男性上司に男性宅であった出来事を話し、「これ以上は、あの利用者の家に行きたくない」と言った。すると上司から、「お尻を触られたとか、何かされたわけじゃないんでしょ?」と耳を疑う反応が返ってきた。そして「年をとって、本能が出ちゃってるだけ」「適当に流していかないと、この仕事は務まらない」と言われた。
「言ってもわかってもらえない」と感じたサトコさんは、勤めていた事業所を辞めて転職した。今も介護職を続けているが、以来、男性の利用者宅を訪れるのが怖くなった。
「辞める決定打になったのは、組織で対応してもらえないとわかったとき。人手不足が深刻な業界ということもあり、事を大きくして仕事を増やしたくないというのもあると思います。問題を顕在化させたくないから、声を上げた人が悪者みたいに見られることもある。上司も上の年代になるほど、ハラスメント意識が低いというか、“それぐらい流して当然”という感じがどこかにある。セクハラに遭っても、自分の内に秘めて泣き寝入りするか、辞めるかのどちらかになるケースが多いと思う」(サトコさん)
介護現場におけるハラスメント問題に詳しい結城康博教授(淑徳大学)は、世代間におけるハラスメント意識の違いが問題を深刻化させていると指摘する。
「今の50~60代の世代が福祉を学んだ時代は、介護を必要とする高齢者がセクハラ行為をするのは、ある種“当たり前”ともされていた。心身機能の低下や寂しさなどから、そうした行動に出ることは“よくあること”で、それを受け入れるのも福祉の仕事というところがあった」(結城教授)
ゆえに前出のサトコさんの上司のように、「ハラスメントがあっても、流していかないと務まらない」という感覚の持ち主も珍しくはないという。
「感覚のズレから、利用者からセクハラを受けた当事者にとっては、上司の発言が二次的加害にもなりうる」(同)
セクハラは、受け手である当事者がどう捉えたかという点が大きなポイントだ。「相手が不快に感じた時点でハラスメント」とされることも多いが、言動や行為が明らかでなかったり、証拠などがない場合には、問題にする難しさもある。20年を超えるケアマネジャー歴があり、現在は事業所に所属するケアマネジャーのマネジメントも行うヨウコさんは言う。