本テレビの徳島えりかアナ、コメンテーターなどでも活躍するトラウデン直美など、知的で華もある女性が多い。  芦田もそのイメージ通りと言えそうだが、そもそも、その秀才ぶりは子役のころからたびたび話題になってきた。19年、15歳で初の単行本『まなの本棚』(小学館)を刊行。発売記念会見では、これまでトータル1000冊以上は読んでいると明かし、読書は歯磨きや入浴と同じくらい当たり前な日常だと語っていた。子どものころから読書が習慣だった人は知識が豊富で地頭の良い人が多く、だからこそ芸能活動と学業が両立できたのかもしれない。 ■マルモリ福くんが学友に!?  また、「バラいろダンディ」(TOKYO MX、3月10日放送)では、芦田が6歳ぐらいのころに一緒に営業に回っていたという古坂大魔王が当時の芦田について、「どの現場にも必ず宿題を持ってきていた」「本番で全員分の台本を覚えていた」と明かしていた。やはり、子どものころから地頭の良さは健在だったようだ。 「最近のコメントからも頭の良さがにじみ出ています。一昨年放送された『博士ちゃん』で、廃虚となった軍艦島が紹介された際、『人が造ったものがまだ残っているっていうのは、崩れないことの皮肉というか、循環していけないことのむなしさを感じる』と、とても10代とは思えない含蓄のあるコメントを残していました。その一方で、昨年6月に放送されたバラエティー番組の料理企画ではホイコーロー作りに悪戦苦闘し、『どんくさいんです』と漏らすなど、普通の高校生らしいところも残っていました」(前出の記者)  また、「マルモのおきて」(フジテレビ系)で、子役としてともにブレークした鈴木福も慶應大学に進学すると報じられた。“マルモリコンビ”は大学でも学友となることに。 「報道によると、鈴木の場合は書類と面接で評価される『AO入試』で合格したとのこと。学力だけでいえば芦田のほうが勝っている印象ですが、昨年7月に2人が『博士ちゃん』で共演した際は、鈴木が『愛菜ちゃんも頑張っているのを見ると刺激になる』と率直な思いを語っていました。さらに、『戦友だと勝手に感じている部分がある』と鈴木が言うと、芦田も『うん!』と応答。そんなやりとりを見て、今後もお互いに切磋琢磨(せっさたくま)しながら活躍してほしいと願っている視聴者は多いでしょう」(テレビ情報誌の編集者)  元「週刊SPA!」芸能デスクの田辺健二氏は芦田についてこう評する。 「兵庫県生まれで幼いころは関西弁を話していた愛菜ちゃんですが、仕事で新幹線が東京に近づくにつれ『どんどん標準語になっていった』といったエピソードなど、彼女には“天才子役伝説”がたくさんあり、神格化されてきた感もあります。しかし、そのプレッシャーに押しつぶされることなく、マイペースにここまで芸能界と学業を両立していることがまずすごい。子役出身で芸能界に残れる人はほんのひと握り。愛菜ちゃんは役に恵まれてきたという側面もありますが、その“当たり役”を引き寄せたのは彼女の実力です。学業を優先しつつ、昨年は映画『メタモルフォーゼの縁側』に主演。興行的に苦戦しましたが、BL好きの女子高生という役を好演し、新たな可能性を感じさせる作品になりました。今後は学業が忙しくなると思いますが、いつか女優としてフルスイングする愛菜ちゃんも見てみたいですね。元天才子役のポテンシャルはまだまだこんなものではないと思います」  大学生活も注目を集めそうな芦田。身につけた教養を生かしてどんな活躍を見せるのか楽しみだ。 (丸山ひろし)

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    早慶の首都圏中高一貫校「合格率」ランキング 慶大は男子校が占めるなか早大トップは女子校

     中学受験において、志望校選びはいろいろな情報があり、迷うのも確か。そんな時に頼りになるのが客観的なデータで、中でも特に重視したいのが大学合格実績です。ここでは、合格実績などを指標に、首都圏の中高一貫校のさまざまなランキングを紹介します。第3回目は早稲田大・慶應義塾大のランキングです。  表3と4を見ていこう。近年は早稲田大、慶應義塾大にどうしても入りたいからと、文系学部を全部受けるような受験生は減っている。大学で学びたいことを決め、学びたいことを軸に併願プランを立てていくのが普通だ。大学へのこだわりが薄れてきている。  早稲田大トップは女子学院の76・1%だ。2位が前年トップの聖光学院、3位は共学校トップの渋谷教育学園渋谷、4位は合格者数全国トップの開成、5位は渋谷教育学園幕張だった。  一方、慶應義塾大のトップは聖光学院の57・5%で、2位は栄光学園の56・4%、3位は合格者数全国トップの開成、4位は前年トップの浅野、5位は海城だった。男子校が強い中、女子校トップは6位の洗足学園、共学校トップは8位の渋谷教育学園渋谷だった。  表の早慶の顔ぶれは似ている。トップ30のうち24校が同じなのは、早慶の併願者が多いことの表れだ。異なる6校は、早稲田では、東京都市大付、東葛飾、暁星、南、白百合学園、桐朋、慶應では、雙葉、芝、世田谷学園、桐蔭学園中教、武蔵、吉祥女子だった。学校によって、早稲田に強い、慶應に強いといった差はある。女子学院は早稲田トップだが慶應は10位、渋谷教育学園幕張は早稲田は5位だが慶應は15位、逆に浅野は慶應は4位だが早稲田は22位だ。  ひとくくりに早慶と言われるが、校風やキャンパスの立地、学部構成や入試科目も異なる。慶應は医学部や薬学部などの医療系の学部があるが、早稲田には無い。それらが影響して人気の分かれ目になっている。 (文/大学通信・大野香代子)

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    「悠仁さまも愛子さまも、早いうちに海外王室との親善の機会を」 昭和天皇も上皇さまも見た“19歳の世界”

     悠仁さまは、皇位継承順位2位にある。いまの皇室典範に則れば、若い世代で唯一の皇位継承者である。悠仁さまは、幼い時期からご両親と国内の土地を訪ね、そこに暮らす人たちと触れ合い文化を学んできた。天皇陛下が昔から、ご友人に「自分の足で現地に行き、自分の言葉でじかに、人びとと話をすることを大事にしたい」と語ってきたように、悠仁さまも自身の足で土地を歩き、学びを積んでいる。 ※記事の前半<<16歳の悠仁さまを執拗に批判する社会は正しいのか? 幼い時期から各地に足を運び風土を学ぶ「帝王学」の芽>>から続く *  *  *  平成の天皇、皇后両陛下が行ってきた慰霊の旅が令和にも引き継がれたように、悠仁さまも戦争の歴史と犠牲について学んできた。  秋篠宮ご夫妻が心を寄せてきた学童疎開船「対馬丸」の犠牲者を慰霊する集いや、沖縄戦の犠牲者を追悼する集会などにも参加してきた。7歳のときにはご両親と一緒に、沖縄本島南部の糸満市摩文仁にある「平和の礎」を訪れた。ご両親は、24万人余りの名前が刻まれた石碑を前に、この土地で起きた凄惨な犠牲について説明をしている。  10歳の冬には、ご両親と長崎県の原爆の爆心地にある「原爆落下中心地碑」に供花をした。長崎原爆資料館で熱線や爆風の被害を学んでいる。  翌年の夏には、東京・小笠原諸島を訪れた悠仁さま。美しい自然とともに戦争の痕跡がいまだ残るこの地で塹壕や軍道、軍用トラックなどが残る戦争の痕跡もめぐった。  11歳の夏を迎えた2018年の8月10日。広島市の平和記念公園を初めて訪れ、原爆死没者慰霊碑に拝礼し、被爆者の体験を聞いている。  5日後の終戦記念日。秋篠宮ご夫妻は、昭和史研究者・半藤一利氏を宮邸に招いた。半藤氏は、悠仁さまに戦争について話している。  悠仁さまは、半藤氏にこう問いかけた。 「どうして日本に原爆が落ちたのか」 「なぜ戦争になったのか」  秋篠宮さまは「統帥権」について質問した。秋篠宮さまはこのとき、皇位継承順位2位。親子で学ぶ姿がそこにあった。  かつて皇室で皇太子や親王を導いた「傅育官(ふいくかん)」は、いまはいない。しかし、悠仁さまは幼いころから長い時間をかけて「帝王学」を身につけているのだろう。  前述のように、ご両親と公務の場に同行する経験も積んでいる。  一方で、皇室制度にも詳しい八幡和郎・徳島文理大学教授は、悠仁さまは「もっと公的な場に出る機会を積まれるべきだ」と話す。 「というのも、昭和天皇や上皇さまも御幼少の時期から、御学問所で天皇にふさわしい教養や知識を学んでいます。しかし、海外王室との親善や対応を行うという点では、宮内庁による教育は限界がありました。そこで宮内庁は、皇太子の時期に海外を訪問する機会を設けて実地で学びの場をつくったのです」  かつて、元老の山県有朋や原敬首相は、裕仁(ひろひと)皇太子(昭和天皇)も海外で学ぶべきであると勧めている。 「将来の君主として、皇太子が大戦後の欧洲各国を巡遊し、世界の大勢を審(つまび)らかにし、各国の君主・元首と交際して交誼(こうぎ)を厚くすべし」  裕仁皇太子は19歳だった1921(大正10)年3月から6カ月の間、英国やフランスをはじめとする欧州各国を訪れた。そこで目にしたのは、第1次世界大戦による犠牲の跡だ。  英国軍の多大な犠牲を出したベルギーの激戦地を目にした裕仁皇太子。深い衝撃を受け、英国王のジョージ5世にこう電報を送っている。 「『イープル戦場ノ流血凄惨』ノ語ヲ痛切ニ想起セシメ、予ヲシテ感激・敬虔ノ念、無量ナラシム」  フランスでも、破壊された街と荒廃した森を目にした。裕仁皇太子はその光景を嘆き、現地紙に、「戦争を讃美(さんび)し、暴力を謳歌(おうか)する者の眼には如何(いか)に映ず可(べ)きか」と、談話を寄せた。  戦後、昭和天皇としてこのときの欧州訪問を、こう振り返っている。 「英国国王ジョージ五世から立憲政治のあり方について聞いたことが終生の考えの根本にある」  上皇さまも父と同じ19歳の皇太子だった53年、エリザベス女王の戴冠式に昭和天皇の名代として参列するため、欧米を訪問している。上皇さまは、還暦を迎える93年の誕生日会見で、当時をこう振り返っている。 「英国の女王陛下の戴冠式への参列と欧米諸国への訪問は、私に世界の中における日本を考えさせる契機となりました」  53年という年は、第2次世界大戦に敗れた日本が国際社会に復帰した翌年で、日本や日本人を見る世界の目はまだまだ厳しかった。19歳の青年だった明仁親王にとっては、そのあと長い友情を育むことになる各国の王族との出会いの場であると同時に、英国民の冷たい視線にさらされた場でもあった。   前出の八幡教授は、こう話す。 「昭和天皇も上皇さまも皇族として海外王室との親善の旅に出たのは、ともに19歳でした。悠仁さまも、天皇家の長女として公務を担う愛子さまも早いタイミングで、どんどん海外で学び同世代の王室メンバーと人脈を築く経験が必要だと思います。さらには、おふたりとも国民に聞こえてくる動静が少なすぎる点は気になります。たとえば英エリザベス女王が王女時代、紛争で家を失った子どもたちに向けてラジオ放送で演説を行ったのは1940年、わずか14歳のときでした。悠仁さまは皇位継承者として、愛子さまは皇室を支える内親王というお立場です。学業優先とのご家庭の方針は、もっともです。しかし、ご両親とともに公務に同席し、ご経験をもっと重ねるべきではと感じます」  悠仁さまも来年の9月には、18歳の成年を迎える。在籍する筑波大学付属高校は超が付くほどの進学校だけに、旅となれば受験勉強との兼ね合いも難しいところだ。  ただ、若い世代の唯一の皇位継承者であることも現実である。悠仁さまの成長と教育に関心が集まっている。 (AERA dot.編集部・永井貴子)

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    「そんなメールがきたのは初めて」 東大院生も驚いたChatGPTの“効果” 池谷裕二教授の活用法

     人工知能による対話型の自動応答ソフト「ChatGPT」が登場し、大きな反響を呼んでいる。海外では学生たちがAIを使用し試験対策をする動きもある。日本の教育界では、AIの活用をどのように受け止めているのか。AERA 2023年3月20日号の特集「ChatGPTの衝撃」から、ここではすでにGPTを導入している現場を紹介する。 *  *  *  GPTによって激変する業界の一つが、教育現場だ。  脳研究者で東京大学大学院薬学系研究科教授の池谷(いけがや)裕二さんのもとに、この冬、一通のメールが届いた。 「例年と出題傾向が違いますが」  差出人は池谷さんの授業を受けている学生。今年1月に期末テストが終わった後のことだ。  東大に限らず、大学生の多くは過去問をもとに試験対策をしている。だからこそ、池谷さんも偏りが出ないようバランスよく作問しているつもりだった。 「でも、自分でも気づかない脳のクセがあったんです」  そのクセに気がついたのも、GPTがきっかけだった。池谷さんは今年、薬理学の試験問題をGPTで作問。提案された約20題のなかから四つを選び、出題した。  ■GPT力も評価対象に  すると、単位を落とす学生が例年の2倍に増えた。そして、先のメールが届いたという。 「そんな連絡がきたのは初めてですよ」  と池谷さんは笑みを浮かべる。傾向にとらわれることなく、幅広く勉強してほしいという思いだった。そして“2倍”の救済措置として、レポート課題を用意した。 「高血圧の薬についてChatGPTが書いた解説文である。この間違いを説明せよ」  として提示した2千字の文章のなかには、薬の名前やメカニズム、事実関係の微妙な違いがちりばめられた。 「ChatGPTの間違いは絶妙なので、誤りを探すために、薬理学が専門である私でさえ教科書や専門書をあたりながら、30分ほど調べました」  海外ではすでに学生たちがAIを使って試験の対策をする動きも出ている。  米スタンフォード大学の学生新聞の調査によると、昨年秋の宿題や試験で同大の学生の17%が「ChatGPTを活用した」と回答。学生の半数以上が「倫理規定に違反している」と答えるなど、物議を醸した。  こうした波は日本にも広がると見られ、池谷さんは「GPTありきで考えるべき」だと指摘する。 「ChatGPTを禁じても、学生はきっとどこかで使う。そうすれば全員の単位を落とさないといけなくなります。GPTの作る文章にはミスもあるので、それを修正できるかどうかも評価対象にすればいい」  さらに、池谷さんは学生たちにこんな宣言もした。 「ChatGPT、DeepL、グラマリーの“三種の神器”を必ず使うようにと伝えました。人間の生の脳で書いた文章なんて、下手くそですから」 ◯池谷裕二(いけがや・ゆうじ)/脳の健康や老化について探求している。本誌連載をまとめた『脳はすこぶる快楽主義』(朝日新聞出版)、『できない脳ほど自信過剰』(朝日文庫)などが発売中。2013年、日本学士院学術奨励賞を受賞 (編集部・福井しほ) ※AERA 2023年3月20日号より抜粋

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    WBC大谷の看板直撃ホームランの“値段” 巨人戦なら賞金100万円、広告効果は1億円以上

     WBC日本代表の快進撃で、日本中が沸いている。12日のオーストラリア戦では、大谷翔平選手が打ったホームランが、自身が映し出されたセールスフォースの看板に直撃。SNSでは「自分の看板を破壊」、「広告効果抜群」、「大谷に賞金をあげるべき」などと思わぬ話題を集めた。果たして、賞金は出るのか、修理費はいくらか、広告効果はどのくらいあったのか――。 *  *  *  「ものスゴイ打球速度で来たホームランでした」  こう語るのは、東京ドームで開催された日本対オーストラリア戦を現地で観戦した「ミスターX」(ツイッターのハンドル名)さんだ。偶然にも看板の真下の席にいたという。大谷選手は1回、ランナーを1、2塁において、特大の3ランホームランを放った。 「周りは狂喜乱舞で大騒ぎだったので、看板に直撃した音はわかりませんでした。直撃した看板がチカチカ点滅していたので壊れたんだなと思いました」(ミスターXさん)  ちなみに東京ドームでは、読売巨人軍の公式戦でメインビジョンの広告にホームランを当てると、「ビッグボードホームラン賞」としてスポンサーから選手に100万円相当の賞金、または賞品が贈られるという特別ルールがある。今回のホームランには賞金は出ないのだろうか。 「カーネクスト 2023 ワールド・ベースボール・クラシック 東京プール」(WBC)の主催者に尋ねると、広報担当者は「大会では用意していない」という。セールスフォースは「契約内容は公開できないので、コメントは控えたい」ということだった。  壊れた看板は誰が修理費を払うのだろうか。主催者に確認すると、なんとメインビジョンは壊れていないという。 「当たった後は壊れたように見えましたが、壊れていません。13日もチェコ対オーストラリア戦の試合がありましたが、ボールが当たった個所は支障はなく映っていました」(広報担当者)  東京ドームに尋ねると、故障はしていないとした上で、メインビジョンの仕組みについては「面積等以外の情報を全て社外秘とさせていただいており、非公表」ということだった。  では、宣伝効果はいったいどのくらいあったのか。大手PR会社であるプラップジャパンにネット上での影響について分析してもらった。  SNSやウェブ記事などを分析するツール「Talkwalker」で12日から14日の3日間で大谷選手の名前とセールスフォース、同社のロゴが含まれている投稿、記事を調べた。その結果、Twitterでの投稿者数は399人、投稿数は420件だった。約120万人ものユーザーに情報が届いたと見られる。また、ウェブ記事としては転載を含めて204件もあったという。  プラップジャパンのデータアナリスト、寺門洸人さんはこう分析する。 「Twitterでは、スポーツ紙関連アカウントや野球ファンだけでなく、著名企業家や有名ブロガー、エコノミストなどビジネス界隈の著名アカウントで複数投稿が見られ、話題が拡散しました。また、スポーツ各紙のオンライン記事がYahoo!ニュースに複数転載されたことで、野球ファン以外の一般層の多くの目に触れられる効果があったと思います。Twitterでの二次波及も引き起こしました」  放送されることでの宣伝効果はどのくらいあったのか。  テレビ放送の効果測定などを行うニホンモニターによると、中継で「セールスフォースの看板」が出た回数は14回、合計で36秒だった。また、12日の夜から13日の正午までに放送されたニュース番組では、合計で20番組、約602秒も出ていたという。  広告換算すると、中継での金額が約1900万円、ニュース番組での金額が9700万円、合計で1億1600万円もの効果があったと分析する。調査を担当したニホンモニターの安藤純一さんはこう語る。 「注目度の高い大谷選手が打ったこと、そして初回にホームランが出たことで、ハイライトシーンでも繰り返し放送されることになりました。看板の広告費用がいくらかわかりませんが、広告効果は十分にあったのではないでしょうか」  東京ドームに広告掲載がいくらになるか尋ねたが、「金額条件をお伝えすることはできません」と、こちらも非公表だった。  話題となったセールスフォースは、思わぬ効果に喜びに溢れているのではないか。取材を申し込むと、「今回の件につきましては、特に当社としてのコメントや感想はご提供しておりません」(セールスフォース・ジャパン広報担当)とまさかの塩対応だった。  日本代表は16日に準々決勝でイタリアと対戦する。次はどんな話題が飛び出すか。 (AERA dot.編集部・吉崎洋夫)

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    落選組で侍ジャパンを作ってみると…「栗山ジャパンに見劣りしない布陣」に

     3月のWBCで覇権奪回を狙う侍ジャパンの陣容が固まった。  投手陣を見ると、先発はダルビッシュ有(パドレス)、山本由伸(オリックス)、佐々木朗希(ロッテ)が当確で、4番手候補は今永昇太(DeNA)の可能性が高い。試合の中盤から投げる「第2先発」は宮城大弥(オリックス)、戸郷翔征(巨人)、高橋奎二(ヤクルト)、高橋宏斗(中日)が控える。終盤は湯浅京己(阪神)、宇田川優希(オリックス)と頭角を現した若手成長株に加え、栗林良吏(広島)、松井裕樹(楽天)、大勢(巨人)と各球団の守護神が。様々な起用法に対応できる伊藤大海(日本ハム)の存在も心強い。大谷翔平(エンゼルス)が守護神として起用される可能性も考えられる。  野手はメジャー組が軸になりそうだ。大谷、ヌートバー(カージナルス)、吉田正尚(レッドソックス)、鈴木誠也(カブス)と強打者がズラリ。4番は昨年日本記録の56本塁打で三冠王に輝いた村上宗隆(ヤクルト)で間違いないだろう。ホームランアーティストの岡本和真(巨人)、山川穂高(西武)も選出されており、破壊力十分。柳田悠岐、今宮健太(ソフトバンク)、坂本勇人(巨人)、森友哉(オリックス)は出場辞退が報じられたが、投打で過去最強の布陣と言ってよいだろう。  ただ、今回のメンバーの選出に対しては賛否両論の声が上がっている。外野手が4人のみで本職のセンターが選出されていないことや、変則フォームの投手が少ないことが懸念されている。裏を返せば、それだけ代表候補の実力者が多いと言える。  今回の栗山ジャパンから漏れた「落選組」でメンバーを編成すると、どんなチームを作れるだろうか。他球団のスコアラーは「日の丸に縁がないけど、球界を代表する選手は少なくない。大谷レベルの選手はなかなかいませんが、総合力では栗山ジャパンに見劣りしないチームを作れますよ」と言葉に力を込める。  以下は現場の首脳陣、選手の評価が高い選手で構成したスタメンだが、いかがだろうか。 (右)松本剛(日本ハム) (中)岡林勇希(中日) (一)佐野恵太(DeNA) (指)浅村栄斗(楽天) (左)西川龍馬(広島) (三)宮崎敏郎(DeNA) (遊)長岡秀樹(ヤクルト) (捕)梅野隆太郎(阪神) (二)菊池涼介(広島) (投)青柳晃洋(阪神)  投手を含めた上記の10人を選出するのも頭を悩ませる。外野は塩見泰隆(ヤクルト)、近本光司(阪神)、ベテランの秋山翔吾(広島)、丸佳浩(巨人)、大島洋平(中日)も有力候補で層が厚い。複数のポジションが守れて、打撃センスが高い坂倉将吾(広島)、牧原大成(ソフトバンク)はベンチに入れたい。和製大砲の大山悠輔(阪神)も一塁、三塁、外野を守れることから重宝できる。代走の切り札では今季盗塁王に輝いた高部瑛斗(ロッテ)が筆頭候補だ。捕手と遊撃がやや手薄か。遊撃は紅林弘太郎(オリックス)、小園海斗(広島)が殻を破ってほしい。菊池と長岡の二遊間は守備能力が非常に高い。俊足強肩の岡林を含めたセンターラインは強固だ。  投手陣は先発が青柳のほか、西勇輝、伊藤将司(阪神)、大野雄大、小笠原慎之介(中日)、高橋光成(西武)、上沢直之、加藤貴之(日本ハム)、田中将大(楽天)ら多士済々。特に抜群の制球力を誇る加藤は先発、救援で抜群の制球力を発揮できるので起用法の幅が広い。救援陣は清水昇(ヤクルト)、伊勢大夢、山崎康晃(DeNA)、高梨雄平(巨人)、山崎颯一郎、比嘉幹貴(オリックス)、藤井皓哉(ソフトバンク)、與座海人、水上由伸(西武)が有力候補になるだろう。  スポーツ紙デスクは、「監督の目指す野球の方向性でメンバーはガラリと変わります。栗山監督は第2先発で起用する投手に、各球団のエース級をそろえましたが、ここがポイントになると思います。先発と救援では試合に入るリズムが変わるので、対応力が問われる。個人的にはロングリリーフできる加藤や與座を入れるかなと思いましたが、栗山監督の継投策が注目ですね」と分析する。  今回の侍ジャパンからは漏れたが、プロ野球を盛り上げる実力者たちの活躍も楽しみだ。(今川秀悟)

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    「人の顔色ばかり伺う自分」が嫌で「言いたいことを言える自分」になりたいと吐露する27歳女性に、鴻上尚史が“その2つは一緒”だと指摘し提案したこと

    「人の空気感や顔色をうかがうことは得意」でも「人の気持ちを考えることがとても苦手」と告白する27歳女性。自分の頭で考えられるようになりたいと願う相談者に、鴻上尚史が指摘する「こんな私でも」と否定的な思考の流れを遮断する必要性。 【相談177】私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちを考えることがとても苦手です(27歳 女性 砂漠)  鴻上さん、こんにちは。  以前、「大人というのは自分の頭で考えられる人間になることだ」という鴻上さんの言葉を拝見しました。  私は、なるほどなと思うと同時に、それなら自分は子どもだなとも感じました。  というのも、昔から私は人の空気感や顔色をうかがうことは得意でも、人の気持ちに寄り添う=その人の気持ちを考えることがとても苦手で、そのせいか友達は少ないのに、先生や友達の親といった大人からは好かれやすいところがありました。  周りからはそれを「優等生」「いい子」と見られ、褒められることもありましたが、私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました。私には私の考えがないから、自分の意見を言うことができない。子どもが親に許しをもらおうとするように、うかがいをたてることしかできないんだと辛くなりました。  本をたくさん読むと自分で考える力が付くとも言いますが、私の場合、本を読んでもこんな考えもあるのか!とは思えど、それをちゃんと力にできていない気もして……(力にできていたら、こんなダメにはなっていませんよね)。  今回もこのような形で自分の力ではなく、鴻上さんの力に頼るようなことをしておりますが、こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたいとも思っており、投稿しました。  長文をすいません。  どんな厳しい言葉でもいいので、よろしくお願いします。 【鴻上さんの答え】 砂漠さん。そうですか。「顔色をうかがうことは得意」でも、「その人の気持ちを考えること」がとても苦手なんですね。  この二つは、似ているようで違いますよね。「顔色をうかがうこと」と「その人の気持ちを考えること」の違いはなんでしょうか。  僕が思うには、「顔色をうかがうこと」は、「人に嫌われたくない」という気持ちが中心で、関心は自分に向いていると感じます。一方、「その人の気持ちを考える」ということは、関心は相手に向いているんじゃないかと思います。自分中心か、相手中心かの違いですね。  いきなりの例え話なんですが、俳優になりたい初心者の中で、ものすごく自意識が強い人がいます。  相手役と会話していても、「どんなふうに見られているか」「恥は絶対にかきたくない」「笑われたくない」と強く思っている人です。そういう人は、相手に対する関心はまったくありません。相手がどんな表情をしようが、どんな演技をしようが関係ないのです。関心は自分です。自分がどうしたら恥をかかないか、笑われないか、どんな言い方をしたら演出家にほめられるかだけを考えているのです。  極端な例ですが、砂漠さんの状況もそれに近いと思います。  相手が本当は何を求めているかとか、本当はどう思っているかが問題ではなく、自分が嫌われないこと、自分が傷つかないことが重要なんだということです。  どうしてそうなってしまうかは、みんな、なんとなく分かっていると思います。自分に自信がない、ということですね。自分に自信がないから、とにかく、嫌われないこと、否定されないこと、笑われないことが一番大切なことになるのです。  どうですか、砂漠さん。もし、そうだと納得してもらえるなら、砂漠さんのやることはたったひとつです。  自分に自信をつけること。別な言い方をすると、自己肯定感を高めることだと思います。  だって、焦って本を読んでも何も身につかないでしょう。私なんかダメだと思いながらいろんなことに接しても、あまり得るものはないんじゃないでしょうか。  さて、砂漠さん。どうしたら自分に自信がつくのか。  僕は以前にこの「ほがらか人生相談」で、「小さな勝ち味を積み重ねること」と書きました。  自分のことを「こんなダメにはなっていませんよね」と書く砂漠さんですが、100%ダメですか? まったく良い点はありませんか?  でも、仕事のために(働いてないなら家事手伝いのために)毎朝ちゃんと起きてるんじゃないですか? 顔を洗えてるし、歯も磨けているんじゃないですか?  冗談ではないですよ。いくつかのことを、毎日ちゃんとできているのは素晴らしいことです。全部ダメなんて人はいません。ただ、全部を一気に否定する方が、細かな良い点を見つけるより楽だから、「私はダメだ」と言いたい人が多いのだと僕は思っています。  だって、自分と自分の生活を見つめて、小さいけれど良い点を見つけることはエネルギーが必要ですからね。  ネットで調べれば、自己肯定感を上げる方法を書いた本にたくさん出会うでしょう。僕はこの前、自己肯定感が低かったOLさんがどうやって自信をつけたかを正直に書いた本を読んで感動しました。  自己肯定感が低くて苦しんでいる人は多いですが、同時に、少しずつ少しずつ自己肯定感を高めて楽になった人も多いのです。そういう人が書いた本や経験談はきっと砂漠さんの参考になると思います。  自己肯定感が高まれば、焦ることはなくなります。相手の顔色をうかがうことに必死になる必要もなくなります。  人間の能力には限界があるので、一度にたくさんのことはできません。自意識の強い俳優は、エネルギーを「自分はどう見られているか」を探ることに使います。当然、相手のことを感じたり、観察したりする余裕はなくなります。人間のエネルギーは有限だからです。  でも、自分に向けるエネルギーが減ると、必然的に相手を観察するエネルギーが増えてきます。俳優はそうやって成長するのです。  自己肯定感が高まると、落ち着いて、相手の感情に寄り添うことができるようになります。本を読んでも、「早く吸収しよう」とか「自分は全然ダメだ」と焦ることもなくなります。ゆっくりと、言葉が身体に染み込んで、やがて使えるようになります。  ちなみに、俳優の初心者で、周りのことばかりを気にしていた人が、突然、思い切った演技を始めることがあります。思っていることを全部、ぶちまけるような演技です。  今まで「こんなことを言ったら嫌われるから言わないようにしよう」とフタをしていたことを一気に出すのです。  でも、残念ながら、そういう演技は人を感動させることは少ないです。ただ気持ちを吐き出しているだけで、一種の排泄作用のようなものだからです。  そして、この場合もじつは、相手に関心は向いていません。関心は、やっぱり自分です。自分の感情をとにかく吐き出すことに集中しているのです。  砂漠さんは「私は人の顔色をうかがう臆病な自分が嫌いで、思ったことをなんでもズバズバ言える人=自分の考えを言える人を見ると羨ましく感じていました」と書きます。  残念ながら、それは極端から極端へ移っただけで、「自分の考えにすべてフタをする」と「なんでもズバズバ言う」は、コインの裏表で、相手を無視するという意味では同じことじゃないかと感じます。  どちらも、自分に自信がないから起こることだと僕は思っています。 「こんな私でも自分の頭で考えられる大人になりたい」と砂漠さんは書きますが、「こんな私でも」と思っている間は、「自分の頭で考えられる」ことはないと思います。  まずは「こんな私でも」とオートマチックに考えてしまう流れを遮断することが必要なのです。  大丈夫。自己肯定感を低くしたのは、砂漠さんです。だから、自己肯定感を高くできるのも、砂漠さんなのです。人は変われます。変われると思ったら変われます。  少しずつ、自分をほめて、認めてあげませんか? ■本連載の書籍化第4弾!『鴻上尚史のなにがなんでもほがらか人生相談』が発売中です。書き下ろしの回答2編も掲載!

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