■激しい性教育批判も
激しい性教育バッシングもあった。
03年、都立七生養護学校(当時)で在校生同士が性関係を持ったことから、教員が知的障害のある生徒向けの独自の性教育プログラムを作成した。わかりやすいように性器の部位や名称を入れた歌や人形を使って、具体的に性交を教える内容だった。しかし、都議会議員が「不適切」と批判。都教育委員会が校長や教員を降格や厳重注意処分とした(13年に最高裁が処分は違法と認定。教員側が勝訴)。
05年には戦前から続く家父長制に基づく家族観を重んじる自民党内で「過激な性教育・ジェンダーフリー教育実態調査プロジェクトチーム」が発足。当時幹事長代理だった安倍晋三氏が座長、山谷えり子参議院議員が事務局長に就き、過激な性教育は「より性を乱す」と主張して全国の性教育の実態調査もした。学校現場の萎縮はピークに達した。
「『壁ドン』して『好きだ』と言えば妊娠するとでもいうのでしょうか? 現状では、校長先生や管理職のカラーによって子どもたちが受ける性教育に差が出てしまう。大きな問題です」
と一貫して主張してきたのが、一般社団法人全国妊娠SOSネットワーク代表理事で医師の佐藤拓代さんだ。だが、21年春に文科省主導でスタートした「生命(いのち)の安全教育」の教材にも「性交」は一切出てこない。子どもたちが性暴力の加害者、被害者、傍観者にならないことを目指したもので、セクハラや強制性交罪などの抑止にもつながると期待されているプログラムだが、「性交」を教えずして性被害の実態を理解させようとする内容に失望の声が広がる。
佐藤さんが座長を務める日本財団の「性と妊娠にまつわる有識者会議」は昨年8月、人権教育を基本にした「包括的性教育」の必要性を指摘し、学習指導要領の見直しを求める提言書を発表した。
「指導要領の改訂には10年かかる。それを待たずいわゆる『はどめ規定』を撤廃する通知を出してくれればいい」(佐藤さん)
動かない政府。一方で、性教育を求める動きは年々活発になっている。