正しい性教育は性情報にあふれる中で暮らす子どもを守るほか、セクハラや強制性交罪などの抑止にもつながると期待される。しかし、多くの学校は学習指導要領の「はどめ規定」のため、積極的な性教育の実施をためらっている。実態を追った。AERA 2023年1月30日号の記事を紹介する。
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「1、目と目が合う。2、言葉を交わす。3、並んで歩く。4、手をつなぐ。5、肩を抱き寄せる……」
1月上旬、埼玉県川越市の市立中学校の体育館に産婦人科医の高橋幸子さんの声が響いた。「交際の12段階」についての説明を聞いているのは、3年生の男女約140人。段階が進むにつれて、顔を見合わせたり、ざわついたりする生徒たち。
「6、腰に手を回す。7、近い距離で向き合う。8、見つめ合う。9、唇が触れる……」
わぁ、きゃあ、という声があちこちで漏れる。
「10、互いの性器に触れる。11、裸で接触する。12、性器の挿入を伴う性行為」
ざわめきが大きくなったところで、高橋さんが言った。
「交際には順番があって、段階があります。お付き合いをして、いきなり12番ということはないんだよね。パートナーがどの段階を望んでいるのか、はっきりと口に出して聞くことができる対等な関係でいてほしい。『触れる』という言葉がある9番以降は性感染症の可能性があって、12番は妊娠につながる行為です」
体育館は、しんと静かになった。高橋さんが教えてくれた、性教育講演の様子だ。
■自分を守る未来の選択
埼玉医科大学病院(埼玉県毛呂山町)の産婦人科で思春期外来を担当する高橋さんは、2007年から学校での講演を始めた。訪問先は小学校から高校まで年間100件を超える。勤務先で、予期せぬ妊娠で中絶期間を過ぎてしまった少女らに接してきたことがきっかけのひとつだという。
「かつての性教育は『あなたたちはかけがえのない大切な存在です』というキラキラした部分だけのものでした。でも、それではダメ。妊娠や中絶について具体的に知ることで、初めて自分を守るための未来の選択ができると思います」(高橋さん)