例えば、やろうと思えば自分でできるのに、利用者から「かゆいから、デリケートゾーンに薬を塗ってほしい」などと言われるとき。入浴後に着替えさせるとき。裸の利用者をベッドに横たわらせるとき──。

「それが本当に必要なケアなのか、測りかねる微妙なラインというシーンは多い。例えば胸を触られたり、抱きつかれたりと、明らかなセクハラ行為とまではいかないグレーな要望に悩むことがあります。しかし、たとえ別の意味での要望が含まれている感じがしても、それが明らかでない限りは、基本的に要求に応じます。グレーであるほど、問題にしづらいのです」(アヤコさん)

 介護職員でつくる労働組合「日本介護クラフトユニオン」の調査(2018年)によれば、介護職員の約7割が、利用者やその家族から性的な嫌がらせや暴言、暴力などのハラスメント被害に遭っている。セクハラでは「不必要に身体に触れる」(54%)、「性的な冗談を繰り返す」(53%)、「性的な関係の要求」(14%)などが見られた。こうした被害に遭った介護職員の多くが強いストレスを感じており、精神疾患になった人もいる。職場の上司に相談しても状況が変わらないケースも多く、対策が求められている。

「上司に相談しても、流されてしまった」と話すのは、介護職員のサトコさん(仮名・46歳)。週に2~3日訪問する70代の男性利用者宅で、セクハラだと感じる言動が目にあまるようになった。

「昨日の夜は何してたの?」「彼氏はいるの?」「家はどこなの?」など、プライベートについてしつこく聞いてくる。鬱陶しいと感じながらも、「コミュニケーションのつもりなのだろう」と適当に流していた。だが「俺は一人でいるのが寂しい」「君が家に来てくれた日は、すごく嬉しい」と話す目は、どこかねっとりとしていて、徐々に男性宅に足を運ぶのが億劫になっていった。

■介護職員側にも世代間ギャップ

 サトコさんの中で「これは無理」と決定的だったのが、訪問時に、アダルトビデオが流れていたとき。部屋に成人雑誌やビデオが無造作に転がっていることも一度や二度ではなかったが、それは「生活の場なのだから」と流すことができた。だがその日は、「自分に見せるために、わざとビデオを流している」と確信した。男性はビデオの音量を上げ、ニヤつきながら、サトコさんの表情を見ていたという。

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