いま子どもたちは、インターネットで24時間いつでも性情報に触れることができる。高橋さんは、危機感を口にする。

「高校生になると、私が伝えたいことはゆがんだ形ですでに子どもたちに入り込んでいると感じることがあります」

 日本性教育協会(東京都)が約6年ごとに実施している「青少年の性行動全国調査」によると、17年の高校生の性交経験率は男女とも2割を切り、前回調査よりやや減少。一方、中学生の経験率は男子約4%、女子約5%で、1987年の調査開始以来、上昇傾向が続いている。

 だからこそ、早めに正しい性教育を──。そう判断し、動き出している自治体や学校は冒頭の川越市のように増えている。けれど、全ての学校現場で積極的な性教育が展開されているかというと、そうでもない。

 障壁となっているのは、学習指導要領にある「はどめ規定」だ。学ぶ内容を制限するもので、性教育の分野では、小学5年の理科で「人の受精に至る過程は取り扱わないものとする」、中学校の保健体育で「妊娠の経過は取り扱わないものとする」という一文で示されている。

 いずれも98年の改訂時に加えられたものだ。例えば中学の保健体育の教科書には、「生殖機能の成熟」について学ぶ単元で身体の成熟と受精卵が着床して赤ちゃんが誕生することは図解されているが、前提となる性交の記述がない。そのため、望まない妊娠や中絶についても原則として授業で取り上げることができないことになっている。

■法的に義務付けの意味

 保健体育を管轄するスポーツ庁の担当者は、

「『はどめ』という言葉が独り歩きしている部分がある。集団で一律に指導するためにつくられたのが学習指導要領。発達の差が大きく、性に関する価値観が多様化している中、各学校で必要に応じて実施してもらえばいい。禁止はしていない」

 と説明する。だが、元文部科学事務次官の前川喜平さんは、

「『取り扱わないものとする』という書き方になっている。『ものとする』は、法的に義務付ける意味を持ちます」

 と指摘する。さらに、実施するためには「学校全体で共通理解を図ること」「保護者や地域の理解を得ること」など、ただでさえ忙しい学校現場が尻込みしてしまうような四つの条件がつく。「はどめ」を超えた性教育のハードルはなかなかの高さなのだ。

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