新規参入にもなんの恩典がないままだ。農地所有権を持てるのは、農家世帯の家族(非農家となった家族は、相続する場合以外に農地所有は不可)などに制限され、脱サラした人や新規学卒者にはその資格がない。農地は、所有できてはじめて農業経営に本気が出るものなのである。
戦後80年間も、こんな厳しい法律を守り通しながら食料自給率は先進国で最低、しかも落ち込む一方という状態がなぜ続いてきたのかを真剣に考えるべきだろう。今回の制度改正が農業を再生できる保障はまったく見えない。この法律自体、もうやめた方がよく、どうせ予算とエネルギーを使うなら、代わりに農業参入を自由化、優れた人材や企業経営者が集う制度の推進のために回した方がよいのではないか。
筆者は1993年にある著書(『生産農協への論理構造─土地所有のポスト・モダン』日本経済評論社)を上梓したが、その中の一節で、日本の農地所有権者は農家に限定されず自由化に向かうべきことを主張した。その考え方は今日、ますます強くなった。
こういう意見に必ず起こる反論は、「大きな企業が農地を集め非農地化する恐れがある」「外国人が農地を買いあさる恐れがある」「農家以外は農業を知らないから農地が荒廃する恐れがある」など、後ろ向きで根拠なき言いがかりじみたものばかり。共通するのは、「いまが一番よい」というものだった。その「いま」が今日の日本農業の荒廃を生み続けているのではないのだろうか?