永井貴子
〈振り返る園遊会の「あのとき」〉天皇陛下と雅子さまは「お話好き」で笑顔でひふみんと猫談義 令和・平成・昭和の園遊会の名場面
秋晴れとなった園遊会。紅葉が色づく赤坂御苑で、三笠山に立つ主催者の天皇陛下と皇后雅子さま =2023年秋の園遊会
天皇、皇后両陛下が主催する春の園遊会が23日、東京・元赤坂の赤坂御苑で催された。著名人や各界の功労者らが両陛下と言葉を交わし、女性皇族方の美しい装いも注目の行事だ。そんな園遊会の「あのとき」を振り返る(この記事は「AERA dot.」に2023年11月4日に掲載された記事の再配信です。肩書や年齢等は当時のもの)。
* * *
11月2日、天皇、皇后両陛下が主催する秋の園遊会が元赤坂の赤坂御苑で開催された。見事な秋晴れの空の下で、天皇陛下と雅子さまは、漫才師の西川きよしさんら招待者と懇談した。各界で活躍する名士や著名人が招待される園遊会は、その時代ならではエピソードであふれている。昭和から平成、令和の天皇陛下と皇族方らと招待者が織りなす名場面を振り返ってみた。
「小さいころからテレビで観ていました」
漫才師の西川きよしさんに、雅子さまはこう声をかけた。将棋の加藤一二三さんとの懇談ではおふたりが一緒に、マニアックな猫談義で盛り上がった。
天皇陛下と皇后雅子さまは、「お話好き」で知られる。公務での懇談は、「話が盛り上がり過ぎて」ほぼ予定を超過するという。
各界の名士が天皇陛下や皇族方と交流する園遊会は、時代を象徴するエピソードの宝庫だ。「名場面」を振り返ってみよう。
座談の名手といえば昭和天皇。柔道家の山下泰裕さんとの会話は、いまも人びとの記憶に残る。
1982年の春の園遊会で、昭和天皇はこう声をかけた。
「柔道で一生懸命やっているようだがね。どう?ずいぶん骨が折れますか」
ノーベル化学賞の福井謙一京大名誉教授、タレントの黒柳徹子、柔道の山下泰裕選手らと話談笑する昭和天皇。左端は入江相政侍従長 =1982年春の園遊会
どう答えるのか。他の招待者もニコニコしながら見守っている。山下さんが選んだ言葉は、
「2年前に骨折したんですけども、今は体調も完全に良く、一生懸命がんばっております」
素朴な人柄を感じる受け答えにその場は、あたたかな笑いに包まれた。昭和天皇のお返事はやはり、
「あっそう」
続けて、
「今日はよく来てくれて」
とねぎらった。
【こちらも話題】
愛子さまは素早くふり返り、佳子さまが「コクン」 見る人を笑顔にした愛子さまの「園遊会デビュー」
https://dot.asahi.com/articles/-/220599
作家の司馬遼太郎と昭和天皇のやり取りも興味深い。『週刊朝日』に連載されていた、「週刊司馬遼太郎」には妻の福田みどりさんの著書からこんなエピソードを紹介している。
〈赤坂御苑の園遊会に招かれたときのこと。やや緊張していた司馬さんに対し、昭和天皇は意外な言葉をかけている。
「元気そうだね」
みどりさんは書いている。〈白髪を御覧になっておっしゃったのだろうが、司馬さんは陛下に言ったのよ。僕、まだ、若いんですよ〉
司馬さんがまだ45歳ほどのころの話だった〉
「きんさん・ぎんさん」で知られる百歳の双子姉妹、成田きんさん(写真中央左の車いす)と蟹江ぎんさんは「お元気ですね」「目の手術の方はどうですか」と声をかけられた= 1993年春の園遊会
平成の人気者といえば、明治生まれの双子の姉妹、「きんさん、ぎんさん」だろう。1993年、春の園遊会に100歳を迎えた成田きんさんと蟹江ぎんさんが車、いすで出席した。ぎんさんは、白内障を患い手術をしたばかり。それをご存じの天皇陛下(現・上皇さま)は、
「(目の)手術のあとはいかが?」
と尋ねた。
「はい、たいへんよく見えます。天皇陛下のおかげでございます」
ぎんさんのこの言葉に、周囲は大笑い。
【こちらも話題】
【写真特集】さくら色の装いの愛子さまが笑顔で「デビュー」 春の園遊会が開催
https://dot.asahi.com/articles/-/220566
ノーベル賞作家川端康成夫妻と話す昭和天皇。右は今日出海 =1968年秋の園遊会
意外な印象もあるが、天皇や皇族方は、アニメ番組、漫画に通じている。今年6月のインドネシア訪問では天皇陛下が、アニメの「NARUTO(ナルト)」にひっかけて、
「私は徳仁(なるひと)です」
とダジャレを披露したし、故・寛仁親王の長女、彬子さまが中国の春秋戦国時代を舞台にした「キングダム」の大ファンでもある。
「サザエでございます」
こう自己紹介をしたのはアニメの「サザエさん」役を40年以上続けた大御所声優の加藤みどりさんだ。
「両陛下はアニメなどはご覧になりますか」
加藤さんは、当時の天皇陛下と美智子さまにこう質問をした。美智子さまは、すこしおかしそうな表情で、「少し」。
さすがのお人柄と、周囲が感心したのが当時、皇太子だった天皇陛下の言葉だ。
「一家で見ていますよ」
皇太子さまの気遣いのある声かけに加藤さんは、「大感激でした」と胸を震わせた。
思い出すのは、2018年春、平成最後となった春の園遊会だ。皇太子妃だった雅子さまは、招待客ひとりひとりと丁寧に会話を続けた。そのため、皇太子さま(現・陛下)との間には大きく距離が空き、遅れてしまった。陛下は急かすことはせず、雅子さまを見守るように待っていた。おふたりの姿に、周囲はあたたかな空気に包まれた。
5年ぶりとなった秋の園遊会は、おふたりの人柄を写すように、会場は笑いが絶えなかったようだ。
(AERA dot.編集部・永井貴子)
【こちらも話題】
【写真特集】雅子さまは緑に映えるスタイリッシュなスーツで 皇后の「品格」に注目集まる春の園遊会
https://dot.asahi.com/articles/-/220570
激しい雨が降る中、傘を差さずにお辞儀をする歌舞伎俳優で人間国宝の片岡仁左衛門さんに対し、陛下は、「傘を、よろしかったらお差しになって」
とそっと気遣った =2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
園遊会に招待された東京五輪卓球混合ダブルス金メダリストの伊藤美誠さん =2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
両陛下と言葉を交わす、東京パラリンピック車いすテニス男子シングル金メダリストの国枝慎吾さん(手前右から5人目)
=2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
黒い雨傘と出席者の黒いモーニングのなかで雅子さまがさすライトベージュの明るい雨傘は、その場を華やかにした。手元が革で作られた傘は、前原光榮商店の一点もの =2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
雅子さまは、内廷皇族の菊紋である十六葉八重表菊(じゅうろくようやえおもてぎく)の三つ紋の訪問着をお召し。陛下はいつもさり気なく雅子さまを
気遣いサポートしている =2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
出席者と常に目線を合わせ笑顔を絶やさない秋篠宮家の次女、佳子さま。本振り袖に三つ紋を入れた格式の高い着物姿。秋篠宮家の家紋は、十四弁の菊花と秋篠宮さまのお印である栂(つが)の枝葉を四つずつ円形に連ねた意匠 =2023年春の園遊会、(日本雑誌協会)
【こちらも話題】
【写真特集】きらびやかな装いの雅子さま、佳子さま、美智子さまの笑顔が集い… 写真で振り返る春の園遊会
https://dot.asahi.com/articles/-/220483
dot.
2024/04/27 10:00