子どものことを細やかに見ているイノウエさんらしい言葉だった。普段ひょうひょうとしているジョセフも、少しはにかんで聞いていた。
二月、大阪府立高校の入試当日は火曜だった。ジョセフはその夜、教室にやって来た。
スタッフはみんな気を遣いながら「どうやった?」と声をかけたが、ジョセフは「まあまあできたよ」と、いつも通り素っ気ない。
翌日には面接試験を控えていたので、スタッフが試験官の代わりになって練習をした。ジョセフは背筋を伸ばしていすに浅く腰掛け、質問に答える。
「私は将来、建築家になりたいので、三年間目標に向かってがんばります。また、高校でいろんなルーツの友達と出会い、その人たちの文化を知りたいです。そうして、自分自身のルーツを大切にしていきたいです」
練り上げた自分の考えを述べるジョセフの姿に、面接官役を務めたスタッフらは、顔がほころぶのを抑えられなかった。
三月一日、合格発表の月曜日。ジョセフは私に「受かったどぉー」とメールをくれた。
翌日は火曜日。午後六時前、教室に顔を見せたジョセフは普段通りひょうひょうとしていた。「うれしかった?」と私が聞くと、にやっと笑って「これでうれしくない人なんていないっしょ」と軽口をたたく。
イノウエさんがこの一年の万感をこめた「おめでとう」で出迎え、他のスタッフも口々に祝福の言葉でねぎらった。