19年春、家庭でできる性教育情報を発信するサイト「命育」を立ち上げた宮原由紀さんは、3児の母だ。子どもたちが性器に純粋な興味を持ち始めた頃、対応方法がわからずにインターネットで検索。ほとんど情報がないことに愕然(がくぜん)とした経験が原点だ。
ウェブメディアで働いた経験があったこともあり、同じ課題意識を持つ友人に声をかけてサイトを開設。産婦人科医や専門家に監修してもらい「男の子の性器の洗い方」「プライベートゾーンってなあに?」「あかちゃんはどこからくるの?にどう答えるか」といった、身近にある性にまつわるトピックを発信している。アクセスは現在、月50万ビューを超えるという。
■学ぶことで慎重になる
漫画など学びやすいコンテンツも増えている。長年、性教育に携わってきた元高校教員の村瀬幸浩さんとイラストレーターのフクチマミさんの共著『おうち性教育はじめます』シリーズ(20・22年)は累計24万部を超えるベストセラーに。3歳以降の子どもを持つ親向けに描かれたもので、
「今の親世代は、十分な性教育を受けていない。自ら学び直しながら、子どもに向き合おうという人に読まれている」(フクチマミさん)
ここ数年、日本社会では、ジェンダー平等やLGBTQなどを受け入れる機運が盛り上がる。それは性教育の追い風にもなりつつある。
18年、東京都足立区立中学で3年生を対象に行われた性教育の授業で「性交」「避妊」などの言葉を使ったことを都議が批判。都教委が指導に入る事態となったものの、区教委が「必要な授業だ」と反論したことは、大きなニュースとなった。当時この授業を行った保健体育科の元教諭、樋上典子さんは言う。
「避妊を教えると性行動が活発になると言う人がいますが、短絡的です。学ぶことで慎重になる様子が子どもたちのアンケートや感想から読み取れます。自分の体を守るためにも正しい情報を発信し、子どもたちと本音で語り合える環境がほしいです」
国は実態に向き合い、考えるべき時にきている。(編集部・古田真梨子)
※AERA 2023年1月30日号