人間のように社会をつくって生活しているアリ。ふだん見るアリのほとんどは働きアリで、寿命は1年ほどだが、仲間から孤立させ1匹だけで飼うと寿命が短くなる。このことは80年も前から知られていた事実だが、なぜなのかはわかっていなかった。産業技術総合研究所の古藤日子主任研究員らは、そんな疑問に深く切り込み、興味深い結果を明らかにした。小中学生向けのニュース月刊誌『ジュニアエラ2024年2月号』(朝日新聞出版)からお届けします。

MENU ひとりぼっちのアリはおかしな行動をしていた! 孤独アリは病気や老化を引き起こす「活性酸素」が多かった アリの体の中で増えていたのと同じ遺伝子は、人の体の中にもある

ひとりぼっちのアリはおかしな行動をしていた!

 古藤さんらは、まず、アリを1匹だけで飼うと本当に寿命が短くなるのか、イスラエルに生息するオオアリの働きアリで確かめた。結果は以下のとおりで、集団で生活するアリ(グループアリ)に比べ、一匹で生活するアリ(孤立アリ)の寿命は短くなった。

(データ提供/産業技術総合研究所・古藤日子主任研究員)

 次にグループアリと、孤立アリの行動を観察した。たくさんのアリを目で追い続けるのは難しいので、アリの背中に一匹一匹、バーコードをつけ、カメラの下に飼育箱を置いて撮影し、それぞれのアリの行動をコンピューターの助けも借りて明らかにした。

孤立アリ(左)とグループアリ(右)の飼育箱を上から見たところ(画像提供/産業技術総合研究所・古藤日子主任研究員)

 その結果、グループアリは巣の中に多くが集まり、外を歩いている個体が少ないのに対して、孤立アリは巣にいる時間が短いことや、巣には入らず壁際(飼育箱のヘリ)で過ごす時間が長いことがわかった。孤立アリは移動速度が速く、移動距離が長いこともわかった。仲間との関わりが多いグループアリと比べると、孤立アリの行動は落ち着きを失っているように見えた。

孤独アリは病気や老化を引き起こす「活性酸素」が多かった

 続いて、グループアリと孤立アリの体の中で、どんな遺伝子が発現(※)しているかを調べた。注目したのは、次の二つの遺伝子だ。

(1)グループアリではたくさん発現しているけれど、孤立アリでは発現が少ない遺伝子
(2)グループアリでは発現が少ないけれど、孤立アリでは発現が多い遺伝子

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上浪春海
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