子どものことを細やかに見ているイノウエさんらしい言葉だった。普段ひょうひょうとしているジョセフも、少しはにかんで聞いていた。

 二月、大阪府立高校の入試当日は火曜だった。ジョセフはその夜、教室にやって来た。

 スタッフはみんな気を遣いながら「どうやった?」と声をかけたが、ジョセフは「まあまあできたよ」と、いつも通り素っ気ない。

 翌日には面接試験を控えていたので、スタッフが試験官の代わりになって練習をした。ジョセフは背筋を伸ばしていすに浅く腰掛け、質問に答える。

「私は将来、建築家になりたいので、三年間目標に向かってがんばります。また、高校でいろんなルーツの友達と出会い、その人たちの文化を知りたいです。そうして、自分自身のルーツを大切にしていきたいです」

 練り上げた自分の考えを述べるジョセフの姿に、面接官役を務めたスタッフらは、顔がほころぶのを抑えられなかった。

 三月一日、合格発表の月曜日。ジョセフは私に「受かったどぉー」とメールをくれた。

 翌日は火曜日。午後六時前、教室に顔を見せたジョセフは普段通りひょうひょうとしていた。「うれしかった?」と私が聞くと、にやっと笑って「これでうれしくない人なんていないっしょ」と軽口をたたく。

 イノウエさんがこの一年の万感をこめた「おめでとう」で出迎え、他のスタッフも口々に祝福の言葉でねぎらった。
 

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玉置太郎

玉置太郎

玉置太郎 (たまき・たろう) 1983年、大阪生まれ。2006年に朝日新聞の記者になり、島根、京都での勤務を経て、11年から大阪社会部に所属。日本で暮らす移民との共生をテーマに、取材を続けてきた。17年から2年間休職し、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で移民と公共政策についての修士課程を修了。

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