イノウエさんは、ジョセフが机に向かう「姿勢」に着目していた。確かに教室に来始めたころのジョセフは、いすの上で片膝を立てるような少し崩れた姿勢で勉強をしていた。それが、日を追うごとにまっすぐ座って机に向かうようになっていった。
イノウエさんは長年の教員経験から、「子どもの内面が姿勢に表れる」という持論をもっているという。
「勉強に向き合い始めたころは、やっぱりわからんことばっかりでおもしろくない。そやけど、基礎的な学習を積み重ねて、それまで解けなかった問題が解ける喜びを知るようになると、もっと集中しようという気持ちが姿勢に出てくるもんです。ジョセフの姿勢にも気持ちが表れてます」
受験を翌月に控えた一月、ジョセフは教室で、志望校へ提出する自己申告書を書いていた。「教室に通った半年余りで自分がどう変わったか」について書こうとしたところで、筆が止まった。ジョセフはふと、そばにいた私たちに「おれ、どう変わったと思う?」と聞いてきた。
イノウエさんはすかさず「自分では気付いてないかもしれんが」と前置きして答えた。
「ぼくの話を集中して聞くようになった。座る姿勢も、初めはだらっとしてたけど、ちゃんと座って勉強に向かえるようになった。数学の力は入試問題が自分で解けるところまで伸びた。ぼくはすごいなと思って見てるんや」