日本を三年離れていたジョセフは、やはり漢字の読み書きや文章題の読解に難しさを抱え、国語や社会の点数は伸び悩んだ。その代わり、フィリピンで公用語として学んだ英語はいつも高得点だった。
入試では、日本語力がさほど必要ではない数学の点数をどこまで伸ばせるかがポイントになる。イノウエさんがジョセフの弱点に合ったプリントを用意して、つきっきりで取り組んだ。
イノウエさんはジョセフが問題を解いた時、全力で褒める。間違えた時も、おしかった点を見つけてやっぱり褒める。他の子に対してもそうだ。私はボランティアを始めたころ、「ちょっと大げさやなあ」と思って見ていた。しかし一度、「なんでそんなに褒めるんですか」とイノウエさんに尋ねてみて、その答えに目が覚めた。
「この子らは日本の社会で、わからないことだらけの中で生きてきて、自信を失ってるんです。だからなかなか『わからない』と人に言えない。ぼくとしては子どもが答えを間違った問題こそが大事で、そこから弱点を解決するための教材を作れる。だから、子どもには、わからないところを自分で見つけて、ぼくに伝えてほしい。子どもが心を開いて『ここがわかりません』と言える相手になることが、受験勉強のスタートなんです」