ワシントンD.C.から車で約1時間。バージニア州に、アメリカのセブン-イレブンに向けた商品の供給を行う、わらべや日洋ホールディングス(以下、わらべや日洋)のバージニア工場がある。
わらべや日洋は、セブン-イレブン・ジャパンのバリューチェーンを長年にわたり支える会社の一つ。1982年にハワイに進出して以来、海外事業に積極的に取り組んできた。
2016年からはアメリカ・テキサス州にもともとあった食品工場に出資する形で、サンドイッチ、パスタなど、セブン-イレブンに向けた商品供給を行ってきた。17年にはその工場を「WARABEYA TEXAS,INC.(現WARABEYA NORTH AMERICA,INC.)」として子会社化。
そして、23年9月、わらべや日洋のアメリカ本土で二つ目の製造拠点として稼働を開始したのが、このバージニア工場である。バージニア工場は、7-Eleven,Inc.(以下、SEI)の東海岸エリアにおけるフレッシュフード強化の事業パートナーとして、アメリカの中食ニーズに応えていく。
Warabeya North Americaのフレッシュフード供給エリア


アメリカでセブン-イレブンの運営を行うSEIは2005年にセブン-イレブン・ジャパンの子会社となった。両社はグローバルな規模で「セブン-イレブン」ブランドのさらなる成長と価値向上をめざし、それぞれの強みを生かす連携体制を築き上げている。
つくりたてのおいしさを提供するフレッシュフードは、セブン-イレブン・ジャパンの強みの一つ。セブン-イレブン・ジャパンは創業以来、世の中のニーズをとらえた商品の開発を続けてきた。
開発においては、調達、製造、在庫管理、配送、販売といった一連のプロセスをバリューチェーンととらえ、商品ごとに、バリューチェーンを構築する取引先がチームを組んで検討を重ね、品質を高めていく「チームマーチャンダイジング」を実践してきた。この開発方法はアメリカでも取り入れられている。
今回訪ねたバージニア工場は、約12万スクエアフィート(約1万14平方メートル)という広大な敷地にそびえ立つ真新しい工場。1日約300人の従業員がサンドイッチ、サラダ、ピザなど30アイテム以上の製造にあたっている。バージニア州内と、その近隣の州や都市の約1400店舗に商品を供給している。
バージニア工場の開発担当マネージャーの沓名翔平さんは次のように語る。
「バージニア工場では、供給エリアとなる東海岸のお客様の食へのニーズや生活スタイルなどに対して、より細やかに対応する商品をお届けしたいと考えています。テキサス工場の供給エリアとは文化が異なる地域なので、新しい国に進出する気持ちで現地の方々と信頼関係を築き、よりよいチームづくりをしていきたいですね」
アメリカのセブン-イレブンの人気商品となっている「スライダー」もここでつくられている。スライダーとは小腹を満たせる手軽なサイズ感のミニハンバーガーのこと。レストランやバーではアペタイザー(前菜)として提供される軽食だ。近年、テキサス工場では、家庭や勤務先などに持ち帰って電子レンジで温めることで、できたてのようにおいしく食べられるスライダーを開発した。
現在、バージニア工場で製造しているスライダーは2種。大人にも子どもにも食べやすいおいしさで不動の人気ナンバーワン、「チーズバーガー」とテネシー州の州都・ナッシュビル名物の辛味のあるチキンを挟んでいる「ナッシュビルホット」だ。新規工場のためまだ種類は少ないが、今後、増やしていく予定だ。
「日本では、コンビニエンスストアでおにぎりやサンドイッチと共に、お惣菜などを『買い合わせる』ということがよくありますが、アメリカにはそうした習慣が根付いていません。そこで、いくつか種類があるスライダーを選んだり、その他のホットスナックなどと買い合わせたりする楽しさを広めていきたいと考えています」(沓名さん)

バージニア工場ではスライダーやサンドイッチなどアメリカでもおなじみのものに加え、
日本の商品を参考に開発されたラーメンヌードルサラダなどもつくられている

セブン-イレブンのスライダーは、手頃な価格でありながら高品質のおいしいアイテムとして人気商品となっている。ここに生かされているのが、日本の技術。
「スライダーも日本での商品開発と同じように、原材料の仕入れ、製造加工、包装まで専門家がチームとなって取り組むチームマーチャンダイジングの考え方を取り入れて開発しました。その際、新たな包装機や包装資材の導入なども検討しました。アメリカの包材は一般的に開封に苦労することが多いのですが、日本の技術を導入しアレンジすることで、すぐに食べられるように工夫しています」
味付けにも細やかな工夫を凝らし、供給する地域に合わせたソースを使っている。 たとえばチキンスライダーは、西海岸では辛味の強いソースを使用しているが、他の地域ではマヨネーズベースのソースを使っている。
今後、バージニア工場では東海岸のご当地スライダーも発売予定だ。東海岸でカニやエビ、チキン料理によく使う、メリーランド州発祥のオールドベイシーズニングというスパイスを用いるという。
こうした地域に根ざした開発にあたっては、地域ごとにどのような味、メニューが求められているかトレンドをよく調査した上で検討している。

具材のトッピングには、従業員の円滑なコミュニケーションとチームワークが求められる
オリジナル商品の一つである「フレンチトーストサンドイッチハムチーズ」も根強い人気があり、バージニア工場でも製造している。甘みのあるフレンチトーストで、ハム、卵、ベーコン、チェダーチーズを挟み、マヨネーズで味付けしたボリュームのあるサンドイッチだ。
サンドイッチの製造は人の手をかけている分、トッピングに違いが生じやすいという難しさがある。多様な人材が働くアメリカの工場では、誰もが正しく商品を製造できるよう、マニュアルにも工夫をしている。
バージニア工場のマニュアルの場合、一部を英語だけでなく、多言語で表記したり、さらに、文章だけではちょっとした違いが伝わらないことがあるので、ハムの広げ方などは写真で提示したり、よりわかりやすく伝えている。
日本人スタッフは、英語だけでなく他の言語も用いて従業員たちと挨拶したり、休憩時には冗談を言い合ったりする。こうした従業員に寄り添ったコミュニケーションの積み重ねにより、土台となる信頼関係を築いていく。多様な人材に日本流の製造スタイルを理解してもらい実践していくためには、この関係づくりは、マニュアルと同じくらい、いやそれ以上に大切なことかもしれない。
地域性に合わせた7-Elevenのホットスライダー

現地に根付いた生活スタイルや食文化を把握し、お客様のニーズに合った商品を生み出す。そのために、現地での工場運営においても多様な文化背景を持った従業員に柔軟に対応するSEIとそのパートナー企業。既存の人気商品に甘んじることなく、それを超える品質や価値を持つ商品を開発したいという意欲にあふれている。
日本で長年培われた技術を生かすことで、国の垣根を越えた商品を多くのお客様に届けることができるようになった。たとえばラーメン。アメリカでラーメンといえば、お店で食べるもの、というイメージだが、セブン-イレブンのラーメンは容器ごと電子レンジで温めるだけで、より簡単に食べられる商品だ。
「こうした高い技術を生かしながら、中食のニーズが高まるアメリカで、ご家庭でもより手軽においしさを感じていただける商品をもっと展開していきたいと考えています」(沓名さん)
商品を手にしたお客様を笑顔にしたい。その思いは海を渡り、さらに広がっていく。