中村千晶
「プラダを着た悪魔」でブレークの俳優 監督、6人の子のパパとしての多忙な日々
「ジャコメッティ 最後の肖像」は1月5日から全国で公開。主演:ジェフリー・ラッシュ、アーミー・ハマー (c)Final Portrait Commissioning Limited 2016
Stanley Tucci(スタンリー・トゥッチ)/1960年、ニューヨーク生まれ。「ラブリーボーン」(2009年)で演じた強烈な犯人役でアカデミー賞助演男優賞にノミネート。「シェフとギャルソン、リストランテの夜」(96年)で初監督・主演を務め、本作は監督6作目となる (c)INSTARimagesアフロ
「プラダを着た悪魔」で一躍有名になったスタンリー・トゥッチ。ハリウッドの名バイプレーヤーは監督、そして6人の子の父としても多忙な日々を送っている。
社会派から娯楽大作までさまざまな作品に登場し、まれなるインパクトを残す俳優・スタンリー・トゥッチ(57)。実は監督としても知られている。新作「ジャコメッティ 最後の肖像」では、天才彫刻家の晩年の18日間にフォーカスした。
「僕はいわゆる『伝記映画』には興味がない。今回は肖像画のモデルとなった作家・ロードが書いた原作に惹かれたんだ」
舞台は1964年のパリ。ジャコメッティに「すぐ終わる」と言われてモデルになった青年は、描いては消し、かんしゃくを起こす芸術家と永遠に続くかのような時間を過ごすことになる。
「ジャコメッティは持てるエネルギー全てを芸術に費やしていた。友人たちには寛大だったのに、恋愛や妻との関係には自己中心的なところがあって、それもおもしろいと思ったんだ。アーティストは誰もが創作だけをして生きていきたいと思うけど、誰もがそうできるわけじゃない。僕にしたって、家族を持ち、子育てをしながら物をつくる生活をしているからね」
トゥッチの父はアーティストで美術教師。母は作家。幼少からアートに親しみ、特にジャコメッティと親和性が高かった。
「彼の彫刻は現代的で、同時にいにしえのものでもある。見れば見るほど内側にあるものを感じさせるんだ。彼について書かれたものを読むと、彼が自分の創作のプロセスを実に饒舌に、言葉に落とせる人だとわかる」
例えば「何かを作る人間は作り終えても、まだ再考しているものだ」という考えにシンパシーを感じるという。
「役者としては演じ終わったら、それを箱に閉じ込めてすばやく消去するのが正しいやり方だろうね。僕が『ラブリーボーン』(2009年)で演じたキャラクターは最悪だったよ。いままでの役のなかでも一番きつかった。あんな最悪な人間の心象風景に身を置かなければならないなんて! でも最終的に引き受けてよかったと思える。たくさんのことを学んだから」
09年は妻をがんで亡くし、私生活でもつらい時期だった。それを乗り越え、12年に再婚。前妻の連れ子、自身の3人の子に加え、現在の妻との間に息子を
授かり、いま6人のパパである。
「僕がいいパパかって? ときどきはね(笑)。子育ては本当に大変な仕事だ。巣立った子もいるけれど、家には17歳の双子を筆頭に、15歳、もうすぐ3歳になる子がいる。上の子の大学の申し込みに頭を悩ませつつ、片方はまさにトイレのしつけ中、という極端な状況なんだよ。一人一人に向き合うと時間がいくらあっても足りない。みんなが家を空けているときに自分の作業がやっとできるんだ」
俳優と監督業はどんなバランスで成り立っているのだろう?
「僕にとって俳優業は生計を立てる手段だ。もちろんギャラに関係なくやりたい役もあるけれど、基本は役者をすることで家族の屋根を支えている。監督業は正直、お金にはならない。でも自分の伝えたいストーリーを自分が思う方法で伝えられる。その充実感は大きいよ。年を重ねるほどもっと監督をしたい思いが高まっている。実は役者業のほうは少し減らしていこうかなと思ってるんだけどね……」
ファンが悲鳴をあげそうだが、まだ3歳の子もいるパパ。当分はハリウッドの屋根も支えてくれそうだ。(文中敬称略)(ライター・中村千晶)
※AERA 2018年1月15日号
AERA
2018/01/12 16:00