もっとも、シャンパーニュの最高峰、クリュッグ(Krug)を飲むと、ちょっとだしの利いた、スープっぽい味がする。ワインにはアミノ酸も含まれているので、そのせいなのかもしれない。うまみの成分は基本的に、アミノ酸か核酸だからだ。前述のカレー、タイ料理、キムチなどにも熟成が利いたスパークリングワインなどはとてもよく合うことがある。まあ、例外的な話はここではすっとばして、要するに「五味」においてワインで注目すべきは「甘み」と「酸味」だけってことだ。そのように限定してしまうと(十全に説明しているわけではないにせよ)わかりやすい。


  
 では、まずワインの「甘み」について考えてみよう。ワインは大きく「辛口ワイン」と「甘口ワイン」に分類されると述べた。同じように、例えば日本酒にも甘口と辛口があるが、ワインに比べるとその「甘さ」はそれほどでもない。甘口ワインは本当にフルーツジュースのように甘いが、日本酒の「甘み」はそういう糖分の甘みではない。逆に、日本酒の「辛口」はワインに比べるとずっと甘口に感じられる。どちらがよい、というのではなく、まあ「そういうこと」なのだ。
  
 日本で昔「ワイン」といえばアルコール入りブドウジュースのような甘みがあった。赤玉ポートワインが有名だ。辛口ワインのよさがまだ認識されていなかったからだと思う。翌日に頭が痛くなることも多かった「赤玉ポート」のイメージから、ワインは甘くておいしくないお酒、というイメージも当時はあったようだ。しかし、昔、甘いワインを愛好していたからといって、日本人は「ワインがわかっていない」と断じることはできない。
  
■日本では酒飲みは甘いものが苦手? 甘口ワインもだめ?

「ワインの歴史」で取り上げたように、西欧でも古代ギリシャ時代やローマ時代のワインなどは、はちみつを入れたりして、とても甘かったことが知られている。甘さへのあこがれは古今東西、あったのだろう。そういえば「うまい」の語源は「あまい」だと聞いたことがある。今のように甘味調味料が豊富ではなかった時代には甘さはすなわち「うまさ」だったのだ。現在でも海外では甘口ワインはとても人気があり、貴腐ワインやアイスワイン、ポート、マデイラといった酒精強化ワインまで、質の高い甘口ワインがたくさんある。そしてこれらはときに、ものすごく高価だ。
 

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酒飲みは甘いものが苦手?