次に渋みだ。これは五味にはない。白ワインにもない、赤ワインの特徴である。渋みはポリフェノールといわれる物質の一種、タンニンによるもので、飲んだあと舌がぎゅっと絞られるような感覚だ。おいしいワインは甘みと酸味と(赤ワインでは)渋みのバランスがとれている。この三つを基本とし、ほかにも細かい複雑な味わいが重なり合い、ワインを非常に個性豊かなものにしている。また、これとは別にアルコールそのものにも味がある。アルコール分の高いお酒ではとくにそれを感じる。


  
 ところで、エチルアルコールは実はまずいのではないかという仮説がある。動物実験ではエタノールは(動物によって)まずいと認識されるからなのだそうだ。しかし、酒をおいしく感じるのは「摂取後効果」といって、飲んだ後に味覚(と嗅覚)の記憶が変わるからなのだとか。酒臭い酔っぱらいを「臭い」と感じるにもかかわらず、酒の香りをすばらしく感じるのもこのせいなのかな。これってにんにくとか他のにおいでも応用可能なのかもしれない。このへんはぼくの仮説というか、ほとんど妄想ですが。イグ・ノーベル賞が欲しい人はぜひ解明してみてください。
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岩田健太郎

岩田健太郎

岩田健太郎(いわた・けんたろう)/1971年、島根県生まれ。島根医科大学(現島根大学)卒業。神戸大学医学研究科感染治療学分野教授、神戸大学医学部附属病院感染症内科診療科長。沖縄、米国、中国などでの勤務を経て現職。専門は感染症など。微生物から派生して発酵、さらにはワインへ、というのはただの言い訳なワイン・ラバー。日本ソムリエ協会認定シニア・ワインエキスパート。共著にもやしもんと感染症屋の気になる菌辞典など

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