「働き方改革」で睡眠不足の弊害も…質の良い眠りのポイントは?
業種や働き方で睡眠の課題は異なる(AERA 2019年3月4日号より)
睡眠のリズムが狂い体内時計が混乱をきたす「社会的時差ボケ」が問題視されているが、一口に睡眠と言っても千差万別の課題がある。睡眠の質を高めるにはどうすればいいのか。
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社会的時差ボケになるのは、平日の睡眠不足や眠りの質の低下が原因だが、睡眠の課題は業種や働き方によってもさまざまだ。企業向けに睡眠改善のコンサルティングを行うニューロスペースに、企業ごとに課題を調査分析したデータの一部を見せてもらった(グラフ参照)。
例えばほぼ同じ回答者数でも体を動かす機会が多い運送事業者とオフィスワーク中心の商社では、商社のほうが慢性睡眠不足や起床困難、熟睡困難を抱えている割合が高い。同じオフィスワーク系でも人材サービス業は、商社より状況は深刻だった。
「職種では営業や店舗に出ている人はいいのですが、事務系やITのエンジニアなどは日中パソコンの前に座りっぱなし。そうした仕事の環境が睡眠の質の低下につながっています」
ニューロスペースの小林孝徳社長はそう指摘する。
仕事でパソコン作業が多い人が眠りにくい要因は主に二つ。一つは「深部体温」だ。これは脳や内臓など体内の温度で体内の活動を維持するために昼間高くなり、夜は休ませるために低くなる。
眠くなるのは、深部体温がぐっと下がるタイミングだが、日中体を動かしていないと体温の上昇が不十分になる。その分下がるカーブも緩くなるため、寝つきが悪くなってしまうのだ。もう一つ、快眠を阻むのは「光」。パソコンやスマホ、LED電球の光を夜まで浴びることで体内時計が狂ってしまう。
眠りに関する悩みでは、男女でも差がある。ニューロスペースが都内で働く男女500人超を対象に実施した18年度「『企業の睡眠負債』実態調査」によると、自身の睡眠に不満を感じている割合は、すべての年代で女性のほうが男性より高かった。実際の睡眠時間の分布を見ても、男性が6時間に集中しているのに対し、女性は分散しており、5時間のところにも一つのピークがある(グラフ参照)。
「女性のほうが家事・育児の負担が重く、その分、睡眠時間にしわ寄せがきているということでしょう」(小林さん)
埼玉県に住む通信系企業勤務の女性(50)もそんな一人。残業を終えて帰宅するのは夜9時過ぎで、家事をこなしてベッドに入るのは午前1時近くだ。翌朝5時半には中3の娘の弁当作りが待っている。
「満員電車で立ったまま寝ていることも多々あります。物忘れも激しく、あまりに心配で物忘れ外来を受診したほど」(女性)
残業削減に偏ったうわべだけの「働き方改革」も問題だ。
「以前は多少残業してでも集中してキリがいいところまで終わらせ、帰宅後はリラックスできていたのに、いまは途中で切り上げて帰らなくてはならない」
と話すのはソフトウェア会社に勤める男性(49)。帰宅して食事や入浴をすると、仕事モードに戻るのに時間がかかり、終わって寝ようとすると今度は頭が冴えて寝付けない。結果的に4時間半しか眠れず、昼休みは「食欲より睡眠」。ランチ抜きで自席で突っ伏す毎日だ。
「残業削減で逆に生産性が落ちました。心も折れやすくなって、頑張りがきかない」(男性)
いずれも切実な悩みで、根本的には睡眠時間を確保できることがベストだが、そうはいかない場合、「できるだけ質の良い眠りをとることが重要。それにはテクニックが必要です」と小林さん。今回、そのアドバイスをお悩み別にまとめた(画像参照)。「仮眠直前にコーヒーを飲む」や「寝かしつけ後に起きるなら3時間後」など働く世代の参考になる。
質の良い眠りには寝具も重要だ。テンピュール・シーリー・ジャパンの吉永寛子・マーケティング本部長によれば「多すぎる寝返りは深い睡眠の妨げになる」。一晩の平均は20~30回だが、計測できるアプリなどでチェックし、場合によってはマットレスを見直すなどの対策も必要だろう。
一方、社会的時差ボケならぬホンモノの時差ボケに悩むビジネスパーソン向けには、現在、全日本空輸(ANA)が「時差ボケ調整アプリ」をニューロスペースと共同開発中だ。アプリではユーザーがフライト情報や現地での予定を入力する。すると、時差ボケを調整するための光の浴び方や睡眠、食事、カフェインやアルコール摂取のタイミングを渡航前から帰国後まで教えてくれるという。リリースの目標は20年3月末だ。(編集部・石臥薫子)
※AERA 2019年3月4日号より抜粋
AERA
2019/03/03 08:00