
介護現場で、利用者や家族から介護者に対するセクハラ問題が深刻化している。当事者の声を聞くと、世代間の意識のギャップによる泣き寝入りや、ハラスメントのグレーゾーンに悩む声が浮かび上がった。現場では、何が起きているのか。
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「今思えば、あれはセクハラだったかもしれないと思います」
訪問看護師としての経験もある看護師のアヤコさん(仮名)。チームで利用者宅を訪問してケアを行う訪問看護師として働き始めた20代の頃、利用者の言動によって戸惑う経験をした。
部屋に簡易式の浴槽を設置し、利用者が全裸になって浴槽に入る訪問入浴では、陰部も含めて隅々までスタッフが利用者の体を清潔にする。
要介護状態にある50代男性宅を訪問し、男性を入浴させ、一通り体を洗ったときのこと。男性から「下半身をもっと洗ってほしい」と言われた。一度洗った後ではあるが、利用者から「もっと洗って」と言われると、「洗い足りなかったかな」と思った。そのとき男性を見ると、どこか不敵な笑みを浮かべており、動揺を隠しきれなかった。当時、仕事を始めたばかりだったアヤコさんは、「利用者さんから言われたら、満足度を上げるためにもしっかり仕事をしないといけないんだ」と自分を奮い立たせた。看護師の仕事には、身体的なケアも含まれているので、むげにできないと思った。
訪問入浴では、利用者の体を洗う際に“素手”であることが多いという。病院では入浴の際、基本的に手袋をして患者の体を洗うが、訪問入浴では体を洗うタオルも使わず、手だけを使って洗う場合もある。いわば陰部にも直接、素手で触れることになる。「もうちょっと、こうやって洗ってほしい」「かゆいから、もう少し強く」などと言われ、セクハラ的なニュアンスを感じたとしても、グレーゾーンであることが多いという。
看護師や介護職員は、利用者の体に直接触れる仕事だ。ケアをする側は当然、業務としてやっているのだが、中にはケアという行為を、利用者がどこか性的な感情を含んで見ていると感じる場面があるという。