世界で食料危機が進行している。しかし、それは日本も例外ではない。38%という食料自給率は先進国のなかでも最低水準であり、その要因の一つに「農地法」があると指摘するのは、中国・アジアの食料・農業問題などを研究している愛知大学名誉教授で、同大国際中国学研究センターフェローの高橋五郎氏だ。『食料危機の未来年表 そして日本人が飢える日』(朝日新書)から一部を抜粋、再編集して解説する。
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「農地所有適格法人」の無意味さ
今日まで「農地法」を引きずってきた最も大きな弊害は、国民全体に対する農地所有や貸借の自由を認めない、現代世界ではまれの法律だという点である。こんな農地制度は社会主義体制以外の国では、日本以外にはない。
「農地法」は戦後三大改革の一つであり、戦前の地主制度を解体、小作農などに農地を解放、いわゆる自作農を創設した歴史的な法律である。同時に農地所有者は農民に限るとするもので、時を経て、農業労働力人口の減少や農民世帯以外の農業参入希望者による農地所有を禁じ、労働の農業部門への自由な移動を妨げる要因ともなってきた。そのため、農民世帯の子弟の農業就業の減少が農業労働力人口の減少に直結する問題を生み出している。