「ハラスメントは、許容範囲が個人によって違ってくるため、一概に断定しづらい難しさがある。特に困るのが、ハラスメントに対する許容範囲が広い人。いわば何かあっても流してしまえる人がいると、職場としてのリスク管理がしづらくなるのです」
■非言語の行為も対策に試行錯誤
訪問介護の現場は、一人の利用者に対し、チームで体制を組んで動くのが主だ。そのため、利用者からのハラスメント行為があっても、流すことができたり、見逃したりできる“許容範囲が広い人”がチームにいると、他の介護従事者も被害に遭ったり、「これぐらい許されたから、まだ大丈夫だろう」などと利用者の行為がエスカレートしてしまいかねない。
「例えば利用者から抱きつかれても平気な人もいれば、成人雑誌が部屋にあるだけで無理という人もいる。この辺りの線引きは個人の感覚によって違いますが、私たちの事業所では、“これをしたら線を引く”というラインを、チームのメンバーで決めるようにしています」(ヨウコさん)
難しいのが、やはり冒頭のアヤコさんのようなグレーゾーン。認知症の場合には、それが意図的なのか測りづらい部分も大きい。また体は動かせないが、頭はクリアという人もいる。利用者から「そんなつもりはない」と言われると、それまでになってしまうこともある。特に、不快と感じる行為が“非言語”である場合、対策の取り方には試行錯誤している。
例えば、こんなことがあった。ある利用者宅を訪問した際、職員が家の中に入ると、同居する息子が玄関の鍵をかけ、通された部屋の鍵も全てかけられている。昼間でもカーテンを閉め切っているため、外から中の様子をうかがうこともできない閉ざされた空間だ。そこで職員が利用者のケアをする一挙手一投足を、息子が至近距離からじっと見ている。何をされたわけでも言われたわけでもないが、職員はえも言われぬ恐怖を感じたという。
「おそらく職員がきちんとケアをしているか、監視の意味合いで見ていたのだと思いますが、職員が恐怖を感じたり不快に思ったことは、なるべく改善したい。この場合は、それとなく窓を開けさせてもらうようにお願いし、もし何かがあっても声を出したら外に聞こえるようにしました」(同)