※写真はイメージです(Getty Images)
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 日本生まれのジョセフ(仮名)は、フィリピン人の母親との母子家庭で育った。小学校まで大阪・島之内の「Minamiこども教室」に通い、卒業後は母親とフィリピンへ移り住んだ。しばらくして大阪へ戻った母親は三年後、新型コロナウイルスの感染拡大をきっかけに再び島之内へジョセフを呼び戻した。このように出入りの激しい移民家庭は少なくないが、そんな家庭が直面するのが日本の中学を経ず直接高校を受験する“ダイレクト受験”だ。Minamiこども教室で、取材を兼ねて学習支援のボランティアをしている朝日新聞記者・玉置太郎氏は、ジョセフの“ダイレクト受験”を見届けた。同氏の新著『移民の子どもの隣に座る 大阪・ミナミの「教室」から』(朝日新聞出版)から一部を抜粋、再編集し、“ダイレクト受験”のためにMinamiこども教室が心がけている、細やかなサポートを紹介する。

【図版】在日外国人生徒への脆弱な支援体制

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 笑顔のかわいい、あどけない小学生だったジョセフは、三年という時を経て、身長百七十センチ超、足の大きさが二十九センチという立派な青年になっていた。

 すっかり声変わりした低音で「先生ひさしぶり」とあいさつした後、「こんど飲みに連れていってや」と、大人ぶった冗談をかましてくる。それでも、私が「あと五年たったら連れてったるわ」と返すと、小学生のころの面影が残るかわいらしい笑顔を見せた。
 

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玉置太郎

玉置太郎

玉置太郎 (たまき・たろう) 1983年、大阪生まれ。2006年に朝日新聞の記者になり、島根、京都での勤務を経て、11年から大阪社会部に所属。日本で暮らす移民との共生をテーマに、取材を続けてきた。17年から2年間休職し、英国のロンドン・スクール・オブ・エコノミクス(LSE)で移民と公共政策についての修士課程を修了。

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